(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法、及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240110BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240110BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240110BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20240110BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
G09F9/00 313
H10K50/86
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2021527591
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022265
(87)【国際公開番号】W WO2020261931
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019120315
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪股 貴道
(72)【発明者】
【氏名】眞島 啓
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155311(WO,A1)
【文献】特開2005-48060(JP,A)
【文献】特開2011-34069(JP,A)
【文献】特開2004-354557(JP,A)
【文献】国際公開第2007/066470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335 - 1/13363
G09F 9/00
H05B 33/00 - 33/28
H05B 44/00
H05B 45/60
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムの製造方法であって、
前記偏光フィルムは、粘着剤層と、第一重合体及び溶媒を含む第一樹脂で形成された第一樹脂層と、偏光子層と、第二樹脂層とを、この順に備え、
前記第一樹脂が、熱可塑性樹脂であり、
前記第一樹脂層の厚みが9μm以下であり、
前記第一重合体の23℃における貯蔵弾性率が、1000MPa以下であり、
前記第一樹脂が含む前記溶媒の量が、
2.0μg/g~10.0μg/gであり、
前記第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率が、4g/m
2/day以下である、偏光フィルムであり、
前記製造方法は、
前記第一重合体及び前記溶媒を含む樹脂液を、仮基材上に塗工して、前記樹脂液の層を形成する工程と、
前記樹脂液の層を乾燥させて、前記第一樹脂層を形成する工程と、
前記第一樹脂層と、前記偏光子層とを貼合する工程と、
前記仮基材を取り除く工程と、
前記粘着剤層を形成する工程と、
前記第二樹脂層を形成する工程と、
を含む、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記偏光子層、前記仮基材、前記第一樹脂層、および前記第二樹脂層がそれぞれ長尺である、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一樹脂層と前記偏光子層と
を、第一接着剤で形成された第一接着剤層
を介して貼合する、請求項1又は2に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項4】
前記第一接着剤が、吸湿剤を含む、請求項
3に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項5】
前記偏光子層と前記第二樹脂層とを、第二接着剤で形成された第二接着剤層
を介して貼合する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項6】
前記第二接着剤が、吸湿剤を含む、請求項
5に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項7】
前記第一重合体が、脂環式構造を有する重合体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項8】
前記第一樹脂が、吸湿剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項9】
前記試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率が、1g/m
2/day以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項10】
前記第一重合体が、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、又は、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項11】
前記粘着剤層と前記第一樹脂層との間に、λ/4層を
設ける工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項12】
前記第一樹脂層と前記偏光子層との間に、λ/4層を
設ける工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法。
【請求項13】
表示体と、
偏光フィルムとを備える表示装置の製造方法であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の偏光フィルム
の製造方法により、前記偏光フィルムを得る工程と、
前記表示体と、前記偏光フィルムの前記粘着層とを貼合する工程と、
を含む、表示装置の製造方法。
【請求項14】
前記表示体が、液晶パネルである、請求項
13に記載の表示装置
の製造方法。
【請求項15】
前記表示体が、有機ELパネルである、請求項
13に記載の表示装置
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム及びその製造方法、並びに当該偏光フィルムを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置には、しばしば、偏光フィルムが設けられる。以下、「有機エレクトロルミネッセンス」を「有機EL」ということがある。前記のような偏光フィルムは、一般に、偏光子層と、この偏光子層を保護するための保護フィルム層とを備える。このような偏光フィルムに関する技術として、例えば、特許文献1及び2に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/087806号
【文献】特開2014-130298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏光フィルムは、通常、偏光子層を樹脂層で挟み込む三層構成を有する。しかし、近年、ディスプレイの薄膜、軽量化の要求から、表示体側の樹脂層を使用しない二層構成の検討が進んでいる。本発明者らの検討によれば、前記の二層構造を有する偏光フィルムは、湿度による偏光性の劣化に加え、偏光子層に含まれるヨウ素によって、表示装置の電極が腐食しうることが判明した。よって、偏光性能の維持とヨウ素による電極の腐食の抑制とが可能な薄膜の偏光フィルムが求められている。
【0005】
また、偏光フィルムの連続的な製造のために、従来は、長尺の偏光子層と長尺の保護フィルム層とを貼り合わせることがあった。しかし、連続的な貼り合わせを行うと、偏光子層又は保護フィルム層にクラック又は破断が生じ、連続生産性に劣ることがあった。
【0006】
前記のクラック及び破断を避けるために、本発明者は、保護フィルム層の材料を含む材料液を偏光子層上に塗工し、乾燥して、偏光フィルムを製造する方法について検討した。しかし、この方法では、乾燥時の熱によって偏光子層が劣化することがあった。さらに、この方法では、材料液に含まれていた溶媒が気化し、乾燥オーブン内に気化した溶媒が高濃度で充満しえた。このような気化した溶媒の充満は、一般的な非防爆偏光板製造設備では、安全上及び衛生上の観点から、避けることが望ましい。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、表示装置の電極の腐食を抑制でき、且つ、連続生産性に優れる偏光フィルム及びその製造方法;並びに、その偏光フィルムを備える表示装置;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、粘着剤層と、特定の要件を満たす第一樹脂層と、偏光子層と、第二樹脂層とを、この順に備える偏光フィルムが、前記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0009】
〔1〕 粘着剤層と、第一重合体及び溶媒を含む第一樹脂で形成された第一樹脂層と、偏光子層と、第二樹脂層とを、この順に備え、
前記第一樹脂が、熱可塑性樹脂であり、
前記第一重合体の23℃における貯蔵弾性率が、1000MPa以下であり、
前記第一樹脂が含む前記溶媒の量が、0.2μg/g~10.0μg/gであり、
前記第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率が、4g/m2/day以下である、偏光フィルム。
〔2〕 前記第一樹脂層と前記偏光子層との間に、前記第一樹脂層と前記偏光子層とを接着する第一接着剤で形成された第一接着剤層を備える、〔1〕に記載の偏光フィルム。
〔3〕 前記第一接着剤が、吸湿剤を含む、〔2〕に記載の偏光フィルム。
〔4〕 前記偏光子層と前記第二樹脂層との間に、前記偏光子層と前記第二樹脂層とを接着する第二接着剤で形成された第二接着剤層を備える、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔5〕 前記第二接着剤が、吸湿剤を含む、〔4〕に記載の偏光フィルム。
