(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】圧電素子および圧電装置
(51)【国際特許分類】
H10N 30/60 20230101AFI20240110BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20240110BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240110BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240110BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240110BHJP
G01L 1/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H10N30/60
H10N30/88
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/30
G01L1/16 A
G01L1/16 C
(21)【出願番号】P 2019214368
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】ダイキンファインテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】今西 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 智美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寧
(72)【発明者】
【氏名】野中 一洋
(72)【発明者】
【氏名】田原 竜夫
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-111422(JP,A)
【文献】特開2005-351664(JP,A)
【文献】特開2019-062124(JP,A)
【文献】特開2008-209183(JP,A)
【文献】特開2017-183570(JP,A)
【文献】特表2017-528909(JP,A)
【文献】特開2000-111423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/60
H10N 30/88
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/30
G01L 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の表面を有する芯線と、
前記芯線を被覆する無機圧電体層と、
前記無機圧電体層を被覆する有機保護層と、
前記有機保護層を被覆する導電体層と
を含み、前記有機保護層が、0.1~100μmの厚さを有し、前記芯線および前記導電体層が、それらの間に前記無機圧電体層および前記有機保護層が介挿された電極としてそれぞれ機能する、圧電素子。
【請求項2】
前記有機保護層が、200℃以上の耐熱温度を有する材料から成る、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記有機保護層が、フッ素樹脂、イミド系樹脂、芳香族系ポリマー、液晶ポリマー、ポリカーボネート、シリコーン樹脂およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記無機圧電体層が、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスから成る、請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスが、酸化亜鉛および窒化アルミニウムの少なくとも一方を含む、請求項4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記無機圧電体層が、0.01~3.00μmの厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記導電体層を被覆する絶縁体層を更に含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の圧電素子を含む圧電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関し、より詳細には、ケーブル状またはワイヤー状などと称され得る、全体として細長い線状の形態を有する圧電素子に関する。また、本発明はかかる圧電素子を含む圧電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電体を使用した素子であり、例えば、圧電体の正圧電効果を利用する(圧電体に加えられた外力を電圧に変換する)ことによってセンサとして、また、圧電体の逆圧電効果を利用する(圧電体に印加された電圧を力に変換する)ことによってアクチュエータとして、さまざまな用途の圧電装置において使用されている。
【0003】
