(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240110BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240110BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C30B29/06 504B
H01L21/20
H01L21/205
C30B29/06 504G
C30B25/20
(21)【出願番号】P 2022169708
(22)【出願日】2022-10-24
【審査請求日】2023-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】生垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-200231(JP,A)
【文献】特開2009-164590(JP,A)
【文献】特開2012-138576(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112397374(CN,A)
【文献】特開2006-216934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 25/02-25/22 ,29/06
H01L 21/20-21/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャルウェーハの製造方法であって、
炭素のソースガスを含み、酸素原子を含有するガスを含まない原料ガスを用いて、次式(1)を満たす炭素濃度と膜厚を有するように、シリコン基板上にシリコンエピタキシャル膜を形成する工程と、
その後、熱処理温度が
1000℃以上、かつ、熱処理時間が1時間以上の条件で熱処理をする工程を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
6.6×10
20×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm
3)]…(1)
【請求項2】
前記熱処理温度が1100℃以下、かつ、前記熱処理時間が36時間以下の条件で熱処理をすることを特徴とする請求項
1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記シリコンエピタキシャル膜を形成する工程後、熱処理をする工程前、
炭素のソースガスを含まない原料ガスを用いて、前記シリコンエピタキシャル膜上に、炭素濃度が2.0×10
19atoms/cm
3未満の別のシリコンエピタキシャル膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項
1又は
2に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハ及びエピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスに利用される基板として、結晶完全性や不純物(酸素など)濃度の観点からエピタキシャルウェーハが広く利用されている。エピタキシャルウェーハは、成膜直後は極めて高純度であるが、デバイス製造工程を経るにつれて品質が低下することが知られている。主な原因として、デバイス製造工程でウェーハがさらされる外部環境や、エピタキシャルウェーハのバルク部分であるシリコンウェーハからの不純物拡散が挙げられる。デバイス製造工程での熱処理により、表面に付着した汚染金属やシリコンウェーハ中の酸素がデバイス活性層であるエピタキシャル膜に拡散することで、エピタキシャル膜に欠陥準位が形成された結果、製造歩留まりの低下や電気特性悪化の原因となる。特に固体撮像素子(CCD、CIS)の分野においては、デバイス特性を悪化させる要因の一つとしてデバイス活性層へ拡散した酸素に起因する欠陥が従来問題視されている。そのため、デバイス下部の活性層であるエピタキシャル膜の酸素濃度を極力低減するエピタキシャルウェーハの技術開発が進んでいる。
【0003】
デバイス活性層の酸素濃度を低減する代表的な技術として、エピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍に酸素のゲッタリングサイトを配置する手法が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、エピタキシャル成膜に使用するシリコン基板をRTA装置で前処理することで表面改質層を形成し、その上にエピタキシャル成長を行うことでバルク部分から拡散する酸素を捕獲する技術が開示されている。これは、表面改質層で析出するBMDを利用した技術であるが、BMD析出量や改質層の厚さをコントロールすることが難しく、デバイスに要求される酸素捕獲量に応じて調整することができない。また、酸素捕獲能力を示す温度域にも制限がある。
【0005】
そこで、特許文献2には、シリコン基板表面にあらかじめ炭素等のゲッタリング用原子を高濃度に照射することでイオン注入層を形成し、その上にシリコンのエピタキシャル成長を行うことでバルク部分から拡散する酸素を捕獲する技術が開示されている。これは、エピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍において選択的にゲッタリングサイトを配置する目的から、イオン注入による表面改質層を形成する技術であり、改質層が示す酸素のゲッタリングによってバルク部分からシリコンエピタキシャル膜へ拡散する酸素濃度を低減する優れた方法である。また、照射条件を調整することで酸素捕獲量を調整することが可能である。しかし、イオン注入装置を用いることによる工程数の増加や、クロスコンタミネーションといった問題がある。
【0006】
ここで、低コストかつ低コンタミネーションであって、ゲッタリング用原子を含有したエピタキシャルウェーハを製造する技術として、CVD炉による化学気相成長で形成した高濃度に炭素を含有するエピタキシャルウェーハがある。特許文献3には、シリコン基板上にゲッタリング用原子である炭素を高濃度に含有するエピタキシャル膜を化学気相成長によって形成し、該炭素を含有するエピタキシャル膜の上にシリコンエピタキシャル膜を形成してエピタキシャルウェーハとする技術が記載されている。この技術を利用すると、エピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍において酸素のゲッタリング用原子である炭素を含有したエピタキシャル膜を配置した構造を低コストかつ低コンタミネーションに利用できる。しかし、特許文献3に記載された高濃度炭素含有層が示すゲッタリング特性は、基板とシリコンエピタキシャル膜との固溶度差や微小欠陥を利用した一般的な機構であり、特許文献3中の
図4に示されるような2μm程度の厚さでは、2.0×10
