(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】X線センサ向けエピタキシャルウェーハおよびX線センサ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20240110BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20240110BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/322 P
H01L21/322 J
H01L21/322 M
H01L27/144 K
(21)【出願番号】P 2020191198
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥泰
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-032668(JP,A)
【文献】特開2009-212353(JP,A)
【文献】特開2011-222667(JP,A)
【文献】特開平08-130297(JP,A)
【文献】特開平05-235006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0280042(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/322
H01L 27/144
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線センサ向けエピタキシャルウェーハであって、
100μm以上の厚みと、1000Ω・cm以上の抵抗率と、1×10
17atoms/cm
3以下の酸素濃度とを有し、COPおよび転位クラスターを含まないシリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表面上に設けられ、2×10
16atoms/cm
3以下の酸素濃度のデバイス形成領域を有するシリコンエピタキシャル層と、
を備えることを特徴とするX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【請求項2】
前記シリコンウェーハがX線を検出するX線検出素子が形成されるX線検出素子形成領域を有し、前記シリコンエピタキシャル層における前記デバイス形成領域が前記X線検出素子からの信号を処理する回路が形成される信号処理回路形成領域を有する、請求項1に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【請求項3】
前記シリコンウェーハの裏面上に設けられたゲッタリングシンクをさらに備える、請求項1または2に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハの前記シリコンウェーハに形成された、X線を受光して検出する複数のX線検出素子と、
前記複数のX線検出素子の各々について前記シリコンエピタキシャル層に形成された、前記X線検出素子からの信号を処理する信号処理回路と、
を備え、
前記X線検出素子および前記信号処理回路の対が互いに素子分離されていることを特徴とするX線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線センサ向けエピタキシャルウェーハおよびX線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野や産業分野において、検査対象を非破壊で検査することが可能なX線センサが使用されている。こうしたX線センサとして、受光したX線をシリコンやゲルマニウムなどの半導体の内部で光電効果やコンプトン散乱により発生した電子により、その全てまたは一部のエネルギーに応じた電子正孔対を生成させ、生成した電子正孔対を電界で加速して電極に集めて検出するものがある。
【0003】
例えば、非特許文献1には、X線検出素子と信号処理回路とを別々に作製し、両者が金属バンプを用いてボンディング接続して構成されている。しかし、非特許文献1に記載されたX線センサでは、X線検出素子および信号処理回路のそれぞれに対して高い歩留まりが要求され、また、微細化の際には、金属バンプについても小さくする技術の確立が必要となり、開発要素が多い問題があった。
【0004】
そこで近年、X線検出素子および信号処理回路の双方を一体に形成されたX線センサが提案されている。例えば、非特許文献2には、SOIウェーハを用い、絶縁酸化膜の一方側のバルクシリコン領域にX線検出素子が形成され、他方側のバルクシリコン領域に信号処理回路が形成され、それらが絶縁酸化膜に形成されたビアを介して電気的に接続されたX線センサが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】2007年度STRJ年度報告書、第9章、9-5-2.