圧電体は、圧電セラミックスに代表される無機圧電体と、圧電ポリマーに代表される有機圧電体とに大別され得る。一般的に、無機圧電体は有機圧電体に比べて硬く、有機圧電体は可撓性であり得る。圧電セラミックスから成る無機圧電体を使用した圧電素子は、通常、面状の形態で(例えば面状センサとして)構成される(特許文献1参照)。他方、ケーブル状またはワイヤー状などと称され得る、全体として細長い線状の形態を有する圧電素子では、柔軟性を有する(曲げ可能である)ように、可撓性の有機圧電体が使用され得る(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-265899号公報
【文献】特開2017-183570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、無機圧電体は、高温に曝されても安定であり得、有機圧電体に比べて高い耐熱温度を有する。本発明者らは、全体として細長い線状の形態を有し、柔軟性を有し、かつ、高い耐熱性を有する新規な圧電素子を実現すべく、圧電素子に無機圧電体を適用することについて検討した。しかしながら、柔軟性を有する圧電素子を、導電性の表面を有する芯線(内側電極)と、芯線を被覆する無機圧電体層と、無機圧電体層を被覆する導電体層(外側電極)とから形成すると、圧電応答性を示さないことがあり、センサとしては外力の経時変化に応じた圧電出力を計測できず、アクチュエータとしては電圧の経時変化に応じた変形をもたらせないという問題があることが判明した。
【0006】
本発明は、全体として細長い線状の形態を有し、柔軟性を有し、かつ、高い耐熱性を有する新規な圧電素子であって、圧電応答性を十分に示す圧電素子を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる圧電素子を含む圧電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、導電性の表面を有する芯線と、前記芯線を被覆する無機圧電体層と、前記無機圧電体層を被覆する有機保護層と、前記有機保護層を被覆する導電体層とを含み、前記有機保護層が、0.1~100μmの厚さを有し、前記芯線および前記導電体層が、それらの間に前記無機圧電体層および前記有機保護層が介挿された電極としてそれぞれ機能する、圧電素子が提供される。
【0008】
本発明のもう1つの要旨によれば、上記本発明の圧電素子を含む圧電装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧電素子は、導電性の表面を有する芯線(内側電極)と、芯線を被覆する無機圧電体層と、無機圧電体層を被覆する有機保護層と、有機保護層を被覆する導電体層(外側電極)とを含んで構成され、これにより、全体として細長い線状の形態を有し、柔軟性を有する新規な圧電素子が提供される。本発明の圧電素子によれば、無機圧電体層を0.1~100μmの厚さを有する有機保護層で被覆して保護しており、これにより、圧電応答性を十分に示すことができる。更に、本発明の圧電素子によれば、無機圧電体層を使用しており、有機保護層は、電気絶縁性を有する有機材料から自由に選択可能であるので、高い耐熱性を有する圧電素子を実現することができる。更に、本発明の圧電素子を含む圧電装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の1つの実施形態における圧電素子を示す概略図であって、(a)は圧電素子の部分切除側面図を示し、(b)は(a)のA-A線に沿った断面図を示す。
【
図2】本発明の実施例1における圧電素子からの出力を示す、電圧信号の経時変化グラフである(縦軸の1目盛りは50mVに相当し、横軸の1目盛りは1秒に相当する)。
【
図3】比較例1における圧電素子からの出力を示す、電圧信号の経時変化グラフである(縦軸の1目盛りは50mVに相当し、横軸の1目盛りは1秒に相当する)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳述する。なお、添付の図面中、電極端子を黒丸にて模式的に示す。
【0012】
図1を参照して、本実施形態の圧電素子10は、導電性の表面を有する芯線1と、芯線1を被覆する無機圧電体層3と、無機圧電体層3を被覆する有機保護層5と、有機保護層5を被覆する導電体層7とを含む。有機保護層5は、0.1~100μmの厚さを有する。芯線1および導電体層7は、それらの間に無機圧電体層3および有機保護層5が介挿された電極(内側電極および外側電極)としてそれぞれ機能する(
図1(b)参照)。本実施形態に必須ではないが、圧電素子10は、導電体層7を被覆する絶縁体層(シース)9を更に含んでいてよい。かかる圧電素子10は、ケーブル状またはワイヤー状などと称され得る、全体として細長い線状の形態を有し、圧電素子全体として柔軟性を有する(曲げ可能である)ように構成される。本明細書において、「柔軟性を有する」とは、別の表現では可撓性であることを意味する。
【0013】
