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特許7415653硬化性樹脂組成物、ポリマー光導波路、ポリマー光導波路の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、ポリマー光導波路、ポリマー光導波路の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240110BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240110BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08F290/06
G02B6/12 371
G02B1/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020029860
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134250
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】三重野 寛之
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034671(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/107005(WO,A1)
【文献】特開2013-120338(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
G02B 6/12
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマー(A)を100質量部、重合開始剤(B)を0.5~4質量部、及びイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)を3~20質量部含有し、
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記一般式(1)で表される含フッ素芳香族化合物(X)と、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)並びに架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)の少なくともいずれか一方と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)との縮合反応物であり、
前記架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)は、反応性二重結合を有するフェノール類、エチニルフェノール類、ビス(フェニルエチニル)ジヒドロキシビフェニル類、及びジヒドロキシジフェニルアセチレン類からなる群より選ばれる少なくとも1の化合物であり、
前記架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)は、反応性二重結合を有する含フッ素アリール類、三重結合を有する含フッ素アリールアセチレン類、及び含フッ素ジアリールアセチレン類からなる群より選ばれる少なくとも1の化合物であり、
前記イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)は、下記一般式(2)で表される化合物であり、
硬化させてポリマー光導波路に用いられる、硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、nは0~3の整数を表し、a、bはそれぞれ独立に0~3の整数を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立に炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。)
【化2】

(式中、R ~R は各々独立して、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数3~10のシクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基を表し、前記置換基はシクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、-OCOCR =CR 、-OCO-CH CH(SH)-CH 、及び-OCO-CH CH -SHからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、R ~R は各々独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又はチオール基を表す。)
【請求項2】
前記重合開始剤(B)が、ベンゾインアルキルエーテル誘導体、ベンゾフェノン誘導体、α-アミノアルキルフェノン系、オキシムエステル誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、グリオキシエステル誘導体、有機過酸化物系、トリハロメチルトリアジン誘導体、及びチタノセン誘導体からなる群から選択される1つ以上を含有する、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる、ポリマー光導波路。
【請求項4】
コアと、前記コアよりも屈折率が低いクラッドとで構成される、請求項に記載のポリマー光導波路。
【請求項5】
基材上に硬化性樹脂組成物(R1)を塗布し、光照射または熱で硬化させ、第一のクラッドを形成する工程、
前記第一のクラッド上に硬化性樹脂組成物(R2)の塗膜を形成し、前記塗膜をフォトリソグラフィ法で加工してコアを形成する工程、及び
