(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】微生物担体及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/096 20200101AFI20240110BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240110BHJP
C02F 3/06 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N11/096
C02F3/34 101D
C02F3/06
(21)【出願番号】P 2023523221
(86)(22)【出願日】2023-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2023010639
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022059131
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 久典
(72)【発明者】
【氏名】川岸 朋樹
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-296284(JP,A)
【文献】特開2004-136182(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109096525(CN,A)
【文献】特開2007-125460(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111072132(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00-34、11/04
C12N 11/00-18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱窒能力を有する従属栄養性脱窒菌を担持する微生物担体であって、
生分解性ポリエステルと鉄とを含有する鉄含有担体
と、生分解性ポリエステルとリンとを含有するリン含有担体とを含み、
前記鉄含有担体が、三価の鉄を含有し、
前記鉄含有担体中のリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、
前記鉄含有担体がリンを含有する場合、0<X≦0.5であり、
前記鉄含有担体がリンを含有しない場合、X=0であり、
前記鉄含有担体の鉄含有率が、鉄含有担体の質量に対して1.0×10
-4質量%以上2.0質量%未満であ
り、
前記リン含有担体中の鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、前記リン含有担体が鉄を含有する場合、0<Y≦0.1であり、前記リン含有担体が鉄を含有しない場合、Y=0である、微生物担体。
【請求項2】
前記生分解性ポリエステルが、ジカルボン酸由来の構成単位を2種類以上含む、請求項1に記載の微生物担体。
【請求項3】
前記微生物担体が、さらに前記生分解性ポリエステルを分解する能力を有する微生物を担持する微生物担体である、請求項1
または2に記載の微生物担体。
【請求項4】
脱窒能力を有する従属栄養性脱窒菌を担持する微生物担体を用いる水処理方法であって、
前記微生物担体は、生分解性ポリエステルと鉄とを含有する鉄含有担体
と、生分解性ポリエステルとリンとを含有するリン含有担体とを含み、
前記鉄含有担体が、三価の鉄を含有し、
前記鉄含有担体中のリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、
前記鉄含有担体がリンを含有する場合、0<X≦0.5であり、
前記鉄含有担体がリンを含有しない場合、X=0であり、
前記鉄含有担体の鉄含有率が、鉄含有担体の質量に対して1.0×10
-4質量%以上2.0質量%未満であ
り、
前記リン含有担体中の鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、前記リン含有担体が鉄を含有する場合、0<Y≦0.1であり、前記リン含有担体が鉄を含有しない場合、Y=0である、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物担体及び水処理方法に関する。
本願は、2022年3月31日に、日本国特許庁に出願された特願2022-059131号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア態窒素を含有する被処理水の処理方法として、微生物を用いた2段階の反応を用いる方法が知られている。当該方法は、硝化する能力を有する微生物(以下、「硝化菌」という場合もある)を用いてアンモニアを硝酸に変換する硝化反応と、脱窒する能力を有する微生物(以下、「脱窒菌」という場合もある)を用いて硝酸を窒素に分解する脱窒反応とからなり、発生する窒素が空気中に放出されるため、環境調和型の窒素除去方法である。
【0003】
