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  • 特許-リチウム含有溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】リチウム含有溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/12 20060101AFI20240110BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20240110BHJP
   C01D 15/00 20060101ALI20240110BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240110BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240110BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240110BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20240110BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C01G45/12
C01G45/00
C01D15/00
B01J20/06 A
B01J20/34 G
C22B26/12
C22B3/24
C22B3/44 101A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020560044
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047811
(87)【国際公開番号】W WO2020116607
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018229507
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501973(JP,A)
【文献】特開2018-040035(JP,A)
【文献】特開2015-209551(JP,A)
【文献】特開2015-020090(JP,A)
【文献】OOI Kenta et al.,Hydrometallurgy,2017年,Vol. 169,pp. 31-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00、49/10-99/00
C01D 15/00、15/08
B01J 20/06、20/34
C22B 26/12
C22B 3/24、3/44
C02F 1/42
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムを得る吸着工程と、
前記吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液とを接触させて、マンガン濃度が6.1mg/L以上のマンガン残リチウム含有溶液を得る溶離工程と、
前記マンガン残リチウム含有溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、
をこの順で実行し、
前記酸溶液が、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であり、
前記マンガン酸化工程では、pHを3以上7以下の範囲にするとともに、酸化還元電位を銀塩化銀電極で600mV以上1100mV以下とする、
ことを特徴とするリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項2】
前記溶離工程が、0℃以上70℃以下で行われている、
ことを特徴とする請求項1記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、マンガン酸リチウムからリチウム含有溶液を製造するリチウム含有溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは陶器、ガラスの添加剤、鉄鋼連続鋳造用のガラスフラックス、グリース、医薬品、電池等、産業において広く利用されている。特に、このリチウムが用いられているリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、電圧が高い二次電池として知られている。このため最近では、リチウムイオン電池は、ノートパソコンなどの電子機器のバッテリーまたは電気自動車・ハイブリッド車の車載バッテリーとしての用途が拡大しており、その需要が急増している。これに伴い、原料であるリチウムの需要が急増している。
【0003】
リチウムは、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムという形で、塩湖かん水またはリチウムを含む鉱石、例えばリシア輝石(LiO・Al・2SiO)等を原料とし、これらを精製して生産されてきた。しかし、製造コストを考慮すると、リチウム以外の不純物を除去してリチウムを水溶液に残すプロセスではなく、不純物が共存している水溶液からリチウムを選択的に回収するプロセスが望まれている。
