(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】暗色粉分散液、暗色粉分散体ならびに着色層付基材
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240110BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240110BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240110BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240110BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240110BHJP
B32B 17/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09D201/00
C01G41/00 A
C08K3/22
C09D5/00 Z
C09D7/61
B32B27/20 A
B32B17/00
(21)【出願番号】P 2020191647
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020098196
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝郁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美香
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314752(JP,A)
【文献】特開2007-311208(JP,A)
【文献】特開2008-231164(JP,A)
【文献】特開2013-170239(JP,A)
【文献】特開2012-229388(JP,A)
【文献】国際公開第2009/020207(WO,A1)
【文献】特開平2-49755(JP,A)
【文献】特表2020-533172(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0043423(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0023041(KR,A)
【文献】特開2005-330337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C01G 25/00- 47/00
C01G 49/10- 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00- 10/00
C09D 15/00- 17/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗色顔料と複合タングステン酸化物粒子と溶媒とを含み、
前記暗色顔料と前記複合タングステン酸化物粒子との質量比(暗色顔料質量/複合タングステン酸化物微粒子質量)の値が0.01以上5以下であ
り、
前記暗色顔料が、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料、Cu-Cr-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr-Mn-Ni複合酸化物顔料、Cu-Cr-Fe複合酸化物顔料、Fe-Cr複合酸化物顔料、Co-Cr-Fe複合酸化物顔料から選択される1種類以上の暗色顔料であり、
前記複合タングステン酸化物粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Naの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物粒子であることを特徴とする暗色粉分散液。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の暗色粉分散液。
【請求項3】
前記暗色顔料が、平均分散粒子径200nm以下の粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の暗色粉分散液。
【請求項4】
前記暗色粉分散液が、金属不活剤または金属塩から選択される1種類以上を含む
請求項1から3のいずれかに記載の暗色粉分散液。
【請求項5】
前記溶媒が、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、プラスチック用の液状の可塑剤、または、これらの混合物から選択されることを特徴とする
請求項1から4のいずれかに記載の暗色粉分散液。
【請求項6】
暗色顔料と複合タングステン酸化物粒子と固体媒体とを含み、
前記暗色顔料と前記複合タングステン酸化物粒子との質量比(暗色顔料質量/複合タングステン酸化物微粒子質量)の値が0.01以上5以下であ
り、
前記暗色顔料が、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料、Cu-Cr-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr-Mn-Ni複合酸化物顔料、Cu-Cr-Fe複合酸化物顔料、Fe-Cr複合酸化物顔料、Co-Cr-Fe複合酸化物顔料から選択される1種類以上の暗色顔料であり、
前記複合タングステン酸化物粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Naの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物粒子であることを特徴とする暗色粉分散体。
【請求項7】
前記複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を含むことを特徴とする
請求項6に記載の暗色粉分散体。
【請求項8】
前記暗色顔料が、平均分散粒子径200nm以下の粒子であることを特徴とする
請求項6または7に記載の暗色粉分散体。
【請求項9】
前記分散体が、金属不活剤または金属塩から選択される1種類以上を含む
請求項6から8のいずれかに記載の暗色粉分散体。
【請求項10】
前記固体媒体が樹脂であることを特徴とする
請求項6から9のいずれかに記載の暗色粉分散体。
【請求項11】
透明基材の少なくとも一方の表面に着色層が設けられ、前記着色層が
請求項6から10のいずれかに記載の暗色粉分散体であることを特徴とする着色層付基材。
【請求項12】
前記透明基材が、透明フィルム基材または透明ガラス基材であることを特徴とする
