IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7416169ポリビニルアルコール系フィルム及び薬剤包装体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系フィルム及び薬剤包装体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022165190
(22)【出願日】2022-10-14
(62)【分割の表示】P 2019541369の分割
【原出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2022179755
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018143771
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018143772
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】可児 昭一
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072710(JP,A)
【文献】特開2012-197389(JP,A)
【文献】特開2008-184614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0182937(US,A1)
【文献】特開平09-272771(JP,A)
【文献】特開昭49-131240(JP,A)
【文献】特開2000-095949(JP,A)
【文献】特開2003-261649(JP,A)
【文献】特開2001-329130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及び炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)を含有するポリビニルアルコール系フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)の20℃における4重量%水溶液粘度が10~50mPa・sであり、上記エステル(B)の含有量が1~4000ppmであることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ケン化度、粘度、変性種、変性量のうち少なくとも1つが異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
上記変性ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
上記2種以上のポリビニルアルコール系樹脂が、未変性ポリビニルアルコール系樹脂と変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする請求項3記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項6】
上記未変性ポリビニルアルコール系樹脂と上記変性ポリビニルアルコール系樹脂の含有比率が重量比で、上記未変性ポリビニルアルコール系樹脂/上記変性ポリビニルアルコール系樹脂=1/99~99/1であることを特徴とする請求項5記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
上記多価アルコールが、炭素数2~6の多価アルコール(b2)であることを特徴とする請求項1~6いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
更に、可塑剤(C)を含有することを特徴とする請求項1~7いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項9】
上記可塑剤(C)に対する上記エステル(B)の重量含有比率(B)/(C)が0.00001~0.015であることを特徴とする請求項8記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項10】
上記エステル(B)がグリセリンの酢酸エステルであることを特徴とする請求項1~9いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項11】
水溶性フィルムであることを特徴とする請求項1~9いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項12】
請求項1~11いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムで形成された包装体と、上記包装体に包装された薬剤とからなることを特徴とする薬剤包装体。
【請求項13】
上記薬剤が洗剤であることを特徴とする請求項12記載の薬剤包装体。
【請求項14】
上記洗剤が液体洗剤であることを特徴とする請求項13記載の薬剤包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムに関する。更に詳しくは、冷水溶解性に優れ、透明性が高く、優れた帯電防止性能を有するポリビニルアルコール系フィルム及びそれを用いてなる薬剤包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を調整したり、アニオン性官能基などをポリビニルアルコール分子鎖に導入(変性)することにより、水に溶解する水溶性を特徴とする水溶性フィルムとして利用されている。具体的には、農薬や洗剤等の薬剤の包装(ユニット包装)用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材、等に用いられている。
【0003】
これらのなかでも、農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途では、使用時に薬剤量を一々計量する手間が省けるうえ、手を汚したりすることもないという利点があり、特に液体洗剤のような液体製品に対するユニット包装(液体製品包装体)用途が拡大している。
このようなユニット包装用途においては、最近では意匠性の観点から、透明性が高い水溶性フィルムや、印刷適性に優れた水溶性フィルムが求められており、印刷時に印刷不良の原因となる埃や塵等の異物がフィルム表面に付着することがないように帯電防止性能に優れる等、従来よりも多様な物性を満足することが必要となっている。
【0004】
また、かかる水溶性フィルム用途に用いるポリビニルアルコール系フィルムとして、例えば、ポリビニルアルコール100重量部に対して、可塑剤5~30重量部、澱粉1~10重量部及び界面活性剤0.01~2重量部を配合してなる水溶性フィルム(例えば、特許文献1参照。)や、ケン化度が異なる2種以上のポリビニルアルコールを含有してなる樹脂組成物からなるポリビニルアルコール系フィルム(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-329130号公報
【文献】特開2003-261694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示のポリビニルアルコール系フィルムは、水溶性、耐ブロッキング性、衝撃破裂強度に優れ、上記特許文献2に開示のポリビニルアルコール系フィルムは、冷水溶解性、耐久性に優れるものであり、いずれも、薬剤包装体用のフィルムとして好適であるが、近年の薬剤包装体の高付加価値化に伴い、特に意匠性の観点から、透明性や帯電防止性能において更なる改善が望まれるものであった。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、冷水溶解性に優れるとともに、透明性が高く、帯電防止性能にも優れるポリビニルアルコール系フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、低級脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物を、ポリビニルアルコール系フィルムに配合される一般的な添加剤の配合量と比べて微量に含有するポリビニルアルコール系フィルムが、意外にも、上記目的を達成し得ることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、次のとおりである。
[1]ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及び炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)を含有するポリビニルアルコール系フィルムであって、上記エステル(B)の含有量が1~4000ppmである、ポリビニルアルコール系フィルム。
[2]上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、変性ポリビニルアルコール系樹脂である、[1]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[3]上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ケン化度、粘度、変性種、変性量のうち少なくとも1つが異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂である、[1]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[4]上記変性ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール系樹脂である、[2]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[5]上記2種以上のポリビニルアルコール系樹脂が、未変性ポリビニルアルコール系樹脂と変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有する、[3]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[6]上記未変性ポリビニルアルコール系樹脂と上記変性ポリビニルアルコール系樹脂の含有比率が重量比で、上記未変性ポリビニルアルコール系樹脂/上記変性ポリビニルアルコール系樹脂=1/99~99/1である、[5]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[7]上記多価アルコールが、炭素数2~6の多価アルコール(b2)である、[1]~[6]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[8]更に、可塑剤(C)を含有する、[1]~[7]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[9]上記可塑剤(C)に対する上記エステル(B)の重量含有比率(B)/(C)が0.00001~0.015である、[8]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[10]上記エステル(B)がグリセリンの酢酸エステルである、[1]~[9]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[11]水溶性フィルムである、[1]~[9]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[12][1]~[11]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムで形成された包装体と、上記包装体に包装された薬剤とからなる、薬剤包装体。
[13]上記薬剤が洗剤である、[12]記載の薬剤包装体。
[14]上記洗剤が液体洗剤である、[13]記載の薬剤包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能に優れ、かつ冷水溶解性にも優れるため、特に薬剤包装体に使用した場合に、意匠性、水溶性に優れた包装体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)、炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)を1~4000ppm含有することが必要である。
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)としては、変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、また、ケン化度、粘度、変性種、変性量のうち少なくとも1つが異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂も好ましい。
