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特許7416270エピタキシャルシリコンウェーハ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エピタキシャルシリコンウェーハ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/322 20060101AFI20240110BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L21/322 J
H01L21/265 Z
H01L21/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022545506
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025864
(87)【国際公開番号】W WO2022044562
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020142329
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 諒
(72)【発明者】
【氏名】門野 武
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/157162(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/104965(WO,A1)
【文献】特表2009-540536(JP,A)
【文献】特開2017-112339(JP,A)
【文献】特開2010-283022(JP,A)
【文献】特開2019-134171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
H01L 21/265
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面に、SiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオンとC(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオンとを含むクラスターイオンビームを照射して、前記シリコンウェーハの表層部に、前記クラスターイオンビームの構成元素が固溶した改質層を形成する工程と、
前記シリコンウェーハの改質層上にシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、
を有し、前記SiHイオンのドーズ量を1.5×1014ions/cm以上とすることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記Cイオンのドーズ量を1.0×1014ions/cm以下とする、請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記クラスターイオンビームの原料ガスがジエチルシランである、請求項1又は2に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記クラスターイオンビームにおいて、xが1、2及び3であり、yが5である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記シリコンエピタキシャル層の厚さが4μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
シリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表層部に形成された、炭素及び水素の少なくとも一方が固溶した改質層と、
前記改質層上に形成されたシリコンエピタキシャル層と、
を有し、
前記改質層の断面TEM画像による欠陥評価において、前記改質層には、最大幅が50~250nmのEOR欠陥が5.0×10個/cm以上の密度で存在する欠陥領域が観察され、
前記シリコンエピタキシャル層及び前記改質層に分布する炭素の量が2.0×1014atoms/cm以下であり、
前記改質層の深さ方向におけるSIMSの水素濃度プロファイルにおいて、ピーク濃度が1.0×1016atoms/cm以上であることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法と、
前記エピタキシャルシリコンウェーハの前記シリコンエピタキシャル層に半導体デバイスを形成する工程と、
を有する半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの前記シリコンエピタキシャル層に半導体デバイスを形成する工程を有する、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルシリコンウェーハ及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ上に単結晶シリコンのエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、パワートランジスタ及びBSI(Back Side Illumination)型のCIS(CMOS Image Sensor)など、種々の半導体デバイスを作製するためのデバイス基板として用いられている。
【0003】
ここで、エピタキシャル層が重金属で汚染されると、CISの暗電流が増加し、白傷欠陥と呼ばれる欠陥が生じるなど、半導体デバイスの特性を劣化させる要因となる。そのため、このような重金属汚染を抑制するために、重金属を捕獲するためのゲッタリングサイトをシリコンウェーハ中に形成する技術がある。その方法の一つとして、シリコンウェーハ中にイオンを注入し、その後エピタキシャル層を形成する方法が知られている。この方法では、イオン注入領域がゲッタリングサイトとして機能する。