請求項11に記載の着色層付基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建物の窓カラス等の着色に用いる暗色粉分散液、暗色粉分散体ならびに着色層付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車や建物の窓ガラスに遮光フィルムを貼着することにより、車外または屋外から車内または室内を透視し得ないようにして、プライバシーを保護し且つファッション性を高めることが行われている。
【0003】
このような遮光フィルムは、PETフィルムなどの透明フィルム基材の表面に着色層を設けたもので、当該着色層は顔料を固体媒体の樹脂に分散した顔料分散体である。このような顔料には、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn―Ni複合酸化物顔料、Cu-Cr―Fe複合酸化物顔料、Fe-Cr複合酸化物顔料およびCo―Cr―Fe複合酸化物顔料、チタンブラック、窒化チタン、酸窒化チタン、暗色アゾ顔料、ペリレンブラック顔料、アニリンブラック顔料、カーボンブラックを用いることができることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1にはヘイズ値を低く抑えた遮光フィルムの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、自動車や建物の意匠性向上のため、遮光フィルムには彩度の低い深い黒色が求められている。ところが、暗色顔料を樹脂などの固体媒体に分散した暗色粉分散体は、当該暗色顔料が有する色彩のため、彩度が高くなり、彩度の低い深い黒色が得られない場合がある。
また、当該遮光フィルムの使用用途によっては、耐湿熱性が求められる場合もあった。
【0007】
本発明は、上述の状況のもとで為されたものであり、その解決しようとする課題は、彩度が低く、深い黒色を示す暗色粉分散体や、着色層付基材、また、これらを形成するための暗色粉分散液を提供することにあり、さらには、耐湿熱性に優れた暗色粉分散体や、着色層付着基材、また、これらを形成するための暗色粉分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
暗色顔料と複合タングステン酸化物粒子と溶媒とを含み、
前記暗色顔料と前記複合タングステン酸化物粒子との質量比(暗色顔料質量/複合タングステン酸化物微粒子質量)の値が0.01以上5以下であることを特徴とする暗色粉分散液である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、彩度の低い深い黒色を示す暗色粉分散体、着色層付基材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例8、10~12に係る着色層付基材を用いた耐湿熱評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る暗色粉分散液は、暗色顔料と複合タングステン酸化物粒子と溶媒とを含み、前記暗色顔料と前記複合タングステン酸化物粒子との質量比(暗色顔料質量/複合タングステン酸化物微粒子質量)の値が0.01以上5以下であることを特徴とする。そして、当該暗色粉分散液は、暗色粉分散体や着色基材を製造するのに用いられるものである。
【0012】
以下、本発明について、(1)暗色顔料、(2)複合タングステン酸化物微粒子、(3)暗色粉分散液、(4)暗色粉分散体、(5)着色層付基材、の順に説明する。
【0013】
(1)暗色顔料
暗色顔料は、遮光フィルムの着色層の暗色粉分散体に着色し、可視光透過率を下げる顔料である。
【0014】
しかし、暗色顔料は、色調として黄色みを帯びたり、緑味を帯びたりすることがある。そのため、これらの暗色顔料を用いただけでは、彩度の低い深い黒味を出すことが困難な場合がある。
【0015】
なお、本発明において彩度とは、JIS Z 8701 1999およびJIS Z 8781-4 2013に基づくL*、a*、b*表色系における彩度c*のことである。そして、彩度c*は次式1で示される。
彩度c*=(a*2+b*2)1/2・・・・式1
【0016】
ここで、本発明者らは、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn―Ni複合酸化物顔料、Cu-Cr―Fe複合酸化物顔料、Fe-Cr複合酸化物顔料、Co―Cr―Fe複合酸化物顔料、チタンブラック、窒化チタン、酸窒化チタン、暗色アゾ顔料、ペリレンブラック顔料、アニリンブラック顔料、カーボンブラックから選択される暗色顔料(黒色顔料)と、後述する複合タングステン酸化物微粒子とを混合使用する構成に想到した。
【0017】
つまり、暗色顔料の黄色味や緑味を、複合タングステン酸化物微粒子の青味で補うことで、彩度の低い深い黒色を実現したものである。
【0018】
これら暗色顔料のうちCu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr―Mn―Ni複合酸化物顔料、Cu-Cr―Fe複合酸化物顔料、Fe-Cr複合酸化物顔料およびCo―Cr―Fe複合酸化物顔料は、スピネル構造を有する複合酸化物であることが知られている。そして、Cu、Fe、Mn等の化合物等を原料として、500℃以上の温度で焼成して合成されるものである。
【0019】
顔料の色は、例えば、短波長領域の光を遮蔽する材料を用いると可視光の短波長領域(青色)も若干遮蔽され、暗色粉分散体は黄色味を帯びる。一方、長波長領域の光を遮蔽する材料を用いると可視光の長波長領域(赤色)も若干遮蔽され、暗色粉分散体は青みを帯びる。そして、短波長および長波長の両領域の光を遮蔽する材料を用いた場合、暗色粉分散体は緑味を帯びる。そのため、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子を組み合わせることで、本発明に係る暗色粉分散体において、彩度の低い深い黒色が表現出来ることに想到したものである。
そして好ましいことには、複合タングステン酸化物微粒子が、可視光線よりも近赤外線を吸収して遮蔽するため、本発明に係る暗色粉分散体を遮光フィルムに用いると、太陽光線に含まれる近赤外線を吸収し遮蔽して、室内に入り込むことを防ぎ、室温上昇を抑制する効果を得ることができる。
【0020】
暗色顔料の平均分散粒子径は、200nm以下が好ましく、1nm以上100nm以下がさらに好ましい。これは、暗色顔料の平均分散粒子径が200nmを超えると、暗色粉分散体のヘイズが高くなることがあるからである。なお、暗色顔料の平均分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0021】