14atoms/cm
2を上回る高い不純物捕獲能力を実現することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-143504号公報
【文献】特開2017-175144号公報
【文献】特開2013-51348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような、基板とシリコンエピタキシャル膜の間に、ゲッタリング用原子である炭素のイオン注入層や、化学気相成長で形成した高濃度炭素を含有するエピタキシャル膜を挟み込んだ構造の基板を利用することで、デバイス活性層の酸素濃度を低減することが可能となる。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のイオン注入で形成できる炭素イオン注入層の厚さは約0.3μmと薄く、更に、エピタキシャル成膜の前段階において複数の操作(イオン注入や回復熱処理等)で捕獲層を形成する必要があり、作製工程数が多くなってしまう。このようなエピタキシャルウェーハでは簡便に十分な量の不純物を捕獲できない。
【0010】
また、特許文献3に記載のCVD炉を用いたエピタキシャルウェーハにおける高濃度に炭素を含有するエピタキシャル膜は、主な用途として重金属不純物のゲッタリング効果を念頭に開発された技術であり、先行技術文献において該炭素を含有するエピタキシャル膜の酸素捕獲能力に関する言及はない。また、利用できるゲッタリング機構を考慮すると、十分な量の酸素捕獲量が期待できない。
【0011】
この点から、固体撮像素子を始めとするデバイス活性層の酸素濃度に敏感なデバイス分野において、新しいゲッタリング機構を有しており、かつ特性向上に寄与する十分な酸素捕獲能力を有したエピタキシャルウェーハの開発が求められていた。
【0012】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、少ない工程数で作製可能であり、かつ新しいゲッタリング機構を利用することで十分な酸素捕獲量を実現するエピタキシャルウェーハ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコン基板と、前記シリコン基板上に形成されたシリコンエピタキシャル膜とを有するエピタキシャルウェーハであって、前記シリコン基板と前記シリコンエピタキシャル膜の界面から前記シリコンエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域が設けられたものであることを特徴とするエピタキシャルウェーハを提供する。
【0014】
このようなエピタキシャルウェーハによれば、十分な酸素捕獲量を実現できるものとなる。特に、このようなエピタキシャルウェーハであれば、デバイス活性層の下部にあるシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍において、選択的にVoid欠陥をゲッタリングサイトとして配置することができ、酸素濃度を大きく低減することができるものとなる。また、少ない工程数で作製可能なものとなる。
【0015】
このとき、前記シリコンエピタキシャル膜が、次式(1)を満たす炭素濃度と膜厚を有するものとすることができる。
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
【0016】
これにより、十分な酸素捕獲量を実現できるものとなる。特に、式(1)を満たすことにより、Void欠陥領域を十分にシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍に形成することができるものとなる。
【0017】
このとき、前記シリコンエピタキシャル膜上に別のシリコンエピタキシャル膜を有し、前記別のシリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3未満のものとすることができる。
【0018】
これにより、固体撮像素子デバイスにとって有用な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハを提供できるものとなる。つまり、シリコンエピタキシャル膜を形成したシリコン基板を土台とし、更に炭素を含有しないシリコンエピタキシャル膜を形成したエピタキシャルウェーハ構造とすることで、固体撮像素子デバイスにとって有用な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハを提供することができる。
【0019】
このとき、前記シリコンエピタキシャル膜が絶縁性と高周波特性を有するものとすることができる。
【0020】
これにより、固体撮像素子デバイスにとって一層有用な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハを提供できるものとなる。
【0021】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、エピタキシャルウェーハの製造方法であって、炭素のソースガスを含む原料ガスを用いて、次式(1)を満たす炭素濃度と膜厚を有するように、シリコン基板上にシリコンエピタキシャル膜を形成する工程と、その後、熱処理温度が900℃以上、かつ、熱処理時間が1時間以上の条件で熱処理をする工程を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
【0022】
このようなエピタキシャルウェーハの製造方法によれば、前記シリコン基板と前記シリコンエピタキシャル膜の界面から前記シリコンエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域を設けることができる。特に、この範囲の熱処理温度で熱処理することにより、Void欠陥領域を形成できる。また、少ない工程数で作製可能となる。
【0023】
このとき、前記熱処理温度が1100℃以下、かつ、前記熱処理時間が36時間以下の条件で熱処理をすることができる。
【0024】
熱処理温度を1100℃以下とすることで、重金属拡散の影響を抑えることができる。また、熱処理時間を36時間以下とすることで、製造効率の観点から優れたエピタキシャルウェーハとすることができる。
【0025】
このとき、前記シリコンエピタキシャル膜を形成する工程後、熱処理をする工程前、炭素のソースガスを含まない原料ガスを用いて、前記シリコンエピタキシャル膜上に、炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3未満の別のシリコンエピタキシャル膜を形成する工程を有することができる。
【0026】