【0004】
リチウムのみを選択的に回収するプロセスとして、無機系吸着剤であるマンガン酸リチウムを用いた方法が知られている。スピネル構造を持つマンガン酸リチウムは、酸と接触させてリチウムと水素とを入れ替える前処理を行うことで、リチウムに対して優れた選択吸着能力を持ち、イオン交換樹脂のように吸着と溶離を繰り返して使用することが可能である。
【0005】
すなわちマンガン酸リチウムは、リチウムを選択的に回収するプロセスにおいて、リチウム吸着剤の前駆体となる。そしてマンガン酸リチウムの製造には、焼成処理のみで製造する乾式法、および水溶液中でマンガン酸リチウムを製造する湿式法がある。乾式法と比較して湿式法は、安定的に大量にマンガン酸リチウムを製造することが可能である。
【0006】
特許文献1では、湿式法によりマンガン酸リチウムを作成する方法が開示されている。この湿式法ではマンガン酸リチウムを水溶液反応で作製した後、結晶化反応を促進するために加熱処理を行う。すなわち上記の湿式法は、γ-オキシ水酸化マンガンと水酸化リチウムとを混合し、加圧下100~140℃で水熱反応させ、マンガン酸リチウム(LiMn)を得た後、400~700℃の範囲で加熱処理することで、3価のマンガンを4価に酸化し、構造を変化させることなく、安定なマンガン酸リチウム(LiMn)を得る方法である。
【0007】
上記の方法等で得られたマンガン酸リチウムは、例えば非特許文献1で開示されているように用いられる。まず、Li1.6Mn1.6から酸処理をすることにより得られたH1.6Mn1.6を用いて、陽イオン同士の交換反応によりかん水中のリチウムを吸着して、再度Li1.6Mn1.6を得る(吸着工程)。次に所定の酸を加えることで、H1.6Mn1.6を得るとともに、Liイオンが溶け出したリチウム含有溶液を得る(脱着工程、本明細書では溶離工程と称することがある)。このリチウム含有溶液から不純物を除去したり、リチウム含有溶液を加熱濃縮したりすることで炭酸リチウムなどが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3388406号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】湯 衛平、“かん水からのリチウム回収システム”、[online]、平成22年6月11日、公益財団法人かがわ産業支援財団、[平成30年11月22日]、インターネット(www.kagawa-isf.jp/rist/seika-happyou/21tang.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記の溶離工程においてリチウムが溶離する効率をあげるため酸の量を多くすると、陽イオン同士の交換反応ではなく、マンガン酸リチウム全体が溶解する場合があるという問題がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、溶離工程の効率を維持しながら、マンガン酸リチウム全体を溶解させないようにするリチウム含有溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
第1発明のリチウム含有溶液の製造方法は、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムとする吸着工程と、前記吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液とを接触させて、マンガン濃度が6.1mg/L以上のマンガン残リチウム含有溶液を得る溶離工程と、前記マンガン残リチウム含有溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、をこの順で実行し、前記酸溶液が、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であり、前記マンガン酸化工程では、pHを3以上7以下の範囲にするとともに、酸化還元電位を銀塩化銀電極で600mV以上1100mV以下とすることを特徴とする。
第2発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明において、前記溶離工程が、0℃以上70℃以下で行われていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、溶離工程において、酸溶液が0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であることにより、溶離工程において、LiとHという陽イオン同士の交換反応の効率を維持しながら、マンガン酸リチウム全体の溶解を抑制することができる。すなわち、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。また、マンガン酸化工程があることにより、マンガンの濃度が抑制されたリチウム含有溶液が得られる。
第2発明によれば、溶離工程が0℃以上70℃以下で行われていることにより、マンガン酸リチウム全体の溶解が抑制されるとともに、陽イオン同士の交換反応の効率が確実に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図である。