【0012】
以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがあり、「PVA系フィルム」とは「ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルム」を略記したものである。また、「ケン化度、粘度、変性種、変性量のうち少なくとも1つが異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂」を、「2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂」と記載することがある。また、「炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)」を「多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)」と記載することがある。また、ここで「水溶性フィルム」とは、常温(20℃程度)の水に溶解するフィルムを示す。
【0013】
上記のPVA系フィルム中の多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は、動的ヘッドスペース装置を備えたガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)によって定量的に測定されるものである。
具体的には、フィルム試料(約5mg)を動的ヘッドスペース装置にて120℃、30分間の条件で多価アルコールの低級脂肪酸エステルを揮発させて、凝集装置により捕集したガス成分をGC/MS装置にて同定、定量を行う。GCのMSスペクトルより多価アルコールの低級脂肪酸エステル成分を同定して、各多価アルコールの低級脂肪酸エステル成分の検量線をもとにGCで得られたアバンダンス強度のピーク面積より揮発量を求めて、測定に供したフィルム試料重量から換算することで、PVA系フィルムにおける多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量を求めることができる。
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を2種以上併せて含有している場合には、検出された各多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量を合計した値を多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量として算出することができる。
【0014】
PVA系フィルム中の多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は、1~4000ppmであることが必要であり、好ましくは10~2000ppm、特に好ましくは50~1500ppmである。かかる多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量が下限値未満であると、帯電防止性が充分に得られず、内部ヘイズ低減効果が不足することから透明性改善作用も得られない。一方で含有量が上限値を超えると、反対に内部ヘイズが高くなり透明性を満足しないフィルムとなる。
ここで、内部ヘイズとは、表面凹凸など表面散乱に伴う光散乱因子を取り除いた状態でフィルムの光散乱物性を評価した数値であり、PVA結晶状態や屈折率の異なる添加剤の分散状態などによって影響を受ける。一般的には、フィルム透明度の指標として用いられており、内部ヘイズの数値が低くなるに従いフィルム内部の透明性が良好であることを示す。
【0015】
本発明では、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)はPVA系フィルム表面に移行しやすい特徴を有することから、少量の添加によって表面抵抗率を低減させることができ、フィルムへの帯電を防止して埃付着を防止する効果が付与されるものと考えられる。
一方で、可塑剤を配合したPVA系フィルムにおいて多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を少量添加することで、PVA系樹脂と可塑剤間の可塑効果に対する補助作用が働き、PVA結晶が微細化されることでフィルムの透明性が向上するものと考えられる。
【0016】
即ち、本発明においては、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定範囲で微量配合することにより、透明性と帯電防止性能の効果がバランスよく得られ、優れたPVA系フィルムを得ることができるのである。
【0017】
<PVA系樹脂(A)>
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、未変性PVA系樹脂や変性PVA系樹脂が挙げられる。PVA系樹脂(A)は、未変性PVA系樹脂や変性PVA系樹脂から選択される1種のPVA系樹脂でもよいし、2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂でもよい。なかでも、1種以上の変性PVA系樹脂を含有する変性PVA系樹脂や、ケン化度、粘度、変性種、変性量のうち少なくとも1つが異なる2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂が好ましい。前記2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂の具体例としては、未変性PVA系樹脂同士を2種以上含有すること、変性PVA系樹脂同士を2種以上含有すること、未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂を併用して2種以上含有すること等が挙げられるが、なかでも、未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂を含有することが好ましい。
【0018】
未変性PVA系樹脂とは、ビニルエステル系化合物を重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残存したビニルエステル構造単位から構成される。
【0019】
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記ビニルエステル系化合物の重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。
【0021】
重合触媒としては、重合方法に応じて、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができる。また、重合の反応温度は50℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0022】
ケン化は公知の方法で行うことができ、通常、得られた共重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下で行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は、溶解率の観点から20~50重量%の範囲から選択される。
【0023】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒を用いることも可能である。ケン化触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0024】
変性PVA系樹脂とは、ビニルエステル系化合物を重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られるビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂に対して、共重合や後反応等で変性基を導入した樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残存したビニルエステル構造単位に加え、共重合による不飽和単量体構造単位もしくは後反応による構造体単位から構成される。
【0025】
かかるビニルエステル系化合物としては、上記未変性PVA系樹脂の場合と同様の化合物を用いることができる。
【0026】
共重合による変性PVA系樹脂(共重合変性PVA系樹脂)に用いられる、ビニルエステル系モノマーと共重合される不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体等の共重合が挙げられる。
【0027】
また、後反応による変性PVA系樹脂(後変性PVA系樹脂)としては、例えば、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物等をエステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化等によってPVA系樹脂と反応させて得られたもの等を挙げることができる。
【0028】
また、変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するもので、例えば、側鎖の一級水酸基の数が、通常1~5個、好ましくは1~2個、特に好ましくは1個であるものも挙げられ、更には、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。かかる変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖にヒドロキシアルキル基を有する変性PVA系樹脂、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有する変性PVA系樹脂等が挙げられる。側鎖に1,2-ジオール構造単位を有する変性PVA系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4-ジアセトキシ-1-ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により製造することができる。
【0029】
上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体との共重合方法としては、上記未変性PVA系樹脂の場合と同様の方法を用いることができ、通常、アルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。また、重合触媒、ケン化方法、ケン化触媒等も、上記未変性PVA系樹脂の場合と同様のものを適宜選択することができる。
【0030】
本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基が好ましく、特にはカルボキシル基が好ましい。
【0031】
カルボキシル基変性PVA系樹脂は、任意の方法で製造することができ、例えば、(I)カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物を共重合した後にケン化する方法、(II)カルボキシル基を有するアルコールやアルデヒドあるいはチオール等を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後にケン化する方法等を挙げることができる。
【0032】
上記(I)または(II)の方法におけるビニルエステル系化合物としては、前述のものを用いることができるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。
【0033】
上記(I)の方法におけるカルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)〔但し、これらのジエステルは共重合体のケン化時に加水分解によりカルボキシル基に変化することが必要である〕、またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、あるいはエチレン性不飽和モノカルボン酸((メタ)アクリル酸、クロトン酸等)等の単量体、及びそれらの塩が挙げられ、なかでもマレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、(メタ)アクリル酸等を用いることが好ましく、更には、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸を用いることが好ましく、特にはマレイン酸モノアルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0034】
