(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】非水系電池電極用バインダー用共重合体、および非水系電池電極製造用スラリー
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240110BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240110BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240110BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240110BHJP
【FI】
C08F290/06
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020531283
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027630
(87)【国際公開番号】W WO2020017442
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018136249
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】倉田 智規
(72)【発明者】
【氏名】丸田 秀平
(72)【発明者】
【氏名】クナーヌラックサポング キリダー
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 充
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-001352(JP,A)
【文献】特開2011-124039(JP,A)
【文献】国際公開第2013/081152(WO,A1)
【文献】特開平09-054428(JP,A)
【文献】特開平11-323334(JP,A)
【文献】特開2002-279980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、一般式(1)で表す単量体(A)と、(メタ)アクリル酸およびその塩
からなる群から選択される少なくとも1種である(メタ)アクリル酸単量体(B)と、一般式(2)で表す単量体(C)とを含む単量体混合物(M)の共重合体(P)であって、前記共重合体(P)中の前記単量体(A)由来の構造が0.5~20.0質量%、前記共重合体(P)中の前記単量体(B)由来の構造が70.0~98.5質量%、前記共重合体(P)中の前記単量体(C)由来の構造が0.5~20.0質量%である非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【化1】
(式中、R
1、R
2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【化2】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。式中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、(n+m)≧20である。)
【請求項2】
前記式(2)において(n+m)≦500である、請求項1に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項3】
前記式(2)において(n+m)≧30である、請求項1または請求項2に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項4】
前記単量体混合物(M)としてさらに極性官能基を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(D)が、前記単量体(A)、前記単量体(B)、前記単量体(C)以外の単量体である請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項5】
前記単量体(A)が、N-ビニルホルムアミドまたはN-ビニルアセトアミドである請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項6】
重量平均分子量が、100万~1000万の範囲である請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項7】
前記共重合体(P)において、前記単量体(D)由来の構造が0.5~
10.0質量%含まれる請求項4~6のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体と、
電極活物質と、
水性媒質と
を含む非水系電池電極製造用スラリー。
【請求項9】
前記電極活物質が、負極活物質である請求項8に記載の非水系電池電極製造用スラリー。
【請求項10】
前記共重合体(P)の含有量は、前記電極活物質と前記共重合体(P)との合計質量に対して、0.1~5.0質量%である請求項8または9に記載の非水系電池電極製造用スラリー。
【請求項11】
集電体と、
前記集電体の表面に形成された電極活物質層とを備え、
前記電極活物質層は、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体及び電極活物質を含む非水系電池電極。
【請求項12】
前記電極活物質が、負極活物質である請求項11に記載の非水系電池電極。
【請求項13】
請求項11または12に記載の非水系電池電極を備える非水系電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電池電極用バインダー用共重合体、非水系電池電極製造用スラリー、該非水系電池電極製造用スラリーを用いて形成された非水系電池電極、及び該非水系電池電極を備える非水系電池に関する。
本願は、2018年7月19日に、日本に出願された特願2018-136249号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解質を用いる非水系電池は高電圧化、小型化、軽量化の面において水系電池よりも優れている。そのため、非水系電池は、ノート型パソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の電源として広く使用されている。また、最近では環境車両適用の観点から電気自動車やハイブリッド自動車用にも非水系電池が使用されているが、高出力化、高容量化、長寿命化等が強く求められてきている。非水系電池としてリチウムイオン二次電池が代表例として挙げられる。
【0003】
