(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物の物性予測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20240110BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20240110BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240110BHJP
G06F 113/26 20200101ALN20240110BHJP
【FI】
G06F30/27
G06Q50/04
C08L101/00
G06F113:26
(21)【出願番号】P 2022139907
(22)【出願日】2022-09-02
【審査請求日】2023-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 岳大
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/079985(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/015134(WO,A1)
【文献】特開2022-87429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
G06Q 50/04
C08L 101/00
G06F 113/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測装置であって、
説明変数データと予測対象の物性の情報を含む物性データとの関係を機械学習し、前記説明変数データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、
前記回帰モデルを用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理部と、を備え、
前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データは、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含む、
樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項2】
前記その他材料が、酸化防止剤、銅害防止剤のうち1つ以上を含み、
前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データは、前記酸化防止剤及び前記銅害防止剤の各配合量の情報を含まない、
請求項1に記載の樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項3】
前記その他材料が、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤のうち1つ以上を含み、
前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データは、前記酸化防止剤、前記銅害防止剤、及び前記滑剤の各配合量の情報を含まない、
請求項1に記載の樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項4】
少なくとも前記ベースポリマ、前記難燃剤、前記難燃助剤、及び前記その他材料の各配合量の情報を含む配合量データ、及び、少なくとも予測対象の物性の情報を含む物性データを含むデータベースと、
前記物性予測処理部によって予測する物性に応じて、前記データベースから前記説明変数データを抽出するデータ抽出処理部と、を備え、
前記データ抽出処理部は、前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データが、少なくとも、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含み、かつ、前記酸化防止剤、前記銅害防止剤、及び前記滑剤の情報を含まないようにデータ抽出を行う、
請求項3に記載の樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項5】
予測対象の前記樹脂組成物が、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物であり、
前記説明変数データは、架橋の際の電子線の照射量の情報を含む、
請求項1に記載の樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項6】
前記その他材料が、架橋助剤を含み、
前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データは、前記架橋助剤の各配合量の情報を含む、
請求項5に記載の樹脂組成物の物性予測装置。
【請求項7】
ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測方法であって、
説明変数データと予測対象の物性の情報を含む物性データとの関係を機械学習し、前記説明変数データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理工程と、
前記回帰モデルを用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理工程と、を備え、
