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特許7415973化学増幅ポジ型レジスト組成物及びレジストパターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】化学増幅ポジ型レジスト組成物及びレジストパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20240110BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20240110BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240110BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G03F7/004 501
G03F7/004 503A
G03F7/039 601
G03F7/20 521
C08F212/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021020953
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123567
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小竹 正晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】増永 恵一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正樹
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-202439(JP,A)
【文献】特開平06-065251(JP,A)
【文献】特開2011-138111(JP,A)
【文献】特開2014-074896(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004
G03F 7/039
G03F 7/20
C08F 212/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(A1)で表されるスルフラン又はセレヌラン化合物、及び(B)下記式(B1)で表される繰り返し単位を含み、酸の作用により分解し、アルカリ現像液中での溶解度が増大するポリマーを含むベースポリマーを含む化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化1】
(式中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。また、R1とR2とが、互いに結合してこれらが結合するL1及びMと共に環を形成してもよく、R1とR2と、及びR3とR4とが、それぞれ互いに結合してMをスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。
1及びL2は、それぞれ独立に、-O-又は-N(R)-である。Rは、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
Mは、硫黄原子又はセレン原子である。)
【化2】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
11は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
1は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
vは、0又は1である。wは、0~2の整数である。aは、0≦a≦5+2w-bを満たす整数である。bは、1~3の整数である。)
【請求項2】
前記ポリマーが、更に、下記式(B2)で表される繰り返し単位を含むものである請求項1記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化3】
(式中、RAは、前記と同じ。
12は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
2は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
sは、0又は1である。tは、0~2の整数である。cは、0≦c≦5+2t-eを満たす整数である。dは、0又は1である。eは、1~3の整数である。
Xは、eが1のときは酸不安定基であり、eが2以上のときは水素原子又は酸不安定基であるが、少なくとも1つは酸不安定基である。)
【請求項3】
前記ポリマーが、更に、下記式(B3)で表される繰り返し単位、下記式(B4)で表される繰り返し単位及び下記式(B5)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1又は2記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化4】
(式中、RAは、前記と同じ。
13及びR14は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
15は、アセチル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルオキシヒドロカルビル基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルチオヒドロカルビル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルフィニル基又はスルホニル基である。
3は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
f及びgは、それぞれ独立に、0~4の整数である。hは、0又は1である。jは、0~5の整数である。kは、0~2の整数である。)
【請求項4】
前記ポリマーが、更に、下記式(B6)~(B13)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1~3のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化5】
(式中、RBは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
1は、単結合、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基若しくはこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基、-O-Z11-、-C(=O)-O-Z11-又は-C(=O)-NH-Z11-であり、Z11は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。
2は、単結合又は-Z21-C(=O)-O-であり、Z21は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビレン基である。
3は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基、-O-Z31-、-C(=O)-O-Z31-又は-C(=O)-NH-Z31-であり、Z31は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~20の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。
4は、単結合又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~30のヒドロカルビレン基である。h1及びh2は、それぞれ独立に、0又は1であるが、Z4が単結合のとき、h1及びh2は、0である。
21~R38は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。また、R21及びR22が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R23及びR24、R26及びR27、又はR29及びR30が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。
HFは、水素原子又はトリフルオロメチル基である。
Xa-は、非求核性対向イオンである。)
【請求項5】
更に、(C)光酸発生剤を含む請求項1~4のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【請求項6】
更に、(D)下記式(D1)で表される繰り返し単位及び式(D2)~(D5)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含むポリマーを含む請求項1~5のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化6】
(式中、RCは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
Dは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
301は、水素原子、又は炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。
302は、炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。
303、R304、R306及びR307は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビル基である。
305、R308、R309及びR310は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のヒドロカルビル基、フッ素化ヒドロカルビル基又は酸不安定基であり、R305、R308、R309及びR310が、ヒドロカルビル基又はフッ素化ヒドロカルビル基のとき、炭素-炭素結合間に、エーテル結合又はカルボニル基が介在していてもよい。
xは、1~3の整数である。yは、0≦y≦5+2z-xを満たす整数である。zは、0又は1である。mは、1~3の整数である。
1は、単結合、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-である。
2は、炭素数1~20の(m+1)価の炭化水素基又は炭素数1~20の(m+1)価のフッ素化炭化水素基である。)
【請求項7】
更に、(E)有機溶剤を含む請求項1~6のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程、高エネルギー線を用いて前記レジスト膜にパターンを照射する工程、及びアルカリ現像液を用いて前記パターンを照射したレジスト膜を現像する工程を含むレジストパターン形成方法。
【請求項9】
前記高エネルギー線が、極端紫外線又は電子線である請求項8記載のレジストパターン形成方法。
【請求項10】
前記基板の最表面が、ケイ素を含む材料からなる請求項8又は9記載のレジストパターン形成方法。
【請求項11】
前記基板が、フォトマスクブランクである請求項8~10のいずれか1項記載のレジストパターン形成方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項記載の化学増幅ポジ型レジスト組成物を塗布したフォトマスクブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学増幅ポジ型レジスト組成物及びレジストパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が急速に進んでいる。このうち、0.2μm以下のパターンの加工では、もっぱら酸を触媒とした化学増幅レジスト組成物が使用されている。また、露光源として紫外線、遠紫外線、電子線(EB)等の高エネルギー線が用いられており、特に超微細加工技術として利用されているEBリソグラフィーは、半導体製造用のフォトマスクを作製する際のフォトマスクブランクの加工方法としても不可欠となっている。
【0003】
酸性側鎖を有する芳香族骨格を多量に有するポリマー、例えばポリヒドロキシスチレンは、KrFエキシマレーザーを用いるKrFリソグラフィー用レジスト組成物の材料として有用であるが、波長200nm付近の光に対して大きな吸収を示すため、ArFエキシマレーザーを用いるArFリソグラフィー用レジスト組成物の材料としては使用されなかった。しかし、ArFエキシマレーザーによる加工限界よりも小さなパターンを形成するための有力な技術であるEBリソグラフィー用レジスト組成物や、極端紫外線(EUV)リソグラフィー用レジスト組成物の材料としては高いエッチング耐性が得られる点で重要な材料となっている。
【0004】
