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特許7416484流動成形用木質材料及びそれを含む流動成形用材料並びに木質成形体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】流動成形用木質材料及びそれを含む流動成形用材料並びに木質成形体
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/06 20060101AFI20240110BHJP
   B27N 3/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B27K5/06 A
B27N3/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022534085
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024777
(87)【国際公開番号】W WO2022004796
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020113430
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-261159(JP,A)
【文献】特開2010-155394(JP,A)
【文献】特開2019-188648(JP,A)
【文献】特開平8-332032(JP,A)
【文献】特開2018-196947(JP,A)
【文献】畠山兵衛,漂白過程におけるリグニンの挙動,紙パ技協誌,1966年11月,Vol. 20, No. 11,pp. 586 - 595
【文献】小林正彦、久保智史、木口実、片岡厚、松永正弘、川元スミレ、大友祐晋,示差走査熱量法および赤外分光分析法による木材-プラスチック複合材料(混錬型WPC)の定量分析,木材保存,2013年,Vol. 39, No. 1,pp. 7 - 15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 5/06
B27N 3/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を加えることにより賦形して木質成形体を製造する方法に用いられる流動成形用木質材料であって、
赤外線分光分析法による材料の内部又は表面のATRスペクトルにおいて、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの高さ(H)と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピークの高さ(H)との比(H/H)が1.10以下であることを特徴とする、流動成形用木質材料。
【請求項2】
アセチルブロマイド法によるリグニン含有率が3質量%以上である請求項1に記載の流動成形用木質材料。
【請求項3】
前記リグニン含有率が20質量%以上である請求項2に記載の流動成形用木質材料。
【請求項4】
前記リグニン含有率が15質量%以下である請求項2に記載の流動成形用木質材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流動成形用木質材料を含有することを特徴とする流動成形用材料。
【請求項6】
更に、樹脂を含有する請求項5に記載の流動成形用材料。
【請求項7】
請求項6に記載の流動成形用材料を製造する方法であって、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流動成形用木質材料に樹脂を含浸させる工程を備えることを特徴とする、流動成形用材料の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の流動成形用材料を用いて得られたことを特徴とする木質成形体。
【請求項9】
請求項6に記載の流動成形用材料を用いて得られたことを特徴とする木質成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力を加えることにより賦形して木質成形体を製造する方法に用いられる流動成形用木質材料及びそれを含む流動成形用材料並びに該流動成形用材料を用いてなる木質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
木質外観を有する成形体(木質成形体)の製造方法として、流動成形が利用されている(特許文献1、2参照)。この流動成形は、塊状の木質材料を、任意の金型内に収容し、圧力を作用させて型内に流動充填させ成形する技術であり、圧縮加工のように木質細胞の内腔の閉塞によって緻密化させて形状変化を与える方法と比べて、木質細胞間のすべり現象による位置変化によって変形を与えるため、その変形量をより大きくすることができる。また、流動成形では、従来、圧縮加工のみでは不可能であった任意形状の木質材料の塑性加工を実現でき、繊維状の木質細胞の損傷が抑えられるため、得られる木質成形体に補強効果が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-247974号公報
【文献】特開2010-155394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木質成形体を、生産性を向上させつつ製造するためには、圧力を加えた際に変形する木質材料の流動性が鍵となる。本発明は、圧力を加えた際の流動性が良好であり、木質成形体の生産性に優れた流動成形用材料を与える流動成形用木質材料を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、流動成形による木質成形体の生産性に優れた流動成形用材料及びその製造方法並びに木質外観を有し、形状安定性に優れた木質成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
