(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】積層構造体及びその製造方法並びに半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H10B 63/10 20230101AFI20240110BHJP
H10N 70/20 20230101ALI20240110BHJP
H10B 63/00 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
H10B63/10
H10N70/20
H10B63/00
(21)【出願番号】P 2020530068
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024679
(87)【国際公開番号】W WO2020012916
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018130365
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/高速大容量ストレージデバイス・システムの研究開発における相変化材料技術開発」、委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】富永 淳二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 典幸
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 善己
(72)【発明者】
【氏名】國島 巌
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143153(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147802(WO,A1)
【文献】特開2010-287744(JP,A)
【文献】特開2012-235144(JP,A)
【文献】特表2009-536466(JP,A)
【文献】特開2016-111219(JP,A)
【文献】特開2013-051245(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 63/10
H10N 70/20
H10B 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムとテルルとを主成分として形成され
、厚みが0nmを超え4nm以下である合金層Aと
、アンチモン及びビスマスのいずれかとテルルとを主成分として形成され
、2nm~10nmである合金層Bと
が交互に積層される構造を有し、
少なくとも前記合金層Aに硫黄が含まれ
、
低抵抗状態を持つ第一の結晶相と高抵抗状態を持つ第二の結晶相との二つの相間で相転移可能とされることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
合金層Aにおける硫黄の含有量が0.05at%~10.0at%である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
合金層Aが立方晶の結晶構造を有するとともに合金層Bが六方晶の結晶構造を有し、前記合金層B上に前記合金層Aが積層された構造を有し、前記合金層Bのc軸が積層方向に配向され、前記合金層Aの(111)面が前記合金層Bとの隣接面に配向される請求項1から2のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の積層構造体の製造方法であって、
合金層A及び合金層Bの各層を200℃~300℃の温度で加熱する工程を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の積層構造体を有して構成されることを特徴とする半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの合金層を積層させた積層構造体及びその製造方法並びに前記積層構造体を有する半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来型の相変化メモリにおいては、ゲルマニウム(Ge)-アンチモン(Sb)-テルル(Te)からなる三元合金(以下、「GST合金」と称す)を用い、高抵抗状態のアモルファス相から低抵抗状態の結晶相へ変化させるセット(SET)と呼ばれる記録過程と、逆に前記結晶相から前記アモルファス相へ戻すリセット(RESET)と呼ばれる消去過程とを、電流パルスの強弱と印加時間とを変化させることで達成している。
しかし、前記消去過程では、前記アモルファス相を形成するため、一旦、前記GST合金に融点以上の温度を発生させる大電流を注入する必要があり、省電力の観点から問題があった(非特許文献1,2参照)。
【0003】
この問題を解決するために、厚みが約1nmのGeTe合金層と厚みが1nm~4nmのSbTe合金層とを結晶状態で交互に積層した積層構造体を用いた積層構造型相変化メモリが提案されている(特許文献1、非特許文献3参照)。
この提案によれば、低抵抗状態を持つ第一の結晶相(SET相)と高抵抗状態を持つ第二の結晶相(RESET相)とを電流パルスを前記積層構造体に加えることで発生させ、構成合金の融点を経ることなく融点未満の温度で結晶-結晶間相転移を実現することで、従来比で1/10以下の省電力化が達成される。
【0004】
しかしながら、前記積層構造型相変化メモリについて、解決すべき問題が幾つか提起されている。以下、前記積層構造型相変化メモリの具体的な構成とともに説明する。
前記積層構造型相変化メモリでは、GeTe合金層にあるGe原子の原子価を隣接するTe原子の位置と交換することで、高抵抗状態結晶相と低抵抗状態結晶相とを往来させ、ON-OFF状態を得ることを記録原理とする。