【0004】
特許文献1及び特許文献2には、シリコンウェーハの表面に、C等の、構成元素が炭素及び水素からなるクラスターイオンを照射して、前記シリコンウェーハの表層部に、前記クラスターイオンの構成元素が固溶した改質層を形成する工程と、前記シリコンウェーハの改質層上にシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、を有するエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献1では、構成元素が炭素及び水素からなるクラスターイオンを照射して形成した改質層は、炭素のモノマーイオンを注入して得たイオン注入領域よりも高いゲッタリング能力を発揮することを示している。
【0006】
特許文献2には、特許文献1に記載の技術の改良技術として、改質層における厚み方向の一部がアモルファス層となるように、構成元素が炭素及び水素からなるクラスターイオンを高ドーズ量で照射することによって、重金属のゲッタリング能力を向上できることが記載されている。また、特許文献2には、このように高ドーズ量でクラスターイオンを照射した場合、エピタキシャル成長後の改質層の断面TEM画像において、注入炭素等に起因する微小な黒点状欠陥が視認され、この黒点状欠陥がゲッタリング能力の向上に寄与するのではないかとの考察が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/157162号
【文献】国際公開第2015/104965号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2のような、炭素及び水素からなるクラスターイオンの照射技術において、改質層によるゲッタリング能力をより高くするには、クラスターイオンによる炭素ドーズ量を多くすることが有効である。しかしながら、本発明者らの検討によると、高炭素ドーズ量にて作製されたエピタキシャルシリコンウェーハに関しては、特にBSI型のCISの用途など、エピタキシャル層が厚み4μm以下と薄い場合に、電気特性が劣化することがあることが判明した。これは、高炭素ドーズ量の場合、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中に、改質層に存在する高濃度の炭素がシリコンエピタキシャル層に拡散して、シリコンエピタキシャル層に炭素起因の点欠陥が形成されることによるものと推測される。特に、エピタキシャル層が薄い場合には、エピタキシャル層のデバイス形成領域に炭素起因の点欠陥が存在することになる。
【0009】
ただし、このような炭素起因の点欠陥の形成を抑えるべく、クラスターイオンによる炭素ドーズ量を少なくすると、重金属のゲッタリング能力を十分に得ることができない。すなわち、従来の炭素及び水素からなるクラスターイオンの照射技術では、高いゲッタリング能力を得ることと、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散を抑制することとを両立することはできなかった。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散を抑制することが可能なエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を進め、以下の知見を得た。すなわち、炭素及び水素からなるクラスターイオンを低炭素ドーズ量で照射すると、エピタキシャル層への炭素の拡散は抑制できるものの、ゲッタリング能力は不足してしまう。そこで、本発明者らは、低炭素ドーズ量によって低下するゲッタリング能力を補うべく、炭素及び水素からなるクラスターイオンと同時に、炭素以外の構成元素からなるクラスターイオンを照射することを着想した。
【0013】
そして、シリコンウェーハの表面に、C(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオンと、所定ドーズ量以上のSiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオンと、を同時に照射することによって、炭素のドーズ量を低くしたとしても、十分なゲッタリング能力を得ることができることを見出した。
【0014】
ここで、シリコンウェーハの表層部に注入されたSiHイオン由来のSiは、シリコンウェーハを構成するSiと区別することは困難である。しかしながら、本発明者らは、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による分析や、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察によって、Si注入の好ましい影響を間接的に把握することができた。
【0015】
まず、このようにして作製したエピタキシャルシリコンウェーハでは、低炭素ドーズ量であるが故に、シリコンエピタキシャル層及び改質層に分布する炭素の量が少ない。しかしながら、改質層の断面TEM画像において、最大幅が50~250nmのEOR欠陥が視認されることが分かった。これは、炭素注入に起因する黒点状欠陥とは異なり、SiHイオンの注入に起因する欠陥であると推測される。
【0016】
さらに、このようにして作製したエピタキシャルシリコンウェーハでは、低炭素ドーズ量であっても、改質層の深さ方向におけるSIMSの炭素濃度プロファイルにおいて、改質層のエピタキシャル層との界面近傍の位置に急峻なピークが出現すること、さらに、改質層の深さ方向におけるSIMSの水素濃度プロファイルにおいてもピークが出現することが分かった。