木質材料に含まれる木質細胞は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンで構成されており、セルロースが凝集し繊維状に配向した結晶性のセルロースミクロフィブリルがヘリカルワインディング構造状に細胞骨格を構築しつつ、ミクロフィブリル間にヘミセルロースを介してリグニンが充填された構造を有する。
本発明者らは、流動成形が、木質材料を構成する木質細胞が加圧により圧縮されることを利用するなかで、その変形量に制約があることから、リグニンの一部が分解又は除去されたことによると考えられる赤外線吸収スペクトルにおいて特定の吸収パターンを有する木質材料が、流動成形による木質成形体の生産性に優れた成形材料を与えることを見い出した。
【0006】
本発明は、以下に示される。
(1)圧力を加えることにより賦形して木質成形体を製造する方法に用いられる木質材料であって、赤外線分光分析法による材料の内部又は表面のATRスペクトルにおいて、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの高さ(H)と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピークの高さ(H)との比(H/H)が1.10以下であることを特徴とする、流動成形用木質材料。
(2)アセチルブロマイド法によるリグニン含有率が3質量%以上である上記(1)に記載の流動成形用木質材料。
(3)上記リグニン含有率が20質量%以上である上記(2)に記載の流動成形用木質材料。
(4)上記リグニン含有率が15質量%以下である上記(2)に記載の流動成形用木質材料
(5)上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の流動成形用木質材料を含有することを特徴とする流動成形用材料。
(6)更に、樹脂を含有する上記(5)に記載の流動成形用材料。
(7)上記(6)に記載の流動成形用材料を製造する方法であって、上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の流動成形用木質材料に樹脂を含浸させる工程を備えることを特徴とする、流動成形用材料の製造方法。
(8)上記(5)に記載の流動成形用材料を用いて得られたことを特徴とする木質成形体。
(9)上記(6)に記載の流動成形用材料を用いて得られたことを特徴とする木質成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の流動成形用木質材料によれば、流動成形の際の木質細胞間のすべりを向上させることができるので、木質成形体の生産性に優れた成形材料を与えることができる。
リグニン含有率が20質量%以上である流動成形用木質材料によれば、流動性に優れるため、木質成形体の形成時により大きな変形を加えることができ、所望の形状の木質成形体を効率よく製造することができる。
リグニン含有率が15質量%以下である流動成形用木質材料によれば、機械的特性に優れた木質成形体を得ることができる。
本発明の流動成形用材料は、圧力を加えた際の流動性に優れるため、流動成形による、木質外観を有し、形状安定性に優れる木質成形体の製造に有用である。流動成形において、木質材料に圧力が作用されると、それに含まれた繊維が分断されることなく不規則的に流動するため、結果として木質材料におけるとほぼ同じ長さの繊維が分散しつつ含まれた木質成形体となるため、補強効果を有するものとすることができる。本発明の流動成形用材料は、更に、樹脂又はその前駆体を含有することができるが、従来、公知の熱可塑性樹脂及び木粉を含む組成物に比べて、樹脂の含有割合を低くすることが可能であるため、得られる木質成形体は、このような組成物により得られた樹脂成形体に比べて、木材資源の廃棄、リサイクルに関する資源・環境問題に対しても有用性が高い。
本発明の流動成形用材料の製造方法によれば、例えば、三次元形状を有する木質成形体の生産性に優れた流動成形用材料を効率よく製造することができる。
本発明の木質成形体は、木質外観を有し、形状安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の流動成形用木質材料の赤外線吸収スペクトル(ATR)の1例である。
図2】2850~2950cm-1に検出される吸収ピークの高さを決定する方法の説明図である。
図3】1480~1540cm-1に検出される吸収ピークの高さを決定する方法の説明図である。
図4】樹脂を含有する流動成形用材料を製造する溶液置換法の説明図である。
図5】樹脂を含有する流動成形用材料を製造する乾燥・含浸法の説明図である。
図6】〔実施例〕において得られた木質材料(A0)~(A7)のATRスペクトルである。
図7図6のATRスペクトルにおける1150~1750cm-1の波数範囲を拡大した図である。
図8】〔実施例〕において得られた木質材料(A0)~(A5)に係る流動性評価のための圧縮率に対する圧縮応力を示すグラフである。
図9図8の領域(a)を拡大したグラフである。
図10】〔実施例〕において得られた木質材料(A0)~(A5)に係る流動性評価のための流動開始応力の変化を示すグラフである。
図11】木質材料(A5)を飽和水蒸気温度40℃で自由圧縮試験し、形状固定した後の外観画像である。
図12】〔実施例〕において得られた木質材料(A0)~(A5)に係る流動性評価のための単位重量あたりの成形体面積の変化を示すグラフである。
