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特許7417422電磁波シールド層、電磁波シールド層の製造方法及び電磁波シールドシート
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  • 特許-電磁波シールド層、電磁波シールド層の製造方法及び電磁波シールドシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】電磁波シールド層、電磁波シールド層の製造方法及び電磁波シールドシート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240111BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240111BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240111BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240111BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20240111BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B7/025
C08G73/00
C08K5/13
C08K5/42
C08L79/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019544562
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2018033944
(87)【国際公開番号】W WO2019065264
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-06-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2017187195
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関谷 隆司
(72)【発明者】
【氏名】栗原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】深津 文起
【合議体】
【審判長】山澤 宏
【審判官】山内 裕史
【審判官】野崎 大進
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-82548(JP,A)
【文献】特開2010-80911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換若しくは無置換のポリアニリンと、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体である、π共役系導電性高分子と、
m-クレゾールとを含み、かつ
金属成分を含まない、
薄膜状の電磁波シールド層であって、
前記電磁波シールド層の膜厚が、0.1mm以下であり、かつ
前記電磁波シールド層のシート抵抗Rsが、5Ω/□<Rs≦1×10Ω/□の範囲内である、電磁波シールド層。
【化9】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ以上存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記π共役系導電性高分子の含有量が1~5重量%の範囲である、請求項1に記載の電磁波シールド層。
【請求項3】
前記電磁波シールド層の膜厚が10μm以下である、請求項1又は2に記載の電磁波シールド層。
【請求項4】
前記電磁波シールド層の膜厚が5μm以下である、請求項1又は2に記載の電磁波シールド層。
【請求項5】
前記電磁波シールド層の膜厚が2.5μm以下である、請求項1又は2に記載の電磁波シールド層。
【請求項6】
前記電磁波シールド層の膜厚が100nm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の電磁波シールド層。
【請求項7】
30GHz~300GHzの周波数帯域に電磁波遮蔽性能を有する、請求項1~6のいずれかに記載の電磁波シールド層。
【請求項8】
30GHz~110GHzの周波数帯域の少なくとも一部に10dB以上の電磁波遮蔽性能を有する、請求項1~7のいずれかに記載の電磁波シールド層。
【請求項9】
70GHz~110GHzの周波数帯域全体に渡って、7dB以上の電磁波遮蔽性能を有する、請求項1~8のいずれかに記載の電磁波シールド層。
【請求項10】
70GHz~110GHzの周波数帯域全体に渡って、10dB以上の電磁波遮蔽性能を有する、請求項1~9のいずれかに記載の電磁波シールド層。
【請求項11】
シート状の基材と、
請求項1~10のいずれかに記載の電磁波シールド層と
を含む積層体からなる電磁波シールドシート。
【請求項12】
置換若しくは無置換のポリアニリンと、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子と、
