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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/12 20060101AFI20240110BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20240110BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20240110BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20240110BHJP
   H05K 3/18 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C25D21/12 A
B32B15/20
C25D5/56 Z
H05K1/09 A
H05K3/18 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020104193
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195604
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019037(JP,A)
【文献】特開2013-143490(JP,A)
【文献】特開2013-095968(JP,A)
【文献】特開平10-058594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 7/00
C25D 21/12
H05K 1/09
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと、
前記ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層と、
前記銅薄膜層の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、
前記銅めっき被膜は、電解めっき初期の電流密度上昇期間における電流密度が、式(1)で求められる最低電流密度以上に設定された電解めっきにより成膜されたものである
ことを特徴とする銅張積層板。
min(d)=-3d2+7d-0.2 ・・・(1)
ここで、dは電解めっき中における前記銅薄膜層と前記銅めっき被膜とを合わせた厚さ[μm]、Jmin(d)は厚さdのときの最低電流密度[A/dm2]である。
【請求項2】
前記最低電流密度は、式(2)で求められる
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
min(d)=-3.5d2+8d-0.2 ・・・(2)
【請求項3】
前記銅めっき被膜は、前記電流密度上昇期間における電流密度が、式(3)で求められる最高電流密度以下に設定された電解めっきにより成膜されたものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の銅張積層板。
max(d)=-5.5d2+11d ・・・(3)
ここで、Jmax(d)は厚さdのときの最高電流密度[A/dm2]である。
【請求項4】
ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層とを有する基材を用い、前記銅薄膜層の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
電解めっき初期の電流密度上昇期間における電流密度を、式(1)で求められる最低電流密度以上に設定する
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
min(d)=-3d2+7d-0.2 ・・・(1)
ここで、dは電解めっき中における前記銅薄膜層と前記銅めっき被膜とを合わせた厚さ[μm]、Jmin(d)は厚さdのときの最低電流密度[A/dm2]である。
【請求項5】
前記最低電流密度は、式(2)で求められる
ことを特徴とする請求項4記載の銅張積層板の製造方法。
min(d)=-3.5d2+8d-0.2 ・・・(2)
【請求項6】
前記電流密度上昇期間における電流密度を、式(3)で求められる最高電流密度以下に設定する
ことを特徴とする請求項4または5記載の銅張積層板の製造方法。
max(d)=-5.5d2+11d ・・・(3)
ここで、Jmax(d)は厚さdのときの最高電流密度[A/dm2]である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
この種の銅張積層板を用いてフレキシブルプリント配線板を製造する方法としてセミアディティブ法が知られている。セミアディティブ法によるフレキシブルプリント配線板の製造は、つぎの手順で行なわれる(特許文献1参照)。まず、銅張積層板の銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成する。つぎに、レジスト層のうち配線パターンを形成する部分に開口部を形成する。つぎに、レジスト層の開口部から露出した銅めっき被膜を陰極として電解めっきを行ない、配線部を形成する。つぎに、レジスト層を除去し、フラッシュエッチングなどにより配線部以外の導体層を除去する。これにより、フレキシブルプリント配線板が得られる。
【0005】