【0017】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]シリコンウェーハの表面に、SiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオンとC(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオンとを含むクラスターイオンビームを照射して、前記シリコンウェーハの表層部に、前記クラスターイオンビームの構成元素が固溶した改質層を形成する工程と、
前記シリコンウェーハの改質層上にシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、
を有し、前記SiHイオンのドーズ量を1.5×1014ions/cm以上とすることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0018】
[2]前記Cイオンのドーズ量を1.0×1014ions/cm以下とする、上記[1]に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0019】
[3]前記クラスターイオンビームの原料ガスがジエチルシランである、上記[1]又は[2]に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0020】
[4]前記クラスターイオンビームにおいて、xが1、2及び3であり、yが5である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0021】
[5]前記シリコンエピタキシャル層の厚さが4μm以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0022】
[6]シリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表層部に形成された、炭素及び水素の少なくとも一方が固溶した改質層と、
前記改質層上に形成されたシリコンエピタキシャル層と、
を有し、
前記改質層の断面TEM画像による欠陥評価において、前記改質層には、最大幅が50~250nmのEOR欠陥が5.0×10個/cm以上の密度で存在する欠陥領域が観察され、
前記シリコンエピタキシャル層及び前記改質層に分布する炭素の量が2.0×1014atoms/cm以下であり、
前記改質層の深さ方向におけるSIMSの水素濃度プロファイルにおいて、ピーク濃度が1.0×1016atoms/cm以上であることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0023】
[7]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法と、
前記エピタキシャルシリコンウェーハの前記シリコンエピタキシャル層に半導体デバイスを形成する工程と、
を有する半導体デバイスの製造方法。
【0024】
[8]上記[6]に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの前記シリコンエピタキシャル層に半導体デバイスを形成する工程を有する、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0026】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ100の製造方法を説明する模式断面図である。
図2】原料ガスとしてのジエチルシラン(SiC12)から得られる種々のクラスターイオンのマスフラグメントを示すグラフ(マススペクトル)である。
図3】発明例6における、イオン注入後エピタキシャル層形成前のSIMSによる炭素及び水素の濃度プロファイルを示すグラフである。
図4】発明例1~6及び比較例1,2から求めた、総ドーズ量と注入炭素量との関係を示すグラフである。
図5】発明例6及び比較例1,2,4における、エピタキシャル層形成後のSIMSによる炭素濃度プロファイルを示すグラフである。
図6】発明例6及び比較例1,2における、エピタキシャル層形成後のSIMSによる水素濃度プロファイルを示すグラフである。
図7】発明例6及び比較例1,2における、改質層の断面TEM画像(倍率:20万倍)である。
図8】発明例6における、改質層の断面TEM画像(倍率:100万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図1では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、シリコンウェーハ10に対して改質層14及びシリコンエピタキシャル層16の厚さを誇張して示す。
【0029】
(エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法)
本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ100の製造方法は、図1に示すように、シリコンウェーハ10の表面10Aに、SiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオン12AとC(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオン12Bとを含むクラスターイオン12のビームを照射して、当該シリコンウェーハ10の表層部に、前記クラスターイオンビームの構成元素が固溶した改質層14を形成する第1工程(図1ステップA,B)と、前記シリコンウェーハ10の改質層14上にシリコンエピタキシャル層16を形成する第2工程(図1ステップC)と、を有する。シリコンエピタキシャル層16は、BSI型のCIS等の半導体素子を製造するためのデバイス層となる。
【0030】
[第1工程]
シリコンウェーハ10としては、例えば、表面にエピタキシャル層を有しないバルクの単結晶シリコンウェーハが挙げられる。また、より高いゲッタリング能力を得るために、シリコンウェーハに炭素及び/又は窒素を添加してもよい。さらに、シリコンウェーハに任意のドーパントを所定濃度添加して、いわゆるn+型もしくはp+型、又は、n-型もしくはp-型の基板としてもよい。
