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特許7416239非水系二次電池電極用バインダー及び非水系二次電池電極用スラリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】非水系二次電池電極用バインダー及び非水系二次電池電極用スラリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240110BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240110BHJP
   C08F 220/16 20060101ALI20240110BHJP
   C08F 226/02 20060101ALI20240110BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08F220/16
C08F226/02
C08F220/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022528821
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020657
(87)【国際公開番号】W WO2021246364
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020098514
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 一成
(72)【発明者】
【氏名】倉田 智規
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 充
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-160397(JP,A)
【文献】特開2015-162384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
C08F 220/16
C08F 226/02
C08F 220/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、
(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位(b)と、
芳香族アルコールのエチレン性不飽和カルボン酸エステル化合物である単量体(C)由来の構造単位(c)と、
を有する共重合体(P)を含む非水系二次電池電極用バインダーであって、
前記共重合体(P)における各構造単位の含有率が以下の通りであることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー。
構造単位(a)の含有率は0.5質量%以上20.0質量%以下
構造単位(b)の含有率は50.0質量%以上98.0質量%以下
構造単位(c)の含有率は0.3質量%以上28.0質量%以下
構造単位(a)、構造単位(b)、及び構造単位(c)の含有率の合計が85質量%以上
【化1】
(式中、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。)
【請求項2】
式(2)で表される単量体(D)由来の構造単位(d)を含み、該構造単位(d)の含有率は0.3質量%以上18.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【化2】

(式中、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、Rよりも炭素数が多い。nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。)
【請求項3】
前記式(2)において、n+m≦500である、請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項4】
前記式(2)において、n+m≧30である、請求項2または3に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
前記単量体(A)が、N-ビニルホルムアミドまたはN-ビニルアセトアミドである請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項6】
前記単量体(B)は、(メタ)アクリル酸塩である請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項7】
前記単量体(C)は、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項8】
前記共重合体(P)の重量平均分子量が、100万以上1000万以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項9】
前記共重合体(P)における前記単量体(B)由来の構造単位(b)の含有率は60.0質量%以上90.0質量%以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダーと水性媒体とを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項11】
前記非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池である請求項10に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダーと、
電極活物質と、
水性媒体と
を含む非水系二次電池電極用スラリー。
【請求項13】
集電体と、
前記集電体表面に形成された、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系二次電池電極用バインダーと電極活物質とを含む電極活物質層と
を有する非水系二次電池電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池電極用バインダー及び非水系二次電池電極用スラリーに関する。
本願は、2020年6月5日に、日本に出願された特願2020-098514号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解質を用いる二次電池(非水系二次電池)は高電圧化、小型化、軽量化の面において水系電解質を用いる二次電池よりも優れている。そのため、非水系二次電池は、ノート型パソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の電源として広く使用されている。また、最近では環境車両適用の観点から電気自動車やハイブリッド自動車用にも非水系電池が使用されているが、高出力化、高容量化、長寿命化等が強く求められてきている。非水系二次電池としてリチウムイオン二次電池が代表例として挙げられる。
【0003】
非水系二次電池は、金属酸化物などを活物質とした正極と、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極と、カーボネート類または難燃性のイオン液体を中心した非水系電解液溶剤とを備える。非水系二次電池は、イオンが正極と負極との間を移動することにより電池の充放電が行われる二次電池である。詳細には、正極は、金属酸化物とバインダーから成るスラリーをアルミニウム箔などの正極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。負極は、炭素材料とバインダーから成るスラリーを銅箔などの負極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。バインダーは、正極及び負極において活物質同士及び活物質と集電体を結着させ、集電体からの活物質の剥離を防止させる役割がある。
【0004】
