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特許7416046固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
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  • 特許-固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1023 20160101AFI20240110BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240110BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20240110BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240110BHJP
   C08F 216/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M8/1023
H01M8/10 101
H01M8/1039
H01B1/06 A
C08F216/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021502399
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008344
(87)【国際公開番号】W WO2020175675
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019036477
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】奥山 匠
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157395(WO,A1)
【文献】特開2013-216811(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061838(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020826(WO,A1)
【文献】特開2015-099772(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012374(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、H01B、C08F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.4×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である高分子電解質を含み、
膜厚が7~20μmであることを特徴とする、固体高分子電解質膜。
【請求項2】
前記高分子電解質が、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーである、請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
前記ペルフルオロポリマーが、ペルフルオロモノマー単位を含み、
前記ペルフルオロモノマー単位が、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を含む、請求項2に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
前記ペルフルオロポリマーが、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位、環構造を有する単位および、共有結合からなる架橋構造を有する単位、からなる群より選択される少なくとも1種の単位を実質的に含まない、請求項2または3に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項5】
前記ペルフルオロアリルエーテル単位が、式A-1で表される単位である、請求項3または4に記載の固体高分子電解質膜。
【化1】
式A-1中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項6】
前記ペルフルオロモノマー単位が、テトラフルオロエチレン単位をさらに含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項7】
前記高分子電解質のイオン交換容量が、1.4~2.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項8】
触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された請求項1~7のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜と、を含むことを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項9】
前記カソードの触媒層が、触媒と、イオン交換基を有するポリマーと、を含み、
前記イオン交換基を有するポリマーの水素ガス透過係数から、前記高分子電解質の水素ガス透過係数を差し引いた値が、1.0×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上である、請求項8に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、例えば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックした構造をもつ。膜電極接合体は、触媒層を有するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と、を含む。固体高分子電解質膜は、例えば酸型のスルホン酸基を有するポリマーを膜状にして得られる。
特許文献1の実施例には、酸型のスルホン酸基を有するポリマーとして、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFと、テトラフルオロエチレンと、を共重合して得られたポリマーの-SOFで表される基を酸型化して得られたペルフルオロポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-216804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、固体高分子形燃料電池のさらなる性能向上が求められており、具体的には、発電特性および燃料となる水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池が求められている。
本発明者らが、特許文献1に記載の上記ペルフルオロポリマーを電解質として含む固体高分子電解質膜の評価をしたところ、固体高分子形燃料電池の発電特性および水素ガスの利用効率の少なくとも一方について、改善の余地があることを見出した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、発電特性および水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池を製造できる固体高分子電解質膜、ならびに、これを用いて得られる膜電極接合体および固体高分子形燃料電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、水素ガス透過係数が所定値以下である高分子電解質を含み、膜厚が所定範囲内にある固体高分子電解質膜を用いれば、発電特性および水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.4×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である高分子電解質を含み、
膜厚が7~20μmであることを特徴とする、固体高分子電解質膜。
[2]上記高分子電解質が、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーである、[1]の固体高分子電解質膜。
[3]上記ペルフルオロポリマーが、ペルフルオロモノマー単位を含み、上記ペルフルオロモノマー単位が、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を含む、[2]の固体高分子電解質膜。
