(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、リチウムイオン二次電池用負極、並びにリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240110BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2021548089
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037923
(87)【国際公開番号】W WO2021059444
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 真菜
(72)【発明者】
【氏名】中村 喜重
(72)【発明者】
【氏名】岡部 圭児
(72)【発明者】
【氏名】本棒 英利
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/017677(WO,A1)
【文献】特開2016-146343(JP,A)
【文献】特開2012-046419(JP,A)
【文献】特開2000-058051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折法により求められる平均面間隔d
002が0.335nm~0.340nmであり、体積平均粒子径が1μm~40μmであり、最大粒子径が74μm以下であり、任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有する炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記少なくとも二つの発熱ピークが、300℃以上700℃未満の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとの温度差が300℃以下である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとの温度差が180℃以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素材料の77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.5m
2/g~25m
2/gである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記炭素材料の273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm
3/g~5.0cm
3/gである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記炭素材料のタップ密度が0.3g/cm
3~2.0g/cm
3である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
前記炭素材料のラマンスペクトル解析から得られるR値の平均値が0.10~1.5である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項9】
前記炭素材料が、核となる第一の炭素相と、前記第一の炭素相の表面に存在し、前記第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相と、を含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項10】
前記第二の炭素相の含有率が、前記炭素材料の全質量に対して0.1質量%~30質量%である請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質と、を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
体積平均粒子径が30μm以下のピッチと、黒鉛材料と、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を
750℃~1000℃で熱処理して焼成物を得る工程と、
を含む、
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項14】
前記ピッチの軟化点が150℃~350℃である、請求項1
3に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、リチウムイオン二次電池用負極、並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等の他の二次電池に比べて軽量で高い入出力特性を有することから、近年、電気自動車、ハイブリッド型電気自動車等に用いられる高入出力用電源として注目されている。
リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質としては、黒鉛、非晶質炭素等が挙げられる。
黒鉛は炭素原子の六角網面が規則正しく積層した構造を有し、積層した網面の端部よりリチウムイオンの挿入及び脱離反応が進行し充放電を行う。
また、非晶質炭素は、六角網面の積層が不規則であるか、網目構造を有しないため、リチウムイオンの挿入及び脱離反応は全表面で進行することとなり、入出力特性に優れたリチウムイオンが得られやすい(例えば、特開平4-370662号公報及び特開平5-307956号公報参照)。また、非晶質炭素は、黒鉛とは対照的に、結晶性が低く、電解液との反応を低く抑えることができ、寿命特性に優れるといった特徴を有する。
【0003】
特許第6365580号には、リチウムイオン二次電池の負極材用の炭素材料であって、空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有することにより、高い充放電効率を維持しながら、入出力特性、寿命特性及び熱安定性に優れるリチウムイオン二次電池の負極材用の炭素材料が得られることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気自動車の普及に伴い、一層リチウムイオン二次電池の長寿命化が望まれている。また、例えば特許第6365580号に記載の方法によっても、電解液の分解を十分に抑制できない場合があり、電解液耐性にはさらなる改良の余地があった。
【0005】
本開示は、電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池を作製可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、並びに当該負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは鋭意検討の結果、本課題を解決できることを見出した。上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> X線回折法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、体積平均粒子径が1μm~40μmであり、最大粒子径が74μm以下であり、任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有する炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
<2> 前記少なくとも二つの発熱ピークが、300℃以上700℃未満の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、を含む、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<3> 前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとの温度差が300℃以下である<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4> 前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとの温度差が180℃以下である<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<5> 前記炭素材料の77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.5m2/g~25m2/gである、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6> 前記炭素材料の273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~5.0cm3/gである、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<7> 前記炭素材料のタップ密度が0.3g/cm3~2.0g/cm3である、<1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<8> 前記炭素材料のラマンスペクトル解析から得られるR値の平均値が0.10~1.5である、<1>~<7>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<9> 前記炭素材料が、核となる第一の炭素相と、前記第一の炭素相の表面に存在し、前記第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相と、を含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<10> 前記第二の炭素相の含有率が、前記炭素材料の全質量に対して0.1質量%~30質量%である<9>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<11> <1>~<10>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
