(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】確認方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240111BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240111BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20240111BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/57
(21)【出願番号】P 2019228285
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019023349
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芥川 幸人
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037912(JP,A)
【文献】特開2018-202444(JP,A)
【文献】特開2012-059989(JP,A)
【文献】特開2018-064049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
B23K 26/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置によって被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームを被加工物の裏面側から照射して、被加工物の内部に改質層を形成する際の、レーザビームの照射によ
って被加工物の表面
に形成される表面損傷の発生状況を確認する確認方法であって、
基材の表面に金属箔が積層された確認用ウェーハを準備する確認用ウェーハ準備ステップと、
該確認用ウェーハの該基材の内部に集光点を位置付けた状態で、該基材に対して透過性を有する波長のレーザビームを該基材の裏面側から照射するとともに、該集光点と該確認用ウェーハを加工送り方向に相対移動させて、該基材の内部に改質層を形成する改質層形成ステップと、
該加工送り方向に直交するインデックス送り方向に、該改質層形成ステップにおけるレーザビームの照射位置から所定の距離離れた位置において、該確認用ウェーハの該基材と該金属箔との界面に集光点を位置付けた状態で、該基材に対して透過性を有する波長のレーザビームを該基材の裏面側から照射するとともに、該集光点と該確認用ウェーハを該加工送り方向に相対移動させて、該金属箔の表面にライン状加工痕を形成するライン状加工痕形成ステップと、
該改質層形成ステップと、該ライン状加工痕形成ステップと、を実施した後、該ライン状加工痕の位置
に基づいて、
該改質層形成ステップでの該確認用ウェーハにおける該レーザビームの照射位置を把握するとともに、該照射位置と、該改質層形成ステップで照射された該レーザビームによ
って該金属箔の表面
に形成された表面損傷との位置関係を取得することにより、被加工物の表面に形成される表面損傷の発生状況を確認する確認ステップと、を備えた確認方法。
【請求項2】
該改質層形成ステップは、該ライン状加工痕形成ステップを実施した後に実施される、請求項1に記載の確認方法。
【請求項3】
該確認用ウェーハ準備ステップを実施した後、該確認用ウェーハにおける該改質層を形成する位置を基準位置として設定する基準位置設定ステップをさらに備え、
該改質層形成ステップでは、該基準位置にレーザビームを照射し、
該ライン状加工痕形成ステップでは、該基準位置から該インデックス送り方向に該所定の距離だけ離れた位置にレーザビームを照射する、請求項1または2に記載の確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の裏面へのレーザビームの照射による被加工物の表面への影響を確認する確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ形成に用いられる被加工物は、たとえば、その表面に形成された交差する複数のストリート(分割予定ライン)によって区切られた各領域にそれぞれデバイスを有している。ストリートに沿って被加工物を分断することで、チップが形成される。このために、被加工物の裏面からストリートに沿ってレーザビームを照射して、被加工物の内部に、ストリートに沿った改質層を形成する方法がある。
