(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】撥水処理剤、撥水構造体、及び撥水構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240110BHJP
C09D 183/04 20060101ALN20240110BHJP
C09D 7/63 20180101ALN20240110BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D183/04
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2019206175
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長井 駿介
(72)【発明者】
【氏名】清水 麻理
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527436(JP,A)
【文献】特開2003-012927(JP,A)
【文献】特開昭59-062663(JP,A)
【文献】特開昭61-209266(JP,A)
【文献】特開昭59-176349(JP,A)
【文献】特表2011-524821(JP,A)
【文献】特開平07-233016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C03C17/30
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08G77/04
D06M15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物の加水分解生成物を含む有機ケイ素化合物群と、グアニジン化合物を含む塩基触媒と、液状媒体と、を含
み、
前記有機ケイ素化合物が、アルキルケイ素アルコキシド及びポリシロキサン化合物を含む、撥水処理剤。
【請求項2】
前記アルキルケイ素アルコキシドが、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン及びジメチルジメトキシシランからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の撥水処理剤。
【請求項3】
前記アルキルケイ素アルコキシドの含有量が、前記有機ケイ素化合物の全量を基準として10~90質量%であり、前記ポリシロキサン化合物の含有量が、前記有機ケイ素化合物の全量を基準として10~90質量%である、請求項
1又は2に記載の撥水処理剤。
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物群の含有量が、前記撥水処理剤の全量を基準として0.04~20質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水処理剤。
【請求項5】
前記塩基触媒の含有量が、有機ケイ素化合物群100質量部に対し5~40質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水処理剤。
【請求項6】
繊維処理用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の撥水処理剤。
【請求項7】
基材と、前記基材上に撥水部と、を備え、前記撥水部が請求項1~6のいずれか一項に記載の処理剤の乾燥物を含む、撥水構造体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の処理剤を用いて基材を処理する工程を備える、撥水構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水処理剤、撥水構造体、及び撥水構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックス製品等の基材に撥水性能を付与するべく、基材表面に撥水性に優れたコーティング材の被膜(以下、「撥水膜」ともいう)を形成する方法が知られている。撥水膜とは、一般的に、水の接触角が90°以上になる被膜のことをいう。
【0003】
このような撥水膜を形成する材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びその誘導体が知られている。
【0004】
また、フルオロアルキルシランを用いた撥水膜の形成が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-105661号公報
【文献】特開2000-81214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、撥水膜には優れた撥水性のみならず、長期に渡る使用時にもその撥水性が維持されることが求められる。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた撥水性及び耐候性を有する撥水構造体を得ることができる撥水処理剤を提供することを目的とする。本発明はまた、当該撥水処理剤を用いて得られる撥水構造体及び撥水構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を含む撥水処理剤において、特定の塩基触媒を用いて縮合を促進させることで、優れた撥水性及び耐候性が発現されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本開示は、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物の加水分解生成物を含む有機ケイ素化合物群と、グアニジン化合物を含む塩基触媒と、液状媒体と、を含む撥水処理剤を提供する。当該撥水処理剤を用いることで、優れた撥水性及び耐候性を有する撥水構造体を得ることができる。グアニジン化合物は、塩基触媒として有機ケイ素化合物の縮合を促進させることができるだけでなく、かつ揮発性が高いという特徴がある。そのため、撥水部内に塩基触媒が残存し難く、塩基触媒に起因する撥水性の低下を抑制することができる。