【文献】鶴剛ほか、「トリガ出力可能な光子計数型X線CMOS-SOIピクセル検出器の開発」、第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集、2018、21p-224B-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載されたSOIウェーハを用いたX線検出センサでは、SOIウェーハの絶縁酸化膜の熱伝導率が低いため、X線の検出の際に生じた熱がセンサ内部に蓄積して自己発熱し、誤動作などを引き起こすおそれがある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ウェーハ上にX線センサを形成した場合に、X線の検出の際に生じた熱がセンサ内部に蓄積するのを抑制することができるX線センサ向けウェーハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]X線センサ向けエピタキシャルウェーハであって、
100μm以上の厚みと、1000Ω・cm以上の抵抗率と、1×1017atoms/cm3以下の酸素濃度とを有し、COPおよび転位クラスターを含まないシリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表面上に設けられ、2×1016atoms/cm3以下の酸素濃度のデバイス形成領域を有するシリコンエピタキシャル層と、
を備えることを特徴とするX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【0009】
[2]前記シリコンウェーハがX線を検出するX線検出素子が形成されるX線検出素子形成領域を有し、前記シリコンエピタキシャル層における前記デバイス形成領域が前記X線検出素子からの信号を処理する回路が形成される信号処理回路形成領域を有する、前記[1]に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【0010】
[3]前記シリコンウェーハの裏面上に設けられたゲッタリングシンクをさらに備える、前記[1]または[2]に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハ。
【0011】
[4]前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のX線センサ向けエピタキシャルウェーハの前記シリコンウェーハに形成された、X線を受光して検出する複数のX線検出素子と、
前記複数のX線検出素子の各々について前記シリコンエピタキシャル層に形成された、前記X線検出素子からの信号を処理する信号処理回路と、
を備え、
前記X線検出素子および前記信号処理回路の対が互いに素子分離されていることを特徴とするX線センサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、X線の検出の際に生じた熱がセンサ内部に蓄積するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明によるX線センサ向けエピタキシャルウェーハの好適な一例を示す図である。
【
図2】チョクラルスキー法によりシリコン結晶を育成する際の結晶引き上げ方向の温度勾配に対する結晶引上げ速度の比と結晶欠陥分布との関係を説明する図である。
【
図3】本発明によるX線センサの一例を示す図である。
【
図4】実施例において使用したpn接合ダイオードの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(X線センサ向けエピタキシャルウェーハ)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明によるX線センサ向けエピタキシャルウェーハは、100μm以上の厚みと、1000Ω・cm以上の抵抗率と、1×1017atoms/cm3以下の酸素濃度とを有し、COPおよび転位クラスターを含まないシリコンウェーハと、上記シリコンウェーハの表面上に設けられ、2×1016atoms/cm3以下の酸素濃度のデバイス形成領域を有するシリコンエピタキシャル層とを備えることを特徴とする。
【0015】
上述のように、非特許文献2に記載されたSOIウェーハを用いてX線センサが形成されており、SOIウェーハを用いることにより、良好な素子分離や寄生容量の低減などを行うことができる。しかしながら、絶縁酸化膜の熱伝導率が低いため、X線検出によって生じた熱がセンサ内に蓄積されて自己発熱し、誤動作などを引き起こすおそれがある。
【0016】
本発明者は、SOIウェーハよりもX線を検出した際に発生する熱の蓄積を抑制することができるウェーハについて鋭意検討した。その結果、SOIウェーハのような絶縁酸化膜を有しないエピタキシャルウェーハを用いることに想到した。そして、本発明者は、エピタキシャルウェーハを構成するシリコンウェーハを、Grown-in欠陥(COPおよび転位クラスター)がなく、低酸素濃度(1×1018atoms/cm3以下)かつ高抵抗(1000Ω・cm以上)であり、X線を検出するのに十分な厚み(100μm以上)を有するように構成し、シリコンエピタキシャル層をX線検出素子からの信号を処理する信号処理回路を形成するのに十分な厚みの低酸素濃度(2×1016atoms/cm3以下)の領域を有するように構成すれば、X線センサを形成した際に、内部に熱が蓄積するのを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、各構成について説明する。