バインダーとしては、有機溶剤系のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーがよく知られている。しかしながら、このバインダーは活物質同士及び活物質と集電体との結着性が低く、実際に使用するには多量のバインダーを必要とする。そのため、非水系二次電池の容量が低下する欠点がある。また、バインダーに高価な有機溶剤であるNMPを使用しているため、製造コストを抑えることが困難であった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、水分散系バインダーの開発が進められている。水分散系バインダーとして、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)増粘剤として併用したスチレン-ブタジエンゴム(SBR)系の水分散体が知られている。
【0006】
特許文献1では、アクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド共重合体を含む貼付材用粘着剤組成物が開示されている。また、特許文献2では、アクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド(55/45(モル比))共重合体を含む含水ゲル体用組成物が開示されている。
【0007】
特許文献3では、N-ビニルアセトアミド-アクリル酸ナトリウム共重合体(共重合比:N-ビニルアセトアミド/アクリル酸ナトリウム=10/90質量比)を含む非水系電池電極用バインダーが開示されている。
【0008】
特許文献4では、N-ビニルアセトアミド由来の構造単位と、(メタ)アクリル酸ナトリウム由来の構造単位と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の構造単位と、を含む非水系電池電極用バインダー用共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-336166号公報
【文献】特開2006-321792号公報
【文献】国際公開第2017/150200号
【文献】国際公開第2020/017442号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のSBR系バインダーは、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースを併用する必要があり、スラリー作製工程が複雑である。かつこのバインダーにおいても活物質同士、及び活物質と集電体との結着性が足りず、少量のバインダーで電極を生産した場合に、集電体を切断する工程で活物質の一部が剥離する問題があった。
【0011】
特許文献1及び2に開示されているアクリル酸ナトリウム-N-ビニルアセトアミド共重合体は、N-ビニルアセトアミド由来の成分を多く含んでいる。このような重合体を負極活物質及び水と混合して電極用スラリーとした場合、スラリーに凝集物が発生しやすい。
【0012】
特許文献3で開示されている非水系電池電極用バインダーでは、後述する比較例1に示されるように、膜厚が厚い、つまり目付量が大きな電極では、クラックが発生しやすくなるという課題があった。
【0013】
特許文献4に記載の非水系電池電極用バインダーは、後述する比較例2に示されているように、集電体に対する電極活物質層の剥離強度に向上の余地がある。
【0014】
そこで、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、集電体に対する電極活物質層の剥離強度を大きく向上できる非水系二次電池電極用バインダー及び非水系二次電池電極用スラリーを提供することを目的とする。
また、本発明は、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高い非水系二次電池電極を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高い電極を備えた非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は以下の〔1〕~〔14〕の通りである。
【0016】
〔1〕 式(1)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、
(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位(b)と、
芳香族アルコールのエチレン性不飽和カルボン酸エステル化合物である単量体(C)由来の構造単位(c)と、
を有する共重合体(P)を含む非水系二次電池電極用バインダーであって、
前記共重合体(P)における各構造単位の含有率が以下の通りであることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー。
構造単位(a)の含有率は0.5質量%以上20.0質量%以下
構造単位(b)の含有率は50.0質量%以上98.0質量%以下
構造単位(c)の含有率は0.3質量%以上28.0質量%以下
構造単位(a)、構造単位(b)、及び構造単位(c)の含有率の合計が85質量%以上
【化1】

(式中、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。)
〔2〕 式(2)で表される単量体(D)由来の構造単位(d)を含み、該構造単位(d)の含有率は0.3質量%以上18.0質量%以下であることを特徴とする〔1〕に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【化2】

(式中、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、Rよりも炭素数が多い。nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。)
〔3〕前記式(2)において、n+m≦500である、〔2〕に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔4〕 前記式(2)において、n+m≧30である、〔2〕または〔3〕に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔5〕 前記単量体(A)が、N-ビニルホルムアミドまたはN-ビニルアセトアミドである〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔6〕 前記単量体(B)は、(メタ)アクリル酸塩である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔7〕 前記単量体(C)は、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔8〕 前記共重合体(P)の重量平均分子量が、100万以上1000万以下である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔9〕 前記共重合体(P)における前記単量体(B)由来の構造単位(b)の含有率は60.0質量%以上90.0質量%以下である〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
〔10〕 〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと水性媒体とを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物。
〔11〕 前記非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池である〔10〕に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
〔12〕 〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと、
電極活物質と、
水性媒体と
を含む非水系二次電池電極用スラリー。
〔13〕 集電体と、