前記GeTe合金層は、Ge原子とTe原子とが上下交互に配置された凸凹状の原子層を形成しており、前記原子層一層の厚みは、約0.4nmである。
この原子層が二枚重ねられた状態の前記GeTe合金層では、層の厚み方向での配列の仕方により、4通りの配列をとり得る。具体的には、層の底面側から厚み方向に向けた順で、Ge-Te-Ge-Te配列(
図1参照)と、その逆配列であるTe-Ge-Te-Ge配列(
図1中の両矢印参照)と、Ge-Te-Te-Ge配列(
図2参照)と、Te-Ge-Ge-Te配列(
図3参照)との4通りの配列が存在する。特に、Ge-Te-Ge-Te配列(
図1参照)は、更に成長が可能で、Ge-Te-Ge-Te-Ge-Te・・・のように繰返し数を増やすことができ、その結晶構造は、立方晶である(非特許文献4参照)。
なお、
図1は、低抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図(1)であり、
図2は、低抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図(2)であり、
図3は、高抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図である。各図中、「◆」は、Te原子を示し、「▼」は、Ge原子を示し、「▲」は、Sb原子を示しており、以降の図においても同様である。
【0005】
また、前記積層構造体の前記SbTe合金層の中でも、Sb
2Te
3の組成比で構成されるSb
2Te
3合金層は、特に安定した構造を持ち、5原子層を重ねて構成される1層の層構造を持つことが知られている(
図1~
図3参照)。
前記Sb
2Te
3合金層は、
図1~
図3に示すように、層の底面側から厚み方向に向けた順で、Te-Sb-Te-Sb-Te配列を持つ。また、前記Sb
2Te
3合金層は、層内のTe原子とSb原子とが共有結合によって強く結合し、六方晶の結晶構造を持つ(非特許文献4参照)。
なお、以下では、前記Sb
2Te
3合金層の構成単位となる前記5原子層のことをQL(quintuple layer)と称する。
【0006】
前記GeTe合金層と前記Sb
2Te
3合金層とは、例えば、結晶軸を一致させて、これらの層が交互に繰返し積層された前記積層構造体を構成する。具体的には、前記GeTe合金層の<111>結晶面と、前記Sb
2Te
3合金層の<0001>結晶面とを共有させて前記積層構造体が構成される(
図1参照)。
また、前記GeTe合金層と前記Sb
2Te
3合金層とでは、Te原子同士がファンデルワールス結合によって弱く結合し(特許文献1、非特許文献4参照)、実際に作製した前記積層構造体に対する断面透過電子顕微鏡写真による解析結果も報告されている(非特許文献5参照)。
なお、
図1~3中の横線は、前記ファンデルワールス結合が作用する界面を示しており、以降の図においても同様である。
【0007】
前記積層構造体は、真空成膜装置を用いて作製される。
作製には成膜の順番があり、基板に対して先に前記Sb2Te3合金層を薄く成膜する必要がある。また、このSb2Te3合金層としては、3QL~5QLで形成することが好ましく、このように形成すると綺麗な積層膜を得ることができる(特許文献1参照)。
前記Sb2Te3合金層を形成すると、終端がTe原子面となるため、引き続き、前記GeTe合金層を積層する場合、前記Te原子面側から層の厚み方向に向けて、Ge-Te-Ge-Te配列、Te-Ge-Te-Ge配列、Ge-Te-Te-Ge配列及びTe-Ge-Ge-Te配列の原子層が形成される。熱力学的な相の安定性を計算すると、約230℃付近に相転移温度が存在し、それ以下の温度でTe-Ge-Ge-Te相が、それ以上の温度でGe-Te-Ge-Te相が安定であることが知られている。また、160℃付近から室温まではTe-Ge-Ge-Te相の他にGe-Te-Te-Ge相が生成することが知られている(非特許文献5参照)。
前記積層構造体は、これらの基本構成の繰り返し構造から作製される。
【0008】
前記積層構造体は、Ge-Te-Ge-Te相(
図1参照)、Te-Ge-Te-Ge相及びGe-Te-Te-Ge相(
図2参照)が多数存在する場合、電気抵抗が1kΩ~10kΩと低く、他方、Te-Ge-Ge-Te相(
図3参照)が多数存在する場合、電気抵抗が1MΩ~10MΩと高いことが報告されている(非特許文献6参照)。
前記積層構造型相変化メモリでは、これらの相の間で相変化を生じさせ、メモリ動作が実現される。
【0009】
現在、前記積層構造型相変化メモリは、世界各国で盛んに研究開発が展開されているが、素材解析分野の進歩とともに次の問題が報告されている。
先ず、原子レベルで解析が可能な高解像の走査型透過電子顕微鏡を用いた解析結果として、前記QLと前記GeTe合金層との間で相互拡散が発生し、本来Ge原子が存在しなければならない位置に多数のSb原子が置き換わった構造配列が観察されることが報告されている(非特許文献7参照)。置換されたSb原子は、メモリ動作に必要な前記相変化に関与しないことから、Sb原子への置換により前記GeTe合金層からGe原子の数が減少すると、前記相変化による電気抵抗の変化が次第に小さくなり、メモリ動作が実行できなくなる。
次に、Ge2Te2層とSb2Te3層とを繰り返し積層した積層構造体を高解像度の走査型透過電子顕微鏡で観察すると、一部のGe原子が本来存在すべき場所と異なる場所に移動し、Ge原子の正確な位置情報が得られないことが報告されている(非特許文献8参照)。この現象は、前記走査型透過電子顕微鏡による観察の際、前記積層構造体に照射された電子ビームのエネルギーを吸収してGe原子及びSb原子が原子間移動したことに起因し、メモリ動作に必要な前記積層構造体の原子配列が外部エネルギーの吸収により崩れ易いことを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】S. Raoux and M. Wuttig, Phase Change Materials, スプリンガー出版 (2009).