【0010】
一態様において、有機ケイ素化合物は、アルキルケイ素アルコキシド及びポリシロキサン化合物を含んでよい。
【0011】
一態様において、アルキルケイ素アルコキシドの含有量は、有機ケイ素化合物の全量を基準として10~90質量%であってよい。また、ポリシロキサン化合物の含有量は、有機ケイ素化合物の全量を基準として10~90質量%であってよい。
【0012】
一態様において、有機ケイ素化合物群の含有量は、撥水処理剤の全量を基準として0.04~20質量%であってよい。
【0013】
一態様において、塩基触媒の含有量は、有機ケイ素化合物群100質量部に対し5~40質量部であってよい。
【0014】
一態様において、上記撥水処理剤が繊維処理用であってよい。
【0015】
本開示は、基材と、基材上に撥水部と、を備え、撥水部が上記処理剤の乾燥物を含む、撥水構造体を提供する。
【0016】
本開示は、上記処理剤を用いて基材を処理する工程を備える、撥水構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた撥水性及び耐候性を有する撥水構造体を得ることができる撥水処理剤を提供できる。また、本発明によれば、当該撥水処理剤を用いて得られる撥水構造体及び撥水構造体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る撥水構造体を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<定義>
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
<撥水処理剤>
撥水処理剤は、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物の加水分解生成物を含む有機ケイ素化合物群と、グアニジン化合物を含む塩基触媒と、液状媒体と、を含む。
【0022】
本実施形態の撥水処理剤は様々な基材に対し撥水性を付与することができるが、特に撥水性の付与が困難であった繊維に対し、繊維処理用の撥水処理剤として好適に用いることができる。ガラス等の平板状の基材と異なり、繊維状の基材の場合は、撥水処理剤が基材内部に浸み込み易い。そのため、撥水処理後に塩基触媒が内部に残存すると、経時により繊維が吸水し、撥水性が低下する虞がある。これに対し、本実施形態の撥水処理剤においては塩基触媒が繊維中に残存し難く、上記のような吸水が生じ難いと考えられる。
【0023】
(有機ケイ素化合物群)
有機ケイ素化合物が有する加水分解性基としては、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、有機ケイ素化合物中のケイ素原子に結合したアルコキシ基であってよい。
【0024】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、アルキルケイ素アルコキシドが挙げられる。アルキルケイ素アルコキシドとしては、加水分解性基(アルコキシ基)の数が3個以下のものが好ましく、2~3個のものがより好ましい。このようなアルキルケイ素アルコキシドによれば、撥水部に撥水性の高いシロキサン骨格を導入し易い。このようなアルキルケイ素アルコキシドとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物としては、また、加水分解性基が結合したケイ素原子を2個以上有する化合物(以下、多官能化合物ともいう。)も挙げられる。多官能化合物は、例えば、加水分解性基が結合したケイ素原子を2~12個有する化合物であってよく、2個有する化合物であってもよい。また、多官能化合物は、複数のケイ素原子が互いに炭化水素基(例えば、アルカンジイル基)で連結された化合物であってよい。多官能化合物において、それぞれのケイ素原子に結合する加水分解性基の数は特に限定されず、例えば3個以下であってよい。このような多官能化合物としては、例えば、ビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン等が挙げられる。
【0026】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物としては、更に、シロキサン結合を有するポリシロキサン化合物が挙げられる。ポリシロキサン化合物は、例えば、加水分解性基が結合したケイ素原子を2個以上有する化合物であってよく、2~12個有する化合物であってよく、2個有する化合物であってもよい。また、ポリシロキサン化合物は、シロキサン結合で構成された主鎖の両末端に、それぞれ加水分解性基が結合したケイ素原子を有する化合物であってよい。ポリシロキサン化合物において、それぞれのケイ素原子に結合する加水分解性基の数は特に限定されず、例えば3個以下であってよい。
【0027】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物としては、更に、加水分解性基及び反応性基を有する有機ケイ素化合物(以下、シラン結合剤ともいう。)が挙げられる。シラン結合剤を用いることで、上記加水分解縮合物に反応性基を導入することができる。シラン結合剤における反応性基としては、例えば、アルケニル基、グリシジル基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、チオエーテル基、チオエステル基及びアミジノチオ基等が挙げられる。反応性基としては、炭素数2~20のアルケニル基が好ましい。反応性基の導入により、撥水部と基材との接着性を高めることができる。
