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特許7417225マイクロ波処理装置及びマイクロ波処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】マイクロ波処理装置及びマイクロ波処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/72 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
H05B6/72 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020058836
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158023
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
(72)【発明者】
【氏名】宮川 正人
(72)【発明者】
【氏名】金岡 佳充
(72)【発明者】
【氏名】毛利 安希
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-134779(JP,A)
【文献】特開2014-182930(JP,A)
【文献】特開2010-207735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00-6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波発生器と、シングルモードの定在波を形成する共振器と、該共振器内に少なくとも一部が共振器軸方向に移動可能に配された管とを有するマイクロ波処理装置であって、
前記共振器内に配された管の外面が前記共振器の共振器軸に対して平行な面で構成され、前記共振器内に配された管の内壁面が連続的に先細り形状を成す、
マイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記管は、前記共振器内の電界強度もしくは磁界強度が極大かつ均一になる前記共振器軸に沿って該共振器軸方向に移動可能に配される、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記共振器内に形成される定在波の共振周波数を検出する検出部と、
前記検出部にて検出した共振周波数に基づいて前記共振器軸に沿う前記管の挿入位置を調整する制御部と、
前記制御部により決定された管の挿入位置に基づいて前記共振器軸に沿って前記管を移動させる駆動部と、を有する請求項1又は2に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項4】
共振器のマイクロ波照射空間内の電界強度もしくは磁界強度が極大かつ均一になる共振器軸方向に管の軸方向を合わせて該管を配し、該管内に配した被処理対象物にシングルモードの定在波を照射するマイクロ波処理方法であって、
前記共振器内に配された管は、その外面が前記共振器軸に対して平行な面で構成され、前記共振器内に配された管の内壁面が連続的に先細り形状を成し、該管を前記共振器軸方向に移動させて前記共振器の共振周波数を調整するマイクロ波処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波処理装置及びマイクロ波処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内にマイクロ波を照射することによって形成したシングルモードの定在波によって、共振器内の被処理対象物を効率的に加熱することができる。
例えば、特許文献1には、空胴共振器を用いたマイクロ波加熱装置が記載されている。この技術では、円筒型の空胴共振器の中心軸に平行な軸対象マイクロ波電界を該空胴共振器内に発生させ、電界強度が集中する部分に配した円管内で被処理対象物を加熱し、化学反応を進行させる。
また特許文献2には、空胴共振器内に形成されるシングルモード定在波の電界強度が極大となる部分に沿って流通管を配し、流通管内に流体を流通させることにより当該流体を迅速かつ均一に加熱する流通型のマイクロ波利用化学反応装置が記載されている。
【0003】
共振器内にシングルモード定在波を形成するための共振周波数は、共振器内に配した被処理対象物の状態変化によっても変動する。そこで、シングルモード定在波による被処理対象物の加熱中に共振器内の共振周波数を測定し、この共振周波数の変動に応じて、照射するマイクロ波の周波数を制御することにより、連続的な、安定的な加熱処理が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-322582号公報
【文献】特開2010-207735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、共振器内の定在波の共振周波数は、共振器内に配した被処理対象物の状態変化によっても変動する。一方、工業的にはISM(工業・科学・医療用/Industrial,Scientific and Medical)バンドとよばれる特定の周波数範囲を超えるマイクロ波発生装置を組み入れた場合、電波法に則った許認可が必要となる。そのため、多くのマイクロ波処理装置はISMバンド内での運用が望まれている。すなわち、マイクロ波発生装置の周波数範囲が限定されることから、この限られた周波数範囲内へと共振器内の共振周波数を制御する必要がある。しかし、この共振周波数の周波数域の制御は、共振器の内部構造を変える必要があり、被処理対象物の配置、共振器の追加工(寸法調整等)が必要になるなど、実用上の課題となっていた。
【0006】
また、例えば、被処理対象物を触媒とし、この触媒を共振器内に配し、そこに流体を送り込みながらマイクロ波の定在波により加熱して化学反応させる場合、触媒自体は製品評価基準値内にあるものでも一定のばらつきがあり、共振器内に触媒を配したときのマイクロ波に対する応答性が異なることがある。つまり、製品評価基準値を満たすある触媒を用いた場合の共振周波数と、当該製品評価基準値を満たす別の触媒を用いた場合の共振周波数とが異なる場合がある。その場合、共振器の共振周波数を調整するために、触媒製品一つ一つについて、共振器内への触媒の詰め直しやマイクロ波照射空間への追加工(寸法調整)を行うのは非効率であり、生産性に劣る。