図13】木質材料(A0)の圧縮物の断面画像である。
図14】木質材料(A5)の圧縮物の断面画像である。
図15】〔実施例〕において得られた木質材料(B0)~(B5)の動的粘弾性に係るtanδを示すグラフである。
図16】〔実施例〕における側方押出試験の概略図である。
図17】木質材料(C1)の側方押出により得られた成形体の外観画像と曲げ試験用試験片の切り出し方を示す画像である。
図18】PEG20000を含浸した流動成形用材料の圧縮試験を示す概略説明図である。
図19】木質材料(D0)にPEG20000を含浸させて得られた流動成形用材料の圧縮試験により得られた応力曲線を示すグラフである。
図20】〔実施例〕において得られた木質材料(D0)~(D2)にPEG20000を含浸させて得られた流動成形用材料の流動開始応力を示すグラフである。
図21】〔実施例〕において容器形状の木質成形体の製造に用いた後方押出成形装置を示す概略図である。
図22】〔実施例〕において樹脂を含まない流動成形用材料(木質材料E)を用いて得られた容器形状の木質成形体を示す斜視画像である。
図23】〔実施例〕において樹脂を含まない流動成形用材料(木質材料F)を用いて得られた容器形状の木質成形体を示す斜視画像である。
図24】〔実施例〕において樹脂を含む流動成形用材料Gを用いて得られた容器形状の木質成形体を示す斜視画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の流動成形用木質材料は、圧力を加えることにより賦形して木質成形体を製造する方法に用いられる木質材料であり、赤外線分光分析法による材料の内部又は表面のATRスペクトル(ATR法により得られた赤外線吸収スペクトル)において、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの高さ(H)と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピークの高さ(H)との比(H/H)が1.10以下であることを特徴とする。尚、ATRスペクトルを得る際に用いる測定試料は、例えば、送風乾燥器内に載置して105℃で恒量に達するまで乾燥させて得られた乾燥体である。また、ATRスペクトルを得る際に用いるプリズムは、特に限定されず、KRS-5、ZnSe、Ge、BaF、ダイヤモンド等のいずれでもよい。
【0010】
本発明の流動成形用木質材料は、木材(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹)、竹、麻類(ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等)、草本類等の、細胞壁を有する植物体に由来するものであって、植物体そのもの(挽板、単板、突板等)若しくはその廃材又はこれらの化学処理物のいずれでもよい。また、本発明の流動成形用木質材料の形状及びサイズは、特に限定されないが、流動成形は、通常、金型の中に流動成形用材料を収容した状態で成形体の製造を行う成形方法であるため、流動成形用木質材料を流動成形用材料として用い、形状安定性に優れた木質成形体を得ようとする場合には、長さが少なくとも5mm以上の繊維を含むチップ状であることが好ましい。木質材料の形状は、特に限定されず、単板等の定形及び不定形のいずれでもよい。
【0011】
本発明の流動成形用木質材料は、上記のように、ATRスペクトルにおける2つのピークの高さの比を特定の範囲に有するものである。このATRスペクトルは、例えば、図1に示され、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピーク▼と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピーク▽とを有する。これらの吸収ピークは、植物体の木質細胞を構成する、特に、セルロース、ヘミセルロース及びリグニン(又はその分解物)に由来するピークである。このうち、1480~1540cm-1に検出される吸収ピーク▽は、リグニン(又はその分解物)のみに由来するものであり、本発明の効果に関連するピークである。本発明においては、流動成形による木質成形体の生産性に優れた流動成形用材料を与えることから、ピークの高さの比(H/H比)を1.10以下とする。この比は、好ましくは1.00以下であり、下限は、通常、0.05、好ましくは0.20である。尚、各ピークの高さは、ピークの両端で接線を引いてベースラインとし、このベースラインに対してピークの頂点から垂線を下ろし、ベースラインとの交点を決定した後、この交点からピークの頂点まで計測された長さである(図2及び図3参照)。木質材料の種類により、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による赤外線吸収が小さいことがあるので、図3には、高さ(H)を決定する2例を示した。図3の上部の(P)は、リグニン(又はその分解物)の量が多いときに得られたスペクトルの場合の決定方法を示し、下部の(Q)は、リグニン(又はその分解物)の量が少ないときに得られたスペクトルの場合の決定方法を示す。
【0012】
