(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】レーザ装置、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/097 20060101AFI20240110BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20240110BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01S3/097 A
H01S3/00 G
G03F7/20 505
(21)【出願番号】P 2021545028
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035662
(87)【国際公開番号】W WO2021048947
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】石田 啓介
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-144985(JP,A)
【文献】特開2002-151767(JP,A)
【文献】特開平11-191651(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134745(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0050939(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0006428(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104227246(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0240507(US,A1)
【文献】国際公開第2018/105002(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
G03F 7/20 - 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置から入力される電圧指令値及びトリガ信号に従って、第1のバースト発振と、前記第1のバースト発振の次に行われる第2のバースト発振と、を含む複数回のバースト発振を行ってパルスレーザ光を出力するレーザ装置であって、
レーザ共振器と、
前記レーザ共振器の光路に配置されたチャンバと、
前記チャンバに配置された一対の電極と、
前記電極に電圧を印加する電源と、
前記パルスレーザ光のパルスエネルギーが所定の値となるような電圧値を記憶した記憶部と、
前記電極に印加される電圧の印加電圧値を設定する制御部であって、
iを1より大きい整数とし、jをiより大きい整数とし、前記複数回のバースト発振のうちの1回のバースト発振において出力される前記パルスレーザ光に含まれる複数のパルスのうちのパルスの順番を示すパルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記電圧指令値と、前記記憶部に記憶された
前記電圧値と、に基づいて設定し、
前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記電圧指令値と、前記電圧指令値に対するオフセット値と、に基づいて設定する前記制御部と、
を備え
、
前記電圧指令値は、前記外部装置から入力される、前記電極に印加する電圧の指令値であり、
前記記憶部は、前記第1のバースト発振が終了した時から前記第2のバースト発振が開始される時までの休止期間の長さと前記パルス番号との組合せに対して、前記パルスレーザ光のパルスエネルギーが前記所定の値となるような前記電圧値を対応付けたデータテーブルを記憶しており、
前記制御部は、
前記パルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記データテーブルから前記休止期間の長さと前記パルス番号とに基づいて読み出される前記電圧値に基づいて設定し、
前記パルス番号がi-1であるパルスを出力するための前記電圧指令値と前記パルス番号がi-1であるパルスを出力するための前記印加電圧値との差に基づいて前記オフセット値を算出する
レーザ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、
前記電圧指令値に基づいて目標パルスエネルギーを算出し、
前記パルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記目標パルスエネルギーと、前記記憶部に記憶された前記電圧値と、に基づいて設定する、レーザ装置。
【請求項3】
請求項
2記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記電圧指令値に基づいて前記目標パルスエネルギーを算出するためのパラメータを、キャリブレーション発振時の計測データに基づいて算出する、レーザ装置。
【請求項4】
請求項
2記載のレーザ装置であって、
前記パルスレーザ光のパルスエネルギーを計測するエネルギーモニタ
をさらに備え、
前記制御部は、前記パルスレーザ光のパルスエネルギーと前記目標パルスエネルギーとの差に基づいて、前記記憶部に記憶された
前記電圧値を更新する処理を行う、レーザ装置。
【請求項5】
請求項
4記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号が1であるパルスが出力された後、前記パルス番号が2であるパルスが出力される前に、前記処理を行う、レーザ装置。
【請求項6】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記オフセット値を一定値とする、レーザ装置。
【請求項7】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記オフセット値を、前記パルス番号の増加に伴って減衰する値とする、レーザ装置。
【請求項8】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記オフセット値を、前記パルス番号の増加に伴って一定の減衰量ずつ減衰する値とする、レーザ装置。
【請求項9】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、
前記印加電圧値のドリフト量に基づいて前記オフセット値の合計減衰量を算出し、
前記合計減衰量に基づいて、前記オフセット値が前記パルス番号の増加に伴って減衰するように前記オフセット値を算出する、レーザ装置。
【請求項10】
請求項
9記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、キャリブレーション発振時の前記ドリフト量に基づいて前記合計減衰量を算出する、レーザ装置。
【請求項11】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記オフセット値を、前記パルス番号の増加に伴って減衰量を変化させて得られた値とする、レーザ装置。
【請求項12】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、gをiより大きくj
未満の整数とし、hをg
より大きくj
未満の整数とし、前記パルス番号がi以上g未満であるパルスを出力するための前記オフセット値の減衰量を第1の値とし、前記パルス番号がg以上h未満であるパルスを出力するための前記オフセット値の減衰量を前記第1の値より小さい第2の値として前記オフセット値を算出する、レーザ装置。
【請求項13】
請求項
12記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号がh以上j未満であるパルスを出力するための前記オフセット値の減衰量を前記第1の値より小さく前記第2の値より大きい第3の値として前記オフセット値を算出する、レーザ装置。
【請求項14】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルス番号が1より大きくi未満であるパルスを出力するために、前記パルスレーザ光の繰返し周波数に基づいて補正された前記印加電圧値を設定する、レーザ装置。
【請求項15】
請求項
14記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰返し周波数が小さい方が前記印加電圧値が低くなるように補正された前記印加電圧値を設定する、レーザ装置。
【請求項16】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、
前記印加電圧値のドリフト量に基づいて前記オフセット値の合計減衰量を算出し、
前記パルスレーザ光の繰返し周波数に基づいて前記合計減衰量を補正し、
補正された前記合計減衰量に基づいて、前記オフセット値が前記パルス番号の増加に伴って減衰するように前記オフセット値を算出する、レーザ装置。
【請求項17】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記制御部は、
前記印加電圧値の変化に基づいて減衰タイミングを設定し、
前記パルスレーザ光の繰返し周波数に基づいて前記減衰タイミングを補正し、
補正された前記減衰タイミングに基づいて、前記オフセット値が前記パルス番号の増加に伴って減衰するように前記オフセット値を算出する、レーザ装置。
【請求項18】
電子デバイスの製造方法であって、
レーザ装置によってパルスレーザ光を生成し、
前記パルスレーザ光を露光装置に出力し、
電子デバイスを製造するために、前記露光装置内で感光基板上に前記パルスレーザ光を露光する
ことを含み、
前記レーザ装置は、
外部装置から入力される電圧指令値及びトリガ信号に従って、第1のバースト発振と、前記第1のバースト発振の次に行われる第2のバースト発振と、を含む複数回のバースト発振を行って
前記パルスレーザ光を出力するレーザ装置であって、
レーザ共振器と、
前記レーザ共振器の光路に配置されたチャンバと、
前記チャンバに配置された一対の電極と、
前記電極に電圧を印加する電源と、
前記パルスレーザ光のパルスエネルギーが所定の値となるような電圧値を記憶した記憶部と、
前記電極に印加される電圧の印加電圧値を設定する制御部であって、
iを1より大きい整数とし、jをiより大きい整数とし、前記複数回のバースト発振のうちの1回のバースト発振において出力される前記パルスレーザ光に含まれる複数のパルスのうちのパルスの順番を示すパルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記電圧指令値と、前記記憶部に記憶された
前記電圧値と、に基づいて設定し、
前記パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記電圧指令値と、前記電圧指令値に対するオフセット値と、に基づいて設定する前記制御部と、
