(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】車両用表示灯、車両
(51)【国際特許分類】
F21S 41/20 20180101AFI20240110BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240110BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240110BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20240110BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240110BHJP
F21S 43/20 20180101ALI20240110BHJP
F21S 45/10 20180101ALI20240110BHJP
F21V 3/00 20150101ALI20240110BHJP
F21V 5/00 20180101ALI20240110BHJP
F21V 3/06 20180101ALI20240110BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20240110BHJP
F21W 102/00 20180101ALN20240110BHJP
F21W 103/00 20180101ALN20240110BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240110BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20240110BHJP
【FI】
F21S41/20
C08L101/02
C08L33/04
C08K5/524
C08F8/00
F21S43/20
F21S45/10
F21V3/00 340
F21V5/00 340
F21V3/06
F21V5/00 600
C08F220/10
F21W102:00
F21W103:00
F21Y115:10
F21Y101:00 100
F21Y101:00 300
(21)【出願番号】P 2020007506
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】濱田 祐次朗
(72)【発明者】
【氏名】楊井 壽美
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013186(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022393(WO,A1)
【文献】特開平04-051403(JP,A)
【文献】特開2000-133010(JP,A)
【文献】特開2004-071535(JP,A)
【文献】特開2008-269891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/10
C08L 101/02
C08L 33/04
C08K 5/524
C08F 8/00
F21S 41/20
F21S 43/20
F21S 45/10
F21V 3/00
F21V 5/00
F21V 3/06
F21W 102/00
F21W 103/00
F21Y 115/10
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランプボディと、透明なアウターカバーとで灯室を形成し、
前記灯室の内部に、
透明熱可塑性樹脂組成物により形成されたプロジェクターレンズと、
少なくとも一部が前記プロジェクターレンズと前記ランプボディとの間に配置された光源部とを有し、
前記光源部は出射光が前記プロジェクターレンズを透過するように配置されている、車両用表示灯であって、
前記透明熱可塑性樹脂組成物が、主鎖に環構造を有する構造単位を含む共重合体(P1)を、該透明熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、80質量%以上含有し、
前記透明熱可塑性樹脂組成物は、荷重たわみ温度が105℃以上であり、イエローインデックスが1.0以下である、車両用表示灯。
【請求項2】
前記共重合体(P1)が、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位と環構造由来の繰り返し単位を含み、
前記環構造由来の繰り返し単位が、グルタル酸無水物構造単位、マレイン酸無水物構造単位、グルタルイミド構造単位、ラクトン環構造単位、及びN-置換マレイミド構造単位から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の
車両用表示灯。
【請求項3】
前記透明熱可塑性樹脂組成物が、さらに下記一般式(1)で表される酸化防止剤(O)を含む、請求項1又は2に記載の車両用表示灯。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
1’は、それぞれ独立に、フェニル基上の任意の位置に置換された単独又は複数の炭素数1~8のアルキル基を示す。]
【請求項4】
前記酸化防止剤(O)が下記一般式(2)で表される、請求項3に記載の車両用表示灯。
【化2】
[式(2)中、R
2及びR
2’は、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。]
【請求項5】
前記透明熱可塑性樹脂組成物が、前記透明熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、前記酸化防止剤(O)を0.01質量%以上0.18質量%以下含有する、請求項3又は4に記載の車両用表示灯。
【請求項6】
前記共重合体(P1)が、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(A)、(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位(B)及びグルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位(C)を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の
車両用表示灯。
【請求項7】
前記共重合体(P1)が、該共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して前記単位(A)80mol%以上、前記単位(B)0.5mol%以上20.0mol%以下、及び前記単位(C)0.001mol%以上10.0mol%以下を含む、請求項6に記載の車両用表示灯。
【請求項8】