芯線1は、電極(内側電極)として機能し得るように、少なくとも表面が導電性であればよい。芯線1は、例えば金属ワイヤーや任意の導電性材料(金属、金属とセラミックスとの複合体等)から成る線材や、任意の線状母材(耐熱性樹脂線等)の表面を導電性材料層(金属、導電性耐熱樹脂、導電性耐熱ゴム等)で被覆してなる線材などであってよい。また、芯線1は、実質的に円形、楕円、矩形、多角形などの任意の断面形状を有し得、中空および中実のいずれであってもよく、単線、撚り線および編み線などであってもよい。また、これら線材が2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0014】
芯線1の表面の全部が導電性であることが好ましいが、芯線1の表面の一部(全表面積の例えば20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下)は導電性でなくてもよい。例えば、芯線1が、非導電性の線状母材の表面に導電性材料から成るテープを巻き付けて構成される場合、巻き付けたテープの端縁間にギャップが存在し、該ギャップにおいて非導電性の線状母材が露出していてよい。
【0015】
芯線1の外形断面寸法(線方向に対して垂直な断面の最大寸法、円形断面を有する場合は線径、以下同様)は、特に限定されないが、芯線1それ自体が可撓性であるように選択される。
【0016】
芯線1を被覆する無機圧電体層3は、圧電セラミックスから成り、樹脂を含まない。圧電セラミックスは、1種の圧電セラミックスであってもよいが、2種以上の圧電セラミックスの混合物であってもよい。本明細書において、「・・・(材料)から成る」とは、当該材料から実質的に成っていればよく、不可避的に混入および/または残留し得る物質が存在していてもよいことを意味する。例えば、無機圧電体層3に、無機圧電体層を形成するための原料(例えば後述する第1溶液)に使用した溶媒や安定剤等が残存していてもよい。圧電セラミックスは、無機材料故に高い耐熱性を有する。
【0017】
無機圧電体層3は、特に、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスから成ることが好ましい。ウルツ鉱型結晶構造を有する物質(化合物)は、その結晶配向性をc軸方向に揃え、さらに双極子配向度を制御することにより圧電性を示すことが知られている(特許文献1参照)。そのため、圧電ポリマー(例えばポリフッ化ビニリデン)の製造では必要とされる分極処理工程を要することなく圧電素子10を製造することができる。
【0018】
ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスは、主成分として、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、MgO、CdO、CdS、CdSe、CdTe、AlN、GaN、InNおよびInPからなる群より選択される少なくとも1つを含み得、なかでも、酸化亜鉛(ZnO)および窒化アルミニウム(AlN)の少なくとも一方を含むことが好ましく、酸化亜鉛(ZnO)を含むことが更に好ましい。かかるウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスは、比較的安価であり、鉛を含まない点で環境や人体に対して安全である。本明細書において、ある材料の「主成分」とは、その材料に占める当該成分の割合(上記に列記した化合物が2つ以上存在する場合にはそれらの合計の割合)が、50質量%超、例えば60質量%以上、好ましくは70質量%以上である成分を意味する。
【0019】
ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスは、ウルツ鉱型結晶構造を構成する元素以外の他種元素(ドーパント)を含んでいてもよい。これにより、無機圧電体層3における極性分布割合の制御特性が向上し、圧電応答性が高い圧電素子が実現される。他種元素は、特に限定されないが、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および第13族元素からなる群より選択される少なくとも1つであってよい。他種元素としてのアルカリ金属元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)、が例示される。他種元素としてのアルカリ土類金属元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が例示される。他種元素としての第13族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)が例示される。他種元素の濃度は、所望の電気特性に応じて適宜設定され得る。例えば、ウルツ鉱型結晶構造を有する物質(化合物)がZnOで、他種元素がLiの場合には、ZnとLiの原子濃度の和に対して、Liの原子濃度が2~7.5原子%の範囲内であることが好ましい。
【0020】
しかしながら、無機圧電体層3は、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックスから成るものに限定されず、他の圧電セラミックスから成っていてもよい。例えば、他の圧電セラミックスは、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、酸化チタンおよびチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含み得、なかでも、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含むことが好ましい。