セミアディティブ法において、銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成するにあたり、ドライフィルムレジストを用いることがある。この場合、銅めっき被膜の表面を化学研磨した後に、ドライフィルムレジストを貼り付ける。化学研磨により銅めっき被膜の表面に微細な凹凸をつけることで、アンカー効果によるドライフィルムレジストの密着性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-278950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂フィルムの表面に形成された下地金属層および銅薄膜層は、銅めっき被膜を形成するまでの工程において搬送ローラとの接触によりピンホールが生じることがある。下地金属層および銅薄膜層にピンホールがあると、銅めっき被膜を形成してもピンホールが被覆されずに残ることがある。また、銅めっき被膜によりピンホールが被覆されたとしても、銅めっき被膜の内部に空間が形成され、化学研磨によりピンホールが露出することがある。銅めっき被膜にピンホールがあると、配線部が適切に形成されず、断線不良を引き起こすことがある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、銅めっき被膜のピンホールが少ない銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の銅張積層板は、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層と、前記銅薄膜層の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、前記銅めっき被膜は、電解めっき初期の電流密度上昇期間における電流密度が、式(1)で求められる最低電流密度以上に設定された電解めっきにより成膜されたものであることを特徴とする。
min(d)=-3d2+7d-0.2 ・・・(1)
ここで、dは電解めっき中における前記銅薄膜層と前記銅めっき被膜とを合わせた厚さ[μm]、Jmin(d)は厚さdのときの最低電流密度[A/dm2]である。
第2発明の銅張積層板は、第1発明において、前記最低電流密度は、式(2)で求められることを特徴とする。
min(d)=-3.5d2+8d-0.2 ・・・(2)
第3発明の銅張積層板は、第1または第2発明において、前記銅めっき被膜は、前記電流密度上昇期間における電流密度が、式(3)で求められる最高電流密度以下に設定された電解めっきにより成膜されたものであることを特徴とする。
max(d)=-5.5d2+11d ・・・(3)
ここで、Jmax(d)は厚さdのときの最高電流密度[A/dm2]である。
第4発明の銅張積層板の製造方法は、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層とを有する基材を用い、前記銅薄膜層の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、電解めっき初期の電流密度上昇期間における電流密度を、式(1)で求められる最低電流密度以上に設定することを特徴とする。
min(d)=-3d2+7d-0.2 ・・・(1)
ここで、dは電解めっき中における前記銅薄膜層と前記銅めっき被膜とを合わせた厚さ[μm]、Jmin(d)は厚さdのときの最低電流密度[A/dm2]である。
第5発明の銅張積層板の製造方法は、第4発明において、前記最低電流密度は、式(2)で求められることを特徴とする。
min(d)=-3.5d2+8d-0.2 ・・・(2)
第6発明の銅張積層板の製造方法は、第4または第5発明において、前記電流密度上昇期間における電流密度を、式(3)で求められる最高電流密度以下に設定することを特徴とする。
max(d)=-5.5d2+11d ・・・(3)
ここで、Jmax(d)は厚さdのときの最高電流密度[A/dm2]である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解めっき初期の電流密度を比較的高く設定することにより、銅薄膜層に存在するピンホールが被覆されやすくなる。また、銅めっき被膜の内部に形成される空間の高さを低くできるので、化学研磨によりピンホールが露出することを抑制できる。これにより、銅めっき被膜のピンホールを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
図2】めっき槽の平面図である。
図3】図(A)は銅めっき被膜にピンホールが形成された状態の説明図である。図(B)は銅めっき被膜の内部に空間が形成された状態の説明図である。図(C)は銅めっき被膜の内部に高さの低い空間が形成された状態の説明図である。
図4】実施例1、2、比較例1、2の電流密度の条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜されてもよい。
【0013】
基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が成膜されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12は、例えば、スパッタリング法により成膜される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0014】
なお、下地金属層13はなくてもよい。銅薄膜層14はベースフィルム11の表面に下地金属層13を介して成膜されてもよいし、下地金属層13を介さずベースフィルム11の表面に直接成膜されてもよい。
【0015】
銅めっき被膜20は銅薄膜層14の表面に成膜されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは、サブトラクティブ法により加工される銅張積層板1の場合8~12μmが一般的であり、セミアディティブ法により加工される銅張積層板1の場合0.1~5μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0016】
銅めっき被膜20は、特に限定されないが、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜される。めっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0017】
