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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ゲノム編集方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240110BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240110BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20240110BHJP
   C07K 17/14 20060101ALI20240110BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20240110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240110BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A01H1/00 A
A01H5/00 A
A01H5/10
C07K17/14
C12N5/04
C12N5/10
C12N15/87 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020557718
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046068
(87)【国際公開番号】W WO2020111028
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018220783
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 晴康
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 洋三
(72)【発明者】
【氏名】三木 隆二
(72)【発明者】
【氏名】田岡 直明
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮三
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532850(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150733(WO,A1)
【文献】特開2001-337065(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195906(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0186842(US,A1)
【文献】特表2009-516199(JP,A)
【文献】THOBHANI, S., et al.,Bioconjugation and characterisation of gold colloid-labelled proteins,J. Immunol. Methods,2010年,Vol.356, issue 1-2,p.60-69,ISSN 0022-1759
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
A01H 1/00
A01H 5/00
A01H 5/10
C07K 17/14
C12N 5/04
C12N 5/10
C12N 15/87
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金粒子をタンパク質によりコーティングする方法であって、
MgCl 、及びDTTを除く塩の終濃度が10mM以上35mM以下である緩衝液を用いて、平均粒径が0.3μm以上1.5μm以下である金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程を有し、
前記タンパク質がコーティングされた前記金粒子は、植物への導入に用いられることを特徴とする法。
【請求項2】
タンパク質がコーティングされた金粒子の製造方法であって、
MgCl 、及びDTTを除く塩の終濃度が10mM以上35mM以下である緩衝液を用いて、平均粒径が0.3μm以上1.5μm以下である金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程を有し、
前記タンパク質がコーティングされた前記金粒子は、植物への導入に用いられることを特徴とする方法。
【請求項3】
タンパク質の金粒子への結合を促進する方法であって、
MgCl 、及びDTTを除く塩の終濃度が10mM以上35mM以下である緩衝液を用いて、平均粒径が0.3μm以上1.5μm以下である金粒子を、タンパク質によりコーティングするコーティング工程を有し、
前記タンパク質がコーティングされた前記金粒子は、植物への導入に用いられることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記緩衝液が、Tris-HCl、Tris-OAc、及びHEPESからなる群より選択される少なくとも1種の塩を含み、
前記塩の終濃度が10mM以上20mM以下である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記植物への導入が、遺伝子銃により行われる、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記塩が、アルカリ金属を含む塩である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝液が、さらに両親媒性分子と塩基性タンパク質を含み、
前記両親媒性分子が、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンまたはBis Imidazole Oxalyldiaminopropionic acidであり、