通常、ポジ型のEBリソグラフィー用レジスト組成物やEUVリソグラフィー用レジスト組成物のベースポリマーとしては、高エネルギー線を照射することで光酸発生剤より発生した酸を触媒として、ベースポリマーが持つフェノール側鎖の酸性官能基をマスクしている酸分解性保護基(酸不安定基)を脱保護させて、アルカリ現像液に可溶化する材料が主に用いられている。また、前記酸分解性保護基として、第3級アルキル基、tert-ブトキシカルボニル基、アセタール基等が主として用いられてきた。ここで、アセタール基のような脱保護に必要な活性化エネルギーが比較的小さい保護基を用いると、高感度のレジスト膜が得られるという利点があるものの、発生する酸の拡散の抑制が十分でないと、レジスト膜中の露光していない部分においても脱保護反応が起きてしまい、ラインエッジラフネス(LER)の劣化やパターン線幅の寸法均一性(CDU)の低下を招くという問題があった。
【0005】
感度やパターンプロファイルの制御について、レジスト組成物に使用する材料の選択や組み合わせ、プロセス条件等によって種々の改良がなされてきた。その改良の1つとして、酸の拡散の問題がある。この酸の拡散については、化学増幅レジスト組成物の感度と解像性に大きな影響を与えることから多くの検討がされてきた。
【0006】
特許文献1や特許文献2には、露光により光酸発生剤から発生するベンゼンスルホン酸を嵩高くすることで酸拡散を抑制し、ラフネスを低減する例が記載されている。しかし、前記酸発生剤では酸拡散の抑制が未だ不十分であるので、より拡散の小さい酸発生剤の開発が望まれていた。
【0007】
特許文献3には、露光により発生するスルホン酸をレジスト組成物に使用するポリマーに結合させて拡散を抑制することで、酸拡散を制御する例が記載されている。このような露光により酸を発生する繰り返し単位をベースポリマーに含ませて酸拡散を抑える方法は、LERの小さなパターンを得るのに有効である。しかし、このような繰り返し単位の構造や導入率によっては、露光により酸を発生する繰り返し単位を結合させたベースポリマーの有機溶剤に対する溶解性に問題が生じることがあった。
【0008】
また、特許文献4に記載されている、フッ素化アルカンスルホン酸のような酸強度の高い酸を発生させるスルホニウム塩と、アセタール基を有する繰り返し単位を含むポリマーを用いた場合には、LERの大きなパターンが形成される問題があった。脱保護の活性化エネルギーが比較的小さいアセタール基の脱保護にはフッ素化アルカンスルホン酸の酸強度が高すぎるため、酸の拡散を抑えたとしても未露光部に拡散した微量の酸により脱保護反応が進行してしまうからである。このことは、特許文献1や特許文献2に記載されているベンゼンスルホン酸を発生させるスルホニウム塩においても同様である。そこで、アセタール基の脱保護に、より好適な強度の酸を発生する酸発生剤の開発が望まれている。
【0009】
酸の拡散を抑制するには、前述の発生酸を嵩高くする方法のほかに、酸拡散制御剤(クエンチャー)を改良する方法も考えられる。
【0010】
酸拡散制御剤は、酸拡散を抑制するものであり、レジスト組成物の性能を向上させるためには事実上必須成分である。酸拡散制御剤は、これまで様々な検討がなされており、一般的にアミン類や弱酸オニウム塩が用いられている。弱酸オニウム塩の例として、特許文献5には、トリフェニルスルホニウムアセテートの添加により、T-トップの形成、孤立パターンと密集パターンとの線幅の差及びスタンディングウエーブのない良好なレジストパターンを形成できることが記載されている。特許文献6には、スルホン酸アンモニウム塩又はカルボン酸アンモニウム塩の添加により、感度、解像性及び露光マージンが改善されたことが記載されている。また、特許文献7には、フッ素原子含有カルボン酸を発生する光酸発生剤を含む組み合わせのKrFリソグラフィー及びEBリソグラフィー用レジスト組成物が解像力に優れ、露光マージン、焦点深度等のプロセス許容性が改善されたことが記載されている。これらは、KrFリソグラフィー、EBリソグラフィー又はF2リソグラフィーに用いられているものである。
【0011】
特許文献8には、カルボン酸オニウム塩を含むArFリソグラフィー用ポジ型感光性組成物が記載されている。これらは、露光によって光酸発生剤から生じた強酸(スルホン酸)が弱酸オニウム塩と交換し、弱酸及び強酸オニウム塩を形成することで酸性度の高い強酸(スルホン酸)から弱酸(カルボン酸)に置き換わることによって酸不安定基の酸分解反応を抑制し、酸拡散距離を小さくする(制御する)ものであり、見かけ上酸拡散制御剤として機能する。
【0012】
しかしながら、前述したカルボン酸オニウム塩やフルオロカルボン酸オニウム塩を含むレジスト組成物を用いてパターニングを行った際、より微細化が進んだ近年では未だLERが大きい問題があるため、よりLERを低減できる酸拡散制御剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2009-53518号公報
【文献】特開2010-100604号公報
【文献】特開2011-22564号公報
【文献】特許第5083528号公報
【文献】特許第3955384号公報
【文献】特開平11-327143号公報
【文献】特許第4231622号公報
【文献】特許第4226803号公報
【文献】特許第4575479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、パターン形成時の解像性を向上し、かつLER及びCDUが改善されたレジストパターンを得ることができる化学増幅ポジ型レジスト組成物、及びレジストパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するスルフラン又はセレヌラン化合物からなる酸拡散制御剤をレジスト組成物に導入した場合、良好な解像性やパターン形状を示し、LER及びCDUが改善されたパターンが得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記化学増幅ポジ型レジスト組成物及びレジストパターン形成方法を提供する。
1.(A)下記式(A1)で表されるスルフラン又はセレヌラン化合物、及び(B)下記式(B1)で表される繰り返し単位を含み、酸の作用により分解し、アルカリ現像液中での溶解度が増大するポリマーを含むベースポリマーを含む化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化1】
(式中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。また、R1とR2とが、互いに結合してこれらが結合するL1及びMと共に環を形成してもよく、R1とR2と、及びR3とR4とが、それぞれ互いに結合してMをスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。
1及びL2は、それぞれ独立に、-O-又は-N(R)-である。Rは、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
Mは、硫黄原子又はセレン原子である。)
【化2】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
11は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
1は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
vは、0又は1である。wは、0~2の整数である。aは、0≦a≦5+2w-bを満たす整数である。bは、1~3の整数である。)
2.前記ポリマーが、更に、下記式(B2)で表される繰り返し単位を含むものである1の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化3】
(式中、RAは、前記と同じ。
12は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
2は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
sは、0又は1である。tは、0~2の整数である。cは、0≦c≦5+2t-eを満たす整数である。dは、0又は1である。eは、1~3の整数である。
Xは、eが1のときは酸不安定基であり、eが2以上のときは水素原子又は酸不安定基であるが、少なくとも1つは酸不安定基である。)
3.前記ポリマーが、更に、下記式(B3)で表される繰り返し単位、下記式(B4)で表される繰り返し単位及び下記式(B5)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含む1又は2の化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化4】
(式中、RAは、前記と同じ。
13及びR14は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。
15は、アセチル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルオキシヒドロカルビル基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルチオヒドロカルビル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルフィニル基又はスルホニル基である。
3は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。
f及びgは、それぞれ独立に、0~4の整数である。hは、0又は1である。jは、0~5の整数である。kは、0~2の整数である。)
4.前記ポリマーが、更に、下記式(B6)~(B13)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含む1~3のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化5】
(式中、RBは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
1は、単結合、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基若しくはこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基、-O-Z11-、-C(=O)-O-Z11-又は-C(=O)-NH-Z11-であり、Z11は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。
2は、単結合又は-Z21-C(=O)-O-であり、Z21は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビレン基である。
3は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基、-O-Z31-、-C(=O)-O-Z31-又は-C(=O)-NH-Z31-であり、Z31は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~20の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。
4は、単結合又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~30のヒドロカルビレン基である。h1及びh2は、それぞれ独立に、0又は1であるが、Z4が単結合のとき、h1及びh2は、0である。
21~R38は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。また、R21及びR22が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R23及びR24、R26及びR27、又はR29及びR30が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。
HFは、水素原子又はトリフルオロメチル基である。
Xa-は、非求核性対向イオンである。)
5.更に、(C)光酸発生剤を含む1~4のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物。
6.更に、(D)下記式(D1)で表される繰り返し単位及び式(D2)~(D5)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを含むポリマーを含む1~5のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物。
【化6】
(式中、RCは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
Dは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
301は、水素原子、又は炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。
302は、炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。
303、R304、R306及びR307は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビル基である。