前記第一のクラッドおよび前記コア上の一部または全部に硬化性樹脂組成物(R3)を塗布し、光照射または熱で硬化させる工程、を含み、
前記硬化性樹脂組成物(R1)は、含フッ素ポリマー(A1)を100質量部、重合開始剤(B1)を0.5~4質量部、及び、分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、かつフッ素原子を有していない化合物(D1)を5~50質量部含有し、
前記硬化性樹脂組成物(R2)は、含フッ素ポリマー(A2)を100質量部、重合開始剤(B2)を0.5~4質量部、及び、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C2)を3~20質量部含有し、
前記硬化性樹脂組成物(R3)は、含フッ素ポリマー(A3)を100質量部、重合開始剤(B3)を0.5~4質量部、及び、分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、かつフッ素原子を有していない化合物(D3)を5~50質量部含有し、
前記含フッ素ポリマー(A1)、前記含フッ素ポリマー(A2)及び前記含フッ素ポリマー(A3)は、それぞれ独立して、下記一般式(1)で表される含フッ素芳香族化合物(X)と、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)並びに架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)の少なくともいずれか一方と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)との縮合反応物であり、
前記架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)は、反応性二重結合を有するフェノール類、エチニルフェノール類、ビス(フェニルエチニル)ジヒドロキシビフェニル類、及びジヒドロキシジフェニルアセチレン類からなる群より選ばれる少なくとも1の化合物であり、
前記架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)は、反応性二重結合を有する含フッ素アリール類、三重結合を有する含フッ素アリールアセチレン類、及び含フッ素ジアリールアセチレン類からなる群より選ばれる少なくとも1の化合物であり、
前記イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)は、下記一般式(2)で表される化合物である、ポリマー光導波路の製造方法。
【化3】

(式中、nは0~3の整数を表し、a、bはそれぞれ独立に0~3の整数を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立に炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。)
【化4】

(式中、R ~R は各々独立して、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数3~10のシクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基を表し、前記置換基はシクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、-OCOCR =CR 、-OCO-CH CH(SH)-CH 、及び-OCO-CH CH -SHからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、R ~R は各々独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又はチオール基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、ポリマー光導波路、ポリマー光導波路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器の分野では、機器の小型化および通信の高速化に伴い、信号の伝送に樹脂製のポリマー光導波路を用いることへの期待が高まっている。樹脂材料としては、ノルボルネン樹脂や、シロキサン樹脂などが知られている。しかしこれらの樹脂は光通信に用いられる、例えば、1260~1360nm(O-band)、1530~1565nm(C-band)等の波長域で透明性に劣るなどの問題がある。また、これらの樹脂は耐熱性に劣るという問題もあった。
そこで最近では、透明性と耐熱性に優れた含フッ素ポリマーをポリマー光導波路材料として用いることが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/017318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリマー光導波路は、例えば下記手順で製造される。
(1)基材上に硬化性樹脂組成物を塗布し、光照射または熱で硬化させ、第一のクラッドを形成する。
(2)第一のクラッド上に硬化性樹脂組成物の塗膜を形成した後、該塗膜をフォトリソグラフィ法で加工してコアを形成する。
(3)第一のクラッドおよびコア上の一部または全部に硬化性樹脂組成物を塗布し、光照射または熱で硬化させ、第二のクラッドを形成する。
【0005】
上記の場合、フォトリソグラフィ法により微細なコアを形成するため、第一のクラッドとコアとの界面で生じるコアの剥離が課題となっていた。第一のクラッドとの界面でのコアの剥離は、製造されたポリマー光導波路の断線等の問題を生じるため課題となる。
【0006】
特許文献1には、光導波路としてモノマーまたはオリゴマーが部分的にフッ素化された樹脂を用いることで光学特性が長時間維持される点が開示されているが、コアの剥離抑制に関しては開示も示唆もない。