非水系電池は、金属酸化物などを活物質とした正極と、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極と、カーボネート類または難燃性のイオン液体を中心した非水系電解液溶剤とを備える。非水系電池は、イオンが正極と負極との間を移動することにより電池の充放電が行われる二次電池である。詳細には、正極は、金属酸化物とバインダーから成るスラリーをアルミニウム箔などの正極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。負極は、炭素材料とバインダーから成るスラリーを銅箔などの負極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。
バインダーは、正極及び負極において活物質同士及び活物質と集電体を結着させ、集電体からの活物質の剥離を防止させる役割がある。
【0004】
バインダーとしては、有機溶剤系のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーがよく知られている(特許文献1)。
しかしながら、このバインダーは活物質同士及び活物質と集電体との結着性が低く、実際に使用するには多量のバインダーを必要とする。そのため、非水系電池の容量が低下する欠点がある。また、バインダーに高価な有機溶剤であるNMPを使用しているため、最終製品の価格、及びスラリーまたは集電体作成時の作業環境保全にも問題があった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、従来から水分散系バインダーの開発が進められており、たとえば、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を併用したスチレン-ブタジエンゴム(SBR)系の水分散体が知られている(特許文献2)。このSBR系分散体は、水分散体であるため安価であり、作業環境保全の観点から有利である。また、活物質同士及び活物質と集電体との結着性が比較的良好である。そのため、PVDF系バインダーよりも少ない使用量で電極の生産が可能であり、非水系電池の高出力化、及び高容量化ができるという利点がある。これらのことから、SBR系分散体は、非水系電池電極用バインダーとして広く使用されている。
【0006】
しかしながら、SBR系バインダーは増粘剤であるカルボキシメチルセルロースを併用する必要があり、スラリー作製工程が複雑である。かつこのバインダーにおいても活物質同士、及び活物質と集電体との結着性が足りず、少量のバインダーで電極を生産した場合に、集電体を切断する工程で活物質の一部が剥離する問題があった。
【0007】
特許文献3では、アクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド共重合体(共重合比:アクリル酸ナトリウム/N-ビニルアセトアミド=40/60質量比)を含む貼付材用粘着剤組成物が開示されている。また、特許文献4では、アクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド(55/45(モル比))共重合体を含む含水ゲル体用組成物が開示されている。これらのアクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド共重合体では、N-ビニルアセトアミド由来の成分を多く含んでいる。このような重合体を負極活物質(難黒鉛化炭素)及び水と混合して非水系電池電極製造用スラリーとした場合、スラリーに凝集物があり、電池としての内部抵抗を低減できなかった。
【0008】
特許文献5では、アクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド共重合体(共重合比:アクリル酸ナトリウム/N-ビニルアセトアミド=10/90質量比)を含む非水系電池電極用バインダーが開示されている。この重合体を使用した電極は、結着性に優れるため、充放電サイクル特性が良好な電池を作製することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-298386号公報
【文献】特開平8-250123号公報
【文献】特開2005-336166号公報
【文献】特開2006-321792号公報
【文献】国際公開第2017/150200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献5で開示された非水系電池電極用バインダーでは、膜厚が大きな、つまり目付量が大きな電極では、クラックが発生するという課題があった。
本発明は、上記のような問題を解決するため、活物質同士、及び活物質と集電体との間で十分な結着性を有し、電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、集電体に対する剥離強度を十分に確保できる非水系電池電極用バインダー用共重合体を提供することを目的とする。また、該バインダー用共重合体を含む非水系電池電極製造用スラリー、そのスラリーを用いた非水系電池電極及び非水系電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の[1]~[11]の通りである。
【0012】
[1]少なくとも、一般式(1)で表す単量体(A)と、(メタ)アクリル酸単量体(B)と、一般式(2)で表す単量体(C)とを含む単量体混合物(M)の共重合体(P)であって、前記共重合体(P)中の前記単量体(A)由来の構造が0.5~20.0質量%、前記共重合体(P)中の前記単量体(C)由来の構造が0.5~20.0質量%である非水系電池電極用バインダー用共重合体。
【化1】
(式中、R
1、R
2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【化2】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。式中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、(n+m)≧20である。)