【0007】
本発明は、共振器内に形成されたシングルモード定在波の共振周波数の変動を、ISMバンドの周波数帯へと簡便に制御することを可能とするマイクロ波処理装置及びマイクロ波処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
[1]
マイクロ波発生器と、シングルモードの定在波を形成する共振器と、該共振器内に少なくとも一部が配された管とを有するマイクロ波処理装置であって、
前記管の外周面が前記共振器の共振器軸に対して平行な面で構成され、該管の管壁の厚さが該共振器軸方向に異なる部分を有する、
マイクロ波処理装置。
[2]
前記管の内壁面がテーパ及び/又は段差を有する、[1]に記載のマイクロ波処理装置。
[3]
前記管は、前記共振器内の電界強度もしくは磁界強度が極大かつ均一になる前記共振器軸に沿って該共振器軸方向に移動可能に配される、[1]又は[2]に記載のマイクロ波処理装置。
[4]
前記管は、多重管構造を有し、
前記管のうち最外周の管を除く他の管の少なくとも1層の管が前記共振器軸方向に移動可能である、[1]~[3]いずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[5]
前記共振器内に形成される定在波の共振周波数を検出する検出部と、
前記検出部にて検出した共振周波数に基づいて前記共振器軸に沿う前記管の挿入位置を決定する制御部と、
前記制御部により決定された管の挿入位置に基づいて前記共振器軸に沿って前記管を移動させる駆動部と、を有する[1]~[4]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[6]
共振器のマイクロ波照射空間内の電界強度もしくは磁界強度が極大かつ均一になる共振器軸方向に管の軸方向を合わせて該管を配し、該管内に配した被処理対象物にシングルモードの定在波を照射するマイクロ波処理方法であって、
前記管は、その外周面が前記共振器軸に対して平行な面で構成され、該管の管壁の厚さが前記共振器軸方向に異なる部分を有し、該管を前記共振器軸方向に移動させて前記共振器の共振周波数を調整するマイクロ波処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロ波処理装置によれば、共振器内に形成されたシングルモード定在波の共振周波数の変動を、ISMバンドの周波数帯へと簡便に制御することが可能になる。また、マイクロ波処理方法によれば、共振器軸方向に管を移動させることによって、共振器内に形成されたシングルモード定在波の共振周波数の変動を、ISMバンドの周波数帯へと簡便に制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のマイクロ波処理装置の好ましい一実施形態を模式的に示した断面図である。
図2】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましい一例を示した断面図である。
図3】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましい一例を示した断面図であり、(A)は管を下降した状態の断面図であり、(B)は管を上昇した状態の断面図である。
図4】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましい別の一例を示した断面図である。
図5】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましい別の一例を示した断面図であり、(A)は管を下降した状態の断面図であり、(B)は管を上昇した状態の断面図である。
図6】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましいさらに別の一例を示した断面図である。
図7】本発明のマイクロ波処理装置に用いる管の好ましいさらに別の一例を示した断面図であり、(A)は管を下降した状態の断面図であり、(B)は管を上昇した状態の断面図である。
図8】マイクロ波処理装置の空胴共振器の共振器軸にそって図2に示した管を昇降させた場合の共振周波数を示した図であり、縦軸に共振周波数を示し、横軸に管の挿入位置を示した。挿入位置0(基準位置)は、共振器軸における空胴共振器のマイクロ波照射空間の中心位置2ACと管の中心軸の管長の中心位置61Cとが一致した位置とした。
図9】マイクロ波処理装置の空胴共振器の共振器軸にそって図3に示した管を昇降させた場合の共振周波数を示した図であり、縦軸に共振周波数を示し、横軸に管の挿入位置を示した。挿入位置0(基準位置)は、共振器軸における空胴共振器のマイクロ波照射空間の中心位置2ACと段差管の段差部62Sの断面方向の中心位置62Cとが一致する位置とした。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明する。本発明は、本発明で規定されること以外、下記実施形態に限定されるものではない。また、各図面に示される装置の形態は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各構成部材のサイズおよび相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
【0012】
本発明に係るマイクロ波処理装置は、マイクロ波発生器と、シングルモードの定在波を形成する共振器と、該共振器内に少なくとも一部が配された管とを有する。その管の外周面は共振器の共振器軸に対して平行な面で構成される。該管の管壁の厚さは、該共振器軸方向に異なる部分を有する。
以下に、本発明のマイクロ波処理装置の好ましい一実施形態(第1実施形態)を、図面を参照して説明する。
【0013】
[マイクロ波処理装置]
図1に示すように、マイクロ波処理装置1は、共振器2及び該共振器2内に定在波を形成することができる周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段3と、該共振器2内に少なくとも一部が配された管6とを有する。