【0003】
この方法では、裏面からのレーザビームの照射によって、表面のデバイスが影響を受けることがある。このため、このような影響の有無あるいは程度を確認することが求められている。たとえば特許文献1には、このようなレーザビームの影響を確認するための確認用ウェーハが開示されている。この確認用ウェーハに裏面からレーザビームを照射して改質層を形成することにより、確認用ウェーハの表面に生じる損傷(以下、表面損傷)を検出することができる。これにより、被加工物の表面へのレーザビームの影響を確認し、適正な加工条件を選定すること、および、加工装置の異常を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
改質層の形成時に、レーザビームの照射位置の真裏であるストリート内に表面損傷が発生することは、ストリートにはデバイスが形成されていないため、問題ない。そこで、レーザビームの照射位置からどの位離れた位置に表面損傷が発生するのかを知ることが重要である。
【0006】
しかし、特許文献1の確認用ウェーハには、ストリートが形成されていないため、その外観からレーザビームの照射位置を判別することが困難である。また、レーザビームの照射位置を、改質層から判別することも考えられる。しかし、改質層は、確認用ウェーハの内部に形成されるため、外観から判別しにくい。このように、特許文献1の確認用ウェーハには、正確なレーザビームの照射位置を把握しにくいという問題がある。
【0007】
よって、本発明の目的は、ストリートをもたない確認用ウェーハに改質層を形成するためのレーザビームを裏面から照射した際、レーザビームの照射位置を判別し、レーザビームの照射による被加工物の表面への影響を容易に確認することのできる確認方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、レーザ加工装置によって被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームを被加工物の裏面側から照射して、被加工物の内部に改質層を形成する際の、レーザビームの照射によって被加工物の表面に形成される表面損傷の発生状況を確認する確認方法であって、基材の表面に金属箔が積層された確認用ウェーハを準備する確認用ウェーハ準備ステップと、該確認用ウェーハの該基材の内部に集光点を位置付けた状態で、該基材に対して透過性を有する波長のレーザビームを該基材の裏面側から照射するとともに、該集光点と該確認用ウェーハを加工送り方向に相対移動させて、該基材の内部に改質層を形成する改質層形成ステップと、該加工送り方向に直交するインデックス送り方向に、該改質層形成ステップにおけるレーザビームの照射位置から所定の距離離れた位置において、該確認用ウェーハの該基材と該金属箔との界面に集光点を位置付けた状態で、該基材に対して透過性を有する波長のレーザビームを該基材の裏面側から照射するとともに、該集光点と該確認用ウェーハを該加工送り方向に相対移動させて、該金属箔の表面にライン状加工痕を形成するライン状加工痕形成ステップと、該改質層形成ステップと、該ライン状加工痕形成ステップと、を実施した後、該ライン状加工痕の位置に基づいて、該改質層形成ステップでの該確認用ウェーハにおける該レーザビームの照射位置を把握するとともに、該照射位置と、該改質層形成ステップで照射された該レーザビームによって該金属箔の表面に形成された表面損傷との位置関係を取得することにより、被加工物の表面に形成される表面損傷の発生状況を確認する確認ステップと、を備えた確認方法が提供される。
【0009】
好ましくは、該改質層形成ステップは、該ライン状加工痕形成ステップを実施した後に実施される。
【0010】
好ましくは、本確認方法は、該確認用ウェーハ準備ステップを実施した後、該確認用ウェーハにおける該改質層を形成する位置を基準位置として設定する基準位置設定ステップをさらに備えている。好ましくは、該改質層形成ステップでは、該基準位置にレーザビームを照射し、該ライン状加工痕形成ステップでは、該基準位置から該インデックス送り方向に該所定の距離だけ離れた位置にレーザビームを照射する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、確認用ウェーハの基材の内部に形成される改質層は視認しにくいけれども、金属箔の裏面がレーザビームにより加工されると、金属箔の厚み方向に金属箔が溶融して表面側も変色しライン状加工痕として表面側に現れるため、ユーザによって容易に視認することができる。