<12> <11>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質と、を含むリチウムイオン二次電池。
<13> 体積平均粒子径が30μm以下のピッチと、黒鉛材料と、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を熱処理して焼成物を得る工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<14> <1>~<10>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法である、<13>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<15> 前記ピッチの軟化点が150℃~350℃である、<13>又は<14>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<16> 前記熱処理が750℃~1000℃で行われる、<13>~<15>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池を作製可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、並びに当該負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0009】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」はアクリロニトリル及びメタクリロニトリルの少なくとも一方を意味する。
【0010】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
本開示にかかるリチウムイオン二次電池用負極材(以下、単に「負極材」と呼ぶ場合がある)は、X線回折(XRD)法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、体積平均粒子径が1μm~40μmであり、最大粒子径が74μm以下であり、任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、空気気流中における示差熱分析(DTAともいう)において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有する炭素材料(以下、特定炭素材料ともいう)を含む。上記各物性値を満たす特定炭素材料を含む本開示の負極材によれば、電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池が作製可能である。
【0011】
本開示の負極材により電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。本開示の負極材に含まれる特定炭素材料は、空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有する。当該少なくとも二つの発熱ピークが観察されることは、特定炭素材料が、複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料で構成されていることを意味すると考えられ、このことが寿命特性に寄与していると考えられる。さらに、特定炭素材料において、任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差は0.065以下である。このことは、特定炭素材料中、上記複数の特性を有する炭素材料の配置のばらつきが比較的小さいことを意味すると考えられ、これが電解液耐性及び寿命特性のさらなる向上に寄与していると考えられる。さらに、本開示の負極材は、X線回折法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、体積平均粒子径が1μm~40μmであり、最大粒子径が74μm以下である特定炭素材料を含む。これにより、良好なエネルギー密度、入出力特性、及び熱安定性が得られやすいという利点も見出されている。
【0012】
本開示にかかる負極材は特定炭素材料を含むものであればよく、特定炭素材料以外の負極材(すなわち負極活物質)を含んでいてもよい。特定炭素材料の含有率は、全負極材に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%である(すなわち、負極材は特定炭素材料からなる)ことが特に好ましい。
【0013】
特定炭素材料におけるX線回折法により求められる平均面間隔d002は、0.335nm~0.340nmである。平均面間隔d002の値は、0.3354nmが黒鉛結晶の理論値であり、この値に近いほどエネルギー密度が大きくなる傾向がある。一方、平均面間隔d002が0.340nm以下であると、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率及びエネルギー密度の双方が十分となる傾向にある。平均面間隔d002は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の観点から、0.335nm~0.337nmであることが好ましい。
平均面間隔d002は、X線(CuKα線)を炭素粒子粉末試料に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定して得られる回折プロファイルにおいて、回折角2θ=24°~27°付近に現れる炭素002面に対応した回折ピークに基づいて、ブラッグの式を用い算出することができる。
平均面間隔d002は、例えば、炭素材料への熱処理温度を高くすることで小さくなる傾向があり、この性質を利用して平均面間隔d002を上記範囲内に設定することができる。
【0014】
特定炭素材料の体積平均粒子径は、1μm~40μmである。体積平均粒子径が1μm以上であると、比表面積が大きくなりすぎず、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率が良好となる傾向にある。また、粒子同士が接触しやすいため良好な入出力特性が得られる傾向にある。一方、体積平均粒子径が40μm以下であると、電極面に凸凹が発生して電池の短絡が生じることを抑制できる傾向にある。また、粒子表面から内部へのリチウムイオンの拡散距離が長くなりすぎず、リチウムイオン二次電池の入出力特性が良好となる傾向にある。特定炭素材料の体積平均粒子径は、初回充放電容量及び入出力特性の観点から、3μm~35μmであることが好ましく、5μm~25μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となる粒子径(50%D)として与えられる。体積平均粒子径(50%D)は、界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製SALD-3000J)で測定することができる。
【0015】
特定炭素材料の最大粒子径(Dmax)は、74μm以下である。最大粒子径(Dmax)が74μm以下であると、電極作製の際に極板の薄膜化が行いやすく、良好な入出力特性及びハイレートサイクル特性が得られる傾向にある。特定炭素材料の最大粒子径(Dmax)は、入出力特性の観点から、70μm以下であることが好ましく、63μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることがさらに好ましい。また、最大粒子径(Dmax)は、一般に10μm以上とすることができ、入出力特性の観点から、好ましくは38μm以上としてもよい。
最大粒子径(Dmax)は、例えば、篩の目開きを90μm、74μm、63μm、53μm、45μm、及び38μmと順に小さくして篩分けを行い、各目開きでの篩における篩上(すなわち、篩を通過しない試料)の有無によって決定することができる。具体的には、試料を上記各目開きの篩で篩い分けをし、篩上が出る直前の目開きを最大粒子径(Dmax)とする。
【0016】
特定炭素材料は、空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの示差熱分析の発熱ピーク(本開示において、単に「発熱ピーク」又は「DTA発熱ピーク」ともいう)を有する。発熱ピークが300℃以上1000℃以下の温度範囲内に少なくとも二つ存在すると、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性を兼ね備えたリチウムイオン二次電池を得ることができる傾向にある。例えば結晶性の黒鉛質炭素等の炭素材料による高エネルギー密度と、例えば非晶質炭素等の炭素材料による入出力特性、寿命特性、及び熱安定性と、を共に得られやすい傾向があることから、少なくとも二つの発熱ピークが出現する温度範囲は、500℃以上850℃以下であることが好ましい。
特定炭素材料が少なくとも二つの発熱ピークを有するということは、特定炭素材料が、複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料で構成されていることを意味する。ここで、複数の発熱ピークが「識別可能」であるとは、装置の測定精度上、区別可能であればよく、発熱ピークのピーク温度が少なくとも5℃以上離れていることを意味する。
【0017】
示差熱分析(DTA)は、示差熱熱重量同時測定装置(例えば、セイコーインスツル株式会社製、EXSTAR TG/DTA6200)で測定することができる。具体的には、α-アルミナをリファレンスとして、乾燥空気300ml/minの流通下、昇温速度2.5℃/minで測定を行い、300℃以上1000℃以下での示差熱分析の発熱ピークの有無を確認する。