[4]上記ペルフルオロポリマーが、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位、環構造を有する単位および、共有結合からなる架橋構造を有する単位、からなる群より選択される少なくとも1種の単位を実質的に含まない、[2]または[3]に記載の固体高分子電解質膜。
[5]上記ペルフルオロアリルエーテル単位が、後述の式A-1で表される単位である、[3]または[4]の固体高分子電解質膜。後述の式A-1中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
[6]上記ペルフルオロモノマー単位が、テトラフルオロエチレン単位をさらに含む、[3]~[5]のいずれかの固体高分子電解質膜。
[7]上記高分子電解質のイオン交換容量が、1.4~2.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、[1]~[6]のいずれかの固体高分子電解質膜。
[8]触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置された[1]~[7]のいずれかの固体高分子電解質膜と、を含むことを特徴とする、膜電極接合体。
[9]上記カソードの触媒層が、触媒と、イオン交換基を有するポリマーと、を含み、
上記イオン交換基を有するポリマーの水素ガス透過係数から、上記高分子電解質の水素ガス透過係数を差し引いた値が、1.0×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上である、[8]の膜電極接合体。
[10][8]または[9]の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発電特性および水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池を製造できる固体高分子電解質膜、ならびに、これを用いて得られる膜電極接合体および固体高分子形燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、例えば、下記のスルホン酸型官能基、カルボン酸型官能基が挙げられる。
「スルホン酸型官能基」とは、酸型のスルホン酸基(-SOH)、および、塩型のスルホン酸基(-SO。ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)の総称である。
「カルボン酸型官能基」とは、酸型のカルボン酸基(-COOH)、および、塩型のカルボン酸基(-COOM。ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)の総称である。
「前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む膜である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味し、「前駆体基」と称する場合がある。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「単位を実質的に含まない」とは、当該単位を含むポリマーの全単位に対する当該単位の含有量が1モル%以下であることを意味する。
【0011】
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合することによって形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。なお、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載する場合がある。
【0012】
式A-1で表される単位を単位A-1と記す。他の式で表される単位も同様に記す。
式1-1で表される化合物を化合物1-1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0013】
[固体高分子電解質膜]
本発明の固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ともいう。)は、温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.4×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である高分子電解質を含み、膜厚が7~20μmである。
本発明の電解質膜によれば、発電特性および水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池を製造できる。この理由の詳細は未だ明らかになっていないが、以下の理由によるものと推測される。
【0014】
固体高分子形燃料電池は、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することで発電する。アノードに供給した水素を含むガスが電解質膜を透過してカソード側に移動すると(いわゆる、水素のクロスオーバー)、固体高分子形燃料電池の水素ガスの利用効率が低下するという問題が生じる。
この問題に対して、本発明者らは、水素ガス透過係数が所定値以下の高分子電解質を含む電解質膜を用いれば、水素のクロスオーバーの発生を抑制できる結果、水素の利用効率に優れた燃料電池が得られることを見出した。
一方で、本発明者らは、水素ガス透過係数を所定値以下にすることで、固体高分子形燃料電池の発電特性がやや向上するものの、改善の余地があることを知見した。
この問題に対して、本発明者らは、電解質膜の膜厚を所定範囲内にすれば、電解質膜の抵抗が充分に低下する結果、発電特性に優れた固体高分子形燃料電池が得られることを見出した。すなわち、高分子電解質の水素ガス透過係数を所定値以下にすることで奏する効果と、電解質膜の膜厚を所定範囲内にすることで奏する効果と、が相乗的に作用して、発電特性に優れた固体高分子形燃料電池が得られたと推測される。
【0015】
<高分子電解質>
高分子電解質としては、水素ガス透過係数が後述の範囲を満たすポリマーからなる電解質であれば特に限定されないが、固体高分子形燃料電池の発電特性がより優れる点から、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマー(以下、単に「ポリマーH」ともいう。)であるのが好ましい。
【0016】
ポリマーHは、電解質膜の耐久性が優れる点から、ペルフルオロモノマー単位を含むのが好ましい。
ペルフルオロモノマー単位は、固体高分子形燃料電池の発電特性がより優れる点から、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位(以下、「単位A」ともいう)を含むのが好ましい。
単位Aは、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位の一方または両方を含んでいてもよいが、合成が容易である点から、ペルフルオロアリルエーテル単位を含むのが好ましく、ペルフルオロアリルエーテル単位であるのが特に好ましい。
【0017】
単位Aに含まれる単位は、電解質膜の抵抗が低くなって、固体高分子形燃料電池の発電特性がより優れる点から、イオン交換基を有しているのが好ましく、スルホン酸型官能基を有しているのがより好ましく、酸型のスルホン酸型官能基を有するのが特に好ましい。
単位Aに含まれる各単位がイオン交換基を有している場合、各単位中のイオン交換基の個数は、電解質膜の抵抗が低くなって、固体高分子形燃料電池の発電特性がより優れる点から、2個以上が好ましく、合成が容易である点から、2個が特に好ましい。
【0018】
ペルフルオロアリルエーテル単位としては、水素ガス透過係数が後述の範囲にある高分子電解質が容易に得られる点から、単位A-1が好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
ペルフルオロビニルエーテル単位としては、水素ガス透過係数が後述の範囲にある高分子電解質が容易に得られる点から、単位A-2または単位A-3が好ましい。
【0021】
【化2】
【0022】
式A-1~式A-3中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
F1およびRF2の具体例としては、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-が挙げられる。
