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特許7415858土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法
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  • 特許-土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法 図1
  • 特許-土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法 図2
  • 特許-土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   G01N 1/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N1/22 J
G01N1/00 101R
G01N1/16 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020152185
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046246
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】米谷 英朗
(72)【発明者】
【氏名】小野 良平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇弥
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0030475(US,A1)
【文献】特開2005-087840(JP,A)
【文献】特開2005-164279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0250090(US,A1)
【文献】特開2000-028495(JP,A)
【文献】特開2003-279452(JP,A)
【文献】特開2005-171487(JP,A)
【文献】特開2001-219156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/00- 33/46
B09C 1/00- 1/10
E02D 1/00- 3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜界面プローブを地中に打ち込み、該膜界面プローブで採取したガス中のVOCsを測定器にて測定する工程を有する土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法において、
該膜界面プローブに採水部を設けておき、
該採水部を介して地下水を採取して分析を行う土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法であって、
前記膜界面プローブを目的深度まで打ち込んだ後、引き上げるときに、所定深度で該膜界面プローブを停止するか又は引き上げ速度を小さくし、当該所定深度で地下水を採取し、組成分析することを特徴とする土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項2】
前記膜界面プローブを打ち込むときに深度別のVOCs濃度分布を求め、この結果に基づいて前記所定深度を決定する、請求項の土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項3】
前記所定深度は、VOCs濃度が最も高い深度である、請求項の土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項4】
前記プローブは、HPTシステムのプローブを兼ねており、前記採水部は、HPTシステムのプローブの吐水口と兼用されており、該吐水口に連なる加圧水供給用のチューブを通して地下水を採水する、請求項1~のいずれかの土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法。
【請求項5】
前記チューブから採水ラインを分岐させておき、真空ポンプによって該採水ライン及びチューブを通して地下水を吸引して採水する、請求項の土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌又は地下水中の揮発性有機化合物(VOCs)を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌又は地下水中のVOCsを測定するシステムとして、膜界面プローブ(MIP:Membrane Interface Probe)を用いたMIPシステムが公知である。このMIPシステムは、80℃~125℃に加熱できるヒーターと、気体のみ通過できるメンブレンを取り付けた膜界面プローブにより、土壌又は地下水中のVOCsを吸引、気化して、窒素などの不活性のキャリアガスにより地上のガスクロマトグラフ分析装置(ガスクロ)へ運び、全VOCsを検知するよう構成されている(特許文献1の0007段落)。
【0003】
従来のMIPシステムは、土壌又は地下水を採取することなく原位置でVOCsによる土壌又は地下水汚染の深度分布を測定するものである。このシステムにより測定を行うには、打撃式ボーリングマシン等を使用し、MIPを地中に打ち込む。MIPと地上のガスクロはトランクラインで繋がれており、この中にキャリアガスである窒素ガスを流す。MIPのヒーター温度を80℃~125℃の間で設定し、MIPと土壌又は地下水の接触面付近からVOCsの揮発を促進させる。