【0018】
特定炭素材料は、300℃以上1000℃以下の温度範囲内において複数の識別可能な発熱ピークを示す限り、如何なる性質又は構造のものであってもよい。このような特定炭素材料は、複数種の炭素材料で構成されていてもよく、1種の炭素材料で構成されていてもよい。特定炭素材料としては、性質又は構造の異なる複数種の炭素材料で構成された炭素材料、酸化反応に対して複数の反応性を示す表面性状を有する1種又は複数種の炭素材料、リチウムイオンの吸蔵放出反応に対して異なる電気化学特性を有する1種又は複数種の炭素材料等を挙げることができる。このような特定炭素材料を用いることにより、前記温度範囲内に発熱ピークを少なくとも二つ得ることができる。特定炭素材料が、複数種の炭素材料で構成されている場合には、特定炭素材料が全体として300℃以上1000℃以下の温度範囲内において識別可能な発熱ピークを示す限り、特定炭素材料中において前記複数種の炭素材料が、如何なる形態又は如何なる状態で含まれていてもよい。
【0019】
前記性質又は構造の異なる複数種の炭素材料の例としては、結晶性、N2比表面積、CO2吸着量等の性質が異なる炭素材料;平均粒子径、粒子アスペクト比等の粒子形態が異なる炭素材料;及び、分布状態等の分散性、均一性等が異なる炭素材料などを挙げることができる。特に、複数の特性を有する炭素材料のそれぞれの特長を兼ね備えることができる観点から、前記性質又は構造の異なる複数種の炭素材料は結晶性の異なる複数種の炭素材料であることが好ましい。
【0020】
例えば、特定炭素材料は、結晶性炭素材料と当該結晶性炭素材料よりも低結晶性の炭素材料(低結晶性炭素材料ともいう)との複合材料であってもよい。また、特定炭素材料は、結晶性炭素材料を核として、低結晶性炭素材料で被覆された構造をとっていてもよい。特定炭素材料の種類及び形態のより具体的な態様については後述する。
【0021】
発熱ピークの数は特に制限されず、複数の特性を有する炭素材料のそれぞれ特有の電気化学特性を発揮する観点からは、300℃以上1000℃以下の温度範囲、好ましくは500℃以上850℃以下の温度範囲において、二つであることが好ましい。
【0022】
300℃以上1000℃以下に少なくとも二つの発熱ピークを有する炭素材料は、例えば、炭素材料の表面性状、炭素材料に包含される複数の炭素材料の種類又は性質、複数の炭素材料の複合形態、炭素材料の作製条件等を適宜調整することによって得ることができる。
【0023】
また、300℃以上1000℃以下の温度範囲の少なくとも二つの発熱ピークにおける発熱ピークのピーク温度差について特に制限はなく、前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとの温度差が300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。
当該ピーク温度差が300℃以下であるということは、それぞれの発熱ピークに対応する前記「複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料」の分布、又は特定炭素材料中のそれぞれの炭素材料の配置のムラが少ないことを意味すると考えられる。すなわち、当該ムラが少ないことによって、より高い温度の発熱ピークに寄与する炭素材料が反応しやすくなり、ピーク温度が低温化していると考えられる。これにより、良好な負極の入出力特性、寿命特性及び熱安定性を発揮しやすくなる傾向がある。
また、前記「複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料」に基づく効果を良好に発揮させる観点からは、当該ピーク温度差は25℃以上であることが好ましい。
当該ピーク温度差は、25℃以上300℃以下であることが好ましく、25℃以上200℃以下であることがより好ましく、25℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。
【0024】
入出力特性、寿命特性及び熱安定性の向上の観点から、前記発熱ピークは、300℃以上700℃未満の温度範囲(以下、「低温域」と称する場合がある)にピークを有する発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲(以下、「高温域」と称する場合がある)にピークを有する発熱ピークと、を含むことが好ましく、低温域にピークを有する一つの発熱ピークと、高温域にピークを有する一つの発熱ピークと、の二つの発熱ピークを有することがより好ましい。
低温域のピークは、500℃以上650℃以下の温度範囲に存在することがより好ましく、550℃以上650℃以下の温度範囲に存在することがさらに好ましい。高温域のピークは、700℃以上900℃以下の温度範囲に存在することがより好ましく、700℃以上800℃以下の温度範囲に存在することがさらに好ましい。
【0025】
このような高温域と低温域のそれぞれに少なくとも一つのピークを有する発熱ピークの出現は、前記「複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料」として、例えば、結晶性の異なる複数の炭素材料;N2比表面積、CO2吸着量等の性質が異なる炭素材料;平均粒子径、粒子アスペクト比等の粒子形態の異なる複数の炭素材料;分布状態等の分散性、均一性等が異なる炭素材料などを用いることにより得ることができる。なかでも、複数の特性を有する炭素材料のそれぞれの特有の電気化学特性を発揮し、高エネルギー密度、高入出力特性、長寿命特性、及び優れた熱安定性を達成しやすい観点から、結晶性の異なる複数の炭素材料を用いることが好ましい。
【0026】
前記少なくとも二つの発熱ピークが、低温域にピークを有する発熱ピークと、高温域にピークを有する発熱ピークと、を含む場合、低温域にピークを有する発熱ピークのうち最も大きい発熱ピークと、高温域にピークを有する発熱ピークのうち最も大きい発熱ピークと、の温度差は、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。当該ピーク温度差が300℃以下であるということは、低温域及び高温域それぞれの発熱ピークに対応する、前記「複数の発熱ピークとして識別可能な複数の特性を有する炭素材料」の分布、又は特定炭素材料中のそれぞれの炭素材料の配置のムラが少ないことを意味すると考えられる。すなわち、当該ムラが少ないことによって、より高い温度の発熱ピークに寄与する炭素材料が反応しやすくなり、ピーク温度が低温化していると考えられる。これにより、良好な負極の入出力特性、寿命特性及び熱安定性を発揮しやすくなる傾向がある。
また、低温域及び高温域のそれぞれの発熱ピークに対応した前記複数の特性を有する炭素材料に基づく効果を良好に発揮させる観点からは、前記ピーク温度差は25℃以上であることが好ましい。
前記ピーク温度差は25℃以上300℃以下であることが好ましく、25℃以上200℃以下であることがより好ましく、25℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。
【0027】
例えば、結晶性の異なる複数の炭素材料を選択する場合、低温域に出現する発熱ピークは負極材の構造中の低結晶性炭素と酸素の反応に由来するピークであり、高温域に出現する発熱ピークは負極材の構造中の結晶性炭素と酸素の反応に由来するピークと考えられる。このことから、負極材中の低結晶性炭素と結晶性炭素が均一に分布しているほど充放電におけるリチウムイオンの吸蔵放出反応も安定し、負極の入出力特性、寿命特性及び熱安定性がより優れると考えられる。このような場合、示差熱分析では、均一に分布した低結晶性炭素に引きずられて、結晶性炭素の反応が起き易くなりその反応が低温化するため、上述の通り、示差熱分析の2つの発熱ピークの温度差が減少すると考えられる。
【0028】
発熱ピークの温度差は、負極材に含まれる複数の性質の炭素材料それぞれの種類又は性質、複数の炭素材料の複合形態、炭素材料の作製条件等によって適宜調整することができる。
具体的には、例えば結晶性炭素材料と当該結晶性炭素材料よりも低結晶性の炭素材料との複合材料を用いる場合には、結晶性炭素材料の種類、低結晶性炭素材料の種類、結晶性炭素材料と低結晶性炭素材料との組み合わせ、炭素材料の焼成条件等を調整することにより、発熱ピークの温度差を調整することができる。
また、特定炭素材料が、結晶性炭素材料を核として、低結晶性炭素材料で被覆された構造をとるものである場合、結晶性炭素材料の粒子径、低結晶性炭素材料の被覆量を調節することによっても、発熱ピークの温度差を調整することができる。
【0029】
特定炭素材料の77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積(N2比表面積と呼ぶ場合がある)は、0.5m2/g~25m2/gであることが好ましく、0.5m2/g~15m2/gであることがより好ましく、0.8m2/g~10m2/gであることがさらに好ましい。N2比表面積が上記範囲内であると、良好な入出力特性と初回効率のバランスを維持することができる傾向にある。なお、窒素吸着での比表面積は、77Kでの窒素吸着測定により得られた吸着等温線からBET法を用いて求めることができる。N2比表面積は、特定炭素材料の体積平均粒子径を大きくすること、特定炭素材料への熱処理温度を高くすること、特定炭素材料の表面を改質すること等により小さくすることができる傾向にあり、この性質を利用してN2比表面積を上記範囲内に設定することができる。またN2比表面積を大きくすると、発熱ピークが低温側に移動する傾向がある。
【0030】
特定炭素材料の273Kでの二酸化炭素吸着により求められる二酸化炭素の吸着量(CO2吸着量と呼ぶ場合がある)は、0.1cm3/g~5.0cm3/gであることが好ましく、0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。CO2吸着量が0.1cm3/g以上であると、入出力特性に優れる傾向がある。一方、CO2吸着量が5.0cm3/g以下であると、電解液との副反応により生じる不可逆容量が減少し初回効率の低下が抑えられる傾向がある。