本発明の流動成形用木質材料は、上記のように、ATRスペクトルの1480~1540cm-1に吸収ピークが検出されることから、本発明者らは、リグニン(又はその分解物)を含有していると考えている。しかしながら、本発明の流動成形用木質材料は、好ましくは、上記の植物体から一部のリグニンが処理(除去又は分解)された結果、上記のH/H比が1.10以下を満たす。上記の植物体(処理前)は、通常、リグニンを含有するが、ATRスペクトルによる上記のH/H比が1.10を上回る木質材料では、本発明の効果は得られない。リグニン含有率は低くても良いわけではなく、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上である。尚、このリグニン含有率は、20質量%以上であってもよい。リグニン含有率が20質量%以上である場合は、得られる木質成形体の機械的特性は未処理の木質材料と同等であるが、木質材料の流動性に優れるため、未処理の木質材料よりも大きな変形を加えることができ、木質成形体の生産性に優れた成形材料とすることができる。また、リグニン含有率が3質量%以上15質量%以下である場合は、未処理の木質材料に比べて得られる木質成形体の機械的特性が大きく向上し、かつ、木質成形体の生産性に優れた成形材料とすることができる。リグニン含有率の上限は、得られる木質成形体の力学特性の観点から、好ましくは15質量%であるが、力学特性が、未処理の木質材料と同等であってよい場合には、15質量%を超えてもよく、通常、脱リグニン処理前の木質材料そのものの含有率となる。即ち、脱リグニン処理による量的変化がほとんどない状態でも、H/H比が1.10以下である限りにおいて、本発明の効果が得られる。尚、木質材料の種類や生育環境、同じ個体内でも部位の違い等で、変化するため、一律の上限値を示すことはできない。上記リグニン含有率は、アセチルブロマイド法により測定することができる。アセチルブロマイド法とは、粉末化した木質材料をアセチルブロマイドの酢酸溶液で分解し、溶け出したリグニン量を紫外線吸光度で換算する手法である(K. Iiyama et al. "An improved acetyl bromide procedure for determining lignin in woods and wood pulps"、Wood Science and Technology、1988,22:pp.271-280参照)。
【0013】
上記の植物体を、従来、公知のKlaudiz法、Wize法、クラフトパルプ化法、ソーダ法、フェノールパルプ化法、有機酸パルプ化法、オルガノソルブパルプ化法、ASAM法、漂白処理等のリグニン処理に供すると、リグニンの縮合度が低下し、細胞壁内に弛緩状態を形成することができる。従って、このようにして得られた木質材料は、例えば、特開2006-247974号公報に記載された方法のように、非晶性高分子であるヘミセルロース及びリグニンにおける高分子鎖間の結合を弛緩させて流動性を発現させるために、未処理の植物体に水を添加する方法や、未処理の植物体にひずみを加える方法により得られたものに比べて、流動成形の際に木質材料における木質細胞間のすべりを更に向上させることができる。そして、木質成形体の生産性に優れた流動成形用材料を与えることができる。
【0014】
本発明の流動成形用材料は、流動成形により木質成形体の製造に用いられる、上記本発明の流動成形用木質材料を含有する成形材料である。本発明の流動成形用材料は、上記本発明の流動成形用木質材料と、該木質材料の表面及び内部の少なくとも一方に含まれた(付着した)水及び/又は有機成分とからなる複合物とすることができる。この複合物において、複合物の全体に対する、水及び/又は有機成分の含有割合は、好ましくは1~70質量%、より好ましくは5~40質量%である。
【0015】
上記複合物における有機成分は、特に限定されないが、好ましくは樹脂又はその前駆体である。前駆体は、低分子化合物及び高分子化合物のいずれでもよい。また、上記樹脂は、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂のいずれを含んでもよい。上記複合物における有機成分は、1種のみでも2種以上でもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;環状ポリオレフィン;ポリエチレングリコール;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;ポリテトラフルオロエチレン;ABS樹脂;AS樹脂;ナイロン等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;変性ポリフェニレンエーテル;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンスルファイド;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;非晶ポリアリレート;液晶ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン;ポリイミド;ポリアミドイミド等が挙げられる。
また、硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート、ケイ素樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等が挙げられる。硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤を併用することができる。
【0017】
上記樹脂は、更に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0018】
本発明の流動成形用材料の好ましい態様は、弛緩状態にある細胞壁を有する木質材料の該細胞壁の中に、水及び/又は有機成分が含まれた複合物である。このような複合物からなる流動成形用材料を製造する方法は、特に限定されない。水のみを含む複合物を製造する場合、飽和水蒸気を上記本発明の流動成形用木質材料に接触させる工程を含む方法、一定の相対湿度環境下で上記本発明の流動成形用木質材料を調湿する工程を含む方法等とすることができる。また、樹脂を含む複合物を製造する場合、上記本発明の流動成形用木質材料に樹脂を含浸させる工程(以下、「含浸工程」という)を含む方法とすることができる。以下、この含浸工程を備える本発明の製造方法について、説明する。
