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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】モータ用配線部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/25 20160101AFI20240110BHJP
   H02K 3/50 20060101ALI20240110BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H02K11/25
H02K3/50 A
H02K15/04 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020132339
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029151
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅津 潤
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-184959(JP,A)
【文献】特開2018-207605(JP,A)
【文献】特開2017-079528(JP,A)
【文献】特開2017-026521(JP,A)
【文献】特開平04-038146(JP,A)
【文献】特開平09-121493(JP,A)
【文献】特開2018-174604(JP,A)
【文献】特開平03-128638(JP,A)
【文献】特開2014-042422(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221464(WO,A1)
【文献】実開平05-002553(JP,U)
【文献】国際公開第2018/189813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/25
H02K 3/50
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに接続される複数の電線と、前記複数の電線を保持する樹脂からなる保持部材と、温度センサと、前記温度センサに接続された信号線と、を備え、
前記温度センサが前記保持部材に覆われており
前記保持部材は、樹脂からなり前記複数の電線を支持する支持体の少なくとも一部をモールド成形体で覆ってなり、
前記信号線は、チューブ状の保護部材に覆われており、前記保護部材は、前記モールド成形体に覆われている
モータ用配線部材。
【請求項2】
記支持体に前記温度センサを収容する枠部が設けられており、
前記モールド成形体の表面に前記枠部が露出していない、
請求項1に記載のモータ用配線部材。
【請求項3】
前記保持部材が、前記支持体の前記枠部に収容された前記温度センサの少なくとも一部を覆う蓋部材を有する、
請求項2に記載のモータ用配線部材。
【請求項4】
前記複数の電線における前記モータ側の部分が前記保持部材から導出されている方向を電線導出方向としたとき、
記信号線が、前記保持部材から前記電線導出方向の逆方向に導出されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のモータ用配線部材。
【請求項5】
前記複数の電線における前記モータ側とは逆側の部分が前記保持部材から導出されている方向を電線導出方向としたとき、
記信号線が、前記保持部材から前記電線導出方向に沿って導出されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のモータ用配線部材。
【請求項6】
複数の前記温度センサを備え、
前記複数の電線のうち何れかの電線が、前記保持部材の内部において複数の前記温度センサの間に配置されている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のモータ用配線部材。
【請求項7】
モータに接続される複数の電線と、前記複数の電線を保持する樹脂からなる保持部材と、温度センサと、前記温度センサに接続された信号線と、を備え、前記温度センサが前記保持部材に覆われているモータ用配線部材の製造方法であって、
前記温度センサを収容する枠部が設けられた樹脂からなり前記複数の電線を支持する支持体を成形する工程と、
前記枠部に前記温度センサを収容する工程と、
前記枠部を含む前記支持体の少なくとも一部を前記温度センサと共に覆うようにモールド成形体を成形する工程と、
を有し、
前記信号線は、チューブ状の保護部材に覆われており、前記保護部材は、前記モールド成形体に覆われている
モータ用配線部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用配線部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータには、サーミスタ等の温度センサを備えたものがある。このようなモータを制御する制御装置は、温度センサの温度が所定値以上となったとき、例えばモータに供給する電流を制限することにより、モータの過熱を抑制する。