脱窒反応に用いられる脱窒菌の多くは従属栄養細菌であるため、脱窒反応には炭素源を要する。代表的な炭素源としては、メタノールが知られているが、メタノールは毒性を有し、作業の安全上問題がある。また、安定した脱窒能を得るためには、硝酸態窒素の濃度に応じた量のメタノールを被処理水に供給する必要があるところ、その供給量のコントロールは容易ではない。さらに、例えば水生生物の飼育水の脱窒処理を行う場合は、消費されずに残存したメタノールが水生生物に害を及ぼすといった問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、メタノールに代え、生分解性樹脂を被処理水に添加する生物学的脱窒法が提案されている。生分解性樹脂は、炭素源の徐放性を有するため、添加量の精密なコントロールを要することなく、脱窒能を持続させることができる点でメリットがある。しかしながら、脱窒速度、脱窒量等の脱窒効率は十分なレベルには至っていない。近年、環境保護の観点から硝酸性窒素の排出基準が厳しくなってきており、さらに脱窒効率の高い脱窒処理方法の開発が求められている。
【0005】
脱窒効率を高める手段としては、脱窒菌の増殖、活性化等を促進することが考えられる。ここで、脱窒菌は、リン酸塩等の栄養剤、ミネラルの活性化剤等により活性化することが知られている。特許文献2には、ミネラルの活性化剤等を複合させた微生物担体が提案されている。しかしながら、脱窒効率の向上に適切な元素種、濃度等の詳細は未だ不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-175848号公報
【文献】特開2004-008923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生分解性樹脂を含有する微生物担体(以下、単に「担体」という場合がある)を用いた生物学的脱窒処理では、脱窒菌は担体の表面に定着してバイオフィルムを形成する。そして、脱窒に必要な炭素源は、主に担体を構成する生分解性樹脂から補われるが、ここでは炭素源の他に、リン酸塩等の栄養剤や、ミネラル等の活性化剤の補充も必要である。特に、鉄は、脱窒菌が担体に効率よく定着することでバイオフィルムを形成するため、効率よく脱窒するために必須な成分である。
【0008】
よって、脱窒反応においては、脱窒菌が良好に鉄を取り込めることが重要である。鉄成分を補うために、予め被処理水に鉄または鉄化合物を添加し補充する方法が考えられるが、脱窒菌が活性を保つことができるpH中性付近では、鉄は酸素により速やかに酸化されることで3価の鉄として存在する。3価の鉄は、主に難溶解性の水酸化鉄となって沈殿する。このため、被処理水中の鉄濃度が低下し易く、脱窒菌が良好に鉄を取り込めないとの課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、脱窒効率が安定化し良好となる微生物担体、及びこれを用いた水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、脱窒菌が取り込むことができる鉄は担体表面の近傍に存在する鉄のみであることから、脱窒菌に鉄を効率よく供給するためには、生分解性樹脂に鉄を含有した鉄含有担体が有効であることを見出した。さらに、脱窒が良好となるために、より適した、鉄化合物の種類、リン化合物との組み合わせ方の条件を見出した。
【0011】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 脱窒能力を有する微生物を担持する微生物担体であって、
生分解性樹脂と鉄とを含有する鉄含有担体を含み、
前記鉄含有担体中のリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、
前記鉄含有担体がリンを含有する場合、0<X≦0.5であり、
前記鉄含有担体がリンを含有しない場合、X=0であり、
前記鉄含有担体の鉄含有率が、鉄含有担体の質量に対して1.0×10-4質量%以上2.0質量%未満である、微生物担体。
[2] 生分解性樹脂とリンとを含有するリン含有担体をさらに含み、
前記リン含有担体中の鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、
前記リン含有担体が鉄を含有する場合、0<Y≦0.1であり、
前記リン含有担体が鉄を含有しない場合、Y=0である、[1]に記載の微生物担体。
[3] 前記鉄含有担体が、三価の鉄を含有する、[1]または[2]に記載の微生物担体。
[4] 前記生分解性樹脂が、生分解性ポリエステルである、[1]~[3]のいずれかに記載の微生物担体。
[5] 前記生分解性ポリエステルが、ジカルボン酸由来の構成単位を2種類以上含む、[4]に記載の微生物担体。
[6] 前記微生物担体が、さらに前記生分解性樹脂を分解する能力を有する微生物を担持する微生物担体である、[1]~[5]のいずれかに記載の微生物担体。
[7] 脱窒能力を有する微生物を担持する微生物担体を用いる水処理方法であって、
前記微生物担体は、生分解性樹脂と鉄とを含有する鉄含有担体を含み、
前記鉄含有担体中のリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、
前記鉄含有担体がリンを含有する場合、0<X≦0.5であり、
前記鉄含有担体がリンを含有しない場合、X=0であり、