【0012】
したがって、ユーザは、ライン状加工痕に基づいて、改質層の位置、すなわち、改質層の形成時におけるレーザビームの照射位置を、確認用ウェーハの外観から容易に把握することができる。このため、ユーザは、改質層の形成時におけるレーザビームの照射位置と、レーザビームのうち改質層の形成に寄与しなかった一部がそのまま基材の表面側に到達したり改質層や改質層周辺に形成されたクラックにおいて反射、散乱、屈折等したりすることによって金属箔に形成された表面損傷との位置関係を取得することができるため、表面損傷の発生状況、すなわち、基材の表面に対するレーザビームの影響を、適切に確認することができる。その結果、ユーザは、レーザビームの照射による被加工物の表面への影響を、容易に確認することができる。このため、ユーザは、たとえば、レーザ加工装置における適正な加工条件を選定すること、および、レーザ加工装置の異常を検出することが可能である。
【0013】
好ましくは、本確認方法では、改質層形成ステップの前にライン状加工痕形成ステップを実施する。これに関し、改質層の形成位置とライン状加工痕の形成位置との関係によっては、改質層を先に形成すると、ライン状加工痕を形成するためのレーザビームの照射が、改質層によって妨げられるおそれがある。ライン状加工痕形成ステップを先に実施することにより、このような事態を防止することができる。
【0014】
好ましくは、本確認方法では、ライン状加工痕形成ステップの前に、上述の基準位置設定ステップを実施する。これにより、改質層の形成位置を基準位置として設定し、基準位置に基づいて、ライン状加工痕と改質層とを形成することができる。これにより、ライン状加工痕と改質層との位置関係を適切に設定することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】レーザ加工装置の加工ヘッドの構成を示す概略図である。
【
図5】確認用ウェーハに設定される基準位置を示す平面図である。
【
図6】ライン状加工痕形成ステップでのレーザビームの集光点を示す断面図である。
【
図7】ライン状加工痕形成ステップにて確認用ウェーハの金属箔に形成されたライン状加工痕を示す説明図である。
【
図8】改質層形成ステップでのレーザビームの集光点を示す断面図である。
【
図9】ライン状加工痕と改質層形成ステップにて金属箔に形成された表面損傷とを示す説明図である。
【
図10】他の形態のライン状加工痕形成ステップにて金属箔に形成されたライン状加工痕を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態にかかる確認方法(本確認方法)は、レーザ加工装置によって被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームを被加工物の裏面側から照射して、被加工物の内部に改質層を形成する際の、レーザビームの照射による被加工物の表面への影響を確認する確認方法である。
以下に、本確認方法のステップについて説明する。
【0017】
(1)確認用ウェーハ準備ステップ
本確認方法では、実際に製品(チップ)を製造するための被加工物とは異なる確認用ウェーハを用いて、レーザビームの照射による被加工物の表面への影響を確認する。
【0018】
図1および
図2に示すように、確認用ウェーハ1は、円板状に形成された基材2、および、基材2の表面に設けられた金属箔5を有している。基材2は、
図2に示すように、表面3および裏面4を備えている。基材2の表面3には、金属箔5が形成されている。基材2の外周縁には、確認用ウェーハ1の結晶方位を示すノッチ9が設けられている。基材2の外周縁には、面取り加工が施されていてもよい(
図6参照)。
【0019】
確認用ウェーハ準備ステップでは、たとえば、円形のアズスライスウェーハを、反りおよびうねりを含む変形要素を除去した後に所定の厚さに研削及び研磨し、外周縁にノッチ9を形成することにより、基材2を得る。さらに、基材2の表面3上に、金属箔5を、たとえば蒸着によって積層する。これにより、確認用ウェーハ1が準備される。
【0020】
なお、基材2の材料は、シリコンなどの、実際に製品を製造するための被加工物と同質の材料であることが好ましい。金属箔5は、たとえば錫を成膜することによって形成される錫膜であり、その厚さは数百nm程度であるのが好ましい。