原料が安価である点、製造が容易である点、ポリマーHのイオン交換容量をより高くできる点から、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1または2のペルフルオロアルキレン基が好ましい。炭素数2の場合は、直鎖が好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-または-CF(CF)-が好ましく、-CF-または-CFCF-がより好ましく、-CF-が特に好ましい。
【0023】
式A-2中、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
F3の具体例としては、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-、-CFCF(CF)OCFCF(CF)-が挙げられる。
原料が安価である点、製造が容易である点、ポリマーHのイオン交換容量をより高くできる点から、RF3は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基が好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-または-CFCF(CF)-が好ましく、-CFCF(CF)-が特に好ましい。
式A-2中、mは、0または1である。
【0024】
ペルフルオロモノマー単位は、単位A以外の単位を含んでいてもよい。単位A以外の単位としては、イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位の具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)単位、ヘキサフルオロプロピレン単位が挙げられ、電解質膜の強度が優れる点から、TFE単位が好ましい。
【0025】
単位Aの含有量の下限値は、電解質膜のイオン交換容量を後述の範囲にすることが容易になる点、および、水素ガス透過係数が後述の範囲にある高分子電解質が容易に得られる点から、ポリマーH中の全単位に対して、7モル%が好ましく、8モル%がより好ましく、9モル%が特に好ましい。
単位Aの含有量の上限値は、電解質膜の強度が優れる点から、ポリマーH中の全単位に対して、45モル%が好ましく、36モル%がより好ましく、22モル%が特に好ましい。
【0026】
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位を含有する場合、その含有量は、ポリマーH中の全単位に対して、55~93モル%が好ましく、65~92モル%がより好ましく、78~91モル%が特に好ましい。これらの含有量は、ペルフルオロモノマー単位がTFE単位である場合に特に好適である。
【0027】
ポリマーHは、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位(以下、「単位X1」ともいう。)を実質的に含まないことが好ましい。これにより、モノマーを重合してポリマーHを製造する際に連鎖移動反応が起きにくく、製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
単位X1の具体例としては、クロロトリフルオロエチレン単位、ブロモトリフルオロエチレン単位、ヨードトリフルオロエチレン単位、ジクロロジフルオロエチレン単位が挙げられる。
ポリマーHが単位X1を実質的に含まないとは、単位X1の含有量が、ポリマーH中の全単位に対して、1モル%以下であることを意味し、含まない(0モル%)のが好ましい。
【0028】
ポリマーHは、環構造を有する単位(以下、「単位X2」ともいう。)を実質的に含まないことが好ましい。これにより、ポリマーHが脆くなることを抑えられ、ポリマーHの靭性が高くなるので、ポリマーHを用いて得られる電解質膜の機械的強度が優れる。
環構造としては、脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環、芳香族炭化水素環、芳香族複素環が挙げられる。環構造は、主鎖に存在していてもよく、側鎖に存在していてもよい。
単位X2の具体例としては、特許第4997968号、特許5454592号に記載の環状エーテル構造を有する単位が挙げられる。
ポリマーHが単位X2を実質的に含まないとの意味は、単位X1と同様であり、含まない(0モル%)のが好ましい。
【0029】
ポリマーHは、共有結合からなる架橋構造を有する単位(以下、「単位X3」ともいう。)を実質的に含まないことが好ましい。これにより、ポリマーHが液状媒体に溶解または分散しやすくなるので、ポリマーHおよび液状媒体を含む液状組成物を用いて電解質膜を形成する場合、電解質膜を薄膜化できる。
共有結合からなる架橋構造とは、共有結合によって架橋可能な架橋性基(例えば、ビニル基、ペルフルオロビニル基等)を有するモノマーを重合した後に、架橋性基を共有結合によって架橋させた構造、または共有結合によって架橋可能な架橋性基を有するモノマーを重合反応と同時に架橋させることにより得られる構造を意味する。
単位X3の具体例としては、特開2001-176524号公報に記載の式8~15の化合物(架橋性基を2個有する化合物)を重合した後、重合に使用されなかった架橋性基を共有結合によって架橋させた構造を有する単位が挙げられる。
ポリマーHが単位X3を実質的に含まないとの意味は、単位X1と同様であり、含まない(0モル%)のが好ましい。
【0030】
(高分子電解質の製造方法)
高分子電解質の製造方法の一例として、上述のポリマーHの製造方法を例に挙げて説明する。
ポリマーHの製造方法の一例としては、ポリマーH中の酸型のスルホン酸基が前駆体基(具体的には-SOFで表される基)となっている前駆体ポリマー(以下、「ポリマーF」ともいう。)の前駆体基を、酸型のスルホン酸基(-SO )に変換する方法が挙げられる。
前駆体基である-SOFで表される基を酸型のスルホン酸基に変換する方法の具体例としては、ポリマーFの-SOFで表される基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
【0031】
ポリマーFは、ペルフルオロモノマー単位を含み、-SOFで表される基を有するペルフルオロポリマーが好ましい。
【0032】
ポリマーFにおけるペルフルオロモノマー単位は、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位(以下、「単位a」ともいう)を含むのが好ましい。
単位aは、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位の一方または両方を含んでいてもよいが、合成が容易である点から、ペルフルオロアリルエーテル単位を含むのが好ましく、ペルフルオロアリルエーテル単位であるのが特に好ましい。
【0033】
単位aに含まれる単位は、イオン交換基の前駆体基を有していてもよいし、イオン交換基の前駆体基を有していなくてもよいが、イオン交換基の前駆体基を有しているのが好ましく、スルホン酸型官能基の前駆体基(具体的には-SOFで表される基)を有しているのが特に好ましい。
【0034】
単位aにおけるペルフルオロビニルエーテル単位の具体例としては、上述した単位Aにおけるペルフルオロビニルエーテル単位の酸型のスルホン酸基を、-SOFで表される基に変えた単位が挙げられる。
【0035】
単位aにおけるペルフルオロアリルエーテル単位としては、単位a-1が好ましい。
【0036】
【化3】
【0037】
式a-1中のRF1およびRF2はそれぞれ、式A-1中のRF1およびRF2と同義である。
【0038】
単位aにおけるペルフルオロモノマー単位は、単位a以外の単位を含んでいてもよい。単位a以外の単位の具体例は、イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位の具体例は、ポリマーHと同様である。
【0039】
ポリマーF中の各単位の含有量は、ポリマーH中の各単位の含有量と同様であるのが好ましい。
【0040】
ポリマーFは、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位、環構造を有する単位、および、共有結合からなる架橋構造を有する単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を実質的に含まないことが好ましく、これらの全ての単位を実質的に含まないことが特に好ましい。
フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位、環構造を有する単位、および、共有結合からなる架橋構造を有する単位の具体例は、ポリマーHと同様である。
なお、実質的に含まないとは、ポリマーHの場合と同様の意味である。
【0041】