前記鉄含有担体の鉄含有率が、鉄含有担体の質量に対して1.0×10-4質量%以上2.0質量%未満である、水処理方法。
[8] 前記微生物担体が、生分解性樹脂とリンとを含有するリン含有担体をさらに含み、
前記リン含有担体中の鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、
前記リン含有担体が鉄を含有する場合、0<Y≦0.1であり、
前記リン含有担体が鉄を含有しない場合、Y=0である、[7]に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微生物担体及び水処理方法によれば、脱窒効率が安定化し良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、脱窒処理システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明するが、以下の説明は、実施形態の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
用語の意味は、以下の通りである。
脱窒菌とは、脱窒する能力を有する微生物を意味する。
分解菌とは、生分解性樹脂を分解する能力を有する微生物を意味する。
微生物とは、脱窒菌および分解菌を含む微生物を意味する。脱窒菌と分解菌とは、同一種の微生物である場合もある。つまり、脱窒菌および分解菌の両方に該当する微生物が存在し得る。
低分子有機分とは、微生物により生分解性樹脂が分解されることで、低分子量化した有機分を意味する。
担体Aとは、生分解性樹脂と鉄とを含有する鉄含有担体を意味する。担体Aは、リンをさらに含有していてもよい。
担体Bとは、生分解性樹脂とリンとを含有するリン含有担体を意味する。担体Bは、鉄をさらに含有していてもよい。
微生物担体とは、1以上の担体Aを含む担体を意味する。微生物担体は、1以上の担体Bもさらに含んでいてもよい。
全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)は、水中に存在する有機物の濃度を意味する。TOCは、日東精工アナリテック社製「TOC-300V」を用いて、燃焼式のTOC分析装置を用いて測定される。
全鉄とは、水中に含まれる溶解性及び非溶解性の鉄を意味する。全鉄は、JIS K0102 57.4に記載のICP発光分光分析法により測定される。
全リンとは、水中に含まれる溶解性及び非溶解性のリンを意味する。全リンは、JIS K0102 46.3.1~3に記載のモリブデン青吸光光度法により測定される。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。本明細書に開示の数値範囲は、その下限値および上限値を任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0016】
<微生物担体>
一実施形態に係る微生物担体について、詳細に説明する。
微生物担体は、脱窒能力を有する微生物を担持する微生物担体である。
微生物担体は、少なくとも1つの担体Aを含む。微生物担体は2以上の担体Aを含んでいてもよい。微生物担体は、担体Aに加えて、さらに、1以上の担体Bを含んでいてもよい。微生物担体は、2種以上の担体を含む場合、それらの担体の集合体である。
微生物担体は、生分解性樹脂を分解する能力を有する微生物を担持する微生物担体であることが好ましい。
【0017】
鉄は、鉄化合物に由来するものであり、鉄化合物の状態で担体Aに含有されることが好ましい。また、pH6~8の中性域の水に対し、不溶解性の性質をもつ鉄化合物が好ましく、鉄化合物の種類としては、三価の鉄が含まれる酸化鉄(III)、酸化鉄(II、III)、水酸化鉄(III)等が挙げられる。
【0018】
これらの鉄化合物を含有する担体Aであれば、被処理水中において、担体Aの表面近傍におけるpHが、担体表面に定着した微生物が活動するのに適したpH域で保たれる。そのため、担体Aから鉄が補充された後に、脱窒促進の効果が効率よく発揮される。また、微生物が生分解性樹脂を分解して脱窒を行う際に、担体Aの三価の鉄は、微生物の働きにより二価の鉄に還元されて微生物に取り込まれるか、または、三価の鉄の状態で微生物に取り込まれる。
【0019】
したがって、微生物によって取り込まれること以外で、担体Aから鉄が解離することがなく、被処理水中側に余剰な鉄が放出されて残留することがないため、微生物による脱窒に必要な鉄を効率よく補充することができる。
【0020】
一般的に、微生物が取り込める鉄は、主に二価の鉄である。しかし、二価の鉄は溶出により処理水を酸性にする。酸性下において、二価の鉄は三価に酸化されてしまうため、微生物が鉄を効率的に取り込むことができない。三価の鉄の場合、処理水は中性を示し、微生物の働きによって三価の鉄が二価に還元され、微生物が鉄を効率的に取り込むことができる。
【0021】