[2]前記式(2)において(n+m)≦500である、[1]に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[3]前記式(2)において(n+m)≧30である、[1]または[2]に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[4]前記単量体混合物(M)としてさらに極性官能基を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含む[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[5]前記単量体(A)が、N-ビニルホルムアミドまたはN-ビニルアセトアミドである[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[6]重量平均分子量が、100万~1000万の範囲である[1]~[5]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[7]前記共重合体(P)において、前記単量体(B)由来の構造が60.0~99.0質量%含まれる[4]~[6]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[8]前記共重合体(P)において、前記単量体(D)由来の構造が0.5~60.0質量%含まれる[4]~[7]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体。
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体と、電極活物質と、水性媒質とを含む非水系電池電極製造用スラリー。
[10]前記電極活物質が、負極活物質である[9]に記載の非水系電池電極製造用スラリー。
[11]前記共重合体(P)の含有量は、前記電極活物質と前記共重合体(P)との合計質量に対して、0.1~5.0質量%である[9]または[10]に記載の非水系電池電極製造用スラリー。
[12]集電体と、前記集電体の表面に形成された電極活物質層とを備え、前記電極活物質層は、[1]~[8]のいずれか1項に記載の非水系電池電極用バインダー用共重合体及び電極活物質を含む非水系電池電極。
[13]前記電極活物質が、負極活物質である[12]に記載の非水系電池電極。
[14][12]または[13]に記載の非水系電池電極を備える非水系電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、活物質同士、及び活物質と集電体との間で十分な結着性を確保し、電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、集電体に対する剥離強度を十分に確保できる非水系電池電極用バインダー用共重合体を提供することができる。また、該バインダー用共重合体を含む非水系電池電極製造用スラリー、そのスラリーを用いた非水系電池電極及び非水系電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)>
本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)(以下、単に「バインダー用共重合体(P)」又は「共重合体(P)」とすることもある)は、後述する非水系電池の電極において電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着させるために用いられる。本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)は、少なくとも、下記一般式(1)で表す単量体(A)と(メタ)アクリル酸単量体(B)と、下記一般式(2)で表す単量体(C)を含む単量体混合物(M)の共重合体である。共重合体(P)において単量体(A)由来の構造が0.5~20.0質量%、単量体(C)由来の構造が0.5~20.0質量%である。
【0015】
本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸単量体」とは、メタクリル酸単量体とアクリル酸単量体の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいう。また、本発明において、「単量体混合物(M)の共重合体(P)の各単量体由来の構造の質量含有量」は、単量体混合物(M)に含まれている各単量体の質量含有量の値で評価する。
【0016】
【0017】
式(1)中、R1、R2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
【0018】
【0019】
式(2)中、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。式中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、(n+m)≧20である。
【0020】
また、単量体混合物(M)はさらに極性官能基を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含んでもよい。
【0021】
共重合体(P)を合成する際は、水性媒質中で重合することが好ましい。重合は、水性媒質中において、ラジカル重合開始剤を用いて行うとよい。重合法としては、例えば、重合に使用する成分を全て一括して仕込んで重合する方法、重合に使用する各成分を連続供給しながら重合する方法等が適用できる。重合は、30~90℃の温度で行うことが好ましい。なお、共重合体(P)の重合方法の具体的な例は、後述の実施例において詳しく説明する。
【0022】
共重合体(P)の重量平均分子量は、100万~1000万であることが好ましく、150万~750万であることがより好ましく、200万~500万であることがさらに好ましい。ここで、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出されるプルラン換算値である。
【0023】
<1-1.単量体(A)>
【0024】
【0025】
式(1)中、R1、R2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。
【0026】
一般式(1)において、R1、R2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。R1、R2は各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R1、R2は各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0027】
R1、R2の組み合わせとして好ましい具体例としては、R1:H、R2:H(すなわち、単量体(A)はN-ビニルホルムアミド)、R1:H、R2:CH3(すなわち、単量体(A)はN-ビニルアセトアミド)が挙げられる。
【0028】