共振器2には、例えば、空胴共振器を用いることができる。以下、共振器2を空胴共振器2として説明する。マイクロ波供給手段3は、マイクロ波を出力するマイクロ波発生器4、出力したマイクロ波をマイクロ波供給口2Sより空胴共振器2内に供給するアンテナ5を含む。アンテナ5は、ケーブル7を介してマイクロ波発生器4と接続される。マイクロ波発生器4には、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器が備えられ、さらに、マイクロ波発振器を制御する制御部11、マイクロ波の減衰レベルを調節する減衰器、マイクロ波電力を増幅する増幅器、反射波を吸収するアイソレータ、反射波を抑制する整合器等(図示せず)を備えてもよい。制御部11は、例えば、マイクロ波発生器4に内蔵されていても、又は別体に構成されていてもよい。
【0014】
空胴共振器2は、その内部のマイクロ波照射空間2Aに定在波を形成する。定在波は、TMmn0モード(m、nは1以上の整数である)又はTEm0pモード(m、pは1以上の整数である)のシングルモードである。
例えば、電界を利用したマイクロ波処理を行う場合は、TM0n0モード(nは1以上の整数)を用いることが好ましい。なかでも円筒型空胴共振器におけるTM010モードの定在波は、マイクロ波照射空間2Aの共振器(中心)軸Cにおいて、空胴共振器2内に形成される定在波のエネルギーが極大となる共振器軸C部分において電界強度が極大となるため、被処理対象物を設置する位置を決定しやすい。また共振器軸C方向には定在波エネルギーが均一となる。このエネルギーが極大でかつ均一となる共振器軸又はその近傍に沿って管6が移動可能に配される。管6内には被処理対象物31(図面では矢印で示す)が配される。被処理対象物31が配されるとは、管6の内部空間6SUに被処理対象物31が存在することを意味し、被処理対象物31が管6内に静置されている形態も、被処理対象物31が管6内を流動している形態も、一部が流動している形態も含む意味である。被処理対象物31は、管6内のすべてを満たしていても、満たしていなくてもよい。
【0015】
また、磁界を利用したマイクロ波処理を行う場合は、TMmn0モード(mおよびnは1以上の整数)を用いることが好ましい。なかでも円筒型の空胴共振器2におけるTM110モードの定在波および矩形型空胴共振器におけるTE102モードは、共振器軸C部分が磁界極大となるため、被処理対象物31を設置する位置を決定しやすい。
被処理対象物は、空胴共振器2の内部の磁界強度に対応させて、磁界強度の強い部分に配されることが好ましい。特に、空胴共振器2内に形成された磁界強度が極大になる領域に配せば、より効率的な加熱が可能になる。例えば、被処理対象物31が、磁性を有する物質の場合には磁界エネルギーを吸収することで、より効率的な加熱となる。被処理対象物31が金属やイオンを含む物質などで電気伝導性を有する場合、磁界により物質内に誘起された電流によるジュール熱で発熱させることができ、より効率的な加熱が可能になる。
【0016】
上記マイクロ波発振器としては、発振周波数を2.45GHz帯のマイクロ波を発生できるマイクロ波発振器を挙げることができる。マイクロ波の周波数を微調整できるという観点、装置の小型化という観点から、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることが好ましい。このようなマイクロ波発振器としては、例えばガンダイオード、アバランシェダイオード(インパットダイオード)、等を用いたマイクロ波発振器が挙げられる。もしくは、MHz帯ではコイルとコンデンサからなるLC回路による発振回路も用いることができる。また、これらの素子と周波数制御機構をパッケージ化したVCO(Voltage Controlled Oscillator)やPLL(Phase Lockd Loop)回路等も挙げることができる。マイクロ波発振器によって発生されるマイクロ波は、周波数が2.45GHz帯のマイクロ波に限定されるものではなく、915MHz帯、5.8GHz帯等、その他の周波数帯のマイクロ波を発生するものも、適宜、用いることができる。
【0017】
[管]
マイクロ波処理する被処理対象物31が配される管6について説明する。管6は、管の外壁面が共振器軸Cと平行な面で構成された形状を有し、管壁の厚さが共振器軸C方向に異なる部分を有するものである。以下、好ましい管の形態について詳述する。
【0018】
<テーパ管>
図2に示すように、管6(61)は、外壁面61WAが共振器軸Cと平行な面で構成され、内壁面61WBが連続的に先細り形状を成すことが好ましい。「連続的」とは、内壁面61WBに段差がなく、共振器軸C方向に内壁面61WBが滑らかに先細りになる形態を意味する。したがって、内壁面61WBで囲まれる内部空間61SUは先細りの空間になっている。内壁面61WBは、直線的に先細りになる形態と、曲線的に先細りになる形態とがある。直線的に先細りになる形態は、いわゆるテーパ形状を成す。このテーパ形状のテーパ率は、共振周波数の調整範囲が広いという観点から、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、実際的には30%以下である。また、気体又は液体の流動性の観点から、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
テーパ率は|(管61の入口内径)-(管61の出口内径)|/(管61の管長)×100%で求めることができる。先細りの形態では、(管61の入口内径)>(管61の出口内径)である。具体的には、例えば、外壁面61WAは円筒形状の外周面で構成され、内壁面61WBは逆円錐台形状の外周面で構成されることが好ましい。また、図2に示した管6とは逆に、先太り(図面上、内径が上側から下側に向かって太くなる)形状を有した管を用いることもできる。直線的に先太りになる形態の場合、(管61の入口内径)<(管61の出口内径)であっても上記テーパ率を求める式によって、テーパ率を求めることができる。
なお、本発明では、内壁面61WBが、曲線的に先細りになる形態の場合(図示せず)もテーパ管の範疇に含める。以下、内部空間6SUが上側から下側に先細りとなる形態について記載する。
【0019】