これにより、固体撮像素子デバイスにとって有用な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエピタキシャルウェーハによれば、十分な酸素捕獲量を実現できるものとなる。特に、デバイス活性層であるシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍において、優れたゲッタリング特性を示すVoid欠陥領域を有した構造のエピタキシャルウェーハを得ることができるものとなる。また、少ない工程数で作製可能なものとなる。
本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によれば、前記シリコン基板と前記シリコンエピタキシャル膜の界面から前記シリコンエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域を設けることが可能となる。また、少ない工程数で作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハを示す概略図である。
【
図2】本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハを示す概略図である。
【
図4】本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法を示すフロー図である。
【
図5】実験例(実施例1)のエピタキシャルウェーハの断面TEM像である。
【
図6】実験例(実施例1)における、Void欠陥の高倍率TEM像(平面、断面)及び構造図である。
【
図7】実施例1~6のエピタキシャルウェーハから、シリコンエピタキシャル膜と基板界面を含むような深さ位置で切り出した薄片試料(厚さ約500nm)の平面TEM像である。
【
図8】実施例1~6のエピタキシャルウェーハのSIMS測定結果である。
【
図9】本発明のエピタキシャルウェーハにおいてシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍にVoid欠陥領域が形成されるシリコンエピタキシャル膜の炭素濃度と膜厚の条件を示したグラフである。
【
図10】実施例1~6のエピタキシャルウェーハにおける酸素捕獲量を示したグラフである。
【
図11】比較例1の炭素イオンを注入したエピタキシャルウェーハにおける酸素捕獲量と、比較例2のエピタキシャルウェーハにおける酸素捕獲量と、実施例5のエピタキシャルウェーハの酸素捕獲量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
上述のように、十分な酸素捕獲量を実現できるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法が求められていた。
【0031】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、シリコン基板と、前記シリコン基板上に形成されたシリコンエピタキシャル膜とを有するエピタキシャルウェーハであって、前記シリコン基板と前記シリコンエピタキシャル膜の界面から前記シリコンエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域が設けられたものであることを特徴とするエピタキシャルウェーハにより、十分な酸素捕獲量を実現できるものとなること、及び、
エピタキシャルウェーハの製造方法であって、炭素のソースガスを含む原料ガスを用いて、次式(1)、
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
、を満たす炭素濃度と膜厚を有するように、シリコン基板上にシリコンエピタキシャル膜を形成する工程と、その後、熱処理温度が900℃以上1100℃以下、かつ、熱処理時間が1時間以上36時間以下の条件で熱処理をする工程を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法により、十分な酸素捕獲量を実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0032】
以下、図面を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
(第1実施形態のエピタキシャルウェーハ)
図1は、本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハを示す概略図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1は、シリコン基板10上に形成されたシリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面からエピタキシャル膜12側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域11を有した構造を有するものである。
【0034】
本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1であれば、シリコン基板10からシリコンエピタキシャル膜12へ拡散する酸素をVoid欠陥領域11で大幅に捕獲することが可能となり、従来の炭素イオンを注入したエピタキシャルウェーハと比べて優れた酸素捕獲量を実現することができる。
【0035】
このように、シリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面からエピタキシャル膜12側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域11を有したエピタキシャルウェーハ1の構造を実現することで、従来技術を上回る酸素捕獲量を達成し、例えば固体撮像素子デバイスにとって有用な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハを提供することができる。
【0036】
このとき、Void欠陥領域11の範囲の下限値は特に限定されないが、例えば100nm以上とすることができる。このようなものであれば、Void密度が高く、十分な酸素捕獲能力を有するものとなる。
【0037】
シリコン基板10は特に限定されず、例えばチョクラルスキー法やフローティングゾーン法などにより製造された単結晶インゴットをスライスして得たものとすることができ、直径は例えば200mm、さらには300mm以上のものとすることができる。基板の抵抗率や酸素濃度は限定されず、用途に合わせて調整することができる。
【0038】
なお、シリコンエピタキシャル膜12に含まれる炭素濃度と膜厚の大きさの関係は、次式(1):
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
を満たす範囲であり、かつ、炭素濃度は2.0×1019atoms/cm3以上、5.0×1021atoms/cm3以下の範囲とすることができる。
【0039】