また、単量体混合物(M)において、単量体(A)の含有量は0.5~20.0質量%であり、1.0~15.0質量%であることが好ましく、5.0~12.5質量%であることがより好ましい。単量体(A)が0.5質量~20.0質量%であれば、非水系電池電極製造用スラリー作製時の電極活物質および導電助剤の分散性に優れ、塗工性良好な非水系電池電極製造用スラリーを作製することが出来る。
すなわち、本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)に含まれる単量体(A)由来の構造は0.5~20.0質量%であり、1.0~15.0質量%であることが好ましく、5.0~12.5質量%であることがより好ましい。
【0029】
<1-2.(メタ)アクリル酸単量体(B)>
(メタ)アクリル酸単量体(B)としては、(メタ)アクリル酸およびその塩が該当する。中でも、pH調整などの観点から(メタ)アクリル酸塩を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸塩としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムが好ましい。その中でも、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムがより好ましく、アクリル酸ナトリウムが最も好ましい。(メタ)アクリル酸塩は、例えば、(メタ)アクリル酸を水酸化物やアンモニア水などで中和して得られるが、中でも入手容易性の点から、水酸化ナトリウムで中和することが好ましい。
単量体混合物(M)として後述のエチレン性不飽和単量体(D)を含む場合、単量体混合物(M)における単量体(B)の含有量((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩の合計量)は20.0~99.0質量%が好ましく、60.0~98.5質量%であることがより好ましく、70.0~95.0質量%であることがさらに好ましい。単量体(B)が20.0質量~99.0質量%であれば、非水系電池電極製造用スラリー作製時の電極活物質や導電助剤分散性に優れ、かつ剥離強度の高い非水系電池電極を得ることが出来る。
すなわち、本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造は20.0~99.0質量%が好ましく、60.0~98.5質量%であることがより好ましく、40.0~95.0質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
<1-3.単量体(C)>
【0031】
【0032】
式(2)中、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。式中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、(n+m)≧20数である。
【0033】
単量体(C)は、一般式(2)において、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。式中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、(n+m)≧20である。(n+m)≧20であれば作製した電極活物質層のクラック発生を抑制できる。
単量体(C)は、一般式(2)において、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
(n+m)≧30であることが好ましく、(n+m)≧40であることがより好ましい。また、(n+m)≦500であることが好ましく、(n+m)≦200であることがより好ましく、(n+m)≦150であることが更に好ましい。(n+m)≧30であれば、可撓性がより良好な電極を得ることができ、(n+m)≦500であれば接着力の高いバインダーを得ることが出来る。
n及びmは、それぞれに対応する括弧内の構造単位の、単量体(C)の分子内に含まれる数を表しているに過ぎず、式(2)はブロック共重合体に限定されない。すなわち、単量体(C)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、いずれの形態の共重合体であってもよいが、分子鎖の構成の偏りが少なく、低コストであるランダム共重合体が好ましい。
【0034】
一般式(2)において、R3、R4、R5、R6、n、mの組み合わせとして好ましい例としては、以下の表1の例が挙げられる。
【0035】
【0036】
中でも、一般式(2)においてm=0であることが好ましい。
m=0の単量体(C)としては例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体c1、c2)などのポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレートと、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体c3、c4)などのポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0037】
単量体(C)の具体例として、一般式(2)において、R3=CH3、R4=R5=H、R6=CH3、n=45、m=0のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(製品名VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA W、EVONIK INDUSTRIES製)が挙げられる。また、一般式(2)において、R3=CH3、R4=R5=H、R6=CH3、n=113、m=0のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(製品名VISIOMER(登録商標)MPEG5005 MA W、EVONIK INDUSTRIES製)が挙げられる。
【0038】
また、単量体混合物(M)において、単量体(C)の含有量は0.5~20.0質量%である。0.5~15.0質量%であることが好ましく、1.0~10.0質量%であることがより好ましい。特に、一般式(2)で表す単量体(C)として(n+m)≧40である場合、単量体混合物(M)において、単量体(C)が0.5~5.0質量%であることが好ましい。一般式(2)において(n+m)が大きい単量体(C)を用いることで、より少量でも十分な効果を発揮することができる。
すなわち、本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)に含まれる単量体(C)由来の構造は0.5~20.0質量%であり、0.5~15.0質量%であることが好ましく、0.5~10.0質量%であることがより好ましい。特に、一般式(2)で表す単量体(C)として(n+m)≧40である場合、本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)に含まれる単量体(C)由来の構造は0.5~5.0質量%であることが好ましい。