担体Aの鉄含有率C(Fe)は、担体Aの質量に対し、1.0×10-4質量%以上2.0質量%未満が好ましく、2.0×10-4質量%以上1.8質量%以下がより好ましく、5.0×10-4質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましく、1.5×10-3質量%以上8.0×10-1質量%以下が特に好ましい。分解菌は、担体Aの表面において、生分解性樹脂を低分子有機分に分解し消費すると同時に、表面近傍の溶存酸素も消費することで、担体Aの表面近傍を無酸素に近い環境に誘導する。その後、脱窒菌が、担体Aの鉄を取り込み利用することで、脱窒を行う。担体Aの鉄含有率が上記の範囲内であれば、分解菌が低分子有機分を効率よく生成し消費し、無酸素環境が良好に形成されるため、脱窒が速やかに安定化し良好となる。担体Aの鉄含有率が1.0×10-4質量%以上であれば、担体Aによる鉄の補充が十分になされ、脱窒効率が良くなる。担体Aの鉄含有率が2.0質量%未満であれば、分解菌により低分子有機分が消費されると同時に無酸素環境が形成され、脱窒が安定化し、脱窒効率が良くなる。鉄含有率が2.0質量%以上では、バイオフィルムを担体Aの表面に形成する過程で、担体Aから鉄イオンが溶出する際にバイオフィルムが凝集することで、脱窒性能の低下を招くと推測される。
【0022】
また、脱窒菌が担体Aに定着し、低分子有機分を効率よく消費するためには、リンも重要な栄養源である。微生物担体がリンを含有することは、脱窒菌に対してリンを効率よく補充するのに有効である。
【0023】
担体Aがリンを含有する場合、担体Aに含有されるリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、0超0.5以下(0<X≦0.5)であり、0.1以下であることが好ましく、0.05以下がより好ましい。担体Aにおいてリン/鉄のモル比Xが上記範囲であれば、鉄及びリンが効率よく微生物に補充されるため、脱窒効率が改善する。
【0024】
担体Aにおいてリン/鉄のモル比Xが所定値以上になると、鉄はリン酸鉄(III)のような生物が取り込みにくい化合物になる。担体Aは、リンより鉄が多く含有される担体であり、微生物に鉄を補充するが、脱窒菌の活動が活発になる嫌気性環境下では、三価の鉄の一部が微生物により二価の鉄に還元され、リン酸鉄(III)も一部が微生物に取り込まれるようになると推察される。
【0025】
担体Aがリンを含有しない場合、リンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、0(X=0)である。
【0026】
また、担体Aに対し、生分解性樹脂とリンとを含有する担体Bを組み合わせて使用することで、鉄及びリンの補充による脱窒効率の改善が期待できる。担体Aと担体Bとを組み合わせる場合の混合比は、質量比で担体A/担体Bが10/90以上であることが好ましい。この範囲であれは、鉄及びリンが効率よく微生物に補充されるため、担体Aおよび担体Bへの微生物の定着が良好になり、脱窒効率が改善する。
【0027】
担体Bのリン含有率は、特に制限はないが、担体Bの重量に対し、0.002~0.5質量%が好ましく、0.005~0.1質量%がより好ましい。リン含有率が上記範囲であれば、リンが効率よく微生物に補充される。そのため、微生物担体への微生物の定着が良好になり、脱窒効率が改善する。
【0028】
担体Bが鉄を含有する場合、担体Bに含有される鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、0超0.1以下(0<Y≦0.1)であり、0.05以下であることが好ましい。担体Bにおいて鉄/リンのモル比Yが上記範囲であれば、鉄及びリンが効率よく微生物に補充されるため、脱窒効率が改善する。
【0029】
担体Bが鉄を含有しない場合、鉄とリンとのモル比(鉄/リン)Yは、0(Y=0)である。
【0030】
担体Bは、鉄よりもリンが多く含有される担体であり、担体Bは好気性環境下、嫌気性環境下、無酸素環境下のいずれでも微生物にリンを補充するが、好気性環境下では、三価の鉄は還元されず、リン酸鉄(III)は生物に取り込まれにくいままの状態となる。よって、担体Aが鉄を補充しやすい嫌気性環境下又は無酸素環境下では、リン酸鉄(III)は比較的微生物に取り込まれやすい。これに対して、担体Bは好気性環境下、嫌気性環境下、無酸素環境下のいずれでもリンを補充できるが、好気性環境下では、リン酸鉄(III)は微生物に取り込まれにくい。このため、担体Aの鉄に対するリンのモル比Xの上限は、担体Bのリンに対する鉄のモル比Yの上限よりも大きくなると考えられる。
【0031】
担体Aおよび担体Bに含有されるリンとしては、特に制限はないが、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のカルシウム化合物やマグネシウム化合物が挙げられる。
【0032】
担体A、担体Bの鉄含有率C(Fe)(質量%)、リン含有率C(P)(質量%)は、以下の(I)~(VII)の方法で測定される。
(I)担体Aまたは担体Bを10gと、2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を30mlとを、容量50~100mlの耐圧チューブ内に測り取り、しっかりと蓋をする。
(II)105℃で12時間加熱した後、20℃付近まで市水等で冷却する。
(III)冷却後、耐圧チューブ内に存在する水溶液αを全量取り出し、200mlのガラスビーカーへと移す。
(IV)2mol/lの塩酸を用いて、水溶液αのpHを7.0に調整する。