305、R308、R309及びR310は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のヒドロカルビル基、フッ素化ヒドロカルビル基又は酸不安定基であり、R305、R308、R309及びR310が、ヒドロカルビル基又はフッ素化ヒドロカルビル基のとき、炭素-炭素結合間に、エーテル結合又はカルボニル基が介在していてもよい。
xは、1~3の整数である。yは、0≦y≦5+2z-xを満たす整数である。zは、0又は1である。mは、1~3の整数である。
1は、単結合、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-である。
2は、炭素数1~20の(m+1)価の炭化水素基又は炭素数1~20の(m+1)価のフッ素化炭化水素基である。)
7.更に、(E)有機溶剤を含む1~6のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物。
8.1~7のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程、高エネルギー線を用いて前記レジスト膜にパターンを照射する工程、及びアルカリ現像液を用いて前記パターンを照射したレジスト膜を現像する工程を含むレジストパターン形成方法。
9.前記高エネルギー線が、EUV又はEBである8のレジストパターン形成方法。
10.前記基板の最表面が、ケイ素を含む材料からなる8又は9のレジストパターン形成方法。
11.前記基板が、フォトマスクブランクである8~10のいずれかのレジストパターン形成方法。
12.1~7のいずれかの化学増幅ポジ型レジスト組成物を塗布したフォトマスクブランク。
【発明の効果】
【0017】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、式(A1)で表されるスルフラン又はセレヌラン化合物の作用により、パターン形成時の露光による酸拡散を効果的に制御することができ、レジスト膜として成膜してパターンを形成する際に極めて高い解像性を有し、LER及びCDUが改善されたパターンを得ることができる。また、式(B1)で表される繰り返し単位の作用により、アルカリ現像液に対して良好な溶解性を示すものとなるほか、レジスト膜を成膜する際の基板への密着性を向上させることができる。
【0018】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いるレジストパターン形成方法は、高い解像性を有しつつLER及びCDUが改善されたパターンを形成できるため、微細加工技術、特にEUVリソグラフィーやEBリソグラフィーに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】合成例1-1で得られた化合物Q-Aの1H-NMRスペクトルである。
図2】合成例1-1で得られた化合物Q-Aの19F-NMRスペクトルである。
図3】合成例1-2で得られた化合物Q-Bの1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に記述する。なお、以下の説明中、化学式で表される構造によっては不斉炭素が存在し、エナンチオマーやジアステレオマーが存在し得るものがあるが、その場合は一つの式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は、1種単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0021】
[化学増幅ポジ型レジスト組成物]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、(A)所定のスルフラン又はセレヌラン化合物、及び(B)所定のポリマーを含むベースポリマーを含むことを特徴とする。
【0022】
[(A)スルフラン又はセレヌラン化合物]
(A)成分のスルフラン又はセレヌラン化合物は、下記式(A1)で表されるものである。
【化7】
【0023】
式(A1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。また、R1とR2とが、互いに結合してこれらが結合するL1及びMと共に環を形成してもよく、R1とR2と、及びR3とR4とが、それぞれ互いに結合してMをスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。L1及びL2は、それぞれ独立に、-O-又は-N(R)-である。Rは、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。Mは、硫黄原子又はセレン原子である。
【0024】
1~R4及びRで表される炭素数1~20のヒドロカルビル基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルブチル基、ノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基等の環式飽和ヒドロカルビル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基等が挙げられる。また、これらの基の水素原子の一部が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子等のヘテロ原子を含む基で置換されていてもよく、これらの基の炭素-炭素結合間に、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む基が介在していてもよく、その結果、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、カーバメート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物等を含んでいてもよい。
【0025】
式(A1)で表される化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化8】
【0026】
式(A1)で表される化合物は、既知の有機化学的手法を組み合わせることで合成することができる。例えば、Journal of the Chemical Society [Section] D: Chemical Communications, 1971), (12), p649-50、Journal of Organic Chemistry, Vol. 42, No. 25, 1977, p4006-4016、Journal of Organic Chemistry, Vol. 46, No. 6, 1981, p1049-1053等を参考にして合成することができる。
【0027】
式(A1)で表される化合物は、化学増幅ポジ型レジスト組成物に適用することで、酸拡散制御剤として極めて有効に機能する。なお、本発明において酸拡散制御剤とは、化学増幅ポジ型レジスト組成物中の光酸発生剤より発生した酸をトラップすることで未露光部への拡散を防ぎ、所望のパターンを形成するための材料のことである。
【0028】
式(A1)で表される化合物の酸拡散制御機構については定かではないが、1つの可能性として以下のように考えられる。本化合物が光酸発生剤より発生した酸と作用することにより、該化合物中のM-L1又はM-L2のいずれかの結合が切断され、スルホニウムカチオン又はセレニウムカチオンへ変化するのではないかと推測される。このときのカウンターアニオンは、前記発生酸の共役塩基となり、すなわち発生酸をトラップしたことになる。結果として、式(A1)で表される化合物が酸拡散制御剤として機能することになる。
【0029】
フォトレジスト組成物用酸拡散制御剤として古くから用いられてきたのは、アミン化合物である。アミン化合物は、光酸発生剤より生成した酸を中和して捕捉する。ただしアミン化合物は、レジスト膜内での偏在やレジスト膜表層からの揮発(ケミカルフレア)によるダーク(遮光部が広いエリア)・ブライト(露光部が広いエリア)寸法差を引き起こし、また、膜表面部が酸拡散抑制不足となることに起因し、形状が理想的な矩形ではなくトップラウンディング形状となる原因にもなる。分子量の大きい設計をして沸点を上げることで揮発を防ぐことは可能だが、膜内での偏在の課題は残されたままである。
【0030】
一方、式(A1)で表される化合物は、結晶性が高く揮発性のないスルフラン又はセレヌラン化合物であるため、ケミカルフレアの懸念がない。さらに、式(A1)で表される化合物は極性が低く、レジスト組成物のキャスト溶剤(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)との相溶性が高いため、膜内で均一に分散していると推測される。そのため、露光部で均一に発生酸のトラップが行われ、LERやCDUが改善されるのではないかと考えられる。
【0031】
アミン化合物以外の酸拡散制御剤として、オニウム塩型酸拡散制御剤が挙げられる。オニウム塩型酸拡散制御剤とは、弱酸の塩化合物であり(ここで弱酸とは、例えばカルボン酸やアルカンスルホン酸である。)、光酸発生剤より生成した強酸(例えばα,α'-ジフルオルスルホン酸)とイオン交換を起こすことによって発生酸をトラップするものである。かわりに生成した弱酸は、フォトレジスト組成物中のベースポリマーの酸不安定基を切断することはできない。したがって、弱酸のオニウム塩は、酸拡散制御剤として機能する。このようなオニウム塩型酸拡散制御剤の具体例としては、例えば特許文献8や特開2003-5376号公報に記載のカルボン酸塩、スルホン酸塩等が挙げられる。
【0032】
このオニウム塩型酸拡散制御剤は、アミン化合物と比較してLER及びCDUの改善に有利に働くことがあるが、コントラストは低下する。これは、イオン交換による酸のトラップが不可逆反応ではなく、一定の平衡を有していることに起因する。すなわち、不十分な酸拡散制御によりコントラストの劣化を招く。
【0033】
これに対し、本発明の式(A1)で表される化合物は、LER及びCDUの改善だけではなく、コントラストも高いことから解像性にも優れている。これは、本発明の式(A1)で表される化合物が、前記オニウム塩のような平衡反応ではなく、トラップした酸の再リリースのない、拡散制御能の高い機能を有しているからであると考えられる。
【0034】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、式(A1)で表される化合物の含有量は、後述する(B)ベースポリマー80質量部に対し、0.1~100質量部が好ましく、1~80質量部がより好ましい。式(A1)で表される化合物の含有量が前記範囲であれば、酸拡散制御剤として十分に機能し、感度低下や溶解性不足で異物が発生したりする等の性能劣化を起こすおそれがない。式(A1)で表される化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
[(B)ベースポリマー]
(B)成分のベースポリマーは、下記式(B1)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B1ともいう。)を含むポリマーを含むものである。
【化9】
【0036】
式(B1)中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
【0037】
式(B1)中、R11は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。前記飽和ヒドロカルビル基、並びに飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基及び飽和ヒドロカルビルオキシ基の飽和ヒドロカルビル部は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。炭素数が上限以下であれば、アルカリ現像液に対する溶解性が良好である。aが2以上のとき、各R11は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
式(B1)中、A1は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。前記飽和ヒドロカルビレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、これらの構造異性体等のアルカンジイル基;シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基等の環式飽和ヒドロカルビレン基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。前記飽和ヒドロカルビレン基がエーテル結合を含む場合には、式(B1)中のが1のときはエステル酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に入ってもよい。また、が0のときは主鎖と結合する原子がエーテル性酸素となり、該エーテル性酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に第2のエーテル結合が入ってもよい。なお、前記飽和ヒドロカルビレン基の炭素数が10以下であれば、アルカリ現像液に対する溶解性を十分に得ることができるため好ましい。