なお、二酸化炭素吸着により求められるCO2吸着量は、測定温度273K、相対圧P/P0=3.0×10-2(P=平衡圧、P0=26142mmHg(3.49MPa))での値を用いる。
CO2吸着量は、特定炭素材料の体積平均粒子径を大きくすること、特定炭素材料を作製するときの熱処理温度を高くすること等により小さくすることができる傾向にある。また、特定炭素材料を結晶性炭素材料と低結晶性炭素材料との複合材料とする場合には、低結晶性炭素材料の量を少なくすることによってもCO2吸着量を小さくすることができる傾向にある。したがって、この性質を利用してCO2吸着量を上記範囲内に設定することができる。またCO2吸着量を大きくすると、発熱ピークが低温側に移動する傾向がある。
【0031】
特定炭素材料のタップ密度は0.3g/cm3~2.0g/cm3であることが好ましく、0.5g/cm3~2.0g/cm3であることがより好ましく、0.5g/cm3~1.3g/cm3であることがさらに好ましい。タップ密度が0.3g/cm3以上である場合、負極を作製する際に多くの有機系結着剤を必要とせず、その結果作製するリチウムイオン二次電池のエネルギー密度が大きくなる傾向がある。タップ密度が2.0g/cm3以下である場合、入出力特性が良好となる傾向がある。また、前記複数の異なる性質又は構造の炭素材料として、結晶性の異なる炭素材料を用いる場合、上記範囲内のタップ密度であれば、低結晶性炭素と結晶性炭素が分散した特定炭素材料中に電解液が浸透する適度な細孔が存在し、これによって充放電反応が促進され負極抵抗が減少し良好な入出力特性が得られる傾向にあるため、好ましい。
【0032】
タップ密度は、特定炭素材料の体積平均粒子径を大きくすること等によって高くなる傾向があり、この性質を利用してタップ密度を上記範囲内に設定することができる。
【0033】
なお、負極材全体としてのタップ密度も同様に、0.3g/cm3~2.0g/cm3であることが好ましく、0.5g/cm3~2.0g/cm3であることがより好ましく、0.5g/cm3~1.3g/cm3であることがさらに好ましい。例えば、特定炭素材料に加えて、後述する金属粉末等を含有させることにより、負極材全体のタップ密度を0.3g/cm3~3.0g/cm3、0.5g/cm3~2.0g/cm3、又は0.5g/cm3~1.3g/cm3としてもよい。
【0034】
本開示におけるタップ密度とは、容量100cm3のメスシリンダーに試料粉末100cm3をゆっくり投入し、メスシリンダーに栓をし、このメスシリンダーを5cmの高さから250回落下させた後の試料粉末の質量及び容積から求められる値を意味する。
【0035】
特定炭素材料の励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求められるプロファイルの中で、1360cm-1付近に現れるピークの強度をId、1580cm-1付近に現れるピークの強度をIgとし、その両ピークの強度比Id/IgをR値(顕微ラマンR値、又は単にR値ともいう)とする場合、当該R値の平均値は、0.10~1.5であることが好ましく、0.15~1.0であることがより好ましい。R値の平均値が0.10以上であると寿命特性及び入出力特性に優れる傾向があり、1.5以下であると不可逆容量の増大が抑制され初回効率の低下が抑えられる傾向がある。
ここで、1360cm-1付近に現れるピークとは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークであり、1580cm-1付近に現れるピークとは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークである。
R値の平均値は、炭素材料の撮影画像において、任意の30ヵ所で測定されるR値の算術平均値とする。炭素材料が粒子である場合は、1つの炭素材料の粒子について1ヵ所~3ヵ所ずつ、合計30ヵ所を任意に選択し、当該30ヵ所について測定したR値の算術平均値とする。
【0036】
特定炭素材料において、任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差は0.065以下であり、0.060以下であることが好ましい。
レーザーラマン分光測定は、炭素材料の撮影画像において、任意の30ヵ所を選択して行う。炭素材料が粒子である場合は、1つの炭素材料の粒子について1ヵ所~3ヵ所ずつ、合計30ヵ所を任意に選択して行う。
【0037】
レーザーラマン分光測定は、ラマンスペクトル測定装置(例えば株式会社堀場製作所製 EXploRA PLUS、励起波長532nm)を用いて行うことができる。それぞれ1100cm-1~1469cm-1、1450cm-1~1706cm-1をベースラインとし、Gバンド由来のピーク高さ(Ig)とDバンド由来のピーク高さ(Id)の比であるId/IgをR値とすることができる。具体的には実施例に記載の方法によりR値を得ることができる。
【0038】
本開示にかかる負極材は、特に、上述した物性値を適宜組み合わせて兼ね備えた炭素材料を含む負極材であることが、寿命特性の観点から好ましい。そのような負極材としては、例えば、下記(a)~(c)を挙げることができる。
【0039】
(a)以下の条件を満たす炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材:
X線回折法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、
体積平均粒子径(50%D)が1μm~40μmであり、
最大粒子径(Dmax)が74μm以下であり、
任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、
空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有し、当該少なくとも二つの発熱ピークが、300℃以上700℃未満の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、を含み、
0.5m2/g~25m2/gの77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積、0.1cm3/g~5.0cm3/gの273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量、又はこれらの組み合わせを有する。
【0040】
また、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性の観点から、上記(a)のリチウムイオン二次電池用負極材において、体積平均粒子径(50%D)が5μm~25μm、最大粒子径(Dmax)が30μm~45μm、77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.8m2/g~10m2/g、且つ273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。
【0041】
(b)以下の条件を満たす炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材:
X線回折法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、
体積平均粒子径(50%D)が1μm~40μmであり、
最大粒子径(Dmax)が74μm以下であり、
任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、
空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有し、当該少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとのピーク温度差が300℃以下であり、
0.5m2/g~25m2/gの77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積、0.1cm3/g~5.0cm3/gの273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量、又はこれらの組み合わせを有する。
【0042】
また、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性の観点から、上記(b)のリチウムイオン二次電池用負極材において、体積平均粒子径(50%D)が5μm~25μm、最大粒子径(Dmax)が45μm以下、77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.8m2/g~10m2/g、且つ273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。
【0043】
また、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性の観点から、上記(b)のリチウムイオン二次電池用負極材において、前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとのピーク温度差が180℃以下であり、体積平均粒子径(50%D)が5μm~25μm、最大粒子径(Dmax)が45μm以下、77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.8m2/g~10m2/g、且つ273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。
【0044】
(c)以下の条件を満たす炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材:
X線回折法により求められる平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmであり、
体積平均粒子径(50%D)が1μm~40μmであり、
最大粒子径(Dmax)が74μm以下であり、
任意の30ヵ所における顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下であり、
空気気流中における示差熱分析において、300℃以上1000℃以下の温度範囲に少なくとも二つの発熱ピークを有し、当該二つの発熱ピークが、300℃以上700℃未満の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲にピークを有する発熱ピークと、を含み、且つ、該少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとのピーク温度差が300℃以下であり、
0.5m2/g~25m2/gの77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積、0.1cm3/g~5.0cm3/gの273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量、又はこれらの組み合わせを有する。
【0045】
また、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性の観点から、上記(c)のリチウムイオン二次電池用負極材において、体積平均粒子径(50%D)が5μm~25μm、最大粒子径(Dmax)が45μm以下、77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.8m2/g~10m2/g、且つ273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。
【0046】
また、エネルギー密度、入出力特性、寿命特性及び熱安定性の観点から、上記(c)のリチウムイオン二次電池用負極材において、前記少なくとも二つの発熱ピークのうち最も大きなピークと2番目に大きなピークとのピーク温度差が、180℃以下であり、体積平均粒子径(50%D)が5μm~25μm、最大粒子径(Dmax)が45μm以下、77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積が0.8m2/g~10m2/g、且つ273Kでの二酸化炭素吸着測定により求められる二酸化炭素の吸着量が0.1cm3/g~3.0cm3/gであることがより好ましい。
【0047】
特定炭素材料は、前述した各物性を示す炭素材料を含む限り、如何なる種類及び形態も採り得る。
炭素材料としては、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等)、低結晶性炭素、及びメゾフェーズカーボンなどを挙げることができる。充放電容量を大きくしやすいことから、炭素材料としては黒鉛が好ましい。黒鉛の場合には、鱗片状、球状、塊状等、いずれの形態であってもよい。中でも球形の黒鉛が高タップ密度を得られる点から好ましい。これらの炭素材料から前述した物性を備えた炭素材料を適宜選択すればよい。これらの炭素材料は1種単独で、又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
また、特定炭素材料は、核となる炭素相とその被覆層となる別種の炭素相で構成された複合材料としてもよい。すなわち、核となる第一の炭素相と、当該第一の炭素相の表面に存在し、当該第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相と、を含む炭素材料としてもよい。このような結晶性の異なる複数の炭素相から構成された炭素材料とすることにより、所望の物性又は性質を効果的に発揮可能な炭素材料とすることができる。
【0049】
核となる第一の炭素相としては、前述した黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等)などの炭素材料を挙げることができる。
【0050】
第二の炭素相としては、第一の炭素相よりも結晶性が低いものであれば特に制限はなく、所望の性質に応じて適宜選択することができる。なかでも、第二の炭素相は、熱処理により炭素質を残し得る有機化合物(炭素前駆体)から得られる炭素相であることが好ましい。そのような炭素相としては、例えば、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して生成するピッチ、ナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製される合成ピッチなどが挙げられる。また、熱可塑性の高分子化合物として、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性合成樹脂を用いてもよい。また、デンプン、セルロース等の天然物を用いてもよい。
【0051】
前記各物性の調整が容易であり、エネルギー密度が大きく、入出力特性、寿命特性及び熱安定性が良好な負極をより確実に調製することができる観点から、特定炭素材料としては、前記少なくとも二つの発熱ピークのうちの1つが第一の炭素相に由来するものであり、他の1つが第二の炭素相に由来するものであることが、好ましい。
【0052】
第一の炭素相と第二の炭素相とを有する特定炭素材料において、第二の炭素相の含有量は、炭素材料全体として前述した物性を示す限り特に制限はない。前記少なくとも二つの発熱ピークのうちの1つが第一の炭素相に由来するものであり、他の1つが第二の炭素相に由来するものである場合には、第二の炭素層の含有量は、特定炭素材料の全質量に対して、0.1質量%~30質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、1質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
特定炭素材料全体の質量に対する第二の炭素相の含有率は以下のように求めることができる。炭素源である有機化合物(すなわち炭素前駆体)、又は当該有機化合物と第一の炭素相との混合物を熱処理した後の残炭率を、熱重量分析等により予め測定しておく。特定炭素材料の作製に用いた炭素源使用量及びその残炭率の積から、特定炭素材料中の第二の炭素相の質量を求める。特定炭素材料全体の質量に対する、当該第二の炭素相の質量の割合を求めることによって第二の炭素相の含有率を求めることができる。
前記第二の炭素相の含有率が0.1質量%以上であると、入出力特性の向上が得られる傾向にある。また、前記第二の炭素相の含有量が30質量%以下であると、低結晶性成分に起因する容量の低下が抑えられる傾向がある。
【0054】
第二の炭素相は、第一の炭素相の表面全体を被覆して層を形成していてもよく、負極材表面に部分的に存在している状態でも構わない。ここで、第一の炭素相の表面全体又は一部を被覆する第二の炭素相により形成された層を、「低結晶性炭素層」と称する。
低結晶性炭素層には、酸素を含むC-O、C=O、C-OH、COOH等の表面官能基が存在することが好ましい。このような官能基の酸素量はX線光電子分光法(XPS)によって求めることが可能である。
一実施形態において、特定炭素材料が表面に0.1質量%~30質量%の低結晶性炭素層を有する場合、元素組成での全酸素量の割合は特定炭素材料全体に対して0.5atom%~5atom%となる。このような酸素量とすることは、負極の良好な入出力特性、寿命特性及び熱安定性を発現する上で望ましい。
【0055】
好ましい一実施形態において、負極材は、第一の炭素相としての核となる黒鉛材料と、当該黒鉛材料の表面に配置された第二の炭素相としての低結晶性炭素層と、を有する複合化された炭素材料を含む。
【0056】
核となる黒鉛材料は、平均面間隔d002が0.335nm~0.340nmの範囲の黒鉛材料であることが、充放電容量が大きくなる観点から好ましい。d002が0.335nm~0.338nmの範囲、特に0.335nm~0.337nmの範囲の黒鉛材料を用いる場合、充放電容量を例えば330nAh/g~370mAh/gと大きくすることが可能となるため望ましい。
【0057】
核となる黒鉛材料の体積平均粒子径(50%D)は、1μm~40μmであることが好ましく、3μm~35μmであることがより好ましく、5μm~25μmであることがさらに好ましい。黒鉛材料の体積平均粒子径が1μm以上であると、原料黒鉛中に微粉が適度な量で含まれ、核材に有機化合物を付着させる工程での凝集の発生が抑制され、低結晶性炭素と結晶性炭素が均一になりやすい。黒鉛材料の体積平均粒子径が40μm以下であると、仕上がりの負極材中での粗大粒子の混在が抑制され、負極塗工の際に筋引き等の発生が抑制される傾向がある。
【0058】
核となる黒鉛材料の77Kでの窒素吸着測定により求められる比表面積、即ちBET比表面積(N2比表面積ともいう)は、0.1m2/g~30m2/gであることが好ましく、0.5m2/g~25m2/gであることがより好ましく、0.5m2/g~15m2/gであることがさらに好ましい。N2比表面積が0.1m2/g以上であると、核材に有機化合物を付着させる工程で凝集が生じにくい傾向にあり、N2比表面積が30m2/g以下であると、比表面積が適度な範囲に維持されているため、均一に有機化合物を付着させやすい傾向にある。なお、前記N2比表面積が0.1m2/g~30m2/gであると、燃焼反応が促進されすぎないため、示差熱分析において、700℃以上1000℃以下の範囲に高温側の発熱ピークが好適に現れやすい傾向にある。また、前記N2比表面積が0.5m2/g~15m2/gであると、有機化合物が特に核材に均一に付着しやすいため好ましい。
【0059】