【0019】
樹脂を含む複合物からなる流動成形用材料を製造する本発明の製造方法では、上記含浸工程では、樹脂を木質材料に含浸させる限りにおいて、(1)樹脂のみ、(2)樹脂と、該樹脂を溶解する媒体とを含む液、(3)樹脂と、該樹脂を溶解せず分散させる媒体とを含む液のいずれかを用いることができる。これらのうち、(2)及び(3)の液を用いることが好ましい。尚、(2)及び(3)の樹脂含有液の媒体は、細胞壁への浸透性の面から水を含むことが好ましいが、水に樹脂が溶解しない場合は、樹脂を溶解する媒体を、適宜、選択することができる。
【0020】
上記含浸工程では、図4に示す溶液置換法、又は、図5に示す乾燥・含浸法を適用することが好ましい。
図4の溶液置換法では、セルロース繊維2の間にリグニン4及び水6を含み、水で膨潤状態にある木質材料(X1)を、例えば、樹脂含有液に浸漬し、必要により減圧条件、冷却・加熱条件等とすることにより、セルロース繊維2の間に樹脂を含むように液置換を行って、セルロース繊維2の間に樹脂含有液8を含む木質材料(X2)とし、その後、樹脂含有液8の媒体を除去することにより、セルロース繊維2の間に樹脂10を含む流動成形用材料1を得ることができる。木質材料(X1)を、樹脂含有液に浸漬する場合の浸漬時間は、木質材料(X1)の形状、サイズ又は質量に依存するが、通常、乾燥状態の木質材料10グラムあたり、1~200時間である。
また、図5の乾燥・含浸法では、セルロース繊維2の間にリグニン4及び水6を含み、水で膨潤状態にある木質材料(Y1)を、送風乾燥、減圧乾燥、高温乾燥等により脱水して、例えば、含水率が10質量%以下の木質材料(Y2)とし、その後、例えば、樹脂含有液に浸漬し、必要により減圧条件、加圧条件、冷却・加熱条件等とすることにより、セルロース繊維2の間に樹脂を含むように液注入を行って、セルロース繊維2の間に樹脂含有液8を含む木質材料(Y3)とし、その後、樹脂含有液8の媒体を除去することにより、セルロース繊維2の間に樹脂10を含む流動成形用材料1を得ることができる。木質材料(Y2)を、樹脂含有液に浸漬する場合の浸漬時間は、木質材料(Y2)の形状、サイズ又は質量に依存するが、通常、乾燥状態の木質材料10グラムあたり、1分間~24時間である。
【0021】
上記の溶液置換法及び乾燥・含浸法のいずれにおいても、流動成形用材料1のセルロース繊維2の間には水又は用いた媒体が含まれ(残存し)ていてもよい。また、図4及び図5は、細胞壁内のセルロース繊維2の間に樹脂を含浸させる方法の模式図であるが、得られる流動成形用材料1は、細胞壁の表面、あるいは、木質材料の表面の一部又は全面に樹脂が付着したものであってもよい。
【0022】
本発明の流動成形用材料を用いて、木質外観を有し、形状安定性に優れる木質成形体を製造することができる。ここで、形状安定性に優れるとは、成形後、1か月以上経ても成形直後の形状を維持している状態を意味する。
例えば、図21に示すように、金型24に小片の木質材料からなる流動成形用材料22を供給し、ポンチ26を用いて圧力を加え、細胞(細胞壁及び細胞間層)に剪断力を作用させるとともに細胞間すべりによる塑性流動を生じさせて、金型24内で所定の自由空間に細胞を移動させ、該自由空間を満たし、賦形することにより、樹脂や金属を用いて得られたと同様の、所期の形状、サイズ及び表面性を有する木質成形体を得ることができる。圧力を加える際には、流動成形用材料の構成に応じて、加熱を行ってもよい。このように、木質成形体を製造する場合には、成形温度を、適宜、設定することができるが、その他、加圧時の圧力、原料含水率、成形時間等を設定し、木質成形体の性状等を制御することもできる。
尚、木質成形体の製造に用いる流動成形用材料22は、同一の構成を有する木質材料からなるものであってよいし、互いに異なる構成を有する複数種の木質材料からなるものであってもよい。後者の場合には、例えば、(1)複数種の木質材料からなる混合物を金型に収容する方法、(2)第1の木質材料と、第2の木質材料とを、それぞれ、偏在させた状態で金型に収容する方法を適用することができる。(2)の方法によると、植物体の違い、又は、同じ植物体に由来していてもH/H比が互いに異なることで各木質材料の色の違い、例えば、明暗の差により、1の成形体において異なる外観(木質模様等)を有する木質成形体が得られることがある。
【0023】
本発明の流動成形用材料は、必要に応じて、樹脂を含浸したものとすることができるので、良好な物理的性質又は機械的性質を有し、性能のバラツキの小さい木質成形体を効率よく製造することができる。また、流動性に優れることから、3次元形状を有する成形体を製造することもできる。
従って、本発明の木質成形体は、循環型資源である植物系材料を原料としている流動成形の工業的利用によって、資源問題、廃棄物問題に対する根本的な解決策を与えるものである。
【実施例
【0024】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、これらの実施例は、本発明の一部の実施形態を示すものに過ぎないため、本発明をこれらの実施例に限定して解釈するべきではない。
【0025】
1.木質材料の製造及び評価(1)
ヒノキの辺材(しらた)を、5mm(L:繊維方向)×5mm(T:接線方向)×5mm(R:半径方向)のサイズの小片とし、複数の小片に対して処理時間を、10分間、30分間、1時間、3時間、6時間、24時間又は96時間として脱リグニン処理を行い、木質材料(A1)~(A7)を得た。脱リグニン処理は、Klaudiz法(坂口隆英他:「木材の化学」、文永堂出版、1985,pp.69-70参照)に準拠し、亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を4%とし、温度45℃で処理時間を変化させて行った。尚、ヒノキ小片の内部にまで処理液が速やかに到達し反応が進行するよう、予め加熱しておいた処理液を減圧注入にて浸透させてから脱リグニン処理を行った。脱リグニン処理後は、室温の水に浸漬して反応を止めた。