を備え
、
前記電圧指令値は、前記外部装置から入力される、前記電極に印加する電圧の指令値であり、
前記記憶部は、前記第1のバースト発振が終了した時から前記第2のバースト発振が開始される時までの休止期間の長さと前記パルス番号との組合せに対して、前記パルスレーザ光のパルスエネルギーが前記所定の値となるような前記電圧値を対応付けたデータテーブルを記憶しており、
前記制御部は、
前記パルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための前記印加電圧値を、前記データテーブルから前記休止期間の長さと前記パルス番号とに基づいて読み出される前記電圧値に基づいて設定し、
前記パルス番号がi-1であるパルスを出力するための前記電圧指令値と前記パルス番号がi-1であるパルスを出力するための前記印加電圧値との差に基づいて前記オフセット値を算出するレーザ装置である、
電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ装置、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体露光装置においては、半導体集積回路の微細化および高集積化につれて、解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される光の短波長化が進められている。たとえば、露光用のガスレーザ装置としては、波長約248nmのレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置、ならびに波長約193nmのレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられる。
【0003】
KrFエキシマレーザ装置およびArFエキシマレーザ装置の自然発振光のスペクトル線幅は、350~400pmと広い。そのため、KrF及びArFレーザ光のような紫外線を透過する材料で投影レンズを構成すると、色収差が発生してしまう場合がある。その結果、解像力が低下し得る。そこで、ガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を、色収差が無視できる程度となるまで狭帯域化する必要がある。そのため、ガスレーザ装置のレーザ共振器内には、スペクトル線幅を狭帯域化するために、狭帯域化素子(エタロンやグレーティング等)を含む狭帯域化モジュール(Line Narrow Module:LNM)が備えられる場合がある。以下では、スペクトル線幅が狭帯域化されるガスレーザ装置を狭帯域化ガスレーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6418155号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/309259号公報
【概要】
【0005】
本開示の1つの観点に係るレーザ装置は、外部装置から入力される電圧指令値及びトリガ信号に従って、第1のバースト発振と、第1のバースト発振の次に行われる第2のバースト発振と、を含む複数回のバースト発振を行ってパルスレーザ光を出力するレーザ装置であって、レーザ共振器と、レーザ共振器の光路に配置されたチャンバと、チャンバに配置された一対の電極と、電極に電圧を印加する電源と、パルスレーザ光のパルスエネルギーが所定の値となるような電圧値を記憶した記憶部と、電極に印加される電圧の印加電圧値を設定する制御部であって、iを1より大きい整数とし、jをiより大きい整数とし、複数回のバースト発振のうちの1回のバースト発振において出力されるパルスレーザ光に含まれる複数のパルスのうちのパルスの順番を示すパルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための印加電圧値を、電圧指令値と、記憶部に記憶された電圧値と、に基づいて設定し、パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための印加電圧値を、電圧指令値と、電圧指令値に対するオフセット値と、に基づいて設定する制御部と、を備える。
【0006】
本開示の1つの観点に係る電子デバイスの製造方法は、レーザ装置によってパルスレーザ光を生成し、パルスレーザ光を露光装置に出力し、電子デバイスを製造するために、露光装置内で感光基板上にパルスレーザ光を露光することを含む。レーザ装置は、外部装置から入力される電圧指令値及びトリガ信号に従って、第1のバースト発振と、第1のバースト発振の次に行われる第2のバースト発振と、を含む複数回のバースト発振を行ってパルスレーザ光を出力するレーザ装置であって、レーザ共振器と、レーザ共振器の光路に配置されたチャンバと、チャンバに配置された一対の電極と、電極に電圧を印加する電源と、パルスレーザ光のパルスエネルギーが所定の値となるような電圧値を記憶した記憶部と、電極に印加される電圧の印加電圧値を設定する制御部であって、iを1より大きい整数とし、jをiより大きい整数とし、複数回のバースト発振のうちの1回のバースト発振において出力されるパルスレーザ光に含まれる複数のパルスのうちのパルスの順番を示すパルス番号が1以上i未満であるパルスを出力するための印加電圧値を、電圧指令値と、記憶部に記憶された電圧値と、に基づいて設定し、パルス番号がi以上j未満であるパルスを出力するための印加電圧値を、電圧指令値と、電圧指令値に対するオフセット値と、に基づいて設定する制御部と、を備えるレーザ装置である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、比較例に係るレーザ装置の構成を概略的に示す。
【
図2】
図2は、露光装置制御部からレーザ制御部を介してスイッチに出力されるトリガ信号Tr[n]の例を示すパルス波形図である。
【
図3】
図3は、比較例において電圧指令値HVcmd[n]を一定値としてバースト発振を行った場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例において電圧指令値HVcmd[n]をフィードバック制御した場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係るレーザ装置の構成を概略的に示す。
【
図6】
図6は、記憶部に記憶されたデータテーブルの内容を概念的に示す。
【
図7】
図7は、レーザ制御部の動作を概略的に示すタイムチャートである。
【
図8】
図8は、第1の実施形態におけるレーザ制御部の処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1の実施形態におけるパラメータの更新の処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、パラメータGainHV及びConstを算出するために取得される印加電圧値HV[n]とパルスエネルギーE[n]との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第1の実施形態における印加電圧値HV[n]の設定の処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtを算出する原理を説明するグラフである。
【
図13】
図13は、第1の実施形態におけるデータテーブルを用いた制御を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、目標パルスエネルギーEt及び電圧値HVtbl[p,n]に基づいて印加電圧値HV[n]を設定する原理を説明するグラフである。
【
図15】
図15は、第1の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第1の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移を示すグラフである。
【
図17】
図17は、第2の実施形態におけるパラメータの更新の処理を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、合計減衰量TDを算出するために取得される印加電圧値HV[n]の推移を示すグラフである。
【
図19】
図19は、第2の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、第2の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の第1の例を示すグラフである。
【
図21】
図21は、第2の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の第2の例を示すグラフである。
【
図22】
図22は、第3の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
【
図23】
図23は、第3の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の例を示すグラフである。
【
図24】
図24は、第4の実施形態における印加電圧値HV[n]の設定の処理を示すフローチャートである。
【
図25】
図25は、印加電圧値HV[n]を一定値として、異なる繰返し周波数Fでそれぞれバースト発振を行った場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
【
図26】
図26は、第4の実施形態におけるデータテーブルを用いた制御のうちのパルス番号nが1より大きくi未満である場合の制御を示すフローチャートである。
【
図27】
図27は、パルスエネルギーE[n]を一定値に維持するように印加電圧値HV[n]を補正した場合の印加電圧値HVa[n]の推移を示すグラフである。
【
図28】
図28は、第5の実施形態の第1の例におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
【
図29】
図29は、第1の例において合計減衰量TD及び減衰タイミングjを補正する処理を説明するグラフである。
【
図30】
図30は、第5の実施形態の第2の例におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
【
図31】
図31は、第2の例において合計減衰量TDa、TDb及び減衰タイミングg、h、jを補正する処理を説明するグラフである。
【
図32】
図32は、レーザ装置に接続された露光装置の構成を概略的に示す。
【実施形態】
【0008】
内容
1.比較例に係るレーザ装置
1.1 構成
1.2 動作
1.3 比較例の課題
2.印加電圧の調整を行うレーザ装置
2.1 構成
2.2 動作
2.2.1 概略
2.2.2 パルスエネルギーE[n]の計測
2.2.3 メインルーチン
2.2.4 パラメータの更新(S1)
2.2.5 印加電圧値HV[n]の設定(S2)