【0039】
<1-4.エチレン性不飽和単量体(D)>
本実施形態の単量体混合物(M)はさらに単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)以外の極性官能基を有するエチレン性不飽和単量体(D)を含んでもよい。
エチレン性不飽和単量体(D)は、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有し、かつ、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミド基、シアノ基などの極性官能基を有する化合物を用いることができる。カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては例えば、イタコン酸、β‐カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられる。ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート等が挙げられる。アミド基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~3であるN‐ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、及びジメチルアミノ基を除く部分のアルキル基の炭素数が1~5であるジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体としては例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。中でも入手容易性の点から、イタコン酸、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、4-ヒドロキシブチルアクリレート、アクリルアミドが好ましい。
【0040】
単量体混合物(M)におけるエチレン性不飽和単量体(D)の含有量は0.5~60.0質量%であることが好ましい。0.5~40.0質量%であることがより好ましく、0.5~10.0質量%であることがさらに好ましい。
すなわち、本実施形態にかかる非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)に含まれる単量体(D)由来の構造は0.5~60.0質量%であることが好ましく、0.5~55.0質量%であることがより好ましく、0.5~50.0質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
<1-5.重合開始剤>
重合の際に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられるが、これに限られない。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。重合を水中で行う場合は、水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、重合の際にラジカル重合開始剤と、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。
【0042】
<1-6.重合に用いる水性媒質>
本実施形態においては、重合に用いる水性媒質として水を用いるが、得られるバインダー用共重合体の重合安定性を損なわない限り、水に親水性の溶媒を添加したものを水性媒質として用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN‐メチルピロリドン等が挙げられる。
【0043】
<2.非水系電池電極製造用スラリー>
本実施形態の非水系電池電極製造用スラリー(以下、単に「スラリー」とすることもある)は、バインダー用共重合体(P)と電極活物質とを、水性媒質に溶解、分散させたものである。本実施形態のスラリーは、必要に応じて任意成分である増粘剤を含んでもよいが、スラリー作製工程の簡単化するためには、増粘剤を含まないほうが好ましい。スラリーを調製する際の各材料の混合の順番は、各材料が均一に溶解、分散すれば特に制限は無い。スラリーを調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して必要な成分を混合する方法が挙げられる。
スラリー中の不揮発分(主に電極活物質と共重合体(P)からなる)は好ましくは3~20質量%、より好ましくは4~15質量%であり、更に好ましくは5~12質量%である。不揮発分が3~20質量%であれば、電極活物質等との混合が容易である。不揮発分は、水性媒質(分散媒)の量により調整できる。
不揮発分は、直径5cmのアルミ皿にサンプルを1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら130℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出できる。
【0044】
<2-1.非水系電池電極用バインダー用共重合体(P)の含有量>
スラリーに含まれるバインダー用共重合体(P)の含有量は、電極活物質とバインダー用共重合体(P)とを合計した質量に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3~4.5質量%、さらに好ましくは0.5~4.0質量%、特に好ましくは2.0~4.0質量%である。バインダー用共重合体(P)の含有量が0.1~5.0質量%であれば、電極活物質と集電体との結着性を確保することができ、かつ電池としたときの内部抵抗も低くすることができる。
【0045】
<2-2.電極活物質>