【0026】
得られた木質材料において、脱リグニン処理時間に対するリグニンの量的変化を把握するために、処理前後の乾燥重量から重量減少率を算出した。乾燥条件は、処理前は、105℃で24時間の送風乾燥であり、処理後は、室温で風乾、35℃で24時間の送風乾燥、50℃で18時間の送風乾燥、及び、105℃で3時間の送風乾燥である。尚、脱リグニン用の処理液に代えて、ヒノキの小片を室温の水に96時間以上浸漬したもの(A0)についても同様にして重量減少率を得た。これらの結果を表1に示す。
【表1】
【0027】
脱リグニン処理時間が30分までは、重量減少率の増加が小さく(1%以内)、残存リグニン量の変化が少ない。 脱リグニン処理時間が1時間以上では、処理時間を増すに連れ、重量減少率が顕著に増加し、残存リグニン量が減少した。ヒノキに含まれるリグニン量は、25~32質量%(右田伸彦他:「木材化学(上巻)」、共立出版、1968,pp.72参照)とされているので、脱リグニン処理を24時間以上行うと、得られた木質材料の残存リグニン量は僅少であると考えられる。
また、得られた木質材料(A1)~(A7)のサイズは、処理直後の飽水状態(水膨潤状態)では、処理時間が長くなるほど、処理前に比べて膨張しており、明色化傾向にあった。また、乾燥状態では、処理時間が長くなるほど、処理前に比べて収縮しており、明色化傾向にあった。尚、いずれの木質材料(A1)~(A7)においても、処理前の木質材料の組織構造(細胞の配置等)がほとんど維持されていた。
【0028】
次に、水処理後の木質材料(A0)及び脱リグニン処理後の木質材料(A1)~(A7)に対し、繊維方向に半分に切断したときの内断面(板目面)及び木口表面のそれぞれについて、赤外線吸収スペクトル(ATR)を測定した。測定装置は、サーモフィッシャー社製赤外分光光度計「NICOLET 6700 FT-IR」(型式名)であり、プリズムとしてダイヤモンドを用いた。また、測定波数域を、4000~500cm-1とした。
図6は、広域(4000~500cm-1)のATRスペクトルであり、図7は、狭域(1150~1750cm-1)のATRスペクトルである。各木質材料のATRスペクトルから、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの高さ(H)と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピークの高さ(H)との比(H/H比)を算出した。Hは脱リグニン処理による変化が小さく、Hは脱リグニン処理の進行に伴い減少したため、H/H比は脱リグニン処理時間の増加に伴い減少した。これらの結果を表2に示す。尚、各吸収ピークの高さは、図2及び図3に示す要領で決定した。
【表2】
【0029】
表2から、水処理後の木質材料(A0)は、H/H比が1.2以上であるが、脱リグニン処理を少なくとも10分間行うことにより、H/H比が1.10以下になったことが分かる。
【0030】
更に、水処理後の木質材料(A0)及び脱リグニン処理後の木質材料(A1)~(A5)に対し、流動成形時における流動性を評価した。即ち、40℃、60℃、80℃又は100℃の飽和水蒸気による加熱環境下で、2枚の加圧板を用いて各木質材料に、塑性領域まで荷重を負荷する自由圧縮試験を行った。具体的には、木質材料を飽水状態(含水率:200%以上)とし、これを加圧板同士の間に載置して、R方向に毎分1mmで圧縮させた。図8は、40℃の飽和水蒸気を用いた場合の、圧縮率に対する圧縮応力を示すグラフである。すべての木質材料(A0)~(A5)で、木質材料の細胞壁の変形による細胞内腔の閉塞が徐々に続くため、圧縮率が約60%までは圧縮応力がほぼ平坦な領域が見られた。更に圧縮していくと、圧縮応力が急激に立ち上がり、その後、ほぼ一定の圧縮応力の増加率を示し、更に圧縮していくと、圧縮応力の増加率が小さくなる変曲点が現れた(図8における(a)の拡大図である図9参照)。変曲点以降は、塑性変形が起きるため、圧縮応力の増加率が小さくなったのである。また、H/H比が小さいほど、変曲点の圧縮応力は小さくなっており、より小さな応力で塑性変形することが分かる。尚、木質材料(A5)の場合、変曲点は検出できなかったが、これは細胞壁の変形と同時に塑性変形が生じ、圧縮応力の平坦な領域に埋もれてしまったためと考えられる。この変曲点は、木質材料が塑性変形して流動する「流動開始点」であり、このときの圧縮応力は「流動開始応力」である。
【0031】
図10は、水処理後の木質材料(A0)及び脱リグニン処理後の木質材料(A1)~(A4)に関する、流動開始応力の変化を示すグラフである。この図10から、飽和水蒸気の温度が高いほど(即ち、流動成形の際に加熱を併用するときのその温度が高いほど)、低い応力で流動が開始することが分かる。また、H/H比が1.00以下であれば、流動開始応力が低下(即ち、流動性が向上)することが分かった。
【0032】
更に、自由圧縮試験後の飽水状態の木質材料を、試験後の圧縮状態を維持した状態で乾燥させて形状固定した。図11は、木質材料(A5)を飽和水蒸気温度40℃で自由圧縮試験し、形状固定した後の外観画像である。プレス後に乾燥させることで、形状固定された薄肉シート状の成形体を得ることができた。尚、図示しないが、H/H比や飽和水蒸気温度が異なる全ての実験条件において、形状固定された成形体が得られることを確認した。得られた成形体におけるLT面の外観画像を二値化することで面積Sを測定し、成形体の乾燥重量Wで規格化した単位重量あたりの成形体面積S/Wを算出し、流動性の指標とした。