2.2.5.1 データテーブルを用いた制御(S27)
2.2.5.2 オフセット値を用いた制御(S29)
2.3 作用
3.オフセット値を一定量ずつ減衰させるレーザ装置
3.1 パラメータの更新(S1)
3.2 オフセット値を用いた制御(S29)
3.3 作用
4.オフセット値の減衰量を変化させるレーザ装置
4.1 オフセット値を用いた制御(S29)
4.2 作用
5.繰返し周波数に基づいて印加電圧値を補正するレーザ装置
5.1 印加電圧値HV[n]の設定(S2)
5.2 データテーブルを用いた制御(S28c)
5.3 作用
6.繰返し周波数に基づいて合計減衰量及び減衰タイミングを補正するレーザ装置
6.1 第1の例
6.2 第2の例
6.3 作用
7.その他
【0009】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0010】
1.比較例に係るレーザ装置
1.1 構成
図1は、比較例に係るレーザ装置1の構成を概略的に示す。レーザ装置1は、外部装置としての露光装置100と共に使用される。露光装置100は、露光装置制御部110を含んでいる。
【0011】
レーザ装置1は、チャンバ10と、充電器12と、パルスパワーモジュール(PPM)13と、狭帯域化モジュール14と、出力結合ミラー15と、レーザ制御部30と、を含む。狭帯域化モジュール14及び出力結合ミラー15はレーザ共振器を構成する。
【0012】
チャンバ10は、レーザ共振器の光路に配置されている。チャンバ10にはウインドウ10a及び10bが設けられている。チャンバ10の一部に開口が形成され、この開口が絶縁部材29によって塞がれている。絶縁部材29には複数の導電部材29aが埋め込まれている。
【0013】
チャンバ10は、一対の電極11a及び11bと、クロスフローファン21と、を内部に収容し、さらにレーザ媒質としてのレーザガスを収容している。レーザ媒質は、例えば、F
2、ArF、KrF、XeCl、又はXeFである。電極11aは絶縁部材29に支持されている。電極11aは、導電部材29aを介してパルスパワーモジュール13に電気的に接続されている。電極11bは、チャンバ10の内部に位置するリターンプレート10cに支持されている。電極11bは、リターンプレート10cを介して接地電位に接続されている。チャンバ10とリターンプレート10cとの間には、
図1の紙面の奥行側と手前側とに、レーザガスが通過するための図示されない隙間を有している。
【0014】
クロスフローファン21の回転軸は、チャンバ10の外部に配置されたモータ22に接続されている。クロスフローファン21は、レーザガスをチャンバ10の内部で循環させるように構成されている。
【0015】
充電器12は、パルスパワーモジュール13に供給するための電気エネルギーを保持する。パルスパワーモジュール13は、スイッチ13aを含んでいる。充電器12とパルスパワーモジュール13とで本開示における電源が構成される。狭帯域化モジュール14は、プリズム14a及びグレーティング14bなどの波長選択素子を含む。出力結合ミラー15は、部分反射ミラーで構成されている。
【0016】
レーザ制御部30は、CPU(central processing unit)38及びメモリ39を含むコンピュータ装置によって構成される。メモリ39は、情報処理に必要なプログラム及びデータを記憶している。CPU38は、メモリ39に記憶されたプログラムに従い、各種データを読み出して情報処理を行うように構成されている。
【0017】
1.2 動作
露光装置制御部110は、レーザ制御部30に対して、電圧指令値HVcmd[n]及びトリガ信号Tr[n]を送信する。レーザ制御部30は、充電器12に電圧指令値HVcmd[n]の設定信号を送信し、スイッチ13aにトリガ信号Tr[n]を送信する。
【0018】
スイッチ13aは、レーザ制御部30からトリガ信号Tr[n]を受信するとオン状態となる。パルスパワーモジュール13は、スイッチ13aがオン状態となると、充電器12に保持された電気エネルギーからパルス状の高電圧を生成する。パルスパワーモジュール13は、この高電圧を電極11a及び11bに印加する。
【0019】
電極11a及び11bに高電圧が印加されると、電極11a及び11bの間に放電が起こる。この放電のエネルギーにより、チャンバ10内のレーザガスが励起されて高エネルギー準位に移行する。励起されたレーザガスが、その後、低エネルギー準位に移行するとき、そのエネルギー準位差に応じた波長の光を放出する。
【0020】
チャンバ10内で発生した光は、ウインドウ10a及び10bを介してチャンバ10の外部に出射する。ウインドウ10aから出射した光は、プリズム14aによってビーム幅を拡大させられて、グレーティング14bに入射する。プリズム14aからグレーティング14bに入射した光は、グレーティング14bの複数の溝によって反射されるとともに、光の波長に応じた方向に回折させられる。グレーティング14bは、プリズム14aからグレーティング14bに入射する光の入射角と、所望波長の回折光の回折角とが一致するようにリトロー配置とされている。これにより、所望波長付近の光がプリズム14aを介してチャンバ10に戻される。
【0021】
出力結合ミラー15は、ウインドウ10bから出射した光のうちの一部を透過させて出力し、他の一部を反射してチャンバ10に戻す。
【0022】
このようにして、チャンバ10から出射した光は、狭帯域化モジュール14と出力結合ミラー15との間で往復する。この光は、一対の電極11a及び11b間の放電空間を通過する度に増幅される。また、この光は、狭帯域化モジュール14で折り返される度に狭帯域化される。こうしてレーザ発振し狭帯域化された光が、出力結合ミラー15からパルスレーザ光として出力される。
【0023】
レーザ装置1から出力されたパルスレーザ光は、露光装置100へ入射する。露光装置100は図示しないエネルギーモニタを含み、露光装置制御部110は、エネルギーモニタからパルスレーザ光のパルスエネルギーE[n]の計測結果を取得する。露光装置制御部110は、計測されたパルスエネルギーE[n]と、目標パルスエネルギーEtcmdの設定データと、に基づくフィードバック制御によって電圧指令値HVcmd[n]を設定する。
【0024】
図2は、露光装置制御部110からレーザ制御部30を介してスイッチ13aに出力されるトリガ信号Tr[n]の例を示すパルス波形図である。
図2の横軸は時間Tを示し、縦軸は信号強度を示す。露光装置制御部110は、ある期間にわたって繰返し周波数Fでトリガ信号Tr[n]を出力する。繰返し周波数Fで出力されたトリガ信号Tr[n]に応じてレーザ装置1がレーザ発振を行い、繰返し周波数Fでパルスレーザ光を出力することを「バースト発振」という。
【0025】
露光装置制御部110は、繰返し周波数Fでトリガ信号Tr[n]を出力した後、トリガ信号Tr[n]の出力を休止する。その後、露光装置制御部110は、再度、繰返し周波数Fでトリガ信号Tr[n]を出力する。第1のバースト発振とその次の第2のバースト発振との間でトリガ信号Tr[n]の出力を休止する期間を「休止期間」という。
【0026】
バースト発振が行われる期間は、例えば、露光装置100において半導体ウエハの1つの露光エリアの露光を行う期間に相当する。休止期間は、例えば、露光装置100において1つの露光エリアから他の露光エリアにレチクルパターンの結像位置を移動する期間や、半導体ウエハを交換する期間に相当する。
【0027】
1回のバースト発振においてレーザ装置1から出力されるパルスレーザ光は、トリガ信号Tr[n]のトリガパルスに対応する複数のパルスを含む。1回のバースト発振においてレーザ装置1から出力される複数のパルスのうちのパルスの順番を示すパルス番号をnとする。パルス番号nは、1回のバースト発振ごとに、バースト発振の先頭のパルスから、1,2,3,...の順で1ずつ増加するように定義される。本開示において、パルスごとに個別に出力される信号や、パルスごとに個別に計測されるデータについては、符号の末尾に[n]を付している。また、それらの信号やデータのうちの特定のパルスに言及する場合は、符号の末尾に[1]、[2]等を付すことがある。
【0028】
1.3 比較例の課題
図3は、比較例において電圧指令値HVcmd[n]を一定値としてバースト発振を行った場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
図3の横軸はパルス番号nを示す。バースト発振において高い繰返し周波数でパルスレーザ光を出力すると、レーザゲインが減少する場合がある。レーザゲインの減少は、
図3においてパルスエネルギーE[n]の低下として現れている。すなわち、電圧指令値HVcmd[n]が一定であっても、バースト発振の開始時にはパルスエネルギーE[n]が高く、その後パルスエネルギーE[n]が低下することがある。また、パルス番号nが1である場合のパルスエネルギーE[1]が突出して高く、その後パルスエネルギーE[n]が急激に低下することがある。バースト発振の途中には、パルスエネルギーE[n]が一旦安定し、その後、さらにパルスエネルギーE[n]が低下することもある。
【0029】
また、第1のバースト発振が終了した時から第2のバースト発振が開始される時までの休止期間の長さに応じて、レーザゲインが回復する場合がある。レーザゲインが回復すれば、パルスエネルギーE[n]が回復する。バースト発振におけるレーザゲイン及びパルスエネルギーE[n]の変動は、レーザ装置1の特性に依存し得る。
【0030】
図4は、比較例において電圧指令値HVcmd[n]をフィードバック制御した場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
図4は、
図3よりも縦軸が引き延ばされており、パルスエネルギーE[n]の変動を強調して示している。
【0031】
露光装置制御部110は、バースト発振の最初のパルス(n=1)において、目標パルスエネルギーEtcmdの設定データに基づいて、電圧指令値HVcmd[1]を設定する。バースト発振の最初のパルス(n=1)を出力するときには、休止期間の長さに応じてレーザゲインが回復しており、パルスエネルギーE[1]が目標パルスエネルギーEtcmdよりも大幅に高いことがある。
【0032】
そこで、露光装置制御部110は、パルスエネルギーE[1]と目標パルスエネルギーEtcmdとの差に基づくフィードバック制御により、次のパルス(n=2)のための電圧指令値HVcmd[2]を設定する。ところが、
図3に示されるように、最初のパルス(n=1)を出力したときに比べて、次のパルス(n=2)を出力するときにはレーザゲインが大幅に減少している場合がある。すると、
図4に示されるように、次のパルス(n=2)のパルスエネルギーE[2]が目標パルスエネルギーEtcmdよりも大幅に低いことがあり得る。
【0033】
このように、露光装置制御部110のフィードバック制御によれば、特にバースト発振の開始直後においてパルスエネルギーE[n]が不安定となり、露光性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