前記物性予測処理工程で予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データに、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含ませる、
樹脂組成物の物性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の物性予測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械学習の学習結果を利用して材料を設計する方法や装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような方法や装置を用いることで、例えば、原料の配合量等に応じた物性を予測することが可能になり、材料の開発期間を短縮し、開発コストを抑制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物を設計する際には、物性として伸びや引張強度を精度よく予測することが望まれる場合がある。電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物には、ベースポリマに加えて、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤、着色剤、架橋助剤等の多くの材料が使用されている。このような樹脂組成物においては、樹脂組成物の物性を予測する場合に、単純に全ての材料の配合量を用いても、物性の予測精度が十分に得られない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、樹脂組成物の伸びや引張強度を精度よく予測可能な樹脂組成物の物性予測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測装置であって、説明変数データと予測対象の物性の情報を含む物性データとの関係を機械学習し、前記説明変数データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、前記回帰モデルを用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理部と、を備え、前記物性予測処理部によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データは、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含む、樹脂組成物の物性予測装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測方法であって、説明変数データと予測対象の物性の情報を含む物性データとの関係を機械学習し、前記説明変数データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理工程と、前記回帰モデルを用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理工程と、を備え、前記物性予測処理工程で予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データに、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含ませる、樹脂組成物の物性予測方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂組成物の伸びや引張強度を精度よく予測可能な樹脂組成物の物性予測装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物の物性予測装置の概略構成図である。
【
図4】(a)は回帰モデル作成処理を説明する図であり、(b)は物性予測処理を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物の物性予測方法のフロー図である。
【
図6】(a)はデータ取得処理、(b)はデータ抽出処理のフロー図である。
【
図7】(a)は回帰モデル作成処理、(b)は物性予測処理のフロー図である。
【
図8】(a)は、本発明の実施例において学習用データとして用いたデータを示す図であり、(b)は、検討により得られた平均絶対誤差率の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(樹脂組成物の物性予測装置1の概略構成)
図1は、本実施の形態に係る樹脂組成物の物性予測装置1(以下、単に物性予測装置1という)の概略構成図である。物性予測装置1は、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する装置である。
【0012】
ここでは、物性の予測対象となる樹脂組成物が、電線の被覆材料であり、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物である場合について説明する。また、本実施の形態では、予測対象となる物性は、予測対象の樹脂組成物の初期の伸びまたは引張強度とする。なお、ここでいう「初期」とは、樹脂組成物に劣化が生じていない状態をいう。
【0013】
図1に示すように、物性予測装置1は、制御部2と、記憶部3と、表示器4と、入力装置5と、を有している。本実施の形態では、物性予測装置1は、パーソナルコンピュータにより構成されている。
【0014】
