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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】希土類磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20240111BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240111BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240111BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240111BHJP
   H01F 41/02 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
B22F1/16 100
B22F1/00 Y
H01F1/059 160
C22C38/00 303D
H01F41/02 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019169501
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2020056101
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018180241
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前原 永
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-111306(JP,A)
【文献】特開2000-309802(JP,A)
【文献】特開2004-172381(JP,A)
【文献】特開2005-109421(JP,A)
【文献】特開2000-178020(JP,A)
【文献】特開2017-043804(JP,A)
【文献】特開2006-169618(JP,A)
【文献】特開2009-246294(JP,A)
【文献】特開2017-117937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 38/00-38/60
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)得られたアルキルシリケートの混合液と希土類磁性粉末を混合する工程、および、
(3)得られた希土類磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程
を含む希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸性溶液のpHが、3~4である請求項1に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
工程(1)で前記酸性溶液とともに、アルコールを混合する請求項1に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
さらに、工程(2)の前に、希土類磁性粉末をリン酸処理する工程を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
さらに、工程(3)の後に、シランカップリング剤で処理する工程を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
工程(3)で前記アルカリ溶液とともに、または、工程(3)の前記アルカリ溶液の添加後に、タングステン酸塩またはバナジン酸塩を添加する工程を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記希土類磁性粉末が、Sm-Fe-N系磁性粉末である請求項1~6のいずれか1項に記載の希土類磁性粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類ボンド磁石に使用される希土類磁石は酸化されやすいため、希土類磁石の表面にシリカ薄膜を形成して耐酸化性を向上させる方法が知られている。たとえば、特許文献1では、希土類磁性粉末とアルキルシリケートの混合物を、塩基性条件下で加水分解・縮合する方法が提案されている。特許文献1には、酸性条件で加水分解・縮合すると、残留磁化および保持力が十分ではなかったことが示されている。
【0003】
ところで、使用環境の厳しい条件下での使用にも耐えるように、耐酸化性の優れた希土類ボンド磁石が求められてきている。耐酸化性の向上のためには、シリカ被膜の緻密性を向上させることが考えられるが、塩基性条件下もしくは酸性条件下で加水分解する場合、緻密性を向上させることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-309802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シリカ被膜の緻密性を高くすることにより、残留磁化と保持力を維持することができる希土類磁性粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、SmFeN磁性粉末におけるシリカ薄膜の緻密性を高くするために、加水分解縮合条件について種々検討したところ、アルキルシリケートを酸性条件下で加水分解し、塩基性条件下で脱水縮合させると、磁気特性を損なうことなく、希土類磁性粉末表面に緻密性の高いシリカ薄膜を形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)得られたアルキルシリケートの混合液と希土類磁性粉末を混合する工程、および、