(V)pH調整した水溶液αを100mlメスフラスコに移し、さらに純水を加えて水溶液αの体積を100mlに調整する。
(VI)水溶液αのTOCα(mg/l)、全鉄α(mg/l)、全リンα(mg/l)を上述した測定方法によって測定する。
(VII)以下の式1により、鉄含有率C(Fe)が求められる。また、以下の式2により、リン含有率C(P)が求められる。
【0033】
C(Fe)(質量%)=全鉄α(mg/l)÷TOCα(mg/l)×100 …式1
C(P)(質量%)=全リンα(mg/l)÷TOCα(mg/l)×100 …式2
【0034】
担体Aに含有される鉄は、pH6~8の水に対し、不溶解性の性質をもつ鉄化合物が好ましい。担体Aに、pH6~8の中性域の水に対し、溶解性の性質をもつ鉄化合物が含有される場合、担体Aを水中に浸漬した際に、溶解性の鉄化合物が担体Aから水中へ速やかに溶出し、担体Aの表面近傍のpHが5未満に低下する。このため、担体Aへの微生物の定着、および微生物の活性が著しく低下する。
【0035】
担体A及び担体Bの形状は、特に限定されず、円柱状、球状、円筒状、チップ状等、いずれの形状であってよい。脱窒槽への充填のし易さを考慮すると、担体A及び担体Bの形状は、円柱状、球状、円筒状等であることが好ましい。
【0036】
本発明の微生物担体は、生分解性樹脂を含有する。この生分解性樹脂の加水分解によって生成される低分子量有機成分が、脱窒に必要な炭素源として利用される。
【0037】
生分解性樹脂は、生分解性ポリエステルであることが好ましい。生分解性ポリエステルとしては、例えば、PLA(polylactic acid)系、PBS(polybutylene succinate)系、PCL(poly caprolactone)系、PHBH(poly-3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyhexanoate)やPHBV(poly―3-hydroxybutyrate―co―3-hydroxyvalerate)等のPHB(poly hydroxybutyrate)系、PHA(polyhydroxy alkanoate)系、P3HA(poly-3-hydroxyrate)系、PBAT(polybutylene adipate/terephthalate)、poly(terephthalate/succinate)、等が挙げられる。
生分解性ポリエステルの中でも、ジカルボン酸由来の構成単位を有する生分解性ポリエステルが好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位とジオール由来の構成単位とを有する生分解性ポリエステルがより好ましい。生分解性樹脂が生分解性ポリエステルであれば、担体Aに含有される鉄を脱窒菌がより効率的に体内に取り入れることができ、それにより脱窒菌の増殖及び活性が安定し、脱窒効率が改善する。
【0038】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。生分解性樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位を2種以上有することが好ましい。ジカルボン酸由来の構成単位を2種以上有する生分解性樹脂を用いた場合、ジカルボン酸由来の構成単位を1種類有する生分解性樹脂を用いた場合よりも脱窒速度が速く、高い脱窒性能を示す傾向がある。
【0039】
生分解性樹脂としては、上述したジカルボン酸のうち、コハク酸由来の構成単位を有するものが好ましい。ブチレンサクシネート単位を主に有するポリブチレンサクシネート(PBS)系の生分解性樹脂が好ましい。好適なPBS系の生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBSA)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)が挙げられる。これらの中でも、特に、生分解性が高い点から、また、脱窒に必要な炭素源を徐放的に供給できる点から、PBSAが好ましい。さらに、PBSAは、PHB系等、その他の生分解性樹脂よりも分解し易いため、低分子量有機成分の生成が良好になる。そして、低分子量有機成分を生成すると同時に溶存酸素も消費するため、生分解性樹脂近傍が無酸素に近い状態になり、脱窒菌が脱窒反応を行うのに有効な無酸素環境が形成される。また、PBSA由来の低分子量有機成分は、脱窒菌が生育、増殖する上での基質あるいは水素供与体として好ましい。
【0040】
生分解性樹脂は、カルボン酸由来の構成単位を有する生分解性ポリエステルと、ポリ乳酸、PHA、ポリビニルアルコール、セルロース等の樹脂との混合物であってもよい。ジカルボン酸由来の構成単位を有する生分解性樹脂と、生分解性が異なるこれらの樹脂とを混合することで、生分解性樹脂を炭素源として長期間にわたって使用することができる。
【0041】
本発明の微生物担体は、本発明の効果を損なわない範囲で、生分解性樹脂以外の他の樹脂をさらに含有していてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が挙げられる。
【0042】