核となる黒鉛材料の形状は、例えば、鱗片状、球状、塊状等が挙げられ、中でも高タップ密度を得られる観点からは球形の黒鉛が好ましい。球形化度を表す指標としては、アスペクト比が挙げられる(アスペクト比は短軸/長軸の長さ比を表し、その最大値は1である)。なお、平均アスペクト比はフロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス株式会社製 FPIA-3000)を用いて求めることができる。
【0060】
核となる黒鉛材料の平均アスペクト比は0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。平均アスペクト比が0.1以上であると、黒鉛エッジ面の量を適切な範囲内に制御しやすい。エッジ面はベイサル面に比べて活性であることから、核材に有機化合物を付着させる工程において、有機化合物がエッジ面に選択的に付着しやすい場合があるが、黒鉛材料の平均アスペクト比が上記範囲内であると、低結晶性炭素が均一に分散する傾向がある。平均アスペクト比が0.1以上、より好ましくは0.3以上の場合、核材への有機化合物の付着が均一となりやすく、結果として、負極材中の低結晶性炭素と結晶性炭素が均一に分布されやすい傾向にある。
【0061】
平均アスペクト比は、任意に100個の黒鉛材料を選択して短軸/長軸を測定して、その測定値の算術平均値をとったものである。ここで、長軸方向の長さは、観察される黒鉛材料を二本の平行線A、A’で接するように挟んだとき、その間隔が最も大きくなる場合のA、A’間の距離であり、短軸方向の長さは、前記長軸方向の長さを決める二本の平行線A、A’に対して垂直な二本の平行線B、B’で前記黒鉛材料を接するよう挟んだとき、その間隔が最も大きくなる場合のB、B’間の距離である。
【0062】
本開示の負極材は、特定炭素材料の他に、高容量化のため必要に応じて、Al、Si、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Ag等のリチウムと合金化する金属粉末、少なくともAl、Si、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Ag等のリチウムと合金化する元素を含む多元系合金粉末、リチウム合金粉末などを含んでいてもよい。これらの成分は、単独で又は、特定炭素材料とこれらの粉末との複合材料として添加して使用することができる。負極材にこれらの金属粉末若しくは合金粉末又は複合材料を併用することにより、特定炭素材料単独よりタップ密度を大きくすることができる傾向にある。また、これにより負極材全体のタップ密度が例えば0.3g/cm3~3.0g/cm3となって、充放電反応が促進され、負極抵抗が減少し、良好な入出力特性が得られる傾向にある。これらの金属粉末若しくは合金粉末又は複合材料の併用量は特に制限はなく、例えば負極材総量の1質量%~50質量%併用することができる。
【0063】
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法>
リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に特に制限はなく、通常行われている公知の方法のいずれを適用してもよい。
特定炭素材料が、第一の炭素相と第二の炭素相とを含む特定炭素材料である場合には、例えば、核となる第一の炭素相の表面を改質することにより、第二の炭素相による低結晶性炭素層を形成して、特定炭素材料を作製してもよい。作製した特定炭素材料を本開示の負極材としてもよく、特定炭素材料と特定炭素材料以外の負極材とを混合してもよい。
【0064】
低結晶性炭素層を形成する方法としては、例えば、熱処理により炭素質を残す有機化合物(炭素前駆体)を第一の炭素相の表面に付着させた後、例えば750℃~1000℃の不活性雰囲気中で焼成して炭素化する方法を挙げることができる。
【0065】
第二の炭素相となり得る、熱処理により炭素質を残す有機化合物(炭素前駆体)の例としては、前述した有機化合物(炭素前駆体)を挙げることができる。
【0066】
第一の炭素相の表面に有機化合物を付着させる方法は特に制限されない。例えば、有機化合物を溶媒に溶解又は分散させてなる混合溶液に核となる炭素粒子(粉末)を分散及び混合した後、溶媒を除去する湿式方式、炭素粒子と有機化合物をそれぞれ固体の状態で混合し、その混合物に力学的エネルギーを加えることで炭素粒子に有機化合物を付着させる乾式方式、CVD法等の気相方式などが挙げられる。比表面積の制御の観点からは、乾式方式が好ましい。
【0067】
乾式方式により第一の炭素相の表面に有機化合物を付着させる方法は特に制限されない。例えば、炭素粒子と有機化合物(炭素前駆体)の混合物を、混合及び攪拌可能な構造の容器中に充填し、混合して、材料の複合化を行ってもよい。混合及び攪拌可能な構造の容器として、羽、スクリュー等が配置された容器中で混合及び撹拌する方法などが好ましい。ここで当該混合物に加える力学的エネルギーは、該混合物1kg当たり0.360kJ/kg~36000kJ/kgであることが好ましく、0.360kJ/kg~7200kJ/kgであることがより好ましく、2.50kJ/kg~2000kJ/kgであることがさらに好ましい。
ここで混合物に加える力学的エネルギーは、負荷(kW)に時間(h)を乗じ、充填した混合物質量(kg)で除した商である。混合物に加える力学的エネルギーを上記範囲することで、炭素粒子と有機化合物が均一に分散されやすい。この結果、焼成後の炭素材料において低結晶性炭素と結晶性炭素を均一に分布させやすく、2本のDTA発熱ピークの温度差を小さくすることができるため、好ましい。
【0068】
また、特定炭素材料は、第一の炭素相の表面に第二の炭素相となり得る有機化合物を付着させた中間製造物を加熱焼成することにより作製することができる。焼成温度は750℃~2000℃であることが好ましく、750℃~1500℃であることがより好ましく、750℃~1000℃であることがさらに好ましく、800℃~1000℃であることが特に好ましく、850℃~1000℃であることが極めて好ましい。焼成温度が750℃以上であると、作製する電池の充放電効率、入出力特性、及びサイクル特性を良好に維持できる傾向がある。焼成温度が2000℃以下であると、低結晶性炭素部分の結晶性が高くなりすぎることが抑制される傾向があり、また、2本のDTA発熱ピークの温度差が25℃以上の発熱ピーク又は300℃以上700℃未満に出現するDTA発熱ピークを確実に検出できる傾向がある。その結果、急速充電特性、低温充電特性、過充電安全性等を良好に維持できる傾向がある。焼成時の雰囲気は、負極材が酸化し難い雰囲気であれば特に制限はなく、例えば窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、自己分解ガス雰囲気などが適用できる。使用する炉の形式は特に制限されず、電気又はガスを熱源としたバッチ炉、連続炉等が好ましい。
【0069】
作製するリチウムイオン二次電池用負極材の2本のDTA発熱ピークは、焼成温度によっても調整することが可能である。焼成温度を高くすることで300℃以上700℃未満のDTA発熱ピークのピーク温度を低温域の範囲内でより高温側へシフトさせることが可能である。
結晶性の異なる複数の炭素材料を用いる場合、低結晶性炭素の量を多くすることで300℃以上700℃未満のDTA発熱ピークのピーク温度を低温域の範囲内でより高温側へシフトさせることが可能である。また焼成温度を高くすることで、300℃以上700℃未満のDTA発熱ピークのピーク温度を低温域の範囲内でより高温側へシフトすることが可能であり、かつ700℃以上1,000℃以下のDTA発熱ピークのピーク温度を高温域の範囲内でより低温側にシフトさせることができる。したがって、それぞれのDTA発熱ピーク温度及び2本のDTA発熱ピーク温度差を調整することも可能である。
【0070】
一実施形態において、負極材の製造方法は、体積平均粒子径が30μm以下のピッチと、黒鉛材料と、を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を熱処理して焼成物を得る工程と、を含む。これにより、核となる黒鉛材料の表面に、ピッチ由来の低結晶性炭素層が形成された複合材料を形成することができる。得られる焼成物が前述した特定炭素材料であることが好ましい。本実施形態における黒鉛材料の詳細は、前述の核となる黒鉛材料の詳細を適用することができる。また、本実施形態の製造方法における焼成及びその他の工程の詳細は前述の特定炭素材料の作製方法の詳細を適用することができる。
【0071】
原料となるピッチとしては、前述のエチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して生成するピッチ、ナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製される合成ピッチなどが挙げられる。
【0072】
原料となるピッチの体積平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。ピッチの体積平均粒子径が30μm以下であると、顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下である炭素材料が得られやすいことが見出されている。これは、ピッチと黒鉛材料とを混合させる際に、ピッチが黒鉛材料の周囲に均等に配置されやすく、熱処理を経て黒鉛材料が低結晶性炭素に比較的均等に被覆されやすいためと考えられる。
生産性の観点からは、原料となるピッチの体積平均粒子径は0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよく、2μm以上であってもよい。
上記観点から、原料となるピッチの体積平均粒子径は、0.5μm~30μmであることが好ましく、1μm~25μmであることがより好ましく、2μm~20μmであることがさらに好ましい。
【0073】