図2】塩酸濃度に対するLi含有溶液中のマンガンの濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具現化するためのリチウム含有溶液の製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム含有溶液の製造方法を以下のものに特定しない。
【0016】
本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法は、マンガン酸リチウムから得られたリチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて吸着後マンガン酸リチウムとする吸着工程と、この吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液とを接触させてマンガン残リチウム含有溶液を得る溶離工程と、このマンガン残リチウム含有溶液に酸化剤およびpH調整剤を追加することでマンガンを酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得るマンガン酸化工程と、をこの順で実行し、酸溶液が、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であるものである。
【0017】
リチウム含有溶液の製造方法の溶離工程において、酸溶液が0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であることにより、溶離工程において、LiとHという陽イオン同士の交換反応の効率を維持しながら、マンガン酸リチウム全体の溶解を抑制することができる。すなわち、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。また、マンガン酸化工程があることにより、マンガンの濃度が抑制されたリチウム含有溶液が得られる。
【0018】
また、本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法は、溶離工程が、0℃以上70℃以下で行われているものである。
【0019】
溶離工程が0℃以上70℃以下で行われていることにより、マンガン酸リチウム全体の溶解が抑制されるとともに、陽イオン同士の交換反応の効率が確実に維持できる。
【0020】
(実施形態)
(吸着工程の前段階)
吸着工程では、リチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて、吸着後マンガン酸リチウムが得られるが、この吸着工程で使用するリチウム吸着剤を得る方法について説明する。なお、図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図が示されているが、「吸着工程の前段階」の説明は、図1の最上段に位置するH1.6Mn1.6が得られる段階である。
【0021】
マンガン酸リチウムは、数1に示すように、酸処理を施されることによりリチウム吸着剤となる。なお数1ではマンガン酸リチウムをLi1.6Mn1.6と表したが、マンガン酸リチウムはこれに限定されない。例えばLi1.33Mn1.67を使用することもできる。すなわちマンガン酸リチウムがLi1.6Mn1.6である場合、リチウム吸着剤はH1.6Mn1.6となるが、マンガン酸リチウムが、例えばLi1.33Mn1.67である場合、リチウム吸着剤はH1.33Mn1.67となる。また酸処理に用いられる酸をHClとしたが、これに限定されない。例えば硫酸、硝酸などを使用することもできる。
【0022】
マンガン酸リチウムの形状は、吸着工程でのリチウムの吸着を考慮した形態となる。例えばマンガン酸リチウムの形状は、粉末状、粉末を造粒した粒子状、カラムの繊維に吹き付けたカラム状など様々な形状とすることができる。酸処理が行われると、例えばリチウム吸着剤として、H1.6Mn1.6が得られる。リチウム吸着剤の形状は、酸処理が行われる前のマンガン酸リチウムの形状と同じである。
【0023】
[数1]
Li1.6Mn1.6+1.6HCl→H1.6Mn1.6+1.6LiCl
【0024】
(吸着工程)
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法のフロー図を示す。吸着工程では、リチウム吸着剤に低リチウム含有液を接触させて、数2に示すHとLiとのイオン交換反応により吸着後マンガン酸リチウムを得る。本明細書では、吸着工程で得られたマンガン酸リチウムを、吸着後マンガン酸リチウムと称することがある。
【0025】
[数2]
1.6Mn1.6+1.6LiCl→Li1.6Mn1.6+1.6HCl
【0026】
低リチウム含有液は、例えば海水、または塩湖のかん水が該当する。例えば海水には平均0.17ppmのリチウムが含まれている。ただしこれらの低リチウム含有液には、リチウムのほかに、ナトリウム、マグネシウムまたはカルシウムなどの元素が溶解している。本発明のリチウム含有溶液の製造方法によれば、これらの元素が溶解している低リチウム含有液から、リチウムを選択的に回収することが可能である。なお、低リチウム含有液については、後述するLi含有溶液と比較して、単位体積あたりのリチウム量が少ないことを意味している。