図12は、木質材料(A0)~(A5)に関する、単位重量あたりの成形体面積S/Wの変化を示すグラフである。この図12から、飽和水蒸気の温度が高いほど、S/Wが大きくなり、流動性が高いことが分かる。また、H/H比が0.5以下で、S/Wが著しく増大し、流動性が大きく向上することが分かった。
【0033】
また、水処理後の木質材料(A0)及び脱リグニン処理後の木質材料(A5)を、それぞれ、温度80℃で行った圧縮試験終了後に得られた圧縮物を走査型電子顕微鏡による断面観察に供した。図13は、木質材料(A0)の圧縮物の断面画像であり、図14は、木質材料(A5)の圧縮物の断面画像である。いずれも、細胞間滑りによる塑性流動が生じているが、木質材料(A5)のほうがより小さい細胞単位で流動したことが分かる。
【0034】
2.木質材料の製造及び評価(2)
ヒノキの辺材(しらた)を、1mm(L:繊維方向)×3mm(T:接線方向)×30mm(R:半径方向)のサイズの小片とし、複数の小片に対して処理時間を、10分間、30分間、1時間、3時間又は6時間として、上記と同様にして、脱リグニン処理を行い、木質材料(B1)~(B5)を得た。そして、得られた乾燥状態の木質材料の木口面に対してATRスペクトルを測定し、上記と同様にして、2850~2950cm-1に検出されるC-H伸縮振動による吸収ピークの高さ(H)と、1480~1540cm-1に検出される芳香環の骨格振動による吸収ピークの高さ(H)との比(H/H比)を算出した。H/H比は、木質材料(B1)、(B2)、(B3)、(B4)及び(B5)の順に、それぞれ、1.05、0.94、0.91、0.77及び0.65であった。
尚、脱リグニン用の処理液に代えて、ヒノキの小片を室温の水に96時間以上浸漬したもの(B0)についても同様にしてATRスペクトルを測定し、H/H比を算出し、1.24を得た。
【0035】
次に、水処理後の木質材料(B0)及び脱リグニン処理後の木質材料(B1)~(B5)に対し、リグニンの質的変化を把握するために、各木質材料を水膨潤状態(含水率:200%以上)として、水中に設置して、昇温速度0.5℃/分で、水温を30℃から100℃まで上げながら、荷重70±20mN及び周波数0.01Hzの条件でR方向に引張る動的粘弾性測定を行った。図15は、tanδの水温依存性を示すグラフである。いずれの木質材料もtanδにピークがあるが、そのピークを示す温度(ピーク温度)は異なり、(B0)、(B1)、(B2)、(B3)、(B4)及び(B5)の順にピーク温度が低下した。即ち、H/H比が小さくなるほど、tanδのピーク温度が低温側にシフトしたことが分かった。各曲線で見られるピークは、リグニンのガラス転移によるものであり、tanδのピーク温度が低温側にシフトしたことは、リグニンの縮合度の低下を示唆するものであるため、H/H比が1.10以下であれば、リグニンの縮合度が低下して細胞壁内が弛緩状態となるといった質的変化が生じたことが分かる。
【0036】
3.木質材料の製造及び評価(3)
複数のヒノキ単板(サイズ:25mm(L:繊維方向)×22mm(T:接線方向)×3mm(R:半径方向))に対して、処理時間を、6時間、15時間、24時間又は96時間として、上記と同様にして、脱リグニン処理を行い、木質材料(C1)~(C4)を得た。これらの木質材料(C1)~(C4)における重量減少率を測定したところ、それぞれ、3.6%、10.9%、21.5%及び25.2%であった。また、木質材料(C1)~(C4)におけるリグニン含有率を、アセチルブロマイド法により測定したところ、それぞれ、26%、20%、13%及び7%であった。
次に、これらの木質材料(C1)、(C3)及び(C4)を、温度20℃の相対湿度60%環境下で調湿して気乾状態(含水率:約9%)とし、図16に示す側方押出試験に供した。即ち、上型及び底型からなる金型を150℃に加熱した後、コンテナ(26mm×26mm)の中に、各木質材料(約4.5g)を、繊維方向(L)を押出方向(キャビティの長手方向)と直交になるよう載置し、一定速度(10mm/min)で荷重15トン(パンチ面圧:約220MPa)までパンチを降下させることで、キャビティ内に各木質材料をT方向に押出して、成形した。次いで、5分間保圧後に冷却させ、成形体を取り出した。
側方押出試験により得られた成形体の外観画像と、押し出された材料からの曲げ試験片の切り出し方向の例(木質材料(C1)を使用)を図17に示す。切り出した試験片(約26mm×5mm×1.2mm)は、温度20℃の相対湿度60%環境下で調湿した後、JIS 7171に準拠した曲げ試験に供した。各木質材料につき、側方押出試験を2回行い、曲げ試験には試験体を少なくとも5本以上を供試した。
尚、脱リグニン用の処理液に代えて、ヒノキ単板を室温の水に96時間以上浸漬したもの(C0)についても同様にして、側方押出試験及び曲げ試験に供した。
【0037】
曲げ試験の結果を表3に示す。曲げ弾性率及び曲げ強度の各データを、「平均値±標準偏差」で表記した。
【表3】
表3によれば、木質材料C0及びC1を用いるよりも、木質材料C3及びC4を用いる方が曲げ特性に優れていた。即ち、流動成形体の力学特性は、脱リグニンによる重量減少率が20%以上であり、且つ、アセチルブロマイド法によるリグニン含有率が15%以下である場合に良好であることが分かった。また、木質材料C1のように、リグニン含有率が20質量%以上であっても、木質材料C0と同等の力学特性を有する成形体が得られることが分かった。
【0038】
4.流動成形用材料の製造及び評価(1)