(2)複合タングステン酸化物微粒子
本発明に用いる複合タングステン酸化物微粒子について、(a)複合タングステン酸化物微粒子の性状、(b)複合タングステン酸化物微粒子の製造方法、の順に説明する。
【0022】
(a)複合タングステン酸化物微粒子の性状
複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される組成を有するとき近赤外線吸収する特性を発揮し、近赤外線吸収微粒子となることから好ましい構成である。
【0023】
当該一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子について、さらに説明する。
一般式MxWyOz中のM元素、x、y、zの値およびその結晶構造は、近赤外線吸収微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、近赤外線吸収特性に大きな影響を及ぼす。
【0024】
一般に、三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため、近赤外線吸収特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へ、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効なものとなり、且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた近赤外線吸収材料として有効なものとなることを知見したものである。さらに、M元素は、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Cu、Al、Mn、Inが好ましいこと、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなり、可視光線を透過し、近赤外線を吸収し遮蔽する特性を発揮する。
【0025】
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする近赤外線吸収特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0026】
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される複合タングステン微粒子において、z/yの値は2.0<z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0を超えていれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外の化合物であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な近赤外線吸収材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい近赤外線吸収材料となる。
【0027】
当該複合タングステン酸化物微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるが、いずれの構造をとるときも近赤外線吸収材料として有効である。しかしながら、当該複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向がある。即ち、近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
【0028】
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、近赤外線領域の光をより遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
【0029】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.29≦x/y≦0.39である。理論的にはz/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
当該複合タングステン酸化物微粒子の平均分散粒子径は、800nm以下1nm以上であることが好ましく、さらに好ましくは、200nm以下1nm以上である。複合タングステン酸化物微粒子の平均分散粒子径が、200nm以下であることが好ましいことは、暗色粉分散液中の複合タングステン酸化物微粒子においても同様である。これは、平均分散粒子径が200nm以下であれば、ヘイズを低く抑えることができるからである。平均分散粒子径は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上である。なお、平均分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0030】
そして、これらの複合タングステン酸化物微粒子を、単独で樹脂などの固体媒体に分散した複合タングステン酸化物微粒子分散体は、L、a*、b*表色系でa*、b*が負の値を示し、青みを帯びる。可視光透過率が70%を超える高い領域では青みの着色はそれほど強くないが、可視光透過率が5~70%と低い領域では強く着色する。さらに可視光透過率が1%未満と極端に低い場合には膜が黒くなり青みが目立たなくなるが、彩度が高く、深みのある黒色は実現できない。
【0031】
(b)複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
タングステン化合物出発原料には、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、または酸化タングステンの水和物、または、六塩化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。
【0032】
複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液である各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、六塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。さらに、元素Mを元素単体または化合物の形態で含有するタングステン化合物を出発原料とする。
【0033】
ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0034】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。
まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることがよい。