m-クレゾールと、
溶媒と
を含む組成物を、電磁波遮蔽対象物の表面に塗布し、乾燥して、薄膜状の電磁波シールド層を形成する工程を含む、請求項1~10のいずれかに記載の電磁波シールド層の製造方法。
【化10】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ以上存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【請求項13】
置換若しくは無置換のポリアニリンと、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子と、
m-クレゾールと、
溶媒と
を含む組成物を、シート状の基材に塗布し、乾燥して、電磁波シールド層を積層したシートを得る工程を含む、請求項11に記載の電磁波シールドシートの製造方法。
【化11】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ以上存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート上に導電性高分子を被覆することで、高周波広帯域において高い電磁波シールド性能を発揮する電磁波シールド層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートホンやパソコン等は、通信機器としての機能が充実し、小型・軽量化が進み、処理する情報量の増加に伴い、使用する電磁波の周波数帯がGHz帯域に移行しつつある。
上記通信機器は、装置の小型化と、高速での情報処理が要求されるため、装置に内蔵される電子部品及び配線回路等が増加し、部品同士が高密度に配置される。そのため、各電子部品や配線部等から発生する電磁波ノイズが互いに干渉し合い、その影響が大きくなる。その結果、装置の誤作動や通信時間の遅れ等が生じる。
また、車載レーダーにも、ミリ波(例えば、周波数96.5GHzの電磁波)が使用されており、今後一層の普及が見込まれる。しかし、上記周波数帯域の電磁波は、送受信機内部の電子回路が、他の通信機器から発生する電磁波ノイズとの干渉を起こし易く、レーダーの誤作動を招くおそれがある。また、送受信機の小型化及び薄型化に伴う、実装部品の高密度化も誤作動の要因となっている。
【0003】
金属からなるシールド層を備えた従来の電磁波シールド材では、金属からなるシールド層の柔軟性や伸長性が十分ではない。そのため、このような電磁波シールド材を、複雑な形状の箇所に取り付ける場合には、シールド層の屈曲や伸長等によって亀裂等が発生し、亀裂等が発生した部分の電磁波シールド性が低下するおそれがあった。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献1は金属含有樹脂からなるシールド層を備えてなる電磁波シールド材を開示する。
また、特許文献2では、導電性高分子をシート状に成形した電磁波シールドシートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-69284号公報
【文献】特開2015-82548号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1の金属含有樹脂からなるシールド層を備える電磁波シールド材であっても、金属粒子や導電性フィラーを使用するため、柔軟性に乏しく、端面より粉末が析出する問題があった。
導電性高分子を用いる、特許文献2の電磁波シールドシートについては、30GHz以上の高周波帯域におけるシールド性能は検討されていない。また、特許文献2では、電磁波シールドシート(シールド層)のシート抵抗を5Ω/□以下とするために、シールド層の膜厚を0.15mm以上と厚くすることが好ましいと記載されている。
【0007】
本発明は、GHzの周波数帯において電磁波シールド性を有し、かつ柔軟性や伸長性に優れた電磁波シールド層、及び当該電磁波シールド層の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体である、π共役系導電性高分子と、
フェノール性水酸基を有する化合物とを含み、かつ
金属成分を含まない、
薄膜状の電磁波シールド層であって、
前記電磁波シールド層の膜厚が、0.1mm以下であり、かつ
前記電磁波シールド層のシート抵抗Rsが、1Ω/□<Rs≦1×10Ω/□の範囲内である、電磁波シールド層が提供される。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ以上存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0011】
本発明の第2の態様によれば、
シート状の基材と、
本発明の第1の態様による電磁波シールド層と
を含む積層体からなる電磁波シールドシートが提供される。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、前記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子と、