前記アウターカバーが、ガラス、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~7の何れか一項に記載の車両用表示灯。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の車両用表示灯を含む車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表示灯、前記車両用表示灯を含む車両に関する。
【背景技術】
【0002】
テールランプカバーやヘッドランプカバー等の車両用表示灯の用途では、ハロゲンランプやLED光源の光を拡散させるプロジェクターレンズを備えた車両用表示灯が用いられている。
従来、プロジェクターレンズの材料としてはガラスが用いられてきた。しかし、近年は車両の軽量化の観点や、破損時に破片が飛散することを防ぐ安全性の観点から、プロジェクターレンズの材料に、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びポリスチレン系樹脂等の透明樹脂を用いることが検討されている。
【0003】
上述した車両用表示灯では、光源点灯時に観察者が遠方から車両用表示灯を視認できるように、高い輝度が求められている。また、意匠性の観点から、光源消灯時には、観察者が無色透明の車両用表示灯の存在感を感じないことが求められている。即ち、プロジェクターレンズに用いられる透明樹脂には、優れた透明性と成形着色が抑制されていることが要求されている。
【0004】
さらに、上述した車両用表示灯は、ランプの大型化や照度アップからくる発熱量の増加や、直射日光下で温度が非常に上昇する位置に設置されることから、プロジェクターレンズに用いられる透明樹脂には、優れた耐熱性が要求されている。
【0005】
さらに、上述した車両用表示灯は、屋外で直射日光に曝されやすい位置に設置されることから、プロジェクターレンズに用いられる透明樹脂には、優れた耐候性が要求されている。
【0006】
車両用表示灯としては、例えば特許文献1には、プロジェクターレンズの材料として無水マレイン酸及び有機リン系化合物を含むメタクリル樹脂を用いた、車両用表示灯が開示されている。
特許文献2には、光源部としてLED光源を用い、プロジェクターレンズの材料として一定の割合で分子量の低い成分を含むメタクリル樹脂を用いた、車両用表示灯が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-001525号公報
【文献】特開2008-269891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の車両用表示灯は、プロジェクターレンズの材料に無水マレイン酸や有機リン系化合物を含有しており、成形時に熱変色が生じ、透明性が不十分であった。
特許文献2に記載の車両用表示灯は、プロジェクターレンズの材料がメタクリル樹脂のみで構成されているため、耐熱性が不十分であった。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。即ち、本発明の目的は、高い透明性、成形着色性、耐熱性及び耐候性を有する車両用表示灯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
すなわち、本発明の第一の要旨は、ランプボディと、透明なアウターカバーとで灯室を形成し、前記灯室の内部に、透明熱可塑性樹脂組成物により形成されたプロジェクターレンズと、少なくとも一部が前記プロジェクターレンズと前記ランプボディとの間に配置された光源部とを有し、前記光源部は出射光が前記プロジェクターレンズを透過するように配置されている、車両用表示灯であって、前記透明熱可塑性樹脂組成物が、主鎖に環構造を有する構造単位を含む共重合体(P1)を、該透明熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、80質量%以上含有し、前記透明熱可塑性樹脂組成物は、荷重たわみ温度が105℃以上であり、イエローインデックスが1.0以下である、車両用表示灯である、車両用表示灯にある。
本発明の第二の要旨は、前記車両用表示灯を含む車両にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い透明性、耐熱性及び耐候性を有する車両用表示灯が提供される。
本発明の車両用表示灯は、透明性、成形着色性、耐熱性及び耐候性に優れていることから、テールランプカバーやヘッドランプカバー等の車両用表示灯の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の車両用表示灯の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の車両用表示灯の好適な実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本明細書において、「メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位」のことを「MMA単位」という。「(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位」のことを「(メタ)アクリル酸(b)単位」という。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有割合を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
下に本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではない。
【0014】
<車両用表示灯>
本発明の車両用表示灯について詳細に説明する。
本発明の車両用表示灯は、ランプボディと、後述する透明なアウターカバーと、後述する透明熱可塑性樹脂組成物により形成されたプロジェクターレンズと、後述する光源部とを備える。
【0015】
本発明の車両用表示灯においては、例えば
図1に示すように、前方に開口部を有する前記ランプボディ5と、該ランプボディ5の開口部に配置された前記アウターカバー2とで灯室が形成され、前記灯室の内部には、前記プロジェクターレンズ3が配置され、前記プロジェクターレンズ3と前記ランプボディ5との間に、出射光が前記プロジェクターレンズ3及び前記アウターカバー2を透過するように前記光源部4が配置される。
【0016】
<プロジェクターレンズ>
プロジェクターレンズは、本発明の車両用表示灯の構成成分の一つであり、後述する透明熱可塑性樹脂組成物により形成される。
本発明の車両用表示灯においては、例えば
図1に示すように、プロジェクターレンズ3は、前記アウターカバー2と光源部4との間に設けられ、光源部4から出射した光を発散または集束させて車両用表示灯の視認性を向上させるものである。
【0017】