めっき装置には基材10を搬送するための複数のクランプが設けられている。複数のクランプが基材10の両縁を把持し、基材10を搬送する。基材10の搬送経路には、前処理槽、めっき槽30、および後処理槽が配置されている。基材10はめっき槽30内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0018】
図2に示すように、めっき槽30は基材10の搬送方向に沿った横長の単一の槽である。基材10はめっき槽30の中心に沿って搬送される。めっき槽30には銅めっき液が貯留されている。めっき槽30内を搬送される基材10は、その全体が銅めっき液に浸漬されている。
【0019】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば、特に限定されず用いられる。水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などが挙げられる。無機銅塩として、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅などが挙げられる。アルカンスルホン酸銅塩として、メタンスルホン酸銅、プロパンスルホン酸銅などが挙げられる。アルカノールスルホン酸銅塩として、イセチオン酸銅、プロパノールスルホン酸銅などが挙げられる。有機酸銅塩として、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅などが挙げられる。
【0020】
銅めっき液に用いる水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、硫酸銅と塩化銅とを組み合わせる場合のように、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1つのカテゴリー内の異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、銅めっき液の管理の観点からは、1種類の水溶性銅塩を単独で用いることが好ましい。
【0021】
銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。
【0022】
銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などが挙げられる。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ブライトナー成分として、特に限定されないが、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(略称SPS)、3-メルカプトプロパン-1-スルホン酸(略称MPS)などから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。レベラー成分は窒素を含有するアミンなどで構成される。レベラー成分として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ヤヌス・グリーンBなどが挙げられる。ポリマー成分として、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体から選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。塩素成分として、特に限定されないが、塩酸、塩化ナトリウムなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0025】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽30内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。銅めっき液を撹拌する手段は、特に限定されないが、噴流を利用した手段を用いることができる。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0026】
めっき槽30の内部には、基材10の搬送方向に沿って複数のアノード31が配置されている。また、基材10を把持するクランプはカソードとしての機能も有する。アノード31とクランプ(カソード)との間に電流を流すことで、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0027】
なお、図2に示すめっき槽30には、基材10の表裏両側にアノード31が配置されている。したがって、ベースフィルム11の両面に金属層12が成膜された基材10を用いれば、基材10の両面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0028】
めっき槽30の内部に配置された複数のアノード31は、それぞれに整流器が接続されている。したがって、アノード31ごとに異なる電流密度となるように設定できる。
【0029】
ベースフィルム11に成膜された金属層12は比較的薄いため、電解めっきの初期に電流密度を高くすると、金属層12のうち給電部(クランプ)と接触する部分が溶解する恐れがある。一方で、生産性を上げるには電流密度をできるだけ高くすることが好ましい。そこで、電解めっきの初期において、電流密度を徐々に上昇させることが行なわれる。溶解の恐れがない程度の厚さ(例えば、1.0μm)まで銅めっき被膜20が厚くなった後は、比較的高い一定の電流密度で電解めっきが行なわれる。本明細書では、電解めっき初期の電流密度を徐々に上昇させる期間を「電流密度上昇期間」と称する。
【0030】
図2に示すめっき槽30の構成の場合、めっき槽30に配置された複数のアノード31のうち、上流側の一部のアノード31について、上流から下流に向かって電流密度が高くなるように設定する。これにより、電流密度上昇期間において、電流密度を段階的に上昇させることができる。
【0031】