〔6〕 前記第一重合体が、脂環式構造を有する重合体である、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔7〕 前記第一樹脂層の厚みが、9μm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔8〕 前記第一樹脂が、吸湿剤を含む、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔9〕 前記試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率が、1g/m2/day以下である、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔10〕 前記第一重合体が、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、又は、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物である、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔11〕 前記粘着剤層と前記第一樹脂層との間に、λ/4層を備える、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔12〕 前記第一樹脂層と前記偏光子層との間に、λ/4層を備える、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の偏光フィルム。
〔13〕 〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の偏光フィルムの製造方法であって、
前記第一重合体及び前記溶媒を含む樹脂液を、仮基材上に塗工して、前記樹脂液の層を形成する工程と、
前記樹脂液の層を乾燥させて、前記第一樹脂層を形成する工程と、
前記第一樹脂層と、前記偏光子層とを貼合する工程と、
前記仮基材を取り除く工程と、
前記粘着剤層を形成する工程と、
前記第二樹脂層を形成する工程と、
を含む、偏光フィルムの製造方法。
〔14〕 表示体と、〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の偏光フィルムとを備える表示装置であって、
前記偏光フィルムが、前記粘着剤層、前記第一樹脂層、前記偏光子層及び前記第二樹脂層を、前記表示体側からこの順に備える、表示装置。
〔15〕 前記表示体が、液晶パネルである、〔14〕に記載の表示装置。
〔16〕 前記表示体が、有機ELパネルである、〔14〕に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表示装置の電極の腐食を抑制でき、且つ、連続生産性に優れる偏光フィルム及びその製造方法;並びに、その偏光フィルムを備える表示装置;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの別の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの更に別の例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの更に別の例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る表示装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「長尺」とは、幅に対して、通常5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有する形状をいう。幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば10万倍以下でありうる。
【0014】
以下の説明において、接着剤と粘着剤とは、別に断らない限り、剪断貯蔵弾性率によって区別される。具体的には、別に断らない限り、接着剤とは、エネルギー線照射後、あるいは加熱処理後に、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa~500MPaである材料を示す。また、別に断らない限り、粘着剤とは、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa未満である材料を示す。
【0015】
以下の説明において、「板」、「層」及び「フィルム」とは、別に断らない限り、剛直な部材であってもよく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材であってもよい。
【0016】
以下の説明において、ある層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、前記層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記層の面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。また、nzは、層の厚み方向の屈折率を表す。dは、前記層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、550nmである。
【0017】
以下の説明において、用語「(メタ)アクリル樹脂」とは、別に断らない限り、アクリル樹脂、メタクリル樹脂及びこれらの組み合わせを包含する。また、用語「(メタ)アクリル酸」とは、別に断らない限り、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの組み合わせを包含する。
【0018】
[1.偏光フィルムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す例のように、本発明の一実施形態に係る偏光フィルム100は、粘着剤層110と、第一樹脂層120と、偏光子層130と、第二樹脂層140とを、この順に備える。
【0019】
第一樹脂層120は、第一重合体及び溶媒を含む第一樹脂で形成されている。また、第一樹脂は、熱可塑性樹脂であり、特定の要件を満たす。このような偏光フィルム100は、電極を備える表示装置に設けた場合に、その表示装置の電極の腐食を抑制できる。また、偏光フィルム100は、乾燥オーブン内において気化した溶媒の充満を抑制ながら、連続して製造することが可能であるので、連続生産性に優れる。
【0020】
図2~
図4は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る偏光フィルムの別の例を模式的に示す断面図である。
図2~
図4に示すように、偏光フィルム200~400は、粘着剤層110、第一樹脂層120、偏光子層130及び第二樹脂層140に組み合わせて、更に任意の層を備えていてもよい。
【0021】
例えば、
図2に示すように、偏光フィルム200は、第一樹脂層120と偏光子層130との間に、第一樹脂層120と偏光子層130とを接着する第一接着剤層210を任意の層として備えていてもよい。また、例えば、
図2に示すように、偏光フィルム200は、偏光子層130と第二樹脂層140との間に、偏光子層130と第二樹脂層140とを接着する第二接着剤層220を任意の層として備えていてもよい。
【0022】
例えば、
図3に示すように、偏光フィルム300は、粘着剤層110と第一樹脂層120との間に、λ/4層310を任意の層として備えていてもよい。また、例えば、
図4に示すように、偏光フィルム400は、第一樹脂層120と偏光子層130との間に、λ/4層410を任意の層として備えていてもよい。
【0023】
[2.粘着剤層]
粘着剤層は、粘着剤によって形成された層であり、粘着力を発揮できる。この粘着剤層の粘着力によって、偏光フィルムは、他の部材に貼り合わせられることができる。例えば、液晶パネル及び有機ELパネル等の表示体を備える表示装置に偏光フィルムを組み込む場合には、粘着剤層と表示体とを貼り合わせることにより、表示体上に偏光フィルムを設けることができる。
【0024】
粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系、ポリオレフィン系粘着剤等の粘着剤が挙げられる。中でも、耐熱性及び生産性の観点からアクリル系粘着剤及びポリオレフィン系粘着剤が好ましく、アクリル系粘着剤が特に好ましい。また、粘着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
粘着剤層の厚みは、好ましくは2.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上であり、好ましくは25.0μm以下、より好ましくは20.0μm以下、特に好ましくは15.0μm以下である。粘着剤層の厚みが前記範囲の下限値以上である場合、粘着剤層の粘着力を高めることができ、貼り合わせ時の気泡の巻き込みを抑制できる。また、粘着剤層の厚みが前記範囲の上限値以下である場合、偏光フィルムの膨張、収縮挙動を抑え込むことができ、ベゼルフリー化が可能となる。
【0026】
[3.第一樹脂層]
第一樹脂層は、第一重合体及び溶媒を含む熱可塑性樹脂としての第一樹脂で形成されている。この第一樹脂は、下記の要件(i)~要件(iii)を組み合わせて満たす。
要件(i):第一重合体の23℃における貯蔵弾性率が、1000MPa以下である。
要件(ii):第一樹脂が含む溶媒の量が、0.2μg/g~10.0μg/gである。
要件(iii):第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率が、4g/m2/day以下である。
【0027】
要件(i)及び要件(ii)を満たす第一樹脂で形成された第一樹脂層は、適切な柔軟性を有するので、貼り合わせ及び搬送時に加えられる力による第一樹脂層及び偏光子層の破損を抑制でき、したがって偏光フィルムの連続生産性を向上させることができる。また、要件(iii)を満たす第一樹脂が、優れた水蒸気遮断能力を有するので、当該第一樹脂で形成された第一樹脂層は、偏光子層への水分の浸入を抑制できる。したがって、浸入した水分による偏光子層の偏光度の低下を抑制することができるので、偏光フィルムの耐久性を高めることができる。さらに、浸入した水分の作用による偏光子層からのヨウ素の流出を抑制できるので、偏光フィルムを表示装置に設けた場合に、ヨウ素によって表示装置の電極が腐食することを抑制できる。
【0028】
以下、要件(i)について詳細に説明する。第一重合体の23℃における貯蔵弾性率は、通常1000MPa以下、好ましくは800MPa以下、より好ましくは500MPa以下である。第一樹脂が含む第一重合体が、前記上限値以下の貯蔵弾性率を有する場合、第一樹脂が適切な柔軟性を有するので、貼り合わせ及び搬送時に加えられる力によって第一樹脂層及び偏光子層に破断又はクラックが発生することを抑制できる。前記の貯蔵弾性率の下限は、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは200MPa以上である。貯蔵弾性率が前記下限値以上である場合、搬送ロールへの第一樹脂層の密着及び転着が抑制できる。前記の「転着」とは、仮基材上の第一樹脂層が搬送ロール上へと移ることをいう。
【0029】
第一重合体の貯蔵弾性率は、下記の測定方法によって測定できる。