<透明熱可塑性樹脂組成物>
透明熱可塑性樹脂組成物は、本発明の車両用表示灯において、プロジェクターレンズを形成する材料である。
本発明の車両用表示灯において、前記透明熱可塑性樹脂組成物は、後述する共重合体(P1)を、該透明熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、80質量%以上含有する樹脂組成物である。
さらに、前記透明熱可塑性樹脂組成物は、後述する酸化防止剤(O)を含むことで、プロジェクターレンズの透明性と耐候性をより優れたものにできる。
前記透明熱可塑性樹脂組成物中の前記酸化防止剤(O)の含有割合の下限は、プロジェクターレンズの透明性と耐候性が良好となる観点から、前記透明熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、前記酸化防止剤(O)を0.01質量%以上とすることができる。0.02質量%がより好ましく、0.03質量%がさらに好ましい。一方、前記酸化防止剤(O)の含有割合の上限は、酸化防止剤(O)を過度に含有する場合、プロジェクターレンズの透明性と耐候性が低下する傾向がある観点から、0.18質量%以下とすることができる。0.14質量%がより好ましく、0.13質量%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせて、上限値及び下限値の好ましい組み合わせとすることができる。たとえば、本発明の透明熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤(O)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、0.01質量%以上0.18質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.14質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上0.13質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
<共重合体(P1)>
共重合体(P1)は、本発明の車両用表示灯において、前記透明熱可塑性樹脂組成物の構成成分である。
本発明の(メタ)アクリル系重合体は、主鎖に環構造を有する構造単位を含む重合体である。
【0019】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体とは、主鎖に、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」と略する。)と環構造由来の繰り返し単位(以下、「環構造単位」と略する。)を含む重合体である。
【0020】
本発明の(メタ)アクリル系重合体は、主鎖に環構造単位を含むので、(メタ)アクリル系重合体及び前記(メタ)アクリル系重合体を含有する樹脂組成物のガラス転移温度や軟化温度が高くなり、本発明の(メタ)アクリル系重合体及び前記(メタ)アクリル系重合体を含有する樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体(以下、「得られた樹脂成形体」と略する。)の耐熱性が向上する。
このように主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体から得られた樹脂成形体は、例えば、屋外等の高温環境下で長時間使用される車両外装部材や看板等の用途、光源などの発熱体の近傍に配置されるランプカバーや照明カバー等の用途に好適である。
【0021】
環構造単位の種類としては、例えば、グルタル酸無水物構造単位、マレイン酸無水物構造単位、グルタルイミド構造単位、ラクトン環構造単位、及びN-置換マレイミド構造単位から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル系重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合の下限値は、本発明の(メタ)アクリル系重合体を成形して得られた樹脂成形体(以下、「得られた樹脂成形体」と略する。)が、透明性に優れ、加工性、機械的特性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、(メタ)アクリル系重合体に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、80.0mol%が好ましく、90.0mol%がより好ましく、94.0mol%がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル系重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合の上限値は、得られた成形体の耐熱性に優れる観点から、99.999mol%が好ましく、99.9mol%が好ましく、99.5mol%がより好ましい。上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0023】
(メタ)アクリル系重合体中の環構造単位の含有割合の下限値は、得られた成形体が耐熱性に優れる観点から、(メタ)アクリル系重合体に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%が好ましく、0.01mol%がより好ましく、0.05mol%がさらに好ましい。(メタ)アクリル系重合体中の環構造単位の含有割合の上限値は、得られた成形体の、耐熱性に優れる観点から、10.0mol%が好ましく、成形着色の抑制、成形外観、及び耐候性に優れる観点から、3.0mol%がより好ましく、0.3mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリル酸などの単量体に由来する構成単位である。これらの構成単位は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。得られた樹脂成形体の熱安定性が向上する観点から、メタクリル酸メチル単位が好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位(以下、「カルボン酸基を有する単量体単位」と略する。)を含むことができる。カルボン酸基を有する単量体単位は、環化反応により環構造単位を形成するので、(メタ)アクリル系重合体の主鎖中に環構造単位を導入できる。したがって、(メタ)アクリル系重合体に、未反応のカルボン酸基を有する単量体単位が含まれていてもよい。カルボン酸基を有する単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位、環構造単位以外にも、他の単量体由来の繰り返し単位(以下、「他の単量体単位」と略する。)を含んでもよい。