【0003】
特許文献1に記載のモータは、ハウジングに収容されたロータ及びステータを有し、ステータに巻かれたコイル(巻線)に制御装置から電流が供給される。コイルは、その一端部であるコイルエンドがステータから軸方向一側に引き出されており、このコイルエンドにサーミスタが設けられている。サーミスタの検出信号は、信号線によって制御装置に送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-54162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発熱が大きい用途に用いられるモータには、ステータを収容するハウジング内でステータを油によって冷却する油冷構造が採用される場合がある。このような油冷モータにおいて、冷却用の油がかかる部位あるいは冷却用の油に浸る部位に温度センサを配置した場合には、温度センサが油によって冷却されることにより、ステータやコイルの温度の検出精度が低下してしまう。また、温度センサと油とを隔てるための構造あるいは部材をハウジングに設ける場合には、コストの上昇を招来することとなる。
【0006】
そこで、本発明は、コストの上昇を抑えながらも、温度センサによるモータの温度の検出精度を高めることが可能なモータ用配線部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、モータに接続される複数の電線と、前記複数の電線を保持する樹脂からなる保持部材と、温度センサとを備え、前記温度センサが前記保持部材に覆われている、モータ用配線部材を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、モータに接続される複数の電線と、前記複数の電線を保持する樹脂からなる保持部材と、温度センサとを備え、前記温度センサが前記保持部材に覆われているモータ用配線部材の製造方法であって、前記温度センサを収容する枠部が設けられた樹脂からなる支持体を成形する工程と、前記枠部に前記温度センサを収容する工程と、前記枠部を含む前記支持体の少なくとも一部を前記温度センサと共に覆うようにモールド成形体を成形する工程と、を有するモータ用配線部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るモータ用配線部材及びその製造方法によれば、コストの上昇を抑えながらも、温度センサによるモータの巻線の温度の検出精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ用配線部材が用いられた回転電機を示す構成図である。
図2】複数のコイル片を示す斜視図である。
図3】コイル巻線と配線部材との接続部を示す斜視図である。
図4】(a)は、配線部材を示す斜視図である。(b)は、配線部材のうちモールド成形体の図示を省略して示す斜視図である。
図5】(a)及び(b)は、支持体を示す斜視図である。
図6】(a)及び(b)は、枠部の周辺を示す斜視図である。
図7】(a)は、枠部及びその周辺部を含む板部の平面図である。(b)は、(a)のA-A線における信号ケーブルの断面図である。
図8】第2の実施の形態に係るモータ用配線部材の支持体の一部を二つの温度センサと共に示す斜視図である。
図9】第3の実施の形態に係る支持体の一部を温度センサと共に示す斜視図であり、(a)は支持体の枠部に温度センサが収容された状態を示し、(b)は枠部に温度センサが収容されていない状態を示す。
図10】第4の実施の形態に係る支持体の一部を温度センサと共に示す斜視図であり、(a)は支持体の枠部に温度センサが収容された状態を示し、(b)は支持体の枠部に温度センサが収容されていない状態を示す。
図11】(a)は第5の実施の形態に係る蓋部材を示す斜視図であり、(b)は枠部に蓋部材が取り付けられた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ用配線部材が用いられた回転電機を示す構成図である。この回転電機1は、例えば車両に搭載され、車輪を駆動するための駆動源として用いられるが、車輪の回転力を回生して発電を行う発電機として機能することも可能である。
【0012】
回転電機1は、主たる構成要素として、ハウジング2と、モータ3と、端子台4と、モータ用配線部材5とを備えている。モータ3、端子台4、及びモータ用配線部材5は、ハウジング2に収容されている。ハウジング2は、ハウジング本体21と、ハウジング蓋体22とを有し、ハウジング蓋体22がハウジング本体21に複数のボルト23によって締結されている。以下、モータ用配線部材5を単に配線部材5という。
【0013】