2.印加電圧の調整を行うレーザ装置
2.1 構成
図5は、第1の実施形態に係るレーザ装置1の構成を概略的に示す。第1の実施形態において、レーザ装置1は、エネルギーモニタ17と、記憶部31と、をさらに含む。
【0035】
エネルギーモニタ17は、ビームスプリッタ17aと、集光レンズ17bと、光センサ17cと、を含んでいる。ビームスプリッタ17aは、出力結合ミラー15から出力されたパルスレーザ光の光路に配置されている。ビームスプリッタ17aは、出力結合ミラー15から出力されたパルスレーザ光の一部を露光装置100に向けて高い透過率で透過させるとともに、他の一部を反射するように構成されている。集光レンズ17b及び光センサ17cは、ビームスプリッタ17aによって反射されたパルスレーザ光の光路に配置されている。
【0036】
記憶部31は、電圧値HVtbl[p,n]のデータテーブルを記憶した記憶装置である。記憶部31は、レーザ制御部30によって、データテーブルの読み込み及び書き込みができるようになっている。
【0037】
図6は、記憶部31に記憶されたデータテーブルの内容を概念的に示す。以下の説明において、休止期間の長さに応じて定義された区分pを用いる。休止期間の区分pは、例えば以下のように定義される。
p=1: 休止期間が20ms以上、50ms未満
p=2: 休止期間が50ms以上、80ms未満
p=3: 休止期間が80ms以上、100ms未満
【0038】
休止期間が100ms以上である場合、休止期間の区分pは4以上でもよい。
1つのトリガパルスから次のトリガパルスまでの期間が20ms未満である場合、休止期間ではなくバースト発振中であると判断される。
【0039】
記憶部31は、休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せ[p,n]に対して、パルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような電圧値HVtbl[p,n]を対応づけたデータテーブルを記憶する。所定の値Estdは、本開示において印加電圧値HV[n]を設定する処理の基準となるパルスエネルギーであって、例えば10mJである。データテーブルには、バースト発振の開始直後のパルス番号nに対応する電圧値HVtbl[p,n]が含まれている。例えば、パルス番号nが1である場合の電圧値HVtbl[p,1]と、パルス番号nが2である場合の電圧値HVtbl[p,2]とが含まれている。
他の点については、第1の実施形態の構成は比較例の構成と同様である。
【0040】
2.2 動作
2.2.1 概略
図7は、レーザ制御部30の動作を概略的に示すタイムチャートである。
図7において、上端から下方に向かって時間が進むものとする。露光装置制御部110から電圧指令値HVcmd[n]及びトリガ信号Tr[n]をそれぞれ受信するタイミングも併せて示されている。レーザ制御部30は、パルス番号nの値に応じて以下の処理を行う。
図7及び以下の説明においてSで始まる符号は、後述のフローチャートにおいて対応するステップ番号を示す。
【0041】
(1)n=1
レーザ制御部30は、休止期間において、休止期間の長さを計測する(S22)。レーザ制御部30は、休止期間の長さに応じて区分pを決定する。
レーザ制御部30は、露光装置制御部110から電圧指令値HVcmd[1]を受信する。レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtを算出する(S25)。S22及びS25の処理については
図11を参照しながら後述する。レーザ制御部30は、露光装置制御部110が設定している目標パルスエネルギーEtcmdを受信していないため、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて算出された目標パルスエネルギーEtを用いて、以下の処理を行う。
【0042】
レーザ制御部30は、休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せ[p,1]に基づいてデータテーブルを検索し、パルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような電圧値HVtbl[p,1]を読み出す。レーザ制御部30は、目標パルスエネルギーEt及び電圧値HVtbl[p,1]に基づいて、印加電圧値HV[1]を設定する(S271)。S271の処理については
図13を参照しながら後述する。レーザ制御部30は、充電器12に印加電圧値HV[1]の設定信号を送信する。
【0043】
すなわち、レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[1]をそのまま印加電圧値として設定するのではなく、データテーブルから読み出された電圧値HVtbl[p,1]を使って印加電圧値HV[1]を設定する。
印加電圧値HV[1]を設定した後、レーザ制御部30は、露光装置制御部110からトリガ信号Tr[1]を受信し、スイッチ13aにトリガ信号Tr[1]を送信する。
【0044】
(2)n=2
パルス番号nが2である場合、休止期間の区分pは既に決定されており、目標パルスエネルギーEtは既に算出されている。レーザ制御部30は、休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せ[p,2]に基づいてデータテーブルを検索し、パルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような電圧値HVtbl[p,2]を読み出す。レーザ制御部30は、目標パルスエネルギーEt及び電圧値HVtbl[p,2]に基づいて、印加電圧値HV[2]を設定する(S271)。レーザ制御部30は、充電器12に印加電圧値HV[2]の設定信号を送信する。
【0045】
印加電圧値HV[2]を設定した後、レーザ制御部30は、露光装置制御部110からトリガ信号Tr[2]を受信し、スイッチ13aにトリガ信号Tr[2]を送信する。
印加電圧値HV[2]を設定した後、レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信した電圧指令値HVcmd[2]と印加電圧値HV[2]との差Difを算出する(S279)。S279の処理については
図13を参照しながら後述する。トリガ信号Tr[2]の受送信と、差Difの算出とはどちらが先に行われてもよい。
【0046】
(3)n≧3
パルス番号nが3である場合、レーザ制御部30は、差Difに基づいてオフセット値Offset[3]を算出する(S292)。オフセット値Offset[3]は、例えば、差Difと同じ値である。レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信した電圧指令値HVcmd[3]にオフセット値Offset[3]を加算することにより、印加電圧値HV[3]を設定する(S293)。レーザ制御部30は、充電器12に印加電圧値HV[3]の設定信号を送信する。S292及びS293の処理については
図15を参照しながら後述する。
【0047】
パルス番号nが4である場合のレーザ制御部30の処理は、パルス番号nが3である場合の上述の処理と同様である。レーザ制御部30は、差Difに基づいてオフセット値Offset[4]を算出し(S292)、電圧指令値HVcmd[4]にオフセット値Offset[4]を加算することにより、印加電圧値HV[4]を設定する(S293)。パルス番号nが5以上である場合のレーザ制御部30の処理も、パルス番号nが3である場合の上述の処理と同様である。すなわち、パルス番号nが3以上である場合、レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[n]とオフセット値Offset[n]とに基づいて印加電圧値HV[n]を設定する。
【0048】
2.2.2 パルスエネルギーE[n]の計測
図5を再び参照すると、エネルギーモニタ17に含まれる集光レンズ17bは、ビームスプリッタ17aによって反射されたパルスレーザ光を光センサ17cに集束させる。光センサ17cは、集光レンズ17bによって集束させられたパルスレーザ光のパルスエネルギーE[n]に応じた電気信号をレーザ制御部30に送信する。
【0049】
エネルギーモニタ17を用いて計測されたパルスエネルギーE[n]は、目標パルスエネルギーEtを計算するためのパラメータGainHV及びConstを更新するために用いられる。これについては
図9のS12の処理として後述する。
また、エネルギーモニタ17を用いて計測されたパルスエネルギーE[n]は、データテーブルを更新するために用いられる。これについては
図13のS277の処理として後述する。
【0050】
2.2.3 メインルーチン
図8は、第1の実施形態におけるレーザ制御部30の処理を示すフローチャートである。レーザ制御部30は、以下の2つの処理を繰り返し行う。
パラメータの更新(S1)
印加電圧値HV[n]の設定(S2)
以下に、それぞれの処理について説明する。
【0051】
2.2.4 パラメータの更新(S1)
図9は、第1の実施形態におけるパラメータの更新の処理を示すフローチャートである。
図9に示される処理は、
図8のS1のサブルーチンである。
【0052】
S11において、レーザ制御部30は、目標パルスエネルギーEtを計算するためのパラメータGainHV及びConstを更新するか否かを判定する。レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信したトリガ信号Tr[n]がキャリブレーション発振の発振パターンを示している場合に、パラメータGainHV及びConstを更新すると判定する。レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信したトリガ信号Tr[n]が半導体露光の発振パターンを示している場合に、パラメータGainHV及びConstを更新しないと判定する。キャリブレーション発振とは、露光装置制御部110が目標パルスエネルギーEtcmdに基づくフィードバック制御のためのパラメータを取得するために行われるレーザ発振である。キャリブレーション発振は、例えば、半導体ウエハを交換するごとに実施される。
【0053】
レーザ制御部30は、パラメータGainHV及びConstを更新する場合(S11:YES)、S12に処理を進める。
S12において、レーザ制御部30は、キャリブレーション発振時の印加電圧値HV[n]と計測されたパルスエネルギーE[n]との関係に基づいて、パラメータGainHV及びConstを算出して更新する。キャリブレーション発振時の印加電圧値HV[n]は、露光装置制御部110から受信した電圧指令値HVcmd[n]と同じ値である。
【0054】