前記集電体表面に形成された、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと電極活物質とを含む電極活物質層と
を有する非水系二次電池電極。
〔14〕 〔13〕に記載の電極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、集電体に対する電極活物質層の剥離強度を大きく向上できる非水系二次電池電極用バインダー及び非水系二次電池電極用スラリーを提供することができる。
また、本発明によれば、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高い非水系二次電池電極を提供することができる。
さらに、本発明によれば、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高い電極を備えた非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態において、電池は、充放電において正極と負極との間でイオンの移動を伴う二次電池である。正極は正極活物質を備え、負極は負極活物質を備える。これらの電極活物質はイオンを挿入(Intercaration)及び脱離(Deintercalation)可能な材料である。このような構成の二次電池としての好ましい例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0019】
「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸及びアクリル酸の一方又は両方をいう。「(メタ)アクリル酸単量体」とは、メタクリル酸単量体及びアクリル酸単量体の一方又は両方をいう。「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及びアクリレートの一方又は両方をいう。
【0020】
「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出されるプルラン換算値である。
【0021】
<1.非水系二次電池電極用バインダー>
本実施形態にかかる非水系二次電池電極用バインダー(または、非水系二次電池電極バインダー。以下、「電極バインダー」とすることがある)は、以下に説明する共重合体(P)を含む。電極バインダーは、その他の成分を含んでもよく、例えば、共重合体(P)以外の重合体、界面活性剤等を含んでもよい。
【0022】
ここで電極バインダーは、後述する電池の製造工程における加熱を伴う工程において揮発せずに残る成分からなる。具体的には電極バインダーを構成する成分は、電極バインダーを含む混合物を直径5cmのアルミ皿に1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら110℃で5時間乾燥させ後に残った成分である。
【0023】
電極バインダー中の共重合体(P)の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)による本発明の目的とする効果への寄与を大きくするためである。
【0024】
共重合体(P)は、後述する式(1)で表す単量体(A)由来の構造単位(a)と、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位(b)と、芳香族アルコールのエチレン性不飽和カルボン酸エステル化合物である単量体(C)由来の構造単位(c)とを含む。共重合体(P)は、後述する式(2)で表す単量体(D)由来の構造単位(d)を含んでもよい。共重合体(P)は、単量体(A)、単量体(B)、及び単量体(C)と共重合可能、かつ単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)、及び単量体(D)のいずれにも該当しない他の単量体(E)由来の構造単位(e)を含んでもよい。
【0025】
共重合体(P)の重量平均分子量は、100万以上であることが好ましく、150万以上であることがより好ましく、200万以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)の重量平均分子量は、1000万以下であることが好ましく、750万以下であることがより好ましく、500万以下であることがさらに好ましい。
【0026】
<1-1.単量体(A)>
単量体(A)は、以下の式(1)で表される化合物である。単量体(A)は、式(1)で表される複数の種類の化合物を含んでいてもよい。
【0027】
【化3】
(式(1)中、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。)
【0028】
式(1)中、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R、Rは各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0029】
、Rの組み合わせとしてさらに好ましい具体例は、R:H、R:H(すなわち、単量体(A)はN-ビニルホルムアミド)、またはR:H、R:CH(すなわち、単量体(A)はN-ビニルアセトアミド)である。
【0030】
<1-2.単量体(B)>
単量体(B)は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種からなる。(メタ)アクリル酸塩は、(メタ)アクリル酸と1価のカチオンとの塩からなることが好ましく、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。その中でも、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムのうち好かなくとも一方を含むことがより好ましく、アクリル酸ナトリウムであることが最も好ましい。(メタ)アクリル酸塩は、例えば、(メタ)アクリル酸を水酸化物、及びアンモニア水等で中和して得られるが、中でも入手容易性の点から、水酸化ナトリウムで中和することが好ましい。
【0031】
pH調整のため、単量体(B)は、(メタ)アクリル酸塩を60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0032】
ここで、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より多い場合、(メタ)アクリル酸は全て塩を形成していると考える。一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より少ない場合、カチオンは全て(メタ)アクリル酸と塩を形成していると考える。なお、中和剤に含まれるカチオンが2価以上である場合、1つのカチオンにその価数と同数の(メタ)アクリル酸由来の構造単位に結合したものとして考える。
【0033】
<1-3.単量体(C)>
単量体(C)は、芳香族アルコールのエチレン性不飽和カルボン酸エステル化合物である。単量体(C)は、1種類の化合物のみを含んでもよく、2種類以上の化合物を含んでもよい。単量体(C)は、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)を含むことが好ましく、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)からなることがより好ましい。
【0034】
芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)としては、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。単量体(C)は、これらの化合物のうち、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルを含むことがさらに好ましい。
【0035】
<1-4.単量体(D)>
単量体(D)は、以下の式(2)で表される化合物である。単量体(D)は、式(2)で表される複数の種類の化合物を含んでもよい。
【0036】
【化4】