上記(II)の方法においては、連鎖移動剤を用いることが好ましく、連鎖移動剤としては、通常、連鎖移動効果の大きい、チオール化合物が好ましく、例えば、以下の化合物及びそれらの塩が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0035】
【化1】
【0036】
【化2】
【0037】
[但し、上記一般式(1)、(2)において、nは0~5の整数で、R1、R2、R3はそれぞれ水素原子または低級アルキル基(置換基を含んでもよい)を示す。]
【0038】
【化3】
【0039】
[但し、上記一般式(3)において、nは0~20の整数である。]
【0040】
具体的にはメルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトステアリン酸等が挙げられる。
【0041】
なお、上記カルボキシル基を有する不飽和単量体、ビニルエステル系化合物以外に、その他の一般の単量体を、水溶性を損なわない範囲で含有させて重合を行なってもよく、これらの単量体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸のアルキルエステル、飽和カルボン酸のアリルエステル、α-オレフィン、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、その他、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニル等を用いることができる。
【0042】
また、上記カルボキシル基変性PVA系樹脂の製造方法としては、上記方法に限らず、例えばポリビニルアルコール(部分ケン化物または完全ケン化物)にジカルボン酸、アルデヒドカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基と反応性のある官能基をもつカルボキシル基含有化合物を後反応させる方法等も実施可能である。
【0043】
また、スルホン酸変性PVA系樹脂は、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の共重合成分を、ビニルエステル系化合物と共重合した後、ケン化する方法、ビニルスルホン酸もしくはその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸もしくはその塩等をPVAにマイケル付加させる方法等により製造することができる。
【0044】
本発明において、溶解性や機械物性等のフィルム物性の観点から、PVA系樹脂(A)がPVA系フィルムの主成分であることが好ましく、なかでも、変性PVA系樹脂がPVA系フィルムの主成分であることがより好ましい。ここで主成分とは、その材料の基本物性に影響を与える成分の意味であり、PVA系フィルム中のPVA系樹脂(A)の含有量が、50重量%以上であることが好ましく、特に好ましくは55重量%以上、更に好ましくは60重量%以上である。かかる含有量が少なすぎると、水に対する溶解性やフィルムの機械物性が低下する傾向がある。かかる含有量の上限については、通常、液体洗剤包装体とした場合の経時的な形状安定性の点からは、99重量%以下、好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。
【0045】
PVA系樹脂(A)は、未変性PVA系樹脂や変性PVA系樹脂から選択される1種のPVA系樹脂でもよいし、2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂でもよい。
【0046】
また、本発明においては、PVA系フィルムの水への溶解性を長く保持できる点で、2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂の少なくとも1種のPVA系樹脂が変性PVA系樹脂であることが好ましく、更にはアニオン性基変性PVA系樹脂であることが好ましく、特にはカルボキシル基変性PVA系樹脂であることが好ましい。
また、フィルム強度の点からは、未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂を含有することが好ましく、特には未変性PVA系樹脂とアニオン性基変性PVA系樹脂を含有することが好ましく、更には未変性PVA系樹脂とカルボキシル基変性PVA系樹脂を含有することが好ましい。
【0047】
2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂が未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂を含有する場合においては、変性PVA系樹脂に対する未変性PVA系樹脂の重量含有比率(未変性PVA系樹脂/変性PVA系樹脂)が1/99~99/1であることが好ましく、特に好ましくは5/95~95/5、更に好ましくは10/90~90/10である。
特に水への溶解性や水シール性等のフィルム物性の観点からは、未変性PVA系樹脂/変性PVA系樹脂が5/95~40/60であることが好ましく、特に好ましくは6/94~30/70、更に好ましくは7/93~20/80である。未変性PVA系樹脂の含有割合が少なすぎると水シール性が低下する傾向があり、変性PVA系樹脂の含有割合が小さすぎると溶解性が低下する傾向がある。
【0048】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは85~99モル%、更に好ましくは90~98モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、PVA系フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎても水への溶解性が低下する傾向がある。
【0049】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の20℃における4重量%水溶液粘度は10~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~45mPa・s、更に好ましくは20~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0050】
本発明で用いられる未変性PVA系樹脂の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99モル%、更に好ましくは85~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、PVA系フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎても水への溶解性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明で用いられる未変性PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は10~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~45mPa・s、更に好ましくは20~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0052】
本発明で用いられる変性PVA系樹脂の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは85~99.9モル%、更に好ましくは90~99.0モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装する薬剤のpHによっては経時的にPVA系フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎると製膜時の熱履歴によってPVA系フィルムの水への溶解性が大きく低下する傾向がある。
【0053】
また、変性PVA系樹脂として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは88~99.9モル%、更に好ましくは90~99.5モル%、殊に好ましくは90~99.0モル%である。
【0054】
本発明で用いられる変性PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は10~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~45mPa・s、更に好ましくは20~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0055】
本発明で用いられる変性PVA系樹脂の変性量は、1~20モル%であることが好ましく、更に好ましくは1.5~15モル%、特に好ましくは2~12モル%である。かかる変性量が少なすぎると、PVA系フィルムの水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下する傾向があり、また、PVA系フィルムがブロッキングを引き起こしやすくなる傾向がある。
【0056】
また、本発明において、変性PVA系樹脂として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1~10モル%であることが好ましく、更に好ましくは1.5~9モル%、特に好ましくは2~8モル%である。かかる変性量が少なすぎると、PVA系フィルムの水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下する傾向があり、また、PVA系フィルムがブロッキングを引き起こしやすくなる傾向がある。
【0057】
更に、変性PVA系樹脂と未変性PVA系樹脂を含有する場合においては、未変性PVA系樹脂は、20℃における4重量%水溶液粘度が、5~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは10~45mPa・s、更に好ましくは12~40mPa・s、殊に好ましくは15~35mPa・sである。かかる未変性PVA系樹脂の粘度が小さすぎると、包装材料としてのPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0058】
上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0059】
<多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)>
本発明で用いられる多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)は、炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの少なくとも一つの水酸基に対して、炭素数2~4の脂肪酸(b1)がエステル結合した化合物である。
【0060】
本発明においては、脂肪酸(b1)の炭素数、多価アルコールの炭素数・水酸基量、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)内のエステル結合数・水酸基数・エステル結合数/水酸基数の含有比率等を調整することによって、PVA系フィルムの透明性と帯電防止性能の改善作用を得ることができる。
【0061】
上記炭素数2~4の脂肪酸(b1)の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸(n-ブタン酸)、イソ酪酸(2-メチルプロピオン酸)等の飽和脂肪酸や、クロトン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0062】
炭素数2~4の脂肪酸(b1)の炭素数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性の点から炭素数が2~3であることが好ましく、更に飽和脂肪酸であることが好ましい。なかでも、炭素数が2~3である酢酸、プロピオン酸が好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から炭素数が2である酢酸が最も好適である。かかる炭素数が5以上の場合には、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない傾向がある。
【0063】
更に本発明においては、上記多価アルコールが、脂肪族の多価アルコールであることが好ましく、炭素数2~6の多価アルコール(b2)であることが特に好ましい。