図10は、パラメータGainHV及びConstを算出するために取得される印加電圧値HV[n]とパルスエネルギーE[n]との関係を示すグラフである。S12において、互いに異なる複数の印加電圧値HV[n]の各々についてパルスエネルギーE[n]が計測され、印加電圧値HV[n]とパルスエネルギーE[n]との関係から近似直線が計算される。近似直線は、以下の式により表される。
E[n]=HV[n]×A+B
このとき、Aの値がパラメータGainHVの新たな値として設定され、Bの値がパラメータConstの新たな値として設定される。
【0055】
図9を再び参照し、S11においてパラメータGainHV及びConstを更新しない場合(S11:NO)、あるいは、S12の後、レーザ制御部30は
図9に示されるフローチャートの処理を終了し、
図8に示される処理に戻る。
【0056】
2.2.5 印加電圧値HV[n]の設定(S2)
図11は、第1の実施形態における印加電圧値HV[n]の設定の処理を示すフローチャートである。
図11に示される処理は、
図8のS2のサブルーチンである。
【0057】
S21において、レーザ制御部30は、露光装置制御部110からの信号に基づいて、休止期間中か否かを判定する。レーザ制御部30は、休止期間中であると判定した場合(S21:YES)、S22に処理を進める。レーザ制御部30は、休止期間中ではないと判定した場合(S21:NO)、S23に処理を進める。
【0058】
S22において、レーザ制御部30は、休止期間の長さを計測する。S22の後、レーザ制御部30は、S21に戻る。レーザ制御部30は、休止期間中ではないと判定されるまでS21及びS22の処理を繰り返し、休止期間の長さを計測する。
【0059】
S23において、レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[n]を露光装置制御部110から受信する。次に、S24において、レーザ制御部30は、パルス番号nが1であるか否かを判定する。パルス番号nが1である場合(S24:YES)、レーザ制御部30は、S25に処理を進める。パルス番号nが1ではない場合(S24:NO)、レーザ制御部30は、S26に処理を進める。
【0060】
S25において、レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtを算出する。
図12は、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtを算出する原理を説明するグラフである。
図10を参照しながら説明したように、印加電圧値HV[n]とパルスエネルギーE[n]とが以下の関係を有することがキャリブレーション発振時の計測結果から得られている。
E[n]=HV[n]×GainHV+Const
【0061】
レーザ制御部30と、露光装置制御部110とは、同じキャリブレーション発振からそれぞれ独自にデータを取得している。従って、レーザ制御部30が取得したデータと、露光装置制御部110が取得したデータとの間に大きな違いはないと推測される。そこで、電圧指令値HVcmd[1]を用いて以下の式により算出された目標パルスエネルギーEtは、露光装置制御部110が設定している目標パルスエネルギーEtcmdと大きな違いはないと推測される。
Et=HVcmd[1]×GainHV+Const
【0062】
図11を再び参照し、S26において、レーザ制御部30は、パルス番号nがi未満であるか否かを判定する。ここで、iは1より大きい整数であり、オフセット値Offset[n]を用いた制御を開始する時のパルス番号nに相当する。例えば、iは3である。パルス番号nがi未満である場合(S26:YES)、レーザ制御部30はS27に処理を進める。パルス番号nが1であって上述のS25の処理が終了した場合も、レーザ制御部30はS27に処理を進める。パルス番号nがi以上である場合(S26:NO)、レーザ制御部30はS29に処理を進める。
【0063】
S27において、レーザ制御部30は、データテーブルを用いた制御を行う。データテーブルを用いた制御については、
図13を参照しながら後述する。
S29において、レーザ制御部30は、オフセット値Offset[n]を用いた制御を行う。オフセット値Offset[n]を用いた制御については、
図15を参照しながら後述する。
S27又はS29の後、レーザ制御部30は
図11に示されるフローチャートの処理を終了し、
図8に示される処理に戻る。
【0064】
2.2.5.1 データテーブルを用いた制御(S27)
図13は、第1の実施形態におけるデータテーブルを用いた制御を示すフローチャートである。
図13に示される処理は、
図11のS27のサブルーチンである。
【0065】
S271において、レーザ制御部30は、休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せ[p,n]に基づいて、データテーブルから電圧値HVtbl[p,n]を読み出す。そして、レーザ制御部30は、目標パルスエネルギーEt及び電圧値HVtbl[p,n]に基づいて、印加電圧値HV[n]を設定する。
【0066】
図14は、目標パルスエネルギーEt及び電圧値HVtbl[p,n]に基づいて印加電圧値HV[n]を設定する原理を説明するグラフである。休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せ[p,n]に基づいて読み出された電圧値HVtbl[p,n]は、パルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような電圧値である。また、
図10を参照しながら説明したように、印加電圧値HV[n]とパルスエネルギーE[n]との関係は、パラメータGainHVを傾きとする近似直線で表すことができる。そこで、パラメータGainHVを用いた以下の式により、所定の値Estdに対応する電圧値HVtbl[p,n]を、目標パルスエネルギーEtに対応する印加電圧値HV[n]に換算することができる。
HV[n]=HVtbl[p,n]+(Et-Estd)/GainHV
【0067】
図13を再び参照し、S274において、レーザ制御部30は、露光装置制御部110からトリガ信号Tr[n]を受信したか否かを判定する。トリガ信号Tr[n]を受信していない場合(S274:NO)、レーザ制御部30は、トリガ信号Tr[n]を受信するまで待機する。トリガ信号Tr[n]を受信した場合(S274:YES)、レーザ制御部30は、S275に処理を進める。
【0068】
S275において、レーザ制御部30は、トリガ信号Tr[n]をパルスパワーモジュール13に出力する。その結果、レーザ装置1からパルスレーザ光が出力され、パルスレーザ光のパルスエネルギーE[n]がエネルギーモニタ17によって計測される。
S276において、レーザ制御部30は、エネルギーモニタ17からパルスエネルギーE[n]の計測データを受信する。
【0069】
S277において、レーザ制御部30は、パルスエネルギーE[n]と目標パルスエネルギーEtとの差に基づいてデータテーブルの電圧値HVtbl[p,n]を更新する。データテーブルの電圧値HVtbl[p,n]は以下の式により算出される。
HVtbl[p,n]
= HV[n]+(Et-E[n])×GainCont/GainHV
-(Et-Estd)/GainHV
ここで、GainContは、0より大きく2より小さい比例ゲインである。(Et-E[n])×GainCont/GainHVは、比例制御による操作量に相当する。さらに(Et-Estd)/GainHVを減算することにより、パルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような電圧値HVtbl[p,n]に換算される。
【0070】
比例ゲインGainContは、パルス番号nによって異なる値であってもよい。例えば、パルス番号nが1である場合の比例ゲインをGainCont[1]とし、パルス番号nが2である場合の比例ゲインをGainCont[2]としたとき、データテーブルの電圧値HVtbl[p,n]が以下の式により算出されてもよい。
【0071】
HVtbl[p,1]
= HV[1]+(Et-E[1])×GainCont[1]/GainHV
-(Et-Estd)/GainHV
【0072】
HVtbl[p,2]
= HV[2]+(Et-E[2])×GainCont[2]/GainHV
-(Et-Estd)/GainHV
【0073】
データテーブルは、休止期間の区分pとパルス番号nとの特定の組合せ[p,n]以外の組合せについて更新されてもよい。例えば、パルス番号nが1である場合のパルスエネルギーE[1]を取得した場合に、電圧値HVtbl[p,1]が更新されるだけでなく、さらに電圧値HVtbl[p,2]が更新されてもよい。特定の組合せ[p,n]以外の組合せについてデータテーブルを更新する場合には、特定の組合せ[p,n]についてデータテーブルを更新する場合よりも、小さい比例ゲインGainContが用いられてもよい。
【0074】
データテーブルの更新は、パルス番号nが1であるパルスが出力された後、パルス番号nが2であるパルスが出力される前に行われてもよい。これにより、パルス番号nが1である場合のパルスエネルギーE[n]の計測結果に応じて、パルス番号nが2である場合の印加電圧値HV[n]を設定できる。
【0075】
データテーブルの更新は、バースト発振中に行うだけでなく、さらに、チャンバ10の内部のガスの一部を交換した後、又はガス濃度の調整をした後にも行うようにしてもよい。
【0076】
S278において、レーザ制御部30は、パルス番号nがi-1であるか否かを判定する。パルス番号nがi-1である場合のパルスは、データテーブルを用いた制御(S27)が行われるパルスのうちの最後のパルスである。パルス番号nがi-1である場合(S278:YES)、レーザ制御部30はS279に処理を進める。
【0077】
S279において、レーザ制御部30は、印加電圧値HV[n]と電圧指令値HVcmd[n]との差Difを以下の式により算出する。
Dif=HV[n]-HVcmd[n]
差Difは、
図15のS292において用いられる。
【0078】
S278においてパルス番号nがi-1ではない場合(S278:NO)、あるいは、S279の後、レーザ制御部30は
図13に示されるフローチャートの処理を終了し、
図11に示される処理に戻る。
【0079】
2.2.5.2 オフセット値を用いた制御(S29)
図15は、第1の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。
図15に示される処理は、
図11のS29のサブルーチンである。
【0080】
S292において、レーザ制御部30は、オフセット値Offset[n]を以下の式により算出する。
Offset[n]=Dif
すなわち、
図15の処理においてオフセット値Offset[n]はパルス番号nの値に関わらず一定値とされる。
【0081】
S293において、レーザ制御部30は、電圧指令値HVcmd[n]及びオフセット値Offset[n]に基づいて、以下の式により印加電圧値HV[n]を設定する。