【0028】
上述の有機ケイ素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
例えば、有機ケイ素化合物は、アルキルケイ素アルコキシドとポリシロキサン化合物とを含有していてよい。このとき、有機ケイ素化合物の全量を基準としたときのそれぞれの含有量は、例えば以下のようにすることができる。
アルキルケイ素アルコキシドの含有量は、10~90質量%とすることができ、50~85質量%であってよい。また、ポリシロキサン化合物の含有量は、10~90質量%とすることができ、15~50質量%であってよい。
【0030】
また、アルキルケイ素アルコキシドは、アルコキシ基を2個有する第一のアルキルケイ素アルコキシドと、アルコキシ基を3個有する第二のアルキルケイ素アルコキシドとを含有していてよい。アルキルケイ素アルコキシドの全量を基準としたときの第一のアルキルケイ素アルコキシドの含有量は、例えば15~50質量%とすることができ、20~30質量%であってよい。
【0031】
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物は、撥水処理剤中にて加水分解生成物として存在するが、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物がその加水分解生成物と共に存在していてもよい。また、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物において、加水分解性基の全てが加水分解されていてもよく、部分的に加水分解されていてもよい。
【0032】
有機ケイ素化合物群の含有量は、撥水処理剤の全量を基準として0.04~20質量%とすることができ、0.15~10質量%であってよい。
【0033】
(塩基触媒)
塩基触媒は、撥水部中の未反応の加水分解性基を低減することができ、結果的に撥水構造体の耐候性を向上することができる。そのような塩基触媒の中でも、特に揮発性が高く撥水部内に残存し難いグアニジン化合物を用いる。グアニジン化合物としては、グアニジン、ビグアニド、1,1,2,2-テトラメチルグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,2,3-トリフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン等が挙げられる。これらのうち、縮合反応を促進させる反応性の観点からは、グアニジン化合物は、1,1,3,3-テトラメチルグアニジンであってよい。
【0034】
塩基触媒は、反応性の観点から、グアニジン化合物以外の化合物を含んでいてもよい。そのような化合物としては炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0035】
グアニジン化合物の含有量は、塩基触媒の全量を基準として100質量%(すなわち、グアニジン化合物のみを含んでいてもよい)とすることができ、50~100質量%であってよく、80~100質量%であってよい。
【0036】
塩基触媒の含有量は、有機ケイ素化合物群100質量部に対し5~40質量部とすることができ、10~35質量部であってよい。
【0037】
(液状媒体)
液状媒体としては、例えば、水、又は、水及びアルコール類の混合液を用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらのうち、ポリシロキサン化合物との相溶性の観点から、液状媒体は2-プロパノールであってよい。
【0038】
液状媒体の含有量は、有機ケイ素化合物群100質量部に対し100~5000質量部とすることができ、1500~3000質量部であってよい。
【0039】
なお、実際の使用に際しては、撥水処理剤をさらに希釈して用いてもよい。すなわち、撥水処理剤を液状媒体で例えば3~100倍に、好ましくは3~30倍に希釈して、撥水処理剤希釈液として用いてもよい。
【0040】
<撥水処理剤の調製方法>
撥水処理剤は、例えば、有機ケイ素化合物、グアニジン化合物を含む塩基触媒、及び液状媒体を混合することで調製することができる。本工程にて、有機ケイ素化合物の加水分解反応を行うことができる。なお、加水分解反応を促進させるため、液状媒体に更に酸触媒を添加してよい。
【0041】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸類;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩類;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸類などが挙げられる。これらの中でも、環境汚染を配慮し、加水分解反応を促進できる酸触媒としては有機カルボン酸類が挙げられる。当該有機カルボン酸類としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
酸触媒の添加量は、有機ケイ素化合物群の総量100質量部に対し0~30質量部とすることができ、5~15質量部であってよい。
【0043】
本工程での加水分解は、混合液中の有機ケイ素化合物の種類及び量にも左右されるが、例えば、20~60℃の温度環境下で10分間~24時間行ってもよく、50~60℃の温度環境下で5分間~8時間行ってもよい。これにより、有機ケイ素化合物中の加水分解性基が充分に加水分解される。
【0044】
本工程により、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物の加水分解生成物を含む有機ケイ素化合物群を含む、撥水処理剤を得ることができる。
