(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】スクアリリウム系化合物、色素組成物、膜、光学フィルタ、固体撮像素子、画像表示装置及び赤外線センサ
(51)【国際特許分類】
C09B 57/00 20060101AFI20240110BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240110BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20240110BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240110BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09B57/00 X CSP
G02B5/22
C09B67/20 F
H01L27/146 D
H01L27/144 K
(21)【出願番号】P 2020086139
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 由紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 理恵子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054719(WO,A1)
【文献】特開2005-018019(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151344(WO,A1)
【文献】Padilha, Lazaro A.; Webster, Scott; et al.,Excited state absorption and decay kinetics of near IR polymethine dyes,Chemical Physics,2008年,352(1-3),97-105
【文献】Nakano, Kousuke; Konishi, Teppei; Imamura, Yutaka,Estimation of maximum absorption wavelength of polymethine dyes in visible and near-infrared region based on time-dependent density functional theory,Chemical Physics,2019年,518,15-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
G02B 5/22
H01L 27/146
H01L 27/144
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化学構造を有するスクアリリウム系化合物。
【化1】
(式(I)中、X
1及びX
2は各々独立に
、NR’R’’
であって、R
1、R
2は各々独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し
、R’及びR’’は各々独立に、置換基を有していてもよく、かつ骨格の炭素原子が一部ヘテロ原子で置換されていてもよい脂肪族炭化水素
基であって、それぞれ、式(I)中のナフタレン環上の炭素原子と結合して環を形成してもよく、また、R’及びR’’により環を形成してもよく、式(I)中のナフタレン環は各々独立に、さらに任意の置換基により置換されていてもよいし、さらに縮合環を形成していてもよい。)
【請求項2】
極大吸収波長が900nm以上である請求項
1に記載のスクアリリウム系化合物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のスクアリリウム系化合物及びバインダー樹脂を含有する色素組成物。
【請求項4】
請求項
3に記載の色素組成物を用いて形成された膜。
【請求項5】
請求項
4に記載の膜を有する光学フィルタ。
【請求項6】
請求項
4に記載の膜を有する固体撮像素子。
【請求項7】
請求項
4に記載の膜を有する画像表示装置。
【請求項8】
請求項
4に記載の膜を有する赤外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクアリリウム系化合物、色素組成物、膜、光学フィルタ、固体撮像素子、画像表示装置及び赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などには、カラー画像の固体撮像素子である、CCD(電荷結合素子)や、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)が用いられている。これら固体撮像素子は、その受光部において赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用している。
このため、固体撮像素子においては、近赤外線カットフィルタを使用して視感度補正を行うことがある。近赤外線カットフィルタは、例えば、赤外線吸収剤を含む組成物を用いて製造されている。
【0003】
赤外線吸収剤としては、スクアリリウム系化合物などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
一方で、特許文献2には、プラズマディスプレイにおけるネオンオレンジ光の遮蔽用途で特定のスクアリリウム系化合物を用いることが記載されており、特許文献3には光劣化を抑制するために、スクアリリウム系化合物と特定の溶剤を併用することが記載されている。また、特許文献4の28~32頁には、電子写真記録素子における光導電性層中の増感剤として、スクアリリウム系化合物(I-98~I-117)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/104283号