(式中、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、Rよりも炭素数が多い。nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。)
【0037】
式(2)中、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R、R、Rは各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。Rはメチル基であることが更に好ましい。
【0038】
式(2)中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。共重合体(P)を電極活物質のためのバインダーとして電極を作製した場合、電極の可撓性が向上し、クラックの発生を抑制されるためである。この観点から、n+m≧30であることが好ましく、n+m≧40であることがより好ましい。また、n+m≦500であることが好ましく、n+m≦200であることがより好ましく、n+m≦150であることがさらに好ましい。バインダーの結着力がより高くなるためである。
【0039】
なお、式(2)では、Rを含む構造単位n個及びRを含む構造単位m個が含まれるということを限定しているが、これらの構造単位の配列について限定はしていない。すなわち、m≧1の場合、式(2)では、それぞれの構造単位が全てまたは一部が連続したブロック構造を有していてもよく、2つの構造単位が交互に配列した構造等の周期的な規則性をもって配列した構造でもよく、2つの構造単位がランダムに配列した構造でもよい。式(2)の共重合体の好ましい形態としては、周期的な規則性をもって配列した構造、またはランダムに配列した構造である。式(2)を形成する分子鎖内での各構造単位の分布の偏りを抑制するためである。式(2)の共重合体のより好ましい形態としては、ランダムに配列した構造である。特殊な触媒を用いずにラジカル重合開始剤により重合可能であり、製造コストを低減できるためである。
【0040】
式(2)において、R、R、R、R、n、mの組み合わせとして好ましい例としては、以下の表1の例が挙げられる。
【0041】
【表1】
【0042】
式(2)においてm=0であることがより好ましい。m=0の単量体(D)の例として、ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体d1、d2)等を挙げることができる。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの一例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA Wが挙げられる。この製品においてはR=CH、R=H、R=CH、n=45、m=0である。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの他の例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG5005 MA Wが挙げられる。この製品においては、R=CH、R=H、R=CH、n=113、m=0である。
【0043】
m=0の単量体(D)の別の例として、ポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体d3、d4)等を挙げることができる。
【0044】
<1-5.他の単量体(E)>
単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)、及び単量体(D)のいずれにも該当しない他の単量体(E)としては、特に限定されず、親水性のエチレン性不飽和化合物からなることが好ましいが、疎水性のエチレン性不飽和化合物を含んでもよい。
【0045】
親水性のエチレン性不飽和単量体は、例えば、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有し、かつ、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミド結合、シアノ基などの極性基を有する化合物が挙げられる。それらの化合物中から、単量体(B)となる(メタ)アクリル酸及びその塩を除く。カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、イタコン酸、β‐カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられる。ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、ビニルアルコール等が挙げられる。前記のビニルアルコールは、モノマーとして酢酸ビニル等のエステルを用いて重合後にけん化等の処理をして得られる物を含んでもよい。アミド結合を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~3であるN‐ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノ基を除く部分のアルキル基の炭素数が1~5であるジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0046】
<1-6.共重合体(P)における構造単位の含有率>
以下、共重合体(P)における各構造単位の含有率について説明する。ここで、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を単量体として用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。詳細は<1-2.単量体(B)>の項にて説明した通りである。
【0047】
構造単位(a)の含有率は、0.5質量%以上であり、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、7.0質量%以上であることがさらに好ましい。後述する電極スラリー作製時の電極活物質、導電助剤等の分散性に優れ、塗工性良好な電極スラリーを作製することができるためである。構造単位(a)の含有率は、20.0質量%以下であり、15.0質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。
【0048】
構造単位(b)の含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、50.0質量%以上であり、60.0質量%以上であることが好ましく、70.0質量%以上であることがより好ましい。集電体に対する剥離強度の高い電極活物質層を得ることができるためである。構造単位(b)の含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、98.0質量%以下であり、94.5質量%以下であることが好ましく、93.0質量%以下であることがより好ましく、90.0質量%以下であることがさらに好ましい。後述する電極スラリー作製時の電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性がより向上するためである。
【0049】
構造単位(c)の含有率は、0.3質量%以上であり、0.5質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、6.0質量%以上であることがさらに好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。構造単位(c)の含有率は、28.0質量%以下であり、23.0質量%以下であることが好ましく、18.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以下であることがさらに好ましい。後述する電極において、電極活物質層の剥離強度を向上させるため、及び電極活物質層の膨れを抑制するためである。また、後述する非水系二次電池において、サイクル特性(放電容量維持率)を向上させるためである。