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の具体例としては、例えば、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)等の炭素数2の多価アルコール類、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、グリセリン(1,2,3-プロパントリオール)等の炭素数3の多価アルコール類、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、エリスリトール(1,2,3,4-ブタンテトラオール)、トレイトール等の炭素数4の多価アルコール類、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2,5-ペンタントリオール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、キシリトール、アラビトール、フシトール等の炭素数5の多価アルコール類、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール等の炭素数6の多価アルコール類等が挙げられる。
【0064】
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の炭素数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性の点から炭素数が2~3であることが好ましい。かかる炭素数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない傾向がある。
【0065】
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の水酸基数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)による可塑剤の補助作用の点から水酸基数が2~3であることが好ましい。
【0066】
これらの多価アルコール(b2)のなかで、炭素数が2~3で水酸基数が2~3であるエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から炭素数が3、かつ水酸基数が3であるグリセリンが最も好適である。
【0067】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の具体例としては、例えば、エチレングリコールジアセテート等のエチレングリコールの脂肪酸エステル類、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノブチレート、プロピレングリコールジブチレート等のプロピレングリコールの脂肪酸エステル類、モノアセチン(グリセロールモノアセテート)、ジアセチン(グリセロールジアセテート)、トリアセチン(グリセロールトリアセテート)、モノブチリン(グリセロールモノブチラート)、ジブチリン(グリセロールジブチラート)、トリブチリン(グリセロールトリブチラート)等のグリセリンの脂肪酸エステル類、1,3-ブタンジオールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート等のブタンジオールの脂肪酸エステル類、1,6-ヘキサンジオールジアセテート等のヘキサンジオールの脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0068】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のエステル結合数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)による可塑剤の補助作用の点から1~3であることが好ましい。かかるエステル結合数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水酸基が減少することで水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない傾向がある。
【0069】
また、水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立させる点ではエステル結合と水酸基が共存していることが好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)内のエステル結合数/水酸基数の比率が、20/80~80/20であることが好ましく、更には30/70~70/30であることが好ましい。かかる比率が大きすぎると、即ち、水酸基に対してエステル結合数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水酸基が減少することで水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなる傾向があり、また、かかる比率が小さすぎると、即ち、水酸基数に対してエステル結合数が少なすぎると、本発明の作用効果が得られにくくなる傾向となる。
【0070】
これらの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のなかで、多価アルコールの炭素数が2~3、かつ水酸基数が2~3であり、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のエステル結合数が1~3であるエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンの脂肪酸エステル類であることが好ましく、更には、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等グリセリンの酢酸エステルであることが好ましく、特には、エステル結合数/水酸基数の含有比率が20/80~80/20であるモノアセチン、ジアセチンが最も好適である。
【0071】
また、これらの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)は単独で、もしくは2種以上を併せて用いることもできる。
【0072】
<可塑剤(C)>
本発明のPVA系フィルムにおいては、PVA系樹脂(A)、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)以外に、更に可塑剤(C)を含有させることが、フィルムに柔軟性や、成形容易性を付与する点で好ましい。可塑剤(C)は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用することが、包装体として用いる場合のフィルム自身の強靭さや、特に液体洗剤を包装した際の包装体の経時的な形状安定性の点で好ましい。PVA系フィルム中の可塑剤(C)の分子量は、通常、50~2000であり、特には60~500、更には80~250が好ましい。
【0073】
かかる可塑剤(C)を2種以上併用する場合、融点が80℃以上である多価アルコール(C1)(以下、「可塑剤(C1)」と略記することがある。)、及び融点が50℃以下である多価アルコール(C2)(以下、「可塑剤(C2)」と略記することがある。)の2種の可塑剤を用いることが、PVA系フィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体薬剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。
【0074】
上記の融点が80℃以上である多価アルコール(C1)、すなわち可塑剤(C1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが使用可能であるが、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
上記のなかでも、PVA系フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上、特には90℃以上のものが好ましい。なお、融点の上限は通常300℃、特には200℃が好ましい。
【0075】
更に、本発明では、可塑剤(C1)のなかでも、1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂(A)との相溶性の点で好ましく、特に好ましくは5~10個、更に好ましくは6~8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が好適なものとして挙げられる。
【0076】
また、本発明においては、PVA系フィルムの張りの点で、可塑剤(C1)の分子量が150以上であることが好ましく、特に好ましくは160~500、更に好ましくは180~400であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が好適なものとして挙げられる。
【0077】
一方、融点が50℃以下である多価アルコール(C2)、すなわち可塑剤(C2)としては、脂肪族系アルコールの多くが使用可能であり、例えば、エチレングリコール(-13℃)、ジエチレングリコール(-11℃)、トリエチレングリコール(-7℃)、プロピレングリコール(-59℃)、テトラエチレングリコール(-5.6℃)、1,3-プロパンジオール(-27℃)、1,4-ブタンジオール(20℃)、1,6-ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。なかでも、PVA系フィルムの柔軟性の点で、融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常-80℃であり、好ましくは-10℃、特に好ましくは0℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
【0078】
更に、本発明では、可塑剤(C2)のなかでも、1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0079】
また、本発明においては、可塑剤(C2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、特には50~100、更には60~95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0080】
本発明においては、上記の可塑剤(C1)や(C2)以外の可塑剤(C3)を併用することもでき、かかる可塑剤(C3)としては、例えば、トリメチロールプロパン(58℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、カルビトール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ジブチルエーテル等のエーテル類、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、クエン酸、アジピン酸等のカルボン酸類、シクロヘキサノン等のケトン類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、イミダゾール化合物等のアミン類、アラニン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、システイン等のアミノ酸類等が挙げられる。
耐カール性に優れる点や強度と柔軟性のバランスが良い点からは、可塑剤(C1)と(C2)に加えて、更に可塑剤(C3)として融点が50℃より大きく80℃未満である多価アルコールの3種類の可塑剤を用いることが好ましく、特には可塑剤(C3)としてトリメチロールプロパンを用いることが好ましい。
【0081】
本発明において、PVA系フィルム中の可塑剤(C)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、特に好ましくは5~70重量部、更に好ましくは8~60重量部、殊に好ましくは10~50重量部である。かかる可塑剤(C)の含有量が少なすぎるとPVA系フィルムで液体洗剤等の液体を包装して包装体とした場合に経時的な形状安定性が低下する傾向がある。なお、多すぎるとPVA系フィルムの機械強度が低下したり、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0082】
また、上記の可塑剤(C1)と可塑剤(C2)について、その含有重量割合(C1/C2)が0.1~5であることが好ましく、特に好ましくは0.2~4.5、更に好ましくは0.5~4、殊に好ましくは0.7~3である。かかる含有割合が小さすぎるとPVA系フィルムが柔らかくなり過ぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎるとPVA系フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下で脆くなる傾向がある。
【0083】