【文献】特開2002-363434号公報
【文献】特開2016-180058号公報
【文献】独国特許出願公開第3740421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外線カットフィルタは、指紋認証や顔認証に有効であり、近赤外領域(波長650~1100nm)の遮蔽性と可視領域の透過性が求められる。特に近年においては、近赤外領域の全領域において、バランスよく遮蔽することが求められている。また、近赤外線カットフィルタは、バインダー樹脂と色素の両方を溶解する必要があることから溶剤としてTHF(テトラヒドロフラン)、酢酸エチル、トルエンなど有機溶剤を用いて形成されるのが一般的である。
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載されているスクアリリウム系化合物は副吸収が大きく、可視領域の透過性が不十分であることが見出された。また、特許文献2に記載されているスクアリリウム系化合物は極大吸収波長が550~610nmであって、近赤外領域の吸収が不十分であることが見出された。
一方で、特許文献4に記載されているスクアリリウム系化合物は、スクアリリウム系化合物として最も長波長に吸収を持つものとして、市販されているものの、さらに強い電子供与性部位を有さないことから、これ以上に吸収波長が長波長化されたスクアリリウム系化合物を得ることは困難と考えられてきた。
また、波長900~1100nmに吸収をもつ近赤外色素としてはニッケルジチオレート錯体があるが、これはモル吸光係数が低いため、波長900nm以上の近赤外光の遮蔽性が充分でなかった。
そこで本発明は、波長900nm以上の近赤外光の遮蔽性と可視領域における透過性が両立可能である近赤外線カットフィルタを形成可能な、スクアリリウム系化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の化学構造を有するスクアリリウム系化合物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1] 下記一般式(I)で表される化学構造を有するスクアリリウム系化合物。
【0008】
【化1】
(式(I)中、X
1及びX
2は各々独立に、OR又はNR’R’’から選択され、R
1、R
2は各々独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R、R’及びR’’は各々独立に、置換基を有していてもよく、かつ骨格の炭素原子が一部ヘテロ原子で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であって、それぞれ、式(I)中のナフタレン環上の炭素原子と結合して環を形成してもよく、また、R’及びR’’により環を形成してもよく、式(I)中のナフタレン環は各々独立に、さらに任意の置換基により置換されていてもよいし、さらに縮合環を形成していてもよい。)
【0009】
[2]前記一般式(I)においてR、R’及びR’’が各々独立に、置換基を有していてもよく、かつ骨格の炭素原子が一部ヘテロ原子で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基である[1]に記載のスクアリリウム系化合物。
[3] 極大吸収波長が900nm以上である[1]又は[2]に記載のスクアリリウム系化合物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のスクアリリウム系化合物及びバインダー樹脂を含有する色素組成物。
[5] [4]に記載の色素組成物を用いて形成された膜。
[6] [5]に記載の膜を有する光学フィルタ。
[7] [5]に記載の膜を有する固体撮像素子。
[8] [5]に記載の膜を有する画像表示装置。
[9] [5]に記載の膜を有する赤外線センサ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波長900nm以上の近赤外光の遮蔽性と可視領域における透過性を両立できる近赤外線カットフィルタを形成可能な、スクアリリウム系化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」についても同様である。また、本発明において「全固形分」とは、色素組成物中に含まれる、溶剤以外の全成分を意味するものとする。さらに、本発明において、「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)をさす。
【0012】
<スクアリリウム系化合物(I)>
本発明のスクアリリウム系化合物は、下記一般式(I)で表される化学構造を有するスクアリリウム系化合物(以下、「スクアリリウム系化合物(I)」と称する場合がある。)である。
【0013】
【化2】
(式(I)中、X
1及びX
2は各々独立に、OR又はNR’R’’から選択され、R
1、R
2は各々独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R、R’及びR’’は、置換基を有していてもよく、かつ骨格の炭素原子が一部ヘテロ原子で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であって、それぞれ、式(I)中のナフタレン環上の炭素原子と結合して環を形成してもよく、また、R’及びR’’により環を形成してもよく、式(I)中のナフタレン環は各々独立に、さらに任意の置換基により置換されていてもよいし、さらに縮合環を形成していてもよい。)
【0014】
(R1、R2)
前記式(I)中、R1、R2は各々独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【0015】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらを組み合わせたもののいずれでもよく、合成のしやすさの観点から直鎖状のものであることが好ましい。