第一重合体を、クリアランス1mm、温度250℃、圧力30MPaの条件で、熱溶融プレス機を用いて熱溶融して成形することにより、第一重合体で形成された厚み1mmの測定用フィルムを得る。この測定用フィルムを用いて、動的粘弾性測定装置(ティー・エー・インスツルメント・ジャパン社製「ARES」)により、-100℃から+250℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分の測定条件で第一重合体の貯蔵弾性率測定する。測定結果から、23℃における第一重合体の貯蔵弾性率の値を読み取りうる。
【0030】
前記の要件(i)を満たす貯蔵弾性率は、例えば、第一重合体の種類、ブロック組成比及び分子量;を適切に調整することにより、得ることができる。
【0031】
次に、要件(ii)について詳細に説明する。第一樹脂が含む溶媒の量は、通常0.2μg/g以上、好ましくは1.0μg/g以上、特に好ましくは2.0μg/g以上であり、通常10.0μg/g以下、好ましくは8.0μg/g以下、特に好ましくは5.0μg/g以下である。ここで、前記の単位「μg/g」は、単位重量当たりの第一樹脂に含まれる溶媒の重量を表す。また、溶媒とは、通常、有機溶媒を表す。
【0032】
第一樹脂に含まれる溶媒は、通常、第一樹脂層を形成する際に用いる樹脂液に含まれていた有機溶媒のうち、乾燥によっても除去されずに残った残留溶媒である。この残留溶媒が第一樹脂に含まれることにより、第一樹脂層が薄い場合(例えば、第一樹脂層の厚みが9μm以下の場合)であっても、仮基材から偏光子層への第一樹脂層の転写を安定的に行うことができる。ここで第一樹脂層の「転写」とは、一方の部材から他方の部材へと第一樹脂層を移動させることをいう。「転写」は、一方の部材から第一樹脂層を剥がした後でその第一樹脂層を他方の部材に貼り合わせること、及び、一方の部材上の第一樹脂層を他方の部材に貼り合わせた後で一方の部材を除くこと、の両方を包含する。仮に第一樹脂層が溶媒を含まない場合には、仮基材から第一樹脂層が剥がれる地点(剥離点)が変動する「ジッピング」という現象が常に発生する傾向がある。このジッピングが生じると、第一樹脂層及び偏光子層にマイクロクラックが発生し、外観欠点を引き起こす一因となりうる。他方、仮に第一樹脂層が溶媒を過剰に含む場合には、第一樹脂層が過剰に柔らかくなり、外観不良が発生しうる。例えば、仮基材から第一樹脂層を剥離する際、第一樹脂層の一部が仮基材に固着して糸引きが発生することがありうる。ここで「糸引き」とは、第一樹脂の一部が引き伸ばされて糸状となることをいう。また、仮に第一樹脂層が溶媒を過剰に含む場合には、乾燥オーブン内に気化した溶媒が高濃度で充満することがある。
【0033】
第一樹脂に含まれる溶媒の量は、下記の測定方法によって測定できる。
第一樹脂を秤量し、希釈溶媒と混合して、試料溶液を調整する。この試料溶液を、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製「GC-2010Plus」;カラムはAgilent techologies製「DB-5HT」30m×0.25mm、膜厚0.1μm)を用いて、分析する。得られた溶媒の検出ピークに基づいて、その溶媒の量を測定する。
【0034】
第一樹脂に含まれる溶媒の種類が予め判明している場合には、試料溶液を調整するための希釈溶媒として、その第一樹脂に含まれる溶媒とは異なる種類の溶媒を用いる。
他方、第一樹脂に含まれる溶媒の種類が予め判明していない場合には、一種類の希釈溶媒を用いた測定を行うだけでは、当該希釈溶媒と同じ種類の溶媒の第一樹脂における量を測定できないことがありえる。よって、その場合には、希釈溶媒の種類を変更して複数回の測定を行うことにより、第一樹脂に含まれる溶媒の量を測定できる。
【0035】
前記の要件(ii)を満たす溶媒の量は、例えば、第一樹脂層を形成する工程における樹脂液の層の乾燥条件;第一樹脂に含まれる第一重合体の種類、ブロック組成比及び分子量;を適切に調整することにより、得ることができる。
【0036】
次に、要件(iii)について詳細に説明する。第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率は、通常4.0g/m2/day以下、好ましくは3.0g/m2/day以下、特に好ましくは1.0g/m2/day以下である。下限値は、理想的には0g/m2/day以上であり、0.1g/m2/day以上であってもよい。単位「g/m2/day」は、単位「g/(m2・day)」と同じ意味を表す。前記の試料樹脂は、通常、第一樹脂から溶媒等の揮発成分を除去して得られる樹脂に相当し、よって、第一樹脂層に長期間にわたって含まれうる成分からなる組成を有する樹脂に相当する。第一樹脂から得られる試料樹脂が、前記上限値以下の水蒸気透過率を有する場合、第一樹脂が高い水蒸気遮断能力を有するので、第一樹脂層が偏光子層への水分の浸入を効果的に抑制できる。よって、偏光子層からのヨウ素の漏れを抑制できるので、表示装置の電極がヨウ素によって腐食することを効果的に抑制できる。また、通常は、水分による偏光子層の偏光度の低下を抑制することができる。
【0037】
第一樹脂から得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率は、下記の方法で測定できる。
第一樹脂を、クリアランス100μm、温度250℃、圧力30MPaの条件で、熱溶融プレス機を用いて熱溶融して成形することにより、試料樹脂で形成された厚み100μmの測定用フィルムを得る。この測定用フィルムを用いて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN-W」)により、JIS K 7129 B法に従って、温度40℃、湿度90%RHの条件にて、試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率を測定しうる。
【0038】
前記の要件(iii)を満たす水蒸気透過率は、例えば、第一樹脂に含まれる第一重合体の種類、ブロック組成比及び分子量;第一樹脂に含まれる吸湿剤の種類及び量;を適切に調整することにより、得ることができる。
【0039】
第一樹脂に含まれる第一重合体としては、例えば、ポリエステル、アクリル重合体、脂環式構造を有する重合体などが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、第一樹脂の水蒸気透過率を低くする観点から、脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0040】
脂環式構造を有する重合体は、その重合体の繰り返し単位が脂環式構造を有する重合体である。脂環式構造を有する重合体は、通常、水蒸気透過率が低い。そのため、脂環式構造を有する重合体を第一重合体として含む第一樹脂で第一樹脂層を形成することにより、偏光子層まで水蒸気が到達することを効果的に抑制できる。
【0041】
脂環式構造を有する重合体は、主鎖に脂環式構造を有していてもよく、側鎖に脂環式構造を有していてもよく、主鎖及び側鎖の双方に脂環式構造を有していてもよい。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点からは、少なくとも主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0042】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0043】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にある場合に、脂環式構造を有する重合体を含む樹脂の機械的強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0044】
脂環式構造を有する重合体において、脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択しうる。脂環式構造を有する重合体における脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する重合体における脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、脂環式構造を有する重合体を含む樹脂の透明性及び耐熱性が良好となる。
【0045】
脂環式構造を有する重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物;並びに、ビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物;が挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性が良好であり、更には貯蔵弾性率を上述した範囲に収めやすいため、ビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物が好ましい。
【0046】
ビニル芳香族炭化水素重合体は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を含む重合体を意味する。よって、ビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を含む重合体の水素化物を意味する。ある化合物由来の繰り返し単位とは、当該化合物の重合により得られる構造を有する繰り返し単位をいう。また、ある重合体の水素化物とは、当該重合体の水素化により得られる構造を有する物質をいう。ただし、当該繰り返し単位及び水素化物は、その製造方法によっては限定されない。
【0047】
繰り返し単位[I]に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を効果的に低くできることから、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0048】
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を含む重合体の水素化物のなかでも、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、又は、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物[E]が、好ましい。すなわち、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を含む重合体の水素化物のなかでも、ブロック共重合体水素化物[E]が好ましい。ブロック共重合体水素化物[E]は、ブロック共重合体[D]を水素化した水素化物を表す。ブロック共重合体[D]は、重合体ブロック[A]と重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体、又は、重合体ブロック[A]と重合体ブロック[C]とからなるブロック共重合体、を表す。重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする。重合体ブロック[B]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする。重合体ブロック[C]は、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする。