【0045】
<撥水構造体>
図1は、一実施形態に係る撥水構造体を模式的に表す図である。同図に示すとおり、撥水構造体10は、基材1と、基材上に(基材の被処理面上に)撥水部2と、を備えている。撥水部は上記撥水処理剤の乾燥物を含む。なお、基材上にて撥水処理剤に含まれる成分が縮合反応するという観点からは、撥水部が上記撥水処理剤の反応物を含むということもできる。
【0046】
基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、及びこれらを組合せた材料(複合材料、積層材料等)が挙げられる。基材の形態としては、板状やブロック状のバルク体、繊維、粒子等が挙げられる。基材は繊維の集合体(織布又は不織布)、粒子の集合体等であってよい。
【0047】
金属としては、例えば、ステンレス、アルミ、銅、亜鉛めっき鋼板及び鉄が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、アルミナ、チタン酸バリウム、窒化ホウ素及び窒化珪が挙げられる。ガラスとしては、例えば、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス及びアルミノシリケートガラスが挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリフェニレンカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、及び、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0048】
撥水部は、基材表面に上記有機ケイ素化合物の加水分解縮合物が生じることで形成される。撥水部の厚さは、特に限定されるものではないが、透明性、機械的強度等の観点から、0.05~1000nm、0.1~500nm、又は0.1~10nm程度とすることができる。
【0049】
撥水構造体は、超純水の液滴1μLに対し90°以上の接触角を有することができる。接触角は接触角計を用い、例えば10回の測定の平均値により算出することができる。
【0050】
<撥水構造体の製造方法>
撥水構造体は、上記の撥水処理剤を用いて基材を処理する工程を備える、撥水構造体の製造方法により得られる。より具体的には、当該製造方法は以下の工程を備えることができるが、例えば塗布工程及び乾燥工程の実施により撥水部が得られるため、その後の工程が必ずしも実施されなくてよい。
【0051】
(塗布工程)
塗布工程は、例えば、上記撥水処理剤を基材に塗布する工程である。撥水処理剤は、基材全体に塗布してもよく、一部に選択的に塗布してもよい。
【0052】
塗布方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。特に、スプレーコート法は、凹凸のある被処理面にも、均一な厚さの撥水膜を形成し易い観点、生産性が高く、撥水処理剤の使用効率が高い観点から、好ましい。これらの方法は、単独で、又は2種類以上を併用してもよい。
【0053】
塗布工程で用いる撥水処理剤の温度は、例えば、20~80℃であってもよく、25~60℃であってもよい。上記温度を、20℃以上とすることにより、撥水性と密着性とが更に向上する傾向にあり、上記温度を、80℃以下とすることにより、撥水部の透明性が得られ易い傾向にある。撥水処理剤による処理時間は、例えば30秒間~4時間とすることができ、1~10分間とすることができる。
【0054】
(乾燥工程)
本工程では、撥水処理剤を塗布した後、処理剤から液状媒体を揮発させる。液状媒体は、例えば常温で放置することで揮発させることができる。ただし、より高温で本工程を実施することで、基材と撥水部の密着性を更に向上させることができる。この際の乾燥温度は、特に制限されず、基材の耐熱温度によっても異なるが、例えば、60~250℃であってもよく、120~180℃であってもよい。上記温度を60℃以上とすることにより、より優れた密着性を達成することができ、250℃以下とすることにより、熱による劣化を抑制することができる。乾燥時間は3~60分間とすることができる。本工程により、基材表面に、上記有機ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む撥水部が形成される。
【0055】
(洗浄工程)
洗浄工程は、上記のようにして得られた構造体を洗浄する工程である。本工程を施すことにより、撥水部中の未反応物、副生成物等の不純物を低減し、より純度の高い撥水部を得ることができる。
【0056】
洗浄工程は、例えば、水及び/又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0057】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
有機溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、水で洗浄した後に、有機溶媒を用いて洗浄する場合は、水に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が好ましい。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れており好ましい。
【0059】
洗浄工程に使用される水及び/又は有機溶媒の量は、撥水部の総質量に対して、例えば、3~10倍の量であってもよい。洗浄は、基材の含水率が、10質量%以下となるまで繰り返すことができる。
【0060】
洗浄温度は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、20~60℃程度であってもよい。加温することにより洗浄効率を向上させることもできる。洗浄時間は、例えば3~30分間とすることができる。