【0031】
また、シリコンウェーハ10としては、バルクの単結晶シリコンウェーハ表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハを用いてもよい。シリコンエピタキシャル層は、CVD法により一般的な条件で形成することができる。エピタキシャル層は、厚さが0.1~10μmの範囲内とすることが好ましく、0.2~5μmの範囲内とすることがより好ましい。
【0032】
第1工程では、シリコンウェーハ10の表面10Aに、SiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオン12AとC(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオン12Bとを含むクラスターイオン12のビームを照射する。本明細書における「クラスターイオン」は、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることで種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られる。すなわち、本明細書における「クラスターイオン」は、原子が複数集合して塊となったクラスターに正電荷または負電荷を与え、イオン化したものであり、炭素イオンなどの単原子イオンや、一酸化炭素イオンなどの単分子イオンとは明確に区別される。クラスターイオンの構成原子数は、通常5個~100個程度である。このような原理を用いたクラスターイオン注入装置として、例えば日新イオン機器株式会社製のCLARIS(登録商標)を用いることができる。
【0033】
シリコンウェーハ10に、SiHイオン12AとCイオン12Bとを含むクラスターイオン12のビームを照射すると、その照射エネルギーでシリコンウェーハ10の表層部のシリコンは瞬間的に1350~1400℃程度の高温状態となり、融解する。その後、シリコンは急速に冷却され、シリコンウェーハの表層部に、クラスターイオン12に由来する炭素、水素及びケイ素が固溶する。すなわち、本明細書における「改質層」とは、照射するクラスターイオンの構成元素である炭素、水素及びケイ素の少なくとも一つがシリコンウェーハ表層部の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した層を意味する。ただし、シリコンウェーハの表層部に注入されたSiHイオン由来のSiは、シリコンウェーハを構成するSiと区別することは困難である。そのため、本明細書において「改質層」は、シリコンウェーハの深さ方向における炭素及び水素のSIMS濃度プロファイルにおいて、いずれかの元素の濃度がバックグラウンドよりも高く検出される領域として特定される。クラスターイオンの注入後かつエピタキシャル層形成前の段階では、概ね、シリコンウェーハの表面から500nm以下の表層部が改質層となる。エピタキシャル層形成後の段階では、炭素がシリコンウェーハの表面から内部に拡散するため、シリコンウェーハの表面(エピタキシャル層とのシリコンウェーハとの界面)から2~4μm程度の表層部が改質層となる。
【0034】
詳細は実施例において実験結果に基づいて説明するが、本実施形態では、SiHイオン12AとCイオン12Bとを含むクラスターイオン12を用いることが肝要である。xは1~3の整数から選択される1つ以上であり、すなわち、SiHイオン12Aは、SiHイオン、SiHイオン、及びSiHイオンの一種以上を含む。yは2~5の整数から選択される1つ以上であり、すなわち、Cイオン12Bは、Cイオン、Cイオン、Cイオン、及びCイオンの一種以上を含む。これにより、その後得られるエピタキシャルシリコンウェーハ100において、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制することができる。そのため、エピタキシャル層16のデバイス形成領域に炭素起因の点欠陥が形成されることを抑制することができる。
【0035】
本発明を限定することはないが、本発明者らは、このような効果が得られるメカニズムを以下のように考えている。ケイ素原子は炭素原子よりも質量数が大きいため、SiHイオンの照射により、シリコンウェーハの表層部には大きなダメージ(注入欠陥)が導入され、これが、高いゲッタリング能力に寄与するものと考えられる。すなわち、SiHイオンの注入に起因して、改質層14には比較的大きな注入欠陥が形成される。そして、この注入欠陥に、Cイオンに由来する注入された炭素が集合し、さらにここに水素が捕獲されることによって、高いゲッタリング能力を発揮しうる欠陥(EOR欠陥)の領域が形成されたものと推測される。
【0036】
クラスターイオンの原料となるガス状分子は、上記のSiH(xは1~3の整数から選択される1つ以上)のイオンとC(yは2~5の整数から選択される1つ以上)のイオンとを同時に生成することができるものあれば特に限定されないが、例えば、ジエチルシラン(SiC12)、ブチルシラン(SiC12)、メチルプロピルシラン(SiC12)、ペンチルシラン(SiC14)、メチルブチルシラン(SiC14)、エチルプロピルシラン(SiC14)等を挙げることができる。ただし、これらの原料ガスからはそれぞれ種々のサイズのクラスターイオンを生成することができる。例えば、図2及び表1に示すように、ジエチルシラン(SiC12)からは、質量数26~31の範囲において、CイオンとしてCイオン、Cイオン、Cイオン、及びCイオンが生成され、SiHイオンとしてSiHイオン、SiHイオン、及びSiHイオンが生成される。よって、本実施形態で用いる原料ガスとしては、このジエチルシランが最適である。この中の所望の質量数範囲のクラスターイオン(フラグメント)を抽出することによって、所望のイオン種のクラスターイオンビームを生成することができる。例えば、質量数29~31のフラグメントを抽出すれば、SiHイオンとしてSiHイオン、SiHイオン及びSiHイオンを含み、CイオンとしてCイオンを含むクラスターイオンビームを生成することができる。