中でも、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物[E]が、特に好ましい。
ここで、「主成分」とは、重合体ブロック中で、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である成分をいう。
前記のブロック共重合体水素化物[E]を含む第一樹脂を用いることにより、偏光フィルムを設けられた表示装置の電極の腐食を効果的に抑制でき、且つ、偏光フィルムの連続生産性を効果的に高めることができる。
【0049】
前記のブロック共重合体水素化物[E]において、重合体ブロック[A]の重量分率wAと、重合体ブロック[B]の重量分率wBとの比(wA/wB)は、特定の範囲に収まることが好ましい。また、前記のブロック共重合体水素化物[E]において、重合体ブロック[A]の重量分率wAと、重合体ブロック[C]の重量分率wCとの比(wA/wC)は、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比(wA/wB)及び比(wA/wC)は、それぞれ、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上であり、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下である。前記の比(wA/wB)及び比(wA/wC)が前記範囲の下限値以上である場合、第一樹脂層の硬さ及び耐熱性を向上させたり、複屈折を小さくしたりできる。また、前記の比(wA/wB)及び比(wA/wC)が前記範囲の上限値以下である場合、第一樹脂層の柔軟性を向上させることができる。
【0050】
繰り返し単位[II]に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0051】
ビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物は、ビニル芳香族炭化水素重合体が有する不飽和結合を水素化して得られる物質である。ここで、水素化されるビニル芳香族炭化水素重合体の不飽和結合には、重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合を、いずれも含む。水素化率は、好ましくは90%以上である。
【0052】
前記のビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物は、例えば、国際公開第2000/32646号、国際公開第2001/081957号、特開2002-105151号公報、特開2006-195242号公報、特開2011-13378号公報、国際公開第2015/002020号、等に記載の方法で製造できる。
【0053】
第一樹脂に含まれる重合体の重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、第一樹脂層の機械的強度及び成形性が高度にバランスされる。
【0054】
第一樹脂に含まれる重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。ここで、Mnは、数平均分子量を表す。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、分子量分布が前記範囲の上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、第一樹脂層の安定性を高めることができる。
【0055】
前記の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。GPCで用いる溶媒としては、シクロヘキサン、トルエン、テトラヒドロフランが挙げられる。GPCを用いた場合、重量平均分子量は、例えばポリイソプレン換算またはポリスチレン換算の相対分子量として測定される。
【0056】
第一樹脂は、上述した第一重合体及び溶媒に組み合わせて、更に任意の成分を含んでいてもよい。例えば、第一樹脂は、吸湿剤を含んでいてもよい。第一樹脂が吸湿剤を含むことにより、第一樹脂の透明性を損なうことなく水蒸気透過率を効果的に低くすることができる。特に、第一樹脂層が薄い場合に第一樹脂が吸湿剤を含むことが好ましい。例えば、第一樹脂層の厚みが2μm以下の場合に、第一樹脂が吸湿剤を含むことが特に好ましい。
【0057】
吸湿剤としては、例えば、国際公開第2018/155311号に記載のゼオライト、ハイドロタルサイト等が好ましい。吸湿剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
第一樹脂に含まれる第一重合体100重量部に対して、吸湿剤の量は、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、特に好ましくは15重量部以上であり、好ましくは40重量部以下、より好ましくは30重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。
【0059】
第一樹脂が含みうる任意の成分として、例えば、分散剤が挙げられる。分散剤により、吸着剤を第一樹脂中に高い均一性で分散させることができる。分散剤としては、吸湿剤等の吸着粒子に吸着できる骨格と、重合体及び溶媒等のマトリクスに相互作用して吸着粒子の相溶性を向上させられる骨格と、を有する化合物を用いうる。吸着剤の具体的な種類は、特に制限はない。分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
吸湿剤の量100重量部に対して、分散剤の量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、特に好ましくは40重量部以上であり、好ましくは80重量部以下、より好ましくは70重量部以下、特に好ましくは60重量部以下である。
【0061】
第一樹脂が含みうる任意の成分の例としては、更に、可塑剤;軟化剤;有機金属化合物;酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤;滑剤などの樹脂改質剤;染料、顔料などの着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。これら任意の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
第一樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは70℃以上であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。第一樹脂が複数のガラス転移温度を有する場合、その最も高いガラス転移温度が、前記の範囲に収まることが好ましい。第一樹脂のガラス転移温度Tgが前記の範囲にある場合、第一樹脂層と偏光子層との密着力及び偏光フィルムの耐熱性のバランスを良好にできる。樹脂のガラス転移温度Tgは、粘弾性スペクトルにおけるtanδのピークトップ値として求めることができる。
【0063】
第一樹脂は、透明であることが好ましい。ここで、透明な樹脂とは、当該樹脂を厚み1mmの試験片として測定した全光線透過率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である樹脂を言う。全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定できる。
【0064】
第一樹脂層は、光学的に等方性を有することが好ましい。光学的に等方性を有する層とは、面内レターデーションReが好ましくは0nm以上5nm以下、より好ましくは0nm以上2nm以下の層を意味する。
【0065】
第一樹脂層の厚みは、薄いことが好ましい。第一樹脂層の具体的な厚みは、好ましくは20μm以下、より好ましくは9μm以下、特に好ましくは5μm以下である。このように薄い樹脂層は、従来技術では連続生産性に劣っていたが、上述した構成を有する第一樹脂層は優れた連続生産性を有することができる。第一樹脂層の厚みの下限は、通常0μmより大きく、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。
【0066】
[4.偏光子層]
偏光子層としては、振動方向が直角に交わる二つの直線偏光のうち、一方を透過させ、他方を吸収又は反射できるフィルムを用いることができる。ここで、直線偏光の振動方向とは、直線偏光の電場の振動方向を表す。このようなフィルムは、通常、偏光透過軸を有し、当該偏光透過軸と平行な振動方向を有する直線偏光を透過でき、偏光透過軸と垂直な振動方向を有する直線偏光を吸収又は反射できる。
【0067】
本実施形態で用いる偏光子層は、通常、ヨウ素を含む。このヨウ素は、従来、表示装置に含まれる電極を腐食させる原因となりえたが、本実施形態に係る偏光フィルムでは、このヨウ素による電極の腐食を抑制できる。偏光子層の具体例を挙げると、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系重合体を含む、ポリビニルアルコール樹脂のフィルムに、ヨウ素等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したものが挙げられる。偏光子層は、ポリビニルアルコール樹脂を含むことが好ましい。
【0068】
偏光子層の厚みは、好ましくは1μmより大きく、より好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上であり、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは8μm以下である。偏光子層の厚みが前記範囲の下限値より大きい場合、偏光フィルムの光学性能を十分に高めることができる。また、偏光子層の厚みが前記範囲の上限値以下である場合、偏光フィルムの屈曲復元性を効果的に高めることができる。
【0069】
[5.第二樹脂層]
第二樹脂層は、通常、透明な第二樹脂で形成される。第二樹脂としては、透明性、機械的強度、熱安定性及び水分遮蔽性に優れる例として、トリアセチルセルロース等のアセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、複屈折が小さい点でアセテート樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、環状オレフィン樹脂が特に好ましい。通常、前記の第二樹脂で形成された樹脂フィルムを、第二樹脂層として用いうる。