(3)得られた希土類磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程
を含む希土類磁性粉末の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の希土類磁性粉末の製造方法では、酸性条件でアルキルシリケートを加水分解した後に、希土類磁性粉末の存在下、塩基性条件で脱水縮合を行うため、希土類磁性粉末表面に緻密性の高いシリカ薄膜を形成でき、磁気特性に優れた希土類磁性粉末を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
本実施形態の希土類磁性粉末の製造方法は、
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)得られたアルキルシリケートの混合液と希土類磁性粉末を混合する工程、および、
(3)得られた希土類磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程
を含むことを特徴とする。
【0011】
[工程(1)]
工程(1)は、アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程である。酸性条件でアルキルシリケートの加水分解を行うため、アルキルシリケートの加水分解が十分に進行する。ここで、酸性条件とは酸性であればよいが、pHは2以上6以下が好ましく、2.5以上5.0以下がより好ましい。pHが2未満では磁性粉末が溶解するため磁気特性や耐酸化性が低下することとなり、pHが6を超えると、アルキルシリケートの加水分解が十分に進行しない傾向がある。
【0012】
アルキルシリケートは、一般式:
Si(n-1)(OR)(2n+2)
(Rはアルキル基、nは1~10の整数である。)
で示されるケイ酸エステルである。ここで、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。具体的なアルキルシリケートとしては、コストが安価なこと、また、毒性がなく取り扱いが簡単なことから、エチルシリケートが好ましい。また、nの値はアルキルシリケートの分子量に関係し、n=1以上10以下が好ましい。nが10よりも大きくなると、緻密なシリカ薄膜は得られにくくなる。
【0013】
酸性溶液とは、アルキルシリケートの加水分解を促進させる酸触媒としての機能を有する溶液であって、酸を溶媒に溶解させた溶液である。酸としては、例えば、酢酸、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が挙げられ、これらの中でも酢酸、塩酸、リン酸が好ましく、中でも乾燥時に除去しやすい点から酢酸が特に好ましい。溶媒としては、例えば、水、エタノール等が挙げられ、これらの中でも水が好ましい。酸性溶液のpHは酸性であればよいが、3以上4以下が好ましい。pHが3未満では工程(2)において希土類磁性粉末と混合する際に希土類磁性粉末の磁気特性を劣化させる傾向があり、4を超えるとアルキルシリケートの加水分解が十分に進行しない傾向がある。酸性溶液の量は、アルキルシリケート100重量部に対して、5重量部以上100重量部以下であればよく、10重量部以上80重量部以下が好ましい。5重量部未満では加水分解が不十分となり、100重量部を超えると、磁性粉末との混合性が悪くなる傾向がある。
【0014】
酸性溶液とともに、アルコールを混合する。アルコールを混合することで、アルキルシリケート、酸性溶液による加水分解が進行する。また、工程(2)で使用する希土類磁性粉末との相溶性を高めることができる。アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。アルコールの添加量は、アルキルシリケート100重量部に対して、30重量部以上200重量部以下の範囲であればよく、40重量部以上80重量部以下が好ましく、50重量部以上60重量部以下がより好ましい。30重量部未満では加水分解が不十分となり、200重量部を超えると、磁性粉末との混合性が悪くなる傾向がある。
加水分解が概ね終了したことの目安として、アルキルシリケートと酸性溶液、アルコールを混合した際に、白濁から透明に変化することが挙げられる。
【0015】
加水分解に添加するアルコールは、アルキルシリケートの加水分解に必要とされる理論量の0.1倍以上3倍以下であることが好ましく、0.5倍量以上2倍量以下がより好ましく、理論量の添加が最も好ましい。0.1倍未満では加水分解が緻密なシリカ薄膜が得られず、3倍を超えると希土類系の磁性粉末は酸化してしまう傾向がある。
【0016】
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で得られたアルキルシリケートの混合液と希土類磁性粉末を混合する工程である。
【0017】