【0007】
本発明は、これらを解決するため、クラッドとの界面でのコアの剥離を抑制することができる硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る硬化性樹脂組成物は、含フッ素ポリマー(A)を100質量部、重合開始剤(B)を0.5~4質量部、及びイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)を3~20質量部含有する。
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記一般式(1)で表される含フッ素芳香族化合物(X)と、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)並びに架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)の少なくともいずれか一方と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)と、を含有する。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、nは0~3の整数を表し、a、bはそれぞれ独立に0~3の整数を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立に炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬化させてポリマー光導波路とした際に、クラッドとの界面でのコアの剥離を抑制できる硬化性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の硬化性樹脂組成物について説明する。
[含フッ素ポリマー(A)]
本実施形態にかかる含フッ素ポリマー(A)は、後述する含フッ素芳香族化合物(X)と、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)並びに架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)の少なくともいずれか一方と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)と、を含有する。
【0013】
含フッ素ポリマー(A)の数平均分子量は、1×10以上が好ましく、1.5×10以上がより好ましく、また、5×10以下が好ましく、1×10以下がより好ましい。この範囲の場合、硬化性樹脂組成物としての塗布特性が良好であり、得られた硬化膜は良好な耐熱性、機械特性、及び耐溶剤性等を有する。
【0014】
[含フッ素芳香族化合物(X)]
含フッ素芳香族化合物(X)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0015】
【化2】
【0016】
(一般式(1)中、nは0~3の整数を表し、a、bは各々独立して0~3の整数を表し、Rf及びRfはそれぞれ独立して炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。)
【0017】
一般式(1)中、Rf及びRfは炭素数8以下、好ましくは炭素数3以下の含フッ素アルキル基である。中でも、耐熱性の観点より、ペルフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、ペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基が挙げられる。
【0018】
Rf及びRfが多くなると製造が困難となるので、これらRf及びRfの数であるa及びbはそれぞれ独立に0~2が好ましく、0が最も好ましい。なお、a、bが2以上である場合、複数存在するRf、Rfの構造は同一でも異なっていてもよい。
【0019】
一般式(1)中、nは0~3の整数であり、好ましくは1~3の整数である。含フッ素芳香族化合物(X)は、一般式(1)においてn=0の場合は、ペルフルオロベンゼン、ペルフルオロトルエン、ペルフルオロキシレン;n=1の場合は、ペルフルオロビフェニル;n=2の場合は、ペルフルオロテルフェニル;n=3の場合は、ペルフルオロ(1,3,5-トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロ(1,2,4-トリフェニルベンゼン)が好ましく、特に、ペルフルオロトルエン、ペルフルオロ(1,3,5-トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロ(1,2,4-トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロビフェニルが好ましい。
含フッ素芳香族化合物(X)は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。n=3の場合は、含フッ素ポリマー(A)に分岐構造が導入されるため硬化物の耐熱性を向上させることができる。得られる硬化物の誘電率と耐熱性のバランスに優れ、かつ硬化物の可とう性が高くなる点で、含フッ素芳香族化合物(X)としては、ペルフルオロビフェニルが最も好ましい。
【0020】
[化合物(Y-1)]
化合物(Y-1)は、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物である。