フェノール性水酸基を有する化合物と、
溶媒と
を含む組成物を、電磁波遮蔽対象物の表面に塗布し、乾燥して、薄膜状の電磁波シールド層を形成する工程を含むことを特徴とする電磁波シールド層の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、前記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子と、
フェノール性水酸基を有する化合物と、
溶媒と
を含む組成物を、シート状の基材に塗布し、乾燥して、電磁波シールド層を積層したシートを得る工程を含むことを特徴とする電磁波シールドシートの製造方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、GHzの周波数帯において電磁波シールド性を有し、かつ柔軟性や伸長性に優れた電磁波シールド層、及び当該電磁波シールド層の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の電磁波シールドシートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の態様の電磁波シールド層は、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体である、π共役系導電性高分子(1)と、
フェノール性水酸基を有する化合物(2)とを含み、かつ
金属成分を含まない、
薄膜状の電磁波シールド層であって、
前記電磁波シールド層の膜厚が、0.1mm以下であり、かつ
前記電磁波シールド層のシート抵抗Rsが、1Ω/□<Rs≦1×10Ω/□の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
【化2】
【0018】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0019】
電磁波シールド層は、電磁波の電界成分から誘起される電流を導電し、電磁波をシールドすることができる。
電磁波シールド層は、金属成分を含まないことで、柔軟性及び伸長性に優れる。
尚、金属成分とは、金属の粉体、繊維等を意味し、ドーパント等が含みうる金属イオンを含まない。
【0020】
本発明の第2の態様の電磁波シールドシートは、
シート状の基材と、
上記電磁波シールド層と
を含む積層体からなる。
【0021】
電磁波シールドシートは、第1の態様の電磁波シールド層と基材との積層体であり、第1の態様の電磁波シールド層を有する物品の一形態であり、電子機器の一部材となり得る。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態の電磁波シールドシート(1)の模式図を示す。
電磁波シールドシート(1)には、さらに保護層(30)、粘着層(40)等が積層されていてもよい。例えば、図1に示すような、保護層(30)/電磁波シールド層(20)/基材(10)/粘着層(40)の4層構造からなる積層体等が挙げられる。
保護層の材料としては、例えばポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、シリコーン系、フッ素系、ポリエチレン系、スチレンブタジエン系、ニトリルブタジエン系、エポキシ系等の合成樹脂を例示することができる。また、保護層の厚みは、例えば0.5~80μmとすることができる。
粘着層の材料としては、ウレタン系ホットメルト樹脂、アクリル系粘着樹脂等を例示することができる。また、粘着層の厚みは、例えば10~100μmとすることができる。
【0023】
電磁波シールド層は、塗布形成することができるため、膜厚を0.1mm以下と薄くすることができる。膜厚が薄いため、簡便な塗布プロセスのみで製造することができる。
一実施形態においては、電磁波シールド層のシート抵抗Rsは、5Ω/□<Rs≦1×10Ω/□の範囲内である。
一実施形態においては、電磁波シールド層の膜厚は、10μm以下である。
一実施形態においては、電磁波シールド層の膜厚は、5μm以下である。
一実施形態においては、電磁波シールド層の膜厚は、2.5μm以下である。
一実施形態においては、電磁波シールド層の膜厚は、1.5μm以下である。
電磁波シールド層の膜厚の下限は特に限定されないが、例えば、100nm以上である。膜厚が100nm未満では、ピンホールが生じたり、十分な電磁波遮蔽性能が得られないおそれがある。
電磁波シールド層の膜厚は、例えば、接触式の膜厚計、又は集束イオンビーム加工観察装置を用いた断面観察像から測定できる。これら2つの膜厚の測定方法では、測定自体が適正に行われるならば、同じ膜厚が得られる。但し、接触式の膜厚計は、針が基材に触れるため、ガラス基板など硬い平板状の基材上に電磁波シールド層が形成されている場合であれば適正に測定できる。しかし、電磁波シールド層がその上に形成されている基材が柔軟である場合や、平板状ではない(基材自体が変形している)場合には、接触式の膜厚計では適正な測定が困難である。このような場合には、集束イオンビーム加工観察装置を用いた断面観察像による測定方法を用いることが好ましい。例えば、基材がPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等のプラスチックである場合には、収束イオンビーム加工観察装置を用いることが好ましい。