【0070】
第二樹脂層の厚みは、特段の制限は無く、例えば、20μm~100μmでありうる。
【0071】
[6.第一接着剤層]
本実施形態に係る偏光フィルムは、上述した粘着剤層、第一樹脂層、偏光子層及び第二樹脂層以外に、更に任意の層を備えていてもよい。例えば、偏光フィルムは、任意の層として、第一樹脂層と偏光子層との間に第一接着剤層を備えていてもよい。第一接着剤層を用いることにより、第一樹脂層と偏光子層とを強力に接着できる。
【0072】
第一接着剤層は、第一樹脂層と偏光子層とを接着する第一接着剤で形成された層である。第一接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)系接着剤、エチレン-スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などが挙げられる。また、第一接着剤としては、当該第一接着剤の硬化を短時間で行うことができるので、紫外線硬化型の接着剤が好ましい。
【0073】
第一接着剤は、吸湿剤を含むことが好ましい。第一接着剤が吸湿剤を含む場合、偏光子層への水分の浸入を特に効果的に抑制できる。よって、偏光フィルムの耐久性を効果的に高めたり、表示装置の電極がヨウ素によって腐食することを効果的に抑制したりできる。第一接着剤が含みうる吸湿剤としては、第一樹脂が含みうる吸湿剤と同じ例が挙げられる。また、吸湿剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
第一接着剤に含まれる吸湿剤の量は、第一接着剤の全量100重量%に対して、好ましくは2重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
【0075】
第一接着剤層の厚みは、通常0μmより大きく、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。第一接着剤層の厚みが上記範囲にある場合、良好な外観を得ることができ、また、第一樹脂層と偏光子層とを強く接着することが出来る。
【0076】
[7.第二接着剤層]
偏光フィルムが備えうる任意の層の別の例としては、偏光子層と第二樹脂層との間に設けられる第二接着剤層が挙げられる。第二接着剤層を用いることにより、偏光子層と第二樹脂層とを強力に接着できる。
【0077】
第二接着剤層は、偏光子層と第二樹脂層とを接着する第二接着剤で形成された層である。第二接着剤としては、第一接着剤として説明した範囲の接着剤を用いうる。第二接着剤としては、当該第二接着剤の硬化を短時間で行うことができるので、紫外線硬化型の接着剤が好ましい。
【0078】
第二接着剤は、吸湿剤を含むことが好ましい。第二接着剤が吸湿剤を含む場合、偏光子層への水分の浸入を特に効果的に抑制できる。よって、偏光フィルムの耐久性を効果的に高めたり、表示装置の電極がヨウ素によって腐食することを効果的に抑制したりできる。第二接着剤が含みうる吸湿剤としては、第一樹脂が含みうる吸湿剤と同じ例が挙げられる。また、吸湿剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
第二接着剤に含まれる吸湿剤の量は、第二接着剤の全量100重量%に対して、好ましくは2重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは8重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
【0080】
第二接着剤層の厚みの範囲は、第一接着剤層の厚みの範囲と同じでありうる。第一接着剤層の厚みと第二接着剤層の厚みとは、一致していてもよく、異なっていてもよい。
【0081】
[8.光学異方層]
偏光フィルムが備えうる任意の層の更に別の例としては、光学異方層が挙げられる。光学異方層は、例えば、偏光フィルムが設けられた液晶表示装置において、液晶セルが含む液晶の視野角依存性の補償、及び、偏光子層の軸ズレの補償を行うための光学補償フィルム層として機能しうる。また、光学異方層は、例えば、当該光学異方層と偏光子層との組み合わせにより、反射抑制機能を発揮できる反射抑制層を得ることができる。有機EL表示装置は、一般に、RGBの発光及び画像の表示のためには偏光フィルムを必要としないが、光学異方層を備える偏光フィルムを適用された場合には、黒表示特性の品位向上が可能となりうる。このような光学異方層は、例えば、粘着剤層と第一樹脂層との間に設けうる。また、光学異方層は、例えば、第一樹脂層と偏光子層との間に設けうる。
【0082】
光学異方層としては、例えば、λ/4層が挙げられる。λ/4層とは、波長550nmにおいて特定の範囲の面内レターデーションを有する層をいう。具体的には、λ/4層の波長550nmにおける面内レターデーションは、好ましくは110nm以上、より好ましくは120nm以上、特に好ましくは125nm以上であり、好ましくは165nm以下、より好ましくは155nm以下、特に好ましくは150nm以下である。
【0083】
視野角特性の面から、λ/4層の三次元屈折率は、nx>ny=nzとなる1軸性を示すことが好ましい。更に、λ/4層の三次元屈折率は、nx>nz>nyであっても好ましく、(nx-nz)/(nx-ny)=0.5の関係を満たすことが理想的である。
【0084】
λ/4層の遅相軸は、偏光子層の偏光透過軸に対して、好ましくは40°~50°、より好ましくは42°~48°、特に好ましくは44°~46°の角度をなす。これにより、偏光子層とλ/4層との組み合わせとして、円偏光板を得ることができる。
【0085】
λ/4層は、逆波長分散特性を有することが好ましい。逆波長分散特性とは、測定波長450nm及び550nmにおける面内レターデーションRe(450)及びRe(550)がRe(450)<Re(550)を満たす性質をいう。逆波長分散特性を有するλ/4層は、広い波長範囲においてその光学的機能を発揮できる。
【0086】
λ/4層は、例えば、適切な樹脂で形成された延伸前フィルムを延伸した延伸フィルムとして製造してもよい。また、λ/4層は、例えば、適切な液晶性化合物を含む液晶組成物の層を形成し、液晶性化合物の分子を配向させた後で、その液晶組成物を硬化させた液晶硬化層として製造してもよい。中でも、薄くフレキシブルな偏光フィルムを得る観点では、λ/4層は液晶硬化層であることが好ましい。このような液晶硬化層としてのλ/4層は、例えば、国際公開第2016/121602号に記載の方法によって製造できる。
【0087】
光学異方層の別の例としては、λ/2層が挙げられる。λ/2層とは、波長550nmにおいて特定の範囲の面内レターデーションを有する層をいう。具体的には、λ/2層の波長550nmにおける面内レターデーションは、好ましくは240nm以上、より好ましくは250nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは280nm以下、特に好ましくは265nm以下である。
【0088】
視野角特性の面から、λ/2層の三次元屈折率は、nx>ny=nzとなる1軸性を示すことが好ましい。更に、λ/2層の三次元屈折率は、nx>nz>nyであっても好ましく、(nx-nz)/(nx-ny)=0.5の関係を満たすことが理想的である。
【0089】
λ/2層の遅相軸は、偏光フィルムに発揮させたい光学的機能に応じて、任意に設定してよい。例えば、偏光フィルムがλ/2層とλ/4層とを組み合わせて備える場合、ある基準方向に対してλ/4層の遅相軸がなす角度θ(λ/4)と、前記基準方向に対してλ/2層の遅相軸がなす角度θ(λ/2)とが、式(X):「θ(λ/4)=2θ(λ/2)+45°」を満たす場合、λ/2層及びλ/4層の組み合わせは、広い波長範囲において当該λ/2層及びλ/4層を通過する正面方向の光にその光の波長の略1/4波長の面内レターデーションを与えうる広帯域λ/4板として機能できる(特開2007-004120号公報参照)。よって、広い波長範囲において円偏光板として機能できる偏光フィルムを得ようとする場合、λ/2層及びλ/4層の遅相軸は、前記の式(X)に近い関係を満たすように設定することが好ましい。例えば、λ/2層及びλ/4層の遅相軸は、下記(X1)~(X3)のいずれかの関係を満たすことが好ましい。
【0090】
(X1)λ/4層及びλ/2層の一方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは70°~80°、より好ましくは72°~78°、特に好ましくは74°~76°であり、且つ、λ/4層及びλ/2層の他方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは10°~20°、より好ましくは12°~18°、特に好ましくは14°~16°である。
【0091】
(X2)λ/4層及びλ/2層の一方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは10°~20°、より好ましくは12°~18°、特に好ましくは14°~16°であり、且つ、λ/4層及びλ/2層の他方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは70°~80°、より好ましくは72°~78°、特に好ましくは74°~76°である。
【0092】
(X3)λ/4層及びλ/2層の一方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは17.5°~27.5°、より好ましくは19.5°~25.5°、特に好ましくは21.5°~23.5°であり、且つ、λ/4層及びλ/2層の他方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対してなす角度が、好ましくは85°~95°、より好ましくは87°~93°、特に好ましくは89°~91°である。
【0093】
ここで、λ/4層及びλ/2層の一方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対して前記の角度をなす向きは、通常、λ/4層及びλ/2層の他方の遅相軸が偏光子層の偏光透過軸に対して前記の角度をなす向きと同じである。
【0094】
λ/2層は、逆波長分散特性を有することが好ましい。逆波長分散特性を有するλ/2層は、広い波長範囲においてその光学的機能を発揮できる。
【0095】
λ/2層は、例えば、延伸フィルムとして製造してもよい。また、λ/2層は、例えば、液晶硬化層として製造してもよい。中でも、薄くフレキシブルな偏光フィルムを得る観点では、λ/2層は液晶硬化層であることが好ましい。このような液晶硬化層としてのλ/2層は、例えば、国際公開第2016/121602号に記載の方法によって製造できる。
【0096】