【文献】M. Wuttig and N. Yamada, Nature Mater. 6, 824 - 832 (2007).
【文献】R. Simpson, P. Fons, A. V. Kolobov, T. Fukaya, M. Krbal, T. Yagi, and J. Tominaga, Nature Nanotechnol. 6, 501 (2011).
【文献】J. Tominaga, A. V. Kolobov, P. Fons, T. Nakano and S. Murakami, Adv. Mater. Interfaces 2013, DOI: 10.1002/admi.201300027
【文献】J. Tominaga, A. V. Kolobov, P. J. Fons, X. Wang, Y. Saito, T. Nakano, M. Hase, S. Murakami, J. Herfort, Y. Takagaki, Sci. Technol. Adv. Mater. 16, 014402, 2015.
【文献】H. Nakamura, I. Rugger, S. Sanvito, N. Inoue, J. Tominaga and Y. Asai, Nanoscale, 9, 9386 - 9395, 2017.
【文献】Ruining Wang, Valeria Bragaglia, Jos E. Boschker, and Raffaella Calarco, Cryst. Growth 16, 3596 - 3601 (2016).
【文献】Andriy Lotnyk, Isom Hilmi, Ulrich Ross, and Bernd Rauschenbach, Nano Research, 11, 1676 - 1686, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、原子配列の安定性に優れる積層構造体及びその製造方法、並びに前記積層構造体を用いた半導体デバイスを提供することを課題とする。
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行い、次の知見を得た。
前記積層構造体が相変化の機能を失う原因は、相変化に関与する前記GeTe合金層中のGe原子が前記QL側に拡散することにある。
前記積層構造体メモリにおける前記GeTe合金層と前記QL間では、Te原子以外の原子であるGe原子及びSb原子の濃度勾配が両者の界面を境にして存在し、両者間で濃度勾配に起因する化学ポテンシャルが生じるため、Ge原子及びSb原子の各原子が本来存在すべきでない側に相互拡散し易い状況にある(
図4参照)。
なお、
図4は、Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(A)であり、図中、(1)がTe原子の化学ポテンシャル、(2a)が図中下側に示される前記QLにおけるSb原子の化学ポテンシャル、(2b)が図中上側に示される前記QLにおけるSb原子の化学ポテンシャル、(3a)が図中下側に示される前記GeTe合金層におけるGe原子の化学ポテンシャル、(3b)が図中上側に示される前記GeTe合金層におけるGe原子の化学ポテンシャルを示している。
【0014】
今、相変化に必要なエネルギーや前記走査型透過電子顕微鏡による観察の際に照射される電子ビームのエネルギー等の外部エネルギーを前記積層構造体が吸収すると、先ず、前記QL中のTe-Sb間の結合が解かれ、前記QL中のSb原子が前記GeTe合金層に拡散する。下記表1に示すようにTe-Sb間の結合解離エネルギーがGe-Te間の結合解離エネルギーよりも約120kJ/mol程小さいためである。
前記QL中のSb原子が前記GeTe合金層に拡散すると、この拡散に誘起される形で前記GeTe合金層中のGe-Te間の結合が解かれ、前記GeTe合金層中のGe原子が前記QLに拡散する。濃度勾配の低下に伴う前記QL中のSb原子の化学ポテンシャルの低下に誘起される形で、前記GeTe合金層中の相互拡散前のGe原子に相当する化学ポテンシャルが下がり、前記積層構造体全体の系の自由エネルギーをより低い状態に保持しようとする作用が働くためである。
その結果、前記GeTe合金層と前記QL間で、相互拡散に伴うSb原子とGe原子との置換が生じることとなる(
図5参照)。
また、Sb原子及びGe原子の相互拡散に伴い、Te原子間の界面に生じていたファンデルワールス結合(
図1~
図3参照)による弱い結合に基づくTe原子間の隙間が消失する(
図5参照)。
なお、
図5は、Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(B)であり、図中、(1)がTe原子の化学ポテンシャル、(2a)が図中下側に示される前記QLにおける相互拡散前のSb原子に相当する化学ポテンシャル、(2b)が図中上側に示される前記QLにおける相互拡散前のSb原子に相当する化学ポテンシャル、(3a)が図中下側に示される前記GeTe合金層における相互拡散前のGe原子に相当する化学ポテンシャル、(3b)が図中上側に示される前記GeTe合金層における相互拡散前のGe原子に相当する化学ポテンシャルであり、濃度勾配の低下に伴い、相互拡散前に比べて、各化学ポテンシャルが低下する様子を示している。
また、下記表1は、二原子間の結合解離エネルギーを示す表であり、下記参考文献1に基づく。
参考文献1:Luo, Y . R ., Comprehensive Handbook of Chemical Bond Energies, CRC Press, Boca Raton, FL, 2007.