電極活物質は、リチウム等をドープ/脱ドープ可能な材料であればよい。スラリーが負極形成用のものである場合、電極活物質の例として、導電性ポリマー、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン類等が挙げられる。ここでシリコン類とは、シリコン単体及びシリコン化合物のうち少なくともいずれかを含む材料を意味する。導電性ポリマーとして、ポリアセチレン、ポリピロール等が挙げられる。炭素材料としては、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス;ポリマー炭、カーボンファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック;人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛などが挙げられる。シリコン類として、SiOx(0.1≦x≦2.0)、Si、Si-グラファイト複合粒子等が挙げられる。これら活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きい点から、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン等を用いることが好ましい。中でも、コークス、黒鉛などの炭素材料、SiOx(0.1≦x≦2.0)、Si、Si-グラファイト複合粒子等のシリコン類であると、本実施形態のバインダー用共重合体(P)による結着性を向上させる効果が顕著である。例えば、人造黒鉛の具体例としては、SCMG(登録商標)-XRs(昭和電工(株)製)が挙げられる。
また導電助剤として、カーボンブラック、気相法炭素繊維などをスラリーに添加してもよい。気相法炭素繊維の具体例としては、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))が挙げられる。
【0046】
スラリーが正極形成用のものである場合、電極活物質の例として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケルを含むリチウム複合酸化物、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、オリビン型燐酸鉄リチウム、TiS2、MnO2、MoO3、V2O5、などのカルコゲン化合物のうちの1種、あるいは複数種が組み合わせて用いられる。また、その他のアルカリ金属の酸化物も使用することが出来る。ニッケルを含むリチウム複合酸化物として、Ni-Co-Mn系のリチウム複合酸化物、Ni-Mn-Al系のリチウム複合酸化物、Ni-Co-Al系のリチウム複合酸化物などが挙げられる。電極活物質の具体例として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2やLiNi3/5Mn1/5Co1/5など挙げられる。
【0047】
<2-3.スラリーに用いる水性媒質>
スラリーに用いる水性媒質は、バインダー用共重合体(P)の重合に用いる水性媒質と同様の媒質を用いることができる。バインダー用共重合体(P)の重合に用いる水性媒質をそのまま用いても、重合に用いたものに加えてさらに添加しても、新たに用いても、構わない。
【0048】
<3.非水系電池用電極>
本実施形態の非水系電池用電極は、集電体の表面上に、電極活物質及びバインダー用共重合体(P)を含む電極活物質層が形成されている。例えば、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成した後、適当な大きさに切断することにより電極が製造できる。
【0049】
電極に用いられる集電体の例としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属が挙げられるが、特に限定されない。また、集電体の形状についても特に限定されないが、通常、厚さ0.001~0.5mmのシート状のものが用いられる。
【0050】
スラリーを集電体上に塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法などを挙げることができる。これらの中でも、非水系電池の電極に用いられるスラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得ることが可能である点で、ドクターブレード法、ナイフ法、又はエクストルージョン法を用いることが好ましい。
【0051】
スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次塗布してもよいし、両面同時に塗布してもよい。また、スラリーは、集電体の表面に連続して塗布してもよいし、間欠で塗布してもよい。スラリーを塗布してなる塗布膜の厚さ、長さや幅は、電池の大きさなどに応じて、適宜決定できる。例えば、乾燥後の片面の塗布量が4~20mg/cm2あるいは6~16mg/cm2となるようにドクターブレードを用いて塗布することができる。
【0052】
塗布されたスラリーの乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風、真空、(遠)赤外線、電子線、マイクロ波および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。塗布膜を乾燥させる温度は、通常40~180℃の範囲であり、乾燥時間は、通常1~30分である。
【0053】
電極活物質層が形成された集電体は、電極として適当な大きさや形状にするために切断される。活物質層の形成された集電体の切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0054】
電極活物質層が形成された集電体を切断する前または後に、必要に応じてプレスしてもよい。プレスすることによって電極活物質層を集電体に、より強固に結着させ、さらに電極を薄くすることによる非水系電池のコンパクト化が可能になる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができ、特に金型プレス法やロールプレス法を用いることが好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、電極活物質へリチウムイオン等のドープ/脱ドープさせる機能に影響を及ぼさない範囲である0.5~5t/cm2とすることが好ましい。
【0055】
<4.非水系電池>
本実施形態にかかる非水系電池は、正極と、負極と、電解液と、必要に応じてセパレータ等の部品とが外装体に収容されたものであり、正極と負極のうちの一方または両方に上記の方法により作製された電極を用いる。電極の形状としては、例えば、積層体や捲回体が挙げられるが、特に限定されない。
【0056】
<4-1.電解液>
電解液としては、イオン伝導性を有する非水系の溶液を使用する。溶液としては、電解質を溶解した有機溶媒や、イオン液体などが例として挙げられる。
【0057】
電解質としては、アルカリ金属塩を用いることができ、電極活物質の種類等に応じ適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、CF3SO3Li、CH3SO3Li、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2N、脂肪族カルボン酸リチウム、等が挙げられる。また、その他のアルカリ金属を用いた塩を用いることもできる。