【0050】
構造単位(d)の含有率は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.9質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることがさらに好ましい。構造単位(d)の含有率は、18.0質量%以下であることが好ましく、12.0質量%以下であることがより好ましく、7.0質量%以下であることがより好ましい。後述する電極の、クラック発生を抑制するため、電極活物質層の剥離強度を向上させるため、及び電極活物質層の膨れを抑制するためである。また、後述する非水系二次電池において、サイクル特性(放電容量維持率)を向上させるためである。
【0051】
構造単位(a)、(b)、及び(c)の含有率の合計は、85質量%以上であり、90質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることがさらに好ましい。構造単位(a)、(b)、及び(c)による、本発明の目的とする効果への寄与を高めるためである。
【0052】
<1-7.共重合体(P)の製造方法>
共重合体(P)の合成は、水性媒体中におけるラジカル重合で行うことが好ましい。重合法としては、例えば、重合に使用する単量体を全て一括して仕込んで重合する方法、重合に使用する単量体を連続供給しながら重合する方法等が適用できる。共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の各単量体の含有率は、共重合体(P)中のその単量体対応する構造単位の含有率である。例えば、共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の単量体(A)の含有率は、合成しようとする共重合体(P)中の構造単位(a)の含有率である。ただし、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より多い場合、(メタ)アクリル酸は全て塩を形成していると考える。一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より少ない場合、カチオンは全て(メタ)アクリル酸と塩を形成していると考える(すなわち、(メタ)アクリル酸は中和剤に含まれるカチオンの量だけ塩を形成している)。ラジカル重合は、30~90℃の温度で行うことが好ましい。なお、共重合体(P)の重合方法の具体的な例は、後述の実施例において詳しく説明する。
【0053】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられるが、これに限られない。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。重合を水中で行う場合は、水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、重合の際にラジカル重合開始剤と、還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0054】
水性媒体として水を用いることが好ましいが、得られるバインダー用共重合体の重合安定性を損なわない限り、水に親水性の溶媒を添加したものを水性媒体として用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0055】
<2.非水系二次電池電極用バインダー組成物>
本実施形態の非水系二次電池電極用バインダー組成物(または、非水系二次電池電極バインダー組成物。以下、「電極バインダー組成物」とすることもある。)は、電極バインダー、及び媒体として水性媒体を含む。また、電極バインダー組成物は、必要に応じてpH調整剤、界面活性剤等、その他の成分を含んでもよい。
【0056】
電極バインダー組成物に含まれる水性媒体は、水を含む。電極バインダー組成物に含まれる水性媒体は、親水性の溶媒を含んでもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。電極バインダー組成物に含まれる水性媒体において、その中の水の含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
電極バインダー組成物に含まれる媒体は、例えば、共重合体(P)の合成に用いた水性媒体と同じであってもよく、この水性媒体に水等の溶媒をさらに加えたものであってもよい。また、本実施形態の電極バインダー組成物において、電極バインダーは、媒体中に溶解していてもよく、分散していてもよい。
【0058】
電極バインダー組成物中の電極バインダーの含有率は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。電極バインダー組成物の粘度の上昇を抑制し、後述する電極活物質等と混合して、電極スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させるためである。
【0059】
電極バインダー組成物中の電極バインダーの含有率は、3.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、8.0質量%以上であることがさらに好ましい。揮発分の量を抑えることで、より少ない電極バインダー組成物から電極スラリー及び電極を作製することができる。
【0060】
電極バインダー組成物のpHは、4.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、6.0以上であることがさらに好ましい。後述する電極活物質等と混合して、電極スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させるためである。電極バインダー組成物のpHは、10以下であることが好ましく、9.0以下であることがより好ましく、8.0以下であることがさらに好ましい。後述する電極活物質等と混合して、電極スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させるためである。ここで、pHは、液温23℃において、pHメーターにより測定された値である。
【0061】
<3.非水系二次電池電極用スラリー>
本実施形態の非水系二次電池電極用スラリー(または、非水系二次電池電極スラリー。以下、「電極スラリー」とすることもある。)では、電極バインダーと、電極活物質とが、水性媒体に溶解または分散している。本実施形態の電極スラリーは、必要に応じて導電助剤、増粘剤等を含んでもよいが、電極スラリー作製工程を簡単化するためには、増粘剤を含まないほうが好ましい。電極スラリーを調製するためには、各材料が均一に溶解、分散すれば特に制限は無い。電極スラリーを調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して必要な成分を混合する方法が挙げられる。
【0062】
電極スラリーの不揮発分濃度は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。少ない電極スラリーの量でより多くの電極活物質層を形成させるためである。電極スラリーの不揮発分濃度は好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。不揮発分濃度は、水性媒体の量により調整できる。
【0063】
ここで不揮発分濃度とは、特に断りがなければ、混合物を直径5cmのアルミ皿に1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら130℃で1時間乾燥させ後に残った成分の質量の、乾燥前の質量に対する割合である。
【0064】
<3-1.電極バインダーの含有率>