前記他の単量体としては、たとえば、(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド、N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル化合物;エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン等のオレフィン化合物等が挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記共重合体(P1)の一実施形態としては、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(A)(以下、「単位(A)」と略する。)、(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位(B)(以下、「単位(B)」と略する。)、及びグルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位(C)(以下、「単位(C)」と略する。)を含む重合体が挙げられる。
【0028】
前記共重合体(P1)中の単位(C)は、以下の化学構造式で示される構造単位である。
【化1】
[式中、R
A及びR
Bは、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示す。]
【0029】
本発明において共重合体(P1)は、単位(C)を含むことにより、耐熱性を向上することができる。
【0030】
共重合体(P1)中の単位(A)の含有割合の下限値は、本発明において共重合体(P1)を成形して得られたプロジェクターレンズが、透明性に優れ、加工性、機械的特性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数(100mol%)に対して、80.0mol%が好ましく、90.0mol%がより好ましく、94.0mol%がさらに好ましい。共重合体(P1)中の単位(A)の含有割合の上限値は、99.499mol%が好ましく、得られたプロジェクターレンズの耐熱性に優れる観点から、99.0mol%がより好ましく、98.0mol%がさらに好ましい。上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0031】
なお、後述するように、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位(C)は、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸(b)を共重合させた共重合体において、単位(A)に由来するメトキシカルボニル基と、該単位(A)に隣接する単位(B)に由来するカルボキシル基との環化反応により構築された単位であり、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸(b)に由来するが、本発明において、単位(A)は、単位(C)を含まないものとする。
【0032】
共重合体(P1)中の単位(B)の含有割合の下限値は、得られたプロジェクターレンズの耐熱性、機械特性に優れる観点から、共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.5mol%が好ましく、1.0mol%がより好ましく、2.0mol%がさらに好ましい。共重合体(P1)中の単位(B)の含有割合の上限値は、得られたプロジェクターレンズの成形外観、低吸水性、及び成形性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、20.0mol%が好ましく、7.0mol%がより好ましく、3.5mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0033】
なお、後述するように、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位(C)は、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸(b)を共重合させた共重合体において、単位(A)に由来するメトキシカルボニル基と、該単位(A)に隣接する(メタ)アクリル酸(b)単位に由来するカルボキシル基との環化反応により構築された単位であり、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸(b)に由来するが、本発明においては、前記単位(B)は、前記単位(C)を含まないものとする。
【0034】
共重合体(P1)中の単位(C)の含有割合の下限値は、得られたプロジェクターレンズが耐熱性に優れる観点から、共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%が好ましく、0.01mol%がより好ましく、0.05mol%がさらに好ましい。共重合体(P1)中の単位(C)の含有割合の上限値は、得られたプロジェクターレンズの成形着色の抑制、成形外観、及び耐候性に優れる観点から、10.0mol%が好ましく、3.0mol%がより好ましく、0.3mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、共重合体(P1)中の単位(C)の含有割合は、共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%以上10.0mol%以下であり、0.01mol%以上2.0mol%以下が好ましく、0.3mol%以上0.15mol%以下がより好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、共重合体(P1)中の各単位の含有割合は、1H-NMR測定から算出した値とする。
また、具体的な算出方法については、実施例に記載の方法を採用することができる。
【0036】
共重合体(P1)は、単位(A)、単位(B)、単位(C)以外にも、他の単量体(d)由来の繰り返し単位(以下、「単位(D)」と略する。)を含んでもよい。
共重合体(P1)中の単位(D)の含有割合は、得られたプロジェクターレンズがアクリル樹脂本来の性能を損なわないことから、共重合体(P1)中に単位(D)を含まないことが好ましい。また、共重合体(P1)中に単位(D)を含む場合であっても、共重合体(P1)中の単位(D)の含有割合は、共重合体(P1)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0mol%超15mol%以下が好ましく、0mol%超5mol%以下がより好ましい。
【0037】