磁性粉末表面へのアルキルシリケートの被覆は、高速せん断式のミキサ中にて乾式で行うことが好ましい。この被覆はアルキルシリケートの濡れ性だけに依存するのではなく、ミキサのせん断力を利用し、磁性粉末を強力に撹拌分散させつつ、磁性粉末粒子表面に均一にシリカゾルを塗りつける。この段階でシリカゾルをできるだけ均一にしかも一様に分散させることが後のシリカ膜の耐酸化性能に大きく影響する。
【0018】
希土類磁性粉末としては、Sm-Fe-N系、Nd-Fe-B系、Sm-Co系の希土類磁性粉末が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れている点と、希少金属を含有しない点より、Sm-Fe-N系が好ましい。Sm-Fe-N系磁性粉末としては、ThZn17型の結晶構造をもち、一般式がSmFe100-x-yで表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物が好ましい。ここで、xは、8.1原子%以上10原子%以下、yは13.5原子%以上13.9原子%以下、残部が主としてFeとされることが好ましい。
【0019】
Sm-Fe-N系磁性粉末については、特開平11-189811号公報に開示された方法により製造できる。Nd-Fe-B系磁性粉末については、国際公開2003/85147号公報に開示されたHDDR法により製造できる。Sm-Co系磁性粉末については、特開平08-260083号公報に開示された方法により製造できる。
【0020】
アルキルシリケートの混合量は、希土類磁性粉末100重量部に対して、1重量部以上4重量部以下が好ましく、1.5重量部以上2.5重量部以下がより好ましい。アルキルシリケートの混合量は、希土類磁性粉末100重量部に対して、1重量部未満では、アルキルシリケートが不足し磁性粉末を十分に被覆できない状態となる。また、アルキルシリケートの混合量は、希土類磁性粉末100重量部に対して、4重量部を超えると、脱水縮合の際にシリカが凝集し磁気特性が低下する傾向がある。
【0021】
[工程(3)]
工程(3)は、工程(2)で得られた希土類磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程である。工程(3)では、塩基性条件でアルキルシリケートの加水分解物を脱水縮合させるため、脱水縮合反応が十分に進行する。工程(3)の終了時には、表面にシリカ薄膜が形成された希土類磁性粉末が得られる。ここで、塩基性条件とは塩基性であればよいが、pHは9以上13以下が好ましく、10以上13以下がより好ましい。pHが9未満では、脱水縮合が十分に進行しない傾向があり、13を超えると、希土類磁性粉末の磁気特性を劣化させる傾向がある。
【0022】
アルカリ溶液とは、アルキルシリケートの加水分解物の脱水縮合を促進させる塩基性触媒としての機能を有する溶液であって、アルカリ成分を溶媒に溶解させた溶液である。アルカリ成分としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、該水酸化物以外の金属水酸化物等が挙げられる。これらのうち、加熱により揮発しやすい点で、アンモニアが特に好ましい。溶媒としては、例えば、水、エタノール等が挙げられ、このうち水が好ましい。アルカリ溶液のpHは塩基性であればよいが、9以上が好ましい。pHが9未満では加水分解が不十分となる傾向がある。
【0023】
工程(3)では、希土類磁性粉末の粒子表面に三次元網目構造をもつシリカ薄膜が形成される。工程(3)の後に、残留するSiOHに重縮合反応させ安定化し、より強固なシリカ薄膜を形成するために、加熱してもよい。加熱温度は特に限定されないが、60℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上250℃以下が好ましい。
【0024】
このようにして得られたシリカ薄膜は、0.001μm以上0.5μm以下の範囲の厚みで被覆されると、磁気性能を損なわず耐酸化性を向上することができる。シリカ薄膜の膜厚は0.001μm以上0.2μm以下がより好ましい。ここで、シリカ薄膜の膜厚は、粒子断面のTEM写真によって測定することができる。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られた希土類磁性粉末において、シリカの含有量は0.1重量%以上0.5重量%以下が好ましく、0.2重量%以上0.35重量%以下が好ましい。0.1重量%未満では、希土類磁性粉末にシリカを十分に被覆できていないおそれがあり、一方で0.5重量%を超えると、シリカが凝集し磁気特性が低下している傾向がある。ここで、Siの含有量は、ICP-AES法によって測定することができる。
【0026】
また、本発明の製造方法により得られた希土類磁性粉末において、全カーボン量(TC)は1500ppm以下が好ましく、1000ppm以下が好ましい。1500ppmを超えると、未反応のアルキルシリケートが残留し凝集することで磁気特性が低下する傾向がある。ここで、全カーボン量は、TOC法によって測定することができる。
【0027】
本発明の製造方法により得られた希土類磁性粉末は、従来の方法により得られた粉末と比較して、磁気特性、特に、高い残留磁化と保磁率を維持したうえで、耐酸化性に優れたものとなる。
【0028】
[リン酸処理工程]