【0037】
クラスターイオンの総ドーズ量は、装置設定値として、イオン照射時間を制御することにより調整することができる。本実施形態において、総ドーズ量は、SiHイオンのドーズ量及びCイオンのドーズ量が以下の範囲を満たすように設定することが好ましい。
【0038】
SiHイオンのドーズ量は1.5×1014ions/cm以上とすることが重要である。当該ドーズ量が1.5×1014ions/cm未満の場合、SiHイオンの注入による本発明の効果を十分に得ることができないからである。また、本発明の効果をより十分に得る観点から、当該ドーズ量は3.0×1014ions/cm以上とすることが好ましい。他方で、当該ドーズ量が過多の場合、イオン注入によるシリコンウェーハへのダメージが過多となり、エピタキシャル層形成後に、当該エピタキシャル層に欠陥が発生するため、当該ドーズ量は1.0×1015ions/cm以下とすることが好ましい。
【0039】
イオンのドーズ量は1.0×1014ions/cm以下とすることが好ましい。これにより、注入炭素量を少なくすることができ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制することができる。この観点から、当該ドーズ量は5.0×1013ions/cm以下とすることがより好ましい。他方で、十分なゲッタリング能力を確保する観点からは、当該ドーズ量は1.0×1013ions/cm以上とすることが好ましい。
【0040】
なお、総ドーズ量は装置設定値として把握することができる。しかしながら、Cイオンのドーズ量及びSiHイオンのドーズ量は、個別に把握することができないため、以下のようにして求めるものとする。すなわち、クラスターイオンを照射した後のシリコンウェーハについて、SIMS測定によって、シリコンウェーハの表面から深さ方向における炭素濃度プロファイルを測定し、当該炭素濃度プロファイルから、改質層への注入炭素量を求める。Cイオンの炭素数は2であるため、上記で求めた注入炭素量を2で除した値を「Cイオンのドーズ量」とみなすことができる。また、「SiHイオンのドーズ量」は、総ドーズ量から、上記のようにして求めたCイオンのドーズ量を差し引くことにより、求めることができる。なお、総ドーズ量に占めるCイオンのドーズ量とSiHイオンのドーズ量の比率は、イオン注入装置において、イオンを選別する質量分離装置の分解能、注入するイオンの質量数設定値、原料ガスの導入量、イオン化する際に照射する電子のエネルギーなどの条件によって制御することができ、これら条件を変更しない限り、同じ比率のクラスターイオンを生成することができる(図4の比較例2及び発明例1~3,5を参照)。
【0041】
クラスターイオンの加速電圧は、イオン種とともに、改質層における構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置に影響を与える。本実施形態においては、クラスターイオンの加速電圧を、0keV/ion超え200keV/ion未満とすることができ、100keV/ion以下とすることが好ましく、80keV/ion以下とすることがさらに好ましい。なお、加速電圧の調整には、(1)静電加速、(2)高周波加速の2方法が一般的に用いられる。前者の方法としては、複数の電極を等間隔に並べ、それらの間に等しい電圧を印加して、軸方向に等加速電界を作る方法がある。後者の方法としては、イオンを直線状に走らせながら高周波を用いて加速する線形ライナック法がある。
【0042】
クラスターイオンのビーム電流値は、特に限定されないが、例えば50~5000μAの範囲から適宜決定することができる。クラスターイオンのビーム電流値は、例えば、イオン源における原料ガスの分解条件を変更することにより調整することができる。
【0043】
[第2工程]
シリコンエピタキシャル層16は、一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000~1200℃の範囲の温度でCVD法によりシリコンウェーハ10の改質層14上にエピタキシャル成長させることができる。シリコンエピタキシャル層16は、厚さを1~15μmの範囲内とすることが好ましい。厚さが1μm未満の場合、シリコンウェーハ10からのドーパントの外方拡散によりシリコンエピタキシャル層16の抵抗率が変化してしまう可能性があり、また、15μm超えの場合、CISの分光感度特性に影響が生じるおそれがあるためである。ただし、本実施形態では、シリコンエピタキシャル層16の厚さを4μm以下とすることが好ましい。この場合、本発明の効果を有利に発揮することができる。
【0044】
以上説明した本実施形態の製造方法によって、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0045】
なお、第1工程の後、第2工程に先立ち、シリコンウェーハ10に対して結晶性回復のための回復熱処理を行ってもよい。この場合の回復熱処理としては、例えば窒素ガス又はアルゴンガスなどの雰囲気下、900℃以上1100℃以下の温度で、10分以上60分以下の間、シリコンウェーハ10を保持すればよい。また、RTA(Rapid Thermal Annealing)やRTO(Rapid Thermal Oxidation)などの、エピタキシャル装置とは別個の急速昇降温熱処理装置などを用いて回復熱処理を行うこともできる。
【0046】
(エピタキシャルシリコンウェーハ)
図1を参照して、本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ100は、上記製造方法により得られるものであり、シリコンウェーハ10と、このシリコンウェーハ10の表層部に形成された、炭素及び水素の少なくとも一方が固溶した改質層14と、この改質層14上に形成されたシリコンエピタキシャル層16と、を有する。