ポリマーFの容量流速値(以下、「TQ値」ともいう。)は、220℃以上が好ましく、225~360℃がより好ましく、230~350℃がさらに好ましい。TQ値が下限値以上であれば、充分な分子量を有するポリマーHが得られるので、電解質膜の強度が優れる。TQ値が上限値以下であれば、液状媒体に対するポリマーHの溶解性または分散性が向上するので、液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーFの分子量の指標である。
ポリマーFの「TQ値」は、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる。
【0042】
<物性>
温度80℃および相対湿度10%の条件における高分子電解質の水素ガス透過係数は、2.4×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下であり、2.2×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下が好ましく、2.0×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下がより好ましく、1.8×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下が特に好ましい。上記水素ガス透過係数が上限値以下であれば、水素のクロスオーバーの発生を抑制できる。
温度80℃および相対湿度10%の条件における高分子電解質の水素ガス透過係数は、電解質膜の抵抗値を下げて、固体高分子形燃料電池の発電特性をより向上できる点から、1.0×10-12cm・cm/(s・cm・cmHg)以上が好ましく、1.0×10-11cm・cm/(s・cm・cmHg)以上が特に好ましい。
高分子電解質の「水素ガス透過係数」は、高分子電解質からなる膜厚25μmの膜を用いて、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる。
【0043】
高分子電解質のイオン交換容量は、1.4~2.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、1.6~2.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましく、1.8~2.3ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。高分子電解質のイオン交換容量が下限値以上であれば、これを用いて得られる電解質膜の抵抗を下げることができる結果、固体高分子形燃料電池の発電特性をより向上できる。高分子電解質のイオン交換容量が上限値以下であれば、電解質膜とした際の強度が優れる。
高分子電解質の「イオン交換容量」は、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる。
【0044】
電解質膜の膜厚は7~20μmであり、上記範囲の下限値は、10μmであることが好ましく、13μmであることが特に好ましく、また上記範囲の上限値は18μmであることが好ましい。電解質膜の膜厚が、上記範囲の下限値以上であれば、水素のクロスオーバーの発生をより抑制でき、機械的強度に優れ、また上記範囲の上限値以下であれば、電解質膜の抵抗値を下げて、固体高分子形燃料電池の発電特性をより向上できる。
電解質膜の膜厚は、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる平均膜厚を意味する。
【0045】
<他の材料>
電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材の具体例としては、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。
補強材は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」ともいう。)、および、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」ともいう。)からなる群から選択される材料から構成されるのが好ましい。
【0046】
電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。セリウムおよびマンガンは、電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。
電解質膜は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカまたはヘテロポリ酸(例えば、リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸)を含んでいてもよい。
【0047】
<用途>
電解質膜は、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜として好適に用いられる。
【0048】
<電解質膜の製造方法>
電解質膜の製造方法の一例としては、後述の液状組成物を基材フィルムまたは触媒層の表面に塗布し、乾燥する方法(キャスト法)が挙げられる。
電解質膜が補強材を含む場合の製造方法の一例としては、後述の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥する方法が挙げられる。
【0049】
電解質膜を安定化するために、熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、高分子電解質の種類にもよるが、130~200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、高分子電解質の含水率が適切となる。熱処理の温度が200℃以下であれば、スルホン酸基の熱分解が抑えられ、電解質膜の優れた導電性を維持できる。
電解質膜は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。
【0050】
(液状組成物)
液状組成物は、高分子電解質と、液状媒体と、を含むのが好ましい。液状組成物における高分子電解質は、液状媒体中に分散していてもよいし、液状媒体中に溶解していてもよい。
【0051】
液状媒体の具体例としては、水および有機溶媒が挙げられる。液状媒体には、水のみを用いてもよいし、有機溶媒のみを用いてもよいし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよいが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いるのが好ましい。
液状媒体として水を含む場合、液状媒体に対する高分子電解質の分散性または溶解性が向上しやすい。液状媒体として有機溶媒を含む場合、割れにくい電解質膜が得られやすい。
【0052】
有機溶媒としては、割れにくい電解質膜が得られやすい点から、炭素数が1~4のアルコールが好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、水の含有量は、液状媒体の全質量に対して、10~99質量%が好ましく、20~99質量%が特に好ましい。
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、有機溶媒の含有量は、1~90質量%が好ましく、1~80質量%が特に好ましい。
水および有機溶媒の含有量が上記範囲内であれば、液状媒体に対する高分子電解質の分散性または溶解性に優れ、かつ、割れにくい電解質膜が得られやすい。
【0054】
高分子電解質の含有量は、液状組成物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、3~30質量%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得られる。上記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が適切となる。
【0055】
液状組成物は、液状組成物から作製される電解質膜の耐久性をより向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。
【0056】
[膜電極接合体]
本発明の膜電極接合体は、触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置された上記電解質膜と、を含む。
本発明の膜電極接合体は上述の電解質膜を含むため、これを用いて得られた固体高分子形燃料電池は、発電特性および水素ガスの利用効率に優れる。