本発明では、工程(2)の前に、希土類磁性粉末をリン酸処理する工程を含んでいてもよい。希土類磁性粉末をリン酸処理することで、希土類磁性粉末の表面にP-O結合を有する不動態膜が形成される。
【0029】
リン酸処理工程では、リン酸処理薬と希土類磁性粉末を反応させる。リン酸処理薬としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等のリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸、ポリリン酸系等の無機リン酸、有機リン酸が挙げられる。これらのリン酸源を基本的には水中、またはIPNなどの有機溶媒中に溶解させ、必要に応じて硝酸イオン等の反応促進剤、Vイオン、Crイオン、Moイオン等の結晶微細化剤を添加したリン酸浴中に磁性粉を投入し、希土類磁性粉末の表面にP-O結合を有する不動態膜を形成させる。
【0030】
[タングステン酸塩またはバナジン酸塩の添加工程]
本発明では、工程(3)でアルカリ溶液とともに、または、工程(3)のアルカリ溶液の添加後に、タングステン酸塩またはバナジン酸塩を添加する工程を含んでいてもよい。タングステン酸塩またはバナジン酸塩を添加することで、アルキルシリケートの加水分解縮合物であるシリカの凝集を防止し、残留磁化を向上させることができる。アルカリ溶液を添加する工程(3)の前に添加すると、シリカが凝集する傾向にある。
【0031】
タングステン酸塩またはバナジン酸塩のカチオンは特に限定されず、例えば、アンモニウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。なかでも、工程中に揮発し材料に残留しない点で、アンモニウムが好ましい。
【0032】
タングステン酸塩またはバナジン酸塩の添加量は、希土類磁性粉末100重量部に対して、タングステンまたはバナジンとして0.01重量部以上0.5重量部以下となる添加量が好ましく、0.05重量部以上0.3重量部以下となる添加量がより好ましい。0.01重量部未満では、添加量が少ないため錯体を形成することによる粉末の凝集を防ぐ効果が小さく、0.5重量部を超えると、磁気特性が低下する傾向がある。
【0033】
タングステン酸塩またはバナジン酸塩は、固体状態で添加しても良いが、均一に混合させるために水溶液の状態で添加することが好ましい。
【0034】
[シランカップリング処理工程]
本発明では、工程(3)の後に、シランカップリング剤で処理する工程を含んでいてもよい。シリカ薄膜が形成された希土類磁性粉末をシランカップリング処理することで、シリカ薄膜上にカップリング剤膜が形成され、希土類磁性粉末の磁気特性が向上するとともに、樹脂との濡れ性、磁石の強度を改善することができる。シランカップリング剤は、樹脂の種類に合わせて選定すればよく特に限定されないが、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチレンジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、オレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、ポリエトキシメチルシロキサン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、t-ブチルカルバメートトリアルコキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。シランカップリング剤の添加量は、希土類磁性粉末100重量部に対して、0.2重量部以上0.4重量部以下が好ましく、0.25重量部以上0.35重量部以下がより好ましい。0.2重量部未満ではシランカップリング剤の効果が小さく、0.4重量部を超えると、希土類磁性粉末の凝集により、希土類磁性粉末、希土類磁石の磁気特性を低下させる傾向がある。
【0035】
本発明の方法で得られた希土類磁性粉末を、樹脂と混合することにより、ボンド磁石用組成物を得ることができる。
【0036】
ボンド磁石に使用する樹脂は特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリアミドが好ましく、比較的低融点で、吸水率が低く、結晶性樹脂であるため成形性が良いという点から、12ナイロンが好ましい。また、これらを適宜混合して使用することも可能である。
【実施例
【0037】
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0038】
製造例1(希土類磁性粉末のリン酸化処理)
処理槽中で、平均粒径3μmのSmFe17系磁性粉末100重量部を、1重量%の希塩酸中で1分間攪拌した後、上澄み液を排水し、室温の水溶媒を注水した。続いて、SmFe17系磁性粉末100重量部に対して、重量比でオルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム=1:35に濃度調整したリン酸処理液5重量部を処理槽中に添加した。リン酸処理液の濃度はpH3.5、リン酸イオンとして20重量%であった。次に、10分間攪拌した後に吸引濾過および真空乾燥し、表面に約10nmの微細なリン酸塩皮膜が形成された磁性粉末を得た。
【0039】
実施例1~24