脂肪族炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましく、また、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。前記下限値以上とすることで溶剤等への溶解性が向上する傾向があり、また、前記上限値以下とすることで、後述する膜を形成させるなどの際に固体化がしやすい傾向がある。
【0016】
脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、n―ブチル基、n―ペンチル基、n―ヘキシル基、n―ヘプチル基、n―オクチル基、n―ノニル基、2―メチルプロピル基、2―メチルブチル基、3―メチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、ネオペンチル基、2―エチルブチル基、イソプロピル基、2―ブチル基、シクロヘキシル基、3―ペンチル基、tert―ブチル基、1、1―ジメチルプロピル基、1、2―ジメチルプロピル基、1、3―ジメチルブチル基、1、2―ジメチルブチル基及び1、4―ジメチルペンチル基等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基;2―プロペニル基、2―ブテニル基、3―ブテニル基及び2、4―ペンタジエニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基が挙げられ、これらの中でも溶解性の観点から炭素数3~6のアルキル基が好ましく、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、2-プロピル基、2-ブチル基などがより好ましく、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基などの1級アルキル基がさらに好ましく、1-ブチル基が特に好ましい。
【0017】
芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、シアノフェニル基、ジニトロフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基及びナフチル基等の単環式又は多環式のアリール基、チエニル基、フリル基、ピリジル基及びイミダゾリル基等のヘテロアリール基が挙げられる。芳香族炭化水素基は、溶解性向上の面から単環が好ましい。
【0018】
置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基の、該置換基としては、スクアリリウム系化合物の安定性に悪影響を与えない基であれば、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、イミド基及びシリル基などからなる群より選択された基が挙げられる。これらの置換基として具体的にはメチル基、エチル基などの炭素数1~6程度のアルキル基;ビニル基(エテニル基)、アリル基(2-プロペニル基)などの炭素数2~6程度のアルケニル基;アセチレニル基(エチニル基)など炭素数2~6程度のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度のアリール基;チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20程度の複素環基;エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1~6程度のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数6~20程度のアリールオキシ基;ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などの炭素数3~20程度の複素環オキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1~6程度のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基などの炭素数6~20程度のアリールチオ基;ピリジルチオ基、チエニルチオ基などの炭素数3~20程度の複素環チオ基;ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数1~20程度の置換基を有していてもよいアミノ基;アセチル基、ピバロイル基などの炭素数2~20程度のアシル基;アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基などの炭素数2~20程度のアシルアミノ基;3―メチルウレイド基などの炭素数2~20程度のウレイド基;メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基などの炭素数1~20程度のスルホンアミド基;ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基などの炭素数1~20程度のカルバモイル基;エチルスルファモイル基などの炭素数1~20程度のスルファモイル基;ジメチルスルファモイルアミノ基などの炭素数1~20程度のスルファモイルアミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素数2~6程度のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数7~20程度のアリールオキシカルボニル基;ピリジルオキシカルボニル基などの炭素数6~20程度の複素環オキシカルボニル基;メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの炭素数1~6程度のアルキルスルホニル基;ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基などの炭素数6~20程度のアリールスルホニル基;チエニルスルホニル基などの炭素数3~20程度の複素環オキシスルホニル基;フタルイミド基などの炭素数4~20程度のイミド基;又は、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で3置換されているシリル基等が挙げられる。