【0058】
電解質を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。
これらの電解液は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
<4-2.外装体>
外装体としては、金属やアルミラミネート材などを適宜使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。 本実施形態の電池は、公知の製造方法を用いて製造できる。
【実施例】
【0060】
以下にバインダー用共重合体(P)(バインダー)、負極用スラリー、電極、電池についての実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
(バインダー用共重合体(P)(バインダー)の作製)
一般式(1)で表す単量体(A)としてN-ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工(株)製)を用いた。(メタ)アクリル酸単量体(B)として、アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液として調製したもの)を用いた。一般式(2)で表す単量体(C)としてメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(製品名VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA W(50.0質量%水溶液として調製したもの)、EVONIK INDUSTRIES製)(式(2)中のR3=CH3、R4=R5=H、R6=CH3、n=45、m=0)を用いた。また、重合開始剤としてV-50(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、和光純薬工業社製)及び過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)を用いた。
【0062】
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートが組みつけられたセパラブルフラスコに、NVAを10質量部、28.5質量%AaNa水溶液を312.3質量部(AaNaとして89質量部)、VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA Wを2質量部(メトキシポリエチレングリコールメタクリレートとして1.0質量部)、V-50を0.2質量部、過硫酸アンモニウムを0.05質量部、水678質量部を30℃で仕込んだ。これを、80℃に昇温し、4時間重合を行った。その後、不揮発成分としてバインダー用共重合体P1(バインダーP1)を10.0質量%(不揮発分)含むバインダー組成物Q1を得た。得られたバインダー組成物Q1に含まれるバインダー用共重合体P1の重量平均分子量(プルラン換算値)を測定した。また、バインダー組成物Q1の不揮発分、粘度、pHをそれぞれ測定し、表2に記載した。
【0063】
(不揮発分の測定)
バインダー組成物の不揮発分は、直径5cmのアルミ皿にサンプルを1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら130℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
【0064】
(重量平均分子量の測定)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
【0065】
GPC装置: GPC‐101(昭和電工(株)製)
溶媒:0.1M NaNO3水溶液
サンプルカラム:Shodex Column Ohpak SB-806 HQ(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
リファレンスカラム:Shodex Column Ohpak SB-800 RL(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI-71S(株式会社島津製作所製)
ポンプ:DU-H2000(株式会社島津製作所製)
圧力:1.3MPa
流量:1ml/min
分子量スタンダード:プルラン(P‐5、P-10、P‐20、P-50、P‐100、P-200、P-400、P-800、P-1300、P-2500(昭和電工(株)製))
【0066】
(粘度の測定)
バインダー組成物の粘度は、ブルックフィールド型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、液温23℃、回転数10rpm、No.5またはNo.6またはNo.7ローターにて算出した。
【0067】
(pHの測定)
バインダー組成物のpHは、液温23℃の状態でpHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて計測した。
【0068】
(負極用スラリーの作製)
次に、黒鉛としてSCMG(登録商標)-XRs(昭和電工(株)製)を81.6質量部、一酸化ケイ素(SiO)(Sigma-Aldrich製)を14.4質量部、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))を1質量部、バインダー組成物Q1を30質量部(バインダー用共重合体P1として3質量部、水として27質量部)、水を20質量部加えて、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間固練りを行った。さらに水を53質量部加え、さらに2000回転/分で4分間混ぜ、負極用スラリーを作製した。
【0069】
(負極の作製)
この負極用スラリーを集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面に乾燥後の塗布量が8mg/cm2となるようにドクターブレードを用いて塗布し、60℃で10分加熱乾燥後、さらに100℃で5分乾燥して活物質層を形成した。この活物質層と集電体からなる材料を、金型プレスを用いてプレス圧1t/cm2でプレスして負極シートを得た。
得られた負極シートを22mm×22mmに切り出し、導電タブをつけて負極を作製した。
【0070】
(正極の作製)
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合したものに、N-メチルピロリドンを100質量部を混合して正極用スラリーを作製した。