上記式(1)に示すシリコンエピタキシャル膜12に含まれる炭素濃度と膜厚の大きさの関係を満たさないと、Void欠陥領域11が形成されず、酸素捕獲量が十分でない。
なお、本発明において、膜厚及び炭素濃度はSIMSを用いて測定した値である。
【0040】
このような膜厚と炭素濃度のシリコンエピタキシャル膜12であれば、シリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面からシリコンエピタキシャル膜12側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域11が形成され、これをゲッタリングサイトとして十分な酸素捕獲量を実現すると共に、シリコンエピタキシャル膜12の結晶性がより優れたものとなり、高品質なエピタキシャルウェーハ1となる。
【0041】
このような本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1は、例えば裏面照射型の固体撮像素子の製造に好適なものであるが、用途は特に限定されない。
【0042】
なお、本発明において、シリコンエピタキシャル膜12の厚さの上限値と下限値は特に限定されないが、生産性やコストを考慮して、例えば0.1μm以上、10μm以下とすることができる。このようなものであれば、より低コストで十分な酸素捕獲能力を有するものとなる。
また、本発明においてシリコンエピタキシャル膜12の炭素濃度の上限値も限定されないが、例えば5.0×1021atoms/cm3以下とすることができる。このようなものであれば、十分な酸素捕獲能力を実現するVoid欠陥領域11を有するものとなる。
熱処理によって形成されたVoid欠陥領域11の厚さの下限は特に限定されないが、例えば100nm以上とすることができる。このようなものであれば、Void密度が高く、十分な酸素捕獲能力を有するものとなる。
【0043】
(第1実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法)
図2は、本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法を示すフロー図である。つまり、シリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10の界面からエピタキシャル膜12側へ600nm以下にVoid欠陥領域11を有する第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1の形成プロセスを示すフロー図である。
【0044】
〈工程1:減圧下でのシリコンエピタキシャル膜の形成〉
まず、前述したシリコン基板10を用意し、減圧CVD装置を用いてシリコンエピタキシャル膜12を減圧下にてエピタキシャル成長により形成する。
【0045】
なお、減圧CVD装置としては従来から使用しているものと同様のものを用いることができる。例えば、含有する炭素濃度を制御したシリコンエピタキシャル膜12を形成するための混合ガス雰囲気のシリコンソースガスとしては、例えばSiH2Cl2を用いることができ、また、ドープする炭素のソースガスとしては、例えばSiH3(CH3)やSiH2(CH3)2のうち少なくとも一つを用いることができる。ただし、シリコンエピタキシャル膜12を形成しつつ炭素をガスドープできる炭素を含む原料ガス、ドープガスであれば特に限定されないが、これらのソースガスであれば通常よく用いられており、入手しやすく好適である。また、チャンバー内の保持温度は例えば550℃~800℃とすることができる。ただし、結晶性の高いシリコンエピタキシャル膜12が形成する温度であれば特に限定されない。
【0046】
前記の減圧CVD装置で形成されたシリコンエピタキシャル膜12の厚さは制御下で導入された炭素濃度に依存して下限が決定される。シリコンエピタキシャル膜12に含まれる炭素濃度と膜厚の大きさの関係が、次式(1):
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
を満たす範囲で成膜することで本発明のエピタキシャルウェーハ1の製造をすることができる。
【0047】
シリコンエピタキシャル膜12について、式(1)を満たす範囲で、より大きな膜厚や炭素濃度の調整は、例えば処理時間の長さやソースガスの導入量の調整により行うことができる。
【0048】
〈工程2:Void欠陥領域の形成〉
成膜後の熱処理によって、シリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面近傍にVoid欠陥領域11を形成することができる。
【0049】
この熱処理の方法は特に限定されず、例えば一般的なシリコンウェーハ用の熱処理炉を用いることができる。
熱処理における昇温時間は特に限定されないが、熱処理温度は900℃以上とすることができる。このようにすることで、Void欠陥領域11の形成が促進され、製造効率が良くなる。
熱処理温度の上限は特に限定されないが、例えば1100℃以下とすることができる。このようにすることで、重金属拡散の影響を抑えることができる。
【0050】
また、熱処理時間は1時間以上とすることができる。このようにすることで、十分なVoid欠陥が形成され品質が良くなる。
熱処理時間の上限も特に限定されないが、例えば36時間以下とすることができる。
このようにすることで、製造効率の観点から優れたエピタキシャルウェーハとなる。
【0051】
以上を踏まえると、1000℃前後まで昇温した熱処理炉に直接エピタキシャルウェーハを投入し、1時間~36時間程度熱処理することで、工程1で形成したシリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面からエピタキシャル膜12側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域11が形成される。
この際、熱処理時のガス種は用途に合わせて使い分けることが可能であり、例えば酸素ガスや、アルゴンや窒素などの不活性ガスとすることができる。
以上より、本発明の第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1を得ることができる。
【0052】
(第2実施形態のエピタキシャルウェーハ)
図3は、本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハを示す概略図である。
本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハ2は、シリコンエピタキシャル膜12上へドープしていないことにより、炭素を含有しない別のシリコンエピタキシャル膜13が形成されている他は第1実施形態のエピタキシャルウェーハ1と同様な構成とされている。
【0053】
炭素を含有しない別のシリコンエピタキシャル膜13とは、炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3未満のシリコンエピタキシャル膜をいう。