モータ3は、ハウジング本体21に固定されたステータコア31と、ステータコア31に磁界を発生させるコイル巻線32と、ロータコア331に複数の磁石332が埋め込まれたロータ33と、ロータ33と一体に回転するシャフト34とを有している。ステータコア31は、円筒状のバックヨーク311と、バックヨーク311から径方向内方に向かって突出した複数のティース312とを一体に有している。本実施の形態では、72個のティース312が周方向等間隔に設けられており、周方向に隣り合うティース312の間にスロット310が形成されている。コイル巻線32には、U相、V相、及びW相のモータ電流が供給される。なお、図1(b)では、コイル巻線32及びロータ33の図示を省略している。
【0014】
シャフト34は、ハウジング本体21及びハウジング蓋体22にそれぞれ保持された軸受11,12によってハウジング2に対して回転可能に支持され、水平方向の回転軸線Oを中心として回転する。シャフト34は、ハウジング蓋体22の貫通孔220からハウジング2の外部に突出している。ハウジング2には、モータ3を冷却するための冷却液Cが収容されている。貫通孔220からの冷却液Cの漏出は、ハウジング蓋体22に保持されたシール部材13によって防止されている。本実施の形態では、冷却液Cが油であり、モータ3が油冷モータとして構成されている。なお、回転電機1を内燃機関であるエンジンと共に車両に搭載する場合には、冷却液Cをエンジン及びラジエータとの間に循環させてもよい。
【0015】
端子台4は、3端子のものであり、ハウジング本体21に固定されている。各端子のピン41は、ハウジング本体21に取り付けられたガスケット211に挿通されてハウジング2の外部に突出している。配線部材5は、端子台4とモータ3との間に配置されている。モータ3のコイル巻線32には、端子台4及び配線部材5を介してU相、V相、及びW相のモータ電流が供給される。
【0016】
図2は、コイル巻線32を構成する複数のコイル片320を示す斜視図である。図3は、コイル巻線32と配線部材5との接続部を部分的に示す斜視図である。
【0017】
本実施の形態では、コイル巻線32が、複数のコイル片320を電気的に接続することにより構成されている。それぞれのコイル片320は、ステータコア31のスロット310に収容される一対の直線状の本体部321と、スロット310から突出してステータコア31の軸方向一側(ハウジング蓋体22側)に配置される一対の傾斜部322と、それぞれの傾斜部322における軸方向一側の端部からさらにハウジング蓋体22側に向かってステータコア31の軸方向に延在する一対の直線部323と、直線部323の先端に設けられた接続部324と、一対の本体部321をステータコア31の軸方向他側(ハウジング本体21側)で接続する接続部325とを有している。
【0018】
それぞれのコイル片320は、接続部324を除き、銅等の良導電性の金属からなる導体320Mが電気絶縁性の被覆層320Iに覆われている。本実施の形態では、導体320Mが断面矩形状の平角電線であり、被覆層320Iがエナメル被覆からなる。また、本実施の形態では、ステータコア31の各スロット310に8個のコイル片320の本体部321が収容される。これらのコイル片320は、接続部324同士が溶接されて2組の三相(U相,V相,及びW相)巻線を構成する。また、2組の三相巻線のうち、第1組の三相巻線と、第2組の三相巻線とは、電気角の位相が所定角度ずれている。
【0019】
図4(a)は、配線部材5を示す斜視図である。図4(b)は、配線部材5のうち後述するモールド成形体70の図示を省略して示す斜視図である。
【0020】
配線部材5は、第1乃至第6の電線51~56と、第1乃至第3の端子61~63と、第1乃至第6の電線51~56を保持する樹脂からなる保持部材7と、保持部材7に覆われた温度センサ8と、温度センサ8に接続された信号ケーブル9とを有している。第1乃至第3の端子61~63は、それぞれボルト42によって端子台4に接続される。第1乃至第3の端子61~63には、不図示の制御装置からU相、V相、及びW相の相電流がそれぞれ供給される。
【0021】
第1乃至第6の電線51~56は、それぞれ銅等の良導電性の金属からなる導体50Mが絶縁層50Iに被覆されており、長手方向両端部では絶縁層50Iが除去されて導体50Mが露出している。第1乃至第6の電線51~56の両端部のうち、一方の端部はコイル片320の接続部324にそれぞれ接続されるモータ接続部511,521,531,541,551,561であり、他方の端部は第1乃至第3の端子61~63にそれぞれ接続される端子接続部512,522,532,542,552,562である。
【0022】
導体50Mは、長手方向に対して垂直な断面の形状が円形の単線であり、モータ接続部511,521,531,541,551,561では、コイル片320の接続部324との接続が容易になるよう、導体50Mが断面矩形状にプレス加工されている。モータ接続部511,521,531,541,551,561は、コイル片320の接続部324に例えば溶接によって接続されるが、半田付けによってこれらを接続してもよい。
【0023】