【0024】
電磁波シールド層のシート抵抗Rsは、1Ω/□<Rs≦1×10Ω/□の範囲内である。シート抵抗Rsが上記範囲内であることにより、GHzの周波数帯域において電磁波遮蔽性能が得られる。
電磁波シールド層のシート抵抗Rsの下限は、5Ω/□<Rsであることが好ましく、上限は、Rs≦100Ω/□であることが好ましく、Rs≦50Ω/□であることがより好ましい。
電磁波シールド層のシート抵抗Rsは、ポリアニリンの分子量や、グラフェン等のその他の成分の添加によって調節することができる。
電磁波シールド層のシート抵抗Rsは、JIS K-7194に準拠して市販の抵抗率計を用いて測定する。
【0025】
一実施形態においては、電磁波シールド層は、30GHz~300GHzの周波数帯域に電磁波遮蔽性能を有する。
「電磁波遮蔽性能を有する」とは、電磁波の伝送線路内に遮蔽材を挿入した場合に、入射波に対して透過波が小さくなることを意味する。
「電磁波遮蔽性能」は、伝送線路を用いた透過係数測定により評価される。入射する電磁波の電界、磁界を各々Ei、Hi、透過波をEt、Htで表した場合に、入射波と透過波の比である透過係数Tは、以下のように定義される。
T=Et/Ei 若しくは T=Ht/Hi
遮蔽材の効果は、dB(デシベル)単位で表されることが多く、
遮蔽量[dB]=20log10|1/T|=20log10|Ei/Et| 若しくは
遮蔽量=20log10|Hi/Ht|
となる。
遮蔽量は、5dB以上が好ましく、7dB以上がより好ましく、10dB以上がさらに好ましい。
【0026】
一実施形態においては、電磁波シールド層は、30GHz~110GHzの周波数帯域の少なくとも一部に10dB以上の電磁波遮蔽性能を有する。
一実施形態においては、電磁波シールド層は、70GHz~110GHzの周波数帯域全体に渡って、7dB以上の電磁波遮蔽性能を有する。
一実施形態においては、電磁波シールド層は、70GHz~110GHzの周波数帯域全体に渡って、10dB以上の電磁波遮蔽性能を有する。
【0027】
電磁波シールド層の電磁波遮蔽性能、即ち、遮蔽量は、フリースペース法により評価することができる。
【0028】
本発明の第3の態様に係る電磁波シールド層の製造方法は、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、前記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子(1)と、
フェノール性水酸基を有する化合物(2)と、
溶媒(3)と
を含む組成物を、電磁波遮蔽対象物の表面に塗布し、乾燥して、薄膜状の電磁波シールド層を形成する工程を含む。
【0029】
本発明の第4の態様に係る電磁波シールドシートの製造方法は、
置換若しくは無置換のポリアニリンと、前記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体であるπ共役系導電性高分子(1)と、
フェノール性水酸基を有する化合物(2)と、
溶媒(3)と
を含む組成物を、シート状の基材に塗布し、乾燥して、電磁波シールド層を積層したシートを得る工程を含む。
【0030】
電磁波シールド層は、π共役系導電性高分子(1)、フェノール性水酸基を有する化合物(2)及び溶媒(3)を含む組成物を、電磁波遮蔽対象物の表面や基材に塗布して形成される。
π共役系導電性高分子(1)は、溶媒に溶解可能であるため、これを溶媒(3)に溶解した組成物として塗布可能である。上記組成物は液状であり、様々な形状を有する電磁波遮蔽対象物の表面や各種形状の基材上に例えば、スプレー等の適切な手段を用いて直接塗布することもできるため、電磁波遮蔽対象物や基材の選択肢を広げることが可能である。
【0031】
例えば、電磁波シールド層を形成する組成物(以下、電磁波シールド層形成用組成物という)を、所望の形状を有するガラスや樹脂フィルム、シート、不織布等の電磁波シールドしたい対象(電磁波遮蔽対象物)の表面に塗布し、塗膜中の溶媒を除去することによって、電磁波シールド層を製造することができる。
また、シート状の基材に電磁波シールド層を積層した電磁波シールドシートを真空成型や圧空成形等の公知の方法により所望の形状に加工することにより、導電性物品を製造することができる。成形の観点から、シート状の基材は、樹脂フィルム又はシート、不織布が好ましい。
【0032】
組成物の電磁波遮蔽対象物の表面又は基材への塗布方法としては、キャスト法、スプレー法、ディップコート法、ドクターブレード法、バーコート法、スピンコート法、エレクトロスピニング法、スクリーン印刷、グラビア印刷法等、公知の方法を用いることができ、好ましくはキャスト法である。
【0033】
電磁波シールドしたい対象(電磁波遮蔽対象物)の表面に、電磁波シールドシートを形成する組成物を直接スプレー等適切な手法を用いて、塗工することでシールド対象に電磁波シールドシート層を形成することができる。
【0034】