【0015】
【0016】
ところで、Te原子と同じ第16族に属するカルコゲン原子であるS原子とGe原子との間の結合は、Ge-S間の結合解離エネルギーがTe-Sb間の結合解離エネルギーと比べて2倍程度高く、Te原子とGe原子との間の結合よりも解かれにくい(上掲表1参照)。また、同じくカルコゲン原子であるSe原子とGe原子との間の結合も、結合解離エネルギーの比較からTe原子とGe原子との間の結合よりも解かれにくい(上掲表1参照)。
したがって、S原子やSe原子を前記GeTe合金層に導入して、Te原子の一部をS原子やSe原子で置換し、Ge-SやGe-Seの結合を形成すれば、置換しない場合と比べて、Ge原子の前記QL側への拡散を抑制することができると考えられる。即ち、Ge-S間及びGe-Se間の強い結合に基づき、Ge原子及びSb原子の高い濃度勾配が維持されることで、Ge原子の前記QL側への拡散が抑制されることとなる(
図6参照)。
なお、
図6は、Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(C)であり、図中、(1)がTe原子の化学ポテンシャル、(2a)が図中下側に示される前記QLにおけるSb原子の化学ポテンシャル、(2b)が図中上側に示される前記QLにおけるSb原子の化学ポテンシャル、(3a)が図中下側に示される前記GeTe合金層におけるGe原子の化学ポテンシャル、(3b)が図中上側に示される前記GeTe合金層におけるGe原子の化学ポテンシャルを示している。また、導入する原子としてS原子を例とし、図中、S原子を「■」で示している。
【0017】
加えて、Sb原子とS原子との間の結合は、結合解離エネルギーの比較からSb原子とTe原子との間の結合よりも解かれにくい(上掲表1参照)。Sb原子とSe原子との間の結合も、Sb原子とTe原子との間の結合よりも解かれにくい。
よって、S原子やSe原子を前記QLの方に導入して、Te原子の一部をS原子やSe原子で置換し、Sb-SやSb-Seの結合を形成した場合も、置換しない場合と比べて、前記GeTe合金層中のGe原子の前記QL側への拡散が抑制されると考えられる。
即ち、前記GeTe合金層中のGe原子の前記QL側への拡散は、前記QL中のSb原子が前記GeTe合金層側に拡散することにより誘起されることから、Sb-SやSb-Seの結合により前記QL中のSb原子が前記GeTe合金層側へ拡散することを抑制すれば、併せて、前記GeTe合金層中のGe原子の前記QL側への拡散も抑制されることとなる。
【0018】
なお、以上では、前記SbTe合金層を例に挙げて説明をしたが、Sb原子と同じ15族に属するBi原子を用いたBiTe合金層についても、同様の説明を適用することができる。
また、前記積層構造体相変化メモリを例に挙げて説明をしたが、前記積層構造体の相変化を利用してデバイス動作させる半導体デバイスであれば、同様の説明を適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ゲルマニウムとテルルとを主成分として形成され、厚みが0nmを超え4nm以下である合金層Aと、アンチモン及びビスマスのいずれかとテルルとを主成分として形成され、2nm~10nmである合金層Bとが交互に積層される構造を有し、少なくとも前記合金層Aに硫黄が含まれ、低抵抗状態を持つ第一の結晶相と高抵抗状態を持つ第二の結晶相との二つの相間で相転移可能とされることを特徴とする積層構造体。
<2> 合金層Aにおける硫黄の含有量が0.05at%~10.0at%である前記<1>に記載の積層構造体。
<3> 合金層Aが立方晶の結晶構造を有するとともに合金層Bが六方晶の結晶構造を有し、前記合金層B上に前記合金層Aが積層された構造を有し、前記合金層Bのc軸が積層方向に配向され、前記合金層Aの(111)面が前記合金層Bとの隣接面に配向される前記<1>から<2>のいずれかに記載の積層構造体。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の積層構造体の製造方法であって、合金層A及び合金層Bの各層を200℃~300℃の温度で加熱する工程を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の積層構造体を有して構成されることを特徴とする半導体デバイス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、原子配列の安定性に優れる積層構造体及びその製造方法、並びに前記積層構造体を用いた半導体デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】低抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図(1)である。
【
図2】低抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図(2)である。
【
図3】高抵抗状態の積層構造体の例を示す模式図である。