上記R1及びR2として好ましいのは、置換基を有していてもよい1級アルキル基であり、より好ましいのは、該置換基として、ハロゲン原子、アルコキシ基、及び置換されていてもよいアミノ基からなる群から選ばれる置換基を有する1級アルキル基であり、該ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
上記R1及びR2は同一でも異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から同一の方が好ましい。
【0019】
(X1、X2)
前記式(I)中、X1及びX2は各々独立に、OR又はNR’R’’から選択され、R、R’及びR’’は、各々独立に、置換基を有していてもよく、かつ骨格の炭素原子が一部ヘテロ原子で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。
Oは酸素原子、Nは窒素原子を示し、これらの原子を介して、R、R’及びR’’が式(I)中のナフタレン環の炭素原子と結合する。本発明の式(I)で示される化合物は、X1及びX2が窒素又は酸素を有することにより、電子供与性が高まり、スクアリリウム系化合物の極大吸収波長の長波長化が可能となる。
R、R’及びR’’において、置換されるヘテロ原子としては、酸素、窒素、硫黄が挙げられ、酸素及び窒素が好ましい。
R、R’及びR’’は、それぞれ、式(I)中のナフタレン環上の炭素原子と結合して環を形成してもよい。環は安定性の点から5員環又は6員環が好ましく、6員環を形成する場合には、式(I)のナフタレン環と1辺を共有してもよく、2辺を共有してもよい。
式(I)中のナフタレン環は各々独立に、さらに任意の置換基により置換されていてもよいし、さらに縮合環を形成していてもよい。
また、R’及びR’’は互いに結合して環を形成してもよい。
R’及びR’’によって形成される環構造中には、連結基である窒素の他にヘテロ原子をさらに有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素又は窒素が好ましく、窒素がより好ましい。環構造については、特に制限はないが、安定性の点から、5員環又は6員環が好ましい(例えば、後述する例示化合物9、12及び13)。また、R’及びR’’によって形成される環構造は、単環でもよいし、複素環でもよいが、単環が好ましい。
【0020】
X1、X2はハメット置換基定数σpが-0.9<σp<0である電子供与性基であることが好ましい。ハメット置換基定数σpとしては、Chem.Rev.91巻、165-195頁(1991年)に掲載されている値を用い、式(I)中のX1、X2の電子供与性度は、該文献中のσpのデータを用いて定義する。
前記電子供与性基のハメット置換基定数σpの上限は-0.20以下がより好ましく、-0.22以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、-0.90以上がより好ましく、-0.87以上がさらに好ましく、-0.85以上が特に好ましい。
ハメット置換基定数σpを前記上限値以下とすることより、極大吸収波長の長波長化が可能となる傾向がある。
【0021】
R、R’及びR’’の具体例としては上記R1及びR2と同様であるが、これに加えて、骨格を形成する炭素原子の一部が酸素又は窒素などのヘテロ原子で置換されているものも含まれる。ヘテロ原子で置換されている場合には、下記に例示するように、式(I)のナフタレン環の炭素に結合して複素環を形成してもよい(後述する例示化合物3及び5)。
下記具体例では、X1におけるR、R’が式(I)中のナフタレン環上の炭素原子と結合して環を形成した構造を示しており、R’’はR3として記載している。なお、X2におけるR、R’及びR’’も同様の構造をとってもよい。
下記具体例中のR4は、アルキル基又はアリール基であり、メチル基、エチル基などの炭素数1~6程度のアルキル基や、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度のアリール基が好ましい。
【0022】
【0023】
R、R’及びR’’は、各々独立に、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。なお、脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよいし、骨格の炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。また、上記のとおり、R’及びR’’により環を形成してもよい。ヘテロ原子の種類は、上記のとおりである。R、R’及びR’’に脂肪族炭化水素基を使用することで、電子供与性が高くなり、極大吸収波長が長波長化しやすくなる。R、R’及びR’’の炭素数はそれぞれ好ましくは1~6である。
【0024】
R、R’及びR’’はより具体的には、アルキル基、アルキレン基、オキシアルキレン基が挙げられ、オキシアルキレン基は、オキシ基が式(I)中のナフタレン環上の炭素原子に結合して、複素環を形成するとよい。また、アルキレン基は、炭素原子が式(I)中のナフタレン環上の炭素原子に結合して、複素環を形成するとよい(後述する例示化合物4、6及び14)。