【0039】
式(B1)中、vは、0又は1である。wは、0~2の整数であり、0の場合はベンゼン骨格を、1の場合はナフタレン骨格を、2の場合はアントラセン骨格をそれぞれ表す。aは、0≦a≦5+2w-bを満たす整数であり、bは、1~3の整数である。wが0の場合、好ましくは、aは0~3の整数であり、bは1~3の整数であり、wが1又は2の場合、好ましくは、aは0~4の整数であり、bは1~3の整数である。
【0040】
vが0かつA1が単結合である場合、つまり芳香環がポリマーの主鎖に直接結合した(すなわち、リンカー(-C(=O)-O-A1-)を有しない)場合、繰り返し単位B1の好ましい例としては、3-ヒドロキシスチレン、4-ヒドロキシスチレン、5-ヒドロキシ-2-ビニルナフタレン、6-ヒドロキシ-2-ビニルナフタレン等に由来する単位が挙げられる。これらのうち、より好ましくは下記式(B1-1)で表される繰り返し単位等が挙げられる。
【化10】
(式中、RA及びbは、前記と同じ。)
【0041】
また、vが1である(すなわち、リンカーとして-C(=O)-O-A1-を有する)場合、繰り返し単位B1の好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化11】
(式中、RAは、前記と同じ。)
【0042】
繰り返し単位B1の含有量は、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、10~95モル%が好ましく、40~90モル%がより好ましい。ただし、後述する本発明で使用するポリマーにより高いエッチング耐性を与える式(B3)及び式(B4)で表される繰り返し単位のうち少なくとも1つ以上を含み、その単位が置換基としてフェノール性ヒドロキシ基を有する場合には、その比率も加えて前記範囲内とされることが好ましい。繰り返し単位B1は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
前記ポリマーは、ポジ型レジスト組成物として露光部がアルカリ水溶液に溶解する特性を与えるため、酸不安定基により保護された酸性官能基を有する単位(酸不安定基により保護され、酸の作用によりアルカリ可溶性となる単位)が含まれることが好ましい。この場合、前記繰り返し単位中の酸不安定基(保護基)が酸の作用により脱保護反応を起こすため、前記ポリマーがアルカリ現像液に対してより良好な溶解性を示すものとなる。
【0044】
このような繰り返し単位の最も好ましいものとしては、下記式(B2)で表されるもの(以下、繰り返し単位B2ともいう。)が挙げられる。
【化12】
【0045】
式(B2)中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
【0046】
式(B2)中、R12は、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。前記飽和ヒドロカルビル基、並びに飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基及び飽和ヒドロカルビルオキシ基の飽和ヒドロカルビル部は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。炭素数が上限以下であれば、アルカリ現像液に対する溶解性が良好である。cが2以上のとき、各R12は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
式(B2)中、A2は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。前記飽和ヒドロカルビレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、これらの構造異性体等のアルカンジイル基;シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基等の環式飽和ヒドロカルビレン基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。前記飽和ヒドロカルビレン基がエーテル結合を含む場合には、式(B)中のsが1のときはエステル酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に入ってもよい。また、sが0のときは主鎖と結合する原子がエーテル性酸素となり、該エーテル性酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に第2のエーテル結合が入ってもよい。なお、前記飽和ヒドロカルビレン基の炭素数が10以下であれば、アルカリ現像液に対する溶解性を十分に得ることができるため好ましい。
【0048】
式(B2)中、sは、0又は1である。tは、0~2の整数であり、0の場合はベンゼン骨格を、1の場合はナフタレン骨格を、2の場合はアントラセン骨格をそれぞれ表す。cは、0≦c≦5+2t-eを満たす整数である。dは、0又は1である。eは、1~3の整数である。tが0の場合、好ましくは、cは0~3の整数であり、eは1~3の整数であり、が1又は2の場合、好ましくは、cは0~4の整数であり、eは1~3の整数である。
【0049】
式(B2)中、Xは、eが1のときは酸不安定基であり、eが2以上のときは水素原子又は酸不安定基であるが、少なくとも1つは酸不安定基である。すなわち、繰り返し単位B2は、芳香環に結合したフェノール性ヒドロキシ基の少なくとも1つが酸不安定基で保護されたもの、あるいは芳香環に結合したカルボキシ基が酸不安定基で保護されたものである。このような酸不安定基としては、既に公知の多数の化学増幅レジスト組成物で用いられてきた、酸によって脱離して酸性基を与えるものであれば、特に限定されることなくいずれも使用することができる。
【0050】
前記酸不安定基として第3級飽和ヒドロカルビル基を選択すると、レジスト膜厚が、例えば、10~100nmになるように成膜され、45nm以下の線幅を持つような微細パターンを形成した場合にも、LERが小さなパターンを与えるため好ましい。前記第3級アルキル基としては、得られた重合用のモノマーを蒸留によって得るために、炭素数4~18のものであることが好ましい。また、前記第3級飽和ヒドロカルビル基の第3級炭素原子に結合する基としては、エーテル結合やカルボニル基のような酸素含有官能基を含んでいてもよい炭素数1~15の飽和ヒドロカルビル基が挙げられ、前記第3級炭素原子に結合する基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0051】
前記第3級炭素原子に結合する基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラヒドロフラン-2-イル基、7-オキサノルボルナン-2-イル基、シクロペンチル基、2-テトラヒドロフリル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基、3-オキソ-1-シクロヘキシル基が挙げられる。
【0052】
また、これらを置換基として有する第3級飽和ヒドロカルビル基としては、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-アダマンチル-1-メチルエチル基、1-メチル-1-(2-ノルボルニル)エチル基、1-メチル-1-(テトラヒドロフラン-2-イル)エチル基、1-メチル-1-(7-オキサノルボルナン-2-イル)エチル基、1-メチルシクロペンチル基、1-エチルシクロペンチル基、1-プロピルシクロペンチル基、1-イソプロピルシクロペンチル基、1-シクロペンチルシクロペンチル基、1-シクロヘキシルシクロペンチル基、1-(2-テトラヒドロフリル)シクロペンチル基、1-(7-オキサノルボルナン-2-イル)シクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-エチルシクロヘキシル基、1-シクロペンチルシクロヘキシル基、1-シクロヘキシルシクロヘキシル基、2-メチル-2-ノルボニル基、2-エチル-2-ノルボニル基、8-メチル-8-トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、8-エチル-8-トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、3-メチル-3-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基、3-エチル-3-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基、2-メチル-2-アダマンチル基、2-エチル-2-アダマンチル基、1-メチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル基、1-メチル-1-(テトラヒドロフラン-2-イル)エチル基、5-ヒドロキシ-2-メチル-2-アダマンチル基、5-ヒドロキシ-2-エチル-2-アダマンチル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
また、前記酸不安定基として、下記式(B2-1)で表される基が挙げられる。式(B2-1)で表される基は、酸不安定基としてよく利用され、パターンと基板の界面が比較的矩形であるパターンを安定して与える酸不安定基として有用な選択肢である。Xが式(B2-1)で表される基である場合、アセタール構造が形成される。
【化13】
【0054】
式(B2-1)中、RL1は、水素原子又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビル基である。RL2は、炭素数1~30の飽和ヒドロカルビル基である。前記飽和ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0055】
L1は、酸に対する分解性基の感度の設計に応じて適宜選択される。例えば、比較的高い安定性を確保した上で強い酸で分解するという設計であれば水素原子が選択され、比較的高い反応性を用いてpH変化に対して高感度化という設計であれば、直鎖状アルキル基が選択される。レジスト組成物に配合する酸発生剤や塩基性化合物との組み合わせにもよるが、RL2として末端に比較的大きなアルキル基が選択され、分解による溶解性変化が大きく設計されている場合には、RL1としては、アセタール炭素と結合する炭素が第2級炭素原子であるものが好ましい。第2級炭素原子によってアセタール炭素と結合するRL1の例としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等を挙げることができる。
【0056】
前記アセタール基のうち、より高い解像性を得るためには、RL2は、炭素数7~30の多環式アルキル基であることが好ましい。また、RL2が多環式アルキル基である場合、該多環式環構造を構成する第2級炭素原子とアセタール酸素との間で結合を形成していることが好ましい。環構造の第2級炭素原子上で結合している場合、第3級炭素原子上で結合している場合に比べて、ポリマーが安定な化合物となり、レジスト組成物として保存安定性が良好となり、解像力も劣化することがない。また、RL2が炭素数1以上の直鎖状のアルキル基を介在した第1級炭素原子上で結合している場合と比べても、ポリマーのガラス転移温度(Tg)が良好なものとなり、現像後のレジストパターンがベークにより形状不良を起こすことがない。
【0057】
式(B2-1)で表される基の好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RL1は、前記と同じである。
【化14】
【0058】
その他の酸不安定基としては、フェノール性ヒドロキシ基の水素原子が-CH2COO-(第3級飽和ヒドロカルビル基)で置換されたものを使用することもできる。このとき前記第3級飽和ヒドロカルビル基としては、前述したフェノール性ヒドロキシ基の保護に用いる第3級飽和ヒドロカルビル基と同じものを使用することができる。
【0059】
繰り返し単位B2の含有量は、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、5~45モル%が好ましい。繰り返し単位B2は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
前記ポリマーは、更に、下記式(B3)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B3ともいう。)、下記式(B4)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B4ともいう。)及び下記式(B5)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B5ともいう。)から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【化15】
【0061】