【0017】
図1は、本発明によるX線センサ向けエピタキシャルウェーハの好適な一例を示している。
図1に示したX線センサ向けエピタキシャルウェーハ1は、シリコンウェーハ11と、シリコンエピタキシャル層12と、ゲッタリングシンク13とを有する。シリコンエピタキシャル層12は、シリコンウェーハ11からの酸素が拡散した遷移領域12bと、酸素が拡散されていないデバイス形成領域12aとを有する。
【0018】
シリコンウェーハ11は、X線センサのX線検出素子を形成するための領域(X線検出素子形成領域)を有する。X線検出素子を形成するためには、シリコンウェーハ11は、Grown-in欠陥がなく、高抵抗であり、X線を検出するのに十分な厚みを有している必要がある。
【0019】
まず、Grown-in欠陥は、空孔が凝集して形成される空孔凝集欠陥(Crystal Originated Particle、COP)や、格子間シリコンが析出する転位クラスターなどを指し、製造されたシリコンウェーハ中に残留して、X線センサにおけるリーク電流の原因となり得る。そのため、シリコンウェーハ11にはGrown-in欠陥がないことが必要である。
【0020】
こうしたCOPおよび転位クラスターのないシリコンウェーハ11は、浮遊帯域溶融(Floating zone、FZ)法により育成した単結晶シリコンインゴット(以下、「シリコン結晶」とも言う。)に対してウェーハ加工処理を施すことにより、得ることができる。
【0021】
また、Grown-in欠陥のないシリコンウェーハ11は、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法により育成した単結晶シリコンインゴットのうち、COPおよび転位クラスターのない領域で構成されたシリコン結晶に対してウェーハ加工処理を施すことにより、得ることができる。
【0022】
CZ法によりシリコン結晶を育成する際に、固液界面からシリコン結晶に導入される空孔および格子間シリコンの挙動は、ボロンコフのモデルによって説明されている(例えば、V.V.Voronkov,J.Crystal Growth,59,625(1982)参照)。すなわち、固液界面近傍での単結晶シリコンの引き上げ方向の温度勾配Gに対する結晶の引き上げ速度vの比v/Gの値が臨界値(以下、「臨界v/G」とも言う。)よりも大きい場合には、空孔が格子間シリコンより優勢に導入され、温度の低下中に対消滅反応により格子間シリコンが消滅し、空孔のみが生き残る。これに対して、v/Gの値が臨界v/Gよりも小さい場合には、格子間シリコンが空孔より優勢に導入され、温度の低下中に空孔は消滅し、格子間シリコンのみが生き残る。そして、v/Gの値が臨界v/Gの近傍で点欠陥濃度が欠陥発生の臨界過飽和度未満である場合には、COPおよび転位クラスターのない無欠陥のシリコン結晶が得られる。
【0023】
図2は、v/Gの値とシリコン結晶内の欠陥分布との関係を示しており、横軸はシリコン結晶の直径方向の位置を示している。
図2に示すように、シリコン結晶は、v/Gの値が大きい順に、COPが検出される結晶領域であるCOP発生領域41、特定の酸化熱処理を施すとリング状のOSF領域として顕在化するOSF潜在核領域42、酸素の析出が起きやすくCOPが検出されない結晶領域である酸素析出促進領域(以下、「P
V(1)領域」ともいう)43、酸素析出物が存在しCOPが検出されない結晶領域である酸素析出促進領域(以下、「P
V(2)領域」ともいう)44、酸素の析出が起きにくくCOPが検出されない結晶領域である酸素析出抑制領域(以下、「P
I領域」ともいう)45、侵入型転位クラスターが検出される結晶領域である転位クラスター領域46によって構成される。
【0024】
v/Gの値に応じて上述のような欠陥分布を示すシリコン結晶のうち、PV(1)領域43、PV(2)領域44、およびPI領域45の結晶領域のいずれか、あるいはそれらの組み合わせで構成されたものは、COPおよび転位クラスターのないシリコン結晶となる。そこで、CZ法によりシリコンウェーハを作製する場合には、PV(1)領域43、PV(2)領域44、およびPI領域45の結晶領域のいずれか、あるいはそれらの組み合わせで構成されたシリコン結晶に対してウェーハ加工処理を施すことにより、COPおよび転位クラスターのない無欠陥のシリコンウェーハを得ることができる。
【0025】
ここで、本発明における「COPを含まないシリコンウェーハ」とは、以下に説明する観察評価により、COPが検出されないシリコンウェーハを意味するものとする。すなわち、まず、単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハに対して、SC-1洗浄(すなわち、アンモニア水と過酸化水素水と超純水とを1:1:15で混合した混合液による洗浄)を行い、洗浄後のシリコンウェーハ表面を、表面欠陥検査装置としてKLA-Tencor社製:Surfscan SP-2を用いて観察評価し、表面ピットと推定される輝点欠陥(Light Point Defect、LPD)を特定する。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行うものとする。こうして特定されたLPDに対して、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、AFM)を用いて、COPか否かを評価する。この観察評価により、COPが観察されないシリコンウェーハを「COPを含まないシリコンウェーハ」とする。