光学異方層の更に別の例としては、ポジティブCプレート層が挙げられる。特に、偏光フィルムが(nx-nz)/(nx-ny)=0.5の関係を満たす三次元屈折率を有するλ/4層又はλ/2層を備えない場合に、その偏光フィルムはポジティブCプレート層を備えることが好ましい。ポジティブCプレート層とは、ポジティブCプレートとして機能する層である。偏光フィルムが(nx-nz)/(nx-ny)=0.5の関係を満たす三次元屈折率を有するλ/4層又はλ/2層を備えない場合でも、ポジティブCプレート層があることにより、厚み方向の屈折率を適切に調整して、視野角特性を改善することができる。また、ポジティブCプレート層は、上述したλ/2層及びλ/4層等の光学異方層と組み合わせて複数枚用いてもよい。
【0097】
ポジティブCプレート層は、例えば、延伸フィルムとして製造してもよい。また、ポジティブCプレート層は、例えば、液晶硬化層として製造してもよい。中でも、薄くフレキシブルな偏光フィルムを得る観点では、ポジティブCプレート層は液晶硬化層であることが好ましい。このような液晶硬化層としてのポジティブCプレート層は、例えば、特開2015-14712号公報、特開2015-57646号公報などに記載の方法によって製造できる。また、ポジティブCプレート層を製造するための液晶性化合物としては、逆波長分散特性を有するものを用いてもよい。
【0098】
[9.その他の任意の層]
偏光フィルムが備えうる任意の層の更に別の例としては、クリアハードコート層、アンチグレアハードコート層、反射防止層、帯電防止層、防汚層などが挙げられる。
【0099】
上述した任意の層は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、任意の層の数は、1層でもよく、2層以上でもよい。さらに、任意の層の位置は、本発明の効果を著しく損なわない限り、制限されない。
【0100】
[10.偏光フィルムの特性]
本実施形態に係る偏光フィルムは、当該偏光フィルムを表示装置に設けた場合に、その表示装置の電極の腐食を抑制できる。例えば、偏光フィルムを用いて下記の腐食抑制試験を行った場合、偏光フィルムと貼合した透明電極層の部分(貼合部)と、偏光フィルムと貼合していない透明電極の部分(非貼合部)とで、透明電極の外観に差が見られない。
【0101】
〔電極の腐食抑制試験方法〕
ITO(酸化インジウムスズ)で形成された透明電極層を備えるガラス板を用意する。このガラス板の透明電極層と、偏光フィルムの粘着剤層とを、ピンチローラーを用いて圧着する。その後、50℃、5気圧、10分のオートクレーブ処置を施して、評価用サンプルを得る。この評価用サンプルを、温度60℃、湿度90%RHの環境に500時間静置する。
【0102】
本実施形態に係る偏光フィルムは、通常、優れた耐久性を有する。よって、偏光子層の偏光度の低下を抑制できる。例えば、偏光フィルムを用いて下記の耐久性試験を行った場合、当該耐久性試験による偏光子層の偏光度の低下量を、好ましくは0.100%以下、より好ましくは0.050%以下にできる。
【0103】
〔偏光フィルムの耐久性試験方法〕
ITOで形成された透明電極層を備えるガラス板を用意する。このガラス板の透明電極層と、偏光フィルムの粘着剤層とを、ピンチローラーを用いて圧着する。その後、50℃、5気圧、10分のオートクレーブ処置を施して、評価用サンプルを得る。この評価用サンプルを、温度60℃、湿度90%RHの環境に500時間静置する。
【0104】
[11.偏光フィルムの製造方法]
上述した偏光フィルムは、樹脂液を仮基材上に塗工して、樹脂液の層を形成する工程と;樹脂液の層を乾燥させて、第一樹脂層を形成する工程と;第一樹脂層と偏光子層とを貼合する工程と;仮基材を取り除く工程と;粘着剤層を形成する工程と;第二樹脂層を形成する工程と;を含む製造方法により、製造できる。この製造方法によれば、上述した偏光フィルムを優れた連続生産性で製造できる。例えば、この製造方法によれば、長尺の偏光子層、長尺の仮基材、及び、長尺の第二樹脂層を用いて、各層におけるクラックの発生を抑制しながら、長尺の偏光フィルムを連続的に製造できる。また、この製造方法によれば、製造時の熱による偏光子層の劣化、及び、乾燥オーブン内への溶媒の充満を抑制しながら、偏光フィルムを製造できる。この製造方法において、各工程の順番は、所望の偏光フィルムが得られる範囲で、制限されない。
以下、この製造方法について、詳細に説明する。
【0105】
(11.1.樹脂液を仮基材上に塗工して、樹脂液の層を形成する工程)
樹脂液は、第一樹脂層を形成するための液体材料である。よって、樹脂液は、通常、第一樹脂に含まれうる各成分を含む。具体的には、樹脂液は、第一重合体と、溶媒と、必要に応じて第一樹脂が含みうる任意の成分とを含みうる。第一重合体及び任意の成分の一部又は全部は、溶媒に溶解していてもよい。また、第一重合体及び任意の成分の一部又は全部は、溶媒に分散していてもよい。
【0106】
溶媒としては、有機溶媒が好ましく、第一重合体を溶解可能な有機溶媒が特に好ましい。溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル溶媒;等が挙げられる。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、このように樹脂液に含まれる溶媒が、要件(ii)において量を特定されるべき溶媒に相当する。
【0107】
樹脂液における第一樹脂の濃度は、樹脂液が塗工に適した粘度となる範囲で、任意に設定しうる。具体的な濃度範囲は、好ましくは15重量%以上、より好ましくは18重量%以上、特に好ましくは20重量%以上であり、好ましくは35重量%以下、より好ましくは30重量%以下、特に好ましくは28重量%以下である。
【0108】
仮基材としては、樹脂液を塗工可能な面を有し、且つ、その面に形成された第一樹脂層を剥離可能な部材を用いうる。通常は、仮基材として、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂で形成された樹脂フィルムを用いる。この仮基材の表面には、第一樹脂層の剥離を容易にするため、離型処理が施されていてもよい。
【0109】
離型処理としては、例えば、仮基材の表面に離型剤の層を形成する処理が挙げられる。離型剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系離型剤、フッ化アルキルなどのフッ素系離型剤、長鎖アルキル系離型剤などが用いられる。その中でも、離型性及び加工性が良好である理由で、シリコーン系離型剤が好ましい。
【0110】
仮基材への樹脂液の塗工方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0111】
(11.2.樹脂液の層を乾燥させて、第一樹脂層を形成する工程)
仮基材に樹脂液を塗工することにより、その仮基材上に樹脂液の層が形成される。よって、仮基材への樹脂液の塗工の後で、仮基材上の樹脂液の層を乾燥させる。この乾燥により、樹脂液の層から溶媒等の揮発成分が除去されるので、第一樹脂層を形成できる。この乾燥の条件は、乾燥後に得られる第一樹脂層に含まれる第一樹脂が含む溶媒の量が、上述した要件(ii)を満たすように設定しうる。例えば、乾燥温度及び乾燥時間を適切に設定することで、第一樹脂が含む溶媒の量を要件(ii)を満たす範囲に調整できる。
【0112】
(11.3.第一樹脂層と偏光子層とを貼合する工程)
仮基材上に第一樹脂層を形成した後で、この第一樹脂層と偏光子層とを貼り合わせる工程を行う。第一樹脂層と偏光子層との貼り合せは、必要に応じて、第一接着剤を介して行ってもよい。通常は、長尺の第一樹脂層及び長尺の偏光子層を、必要に応じて第一接着剤を介して、ピンチローラー等の貼合具を用いて貼り合わせる。
【0113】
第一樹脂層と偏光子層との貼り合わせは、第一樹脂層からの溶媒の気化が進行しにくいように、常温以下の温度において行うことが好ましい。これにより、第一樹脂が含む溶媒の量の変化が抑制されるので、第一樹脂に含まれる溶媒の量の調整を容易に行うことができる。貼り合わせ時の具体的な温度条件は、好ましくは15℃~35℃、より好ましくは20℃~30℃、特に好ましくは22℃~28℃である。
【0114】
(11.4.仮基材を取り除く工程)
上述した偏光フィルムの製造方法は、仮基材上に第一樹脂層を形成した後で、仮基材を取り除く工程を行う。仮基材は、第一樹脂層と偏光子層とを貼り合わせる前に取り除いてもよく、第一樹脂層と偏光子層とを貼り合わせた後に取り除いてもよく、第一樹脂層と偏光子層とを貼り合わせるのと同時に取り除いてもよい。中でも、偏光フィルムを特に安定して製造する観点では、第一樹脂層と偏光子層とを貼り合わせた後に仮基材を取り除くことが好ましい。上述した要件(i)~要件(iii)を満たす第一樹脂層は、このように仮基材を取り除かれる工程において、クラック及び糸引きの発生を抑制できる。
【0115】
第一樹脂に含まれる溶媒の量の調整を容易に行う観点、及び、熱による第一樹脂の軟化を抑制して仮基材の除去を安定して行う観点から、仮基材の除去は、常温以下の温度において行うことが好ましい。仮基材の除去時の具体的な温度条件は、好ましくは15℃~35℃、より好ましくは20℃~30℃、特に好ましくは22℃~28℃である。
【0116】
通常、仮基材の除去は、連続的に行われる。具体的には、長尺の仮基材上に第一樹脂層を形成した後で、その長尺の仮基材を、第一樹脂層上から連続的に除去する。この際、除去速度は、クラック及び糸引きの発生を抑制できる範囲に適切に設定することが好ましい。仮基材の具体的な除去速度は、好ましくは10m/分以上、より好ましくは15m/分以上、特に好ましくは20m/分以上であり、好ましくは70m/分以下、より好ましくは60m/分以下、特に好ましくは50m/分以下である。
【0117】
(11.5.粘着剤層を形成する工程)
上述した偏光フィルムの製造方法は、粘着剤層を形成する工程を含む。粘着剤層の形成方法に、制限は無い。例えば、粘着剤の塗工により粘着剤層を形成してもよい。また、例えば、予め用意した粘着剤層の貼り合わせにより粘着剤層を形成してもよい。ここで、粘着剤層を形成される面としては、例えば、第一樹脂層の表面、λ/4層の表面などが挙げられる。
【0118】
粘着剤層を形成する時期に制限はない。例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合する前に、粘着剤層を形成してもよい。また、例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合した後に、粘着剤層を形成してもよい。さらに、例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合するのと同時に、粘着剤層を形成してもよい。
【0119】
(11.6.第二樹脂層を形成する工程)
上述した偏光フィルムの製造方法は、第二樹脂層を形成する工程を含む。第二樹脂層の形成方法に、制限は無い。例えば、第二樹脂層は、予め用意した第二樹脂層を、必要に応じて第二接着剤を介して偏光子層に貼り合わせることによって、形成しうる。この貼り合わせは、通常は、長尺の第二樹脂層及び長尺の偏光子層を、必要に応じて第二接着剤を介して、ピンチローラー等の貼合具を用いて貼り合わせる。