以下において、本発明の膜電極接合体の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0057】
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される電解質膜15とを含む。
【0058】
触媒層11の具体例としては、触媒と、イオン交換基を有するポリマーとを含む層が挙げられる。
触媒の具体例としては、カーボン担体に、白金、白金合金またはコアシェル構造を有する白金を含む触媒を担持した担持触媒、酸化イリジウム触媒、酸化イリジウムを含有する合金、コアシェル構造を有する酸化イリジウムを含有する触媒が挙げられる。カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
イオン交換基を有するポリマーの具体例としては、ポリマーH、ポリマーH以外のポリマーであってイオン交換基を有するペルフルオロポリマー(以下、「ポリマーH’」ともいう。)が挙げられる。
【0059】
ポリマーH’は、含フッ素オレフィンに基づく単位およびスルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位を含むのが好ましい。なお、ポリマーH’は、これら以外の単位を含んでいてもよい。
含フッ素オレフィンとしては、TFE、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられ、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位としては、式(1-1)で表される単位、式(1-2)で表される単位、または、式(1-3)で表される単位が好ましい。
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有する単位は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
式(1-1) -[CF-CF(-O-Rf1-SOM)]-
式(1-2) -[CF-CF(-Rf1-SOM)]-
【0062】
【化4】
【0063】
f1は、炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
f2は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上が特に好ましく、20以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
rは0または1である。
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0064】
単位(1-1)の具体例としては、以下の単位1-1-1~1-1-3が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF-CF(-O-(CF-SOM)]- 式(1-1-1)
-[CF-CF(-O-CFCF(CF)-O-(CF-SOM)]- 式(1-1-2)
-[CF-CF(-(O-CFCF(CF))-SOM)]- 式(1-1-3)
【0065】
単位(1-2)の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF-CF(-(CF-SOM)]- 式(1-2-1)
-[CF-CF(-CF-O-(CF-SOM)]- 式(1-2-2)
【0066】
単位(1-3)としては、下記式(1-3-1)で表される単位が好ましい。式中のMの定義は、上述した通りである。
式(1-3-1)中、Rf4は炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、Rf5は単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。rおよびMの定義は、上述した通りである。
【0067】
【化5】
【0068】
カソードの触媒層におけるイオン交換基を有するポリマーの水素ガス透過係数(以下、「Hc」ともいう。)から、電解質膜に含まれる上述の高分子電解質の水素ガス透過係数(以下、「Hk」ともいう。)を差し引いた値(Hc-Hk)は、1.0×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上が好ましく、1.3×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上がより好ましく、1.5×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上がさらに好ましく、1.7×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)以上が特に好ましい。
上記Hc-Hkの値の上限は、高ければ高いほどよく特に限定されないが、例えば、2.5×10-8cm・cm/(s・cm・cmHg)である。
上記Hc-Hkの値が上記範囲内であれば、固体高分子形燃料電池の発電特性がより優れる。この理由としては、未だ完全には明らかになっていないが、以下の理由によるものと推測される。
水素ガス透過係数が低くなると、水素の透過量が減少するが、酸素の透過量も減少する傾向にある。そのため、酸素を含むガスが供給されるカソードにおけるHcが低いと、反応場である触媒表面への酸素供給が妨げられる。
この問題に対して、上記Hc-Hkの値が上記範囲内にあれば、アノードからカソードへの水素クロスオーバーを抑制しつつ、カソード側触媒層において触媒表面への酸素の供給を促進できるので、これらの相乗作用によって、発電特性により優れた固体高分子形燃料電池が得られたと推測される。
なお、カソードの触媒層におけるイオン交換基を有するポリマーの水素ガス透過係数は、後述の実施例欄に記載の方法によって求められる。
【0069】
ガス拡散層12は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。ガス拡散層の具体例としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、チタン製の多孔体(具体的にはチタン粒子または繊維の焼結体等)が挙げられる。
ガス拡散層は、生成するガスの付着を防止するために、PTFE等によって撥水化または親水化処理したり、イオン交換基を有するポリマー等によって親水化してもよい。
図1の膜電極接合体においてはガス拡散層12が含まれるが、ガス拡散層は任意の部材であり、膜電極接合体に含まれていなくてもよい。
【0070】
電解質膜15は、上述した高分子電解質を含む電解質膜(固体高分子電解質膜)である。
【0071】
アノード13およびカソード14は、上記以外の他の部材を有していてもよい。
他の部材の具体例としては、触媒層11とガス拡散層12との間に設けられるカーボン層(図示せず)が挙げられる。カーボン層を配置すれば、触媒層11の表面のガス拡散性が向上して、燃料電池の発電性能をより向上できる。
カーボン層は、例えば、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む。カーボンの具体例としては、繊維径1~1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。非イオン性含フッ素ポリマーの具体例としては、PTFEが挙げられる。
【0072】
膜電極接合体の製造方法の具体例としては、電解質膜上に触媒層を形成して、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟み込む方法、および、ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、電解質膜をこの電極で挟み込む方法が挙げられる。
なお、触媒層の製造方法は、触媒層形成用塗工液を所定の位置に塗布して、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。
【0073】
[固体高分子形燃料電池]
本発明の固体高分子形燃料電池は、上述の膜電極接合体を含む。
本発明の固体高分子形燃料電池は、上述の膜電極接合体を含むため、発電特性および水素ガスの利用効率に優れる。
本発明の固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを有していてもよい。
セパレータの具体例としては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給して発電が行われる。
【実施例