【0021】
無機圧電体層3の厚さは、所望の柔軟性および電気特性に応じて適宜設定され得るが、例えば0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上であり、例えば3.00μm以下、好ましくは1.00μm以下であり得る。
【0022】
無機圧電体層3を被覆する有機保護層5は、電気絶縁性を有する有機材料から成ることが好ましい。有機保護層5には、電気絶縁性を有する様々な有機材料から、高い耐熱温度を有する材料を選択することができる。有機保護層5は、例えば200℃以上の耐熱温度を有する材料から成り得る。本明細書において、「耐熱温度」は、その材料が当該温度に曝されても物理的性状が実質的に損なわれない温度を意味し、連続使用温度(長期耐熱温度)または短期耐熱温度であり得る。短期耐熱温度は、結晶性の有機材料である場合には融点であり得、非結晶性の有機材料である場合にはガラス転移温度であり得る。
【0023】
有機保護層5を構成する材料は、フッ素樹脂、イミド系樹脂、芳香族系ポリマー、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)、シリコーン樹脂およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。これらは単独で使用されても、任意の2種以上の混合物として使用されてもよい。フッ素樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン―テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)が挙げられる。イミド系樹脂の例としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)が挙げられる。芳香族系ポリマーの例としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)が挙げられる。
【0024】
有機保護層5は、無機圧電体層3を保護する(無機圧電体層3を導電体層7と直接接触させない)ように、無機圧電体層3の外側表面の全部を被覆することが好ましい。
【0025】
有機保護層5の厚さは、0.1~100μmの範囲以内で設定される。これにより、圧電応答性を十分に示すこと(センサとしては外力の経時変化に応じた圧電出力を計測でき、アクチュエータとしては電圧の経時変化に応じた変形をもたらすこと)ができる。特に、有機保護層5の厚さが0.1μm以上であることで、無機圧電体層3を後述する塗布法により形成する場合であっても、芯線(内側電極)1と導電体層(外側電極)7との間での短絡の発生を効果的に防止することができる。また、有機保護層5の厚さが100μm以下であることで、圧電素子としての機能を確保すること(より詳細には、センサとしては圧電出力を計測し、アクチュエータとしては所望の変形をもたらすこと)ができる。有機保護層5の厚さは、好ましくは1~30μmの範囲以内で設定される。
【0026】
有機保護層5を被覆する導電体層7は、電極(外側電極)として機能し得るように、導電性材料から構成されていればよい。導電体層7は、例えば金属、金属とセラミックスとの複合体、導電性耐熱樹脂、導電性耐熱ゴム等からなり得る。
【0027】
導電体層7は、有機保護層5の外側表面の全部を被覆することが好ましいが、有機保護層5の外側表面の一部(全表面積の例えば60%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは90%以下)は導電体層7で被覆されていなくてもよい。
【0028】
導電体層7の厚さは、所望の柔軟性および電気特性に応じて適宜設定され得るが、例えば0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上であり、例えば3000μm以下、好ましくは1000μm以下であり得る。
【0029】
導電体層7の外形断面寸法は、例えば10.0mm以下であり得、好ましくは0.1mm以上5.0mm以下であり得る。導電体層7が圧電素子10の最外層である場合、これにより、外形断面寸法(代表的には線径)が小さく、かつ柔軟性を有する、いわゆる「線状」の圧電素子10を提供することができる。かかる圧電素子10は、圧電装置への取り付けの自由度が高く、幅広い用途に利用され得る。
【0030】
存在する場合、絶縁体層(シース)9は、任意の適切な絶縁材料から成る。かかる絶縁体層9には、ワイヤーやケーブルのための可撓性シースとして既知のもの、例えば可撓性の耐熱樹脂、耐熱ゴム等を適用してよい。絶縁体層9の具体的な材料、形態および厚さ等は、圧電素子10の用途に応じて適宜選択され得る。
【0031】
かかる本実施形態の圧電素子10は、任意の適切な方法で製造可能である。以下に、本実施形態の圧電素子10の製造方法の一例を示すが、これに限定されない。
【0032】
本実施形態の圧電素子10の製造方法は、