また、R’及びR’’は、連結基である窒素とともに環を形成する態様も好ましい。
アルキル基、アルキレン基、及びオキシアルキレン基は、それぞれ炭素数1~6が好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、2-プロピル基、1-ブチル基、2-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基などが挙げられる。
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2-メチルトリメチレン基などが挙げられる。オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基、オキシエチレン基などが挙げられる。
これらのうち、連結基が酸素の場合は、製造が容易との観点から、炭素数が3~6のアルキル基が好ましい(後述する例示化合物2及び8)。また、電子供与性の観点から、オキシアルキレン基も好ましく、特に、オキシ基が式(I)中のナフタレン環上の炭素原子に結合して、複素環を形成したものが好ましい(後述する例示化合物3及び5)。
R’及びR’’は互いに同一でも異なってもよいが、電子供与性及び製造容易性の観点から、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましい(後述する例示化合物11)。
また、R’及びR’’が連結基である窒素とともに環を形成する場合には、その環は、安定性の観点から6員環の単環が好ましい。また、この場合、R’及びR’’の合計炭素数は、4~10が好ましい。6員環の単環は、連結基である窒素を含め、環中に1つ又は2つの窒素原子を有するものが挙げられ、電子供与性及び製造容易性の観点から、具体的には、ピペリジン環を有するもの(後述する例示化合物9)、ピペラジン環を有するもの(後述する例示化合物13)などが好適に挙げられる。
【0025】
さらに、式(I)中のナフタレン環は各々独立に、さらに任意の置換基により置換されていてもよいし(後述する例示化合物7)、さらに縮合環を形成していてもよい。縮合環を形成している具体例としては以下のものが挙げられる。
なお、下記具体例では、式(I)中のX1が結合しているナフタレン環がさらに縮合環を形成している構造を示しているが、X2が結合しているナフタレン環も同様の構造をとってもよい。
【0026】
【0027】
前記式(I)中のナフタレン環は、任意の置換基により置換されていてもよい。この任意の置換基としては、上述の置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基の、該置換基と同じものが挙げられる。これらの中でも溶解度を上げる観点から、アルキル基、または、アルコキシ基が好ましい。
【0028】
スクアリリウム系化合物は以下のように共鳴構造を複数有するが、これらは特に断らない限り同義である。
【0029】
【0030】
以下に本発明のスクアリリウム系化合物の具体例を挙げる。
【0031】
【0032】
【0033】
<製造方法>
本発明のスクアリリウム系化合物(I)は、公知の方法で製造することができる。例えばTop.Heterocycl.Chem.14、133-181(2008)に記載の方法に準じて製造することができる。
【0034】
<物性>
スクアリリウム系化合物(I)が有する極大吸収波長(λmax)は特に限定されないが、900nm以上が好ましく、920nm以上がより好ましく、930nm以上がさらに好ましく、940nm以上が特に好ましく、また、1200nm以下が好ましく、1170nm以下がより好ましく、1150nm以下がさらに好ましく、1130nm以下がよりさらに好ましく、1100nm以下が特に好ましい。
前記下限値以上とすることで他のスクアリリウム系近赤外色素との組み合わせで効率的に近赤外領域を遮断することができ、また、前記上限値以下とすることで可視領域の透過率を阻害しない傾向がある。極大吸収波長は、スクアリリウム系化合物(I)をテトラヒドロフラン等の溶媒に溶解させた溶液を作製して測定した吸収スペクトルから算出することができる。詳細な条件は実施例に記載のものを採用することが好ましい。
【0035】
スクアリリウム系化合物(I)が有する極大吸収波長における吸収ピークの半値幅(FWHM)は特に限定されないが、30nm以上が好ましく、35nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましく、また、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、70nm以下がさらに好ましい。
前記半値幅を上限値以下とすることで可視領域の裾切れが良好となる傾向があり、また、前記半値幅を下限値以上とすることで近赤外領域を効率的に遮断する傾向がある。極大吸収波長における吸収ピークの半値幅は、前記吸収スペクトルから算出することができる。
【0036】
<色素組成物>
本発明の色素組成物は、前記一般式(I)で表されるスクアリリウム系化合物、及びバインダー樹脂を含有する。また本発明の色素組成物は、前記スクアリリウム系化合物、及びバインダー樹脂以外に、必要に応じてさらに他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、溶剤等が挙げられる。
【0037】
色素組成物におけるスクアリリウム系化合物(I)の含有割合は特に限定されないが、全固形分中に0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、また、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