【0004】
ヒーターにより加熱され揮発したVOCsは、MIPのメンブレンを透過してプローブ内部に取り込まれ、ボーリングカラム内のトランクライン中をキャリアガスによって地上に運ばれる。その後、ガスクロに導入され全VOCsが連続的に測定される。
【0005】
土壌の電気伝導度及び透水性を測定するシステムとしてHPT(Hydraulic Profiling Tool)システムがある。HPTシステムでは、水の吐水口及び電気伝導度センサを有したプローブを地中に打ち込む。そして、電気伝導度センサによって土壌の電気伝導度を測定する。また、地上の高圧ポンプから配管(チューブ)を介して該吐水口に高圧水を供給して吐出させ、このときの水圧を測定することにより土壌の透水性を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-164279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のMIPシステムによるVOCsの測定方法では、測定結果が全VOCsすなわちVOCsの総量(総濃度)であり、VOCsの組成(トリクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレンなど)がわからず、汚染源の状況が十分に把握できなかった。
【0008】
例えば、トリクロロエチレンが土壌中に浸透すると、土壌中で生分解し1,2-ジクロロエチレンになる。従来の測定方法では、トリクロロエチレンと1,2-ジクロロエチレンの組成比がわからないことから、より汚染源に近い(即ちトリクロロエチレンの組成比が高い)深度を把握できなかった。具体的には、汚染源物質がトリクロロエチレン(TCE)である場合、測定した深度でVOCsの総濃度が高くても、1,2-ジクロロエチレンがほとんどの割合を占める場合、VOCsが地下水流で移動しながら土壌中の微生物により部分的に分解(脱塩素化)した可能性があり、その深度は汚染源の深度ではないことがある。
【0009】
本発明は、特定の深度でVOCs含有地下水を採取し、その成分を分析することができる土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法は、膜界面プローブを地中に打ち込み、該膜界面プローブで採取したガス中のVOCsを測定器にて測定する工程を有する土壌又は地下水中の揮発性有機化合物の測定方法において、該膜界面プローブに採水部を設けておき、該採水部を介して地下水を採取して分析を行う。
【0011】
本発明の一態様では、該膜界面プローブを目的深度まで打ち込んだ後、引き上げるときに、所定深度で該膜界面プローブを停止するか又は引き上げ速度を小さくし、当該所定深度で地下水を採水し、組成分析する。
【0012】
本発明の一態様では、前記膜界面プローブを打ち込むときに深度別のVOCs濃度分布を求め、この結果に基づいて前記所定深度を決定する。
【0013】
本発明の一態様では、前記所定深度は、VOCs濃度が最も高い深度である。
【0014】
本発明の一態様では、前記プローブは、HPTシステムのプローブを兼ねており、前記採水部は、HPTシステムのプローブの吐水口と兼用されており、該吐水口に連なる加圧水供給用のチューブを通して地下水を採水する。
【0015】
本発明の一態様では、前記チューブから採水ラインを分岐させておき、真空ポンプによって採水ライン及びチューブを通して地下水を吸引して採水する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の土壌または地下水中の揮発性有機化合物の測定方法の一態様によると、プローブの地中への打ち込み時に全VOCsの深度分布を把握してから、プローブの引き抜き時に任意の深度でプローブの引き上げを所定時間停止するか、又は引き上げ速度を著しく小さいものとし、この深度で地下水採取を行う。このため、所望の深度(最も全VOCs濃度が高い深度など)で地下水を採水して高精度の組成分析を行うことができる。
【0017】
このように所望の深度において全VOCsの濃度だけではなく、VOCsの組成を測定することができるので、実際の土壌又は地下水を採取することなく、汚染源に近い深度を探し当てることができるようになる。
【0018】
なお、プローブの打ち込み時には一定深度にプローブを位置させる時間が限られる(高濃度の深度にMIPプローブを固定し続けるとガスラインにVOCsが残ってしまうため)が、引き抜き時は時間制限がないため、上記の通り、多量の地下水を採取できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明方法を説明する地盤の断面図である。
図2】プローブの概略側面図である。
図3】測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明の一態様では、図1のように、先端にプローブ1を有した筒状の金属製ロッド2を地中(測定対象地盤)に所定深度まで打ち込む。この打ち込みには打撃式ボーリングマシンなどの打ち込みマシンを用いる。打ち込み途中で、地上への金属製ロッド突出長さが所定範囲となるように適時に金属製ロッド2を継ぎ足しながら打ち込みを継続する。
【0022】
この実施の形態では、プローブ1はMIP機能及びHPT機能を有している。
【0023】