具体的には、4-ヒドロキシスチレン、4-アセトキシスチレン等の反応性二重結合を有するフェノール類;3-エチニルフェノール、4-フェニルエチニルフェノール、4-(4-フルオロフェニル)エチニルフェノール等のエチニルフェノール類や、2,2’-ビス(フェニルエチニル)-5,5’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ビス(フェニルエチニル)-4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のビス(フェニルエチニル)ジヒドロキシビフェニル類;4,4’-ジヒドロキシトラン、3,3’-ジヒドロキシトラン等のジヒドロキシジフェニルアセチレン類が挙げられる。
これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも含フッ素芳香族化合物(X)との反応効率の観点から反応性二重結合を有するフェノール類が好ましく、4-アセトキシスチレンがより好ましい。
【0021】
[化合物(Y-2)]
化合物(Y-2)は、架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物である。
具体的には、ペンタフルオロスチレン、ペンタフルオロベンジルアクリレート、ペンタフルオロベンジルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルアクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、ペルフルオロスチレン、ペンタフルオロフェニルトリフルオロビニルエーテル、3-(ペンタフルオロフェニル)ペンタフルオロプロペン-1等の反応性二重結合を有する含フッ素アリール類;ペンタフルオロベンゾニトリル等のシアノ基を有する含フッ素アリール類;ペンタフルオロフェニルアセチレン、ノナフルオロビフェニルアセチレン等の三重結合を有する含フッ素アリールアセチレン類;フェニルエチニルペンタフルオロベンゼン、フェニルエチニルノナフルオロビフェニル、デカフルオロトラン等の含フッ素ジアリールアセチレン類が挙げられる。
これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。比較的低温で架橋反応が進行し、かつ得られる含フッ素ポリマー(A)の硬化物の耐熱性が高くなることから、反応性二重結合を有する含フッ素アリール類、三重結合を有する含フッ素アリールアセチレン類が好ましい。
【0022】
前記化合物(Y-1)および化合物(Y-2)はいずれか一方のみ用いてもよく、両方用いてもよいが、後述する製造方法の観点から化合物(Y-1)を用いることが好ましい。
化合物(Y-1)および化合物(Y-2)は架橋性官能基を有することにより、硬化させた際に、低誘電率、低吸水率及び高耐熱性を同時に満足する硬化物が得られる。
【0023】
[フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)]
化合物(Z)は、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物である。化合物(Z)におけるフェノール性水酸基の数は、3~6個が好ましく、3個または4個が特に好ましい。なお、化合物(Z)は架橋性官能基を有さないため、化合物(Y-1)とは明確に区別できる。
【0024】
具体的には、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシビフェニル、トリヒドロキシナフタレン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシビフェニル、テトラヒドロキシビナフチル、テトラヒドロキシスピロインダン類が挙げられる。
得られる硬化膜の可とう性が高くなることから、化合物(Z)としてはフェノール性水酸基を3個有する化合物が好ましく、その中でも、得られる硬化物の誘電率が低くなることから、トリヒドロキシベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンがより好ましく、トリヒドロキシベンゼンがさらに好ましい。
【0025】
フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)を用いることにより、ポリマー鎖に分岐構造を導入し、分子構造を三次元化する。そのことで、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化、すなわち低誘電率化が達成できる。また、一般的に、芳香環を有する直鎖状ポリマーは芳香環のスタッキングによる分子の配向が起き易いが、本実施形態にかかる硬化性樹脂組成物では、分岐構造を導入することにより分子の配向が抑えられ、その結果、複屈折が小さくなる。
【0026】
[含フッ素ポリマー(A)の製造方法]
含フッ素ポリマー(A)は、下記(i)または(ii)の方法のいずれか又は両方で製造することができる。
(i)一般式(1)で示される含フッ素芳香族化合物(X)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)と、架橋性官能基及びフェノール性水酸基を有する化合物(Y-1)と、を脱HF剤存在下に縮合反応させる方法。
(ii)一般式(1)で示される含フッ素芳香族化合物(X)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(Z)と、架橋性官能基及びフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y-2)と、を脱HF剤存在下に縮合反応させる方法。
【0027】
なお、上記(i)及び(ii)の両方の方法により含フッ素ポリマー(A)を製造する場合は、含フッ素芳香族化合物(X)と、化合物(Z)と、化合物(Y-1)と、化合物(Y-2)と、を脱HF剤存在下に縮合反応させる。
【0028】