前記塩基性タンパク質がヒストンH1である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記緩衝液が、さらに核酸を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質が、CASヌクレアーゼである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記緩衝液が、さらに10mM以上30mM以下のMgCl を含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を金粒子に効率よく結合させる技術に関する。より詳しくは、遺伝子銃に使用する金粒子にタンパク質を効率よく結合させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の遺伝子を改変するために、ゲノム編集技術が有望であると期待されている(特許文献1)。
しかしながら、現実には、ゲノム編集が難しい植物も存在している。その理由の1つとしては、充分な量のCRISPR-CASタンパク質を遺伝子銃により細胞中に導入できないことが考えられる。
そこで、より効率よくCRISPR-CASタンパク質を導入できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許公開公報第2014/0068797号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンパク質を金粒子に効率よく被覆する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 以下のいずれかの緩衝液を用いることを特徴とする、金粒子をタンパク質によりコーティングする方法:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、タンパク質の金粒子への結合を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、金粒子へのタンパク質の結合量(%)と種々のBuffer中の塩濃度の関係を示すグラフである。
図2図2は、Tris-HCl bufferの終濃度を1.0mMに固定した場合のbuffer中の塩濃度が、タンパク質の金粒子への結合量に及ぼす影響を示すグラフである。
図3図3は、NaClの終濃度が1.0mMの場合に、Tris-HCl濃度が、タンパク質の金粒子への結合に及ぼす影響を示すグラフである。
図4図4は、buffer中のMgCl濃度が、タンパク質の金粒子への結合量に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
CRISPR-CASを用いてゲノム編集をする場合に遺伝子銃を用いてRNAとタンパク質を導入する方法がある。しかしながら、遺伝子銃を用いてタンパク質を導入する場合、様々な問題がある。1つは、DNAと異なり、変性しやすく親水性であるタンパク質を金粒子に結合させる効率の問題、もう1つは、タンパク質を結合させた金粒子をマクロキャリアにスポットする際の問題、マクロキャリア上にスポットした金粒子がマクロキャリアからどの程度の割合で放出されるかの問題などである。
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意研究することにより、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液、又は塩を含まない緩衝液を用いて、金粒子にタンパク質を結合させることにより、タンパク質の金粒子への結合効率を高められることを発見し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、通常よりも低濃度の塩を含む緩衝液を用いることで、タンパク質の金粒子への結合を促進することができる。この方法を用いて金粒子をコーティングすることにより、金粒子へのタンパク質の結合率が約80%近くにまで上昇する。塩濃度の終濃度が3.5mMより高い場合、金粒子へのタンパク質の結合量は55%以下である(図1および図2)。
【0010】
(金粒子をタンパク質によりコーティングする方法)
本発明の金粒子をタンパク質によりコーティングする方法は、以下のいずれかの緩衝液を用いる方法である:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
【0011】
前記緩衝液における「塩」とは、タンパク質が金粒子に結合するのを阻害する塩をいう。「塩」とは、例えば、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、酢酸カリウム(KOAc)、トリス(Tris・Cl)、Tris-OAc、HEPES等が含まれるが、これらに限られず、タンパク質が金粒子に結合するのを阻害する物質であれば制限なく含まれる。なお、塩化マグネシウム(MgCl)、及びジチオトレイトール(DTT)は本明細書においては、塩に含まれない。塩としては、好ましくはアルカリ金属を含む。本明細書において、「塩濃度」とは、タンパク質が金粒子に結合するのを阻害する塩の濃度をいう。
【0012】
前記緩衝液における好ましい塩濃度の終濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食塩の場合、2.5mM以下が好ましく、より好ましくは2.0mM以下、1.5mM以下、1.0mM以下、0.5mM以下、0.3mM以下、0.1mM以下であり、最も好ましくは0mMである。Trisの場合は、2.0mM以下が好ましく、より好ましくは、1.5mM以下、1.0mM以下、0.5mM以下、0.3mM以下であってもよい。また、MgCl、及びDTTを除く全体の塩濃度の終濃度としては、3.5mM以下が好ましく、より好ましくは3.0mM以下、2.5mM以下、2.0mM以下、1.5mM以下、1.0mM以下、0.5mM以下、0.3mM以下であり、0mMであっても良い。
【0013】
前記緩衝液は、さらに、両親媒性分子及び塩基性タンパク質を含むことができる。両親媒性分子(化合物)は、親水性(水溶性)部分と、疎水性(不溶性)部分とを有している。親水性基は、その化学残基が水を好む性質を有している。親水性基としては、例えば、炭水化物、ポリオキシエチレン、ペプチド、オリゴヌクレオチド並びにアミン、アミド、アルコキシアミド、カルボン酸、イオウ、又は水酸基を含む基が含まれるが、これらに限られない。両親媒性分子(化合物)としては、脂質分子、リポソーム、リポポリプレックス(lipo polyplex)などを含むがこれらに限られない。リポポリプレックスは、例えば、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンを含んでいてもよい。
【0014】
疎水性基は、その化学残基は水を排除する性質を有している。かかる化学基は水溶性ではなく、水素結合を形成しない。炭化水素は、疎水性基である。