【0120】
第二樹脂層を形成する時期に制限はない。例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合する前に、第二樹脂層を形成してもよい。また、例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合した後に、第二樹脂層を形成してもよい。さらに、例えば、第一樹脂層と偏光子層とを貼合するのと同時に、第二樹脂層を形成してもよい。
【0121】
(11.7.任意の工程)
上述した偏光フィルムの製造方法は、必要に応じて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、第一接着剤層及び第二接着剤層等の接着剤層を偏光フィルムに設ける場合、偏光フィルムの製造方法は、接着剤を硬化させる工程を含んでいてもよい。通常、接着剤を硬化させる工程は、前記の接着剤を用いて層同士を貼り合わせた後に行われる。接着剤の硬化方法は、接着剤の種類に応じて適切な方法を採用できる。例えば、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合には、紫外線の照射によって接着剤を硬化させることができる。
【0122】
また、偏光フィルムの製造方法は、例えば、偏光フィルムに任意の層を設ける工程を含んでいてもよい。
【0123】
[12.表示装置]
図5は、本発明の一実施形態に係る表示装置500を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る表示装置500は、表示体510と、偏光フィルム100とを備える。偏光フィルム100は、粘着剤層110、第一樹脂層120、偏光子層130及び第二樹脂層140を、表示体510側からこの順に備える。このような表示装置500は、例えば、表示体510と、偏光フィルム100の粘着剤層110とを貼り合わせることによって、製造できる。
【0124】
前記の表示装置500では、偏光フィルム100の偏光子層130が、第一樹脂層120及び第二樹脂層140によって保護されている。よって、偏光子層130への水分の浸入が抑制されるので、当該水分による偏光子層130からのヨウ素の流出が抑制される。よって、表示体510に含まれる電極(図示せず。)のヨウ素による腐食を抑制できる。
また、通常は、第一樹脂層120及び第二樹脂層140による偏光子層130の保護により、偏光子層130の偏光度の低下を抑制したり、偏光子層130の傷付きを抑制したり、外力による偏光子層130の破損を抑制したりできる。
【0125】
表示体510としては、例えば、液晶表示装置用の表示体としての液晶パネル、有機EL表示装置用の表示体としての有機ELパネルが挙げられる。通常は、これらの表示体510の視認側に、偏光フィルム100が設けられる。
【0126】
液晶パネルは、通常、液晶と、この液晶に電圧を印加しうる電極と、を備える液晶セルを備える。液晶セルは、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなど、任意のモードの液晶セルを用いうる。
【0127】
有機ELパネルは、通常、通常、透明電極層、発光層及び電極層をこの順に備える有機EL素子を備える。この有機EL素子では、透明電極層及び電極層から電圧を印加されることにより、発光層が光を生じうる。有機発光層を構成する材料の例としては、ポリパラフェニレンビニレン系、ポリフルオレン系、およびポリビニルカルバゾール系の材料を挙げることができる。また、発光層は、複数の発光色が異なる層の積層体、あるいはある色素の層に異なる色素がドーピングされた混合層を有していてもよい。さらに、有機EL素子は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、等電位面形成層、電荷発生層等の機能層を備えていてもよい。
【実施例】
【0128】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0129】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0130】
以下の説明において、スチレン由来の繰り返し単位を略称「St」で表し、スチレン由来の繰り返し単位で形成された重合体ブロックを「Stブロック」で表すことがある。
以下の説明において、イソプレン由来の繰り返し単位を略称「IP」で表し、イソプレン由来の繰り返し単位で形成された重合体ブロックを「IPブロック」で表すことがある。
【0131】
[評価方法]
〔重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法〕
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC8020GPC」)を用いて、ポリスチレン換算値又はポリイソプレン換算値として測定した。標準物質としてポリスチレンを用いる場合、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、標準物質としてポリイソプレンを用いる場合、溶媒としてはシクロヘキサンを用いた。測定時の温度は、38℃であった。
【0132】
〔重合体の水素化率の測定方法〕
重合体の水素化率は、1H-NMR測定により、測定した。
【0133】
〔厚みの測定方法〕
フィルムの厚みは、スナップゲージにより測定した。
【0134】
〔重合体の貯蔵弾性率の測定方法〕
試料としての重合体を、クリアランス1mm、温度250℃、圧力30MPaの条件で、熱溶融プレス機を用いて熱溶融して成形することにより、その重合体で形成された厚み1mmの測定用フィルムを得た。この測定用フィルムを用いて、動的粘弾性測定装置(ティー・エー・インスツルメント・ジャパン社製「ARES」)により、-100℃から+250℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分の測定条件で重合体の貯蔵弾性率測定した。測定結果から、23℃における重合体の貯蔵弾性率の値を読み取った。
【0135】
〔第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の水蒸気透過率の測定方法〕
第一樹脂を、クリアランス100μm、温度250℃、圧力30MPaの条件で、熱溶融プレス機を用いて熱溶融して成形することにより、試料樹脂で形成された厚み100μmの測定用フィルムを得た。この測定用フィルムを用いて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN-W」)により、JIS K 7129 B法に従って、温度40℃、湿度90%RHの条件にて、試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率を測定した。
【0136】
〔残留溶媒の定量方法〕
第一樹脂の残留溶媒であるシクロヘキサンを、以下のGC/MSにより定量した。
第一樹脂をスクリュー管に秤量後、キシレンを加え、超音波処理を30分間行って完全に溶解させて、溶液を得た。その溶液を、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製「GC-2010Plus」;カラムはAgilent techologies製「DB-5HT」30m×0.25mm、膜厚0.1μm)を用いて、分析した。得られたシクロヘキサンの検出ピークと、予めシクロヘキサン標準液から得た検量線とを用いて、シクロヘキサンの定量を行った。測定結果から、第一樹脂における残留溶媒としてのシクロヘキサンの割合を求めた。
【0137】
〔電極の腐食抑制試験方法〕
ITOで形成された透明電極層を備えるガラス板を用意した。このガラス板の透明電極層と、偏光フィルムの粘着剤層とを、ピンチローラーを用いて圧着した。その後、50℃、5気圧、10分のオートクレーブ処置を施して、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルを、温度60℃、湿度90%RHの環境に500時間静置する加湿試験を行った。
【0138】
加湿試験後、評価用サンプルの透明電極層の腐食の状態を、目視観察した。観察結果から、腐食の程度を下記の基準で判定した。
「A」:偏光フィルムと貼合した透明電極層の部分(貼合部)と、偏光フィルムと貼合していない透明電極の部分(非貼合部)とで、透明電極の外観に差が見られない。
「C」:偏光フィルムと貼合した透明電極層の部分(貼合部)と、偏光フィルムと貼合していない透明電極の部分(非貼合部)とで、透明電極の外観に差が見られる。この場合、タッチパネルとしての動作不安定が懸念される。
【0139】
〔偏光フィルムの耐久性試験方法〕
前記〔電極の腐食抑制試験方法〕で説明した加湿試験後の評価用サンプルに含まれる偏光子層の偏光度を測定した。測定装置としては、紫外可視分光光度計(日本分光社製「V7100」)を用いた。得られた偏光度から、下記の判定基準に基づき、偏光フィルムの耐久性を評価した。
「A」:偏光度99.95%以上。
「B」:偏光度99.90%以上99.95%未満。
「C」:偏光度99.90%未満。
【0140】
〔偏光フィルムの連続生産性の評価方法〕
偏光フィルムの製造過程を観察し、下記の判定基準に基づいて、偏光フィルムの連続生産性を評価した。
「A」:各層にクラックの発生が無く、連続生産性が良い。
「B」:生産に耐えうるが、時折第一樹脂層に微細なクラックが生ずる。
「C」:生産に適さない。
【0141】
[製造例1.ブロック共重合体の水素化物の製造及び評価]
(ブロック共重合体の合成工程)
攪拌装置を備えたステンレス鋼製反応器を十分に乾燥させた後、窒素置換した。
この反応器に、脱水シクロヘキサン320部、スチレンモノマー25.0部、及びジブチルエーテル0.38部を仕込んで、反応溶液を得た。この反応溶液を60℃で攪拌しながら、n-ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)0.36部を添加して、第一段階の重合反応を開始した。
1時間重合反応を行った後、反応溶液に、イソプレンモノマー50.0部を添加し、さらに1時間、第二段階の重合反応を行った。
その後、反応溶液中に、スチレンモノマー25.0部を添加し、さらに1時間、第三段階の重合反応を行った。
その後、反応溶液にイソプロピルアルコール0.2部を添加して、反応を停止させた。これにより、反応溶液中に、スチレンブロック/イソプレンブロック/スチレンブロックの構造を有するブロック共重合体を得た。
【0142】
(水素化工程)