なお上記(i)又は(ii)の方法のいずれにおいても、縮合反応は一段階で全てを反応させてもよく、多段階に分けて反応させてもよい。また反応原料のうち特定の化合物を先に優先的に反応させた後に、引き続いて他の化合物を反応させてもよい。縮合反応を多段階に分けて行う場合に、途中で得られた中間生成物は、反応系から分離し精製した後に、後続の反応(縮合反応)に用いてもよい。反応の場において原料化合物は一括で投入されてもよく、連続的に投入されてもよく、間歇的に投入されてもよい。
【0029】
脱HF剤としては、塩基性化合物が好ましく、特にアルカリ金属の、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物が好ましい。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0030】
[重合開始剤(B)]
本実施形態の重合開始剤(B)は、重合反応が開始されれば特に限定されないが、ベンゾインアルキルエーテル誘導体、ベンゾフェノン誘導体、α-アミノアルキルフェノン系、オキシムエステル誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、グリオキシエステル誘導体、有機過酸化物系、トリハロメチルトリアジン誘導体、及びチタノセン誘導体からなる群から選択される1つ以上を含有することが好ましく、これらの中でも、オキシムエステル誘導体がラジカル生成効率の観点からより好ましい。
【0031】
オキシムエステル誘導体として好適な市販品としては、チバスペシャリティーケミカルズ社製のIRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02および、IRGACURE OXE04が挙げられる。
【0032】
[イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)]
本実施形態のイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)はイソシアネートの三量体構造を有すれば特に限定されないが、以下の一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化3】
【0034】
(一般式(2)中、R~Rは各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、エポキシ基、カルボキシ基を表し、前記置換基はシクロアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、エポキシ基、カルボキシ基、-OCOCR=CR、-OCO-CHCH(SH)-CH、及び-OCO-CHCH-SHからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、R~Rは各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルキル基、又はチオール基を表す。)
【0035】
これらの中でも、R~Rは各々独立して、置換基として-OCOCR=CRを有する炭素数1~3のアルキル基が好ましく、かかる置換基によりアルキル基の末端が置換されていることがより好ましく、かかる置換基のR~Rは水素原子またはメチル基がさらに好ましい。具体的には、アルキル基の末端が、-OCOCH=CH、-OCOCH=CHCH、-OCOCCH=CHで置換された炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。
~Rは各々独立して、置換基として-OCO-CHCH(SH)-CH、-OCO-CHCH-SHを有する炭素数1~3のアルキル基も好ましく、これら置換基によりアルキル基の末端が置換されていることがより好ましい。
~Rは各々独立して、置換基としてエポキシ基を有する炭素数1~3のアルキル基も好ましく、アルキル基の末端がエポキシ基で置換された炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0036】
上記R~Rは、クラッドとの界面でのコア剥離抑制の点からRおよびRは同じ置換基が好ましく、R~Rが全て同じ置換基であることが特に好ましい。
【0037】
これらの中でも、化合物(C)として以下の式で表される化合物(2C-1)~化合物(2C-6)が特に好適に用いられる。
【0038】
【化4】
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
上記の中でも、化合物(2C-5)と化合物(2C-1)がポリマー光導波路とした際のクラッドとの界面でのコアの剥離の抑制の点から好ましく、化合物(2C-1)がクラッドとの界面でのコア剥離の抑制が目視だけでなく顕微鏡による観察でも微小剥離やうねりが発生しない点からより好ましい。これは、含フッ素ポリマー(A)との反応性と共重合性により硬化物の分子量が大きくなることによって現像液によるコアの膨潤が抑制されること、また疎水性の含フッ素ポリマー(A)に添加することによってクラッドとの密着力が向上することから、コアの剥離が抑制されると推測される。
【0042】
[硬化性樹脂組成物]
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上記した、含フッ素ポリマー(A)と、重合開始剤(B)と、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)とを含む。
【0043】
含フッ素ポリマー(A)100質量部に対し、重合開始剤(B)は0.5~4質量部含有し、好ましくは後述するポリマー光導波路の光吸収特性の点から0.5~2質量部である。
【0044】
含フッ素ポリマー(A)100質量部に対し、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)は3~20質量部含有し、好ましくは光学特性や、後述するポリマー光導波路のコアの剥離の抑制の観点から5質量部以上であり、また、15質量部以下である。