ヒノキの辺材(しらた)を、5mm(L:繊維方向)×18mm(T:接線方向)×18mm(R:半径方向)のサイズの小片とし、複数の小片に対して処理時間を、30分間又は6時間として、上記と同様にして脱リグニン処理を行い、木質材料(D1)及び(D2)を得た。これらの木質材料(D1)及び(D2)における重量減少率を測定したところ、それぞれ、0.0%及び12.6%であった。尚、以下の実験では、脱リグニン処理を行っていない木質材料(D0)も用いた。
【0039】
上記の木質材料(D0)、(D1)及び(D2)に、樹脂を含浸させて、樹脂を含有する成形材料を得るために、溶液置換法(図4参照)、または、乾燥・含浸法(図5参照)に供した。樹脂含浸用の液として、平均分子量が20000のポリエチレングリコール(以下、「PEG20000」という)を水に溶解させた、濃度20質量%の水溶液(以下、「PEG水溶液」という)を用いた。
溶液置換法では、具体的には、まず、各木質材料を脱リグニン処理直後の飽水状態(含水率:200%以上)とし、次いで、20℃のPEG水溶液に浸漬し、24時間ごとにPEG水溶液を交換しながら、この操作を7日間継続した。その後、PEG水溶液から木質材料を取り出して、35℃及び11RH%の条件で恒量となるまで養生し、更に、35℃の減圧乾燥器内で恒量となるまで脱水乾燥させることにより、各流動成形用材料を得た。
乾燥・含浸法では、具体的には、まず、脱リグニン処理直後の飽水状態(含水率:200%以上)の各木質材料を、35℃及び11RH%の条件下で恒量になるまで乾燥させ、その後、シリカゲルの上に載置して減圧乾燥させ、次いで、減圧条件下、乾燥状態の各木質材料にPEG水溶液を注入して浸漬し、その後、22時間に渡って加圧条件とし、PEG水溶液から木質材料を取り出して、35℃及び11RH%の条件で恒量となるまで養生し、更に、35℃の減圧乾燥器内で恒量となるまで脱水乾燥させることにより、各流動成形用材料を得た。
【0040】
上記で得られた各流動成形用材料について、PEG20000による重量増加率及びT方向の膨潤率の測定結果を表4に示す。重量増加率及びT方向膨潤率は、いずれもPEG20000を含浸させる前の乾燥状態の木質材料(D0)~(D2)を基準とした値である。
【表4】
表4から明らかなように、溶液置換法及び乾燥・含浸法の両方において、脱リグニン処理がより進んでいる木質材料(D2)を用いた流動成形用材料は、木質材料(D1)を用いた流動成形用材料よりも重量増加率が高く、PEG20000の含浸割合が高かった。また、T方向膨潤率も、同様に、木質材料(D1)を用いた流動成形用材料よりも木質材料(D2)を用いた流動成形用材料の方が高く、細胞壁内へのPEG20000の含浸割合が高かった。
【0041】
5.流動成形用材料の製造及び評価(2)
溶液置換法により得られた上記流動成形用材料(PEG20000含浸物)を、約5mm×約5mm×約5mmの立方体に切断し、これを、変形挙動測定用の試料12として、図18に示すように160℃に加熱した2枚の熱板の間に載置して、R方向に毎分2mmで圧縮させ、変形挙動を測定した。その結果、いずれの流動成形用材料においても、変形挙動測定により図19に示すような応力曲線が得られ、圧縮率が約70%で応力が降伏し、それ以降、荷重が再び立ち上がり、測定が終了した。途中で見られるこの降伏点は流動開始点であるため、各流動成形用材料に対して、流動開始点における圧縮応力(流動開始応力)を求めて、グラフ化した(図20参照)。この図20より、木質材料(D0)を用いた流動成形用材料、木質材料(D1)を用いた流動成形用材料、及び木質材料(D2)を用いた流動成形用材料の順に、流動開始応力が低くなり流動性が高くなることが分かった。
【0042】
6.木質成形体の製造
直径45mm及び厚さ4mmのヒノキ単板に対して、上記と同様にして、脱リグニン処理を、それぞれ、6時間及び48時間行った後、これらを、乾燥及び調湿することにより木質材料E(重量減少率:約6%、含水率:11%)及び木質材料F(重量減少率:約25%、含水率:11%)を得た。
次いで、図21に示す後方押出成形装置20を用いて、図22及び図23に示す容器(開口部の直径:約45mm、高さ:約50mm)を得た。即ち、170℃に加熱した金型24の中に、木質材料E又は木質材料Fを複数枚重ねて約60gとした状態で流動成形用材料22として収容し、1mm/秒でパンチ26を降下させて、最大パンチ面圧(直径50mm)が200MPaになるまで荷重を負荷し、その後、冷却することにより上記容器を得た。図22及び図23から明らかなように、得られた容器は木質外観を有し、形状安定性に優れていた。
【0043】
また、上記木質材料Eに、溶液置換法により、第一工業製薬社製水溶性ウレタン樹脂「E-37」(商品名)を含浸し、この水溶性ウレタン樹脂に基づく重量増加率が約30%である流動成形用材料Gを得た。その後、上記木質材料Eからなる流動成形用材料を用いた場合と同様にして後方押出成形を行い、同じ形状の容器を得た。得られた容器は、図24に示され、図22及び図23と同様に木質外観を有し、形状安定性に優れていた。
尚、上記水溶性ウレタン樹脂に代えて、上記PEG20000及びテルペン樹脂を用いた場合にも、良好に後方押出成形を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の流動成形用木質材料及びそれを含む流動成形用材料は、日用品、家具・調度品、建材・建築部材、電化製品又は音響機器用筐体、車両用部材等として用いる木質成形体の製造に好適である。
【符号の説明】
【0045】
1:流動成形用材料、2:セルロース繊維、4:リグニン、6:水、8:樹脂含有液、10:樹脂、12:変形挙動測定用試料、14:熱板、20:後方押出成形装置、22:流動成形用材料、24:金型、26:パンチ
図1
図2
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