次いで、上記反応溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送した。この耐圧反応器に、水素化触媒としてシリカ-アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮化学工業社製「E22U」、ニッケル担持量60%)10部を添加して、混合した。また、反応器内部を水素ガスで置換した。その後、反応溶液を攪拌しながら反応器に水素を供給し、温度160℃、圧力4.5MPaにて8時間、水素化反応を行った。
水素化反応の終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した。その後、反応溶液にシクロヘキサン800部を加えて希釈した。希釈された反応溶液をイソプロパノール3500部に注いで、ブロック共重合体の水素化物を析出させた。前記のイソプロパノールとしては、クラス1000のクリーンルームで、孔径1μmのフィルターにてろ過したものを用いた。
析出したブロック共重合体の水素化物を、ろ過により分離回収し、80℃にて48時間減圧乾燥させた。
【0143】
ブロック共重合体の水素化物は、StブロックとIPブロックとStブロックとからなる3元ブロック共重合体の水素化物であり、それぞれのブロックのモル比は、Stブロック/IPブロック/Stブロック=25/50/25であった。この水素化物は、重量平均分子量Mwが44,000、分子量分布Mw/Mnが1.12、主鎖及び芳香環の水素化率はほぼ100%であった。
【0144】
前記のブロック共重合体の水素化物の貯蔵弾性率を上述した方法で測定したところ、220MPaであった。
【0145】
さらに、前記のブロック共重合体の水素化物を、クリアランス100μm、温度250℃、圧力30MPaの条件で、熱溶融プレス機を用いて熱溶融して成形することにより、厚み100μmのフィルムを得た。このフィルムを測定用フィルムとして用いて前記〔第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の水蒸気透過率の測定方法〕を行うことにより、ブロック共重合体の水素化物の水蒸気透過率を測定したところ、4.0g/m2/dayであった。
【0146】
[製造例2.偏光子層の製造]
長尺の原反フィルムとして、厚み20μmの未延伸ポリビニルアルコールフィルム(ビニロンフィルム、平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%)を用意した。ガイドロールを介してこのフィルムを長手方向に連続搬送しながら、当該フィルムに対して、30℃で1分間純水に浸漬する膨潤処理、染色溶液(ヨウ素及びヨウ化カリウムをモル比1:23で含む染色剤溶液、染色剤濃度1.2mmol/L)に32℃で2分間浸漬する染色処理を行い、フィルムにヨウ素を吸着させた。その後、フィルムを35℃で30秒間、ホウ酸3%水溶液で洗浄した。その後、57℃で、ホウ酸3%及びヨウ化カリウム5%を含む水溶液中で、フィルムを6.0倍に延伸した。その後、フィルムに対して、35℃で、ヨウ化カリウム5%及びホウ酸1.0%を含む水溶液中で補色処理を行った。その後、フィルムを60℃で2分間乾燥させて、厚み7μmの長尺の偏光子層を得た。この偏光子層の偏光度を紫外可視分光光度計(日本分光社製「V-7100」)で測定したところ、99.996%であった。
【0147】
[実施例1]
(1-1.第一樹脂層の形成)
製造例1で製造した第一重合体としてのブロック共重合体の水素化物を、溶媒としてのシクロヘキサンと混合して、ブロック共重合体の水素化物を濃度25重量%で含む樹脂液としての樹脂溶液を得た。
【0148】
シリコーンによる剥離処理を表面に施された長尺のPETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム;三菱化学製「MRV38」)を、仮基材として用意した。この仮基材上に、前記の樹脂溶液を塗工した後、70℃で2分間の乾燥条件で乾燥を行って、第一樹脂で形成された厚み9μmの長尺の第一樹脂層を得た。この第一樹脂層の一部を仮基材から剥がして、第一樹脂で形成されたサンプルを得た。このサンプルを用いて、上述した方法によって、第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の水蒸気透過率、並びに、第一樹脂の残留溶媒量を測定した。
【0149】
(1-2.第二樹脂層の形成)
アクリル樹脂(住友化学社製「スミペックスHT55X」)を、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイからアクリル樹脂を押し出し、アクリル樹脂をフィルム状に成形した。これにより、アクリル樹脂で形成された厚み40μmの長尺の第二樹脂層を得た。
【0150】
(1-3.貼り合わせ)
第一樹脂層の表面に、コロナ処理を施した後、紫外線硬化型の接着剤(ADEKA社製「アークルズKRX-7007」)を塗工した。また、第二樹脂層の表面に、コロナ処理を施した後、紫外線硬化型の接着剤(ADEKA社製「アークルズKRX-7007」)を塗工した。その後、前記の接着剤を介した第一樹脂層と偏光子層との貼り合わせ、並びに、前記の接着剤を介した第二樹脂層と偏光子層との貼り合わせを、ピンチローラーを用いて同時に行った。貼り合わせの直後、紫外線照射装置を用いて接着剤に750mJ/cm2の紫外線照射を行って硬化させた。その後、仮基材を剥離して、第一樹脂層/接着剤層(厚み2μm)/偏光子層/接着剤層(厚み2μm)/第二樹脂層の層構成を有する長尺の中間フィルムを得た。
【0151】
粘着剤層と軽剥離ライナー層とを備える光学用粘着シート(日東電工製「LUCIACS CS9861US」)を用意した。軽剥離ライナーを剥離し、この剥離によって露出した粘着剤層の粘着面にコロナ処理を施した。また、前記の中間フィルムの第一樹脂層の表面に、コロナ処理を施した。その後、粘着剤層のコロナ処理面と中間フィルムの第一樹脂層のコロナ処理面とを、ピンチローラーを用いて圧着して、粘着剤層/第一樹脂層/接着剤層/偏光子層/接着剤層/第二樹脂層の層構成を有する偏光フィルムを得た。
得られた偏光フィルムを、上述した方法によって評価した。
【0152】
[実施例2]
前記工程(1-1)において、第一樹脂層の厚みを4μmに変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0153】
[実施例3]
前記工程(1-1)において、第一樹脂層の厚みを2μmに変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0154】
[実施例4]
シクロヘキサン100部、吸湿剤としてのゼオライト粒子(一次粒子径50nm、屈折率1.5)5部、及び、分散剤(BYK社製「DISPERBYK-109」)2部をビーズミルにて攪拌して混合し、ゼオライト分散液1を得た。
このゼオライト分散液1と、製造例1で製造した第一重合体としてのブロック共重合体の水素化物と、溶媒としてのシクロヘキサンとを混合して、ブロック共重合体の水素化物を濃度25重量%で含む樹脂液としての樹脂溶液を得た。ゼオライト分散液1の量は、ブロック共重合体の水素化物の量100重量%に対するゼオライト粒子の量が19重量%となるように調整した。
【0155】
メチルエチルケトン100部、及び、吸湿剤としてのゼオライト粒子(一次粒子径50nm、屈折率1.5)10部をビーズミルにて攪拌して混合し、ゼオライト分散液2を得た。このゼオライト分散液2を接着剤(ADEKA社製「アークルズKRX-7007」)に混合攪拌し、接着剤の樹脂重量100重量%に対しゼオライト粒子を濃度8重量%で含む吸湿剤含有UV硬化型接着剤を得た。
【0156】
前記工程(1-1)において、実施例1で製造した樹脂溶液の代わりに、実施例4で製造した前記の樹脂溶液を用いた。また、前記工程(1-1)において、第一樹脂層の厚みを2μmに変更した。
前記工程(1-3)において、接着剤として、実施例4で製造した前記の吸湿剤含有UV硬化型接着剤を用いた。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0157】
[比較例1]
製造例1で製造した第一重合体としてのブロック共重合体の水素化物を、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイからブロック共重合体の水素化物を押し出し、ブロック共重合体の水素化物をフィルム状に成形した後、仮基材フィルムと貼り合わせて、厚み2μmの長尺の第一樹脂層を得た。こうして得られた第一樹脂層を、実施例1の前記工程(1-1)で製造した第一樹脂層の代わりに用いた。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0158】
[比較例2]
前記工程(1-1)において、仮基材上に塗工した樹脂溶液の乾燥条件を、70℃1分間に変更した。また、前記工程(1-1)において、第一樹脂層の厚みを2μmに変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0159】
[比較例3]
アクリル樹脂(住友化学社製「スミペックスHT55X」)を用意し、上述した方法で貯蔵弾性率を測定した。このアクリル樹脂を、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。Tダイからアクリル樹脂を押し出し、アクリル樹脂を9μmのフィルム状に成形した後、仮基材と貼り合わせて、アクリル樹脂で形成された厚み9μmの長尺の第1樹脂層を得た。こうして得られた第一樹脂層を、実施例1の前記工程(1-1)で製造した第一樹脂層の代わりに用いた。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0160】
[比較例4]
前記工程(1-3)において、第一樹脂層と偏光子層との貼り合わせを行わなかった。よって、粘着剤層を、第一樹脂層ではなく偏光子層と貼り合わせた。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、偏光フィルムの製造及び評価を行った。この比較例4で製造した偏光フィルムは、粘着剤層/偏光子層/接着剤層/第二樹脂層の層構成を有していた。
【0161】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
PMMA:アクリル樹脂(住友化学社製「スミペックスHT55X」)。
PVA:ヨウ素を含むポリビニルアルコールフィルム。
SIS:スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素化物。
貯蔵弾性率:第一重合体の貯蔵弾性率。
水蒸気透過率:第一樹脂を250℃に加熱して得られる試料樹脂の厚み100μm当たりの水蒸気透過率。
残留溶媒量:第一樹脂に含まれる溶媒の量。
【0162】
【符号の説明】
【0163】
100、200、300、400 偏光フィルム
110 粘着剤層
120 第一樹脂層
130 偏光子層
140 第二樹脂層
210 第一接着剤層
220 第二接着剤層
310、410 λ/4層
500 表示装置
510 表示体