MIPシステム用のために、プローブ1の側面には、VOCsを透過させるメンブレン1aが露呈状に設置されている。該プローブ1内には、該メンブレンの背後側に該メンブレンを透過してきたガスが流入するチャンバ(図示略)が設けられている。また、このメンブレンを加熱するためのヒーターが該プローブ1内に配置されている。
【0024】
該チャンバの一端側に対し、キャリアガスとして、窒素ガスボンベ等の窒素ガス源から窒素ガスが樹脂製チューブ等よりなる給気ライン3を介して定流速で供給される。チャンバの他端側から、VOCsを含んだ窒素ガスが流出ライン4を介して取り出され、ガスクロ等の測定器5に導入され、流出ガス中のVOCsの総量が測定される。
【0025】
また、プローブ1の側面には、HPTシステム用の吐水口(この実施の形態では採水口を兼ねる)1bが設けられると共に、電気伝導度計1cが設けられている。吐水口1bにはメッシュ等のフィルタが設けられている。
【0026】
プローブ1及びカラム2内に耐圧チューブ10が引き通されており、該チューブの先端が吐水口1bに接続されている。チューブ10の後端側は、地上に配置されたポンプ11の吐出口に接続されている。ポンプ11の吸込口は、ホース12を介して水タンク13に接続されている。
【0027】
チューブ10の途中に圧力センサ(図示略)及び弁15が設けられている。弁15よりもポンプ11と反対側のチューブ10から分岐チューブ20が分岐している。分岐チューブ20は、弁21、第1中継チューブ22を介してトラップビン23の流入部に接続されている。トラップビン23の流出部は、第2中継チューブ24を介して真空ポンプ25に接続されている。
【0028】
弁15を開、弁21を閉とし、プローブ1を略一定の打ち込み速度で目的深度まで打ち込みながら、ポンプ11を作動させて吐水口1bから水を土壌内に圧入し、このときの水圧を圧力センサで検出し、土壌の透水性を測定する。また、電気伝導度計1cによって電気伝導度を測定する。
【0029】
また、上記のようにプローブ1を略一定の打ち込み速度で目的深度まで打ち込みながら、ヒーター温度を80~125℃とし、プローブ1に窒素ガスを定流速で流し、流出ガスを流出ライン4を介して測定器5に導入する。測定器5の出力から、最も多量のVOCsが発生した深度を検出する。
【0030】
図3は、ガスクロよりなる測定器5の出力信号値の深度別出力信号値分布の一例を示している。図3の場合では、深度約5mにピークPが表われており、深度5m付近が最もVOCs濃度が高いことが分かる。
【0031】
所定の目的深度に達した後、打ち込みを停止し、ポンプ11を停止し、金属製ロッド2及びプローブ1を引き上げる。この引き上げ途中の深度5m付近でプローブ1の引き上げを所定時間停止するか、又は引き上げ速度を著しく小さいものとする。そして、弁15を閉とし、弁21を開とし、真空ポンプ25を作動させる。これにより、この深度5m付近の地下水が吐水口1b、チューブ10,20、弁21、チューブ22を介してトラップビン23に捕集される。
【0032】
所定量の地下水をトラップビン23に流入させて採取した後、弁21を閉とし、真空ポンプ25を停止し、プローブ1を地上に引き上げる。
【0033】
トラップビン23で捕集したサンプル地下水を測定器(ガスクロ)で成分分析し、VOCsの組成を求める。この測定器は、現場に配置されてもよく、他の箇所(例えば分析センター)に配置されてもよい。
【0034】
この土壌中の揮発性有機化合物の測定方法によると、プローブ1の打ち込み時に全VOCsの深度分布を把握してから、プローブ1の引き抜き時に、任意の深度(最も高濃度の深度、あるいは最も高濃度の深度の上部や下部、さらに帯水層の上部、中部、または下部に相当する深度であっても良い)でプローブ1を停止又は極低速として地下水を採取することができる。打ち込み時には一定深度にプローブ1を停止させておく時間が限られる(VOCsが高濃度の深度にプローブ1を位置させたままにしておくと、ガスラインにVOCsが残ってしまうため)が、引き抜き時は時間制限がないため、プローブ1を停止又は極低速として地下水を多量に採取することができる。
【0035】
このようにして、地下水汚染の深度分布を求めることができる。また、複数地点で同様の測定を行うことにより、地下水汚染の三次元分布を求めることができ、効果的に除染を行うことができる。
【0036】
一般に、土壌地下水汚染の原位置浄化において、汚染源を特定することが重要である。
本発明によると、得られる結果が全VOCsの濃度だけではなく、VOCsの組成が把握できることから、実際の土壌又は地下水を採取することなく、汚染源に近い深度を探し当てることができるようになる。
【0037】
なお、透水性評価での注水により、周辺の地下水が希釈されるが、それぞれの深度の地下水採取条件を揃えることで、相対的な地下水VOCs濃度の評価は可能である。例えば、土壌対策基本法のガイドラインに基づく採水方法では温度、電気伝導度またはpHが安定するまでパージをするので、その後で採水すればVOCs濃度の評価は可能である。
【0038】
本発明では、HPTによる透水性評価で注水後(例えばプローブ1が目的深度に到達した後)、弁15,21の開閉を切り替え、真空ポンプ25を稼働させて採水を行うことが好ましい。
【0039】
また、透水性評価で注水後、プローブ1の向きをずらし(例えばプローブ1を90~180°回す)、その後、真空ポンプ25を稼働させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 プローブ
1a メンブレン
1b 吐水口
1c 電気伝導度計
2 金属製ロッド
3 流入ライン
4 流出ライン
10 チューブ
11 ポンプ
13 水タンク
15,21 弁
23 トラップビン
25 真空ポンプ
図1
図2
図3