HV[n]=HVcmd[n]+Offset[n]
但し、パルス番号nはi以上j未満の範囲である。ここで、jはiより大きい整数であり、例えば、1回のバースト発振のパルス数に1を加算して得られた数である。
【0082】
図16は、第1の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移を示すグラフである。
図16の横軸はパルス番号nを示す。パルス番号nが1である場合とパルス番号nが2である場合は、データテーブルを用いた制御(S27)によって印加電圧値HV[n]が設定されている。
図16には、パルス番号nが2である場合以降の電圧指令値HVcmd[n]が併せて示されている。
図13のS279により、パルス番号nが2である場合の印加電圧値HV[2]と電圧指令値HVcmd[2]との差Difが算出されている。
図16に示される例において、差Difは負数である。
【0083】
S292によって、オフセット値Offset[n]は、差Difと同じ値に設定される。
【0084】
さらにS293によって、電圧指令値HVcmd[n]にオフセット値Offset[n]を加算することにより、印加電圧値HV[n]が設定される。電圧指令値HVcmd[n]は、露光装置制御部110によってパルスエネルギーE[n]が目標パルスエネルギーEtcmd付近の値に維持されるようにフィードバック制御されている。
図3を参照しながら説明したように、レーザ装置1の特性により、バースト発振中にレーザゲインが減少する場合には、それに応じて電圧指令値HVcmd[n]が上昇する。
【0085】
パルス番号nが1以上i未満であるバースト開始直後の期間に比べて、パルス番号nがi以上j未満である場合にはレーザゲインの変化が緩やかとなる。従って、パルス番号nがi以上j未満である場合には露光装置制御部110によるフィードバック制御によってパルスエネルギーE[n]を目標パルスエネルギーEtcmd付近の値に維持することが可能である。
【0086】
また、差Difと同じオフセット値Offset[n]を用いて印加電圧値HV[n]を設定することにより、印加電圧値HV[n]の急激な変動が抑制されるので、安定したパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0087】
図15を再び参照し、S294において、レーザ制御部30は、露光装置制御部110からトリガ信号Tr[n]を受信したか否かを判定する。トリガ信号Tr[n]を受信していない場合(S294:NO)、レーザ制御部30は、トリガ信号Tr[n]を受信するまで待機する。トリガ信号Tr[n]を受信した場合(S294:YES)、レーザ制御部30は、S295に処理を進める。
【0088】
S295において、レーザ制御部30は、トリガ信号Tr[n]をパルスパワーモジュール13に出力する。その結果、レーザ装置1からパルスレーザ光が出力される。
S295の後、レーザ制御部30は
図15に示されるフローチャートの処理を終了し、
図11に示される処理に戻る。
【0089】
2.3 作用
(1)第1の実施形態によれば、パルス番号nがi未満であるバースト開始直後の期間では、データテーブルから読み出される電圧値HVtbl[p,n]に基づいて印加電圧値HV[n]が設定される(
図13のS271)。これにより、バースト開始直後の期間に電圧指令値HVcmd[n]が変動したとしても、レーザ装置1の特性に応じて適切な印加電圧値HV[n]を設定できる。
【0090】
また、第1の実施形態によれば、パルス番号nがi以上である期間では、オフセット値Offset[n]に基づいて印加電圧値HV[n]が設定される(
図15のS292、S293)。これにより、データテーブルを用いた制御(S27)からオフセット値Offset[n]を用いた制御(S29)に移行したときに印加電圧値HV[n]が急激に変動することが抑制され、安定したパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0091】
(2)第1の実施形態によれば、データテーブルには休止期間の区分pとパルス番号nとの組合せに対応付けて電圧値HVtbl[p,n]が記憶されている。そして、このデータテーブルから、対応する電圧値HVtbl[p,n]が読み出される(
図13のS271)。これにより、休止期間の区分pとパルス番号nに応じてきめ細かく適切な印加電圧値HV[n]を設定できる。
【0092】
(3)第1の実施形態によれば、露光装置制御部110から受信した電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtが算出される(
図11のS25)。そして、目標パルスエネルギーEtと、データテーブルから読み出した電圧値HVtbl[p,n]とに基づいて印加電圧値HV[n]が算出される(
図13のS271)。これによれば、露光装置制御部110で設定された目標パルスエネルギーEtcmdを受信していなくても、目標パルスエネルギーEtcmdに近いパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0093】
(4)第1の実施形態によれば、電圧指令値HVcmd[1]に基づいて目標パルスエネルギーEtを算出するためのパラメータGainHV及びConstが、キャリブレーション発振時の計測データに基づいて算出される(
図9のS12)。これにより、露光装置制御部110がパラメータを取得するのと同じ条件でレーザ制御部30がパラメータを取得できる。
【0094】
(5)第1の実施形態によれば、パルスエネルギーE[n]の計測値と目標パルスエネルギーEtとの差に基づいてデータテーブルが更新される(
図13のS277)。これによれば、レーザ装置1の特性が変動しても、適切な印加電圧値HV[n]を設定できる。
【0095】
(6)第1の実施形態によれば、パルス番号nが1であるパルスが出力された後、パルス番号nが2であるパルスが出力される前にデータテーブルが更新される(
図13のS277)。これにより、レーザ装置1の特性の変動に素早く追随し、適切な印加電圧値HV[n]を設定できる。
【0096】
(7)第1の実施形態によれば、パルス番号nがi-1であるパルスを出力するための電圧指令値HVcmd[n]と印加電圧値HV[n]との差Difに基づいてオフセット値Offset[n]が算出される(
図13のS279、
図15のS292)。これにより、データテーブルを用いた制御(S27)からオフセット値Offset[n]を用いた制御(S29)への移行時にパルスエネルギーE[n]の大幅な変動を抑制し得る。
【0097】
(8)第1の実施形態によれば、オフセット値Offset[n]をバースト発振の途中で変化させずに一定値とするので、計算処理が複雑化することを抑制し得る。
【0098】
3.オフセット値を一定量ずつ減衰させるレーザ装置
図17~
図21を用いて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、オフセット値Offset[n]が一定値ではなく、バースト発振中に減衰する点で第1の実施形態と異なる。第2の実施形態においては、パルス番号nがi以上j未満である期間が減衰期間と定義され、この減衰期間にわたって、オフセット値Offset[n]が減衰する。ここで、jはiより大きい整数である。第2の実施形態に係るレーザ装置1の構成は、
図5を参照しながら説明した第1の実施形態の構成と同様である。
【0099】
3.1 パラメータの更新(S1)
図17は、第2の実施形態におけるパラメータの更新の処理を示すフローチャートである。第2の実施形態におけるメインルーチンは、
図8を参照しながら説明した第1の実施形態におけるメインルーチンと同様である。
図17に示される処理は、
図8のS1のサブルーチンである。
【0100】
図17のS11及びS12の処理は、
図9において対応する処理と同様である。
図17において、パラメータGainHV及びConstを更新しない場合(S11:NO)、あるいは、S12の後、レーザ制御部30はS13aに処理を進める。
【0101】
S13aにおいて、レーザ制御部30は、合計減衰量TDを更新するか否かを判定する。レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信したトリガ信号Tr[n]がキャリブレーション発振の発振パターンを示している場合に、合計減衰量TDを更新すると判定する。レーザ制御部30は、露光装置制御部110から受信したトリガ信号Tr[n]が半導体露光の発振パターンを示している場合に、合計減衰量TDを更新しないと判定する。さらに、レーザ制御部30は、チャンバ10の内部のガスの一部を交換した後、又はガス濃度の調整をした後にも、合計減衰量TDを更新すると判定してもよい。
【0102】
レーザ制御部30は、合計減衰量TDを更新する場合(S13a:YES)、S14aに処理を進める。
S14aにおいて、レーザ制御部30は、キャリブレーション発振時の印加電圧値HV[n]のドリフト量Drift(x)を計測する。レーザ制御部30は、計測されたドリフト量Drift(x)に基づいて合計減衰量TDを算出し、合計減衰量TDを更新する。
【0103】
図18は、合計減衰量TDを算出するために取得される印加電圧値HV[n]の推移を示すグラフである。
図3を参照しながら説明したように、レーザ装置1の特性により、バースト発振中にレーザゲインが減少する場合がある。キャリブレーション発振において、パルスエネルギーE[n]を一定値に維持するように印加電圧値HV[n]を設定すると、印加電圧値HV[n]が上昇する。そこで、レーザ制御部30は、パルス番号nがiである時からバースト発振の終了時までの間における印加電圧値HV[n]の上昇幅をドリフト量Drift(x)として計測する。レーザ制御部30は、さらに、ドリフト量Drift(x)に基づいて合計減衰量TDを算出する。
【0104】
合計減衰量TDの算出は、以下の式によって行われる。
TD=Sum(Drift(x-9:x))/10
ここで、Sum(Drift(x-9:x))は、過去10回分のドリフト量Drift(x)の計測結果の合計値である。合計減衰量TDは、過去10回分のドリフト量Drift(x)の移動平均値に相当する。
【0105】
S13aにおいて合計減衰量TDを更新しない場合(S13a:NO)、あるいは、S14aの後、レーザ制御部30は
図17に示されるフローチャートの処理を終了し、
図8に示される処理に戻る。
【0106】
3.2 オフセット値を用いた制御(S29)
図19は、第2の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。第2の実施形態において印加電圧値HV[n]を設定する処理は、オフセット値Offset[n]を用いた制御以外は、第1の実施形態の処理と同様である。
図19に示される処理は、
図11のS29のサブルーチンである。
【0107】
S292aにおいて、レーザ制御部30は、パルス番号nの増加に伴って減衰するオフセット値Offset[n]を以下の式により算出する。