また、上記の可塑剤(C1)と可塑剤(C2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(C1)が5~40重量部であることが好ましく、特に好ましくは8~30重量部、更に好ましくは10~25重量部であり、また可塑剤(C2)が5~40重量部であることが好ましく、特に好ましくは10~35重量部、更に好ましくは15~30重量部である。
かかる可塑剤(C1)が少なすぎるとPVA系フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、多すぎるとPVA系フィルムが柔らかくなりすぎる傾向がある。また、可塑剤(C2)が少なすぎるとPVA系フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下で脆くなる傾向があり、多すぎるとPVA系フィルムが柔らかくなり過ぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0084】
更に、可塑剤(C)全体に対して、可塑剤(C1)及び可塑剤(C2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、特には80重量%以上、更には85重量%以上であることが好ましい。かかる可塑剤(C1)と(C2)の合計量が少なすぎるとPVA系フィルムの機械強度が低下する傾向がある。
【0085】
また、上記の可塑剤(C1)と可塑剤(C2)に加えて、可塑剤(C3)を併用する場合において、可塑剤(C1)、(C2)、(C3)の相互の割合については、可塑剤(C1)、(C2)、(C3)の合計量に対する可塑剤(C3)の含有割合が、20重量%以下であることが好ましく、特には、成形容易性、耐ピンホール性及び耐破袋性の点から0.5~18重量%であることが好ましく、更に好ましくは2~15重量%、殊に好ましくは4~13重量%である。可塑剤(C3)の含有割合が大きすぎると、常温時と高温時のフィルムの状態変化が大きくなり耐ピンホール性及び耐破袋性が低下するおそれがある。
【0086】
本発明においては、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)、可塑剤(C)を含有し、更に、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)と可塑剤(C)の重量含有比率((B)/(C))が特定の範囲であることがPVA系フィルムの透明性改善の点において好ましい。
【0087】
PVA系フィルム中の上記可塑剤(C)に対する多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の重量含有比率((B)/(C))は、0.00001~0.015であることが好ましく、特に好ましくは0.0001~0.01、更に好ましくは0.0005~0.005である。かかる重量含有比率が大きすぎるとヘイズが増加してPVA系フィルムの透明性が低下する傾向があり、小さすぎると帯電防止性が充分に得られず、なおかつヘイズ低減効果が不足して透明性改善作用が得られにくくなる傾向となる。
【0088】
本発明においては、必要に応じて、更に、フィラー(D)や界面活性剤(E)等を含有させることができる。
【0089】
<フィラー(D)>
上記フィラー(D)は、耐ブロッキング性の目的で含有されるものであり、有機フィラー(D1)や無機フィラー(D2)が挙げられるが、なかでも有機フィラー(D1)が好適に用いられる。また、包装体作成時の水シール性改良の点からは、有機フィラー(D1)と無機フィラー(D2)の両方を併用することが好ましい。フィラー(D)の平均粒子径は、通常、1~50μmである。
【0090】
本発明の有機フィラー(D1)とは、有機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
かかる有機フィラー(D1)としては、主に高分子化合物の中から選択され、例えば、メラミン系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂の他、澱粉、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、澱粉、等の生分解性樹脂が好ましく、特にはPVA系樹脂(A)に対する分散性の点から澱粉が好ましい。
【0091】
上記の澱粉としては、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等)、物理的変性澱粉(α-澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等)、酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)等が挙げられる。なかでも入手の容易さや経済性の点から、生澱粉、とりわけトウモロコシ澱粉、コメ澱粉を用いることが好ましい。
【0092】
有機フィラー(D1)の平均粒子径は、5~50μmであることが好ましく、特に好ましくは10~40μm、更に好ましくは15~35μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとPVA系フィルムのブロッキング性が高くなる傾向があり、大きすぎるとフィラー同士が凝集しやすくなり分散性が低下したり、PVA系フィルムを成形加工時に引き伸ばした際にピンホールとなる傾向がある。
【0093】
なお、有機フィラー(D1)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値であり、得られた累計体積分布のD50値(累積50%の粒子径)より算出したものである。
【0094】
本発明の無機フィラー(D2)とは、無機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
無機フィラー(D2)としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、珪藻土、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の酸化物系無機化合物や、タルク、クレー、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウィスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム等が挙げられる。
上記フィラー(D)は、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0095】
なかでも、PVA系樹脂(A)との水素結合作用に優れ、水シール性の向上効果が高くなる点から、酸化物系無機化合物、タルクを用いることが好ましく、特には、酸化チタン、タルク、シリカを用いることが好ましく、更には、シリカを用いることが好ましい。
【0096】
無機フィラー(D2)の平均粒子径は、1~20μmであることが好ましく、特に好ましくは2~15μm、更に好ましくは3~10μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとPVA系フィルムの柔軟性や靭性が低下したり、ブロッキング性が高くなる等の傾向があり、大きすぎると水シール性向上の作用効果が得られにくい傾向がある。
【0097】
なお、無機フィラー(D2)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値であり、得られた累計体積分布のD50値(累積50%の粒子径)より算出したものである。
【0098】
上記フィラー(D)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して1~30重量部であることが好ましく、特に好ましくは2~25重量部、更に好ましくは2.5~20重量部である。かかる含有割合が少なすぎるとPVA系フィルムのブロッキング性が高くなる傾向があり、多すぎるとPVA系フィルムの柔軟性や靱性が低下する傾向がある。
【0099】
有機フィラー(D1)と無機フィラー(D2)を併用する場合においては、無機フィラー(D2)に対する有機フィラー(D1)の重量含有比率((D1)/(D2))が2~15であることが好ましく、特に好ましくは3~13、更に好ましくは4~10である。無機フィラー(D2)に対する有機フィラー(D1)の含有量が小さすぎると、PVA系フィルムの柔軟性や靱性が低下して、良好な包装体が得られにくくなる傾向があり、無機フィラー(D2)に対する有機フィラー(D1)の含有量が大きすぎると水シール性が低下する傾向がある。
【0100】
<界面活性剤(E)>
本発明で用いられる界面活性剤(E)は、PVA系フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、通常、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられ、なかでも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。
上記界面活性剤(E)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
かかる界面活性剤(E)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01~3重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.05~2.5重量部、更に好ましくは0.1~2重量部である。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜したPVA系フィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系フィルムを包装体とする場合に実施するシール時の接着強度が低下する等の不都合を生じる傾向がある。
【0102】
また、本発明のPVA系フィルムを構成する成分としては、PVA系樹脂(A)、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)、必要に応じて、可塑剤(C)、フィラー(D)、界面活性剤(E)、更には、下記の任意成分のみから実質的になることもできる。これら必要に応じて加える成分は、単独もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0103】
なお、発明の目的を阻害しない範囲で、更にPVA系樹脂(A)の他の水溶性高分子(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)や、香料、防錆剤、着色剤、増量剤、消泡剤、紫外線吸収剤、流動パラフィン類、蛍光増白剤、苦味成分(例えば、安息香酸デナトニウム等)等を含有させることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0104】
また、本発明においては、黄変抑制の点で酸化防止剤を配合することが好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩、酒石酸、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、テコール、ロンガリット等が挙げられ、なかでも亜硫酸塩、特には亜硫酸ナトリウムが好ましい。かかる配合量はPVA系樹脂(A)100重量部に対して0.1~10重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.2~5重量部、更に好ましくは0.3~3重量部である。
【0105】
<PVA系フィルムの製造>
本発明のPVA系フィルムは、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有するPVA系樹脂組成物の水溶液(製膜原料)を調製し、製膜することにより製造することができる。
【0106】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)をPVA系樹脂組成物に含有させる方法としては、(1)PVA系樹脂組成物と多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を予め混合して(B)を含有するPVA系樹脂組成物を得て、該PVA系樹脂組成物を水で溶解・分散させたPVA系樹脂水溶液を調整する方法、(2)PVA系樹脂組成物を水で溶解・分散させたPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を配合する方法等が挙げられるが、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の熱劣化を抑制する点では方法(2)が好ましい。