電極スラリー中の電極バインダーの含有量は、電極活物質(後述する)と導電助剤(後述する)と電極バインダーとを合計した質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。電極バインダーにより、電極活物質間、及び電極活物質と集電体との結着性を確保することができるためである。電極スラリー中の電極バインダーの含有量は、電極活物質と導電助剤と電極バインダーとを合計した質量に対して、7.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。電極スラリーから形成される電極活物質層の充放電容量を大きくすることができ、電池としたときの内部抵抗も低くすることができるためである。
【0065】
<3-2.電極活物質>
非水系二次電池は、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池である場合、負極活物質の例として、導電性ポリマー、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物等が挙げられる。導電性ポリマーとして、ポリアセチレン、ポリピロール等が挙げられる。炭素材料としては、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス;有機化合物の炭化物、カーボンファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック;人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛などが挙げられる。シリコン化合物としては、SiO(0.1≦x≦2.0)等が挙げられる。
【0066】
また、電極活物質としては、Siと黒鉛とを含む複合材料(Si/黒鉛)等を用いてもよい。これら活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きい点から、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物を用いることが好ましい。また、コークス、有機化合物の炭化物、黒鉛等の炭素材料、SiO(0.1≦x≦2.0)、Si、Si/黒鉛等のシリコン含有材料であると、本実施形態の電極バインダーによる結着性を向上させる効果が顕著である。例えば、人造黒鉛の具体例としては、SCMG(登録商標)-XRs(昭和電工(株)製)が挙げられる。なお、負極活物質として、ここで挙げた材料を2種類以上複合化してもよい。
【0067】
リチウムイオン二次電池の正極活物質の例として、コバルト酸リチウム(LiCoO);ニッケルを含むリチウム複合酸化物;スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn);オリビン型燐酸鉄リチウム;TiS、MnO、MoO、V等のカルコゲン化合物が挙げられる。正極活物質は、これらの化合物のいずれかを単独で含んでもよく、あるいは複数種を含んでもよい。また、その他のアルカリ金属の酸化物も使用することができる。ニッケルを含むリチウム複合酸化物として、Ni-Co-Mn系のリチウム複合酸化物、Ni-Mn-Al系のリチウム複合酸化物、Ni-Co-Al系のリチウム複合酸化物などが挙げられる。正極活物質の具体例として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3やLiNi3/5Mn1/5Co1/5など挙げられる。
【0068】
<3-3.導電助剤>
電極スラリーは、導電助剤として、カーボンブラック、気相法炭素繊維等を含んでもよい。気相法炭素繊維の具体例としては、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))が挙げられる。
【0069】
<3-4.水性媒体>
電極スラリーの水性媒体は、水を含む。電極スラリーの水性媒体は、親水性の溶媒を含んでもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。水性媒体中の水の含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。電極スラリーの水性媒体は、電極バインダー組成物に含まれる水性媒体と同じでもよい。
【0070】
<4.電極>
本実施形態の電極は、集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する。電極活物質層は、電極活物質、及び本実施形態の電極バインダーを含む。電極の形状としては、例えば、積層体や捲回体が挙げられるが、特に限定されない。集電体は、特に限定されなく、厚さ0.001~0.5mmのシート状の金属であることが好ましい。金属としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合、正極の集電体の材料としてはアルミニウム、負極の集電体の材料としては銅が好ましい。
【0071】
本実施形態の電極は、例えば、電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させることにより製造できるが、この方法に限られない。
【0072】
電極スラリーを集電体上に塗布する方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等が挙げられる。これらの中でも、ドクターブレード法、ナイフ法、またはエクストルージョン法が好ましく、ドクターブレードを用いて塗布することがより好ましい。電極スラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得られるためである。
【0073】
電極スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。電極スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ塗布してもよく、両面同時に塗布してもよい。また、電極スラリーは、集電体の表面に連続して塗布してもよいし、間欠的に塗布してもよい。電極スラリーの塗布量、塗布範囲は、電池の大きさなどに応じて、適宜決定できる。乾燥後の電極活物質層の目付量は、4~20mg/cmであることが好ましく、6~16mg/cmであることがより好ましい。
【0074】
集電体に塗布された電極スラリーを乾燥することにより電極シートが得られる。乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風、真空、(遠)赤外線、電子線、マイクロ波および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。乾燥温度は、40℃以上180℃以下であることが好ましく、乾燥時間は、1分以上30分以下であることが好ましい。
【0075】
電極シートはそのまま電極として用いてもよいが、電極として適当な大きさや形状にするために切断してもよい。電極シートの切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0076】
電極シートを切断する前または後に、必要に応じてそれをプレスしてもよい。それによって電極活物質を電極により強固に結着させ、さらに電極を薄くすることによる非水系電池のコンパクト化が可能になる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができ、特に金型プレス法またはロールプレス法を用いることが好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、プレスによる電極活物質へのリチウムイオン等のドープ/脱ドープに影響を及ぼさない範囲である0.5~5t/cmとすることが好ましい。
【0077】
<5.電池>
本実施形態にかかる電池の好ましい一例として、リチウムイオン二次電池について説明するが、電池の構成は以下に説明する構成に限られない。ここで説明する例にかかるリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、及び必要に応じてセパレータ等の部品が外装体に収容されている。正極と負極のうち少なくとも一方は、本実施形態にかかる電極バインダーを含む。
【0078】
<5-1.電解液>