単位(D)を構成する他の単量体(d)としては、たとえば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等の公知の(メタ)アクリレート類;スチレン、α-メチルスチレン等の公知の芳香族ビニル単量体等が挙げられる。
これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において共重合体(P1)の耐熱分解性を向上させる観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレートがより好ましい。
【0038】
<(メタ)アクリル酸(b)>
(メタ)アクリル酸(b)は、本発明において共重合体(P1)に含まれる単位(B)の由来となる単量体である。また、(メタ)アクリル酸(b)の一部は、メタクリル酸メチルの一部とともに、共重合体(P1)に含まれる単位(C)の由来となる単量体である。
(メタ)アクリル酸(b)は、アクリル酸若しくはメタクリル酸、又はそれらの混合物をいう。(メタ)アクリル酸(b)の中でも、得られたプロジェクターレンズの耐熱性に優れることから、メタクリル酸が好ましい。
【0039】
<透明熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度>
本発明において透明熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度の下限は、プロジェクターレンズの耐熱性に優れることから、105℃以上である。110℃以上がより好ましい。一方、共重合体(P1)のガラス転移温度の上限は、特に制限されるものではないが、共重合体(P1)の耐熱分解性を良好に維持でき、成形加工時の流動性に優れることから、135℃以下が好ましい。130℃以下がより好ましい。尚、本明細書において、ガラス転移温度は、ISO75-1.2法に準拠して、後述する測定方法で測定した値とする。
荷重たわみ温度を105℃以上とするには、共重合体(P1)に含まれる単位(A)を80mol%以上、単位(B)を0.5mol%以上、単位(C)を0.001mol%以上とすれば良い。荷重たわみ温度を135℃以下とするには、共重合体(P1)に含まれる単位(B)を20.0mol%以下、単位(C)を10.0mol%以下とすれば良い。
【0040】
<透明熱可塑性樹脂組成物のイエローインデックス>
本発明において透明熱可塑性樹脂組成物のイエローインデックスの上限は、プロジェクターレンズの透明性に優れることから、1.0以下である。0.5以下がより好ましい。一方、共重合体(P1)のイエローインデックスの下限は、特に制限されるものではなく、低いほど好ましい。尚、本明細書において、イエローインデックスは、後述する測定方法に準拠して測定した値とする。
イエローインデックスを1.0以下とする方法としては、共重合体(P1)に含まれる単位(B)を20.0mol%以下、単位(C)を10.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは0.3mol%以下とする方法が挙げられる。更に、上述したように、前記透明熱可塑性樹脂組成物に、前記酸化防止剤(O)を含有させる方法は、プロジェクターレンズの透明性により優れることから好ましい。
【0041】
<酸化防止剤(O)>
酸化防止剤(O)は、本発明の車両用表示灯における前記透明熱可塑性樹脂組成物の構成成分の一つとして用いることができる。
前記透明熱可塑性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される酸化防止剤(O)を含むことにより、成形加工時に透明熱可塑性樹脂組成物の着色が抑えられるので、得られたプロジェクターレンズは透明性と成形着色性が良好となり、さらに耐候性が良好となる。
【化2】
[式(1)中、R
1及びR
1’は、それぞれ独立に、フェニル基上の任意の位置に置換された単独又は複数の炭素数1~8のアルキル基を示す。]
【0042】
前記酸化防止剤(O)は、下記一般式(2)の構造を有する化合物がより好ましい。
【化3】
[式(2)中、R
2及びR
2’は、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。]
【0043】
前記透明熱可塑性樹脂組成物は、共重合体(P1)と上記構造を有する酸化防止剤(O)を含むことにより、熱可塑性樹脂組成物の成形時の着色が大きく抑制され、熱可塑性樹脂組成物を成形して得られたプロジェクターレンズは着色が抑制され、優れた透明性を示す。また、酸化防止剤(O)を用いて溶融混練することにより、得られるペレット状熱可塑性樹脂組成物に含まれる、未反応の前記メチル(メタ)アクリレート(a)及び前記(メタ)アクリル酸(b)(以下、「残存モノマー」と略する。)の含有量が少なくなり、前記透明熱可塑性樹脂組成物を成形して得られたプロジェクターレンズにはシルバーストリークなどの外観不良が発生しにくく、良好な外観のプロジェクターレンズを得ることができる。
【0044】
<アウターカバー>
アウターカバーは、本発明の車両用表示灯の構成成分の一つであり、車両の走行中に、小石等の飛散物、昆虫、及び木の枝等から、光源部等を機械的に保護するものである。
アウターカバーを形成する材料としては、特に限定されるものではなく、ガラスや、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びポリスチレン系樹脂等の公知の透明熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも一種を含む材料が好ましい。
本発明の車両用表示灯においては、例えば
図1に示すように、アウターカバー2は、前記光源部4の正面前方に設けられている。アウターカバー2は、光源部4から出射されプロジェクターレンズ3で発散または集束された光を、透過して、車両用表示灯の外部に放出する。
【0045】
<光源部>
光源部は、本発明の車両用表示灯の構成要素の一つである。
本発明の光源部は、少なくとも一部が前記プロジェクターレンズと前記ランプボディとの間に位置するように配置されている。
本発明の車両用表示灯においては、例えば
図1に示すように、前記光源部4は、該光源部4の出射面から出射される出射光が前記プロジェクターレンズ3を透過するように配置されている。
上述したように、前記プロジェクターレンズと前記ランプボディとの間には、前記光源部4の一部が位置しても良いし、前記光源部4の全部が位置しても良い。
本発明の車両用表示灯の実施形態において、光源部は、ハロゲンランプ、LED光源、若しくは、ディスチャージランプを用いることができる。
【0046】
<光源部:LED光源>
本発明の光源部の一実施形態としては、LED光源を用いることができる。
本発明において、LED光源には、白色光を発するチップ型発光ダイオード(白色LED)、青色光を発するチップ型発光ダイオード(青色LED)、緑色光を発するチップ型発光ダイオード(緑色LED)、及び、赤色光を発するチップ型発光ダイオード(赤色LED)からなる群より選ばれる一種を用いることができる。