前記下限値以上とすることで、波長900nm以上の近赤外光の遮蔽性と可視領域における透過性といった、所望の光学特性が得られやすい傾向があり、また、前記上限値以下とすることで色素析出などが起こりにくい傾向がある。
【0038】
本発明の色素組成物は、スクアリリウム系化合物(I)以外のスクアリリウム系化合物(以下、「その他のスクアリリウム系化合物」と称する場合がある。)をさらに含んでいてもよい。
【0039】
(その他のスクアリリウム系化合物)
その他のスクアリリウム系化合物が有する極大吸収波長は特に限定されないが、700nm以上が好ましく、720nm以上がより好ましく、730nm以上がさらに好ましく、また、950nm以下が好ましく、920nm以下がより好ましく、900nm以下がさらに好ましい。
前記下限値以上とすることでスクアリリウム系化合物(I)だけでは十分に遮蔽できない領域の遮蔽性が良好となる傾向があり、また、前記上限値以下とすることで近赤外領域を遮蔽するのに必要な色素の種類数を減らすことができる傾向がある。
【0040】
本発明の色素組成物がその他のスクアリリウム系化合物を含有する場合、その含有割合は特に限定されないが、全固形分中に0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
前記下限値以上とすることで近赤外領域における遮蔽性が向上する傾向があり、また、前記上限値以下とすることで熱に対する信頼性が向上する傾向がある。
【0041】
(バインダー樹脂)
本発明の色素組成物は、バインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル系樹脂(PMMA等)、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂が挙げられる。
本発明の色素組成物におけるバインダー樹脂の含有割合は特に限定されないが、全固形分中に90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、また、99.99質量%以下が好ましく、99.9質量%以下がより好ましく、99.5質量%以下がさらに好ましい。前記下限値以上とすることで成膜性が向上する傾向があり、また、前記上限値以下とすることで、本発明のスクアリリウム系化合物の含有量が確保され、本発明の効果を奏しやすくなる。
【0042】
(溶剤)
本発明の色素組成物は、さらに溶剤を含有していてもよい。溶剤としては、特に限定されるものではないが、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びオクタン等のアルカン類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等のシクロアルカン類;エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ジアセトンアルコール及びフルフリルアルコール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート及びエチルセロソルブアセテート等のセロソルブ類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート及びジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール類;アセトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン及びアセトフェノン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル-2-ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル及び3-メトキシプロピオン酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン及びテトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等の高極性溶剤類等が挙げられる。
【0043】
本発明の色素組成物が溶剤を含有する場合、その含有割合は特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、88質量%以上がさらに好ましく、また、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下がさらに好ましい。
前記下限値以上とすることで溶液安定性が良好となる傾向があり、また、前記上限値以下とすることで塗膜の性能が向上する傾向がある。
【0044】
<膜>
次に、本発明の膜について説明する。本発明の膜は、上述した本発明の色素組成物を用いて形成したものである。
本発明の膜は、近赤外領域の遮蔽性と可視領域の透過性に優れるので、近赤外線カットフィルタとして好ましく用いることができる。また、本発明の膜は、赤外線透過フィルタなど、種々の光学フィルタに好適に用いることができ、さらに熱線遮蔽フィルタとして用いることもできる。
また、本発明の膜は、CCD(電荷結合素子)やCMOS(相補型金属酸化膜半導体)などの固体撮像素子や、赤外線センサ、画像表示装置などの各種装置に用いることができる。
【0045】
本発明の膜は、パターンを有していてもよく、パターンを有さない膜(平坦膜)であってもよい。また、本発明の膜は、支持体上に積層して用いてもよく、支持体から剥離して用いてもよい。
【0046】
本発明の膜の膜厚は、目的に応じて適宜調整できる。一般的には、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。膜厚の下限としては、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましい。
【0047】
<光学フィルタ>