電解液としては、イオン伝導性を有する非水系の液体を使用する。電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液、イオン液体等が挙げられるが、製造コストが低く、内部抵抗の低い電池が得られるため、前者が好ましい。
【0079】
電解質としては、アルカリ金属塩を用いることができ、電極活物質の種類等に応じ適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、脂肪族カルボン酸リチウム等が挙げられる。また、電解質として、その他のアルカリ金属塩を用いることもできる。
【0080】
電解質を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
<5-2.外装体>
外装体としては、金属やアルミラミネート材などを適宜使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。
【実施例
【0082】
以下に、リチウムイオン二次電池の負極バインダー、負極スラリー、負極、リチウムイオン二次電池についての実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに実施例によって限定されるものではない。
【0083】
<1.負極バインダー(共重合体(P))の作製>
実施例1~7及び比較例1~8で用いた単量体の構成を表2に示した。単量体の構成以外は実施例1~7及び比較例1~8における負極バインダーの製造方法は同様である。単量体及び試薬の詳細は以下の通りである。単量体が溶液として用いられる場合、表中の単量体の使用量は、溶媒を含まないその単量体自体の量を示す。
【0084】
単量体(A-1):N-ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工(株)製)
単量体(B-1):アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液)
単量体(C-1):アクリル酸ベンジル
単量体(C-2):アクリル酸フェノキシエチル
単量体(D-1):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(EVONIK INDUSTRIES製;VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA W)(式(2)中のR=CH、R=H、R=CH、n=45、m=0、m+n=45)の50.0質量%水溶液
単量体(E-1):スチレン
重合開始剤:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬工業社製;V-50)及び過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)
【0085】
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートが組みつけられたセパラブルフラスコに、表2に示される組成の単量体を合計で100質量部と、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩を0.2質量部と、過硫酸アンモニウムを0.05質量部と、水693質量部とを30℃で仕込んだ。これを、80℃に昇温し、4時間重合を行った。
【0086】
その後、負極バインダー(共重合体(P))の含有率が10.0質量%となるように水を加えて(単量体(B-1)に含まれる水を考慮して水の添加量を調節する)、負極バインダー組成物Q1~Q7、及びCQ1~CQ8を調製した。以下の説明において、「共重合体P1~P7、及びCP1~CP8の各々」を「共重合体(P)」、及び「負極バインダー組成物Q1~Q7、及びCQ1~CQ8の各々」を「負極バインダー組成物(Q)」とすることもある。
【0087】
<2.負極バインダー組成物についての各種測定>
共重合体(P)及び負極バインダー組成物(Q)について以下の測定を行った。測定結果は表2に示したとおりである。
【0088】
<2-1.共重合体(P)の重量平均分子量>
共重合体(P)の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
【0089】
GPC装置:GPC‐101(昭和電工(株)製))
溶媒:0.1M NaNO水溶液
サンプルカラム:Shodex Column Ohpak SB-806 HQ(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
リファレンスカラム:Shodex Column Ohpak SB-800 RL(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.1質量%
検出器:RI-71S(株式会社島津製作所製)
ポンプ:DU-H2000(株式会社島津製作所製)
圧力:1.3MPa
流量:1ml/min
分子量スタンダード:プルラン(P‐5、P-10、P‐20、P-50、P‐100、P-200、P-400、P-800、P-1300、P-2500(昭和電工(株)製))
【0090】
<2-2.電極バインダー組成物(Q)のpH>
電極バインダー組成物(Q)のpHを、液温23℃の状態でpHメーター(東亜ディーケーケー製)を用いて計測した。
【0091】
<3.負極スラリーの作製>
黒鉛としてSCMG(登録商標)-XRs(昭和電工(株)製)を76.8質量部と、一酸化ケイ素(SiO)(Sigma-Aldrich製)を19.2質量部と、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))を1質量部と、バインダー組成物(Q)を30質量部(共重合体(P)を3質量部、水を27質量部含む)と、及び水を20質量部と、を混合した。混合は、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間混錬することにより行われた。得られた混合物に、さらに水を53質量部加え、上記混合装置で、さらに2000回転/分で4分間混合し、負極スラリーを調製した。
【0092】
<4.負極スラリーの外観評価>
上記の電池作製にあたって調整した負極スラリーを目視して外観を確認し、凝集物のサイズをマイクロメーターで測定した。負極スラリー10g中に最長寸法1mm以上の凝集物がある場合を×、ない場合を○とした。
【0093】
<5.負極及び電池の作製>
<5-1.負極の作製>
調製した負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が8mg/cmとなるようにドクターブレードを用いて塗布した。負極スラリーが塗布された銅箔を、60℃で10分乾燥後、さらに100℃で5分乾燥して負極活物質層が形成された負極シートを作製した。この負極シートを、金型プレスを用いてプレス圧1t/cmでプレスした。プレスされた負極シートを22mm×22mmに切り出し、導電タブを取り付けて負極を作製した。
【0094】
<5-2.正極の作製>
LiNi1/3Mn1/3Co1/3を90質量部、アセチレンブラックを5質量部、及びポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、その後、N-メチルピロリドン100質量部を混合して正極スラリーを調製した(固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合は0.90)。
【0095】
調製した正極スラリーを、ドクターブレード法により厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が22.5mg/cm(22.5×10-3g/cm)となるようにドクターブレードを用いて塗布した。正極スラリーが塗布されたアルミニウム箔を、120℃で5分乾燥後、ロールプレスによりプレスして、厚さ100μmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。得られた正極シートを20mm×20mm(2.0cm×2.0cm)に切り出し、導電タブを取り付けて正極を作製した。