Offset[n]=Dif-TD×(i-n)/(j-i)
ここで、jからiを減算することによって得られるj-iは、減衰期間の長さに対応した値となる。減衰期間の開始直後においてはパルス番号nがiに近い値であるので、TD×(i-n)/(j-i)は0に近い値となる。従ってオフセット値Offset[n]は、差Difに近い値となる。減衰期間の終了直前においてはパルス番号nがjに近い値であるので、TD×(i-n)/(j-i)は-TDに近い値となる。従ってオフセット値Offset[n]は、差Difと合計減衰量TDとの和に近い値となる。合計減衰量TDをj-iで除算すると、1パルスあたりの減衰量が得られる。
S293以降の処理は、
図15を参照しながら説明した第1の実施形態において対応する処理と同様である。
他の点については、第2の実施形態の動作は第1の実施形態と同様である。
【0108】
3.3 作用
図20は、第2の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の第1の例を示すグラフである。
図19のS292aによって算出されるオフセット値Offset[n]は、Difに近い値からDif+TDに近い値まで、パルス番号nの増加に伴って一定の減衰量ずつ減衰する。これによれば、
図18を参照しながら説明したドリフト量Drift(x)を補償するようにオフセット値Offset[n]が減衰するので、バースト発振中におけるレーザゲインの変化に比べて、電圧指令値HVcmd[n]の変化を緩やかにすることができる。これにより、安定したパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0109】
図21は、第2の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の第2の例を示すグラフである。
図21において算出されるオフセット値Offset[n]は、
図20において算出されるオフセット値Offset[n]と同じである。
図21と
図20の相違点は、レーザ装置1のレーザゲインの変化である。
図21においては、パルス番号iからパルス番号jまでの期間において、ほぼ一定量ずつレーザゲインが変化している。第2の実施形態における電圧指令値HVcmd[n]の変化は、レーザゲインが
図21に示されるように変化する場合には、レーザゲインが
図20に示されるように変化する場合よりもさらに緩やかになる。これにより、安定したパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0110】
また、第2の実施形態によれば、印加電圧値HV[n]のドリフト量Drift(x)に基づいてオフセット値Offset[n]の合計減衰量TDを算出している(
図17のS14a)。これによれば、ドリフト量Drift(x)を補償するようにオフセット値Offset[n]が減衰するので、電圧指令値HVcmd[n]の変化を緩やかにすることができる。
【0111】
また、第2の実施形態によれば、キャリブレーション発振時のドリフト量Drift(x)に基づいて合計減衰量TDを算出している(
図17のS14a)。これによれば、半導体ウエハを交換するごとに合計減衰量TDを更新し、最新のレーザ特性に適合した印加電圧値HV[n]を設定することができる。
【0112】
4.オフセット値の減衰量を変化させるレーザ装置
図22~
図23を用いて第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、オフセット値Offset[n]の減衰量が一定ではなく、バースト発振中に変化する点で第2の実施形態と異なる。第3の実施形態に係るレーザ装置1の構成は、
図5を参照しながら説明した第1の実施形態の構成と同様である。
【0113】
4.1 オフセット値を用いた制御(S29)
図22は、第3の実施形態におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。第3の実施形態におけるレーザ制御部30の処理は、オフセット値Offset[n]を用いた制御以外は、第2の実施形態の処理と同様である。
図22に示される処理は、
図11のS29のサブルーチンである。
【0114】
第3の実施形態においては、減衰量が異なる複数の減衰期間が設定される。複数の減衰期間は、第1の減衰期間と第2の減衰期間を含む。
(1)第1の減衰期間のパルス番号nは以下の範囲とする。
i≦n<g
ここでgはiより大きくj以下の整数である。
(2)第1の減衰期間と第2の減衰期間の間のパルス番号nは以下の範囲とする。
g≦n<h
ここでhはg以上j以下の整数である。
(3)第2の減衰期間のパルス番号nは以下の範囲とする。
h≦n<j
上述のg、h、及びjによって減衰期間が規定される。以下の説明では、g、h、及びjを減衰タイミングと称する。減衰タイミングg、h、及びjは、キャリブレーション発振において印加電圧値が変化するタイミングを検出することによって設定することができる。なお、第1の減衰期間と第2の減衰期間の間に減衰量が0となる期間が存在しない場合には、gはhと等しい値に設定される。第2の減衰期間が存在しない場合には、hはjと等しい値に設定される。第1の減衰期間の後に減衰量が0となる期間が存在せず、第2の減衰期間も存在しない場合には、g及びhはjと等しい値に設定される。
【0115】
S292bにおいて、レーザ制御部30は、パルス番号nの増加に伴って減衰するオフセット値Offset[n]を以下の式により算出する。
【0116】
(1)第1の減衰期間(i≦n<g)
Offset[n]=Dif-TDa×(i-n)/(g-i)
ここで、TDaは第1の減衰期間における合計減衰量である。合計減衰量TDaは、
図18を参照しながら説明したのと同様に、一定期間内におけるドリフト量Drift(x)に基づいて算出される。第1の減衰期間における1パルスあたりの減衰量Raは、合計減衰量TDaをg-iで除算して得られる。
Ra=TDa/(g-i)
【0117】
(2)第1の減衰期間と第2の減衰期間の間(g≦n<h)
Offset[n]=Dif+TDa
この期間における合計減衰量は0であり、1パルスあたりの減衰量Rmも0である。
【0118】
(3)第2の減衰期間(h≦n<j)
Offset[n]=Dif+TDa-TDb×(h-n)/(j-h)
ここで、TDbは第2の減衰期間における合計減衰量である。合計減衰量TDbは、
図18を参照しながら説明したのと同様に、一定期間内におけるドリフト量Drift(x)に基づいて算出される。第2の減衰期間における1パルスあたりの減衰量Rbは、合計減衰量TDbをj-hで除算して得られる。
Rb=TDb/(j-h)
【0119】
減衰量Ra、Rm、Rbの大小関係は以下のようになる。
Rm<Rb<Ra
Raは本開示における第1の値に相当し、Rmは本開示における第2の値に相当し、Rbは本開示における第3の値に相当する。
【0120】
S293以降の処理は、
図15を参照しながら説明した第1の実施形態において対応する処理と同様である。
【0121】
4.2 作用
図23は、第3の実施形態における印加電圧値HV[n]の推移の例を示すグラフである。
図22のS292bによって算出されるオフセット値Offset[n]は、第1の減衰期間(i≦n<g)及び第2の減衰期間(h≦n<j)においてそれぞれの減衰量で減衰する。このようにパルス番号nの増加に伴って減衰量を変化させることにより、レーザゲインの変化特性に合わせてオフセット値Offset[n]を減衰させることができる。従って、バースト発振中におけるレーザゲインの変化に比べて電圧指令値HVcmd[n]の変化をさらに緩やかにすることができる。これにより、安定したパルスエネルギーE[n]を得ることができる。
【0122】
5.繰返し周波数に基づいて印加電圧値を補正するレーザ装置
図24~
図27を用いて第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は、データテーブルを用いた制御において、パルスレーザ光の繰返し周波数Fに基づいて印加電圧値HV[n]を補正する点で第1~第3の実施形態と異なる。第4の実施形態に係るレーザ装置1の構成は、
図5を参照しながら説明した第1の実施形態の構成と同様である。
【0123】
5.1 印加電圧値HV[n]の設定(S2)
図24は、第4の実施形態における印加電圧値HV[n]の設定の処理を示すフローチャートである。第4の実施形態におけるメインルーチンは、
図8を参照しながら説明した第1の実施形態におけるメインルーチンと同様である。
図24に示される処理は、
図8のS2のサブルーチンである。
図24に示される処理は、データテーブルを用いた制御がS27とS28cとの2通りの処理を含む点で第1~第3の実施形態と異なる。他の点については
図11を参照しながら説明した処理と同様である。
【0124】
S24においてパルス番号nが1である場合には、S25を経て、S27によって印加電圧値HV[n]が設定される。S27の処理は
図11において対応する処理と同様である。
パルス番号nが1より大きくi未満である場合には、S26においてパルス番号nがi未満であると判定され(S26:YES)、S28cに移行する。S28cにおいては、印加電圧値HV[n]が算出されるとともに、印加電圧値HV[n]が繰返し周波数Fに基づいて補正される。S28cの後、レーザ制御部30は
図24に示されるフローチャートの処理を終了し、
図8に示される処理に戻る。
【0125】
図25は、印加電圧値HV[n]を一定値として、異なる繰返し周波数Fでそれぞれバースト発振を行った場合のパルスエネルギーE[n]の推移を示すグラフである。
図25には、バースト発振の開始直後のパルスエネルギーE[n]だけが示されている。レーザ装置1のレーザゲインは、繰返し周波数Fが高いほど減少しやすい場合がある。パルス番号nが1であるパルスのパルスエネルギーE[1]は繰返し周波数Fに依存しないが、パルス番号nが2以上であるパルスのパルスエネルギーE[n]は繰返し周波数Fに依存し得る。そこで、パルス番号nが1より大きくi未満である場合には、S28cにおいて、印加電圧値HV[n]が補正される。
【0126】
5.2 データテーブルを用いた制御(S28c)
図26は、第4の実施形態におけるデータテーブルを用いた制御のうちのパルス番号nが1より大きくi未満である場合の制御を示すフローチャートである。
図26に示される処理は、
図24のS28cのサブルーチンである。
S271において印加電圧値HV[n]を設定する処理は、
図13を参照しながら説明した対応する処理と同様である。
【0127】
S272cにおいて、レーザ制御部30は、繰返し周波数Fに基づいて補正された印加電圧値HVa[n]を以下の式により設定する。
HVa[n]=HV[n]×(1+coef×(F-Fstd)/Fstd)