【0045】
[ポリマー光導波路]
本実施形態のポリマー光導波路は上記硬化性樹脂組成物を硬化させてなる。ポリマー光導波路は、コアとコアよりも屈折率が低いクラッドとで構成されることが好ましい。
コアおよびクラッドの構成材料である硬化性樹脂組成物について、コアの屈折率よりもクラッドの屈折率が低くなるように、含フッ素ポリマー(A)、重合開始剤(B)およびイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)の混合比率を調整する方法や、後述する化合物(D)を適宜添加することによって調整する方法が挙げられる。
【0046】
[コアの構成材料の好適例]
コアの構成材料としては、前記含フッ素ポリマー(A2)100質量部に対し、重合開始剤(B2)を0.5~4質量部と、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C2)を3~20質量部含有する硬化性樹脂組成物が好ましく、含フッ素ポリマー(A2)100質量部に対し、重合開始剤(B2)を0.5~2質量部と、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C2)を5~15質量部含有する硬化性樹脂組成物がより好ましい。
【0047】
[クラッドの構成材料の好適例]
クラッドの構成材料としては、前記含フッ素ポリマー(A1)又は(A3)100質量部に対し、重合開始剤(B1)又は(B3)を0.5~4質量部と、分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、フッ素原子を有していない化合物(D1)又は(D3)を5~50質量部含有する硬化性樹脂組成物が好ましく、含フッ素ポリマー(A1)又は(A3)100質量部に対し、重合開始剤(B1)又は(B3)を0.5~2質量部と、分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、フッ素原子を有していない化合物(D1)又は(D3)を5~50質量部含有する硬化性樹脂組成物がより好ましい。
【0048】
ここで、含フッ素ポリマー(A1)~(A3)はいずれも含フッ素ポリマー(A)と同義であり、コアを構成するものを含フッ素ポリマー(A2)、第一のクラッドを構成するものを含フッ素ポリマー(A1)、第二のクラッドを構成するものを含フッ素ポリマー(A3)と称する。これら含フッ素ポリマー(A1)~(A3)は、同じものを用いても、異なるものを用いてもよく、光の伝搬損失の観点から含フッ素ポリマー(A1)及び(A3)は同じであることが好ましい。また、重合開始剤(B1)~(B3)、化合物(C2)、並びに、化合物(D1)及び(D3)についても同様であり、また、同じものを用いても異なるものを用いてもよいが、光の伝搬損失の観点から、重合開始剤(B1)及び(B3)、化合物(D1)及び(D3)はそれぞれ同じであることが好ましい。
【0049】
分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有しフッ素原子を有していない化合物(D)としては、架橋性官能基を2個以上有することが好ましく、また、20個以下有することがより好ましく、8個以下有することが特に好ましい。架橋性官能基を2個以上有していると、分子間を架橋させることができるため、硬化膜における耐熱性を向上させ、硬化膜における加熱による膜厚減少を良好に抑えることができる。
【0050】
架橋性官能基としては、ビニル基、アリル基、エチニル基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基が挙げられる。これらのうちで、重合開始剤の存在下でなくても、光照射により反応を生じる点でアクリロイル基、アクリロイルオキシ基が好ましい。
【0051】
架橋性官能基を有しフッ素原子を有していない化合物(D)の具体例としては、ジペンタエリスリトールトリアクリレートトリウンデシレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートモノウンデシレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,9-ノナンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
またポリエステルアクリレート(二価アルコールと二塩基酸との縮合物の両末端をアクリル酸で修飾した化合物:東亞合成社製、商品名アロニックス(M-6100、M-6200、M-6250、M-6500);多価アルコールと多塩基酸との縮合物の水酸基末端をアクリル酸で修飾した化合物:東亞合成社製、商品名アロニックス(M-7100、M-7300K、M-8030、M-8060、M-8100、M-8530、M-8560、M-9050))も利用できる。これらは市販品から入手できる。
【0052】
これらの中でも、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレートが硬化膜の成形性が良好であるので好ましい。
【0053】
ポリマー光導波路の製造方法は特に限定されず、各種方法を用いることができる。具体的には、複製(スタンパ)法、直接露光法、反応性イオンエッチング(RIE)とフォトリソグラフィプロセスを組み合わせる方法、射出成形をもとにした方法、フォトブリーチング法、直接描画法、自己形成法等を使用できる。
【0054】
本実施形態のポリマー光導波路の製造方法の一例について説明する。
かかる製造方法では下記工程を含む。
基材上に硬化性樹脂組成物(R1)を塗布し、光照射または熱で硬化させ、第一のクラッドを形成する工程、
前記第一のクラッド上に硬化性樹脂組成物(R2)の塗膜を形成し、前記塗膜をフォトリソグラフィ法で加工してコアを形成する工程、及び