【
図4】Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(A)である。
【
図5】Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(B)である。
【
図6】Ge原子及びSb原子の相互拡散状況を説明する説明図(C)である。
【
図7】実施例1及び比較例1に係る各積層構造体のX線回折チャートを示す図である。
【
図8】実施例1に係る積層構造体の電子顕微鏡像を示す図である。
【
図9】比較例1に係る積層構造体の電子顕微鏡像を示す図である。
【
図10】実施例3に係る半導体デバイスの構成を説明する説明図である。
【
図11】高抵抗状態(RESET相)から低抵抗状態(SET相)に至る実施例3及び比較例5に係る各半導体デバイスの電圧-電気抵抗特性を示す図である。
【
図12】低抵抗状態(SET相)から高抵抗状態(RESET相)に至る実施例3及び比較例5に係る各半導体デバイスの電圧-電気抵抗特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(積層構造体)
本発明の積層構造体は、合金層Aと、合金層Bとを有する。
【0023】
<合金層A>
前記合金層Aは、ゲルマニウム(Ge)とテルル(Te)とを主成分として形成される。
前記合金層Aでは、ゲルマニウム原子とテルル原子との原子配列により、前記積層構造体に対して、SET相及びRESET相と呼ばれる特性の異なる二つの相を付与し、前記積層構造体に電圧を印加することで、二つの相間で相転移を生じさせる。
なお、本明細書において「主成分」とは、層の基本単位格子を形成する原子であることを示し、また、前記層が硫黄及びセレンの少なくともいずれかのカルコゲン原子(S原子、Se原子)を含む場合、前記カルコゲン原子(S原子、Se原子)と前記基本単位格子を形成する前記原子であることを示す。
【0024】
前記合金層Aとしては、特に制限はないが、結晶方位が一定の方位に配向される層が好ましく、中でも、立方晶の結晶構造を有するとともに、その(111)面が前記合金層Bとの隣接面に配されていることが好ましい。中でも、面心立方晶の結晶構造を有するとともに、その(111)面が前記合金層Bとの隣接面に配向されることがより好ましい。
このような結晶構造を有すると、その次に積層される層が、この層を下地として配向を生み出すテンプレートとなって、これら積層体の超格子構造が得られやすい。
【0025】
前記合金層Aの形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等が挙げられる。
前記合金層Aの厚みとしては、特に制限はないが、0nmを超え4nm以下であることが好ましい。前記厚みが4nmを超えると、独立した固有の特性を示すことがあり、前記積層構造体の特性に影響を及ぼすことがある。
【0026】
<合金層B>
前記合金層Bは、アンチモン(Sb)及びビスマス(Bi)のいずれかとテルル(Te)とを主成分として形成される。
前記合金層Bとしては、特に制限はなく、原子組成比が1:1とされるSbTeやBiTeで形成される層やこの他の原子組成比で形成される層を含むが、中でも、原子配列の安定性の観点から、原子組成比が2:3とされるSb2Te3及びBi2Te3のいずれかにより形成されることが好ましい。
【0027】
前記合金層Bとしては、特に制限はないが、結晶方位が一定の方位に配向される層が好ましく、中でも、六方晶の結晶構造を有するとともに、そのc軸が積層方向に配向されていることがより好ましい。
このような結晶構造を有すると、その次に積層される層が、この層を下地として配向を生み出すテンプレートとなって、これら積層体の超格子構造が得られやすい。
【0028】
前記合金層Bの形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法等が挙げられる。
また、前記合金層Bの厚みとしては、特に制限はないが、c軸配向の結晶構造が得られ易いことから、2nm~10nmであることが好ましい。
【0029】
前記積層構造体としては、特に制限はないが、前記相転移を生じさせ易くする観点から、前記合金層Aと前記合金層Bとが交互に繰返し積層される構造を有することが好ましい。
この場合、前記積層構造体に配向性を付与する観点から、前記合金層Bを下地層(最下層)として前記合金層B上に前記合金層Aを積層させ、この順で前記合金層A及び前記合金層Bとが交互に繰返し積層されることが好ましい。また、前記積層構造体の最表層として、前記合金層Bを配すると前記積層構造体に対する酸化防止層として機能する。
また、前記積層構造体における積層数としては、特に制限はなく、前記合金層A及び前記合金層Bの各層を1層と計数したときに、10層~50層程度とすればよい。
【0030】
なお、前記積層構造体に配向性を付与する観点から、前記積層構造体の下地としてゲルマニウム、シリコン、タングステン、ゲルマニウム-シリコン、ゲルマニウム-タングステン及びシリコン-タングステンのいずれかで形成される配向制御層が形成された基板を用い、前記配向制御層上に前記積層構造体を作製することもできる。