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を、まず還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないが、H2が好ましい。そして、還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N2等の不活性ガスにH2を体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。H2が体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
水素で還元された出発原料粉末は、マグネリ相を含み、良好な熱線遮蔽特性を示す。従って、この状態でも熱線遮蔽微粒子として使用可能である。
【0035】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物、好ましくは、酸化物で被覆された表面処理されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。前記表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物有機化合物を用いて公知の表面処理を行えばよい。例えば、複合タングステン酸化物微粒子と有機ケイ素化合物を混合し、加水分解等を行えばよい。
【0036】
(3)暗色粉分散液
本発明に係る暗色粉分散液は、上述した暗色顔料と複合タングステン酸化物とを適宜な溶媒中に混合・分散したものである。
【0037】
以下、本発明に係る暗色粉分散液について、(a)暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子の配合割合、(b)溶媒、(c)分散剤、(d)暗色粉分散液の製造方法、(e)その他の添加剤、の順に説明する。
【0038】
(a)暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子の配合割合
本実施形態に係る暗色粉分散液に含まれる、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子との配合割合(暗色顔料質量/複合タングステン酸化物微粒子質量)の値は0.01以上5以下、好ましくは0.05以上1以下、より好ましくは0.1以上0.2以下である。つまり、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子とを所定比率で組み合わせることで、暗色顔料の黄色味や緑味を、複合タングステン酸化物微粒子の青味で補うことで、彩度の低い深い黒色を実現したものである。
【0039】
顔料の色は、紫外線を遮蔽する材料を用いると可視光の短波長領域(青色)も若干遮蔽され、暗色粉分散体は黄色味を帯びる。一方、近赤外線を遮蔽する材料を用いると可視光の長波長領域(赤色)も若干遮蔽され青みを帯びる。そして、紫外線および近赤外線両方を遮蔽する材料を用いた場合、緑味を帯びる。そのため、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子を組み合わせることで、本実施形態の暗色粉分散体において、彩度の低い深い黒色が表現出来ることに想到したものである。
そして、複合タングステン酸化物微粒子は、可視光線よりも近赤外線を吸収して遮蔽するため、本実施形態に係る暗色粉分散体を遮光フィルムに用いたり、着色層付基材に用いると、太陽光線に含まれる近赤外線を吸収し遮蔽して、室内や車内に入り込むことを防ぎ、温度の上昇を抑制することができる。
【0040】
(b)溶媒
本発明に係る暗色粉分散液に用いる溶媒は、特に限定されるものではなく、塗布・練り込み条件、塗布・練り込み環境、さらに、無機バインダーや樹脂バインダーを含有させるときは、当該バインダーに合わせて適宜選択すれば良い。例えば、水、エタノ-ル、プロパノ-ル、ブタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、イソブチルアルコ-ル、ジアセトンアルコ-ルなどのアルコ-ル類、メチルエ-テル、エチルエ-テル、プロピルエ-テルなどのエ-テル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類といった各種の有機溶媒が使用可能である。
さらに、当該溶媒には、樹脂のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。さらには、スチレン樹脂などをトルエンに溶解した液状樹脂、プラスチック用の液状の可塑剤を用いてもよい。
また、上述した溶媒の混合物を用いてもよい。
【0041】
本実施形態の暗色粉分散液には、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子の合計100質量部に対して溶媒が50質量部以上2000質量部以下含まれることが望しく、200質量部以上がさらに望ましい。
【0042】
(c)分散剤
暗色粉分散液中における微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。また、溶媒に水や水溶性の有機物を用いる場合は、必要に応じて酸やアルカリを添加して、当該分散液のpH調整をしてもよい。
【0043】
分散剤は、アミノ基を備えた高分子分散剤が望ましい。上述した暗色顔料粒子や複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、当該複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、暗色粉分散体中でこれらの微粒子を均一に分散させる効果を発揮するものである。アミノ基を備えた高分子分散剤のアミン価は5~100mgKOH/gであることが好ましく、分子量Mwは2000~200000であることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るアミノ基高分子分散剤は、当該分散剤の分子にアミノ基などの塩基性基を備えた化合物である。このような分散剤の分子にアミノ基などの塩基性基を有する化合物としては、主鎖にポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アマイド樹脂が例示される。より好ましいのは、主鎖にアクリル樹脂を備える化合物である。
【0045】