制御部2は、CPU等の演算素子、メモリ、インターフェイス、ソフトウェア、記憶装置等を適宜組み合わせて実現されている。本実施の形態では、制御部2は、データ取得処理部20、データ抽出処理部21、回帰モデル作成処理部22、物性予測処理部23、及び予測物性提示処理部24を有している。各部の詳細については後述する。
【0015】
記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、物性予測装置1と別体に構成され、無線通信等により物性予測装置1と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0016】
(データベース6について)
次に、データベース6について説明する。データベース6は、機械学習に用いる情報を含む全体の情報を統合したデータベースである。
図2は、データベース6の一例を示す図である。なお、
図2はデータベース6の概念を示すものであり、実際の実験データ等を記載したものではない。
図2に示すように、データベース6は、少なくとも、配合量データ11と、照射量データ13と、物性データ14と、を含んでいる。図示例では、データベース6は、樹脂組成物を識別するためのIDデータ(ID)12を含んでいる。なお、データベース6は、これら以外の情報を含んでもよく、例えば、樹脂組成物の製造条件を表すデータ(所謂、プロセスデータ)や、樹脂組成物の組織の状態を表すデータ(所謂、組織データ)等をさらに含んでいてもよい。
【0017】
配合量データ11は、樹脂組成物を構成する各材料の配合量の情報を含む。より具体的には、配合量データ11は、ベースポリマの配合量の情報を含むベースポリマ配合量データ11a、フィラー(すなわち、難燃剤及び難燃助剤)の配合量の情報を含むフィラー配合量データ11b、及びその他材料の各配合量の情報を含むその他材料配合量データ11cを含んでいる。本実施の形態では、その他材料は、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤、架橋助剤、着色剤を含んでいる。なお、その他材料として、架橋剤、安定剤等の他の材料を含んでいてもよい。
【0018】
本実施の形態では、電子線照射による架橋を用いる樹脂組成物を物性の予測対象としているため、データベース6は、架橋の際の電子線の照射量の情報を含む照射量データ13を有している。照射量データ13は、製造条件を表すデータであり、所謂プロセスデータの一部であるといえる。なお、電子線照射による架橋を行わない樹脂組成物を対象とする場合、照射量データ13は省略することができる。
【0019】
本実施の形態では、予測対象の物性が伸びまたは引張強度であるため、物性データ14は、少なくとも、予測対象となる樹脂組成物の伸びまたは引張強度を含んでいる。なお、物性データ14として、初期の伸びと引張強度に加え、伸びや引張強度の特定環境下での劣化特性を含んでいてもよい。図示例では、劣化特性として、熱老化時の伸びと引張強度を示しているが、これに限らず、耐油性、耐燃料性、耐寒性など、さまざまな環境下での劣化特性を含んでもよい。
【0020】
(データ取得処理部20)
データ取得処理部20は、外部から入力された各種データをデータベース6に登録し記憶部3に記憶するデータ取得処理(
図6(a)参照)を行う。各種データの入力は、入力装置5により行われてもよいし、外部装置からの通信(有線通信あるいは無線通信、あるいはネットワークを介した通信等)により行われてもよいし、さらには、USBメモリ等のメディアを介して行われてもよい。また、データ取得処理部20は、外部装置にデータを要求する信号を送信するなど、積極的にデータの取得を行うよう構成されていてもよい。
【0021】
(データ抽出処理部21)
データ抽出処理部21は、予測対象の物性(物性予測処理部23によって予測する物性)に応じて、種々のデータを含むデータベース6から、機械学習時に説明変数として用いる説明変数データ61、及び機械学習時に目的変数として用いる目的変数データ62を抽出して学習用データ6aを生成するデータ抽出処理を行う(
図3、
図6(b)参照)。
【0022】
データ抽出処理部21は、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、説明変数データ61が、少なくとも、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤の各配合量の情報(すなわち、ベースポリマ配合量データ11a及びフィラー配合量データ11b)を含むようにデータ抽出を行う。そして、本実施の形態では、データ抽出処理部21は、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、説明変数データ61が、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の各配合量の情報を含まないようにデータ抽出を行う。
【0023】
これは、比較的配合量が多いベースポリマ、難燃剤、難燃助剤の配合量の情報を説明変数として用いることで、予測精度の向上が図れるためである。そして、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤は、配合量が少なく、かつ配合量の変動が少ないこともあり、初期の伸びまたは引張強度に与える影響が小さく、これらの配合量の情報を説明変数に含めてしまうと、機械学習の際のノイズとなり予測精度が低下してしまうおそれがある。そのため、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の各配合量の情報を説明変数から省くことで、予測精度の向上を図ることが可能になる。
【0024】