ミキサに、エチルシリケート(Si(OR)12)2.8g、酸性溶液、エタノールをそれぞれ表1に示す酸溶液の種類、pHおよび配合量で添加し、窒素雰囲気下で1分間混合した。得られたエチルシリケートの混合液に製造例1で得られた磁性粉末を150g添加し、さらに1分間混合した。得られた磁性粉末の混合物に、表1に示す配合量のpH12のアンモニア水(濃度10%)を添加し、1分間混合した。ミキサから混合物を取り出し、減圧下180℃で30分間加熱処理し、表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末を得た。
【0040】
得られたSmFe17系磁性粉末300gに、シランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)1.2g、pH11.7のアンモニア水(アンモニア含量10重量%)0.6gとエタノール3.6gの混合溶液を添加して、窒素雰囲気下で、1分間混合した。混合物を取り出し、減圧下、90℃で30分間加熱処理し、シリカ膜上にカップリング剤膜が形成された磁性粉末を得た。
【0041】
比較例1
ミキサに、製造例1で得られた磁性粉末1590g、エチルシリケート(Si(OR)12)2.8gを添加し、窒素雰囲気下で1分間混合した。得られた磁性粉末の混合物に、表1に示す配合量のpH12のアンモニア水を添加し1分間混合した。ミキサから磁性粉末のみを取り出し、減圧下180℃で30分間加熱処理し、表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末を得たのち、続いて実施例1と同じ処理を行い、シリカ膜上にカップリング剤膜が形成された磁性粉末を得た。
【0042】
下記の方法により、表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末については、Si含有量(Si)、全カーボン量(TC)を測定し、カップリング剤膜が形成された磁性粉末については、残留磁化(σr)、保磁力(iHc)、角形比(Hk)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0043】
<Si含有量>
表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末を表面溶解後、ICP-AES法によってSi含有量を測定した。
【0044】
<全カーボン量(TC)>
表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末を、TOC法により全カーボン量(TC)を測定した。
【0045】
<残留磁化、保持力、角形比>
磁性粉末を、パラフィンワックスと共に試料容器に詰め、ドライヤーにてパラフィンワックスを溶融させた後、16kA/mの配向磁場にてその磁化容易軸を揃えた。この磁場配向した試料を32kA/mの着磁磁場でパルス着磁し、最大磁場16kA/mのVSM(振動試料型磁力計)を用いて、残留磁化(σr)、保持力(iHc)、角形比(Hk)を測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
比較例1ではアルキルシリケートの加水分解および脱水縮合を塩基性条件で行ったため、Si含有量が0.10%にとどまり、残留磁化(σr)も低かった。これに対し、実施例1~24ではアルキルシリケートの加水分解を酸性条件で行い、脱水縮合を塩基性条件で行ったため、Si含有量は大幅に増大し、磁気特性の低下は見られなかった。
【0048】
実施例25
ミキサに、エチルシリケート(Si(OR)12)2.8g、酸性溶液、エタノールをそれぞれ表2に示す酸溶液の種類、pHおよび配合量で添加し、窒素雰囲気下で1分間混合した。得られたエチルシリケートの混合液に製造例1で得られた磁性粉末を150g添加し、さらに1分間混合した。得られた磁性粉末の混合物に、表2に示す配合量のpH12のアンモニア水(アンモニア含量10%)とともに、タングステン酸アンモニウム水溶液(タングステン含量16%)のを添加し、1分間混合した。ミキサから混合物を取り出し、減圧下180℃で30分間加熱処理し、表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末を得た。
【0049】
得られたSmFe17系磁性粉末300gに、シランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)1.2g、pH11.7のアンモニア水(アンモニア含量10重量%)0.6gとエタノール3.6gの混合溶液を添加して、窒素雰囲気下で、1分間混合した。混合物を取り出し、減圧下、90℃で30分間加熱処理し、シリカ膜上にカップリング剤膜が形成された磁性粉末を得た。
【0050】
前述の方法により、表面にシリカ薄膜が形成されたSmFe17系磁性粉末については、Si含有量(Si)、全カーボン量(TC)を測定し、カップリング剤膜が形成された磁性粉末については、残留磁化(σr)、保磁力(iHc)、角形比(Hk)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例25において、タングステン酸アンモニウムをアルカリ溶液とともに添加することにより残留磁化が高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法で得られた希土類磁性粉末は従来に比べて優れた磁気特性を有することから、ボンド磁石等の用途に好適に適用することができる。