作製した正極用スラリーを、ドクターブレード法により集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上にロールプレス処理後の厚さが100μmになるように塗布し、120℃で5分乾燥、プレス工程を経て正極シートを得た。得られた正極シートを20mm×20mmに切り出し、導電タブをつけて正極を作製した。
【0071】
(電池の作製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とを体積比30:60:10で混合した混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/L、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%の濃度になるように溶解して、リチウムイオン二次電池に用いる電解液を調製した。
ポリオレフィン系の多孔性フィルムからなるセパレータを介して、正極と負極との活物質が互いに対向するようにアルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーでパッキングし、ラミネート型電池を得た。
【0072】
【0073】
<実施例2~9、比較例1~5>
実施例2~9及び比較例1~5のバインダー用共重合体P2~12は、表2に記載の単量体(A)~(E)を用いて、実施例1と同様の方法で作製した。
ここで、実施例7においては、単量体(C)としてメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(製品名VISIOMER(登録商標)MPEG5005 MA W(50.0質量%水溶液として調製したもの)EVONIK INDUSTRIES製)(式(2)中のR3=CH3、R4=R5=H、R6=CH3、n=113、m=0)を用いた。実施例6においては、単量体(D)としてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEMA)を用いた。比較例2においては、単量体(E)としてメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(式(2)中のR3=CH3、R4=R5=H、R6=CH3、n=9、m=0)を用いた。
【0074】
<実施例及び比較例の評価方法>
各実施例及び比較例の負極用スラリー外観、電極性能、電池性能を評価した。評価方法は以下の通りで、評価結果は表2に示した通りである。
【0075】
(スラリー外観)
スラリーを目視して外観を確認し、凝集物及び塊のサイズをマイクロメーターで測定した。スラリー10g中に最長寸法1mm以上の塊(27mm3以上)が1個以上ある場合を×、それ以外の場合を○と判断した。
【0076】
(負極外観)
電極を目視して外観を確認し、5cm×20cmの電極表面上に、クラックを3個以上観測した場合を×、クラックが2個以下の場合を○と判断した。
【0077】
(負極活物質層の剥離強度)
23℃において、負極の集電体上に形成された活物質層とSUS板とを両面テープ(NITTOTAPE(登録商標) No5、日東電工(株)製)を用いて貼り合わせ、剥離幅25mm、剥離速度100mm/minで180°剥離して得られた値を剥離強度とした。
【0078】
(電池性能)
(初期効率)
電池の容量を測定するために、電解液を注液した電池を、25℃の条件下、CC-CV充電(上限電圧(4.2V)になるまでCC(定電流、0.2C)で充電し、CV(定電圧、4.2V)で1/20Cになるまで充電)し、30分放置後、CC放電(下限電圧(2.75V)になるまでCC(0.2C)で放電)を実施した。これらの充電及び放電を5サイクル行い、後の2サイクル時の放電容量の平均を初期容量とし、以下の計算式[1]で初期効率を算出した。
【0079】
初期効率(%)= 初期容量 / 理論容量 × 100 [1]
なお、理論容量は、正極の目付量[g/cm2]×正極活物質層の面積[cm2]×正極活物質層の容量[mAh/g]×正極活物質層中の正極活物質の含有率で求められる値である。
【0080】
(充放電サイクル特性)
電池の充放電サイクル試験は、25℃の条件下、CC-CV充電(上限電圧(4.2V)になるまでCC(1C)で充電し、CV(4.2V)で1/20Cになるまで充電)する。30分静置後、CC放電(下限電圧(2.75V)になるまでCC(1C)で放電)を実施した。この操作を繰り返し行った。電池の充放電高温サイクル特性は、容量維持率、つまり1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を指標とした。容量維持率が90%以上の電池を充放電サイクル特性が良好なものとする。
【0081】
<実施例及び比較例の評価結果>
表2からわかるように、実施例1~7においては、負極の外観が良好で、負極活物質層の剥離強度(mN/mm)も十分な値を示している。また、電池としたときの充放電サイクル特性の放電容量維持率も十分に高い値である。
【0082】
一方、単量体(C)を使用しない比較例1、単量体(C)よりもn数が小さなメトキシポリエチレングリコールメタクリレートを使用した比較例2では、作製した電極にクラックが見られた。単量体(C)を過剰に使用した比較例3では、電池としての充放電サイクル特性が低いものであった。単量体(A)を使用しない比較例4は、スラリーに最長寸法1mm以上の塊が見られた。また、電極を平坦に塗工することが出来ず、電池としての性能評価は不可能であった。
【0083】
単量体混合物(M)に過剰のNVAを含む比較例5では、スラリーに最長寸法1mm以上の塊が見られた。また、作製した電極にクラックが見られた。また電池としての充放電サイクル特性が低いものであった。
【0084】
以上の評価結果から、実施例のバインダーと負極活物質とを含むスラリーを集電体に塗布、乾燥して得られる負極活物質層は、外観上問題なく、集電体との間に剥離強度も十分であり、電池としたときの充放電サイクル特性も十分に高くできる。
したがって、本実施例にかかるバインダー用共重合体を非水系電池負極用のバインダーとして用いることにより、非水系電池負極における負極活物質同士、及び負極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、電池として良好な充放電サイクル特性となることが分かった。
【0085】
また、これらバインダーは非水系電池正極用のバインダーとしても用いることができ、正極活物質同士、及び正極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、充放電サイクル特性が良好な電池を作製できる。