本実施の形態では、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物を予測対象としているため、データ抽出処理部21は、説明変数データ61が、照射量データ13を含むようにデータ抽出を行うよう構成されている。さらに、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物では、その他材料として架橋助剤が含まれており、この架橋助剤が伸びや引張強度に影響を与える場合があるため、データ抽出処理部21では、説明変数データ61が、架橋助剤の配合量の情報を含むようにデータ抽出を行っている。
【0025】
ただし、照射量データ13や架橋助剤の配合量の情報を説明変数データ61に含めることは必須ではない。例えば、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物を予測対象とする場合であっても、電子線の照射量が常に一定である(あるいは照射量の変動がほとんどない)場合などは、照射量データ13を説明変数データ61から省いてよい。また、添加する架橋助剤の配合量が微量であったり、架橋助剤の配合量の変動が非常に小さかったりする場合等には、架橋助剤の配合量の情報も説明変数データ61から省いてもよい。
【0026】
電子線照射による架橋を行わない樹脂組成物が予測対象であれば、当然ながら、照射量データ13や架橋助剤の配合量の情報は省略可能である。なお、例えば化学架橋により架橋を行う樹脂組成物が予測対象となる場合には、架橋剤の配合量の情報を説明変数データ61に含めてもよく、必要に応じて他のデータ(プロセスデータや組織データ等)を説明変数データ61に追加してもよい。
【0027】
本実施の形態では、説明変数データ61として、さらに着色剤の配合量の情報を含めるようにしたが、着色剤の配合量の情報については省略可能である。また、上述のように、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物を予測対象とする場合であっても、架橋助剤の配合量を説明変数データ61から省くことが可能である。つまり、説明変数データ61は、少なくとも、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤の各配合量の情報(ベースポリマ配合量データ11a及びフィラー配合量データ11b)を含んでいればよく、その他材料の配合量の情報(その他材料配合量データ11c)を含まなくてもよい。
【0028】
図3に示すように、例えば、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の「初期の伸び」である場合、データ抽出処理部21は、説明変数データ61にベースポリマ配合量データ11a、フィラー配合量データ11b、その他材料配合量データ11c中の架橋助剤と着色剤の配合量の情報、及び照射量データ13を含ませ、その他材料配合量データ11c中の酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の配合量の情報を除外するようにデータ抽出を行う。そして、物性データ14のうち予測対象となる初期の伸びのデータのみを目的変数データ62として抽出する。
【0029】
なお、データ抽出処理部21は、予測対象の物性が初期の伸びまたは引張強度でないときには、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤のいずれかの配合量の情報を説明変数データ61に含めてもよい。例えば、予測対象の物性が樹脂組成物の伸びまたは引張強度の特定環境下での劣化特性(劣化後の伸びや引張強度、あるいは初期に対する劣化後の伸びや引張強度の低下率など)である場合には、その他材料の影響が大きくなる場合がある。このような場合には、説明変数データ61として、ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤の配合量の情報に加え、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤のうち1つ以上の配合量の情報を含めてもよい。
【0030】
(回帰モデル作成処理部22)
回帰モデル作成処理部22は、データ抽出処理部21で抽出した学習用データ6a(説明変数データ61及び目的変数データ62)を用いて機械学習を行い、回帰モデル7を作成する回帰モデル作成処理(
図7(a)参照)を行う。
【0031】
図4(a)に示すように、回帰モデル作成処理部22には、データ抽出処理部21が抽出した説明変数データ61及び目的変数データ62(
図3の右側に示した「学習用データ6a」と同じもの)が入力される。
【0032】
回帰モデル作成処理部22は、入力された説明変数データ61の各パラメータに対する目的変数データ62のパラメータの相関性を、機械学習により自ら学習するための学習アルゴリズム等のソフトウェアを含んでいる。学習アルゴリズムは特に限定されず、公知の学習アルゴリズムを用いることができ、例えば、3層以上の層をなすニューラルネットワークを用いた所謂ディープランニング等を用いることができる。回帰モデル作成処理部22が学習するものは、説明変数データ61と、目的変数データ62との相関性を表すモデル構造に相当する。
【0033】
回帰モデル作成処理部22は、予測対象の物性が初期の伸びまたは引張強度である場合、説明変数データ61として入力されたベースポリマ配合量データ11a、フィラー配合量データ11b、その他材料配合量データ11c中の架橋助剤と着色剤の配合量の情報、及び照射量データ13と、目的変数データ62として入力された物性データ14(初期の伸びまたは引張強度)との相関性を表す回帰モデル7を作成する。