【0047】
<プロジェクターレンズの製造方法>
本発明において、プロジェクターレンズを得る方法は、特に限定されるものではなく、たとえば、前記透明熱可塑性樹脂組成物を、射出成形法、押出成形法、加圧成形法等の公知の成形手段を用いて、所望のプロジェクターレンズの形状に成形する方法が挙げられる。
射出成形法を用いて製造する場合、前記透明熱可塑性樹脂組成物をペレット状の成形材料とし、これを溶融状態で金型に充填(射出)し、次いで冷却後、成形された成形体を金型から剥離することにより、プロジェクターレンズを得ることがでる。
【0048】
<車両>
本発明の車両用表示灯としては、具体的には、テールランプカバーやヘッドランプカバー等の車両外装部材を挙げることができる。
また、本発明の車両用表示灯は、車両に取り付けられて使用することができる。
本発明の車両用表示灯を備えた車両は、透明性と成形着色性に優れる前記透明熱可塑性樹脂組成物により形成されたプロジェクターレンズを有する車両用表示灯を含むので、光源点灯時に観察者が遠方から車両を視認でき、また、光源消灯時には観察者が無色透明の車両用表示灯の存在感を感じないので、車両の意匠性に優れている。
前記プロジェクターレンズは耐熱性に優れるので、直射日光下で温度が非常に上昇する環境で車両が使用されたとき、或いは又、発熱量の大きなランプと組み合わせて使用されたときに、プロジェクターレンズが熱で変形することがないので、車両の外観や意匠性を損なうことがない。
前記プロジェクターレンズは耐候性に優れるので、屋外で直射日光に曝されやすい環境で車両が使用されても、プロジェクターレンズが着色することがないので、車両の外観や意匠性を損なうことがない。
【0049】
なお、本発明の車両用表示灯、車両外装部材及び車両は、上述した実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、実施形態及び図面に変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<測定方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0051】
<成形体の作成>
(1)成形体(A)の作成
実施例及び比較例で得られた透明熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(機種名:EC20PNII、東芝機械(株)製)を用い、成形温度250℃、金型温度76℃、成形時間360秒の条件で射出成形し、成形体(A)(長さ50mm、幅50mm、厚さ3mm)を得た。
実施例及び比較例で得られた透明熱可塑性樹脂組成物のペレットを、80℃で約4時間熱風乾燥した後に、射出成形機(機種名「FAS-T100D」、ファナック(株)製)に供給し、シリンダー設定温度250℃、金型温度60℃、成形時間60秒の条件で射出成形し、試験片A(外径50mm、肉厚4.8mmの半球型成形品)を得た。
【0052】
<耐熱性:荷重たわみ温度(HDT)>
透明熱可塑性樹脂組成物の耐熱性の指標として、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。成形体(B)を長さ80mm×幅10mm(厚み3mm)に切断後、91℃で16時間アニールを行い、アニール後の成形体(B)を耐熱性評価の試験片として用いた。
HDT/VICAT試験機(機種名:No.148-HD-PC3 ヒートデストーションテスター、(株)安田精機製作所製)を用い、ISO75-1.2に準拠し、荷重1.8MPaの条件で、前記試験片の荷重たわみ温度(HDT、単位:℃)を測定し、以下の判断基準に従い二段階評価を行った。
A :HDTが106℃以上
B :HDTが106℃未満
【0053】
<透明性:全光線透過率及びヘイズ>
透明熱可塑性樹脂組成物の透明性の指標として、ヘイズメーター(機種名:NDH4000、日本電色工業(株)製)を用い、ISO13468に準拠して成形体(A)の全光線透過率を測定した。また、ISO14782に準拠して成形体(A)のヘイズを測定した。
【0054】
<透明性:イエローインデックス(YI)>
透明熱可塑性樹脂組成物の成形着色の指標として、分光式色差計(機種名:SE-7700、日本電色工業(株)製)を用い、ISO17223に準拠して、成形体(A)のイエローインデックス(YI)を測定し、以下の判断基準に従い三段階評価を行った。
AA :YIが0.6未満
A :YIが0.6以上0.8未満
B :YIが0.8以上
【0055】
<耐候性(ΔYI)>
透明熱可塑性樹脂組成物の耐候性の指標として、イエローインデックスの変化量(ΔYI)を、以下の方法で測定した。
実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(機種名:EC20PN2、東芝機械(株)製)を用い、成形温度280℃、成形時間360秒の条件で射出成形し、長さ50mm×幅50mm×厚み3mmの成形体を得た。次いで、分光式色差計(機種名:SE-7700、日本電色工業(株)製)を用い、ISO17223に準拠して、成形直後の成形体のイエローインデックス(YI1)を測定した。次いで、測定後の成形体を、乾燥機(機種名:VO-320 Advantec社製)中、空気雰囲気下で、110℃で1000時間加熱した後のイエローインデックス(YI2)を測定した。YI2とYI1の差(ΔYI=YI2-YI1)を算出し、これを熱可塑性樹脂組成物の耐候性の指標とし、以下の判断基準に従い三段階評価を行った。
AA:ΔYIが2.6未満
A :ΔYIが2.6以上3.6未満
B :ΔYIが3.6以上
【0056】
<単位(A)、(B)及び(C)の含有率>
透明熱可塑性樹脂組成物に含まれる共重合体(P1)、又は、成形体に含まれる共重合体(P2)(以下、合わせて「共重合体(P)」と略する。)に含まれる、単位(A)、(B)及び(C)の含有率を、以下の手順に従って測定した。
実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物又は成形体2.5gをアセトン20mLに溶解させた後、90mLのメタノール中に滴下して沈殿物を得た。次いで、濾紙を用いて濾液を取り除き、沈殿物(1)を得た。次いで、得られた沈殿物(1)約2.1gをアセトン20mLに溶解させた後、90mLのメタノール中に滴下して沈殿物(2)を得た。得られた沈殿物(2)を、真空式乾燥器を用いて40℃で一晩乾燥し、共重合体(P)を得た。
上記の共重合体(P)50mg及びジメチルスルホキシド(DMSO-d6)2mlを、撹拌子を備えた20mlのシュレンク管に供給し、撹拌しながら80℃に加熱し、共重合体(P)を溶解させた。その後、23℃まで冷却し、ベンジルアミン50mg(51.0μl)をシュレンク管に加え、撹拌しながら80℃に加熱して1時間保持して、重合体溶液を得た。