式(B3)及び(B4)中、R13及びR14は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~8の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~8の飽和ヒドロカルビルオキシ基である。前記飽和ヒドロカルビル基、飽和ヒドロカルビルオキシ基及び飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。fが2以上のとき、各R13は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。gが2以上のとき、各R14は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
式(B3)及び(B4)中、f及びgは、それぞれ独立に、0~4の整数である。
【0063】
式(B)中、RAは、前記と同じ。R15は、アセチル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基、炭素数1~20の飽和ヒドロカルビルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルオキシヒドロカルビル基、炭素数2~20の飽和ヒドロカルビルチオヒドロカルビル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルフィニル基又はスルホニル基である。前記飽和ヒドロカルビル基、飽和ヒドロカルビルオキシ基、飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基、飽和ヒドロカルビルオキシヒドロカルビル基及び飽和ヒドロカルビルチオヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。jが2以上のとき、各R15は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0064】
15としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、これらの構造異性体等の飽和ヒドロカルビル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、へキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、これらの炭化水素部の構造異性体等の飽和ヒドロカルビルオキシ基が好ましい。これらのうち、特にメトキシ基及びエトキシ基が有用である。
【0065】
また、飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基は、ポリマーの重合後でも容易に化学修飾法で導入することができ、ベースポリマーのアルカリ現像液に対する溶解性の微調整に用いることができる。前記飽和ヒドロカルビルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、これらの炭化水素部の構造異性体等が挙げられる。炭素数が20以下であれば、ベースポリマーとしてのアルカリ現像液に対する溶解性を制御・調整する効果(主に下げる効果)を適切なものとすることができ、スカム(現像欠陥)の発生を抑制することができる。
【0066】
前述した好ましい置換基の中で、特にモノマーとして準備しやすく、有用に用いられる置換基としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基等が挙げられる。
【0067】
式(B5)中、A3は、単結合又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビレン基であり、該飽和ヒドロカルビレン基を構成する-CH2-が-O-で置換されていてもよい。前記飽和ヒドロカルビレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、これらの構造異性体等のアルカンジイル基;シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基等の環式飽和ヒドロカルビレン基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。前記飽和ヒドロカルビレン基がエーテル結合を含む場合には、式(B4)中のが1のときはエステル酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に入ってもよい。また、が0のときは主鎖と結合する原子がエーテル性酸素となり、該エーテル性酸素に対してα位の炭素とβ位の炭素の間を除くいずれの箇所に第2のエーテル結合が入ってもよい。なお、前記飽和ヒドロカルビレン基の炭素数が10以下であれば、アルカリ現像液に対する溶解性を十分に得ることができるため好ましい。
【0068】
式(B5)中、jは、0~5の整数である。hは、0又は1である。kは、0~2の整数であり、0の場合はベンゼン骨格、1の場合はナフタレン骨格、2の場合はアントラセン骨格をそれぞれ表す。kが0の場合、好ましくはjは、0~3の整数であり、kが、1又は2の場合、好ましくはjは、0~4の整数である。
【0069】
hが0かつA3が単結合である場合、つまり芳香環がポリマーの主鎖に直接結合した(すなわち、リンカー(-C(=O)-O-A3-)を有しない)場合、繰り返し単位B5の好ましい例としては、スチレン、4-クロロスチレン、4-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-ブロモスチレン、4-アセトキシスチレン、2-ヒドロキシプロピルスチレン、2-ビニルナフタレン、3-ビニルナフタレン等に由来する単位が挙げられる。
【0070】
また、hが1である場合(すなわち、リンカーとして-C(=O)-O-A3-を有する場合)、繰り返し単位B5の好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RAは、前記と同じである。
【化16】
【0071】
【化17】
【0072】
繰り返し単位B3~B5のうち少なくとも1つを構成単位として使用した場合には、芳香環が持つエッチング耐性に加えて主鎖に環構造が加わることによるエッチング耐性やパターン検査の際のEB照射耐性を高めるという効果が得られる。
【0073】
繰り返し単位B3~B5の含有量は、エッチング耐性を向上させるという効果を得るためには、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、5モル%以上が好ましい。また、繰り返し単位B3~B5の含有量は、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、35モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい。導入量が35モル%以下であれば、現像欠陥が発生するおそれがないために好ましい。繰り返し単位B3~B5は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
前記ポリマーは、構成単位として、繰り返し単位B1、繰り返し単位B2、及び繰り返し単位B3~B5から選ばれる少なくとも1種を含むことが、高いエッチング耐性と解像性の両立に優れるという点から好ましい。このとき、これらの繰り返し単位が、全繰り返し単位中、60モル%以上含まれることが好ましく、70モル%以上含まれることがより好ましく、80モル%以上含まれることが更に好ましい。
【0075】
前記ポリマーは、更に、下記式(B6)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B6ともいう。)、下記式(B7)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B7ともいう。)、下記式(B8)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B8ともいう。)、下記式(B9)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B9ともいう。)、下記式(B10)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B10ともいう。)、下記式(B11)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B11ともいう。)、下記式(B12)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B12ともいう。)及び下記式(B13)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B13ともいう。)から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。この場合、酸拡散を効果的に抑制することができ、解像性が向上し、かつ、LERの低減されたパターンを得ることができる。
【化18】
【0076】
式(B6)~(B13)中、RBは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。Z1は、単結合、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基若しくはこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基、-O-Z11-、-C(=O)-O-Z11-又は-C(=O)-NH-Z11-であり、Z11は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、ナフチレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~18の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。Z2は、単結合又は-Z21-C(=O)-O-であり、Z21は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビレン基である。Z3は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基、-O-Z31-、-C(=O)-O-Z31-又は-C(=O)-NH-Z31-であり、Z31は、炭素数1~6の脂肪族ヒドロカルビレン基、フェニレン基、フッ素化フェニレン基、トリフルオロメチル基で置換されたフェニレン基又はこれらを組み合わせて得られる炭素数7~20の基であり、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合又はヒドロキシ基を含んでいてもよい。Z4は、単結合又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~30のヒドロカルビレン基である。h1及びh2は、それぞれ独立に、0又は1であるが、Z4が単結合のとき、h1及びh2は、0である。
【0077】
式(B7)及び(B11)中、Z2が-Z21-C(=O)-O-である場合、Z21で表されるヘテロ原子を含んでいてもよいヒドロカルビレン基としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化19】
(式中、破線は、結合手である。)
【0078】
式(B7)及び(B11)中、RHFは、水素原子又はトリフルオロメチル基である。繰り返し単位B7及びB11において、RHFが水素原子である場合の具体例としては、特開2010-116550号公報に記載されたものが挙げられ、RHFがトリフルオロメチル基である場合の具体例としては、特開2010-77404号公報に記載されたものが挙げられる。繰り返し単位B8及びB12としては、特開2012-246265号公報や特開2012-246426号公報に記載されたものが挙げられる。
【0079】
式(B6)及び(B10)中、Xa-は、非求核性対向イオンである。Xa-で表される非求核性対向イオンの例としては、特開2010-113209号公報や特開2007-145797号公報に記載されたものが挙げられる。
【0080】
繰り返し単位B9及びB13を与えるモノマーのアニオンの好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化20】
【0081】
【化21】
【0082】
式(B6)~(B13)中、R21~R38は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のヒドロカルビル基である。前記ヒドロカルビル基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。その具体例としては、R1~R4で表されるヒドロカルビル基として例示したものと同様のものが挙げられる。また、前記ヒドロカルビル基の水素原子の一部又は全部が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む基で置換されていてもよく、前記ヒドロカルビル基の炭素-炭素結合間に、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む基が介在していてもよく、その結果、ヒドロキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を含んでいてもよい。