上記のようなテーパ管からなる管61を共振器軸C方向にそって移動させることによって、マイクロ波照射空間2A内における管61の管壁61Wの占める体積が変化する。これによって、マイクロ波照射空間2A内の比誘電率が変化するため、空胴共振器2の共振周波数が変化して、共振周波数を変更することが可能になる。その際、変化範囲を大きくとるために、管壁61Wの厚さを共振器軸C方向に薄い形態から厚い形態に大きく変化させることが好ましい。言い換えれば、管61の内部空間61SUの内径を小径から大径に大きく変化させることが好ましい。ただし、小径部分は、管内に被処理対象物31(図1参照)を導入しやすい径を有することが好ましく、また、内部空間61SUに対して被処理対象物31流出入しやすい大きさ(例えば、径)を有することが好ましい。
また、管61の外壁面61WAが共振器軸Cに対して平行に構成された面であることから、空胴共振器2に形成された貫通孔21及び22と管61の外壁との隙間を大きくとる必要がない。それによって、共振器軸C方向にそって管61の移動が可能となる必要最小限の隙間を設けるだけでよいため、貫通孔21及び22からマイクロ波照射空間2A内のマイクロ波の漏洩を最小限にすることができる。
上記管61は、図示はしていないが、外周管の外壁面を共振器軸Cと平行な面で構成し、その内壁面に、管壁61Wの厚さを増すための内壁面がテーパ形状のテーパ管からなる内周管を配した2層構造の管としてもよい。この場合の内周管は外周管に接合して一体化されていることが好ましい。また外周管は誘電損失が小さい樹脂やガラス管、セラミック等の材料を用いることが好ましい。
なお、テーパ管の場合、管61は管内に被処理対象物31を流通させる形態でなければ、管61の内部空間61SUが管61を貫通した形態とする必要はなく、例えば、管61の一端を閉じた形状とすることができる。例えば、管61の一端(例えば下端側)を閉じた構成とすることができる。
【0020】
空胴共振器2の共振周波数を変更するには、空胴共振器2に対して管61を昇降させればよい。
例えば、内部空間61SU内の物質の比誘電率が管61を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が低くなっている場合には、共振周波数を上げる方向に管61を移動させればよい。すなわち、図3(A)に示すように、空胴共振器2に対して管61を下げる方向に移動させればよい。移動量(挿入位置)は、あらかじめ測定しておいた管61の共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。なお、本発明において、内部空間内の物質とは内部空間内に配された物を意味し、例えば、空気、被処理対象物、触媒等を挙げることができる。また、「管を下げる方向に移動」とは、図面上、管が上から下に向かうことを意味する。以下、同様である。
また、内部空間61SU内の物質の比誘電率が管61を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が高くなっている場合には、共振周波数を下げる方向に管61を移動させればよい。すなわち、図3(B)に示すように、空胴共振器2に対して管61を上げる方向に移動させればよい。この場合の移動量(挿入位置)も、あらかじめ測定しておいた管61の共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。本発明において、「管を上げる方向に移動」とは、図面上、管が下から上に向かうことを意味する。以下、同様である。
なお、内部空間61SU内の物質の比誘電率が管6を構成する材料の比誘電率より大きい場合は、上記記載の管61の移動操作の方向を逆転すればよい。
【0021】
<段差管>
図4に示すように、管6(62)は、外壁面62WAが共振器軸Cと平行な面で構成され、内壁面62WBに段差部62Sを有して、内部が段階的に先細り形状を成すことが好ましい。「段階的」とは、管の内壁面62WBに段差があり、共振器軸C方向に階段状に共振器軸Cに対して直角方向の内部空間62SUの断面が変化する形態を意味する。すなわち、段差部前後の内壁面62WBは、管壁が滑らかで管の内部空間62SUの断面積が変化しない形態であっても、徐々に変化する形態であってもよい。上記段差部62Sは、内壁面62WBに少なくとも1か所設けられ、2か所以上設けてもよい。
【0022】
上記のような段差部62Sを有する管62(段差管ともいう)を共振器軸C方向に移動させることによって、マイクロ波照射空間2A内に存在する管62の管壁62Wの占める体積が変化して、マイクロ波照射空間2A内の比誘電率を変化させることができる。それによって、空胴共振器2の共振周波数が変化して、共振周波数を変更することが可能になる。その際、変化範囲を大きくとるために、段差部62Sの前後において管壁の厚さを共振器軸方向に薄い形態から厚い形態に大きく変化させることが好ましい。「段差部の前後」とは、段差部62Sを境にして、管62の一端側と他端側とを意味する。言い換えれば、段差部62Sの前後において管62の内部空間SUの内径を小径から大径に大きく変化させることを意味する。ただし、小径部分は、被処理対象物31(図1参照)が管内を流れやすい径を有することが好ましい。また、段差部62Sをテーパ形状としてもよい。
また、管62の外壁面62WAを共振器軸Cと平行な面で構成したことによって、空胴共振器2に形成される貫通孔21及び22と、管62の外壁面62WAとの隙間を大きくとる必要がない。それによって、管62の共振器軸C方向への移動が可能な必要最小限の隙間を設けるだけでよいため、貫通孔21及び22から空胴共振器2内のマイクロ波の漏洩を最小限にすることができる。
上記管62は、図示はしていないが、外周管の外壁面を共振器軸Cと平行な面で構成し、その内壁面に管壁の厚さを増すための内周管を配した2層構造の管としてもよい。この場合の内周管は外周管に接合されて一体化されていることが好ましい。また内周管には誘電損失が小さい樹脂やガラス、セラミック等の材料を用いることが好ましい。
なお、段差管の場合、管62は管内に被処理対象物31を流通させる形態でなければ、テーパ管と同様に、例えば、管62の一端を閉じた形態とすることができる。例えば、管62の一端(例えば下端側)を閉じた構成とすることができる。
【0023】
空胴共振器2の共振周波数を変更するには、空胴共振器2に対して管62を昇降させればよい。