上述したベンジルアミンによる処理により、共重合体(P)中の単位(C)は、ベンジルアミンとの反応で開環し、(メタ)アクリル酸ベンジルアミド構造単位と、新たに(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位とが形成される。前記(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位は、単位(B)と同じ構造を有する。したがって、測定された(メタ)アクリル酸ベンジルアミド構造の含有量の値にもとづいて、共重合体(P)中の単位(C)の含有率を算出した。さらに、測定された単位(B)の含有量の値から、単位(C)の含有量を引いた値にもとづいて、共重合体(P)中の単位(B)の含有率を算出した。また、測定された単位(A)の含有量の値にもとづいて、共重合体(P)中の単位(A)の含有率を算出した。
【0057】
上記のシュレンク管の重合体溶液を、室温まで冷却した後、核磁気共鳴スペクトル測定装置(Varian社製、共鳴周波数:270MHz)を用い、測定温度80℃、積算回数128回の条件で、1H-NMR測定を行った。
【0058】
得られた1H-NMR測定結果から、3.7ppm付近に存在する未反応ベンジルアミンのベンジルプロトンのシングレットピークの積分値(I1)と、4.2ppm付近に存在する、単位(C)に由来する(メタ)アクリル酸ベンジルアミド構造由来のベンジルプロトンのシングレットピークの積分値(I2)から、下記式(I)を用いて、共重合体(P)中の単位(C)の含有量に対する、未反応ベンジルアミンのベンジルプロトンの量の比率Rcを算出した。
Rc=I2/(I1×2) (I)
【0059】
3.5ppm付近に存在する単位(A)に由来するメチルメタクリレート(MMA)単位及びアクリル酸メチル(MA)単位由来のシングレットピークのプロトンの積分値(I3)と、前記の積分値(I1)から、下記式(II)を用いて、共重合体(P)中の単位(A)の含有量に対する、未反応ベンジルアミンのベンジルプロトンの量の比率Raを算出した。
Ra=I3/(I1×3) (II)
【0060】
0.5ppm以上2.5ppm以下付近に存在する単位(A)に由来するメチルメタクリレート(MMA)単位及びアクリル酸メチル(MA)単位、並びに単位(B)に由来するメタクリル酸(MAA)単位のシングレットピークのプロトンの積分値(I4)と、前記の積分値(I1)から、下記式(III)を用いて、共重合体(P)中の単位(B)の含有量に対する、未反応ベンジルアミンのベンジルプロトンの量の比率Rbを算出した。
Rb=[I4/(I1×5)]-(Rc+Ra) (III)
【0061】
得られたRa,Rb,Rcの値から、下記式(IV)~(IX)を用いて、前記共、共重合体(P)中の、単位(A)、単位(B)、及び単位(C)の含有率(単位:mol%)を算出した。
【数1】
【0062】
(原材料)
また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メチルメタクリレート(商品名:アクリエステル(登録商標)M、三菱ケミカル(株)製)
MA:アクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
MAA:メタクリル酸
重合開始剤(1):2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩
重合開始剤(2):2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(商品名:V-59、和光純薬工業(株)製)
連鎖移動剤(1):n-オクチルメルカプタン(東京化成工業(株)製)
メタクリル系樹脂(1):製造例1で製造した共重合体(P1)
メタクリル系樹脂(2):製造例2で製造したメタクリル系樹脂
酸化防止剤(1):ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ(登録商標)PEP-36、ADEKA社製)
酸化防止剤(2):ビスステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ(登録商標)PEP-8、ADEKA社製)
酸化防止剤(3):2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチル-1-フェニルオキシ)(2-エチルヘキシルオキシ)ホスホラス(商品名:アデカスタブ(登録商標)HP-10、ADEKA社製)
【0063】
[製造例1]
脱イオン水900質量部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム60質量部、メタクリル酸カリウム10質量部及びMMA12質量部を、内部を窒素置換した還流冷却器付き反応容器に加えた後、撹拌しながら反応容器内の液温が50℃になるように昇温した。その後、重合開始剤(1)0.08質量部を加え、撹拌しながら反応容器内の液温が60℃になるように昇温した後、滴下ポンプを用いて、MMAを0.24質量部/分の速度で75分間かけて連続的に滴下した。その後、さらに6時間保持して重合を行ない、分散剤(固形分10質量%)を得た。
【0064】
脱イオン水2000質量部及び硫酸ナトリウム4.2質量部を、窒素ガス導入管を備えた還流冷却器付き反応容器に加えた後、320rpmの撹拌速度で15分間撹拌した。その後、MMA1351.6質量部、MAA36.3質量部、MA12.1質量部、重合開始剤(2)を2.8質量部及び連鎖移動剤(1)4.2質量部の混合溶液を反応容器に加え、5分間撹拌した。次いで、製造例1で製造した分散剤(固形分10質量%)6.72質量部を反応容器に加えた後、撹拌して、反応容器中の単量体組成物を水中に分散させた。その後、反応容器内を窒素置換した。
【0065】
次いで、反応容器内の液温が75℃になるように昇温した後、さらに反応容器内の液温を連続的に測定して重合発熱ピークが観測されるまで75℃を保持した。重合発熱ピークが観測された後、反応容器内の液温が90℃になるように昇温した後、60分間保持して、重合を行なった。その後、反応容器内の混合物を濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、80℃で16時間乾燥し、ビーズ状の共重合体を得て、これをメタクリル系樹脂の前駆体(共重合体前駆体(1))とした。
共重合体前駆体(1)の組成は、上述した「単位(A)、(B)及び(C)の含有率」の測定方法に準じで分析したところ、MMA単位96.0mol%、MAA単位3.0mol%、MA単位1.0mol%であった。
【0066】
[製造例2]