【0027】
吸着工程では、吸着剤の形状により、低リチウム含有液と吸着剤との接触方法が異なる。例えば吸着剤が粉状である場合は、低リチウム含有液に所定量の吸着剤が投入され、所定時間かき混ぜられることで、低リチウム含有液と吸着剤とが接触し、リチウムが吸着剤に吸着する。吸着剤が粒子状である場合は、通液容器に粒子状の吸着剤が封入され、低リチウム含有液が通液されることで、低リチウム含有液と吸着剤とが接触し、吸着剤にリチウムが吸着する。吸着剤がカラムの繊維に吹き付けられている場合は、低リチウム含有溶液がカラムを通り抜けることにより、低リチウム含有液と吸着剤とが接触し、吸着剤にリチウムが吸着する。なお、低リチウム含有液を通液する際は、吸着剤への接触回数を確保するために、繰り返し通液を行う場合がある。
【0028】
吸着工程を経ると、吸着剤は吸着後マンガン酸リチウムとなる。また低リチウム含有液は、吸着剤によりリチウムが吸着された後は吸着後液となる。この吸着後液は、低リチウム含有液を採取した海または湖に放流される。その際、吸着後液は、中和処理等、放流に適した状態に処理された後放流される。
【0029】
(溶離工程)
溶離工程では、吸着後マンガン酸リチウムに酸溶液を接触させて、数3に示す反応によりマンガン残リチウム含有溶液を得る。この際、吸着後マンガン酸リチウムは、LiとHという陽イオン同士の交換反応により、リチウム吸着剤として再生され、このリチウム吸着剤は、再度吸着工程で用いられる。
【0030】
[数3]
Li1.6Mn1.6+1.6HCl→H1.6Mn1.6+1.6LiCl
【0031】
本実施形態の溶離工程で吸着後マンガン酸リチウムと接触させる酸溶液は、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸であり、好ましくは0.5mol/L以上2.0mol/L以下の塩酸である。
【0032】
この溶離工程において、酸溶液が0.5mol/L以上4.0mol/L以下の塩酸溶液であることにより、溶離工程において、LiとHという陽イオン同士の交換反応の効率を維持しながら、マンガン酸リチウム全体の溶解を抑制することができる。すなわち、リチウム吸着剤を繰り返し使用することが可能となる。
【0033】
酸溶液が0.5mol/Lよりも薄い場合、陽イオン同士の交換反応が十分に行うことができず、この交換反応の効率が落ちる。また、酸溶液が4.0mol/Lよりも濃い場合、マンガン酸リチウム全体が酸溶液に溶解するため、吸着後マンガン酸リチウムを再度リチウム吸着剤として利用することができなくなる。なお、酸溶液は塩酸に限定されない。例えば、硫酸または酢酸などが用いられる場合もある。
【0034】
本実施形態では、溶離工程は0℃以上70℃以下で行われるのが好ましい。溶離工程が0℃以上70℃以下で行われていることにより、マンガン酸リチウム全体の溶解が抑制されるとともに、陽イオン同士の交換反応の効率が確実に維持できる。
【0035】
溶離工程が0℃よりも低い温度で行われると、酸溶液が凍結する場合があり、陽イオン同士の交換反応が行われない場合がある。また、溶離工程が70℃よりも高いと、マンガン酸リチウム全体の溶解が行われる場合がある。
【0036】
マンガン酸リチウムの形状により、溶離工程で行われる吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液の接触の形態は異なる。例えばマンガン酸リチウムが粉末状であれば、酸溶液に吸着後マンガン酸リチウムの粉末を投入し、かき混ぜることで吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液との接触が行われる。マンガン酸リチウムが粒子状、またはカラムの繊維に吹き付けられている場合は、粒子状のマンガン酸リチウムおよびカラムは通液容器内に収納された状態で、酸溶液が通液容器の中に通液されることで、吸着後マンガン酸リチウムと酸溶液との接触が行われる。
【0037】
(マンガン酸化工程)
マンガン酸化工程では、溶離工程で得られたマンガン残リチウム含有溶液に、酸化剤およびpH調整剤を追加することで2価のマンガンを、4価のマンガンに酸化させ、マンガン濃度を抑制したリチウム含有溶液を得る。4価のマンガンは難溶性であるため、溶液内で沈殿する。これによりマンガン残リチウム含有溶液に含まれるマンガンの濃度を抑制することができる。さらに、沈殿したマンガンは、リチウム吸着剤の原料として再利用することが可能である。
【0038】
2価のマンガンを4価のマンガンに酸化させるために、マンガン残リチウム含有溶液に、酸化剤とpH調整剤が加えられる。酸化剤とpH調整剤が加えられる際は、pHを3以上7以下の範囲にするとともに、酸化還元電位を銀塩化銀電極で600mV以上1100mV以下に調整することが好ましい。すなわち、pHと酸化還元電位は同時に測定され、上記の範囲に入るように、酸化剤およびpH調整剤が、同時にまたは交互に加えられる。酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、オゾン、過マンガン酸塩などが使用可能である。ただしこれらに限定されず、酸化還元電位の調製が可能なものであれば問題ない。pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、消石灰などアルカリ中和剤が使用可能である。ただしこれらに限定されず、pH調整が可能なものであれば問題ない。