端子接続部512,522,532,542,552,562は、第1乃至第3の端子61~63に加締めによってそれぞれ接続されている。第1及び第2の電線51,52は、端子接続部512,522が第1の端子61に共締めされ、コイル巻線32にU相電流を供給する。第3及び第4の電線53,54は、端子接続部532,542が第2の端子62に共締めされ、コイル巻線32にV相電流を供給する。また、第5及び第6の電線55,56は、端子接続部552,562が第3の端子63に共締めされ、コイル巻線32にW相電流を供給する。第1の電線51、第3の電線53、及び第5の電線55は、第1組の三相巻線に各相電流を供給し、第2の電線52、第4の電線54、及び第6の電線56は、第2組の三相巻線に各相電流を供給する。
【0024】
保持部材7は、樹脂からなる支持体71をモールド成形体70で覆って構成されている。第1乃至第6の電線51~56は、モータ接続部511,521,531,541,551,561と端子接続部512,522,532,542,552,562との間の一部が保持部材7に保持されている。また、第1乃至第6の電線51~56は、端子接続部512,522,532,542,552,562の近傍にあたる部分が保持部材7の内部で直角に屈曲されて保持部材7から導出されており、保持部材7と第1乃至第3の端子61~63との間では第1乃至第6の電線51~56が一列に並んでいる。
【0025】
以下、図4(a)に示すように、第1乃至第3の端子61~63の並び方向をX方向とし、保持部材7と第1乃至第3の端子61~63との間の第1乃至第6の電線51~56に平行な方向をY方向とし、X方向及びY方向に垂直な方向をZ方向という。
【0026】
図5(a)及び(b)は、支持体71を示す斜視図である。支持体71は、射出成形された射出成形体であり、平板状の板部711と、板部711におけるZ方向の一端部からY方向に沿って第1乃至第3の端子61~63側に突出し、X方向に延在する突壁部712と、板部711におけるZ方向の他端部に連続して設けられ、板部711に対してY方向に突出した第1乃至第3のランド部713,714,715と、第2のランド部714に対してZ方向に離間して設けられた第4のランド部716と、第3のランド部715に対してZ方向に離間して設けられた第5のランド部717と、第2のランド部714と第4のランド部716とを連結する一対の連結部718と、第3のランド部715と第5のランド部717とを連結する一対の連結部719とを一体に有している。図5(a)は、板部711の表(おもて)面711a側を示し、図5(b)は、板部711の裏面711b側を示している。
【0027】
また、支持体71は、第1乃至第6の電線51~56のそれぞれを支持する複数の支持部721~726を有している。これらの支持部721~726は、モールド成形体70をモールド成形する際、溶融樹脂の流体圧によって第1乃至第6の電線51~56が支持体71に対して位置ずれしないよう、第1乃至第6の電線51~56を支持する。また、支持体71には、温度センサ8を収容する枠部73が一体に設けられている。枠部73は、第3の電線53を挿通させるように板部711に形成された切り欠き710の近傍に設けられ、板部711の表面711aからY方向に突出して枡状に形成されている。
【0028】
モールド成形体70は、支持体71の一部を覆っている。具体的には、図4(a)に示すように、板部711の全体を覆う第1のモールド部701と、第2のランド部714を囲うように形成された第2のモールド部702と、第5のランド部717を囲うように形成された第3のモールド部703とによってモールド成形体70が構成されている。なお、支持体71の全体を覆うようにモールド成形体70を形成してもよい。つまり、モールド成形体70は、支持体71と共に第1乃至第6の電線51~56を保持するように、支持体71の少なくとも一部を覆っていればよい。
【0029】
第1乃至第6の電線51~56におけるモータ接続部511,521,531,541,551,561側の部分は、保持部材7からZ方向にモータ3側に向かって導出されている。信号ケーブル9は、第1乃至第6の電線51~56のモータ3側の部分が保持部材7から導出された方向とは逆方向に、保持部材7から導出されている。つまり、第1乃至第6の電線51~56におけるモータ3側の部分が保持部材7から導出されている方向を電線導出方向としたとき、信号ケーブル9は、保持部材7から電線導出方向の逆方向に導出されている。これにより、信号ケーブル9を引き回す際に、第1乃至第6の電線51~56と信号ケーブル9とが干渉することを防ぐことができる。
【0030】
より具体的には、信号ケーブル9は、保持部材7におけるモータ3側とは反対側のZ方向の端面7aに対して垂直に導出されている。端面7aは、モールド成形体70の第1のモールド部701におけるZ方向に対して垂直な平面である。信号ケーブル9は、図1(a)に示すように、ハウジング本体21に取り付けられたガスケット212に挿通されてハウジング2の外部に引き出され、温度センサ8と不図示の制御装置とを接続する。制御装置は、温度センサ8によって検出される温度が所定値以上となったとき、モータ3に供給する電流を制限することにより、モータ3の過熱を抑制する。
【0031】