【0031】
<カルコゲン原子>
前記積層構造体では、前記合金層A及び前記合金層Bの少なくともいずれかの層に硫黄(S)及びセレン(Se)の少なくともいずれかのカルコゲン原子が含まれる。
前記カルコゲン原子を含むことで前記合金層A中のGe原子が前記合金層B側に拡散することを抑制することができ、延いては、Ge原子及びTe原子の原子配列に基づく前記合金層Aの相変化を安定化させることができる。
【0032】
前記カルコゲン原子(S原子,Se原子)は、前記合金層A及び前記合金層Bの各層におけるTe原子と置換される。Te原子は、前記カルコゲン原子(S原子,Se原子)と同じく第16族に属する。
しかしながら、Te原子から前記カルコゲン原子(S原子,Se原子)への置換量が多すぎると、前記相転移を生じさせる前記積層構造体の特性が損なわれ、少なすぎると、前記合金層A中のGe原子が前記合金層B側に拡散することを抑制しにくくなる。
したがって、前記カルコゲン原子の含有量としては、前記合金層A及び前記合金層Bの各層に対して、0.05at%~10.0at%であることが好ましい。
【0033】
前記カルコゲン原子としては、前記合金層A及び前記合金層Bの少なくともいずれかの層に含まれればよいが、前記合金層A中のGe原子が前記合金層B側に拡散することを効果的に抑制する観点から、前記合金層Aに含まれることが好ましく、また、前記合金層Aに対して、0.05at%~10.0at%の含有量で含まれることが特に好ましい。
【0034】
なお、前記カルコゲン原子を前記合金層A及び前記合金層Bの各層に加える方法としては、特に制限はなく、前記合金層A及び前記合金層Bの形成材料中に前記カルコゲン原子を加え、前記合金層A及び前記合金層Bを形成する任意の方法をとり得る。
【0035】
(積層構造体の製造方法)
本発明の積層構造体の製造方法は、本発明の前記積層構造体を製造する方法であり、少なくとも、前記合金層A及び前記合金層Bの各層を200℃~300℃の温度で加熱する工程を含む。
前記合金層A及び前記合金層Bとしては、形成方法を含め、前記積層構造体について説明した事項を適用できるが、前記合金層A及び前記合金層Bの各層を200℃~300℃の温度で加熱することが肝要である。
即ち、このような温度で加熱を行うことで、優れた配向性を持つ前記積層構造体が得られる。
【0036】
(半導体デバイス)
本発明の半導体デバイスは、本発明の前記積層構造体を有して構成される。
前記積層構造体は、前記SET相及び前記RESET相と呼ばれる特性の異なる二つの相間で相転移させることができ、この相転移現象を利用して種々のデバイスに利用することができる。特に、前記カルコゲン原子を含むことで本来の原子配列が持つデバイス特性を安定して発揮させることができる。
前記半導体デバイスとしては、前記積層構造体を有するものであれば特に制限はなく、例えば、特許第4599598号公報、特許第4621897号公報(特許文献1)、特許第5750791号公報、特許第6124320号公報、特許第6238495号公報、国際公開第2016/147802号公報等に開示される公知の相変化デバイスやスピン電子デバイスを挙げることができる。
【実施例】
【0037】
[積層構造体]
(実施例1)
先ず、スパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製、4EP-LL、3インチターゲットを3個搭載)に厚みが200μmのサファイヤ基板(信光社製)を移し、真空背圧を1.0×10-4Pa、Arの成膜ガス圧0.5Pa、温度を25℃、RFパワーを100Wとする条件下でシリコン材(三菱マテリアル社製、BドープSi)をターゲットに用いたスパッタリングを行い、前記サファイヤ基板上に下地層としてのアモルファスシリコン層を40nmの厚みで形成した。
【0038】
次いで、真空背圧を維持し、Arの成膜ガス圧0.5Pa、温度を25℃、RFパワーを20Wとする条件でSb2Te3合金材(三菱マテリアル社製、純度99.9%)をターゲットに用いたスパッタリングを行い、前記アモルファスシリコン層上にSb2Te3合金層(一層目)を3.0nmの厚みで形成した。また、形成後、210℃で加熱し、Sb2Te3合金層を結晶化させた。
【0039】
次いで、真空背圧及びArの成膜ガス圧を維持し、温度を210℃に保持しながら、RFパワーを20Wとする条件で、S原子添加GeTe合金材(Ge50Te47S3、三菱マテリアル社製、純度99.9%)をターゲットに用いたスパッタリングを行い、S原子を3at%の含有量で含むGeTe合金層(一層目)を前記Sb2Te3合金層上に0.8nmの厚みで形成するとともに結晶化させた。
【0040】