【0026】
また、エピタキシャルウェーハを用いた一般的なデバイス形成においては、シリコンウェーハ中の酸素を析出させてBMD(Bulk Micro Defect)を形成し、形成したBMDをウェーハ中に混入した重金属をゲッタリングするためのゲッタリングサイトとして使用する場合がある。しかし、X線センサにおいてBMDが存在するとリーク電流などの原因となり、デバイス性能を低下させる。そのため、シリコンウェーハ11は低酸素濃度であることが必要であり、具体的には、酸素濃度は1×1017atoms/cm3以下とする。なお、本発明において、酸素濃度は、ASTM F121-1979に規定される赤外吸収法に準拠して、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)を用いて測定される酸素濃度である。
【0027】
上述したFZ法により育成したシリコン結晶から得られるシリコンウェーハについては、1×1017atoms/cm3以下の酸素濃度を有するものとなる。一方、CZ法は、石英ルツボにシリコン原料を充填して加熱溶融するため、石英ルツボの酸素が溶融シリコン中に拡散し、1×1017atoms/cm3以下の低酸素濃度とすることは困難であるが、磁場印加CZ(Magnetic-field-applied Czochralski、MCZ)法などによって、1×1017atoms/cm3以下の酸素濃度を有するシリコン結晶を育成することができ、得られたシリコン結晶から1×1017atoms/cm3以下の酸素濃度を有するシリコンウェーハを得ることができる。
【0028】
また、X線を検出する際にはシリコンウェーハ11に高い電圧が印加されるため、シリコンウェーハ11は高抵抗である必要がある。そこで、本発明においては、シリコンウェーハ11の抵抗率は1000Ω・cm以上とする。
【0029】
シリコンウェーハ11の厚みについて、X線を受光して検出するために電子-正孔対を十分に形成するためには、現状では100μm程度必要である。そこで、本発明においては、シリコンウェーハ11の厚みは100μm以上とする。
【0030】
一方、シリコンエピタキシャル層12は、X線検出素子からの信号を処理する回路を形成するための領域(デバイス形成領域)を構成する。シリコンエピタキシャル層12は、例えばエピタキシャル成長装置を用いて、一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをエピタキシャル成長装置のチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、1000~1200℃程度の温度でCVD法によりシリコンウェーハ11上にエピタキシャル成長させることができる。
【0031】
その際、シリコンウェーハ11が高温に晒されるため、シリコンウェーハ11内の酸素がシリコンエピタキシャル層12内に拡散する。その結果、シリコンエピタキシャル層12のシリコンウェーハ11の直上の領域には、酸素が拡散した遷移領域12bが形成される。この遷移領域12b内の酸素はドナー化して抵抗率を変動させるなどの問題を引き起こす。そのため、遷移領域12bを信号処理回路の形成に使用することはできない。
【0032】
そこで、本発明においては、シリコンエピタキシャル層12の厚みを遷移領域12bの厚み分だけ厚くし、シリコンエピタキシャル層12の遷移領域12bを除く領域12aを、信号処理回路を形成するためのデバイス形成領域とする。シリコンエピタキシャル層12の酸素濃度は、通常2×1016atoms/cm3以下であるため、デバイス形成領域12aの酸素濃度は2×1016atoms/cm3以下となる。
【0033】
シリコンエピタキシャル層12のデバイス形成領域12aの厚みは、信号処理回路の設計に依存するが、例えば1~15μmとすることができる。上述のように、シリコンエピタキシャル層12は、シリコンウェーハ11から酸素が拡散した遷移領域12bを有するため、シリコンエピタキシャル層12の厚みは、上記デバイス形成領域12aの厚みに、遷移領域12bの厚みを足し合わせた厚みとすることが好ましい。
【0034】
また、シリコンエピタキシャル層12のデバイス形成領域12aの抵抗率は、1~10Ω・cmとすることが好ましい。
【0035】
なお、
図1に示すように、エピタキシャルウェーハ1は、シリコンウェーハ11の裏面上にゲッタリングシンク13をさらに備えることが好ましい。上述のように、シリコンウェーハ11は低酸素濃度(1×10
18atoms/cm
3以下)を有するため、BMDを析出させてゲッタリングサイトとすることができない。そこで、シリコンウェーハ11の裏面上にゲッタリングシンク13を設けることにより、外部から浸入した重金属を捕獲することができる。
【0036】
上記ゲッタリングシンク13としては、シリコンウェーハ11の裏面にポリシリコンを堆積してポリバックシール(PBS)を形成したり、シリコンウェーハ11の裏面を研削して歪み領域を形成したり、シリコンウェーハ11の裏面に炭素などのイオンを注入して形成したりすることができる。