【0021】
(2)基準位置設定ステップ、ライン状加工痕形成ステップおよび改質層形成ステップ
次に、確認用ウェーハ1に基準位置を設定する基準位置設定ステップ、金属箔5の表面にライン状加工痕を形成するライン状加工痕形成ステップ、および、基材2の内部に改質層を形成する改質層形成ステップが実施される。まず、これらのステップに用いられるレーザ加工装置の構成について説明する。
【0022】
図3に示すように、レーザ加工装置10は、直方体状の基台11、基台11の一端に立設された立壁部13、および、レーザ加工装置10の各部材を制御する制御手段51を備えている。
【0023】
基台11の上面には、保持テーブル43を移動させる保持テーブル移動機構14が設けられている。保持テーブル移動機構14は、保持テーブル43を備えた保持テーブル部40、保持テーブル43をインデックス送り方向(Y軸方向)に移動するインデックス送り部20、および、保持テーブル43を加工送り方向(X軸方向)に移動する加工送り部30を備えている。
【0024】
インデックス送り部20は、Y軸方向に延びる一対のガイドレール23、ガイドレール23に載置されたY軸テーブル24、ガイドレール23と平行に延びるボールネジ25、および、ボールネジ25を回転させる駆動モータ26を含んでいる。
【0025】
一対のガイドレール23は、Y軸方向に平行に、基台11の上面に配置されている。Y軸テーブル24は、一対のガイドレール23上に、これらのガイドレール23に沿ってスライド可能に設置されている。Y軸テーブル24上には、加工送り部30および保持テーブル部40が載置されている。
【0026】
ボールネジ25は、Y軸テーブル24の下面側に設けられたナット部(図示せず)に螺合されている。駆動モータ26は、ボールネジ25の一端部に連結されており、ボールネジ25を回転駆動する。ボールネジ25が回転駆動されることで、Y軸テーブル24、加工送り部30および保持テーブル部40が、ガイドレール23に沿って、インデックス送り方向(Y軸方向)に移動する。
【0027】
加工送り部30は、X軸方向に延びる一対のガイドレール31、ガイドレール31上に載置されたX軸テーブル32、ガイドレール31と平行に延びるボールネジ33、および、ボールネジ33を回転させる駆動モータ35を備えている。一対のガイドレール31は、X軸方向に平行に、Y軸テーブル24の上面に配置されている。X軸テーブル32は、一対のガイドレール31上に、これらのガイドレール31に沿ってスライド可能に設置されている。X軸テーブル32上には、保持テーブル部40が載置されている。
【0028】
ボールネジ33は、X軸テーブル32の下面側に設けられたナット部(図示せず)に螺合されている。駆動モータ35は、ボールネジ33の一端部に連結されており、ボールネジ33を回転駆動する。ボールネジ33が回転駆動されることで、X軸テーブル32および保持テーブル部40が、ガイドレール31に沿って、加工送り方向(X軸方向)に移動する。
【0029】
保持テーブル部40は、確認用ウェーハ1あるいは被加工物を吸引保持する保持テーブル43、保持テーブル43の周囲に設けられた4つのクランプ部45、および、保持テーブル43を支持するθテーブル47を有している。θテーブル47は、X軸テーブル32の上面に、XY平面内で回転可能に設けられている。保持テーブル43は、円板状に形成されており、θテーブル47上に設けられている。
【0030】
保持テーブル43の上面には、ポーラスセラミックス材を含む保持面が形成されている。この保持面は、吸引源(図示せず)に連通されている。4つのクランプ部45は、保持テーブル43がリングフレームを備えた被加工物を保持している場合に、リングフレームを四方から挟持固定する。
【0031】
保持テーブル移動機構14の後方に立設されている立壁部13の前面には、被加工部材をレーザ加工するためのレーザ加工ユニット12が設けられている。レーザ加工ユニット12は、保持テーブル43に保持された確認用ウェーハ1等にレーザビームを照射する加工ヘッド18、および、加工ヘッド18を支持するアーム部17を有している。
【0032】
アーム部17および加工ヘッド18内には、レーザ加工ユニット12の光学系が設けられている。
図4に示すように、加工ヘッド18は、レーザを発生させる発振器53、および、発振器53が発振するレーザビームを集光する集光レンズ54を備えている。加工ヘッド18は、発振器53から出力されたレーザビームLを、集光レンズ54によって集光し、保持テーブル43に保持された確認用ウェーハ1等に照射する。