【0074】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例6-1~例6-8および例7-1~例7-10は本発明の実施例であり、例6-9~例6-16および例7-11~例7-18は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0075】
H-NMR]
H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCDCNを用いた。生成物の定量は、H-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0076】
19F-NMR]
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CDCN、化学シフト基準:CFClの条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0077】
13C-NMR]
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCDCNを用いた。
【0078】
[イオン交換容量]
ポリマーFまたはポリマーF’の膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーの膜の質量を測定した後、ポリマーの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、-SOFで表される基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによってポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量を求めた。本明細書においては、高分子電解質であるポリマーHまたはポリマーH’のイオン交換容量は、前駆体であるポリマーFまたはポリマーF’を用いて測定されるイオン交換容量と同じであるとして記載した。
【0079】
[各単位の割合]
ポリマーFまたはポリマーF’における各単位の割合は、ポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量から算出した。
ポリマーHまたはポリマーH’における各単位の割合は、ポリマーFまたはポリマーF’における対応する各単位の割合と同じである。
【0080】
[水素ガス透過係数]
高分子電解質であるポリマーHまたはポリマーH’からなる膜(膜厚25μm)について、JIS K 7126-2:2006に準拠して水素ガス透過係数を測定した。測定装置としてはガス透過率測定装置(GTRテック社製、GTR-100XFAG)を用いた。
有効透過面積が9.62cmのポリマーHまたはポリマーH’からなる膜を80℃に保ち、第1の面に、相対湿度を10%に調湿した水素ガスを30mL/分で流し、第2の面に、相対湿度を10%に調湿したアルゴンガスを30mL/分で流した。アルゴンガスに透過してくる水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、25℃、1気圧の体積に換算した水素ガス透過量を求めた。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm、透過ガスの圧力差1cmHgあたり、1秒間に透過するガスの透過度を求め、膜厚1cmの膜に換算した値を水素ガス透過係数とした。なお、算出に用いた膜の基準寸法および膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
【0081】
[初期発電特性]
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、膜電極接合体の温度を95℃に維持し、アノードに水素ガス(利用率70%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ151kPa(絶対圧力)に加圧して供給する。ガスの加湿度は水素、空気ともに相対湿度20%RHとし、電流密度が2A/cmのときのセル電圧を記録し、下記基準にて評価した。セル電圧が高いほど、固体高分子形燃料電池の発電特性に優れる。
◎◎:セル電圧が0.43V以上である。
◎:セル電圧が0.40V以上0.43V未満である。
○:セル電圧が0.37V以上0.40V未満である。
×:セル電圧が0.37V未満である。
【0082】
[水素リーク量]
膜電極接合体の電解質膜を透過してアノード側からカソード側へ透過する水素リーク量をリニアスイープボルタンメトリー法によってカソード側における水素の酸化電流値として定量する。試験は、常圧で水素(0.05mL/min)および窒素(0.2mL/min)をそれぞれアノードおよびカソードに供給し、セル温度:80℃、水素および窒素の相対湿度:100%RHにて、アノード側を参照極としてカソード側の電位を0.05Vから0.5Vへ0.5mV/secの掃引速度で掃引して実施する。得られる電位に対する電流密度の関係において、0.4~0.5Vの範囲の線形近似式の切片の値を水素リーク電流値とし、下記基準にて評価した。水素リーク電流値が小さいほど、固体高分子形燃料電池の水素ガスの利用効率に優れる。
◎:水素リーク電流値が2.5mA/cm以下である。
○:水素リーク電流値が2.5mA/cm超4.0mA/cm以下である。
×:水素リーク電流値が4.0mA/cm超である。
【0083】
[膜厚]
固体高分子電解質膜をデジマチックインジケータ(ミツトヨ社製、ID-C112XB)にて測定し、任意の6点の膜厚を算術平均して平均膜厚を求めた。なお、膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
【0084】
[TQ値]
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPa(ゲージ圧)の押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーFまたはF’を溶融押出した。ポリマーFまたはF’の押出し量が100mm/秒となる温度(TQ値)を求めた。TQ値が高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0085】
[ガラス転移温度]
ポリマーFまたはF’の膜について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-225)を用いて試料幅:5.0mm、つかみ間長:15mm、測定周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、引張モードの条件にて、動的粘弾性測定を行った。損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)からtanδ(損失正接)を算出し、tanδ-温度曲線を作成した。tanδ-温度曲線から-100~200℃の間のピーク温度を読み取った値をポリマーFまたはF’のガラス転移温度(Tg)とした。
【0086】
[略号]
TFE:テトラフルオロエチレン、
PSVE:CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
PFtBPO:(CFCOOC(CF
AIBN:(CHC(CN)N=NC(CH(CN)、
HFC-52-13p:CF(CFH、
HFE-347pc-f:CFCHOCFCFH、
HCFC-225cb:CClFCFCHClF、
HCFC-141b:CHCClF。
【0087】
[例1]
<例1-1>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧にしてジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体をH-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0088】
【化6】
【0089】
化合物2-1のNMRスペクトル;
H-NMR(溶媒:DO):4.27ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:DO):62.6ppm(-CH-)、195.3ppm(C=O)。
【0090】
<例1-2>
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0091】
【化7】
【0092】
化合物3-1のNMRスペクトル;
H-NMR:5.20ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH-)、184.6ppm(C=O)。