また、このようなアミノ基を備えた高分子分散剤の好ましい市販品例としては、Disperbyk-112、Disperbyk-116、Disperbyk-130、Disperbyk-161、Disperbyk-162、Disperbyk-164、Disperbyk-166、Disperbyk-167、Disperbyk-168、Disperbyk-2001、Disperbyk-2020、Disperbyk-2050、Disperbyk-2070、Disperbyk-2150等のビックケミー・ジャパン社製のアミノ基高分子分散剤、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB711等の味の素ファインテクノ社製のアミノ基高分子分散剤、ディスパロン1860、ディスパロンDA703-50、ディスパロンDA7400等の楠本化成社製のアミノ基高分子分散剤、EFKA-4400、EFKA-4401、EFKA-5044、EFKA-5207、EFKA-6225、EFKA-4330、EFKA-4047、EFKA-4060等のBASFジャパン社製のアミノ基高分子分散剤、等が挙げられる。
【0046】
さらに、アミノ基高分子分散剤へ水酸基および/またはカルボキシル基を有する分散剤を併用してもよいし、アミノ基を備えた高分子分散剤が水酸基および/またはカルボキシル基を備えてもよい。このような高分子分散剤は、いずれも上述した複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、当該複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、暗色粉分散体中でこれらの微粒子を均一に分散させる効果を発揮するものである。
【0047】
水酸基を備えた高分子分散剤のOH価は、10~200mgKOH/gであることが好ましく、分子量Mwは1000~150000であることが好ましい。
本実施形態に係る水酸基を備えた高分子分散剤としては、水酸基を備えたアクリル樹脂(アクリルポリオールということもある)、水酸基を有するアクリル・スチレン共重合体などが挙げられる。
当該水酸基を備えた高分子分散剤には、アクリルポリオール類や、東亜合成社製のUHシリーズ等の市販品が挙げられる。
【0048】
カルボキシル基を備えた高分子分散剤の酸価は0.1~100mgKOH/gであることが好ましく、分子量Mwは2000~200000であることが好ましい。
本実施形態に係るカルボキシル基を備えた高分子分散剤としては、カルボキシル基をを備えたアクリル樹脂やアクリル・スチレン共重合体等が挙げられる。
カルボキシル基を備えた高分子分散剤には、酸価が1以上の市販のアクリル樹脂や、東亜合成社製のUCシリーズやUFシリーズ等が挙げられる。
【0049】
本発明に係る暗色粉分散液において、これらの高分子分散剤の合計の含有量は、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子との合計100質量部に対し、分散剤の固形分として20質量部以上200質量部以下であることが好ましい。これは高分子分散剤の含有量が当該範囲にあることで、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子とが暗色粉分散体中で均一に分散し、低いヘイズを実現できるからである。具体的には、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子の合計100質量部に対し、アミノ基高分子分散剤を20質量部以上含有させることで暗色粉分散体のヘイズ値を低減させることが出来、200質量部以下含有させることで、暗色粉分散体の機械的強度を確保できる。
【0050】
(d)暗色粉分散液の製造方法
暗色粉分散液を製造する際の分散方法は、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子を分散液中へ均一に分散する方法であればよく、例えば、ビ-ズミル、ボ-ルミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザ-など用いることができる。
【0051】
また、暗色粉分散液を得るために、暗色顔料と溶媒と適宜添加される高分子分散剤を含む顔料分散液と、複合タングステン酸化物微粒子と溶媒と適宜添加される高分子分散剤を含む複合タングステン酸化物分散液を、それぞれ上述の分散方法で調製し、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子の配合割合が所定の値になるように混合してもよい。
【0052】
(e)その他の添加剤
後述する「(4)暗色粉分散体」や「(5)着色層付基材」において耐湿熱性が求められる場合、当該耐湿熱性の向上の為、それらの製造に用いる暗色粉分散液ヘ、さらに添加剤を添加することも好ましい構成である。
【0053】
本発明者らは、本発明に係る暗色粉分散体や着色層付基材が、耐湿熱性を求められる状況下で使用される場合もあることに鑑み、暗色粉分散体や着色層付基材の近赤外線遮蔽特性が、水分や熱により経時的に低下する原因について研究を行った。そして、空気中から侵入してきた水分や、暗色粉由来の金属イオンあるいは外界からの紫外線等が、当該暗色粉分散体や着色層付基材を構成する固体媒体や透明フィルム基材へ触媒的に作用することで、分解劣化を引き起こす。そして、当該分解劣化の際に発生した分解物(ラジカル)が、複合タングステン酸化物微粒子中の元素Mを脱離させてしまうため、近赤外線遮蔽特性が経時的に低下すると推察するに至った。
【0054】
本発明者らは、上述の推察に基づき、暗色粉分散液中へ、添加材として金属不活剤や金属塩を添加することにより、暗色粉分散体中や着色層付基材中へ金属不活剤や金属塩を存在させる構成に想到した。当該構成により、金属不活剤や金属塩が赤外線遮蔽材料微粒子の近傍または/および表面に存在することとなる。すると、当該金属不活剤や金属塩の作用により、空気中等から侵入する水分が十分に捕捉される。また、この金属不活剤や金属塩の作用により、暗色粉由来の金属イオンや、紫外線等によって発生したラジカルも補足され、有害ラジカルが連鎖的に発生することが抑制される。この結果、赤外線遮蔽特性の経時的な低下が抑制されることに想到した。
尤も、これら金属不活剤や金属塩の作用については未解明な点も多く、前記以外の作用が働いている可能性も考えられる為、前記作用に限定されるわけではない。
【0055】
金属不活化剤の具体例としては、サリチル酸誘導体であるN-(2H-1,2,4-トリアゾール-5-イル)サリチルアミド、N,N─ビス(6,5─ジ─t─ブチルサリチロイル)ヒドラジン、N,N─ビス(6─t─ブチルメチルサリチロイル)ヒドラジン等、ヒドラジン誘導体であるドデカン二酸ビス[N2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-N´-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノイル]プロパンヒドラジド等、