例えば、内部空間62SU内の物質の比誘電率が管62を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が低くなっている場合には、共振周波数を上げる方向に管62を移動させればよい。すなわち、図5(A)に示すように、管壁62Wの薄い部分62Wtが厚い部分62WTよりも空胴共振器2内に多く入るように、空胴共振器2に対して管62を下げる方向に移動させればよい。移動量(挿入位置)は、あらかじめ測定しておいた管62の共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。
また、内部空間62SU内の物質の比誘電率が管62を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が高くなっている場合には、共振周波数を下げる方向に管62を移動させればよい。すなわち、図5(B)ddに示すように、管壁62Wの厚い部分62WTが空胴共振器2内に多く入るように、空胴共振器2に対して管62を上げる方向に移動させればよい。この場合の移動量(挿入位置)も、あらかじめ測定しておいた管62の共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。
【0024】
<多重管>
管は、2重管以上の多重管構造を有し、管のうち最外周の管の外壁面が共振器軸と平行な面で構成され、最外周の管を除く他の管の少なくとも1層の管が共振器軸C方向にそって移動可能である。多重管構造とは、管中心軸方向に移動可能な、管中心軸を同じにする複数層の管が、例えば同心円状に配されている管構造を意味する。以下、多重管構造として、2層構造の管について説明する。
【0025】
図6に示すように、管6(63)は、2層構造を有し、外周管63Aの内壁面にそって内周管63Bが配される。内周管63Bは、外周管63Aに対して摺動可能または遊挿可能に構成され、共振器軸C方向のマイクロ波照射空間2Aの高さよりも長く、外周管63Aより管長が短く形成されていることが好ましい。以下、本発明における「遊挿可能」には「摺動可能」な状態も含める。
外周管63Aは空胴共振器2の貫通孔21に固定されることが好ましい。外周管63A内を共振器軸C方向に内周管63Bを移動させることによって、マイクロ波照射空間2A内における外周管63Aと内周管63Bとを合わせた管63の管壁63Wの体積が変化して、空胴共振器2内の比誘電率を変化させることができる。内周管63Bによる比誘電率の変化量を大きくするには、内周管63Bに樹脂のような比誘電率が低い材料を用いることが好ましい。上記の比誘電率の変化によって、マイクロ波照射空間2Aの共振周波数が変化して、共振周波数を変更することが可能になる。その際、共振周波数の変化範囲を大きくとるためには、マイクロ波照射空間2A内の共振器軸Cに沿って内周管63Bが大きく移動できる状態にすることが好ましい。例えば、後述する図7(A)および(B)に示した管63の状態が挙げられる。
また、管63の外壁面63WAを空胴共振器2に形成された貫通孔21及び22に対して固定できるため、管63と空胴共振器2との間に隙間が生じないようにできる。そのため、貫通孔21及び22からマイクロ波照射空間2A内のマイクロ波の漏洩が生じなくなる。
なお、多重管の場合、管63は管内に被処理対象物31を流通させる形態でなければ、管63の内部空間63SUが管63を貫通した形状とする必要はなく、例えば、管63の一端を閉じた形状とすることができる。例えば、外周管63Aの一端(例えば下端側)を閉じ、外周管63Aの開放端(例えば上端側)から内周管63Bを遊挿可能とする構成としてもよい。
【0026】
管63によって空胴共振器2の共振周波数を変更するには、空胴共振器2に対して管63の内周管63Bを昇降させればよい。
例えば、内部空間63SU内の物質の比誘電率が管63を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が低くなっている場合には、共振周波数を上げる方向に外周管63A内で内周管63Bを移動させればよい。すなわち、図7(A)に示すように、空胴共振器2に対して内周管63Bを下げてマイクロ波照射空間2A内から出す方向に移動させればよい。移動量(挿入位置)は、あらかじめ測定しておいた内周管63Bの共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。
また、内部空間63SU内の物質の比誘電率が管63を構成する材料の比誘電率より小さい場合であり、共振周波数が高くなっている場合には、共振周波数を下げる方向に外周管63A内で内周管63Bを移動させればよい。すなわち、図7(B)に示すように、空胴共振器2に対して内周管63Bを上げてマイクロ波照射空間2A内から出す方向に移動させればよい。この場合の移動量(挿入位置)も、あらかじめ測定しておいた内周管63Bの共振器軸C方向の挿入位置と共振周波数の関係から求めることができる。
【0027】
上記のマイクロ波処理装置1(図1参照)では、被処理対象物が配される管6を配した空胴共振器2に対して、マイクロ波発生器4からマイクロ波を供給し、マイクロ波照射空間2A内に上記の定在波を形成する。例えば、この定在波の電界強度または磁界強度が極大となる部分に沿って管6を設けたことにより、管6内の被処理対象物31を高いエネルギー効率で処理することができる。
【0028】
上記マイクロ波処理装置1において、マイクロ波発生器4から供給されるマイクロ波は、周波数を調整して供給される。供給される周波数を調整することにより、空胴共振器2内に定在波を安定して形成できる。またマイクロ波電力の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、被処理対象物31の加熱状態を制御することが可能になる。
【0029】
本発明のマイクロ波処理装置1では、前述の図3、5、7を参照して説明したように、共振器軸C方向にそって被処理対象物31が配される管6を移動することによって、共振周波数を所定の範囲内(例えば、ISMバンド内)になるように調整することができる。すなわち、上記管6又はその一部を共振器軸Cに沿って移動することによって、マイクロ波照射空間2A内の比誘電率が変化する。これによって、共振周波数が変更され、所定の共振周波数範囲にすることが可能になる。