次に、本発明の光学フィルタについて説明する。本発明の光学フィルタは、上述した本発明の膜を有する。光学フィルタとしては、種々のものが挙げられ、例えば、近赤外線カットフィルタ、赤外線透過フィルタ、本発明の膜とカラーフィルタとを組み合わせた積層体などが挙げられる。
これらのうち、本発明の光学フィルタは、特に近赤外線カットフィルタおよび赤外線透過フィルタから選ばれる少なくとも1種として好ましく用いることができる。
【0048】
本発明において、近赤外線カットフィルタとは、可視領域の波長の光(可視光)を透過させ、近赤外領域の波長の光(近赤外線)の少なくとも一部を遮光するフィルタを意味する。近赤外線カットフィルタは、可視領域の波長の光をすべて透過するものであってもよく、可視領域の波長の光のうち、特定の波長領域の光を通過させ、特定の波長領域の光を遮光するものであってもよい。
【0049】
本発明の膜を、近赤外線カットフィルタとして用いる場合、本発明の膜は、波長650~1500nmの範囲に極大吸収波長を有することが好ましい。また、波長400~600nmの平均透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。また、波長400~600nmの全ての範囲での透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
また、近赤外線カットフィルタの赤外線遮蔽性の好ましい範囲は用途によって異なるが、波長650~1500nmの範囲の少なくとも1点での透過率が20%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明の膜を近赤外線カットフィルタとして用いる場合、本発明の膜の他に、更に、銅を含有する層、誘電体多層膜、紫外線吸収層などを有していてもよい。
【0051】
本発明の膜を、近赤外線カットフィルタまたは赤外線透過フィルタとして用いる場合、近赤外線カットフィルタと赤外線透過フィルタとを組み合わせて用いることもできる。近赤外線カットフィルタと、赤外線透過フィルタとを組み合わせて用いることで、特定波長の赤外線を検出する赤外線センサの用途に好ましく用いることができる。両者のフィルタを組み合わせて用いる場合、近赤外線カットフィルタおよび赤外線透過フィルタの両方を本発明の組成物を用いて形成することもでき、いずれか一方のみを、本発明の組成物を用いて形成することもできる。
【0052】
本発明の膜は、カラーフィルタと組み合わせて用いることもできる。
本発明において、カラーフィルタとは、可視領域の波長の光のうち、特定の波長領域の光を通過させ、特定の波長領域の光を遮光するフィルタを意味する。また、赤外線透過フィルタとは、可視領域の波長の光を遮光し、近赤外領域の波長の光(近赤外線)の少なくとも一部を透過させるフィルタを意味する。
本発明の膜とカラーフィルタは、厚み方向で隣接していてもよく、隣接していなくてもよい。本発明の膜と、カラーフィルタとが厚み方向で隣接していない場合は、カラーフィルタが形成された基材とは別の基材に本発明の膜が形成されていてもよく、本発明の膜とカラーフィルタとの間に、固体撮像素子を構成する他の部材(例えば、マイクロレンズ、平坦化層など)が介在していてもよい。
【0053】
<固体撮像素子>
本発明の固体撮像素子は、上述した本発明の膜を有する。本発明の固体撮像素子の構成としては、本発明の膜を有する構成であり、固体撮像素子として機能する構成であれば特に限定はない。例えば、以下のような構成が挙げられる。
【0054】
支持体上に、固体撮像素子の受光エリアを構成する複数のフォトダイオードおよびポリシリコン等からなる転送電極を有し、フォトダイオードおよび転送電極上にフォトダイオードの受光部のみ開口したタングステン等からなる遮光膜を有し、遮光膜上に遮光膜全面およびフォトダイオード受光部を覆うように形成された窒化シリコン等からなるデバイス保護膜を有し、デバイス保護膜上に、本発明の膜を有する構成である。なお、本発明の膜は、前述のように、カラーフィルタとの積層体を形成させておくことができ、固体撮像素子にも好適に用いることができる。
さらに、デバイス保護膜上であって、本発明の膜の下(支持体に近い側)に集光手段(例えば、マイクロレンズ等)を有する構成や、本発明の膜上に集光手段を有する構成等であってもよい。
なお、固体撮像素子に用いられるカラーフィルタは、隔壁により例えば格子状に仕切られた空間に、各色画素を形成する硬化膜が埋め込まれた構造を有していてもよい。この場合の隔壁は各色画素に対して低屈折率であることが好ましい。このような構造を有する撮像装置の例としては、特開2012-227478号公報、特開2014-179577号公報に記載の装置が挙げられる。
【0055】
<画像表示装置>
本発明の膜は、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置などの画像表示装置に用いることもできる。例えば、本発明の膜を、画像表示装置のバックライト(例えば白色発光ダイオード(白色LED))に含まれる赤外光を遮断する目的、周辺機器の誤作動を防止する目的、各着色画素に加えて赤外の画素を形成する目的で用いることができる。
【0056】
画像表示装置の詳細については、例えば「電子ディスプレイデバイス(佐々木 昭夫著、(株)工業調査会 1990年発行)」、「ディスプレイデバイス(伊吹 順章著、産業図書(株)平成元年発行)」などに記載されている。
また、液晶表示装置については、例えば「次世代液晶ディスプレイ技術(内田龍男編集、(株)工業調査会 1994年発行)」に記載されている。本発明が適用できる液晶表示装置に特に制限はなく、例えば、上記の「次世代液晶ディスプレイ技術」に記載されている色々な方式の液晶表示装置に適用できる。
【0057】