【0093】
<例1-3>
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収しH-NMRおよび19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0094】
【化8】
【0095】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR:4.97ppm(-CH-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SOF、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH-)、184.9ppm(C=O)。
【0096】
<例1-4>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0097】
【化9】
【0098】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF-、4F、s)、45.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0099】
<例1-5>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0100】
<例1-6>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0101】
<例1-7>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0102】
【化10】
【0103】
化合物7-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF-SOF、4F、m)、-101.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF-O-、2F、m)、46.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0104】
<例1-8>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gを、プラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0105】
<例1-9>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また、化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0106】
[例2]
(例2-1)
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、化合物7-1の70.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEの2.53gを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.29MPaG(ゲージ圧)であった。重合開始剤であるPFtBPOの36.3mgとHFC-52-13pの2.58gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.56MPaGまで増加した。圧力を0.56MPaGで維持したままTFEを連続添加し重合を行った。9.5時間でTFEの添加量が4.03gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物7-1とのコポリマーであるポリマーF-1を得た。得られたポリマーF-1を用いて上述の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(例2-2)
例2-1の各条件を表1のように変更した。ただし、例2-2ではTFEの初期仕込みを行わず、代わりに重合温度まで加温してから表1に記載の窒素ガス希釈前圧力までTFEを張りこんだ。それ以外は、例2-1と同様にしてポリマーF-2を得た。得られたポリマーF-2を用いて上述の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
[例3]
<例3-1>
ポリマーF-1を用い、下記の方法にてポリマーH-1の膜を得た。
ポリマーF-1を、TQ値より10℃高い温度および4MPa(ゲージ圧)で加圧プレス成形し、ポリマーF-1の膜を得た。アルカリ水溶液A(水酸化カリウム/水=20/80(質量比))中に、80℃にてポリマーF-1の膜を16時間浸漬させ、ポリマーF-1の-SOFを加水分解し、-SOKに変換した。さらにポリマーの膜を、3モル/Lの塩酸水溶液に50℃で30分間浸漬した後、80℃の超純水に30分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、ポリマーの-SOKを-SOHに変換した。ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水による洗浄を繰り返した。ポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、ポリマーH-1の膜を得た。
【0110】
<例3-2>
ポリマーF-1の代わりにポリマーF-2を用い、アルカリ水溶液Aの代わりにアルカリ水溶液C(水酸化カリウム/メタノール/水=15/20/65(質量比))を用いた以外は、例3-1と同様にして、ポリマーH-2の膜を得た。
【0111】
[例4]
<例4-1>
内容積230mLのハステロイ製オートクレーブに、PSVEの123.8g、HCFC-225cbの35.2g、AIBNの63.6mgを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。70℃に昇温してTFEを系内に導入し、圧力を1.14MPa(ゲージ圧)に保持した。圧力が1.14MPa(ゲージ圧)で一定になるように、TFEを連続的に添加した。7.9時間経過後、TFEの添加量が12.4gとなったところでオートクレーブを冷却して、系内のガスをパージして反応を終了させた。ポリマー溶液をHCFC-225cbで希釈してから、HCFC-141bを添加して、凝集した。HCFC-225cbおよびHCFC-141bを用いて洗浄を行った後、乾燥して、TFEとPSVEとのコポリマーであるポリマーF’-1の25.1gを得た。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
[例5]
<例5-1>
ポリマーF-1の代わりにポリマーF’-1を用いた以外は、例3-1と同様にして、ポリマーH’-1の膜を得た。
【0114】
[例6]
<例6-1>
100mLのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の容器に、細かく切断したポリマーH-1の膜の4.3g、超純水の75gを加え、200℃で24時間加温した。内容物をPTFE製バットに移し、窒素雰囲気下30℃で64時間かけて風乾させた。乾固したポリマーH-1を200mLのガラス製オートクレーブに移し、超純水/エタノールの混合溶媒(50/50(質量比))の21.4gを加えた。110℃で25時間撹拌した後、超純水の3.87gを加えて希釈した。90℃で5時間撹拌した後、放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-1が混合溶媒に分散した液状組成物S-1の31.9gを得た。
液状組成物S-1を100μmのエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)製シート上に、ダイコーターにて塗工して製膜し、これを80℃で15分乾燥し、さらに185℃で30分の熱処理を施し、電解質であるポリマーHの膜からなる固体高分子電解質膜1を得た。なお、固体高分子電解質膜の膜厚が表3-1~表3-2に記載の値になるように、液状組成物の塗工量を調節した。結果を表3-1に示す。
【0115】
<例6-2~例6-16>
ポリマーH-1の代わりに表3-1~表3-2に記載のポリマーHまたはポリマーH’を用いて液状組成物を調製し、液状組成物の塗工量を調節して固体高分子電解質膜の膜厚が表3-1~表3-2に記載の値になるようにした以外は、例6-1と同様にして、ポリマーHまたはH’の膜からなる固体高分子電解質膜2~16を得た。結果を表3-1~表3-2に示す。
【0116】
【表3-1】
【表3-2】
【0117】