管6又はその一部を上昇させることによって、マイクロ波照射空間2A内において管壁6Wの占める割合が大きくなる。この結果、内部空間6SU内の物質の比誘電率が管6を構成する材料の比誘電率より小さい場合では、マイクロ波照射空間2A内の比誘電率が高くなり、共振周波数を低下させることができる。逆に管6又はその一部を下降させることによって、マイクロ波照射空間2A内において管壁6Wの占める割合が小さくなる。この結果、マイクロ波照射空間2A内の比誘電率が低くなり、共振周波数を上昇させることができる。
一方内部空間6SU内の物質の比誘電率が管6を構成する材料の比誘電率より大きい場合では、上記マイクロ波照射空間2A内の比誘電率の高低が逆転するため、管6又はその一部の下降または上昇方向を反転させるとで、共振周波数の調整が可能となる。
【0030】
例えば、管61を位置調整する場合、まず共振器軸C方向と、共振器軸C方向に管6(61)の中心軸とを合わせる。そして、共振器軸Cにおけるマイクロ波照射空間2Aの中心位置2ACと、管の中心軸における管長の中心位置61Cとを一致させる。この一致させた点を管移動の基準位置(移動量が0の位置)とする。また管62を位置調整する場合は、共振器軸Cに管62の管の中心軸を合わせ、段差部62Sの断面方向の中心位置62Cと、マイクロ波照射空間2Aの中心位置2ACとを一致させ、上記同様の基準位置を規定する。また管63を位置調整する場合は、共振器軸Cに管63の管の中心軸を合わせ、管の中心軸における内周管63Bの管長の中心位置63Cと、マイクロ波照射空間2Aの中心位置2ACとを一致させ、上記同様の基準位置を規定する。
このようにして、管の移動開始点となる基準位置を規定する。
【0031】
そして、検出部12によって検出した空胴共振器2の共振周波数に基づいて、制御部11によって、共振器軸Cに沿う管6の挿入位置(移動量)を決定する。そのため、空胴共振器2には、マイクロ波照射空間2A内の定在波の周波数を検出する検出部12が配されていることが好ましい。検出部12は、マイクロ波照射空間2A内部のエネルギー強度を計測し、その信号を処理して周波数を検出するものであればよい。
また、あらかじめ、共振周波数とマイクロ波照射空間2Aに対する管の挿入位置との関係を求めておき、その関係を制御部11に記憶させておくことが好ましい。そして、検出器12によって検出した共振周波数と、あらかじめ求めた上記関係に基づいて、ISMバンド内に共振周波数が収まるように、管6の挿入位置を決定し指示する。その指示は、図示はしていないが、管6を昇降させる駆動部に伝達されることが好ましい。このようにして、管6の挿入位置は、共振器2の共振周波数がISMバンド内に収まるように駆動部によって調整される。
【0032】
また、制御部11は、被処理対象物の処理を開始する前に、マイクロ波発生器4又は増幅器(図示せず)から発生するマイクロ波の周波数を、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に形成される定在波の周波数に一致させることもできる。この一致させるとは、完全に一致することが好ましいが、ある範囲内、例えば1%以内の差の場合も含むものとする。そして、周波数を一致させたマイクロ波をマイクロ波照射空間2A内に照射させる。
【0033】
具体的には、検出部12によってマイクロ波照射空間2A内のマイクロ波のエネルギー強度に比例した出力信号を検出する。一方、マイクロ波照射空間2Aに供給するマイクロ波は、マイクロ波発生器4から発生したマイクロ波もしくはマイクロ波発生器4から発生したマイクロ波を増幅器によって増幅したマイクロ波である。このとき、マイクロ波発生器4から発生する周波数を2.45GHz帯全域又は2.45GHz帯の一部の帯域で掃引すると、検出部12からの出力信号は極大値をもつ分布を得る。この極大値はマイクロ波照射空間2A内に定在波が形成できていることを意味しているので、あらかじめTM0n0モードの定在波の共振周波数と比較することで所定のモードの共振周波数を検出することができる。
そして制御部11によって、マイクロ波発生器4から発生するマイクロ波の周波数を、検出したマイクロ波の周波数に一致させて、マイクロ波照射空間2A内に共振周波数に一致させた周波数のマイクロ波を供給することもできる。
【0034】
マイクロ波発生器4から発するマイクロ波の周波数を、マイクロ波照射空間2A内の共振周波数に一致させる別の手段として、マイクロ波照発生器から発生するマイクロ波の周波数を固定しておき、管6の位置を上げる方向または下げる方向に移動することにより、共振周波数を変化させることもできる。この場合、マイクロ波照射空間からの反射波が極小値になる、もしくは検出部12からの出力信号が極大値となる位置に、管6を上げる方向または下げる方向に移動することで、共振周波数を調整することができる。
【0035】
共振周波数を検出するための操作は定期的に行うことが望ましい。外乱が大きい場合や温度変化、流量変化、組成変化が大きい場合、マイクロ波処理を開始した直後は短い周期、例えば1秒以下で行うことが望ましい。一方外乱が少ない場合や、温度変化、流量変化、組成変化が少ない場合、マイクロ波処理を開始し十分な時間が経過し安定したのちは、長い周期、例えば1分おきに行ってもよい。
共振周波数を検出するためにマイクロ波発生器4からのマイクロ波の周波数を掃引する場合、掃引周波数の幅は狭いほうが望ましい。しかし変動が大きい場合は掃引周波数の幅が少ない場合は掃引周波数内に極大値が見つからない場合がある。その場合は掃引周波数幅を広げて、再度掃引することで共振周波数を検出することも望ましい。
【0036】
本発明のマイクロ波処理装置1の構成の好ましい一例について詳説する。
<空胴共振器>
マイクロ波処理装置に用いる空胴共振器2の形状は、一つのマイクロ波供給口2Sを有し、マイクロ波を供給した際にシングルモードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。例えば、円筒形又は角筒形の空胴共振器を用いることができる。本明細書において円筒形の空胴共振器とは、該空胴共振器の中心軸Cに垂直な内側断面形状が円形であるものの他、当該断面形状が楕円形もしくは長円形であるものを含む意味に用いる。また、角筒形の空胴共振器は、中心軸Cに直角な内側断面形状が多角形であるものを意味し、当該断面形状が4~10角形であることが好ましい。また、多角形の角が、丸みを帯びた形状であってもよい。