シュウ酸誘導体であるN,N´-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、N´-ベンジリデンヒドラジド、オキサリル-ビス(ベンジリデンヒドラジド)等を好ましく挙げることが出来る。
また、金属塩の具体例としては、乳酸塩である乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウム、乳酸カルシウム等や、炭酸塩である炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム(炭酸水酸化マグネシウム)、炭酸ストロンチウム等、を好ましく挙げることが出来る。
【0056】
また、金属不活化剤や金属塩の添加量(但し、本発明においては、当該金属不活化剤や金属塩が、結晶水や水和水を含む場合、当該結晶水や水和水の質量を除いた、金属不活化剤や金属塩自体の質量を添加量とする。)は、暗色顔料に対し質量比で2倍以上10倍以下とすることが好ましい。これは、暗色顔料に対し質量比で2倍以上の添加量することで、金属不活化剤や金属塩の効果を得ることが出来ることによる。一方、暗色顔料に対し質量比で10倍以以下の添加量とすることで、金属不活化剤や金属塩による光の散乱の為にフィルムの透明性が維持出来なくなることを回避出来ることによる。
【0057】
暗色粉分散液ヘ各種の金属不活化剤や金属塩を添加するのは、暗色粉分散液を調製した後に添加することが好ましい。そして、金属不活化剤や金属塩が粉末の場合は、暗色粉分散体中や着色層付基材における光の散乱の発生を抑制するために、粒径を小さくすることが好ましい。具体的には、5nm~100nmの粒径が望ましい。100nm以下であれば光の散乱を抑制でき、フィルムの透明度を担保することが出来る。5nm以上であれば、金属不活化剤や金属塩が過粉砕となる事態を回避出来、生産性の観点からも好ましい。
【0058】
上述の観点から、金属不活化剤や金属塩が粉末状である場合、粉末状の金属不活化剤や金属塩と、適宜な溶媒とを混合して粉砕処理し、粉砕液を調製することが好ましい。
溶媒は、特に限定されるものではなく、暗色粉分散系や、暗色粉分散体、着色層付基材に合わせて適宜選択すれば良い。例えば、水、エタノ-ル、プロパノ-ル、ブタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、イソブチルアルコ-ル、ジアセトンアルコ-ルなどのアルコ-ル類、メチルエ-テル、エチルエ-テル、プロピルエ-テルなどのエ-テル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類といった各種の有機溶媒が使用可能である。さらに、当該溶媒として、樹脂のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。さらには、スチレン樹脂などをトルエンに溶解した液状樹脂、プラスチック用の液状の可塑剤を用いてもよい。
また、上述した溶媒の混合物を用いてもよい。
【0059】
上述した粉砕処理の方法としては、一般的な粉砕方法で良く、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどを用いることができる。
調製された粉砕液を暗色粉分散液に添加する際は、例えば、超音波処理を5分間~10分間行うことで、粉砕液を暗色粉分散液ヘ均一に分散させることが好ましい。
【0060】
(4)暗色粉分散体
本発明に係る暗色粉分散体は、上述した暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子とを適宜な固体媒体中に分散して得られる。
具体的には、暗色粉分散液に固体媒体を構成する樹脂を添加し、暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)を得る。そして、適宜な基材表面へ、当該暗色粉分散体形成用分散液をコーティングし、溶媒を蒸発等の所定の方法で除去して樹脂を硬化させれば、基材表面に暗色粉分散体が着色層として設けられた着色層付基材が得られる。
【0061】
本発明に係る暗色粉分散液から得られる暗色粉分散体は、当該暗色粉分散液における暗色顔料や複合タングステン酸化物微粒子の分散状態と配合割合とを維持している。その結果として、本発明に係る暗色粉分散体は、暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)や、後述するマスターバッチを、固体媒体の樹脂により可視光透過率が5~70%になるように希釈して形成すると、彩度c*が10以下、近赤外透過率が50%以下を実現できる。彩度c*は、5以下であることが好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。彩度c*がより低くなることで、目視で確認出来る深い黒色を実現出来、自動車や建物の窓を深い黒色とすることが出来るので意匠性が向上する。
【0062】
さらに、暗色顔料としてCu-Fe-Mn複合酸化物顔料および/またはCu-Cr複合酸化物顔料を選択した場合、複合タングステン酸化物微粒子や媒体である樹脂等と混合した暗色粉分散体において、当該暗色顔料、複合タングステン酸化物微粒子、樹脂等の混合比を制御することにより、c*の値を4.5以下の値に保ちながら、可視光透過率や近赤外透過率を所望値に設定することが出来た。この結果、用途等に応じた光学的特性を有する暗色粉分散体の開発が容易になり、好ましい構成である。
【0063】
また、本発明に係る暗色粉分散液の溶媒には、硬化により固体媒体となる樹脂のモノマーを用いてもよい。溶媒として樹脂のモノマーを用いた場合、コーティングの方法は、基材表面に近赤外線遮蔽材料微粒子分散体が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。また、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子とを、直接バインダー樹脂中に分散した暗色粉分散体は、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0064】
上述した固体媒体としては、例えば、樹脂としてUV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。
【0065】