【0033】
加工ヘッド18から出射されるレーザビームLは、たとえばパルスレーザビームであり、確認用ウェーハ1に対して透過性を有するような波長を有している。このレーザビームLを集光させることによって得られる集光点Pは、任意の高さ(Z軸方向に沿う位置)に配置されることが可能である。
【0034】
制御手段51は、レーザ加工装置10の各構成要素を統括制御する。制御手段51は各種の処理を実行するプロセッサを備えている。制御手段51には、各種検出器(図示せず)からの検出結果が入力される。
【0035】
(2-1)基準位置設定ステップ
次に、このレーザ加工装置10を用いた基準位置設定ステップについて説明する。このステップは、確認用ウェーハ準備ステップの後に実施される。
【0036】
このステップでは、まず、ユーザが、確認用ウェーハ1を、
図2に示した基材2が露出する裏面4が上向きとなるように、保持テーブル43に載置する。これに応じて、制御手段51は、吸引源を制御して、保持テーブル43に、確認用ウェーハ1の金属箔5を吸着保持させる。
【0037】
その後、制御手段51は、
図5に示すように、確認用ウェーハ1における改質層を形成する位置を、基準位置Bとして設定する。確認用ウェーハ1にはストリートもデバイスも形成されていないため、基準位置Bはどこに設定されてもよく、θテーブル47を用いた確認用ウェーハ1の角度調整は不要である。
【0038】
たとえば、制御手段51は、インデックス送り部20を制御して、確認用ウェーハ1を保持している保持テーブル43のインデックス送り方向(Y軸方向)の位置を、予め設定された第1位置に設定する。そして、このときの、確認用ウェーハ1に対する加工ヘッド18からのレーザビームLの照射位置が、基準位置Bとなる。
【0039】
(2-2)ライン状加工痕形成ステップ
このステップでは、加工送り方向に直交するインデックス送り方向に基準位置Bから所定の距離だけ離れた位置に、レーザビームLを位置付ける。
【0040】
すなわち、制御手段51は、インデックス送り部20を制御して確認用ウェーハ1を保持している保持テーブル43を移動させることにより、確認用ウェーハ1に対する加工ヘッド18からのレーザビームLの照射位置を、インデックス送り方向における+側(+Y軸方向)に、基準位置Bから所定のオフセット距離d(
図7参照)だけ離れた位置に設定する。
【0041】
この状態で、制御手段51は、
図6に示すように、加工ヘッド18の光学系を制御して、加工ヘッド18の集光点Pの位置を、確認用ウェーハ1における基材2と金属箔5との界面に位置づける。そして、制御手段51は、加工ヘッド18から確認用ウェーハ1に向けて裏面4側からレーザビームLを照射するとともに、加工送り部30を制御して、加工ヘッド18が確認用ウェーハ1に対して加工送り方向に沿って相対的に移動するように、確認用ウェーハ1を保持している保持テーブル43を、矢印Aに示すように、加工送り方向に沿って移動させる。これにより、金属箔5の裏面がレーザビームにより加工され、金属箔5の厚み方向に金属箔が溶融して、
図7に示すように、金属箔5の表面における基準位置Bの+Y軸方向側に、レーザビームLの照射により金属箔5が溶融した跡としての第1のライン状の加工痕M1が形成される。
【0042】
次に、制御手段51は、確認用ウェーハ1に対する加工ヘッド18からのレーザビームLの照射位置を、インデックス送り方向における-側(-Y軸方向)に、基準位置Bからオフセット距離dだけ離れた位置に設定し、第1のライン状加工痕M1の形成時と同様に、レーザビームLの照射および保持テーブル43の加工送りを実施する。
【0043】
これにより、金属箔5の表面における基準位置Bの-Y軸方向側に、第2のライン状加工痕M2が形成される。このようにして、ライン状加工痕形成ステップでは、基準位置Bの両側に、基準位置Bと略平行に、2本のライン状加工痕M1およびM2が形成される。ライン状加工痕M1及びM2は、レーザビームLの照射により金属箔5の厚み方向に金属箔5が溶融して表面側が変色し、金属箔5の表面側から確認することができる。
なお、加工痕M1と加工痕M2との間隔は、実際に改質層を形成しようとする被加工物のストリートの幅と同一にすることが好ましい。これにより、レーザビームの照射により被加工物の表面に及ぶ影響の範囲がストリート内に収まるか否かを一目で把握することができる。
【0044】