組成物を塗布して得られる塗膜を乾燥する際、溶媒の種類によっては、塗膜を加熱してもよい。例えば、空気気流下250℃以下、好ましくは50以上200℃以下の温度で加熱し、さらに、必要に応じて、減圧下に加熱する。加熱温度及び加熱時間は、特に制限されず、用いる材料に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
上記電磁波シールド層形成用組成物は、上記成分(1)~(3)を含み、さらに、耐熱安定化剤(4)及びその他の成分(5)を含んでもよい。
【0036】
尚、上記組成物を塗布して形成した塗膜を乾燥することにより、当該塗膜中の溶媒(3)は塗膜から揮発する。そのため、電磁波シールド層は、上記溶媒(3)を実質的に含まない。ここで「実質的に含まない」とは、電磁波シールド層が、揮発しきれずに残ったわずかな溶媒を含んでいてもよいことを意味する。
【0037】
以下、上記組成物の各成分について説明する。
(1)π共役系導電性高分子
π共役系導電性高分子(1)は、置換若しくは無置換のポリアニリン分子と、下記式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体との複合体(以下、「置換若しくは無置換のポリアニリン複合体」又は「ポリアニリン複合体」と呼ぶことがある)であり、溶媒に溶解可能である。
【0038】
「置換若しくは無置換のポリアニリン分子」は、置換若しくは無置換のアニリン(単量体)が重合した重合体を意味し、本明細書では、「置換若しくは無置換のポリアニリン分子」を「ポリアニリン分子」と略称することがある。
「置換若しくは無置換のポリアニリン複合体」は、「置換若しくは無置換のポリアニリン分子」と、後述する「式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体」との複合体であり、本明細書では、「ポリアニリン複合体」と略称することがある。
【0039】
一実施形態においては、ポリアニリン分子は、好ましくは重量平均分子量(以下、分子量という)が10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは30,000以上1,000,000以下であり、さらに好ましくは40,000以上1,000,000以下であり、特に好ましくは52,000以上1,000,000以下、70,000以上1,000,000以下である。
ポリアニリン分子の重量平均分子量が10,000未満であると、当該ポリアニリン分子を含む組成物から得られる電磁波シールド層及び当該電磁波シールド層を有する導電性物品の強度や延伸性が低下するおそれがある。
ここで、上記の重量平均分子量はポリアニリン複合体の分子量ではなく、ポリアニリン分子の分子量である。
【0040】
ポリアニリン分子の分子量分布は、好ましくは1.5以上20.0以下であり、より好ましくは1.5以上5.0以下であり、さらに好ましくは1.5以上4.5以下であり、特に好ましくは1.5以上4.0以下であり、最も好ましくは1.5以上3.6以下である。ここで、上記の分子量分布は、上記と同様に、ポリアニリン複合体の分子量分布ではなく、ポリアニリン分子の分子量分布である。
分子量分布は重量平均分子量/数平均分子量で表わされる値であり、導電率の観点から、分子量分布は小さい方が好ましい。また、上記重量平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定できるポリスチレン換算値として得られる。
【0041】
置換ポリアニリンの置換基としては、例えばメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基(-CF基)等のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。
ポリアニリン分子は、汎用性及び経済性の観点から無置換のポリアニリン分子が好ましい。
【0042】
π共役系導電性高分子(1)は、置換若しくは無置換のポリアニリン分子にドーパントがドープされた複合体である。ここで、ドーパントとしては、式(III)で表されるスルホコハク酸誘導体を使用する。
【化3】
【0043】
(式(III)中、Mは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基であり、m’はMの価数である。
13及びR14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R15O)-R16で表わされる基である。m’が2以上のとき、複数存在するR13及びR14は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
15は、2価の炭化水素基又は-Si(R18-基であり、R16は水素原子、炭化水素基又はR17 Si-で表わされる基であり、rは1以上の整数である。rが2以上のとき、複数存在するR15は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
17は、炭化水素基である。3つ存在するR17は、互いに同一の炭化水素基であってもよいし、異なっていてもよい。
18は、水素原子、又は炭化水素基である。2つ以上存在するR18は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0044】