さらに、高分子分散剤を含有する暗色粉分散液の溶媒成分を揮発させ、暗色顔料と複合タングステン酸化物微粒子と高分子分散剤とを含む暗色顔料分散粉と、溶融温度以上に温度を上げて溶融させたポリカーボネート樹脂等とを混合して暗色顔料含有マスターバッチを製造し、当該マスターバッチと溶融温度以上に温度を上げて溶融させたポリカーボネート樹脂等と溶融混合し、公知の方法でフィルムや板(ボード)状に形成し暗色粉分散体を作ることも出来る。
【0066】
(5)着色層付基材
本発明に係る暗色粉分散体を着色層として、透明ガラス基材や透明フィルム基材といった透明基材表面に設ければ、着色層付基材とすることができる。透明ガラス基材には、ソーダライムガラスなどの板ガラス、透明フィルム基材には、PETフィルムのような樹脂フィルムを用いることができる。
もちろん、2枚以上の透明基材で暗色粉分散体を挟んで、着色層付基材としてもよい。
【実施例】
【0067】
本発明について、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
まず、評価方法について、(1)可視光透過率と近赤外透過率、(2)L*、a*、b*表色系の特性と彩度c*、(3)分散平均粒子径、の順に説明する。
【0068】
(1)可視光透過率と近赤外透過率
試料の可視光透過率と近赤外透過率とは、分光光度計(日立製作所製UH4150)で測定した。そして、可視光透過率と近赤外透過率はISO9050に準拠して波長750nmから1500nmにおいて測定した。
【0069】
(2)L*、a*、b*表色系の特性と彩度c*
試料のL*、a*、b*表色系の特性は、分光光度計(日立製作所製UH4150)で測定した。彩度c*は次式2で算出した。
彩度c*=(a*2+b*2)1/2・・・・式2
なお、L*、a*、b*表色系の特性は、次の手順で測定した。
試料の分光透過率(透過率の波長依存性)を測定する。
測定された分光透過率をJIS Z 8701 1999に基づいて、D65光源・10°の視野でのX10、Y10、Z10の色味値に変換する。
変換されたX10、Y10、Z10の色味値をJIS Z 8781-4 2013に基づいて、L*、a*、b*に変換する。
【0070】
(3)分散平均粒子径
平均分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定した。
【0071】
(実施例1~12、比較例1~8)
(a)暗色粉分散液の調製
暗色粉分散液として、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液の調製について説明する。
Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料(大日精化製ダイピロキサイドTMブラック#3550)100質量部と、溶媒としてMIBK800質量部と、分散剤a(アミンを含有する基とアクリル主鎖を有する分散剤、アミン価42mgKOH/g)100質量部とを容器に入れ、0.3mmジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーにて20時間粉砕した。そして、平均分散粒子径100nmのCu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液を得た。
【0072】
暗色粉分散液として、Cu-Cr複合酸化物顔料の分散液の調製について説明する。
Cu-Cr複合酸化物顔料(大日精化製ダイピロキサイドブラック#9510)100質量部と、溶媒としてMIBK800質量部と、分散剤a100質量部とを容器に入れ、0.3mmジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーにて20時間粉砕した。そして、平均分散粒子径150nmのCu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液を得た。
【0073】
(b)複合タングステン酸化物微粒子分散液の調製
複合タングステン酸化物微粒子分散液として、Cs0.33WO3粒子分散液の調製について説明する。
Cs0.33WO3粒子(住友金属鉱山製)100質量部と、溶媒としてMIBK300質量部と、分散剤a100質量部とを容器に入れ、0.3mmジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーにて20時間粉砕した。そして、平均分散粒子径30nmのCs0.33WO3粒子分散液を得た。
【0074】
(c)暗色粉分散液と暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)の調製
Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液100質量部とCs0.33WO3粒子分散液100質量部とを混合して、実施例1~3に係る暗色粉分散液を調製した。
Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液20質量部とCs0.33WO3粒子分散液100質量部とを混合して、実施例4~7に係る暗色粉分散液を調製した。
Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液10質量部とCs0.33WO3粒子分散液100質量部とを混合して、実施例8、10~12に係る暗色粉分散液を調製した。
Cu-Cr複合酸化物顔料の分散液20質量部とCs0.33WO3粒子分散液100質量部とを混合して、実施例9に係る暗色粉分散液を調製した。
Cs0.33WO3粒子分散液100質量部のみをもって、比較例1~5に係る暗色粉分散液とした。
Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料の分散液100質量部のみをもって、比較例6~8に係る暗色粉分散液とした。
【0075】
さらに、実施例10に係る暗色粉分散液では、Cs0.33WO3粒子100質量部に対し、炭酸水酸化マグネシウム(関東化学製)が800質量部となるように添加した。
【0076】
さらに、実施例11に係る暗色粉分散液では、Cs0.33WO3粒子100質量部に対し、乳酸マグネシウム(関東化学製)が632質量部となるように添加した。
尚、当該乳酸マグネシウム(関東化学製)は3水和物であったので、水和水込みの乳酸マグネシウムとしての添加量は800質量部となった。
【0077】
さらに、実施例12に係る暗色粉分散液では、Cs0.33WO3粒子100質量部に対し、サリチル酸誘導体(N-(2H-1,2,4-トリアゾール-5-イル)サリチルアミド)(ADEKA製)が200質量部となるように添加した。
以上、実施例1~12、比較例1~8に係る暗色粉分散液の配合比率を表1に記載する。
【0078】