【0083】
また、R21及びR22が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R23及びR24、R26及びR27、又はR29及びR30が、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。このとき形成される環としては、以下に示すもの等が挙げられる。
【化22】
(式中、破線は、結合手である。)
【0084】
式(B7)~(B9)中、スルホニウムカチオンの具体的な構造としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化23】
【0085】
【化24】
【0086】
式(B10)~(B13)中、ヨードニウムカチオンの具体的な構造としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化25】
【0087】
【化26】
【0088】
繰り返し単位B6~B13は、高エネルギー線の照射により酸を発生させる単位である。これらの単位がポリマー中に含まれることで、酸拡散が適度に抑制され、LER及びCDUが改善されたパターンを得ることができると考えられる。また、これらの単位がポリマーに含まれていることで、真空中でのベーク時に、露光部から酸が揮発し、未露光部へ再付着するという現象が抑制され、LER及びCDUの改善や、未露光部での望まない脱保護化反応抑制によるパターン欠陥の低減等に効果的であると考えられる。繰り返し単位B6~B13を含む場合、その含有量は、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、0.5~30モル%が好ましい。繰り返し単位B6~B13は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
(B)ベースポリマーは、繰り返し単位B1に加えて繰り返し単位B6~B13を含むポリマーと繰り返し単位B6~B13を含まないポリマーとの混合物であってもよい。このとき、繰り返し単位B6~B13を含まないポリマーの含有量は、繰り返し単位B6~B13を含むポリマー100質量部に対し、2~5,000質量部が好ましく、10~1,000質量部がより好ましい。
【0090】
前記ポリマーは、常用される、酸不安定基で保護された(メタ)アクリル酸エステル単位や、ラクトン構造、フェノール性ヒドロキシ基以外のヒドロキシ基等の密着性基を持つ(メタ)アクリル酸エステル単位を含んでもよい。これらの繰り返し単位によってレジスト膜の特性の微調整を行うことができるが、これらの単位を含まなくてもよい。
【0091】
前記密着性基を持つ(メタ)アクリル酸エステル単位の例として、下記式(B14)~(B16)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位B14~B16ともいう。)が挙げられる。これらの単位は、酸性を示さず、基板に対する密着性を与える単位や溶解性を調整する単位として補助的に用いることができる。
【化27】
【0092】
式(B14)~(B16)中、RAは、前記と同じである。R41は、-O-又はメチレン基である。R42は、水素原子又はヒドロキシ基である。R43は、炭素数1~4の飽和ヒドロカルビル基である。nは、0~3の整数である。
【0093】
これらの単位を含む場合、その含有量は、前記ポリマーを構成する全繰り返し単位中、0~30モル%が好ましく、0~20モル%がより好ましい。繰り返し単位B14~B16は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0094】
前記ポリマーは、公知の方法によって、必要に応じて保護基で保護した各モノマーを共重合させ、その後必要に応じて脱保護反応を行うことで合成することができる。共重合反応は、特に限定されないが、好ましくはラジカル重合、アニオン重合である。これらの方法については、特開2004-115630号公報を参考にすることができる。
【0095】
前記ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000であることが好ましく、2,000~20,000であることが更に好ましい。Mwが1,000以上であれば、従来知られているように、パターンの頭が丸くなって解像力が低下するとともに、LER及びCDUが劣化するといった現象が生じるおそれがない。一方、Mwが50,000以下であれば、特にパターン線幅が100nm以下のパターンを形成する場合においてLER及びCDUが劣化するおそれがない。なお、本発明においてMwは、テトラヒドロフラン(THF)を溶剤として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算測定値である。
【0096】
前記ポリマーは、分子量分布(Mw/Mn)が1.0~2.0、特に1.0~1.8と狭分散であることが好ましい。このように狭分散である場合には、現像後、パターン上に異物が生じたり、パターンの形状が悪化したりすることがない。
【0097】
[(C)光酸発生剤]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、(C)成分として光酸発生剤(以下、添加型光酸発生剤ともいう。)を含んでもよい。光酸発生剤としては、高エネルギー線照射により酸を発生する化合物であれば、特に限定されない。好適な光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N-スルホニルオキシイミド、オキシム-O-スルホネート型酸発生剤等がある。
【0098】
前記光酸発生剤の具体例としては、ノナフルオロブタンスルホネートや、特開2012-189977号公報の段落[0247]~[0251]に記載の部分フッ素化スルホネート、特開2013-101271号公報の段落[0261]~[0265]に記載の部分フッ素化スルホネート、特開2008-111103号公報の段落[0122]~[0142]、特開2010-215608号公報の段落[0080]~[0081]に記載されているもの等が挙げられる。これらの中でも、アリールスルホネート型又はアルカンスルホネート型の光酸発生剤が、式(B2)で表される繰り返し単位の酸不安定基を脱保護するのに適度な強度の酸を発生させるため好ましい。
【0099】
このような光酸発生剤としては、以下に示す構造のスルホニウムアニオンを有する化合物が好ましい。対をなすカチオンとしては、式(B7)~(B9)中のスルホニウムカチオンの具体例として前述したものや、式(B11)~(B13)中のヨードニウムカチオンの具体例として前述したものが挙げられる。
【化28】
【0100】
【化29】
【0101】
【化30】
【0102】
【化31】
【0103】
【化32】
【0104】
【化33】
【0105】
【化34】
【0106】
【化35】
【0107】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、(C)添加型光酸発生剤の含有量は、(B)ベースポリマー80質量部に対し、1~30質量部が好ましく、2~20質量部がより好ましい。なお、ベースポリマーが繰り返し単位B6~B13を含む場合(すなわち、ポリマーバウンド型酸発生剤である場合)には、添加型光酸発生剤の配合を省略してもよい。(C)添加型光酸発生剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0108】
[(D)フッ素含有ポリマー]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、高コントラスト化、高エネルギー線照射における酸のケミカルフレア及び帯電防止膜材料をレジスト上に塗布するプロセスにおける帯電防止膜からの酸のミキシングを遮蔽し、予期しない不要なパターン劣化を抑制する目的で、(D)成分として、下記式(D1)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位D1ともいう。)、並びに下記式(D2)、(D3)、(D4)及び(D5)で表される繰り返し単位(以下、それぞれ繰り返し単位D2、D3、D4及びD5ともいう。)から選ばれる少なくとも1つを含むフッ素含有ポリマーを含んでもよい。前記フッ素含有ポリマーは、界面活性機能も有することから、現像プロセス中に生じうる不溶物の基板への再付着を防止できるため、現像欠陥に対する効果も発揮する。
【化36】
【0109】
式(D1)~(D5)中、RCは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。RDは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。R301は、水素原子、又は炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。R302は、炭素-炭素結合間にヘテロ原子を含む基が介在していてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1~5のヒドロカルビル基である。R303、R304、R306及びR307は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10の飽和ヒドロカルビル基である。R305、R308、R309及びR310は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のヒドロカルビル基、フッ素化ヒドロカルビル基又は酸不安定基であり、R305、R308、R309及びR310が、ヒドロカルビル基又はフッ素化ヒドロカルビル基のとき、炭素-炭素結合間に、エーテル結合又はカルボニル基が介在していてもよい。xは、1~3の整数である。yは、0≦y≦5+2z-xを満たす整数である。zは、0又は1である。mは、1~3の整数である。X1は、単結合、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-である。X2は、炭素数1~20の(m+1)価の炭化水素基又は炭素数1~20の(m+1)価のフッ素化炭化水素基である。
【0110】
301及びR302で表される炭素数1~5のヒドロカルビル基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、アルキル基が好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。また、これらの基の炭素-炭素結合間に、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む基が介在していてもよい。
【0111】
式(D1)中、-OR301は親水性基であることが好ましい。この場合、R301としては水素原子、炭素-炭素結合間に酸素原子が介在した炭素数1~5のアルキル基等が好ましい。
【0112】
繰り返し単位D1としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RCは、前記と同じである。
【化37】
【0113】
【化38】
【0114】
繰り返し単位D1において、X1は、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-であることが好ましい。更に、RCがメチル基であることが好ましい。X1にカルボニル基が存在することにより、帯電防止膜由来の酸のトラップ能が向上する。また、RCがメチル基であると、よりガラス転移温度(Tg)が高い剛直なポリマーとなるため、酸の拡散が抑制される。これにより、レジスト膜の経時安定性が良好なものとなり、解像力やパターン形状も劣化することがない。
【0115】
式(D2)及び(D3)中、R303、R304、R306及びR307で表される炭素数1~10の飽和ヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等の環式飽和ヒドロカルビル基が挙げられる。これらのうち、炭素数1~6の飽和ヒドロカルビル基が好ましい。
【0116】
式(D2)~(D5)中、R305、R308、R309及びR310で表される炭素数1~15のヒドロカルビル基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、アルキル基が好ましい。前記アルキル基としては前述したもののほか、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等が挙げられる。また、フッ素化ヒドロカルビル基としては、前述したヒドロカルビル基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基が挙げられる。
【0117】
2で表される炭素数1~20の(m+1)価の炭化水素基及び炭素数1~20の(m+1)価のフッ素化炭化水素基としては、それぞれ前述したヒドロカルビル基又はフッ素化ヒドロカルビル基等から更に水素原子をm個除いた基が挙げられる
【0118】