【0034】
より具体的には、回帰モデル作成処理部22は、入力された学習用データ6aを基に、説明変数データ61と目的変数データ62とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈する。なお、学習の開始時には相関性は未知の状態であるが、学習を進めるに従って説明変数データ61に対する目的変数データ62の相関性を徐々に解釈し、その結果として得られた学習済みモデルである回帰モデル7を用いることで、説明変数データ61に対する目的変数データ62の相関性を解釈可能になる。
【0035】
回帰モデル作成処理部22は、作成した回帰モデル7を記憶部3に記憶する。本実施の形態では、回帰モデル作成処理部22は、学習用データ6aが更新される度に、回帰モデル7を更新する。ただし、これに限らず、例えば後述する物性予測処理を実行する際に、学習用データ6aの更新分をまとめて学習し、回帰モデル7を更新するようにしてもよい。
【0036】
(物性予測処理部23)
物性予測処理部23は、回帰モデル7により、予測元となる予測元データ8に応じた物性データ14を予測する物性予測処理(
図7(b)参照)を行う。以下、予測元データ8として用いる配合量データ11を予測元配合量データ11dという。物性予測処理部23は、予測した物性データ14を予測データ9として記憶部3に記憶する。以下、予測した物性データ14を予測物性データ14aという。
【0037】
図4(b)に示すように、物性予測処理では、物性予測処理部23に、回帰モデル7と、予測元データ8とが入力される。なお、図示していないが、本実施の形態では、予測元データ8として、予測元配合量データ11dに加えて、照射量データ13も用いる。物性予測処理部23は、回帰モデル7を用いて、予測元データ8に対応した物性データ14を求め、得られた物性データ14(予測物性データ14a)を予測データ9として記憶部3に記憶する。ここで得られた予測データ9は、予測元データ8の材料及び照射量で樹脂組成物を製造した場合に、予測される樹脂組成物の物性(例えば、初期の伸びまたは引張強度)を表している。
【0038】
(予測物性提示処理部24)
予測物性提示処理部24は、予測データ9を提示する予測物性提示処理を行う。予測物性提示処理では、例えば、予測データ9を表示器4に表示する。なお、予測物性提示処理では、予測データ9以外のデータ、例えば、説明変数データ61として用いた項目等もあわせて提示するように構成されていてもよい。
【0039】
(樹脂組成物の物性予測方法)
(メインルーチン)
図5は、本実施の形態に係る樹脂組成物の物性予測方法のフロー図である。なお、
図5において、実線で示す矢印は、制御の流れを表しており、破線で示す矢印は、信号やデータの入出力を表している。
【0040】
図5に示すように、本実施の形態に係る樹脂組成物の物性予測方法では、まず、ステップS1にて、制御部2が、新たなデータが入力されたかを判定する。ステップS1でNO(N)と判定された場合、ステップS5に進む。ステップS1でYES(Y)と判定された場合、ステップS2に進み、データ取得処理を行う。
【0041】
ステップS2のデータ取得処理では、
図6(a)に示すように、データ取得処理部20が、各種データ(配合量データ11、照射量データ13、及び物性データ14)を受信し(ステップS21)、受信した各種データをデータベース6に登録し記憶部3に記憶する(ステップS22)。その後、リターンする。
【0042】
ステップS2のデータ取得処理を行った後、ステップS3にて、データ抽出処理を行う。ステップS3のデータ抽出処理では、
図6(b)に示すように、データ取得処理部20が、予測対象の物性が初期の伸びまたは引張強度であるかを判定する(ステップS31)。なお、予測対象の物性の指定は、例えば入力装置5により行われてもよい。ステップS31でYES(Y)と判定された場合、ステップS32にて、データ取得処理部20が、データベース6から、説明変数データ61として、ベースポリマ配合量データ11a、フィラー配合量データ11b、その他材料配合量データ11c中の架橋助剤と着色剤の配合量、及び照射量データ13を抽出する。このとき、その他材料配合量データ11c中の酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の配合量については除外される。その後、ステップS34に進む。
【0043】
ステップS31でNO(N)と判定された場合、ステップS33にて、データ取得処理部20が、データベース6から、予測対象の物性に応じて説明変数データ61を抽出する。例えば、予測対象の物性が伸びや引張強度の劣化特性である場合、説明変数データ61として、その他材料配合量データ11c中の酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の少なくとも1つの配合量を含むように抽出を行ってもよい。その後、ステップS34に進む。ステップS34では、データ取得処理部20が、目的変数データ62として、データベース6から、予測対象の物性データ14を抽出する。図示していないが、抽出した説明変数データ61と目的変数データ62とを関連付けて学習用データ6aを生成し、記憶部3に記憶してもよい。その後、リターンし、
図5のステップS4に進む。
【0044】
ステップS4では、回帰モデル作成処理を行う。回帰モデル作成処理では、