次いで、真空背圧及びArの成膜ガス圧を維持し、温度を210℃に保持しながら、前記Sb2Te3合金層と前記GeTe合金層とを、それぞれ一層目と同じ条件で、交互に繰り返し積層し、前記Sb2Te3合金層と前記GeTe合金層とが交互に10層ずつ積層され、合計20層の積層構造を持つ積層構造体を作製した。ただし、二層目以降の前記Sb2Te3合金層の厚みは、一層目の3.0nmから変更して、1.0nmとした。即ち、10層の前記Sb2Te3合金層の構成は、一層目の厚みが3.0nmとされ、二層目から十層目の各層の厚みが1.0nmとされる。
最後に、厚みを3.0nmから5.0nmに変更したこと以外は、一層目と同じ条件で酸化防止層としてのSb2Te3合金層を前記積層構造体の最表層となる前記GeTe合金層上に形成するとともに結晶化させた。
以上により、実施例1に係る積層構造体を製造した。
【0041】
(比較例1)
ターゲット材を、S原子添加GeTe合金材(Ge50Te47S3)から、S原子が添加されていないGeTe合金材(三菱マテリアル社製、純度99.9%)に変更し、前記GeTe合金層をS原子を含まない形で形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る積層構造体を製造した。
【0042】
(構造解析)
X線回折装置(リガク社製、SmartLab)を用いて実施例1及び比較例1に係る各積層構造体のX線解析を2シータ/オメガ法で行った。
図7に実施例1及び比較例1に係る各積層構造体のX線回折チャートを示す。
また、
図7に示す(003)、(006)、(009)、(0012)、(0015)及び(0018)の各回折ピークにおける半値幅(FWHM)を下記表2に示す。
【0043】
【0044】
図7及び表2に示されるように、実施例1に係る積層構造体では、比較例1に係る積層構造体と比べて各回折ピークの半値幅が小さくなり、より高い結晶性を持つことが確認される。
なお、
図7中に示す矢印は、比較例1に係る積層構造体からみた実施例1に係る積層構造体の回折ピークのピークシフトを示している。
【0045】
走査型透過電子顕微鏡(日本電子株式社製、JEM-ARM200F)を用いて実施例1及び比較例1に係る各積層構造体の構造解析を行った。
先ず、
図8に実施例1に係る積層構造体の電子顕微鏡像を示す。
図8に示されるように、実施例1に係る積層構造体では、Ge
2Te
2とSb
2Te
3とで構成される9原子の構造単位と、隣接する前記構造単位の間にファンデルワールス結合に基づく隙間(図中、暗色の横ライン参照)が明確に確認される。
更に、実施例1に係る積層構造体の一部をエネルギー分散型X線アナライザを用いて元素マッピングすると、Te-Sb-Te-Sb-Teからなる5原子層の上にGe-Te-Ge-Teの層が積層されていることが確認でき、この様子は、
図1に示す原子配列モデルとよく一致した。即ち、外部エネルギーを付加して行う構造観察を実施しても、S原子が添加されることで、Ge原子及びSb原子の相互拡散が抑制された本来の原子配列が維持される。
【0046】
次に、
図9に比較例1に係る積層構造体の電子顕微鏡像を示す。
図9に示されるように、比較例1に係る積層構造体では、Ge原子及びSb原子が相互拡散して一様な合金となっていることが確認される。
以上のS原子が添加された実施例1に係る積層構造体とS原子が添加されない比較例1に係る積層構造体との比較から、S原子を添加することで安定的な原子配列を持つ積層構造体が得られ、Ge原子の拡散を抑制することができることが確認される。
【0047】
(実施例2)
ターゲット材を、S原子添加GeTe合金材(Ge50Te47S3)から、Se原子添加GeTe合金材(Ge50Te47Se3、三菱マテリアル社製、純度99.9%)に変更することで、前記GeTe合金層にSe原子を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る積層構造体を製造した。
【0048】
実施例2に係る積層構造体に対し、実施例1と同様の構造解析を行ったところ、実施例1と同様の解析結果が得られ、S原子に代えてSe原子を添加した場合においても、安定的な原子配列を持つ積層構造体が得られ、Ge原子の拡散を抑制することができることが確認された。
【0049】
(比較例2)
ターゲット材を、S原子添加GeTe合金材(Ge50Te47S3)から、Al原子添加GeTe合金材(Ge50Te47Al3、三菱マテリアル社製、純度99.9%)に変更することで、前記GeTe合金層にAl原子を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る積層構造体を製造した。
【0050】
比較例2に係る積層構造体に対し、比較例1と同様の構造解析を行ったところ、S原子を添加しない比較例1と同様の解析結果が得られ、Al原子を添加した比較例2に係る積層構造体では、Ge原子及びSb原子が相互拡散して一様な合金となることが確認された。
【0051】
(比較例3)