繰り返し単位D2~D5の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RDは、前記と同じである。
【化39】
【0119】
【化40】
【0120】
【化41】
【0121】
繰り返し単位D1の含有量は、(D)フッ素含有ポリマーの全繰り返し単位中、5~85モル%が好ましく、15~80モル%がより好ましい。繰り返し単位D2~D5の含有量は、(D)フッ素含有ポリマーの全繰り返し単位中、15~95モル%が好ましく、20~85モル%がより好ましい。繰り返し単位D1~D5は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0122】
(D)フッ素含有ポリマーは、前述した繰り返し単位以外のその他の繰り返し単位を含んでもよい。このような繰り返し単位としては、特開2014-177407号公報の段落[0046]~[0078]に記載されているもの等が挙げられる。(D)フッ素含有ポリマーがその他の繰り返し単位を含む場合、その含有量は、全繰り返し単位中、50モル%以下が好ましい。
【0123】
(D)フッ素含有ポリマーは、公知の方法によって、必要に応じて保護基で保護した各モノマーを共重合させ、その後必要に応じて脱保護反応を行うことで合成することができる。共重合反応は特に限定されないが、好ましくはラジカル重合、アニオン重合である。これらの方法については、特開2004-115630号公報を参考にすることができる。
【0124】
(D)フッ素含有ポリマーのMwは、2,000~50,000であることが好ましく、3,000~20,000であることがより好ましい。Mwが2,000未満であると、酸の拡散を助長し、解像性の劣化や経時安定性が損なわれることがある。Mwが大きすぎると、溶剤への溶解度が小さくなり、塗布欠陥を生じることがある。また、(D)フッ素含有ポリマーは、Mw/Mnが1.0~2.2であることが好ましく、1.0~1.7であることがより好ましい。
【0125】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、(D)フッ素含有ポリマーの含有量は、(B)ベースポリマー80質量部に対し、0.01~30質量部が好ましく、0.1~20質量部がより好ましい。(D)フッ素含有ポリマーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0126】
[(E)有機溶剤]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、(E)成分として有機溶剤を含んでもよい。前記有機溶剤としては、各成分を溶解可能なものであれば特に限定されない。このような有機溶剤としては、例えば、特開2008-111103号公報の段落[0144]~[0145]に記載の、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチル-2-n-ペンチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル類;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;及びこれらの混合溶剤が挙げられる。アセタール系の酸不安定基を用いる場合は、アセタールの脱保護反応を加速させるため、高沸点のアルコール系溶剤、具体的にはジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等を加えることもできる。
【0127】
これらの有機溶剤の中でも、1-エトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、及びこれらの混合溶剤が好ましい。
【0128】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、(E)有機溶剤の含有量は、(B)ベースポリマー80質量部に対し、200~10,000質量部が好ましく、400~5,000質量部がより好ましい。(E)有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0129】
[(F)塩基性化合物]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、パターンの形状補正等を目的に、(A)成分以外の酸拡散制御剤として(F)塩基性化合物を含んでもよい。塩基性化合物を添加することにより、酸拡散を効果的に制御することができ、かつ、基板として最表面がクロムを含む材料からなる基板を用いた場合でも、レジスト膜内に発生する酸によるクロムを含む材料への影響を抑えることができる。
【0130】
塩基性化合物としては、多数が知られており、第1級、第2級又は第3級脂肪族アミン類、混成アミン類、芳香族アミン類、複素環アミン類、カルボキシ基を有する含窒素化合物、スルホニル基を有する含窒素化合物、ヒドロキシ基を有する含窒素化合物、ヒドロキシフェニル基を有する含窒素化合物、アルコール性含窒素化合物、アミド類、イミド類、カーバメート類、アンモニウム塩類等が挙げられる。これらの具体例は、特許文献9に多数例示されているが、基本的にはこれらの全てを使用することができる。特に、好ましいものとしては、トリス[2-(メトキシメトキシ)エチル]アミン、トリス[2-(メトキシメトキシ)エチル]アミンN-オキシド、ジブチルアミノ安息香酸、モルホリン誘導体、イミダゾール誘導体等が挙げられる。
【0131】
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、(F)塩基性化合物の含有量は、(B)ベースポリマー80質量部に対し、0~10質量部が好ましく、0~5質量部がより好ましい。(F)塩基性化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0132】
[(G)界面活性剤]
本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、基板への塗布性を向上させるため、慣用されている界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤を用いる場合、特開2004-115630号公報にも多数の例が記載されているように多数のものが公知であり、それらを参考にして選択することができる。本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物中、(G)界面活性剤の含有量は、(B)ベースポリマー80質量部に対し、0~5質量部が好ましい。(G)界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0133】
[レジストパターン形成方法]
本発明のレジストパターン形成方法は、前述した化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程、高エネルギー線を用いて前記レジスト膜にパターンを照射する工程(すなわち、高エネルギー線を用いて前記レジスト膜を露光する工程)、及びアルカリ現像液を用いて前記パターンを照射したレジスト膜を現像する工程を含む。
【0134】
前記基板としては、例えば、集積回路製造用の基板(Si、SiO、SiO2、SiN、SiON、TiN、WSi、BPSG、SOG、有機反射防止膜等)、あるいはマスク回路製造用の基板(Cr、CrO、CrON、MoSi2、Si、SiO、SiO2等)等を用いることができる。前記基板上に、スピンコーティング等の方法で膜厚が0.03~2μmとなるように前述したレジスト組成物を塗布し、これをホットプレート上で、好ましくは60~150℃、1~20分間、より好ましくは80~140℃、1~10分間プリベークし、レジスト膜を形成する。
【0135】
次いで、高エネルギー線を用いて前記レジスト膜を露光し、パターンを照射する。前記高エネルギー線としては、紫外線、遠紫外線、エキシマレーザー光(KrF、ArF等)、EUV、X線、γ線、シンクロトロン放射線、EB等が挙げられる。本発明においては、EUV又はEBを用いて露光することが好ましい。
【0136】
前記高エネルギー線として紫外線、遠紫外線、エキシマレーザー光、EUV、X線、γ線又はシンクロトロン放射線を用いる場合は、目的のパターンを形成するためのマスクを用いて、露光量が好ましくは1~500mJ/cm2、より好ましくは10~400mJ/cm2となるように照射する。EBを用いる場合は、目的のパターンを形成するため直接、露光量が好ましくは1~500μC/cm2、より好ましくは10~400μC/cm2となるように照射する。
【0137】
露光は、通常の露光法のほか、場合によってはマスクとレジストとの間を液浸する液浸法を用いることも可能である。その場合には、水に不溶な保護膜を用いることも可能である。
【0138】
次いで、ホットプレート上で、好ましくは60~150℃、1~20分間、より好ましくは80~140℃、1~10分間ポストエクスポージャーベーク(PEB)する。
【0139】
その後、0.1~5質量%、好ましくは2~3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液の現像液を用い、好ましくは0.1~3分間、より好ましくは0.5~2分間、浸漬(dip)法、パドル(puddle)法、スプレー(spray)法等の常法により現像することで、基板上に目的のパターンが形成される。
【0140】
なお、本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、特に解像性が良好で、LER及びCDUに優れたパターンを形成することができるため、有用である。また、本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、レジストパターンの密着性が取り難いことから、パターン剥がれやパターン崩壊を起こしやすい材料を表面に持つ基板のパターン形成に特に有用である。このような基板として、金属クロムや酸素、窒素及び炭素から選ばれる1以上の軽元素を含むクロム化合物を最表面にスパッタリング成膜した基板、SiOxを最表層に含む基板等が挙げられる。本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物は、特に、基板としてフォトマスクブランクを用いたパターン形成に有用である。
【0141】
本発明のレジストパターン形成方法であれば、最表面が、クロム又はケイ素を含む材料等のレジストパターン形状に影響を与えやすい材料からなる基板(例えば、フォトマスクブランク)を用いた場合であっても、基板界面で効率的に本発明の組成物が酸拡散を制御することで、露光により高解像かつLER及びCDUに優れたパターンを形成することができる。
【実施例
【0142】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、共重合組成比はモル比であり、Mwは、GPCによるポリスチレン換算測定値である。また、使用した装置は、以下のとおりである。
・IR:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET 6700
1H-NMR:日本電子(株)製、ECA-500
19F-NMR:日本電子(株)製、ECA-500
・LC-MS:Waters社製、ACQUITY UPLC H-Classシステム及びACQUITY QDa
【0143】
[1]酸拡散制御剤の合成
[合成例1-1]化合物Q-A(3,3,3',3'-テトラキス(トリフルオロメチル)-1λ 4 -1,1'-スピロビ[3H-2,1-ベンズオキサチオール])の合成
【化42】
【0144】
n-ブチルリチウム(n-BuLi)のヘキサン溶液32mLにN,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)2.1gを氷冷下滴下し、30分間熟成した。その後、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール9.8g及びTHFの混合溶液を氷冷下滴下し、20時間攪拌した後、更にTHF50gを加えることで、ジリチオ体を調製した。別の容器に塩化チオニル21.2gを仕込み、次いで前記ジリチオ体のTHF溶液を氷冷下滴下し、18時間熟成した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、有機層を分取し、この有機層を水洗した後、減圧濃縮を行った。濃縮残渣にヘキサンを加えて再結晶を行い、結晶を濾別して回収し、減圧乾燥をすることで、目的物である化合物Q-Aを4.2g得た(収率41%)。
【0145】
化合物Q-Aのスペクトルデータを以下に示す。核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR/DMSO-d6)及び(19F-NMR/DMSO-d6)の結果を図1及び図2に示す。なお、1H-NMRにおいて微量の水が観測された。
IR(D-ATR): 3133, 1466, 1448, 1299, 1271, 1210, 1169, 1146, 1115, 1048, 972, 965, 956, 767, 738, 703, 679, 665, 571, 535, 526, 497 cm-1.