なお、ライン状加工痕形成ステップにおけるレーザビームLの波長は例えば1064nm、出力は、たとえば0.2Wであり、加工送り部30の移動速度は、たとえば500mm/秒である。
【0045】
(2-3)改質層形成ステップ
このステップでは、制御手段51は、基準位置Bに沿って、確認用ウェーハ1に改質層を形成する。
【0046】
すなわち、制御手段51は、インデックス送り部20を制御して確認用ウェーハ1を保持している保持テーブル43を移動させて、確認用ウェーハ1に対する加工ヘッド18からのレーザビームLの照射位置を、基準位置Bに設定する。
【0047】
この状態で、制御手段51は、
図8に示すように、加工ヘッド18の光学系を制御して、加工ヘッド18の集光点Pの位置を、確認用ウェーハ1における基材2の内部に位置づける。そして、制御手段51は、加工ヘッド18から確認用ウェーハ1に向けて裏面4側からレーザビームLを照射するとともに、加工送り部30を制御して、加工ヘッド18が確認用ウェーハ1に対して加工送り方向に沿って相対的に移動するように、保持テーブル43を、矢印Aに示すように、加工送り方向に沿って移動させる。
【0048】
その後、制御手段51は、加工ヘッド18の集光点Pの基材2の内部での高さを変えて、同様に、レーザビームLの照射および保持テーブル43の加工送りを実施する。
【0049】
これにより、
図7に示した基準位置Bに沿って、
図9に示すように、基材2内に改質層Tが形成される。なお、改質層形成ステップにおけるレーザビームLの波長は例えば1064nm、レーザビームLの出力は、たとえば1.5Wであり、加工送り部30の移動速度は、たとえば700mm/秒である。
【0050】
(3)確認ステップ
このステップでは、ユーザが、ライン状加工痕M1およびM2の位置をもとに、改質層形成ステップで照射されたレーザビームLによる金属箔5の表面への影響を確認する。
【0051】
すなわち、改質層形成ステップでは、基材2の内部に集光点Pが位置づけられるように、基材2の裏面4側からレーザビームLを照射している。この際、改質層の形成に寄与しなかったレーザビームLの一部が、そのまま基材2の表面3側に到達する、または改質層や改質層の周辺に生成されたクラックによって反射、散乱、屈折したりして、基材2の表面3側に到達することがある。このように基材2の表面側に到達したレーザビームは、実際に製品を製造するための被加工物では、表面のデバイスに悪影響を与える可能性がある。そして、確認用ウェーハ1では、このように基材2の表面側に到達したレーザビームは、金属箔5の表面に、
図9に示すように、表面損傷(レーザダメージ)LDを残す。このステップでは、ユーザは、このような表面損傷LDを観察する。この確認ステップでは、確認用ウェーハ1を保持テーブル43から取り外し、基材2の表面に積層された金属箔5の表面側から表面損傷LDを確認する。
【0052】
以上のように、本確認方法では、ライン状加工痕形成ステップにおいて、基準位置Bから所定のオフセット距離だけ離れた2つの位置にレーザビームLを照射することによって、確認用ウェーハ1の金属箔5の表面に、2本のライン状加工痕M1およびM2を形成している。さらに、基準位置Bに沿ってレーザビームLを照射することにより、改質層Tを、2本のライン状加工痕M1およびM2の中間に形成している。
【0053】
ここで、基材2の内部に形成される改質層Tは視認しにくいけれども、その両側にあるライン状加工痕M1およびM2は、金属箔5の表面に金属箔5の溶融跡として明確に形成されるため、ユーザが容易に視認することができる。
【0054】
したがって、ユーザは、ライン状加工痕M1およびM2に基づいて、改質層Tの位置、すなわち、改質層Tの形成時におけるレーザビームLの照射位置を、確認用ウェーハ1の外観から容易に把握することができる。このため、ユーザは、改質層Tの形成時におけるレーザビームLの照射位置と、基材2の表面に到達したレーザビームによって金属箔5に形成された表面損傷LDとの位置関係(距離など)を取得することができるため、表面損傷LDの発生状況、すなわち、基材2の表面3に対する漏れ光の影響を、適切に確認することができる。その結果、ユーザは、レーザビームLの照射による被加工物の表面への影響を、容易に確認することができる。