【0107】
以下方法(2)について詳述する。
詳細には、PVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(C)、フィラー(D)、界面活性剤(E)等を含有してなるPVA系樹脂組成物を水で溶解または分散してPVA系樹脂水溶液を得る溶解工程、溶解工程で得られたPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有させて製膜原料を調製する製膜原料の調製工程、上記工程で得られた製膜原料を用いてPVA系フィルム製膜する製膜工程、をこの順序で含有する製造方法によってPVA系フィルムを製造することができる。
【0108】
以下、各工程について具体的に説明する。
〔溶解工程〕
溶解工程は、PVA系樹脂組成物を水で溶解または分散して、PVA系樹脂水溶液を調製する工程である。
なお、溶解工程はPVA系樹脂組成物が水に溶解または分散して未溶解物のないPVA系樹脂水溶液を得るまでの工程を示す。
上記PVA系樹脂組成物を水に溶解する際の溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、なかでも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
溶解温度としては、高温溶解の場合には、通常80~100℃、好ましくは90~95℃であり、加圧溶解の場合には、通常80~130℃、好ましくは90~120℃である。溶解時間としては、溶解温度、溶解時の圧力により適宜調整すればよいが、通常1~20時間、好ましくは2~15時間、更に好ましくは3~10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。
【0109】
また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツインスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。
【0110】
〔製膜原料の調製工程〕
上記溶解工程で調製したPVA系樹脂水溶液に対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有させて、製膜原料を得る工程である。
【0111】
PVA系樹脂水溶液に対する多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量としては、0.0001~2重量%であることが好ましく、特に好ましくは0.001~1重量%、更に好ましくは0.01~0.5重量%である。かかる濃度が低すぎると帯電防止性が充分に得られず、なおかつヘイズ低減効果が不足して透明性改善作用が得られない傾向があり、高すぎるとヘイズが増加してPVA系フィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0112】
製膜原料の固形分濃度は、10~50重量%であることが好ましく、特に好ましくは15~40重量%、更に好ましくは20~35重量%である。かかる濃度が低すぎるとフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。
【0113】
更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。なかでも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。静置脱泡の温度としては、通常50~100℃、好ましくは70~95℃であり、脱泡時間は、通常2~30時間、好ましくは5~20時間である。
【0114】
〔製膜工程〕
製膜工程では、上記製膜原料の調製工程で調製した製膜原料を膜状に賦形し、必要に応じて乾燥処理を施すことで、水分率を15重量%以下にしたPVA系フィルムに製膜する工程である。
製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、(i)アプリケーター、バーコーター等を用いてギャップ間に通過させて金属表面等のキャスト面に流延する方法、(ii)T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面に流延する方法等により製膜原料を流延した後に乾燥することにより本発明のPVA系フィルムを製造することができる。
【0115】
以下、(ii)の、製膜原料をT型スリットダイからキャストドラム(ドラム型ロール)、エンドレスベルト等のキャスト型に吐出及び流延して製膜し、乾燥することによりPVA系フィルムを製造する方法について説明する。
【0116】
流延する直前の製膜原料の温度は、60~98℃であることが好ましく、特に好ましくは70~95℃である。かかる温度が低すぎると製膜原料の粘度が増加してPVA系フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。
流延後、キャスト面上で製膜原料を乾燥させるのであるが、上記キャスト面の表面温度は、50~110℃であることが好ましく、特に好ましくは70~100℃である。かかる表面温度が低すぎると、乾燥不足でフィルムの含水率が高くなり、ブロッキングしやすくなる傾向があり、高すぎると製膜原料が発泡し、製膜不良となる傾向がある。
また、製膜時の乾燥においては、熱ロールによる乾燥、フローティングドライヤーを用いてフィルムに熱風を吹き付ける乾燥や遠赤外線装置、誘電加熱装置による乾燥等を併用することもできる。
【0117】
上記の乾燥処理で製膜原料を水分率が15重量%以下になるまで乾燥した後、キャスト面から剥離すること(キャスト面から剥離後に更に熱ロールによる乾燥を行う場合は、乾燥熱ロールから剥離すること)でPVA系フィルムが得られる。キャスト面(または、乾燥熱ロール)から剥離されたPVA系フィルムは、10~35℃の環境下で冷却される。
【0118】
また、本発明のPVA系フィルムの表面はプレーンであってもよいが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減、及び外観の点から、PVA系フィルムの片面或いは両面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄等の凹凸加工を施しておくことも好ましい。
かかる凹凸加工に際しては、加工温度は、通常60~150℃であり、好ましくは80~140℃である。加工圧力は、通常2~8MPa、好ましくは3~7MPaである。加工時間は、上記加工圧力、製膜速度にもよるが、通常0.01~5秒間であり、好ましくは0.1~3秒間である。
また、必要に応じて、凹凸加工処理の後に、熱によるフィルムの意図しない延伸を防止するために、冷却処理を施してもよい。
【0119】
本発明において、上記PVA系フィルムの製造は、10~35℃、特には15~30℃の環境下にて行うことが好ましく、湿度については、通常70%RH以下であることが好ましい。
このようにして、本発明のPVA系フィルムを製造することができる。
【0120】
〔その他工程〕
長尺形状のPVA系フィルムを製造する場合においては、上記の製膜工程の後で、巻取工程、包装、保管、輸送等が必要に応じて実施される。
巻取工程では、製膜工程でキャスト面等から剥離したPVA系フィルムを搬送して巻き取り、芯管(S1)に巻き取ることによりフィルムロールに調整する。得られたフィルムロールは、そのまま製品として供給することもできるが、好ましくは巻き取ったPVA系フィルムを所望のサイズ幅にスリットした後、フィルム幅に見合った長さの芯管(S2)に巻き取り直し、所望のサイズのフィルムロールとして供給することもできる。
【0121】
PVA系フィルムを巻き取る芯管(S1)は円筒状のもので、その材質は金属、プラスチック等、適宜選択できるが、堅牢性、強度の点で金属であることが好ましい。
芯管(S1)の内径は、3~30cmが好ましく、より好ましくは10~20cmである。芯管(S1)の肉厚は、1~30mmが好ましく、より好ましくは2~25mmである。芯管(S1)の長さは、PVA系フィルムの幅より長くすることが必要で、フィルムロールの端部から1~50cm突出するようにすることが好ましい。
【0122】
また、芯管(S2)は円筒状のもので、その材質は紙や金属、プラスチック等、適宜選択できるが、軽量化及び取扱いの点で紙であることが好ましい。
芯管(S2)の内径は、3~30cmが好ましく、より好ましくは10~20cmである。芯管(S2)の肉厚は、1~30mmが好ましく、より好ましくは3~25mmである。芯管(S2)の長さは、製品のPVA系フィルム幅と同等或いはそれ以上の長さのものであればよく、好ましくは同等~50cm長いものである。
【0123】
芯管(S2)に巻き取る際には、PVA系フィルムは所望の幅にスリットされる。
かかるスリットに当たっては、シェア刃やレザー刃等を用いてスリットされるが、好ましくはシェア刃でスリットすることがスリット断面の平滑性の点で好ましい。
【0124】
本発明のPVA系フィルムの厚みは、好ましくは10~120μmであり、特に好ましくは30~110μm、更に好ましくは60~100μmである。かかる厚みが薄すぎるとPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。
【0125】
また、本発明のPVA系フィルムの幅は、好ましくは100~5000mmであり、特に好ましくは200~2000mm、更に好ましくは300~1000mmである。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。
【0126】
更に、本発明のPVA系フィルムの長さとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは100~20000m、特に好ましくは800~15000m、更に好ましくは1000~10000mである。かかる長さが短すぎると使用時にPVA系フィルムの切り替えに手間を要する傾向があり、長すぎるとフィルムロールにおいて巻き締まりによる外観不良が生じたり重量が重くなりすぎる傾向がある。
【0127】
また、上記PVA系フィルムの水分率は、1~12重量%であることが好ましく、特に好ましくは4~10重量%である。フィルムの水分率が低すぎるとPVA系フィルムが硬くなりすぎて、包装体とする際の成形性や包装体の耐衝撃性が低下する傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0128】
本発明のPVA系フィルムを芯管に巻き取って得られたフィルムロールは、水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装することが好ましく、かかるフィルムとしては特に限定されないが、透湿度が10g/m2/日(JIS Z 0208に準じて測定)以下のものが使用可能である。具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレン、ガラス蒸着ポリエステル、等の単層フィルム、あるいはこれらの積層フィルム、または割布、紙、不織布との積層フィルム等が挙げられる。積層フィルムとしては、例えば、ガラス蒸着ポリエステルとポリエチレンの積層フィルム、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレンとポリエチレンの積層フィルム等が例示される。
【0129】
かかるフィルムは、帯電防止処理しておくことも異物の混入を防ぐ点で好ましく、帯電防止剤はフィルムに練り込まれていても、表面にコーティングされていても良い。練り込みの場合は樹脂に対して0.01~5重量%程度、表面コーティングの場合は0.01~1g/m2程度の帯電防止剤が使用される。
帯電防止剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル等が使用される。
【0130】
また、フィルムロールを水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装した上から、更にアルミニウム素材からなる包装フィルムで包装することが好ましく、かかるフィルムとしては、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム箔と耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム箔とポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミニウム蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミナ蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミナ蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)等が挙げられる。なかでも、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムの積層フィルム、アルミニウム蒸着フィルムとポリオレフィンフィルムの積層フィルムが有用であり、特には延伸ポリプロピレンフィルム/ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔/ポリエチレンフィルムの構成よりなる積層フィルム、延伸ポリプロピレンフィルム/低密度ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔の構成よりなる積層フィルム等が有用である。