LC/MS: POSITIVE [M+H]+517
【0146】
[合成例1-2]化合物Q-B(3,3,3',3'-テトラメチル-1λ 4 -1,1'-スピロビ[3H-2,1-ベンズオキサチオール])の合成
(1)中間体In-1(ビス(2-カルボキシフェニル)スルフィド)の合成
【化43】
【0147】
チオサリチル酸15.4g、2-ヨード安息香酸24.8g、ヨウ化銅0.5g及びN-メチルピロリドン(NMP)の混合溶液に対し、トリエチルアミン34.0gを室温にて滴下し、その後100℃にて15時間熟成させた。反応液に希塩酸を加え、不溶分となっている粉体を濾別して回収した。回収した粉体をメタノールに溶解させた後、純水を加えて再結晶を行い、得られた結晶を濾別し、減圧加熱乾燥を行うことで、目的物である中間体In-1を23g得た(収率84%)。
【0148】
(2)中間体In-2(2,2'-ジカルボキシジフェニルスルフィド ジメチルエステル)の合成
【化44】
【0149】
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)100gに、中間体In-1を19.2g溶解させ、この混合溶液に塩化オキザリル26.7gを室温にて滴下し、その後2時間熟成させた。次いで、そこへメタノール100gを室温にて滴下し、3時間熟成させた後、純水300gを加えて反応を停止させた。続いて、トルエン200gを加えて有機層を分取し、水洗を行った後、減圧濃縮を行って溶剤を除去し、濃縮残渣22.9gを得た。この濃縮残渣を中間体In-2として次反応に供した。
【0150】
(3)中間体In-3(ビス[2-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)フェニル]スルフィド)の合成
【化45】
【0151】
THF75gに中間体In-2を22.9g溶解させ、そこへメチルマグネシウムクロリドのTHF溶液100gを氷冷下にて滴下し、20時間熟成させた後、希塩酸を加えて反応を停止させた。続いて、トルエン220gを加えて有機層を分取し、水洗後、減圧濃縮を行って溶剤を除去した。濃縮残渣にヘキサン100gを加えて結晶を析出させ、得られた結晶を濾別し、減圧加熱乾燥を行うことで、目的物である中間体In-3を15.7g得た(収率77%)。
【0152】
(4)中間体In-4(1-クロロ-1-[2-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)フェニル]-3,3'-ジメチル[3H-2,1-ベンズオキサチオール])の合成
【化46】
【0153】
tert-ブチルメチルエーテル(TBME)50gに中間体In-3を9.1g溶解させ、そこへ次亜塩素酸tert-ブチル3.3gを氷冷下にて滴下し、3時間熟成させた。続いて、反応液から粉体を濾別し、TBMEで洗浄した後、減圧加熱乾燥を行うことで、目的物である中間体In-4を8.2g得た(収率81%)。
【0154】
(5)化合物Q-B(3,3,3',3'-テトラメチル-1λ 4 -1,1'-スピロビ[3H-2,1-ベンズオキサチオール])の合成
【化47】
【0155】
中間体In-4を8.2g及びTBME40gの混合溶液に25質量%水酸化ナトリウム水溶液37gを室温にて滴下し、1時間熟成させた。続いて、そこへメチルイソブチルケトン20gを加えて有機層を分取し、純水で洗浄した後、減圧濃縮を行った。濃縮残渣にヘキサンを加えて結晶を析出させ、得られた結晶を濾別した後、減圧加熱乾燥を行うことで、目的物である化合物Q-Bを5.1g得た(収率73%)。
【0156】
化合物Q-Bのスペクトルデータを以下に示す。核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR/DMSO-d6)の結果を図3に示す。
IR(D-ATR): 2974, 2928, 1468, 1446, 1436, 1374, 1357, 1285, 1251, 1165, 1156, 960, 945, 869, 782, 768, 743, 631, 622, 539, 532, 481, 458, 430 cm-1.
LC/MS: POSITIVE [M+H]+301
【0157】
[2]ポリマーの合成
[合成例2-1]ポリマーA1の合成
3Lのフラスコに、アセトキシスチレン407.5g、アセナフチレン42.5g、及び溶剤としてトルエンを1,275g添加した。この反応容器を、窒素雰囲気下、-70℃まで冷却し、減圧脱気、窒素フローを3回繰り返した。室温まで昇温後、重合開始剤として2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬(株)製V-65)を34.7g加え、55℃まで昇温後、40時間反応させた。この反応溶液に、攪拌しながらメタノール970g及び水180gの混合溶剤を滴下した。滴下終了後、30分間静置し、2層に分離させた。下層(ポリマー層)を減圧濃縮し、このポリマー層をメタノール0.45L及びTHF0.54Lの混合溶剤に再度溶解し、そこへトリエチルアミン160g及び水30gを加え、60℃に加温して40時間脱保護反応を行った。この脱保護反応溶液を減圧濃縮し、濃縮液にメタノール548g及びアセトン112gを加えて溶液化した。そこへ攪拌しながらヘキサンを990g滴下した。滴下終了後、30分間静置し、2層に分離させた。下層(ポリマー層)にTHF300gを加え、そこへ攪拌しながらヘキサンを1,030g滴下し、30分後に下層(ポリマー層)を減圧濃縮した。得られたポリマー溶液を酢酸82gを用いて中和し、該溶液を濃縮後、アセトン0.3Lに溶解し、更に水10Lに添加して沈澱させ、濾過、乾燥を行い、白色重合体280gを得た。得られた重合体を1H-NMR及びGPCで測定したところ、共重合組成比が、ヒドロキシスチレン:アセナフチレン=89.3:10.7、Mwが5,000、及びMw/Mnが1.63のポリマーであった。
得られたポリマー100gに、(2-メチル-1-プロペニル)メチルエーテル50gを酸性条件下反応させて、中和、分液処理、晶出工程を経て、ポリマーA1を得た。収量は125gであった。
【0158】
[合成例2-2~2-9]ポリマーA-2~A-7及びポリマーP-1~P-2の合成
使用する原料化合物を変えた以外は、合成例2-1と同様にしてポリマーA-2~A-7及びポリマーP-1~P-2を合成した。
【0159】
ポリマーA-1~A-7及びポリマーP-1~P-2の構造を以下に示す。
【化48】
【0160】
【化49】
【0161】
【化50】
【0162】
[3]ポジ型レジスト組成物の調製
[実施例1-1~1-30、比較例1-1~1-7]
下記表1~3に示す組成で、各成分を有機溶剤中に溶解し、得られた各溶液を0.02μmサイズのUPEフィルターで濾過することにより、化学増幅ポジ型レジスト組成物(R-1~R-30、CR-1~CR-7)を調製した。
【0163】
なお、表1~3中、有機溶剤は、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、EL(乳酸エチル)及びPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)である。
【0164】
表1~3中、比較例用の酸拡散制御剤Q-C及びQ-D、光酸発生剤PAG-A~PAG-C並びにフッ素含有ポリマーC-1~C-3の構造は、以下のとおりである。
・Q-C、Q-D:
【化51】
【0165】
・PAG-A~PAG-C:
【化52】
【0166】
・C-1~C-3:
【化53】
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
[4]EBリソグラフィー評価
[実施例2-1~2-30、比較例2-1~2-7]
各化学増幅ポジ型レジスト組成物(R-1~R-30、CR-1~CR-7)を、ACT-M(東京エレクトロン(株)製)を用いてヘキサメチルジシラザン(HMDS)ベーパープライム処理した152mm角の最表面が酸化ケイ素膜であるマスクブランク上にスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で600秒間プリベークして膜厚80nmのレジスト膜を作製した。得られたレジスト膜の膜厚測定は、光学式測定器ナノスペック(ナノメトリックス社製)を用いて行った。測定は、ブランク基板外周から10mm内側までの外縁部分を除くブランク基板の面内81箇所で行い、膜厚平均値と膜厚範囲を算出した。
電子線露光装置((株)ニューフレアテクノロジー製EBM-5000plus、加速電圧50kV)を用いて露光し、120℃で600秒間PEBを施し、2.38質量%TMAH水溶液で現像を行い、ポジ型のパターンを得た。
【0171】
得られたレジストパターンを次のように評価した。作製したパターン付きマスクブランクを上空SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、200nmの1:1のラインアンドスペース(LS)を1:1で解像する露光量を最適露光量(μC/cm2)とし、200nmのLSを1:1で解像する露光量における最小寸法を解像度(限界解像性)とした。SEMを用いて200nmLSパターン32本のエッジ各々について80点のエッジ検出を行い、そのばらつき(標準偏差、σ)の3倍値(3σ)を求め、LER(nm)とした。また、最適露光量で照射して得た200nmLSパターンについて、ブランク基板面内144箇所の寸法を測定し、その結果から標準偏差(σ)の3倍値(3σ)をCDUとして求めた。この値が小さいほど、LSパターンのCDUが優れる。結果を表4に示す。
【0172】
【表4】
【0173】
式(A1)で表される化合物を含む本発明のレジスト組成物(R-1~R-30)は、比較例のレジスト組成物(CR-1~CR-7)と比較して、いずれも良好な解像性を示し、LER及びCDUも良好な値を示した。
【0174】
式(A1)で表される化合物を含む本発明のレジスト組成物は、不可逆的に酸トラップ反応が起こるため、可逆的に酸トラップ反応を起こす比較例2-1~2-7のレジスト組成物に対して、酸拡散抑制能が高く、良好な解像性及びLERを得ることができた。また、式(A1)で表される化合物は、キャスト溶媒への相溶性が高く、膜内に均一分散するため、LER及びCDUも良好な数値を示した。
【0175】
以上説明したことから明らかなように、本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いれば、解像性が極めて高く、LER及びCDUの良好なパターンを形成することができる。本発明の化学増幅ポジ型レジスト組成物を用いるレジストパターン形成方法は、半導体素子製造、特にフォトマスクブランクの加工におけるフォトリソグラフィーに有用である。
図1
図2
図3