導電性の表面を有する芯線1を準備すること、
芯線1を被覆する無機圧電体層3を形成すること、
無機圧電体層3を被覆する有機保護層5を形成すること、
有機保護層5を導電体層7で被覆すること、および要すれば、
導電体層7を絶縁体層9で被覆すること
を含み得る。より詳細には以下の通りである。
【0033】
まず、本実施形態において上述したような芯線1を準備する。かかる芯線1は、市販で入手可能であり、あるいは、容易に作製可能である。
【0034】
次に、芯線1を被覆する無機圧電体層3を形成する。無機圧電体層3は、芯線1を被覆するように、塗布法(化学溶液堆積法またはゾルゲル法とも称され得る)、スパッタリング法、水熱法等の任意の適切な方法により形成可能であるが、好ましくは塗布法により形成され得る。無機圧電体層3を塗布法で形成すると、真空装置等を用いることなく、連続的に生産することが可能となり、より簡便かつ低コストで圧電素子10を製造することができる。
【0035】
無機圧電体層3を塗布法で形成する場合、より詳細には、
圧電セラミックス(好ましくはウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックス)を構成する元素種を含有する第1溶液(原料)を、芯線1の表面に塗布して塗布膜を形成すること、
形成された塗布膜を乾燥させること、および
乾燥させた塗布膜を焼成すること
によって、無機圧電体層3が形成される。
【0036】
第1溶液は、圧電セラミックス(好ましくはウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックス)を構成する元素種(存在する場合には、他種元素(ドーパント)を含む)に加えて、溶媒を含み、場合により安定剤等の任意の適切な添加剤を含み得る。溶媒の例としては、2-メトキシエタノール、2-プロパノール、エタノール、1-ブタノール、トリオクチルフォスフィン、水等が挙げられる。
【0037】
第1溶液の塗布は、例えばディップコート法やスプレーコート法を用いて実施可能である。好ましくは、ディップコート法により、芯線1を第1溶液に浸漬して所定の速度で引き上げることにより芯線1の表面に第1溶液を概ね均一な厚さで塗布することができる。
【0038】
乾燥は、芯線1の耐熱温度以下で、塗布膜を乾燥させることにより実施される。乾燥温度は、例えば400℃未満、好ましくは300℃以下であり、乾燥時間は適宜設定される。乾燥雰囲気は特に限定されないが、例えば空気、不活性ガス雰囲気、酸素と不活性ガスとの混合雰囲気であってよい。乾燥により、溶媒および場合により存在し得る添加剤が除去され得ると共に、圧電セラミックスを構成する元素種が結晶として析出および凝集して、粒子になる。塗布膜は、かかる粒子(好ましくはウルツ鉱型結晶構造を有する物質(化合物)の粒子)が充填および堆積した集合体であり得る。
【0039】
これにより、乾燥させた塗布膜が得られる。1回の塗布および1回の乾燥により、所望の塗布膜厚さが得られない場合には、塗布および乾燥を1セットとして、所望の塗布膜厚さが得られるまで、複数セット繰り返して実施してよい。
【0040】
焼成は、芯線1の耐熱温度以下で、塗布膜を焼成することにより実施される。焼成温度は、例えば600℃未満、好ましくは450℃以下であり、焼成時間は適宜設定される。焼成雰囲気は特に限定されないが、例えば空気、不活性ガス雰囲気、酸素と不活性ガスとの混合雰囲気であってよい。焼成により、上記粒子が互いに結合してなる多孔体である結合層が形成され得る。この結合層は、圧電セラミックスを成す結晶の粒子が(無秩序に)充填および堆積した集合体であり得、粒子の形状を残した状態で焼結したものであり得る。
【0041】
これにより、圧電セラミックス(好ましくはウルツ鉱型結晶構造を有する圧電セラミックス)から成る無機圧電体層3が形成される。1セットまたは複数セットの塗布および乾燥と1回の焼成とにより、所望の無機圧電体層厚さが得られない場合には、「1セットまたは複数セットの塗布および乾燥と1回の焼成と」を1セットとして、所望の無機圧電体層厚さが得られるまで、複数セット繰り返して実施してよい。
【0042】
次に、無機圧電体層3を被覆する有機保護層5を形成する。有機保護層5は、無機圧電体層3を被覆するように、使用する有機絶縁体の原料に応じて任意の適切な方法により形成可能であるが、好ましくは塗布法により形成され得る。
【0043】
有機保護層5を塗布法で形成する場合、より詳細には、
有機保護層5を構成する第2溶液(原料)を、無機圧電体層3の表面に塗布して塗布膜を形成すること、
形成された塗布膜を乾燥させること、および場合により、
乾燥させた塗布膜を熱処理に付すこと
によって、有機保護層5が形成される。
【0044】
第2溶液は、有機保護層を構成する材料(反応完了前の前駆体であってもよい)に加えて、溶媒を含み、場合により安定剤等の任意の適切な添加剤を含み得る。
【0045】
第2溶液の塗布は、例えばディップコート法やスプレーコート法を用いて実施可能であり、好ましくは、ディップコート法を用いる。無機圧電体層3で被覆された芯線1を第2溶液に浸漬して塗布するディップコート法によれば、無機圧電体層3の表面に第2溶液を概ね均一な厚さで塗布することができる。