担体Aに鉄を含有する方法は、特に限定はないが、例えば、生分解性樹脂に予め鉄および/または鉄化合物を高濃度で混錬し、分散させたマスターバッチを調製し、その後、単軸または2軸混錬押出機等にバスターバッチと生分解性樹脂とを供給して、溶融し含有させる方法が挙げられる。
【0043】
担体Bにリンおよび/またはリン化合物を含有する方法は、特に限定されない。例えば、生分解性樹脂に予めリンおよびリン化合物を高濃度で混錬し、分散させたマスターバッチを調製し、その後、単軸または2軸混錬押出機等にバスターバッチと生分解性樹脂とを供給して、溶融し含有させる方法が挙げられる。
【0044】
本発明の微生物担体に担持される脱窒菌としては、特に制限されない。脱窒能を有する公知の菌から適宜選択して用いることができるが、従属栄養性脱窒菌であることが好ましい。
【0045】
また、本発明の微生物担体は、生分解性樹脂の分解能力を有する微生物(以下、単に「分解菌」と記載する場合もある)を担持することが好ましい。分解菌は、微生物担体に付着して、微生物担体に含有される生分解性樹脂を分解する。これにより、微生物担体に分解菌が担持されない場合よりも多くの炭素源が脱窒菌に供給され、脱窒菌の増殖又は活動が促進される。この結果、脱窒速度及び脱窒量が向上する。分解菌としては、特に限定されないが、生分解性樹脂の分解能を有する公知の菌を適宜用いることができる。
【0046】
微生物担体による浄化処理の処理対象となる被処理水は、亜硝酸態窒素及び/又は硝酸態窒素を含むものであれば、特に制限されない。被処理水は上述した水生生物の飼育水であってもよく、畜産排水、食品排水、下水、浄化槽排水等の排水であってもよい。また、被処理水は、淡水であってもよく、海水であってもよい。
「海水」とは、塩分を3.2質量%以上の濃度で含有する水を意味する。
「汽水」とは、塩分を0.05質量%以上3.2質量%未満の濃度で含有する水を意味する。
一方、「淡水」とは、塩分を全く含まない水であってもよく、塩分を汽水の塩分濃度未満の濃度で含有する水であってもよい。
【0047】
被処理水の硝酸態窒素濃度は、特に制限されないが、好ましくは10mg-N/L以上、より好ましくは20mg-N/L以上、さらに好ましくは50mg-N/L以上、特に好ましくは100mg-N/L以上、また、好ましくは5000mg-N/L以下、より好ましくは2000mg-N/L以下である。被処理水の硝酸態窒素濃度が上記範囲内であれば、効率よく脱窒が進行する。
【0048】
被処理水の鉄の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0mg-Fe/L以上、より好ましくは0.01mg-Fe/L以上、さらに好ましくは0.1mg-Fe/L以上、特に好ましくは0.5mg-Fe/L以上、また好ましくは1mg-Fe/L以下である。被処理水の鉄の濃度が上記範囲内であれば、効率よく脱窒が進行する。
【0049】
被処理水のリンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.01mg-P/L以上、より好ましくは0.1mg-P/L以上、さらに好ましくは1.0mg-P/L以上、特に好ましくは5.0mg-P/L以上、また、好ましくは20mg-P/L以下、より好ましくは10mg-P/L以下である。被処理水のリンの濃度が上記範囲内であれば、効率よく脱窒が進行する。
【0050】
<水処理方法>
一実施形態に係る水処理方法について、詳細に説明する。
水処理方法は、上述した実施形態の微生物担体を用いた脱窒処理方法に関する。水処理方法では、1以上の担体Aを含む微生物担体を、脱窒する能力を有する微生物を担持する微生物担体として用いる。
より詳細には、水処理方法は、脱窒菌が担持された微生物担体が内部に充填された脱窒槽に被処理水を供給し、被処理水中の亜硝酸態窒素及び/又は硝酸態窒素を脱窒反応により窒素に変換することで脱窒を行う脱窒処理工程を含む。
【0051】
(脱窒処理工程)
水処理方法において、微生物担体が充填された脱窒槽に被処理水を供給する方法は特に制限されない。例えば、循環式、オーバーフロー式、間欠式、又は回分式の脱窒処理システムを用いて脱窒槽に被処理水を供給する方法が挙げられる。これらのうち、循環式脱窒処理システムを用いることが好ましい。
【0052】
図1は、脱窒処理システムの一例を示す模式図である。
図1に示す脱窒処理システムは、貯水タンク101、ポンプ102、供給チューブ103、微生物担体104が充填された脱窒カラム105、及び返送チューブ106を備える。この循環式脱窒処理システムにおいて、貯水タンク101に入れられた被処理水は、ポンプ102により供給チューブ103を通って脱窒カラム105に供給され、微生物担体104に接触した後、返送チューブ106を通って貯水タンク101に返送されることで循環する。
【0053】
脱窒処理工程において、被処理水の温度は、自然界で環境が取り得る温度範囲であればよく、0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、40℃以下、好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。被処理水は、硝酸態窒素を含み、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、を含んでもよい。また、被処理水は、生分解性樹脂以外に由来する有機成分も含んでよい。被処理水としては、水生生物の養殖に用いる飼育水が好適な例として挙げられる。水処理方法は、硝酸態窒素を含有する硝化処理後の飼育水の脱窒処理において、微生物を担持し、脱窒菌の活性を安定かつ促進することに、好適に用いられる。