原料となるピッチの軟化点は特に制限されず、顕微ラマンR値の標準偏差が0.065以下である炭素材料が得られやすい観点からは、150℃~350℃であることが好ましく、180℃~320℃であることがより好ましく、200℃~300℃であることがさらに好ましい。
【0074】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む。これにより、電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池を作製可能となる。本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、本開示の負極材を含む負極材層及び集電体の他、必要に応じて他の構成要素を含んでもよい。
【0075】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材及び有機系結着剤を溶剤とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等の分散装置により混練し、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成する、又は、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで得ることができる。
【0076】
有機系結着剤の種類は特に限定されず、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等のイオン導電性の大きな高分子化合物などが挙げられる。有機系結着剤の含有量は、リチウムイオン二次電池用負極材と有機系結着剤の合計100質量部に対して0.5質量部~20質量部含有することが好ましい。
【0077】
負極材スラリーには、粘度を調整するための増粘剤を添加してもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0078】
負極材スラリーには、導電補助材を混合してもよい。導電補助材としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、導電性を示す酸化物若しくは窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、リチウムイオン二次電池用負極材の0.5質量%~15質量%程度とすることが好ましい。
【0079】
集電体の材質及び形状については、特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパー等の多孔性材料も使用可能である。
【0080】
負極材スラリーを集電体に塗布する方法は特に限定されず、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、コンマコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等、公知の方法が挙げられる。塗布後は負極材スラリーに含まれる溶剤を熱風乾燥機、赤外線乾燥機又はこれらを組合せた乾燥機により乾燥させる。さらに必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行う。また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極層と集電体との一体化は、ロール、プレス、又はこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。一体化する際の圧力は1MPa~200MPa程度が好ましい。
【0081】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の負極密度は、好ましくは1.3g/cm3~1.8g/cm3、より好ましくは1.4g/cm3~1.7g/cm3、さらに好ましくは1.4g/cm3~1.6g/cm3である。1.3g/cm3以上とすることにより抵抗値を低下させることがなく、容量を高くできる傾向があり、1.8g/cm3以下とすることにより、レート特性及びサイクル特性の低下を抑制できる傾向がある。
【0082】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、本開示のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質と、を含む。例えば、本開示のリチウムイオン二次電池用負極と正極とをセパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
【0083】
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0084】
正極層に用いる正極材料としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、これらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、及び添加元素M’を含む複酸化物(LiCoaNibMncM’dO2、a+b+c+d=1、M’:Al、Mg、Ti、Zr又はGe)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などを単独又は混合して使用することができる。
【0085】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池を正極と負極が直接接触しない構造とする場合は、セパレータを使用しなくてもよい。
【0086】
電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、シクロヘキシルベンゼン、スルホラン、プロパンスルトン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル等の単体又は2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用してもよい。
【0087】
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されない。例えば、正極と負極と必要に応じて設けられるセパレータとを扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、正極と負極と必要に応じて設けられるセパレータとを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。
【0088】
リチウムイオン二次電池の形状は特に制限されず、ラミネート型電池、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池等として使用してもよい。
【0089】
本開示の負極材は、電解液耐性及び寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池を作製可能であることに加え、熱安定性及び充放電における入出力特性に優れる傾向にある。また、本開示の負極材は、電解液の浸透性が速く電池製造が容易であるとともに、充放電サイクルを繰り返した場合の負極膨張及び電池内のガス発生による圧力上昇が小さい傾向にある。そのため上述した種々の形状のリチウムイオン二次電池の中で、ラミネート型電池、ペーパー型電池、積層型電池、角型電池等、比較的電解液の注液が難しい、又は充放電において電池が膨張し易い、薄型のリチウムイオン二次電池に本開示の負極材を用いることが好適である。
これは、特定炭素材料の少なくとも二つの発熱ピークのうちピーク温度が低い発熱ピークを生じる炭素材料中に含まれ得るC-O、C=O、C-OH、COOH等酸素含有表面官能基の化学的又は静電的効果によって、負極材と電解液の親和性が増すことで浸透性が向上し、これによって負極の充放電反応の電流分布、反応分布等が減少し、結果として負極膨張、ガス発生等が抑制されると推測されるが、この推測に限定されない。
【0090】
前記薄型のリチウムイオン二次電池において、電池容量が好ましくは3.5Ah以上、より好ましくは5Ah以上、特に10Ah以上と、電池サイズが大きくなる場合は、電解液を均一かつ速やかに注液しこれによって電池膨張を抑制する上で、本開示の負極材を用いることが望ましい。
また、電池寸法が縦(a)×横(b)×厚み(c)の薄型リチウムイオン二次電池において、厚み(c)が縦(a)又は横(b)のいずれかの短い方の好ましくは1/2以下、より好ましくは1/4以下、特に1/10以下と、扁平化又は薄型化した場合は、充放電サイクルによる負極膨張の影響が相対的に大きくなることから、本開示の負極材を用いることが好適である。
【0091】
本開示のリチウムイオン二次電池は、電解液耐性及び寿命特性に優れる。また、入出力特性及び熱安定性にも優れる傾向にある。また、特に、本開示の負極材を用いた薄型リチウムイオン二次電池は、高入出力、低膨張であるともに、複数の単電池を用いて組電池を構成した場合、実装性、電池の冷却性に優れる傾向にある。
このため、本開示のリチウムイオン二次電池、特に薄型リチウムイオン二次電池は、電気自動車、パワーツール等の用途、特に、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)又はプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の用途に好適である。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
(負極材の作製)