空胴共振器2の大きさも上記説明した形態において、目的に応じて適宜に設計することができる。空胴共振器2は電気抵抗率の小さいものが望ましく、通常は金属製であり、一例として、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、黄銅、ステンレス、若しくはそれらの合金等を用いることができる。又は、樹脂やセラミック、金属の表面に電気抵抗率の小さい物質をめっき、蒸着などによりコーティングしてもよい。コーティングには銀、銅、金、スズ、ロジウムを含む材を用いることができる。
【0037】
<マイクロ波の供給>
本発明のマイクロ波処理装置1は、マイクロ波発生器4またはマイクロ波増幅器(図示せず)から発生したマイクロ波をマイクロ波供給口2Sからアンテナ5を介して空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に供給される。
【0038】
上記マイクロ波発生器4は、例えば、発振周波数を、ISMバンドの2.45GHz帯、5.8GHz帯、915MHz帯、等の範囲内にて調整できるマイクロ波発生器を挙げることができる。例えば、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器や、マグネトロン等のマイクロ波発生器を用いることができる。マイクロ波の周波数を微調整できるという観点から、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることが好ましい。半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器としては、例えばガンダイオード、アバランシェダイオード(インパットダイオード)、等を用いたマイクロ波発生器が挙げられる。なお、発振周波数は上記周波数帯に限定されるものではない。また、マイクロ波発生器4から発生したマイクロ波を増幅する増幅器を備えることが好ましい。この増幅器は、一般的な、高周波用の電界効果トランジスタ(FET)を用いたマイクロ波増幅器を用いることができる。
【0039】
図1に示す形態では、空胴共振器2として円筒形の空胴共振器を用いている。その空胴共振器2の中心軸Cに平行な壁面(円筒の内面)又はその近傍には、マイクロ波供給口2Sが設けられている。マイクロ波供給口2Sを通じてマイクロ波照射空間2Aには、高周波を印加することができるアンテナ5を有していることが好ましい。アンテナ5としては磁界励起アンテナ、例えばループアンテナ、または電界励起アンテナ、例えばモノポールアンテナ等を用いることが好ましい。アンテナ5は、ケーブル7を介してマイクロ波発生器4と接続されている。ケーブル7には、例えば同軸ケーブルを用いることができる。
この構成では、マイクロ波発生器4から発せられたマイクロ波を、ケーブル7を介してアンテナ5からマイクロ波照射空間2A内に供給する。マイクロ波発生器4とアンテナ5の間には、反射波を抑制するための整合器(図示せず)やマイクロ波発生器を保護するためのアイソレータ(図示せず)を設置してもよい。またケーブルの長さを調整することによって整合器の機能を果たすようにしてもよい。
上記アンテナ5の端面は空胴共振器壁面など接地電位と接続することが好ましい。このアンテナ5にマイクロ波(高周波)を印加することで、例えばループアンテナのループ内に磁界が励振され空胴共振器内に定在波を形成する形態とすることができる。
例えば、上記の円筒状の空胴共振器においてTM010のシングルモード定在波を形成させた場合、共振器軸Cにおいて電界強度が極大になり、共振器軸C方向に電界強度が均一になる。したがって、管6において、その内部に存在し、又は流通する被処理対象物31を、均一に、高効率にマイクロ波加熱することが可能になる。
なお、マイクロ波発生器4から導波管を用いてマイクロ波供給口3にマイクロ波を供給してもよい。
【0040】
<被処理対象物の加熱>
本発明のマイクロ波処理装置では、被処理対象物31(例えば、管6内に配された被加熱対象物)は、空胴共振器2内部に定在波のエネルギー(電界又は磁界)強度に対応させて配される。特に、空胴共振器2内に形成された定在波の電界又は磁界強度が極大になる部分に沿って配せば、より効率的な加熱が可能になる。
【0041】
図1に示す形態のマイクロ波処理装置1においては、管6内に配される被処理対象物31に特に制限はなく、液体、固体、粉末およびそれらの混合物を挙げることができる。もしくは、管6内にあらかじめ設置したハニカム構造体、触媒等(図示せず)を挙げることができる。
被処理対象物31を管6内に流通させる場合、送給手段(例えば、ポンプ)41等を用いて被処理対象物31を搬送することで連続的に被処理対象物の温度を制御することができる。多くの化学反応は温度により反応の進行を制御することができるため、本発明のマイクロ波処理装置1は化学反応の制御に好適に用いることができる。
被処理対象物をハニカム構造体とした場合には、マイクロ波処理装置は、例えば、ハニカム構造体を通過するガス状物質の温度制御をするために用いることができる。また、被処理対象物を触媒とした場合には、触媒の作用による化学反応を生じさせるために用いることができる。触媒は、ハニカム構造体に担持させた形態とすることも好ましい。
【0042】
[マイクロ波処理方法]
マイクロ波処理方法は、空胴共振器内にマイクロ波を照射して、該空胴共振器内にTMmn0モード(m、nは1以上の整数)又はTEm0pモード(m、pは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理する。マイクロ波には、例えば2.45GHz帯の周波数のマイクロ波を用いる。また定在波のエネルギー(電界または磁界)強度が極大となる部分に沿って被処理対象物を配する。
このマイクロ波処理方法には、上述のマイクロ波処理装置1に、例えば図2に示したテーパ管を用いることが好ましい。以下、マイクロ波処理装置1にテーパ管を用いた場合を説明するが、段差管や多重管を用いた場合も同様に適用できる。
具体的には、上記マイクロ波処理装置1を用いて被処理対象物31の加熱を行うことができる。まずマイクロ波発生器4から上記のように周波数を調整して供給されるマイクロ波を、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に供給する。周波数の調整により、空胴共振器2内に形成される定在波の電界又は磁界強度分布を所望の分布状態に制御することができ、またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、管6内(内部空間6SU)の被処理対象物31の、例えば加熱状態(温度)を制御することが可能になる。