【0054】
循環式脱窒処理システムは、
図1に示されていないその他の種々の要素を有していてもよい。該要素としては、例えば、サイフォンのように、被処理水が脱窒槽に供給されるよう被処理水を移送するための移送手段;被処理水の温度を脱窒反応に適した温度に調整するためのヒーター及び/又は冷却器;被処理水がアンモニア態窒素を含む場合に、アンモニア態窒素を硝酸に変換するための硝化菌が担持された硝化担体;等が挙げられる。
【0055】
水処理方法は、アンモニアを硝酸に変える硝化反応、及び硝酸を窒素に分解する脱窒反応の2段階の反応を用いた水処理方法に組み込んで使用してもよい。このような水処理方法としては、例えば、サケ、マス、アユ、イワナ、ウナギ、カニ、エビ等の水生生物の飼育水の浄化方法が挙げられる。この場合、水生生物の飼育水には、アンモニア態窒素が含まれるため、硝化菌が担持された硝化担体を備える硝化槽に飼育水を供給してアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素及び/又は硝酸態窒素に変換し、硝化槽を通過して亜硝酸態窒素及び/又は硝酸態窒素を含むものとなった飼育水(水処理方法に適用可能な被処理水)を脱窒処理工程に供すればよい。
【0056】
硝化槽と脱窒槽とは、別々の槽として設けられていてもよく、同一の槽であってもよい。硝化槽と脱窒槽とが同一の槽である場合、一つの槽中に硝化菌が担持された硝化担体と、脱窒菌が担持された微生物担体とが配置され、硝化担体と微生物担体とが繊維製セパレータ、ろ紙等で仕切られていてもよい。硝化槽、硝化菌、硝化担体、繊維製セパレータ、ろ紙等としては、公知のものから適宜選択して使用することができる。
【0057】
以上説明したように、本発明の微生物担体及び水処理方法によれば、微生物担体に定着した微生物の活動により、当該微生物担体を構成する生分解性樹脂の加水分解が良好に進み、かつ、当該微生物担体にバイオフィルムが良好に形成されるため、脱窒効率が安定化し、良好となる。
【0058】
また、本発明の微生物担体及び水処理方法によれば、脱窒処理において、鉄含有担体に定着した脱窒菌を含む微生物に鉄が効率よく補充されることで、鉄不足が抑制され、脱窒が良好となる。
【0059】
本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲が、以下の実施例で示す態様に限定されない。
【0061】
<実施例1~24、比較例1~6>
(微生物担体の作製)
以下に示す方法により、担体A1~A14、担体a1、担体a2、担体B1~B4、及び担体cを作製した。
【0062】
「担体A1の作製」
ペレット状のポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBSA;PTT MCC バイオケム社製;短径約3mm;長径約6mm)(以下、PBSAと記載する)200gを耐熱性のPTFE万能容器120φ(フロンケミカル社製)(以下、PTFE皿と記載する。)に投入した。さらに粉末状の酸化鉄(III)赤色(林純薬工業製)、及び粉末状のリン酸三カルシウム(関東化学製)を、以下の表1に記載の「PBSA200gに対する鉄化合物の添加量(g)」の欄、及び「PBSA200gに対するリン化合物の添加量(g)」の欄に記載した量(g)だけ添加した。PTFE製の棒(径12mm、長さ300mm)(以下、PTFE棒と記載する)を用いて撹拌混合することで、添加した酸化鉄(III)とリン酸三カルシウムとの全量をPBSAと混ぜ合わせた。その後、恒温槽にてPTFE皿ごと、PBSAを125℃で30分間加熱し、PBSAを溶融させた。その後、PTEF棒で溶融したPBSAと酸化鉄を練り合わせた。その後、再度、PTFE皿ごと、PBSAを125℃で30分間加熱し、溶融させた。その後、溶融したPBSAを、耐熱性のPTFE板(50mm×50mm)の上に全量移し、PTEF棒で押しつぶして厚さ3mmで、おおよそ横3000mm×横300mmの板状に成形した。その後、ハサミで、横10mm×横10mm×厚さ3mmのチップ状に裁断し、担体A1を作製した。
【0063】
「担体A3~A5、担体a1、担体B2~B4の作製」
酸化鉄(III)およびリン酸三カルシウムの添加量を、表1に記載の各担体の「PBSA200gに対する鉄化合物の添加量(g)」の欄に記載した量とすること以外、担体A1と同様の方法で、担体A3~A5、担体a1、担体B2~B4を作製した。
【0064】
「担体A2の作製」
酸化鉄(III)の代わりに、酸化鉄(II、III)を添加すること以外、担体A1と同様の方法で、担体A2を作製した。
【0065】
「担体A6の作製」
酸化鉄(III)の代わりに、硫酸鉄(II)・七水和物を添加すること以外、担体A1と同様の方法で、担体A6を作製した。
【0066】
「担体A7、A9~A13、担体a2の作製」