炭素を含有しない別のシリコンエピタキシャル膜13の炭素濃度は低ければ低いほど好ましいが、不可避的不純物レベルの炭素含有量とすることができ、例えばSIMS測定における検出下限である5.0×1015atoms/cm3以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明においてシリコンエピタキシャル膜12の炭素濃度の上限値も限定されないが、例えば5.0×1021atoms/cm3以下とすることができる。このようなものであれば、十分な酸素捕獲能力を実現するVoid欠陥領域11を有するとともに、シリコンエピタキシャル膜12上に形成された炭素を含有しない別のシリコンエピタキシャル膜13も結晶性の良いものとなる。
【0055】
(第2実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法)
図4は、本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
工程1を実施した後、工程1’を実施してから、熱処理を行う他は実施形態1と同様なプロセスとされている。
【0056】
〈工程1’:炭素を含有しないシリコンエピタキシャル膜の形成〉
ウェーハの用途に応じて、シリコンエピタキシャル膜12を土台として炭素を含有しない別のシリコンエピタキシャル膜13を形成することができる。この別のシリコンエピタキシャル膜13の形成方法は特に限定されず、従来と同様の方法で形成することができる。例えば、前述した炭素のソースガスを用いることなく、シリコンのソースガスをチャンバー内に導入するとともに1000℃前後の保持温度の下で形成することができる。処理時間や抵抗率調整用のドープガスの制御により、所望の膜厚や、導電型の抵抗率を有する炭素を含有しないシリコンエピタキシャル膜13を工程1で形成したシリコンエピタキシャル膜12上に形成することができる。
【0057】
〈工程2:Void欠陥領域の形成〉
工程1’で形成したシリコンエピタキシャル膜12上への、炭素を含有しないシリコンエピタキシャル膜13の形成後、成膜後の熱処理によって、シリコンエピタキシャル膜12とシリコン基板10との界面近傍にVoid欠陥領域11を形成することができる。
この熱処理の条件は、第1実施形態の工程2と同様である。
以上より、本発明の第2実施形態のエピタキシャルウェーハ2を得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
減圧CVD装置によりチョクラルスキー法によって製造されたインゴットをスライスして得た直径300mmのシリコン基板上に、炭素のソースガスとしてSiH3(CH3)を用いてシリコンエピタキシャル膜(炭素濃度:2.0×1019atoms/cm3、膜厚:5.5μm)を形成した。
なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3の場合、式(1)から求められるシリコンエピタキシャル膜の厚さは約2.2μm以上である。
成膜後、熱平衡状態に達するまで酸素雰囲気下における1000℃の熱処理を36時間実施することでVoid欠陥領域を形成し、実施例1のエピタキシャルウェーハを用意した。
【0060】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜の表面と、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むように断面方向からTEM像を、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を、それぞれ取得した。
また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0061】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約600nmの範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図5、6、7、8参照)
【0062】
また、酸素捕獲量は約4.3×10
14atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0063】
(実施例2)
シリコンエピタキシャル膜の厚さが3μmであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
更に、このシリコンエピタキシャル膜を土台として炭素を含有しないシリコンエピタキシャル膜を約2μm形成した。
膜厚の調整は減圧CVD炉における処理時間を変えることにより行った。
【0064】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を取得した。
また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0065】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約580nmの範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図7、8参照)
【0066】
また、酸素捕獲量は約2.0×10
14atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0067】
(実施例3)
シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が1.0×1020atoms/cm3、厚さが3μmであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が1.0×1020atoms/cm3の場合、式(1)から求められるシリコンエピタキシャル膜の厚さは約1.2μm以上である。
【0068】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を取得した。また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0069】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約350nm以下の範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図7、8参照)
【0070】
また、酸素捕獲量は約1.2×10
15atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0071】
(実施例4)
シリコンエピタキシャル膜の厚さが2μmであること以外は実施例3と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