図7(a)に示すように、まず、ステップS41にて、回帰モデル作成処理部22が、未学習の学習用データ6a(ステップS3で抽出された説明変数データ61及び目的変数データ62)を機械学習に用いて、回帰モデル7の更新を行う。なお、ステップS41は、回帰モデル7が未作成である場合には、回帰モデル7が新たに作成される。その後、ステップS42にて、更新(あるいは作成)した回帰モデル7を記憶部3に記憶し、リターンする。
【0045】
樹脂組成物の物性予測を行う際には、入力装置5等により、予測元データ8を入力する(ステップS10)。なお、予め予測元データ8となるデータ(配合量データ11及び照射量データ13)を樹脂組成物の物性予測装置1に入力しておき、入力装置5により予測元データ8として用いるデータを選択するよう構成してもよい。
【0046】
ステップS5では、制御部2が、予測元データ8が入力されたかを判定する。ステップS5でNOと判定された場合、リターンする(ステップS1に戻る)。ステップS5でYESと判定された場合、ステップS6に進む。
【0047】
ステップS6では、物性予測処理を行う。物性予測処理では、
図7(b)に示すように、まず、ステップS61にて、物性予測処理部23が、回帰モデル7により、予測元データ8に対応する物性データ14(予測物性データ14a)を予測し、予測データ9とする。その後、ステップS62にて、得られた予測データ9を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図5のステップS7に進む。
【0048】
ステップS7では、予測物性提示処理を行う。予測物性提示処理では、例えば、ステップS6で予測した予測データ9を、表示器4に表示する等して、予測データ9を提示する。その後、リターンする(ステップS1に戻る)。
【0049】
(初期の伸びまたは引張強度の予測に好適な説明変数の検討)
初期の伸びまたは引張強度の予測に好適な説明変数について、検討を行った。検討では、
図8(a)に示すように、17種のベースポリマ、17種のフィラー(難燃剤及び難燃助剤)、2種の酸化防止剤、1種の銅害防止剤、5種の滑剤、1種の着色剤、1種の架橋助剤、及び照射量のデータを含むデータを学習用データ6aとして用い、交差検証法(Cross-validation)により、使用する説明変数データ61を削減した際の回帰モデル7の予測精度の変化について検討した。検討に際しては、全データのうち7割を学習用データ6a、残りの3割をテストデータに分割し、分割された学習用データ6aを用いて回帰モデル7を作成した後、作成した回帰モデル7でテストデータの評価を行い、平均絶対誤差率MAPEを算出した。このようなデータの分割と回帰モデル7の作成、評価を30回繰り返し、平均絶対誤差率(MAPE)の平均値を算出した。なお、平均絶対誤差率が小さいほど、予測精度の高い優れた回帰モデル7が作成できているといえる。予測対象の物性としては、初期の伸び及び引張強度とした。
【0050】
全ての配合量の情報を説明変数データ61として使用した実施例1、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の一部(5種のうち3種)を説明変数データ61から省いた実施例2、及び、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の全てを説明変数データ61から省いた実施例3について、それぞれ検討を行った。
図8(a)では、実施例2で説明変数データ61から除外するデータをデータセット1、実施例3で説明変数データ61から除外するデータをデータセット2として示している。検討により得られた平均絶対誤差率の平均値を一括して
図8(b)に示す。
【0051】
図8(b)に示すように、実施例1,2と比較して、実施例3が最も平均絶対誤差率が小さくなっており、予測精度の高い回帰モデル7が得られていることが分かった。この結果から、予測対象の物性が初期の伸びまたは引張強度である場合には、説明変数データ61から酸化防止剤及び銅害防止剤を省くことで予測精度を向上でき、説明変数データ61から酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤を省くことで予測精度をさらに向上できることが確認できた。
【0052】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る物性予測装置1では、説明変数データ61と物性データ14との関係を機械学習し、説明変数データ61と物性データ14との相関性を表す回帰モデル7を作成する回帰モデル作成処理部22と、回帰モデル7を用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理部23と、を備え、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、説明変数データ61は、ベースポリマ、難燃剤、及び難燃助剤の各配合量の情報を含んでいる。
【0053】
比較的配合量が多いベースポリマ、難燃剤、難燃助剤の配合量の情報を説明変数として用いることで、予測精度の向上が図れる。さらに、説明変数データ61から、酸化防止剤、銅害防止剤、及び滑剤の各配合量の情報を除外することで、初期の伸びまたは引張強度をより高精度に予測することが可能になる。
【0054】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0055】