このため、ユーザは、たとえば、レーザ加工装置10における適正な加工条件を選定すること、および、レーザ加工装置10の異常を検出することが可能である。改質層形成ステップ時に金属箔5の表面にレーザダメージLDが一対のライン状加工痕M1、M2の外側に形成されたことを確認した場合には、例えば、改質層形成時のレーザビームLの出力を低下させる、集光点の位置、繰り返し周波数、加工送り速度、パルス幅等を変更するなど適宜加工条件を変更する。一方、複数のレーザダメージLDが一対のライン状加工痕M1、M2の中心、即ち改質層の位置から一方のライン状加工痕側に偏っていた場合には、例えば、光軸がずれている可能性があると判断し、レーザ加工装置10の光学系等を検査する。
【0055】
また、本実施形態では、改質層形成ステップの前にライン状加工痕形成ステップを実施している。これに関し、改質層Tの形成位置(基準位置B)とライン状加工痕M1およびM2の形成位置との関係によっては、改質層Tを先に形成すると、ライン状加工痕M1およびM2を形成するためのレーザビームLの照射が、改質層Tによって妨げられるおそれがあるが、本実施形態のようにライン状加工痕形成ステップを先に実施することにより、このような事態を防止することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ライン状加工痕形成ステップの前に、基準位置設定ステップを実施している。これにより、改質層Tの形成予定位置を基準位置Bとして設定し、基準位置Bに基づいて、ライン状加工痕M1およびM2と改質層Tとを形成することができる。これにより、ライン状加工痕M1およびM2の中間に改質層Tを形成することが容易となる。
【0057】
なお、本実施形態では、基準位置Bから+Y軸方向および-Y軸方向にオフセット距離dだけずれた位置に、2本(2条)のライン状加工痕M1およびM2を形成している。この際、加工送り部30を+X側から-X側に加工送りすることによって第1のライン状加工痕M1を形成し、その後、保持テーブル43を-Y軸方向に移動して、加工送り部30を-X側から+X側に加工送りすることによって、第2のライン状加工痕M2を形成してもよい。
【0058】
あるいは、加工ヘッド18が2本のレーザビームLを同時に照射できるように構成されている場合、2本のライン状加工痕M1およびM2を同時に形成してもよい。
【0059】
また、
図10に示すように、基準位置Bのインデックス送り方向の一方側だけに、1本のライン状加工痕Mを形成してもよい。この構成でも、視認可能なライン状加工痕M、および、ライン状加工痕Mと基準位置Bとの位置関係(オフセット距離d)に基づいて、改質層Tの形成時のレーザビームLの照射位置を、確認用ウェーハ1の外観から把握することが可能である。
【0060】
改質層形成ステップでは、制御手段51は、確認用ウェーハ1の外周縁の一端から他端までにわたってレーザビームLを照射する必要はない。ただし、ライン状加工痕形成ステップにおいて形成した2本のライン状加工痕M1およびM2と同等以下の長さの改質層Tを形成することが好ましい。
【0061】
本実施形態では、改質層形成ステップの前にライン状加工痕形成ステップを実施しているけれども、改質層形成ステップの後にライン状加工痕形成ステップを実施してもよい。
【0062】
また、本実施形態において実施している基準位置設定ステップは、必ずしも実施されなくてよい。たとえば、確認用ウェーハ1における任意の2つの位置に対してライン状加工痕形成ステップを実施して2本のライン状加工痕M1およびM2を形成し、これらの中間となる位置に対して改質層形成ステップを実施して改質層Tを形成してもよい。
【0063】
本実施形態では、改質層形成ステップにおいて、レーザビームLの照射および保持テーブル43の加工送りを、基材2の内部での集光点Pの高さを変えて、2回、実施している。これに代えて、改質層形成ステップでは、レーザビームLの照射および保持テーブル43の加工送りを1回だけ実施してもよいし、3回以上実施してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1:確認用ウェーハ 2:基材 3:表面 4:裏面 5:金属箔 9:ノッチ
10:レーザ加工装置 11:基台 13:立壁部
12:レーザ加工ユニット 17:アーム部 18:加工ヘッド
53:発振部 54:集光レンズ L:レーザビーム P:集光点
B:基準位置 M1:第1のライン状加工痕 M2:第2のライン状加工痕
LD:表面損傷 T:改質層 d:オフセット距離
14:保持テーブル移動機構 20:インデックス送り部 30:加工送り部
40:保持テーブル部 43:保持テーブル
51:制御手段