【0072】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を取得した。また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0073】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約390nmの範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図7、8参照)
【0074】
また、酸素捕獲量は約1.2×10
15atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0075】
(実施例5)
シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が3.0×1020atoms/cm3、厚さが1μmであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が3.0×1020atoms/cm3の場合、式(1)から求められるシリコンエピタキシャル膜の厚さは約0.5μm以上である。
【0076】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を取得した。
また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0077】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約250nm以下の範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図7、8参照)
【0078】
また、酸素捕獲量は約2.1×10
15atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0079】
(実施例6)
シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が1.0×1021atoms/cm3、厚さが1μmであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が1.0×1021atoms/cm3の場合、式(1)から求められるシリコンエピタキシャル膜の厚さは下限の0.1μm以上である。
【0080】
このエピタキシャルウェーハの構造を調査するため、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面を含むよう平面方向からTEM像を取得した。また、Void欠陥領域の厚さと酸素捕獲量をSIMSにより測定した。
【0081】
その結果、本発明のエピタキシャルウェーハにおけるシリコン基板と、シリコンエピタキシャル膜との界面からエピタキシャル膜側へ約320nm以下の範囲で、Void欠陥領域が形成されていることが確認された。(
図7、8参照)
【0082】
また、酸素捕獲量は約3.6×10
15atoms/cm
2だった。(
図10参照)
【0083】
(比較例1)
実施例1と同様のシリコン基板に対して、イオン注入装置を用いて炭素を加速電圧32 keV、ドーズ量1×1015atoms/cm2にてイオン注入して作製した表面改質層(炭素濃度1.0×1020atoms/cm3)をもつシリコンウェーハを用意した。
【0084】
このシリコンウェーハに対して、シリコンエピタキシャル膜を成膜することで、デバイス活性層であるエピタキシャル膜直下に改質層を有したエピタキシャルウェーハを用意した。
なお、シリコンエピタキシャル膜の成膜温度は1000℃、膜厚は9μmであった。
【0085】
このエピタキシャルウェーハの酸素捕獲量の評価を行うため、得られたエピタキシャルウェーハに対して、熱平衡状態に達するまで酸素雰囲気下における1000℃の熱処理を実施した。
【0086】
また、イオン注入深さ(炭素含有層の位置)はシリコンエピタキシャル膜の表面から9.1μmの位置で、炭素含有層の厚さは0.3μmであった。
【0087】
このエピタキシャルウェーハの酸素捕獲量をSIMSにより測定したところ、酸素捕獲量は約5.7×1013atoms/cm2となった。
【0088】
(比較例2)
シリコンエピタキシャル膜の厚さが1μmであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造した。
これは式(1)を満たしておらず、熱処理によるVoid欠陥領域は形成されない。
【0089】
このエピタキシャルウェーハの酸素捕獲量をSIMSで調査したところ、酸素捕獲量は約8.1×1013atoms/cm2だった。
【0090】
図11は、比較例1の炭素イオンを注入したエピタキシャルウェーハにおける酸素捕獲量と、比較例2のエピタキシャルウェーハにおける酸素捕獲量と、実施例5のエピタキシャルウェーハの酸素捕獲量を比較したグラフである。
Void欠陥層をシリコンエピタキシャル膜直下に形成した構造を有した実施例5のエピタキシャルウェーハ(本提案基板)は、従来の改質層を利用したエピタキシャルウェーハと比べて格別に優れた捕獲量を有することがわかった。
【0091】
以上のことから、本発明のエピタキシャルウェーハにおいて、シリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度と膜厚の大きさの関係が、式(1):
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
を満たす範囲で成膜することで、Void欠陥層をシリコンエピタキシャル膜直下に形成した構造を有したエピタキシャルウェーハを製造することが可能であり、従来の改質層よりも、シリコンエピタキシャル膜側(活性層)への酸素拡散量を低減する効果を格段に高めたエピタキシャルウェーハの提供が可能となることが示された。
【0092】
更に、以上の実施例、比較例を踏まえ、
図5~11を参照しながら、本発明に至った経緯を、以下の実験例で説明する。
【0093】
(実験例)
撮像素子を始めとした酸素起因の欠陥準位に敏感なデバイス分野から十分な酸素捕獲能力を有するエピタキシャルウェーハの実現が求められていた。
【0094】
以上の背景を鑑みて、発明者らは、CVD装置で形成されたシリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素が熱処理によって格子間炭素と空孔へ変化する現象を応用し、空孔の凝集物であるVoidをゲッタリングサイトとして利用する手法に思い至った。
発明者らは、シリコン基板上に減圧CVD装置を利用してシリコンエピタキシャル膜(炭素濃度:2.0×1019atoms/cm3、膜厚:5.5μm)を形成した。なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度と厚さの調整は、減圧CVD炉における原料ガスの供給量や処理時間を変えることにより行った。