【0015】
本発明の金粒子のタンパク質被覆方法においては、両親媒性化合物を用いることにより、金粒子へのタンパク質の結合量を増加させることができ、さらに、マクロキャリアからの放出率も向上させることができる。
【0016】
両親媒性化合物は陽イオン性を有していることが好ましい。この陽イオン性両親媒性化合物は、天然由来ではないポリアミンであってもよく、これら1つ以上のアミンは、少なくとも1つの疎水性残基に結合されており、この疎水性残基は、C6-C24アルカン、C6-C24アルケン、ステロール、ステロイド、脂質、脂肪酸又は疎水性ホルモンを有していてもよい。ここでCXのXの数字は炭素数を表す。両親媒性化合物は、リポソームを形成していても形成していなくてもよい。また、両親媒性化合物は、以下の構造を有していてもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
R1及びR2は、C6-C24アルカン、C6-C24アルケン、ステロール、ステロイド、脂質、脂肪酸又は疎水性ホルモン及びその他の類似する疎水基からなる群から選択された置換基である。R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよい。
両親媒性化合物は、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンまたはBis Imidazole ODAP (Bis imODAP, ODAPはOxalyldiaminopropionic acid)であってもよい。
【0019】
前記両親媒性分子(化合物)の、前記緩衝液における濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、終濃度が10μg/mL以上が好ましく、100μg/mL以上がより好ましい。
【0020】
本発明においては、両親媒性化合物に加えて、ポリカチオンを添加することができる。好ましいポリカチオンとしては、ポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリシラザン、ポリジヒドロイミダゾレニウム、ポリアリルアミン及びこれらに類する化合物などのポリマーなどが挙げられるがこれらに限られない。好適なポリカチオンは、エトキシル化ポリエチレンイミン(ePEI)である。
【0021】
また、ポリカチオンは塩基性タンパク質であってもよい。好適な塩基性タンパク質は、DNA結合タンパク質であり、例えばH1、H2A又はH2Bなどのヒストンである。ヒストンは、牛胸腺などの天然ソースに由来していてもよいし、バクテリア内で合成された組換えタンパク質であってもよい。ヒストンなどのDNA結合タンパクは、ポリリジンなどのポリカチオン化合物に比べて種々の点で利点を有している。DNA結合タンパク質は、SV40ラージT抗原核局在化シグナルやヒトヒストンH1のC末端ドメイン(NLS-H1)の両方を有する組換えヒストンであってもよく、これは核局在化シグナルにリンクされている。塩基性タンパク質は、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンと混合することでタンパク質の金粒子への結合効率が上がるものであれば特に限定されないが、ヒストンH1タンパク質が好ましい。
【0022】
また、両親媒性化合物と、ポリカチオンを組み合わせて用いてもよい。例えば、1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンとヒストンH1タンパク質の比率は、3:1程度が好ましい。
【0023】
前記緩衝液は、さらに、核酸を含むことができる。
前記核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、DNA、RNA、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0024】
前記緩衝液は、さらに、その他の成分を含むことができる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、MgCl、DTT、ウシ血清アルブミン(BSA)、EDTA、DNase/RNase阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、グリセロールなどが挙げられる。
【0025】
前記金粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、少なくとも表面が金であればよく、中実構造のものでもよいし、コアシェル構造のものであっても、中空粒子であってもよく、金ナノロッドなどのナノ粒子であってもよい。
前記金粒子の金の純度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、99%以上が好ましい。
【0026】
前記金粒子の平均粒径の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、0.6μm以上が特に好ましい。
前記微粒子の平均粒径の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5μm以下が好ましく、1.4μm以下がより好ましく、1.3μm以下がさらに好ましく、1.2μm以下が特に好ましく、1.1μm以下がさらに特に好ましく、1.0μm以下が最も好ましい。
【0027】
前記タンパクとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヌクレアーゼ、又はデアミナーゼなどの核酸代謝酵素が挙げられる。
前記ヌクレアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CRISPR-CASシステムのCASヌクレアーゼなどが挙げられる。
前記CASヌクレアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、I型CRISPR系酵素であるCas3、II型CRISPR系酵素であるCas9などが挙げられる。
【0028】
前記タンパクの、前記緩衝液における濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、終濃度が50μg/mL以上が好ましく、300μg/mL以上がより好ましい。
【0029】
前記コーティングの時間の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3分間以上が好ましく、5分間以上がより好ましく、10分間以上がさらに好ましい。