【0046】
乾燥条件は、有機保護層を構成する材料に応じて適宜選択され得る。
【0047】
これにより、乾燥させた塗布膜が得られる。1回の塗布および1回の乾燥により、所望の塗布膜厚さが得られない場合には、塗布および乾燥を1セットとして、所望の塗布膜厚さが得られるまで、複数セット繰り返して実施してよい。
【0048】
場合により、乾燥させた塗布膜を熱処理に付してよい。かかる熱処理は、例えば、有機保護層を構成する材料中で反応を進行させるために実施され得る。熱処理条件は、有機保護層を構成する材料に応じて適宜選択され得る。
【0049】
これにより、有機保護層5が形成される。1セットまたは複数セットの塗布および乾燥と1回の熱処理とにより、所望の有機保護層厚さが得られない場合には、「1セットまたは複数セットの塗布および乾燥と1回の熱処理と」を1セットとして、所望の有機保護層厚さが得られるまで、複数セット繰り返して実施してよい。
【0050】
次に、有機保護層5を導電体層7で被覆する。導電体層7は、有機保護層5を被覆するように、任意の適切な方法により形成可能である。例えば、蒸着、巻き付けなどにより形成され得る。要すれば、導電体層7を絶縁体層(シース)9で被覆してよい。絶縁体層9は、導電体層7を被覆するように、任意の適切な方法により形成可能である。
【0051】
以上のようにして本実施形態の圧電素子10を得ることができる。無機圧電体層3および有機保護層5を順次形成すると、有機保護層5は、無機圧電体層3の形成に必要でかつ比較的高温である焼成温度に曝されないので、有機保護層5が熱により劣化および/または分解されることを回避できる。更に、無機圧電体層3および有機保護層5を塗布法により順次形成する場合、連続するプロセスで実施できるので、長尺の圧電素子10を効率的に製造することができる。
【0052】
本実施形態の圧電素子10は、芯線1(より詳細には導電性部分)および導電体層7を適宜露出させて電極を引き出すことができる(図中、電極端子を黒丸にて模式的に示す)。導電体層9は、グランドであってよく、その場合、シールドとしても機能し得る。
【0053】
本実施形態の圧電素子10は、様々な用途の圧電装置において、各種のセンサおよび/またはアクチュエータとして利用可能である。
【0054】
本実施形態の圧電素子10は、圧電体の正圧電効果を利用してセンサとして利用可能である。圧電素子10は、例えば、被検知対象物に取付および/または埋込等して、圧電素子10に外力が加えられたときにこれを検知することが可能な感圧センサとして、あるいは、被検知対象物の内部疲労を検知するセンサとして利用され得る。また、複数の圧電素子10を用いて編物または織物を構成して、繊維状圧電センサや振動型発電素子として利用することもできる。その他にも、例えば防犯センサ、介護/見守りセンサ、衝撃センサ、ウェアラブルセンサ、生体信号センサ(呼吸/脈拍)、車両用挟み込み防止センサ、車両用バンパー衝突センサ、車両用エア流量センサ、気象検知センサ(雨/雪)、火災検知センサ、水中音響センサ、ロボット用触覚センサ、医療機器用触覚センサ、繊維シート状圧力分布センサ、環境振動用発電ワイヤーなどの種々の用途の圧電装置に利用することができる。
【0055】
本実施形態の圧電素子10は、上記に代えて/加えて、圧電体の逆圧電効果を利用してアクチュエータとして利用可能である。圧電素子10は、例えば、圧電素子10に対して駆動電圧を加えた際に、振動を励振するアクチュエータとして利用され得、また更に、その振動をセンサとして利用したアクチュエータ駆動センサとしても利用され得る。その他にも、例えばロボット関節駆動アクチュエータ、人工筋肉アクチュエータ、医療機器操作ワイヤー用駆動アクチュエータ、ファイバースコープ用駆動アクチュエータ、超音波モーター、圧電モーターなどの種々の用途の圧電装置に利用することができる。
【0056】
なかでも、本実施形態の圧電素子10は、高い応答特性が求められる用途に好ましく利用され得る。
【0057】
以上、本発明の1つの実施形態における圧電素子およびこれを含む圧電装置について詳述したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
図1を参照して詳述した上記実施形態の圧電素子を下記の通り作製した。
【0059】
第1溶液の調製
ガラス製容器に、溶媒として2-メトキシエタノール(48.20g)および安定剤として2-アミノエタノール(1.83g)を入れ、大気雰囲気下、常温にて5分間撹拌した。次に、これにより得られた混合液に酢酸亜鉛二水和物(6.39g)を加えて、溶解するまで大気雰囲気下、常温にて撹拌した。次に、これにより得られた混合液に酢酸リチウム二水和物(0.095g)を加えて、大気雰囲気下、常温にて1時間撹拌した。これにより、第1溶液を調製した。
【0060】
第2溶液の調製
ポリアミドイミドワニス(日立化成株式会社製、HPC-1000)(22.5g)に純水(30g)を加えて、30分間撹拌して均一に混合した。これにより、第2溶液を調製した。
【0061】
芯線1の準備
芯線1としてSUS製ワイヤ(SUS304、直径0.28mm)を準備した。
【0062】
無機圧電体層の形成