図6(a)及び(b)は、枠部73の周辺部を示す斜視図である。図6(a)は、枠部73に温度センサ8が収容された状態を示し、図6(b)は、枠部73に温度センサ8が収容されていない状態を示している。枠部73は、板部711の表面711aに対して垂直な方向から見た場合に四角形状をなす第1乃至第4の壁部731~734によって形成されている。第1乃至第4の壁部731~734は、板部711の表面711aに対して垂直に立設されており、このうち第1の壁部731には、温度センサ8を収容する収容空間730から信号ケーブル9を引き出すための切り欠き731aが形成されている。収容空間730の底面730aは、Y方向に対して垂直な平面である。
【0032】
図7(a)は、枠部73及びその周辺部を含む板部711の平面図であり、図7(b)は、図7(a)のA-A線における信号ケーブル9の断面図である。図7(a)では、モールド成形体70の端面7aを仮想線(二点鎖線)で示している。
【0033】
信号ケーブル9は、一対の信号線91と、一対の信号線91を覆う保護部材としてのチューブ92とによって構成されている。図7(a)では、チューブ92の一部を破断してその内部の一対の信号線91を図示している。信号線91は、銅等の良導電性の金属からなる複数の素線910が撚り合わされた信号線導体911と、信号線導体911を被覆する絶縁層912とを有している。
【0034】
温度センサ8は、サーミスタであり、温度に応じて抵抗率が変化するサーミスタ膜を含む検出部80がパッケージ材81に封止されている。また、温度センサ8は、パッケージ材81から導出された一対のリード線82を有しており、これらのリード線82が一対の信号線91のそれぞれの信号線導体911に例えば半田付けによって接続されている。制御装置は、一対のリード線82の間の抵抗値の変化によって、温度センサ8の検出部80における温度を測定することができる。温度センサ8は、前述のように第3の電線53を挿通させる板部711の切り欠き710の近傍に配置されているので、主として第3の電線53の温度を検出する。第3の電線53は、コイル片320からの熱伝導によって温度が上がる他、モータ電流による銅損によっても発熱する。
【0035】
温度センサ8は、その全体が支持体71の板部711と共にモールド成形体70の第1のモールド部701に覆われ、保持部材7に埋め込まれている。これにより、回転電機1のハウジング2内で冷却液Cがロータ33の回転によって掻き上げられ、冷却液Cが保持部材7にかかったとしても、温度センサ8が冷却液Cに晒されず、第3の電線53の温度を精度よく検出できる。
【0036】
また、枠部73は、その全体がモールド成形体70の第1のモールド部701に覆われており、モールド成形体70の表面に枠部73が露出していない。これにより、冷却液Cが温度センサ8にかかることをより確実に防ぐことが可能となる。
【0037】
次に、配線部材5の製造方法について説明する。配線部材5は、射出成形によって支持体71を成形する射出成形工程と、支持体71の枠部73に温度センサ8を収容するセンサ収容工程と、モールド成形体70を成形するための金型に支持体71を第1乃至第6の電線51~56と共に配置する配置工程と、金型内に溶融樹脂を注入してモールド成形体70を成形するモールド成形工程と、第1乃至第6の電線51~56の端子接続部512,522,532,542,552,562を第1乃至第3の端子61~63に加締める加締め工程とによって製造される。
【0038】
配置工程では、第1乃至第6の電線51~56を支持体71の支持部721~726に支持させ、下型にセットする。モールド成形工程では上型と下型とを型締めして溶融樹脂を注入する。なお、センサ収容工程と配置工程とは、何れを先に行ってもよい。配置工程の後にセンサ収容工程を行う場合には、下型にセットされた支持体71の枠部73に温度センサ8を収容する。温度センサ8に接続された信号ケーブル9は、例えば下型に形成された凹部を介して金型の外部に引き出される。
【0039】
なお、信号ケーブル9のチューブ92を省略し、一対の信号線91を保持部材7から導出してもよい。この場合、例えば下型に一対の信号線91をそれぞれ収容する凹部を形成し、モールド成形体70を成形する。ただし、型締めの際に上型と下型との間に信号線91が挟まれることによる信号線91の損傷を防ぐためには、一対の信号線91をチューブ92に収容し、一対の信号線91を保護することが望ましい。
【0040】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、温度センサ8が保持部材7に覆われており、冷却液Cに晒されないので、モータ3の温度を精度よく検出できる。また、例えば回転電機1のハウジング2に温度センサを冷却液Cから隔離して保持する構造を設ける場合に比較して、コストを抑制することができる。このように、第1の実施の形態によれば、コストの上昇を抑えながらも、温度センサ8によるモータ3の温度の検出精度を高めることが可能となる。