【0095】
予備実験として、得られたエピタキシャルウェーハに対して酸素雰囲気下における1000℃の熱処理を12時間~36時間実施した。熱処理後のエピタキシャルウェーハに対して、酸素濃度をSIMSにより測定したところ、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲でSIMSプロファイルに急峻な酸素ピークが生じていることがわかった。また、12時間~36時間の熱処理時間の範囲において、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面近傍において酸素原子濃度が緩やかに変化し続けることがわかった。
以上の結果から、当該エピタキシャルウェーハのシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からシリコンエピタキシャル膜側へ約600nmの範囲で特異的な欠陥領域が形成している可能性が示唆された。また、当該エピタキシャルウェーハが示す酸素捕獲量をSIMSの結果から計算したところ、2.0×1014atoms/cm2を上回る優れた値であった。
【0096】
発明者らは、SIMS測定で確認された急峻な酸素ピークの原因を明らかにすることで製造効率の観点でも優れたエピタキシャルウェーハが実現する可能性が高いと考えた。
そこで、1000℃の熱処理を36時間実施したシリコンエピタキシャル膜(炭素濃度:2.0×1019atoms/cm3、膜厚:5.5μm)を断面方向からTEM観察を実施した。
【0097】
図5は、実験例(実施例1)のエピタキシャルウェーハの断面TEM像である。
シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域を確認できた。
右拡大図内で破線円形部はVoidであり、複数のVoidを含む矩形領域はVoid欠陥領域である。
これは、先述したSIMSプロファイルにおける酸素ピーク位置と対応しており、Void欠陥領域において酸素が大きく捕獲されていることを示している。
【0098】
Void欠陥の構造をより詳細に調査するため、高倍率TEM像を平面方向と断面方向からそれぞれ取得した。
図6は、実験例(実施例1)における、Void欠陥の高倍率TEM像(平面、断面)及び構造図である。
シリコン基板に対して垂直な方向と断面方向からの2方向のTEM像を取得することで、Voidの形状が正八面体であることや、内壁にシリコン酸化物が有した構造であることが判明した。
つまり、
図6のTEM像と模式図が示すように、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側への600nm以下の範囲で形成されたVoid欠陥は、正八面体構造をしており、内壁に約10nm程度のシリコン酸化物を有していることを突き止めた。正八面体形状はVoid欠陥母相シリコンの{111}面に囲われていることを示唆しており、内壁のシリコン酸化物は、熱処理でシリコン基板から拡散した酸素を捕獲することで成長したと考えられる。
【0099】
以上の結果から、シリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度が2.0×1019 atoms/cm3の場合、成膜後に熱処理を加えることで、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側への600nm以下の範囲でVoid欠陥領域を形成することが可能となり、これにより2.0×1014atoms/cm2を上回るほどの優れた酸素捕獲能力を実現できることがわかった。
【0100】
しかし、製造効率の観点ではより薄い膜厚で優れた酸素捕獲能力を実現することが望ましい。そこで、2.0×1019atoms/cm3以上の炭素を含有し、かつ厚さを振ったシリコンエピタキシャル膜(炭素濃度:2.0×1019atoms/cm3の試料では膜厚:1μmと1.5μmと2μmと3μmと5.5μm、炭素濃度:1.0×1020atoms/cm3の試料では、膜厚:1μmと2μmと3μm、炭素濃度:3.0×1020atoms/cm3と1.0×1021の試料では、膜厚:1μm)をシリコン基板上に形成した。なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度と厚さの調整は、ソースガスの導入量と処理時間を変えることにより行った。
【0101】
これらのエピタキシャルウェーハのVoid欠陥領域の有無を評価するため、得られたエピタキシャルウェーハに対して、酸素雰囲気下における1000℃の熱処理を36時間実施した。熱処理後、各エピタキシャルウェーハのシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面を含む薄片試料(厚さ約500nm)を用いて平面TEM観察を実施した。
【0102】
図7は、実施例1~6のエピタキシャルウェーハから、シリコンエピタキシャル膜と基板界面を含むような深さ位置で切り出した薄片試料(厚さ約500nm)の平面TEM像である。
炭素濃度が2.0×10
19atoms/cm
3の試料では膜厚が3μm以上で、炭素濃度が1.0×10
20atoms/cm
3の試料では膜厚が2μm以上で、炭素濃度が3.0×10
20atoms/cm
3以上の試料では膜厚が1μmで、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍にVoid欠陥量領域が形成されていることが判明した。
【0103】
これらの試料をSIMS測定することで、シリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲で急峻な酸素ピークが発現することもあわせて確認している(
図8)。
図8は、実施例1~6のエピタキシャルウェーハのSIMS測定結果である。シリコン基板上に形成したシリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が2.0×10
19atoms/cm
3かつ膜厚3μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約580nmであり、炭素濃度が2.0×10
19atoms/cm
3かつ膜厚5.5μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約600nm、炭素濃度が1.0×10
20atoms/cm
3かつ膜厚2μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約 390nm、炭素濃度が1.0×10
20atoms/cm