MMA1388.0質量部、MA12.0質量部、重合開始剤(2)を2.8質量部及び連鎖移動剤(1)4.2質量部の混合溶液を用いた以外は、製造例2と同じ条件で重合を行ない、ビーズ状の共重合体(3)を得て、メタクリル系樹脂の前駆体(共重合体前駆体(2))とした。
共重合体前駆体(2)の組成は、上述した「単位(A)、(B)及び(C)の含有率」の測定方法に準じで分析したところ、MMA単位99.0mol%、MA単位1.0mol%であった。
【0067】
[実施例1]
(透明熱可塑性樹脂組成物の作成)
共重合体前駆体(1)を二軸押出機(機種名「PCM30」、(株)池貝製)に供給し、250℃で混練し、ペレット状の樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(1)とした。
得られたメタクリル系樹脂(1)の組成は、上述した「単位(A)、(B)及び(C)の含有率」の測定方法を用いて分析したところ、メチル(メタ)アクリレート(a)由来の繰り返し単位97.00mol%、(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位2.99mol%、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位0.01mol%であった。
【0068】
(プロジェクターレンズの作成)
メタクリル系樹脂(1)のペレットを、射出成形機(機種名:PS60E、日精樹脂(株)製)を用い、成形温度250℃、金型温度76℃、成形時間360秒の条件で射出成形し、プロジェクターレンズ(厚み3mm)を得た。
プロジェクターレンズの透明熱可塑性樹脂組成物に含まれる共重合体(P1)の組成は、メチル(メタ)アクリレート(a)由来の繰り返し単位97.00mol%、(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位2.99mol%、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位0.01mol%であった。
【0069】
(車両用表示灯の作成)
カーボンブラックを配合したアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)を射出成形して、黒色の遮光性を有するランプボディを得た。
図1に示すように、前記ランプボディ5とポリカーボネート系樹脂から形成されたアウターカバー2とで形成された灯室に、前記プロジェクターレンズと、光源部としてハロゲンランプを配置して車両用表示灯を得た。
得られたプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0070】
[実施例2]
共重合体前駆体(1)100質量部、酸化防止剤(O)として酸化防止剤(1)1.0質量部を二軸押出機(機種名「PCM30」、(株)池貝製)に供給し、250℃で混練し、ペレット状の樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(2)とした。
得られたメタクリル系樹脂(2)の組成は、メチル(メタ)アクリレート(a)由来の繰り返し単位97.00mol%、(メタ)アクリル酸(b)由来の繰り返し単位2.99mol%、グルタル酸無水物構造を有する繰り返し単位0.01mol%であった。
得られたメタクリル系樹脂(2)を用いて、実施例1と同様にしてプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0071】
[実施例3]
酸化防止剤として、酸化防止剤(1)の代わりに酸化防止剤(2)を用いた以外は、実施例1と同じ製造状条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(3)とした。得られたメタクリル系樹脂(3)を用いて、実施例1と同様にしてプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0072】
[実施例4]
酸化防止剤として、酸化防止剤(1)の代わりに酸化防止剤(3)を用いた以外は、実施例1と同じ製造状条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(4)とした。得られたメタクリル系樹脂(4)を用いて、実施例1と同様にしてプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0073】
[比較例1]
製造例2で製造した共重合体前駆体(2)を共重合体前駆体(1)の代わりに用いた以外は、実施例1と同じ製造状条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(4)とした。得られたメタクリル系樹脂(4)を用いて、実施例1と同様にしてプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0074】
[比較例2]
共重合体前駆体(2)を共重合体前駆体(1)の代わりに用いた以外は、実施例2と同じ製造状条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得て、これをメタクリル系樹脂(5)とした。得られたメタクリル系樹脂(5)を用いて、実施例1と同様にしてプロジェクターレンズ及び車両用表示灯を作成し、評価した。評価結果を表2~3に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
実施例1~4で得られた透明熱可塑性樹脂組成物から得られたプロジェクターレンズは、耐熱性、成形着色性、透明性、及び耐候性のバランスに優れていた。
また、実施例1~4で得られたプロジェクターレンズを含む車両用表示灯は、光源点灯時に観察者が遠方から良好に視認でき、また、光源消灯時には、観察者が無色透明の車両用表示灯の存在感を感じることがなく、車両の意匠性に優れていた。また、発熱量の大きなハロゲンランプと組み合わせて、長時間使用されても、プロジェクターレンズが熱で変形することがないので、車両の外観や意匠性を良好に維持できた。さらに、屋外で直射日光に曝されやすい環境で使用されても、着色することがないので、車両の外観や意匠性を良好に維持できた。
【0079】
一方、比較例1及び2で得られた透明熱可塑性樹脂組成物は、共重合体が単位(B)と単位(C)を含まないため、得られたプロジェクターレンズの耐熱性、成形着色性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の車両用表示灯は、高い透明性、耐熱性及び耐候性を有するので、車両用表示灯に好適に用いることができる。
特に、車両用表示灯として、テールランプやヘッドランプ等の車両用ライトに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 車両用表示灯
2 アウターカバー
3 プロジェクターレンズ
4 光源部
5 ランプボディ