[1]ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測装置(1)であって、説明変数データ(61)と予測対象の物性の情報を含む物性データ(14)との関係を機械学習し、前記説明変数データ(61)と前記物性データ(14)との相関性を表す回帰モデル(7)を作成する回帰モデル作成処理部(22)と、前記回帰モデル(7)を用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理部(23)と、を備え、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データ(61)は、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含む、樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0056】
[2]前記その他材料が、酸化防止剤、銅害防止剤のうち1つ以上を含み、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データ(61)は、前記酸化防止剤及び前記銅害防止剤の各配合量の情報を含まない、[1]に記載の樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0057】
[3]前記その他材料が、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤のうち1つ以上を含み、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データ(61)は、前記酸化防止剤、前記銅害防止剤、及び前記滑剤の各配合量の情報を含まない、[1]に記載の樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0058】
[4]少なくとも前記ベースポリマ、前記難燃剤、前記難燃助剤、及び前記その他材料の各配合量の情報を含む配合量データ(11)、及び、少なくとも予測対象の物性の情報を含む物性データ(14)を含むデータベースと、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性に応じて、前記データベース(6)から前記説明変数データ(61)を抽出するデータ抽出処理部(21)と、を備え、前記データ抽出処理部(21)は、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データが、少なくとも、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含み、かつ、前記酸化防止剤、前記銅害防止剤、及び前記滑剤の情報を含まないようにデータ抽出を行う、[3]に記載の樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0059】
[5]予測対象の前記樹脂組成物が、電子線照射により架橋されるノンハロゲン系の樹脂組成物であり、前記説明変数データは、架橋の際の電子線の照射量の情報を含む、[1]に記載の樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0060】
[6]前記その他材料が、架橋助剤を含み、前記物性予測処理部(23)によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データ(61)は、前記架橋助剤の各配合量の情報を含む、[5]に記載の樹脂組成物の物性予測装置(1)。
【0061】
[7]ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測方法であって、説明変数データ(61)と予測対象の物性の情報を含む物性データ(14)との関係を機械学習し、前記説明変数データ(61)と前記物性データ(14)との相関性を表す回帰モデル(7)を作成する回帰モデル作成処理工程と、前記回帰モデル(7)を用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理工程と、を備え、前記物性予測処理工程で予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、前記説明変数データ(61)に、前記ベースポリマ、前記難燃剤、及び前記難燃助剤の各配合量の情報を含ませる、樹脂組成物の物性予測方法。
【0062】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…樹脂組成物の物性予測装置(物性予測装置)
2…制御部
3…記憶部
6…データベース
6a…学習用データ
7…回帰モデル
8…予測元データ
9…予測データ
11…配合量データ
11a…ベースポリマ配合量データ
11b…フィラー配合量データ
11c…その他材料配合量データ
14…物性データ
20…データ取得処理部
21…データ抽出処理部
22…回帰モデル作成処理部
23…物性予測処理部
24…予測物性提示処理部
61…説明変数データ
62…目的変数データ
【要約】
【課題】樹脂組成物の伸びや引張強度を精度よく予測可能な樹脂組成物の物性予測装置及び方法を提供する。
【解決手段】ベースポリマ、難燃剤、難燃助剤、及びその他材料を用いて製造される樹脂組成物の物性を予測する物性予測装置1であって、説明変数データ61と予測対象の物性の情報を含む物性データ14との関係を機械学習し、説明変数データ61と物性データ14との相関性を表す回帰モデル7を作成する回帰モデル作成処理部22と、回帰モデル7を用いて予測対象の物性を予測する物性予測処理部23とを備え、物性予測処理部23によって予測する物性が予測対象の初期の伸びまたは引張強度である場合、説明変数データ61は、ベースポリマ、難燃剤、及び難燃助剤の各配合量の情報を含む。
【選択図】
図1