【0039】
(マンガン酸化工程の後段階)
マンガン酸化工程で得られたリチウム含有溶液には、本実施形態の場合塩化リチウム(LiCl)という状態でリチウムが存在するので、この溶液にアルカリを投入したり、過熱濃縮したりして、例えば炭酸リチウムという状態でリチウムが得られる。
【0040】
また、吸着後マンガン酸リチウムは、酸溶液によりリチウム吸着剤となるので、このリチウム吸着剤は、再度吸着工程で用いられる。
【実施例
【0041】
以下、本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
(吸着工程)
低リチウム含有液である塩湖かん水を模してリチウムを溶解させた溶液に、リチウム吸着剤であるH1.6Mn1.6を5g投入し、吸着後マンガン酸リチウムであるLi1.6Mn1.6を5.3g得た。この吸着後マンガン酸リチウムは、固液分離され、乾燥されることで、粉末状とした。
【0043】
(溶離工程)
上記の吸着後マンガン酸リチウムLi1.6Mn1.6O4の粉末3gと、酸溶液として、1mol/Lの塩酸水溶液42mLとを、100mLのパイレックス(登録商標)ビーカー内で30分間撹拌混合した。この際、塩酸水溶液の温度は25℃に保持されていた。撹拌混合後12時間静置し、静置後の溶液(マンガン残リチウム含有溶液)を固液分離して、溶液中のマンガン濃度がICP-AESで測定された。その結果を表1および図2に示す。なお、実施例等については、マンガンの溶解量を求めるため、マンガン酸化工程を行う前のマンガン残リチウム含有溶液についての結果を示しており、通常、マンガン残リチウム含有溶液から、マンガン酸化工程を経てリチウム含有溶液が得られる。
【0044】
溶液中にマンガン濃度が高いということは、マンガン酸リチウム全体として酸溶液に溶解したということを示している。500mg/Lを超えない場合は、マンガン酸リチウム全体としての溶解量が抑制され、吸着後マンガン酸リチウムは、リチウム吸着剤として再度利用可能であると判断した。実施例1では、マンガン濃度は6.1mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体として溶解することが抑制されていた。なお実施例1では、溶離工程後のマンガン残リチウム含有溶液に酸化剤としての塩素ガスおよびpH調整剤としての消石灰を添加することで、マンガン酸化工程を実施し、リチウム含有溶液を得た。リチウム含有溶液中のマンガン濃度をICP-AESで測定したところ、測定器の検出下限未満の1mg/L未満であった。
【0045】
<実施例2>
実施例2は、溶離工程での酸溶液として、2mol/Lの塩酸水溶液が用いられたこと以外は、実施例1と同じ条件である。その結果を表1および図2に示す。
【0046】
実施例2では、マンガン濃度は35mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体として溶解することが抑制されていた。また、マンガン酸化工程実施後は、測定器の検出下限未満の1mg/L未満であった。
【0047】
<実施例3>
実施例3は、溶離工程での酸溶液として、4mol/Lの塩酸水溶液が用いられたこと以外は、実施例1と同じ条件である。その結果を表1および図2に示す。
【0048】
実施例3では、マンガン濃度は289mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体として溶解することが抑制されていた。また、マンガン酸化工程実施後は、測定器の検出下限未満の1mg/L未満であった。
【0049】
<比較例1>
比較例1は、溶離工程での酸溶液として、6mol/Lの塩酸水溶液が用いられたこと以外は、実施例1と同じ条件である。その結果を表1および図2に示す。
【0050】
比較例1では、マンガン濃度は32500mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体としての溶解が抑制されていないことがわかった。
【0051】
<比較例2>
比較例2は、溶離工程での酸溶液として、8mol/Lの塩酸水溶液が用いられたこと以外は、実施例1と同じ条件である。その結果を表1および図2に示す。
【0052】
比較例2では、マンガン濃度は37800mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体としての溶解が抑制されていないことがわかった。
【0053】
<比較例3>
比較例3は、溶離工程での酸溶液として、10mol/Lの塩酸水溶液が用いられたこと以外は、実施例1と同じ条件である。その結果を表1および図2に示す。
【0054】
比較例3では、マンガン濃度は45500mg/Lであり、マンガン酸リチウム全体としての溶解が抑制されていないことがわかった。
【0055】
【表1】
図1
図2