前記コーティングの時間の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30分間以下が好ましく、20分間以下がより好ましく、10分間以下がさらに好ましい。
【0030】
前記コーティングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、緩衝液と金粒子をピペッティングまたはタッピングにより混合し、静置する方法などが挙げられる。
【0031】
前記金粒子へのタンパク質の結合量の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金粒子とタンパクの混合液を遠心し、上清に、×2 SDS-PAGE用sample bufferを加え、95℃3分間加熱し、SDS-PAGEによりタンパク質を分離後、CBB染色し、コントロール(金粒子なし)のバンドと比較し、金粒子に吸着したと考えられるタンパク質量を算出することができる。
【0032】
前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度は、イオンクロマトグラフ法により測定することができる。前記イオンクロマトグラフ法では、あらかじめMgCl、及びDTTを除く塩の濃度と応答との関係式を求めておき、サンプルについて得られた応答をその関係式に当てはめることで、該当する塩濃度を測定することができる。
【0033】
(タンパク質がコーティングされた金粒子の製造方法)
本発明のタンパク質がコーティングされた金粒子の製造方法は、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液、又は塩を含まない緩衝液を用いて、金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程を有し、さらにその他の工程を含むことができる。
前記コーティング工程は、前述の金粒子をタンパク質によりコーティングする方法のとおりである。
【0034】
(金粒子をスポットしたマクロキャリアの製造方法)
本発明の金粒子をスポットしたマクロキャリアの製造方法は、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液、又は塩を含まない緩衝液を用いて、金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程、及び、前記コーティング工程で得られた金粒子をマクロキャリアにスポットするスポット工程を有し、さらにその他の工程を含むことができる。
前記コーティング工程は、前述の金粒子をタンパク質によりコーティングする方法のとおりである。
【0035】
前記スポット工程において、金粒子は、ピペットマンなどを用いてマクロキャリヤーフィルムに可能な限り均一に塗布した後、クリーンベンチなどの無菌環境中で乾燥させる。前記マクロキャリヤーフィルムとしては、親水性のマクロキャリヤーフィルム(3M社「SH2CLHF」など)、又は、親水性のコーティング剤によりコーティングしたマクロキャリヤーフィルムを用いるのが好ましい。
【0036】
親水性フィルムやマクロキャリアの親水性のコーティングに用いられる親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーの重合体が挙げられる。
【0037】
(遺伝子銃により細胞にタンパク質を導入する方法)
前記タンパク質がコーティングされた金粒子の製造方法で製造した金粒子、または前記金粒子をスポットしたマクロキャリアの製造方法で製造したマクロキャリアを用いて、遺伝子銃により細胞にタンパク質を導入することができ、その結果、タンパク質が導入された細胞、組織、器官、生物個体ならびに/またはその後代および/もしくは種子を得ることができる。
【0038】
前記遺伝子銃により細胞にタンパク質を導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マクロキャリヤーフィルム、ターゲットの完熟胚の茎頂を置床したプレートをパーティクルガン装置に設置し、ガス加速管から高圧ヘリウムガスをマクロキャリヤーフィルムに向かって発射する方法などが挙げられる。
【0039】
(ゲノム編集を行う方法)
前記遺伝子銃により細胞にタンパク質を導入する方法により、ゲノム編集を行うことができ、その結果、ゲノム編集された細胞、組織、器官、生物個体ならびに/またはその後代および/もしくは種子を得ることができる。
【0040】
前記ゲノム編集の対象となる生物は、遺伝子銃により金粒子が導入される生物であれば、特に制限されず、動物、植物、微生物であってもよい。前記植物としては、被子植物及び裸子植物を含む種子植物であってもよく、前記被子植物には、単子葉植物及び双子葉植物が含まれる。また、以下の植物についても本発明を適用し得る。
【0041】
前記単子葉植物としては、いずれの種類であってもよいが、例えば、イネ科植物、ユリ科植物、バショウ科植物、パイナップル科植物、ラン科植物などが挙げられる。
【0042】
前記イネ科植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ、ソルガム、ライムギ、アワ、サトウキビなどが挙げられる。前記ユリ科植物としては、ネギ、アスパラガスなどが挙げられる。前記バショウ科植物としては、バナナなどが挙げられる。前記パイナップル科植物としては、パイナップルなどが挙げられる。前記ラン科植物としては、ランなどが挙げられる。
【0043】
前記双子葉植物としては、例えば、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、クワ科植物、アオイ科植物、キク科植物、ヒユ科植物、およびタデ科植物などが挙げられる。
【0044】
前記アブラナ科植物としては、シロイヌナズナ、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワー、ダイコンなどが挙げられる。前記マメ科植物としては、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ササゲ、アルファルファなどが挙げられる。前記ナス科植物としては、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、トウガラシなどが挙げられる。前記ウリ科植物としては、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカなどが挙げられる。前記ヒルガオ科植物としては、アサガオ、サツマイモ(カンショ)、ヒルガオなどが挙げられる。前記バラ科植物としては、バラ、イチゴ、リンゴなどが挙げられる。前記クワ科植物としては、クワ、イチジク、ゴムノキなどが挙げられる。前記アオイ科植物としては、ワタ、ケナフなどが挙げられる。前記キク科植物としては、レタスなどが挙げられる。前記ヒユ科植物としては、テンサイ(サトウダイコン)などが挙げられる。前記タデ科植物としては、ソバなどが挙げられる。