【0047】
[SIMSプロファイル]
エピタキシャルシリコンウェーハ100は、シリコンエピタキシャル層16及び改質層14に分布する炭素の量が2.0×1014atoms/cm以下であることが重要である。これにより、注入炭素量を少なくすることができ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制することができる。この観点から、当該炭素量は1.0×1014atoms/cm以下とすることがより好ましい。他方で、十分なゲッタリング能力を確保する観点からは、当該炭素量は2.0×1013atoms/cm以上とすることが好ましい。なお、本発明において、この「炭素量」は、エピタキシャルシリコンウェーハについて、SIMS測定によって、シリコンエピタキシャル層の表面から深さ方向に向かって炭素濃度プロファイル(図5)を測定し、当該プロファイルのエピタキシャル層表面から改質層の終端(シリコンウェーハにおいて炭素濃度プロファイルが平坦になる位置)までの炭素濃度がバックグラウンドよりも高くなる範囲を積分することによって、求めることができる。
【0048】
本実施形態では、例えば図5に示す発明例6のように、シリコンエピタキシャル層及び改質層の深さ方向におけるSIMSの炭素濃度プロファイルにおいて、シリコンエピタキシャル層及び改質層にわたって存在する緩やかな第1ピークと、この第1ピークから突出して、改質層のエピタキシャル層との界面近傍の位置に存在する急峻な第2ピークと、を有する。本実施形態では、注入炭素量が少ないにも関わらず、このような急峻な第2ピークをもつ炭素濃度プロファイルを有する。これにより、十分なゲッタリング能力を発揮することができる。炭素濃度プロファイルにおける急峻な第2ピークのピーク濃度は、2.0×1017atoms/cm以上であることが好ましく、3.0×1017atoms/cm以上であることがより好ましく、1.0×1018atoms/cm以下であることが好ましい。
【0049】
本実施形態では、例えば図6に示す発明例6のように、改質層の深さ方向におけるSIMSの水素濃度プロファイルにおいて、改質層(エピタキシャル層との界面近傍の位置)に、ピーク濃度が1.0×1016atoms/cm以上のピークが存在する。このように、改質層に残留した水素は、エピタキシャル層に半導体デバイスを形成するデバイス形成プロセス時の熱処理によってエピタキシャル層に拡散し、エピタキシャル層内の欠陥をパッシベーションすることが期待される。本実施形態において、水素のピーク濃度は、概ね1.0×1017atoms/cm以下となる。
【0050】
[断面TEM画像]
エピタキシャルシリコンウェーハ100では、改質層の断面TEM画像による欠陥評価において、最大幅が50~250nmのEOR欠陥が5.0×10個/cm以上の密度で存在する欠陥領域が観察される。これは、SiHイオンの注入に起因する欠陥であると推測される。すなわち、この特徴を有することにより、注入炭素量が少ないにも関わらず、十分なゲッタリング能力を発揮することができる。なお、本発明において「EOR(End of Range)欠陥」とは、イオン注入された元素により結晶格子から押し出された原子(本発明では、シリコンウェーハ中のシリコン原子)が、熱処理によって注入飛程(SIMSによる炭素濃度プロファイルのピーク位置)より深い位置で凝集することで形成される、{111}方向の積層欠陥、転移ループ、{311}欠陥などの形態をした欠陥の総称である。EOR欠陥の「最大幅」とは、図8に示すように、TEM画像における各EOR欠陥の最大の幅を意味する。なお、炭素ドーズ量が多い場合には、注入炭素に起因する黒点状欠陥が注入飛程よりも浅い位置に形成されるところ、本発明では、注入する炭素量が少ないことから、断面TEM画像において、注入炭素に起因する黒点状欠陥は視認されない。また、本実施形態において、EOR欠陥の密度は概ね1.0×1015個/cm以下となる。なお、本明細書において「断面TEM画像」とは、エピタキシャルシリコンウェーハ100を厚み方向に劈開し、改質層の劈開断面をTEMを用いて観察した画像をいう。また、本発明において「EOR欠陥密度」は、以下のようにして求める。図7の発明例6のTEM画像から明らかなように、本発明においてEOR欠陥はほぼ同じ深さ位置(具体的には、SIMS測定により検出される炭素濃度ピーク位置よりもわずかに深い位置)に密集して発生する。そこで、EOR欠陥が発生する領域を含むように、SIMS測定した際に観察される炭素濃度ピークの深さ位置周辺からTEM評価用サンプルを切り出し、この評価サンプルをTEM観察する。そして、図7に示すように、EOR欠陥を含むように、密度算出エリア(つまり、欠陥領域)を縦(深さ)300nmに設定し、当該エリア内で観察される最大幅50~250nmの欠陥数をカウントし、当該欠陥数を当該エリアの面積で除することによって、EOR欠陥密度(個/cm)とする。なお、図7の例では、密度算出エリアは縦300nm×横3μmの領域としたが、横の長さは特に限定されない。
【0051】
(半導体デバイスの製造方法)
本発明の一実施形態による半導体デバイスの製造方法は、上記エピタキシャルシリコンウェーハ100の製造方法の各工程と、シリコンエピタキシャル層16に半導体デバイスを形成する工程と、を有する。また、本発明の他の実施形態による半導体デバイスの製造方法は、上記エピタキシャルシリコンウェーハ100のシリコンエピタキシャル層16に半導体デバイスを形成する工程を有する。これらの製造方法によれば、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル層のデバイス形成領域に炭素起因の点欠陥が形成されることを抑制できる。
【0052】
シリコンエピタキシャル層16に形成する半導体デバイスは特に限定されず、例えば、MOSFET、DRAM、パワートランジスタ及び裏面照射型固体撮像素子などを挙げることができる。
【実施例
【0053】