リン酸三カルシウムを添加しないこと以外、担体A1と同様の方法で、担体A7、A9~A13、担体a2を作製した。
【0067】
「担体A8の作製」
酸化鉄(III)の代わりに、酸化鉄(II、III)を添加すること、及びリン酸三カルシウムを添加しないこと以外、担体A1と同様の方法で、担体A8を作製した。
【0068】
「担体A14の作製」
酸化鉄(III)の代わりに、硫酸鉄(II)・七水和物を添加すること、及びリン酸三カルシウムを添加しないこと以外、担体A1と同様の方法で、担体A14を作製した。
【0069】
「担体B1の作製」
酸化鉄(III)を添加しないこと以外、担体A1と同様の方法で、担体B1を作製した。
【0070】
「担体cの作製」
酸化鉄(III)及びリン酸三カルシウムを添加しないこと以外、担体A1と同様の方法で、担体cを作製した。
【0071】
【0072】
(馴養汚泥の調整)
養殖場の飼育水の浄化処理設備の脱窒槽から懸濁水を採取し、3000rpmで5分間遠心分離にかけ濃縮し、活性汚泥浮遊物質(MLSS)が3600mg/Lの汚泥を作製した。
【0073】
(脱窒試験)
硝酸態窒素、リン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンの濃度が、それぞれ100mg-N/L、5mg-P/L、8.8mg-Mg/L、1.03mg-Na/L、0.57mg-Ca/Lとなるよう、硝酸ナトリウム(NaNO3)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、塩化カルシウム・二水和物(CaCl2・H2O)を純水に溶解させることで、模擬排水を調製した。
【0074】
次いで、
図1に示す循環式脱窒処理システムを用いて、脱窒試験を行った。
まず、内径3.5mm、長さ450mm、及び有効容積300mLの脱窒カラム105に、以下の表2中に示す「微生物担体」の欄に示すような混合比率で組み合わせて作製した実施例1~24、及び比較例1~6の微生物担体を200g投入した。
【0075】
次に、処理対象水2000mLを容量2.2Lの貯水タンク101中で種汚泥20mLと混合し、ポンプ102により通水速度10mL/minで送液し、処理対象水を循環させた。
【0076】
図1に示すように、脱窒試験では、貯水タンク101中の処理対象水は、供給チューブ103を通って脱窒カラム下部の供給入口から脱窒カラム105内部に供給され、その後、脱窒カラム上部の返送出口から排出され、返送チューブ106を通って貯水タンク101内に返送されることで、脱窒処理システムを循環した。
【0077】
貯水タンク101中の被処理水について、試験開始から10日目の硝酸態窒素濃度C(mg/L)をコンパクト硝酸イオンメータ(堀場製作所社製:「LAQUAtwin NO3-11」)により測定した。以下の表2に、脱窒試験後の硝酸態窒素濃度を示す。
【0078】
【0079】
表1及び表2に示すように、担体Aに含有されるリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xの値が0.5以下(実施例1~24)の場合、0.5より大きい比較例1、3に比較して、脱窒試験後の被処理水の硝酸態窒素の値が低い。高い脱窒効率が確認された。
鉄含有担体の鉄含有率が鉄含有担体の質量に対して2.0質量%未満である実施例は、鉄含有担体の鉄含有率が鉄含有担体の質量に対して2.0質量%である比較例6に比べ、脱窒試験後の被処理水の硝酸態窒素の値が低く、高い脱窒効率を示すことが確認された。
また、鉄化合物が三価の鉄を含有する実施例1~21の場合、より高い脱窒効率が確認された。
さらに、担体Aに含有されるリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xの値が0.05以下(実施例1~16)である場合、特に高い脱窒効率が確認された。
【0080】
比較例2、4、5では、担体Aを含まない微生物担体を用いた。この場合、脱窒に必要な鉄が微生物に補充されなかったため、脱窒が停滞し、被処理水の硝酸態窒素が低下しなかったと考えられる。
【0081】
以上より、生解性樹脂と鉄とを含有し、リンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xが0.5以下である鉄含有担体を含む微生物担体を用いることで、高い脱窒効率を実現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の微生物担体及び水処理方法によれば、脱窒効率が安定化し良好となる。
【符号の説明】
【0083】
101…貯水タンク
102…ポンプ
103…供給チューブ
104…微生物担体
105…脱窒カラム
106…返送チューブ
【要約】
本発明は、脱窒効率が安定化し良好となる微生物担体、及びこれを用いた水処理方法を提供する。
本発明の微生物担体は、脱窒能力を有する微生物を担持する微生物担体である;本発明の微生物担体は、生分解性樹脂と鉄とを含有する鉄含有担体を含む;鉄含有担体中のリンと鉄とのモル比(リン/鉄)Xは、前記鉄含有担体がリンを含有する場合、0<X≦0.5である;鉄含有担体がリンを含有しない場合、X=0である;鉄含有担体の鉄含有率は、鉄含有担体の質量に対して1.0×10-4質量%以上2.0質量%未満である。