【0045】
前記裸子植物としては、マツ、スギ、イチョウ及びソテツなどが挙げられる。
【0046】
(タンパク質の金粒子への結合を促進する方法)
本発明のタンパク質の金粒子への結合を促進する方法は、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液、又は塩を含まない緩衝液を用いて、タンパク質の金粒子への結合を促進する方法である。
前記緩衝液を用いて、タンパク質の金粒子への結合を促進する方法は、前述の緩衝液を用いて、金粒子をタンパク質によりコーティングする方法のとおりである。
【0047】
塩濃度を下げることで、効率よくタンパク質を被覆した金粒子をマクロキャリア上にスポットして遺伝子銃により生物に撃ち込むことにより、例えば、ゲノム編集の効率を上げられるなどの効果が得られる。
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は何らこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例
【0048】
以下に金粒子にタンパク質を結合させるために用いた各種bufferの名前と組成を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
Buffer組成(塩濃度)の影響
方法
(1)1.5mLチューブに3μg SpCas9(TaKaRa)、1μg sgRNA、Nuclease-free water 3.25μL、×10 各種buffer 1μLを加え、ピペッティングにより、よく混ぜる。
(2)360μg 金粒子(直径0.6μm)を添加し、ピペッティングにより混ぜ、10分間静置(最終volume 10μL)する。
(3)遠心後、上清を新しいエッペンチューブへ移し、×2 SDS-PAGE用sample buffer 10μLを加え、95℃3分間加熱する。
(4)SDS-PAGEによりタンパク質(Cas9)を分離後、CBB染色する。
(5)各処理区において、Cas9タンパク質由来のバンドを定量化する。コントロール(金粒子なし)のバンドと比較し、金粒子に吸着したと考えられるCas9タンパク質量を算出する。
その結果を、図1図4に示す。
【0052】
図1は、各種bufferを用いた際のタンパク質の金粒子への結合量(%)をプロットしたものである。図1に示すように、Aが最も金粒子への結合量が多かった。Aは、NaCl濃度が0であるので(表1参照)、塩濃度が低いほど、タンパク質の金粒子への結合量は多くなると考えられた。
【0053】
図2は、終濃度1.0mM TrisHCl(pH7.5)において、NaCl濃度を変化させた際の金粒子へのタンパク質の結合量を示したものである。図2に示すように、Tris濃度が一定の場合、NaCl濃度が上がるほど、金粒子へのタンパク質の結合量が減少しているのがわかる。
【0054】
図3は、Tris濃度の、タンパク質の金粒子への結合量に対する影響を調べたものであるが、NaClの終濃度が1.0mMの場合、Tris濃度が増加するに連れて、金粒子へのタンパク質結合量が減少していることがわかる。
【0055】
図4は、MgClの、金粒子へのタンパク質の結合量に及ぼす影響を調べたものであるが、MgClは特にタンパク質の金粒子への結合量には影響はないと考えられた。
【0056】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 以下のいずれかの緩衝液を用いることを特徴とする、金粒子をタンパク質によりコーティングする方法である:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下であるる緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
<2> タンパク質がコーティングされた金粒子の製造方法であって、以下のいずれかの緩衝液を用いて、金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程を有することを特徴とする方法である:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
<3> 金粒子をスポットしたマクロキャリアの製造方法であって、以下のいずれかの緩衝液を用いて、金粒子をタンパク質によりコーティングするコーティング工程、及び、前記コーティング工程で得られた金粒子をマクロキャリアにスポットするスポット工程を含むことを特徴とする方法である:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
<4> 前記<2>に記載の方法で製造した金粒子、または前記<3>に記載の方法で製造したマクロキャリアを用いて遺伝子銃により細胞にタンパク質を導入する方法である。
<5> 前記緩衝液が、さらに両親媒性分子と塩基性タンパク質を含む、前記<1>~<4>のいずれかに記載の方法である。
<6> 前記緩衝液が、さらに核酸を含む、前記<1>~<5>のいずれかに記載の方法である。
<7> 前記両親媒性分子と塩基性タンパク質が1,4-ビス(3-オレオイルアミドプロピル)ピペラジンおよびヒストンH1である、前記<5>または<6>に記載の方法である。
<8> 前記<4>~<7>のいずれかに記載の方法を用いてゲノム編集を行う方法である。
<9> 前記<4>~<8>のいずれかに記載の方法により得られる細胞、組織、器官、生物個体ならびに/またはその後代および/もしくは種子である。
<10> 以下のいずれかの緩衝液を用いて、タンパク質の金粒子への結合を促進する方法である:1)前記緩衝液における、MgCl、及びDTTを除く塩濃度の終濃度が、0より多く3.5mM以下である緩衝液。2)塩を含まない緩衝液。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、バイオテクノロジー産業、農業、新品種育種産業等において利用できる。
図1
図2
図3
図4