平均粒子径16μmの球形天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.7)100質量部とコールタールピッチ(体積平均粒子径2.5μm、軟化点250℃、残炭率(炭化率)70%)10質量部を混合した。上記混合物を、シリンダー内に回転翼を配置し、シリンダー内壁と回転翼の間で材料を擦り合わせることにより、材料の複合化を行う装置中に密閉した。24kWの負荷で5分間装置を運転することによりピッチ黒鉛複合体を作製した(負荷:1800kJ/kg)。次いで窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、1時間保持して炭素層被覆黒鉛粒子とした。得られた炭素層被覆炭素粒子をカッターミルで解砕した後、300メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分を本実施例の負極材とした。得られた負極材については、下記方法により、XRD解析、体積平均粒子径(50%D)測定、最大粒子径(Dmax)測定、示差熱測定、N2比表面積測定、ラマンスペクトル解析及び電解液耐性試験を行った。その特性を表1に示す。
【0094】
[XRD解析(平均面間隔d002の測定)]
負極材試料を石英製の試料ホルダーの凹部分に充填し、測定ステージにセットした。以下の測定条件において広角X線回折装置(株式会社リガク製)で測定を行った。
線源:CuKα線(波長=0.15418nm)
出力:40kV、20mA
サンプリング幅:0.010°
走査範囲:10~35°
スキャンスピード:0.5°/min
【0095】
[体積平均粒子径(50%D)測定]
負極材試料を界面活性剤と共に精製水中に分散させた溶液を、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3000J(株式会社島津製作所製)の試料水槽に入れ、超音波をかけながらポンプで循環させながら、レーザー回折式で測定した。得られた粒度分布の体積累積50%粒子径(50%D)を平均粒子径とした。
【0096】
[最大粒子径(Dmax)測定]
該当する篩を用いて篩分けを行い、その篩上分の有無を確認する。篩の目開きを90μm、74μm、63μm、53μm、45μm、及び38μmの順に小さくしていき、篩上が出る直前の目開きを最大粒子径(Dmax)とした。
【0097】
[示差熱測定]
示差熱熱重量同時測定装置EXSTAR TG/DTA6200(セイコーインスツル株式会社製)を用い、以下の測定条件で測定した。
参照試料:α-アルミナ
温度範囲:30~1000℃
昇温速度:2.5℃/min(30℃~300℃間は20℃/min)
雰囲気及び流量:乾燥空気、300ml/min
【0098】
[N2比表面積測定]
高速比表面積/細孔分布測定装置ASAP2010(MICRO MERITICS製)を用い、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を多点法で測定しBET法(相対圧範囲:0.05~0.2)より比表面積を算出した。
【0099】
[R値測定(ラマンスペクトル解析)]
ラマン分光器(株式会社堀場製作所製 EXploRA PLUS)を用いて、以下の条件によって顕微ラマン測定を行い、顕微ラマンR値の平均値、及び標準偏差(σ)を算出した。
測定対象の炭素材料をスライドガラスの上にのせ、表面を平らにし、撮影した画像中の炭素粒子上を、1粒子につき1ヵ所~3ヵ所ずつ、合計30カ所選択し、顕微ラマン測定を行った。
【0100】
励起波長 :532nm
試料上のレーザーパワー:1mW
分解能 :1.0μm~1.5μm
照射径 :1μm
測定範囲 :1000cm-1~1800cm-1
ピーク強度測定 :Idは1100cm-1~1469cm-1、Igは1450cm-1~1706cm-1をベースラインとした。
【0101】
[初回充放電効率の測定]
本実施例の負極材98質量部に対し、増粘剤として、CMC(カルボキシメチルセルロース、第一工業製薬株式会社、商品名:セロゲンWS-C)濃度が1.5質量%の水溶液をCMCの固形分換算で1質量部となるように加え、10分間混練を行った。次いで負極材とCMC水溶液の混合物に、固形分濃度が40質量%~50質量%となるように精製水を加え、10分間混練を行った。続いて、結着剤として、SBR(スチレン-ブタジエンゴム、商品名:TRD2001、JSR製)の濃度が40質量%の水分散液をSBRの固形分換算で1質量部となるように加え、10分間混合してペースト状の負極材スラリーを作製した。作製したスラリーを厚さ10μmの電解銅箔に単位面積当りの塗布量が10mg/cm2となるようにクリアランスを調整したコンマコーターで塗工した。その後、ロールプレスで1.5g/cm3に電極密度を調整した。この電極を直径14mmの円盤状に打ち抜き、試料電極(負極)を作製した。
【0102】
次いで、上記試料電極、セパレータ、対極の順に積層した後、LiPF6をエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(МEC)(ECとMECは体積比で3:7)の混合溶媒に1.0mol/Lの濃度になるように溶解した電解液溶液(電解液1とする)を注入し、コイン型電池を作製した。対極には金属リチウムを使用し、セパレータには厚み26μmのポリエチレン微孔膜を使用した。
【0103】
得られたコイン型電池の試料電極と対極の間に、0.54mA/cm2の定電流で0V(Vvs.Li/Li+)まで充電し、次いで0Vの定電圧で電流が0.054mAになるまで充電した。次に30分の休止時間後に0.54mA/cm2の定電流で1.5V(Vvs.Li/Li+)まで放電する1サイクル試験を行い、初回充放電効率を測定した。初回充放電効率は、(放電容量)/(充電容量)×100として算出した。ここでは、負極材の試料電極にリチウムイオンが吸蔵される場合を充電、逆に試料電極からリチウムイオンが放出される場合を放電とする。
【0104】
[寿命特性の評価]
初回充放電効率の項と同様の方法で負極材スラリー、試料電極(負極)及びコイン型電池を作製した。
【0105】
次いで、上記試料電極、セパレータ、対極の順に積層した後、LiPF6をエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(МEC)(ECとМECは体積比で3:7)の混合溶媒に1.0モル/リットルの濃度になるように溶解した電解液溶液を注入し、コイン型電池を作製した。対極には金属リチウムを使用し、セパレータには厚み26μmのポリエチレン微孔膜を使用した。
【0106】
上記で作製したコイン型電池を用い、下記手順で寿命特性の評価を行った。
(1)0.54mAの定電流で0V(Vvs.Li/Li+)まで充電し、次いで0Vの定電圧で電流が0.054mAになるまで充電した。
(2)30分の休止時間後に、0.54mAの定電流で1.5V(Vvs.Li/Li+)まで放電する1サイクル試験を行い、放電容量を測定した。
(3)1.09mAの定電流で0V(Vvs.Li/Li+)まで充電し、0Vの定電圧で電流が0.11mAになるまで充電した。
(4)30分の休止時間後に、1.09mAの定電流で1.5V(Vvs.Li/Li+)まで放電した。
(5)上記(3)及び(4)の充放電サイクル試験を10サイクル行った。
このサイクルを10サイクル繰り返したときの1サイクル目からの放電容量維持率(=10サイクル目放電容量/1サイクル目放電容量×100)を測定し、寿命特性評価を行った。この放電容量維持率が高いほど寿命特性に優れた材料であることを示す。
【0107】
[電解液耐性試験]
初回充放電効率の項において、電解液溶液の種類を以下の3種類に変更した以外は、同様の方法で負極材スラリー、試料電極(負極)及びコイン型電池を作製した。
電解液2:1.0M LiPF6 EC:MEC:PC=3:5:2(v/v%)
電解液3:1.0M LiPF6 DEC:EC:PC=4:3:3(v/v%)
電解液4:1.0M LiPF6 DEC:EC:PC=4:2:4(v/v%)
異なる電解液を用いて初回測定を行ったときの不可逆容量を測定することで、電解液耐性を評価した。
【0108】
[実施例2]
実施例1において、焼成温度を1000℃から900℃に変更し、コールタールピッチの粒子径を2.5μmから15μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法で負極材試料を作製した。得られた負極材試料の特性を表1に示す。
【0109】
[実施例3]
実施例2において、焼成温度を900℃から850℃に変更した以外は、実施例2と同様の方法で負極材試料を作製した。得られた負極材試料の特性を表1に示す。
【0110】
[比較例1]
実施例1において、コールタールピッチの軟化点を250℃から98℃に変更し、コールタールピッチの粒子径を2.5μmから50μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法で負極材試料を作製した。得られた負極材試料の特性を表1に示す。
【0111】
[比較例2]
実施例1において、球形天然黒鉛の平均粒子径を平均粒子径16μmから12μmに変更し、焼成温度を1000℃から1300℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で負極材試料を作製した。得られた負極材試料の特性を表1に示す。
【0112】
[比較例3]
実施例1において、球形天然黒鉛の平均粒子径を平均粒子径16μmから11μmに変更し、焼成温度を1000℃から1300℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で負極材試料を作製した。得られた負極材試料の特性を表1に示す。
【0113】
【0114】
表1から明らかなように、実施例1~3のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は寿命特性及び電解液耐性に優れる。
【0115】
以上より、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を適用した負極を有するリチウムイオン二次電池は、寿命特性及び電解液耐性に優れる。
【0116】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。