【0061】
(予備乾燥工程)
エージング工程に先立ち、洗浄工程により洗浄された構造体を予備乾燥させてよい。
【0062】
乾燥の手法としては、特に制限されないが、例えば、大気圧下における公知の乾燥方法を用いることができる。乾燥温度は、基材の耐熱温度及び洗浄溶媒の種類により異なる。溶媒の蒸発速度が充分に速く、撥水部の劣化を防止し易い観点から、乾燥温度は、例えば、20~250℃であってもよく、60~180℃であってもよい。乾燥時間は、撥水部の質量及び乾燥温度により異なるが、例えば、1~24時間であってもよい。
【0063】
(エージング工程)
エージング工程は、上記のようにして得られた構造体をエージング(加熱エージング等)する工程である。エージング工程を施すことにより、撥水部の撥水性と、撥水部及び基材の密着性とが更に向上する。なお、洗浄工程及び予備乾燥工程を行わずにエージング工程をおこなってよい。エージングをすることにより、撥水部中の親水基が減少し、撥水性が更に向上すると考えられる。
【0064】
エージング温度は、基材の耐熱温度により異なるが、例えば、100~250℃であってもよく、120~180℃であってもよい。エージング温度を、100℃以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成することができ、250℃以下とすることにより、熱による劣化を抑制することができる。
【0065】
エージング時間は、撥水部の質量及びエージング温度により異なるが、例えば、1~10時間であってもよく、2~6時間であってもよい。エージング時間を、1時間以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成し易く、10時間以下とすることにより、生産性が低下し難い。
【実施例】
【0066】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0067】
<撥水処理剤の調製>
(実施例1)
メチルトリメトキシシランKBM-13(製品名、信越化学工業株式会社製)を45質量部、ジメチルジメトキシシランKBM-22(製品名、信越化学工業株式会社製)を15質量部、及びポリシロキサン化合物Aを15質量部、それぞれ酢酸IPA溶液1500質量部(酢酸濃度:0.5質量%)に添加し、25℃で1時間攪拌した。これに塩基触媒として1,1,3,3-テトラメチルグアニジン22.4質量部を加え、さらに70℃で3時間攪拌し、撥水処理剤を得た。なお、ポリシロキサン化合物Aは以下のとおり調製した。
(ポリシロキサン化合物Aの調製)
攪拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、ヒドロキシ末端ジメチルポリシロキサン「XC96-723」(モメンティブ社製、製品名)を100.0質量部、メチルトリメトキシシランを181.3質量部及びt-ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端2官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物A)を得た。
【0068】
(比較例1)
1,1,3,3-テトラメチルグアニジンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして撥水処理剤を得た。
【0069】
(比較例2)
1,1,3,3-テトラメチルグアニジンに代えて炭酸ナトリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして撥水処理剤を得た。
【0070】
(比較例3)
1,1,3,3-テトラメチルグアニジンに代えてアンモニア水(アンモニア濃度:35質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして撥水処理剤を得た。
【0071】
(比較例4)
1,1,3,3-テトラメチルグアニジンに代えてトリエチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして撥水処理剤を得た。
【0072】
<撥水構造体の製造>
液温を25℃とした各例の撥水処理剤に、スライドグラスS7213(製品名、松浪硝子工業株式会社製)を1分間ディップして撥水処理をした。その後、120℃で30分間乾燥することで、各例の撥水構造体を得た。
【0073】
<評価>
各例の撥水構造体の撥水性について、以下の条件に従って測定又は評価をした。結果を表1に示す。
【0074】
(1)水接触角測定
接触角計DMs-401(製品名、協和界面科学株式会社製)を使用して、超純水の液滴1μLを、各例の撥水構造体の撥水部に滴下し、5秒後の接触角を室温で測定した。測定は10回行い、その平均値を水接触角(試験前)とした。
【0075】
(2)耐候性試験後の水接触角測定
各例の撥水構造体を、高温高湿環境(温湿度:85℃/85%)に96時間放置した。その後、撥水構造体を室温にて30分間放置し、上記(1)と同様にして水接触角(試験後)を測定した。
【0076】
【0077】
上記のとおり、実施例の撥水構造体は、優れた撥水性及び耐候性を有していた。一方、比較例1は、塩基触媒を用いなかったため未反応の加水分解性基が撥水部中に残存しており、結果的に撥水構造体の耐候性が低下したと推察される。また、比較例2~4が、試験前に実施例ほどの撥水性を示さなかったのは、形成した撥水部中に残存した塩基触媒による吸水が発生したためであると推察される。さらに、比較例3及び4が、試験後に、塩基触媒を用いなかった比較例1と同程度の撥水性しか示さなかったのは、塩基触媒の反応性が十分でなく、未反応の加水分解性基が残存したためと推察される。
【符号の説明】
【0078】
1…基材、2…撥水部、10…撥水構造体。