【0131】
包装するに当たっては内側の水蒸気バリア性樹脂の包装フィルム、外側のアルミニウム素材からなる包装フィルムで順次包装を行い、幅方向に余った部分を芯管に押し込めばよい。
【0132】
フィルムロールには、端部の傷付きやゴミ等の異物の付着を防止するため、直接、あるいは包装の後、フィルムロールの両端部に芯管貫通孔をもつ保護パッドを装着させることができる。
保護パッドの形状は、フィルムロールにあわせて、円盤状のシート、フィルムが実用的である。保護効果を顕著にするため発泡体、織物状、不織布状等の緩衝機能を付加させるのがよい。また、湿度からフィルムロールを守るため乾燥剤を別途封入したり、上記保護パッドに積層または混入したりしておくこともできる。保護パッドの素材はプラスチックが有利であり、その具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0133】
また、上記乾燥剤入りの保護パッドとしては、例えば、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、糖類、特に浸透圧の高い糖類、吸水性樹脂等の乾燥剤または吸水剤を天然セルロース類、合成セルロース類、ガラスクロス、不織布等の成形可能な材料に分散、含浸、塗布乾燥した吸湿層としたもの、これらの吸湿剤または吸水剤を上記の成形可能な材料やポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムでサンドイッチ状に挟んだりしたものが挙げられる。
市販されているシート状乾燥剤の例としては、アイディ社製の「アイディシート」や品川化成社製の「アローシート」、「ゼオシート」、ハイシート工業社製の「ハイシートドライ」等がある。
【0134】
かかる手段によって包装されたフィルムロールは、芯管の両端突出部にブラケット(支持板)を設けたり、該両端突出部を架台に載置したりして支えられ、接地することなく、いわゆる宙に浮いた状態で保管や輸送が行われることが好ましい。フィルムの幅が比較的小さい場合はブラケットが、フィルムの幅が比較的大きい場合は架台が使用される。ブラケットはベニヤ板やプラスチック板からなるものであり、その大きさはブラケットの4辺がフィルムロールの直径より大きいものであればよい。
【0135】
そして、上記フィルムロールの両端の芯管突出部に一対のブラケットを互いに向かい合うように直立して配置、嵌合させフィルムロールに設けられる。嵌合は、ブラケットの中央部に芯管直径よりやや大きめのくりぬき穴を設けたり、芯管が挿入し易いようにブラケットの上部から中心部までU字型にくりぬかれていても良い。
【0136】
ブラケットで支持されたフィルムロールは段ボール箱等のカートンに収納されて保管や輸送がなされるが、収納時の作業を円滑にするため矩形のブラケットを使用するときはその四隅を切り落としておくことが好ましい。また、上記一対のブラケットがぐらつかないように、両者を結束テープで固定するのが有利であり、そのときテープの移動や弛みが起こらないようにブラケットの側面(厚み部分)にテープ幅と同程度のテープズレ防止溝を設けておくのも実用的である。
【0137】
包装したフィルムロールの保管または輸送にあたっては、極端な高温や低温、低湿度、高湿度条件を避けるのが望ましく、具体的には温度10~30℃、湿度40~75%RHであるのがよい。
【0138】
このようにして得られる本発明のPVA系フィルムは透明性が高く、帯電防止性能にも優れることを特徴とすることから、高い光学特性が要求される偏光膜用途(液晶テレビ、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、プロジェクター、車載パネル等)や、水溶性フィルム用途(農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材等)に有用である。
なかでも、本発明のPVA系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能に優れることから印刷特性も高いため意匠性に優れており、かつ、変性PVA系樹脂を含有するPVA系樹脂からなる場合には、冷水溶解性にも優れるため、薬剤等の個包装用途(薬剤包装体)に有用である。
また、2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂からなる場合には、冷水溶解性、シール性にも優れるため、薬剤等の個包装用途(薬剤包装体)に特に有用である。
【0139】
<薬剤包装体>
本発明の薬剤包装体は、包装材と、包装材に内包された薬剤からなり、好ましくは、包装材と、包装材に内包された薬剤のみからなる。本発明の薬剤包装体は、本発明のPVA系フィルムで薬剤を内包してなる包装体である。水溶性のPVA系フィルムで包装されているため、包装体ごと水に投入し、PVA系フィルムが溶解した後に、薬剤が水に溶解または分散して、薬剤の効果を発現するため、1回分等の比較的少量の薬剤が包装されている薬剤包装体に好適である。
【0140】
内包する薬剤としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬、肥料、洗剤等が挙げられ、特に洗剤が好ましい。
薬剤の形状は、液体であっても固体であってもよく、液体の場合は、液状であり、固体の場合は、顆粒状、錠剤状、粉状等が挙げられる。薬剤は、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、本発明においては、とりわけ液体洗剤を内包することが好ましい。
また、薬剤のpHは、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよい。
【0141】
上記薬剤包装体は、その表面は、通常平滑であることが挙げられるが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(PVA系フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。
【0142】
以下、本発明の薬剤包装体の一例である液体洗剤包装体について述べる。
液体洗剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(PVA系フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。
液体洗剤包装体の大きさは、通常長さ10~50mm、好ましくは20~40mmである。
また、PVA系フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10~120μm、好ましくは15~110μm、より好ましくは20~100μmである。
内包される液体洗剤の量は、通常5~50mL、好ましくは10~40mLである。
【0143】
本発明のPVA系フィルムを用いて、液体洗剤を包装して薬剤包装体とするに際しては、公知の方法を採用することができる。
例えば、2枚のPVA系フィルムを用いて貼り合わせることにより製造され、成型装置の下部にある金型の上に、フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもフィルム(トップフィルム)を固定する。ボトムフィルムをドライヤーで加熱し、金型に真空成型し、その後、成型されたフィルムに液体洗剤を投入した後、トップフィルムとボトムフィルムを圧着する。圧着した後は真空を解放し、包装体を得ることができる。
【0144】
フィルムの圧着方法としては、例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法等が挙げられ、なかでも(2)水シールする方法が汎用的で有利である。
【0145】
液体洗剤としては、水に溶解または分散させた時のpH値が6~12であることが好ましく、特には7~11が好ましい。また、液体洗剤の水分量が15重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1~10重量%、更に好ましくは0.1~7重量%であり、PVA系フィルムがゲル化したり不溶化したりすることがなく水溶性に優れることとなる。また、液体薬剤は、流動性で、容器に合わせて形を変える液状の薬剤であれば、その粘度は特に限定されないが、好ましくは10~200mPa・sである。
なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定され、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。また、上記粘度は、常温下におけるB型回転粘度計にて測定される。
【実施例
【0146】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0147】
<実施例1-1>
PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A1)を100部、可塑剤(C)としてソルビトール(C1)を20部及びグリセリン(C2)を20部、フィラー(D)として澱粉(D1)(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(E)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を0.2部、及び水525部を混合し、90℃の条件で90分間撹拌を行って変性PVA系樹脂(A1)を溶解させて、固形分濃度22%のPVA系樹脂水溶液を得た。
上記のPVA系樹脂水溶液を80℃に温度調整したのち、上記のPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)として純度41.5%のジアセチン試薬((b1)=酢酸と、(b2)=グリセリンとのエステル)(東京化成工業社製)を0.15部(ジアセチン量:0.062部)添加して、撹拌機(アズワン社製、MIX-ROTAR「MR-5」)を用いて30分間の撹拌混合を行い製膜原料を得た。
ついで、ジアセチンを撹拌混合したPVA系樹脂水溶液を80℃に加温して30分間静置保管した後、ギャップ740μmのアプリケーターを用いて表面温度を85℃に調整したクロムメッキ表面処理した金属板の上に流延した。流延したPVA系樹脂水溶液を温度85℃の金属板上で7分30秒間乾燥させた後、金属板から25mm/秒の速度で乾燥フィルムを剥離させて長さ20cm、幅15cm、厚み85μm、水分率5.8重量%のPVA系フィルムを得た。
【0148】
<実施例1-2>
実施例1-1においてジアセチン試薬の添加量を1部(ジアセチン量:0.415部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0149】
<比較例1-1>
実施例1-1において、ジアセチン試薬を添加しなかった以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0150】
<比較例1-2>
実施例1-1において、ジアセチン試薬の添加量を5部(ジアセチン量:2.1部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0151】
<実施例2-1>
PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A1)を90部、20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA(A2)を10部、可塑剤(C)としてソルビトール(C1)を20部及びグリセリン(C2)を20部、フィラー(D)として澱粉(D1)(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(E)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を0.2部、及び水525部を混合し、90℃の条件で90分間撹拌を行ってPVA系樹脂組成物を溶解させて、固形分濃度22%のPVA系樹脂水溶液を得た。