ところで、ベースフィルム11の表面に成膜された金属層12は、銅めっき被膜20を形成するまでの工程において搬送ローラとの接触により一部が剥離し、ピンホールが生じることがある。図3(A)に示すように、金属層12にピンホールがあると、銅めっき被膜20を成膜してもピンホールが被覆されずに残ることがある。
【0032】
図3(B)に示すように、金属層12のピンホールは銅めっき被膜20により被覆されることもある。この場合、銅めっき被膜20の内部にはドーム形の空間が形成されていると推測される。銅めっき被膜20を化学研磨しない場合には、この状態でも問題ないといえる。しかし、図3(B)において一点鎖線で示す位置まで銅めっき被膜20を化学研磨すると、ピンホールが露出することになる。
【0033】
図3(C)に示すように、銅めっき被膜20の内部にドーム形の空間が形成されたとしても、その高さが十分に低ければ、銅めっき被膜20を化学研磨してもピンホールが露出することはない。
【0034】
このように、銅めっき被膜20の内部に形成されるドーム形の空間の高さを低くするほど、銅めっき被膜20のピンホールを少なくできるといえる。本願発明者の経験則によれば、電解めっきにおける電流密度が低いほど、めっき面に対して縦方向にめっきが成長しやすい。すなわち、図3(A)に示すように、金属層12のピンホールを反映して、銅めっき被膜20にもピンホールが形成される。これに対して、電解めっきにおける電流密度が高いほど、めっきは縦方向に成長するとともに、横方向にも成長する。すなわち、図3(C)に示すように、ドーム形の空間の高さを低くできる。
【0035】
そこで、本願発明者は、電流密度上昇期間における電流密度を比較的高く設定することで、銅めっき被膜20の内部に形成されるドーム形の空間の高さを低くし、銅めっき被膜20のピンホールを少なくすることの着想を得た。
【0036】
電流密度上昇期間における電流密度Jは、段階的に、または無段階で、徐々に上昇させる。その理由は、薄い金属層12および銅めっき被膜20の溶解を防止しつつ、生産性を上げるためである。そこで、電流密度Jは電解めっき中における銅薄膜層14と銅めっき被膜20とを合わせた厚さd[μm]を指標として増加させる。
【0037】
具体的には、電流密度上昇期間における電流密度Jは、常に、式(1)で求められる最低電流密度Jmin(d)以上になるよう設定することが好ましい。
min(d)=-3d2+7d-0.2 ・・・(1)
ここで、Jmin(d)は厚さdのときの最低電流密度[A/dm2]である。
【0038】
電流密度Jが高いほど、銅めっき被膜20のピンホールを少なくする効果が高い。そこで、最低電流密度Jmin(d)は、式(1)に代えて、式(2)で求める方がより好ましい。
min(d)=-3.5d2+8d-0.2 ・・・(2)
【0039】
電解めっき初期の電流密度Jを比較的高く設定すれば、銅薄膜層14に存在するピンホールが被覆されやすくなる。また、銅めっき被膜20の内部に形成されるドーム形の空間の高さを低くできる。そのため、化学研磨によりピンホールが露出することを抑制できる。これにより、銅めっき被膜20のピンホールを少なくできる。
【0040】
電解めっき初期の電流密度Jを高く設定すると、金属層12および銅めっき被膜20が溶解する恐れがある。そこで、電流密度上昇期間における電流密度Jは、式(3)で求められる最高電流密度Jmax(d)以下に設定することが好ましい。
max(d)=-5.5d2+11d ・・・(3)
ここで、Jmax(d)は厚さdのときの最高電流密度[A/dm2]である。
【0041】
金属層12および銅めっき被膜20の溶解は、それらが薄い場合には電気抵抗が高く、高電流を流すと発熱することに起因する。そのため、金属層12および銅めっき被膜20の溶解は、給電部との接触部分の放熱効率を上げるか、電気抵抗を下げることで、抑制できる。放熱効率を上げるには銅めっき液の噴流を給電部に吹き付ければよい。また、電気抵抗を下げるには給電部との接触面積を大きくすればよい。これらの対応をすることにより、金属層12および銅めっき被膜20の溶解を抑制できる。
【0042】
なお、式(1)、(2)、(3)における厚さdは、電解めっき中における銅薄膜層14の厚さと銅めっき被膜20の厚さとを合わせたものである。このうち銅めっき被膜20の厚さは電解めっきの進行にともない増加する。電解めっき中の銅めっき被膜20の厚さDは電流密度とめっき時間とから求められる。具体的には、式(4)に示すように、電流密度J[A/dm2]、めっき時間T[分]、および係数kを乗じて厚さD[μm]が求められる。ここで、係数kは銅めっき液などの条件に依存する値であり、試験により定められる。
D=k×J×T ・・・(4)
【実施例
【0043】
つぎに、実施例を説明する。
(共通の条件)
つぎの手順で、基材を準備した。ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ100nmの銅薄膜層を形成した。
【0044】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0045】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に厚さ銅めっき被膜を成膜した。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0046】
(実施例1)
電解めっきの条件が表1の通りとなるように、基材の搬送速度および各アノードの電流密度を調整した。銅薄膜層と銅めっき被膜とを合わせた厚さdが0.8μmに達するまでを電流密度上昇期間とし、電流密度を段階的に上昇させた。厚さdが0.8μm以上の期間は、電流密度を4.0A/dm2で一定とした。厚さdが2.5μmとなるまで電解めっきを行なった。
【0047】
【表1】
【0048】