3かつ膜厚3μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約 350nm、炭素濃度が3.0×10
20atoms/cm
3かつ膜厚1μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約 250nm、炭素濃度が1.0×10
21atoms/cm
3かつ膜厚1μm場合のVoid欠陥領域の厚さは約 320nmでシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からシリコンエピタキシャル膜側の範囲にVoid欠陥領域が形成されることがわかる。
【0104】
以上の結果より、発明者らは、熱処理によってシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥が形成される条件は、シリコンエピタキシャル膜に含有される炭素濃度とシリコンエピタキシャル膜の厚さの両方に依存して変化していると結論付けた。
【0105】
そこで、一連の実験で示されたVoid欠陥領域の有無を、シリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度とシリコンエピタキシャル膜の膜厚で整理した結果を
図9に示す。
図9は、本発明のエピタキシャルウェーハにおいてシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面近傍にVoid欠陥領域が形成されるシリコンエピタキシャル膜の炭素濃度と膜厚の条件を示したグラフである。
このとき、熱処理後にシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板との界面にVoid欠陥領域が形成される有効領域を図内破線と網掛け部分で示している。これは、シリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度と膜厚の大きさの関係において、6.6×10
20×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm
3)]を満たす範囲とすることができる。
【0106】
シリコンエピタキシャル膜と基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲で、Void欠陥領域が形成される有効範囲がシリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度とシリコンエピタキシャル膜の厚さに影響される原因としては、シリコンエピタキシャル膜の格子定数がシリコン基板と異なることに起因して発生する応力の緩和機構にVoidが関わっている可能性を考えている。
【0107】
また、実験例から、本発明におけるシリコンエピタキシャル膜とシリコン基板の界面からエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲でVoid欠陥領域を有した構造を有するエピタキシャルウェーハにおいて、シリコンエピタキシャル膜の厚さとシリコンエピタキシャル膜に含まれる炭素濃度は、本発明の範囲内で必要に応じてさまざまに調整可能であることが分かった。
【0108】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:シリコン基板と、前記シリコン基板上に形成されたシリコンエピタキシャル膜とを有するエピタキシャルウェーハであって、
前記シリコン基板と前記シリコンエピタキシャル膜の界面から前記シリコンエピタキシャル膜側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域が設けられたものであることを特徴とするエピタキシャルウェーハ。
[2]:前記シリコンエピタキシャル膜が、次式(1)を満たす炭素濃度と膜厚を有するものであることを特徴とする上記[1]のエピタキシャルウェーハ。
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
[3]:前記シリコンエピタキシャル膜上に別のシリコンエピタキシャル膜を有し、前記別のシリコンエピタキシャル膜の炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3未満のものであることを特徴とする上記[1]又は上記[2]のエピタキシャルウェーハ。
[4]:前記シリコンエピタキシャル膜が絶縁性と高周波特性を有するものであることを特徴とする上記[1]~上記[3]のいずれかのエピタキシャルウェーハ。
[5]:エピタキシャルウェーハの製造方法であって、炭素のソースガスを含む原料ガスを用いて、次式(1)を満たす炭素濃度と膜厚を有するように、シリコン基板上にシリコンエピタキシャル膜を形成する工程と、その後、熱処理温度が900℃以上、かつ、熱処理時間が1時間以上の条件で熱処理をする工程を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
6.6×1020×exp(-1.6×[シリコンエピタキシャル膜の厚さ(μm)])<[シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度(atoms/cm3)]…(1)
[6]:前記熱処理温度が1100℃以下、かつ、前記熱処理時間が36時間以下の条件で熱処理をすることを特徴とする上記[5]のエピタキシャルウェーハの製造方法。
[7]: 前記シリコンエピタキシャル膜を形成する工程後、熱処理をする工程前、炭素のソースガスを含まない原料ガスを用いて、前記シリコンエピタキシャル膜上に、炭素濃度が2.0×1019atoms/cm3未満の別のシリコンエピタキシャル膜を形成する工程を有することを特徴とする上記[5]又は上記[6]のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0109】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0110】
1、2…エピタキシャルウェーハ、10…シリコン基板、 11…Void欠陥領域、 12…シリコンエピタキシャル膜、 13…別のシリコンエピタキシャル膜。
【要約】
【課題】
少ない工程数で作製可能であり、かつ新しいゲッタリング機構を利用することで十分な酸素捕獲量を実現するエピタキシャルウェーハ及びエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
シリコン基板10と、前記シリコン基板10上に形成されたシリコンエピタキシャル膜12とを有するエピタキシャルウェーハ1であって、前記シリコン基板10と前記シリコンエピタキシャル膜12の界面から前記シリコンエピタキシャル膜12側へ600nm以下の範囲にVoid欠陥領域11が設けられたものであることを特徴とするエピタキシャルウェーハ1。
【選択図】
図1