上記マイクロ波の周波数は、例えば上記2.45GHz帯の周波数であり、マイクロ波照射空間2A内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。
【0043】
上記初期設定をした後、マイクロ波処理を行う。処理を進めるに従い、共振周波数にずれが生じてくる。その場合には、共振周波数のずれ量に応じて、管6(61)を共振器軸C方向に移動させて、共振周波数を設定値に戻す。例えば、内部空間61SU内の物質の比誘電率が管61を構成する材料の比誘電率より小さい場合であって、共振周波数が設定値よりも小さい場合には、図3(A)に示したように管61を降下させてマイクロ波照射空間2A内の管61の体積が少なくなる方向(比誘電率が低くなる方向)に移動させて、共振周波数を高める。逆に、例えば、内部空間61SU内の物質の比誘電率が管61を構成する材料の比誘電率より小さい場合であって、共振周波数が設定値よりも大きい場合には、図3(B)に示したように管61を上昇させてマイクロ波照射空間2A内の管61の体積が多くなる方向(比誘電率が高くなる方向)に移動させて、共振周波数を低くする。
図4及び6に示した管6(62)及び6(63)についても、図2に示した管6(61)と同様に昇降させることによって、共振周波数を制御することができる。すなわち、マイクロ波照射空間2A内の管6の体積が小さくなる方向に管6を移動させることで、共振周波数を高めることができ、マイクロ波照射空間2A内の管6の体積が大きくなる方向に管6を移動させることで、共振周波数を低下させることができる。
【実施例
【0044】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0045】
[実施例1]
図1に示したマイクロ波処理装置1を用いた。共振器には、TM010モードの定在波を形成するシングルモード共振器として、円筒型のマイクロ波照射空間2Aを有する空胴共振器2を用いた。マイクロ波照射空間2Aは、内径が69.5mmの円筒型であった。空胴共振器2の上下面には、共振器軸(中心軸)Cに沿って外径15mmの管6(61が貫通される貫通孔21、22を形成した。この貫通孔21、22に、図2に示した、外径15mm、長さ50mmで入口内径2mm、出口内径14mmの石英製のテーパ管(比誘電率4.0)からなる管61を遊挿可能に配した。したがって、共振器軸Cに管61の中心軸が一致した。なお、内部空間61SU内の物質は空気(比誘電率1.0)とした。
管61の管の中心軸方向における管長の中心位置61Cと、共振器軸C方向におけるマイクロ波照射空間2Aの中心位置2ACが一致する位置を基準位置0とした。そして、基準位置0に対して、共振器軸Cにそって、管61を10mm上昇した位置(10mm)から10mm下降した位置(-10mm)まで、2mm毎に挿入位置を変化させたときの共振周波数を測定した。その結果を図8に示す。図8に示したように、挿入位置を変化させることによって共振周波数を可変できることがわかった。工業分野で利用できるマイクロ波周波数帯のISMバンドは2.4~2.5GHzとされていることから、テーパ型反応管の挿入位置を-8mmから+6mmに可変することで、工業的に利用できる周波数範囲(2.4GHz~2.5GHz)内に調整できることがわかった。マイクロ波照射空間や管を製作する際、加工精度により、実際の共振周波数が異なるが、加工精度や処理対象物の変化からくる、共振周波数のずれを、微調整できることがわかった。
【0046】
[実施例2]
図1に示したマイクロ波処理装置1を用いた。共振器には、TM010モードの定在波を形成するシングルモード共振器であり、円筒型の空洞のマイクロ波照射空間2Aを有する空胴共振器2を用いた。マイクロ波照射空間2Aは、内径が71mmの円筒型であった。空胴共振器2の上下面には、共振器軸(中心軸)Cに沿って外径15mmの管6(62)を貫通できるよう、貫通孔21、22を形成した。この貫通孔21、22に、図4に示した、外径15mm、長さ50mmで片端より25mmまでは内径13mm、そこから他端までは内径5mmとなるような段差を有する石英管(比誘電率4.0)からなる管62を遊挿可能に配した。したがって、共振器軸Cに管62の中心軸が一致した。なお、内部空間61SU内の物質は空気(比誘電率1.0)とした。この段差管の段差部62Sの断面方向の中心位置と、マイクロ波照射空間2Aの中心位置2ACが一致する位置を基準位置0とした。そして、共振器軸Cにそって、基準位置0に対して、管62を10mm上昇した位置(10mm)から10mm下降した位置(-10mm)まで、2mm毎に挿入位置を変化させたときの共振周波数を測定した。その結果を図9に示す。図9に示したように、挿入位置を変化させることによって共振周波数を可変できることがわかった。この段差型の管62の挿入位置を-4mmから+2mmに可変することで、工業的に利用できる周波数範囲(2.4GHz~2.5GHz)内に調整できることがわかった。マイクロ波照射空間や管を製作する際、加工精度により、実際の共振周波数が異なるが、加工精度や処理対象物の変化からくる、共振周波数のずれを、微調整できることがわかった。
【符号の説明】
【0047】
1 マイクロ波処理装置
2 共振器
2A マイクロ波照射空間
2AC マイクロ波照射空間の中心位置
2S マイクロ波供給口
3 マイクロ波供給手段
4 マイクロ波発生器
5 アンテナ
6、61、62、63 管
6SU、61SU、62SU、63SU 内部空間
6W、61W、62W、63W 管壁
7 ケーブル
11 制御部
12 検出部
21、22 貫通孔
31 被処理対象物
61C 管の中心軸方向における管長の中心位置
61WA、62WA、63WA 外壁面
61WB、62WB、63WB 内壁面
62C 段差部の断面方向の中心位置
62S 段差部
62Wt 管壁の薄い部分
62WT 管壁の厚い部分
63A 外周管
63B 内周管
63C 管の中心軸方向における内周管の管長の中心位置
C 共振器軸(中心軸)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9