調整した実施例1~12、比較例1~8に係る暗色粉分散液のそれぞれへ、紫外線硬化樹脂(東亜合成製 アロニックスUV3701)を混合して、実施例1~12、比較例1~8に係る暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)を調製した。
【0079】
ここで、実施例1~12、比較例1~8に係る暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)において、後述する硬化後の暗色粉分散体の可視光透過率が、実施例1では40%、実施例2では35%、実施例3では30%、実施例4では65%、実施例5では50%、実施例6では35%、実施例7では20%、実施例8では65%、実施例9では55%、実施例10では65%、実施例11では65%、実施例12では65%、比較例1では15%、比較例2では30%、比較例3では40%、比較例4では50%、比較例5では65%、比較例6では40%、比較例7では30%、比較例8では20%となることを目論んで、暗色粉分散液と紫外線硬化樹脂とを混合したものである。
【0080】
(d)暗色粉分散体および着色層付基材の調製
実施例1~12、比較例1~8に係る暗色粉分散体形成用分散液(塗工液)を、それぞれ厚さ50μmのPETフィルムにNo.4~No.10バーコータで塗布して塗布膜を得た。得られた塗布膜から溶媒を蒸発乾燥させた後(70℃、1分間加熱)、高圧水銀ランプを用いて紫外線照射して塗布膜を硬化させてPETフィルムの表面に暗色粉分散体を設けた。なお、当該設けられた暗色粉分散体は着色層であり、PETフィルムの表面に着色層を形成し試料フィルムとしたので、実施例1~12、比較例1~8に係る着色層付基材を調製したこととなる。
調製された実施例1~12、比較例1~8に係る着色層付基材について、彩度c*、可視光透過率と近赤外透過率とを測定した。その結果を表1に示す。尚、彩度、可視光透過率、近赤外透過率の測定においては、基材のPETフィルムを含めた値を測定した。
【0081】
(e)着色層付基材の耐湿熱評価
実施例8、10~12に係る着色層付基材(試料フィルム)について、温度85℃、相対湿度90%の環境下における透過スペクトルの変化を測定し、その後、当該透過スペクトルから計算される波長1000nmにおける吸光度の経時変化を評価した。
【0082】
着色層付基材試料(試料フィルム)の評価は以下の手順で行った。
まず作製した試料フィルムの波長200nmから2600nmの範囲における透過スペクトルを測定し、波長1000nmにおける透過率を求めた。その後、温度85℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽に試料フィルムを投入した。
当該試料フィルムの投入後、所定日数が経過したら試料フィルムを取り出し、上述の波長範囲において透過スペクトルを測定し、波長1000nmにおける透過率を求めた。その後、試料フィルムを上述の温湿条件の恒温恒湿槽に再び投入し、所定日数が経過したら再び試料フィルムを取り出し、波長1000nmにおける透過率を求めることを繰り返した。
そして、当該波長1000nmにおける透過率を、次式3を用いて吸光度に換算し、試験開始時からの吸光度の変化率を求めた。
実施例8、10~12に係る着色層付基材の、試験開始時から所定の経過日数後の、試料フィルムにおける吸光度の変化率の値を表2に示し、試験開始時から所定の経過日数後の、試料フィルムにおける吸光度の変化率の状態を
図1に示す。
尚、
図1において、縦軸は、波長1000nmにおける吸光度の変化率であり、横軸は、経過日数である。
そして、実施例8係る試料フィルムのデータは短破線、実施例10係る試料フィルムのデータは実線、実施例11係る試料フィルムのデータは一点鎖線、実施例12係る試料フィルムのデータは長破線で示した。
吸光度=-log(透過率)・・・・式3
【0083】
(f)まとめ
可視光透過率40%を目論んだ配合である実施例1、比較例3、比較例6とを比べると、可視光透過率の実測値は、いずれも40%程度である。一方、彩度c*は、実施例1が低いことが判明した。
同様に、可視光透過率30%を目論んだ配合である実施例3、比較例2、比較例7とを比べると、可視光透過率の実測値は、いずれも30%程度である。一方、彩度c*は、実施例3が低いことが判明した。
同様に、可視光透過率20%を目論んだ配合である実施例7、比較例8とを比べると、可視光透過率の実測値は、いずれも20%程度である。一方、彩度c*は、実施例7が低いことが判明した。
同様に、可視光透過率65%を目論んだ配合である実施例4、比較例5とを比べると、可視光透過率の実測値は、いずれも65%程度である。一方、彩度c*は、実施例4が低いことが判明した。
【0084】
そして、実施例1~12において、暗色顔料として、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、Cu-Cr複合酸化物顔料を選択し、複合タングステン酸化物微粒子と、媒体である樹脂等との混合物である暗色粉分散体において、当該混合比を変えることにより、c*の値を4.5以下の値に保ちながら、可視光透過率や近赤外透過率を所望値に設定することが出来た。
【0085】
次に、実施例8、10~12に係る着色層付基材を用いた耐湿熱評価結果を示す
図1より、以下のことが判明した。
実施例8と実施例10とを比較すると、吸光度の経時変化率は実施例10の方が小さいことが判明した。これは添加剤である炭酸塩中の炭酸イオンが、着色層付基材中の金属イオンを捕捉することにより、Cs
0.33WO
3粒子の劣化を抑制したためと推定される。
同様に、実施例8と実施例11とを比較すると、吸光度の経時変化率は実施例11の方が小さいことが判明した。これは添加剤である乳酸マグネシウム中の乳酸イオンが、着色層付基材中の金属イオンを捕捉することにより、Cs
0.33WO
3粒子の劣化を抑制したためと推定される。
同様に、実施例8と実施例12とを比較すると、吸光度の経時変化率は実施例12の方が小さいことが判明した。これは添加剤のサリチル酸誘導体が、着色層付基材中の金属イオンを捕捉することにより、Cs
0.33WO
3粒子の劣化を抑制したためと推定される。
【0086】
実施例8、10~12に係る着色層付基材を用いた耐湿熱評価より、暗色粉分散液を用いたフィルムへ金属不活剤や金属塩を添加することで、無添加の暗色粉分散液を用いたフィルムに比べて、波長1000nmにおける15日(360時間)以降の吸光度の変化率を30%~50%抑制できることが判明した。
以上より、暗色顔料として、Cu-Fe-Mn複合酸化物顔料、複合タングステン酸化物微粒子と、媒体である樹脂等との混合物である暗色粉分散体に対し、サリチル酸誘導体や金属塩を添加することにより、当該暗色粉分散体の吸光度の変化を抑制、つまり耐湿熱性を向上させることが出来ることが判明した。
【0087】