[シリコンウェーハの用意]
CZ単結晶シリコンインゴットから得たn型シリコンウェーハ(直径:300mm、厚さ:775μm、ドーパント種類:リン、抵抗率:10Ω・cm)を用意した。
【0054】
[クラスターイオン照射]
表2に示すように、クラスターイオン照射条件の異なる8つの実験(発明例1~6及び比較例1~4)を行った。
【0055】
(発明例1~6及び比較例1,2)
発明例1~6及び比較例1,2では、原料ガスとしてジエチルシラン(SiC12)を用いた。図2に、ジエチルシランのマススペクトルを示す。また、図2に示したマススペクトル中の質量数26~31に対応するイオン種を、表1に示す。質量数31のピークは、SiHイオンに対応する。質量数30の低めのピークは、SiHイオンに対応する。質量数29のピークは、SiHイオンとCイオンに対応する。質量数28、質量数27、及び質量数26のピークは、それぞれCイオン、Cイオン、及びCイオンに対応する。本実施例では、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、CLARIS(登録商標))を用いて、図2に示すマススペクトルに対応する種々のイオン種のうち、質量数29~31の範囲のイオン種を抽出してクラスターイオンビームを得て、シリコンウェーハの表面に、このクラスターイオンビームを加速電圧80keV/ionで照射した。このクラスターイオンビームは、SiHイオンとしては、主にSiHイオンを含み、さらに微量のSiHイオン及びSiHイオンを含み、さらに、Cイオンとしては、Cイオンを含む。前記クラスターイオン発生装置では、全てのイオン種の総ドーズ量を設定できるので、発明例1~6及び比較例1,2では、表2に示す総ドーズ量を装置設定値とした。
【0056】
【表1】
【0057】
発明例1~6及び比較例1,2では、Cイオンのドーズ量及びSiHイオンのドーズ量を以下のように求めた。まず、クラスターイオン照射後(エピタキシャル成長前)のシリコンウェーハについて、SIMS測定によって、シリコンウェーハの表面から深さ方向における炭素及び水素の濃度プロファイルを測定した。代表して、発明例6における濃度プロファイルを図3に示す。図3では、水素濃度プロファイルはシリコンウェーハの表面から約150nmの範囲でバックグラウンドよりも高くなり、炭素濃度プロファイルはシリコンウェーハの表面から約300nmの範囲でバックグラウンドよりも高くなっている。よって、発明例6では、シリコンウェーハの表層部約300nmが改質層として特定された。この炭素濃度プロファイルの横軸30nmから300nmまでを積分することによって、改質層への注入炭素量を求めた。発明例1~5及び比較例1,2でも、同様にして注入炭素量を求めた。結果を表2に示す。
【0058】
イオンの炭素数は2であるため、上記で求めた注入炭素量を2で除した値を「Cイオンのドーズ量」として、表2に示した。また、総ドーズ量からCイオンのドーズ量を差し引いて求めた「SiHイオンのドーズ量」も、表2に示した。ここで、発明例1~6及び比較例1,2から求めた、総ドーズ量と注入炭素量との関係を図4に示す。図4に示すように、比較例1及び発明例6では、注入炭素量は総ドーズ量の10%であり、比較例2及び発明例1~3,5では、注入炭素量は総ドーズ量の7%であり、発明例4では、注入炭素量は総ドーズ量の4%であることが分かった。
【0059】
(比較例3,4)
比較例3,4では、原料ガスとしてシクロヘキサンを用いてCクラスターイオンを生成及び抽出し、シリコンウェーハの表面に加速電圧80keV/ionで照射した。Cクラスターイオンのドーズ量は表2の「総ドーズ量」の欄に示した。比較例3では、注入炭素量が発明例6のそれと同じとなるように、比較例4では、注入炭素量が発明例6のそれの10倍となるようにドーズ量を設定した。比較例3,4においても、発明例1~6及び比較例1,2と同様に、クラスターイオン照射後の炭素濃度プロファイルから炭素注入量を求め、表2に示した。
【0060】
[エピタキシャル成長]
次いで、クラスターイオン照射後のシリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した後、水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガスとして、1120℃でCVD法により、シリコンウェーハの改質層が形成された側の表面上にシリコンエピタキシャル層(厚さ:5μm、ドーパント種類:リン、抵抗率:10Ω・cm)をエピタキシャル成長させて、エピタキシャルシリコンウェーハを得た。
【0061】
[SIMS分析]
発明例1~6及び比較例1~4のエピタキシャルシリコンウェーハについて、SIMS測定によって、シリコンエピタキシャル層の表面から深さ方向における炭素及び水素の濃度プロファイルを測定した。そのうち、発明例6及び比較例1,2,4における炭素濃度プロファイルを図5に示し、発明例4及び比較例1,2における水素濃度プロファイルを図6に示す。
【0062】
図5を参照して、発明例6では、シリコンウェーハの表層部の約2.5μm(つまり、シリコンエピタキシャル層/シリコンウェーハの界面から約2.5μm)の範囲で、炭素濃度がバックグラウンドよりも高くなっている。図6を参照して、発明例6では、シリコンウェーハの表層部の約0.3μm程度の極狭い範囲において、水素濃度がバックグラウンドよりも高くなっている。このことから、発明例6では、シリコンウェーハの表層部約2.5μmが改質層として特定された。なお、炭素濃度がバックグラウンドよりも高くなる範囲がエピタキシャル成長前よりも大きくなったのは、エピタキシャル成長に伴い、注入された炭素がシリコンウェーハの表面から深さ方向に拡散したためと考えられる。また、図5からは、エピタキシャル成長に伴い、エピタキシャル層にも炭素が拡散していることが読み取れる。なお、シリコンエピタキシャル層及び改質層に分布する炭素量は、各条件において炭素濃度がバックグラウンドよりも高くなる範囲(発明例6の場合、図5の横軸3.0μmから7.5μmまで)を積分した炭素量として算出され、表2の「エピ後炭素量」の欄に示す。