表3-1~表3-2中、「2.10E-09」等の記載は、指数表示を略記したものである。その具体例として、「2.10E-09」は「2.10×10-9」を意味する。後述の表4-1~表4-2についても同様である。
【0118】
[例7]
<例7-1>
ポリマーH’-1とエタノール/水の混合溶媒(60/40(質量比))とを混合し、固形分濃度が25.8質量%のポリマーH’-1分散液を得た。
カーボン粉末に白金を46質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製)の44gに水の221.76g、エタノールの174.24gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて混合粉砕し、触媒の分散液を得た。触媒の分散液に、ポリマーH’-1分散液の80.16gとエタノールの44.4gとゼオローラ-H(日本ゼオン製)の25.32gをあらかじめ混合、混練した混合液の102.06gを加え、さらに水の26.77g、エタノールの12gを加えて超音波ホモジナイザーを用いて混合し、固形分濃度を10質量%とし、触媒層形成用塗工液を得た。該液をETFEシート上にダイコーターで塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.4mg/cmの触媒層を形成した。
【0119】
気相成長炭素繊維(昭和電工社製、商品名:VGCF-H、繊維径約150nm、繊維長10~20μm)の50gにエタノール81.6gおよび蒸留水154.4gを添加し、よく撹拌した。これに、ポリマーH’-1とエタノール/水の混合溶媒(60/40(質量比))を固形分濃度28.1%で混合したポリマーH’-1分散液の89gを添加してよく撹拌し、さらに超音波ホモジナイザーを用いて混合、粉砕させて中間層形成用塗布液を調製した。
ガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 T10X13)の表面に中間層形成用塗布液を、固形分量が3mg/cmとなるようにダイコーターを用いて塗工し、80℃で乾燥し、カーボン不織布の表面に中間層が形成された中間層付きガス拡散基材を作製した。
【0120】
固体高分子電解質膜1を2枚の触媒層付きETFEシートで両側から挟み、プレス温度160℃、プレス時間2分、圧力3MPaの条件にて加熱プレスし、固体高分子電解質膜1の両面に触媒層を接合し、触媒層からETFEフィルムを剥離して、電極面積25cmの膜触媒層接合体を得た。
上記膜触媒層接合体に、アノード側にカーボン層付きガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 IX92 CX320)、カソード側に上記中間層付きガス拡散基材をそれぞれカーボン層、中間層が触媒層側と接するように配置した。プレス温度160℃、プレス時間2分、圧力3MPaで加熱プレスして、初期発電特性評価および水素リーク量の評価に供する膜電極接合体を作製した。結果を表4-1に示す。
【0121】
<例7-2~例7-8、例7-11~例7-18>
例6-1で得た固体高分子電解質膜1の代わりに、表3-1~表3-2に記載の固体高分子電解質膜2~16を使用した以外は、例7-1と同様にして、初期発電特性評価および水素リーク量の評価に供する膜電極接合体を作製した。結果を表4-1~表4-2に示す。
【0122】
<例7-9>
例6-1で得た固体高分子電解質膜1の代わりに表3-1に記載の固体高分子電解質膜8を使用し、触媒層形成用塗工液の調製に使用するポリマーH’-1分散液の代わりに、以下に示すポリマーH’-2分散液を使用し、触媒層形成用塗工液のポリマーと触媒担体の質量比が変わらないよう添加量を調整した以外は、例7-1と同様にして、初期発電特性評価および水素リーク量の評価に供する膜電極接合体を作製した。結果を表4-1に示す。
【0123】
ポリマーH’-2分散液は、次のようにして調製した。
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、式m32-1で表されるモノマーの459.97g、式m22-1で表されるモノマーの79.28g、を仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。TFEの22.38gを仕込んで、22℃に昇温して、溶媒(AGC社製、商品名:AC-2000)に2.91質量%の濃度で溶解したラジカル重合開始剤((CCOO))の161.5mgを仕込み、AC-2000の2gで仕込みラインを洗浄して、反応を開始した。24時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物をAC-2000で希釈した後、これをAC-2000:メタノール=8:2(質量比)の混合液と混合し、ポリマーを凝集してろ過した。AC-2000:メタノール=7:3(質量比)の混合液中でポリマーを洗浄し、ろ過で分離後、固形分を80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F’-2)を得た。
得られたポリマー(F’-2)を、メタノール20質量%および水酸化カリウム15質量%を含む50℃の水溶液に40時間浸漬させることにより、ポリマー(F’-2)中の-SOF基を加水分解し、-SOK基に変換した。ついで、該ポリマーを、3モル/Lの塩酸水溶液に室温で2時間浸漬した。塩酸水溶液を交換し、同様の処理をさらに4回繰り返し、ポリマー中の-SOK基がスルホン酸基に変換されたポリマーH’-2を得た。
ポリマーH’-2を構成する構成単位の組成を、19F-NMRにより分析したところ、ポリマーH’-2中、ポリマーH’-2に含まれる全単位に対して、式m22-1で表されるモノマー単位の含有量は50モル%、式m32-1で表されるモノマー単位の含有量は21.3モル%、TFE単位の含有量は28.7モル%であった。
【0124】
【化11】
【0125】
得られたポリマーH’-2とエタノール/水の混合溶媒(60/40(質量比))とを混合し、固形分濃度が10質量%のポリマーH’-2分散液を得た。
【0126】
<例7-10>
触媒層形成用塗工液の調製に使用するポリマーH’-2分散液の代わりに、以下に示すポリマーH’-3分散液を使用し、触媒層形成用塗工液中のポリマーと触媒担体の質量比が変わらないよう添加量を調整した以外は、例7-9と同様にして、初期発電特性評価および水素リーク量の評価に供する膜電極接合体を作製した。結果を表4-1に示す。
【0127】
ポリマーH’-2の合成で使用した各モノマーの使用量を調節した以外は、ポリマーH’-2の合成方法と同様にして、ポリマーH’-3を得た。
ポリマーH’-3を構成する構成単位の組成を、19F-NMRにより分析したところ、ポリマーH’-3中、ポリマーH’-3に含まれる全単位に対して、式m22-1で表されるモノマー単位の含有量が65モル%、式m32-1で表されるモノマー単位の含有量が17モル%、TFE単位の含有量が18モル%であった。
ポリマーH’-2の代わりにポリマーH’-3を用いた以外は、ポリマーH’-2分散液の調製と同様にして、ポリマーH’-3分散液を得た。
【0128】
【表4-1】
【表4-2】
【0129】
上記表4-1~表4-2中、水素ガス透過係数の差は、カソードの触媒層におけるイオン交換基を有するポリマーの水素ガス透過係数(以下、「Hc」ともいう。)から、電解質膜に含まれる上述の高分子電解質の水素ガス透過係数(以下、「Hk」ともいう。)を差し引いた値(Hc-Hk)を意味する。
【0130】
表3-1~表3-2および表4-1~表4-2に示す通り、温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.4×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である高分子電解質を含み、膜厚が7~20μmである固体高分子電解質膜を用いれば、発電特性および水素ガスの利用効率に優れた固体高分子形燃料電池が得られた(例6-1~例6-8および例7-1~例7-10)。
これに対して、水素ガス透過係数および膜厚の少なくとも一方が上記範囲外の固体高分子電解質膜を用いた場合、これを用いて得られた固体高分子形燃料電池の発電特性および水素ガスの利用効率の少なくとも一方が劣っていた(例6-9~例6-16、例7-11~例7-18)。
なお、2019年2月28日に出願された日本特許出願2019-036477号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0131】
10 膜電極接合体
11 触媒層
12 ガス拡散層
13 アノード
14 カソード
15 電解質膜
図1