上記で準備した芯線1を、上記で調製した第1溶液に浸漬して塗布することにより、芯線1の表面に第1溶液の塗布膜を形成した。その後、250℃で1分間乾燥させ、このような1回の塗布および1回の乾燥を1セットとして、同条件で合計3セット繰り返した。次に、これにより得られた乾燥塗布膜を、400℃で1分間焼成した。このような「1回の塗布および1回の乾燥の3セットと1回の焼成と」を1セットとして、同条件で合計3セット繰り返した。これにより、芯線1を被覆する無機圧電体層3として、ウルツ鉱型結晶構造を有する酸化亜鉛(ZnO)からなる層を形成した。無機圧電体層3の厚さは、0.1μmであった。
【0063】
有機保護層の形成
上記で無機圧電体層3を形成した芯線1を、上記で調製した第2溶液に浸漬して塗布することにより、無機圧電体層3の表面に第2溶液の塗布膜を形成した。その後、200℃で1分間乾燥させ、得られた乾燥塗布膜を、350℃で3分間の熱処理に付した。このような「1回の塗布、1回の乾燥および1回の焼成」を1セットとして、同条件で合計5セット繰り返した。これにより、無機圧電体層3を被覆する有機保護層5としてポリアミドイミドから成る層を形成した。有機保護層5の厚さは、5μmであった。
【0064】
導電体層の形成
上記で形成した有機保護層5の表面にアルミニウムを蒸着させて、導電体層7としてアルミニウムから成る層を形成した。導電体層7の厚さは、0.2μmであった。
【0065】
以上のようにして実施例1の圧電素子10を作製した。
【0066】
(実施例2)
有機保護層の形成において、「1回の塗布、1回の乾燥および1回の焼成」を1セットのみ実施した(繰り返さなかった)こと以外は、実施例1と同様にして、圧電素子を作製した。実施例2の圧電素子における有機保護層の厚さは、1μmであった。
【0067】
(実施例3)
有機保護層の形成において、「1回の塗布、1回の乾燥および1回の焼成」を1セットとして、同条件で合計30セット繰り返したこと以外は、実施例1と同様にして、圧電素子を作製した。実施例3の圧電素子における有機保護層の厚さは、30μmであった。
【0068】
(比較例1)
有機保護層の形成を実施せず、無機圧電体層の表面に導電体層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、圧電素子を作製した。
【0069】
(評価)
実施例1~3および比較例1で作製した圧電素子を下記のようにして評価した。
【0070】
評価用の圧電素子(長さ:80mm)のうち、露出させた芯線1の上記一方の端部付近の領域と、導電体層7の他方の端部付近の領域とにそれぞれリード線を接続して、芯線1(内側電極)および導電体層7(外側電極)を引き出し、アナログ増幅回路(2000倍増幅)を介してオシロスコープ(ハギワラソリューションズ株式会社製、UDS-1G02S-10K)に接続して、これら電極間にて発生する電圧信号を経時的に出力可能なように構成した。
【0071】
上記のようにリード線を接続した状態の評価用の圧電素子を電磁力式微小試験機(株式会社島津製作所製、マイクロサーボMMT-101NV-10)にセットし、評価用の圧電素子の線方向に対して加振(周波数1Hz、応力1N~3N)して、応力を繰り返し負荷した。かかる試験を実施している間に、芯線1(内側電極)および導電体層7(外側電極)の間で発生する電圧信号を圧電出力として経時的に測定した。代表的に、実施例1および比較例1の圧電素子の測定結果をそれぞれ
図2および
図3に示す。
【0072】
実施例1の圧電素子では、
図2に示すように、圧電出力のピークピーク値(最大値と最小値との差)は95.00mVp-pであった。更に、
図2から理解されるように、圧電出力に周期的な波形が観測され、1周期が概ね1秒間、即ち、1Hzの周波数であった。この圧電出力の周波数は、加振の周波数に一致していたことから、周波数の追従が確認された。従って、実施例1の圧電素子は、優れた圧電応答を示した。
【0073】
実施例2の圧電素子では、圧電出力のピークピーク値は65.80mVp-pであり、周波数の追従が確認された。実施例3の圧電素子では、圧電出力のピークピーク値は65.83mVp-pであり、周波数の追従が確認された。従って、実施例2および3の圧電素子は、優れた圧電応答を示した。
【0074】
これに対して、比較例1の圧電素子では、
図3に示すように、圧電出力のピークピーク値は44.15mVp-pであった。しかしながら、
図3から理解されるように、圧電出力に周期的な波形は観測されず、周波数の追従がないことが確認された。従って、比較例1の圧電素子は、圧電応答を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の圧電素子は、各種のセンサおよび/またはアクチュエータとして利用可能である。本発明を限定するものではないが、本発明の圧電素子は、柔軟性に優れ、小さい外形断面寸法(代表的には線径)で実現でき、例えば、圧電素子に外力が加えられたときにこれを検知することが可能な感圧センサ等として利用され得る。
【符号の説明】
【0076】
1 芯線(内側電極)
3 無機圧電体層
5 有機保護層
7 導電体層(外側電極)
9 絶縁体層(シース)
10 圧電素子