画像表示装置は、白色有機EL素子を有するものであってもよい。白色有機EL素子としては、タンデム構造であることが好ましい。有機EL素子のタンデム構造については、特開2003-45676号公報、三上明義監修、「有機EL技術開発の最前線-高輝度・高精度・長寿命化・ノウハウ集-」、技術情報協会、326-328ページ、2008年などに記載されている。有機EL素子が発光する白色光のスペクトルは、青色領域(430nm-485nm)、緑色領域(530nm-580nm)及び黄色領域(580nm-620nm)に強い極大発光ピークを有するものが好ましい。これらの発光ピークに加え更に赤色領域(650nm-700nm)に極大発光ピークを有するものがより好ましい。
【0058】
<赤外線センサ>
本発明の赤外線センサは、上述した本発明の膜を有する。本発明の赤外線センサの構成としては、本発明の膜を有する構成であり、赤外線センサとして機能する構成であれば特に限定はない。例えば、特開2018-45011号公報の[0201]~[0207]に記載の態様が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明のスクアリリウム系化合物について、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、インドレニル中間体(後述する化合物1、3、4及び5)は、Abcam社の試薬を用いた。
【0060】
[実施例1]
下記に示す反応により、スクアリリウム系化合物(実施化合物1)を合成した。
化合物1(225.0mg、0.597mmol)と化合物2(スクアリン酸、20.2mg、0.178mmol)に、トルエン15mLとn-ブタノール15mLを加え、125℃でディーン・スターク法により、生成する水を除去した。トルエン15mLを3度分割して加え、3時間加熱後、溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を酸性シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、実施化合物1を収率76%で得た。
【0061】
【0062】
[実施例2]
化合物1の代わりに化合物3を用いた以外は実施例1と同様にして、実施化合物2を収率71%で得た。
【0063】
【0064】
[実施例3]
化合物1の代わりに化合物4を用いた以外は実施例1と同様にして、実施化合物3を収率73%で得た。
【0065】
【0066】
[比較例1]
化合物1の代わりに化合物5を用いた以外は実施例1と同様にして、比較化合物を収率82%で得た。
【0067】
【0068】
<スクアリリウム系化合物の光学特性の評価>
実施例1~3及び比較例1の各スクアリリウム系化合物を、紫外可視近赤外分光光度計(JASCO V-770、日本分光社製)を使用し、極大吸収波長での吸光度が1になるように濃度調整したテトラヒドロフラン溶液を作製して、吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルから読み取った、極大吸収波長及び半値幅(FWHM)の結果を表1に示す。
また、各スクアリリウム系化合物の溶解性について、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:作製したテトラヒドロフラン溶液を30分静置しても、容器の底に沈殿が全く確認できず、溶解性が非常に良好である。
〇:作製したテトラヒドロフラン溶液を30分静置すると、容器の底に若干の沈殿が確認できるものの、溶解性が良好である。
【0069】
【0070】
[実施例4~6及び比較例2]
<近赤外線カットフィルタの作製と評価>
テトラヒドロフランと2-メトキシエタノールを質量比4:6の割合で混合した溶液90gに(メタ)アクリル系樹脂(ダイヤナールBR-80、三菱ケミカル社製)10gを溶解させ、表2に記載のスクアリリウム系化合物0.1gを添加してよく攪拌し、実施例4~6及び比較例2の色素組成物を作製した。
得られた各色素組成物をポリエチレンテレフタレート製フィルム上に塗布し、90℃で2分間乾燥して、厚さ4μmの膜を有する近赤外線カットフィルタを作製した。
【0071】
作製した近赤外線カットフィルタを分光光度計(U4100、日立ハイテクサイエンス社製)で波長380nm~1500nmの範囲の透過率スペクトルを測定し、透過率が最低となる波長及びその透過率を読み取った。これらの結果を表2に示す。さらに、可視光領域である400~600nmの範囲内での透過率の平均値を算出した。これらの結果を表2に示す。
次に、作製した近赤外線カットフィルタについて、ヘイズメーター(NDH5000SP、日本電色工業社製)にてヘイズを測定した。その結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
実施例1~3のスクアリリウム系化合物は、X1、X2をそれぞれ酸素含有基又は窒素含有基である、アルコキシ基、アミノ基といった電子供与性基を導入したことで、極大吸収波長λmaxは、X1、X2が無置換である比較化合物に比べ、900nm以上に長波長化することが分かった。さらに、X1、X2が無置換の比較化合物に比べ、実施例1~3のスクアリリウム系化合物は、置換基の効果により、該化合物の分子間のπ―πスタッキング相互作用が抑えられることから、溶解性もさらに向上することが分かった。
また、実施例4~6の近赤外線カットフィルタは、波長900nm以上の近赤外領域に吸収ピークを有し、波長400~600nmに副吸収がない。したがって、波長400~600nmの可視光領域の平均透過率が高く、また波長900nm以上の近赤外領域における最低透過率との差が十分に大きいことから、可視光を透過し、波長900nm以上の近赤外光をカットする能力が高いことがわかる。また、ヘイズが低いために可視光が散乱されることなく、可視光領域の光透過性に優れることも分かった。
一方、比較例2の近赤外線カットフィルタは最低透過率の波長が888nmと900nm以上の近赤外光をカットするのに不十分だった。