ターゲット材を、S原子添加GeTe合金材(Ge50Te47S3)から、S原子が添加されていないGeTe合金材(三菱マテリアル社製、純度99.9%)に変更するとともに、スパッタリング時にスパッタリングガス(Arガス)に酸素ガスを10:1(Arガス:酸素ガス)のガス流量比で添加し、前記GeTe合金層にO原子を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る積層構造体を製造した。
【0052】
比較例3に係る積層構造体に対し、比較例1と同様の構造解析を行ったところ、S原子を添加しない比較例1と同様の解析結果が得られ、O原子を添加した比較例3に係る積層構造体では、Ge原子及びSb原子が相互拡散して一様な合金となることが確認された。
【0053】
(比較例4)
酸素ガスに代えて窒素ガスを用い、前記GeTe合金層にN原子を添加したこと以外は、比較例3と同様にして、比較例4に係る積層構造体を製造した。
【0054】
比較例4に係る積層構造体に対し、比較例1と同様の構造解析を行ったところ、S原子を添加しない比較例1と同様の解析結果が得られ、N原子を添加した比較例4に係る積層構造体では、Ge原子及びSb原子が相互拡散して一様な合金となることが確認された。
【0055】
[半導体デバイス]
(実施例3)
図10に示す半導体デバイス10の構成に従って実施例3に係る半導体デバイスを製造した。具体的な製造条件を以下説明する。なお、
図10は、実施例3に係る半導体デバイスの構成を説明する説明図である。
【0056】
積層構造体18底面側の構造物としては、シリコン基板11上のSiO2層12中にW層13とTiN層14とがこの順で積層された下部電極が形成されたものを用いた。なお、TiN層14の直径は、90nmである。
【0057】
前記構造物のTiN層14が形成される面上に、厚みを3.0nmから5.0nmに変更したこと以外は、実施例1に係る積層構造体における一層目の前記Sb2Te3合金層に準じてSb2Te3合金で構成される下地層15を形成した。
次に、下地層15上に実施例1に係る積層構造体における一層目の前記GeTe合金層に準じてGeTe合金層16を形成した。
次に、GeTe合金層16上に、厚みを1.0nmから4.0nmに変更したこと以外は、実施例1に係る積層構造体における二層目の前記Sb2Te3合金層に準じてSb2Te3合金層17を形成した。
更に、これらGeTe合金層16及びSb2Te3合金層17を交互に繰返し積層し、GeTe合金層16とSb2Te3合金層17とが交互に8層ずつ積層され、下地層15を含め合計17層の積層構造を持つ積層構造体18を作製した。
最後に、前記スパッタリング装置を用いてTiとNをターゲット(組成比1:1)とするスパッタリングを行い、積層構造体18の最表層を構成するSb2Te3合金層17上に、TiN層19を形成した。このTiN層19は、上部電極を構成する。
以上により、実施例3に係る半導体デバイスを製造した。この実施例3に係る半導体デバイスでは、各GeTe合金層16中にS原子が3at%の濃度で添加される。
【0058】
(比較例5)
各GeTe合金層16を、S原子を添加しない比較例1に係る積層構造体における前記GeTe層に準じて形成したこと以外は、実施例3と同様にして、比較例5に係る半導体デバイスを製造した。
【0059】
(デバイス特性)
実施例3及び比較例5に係る各半導体デバイスに外部電源を接続し、前記上部電極-前記下部電極間に電圧を加え、デバイス特性の測定を行った。
図11に高抵抗状態(RESET相)から低抵抗状態(SET相)に至る実施例3及び比較例5に係る各半導体デバイスの電圧-電気抵抗特性を示す。
また、
図12に低抵抗状態(SET相)から高抵抗状態(RESET相)に至る実施例3及び比較例5に係る各半導体デバイスの電圧-電気抵抗特性を示す。
図11に示されるように、高抵抗状態(RESET相)から低抵抗状態(SET相)に相変化させる際の電圧-電気抵抗特性は、実施例3及び比較例5に係る両半導体デバイス間で、大きな差がないことが確認される。
一方、高抵抗状態(RESET相)から低抵抗状態(SET相)に相変化させる際の電圧-電気抵抗特性は、
図12に示されるように、実施例3及び比較例5に係る両半導体デバイス間で、大きな差が確認された。
即ち、実施例3に係る半導体デバイスでは、比較例5に係る半導体デバイスと比較して39%も低い電圧値で相変化させることができている。
また、図示しないものの、実施例3に係る半導体デバイスでは、比較例5に係る半導体デバイスと比較して27%も低い電流値で相変化させることができている。
したがって、実施例3に係る半導体デバイスでは、メモリ動作に必要な外部エネルギーを加えても、S原子の添加によりSb原子及びGe原子の本来の原子配列が安定的に維持されることから、Ge原子の拡散が抑制され、延いては、本来的に有するデバイス特性(相変化特性)を発揮、維持することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 半導体デバイス
11 シリコン基板
12 SiO2層
13 W層
14,19 TiN層
15 下地層
16 GeTe合金層
17 Sb2Te3合金層
18 積層構造体