【0037】
(X線センサ)
本発明によるX線センサは、上述した本発明によるX線センサ向けエピタキシャルウェーハのシリコンウェーハに形成された、X線を受光して検出する複数のX線検出素子と、複数のX線検出素子の各々についてシリコンエピタキシャル層に形成された、X線検出素子からの信号を処理する信号処理回路とを備え、X線検出素子および信号処理回路の対が互いに素子分離されていることを特徴とする。
【0038】
上述のように、
図1に示した本発明によるX線センサ向けエピタキシャルウェーハ1は、X線検出の際に発生した熱を蓄積する原因となる絶縁酸化膜を有しておらず、シリコンウェーハ11は、Grown-in欠陥(COPおよび転位クラスター)を有しておらず、低酸素濃度(1×10
18atoms/cm
3以下)かつ高抵抗(1000Ω・cm以上)であり、X線を検出するのに十分な厚み(100μm以上)を有する。また、シリコンエピタキシャル層12は、X線検出素子からの信号を処理する信号処理回路を形成するのに十分な厚みの低酸素濃度(2×10
16atoms/cm
3以下)の領域を有する。そのため、エピタキシャルウェーハ1のシリコンウェーハ11にX線検出素子を形成し、シリコンエピタキシャル層12にX線検出素子からの信号を処理する信号処理回路を形成することにより、X線検出の際の熱を蓄積するのを抑制することができるX線センサを構成することができる。
【0039】
図3は、本発明によるX線センサの一例を示している。
図3に示したX線センサ100は、
図1に示したエピタキシャルウェーハ1のシリコンウェーハ11内にX線を受光して検出する複数のX線検出素子21が形成されており(
図3では1つのX線検出素子のみが示されている。)、シリコンエピタキシャル層12に複数のX線検出素子の各々についてX線検出素子からの信号を処理する信号処理回路22が形成されている。X線検出素子21、信号処理回路22には、それぞれ第1の配線23、第2の配線24が接続されている。また、STI(Shallow Trench Isolation)25およびガードリング26によって、X線検出素子21および信号処理回路22の対が互いに素子分離されている。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0041】
<熱伝導率の評価>
熱伝導性に関して、従来例に対応するn型10Ω・cmのCZシリコンウェーハ上に熱酸化法により厚み5μmの酸化膜を形成したウェーハサンプル、および発明例に対応する抵抗率が1000Ω・cmのn型FZウェーハサンプルを作製した。これらサンプルの表面に熱を印加する前の抵抗値および熱を印加した後の抵抗値を測定することによって、熱伝導率を評価した。その結果、FZウェーハサンプルについては熱抵抗率が291W/mK、酸化膜を形成したCZウェーハサンプルについては熱抵抗率が120W/mKとなり、FZウェーハサンプルの1/2未満であった。このように、酸化膜を含むSOIウェーハにX線センサを形成すると、酸化膜を含まないウェーハにX線センサを形成した場合に比べて、放熱性が悪化することが予想される。
【0042】
(発明例1)
FZ法によりn型(ドーパント:リン)の単結晶シリコンインゴットを作製し、得られた単結晶シリコンインゴットに対してウェーハ加工処理を施して、シリコンウェーハ(抵抗率:1000Ω・cm、厚み:750μm、酸素濃度:6×1015atoms/cm3)を得た。得られたシリコンウェーハ上にCVD法により1150℃でp型(ドーパント:ホウ素)のシリコンエピタキシャル層(抵抗率:1Ω・cm、厚み:7μm)を形成した。そして、シリコンウェーハの裏面上にPBS膜を形成した。こうして、発明例1によるエピタキシャルウェーハを得た。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0043】
【0044】
(発明例2)
発明例1と同様に、発明例2によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、単結晶シリコンインゴットの作製はMCZ法により行い、1×1017atoms/cm3の酸素濃度を有するシリコンウェーハを得た。その他については、発明例1と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0045】
(従来例)
発明例2と同様に、比較例1によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、シリコンエピタキシャル層の厚みを5μmとした。その他については、発明例2と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
発明例2と同様に、比較例1によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、単結晶シリコンインゴットの作製はMCZ法により行い、4×1017atoms/cm3の酸素濃度を有するシリコンウェーハを得た。その他については、発明例2と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