前記第一のクラッドおよび前記コア上の一部または全部に硬化性樹脂組成物(R3)を塗布し、光照射または熱で硬化させる工程。
【0055】
第一のクラッドを形成する工程では、まず、スピンコート法により、基板の上に含フッ素ポリマー(A1)を100質量部、重合開始剤(B1)を0.5~4質量部、及び分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、フッ素原子を有していない化合物(D1)を5~50質量部含有する硬化性樹脂組成物(R1)を含有する塗布液を塗布する。続いて、光照射又は熱により該硬化性樹脂組成物(R1)を硬化させて第一のクラッドを形成する。
スピンコート法に代えて、スリットコート、ディップコート等の方法を用いてもよい。また硬化には光照射を用いることがより好ましい。
【0056】
次にコアを形成する工程では、スピンコート法により、第一のクラッドの上に含フッ素ポリマー(A2)を100質量部、重合開始剤(B2)を0.5~4質量部、及びイソシアヌレート骨格を有する化合物(C2)を3~20質量部を含有する硬化性樹脂組成物(R2)を含有する塗布液を塗布し、塗膜を形成する。続いて、フォトリソグラフィ法により、該硬化性樹脂組成物(R2)の塗膜に対するパターニング等の加工を行い、第一のクラッドの上にコアを形成する。このとき、コアの幅が光の伝搬方向に沿って同一または異なる形状を有していてもよい。異なる形状を形成するには、コアの幅が光の伝搬方向に沿って異なる形状のフォトマスクを用いて露光を行った後、現像することによってコアを形成すればよい。異なる形状とは、コアの幅が光の伝搬方向に沿って先細りになる場合や、テーパー状になる場合を示す。また、スピンコート法に代えて、スリットコート、ディップコート等の方法を用いてもよい。
コアを形成した後、必要に応じてポストベーク(100℃以上で加熱)を行ってもよい。
【0057】
次に第二のクラッドを形成する工程として、スピンコート法により、前記第一のクラッド及び前記コア上の一部または全部に含フッ素ポリマー(A3)を100質量部、重合開始剤(B3)を0.5~4質量部、及び分子量が140~5000であり、架橋性官能基を有し、フッ素原子を有していない化合物(D3)を5~50質量部を含有する硬化性樹脂組成物(R3)を含有する塗布液を塗布する。続いて、光照射又は熱により該硬化性樹脂組成物(R3)を硬化させて第二のクラッドを形成する。第二のクラッドを形成する際、フォトリソグラフィ法より、第二のクラッドが存在せず、コアおよび該コアの周辺の第一のクラッドが露出したコア露出部を形成することもできる。
スピンコート法に代えて、スリットコート、ディップコート等の方法を用いてもよい。また硬化には光照射を用いることがより好ましい。
【0058】
前記硬化性樹脂組成物(R1)および硬化性樹脂組成物(R3)の組成割合は、光の伝搬損失の観点から同じことが好ましい。また、硬化性樹脂組成物(R2)における含フッ素ポリマー(A2)及び重合開始剤(B2)は、含フッ素ポリマー(A1)又は(A3)、及び重合開始剤(B1)及び(B3)と、光の伝播損失の点から異なることが好ましい。
【0059】
本実施形態のポリマー光導波路は、シングルモード光導波路が好ましい。
【実施例
【0060】
以下では実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されず、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変更が可能である。
なお、例1及び例2は実施例であり、例3及び例4は比較例である。
【0061】
[合成例]
N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)溶媒中で、ペルフルオロビフェニル(225g)と、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン(40g)とを、炭酸カリウムの存在下に、40℃で6時間反応させた。その後、続けて4-アセトキシスチレン(30g)を48質量%水酸化カリウム水溶液の存在下に反応させて含フッ素ポリマーを合成した。得られた含フッ素ポリマーのDMAc溶液を塩酸水溶液(3.5質量%水溶液)に投入することで再沈精製し、真空乾燥して粉末状の含フッ素ポリマー(A)を得た。
【0062】
[調製例1]
例1のコアの形成に用いる硬化性樹脂組成物(R-20)を以下の手順で調製した。
上記で得られた含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、2質量部となるように重合開始剤(B)としてIRGACURE OXE01(製品名、チバスペシャリティーケミカルズ社製)、0.03質量部となるように4-tert-ブチルカテコール(東京化成工業社製)を添加した後、ミックスローターを用いて室温で48時間混合した。この溶液の含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、5質量部となるようにイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)として化合物(2C-1)(FA-731A、日立化成社製)を添加して、硬化性樹脂組成物(R-20)を得た。
【0063】
[調製例2]
イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)として化合物(2C-1)に代えて化合物(2C-5)(NR-1、昭和電工社製)を用いた以外は調製例1と同様にして、例2のコアの形成に用いる硬化性樹脂組成物(R-21)を得た。
【0064】
[調製例3]
例3のコアの形成に用いる硬化性樹脂組成物(R-22)を以下の手順で調製した。