【0041】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図8を参照して説明する。第1の実施の形態では、保持部材7に単一の温度センサ8が埋め込まれた場合について説明したが、本実施の形態では、保持部材7に複数(二つ)の温度センサ8が埋め込まれる場合について説明する。
【0042】
図8は、支持体71の一部を二つの温度センサ8と共に示す斜視図である。以下の説明では、第1の実施の形態の説明で用いた部材等の名称及び符号を援用する。図8に示す状態は、センサ収容工程及び配置工程後の状態であり、この後にモールド成形工程が行われることにより、支持体71及び二つの温度センサ8がモールド成形体70に覆われる。
【0043】
本実施の形態では、支持体71に二つの枠部73が板部711と一体に設けられ、それぞれの枠部73の収容空間730に温度センサ8が収容されている。各温度センサ8は、枠部73に収容された状態でモールド成形体70が成形されることにより、保持部材7に埋め込まれる。また、両枠部73は、その全体がモールド成形体70に覆われる。
【0044】
二つの温度センサ8は、切り欠き710を挟み、X方向に並んで配置されている。第3の電線53は、二つの温度センサ8の間に配置されており、一方の温度センサ8から第3の電線53までの距離と、他方の温度センサ8から第3の電線53までの距離とは等距離である。これにより、二つの温度センサ8のそれぞれによる温度の検出値は同等の値となる。二つの温度センサ8は、それぞれZ方向に延びる信号ケーブル9によって制御装置に接続される。
【0045】
本実施の形態によれば、二つの温度センサ8によってそれぞれ検出される温度の違いにより、一方の温度センサ8に故障が発生した場合に、これを検知することができる。また、一方の温度センサ8が故障した場合にも、他方の温度センサ8による温度の検出値を用いて故障前と同様の制御を継続することができる。すなわち、本実施の形態によれば、温度の検出値の信頼性を高めることが可能となる。
【0046】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図9を参照して説明する。図9は、第3の実施の形態に係る支持体71の一部を温度センサ8と共に示す斜視図であり、(a)は支持体71の枠部74に温度センサ8が収容された状態を示し、(b)は枠部74に温度センサ8が収容されていない状態を示している。
【0047】
第1の実施の形態では、枠部73の第1乃至第4の壁部731~734が板部711の表面711aに対して垂直に立設された場合について説明したが、本実施の形態では、板部711の表面711aに底壁部745が立設され、この底壁部745に対して垂直なX軸方向に第1乃至第4の壁部741~744が突出して枠部74が構成されている。
【0048】
底壁部745は、切り欠き710の周縁に設けられている。第1乃至第4の壁部741~744に囲まれた収容空間740の底面740aは、X方向に対して垂直な平面である。収容空間740には、温度センサ8が収容されている。Z方向から見た温度センサ8の支持体71に対する角度は、第1の実施の形態における同方向から見た温度センサ8の支持体71に対する角度に対して90°異なっている。信号ケーブル9は、第1の壁部741に形成された切り欠き741aからモータ3とは反対側に引き出され、Z方向に延在している。
【0049】
本実施の形態によれば、温度センサ8の検出部80を第3の電線53に近づけることができるので、温度の検出精度がより高められる。なお、切り欠き710をX方向に挟むように板部711に二つの枠部74を設け、二つの枠部74のそれぞれに温度センサ8を収容してもよい。
【0050】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、図10を参照して説明する。図10は、第4の実施の形態に係る支持体71の一部を温度センサ8と共に示す斜視図であり、(a)は支持体71の枠部75に温度センサ8が収容された状態を示し、(b)は枠部75に温度センサ8が収容されていない状態を示している。
【0051】
本実施の形態では、支持体71の突壁部712におけるモータ3側とは反対側の端面712aに第1乃至第4の壁部751~754が立設されて枠部75が構成されている。第1乃至第4の壁部751~754に囲まれた収容空間750の底面750aは、Z方向に対して垂直な平面である。
【0052】
収容空間750には、温度センサ8が収容されている。X方向から見た温度センサ8の支持体71に対する角度は、第1の実施の形態における同方向から見た温度センサ8の支持体71に対する角度に対して90°異なっている。信号ケーブル9は、第1の壁部751に形成された切り欠き751aから第1乃至第3の端子61~63に向かって引き出され、Y方向に延在している。
【0053】