ここで、Fstdは基準周波数であり、例えば4kHzである。記憶部31に記憶されたデータテーブルの電圧値HVtbl[p,n]は、基準周波数Fstdでのバースト発振においてパルスエネルギーE[n]が所定の値Estdとなるような値に設定されている。また、coefは、繰返し周波数Fと基準周波数Fstdとの差分を基準周波数Fstdで除算して得られた値(F-Fstd)/Fstdに乗算される重みづけ係数である。
【0128】
繰返し周波数Fが露光装置制御部110からレーザ制御部30に通知された場合には、その繰返し周波数Fを用いて上述の補正が行われる。繰返し周波数Fが露光装置制御部110から通知されない場合には、トリガ信号Tr[1]とトリガ信号Tr[2]との時間差に基づいて繰返し周波数Fを算出して上述の補正が行われる。
【0129】
図27は、パルスエネルギーE[n]を一定値に維持するように印加電圧値HV[n]を補正した場合の印加電圧値HVa[n]の推移を示すグラフである。
図27には、バースト発振の開始直後の印加電圧値HVa[n]だけが示されている。レーザ装置1のレーザゲインは、繰返し周波数Fが3kHzである場合には、繰返し周波数Fが4kHzである場合よりも減少しにくい。従って、繰返し周波数Fが3kHzである場合には、繰返し周波数Fが4kHzである場合よりも、パルス番号nが2以上である場合の印加電圧値HVa[n]が低くなるように補正する。これにより、パルスエネルギーE[n]を所望の値に近づけることができる。
【0130】
図26を再び参照し、S274~S276の処理は、
図13を参照しながら説明した対応する処理と同様である。
【0131】
S277cにおいて、レーザ制御部30は、パルスエネルギーE[n]と目標パルスエネルギーEtとの差に基づいてデータテーブルの電圧値HVtbl[p,n]を更新する。データテーブルの電圧値HVtbl[p,n]は、繰返し周波数Fに基づく補正を考慮して、以下の式により算出される。
HVtbl[p,n]
=(HVa[n]+(Et-E[n])×GainCont/GainHV)/(1+coef×(F-Fstd)/Fstd)-(Et-Estd)/GainHV
S278~S279の処理は、
図13を参照しながら説明した対応する処理と同様である。
他の点については、第4の実施形態の動作は第1~第3の実施形態と同様である。
【0132】
5.3 作用
第4の実施形態によれば、繰返し周波数Fに応じて別個にデータテーブルの電圧値HVtbl[p,n]を記憶していなくても、繰返し周波数Fに応じて適切な印加電圧値HVa[n]を設定することができる。
【0133】
6.繰返し周波数に基づいて合計減衰量及び減衰タイミングを補正するレーザ装置
図28~
図31を用いて第5の実施形態について説明する。第5の実施形態は、オフセット値Offset[n]を用いた制御において、パルスレーザ光の繰返し周波数Fに基づいてオフセット値Offset[n]の合計減衰量TD及び減衰タイミングjを補正する点で第1~第4の実施形態と異なる。第5の実施形態に係るレーザ装置1の構成は、
図5を参照しながら説明した第1の実施形態の構成と同様である。また、第5の実施形態におけるメインルーチンは、
図8を参照しながら説明した第1の実施形態におけるメインルーチンと同様である。但し、第5の実施形態においては、合計減衰量TDを算出する処理が行われる。合計減衰量TDを算出する処理については
図17の処理と同様であるので説明を省略する。
【0134】
6.1 第1の例
図28は、第5の実施形態の第1の例におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。第1の例において印加電圧値HV[n]を設定する処理は、オフセット値Offset[n]を用いた制御以外は、第1~第4の実施形態の処理と同様である。
図28に示される処理は、
図11のS29のサブルーチンである。あるいは、
図28に示される処理は、
図24のS29のサブルーチンである。
【0135】
S291dにおいて、レーザ制御部30は、オフセット値Offset[n]の合計減衰量TD及び減衰タイミングjを以下の式により補正し、補正された合計減衰量TDm及び減衰タイミングjmを算出する。
TDm=TD×F/Fstd
jm=j×F/Fstd
繰返し周波数Fに基づく補正は、係数を用いた重みづけを伴ってもよい。
【0136】
図29は、第1の例において合計減衰量TD及び減衰タイミングjを補正する処理を説明するグラフである。
図29において、バースト発振中のレーザゲインの変化は、
図21におけるレーザゲインの変化と同様でもよい。合計減衰量TD及び減衰タイミングjは、繰返し周波数Fが4kHzである場合のレーザゲインの変化に適合するように設定されている。減衰タイミングjは、キャリブレーション発振において印加電圧値HV[n]が変化するタイミングを検出することによって設定することができる。合計減衰量TDは、キャリブレーション発振における印加電圧値HV[n]のドリフト量Drift(x)に基づいて算出することができる。
【0137】
繰返し周波数Fが3kHz又は2kHzである場合には、補正された合計減衰量TDm及び減衰タイミングjmが上述の式に従って計算される。具体的には以下のようになる。
TD1=TD×3/4
j1=j×3/4
TD2=TD×2/4
j2=j×2/4
TD1及びj1は、それぞれ、繰返し周波数Fが3kHzである場合の補正された合計減衰量及び減衰タイミングである。TD2及びj2は、それぞれ、繰返し周波数Fが2kHzである場合の補正された合計減衰量及び減衰タイミングである。
以上のように計算することにより、レーザ装置1の特性に応じた適切なオフセット値Offset[n]を算出することができる。
【0138】
図28を再び参照し、S292d及びS293dの処理は、それぞれ
図19のS292a及びS293の処理と同様である。但し、補正に伴って幾つかの変数が置き換えられている。
S294及びS295の処理は、それぞれ
図19のS294及びS295の処理と同様である。
【0139】
6.2 第2の例
図30は、第5の実施形態の第2の例におけるオフセット値Offset[n]を用いた制御を示すフローチャートである。第2の例において印加電圧値HV[n]を設定する処理は、オフセット値Offset[n]を用いた制御以外は、第1~第4の実施形態の処理と同様である。
図30に示される処理は、
図11のS29のサブルーチンである。あるいは、
図30に示される処理は、
図24のS29のサブルーチンである。
【0140】
S291eにおいて、レーザ制御部30は、オフセット値Offset[n]の合計減衰量TDa、TDb及び減衰タイミングg、h、jを以下の式により補正し、補正された合計減衰量TDam、TDbm及び減衰タイミングgm、hm、jmを算出する。
TDam=TDa×F/Fstd
TDbm=TDb×F/Fstd
gm=g×F/Fstd
hm=h×F/Fstd
jm=j×F/Fstd
繰返し周波数Fに基づく補正は、係数を用いた重みづけを伴ってもよい。
【0141】
図31は、第2の例において合計減衰量TDa、TDb及び減衰タイミングg、h、jを補正する処理を説明するグラフである。
図31において、バースト発振中のレーザゲインの変化は、
図23におけるレーザゲインの変化と同様でもよい。合計減衰量TDa、TDb及び減衰タイミングg、h、jは、繰返し周波数Fが4kHzである場合のレーザゲインの変化に適合するように設定されている。減衰タイミングg、h、jは、キャリブレーション発振において印加電圧値HV[n]が変化するタイミングを検出することによって設定することができる。合計減衰量TDa、TDbは、キャリブレーション発振における印加電圧値HV[n]のドリフト量Drift(x)に基づいて算出することができる。
【0142】
繰返し周波数Fが3kHz又は2kHzである場合には、補正された合計減衰量TDam、TDbm及び減衰タイミングgm、hm、jmが上述の式に従って計算される。具体的には以下のようになる。
TDa1=TDa×3/4
TDb1=TDb×3/4
g1=g×3/4
h1=h×3/4
j1=j×3/4
TDa2=TDa×2/4
TDb2=TDb×2/4
g2=g×2/4
h2=h×2/4
j2=j×2/4
TDa1及びTDb1は、繰返し周波数Fが3kHzである場合の補正された合計減衰量である。また、g1、h1、及びj1は、繰返し周波数Fが3kHzである場合の補正された減衰タイミングである。
TDa2及びTDb2は、繰返し周波数Fが2kHzである場合の補正された合計減衰量である。また、g2、h2、及びj2は、繰返し周波数Fが2kHzである場合の補正された減衰タイミングである。
以上のように計算することにより、レーザ装置1の特性に応じた適切なオフセット値Offset[n]を算出することができる。
【0143】
図30を再び参照し、S292e及びS293eの処理は、それぞれ
図22のS292b及びS293の処理と同様である。但し、補正に伴って幾つかの変数が置き換えられている。
S294及びS295の処理は、それぞれ
図22のS294及びS295の処理と同様である。
他の点については、第5の実施形態の動作は第1~第4の実施形態と同様である。
【0144】
6.3 作用
第5の実施形態によれば、繰返し周波数Fに応じて別個に合計減衰量TD及び減衰タイミングjを記憶していなくても、繰返し周波数Fに応じて適切な印加電圧値HVa[n]を設定することができる。
【0145】
7.その他
図32は、レーザ装置1に接続された露光装置100の構成を概略的に示す。レーザ装置1はパルスレーザ光を生成して露光装置100に出力する。
図32において、露光装置100は、照明光学系40と投影光学系41とを含む。照明光学系40は、レーザ装置1から入射したパルスレーザ光によって、レチクルステージRT上に配置された図示しないレチクルのレチクルパターンを照明する。投影光学系41は、レチクルを透過したパルスレーザ光を、縮小投影してワークピーステーブルWT上に配置された図示しないワークピースに結像させる。ワークピースはフォトレジストが塗布された半導体ウエハ等の感光基板である。露光装置100は、レチクルステージRTとワークピーステーブルWTとを同期して平行移動させることにより、レチクルパターンを反映したパルスレーザ光をワークピースに露光する。以上のような露光工程によって半導体ウエハにレチクルパターンを転写後、複数の工程を経ることで半導体デバイスを製造することができる。
【0146】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。従って、特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかである。また、本開示の実施形態を組み合わせて使用することも当業者には明らかである。
【0147】
本明細書及び特許請求の範囲全体で使用される用語は、明記が無い限り「限定的でない」用語と解釈されるべきである。たとえば、「含む」、「有する」、「備える」、「具備する」などの用語は、「記載されたもの以外の構成要素の存在を除外しない」と解釈されるべきである。また、修飾語「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。