上記で得られた含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、2質量部となるように重合開始剤(B)としてIRGACURE OXE01(製品名、チバスペシャリティーケミカルズ社製)、0.03質量部となるように4-tert-ブチルカテコール(東京化成工業社製)を添加した後、ミックスローターを用いて室温で48時間混合した。この溶液の含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、5質量部となるように比較化合物(X-1)として下記式で表されるトリアリルイソシアヌレート(TAIC、三菱ケミカル社製)を添加して、硬化性樹脂組成物(R-22)を得た。
【0065】
【化7】
【0066】
[調製例4]
比較化合物(X-1)に代えて、比較化合物(X-2)として下記式で表されるトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、ダイセル・オルネクス社製)を用いた以外は調製例3と同様にして、例4のコアの形成に用いる硬化性樹脂組成物(R-23)を得た。
【0067】
【化8】
【0068】
[調製例5]
クラッドの形成に用いる硬化性樹脂組成物(R-10)および(R-30)を以下の手順で調製した。
上記で得られた含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、2質量部となるように重合開始剤(B)としてIRGACURE OXE01(製品名、チバスペシャリティーケミカルズ社製)、0.03質量部となるように4-tert-ブチルカテコール(東京化成工業社製)を添加した後、ミックスローターを用いて室温で48時間混合した。この溶液の含フッ素ポリマー(A)100質量部に対して、25質量部となるように化合物(D)としてポリプロピレングリコールジメタクリレート(NKエステル 9PG(製品名)、新中村化学工業社製)を添加して、硬化性樹脂組成物(R-10)及び(R-30)を得た。なお、硬化性樹脂組成物(R-10)及び(R-30)は同じ組成物であるが、便宜上、第一のクラッドの形成に用いる組成物を硬化性樹脂組成物(R-10)、第二のクラッドの形成に用いる組成物を硬化性樹脂組成物(R-30)と称する。
【0069】
[例1]
スピンコート法により、基板の上に第一のクラッドの構成材料である調製例5で得られた硬化性樹脂組成物(R-10)を含有する塗布液を塗布した。続いて、光照射により該硬化性樹脂組成物(R-10)を硬化させて、膜厚50μmとなるように第一のクラッドを形成した。
次に、スピンコート法により、前記第一のクラッドの上にコアの構成材料である調製例1で得られた硬化性樹脂組成物(R-20)を含有する塗布液を塗布し、塗膜を形成した。続いて、塗膜をフォトリソグラフィ法によりパターニング(加工)し、第一のクラッドの上に、厚さが2.2μmで、幅が2.0μmの部分を有するコアを形成した。
次に、スピンコート法により、第一のクラッド及びコアの上に調製例6で得られた第二のクラッドの構成材料である硬化性樹脂組成物(R-30)を含有する塗布液を塗布した。続いて、光照射により該硬化性樹脂組成物(R-30)を硬化させて、膜厚25μmとなるように第二のクラッドを形成した。
最後に形状を安定させるため窒素雰囲気化でポストベークを行って、ポリマー光導波路を作製した。
【0070】
[例2~例4]
コアの構成材料を、調製例2~4で得られた硬化性樹脂組成物(R-21)~(R-23)にそれぞれ変更した以外は例1と同様にして、ポリマー光導波路を作製した。
【0071】
[コアの剥離の評価]
各例について、ポリマー光導波路を40サンプルずつ作製し、コアの現像後にコアの剥離を以下の基準で評価した。評価結果はA又はBが好ましく、Aがより好ましい。
A:40枚中全てのサンプルで剥離の発生を目視にて確認できず、顕微鏡による観察でも微小剥離やうねりが発生していなかった。
B:40枚中全てのサンプルで剥離の発生を目視にて確認できず、顕微鏡による観察で僅かにうねりが発生していた。
C:40枚中30枚以上のサンプルで剥離が発生した。
【0072】
例1~例4における硬化性樹脂組成物(R-20)~(R-23)の組成と、コアの剥離評価の結果を表1に示す。
硬化性樹脂組成物の組成を示す数字はいずれも質量部での値を意味する。
【0073】
【表1】
【0074】
コアとして含フッ素ポリマー(A)、重合開始剤(B)およびイソシアヌレート骨格を有する化合物(C)を含有する硬化性樹脂組成物を用いた例1および例2ではクラッドとの界面でのコアの剥離を抑制する効果が得られた。
これらのうち、イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)のうち、アクリレート基を有する化合物(2C-1)を含有する硬化性樹脂組成物を用いた例1では、顕微鏡による観察でも微小剥離やうねりが発生せず、クラッドとの界面でのコアの剥離を抑制する効果が最も高かった。イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)のうち、チオール基を官能基として有する化合物(2C-5)を含有する例2では、コアの剥離を抑制する効果は得られたが、顕微鏡による観察により微小なうねりが発生したサンプルが見られた。
例1が最も効果が高かった理由は、化合物(2C-1)の官能基の反応性が高いことが要因であると考えられる。
【0075】
一方、化合物(X-1)を含有する例3はクラッドとの界面でのコアの剥離を抑制することができなかった。化合物(X-1)は、含フッ素ポリマー(A)との共重合性に乏しく硬化物の分子量が大きくならないためにコアの剥離を抑制しなかったと考えられる。イソシアヌレート骨格を有する化合物(C)を含有しない化合物(X-2)を用いた例4は例1と比べて、クラッドとの界面でのコアの剥離を抑制する効果は見られなかった。