このように、本実施の形態では、第1乃至第6の電線51~56の長手方向における端子接続部512,522,532,542,552,562の部分(モータ3側とは逆側の部分)が保持部材7から導出されている方向(Y方向の第1乃至第3の端子61~63側)を電線導出方向としたとき、信号ケーブル9が保持部材7から電線導出方向に沿って導出される。これにより、信号ケーブル9を引き回す際に、第1乃至第6の電線51~56と信号ケーブル9とが干渉することを防ぐことができる。なお、切り欠き710をX方向に挟むように板部711に二つの枠部75を設け、二つの枠部75のそれぞれに温度センサ8を収容してもよい。
【0054】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について、図11を参照して説明する。本実施の形態では、保持部材7が、枠部73の収容空間730を閉塞する蓋部材76を有して構成されている。図11(a)は、蓋部材76を示す斜視図であり、図11(b)は、枠部73に蓋部材76が取り付けられた状態を示す斜視図である。
【0055】
蓋部材76は、収容空間730内に配置された温度センサ8を覆う平板部761と、モールド成形工程において切り欠き731aから収容空間730内への溶融樹脂の侵入を堰き止める堰部762とを有している。堰部762における信号ケーブル9との対向部762aは、信号ケーブル9の外周面に対応する湾曲形状に形成されている。なお、信号ケーブル9がチューブ92を有しない場合には、対向部762aの一部が一対の信号線91に対応する湾曲形状に形成される。蓋部材76は、射出成形された樹脂部材であり、平板部761と堰部762とが一体に形成されている。
【0056】
蓋部材76は、モールド成形工程の前に平板部761が第1乃至第4の壁部731~734の内側に嵌合され、モールド成形工程における溶融樹脂の流体圧によって温度センサ8が収容空間730から外れたり、収容空間730内における温度センサ8の姿勢が乱れたりすることを抑制する。なお、第2乃至第4の実施の形態における枠部73,74,75に蓋部材76を装着してもよい。
【0057】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0058】
[1]モータ(3)に接続される複数の電線(51~56)と、前記複数の電線(51~56)を保持する樹脂からなる保持部材(7)と、温度センサ(8)とを備え、前記温度センサ(8)が前記保持部材(7)に覆われている、モータ用配線部材(5)
【0059】
[2]前記保持部材(7)は、樹脂からなる支持体(71)の少なくとも一部をモールド成形体(70)で覆ってなり、前記支持体(71)に前記温度センサ(8)を収容する枠部(73,74,75)が設けられており、前記モールド成形体(70)の表面に前記枠部(73,74,75)が露出していない、上記[1]に記載のモータ用配線部材(5)。
【0060】
[3]前記保持部材(7)が、前記支持体(71)の前記枠部(73,74,75)に収容された前記温度センサ(8)の少なくとも一部を覆う蓋部材(76)を有する、上記[1]又は[2]に記載のモータ用配線部材(5)
【0061】
[4]前記複数の電線(51~56)における前記モータ(3)側の部分が前記保持部材(7)から導出されている方向を電線導出方向としたとき、温度センサ(8)に接続された信号線(91)が、前記保持部材(7)から前記電線導出方向の逆方向に導出されている、上記[1]乃至[3]の何れか1つに記載のモータ用配線部材(5)。
【0062】
[5]前記複数の電線(51~56)における前記モータ(3)側とは逆側の部分が前記保持部材(7)から導出されている方向を電線導出方向としたとき、前記温度センサ(8)に接続された信号線(91)が前記保持部材(7)から前記電線導出方向に沿って導出されている、上記[1]乃至[3]の何れか1つに記載のモータ用配線部材(5)。
【0063】
[6]複数の前記温度センサ(8)を備え、前記複数の電線(51~56)のうち何れかの電線が、前記保持部材(7)の内部において複数の前記温度センサ(8)の間に配置されている、上記[1]乃至[5]の何れか1つに記載のモータ用配線部材(5)。
【0064】
[7]モータ(3)に接続される複数の電線(51~56)と、前記複数の電線(51~56)を保持する樹脂からなる保持部材(7)と、温度センサ(8)とを備え、前記温度センサ(8)が前記保持部材(7)に覆われているモータ用配線部材(5)の製造方法であって、前記温度センサ(8)を収容する枠部(73,74,75)が設けられた樹脂からなる支持体(71)を成形する工程と、前記枠部(73,74,75)に前記温度センサ(8)を収容する工程と、前記枠部(73,74,75)を含む前記支持体(71)の少なくとも一部を前記温度センサ(8)と共に覆うようにモールド成形体(70)を成形する工程と、を有するモータ用配線部材(5)の製造方法。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0066】
3…モータ
5…配線部材
51~56…第1乃至第6の電線
7…保持部材
70…モールド成形体
71…支持体
73,74,75…枠部
76…蓋部材
8…温度センサ
91…信号線
図1
図2
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