図4のグラフに示すように、実施例1において、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(2)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも常に高くなるよう設定されている。また、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(3)で求められる最高電流密度Jmax(d)よりも、常に低くなるよう設定されている。
【0049】
得られた銅めっき被膜に対して硫酸過水系エッチング液により化学研磨処理を行ない、銅めっき被膜の厚さが0.7μmとなるまで減膜した。化学研磨後の銅めっき被膜を光学顕微鏡(倍率500倍)による透過光で3視野(合計10mm2)を観察し、ピンホール数を計数した。その結果、5μm未満のピンホールが6個/10mm2、5μm以上10μm未満のピンホールが0個/10mm2、10μm以上のピンホールが0個/10mm2であった。
【0050】
(実施例2)
電解めっきの条件が表2の通りとなるように、基材の搬送速度および各アノードの電流密度を調整した。銅薄膜層と銅めっき被膜とを合わせた厚さdが0.8μmに達するまでを電流密度上昇期間とし、電流密度を段階的に上昇させた。厚さdが0.8μm以上の期間は、電流密度を4.0A/dm2で一定とした。厚さdが2.5μmとなるまで電解めっきを行なった。
【0051】
【表2】
【0052】
図4のグラフに示すように、実施例2における電流密度上昇期間の電流密度Jは、実施例1における電流密度上昇期間の電流密度Jに比べて低い。しかし、実施例2において、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(1)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも、常に高くなるよう設定されている。また、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(3)で求められる最高電流密度Jmax(d)よりも、常に低くなるよう設定されている。
【0053】
実施例1と同様の手順で銅めっき被膜の化学研磨を行ない、ピンホール数を計数した。その結果、5μm未満のピンホールが9個/10mm2、5μm以上10μm未満のピンホールが0個/10mm2、10μm以上のピンホールが0個/10mm2であった。
【0054】
(比較例1)
電解めっきの条件が表3の通りとなるように、基材の搬送速度および各アノードの電流密度を調整した。銅薄膜層と銅めっき被膜とを合わせた厚さdが0.8μmに達するまでを電流密度上昇期間とし、電流密度を段階的に上昇させた。厚さdが0.8μm以上の期間は、電流密度を4.0A/dm2で一定とした。厚さdが2.5μmとなるまで電解めっきを行なった。
【0055】
【表3】
【0056】
図4のグラフに示すように、比較例1における電流密度上昇期間の電流密度Jは、実施例2における電流密度上昇期間の電流密度Jに比べて低い。比較例1において、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(1)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも低くなることがある。
【0057】
実施例1と同様の手順で銅めっき被膜の化学研磨を行ない、ピンホール数を計数した。その結果、5μm未満のピンホールが13個/10mm2、5μm以上10μm未満のピンホールが1個/10mm2、10μm以上のピンホールが0個/10mm2であった。
【0058】
(比較例2)
電解めっきの条件が表4の通りとなるように、基材の搬送速度および各アノードの電流密度を調整した。銅薄膜層と銅めっき被膜とを合わせた厚さdが0.8μmに達するまでを電流密度上昇期間とし、電流密度を段階的に上昇させた。厚さdが0.8μm以上の期間は、電流密度を4.0A/dm2で一定とした。厚さdが2.5μmとなるまで電解めっきを行なった。
【0059】
【表4】
【0060】
図4のグラフに示すように、比較例2における電流密度上昇期間の電流密度Jは、比較例1における電流密度上昇期間の電流密度Jに比べて低い。比較例2において、電流密度上昇期間の電流密度Jは、前記式(1)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも低くなることがある。
【0061】
実施例1と同様の手順で銅めっき被膜の化学研磨を行ない、ピンホールの数を計数した。その結果、5μm未満のピンホールが15個/10mm2、5μm以上10μm未満のピンホールが2個/10mm2、10μm以上のピンホールが1個/10mm2であった。
【0062】
以上の結果を表5にまとめる。
【表5】
【0063】
電流密度上昇期間における電流密度Jを比較的高く設定した実施例1、2は、化学研磨後においても5μm未満のピンホールが10個/10mm2以下と少ない。また、5μm以上のピンホールは確認されない。特に、電流密度Jが高い実施例1は実施例2よりもピンホールの数が少ない。これより、電流密度上昇期間における電流密度Jを高く設定すれば、銅めっき被膜のピンホールを少なくできることが確認された。具体的には、電流密度上昇期間における電流密度Jを、式(1)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも高くすることが好ましく、式(2)で求められる最低電流密度Jmin(d)よりも高くすることがより好ましいことが確認された。
【0064】
なお、実施例1、2、比較例1、2のいずれの条件においても、電解めっきの際の金属層および銅めっき被膜の溶解は確認されなかった。これより、電流密度上昇期間における電流密度Jを、式(3)で求められる最高電流密度Jmax(d)よりも低くすることにより、金属層および銅めっき被膜の溶解を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
1 銅張積層板
10 基材
11 ベースフィルム
12 金属層
13 下地金属層
14 銅薄膜層
20 銅めっき被膜
図1
図2
図3
図4