【0096】
作製した正極の理論容量は、正極スラリーの乾燥後の目付量(22.5×10-3g/cm)×正極スラリーの塗布面積(2.0cm×2.0cm)×LiNi1/3Mn1/3Co1/3の正極活物質としての容量(160mAh/g)×固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合(0.90)で求められ、算出される値は、13mAhである。
【0097】
<5-3.電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とを体積比30:60:10で混合した混合溶媒を調整した。この混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度になるように溶解し、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%の濃度になるように溶解して、電解液を調製した。
【0098】
<5-4.電池の組み立て>
ポリオレフィン多孔性フィルムからなるセパレータを介して、正極と負極とを、それぞれの活物質層が互いに対向するように配して、アルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体の中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーでパッキングし、ラミネート型電池を得た。
【0099】
【表2】
【0100】
<6.負極及び電池の評価>
各実施例及び比較例の負極及び電池の評価をした。評価方法は以下の通りで、評価結果は表2に示した通りである。
【0101】
<6-1.負極のクラックの数>
負極シートの表面を目視して外観を確認し、5cm×20cmの長方形の範囲におけるクラックの数を数えた。
【0102】
<6-2.負極活物質層の剥離強度>
23℃において、負極シート上に形成された負極活物質層と、SUS板とを両面テープ(NITTOTAPE(登録商標) No5、日東電工(株)製)を用いて貼り合わせて剥離強度評価用サンプルを作製した。このサンプルを用いて、負極シートから負極活物質層を、剥離幅25mm、剥離速度100mm/minで180°剥離して得られた剥離力の値を剥離幅25mmで割った数値を剥離強度とした。
【0103】
<6-3.電池の初期効率>
電池の初期効率の測定を、25℃の条件下、以下の手順で行った。まず、4.2Vになるまで0.2Cの電流で充電し(CC充電)、次に、電流0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分放置後、電圧2.75Vになるまで0.2Cの電流で放電(CC放電)した。CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとして、5サイクル繰り返した。nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とする。4サイクル目及び5サイクル目の放電容量の平均値を初期放電容量とし、以下の計算式[1]で初期効率を算出した。正極理論容量は、正極の作製の説明において求めた値である。
【0104】
初期効率(%)={初期放電容量/13mAh(正極理論容量)}×100 [1]
【0105】
<6-4.負極膨れ>
負極の電極膨れの測定は以下の手順で行った。まず、電池の組み立て前にマイクロメーター((株)ミツトヨ製 MDH-25MB)を使用して、負極の厚みを5点測定し、その平均値を初期厚み(μm)とした。次に電池を組み立て、上記の初期効率の測定後、上記と同様にCC充電、CV充電を行い満充電した。その後、電池を解体し、負極を取り出し、乾燥せずに負極の厚みを5点測定し、その平均値を解体時厚み(μm)とした。以下の計算式[2]で負極膨れを算出した。
【0106】
負極膨れ(%)={1-(解体時厚み/初期厚み)}×100 [2]
【0107】
<6-5.電池の放電容量維持率(100サイクル)>
電池の放電容量維持率の測定(電池の充放電サイクル試験)は、25℃の条件下、以下の手順で行った。まず、電圧4.2Vになるまで1Cの電流で充電し(CC充電)、次に、電流0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分放置後、電圧2.75Vになるまで1Cの電流で放電した(CC放電)。CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとする。nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とする。電池のnサイクル目の放電容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対するnサイクル目の放電容量の割合(%)である。本実施例及び比較例では、100サイクル目の放電容量維持率を評価した。
【0108】
<7.評価結果>
表2からわかるように、実施例1~7で作製された負極バインダー及び負極スラリーは、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、集電体に対する電極活物質層の剥離強度を大きく向上できていることがわかる。実施例1~7で作製された負極バインダーによれば、負極スラリー中の凝集物の発生を抑制できていることがわかる。
【0109】
実施例1~7で作製された負極は、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高いことがわかる。実施例1~7で作製された負極は、リチウムイオン二次電池に組み込んだ場合に、電池の使用に伴う負極膨れが小さいことがわかる。
【0110】
実施例1~7で作製されたリチウムイオン二次電池は、クラックが少なく、集電体に対する電極活物質層の剥離強度が高い負極を備えている。実施例1~7で作製されたリチウムイオン二次電池は、初期効率及び放電容量維持率はともに高く、負極膨れを抑制できている。
【0111】
比較例1では、共重合体(P)の合成において、単量体(C)を使用しなかった。比較例1で作製した負極にはクラックが見られた。
【0112】
比較例2では、共重合体(P)の合成において、単量体(C)を使用せずに単量体(D)を使用した。比較例2で作製した負極ではクラックは見られなかったが、負極活物質層の剥離強度が低かった。比較例2で作製した負極は、リチウムイオン二次電池に組み込んだ場合に、電池の使用に伴う負極膨れが大きかった。比較例2で作製したリチウムイオン二次電池は、初期効率及び放電容量維持率が低かった。
【0113】
比較例3では、共重合体(P)の合成において、用いた全単量体中の単量体(A)、(B)、及び(C)の割合が少ない。比較例5では、共重合体(P)の合成において用いた単量体(A)が多く、単量体(B)は少ない。比較例3及び比較例5で作製した電極スラリーには凝集物があった。比較例3及び比較例5で作製した負極にはクラックが見られ、負極活物質層の剥離強度も低かった。比較例3及び比較例5で作製した負極は、リチウムイオン二次電池に組み込んだ場合に、電池の使用に伴う負極膨れが大きかった。比較例3及び比較例5で作製したリチウムイオン二次電池は、初期効率及び放電容量維持率が低かった。
【0114】
比較例4では、共重合体(P)の合成において、単量体(A)を用いなかった。比較例4で作製した負極スラリーには凝集物が見られた。比較例4の負極スラリーは、集電体に対して平坦に塗工することができず、評価可能な負極及び電池の作製はできなかった。
【0115】
比較例6及び比較例7では、共重合体(P)の合成に用いた単量体(C)が多い。比較例8では、共重合体(P)の合成において、単量体(C)の代わりにスチレンを用いた。これらの比較例で作製した負極スラリーには凝集物が見られた。これらの比較例で作製した負極はいずれも、負極活物質層の剥離強度が低く、電池の使用に伴う負極膨れも大きかった。これらの比較例で作製したリチウムイオン二次電池は、初期効率及び放電容量維持率が低かった。