【0063】
図5から明らかなように、発明例6及び比較例1,2,4のいずれにおいても、炭素濃度プロファイルにおいて、シリコンエピタキシャル層及び改質層にわたって緩やかな第1ピークが存在する。さらに、発明例6及び比較例4では、この緩やかな第1ピークから突出して、改質層のエピタキシャル層との界面近傍の位置に急峻な第2ピークが出現した。表2には、炭素の第2ピークの有無とピーク濃度を示した。比較例4では、注入炭素量が多いことから、このような急峻なピークが出現したものと思われる。ただし、発明例6では、注入炭素量が少ないにも関わらず、このような急峻なピークが出現した。発明例6でこのような急峻なピークが出現したのは、SiHイオンを注入したことによる影響であると考えられる。
【0064】
図6から明らかなように、発明例6では、水素濃度プロファイルにおいて、改質層のエピタキシャル層との界面近傍の位置に、ピーク濃度が1.0×1016atoms/cm以上のピークが出現した。図6には示していないが、比較例4も同様であった。他方で、比較例1,2では、このようなピークは出現しなかった。比較例4では、注入炭素量が多いことから、この位置に局所的に炭素が存在し、そこに水素も捕獲されているものと思われる。ただし、発明例6では、注入炭素量が少ないにも関わらず、このようなピークが出現した。発明例でこのようなピークが出現したのは、SiHイオンを注入したことによる影響であると考えられる。
【0065】
なお、発明例1~5に関しても、発明例6と同様の炭素濃度プロファイル及び水素濃度プロファイルを有しており、表2に、第2ピークのピーク濃度、エピ後炭素量、及び水素ピーク有無を示した。比較例3についても、表2に、第2ピークのピーク濃度、エピ後炭素量、及び水素ピーク有無を示した。
【0066】
[断面TEM観察]
発明例1~6及び比較例1~4のエピタキシャルウェーハの改質層(エピタキシャル層との界面近傍)の断面をTEM観察し、代表して、発明例6及び比較例1,2において得られたTEM画像を図7に示し、発明例6における図7とは別視野のTEM画像を図8に示す。発明例6では、最大幅が50~250nmのEOR欠陥が観察された。発明例1~5でも同様であった。これは、SiHイオンの注入に起因する欠陥であると推測される。なお、比較例4のTEM画像(図示せず)においては、直径が5nm程度の黒点状欠陥が、注入飛程よりも浅い位置に観察された。これは、比較例4では注入炭素量が多いことから、注入炭素に起因する欠陥であると考えられる。表2には、発明例1~6及び比較例1~4に関して、黒点状欠陥の有無と、EOR欠陥の密度を示した。
【0067】
[SIMSプロファイルと断面TEM観察からの考察]
SIMSプロファイルと断面TEM観察を合わせて考慮すると、発明例1~6では、以下のような現象が起きたものと推測される。SiHイオンの注入に起因して、改質層のエピタキシャル層との界面近傍に、比較的大きな注入欠陥が形成される。この注入欠陥に、Cイオンに由来する注入された炭素が集合し、さらにここに水素が捕獲されることによって、高いゲッタリング能力を発揮しうるEOR欠陥領域が形成されたものと推測される。
【0068】
[エピタキシャル成長後の炭素拡散量の評価]
発明例1~6及び比較例1~4において、図5に示す炭素濃度プロファイルの4.0μmから4.9μmまでを積分することによって、エピタキシャル成長に伴う、改質層からエピタキシャル層への炭素の拡散量を求めた。結果を表2に示す。表2から明らかなように、発明例1~6では、比較例4よりも炭素注入量を少なくした結果、炭素拡散量も比較例4より減らすことができた。
【0069】
[デバイス模擬熱処理後の炭素拡散量の評価]
発明例1~6及び比較例1~4において、デバイス模擬熱処理条件(1050℃、2.5時間、窒素ガス雰囲気)にて熱処理を行った後、炭素濃度プロファイルの0.2μmから4.9μmまでを積分することによって、デバイス模擬熱処理に伴う改質層からエピタキシャル層への炭素拡散量を求めた。結果を表2に示す。表2から明らかなように発明例1~6では、比較例4よりも炭素注入量を少なくした結果、炭素拡散量も比較例4より減らすことができた。
【0070】
[ゲッタリング能力の評価]
発明例1~6及び比較例1~4において、エピタキシャルシリコンウェーハのエピタキシャル層の表面を、Ni汚染液を用いてスピンコート汚染法により強制的に汚染し、次いで、窒素ガス雰囲気中において900℃で60分間の熱処理を施した。その後、各エピタキシャルウェーハについてSIMS測定を行い、ウェーハの深さ方向におけるNi濃度プロファイルを測定し、ピーク面積を求めた。ピーク面積が大きいほど、多くのNiを捕獲できているため、ゲッタリング能力が高いと評価できる。そこで、ピーク面積をNi捕獲量として、表2に示した。また、Cu汚染液を用いて同様の試験を行い、同様にしてCu捕獲量を求め、表2に示した。
【0071】
表2から明らかなように、発明例6では、炭素注入量が発明例の10倍である比較例4と同等の高いゲッタリング能力を発揮していた。発明例1~5でも、高いゲッタリング能力を発揮した。
【0072】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、ゲッタリング能力を確保しつつ、エピタキシャル成長中及びデバイス形成プロセス中にエピタキシャル層への炭素の拡散が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【符号の説明】
【0074】
100 エピタキシャルシリコンウェーハ
10 シリコンウェーハ
10A シリコンウェーハの表面
12 クラスターイオン
12A SiHイオン
12B Cイオン
14 改質層
16 シリコンエピタキシャル層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8