上記のPVA系樹脂水溶液を80℃に温度調整したのち、上記のPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)として純度41.5%のジアセチン試薬((b1)=酢酸と、(b2)=グリセリンとのエステル)(東京化成工業社製)を0.15部(ジアセチン量:0.062部)添加して、撹拌機(アズワン社製、MIX-ROTAR「MR-5」)を用いて30分間の撹拌混合を行い製膜原料を得た。
ついで、ジアセチンを撹拌混合したPVA系樹脂水溶液を80℃に加温して30分間静置保管した後、ギャップ740μmのアプリケーターを用いて表面温度を85℃に調整したクロムメッキ表面処理した金属板の上に流延した。流延したPVA系樹脂水溶液を温度85℃の金属板上で7分30秒間乾燥させた後、金属板から25mm/秒の速度で乾燥フィルムを剥離させて長さ20cm、幅15cm、厚み85μm、水分率5.8重量%のPVA系フィルムを得た。
【0152】
<実施例2-2>
実施例2-1においてジアセチン試薬の添加量を1部(ジアセチン量:0.415部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0153】
<比較例2-1>
実施例2-1において、ジアセチン試薬を添加しなかった以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0154】
<比較例2-2>
実施例2-1において、ジアセチン試薬の添加量を5部(ジアセチン量:2.1部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルムを得た。
【0155】
上記実施例1-1,1-2,2-1,2-2、比較例1-1,1-2,2-1,2-2で得られたPVA系フィルムを用いて、下記に示す方法に従って、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)(ジアセチン)及び可塑剤(C)の含有量、フィルムの各種物性を測定し、評価した。結果を下記の表1~4に示す。
【0156】
〔多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量〕
(測定方法)
PVA系フィルムの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)含有量について、動的ヘッドスペース装置を備えたGC/MS装置を用いて以下に示した条件で測定した。
<動的ヘッドスペース条件>
・加熱脱着装置: TDS-3(ゲステル社製)
・試料量 : 約5mg
・加熱条件 : 120℃、30分間
<GC/MS測定条件>
・GC部装置: Agilent 7890GC(アジレント・テクノロジー社製)
・カラム : DB-WAX(架橋PEGキャピラリーカラム)
・カラム温度: 40℃で5分間保持→ 10℃/分で250℃まで昇温→ 250℃で10分間保持
・注入口温度: -150℃(捕集)→ 250℃
・キャリアーガス: ヘリウム
・カラム流量: 1.0mL/分
・スプリット比: 1/30
・MS部装置: Agilent 5977MSD(アジレント・テクノロジー社製)
・モード : SCANモード
【0157】
〔可塑剤(C)の含有量〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムから、試験片1gを切り出し、溶媒としてメタノール100mLを用いて、ソックスレー抽出装置で6時間処理して可塑剤を抽出した。得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、メスフラスコで10mLに定容し、定容液10μLを、バイアルビン中でトリメチルシリル化試薬N-methyl-N-trimethylsilyl trifluoroacetamide(MSTFA)400μLと混合及び加温(60℃)することで、可塑剤をトリメチルシリル誘導体化した。誘導体化した液1μLを、ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)測定することにより、可塑剤を定量し、得られた重量から、フィルム1gに対する可塑剤量(重量%)を算出した。
【0158】
〔PVA系フィルムの水分率〕
(評価方法)
得られたPVA系フィルムから、幅方向中央部で5cm×5cmサイズの水分率測定用の試料を切り出した。切り出したフィルム試料について、フィルム重量(W)を電子天秤で秤量したのち、フィルム試料を水分率0.03%以下の脱水メタノール15mL(S)内に浸漬させて室温,1時間の条件でフィルム内の水分を抽出した。カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKA-610」)を用いて、容量滴定法によって抽出液10mL(E)の水分量を測定し、以下の式からフィルム水分率(重量%)を算出した。
【0159】
【数1】
【0160】
〔PVA系フィルムの透明性:内部ヘイズ〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムについて、JIS K 7136に準じて、ヘイズメーター「NDH4000」(日本電色工業社製)を用いて測定した。得られたフィルムの表面・裏面にパラフィンオイルを塗布した表面状態で測定した値を内部ヘイズとした。
【0161】
〔PVA系フィルムの帯電防止性:表面抵抗率〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムを縦10cm、横10cmに切り出し、23℃、50%RHで3日間静置した後、三菱ケミカルアナリテック社製「ハイレスタ-UP MCP-HT450」を用いてPVA系フィルムの表面抵抗率(Ω/□)を測定した。なお、表面抵抗率が小さいほど帯電防止性能が高いことを意味する。
【0162】
〔冷水溶解性〕
得られたPVA系フィルムを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定した。次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数750rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したPVA系フィルムをかかる水中に浸漬し、該フィルムが溶解するまでの時間(秒)を測定した。「溶解」の基準として直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とした。
【0163】
〔水シール部分の剥離強度〕
PVA系フィルムを23℃、50%RHに24時間調湿を行った後、PVA系フィルムの幅方向における中央部から、PVA系フィルムを一辺がMD方向(流れ方向)と平行となるように50mm×50mmの正方形状にフィルムを切り出し、PVA系フィルム(1)とする。また、PVA系フィルムの幅方向における中央部から、MD方向(流れ方向)と平行な一辺が70mm、TD方向(幅方向)と平行な一辺が15mmの長方形となるようにフィルムを切り出し、PVA系フィルム(2)とする。
(剥離強度の測定)
30cm角のガラス板上に、50mm×50mmに切り出した上記PVA系フィルム(1)を載せ、その上から、PVAスポンジローラ(アイオン社製「シグナスローラー」)に水を充分に含ませ、ローラー全体と水の総重量110gとしたローラーでPVA系フィルム(1)の上を転がせてPVA系フィルムに水を含ませた。その後、もう1枚の、15mm×70mmに切り出した上記PVA系フィルム(2)を、水で濡らしたPVA系フィルム(1)の上に載せ、その上から別のゴム製ローラー(幅250mm、直径60mm、重さ2750g)を2回、転がしてPVA系フィルム2枚を接着させた。
これを1分間静置した後、下部のPVA系フィルム(1)は基板ガラスに固定し、上部のPVA系フィルム(2)の端面に、ばねばかりを取り付け、上方に10cm/秒の速さで引っ張ることで、剥離強度(g/15mm)を測定した。なお、測定は、23℃、50%RH環境下で行った。
【0164】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0165】
上記表1の結果より、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する実施例1-1、1-2のPVA系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能にも優れたものであることがわかる。
これに対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有しない比較例1-1では、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性に劣り、また、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量が多い比較例1-2では、帯電防止性能は向上したものの、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性向上の効果は得られないものであった。
また、表2の結果より、5℃の冷水に対しても2分以内と短時間で溶解することから、冷水溶解性が要求される液体洗剤包装への適性が良好であることがわかる。
即ち、上記表1、表2の結果より、変性ポリビニルアルコール系樹脂からなるPVA系フィルムにおいて多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する場合には、PVA系フィルムの透明性、帯電防止性能、冷水溶解性の効果がバランスよく得られることがわかる。
【0166】
また、上記表3の結果より、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する実施例2-1~2-2のPVA系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能にも優れたものであることがわかる。
これに対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有しない比較例2-1では、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性に劣り、また、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量が多い比較例2-2では、帯電防止性能は向上したものの、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性向上の効果は得られないものであった。
更に、表4の結果より、5℃の冷水に対しても2分以内と非常に短時間で溶解することから、冷水溶解性が要求される液体洗剤包装への適性が良好であることがわかる。また、表4の結果より、実施例2-1、2-2は、更に水シール部分の剥離強度も高いことから、液体洗剤包装への適性が特に良好であることがわかる。
即ち、上記表3、表4の結果より、2種以上のPVA系樹脂を含有するPVA系樹脂からなるPVA系フィルムにおいて多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する場合に、PVA系フィルムの透明性、帯電防止性能、冷水溶解性、シール性の効果がバランスよく得られることがわかる。
【0167】
なお、表1、表3に示すように、本発明における、PVA系フィルムにおける多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は測定値であって仕込み量と差異が生じることがあるが、この差異はフィルム製膜時に流延した金属面上に多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)が移行すること等により生じるものと推測される。
【0168】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明のPVA系フィルムは透明性が高く、優れた帯電防止性能を有することを特徴とすることから、高い光学特性が要求される偏光膜用途(液晶テレビ、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、プロジェクター、車載パネル等)や、水溶性フィルム用途(農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材等)に有用である。
なかでも、本発明のPVA系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能に優れることから印刷特性も高いため意匠性に優れており、かつ、冷水溶解性にも優れるため、薬剤等の個包装用途(薬剤包装体)に有用である。