発明例2と同様に、比較例2によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、単結晶シリコンインゴットの作製はMCZ法により行い、7×1017atoms/cm3の酸素濃度を有するシリコンウェーハを得た。その他については、発明例2と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0048】
(比較例3)
発明例1と同様に、比較例3によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、シリコンウェーハの抵抗率を10Ω・cmとした。その他については、発明例1と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0049】
(比較例4)
発明例1と同様に、比較例4によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、シリコンウェーハの抵抗率を100Ω・cmとした。その他については、発明例1と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0050】
(発明例3)
発明例1と同様に、発明例3によるエピタキシャルウェーハを得た。ただし、シリコンウェーハの抵抗率を10000Ω・cmとした。その他については、発明例1と全て同じである。得られたエピタキシャルウェーハの詳細を表1に示す。
【0051】
<pn接合ダイオードの特性評価>
発明例1~3、従来例、比較例1~4のエピタキシャルウェーハのシリコンエピタキシャル層に、
図4に示すpn接合ダイオードを作製し、その特性評価を行った。具体的には、まずp型シリコンエピタキシャル層にn型のWell領域を形成し、次いでn型Well領域内にp型領域を形成してpn接合領域を形成した。次に、シリコンエピタキシャル層上に層間絶縁膜およびAl配線電極をパターニングして、pn接合の特性評価が可能なpn接合ダイオードを作製した。作製したpn接合ダイオードを流れる逆方向電流をIV測定により評価した。その際、n型Well領域とシリコンウェーハ裏面を0Vに固定し、p型領域に0Vから-10Vまで電圧を印加して、pn接合領域を流れる電流を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0052】
表1に示すように、IV測定の結果、従来例については1×10-4A/cm2、発明例1~3、比較例3、4については1×10-10A/cm2、比較例1、2については1×10-8A/cm2以上の電流が流れた。SIMS分析の結果、従来例では、酸素がシリコンウェーハからシリコンエピタキシャル層へ2μm拡散し、発明例1、2、比較例1、2においては2.5μm拡散していることが分かった。発明例1、2、比較例1、2においては従来例より2μm厚いシリコンエピタキシャル層が形成されているため、酸素によるリーク電流の増加が抑制されたと考えられる。
【0053】
<X線センサの性能評価>
発明例1~3、従来例、比較例1~4によるエピタキシャルウェーハにおいて、
図3に示した構造を有するX線センサをシリコンウェーハ内に作製し、X線センサの受光特性を評価した。作製したX線センサに対して、X線をシリコンウェーハ裏面に照射し、シリコンウェーハを透過したX線の受光量を光電変換して電流値にて評価した。その際、第2の配線24を0Vで固定し、第1の配線23に電圧を印加した。X線を受光した場合には、X線検出素子21において電子正孔対が発生し、第1の配線23と第2の配線24との間に電流が流れる。本評価においては、X線照射後に1×10
-3A/cm
2以上流れた場合にX線を受光したと判断して○と判定し、流れなかった場合にX線を受光できなかったと判断して×と判定した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
表1に示すように、従来例および比較例1、2では、第1の配線23と第2の配線24との間に電圧を印加した状態かつX線を照射しない状態で、正常であれば配線間に電流が1×10-10A/cm2しか流れないところを1×10-6A/cm2流れてしまい、X線センサとして機能させることができなかった。これは、CZ法により作製したシリコンウェーハの内部に含有する格子間酸素が欠陥を形成してリーク電流源になったと考えられる。
【0055】
また、比較例3、4については、X線検出素子が形成された領域の抵抗率が低いために空乏層が十分に広がらず、X線を十分に検出できず、X線照射後に1×10-3A/cm2以上の電流は流れなかった。これに対して、発明例1~3については、X線照射後に1×10-3A/cm2以上の電流が流れ、照射したX線を検出することができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、X線の検出の際に生じた熱がセンサ内部に蓄積するのを抑制することができるため、半導体産業において有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 エピタキシャルウェーハ
11 シリコンウェーハ
12 シリコンエピタキシャル層
12a デバイス形成領域
12b 遷移領域
13 ゲッタリングシンク
21 X線検出素子
22 処理回路
23 第1の配線
24 第2の配線
25 STI
26 ガードリング
41 COP発生領域
42 OSF潜在核領域
43 酸素析出促進領域
44 酸素析出促進領域
45 酸素析出抑制領域
46 転位クラスター領域
100 X線センサ