Mの上記有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基が挙げられる。また、上記無機遊離基としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及び鉄イオンが挙げられる。
13及びR14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、鎖状若しくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状若しくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基等が挙げられる。例えば、炭素数1~24、好ましくは炭素数4以上24以下の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基が挙げられる。
具体的には、直鎖若しくは分岐状のブチル基、直鎖若しくは分岐状のペンチル基、直鎖若しくは分岐状のヘキシル基、直鎖若しくは分岐状のオクチル基、直鎖若しくは分岐状のデシル基が挙げられる。好ましくは、直鎖若しくは分岐状のオクチル基である。ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、デシル基がより好ましく、さらに好ましくは、2-エチルヘキシル基である。
13及びR14において、R15が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、例えば炭素数1~24の直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基である。また、R13及びR14において、R16、R17及びR18が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。
rは、1~10であることが好ましい。
【0045】
13及びR14が-(R15O)-R16基である場合の式(III)で表わされる化合物の具体例としては、下記式で表わされる2つの化合物が挙げられる。
【化4】
(式中、XはSO である。)
【0046】
上記ドーパントはその構造を変えることにより、ポリアニリン複合体の導電性や、溶媒への溶解性をコントロールできることが知られている(特許第3384566号)。本発明においては、用途毎の要求特性によって最適なドーパントを選択できる。
式(III)で示される化合物(ドーパント)としては、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸イオン、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムが好ましく、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸イオンがより好ましい。
【0047】
ポリアニリン複合体のドーパントが、置換若しくは無置換のポリアニリンにドープしていることは、紫外・可視・近赤外分光法やX線光電子分光法によって確認することができ、当該ドーパントは、ポリアニリンにキャリアを発生させるのに十分な酸性を有していれば、特に化学構造上の制限なく使用できる。
【0048】
ポリアニリン複合体は、周知の製造方法で製造することができるが、例えば、ドーパント、リン酸、及びドーパントとは異なる乳化剤を含み、2つの液相を有する溶液中で、置換若しくは無置換のアニリンを化学酸化重合することにより製造できる。また、置換若しくは無置換のアニリン、ドーパント、リン酸、及びドーパントとは異なる乳化剤を含み、2つの液相を有する溶液中に、酸化重合剤を加えることにより製造できる。
尚、乳化剤は、後述する転相を防ぐ役割を担っていると考えられる。ドーパント及びリン酸を含み2つの液相を有する溶液中で、置換若しくは無置換のアニリンを化学酸化重合してポリアニリン複合体を製造すると、リン酸ではなく塩酸を用いていた場合に比べて、低分子量成分が増えてしまう。ここでリン酸を用いた際の重合中の様子から、上記2つの液相は重合中に転相を起こしていると考えられる。そして、この転相が低分子量成分を増加させる理由と考えられる。この転相という現象は、連続相であった液相が分散相へ、分散相であった他方の液相が連続相へ変化する現象である。
【0049】
ここで「2つの液相を有する溶液」とは、溶液中に相溶しない2つの液相が存在する状態を意味する。例えば、溶液中に「高極性溶媒の相」と「低極性溶媒の相」が存在する状態を意味する。
また、「2つの液相を有する溶液」は、片方の液相が連続相であり、他方の液相が分散相である状態も含む。例えば「高極性溶媒の相」が連続相であり「低極性溶媒の相」が分散相である状態、及び「低極性溶媒の相」が連続相であり「高極性溶媒の相」が分散相である状態が含まれる。
【0050】
ポリアニリン複合体の製造方法に用いる高極性溶媒としては、水が好ましく、低極性溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0051】
上記乳化剤は、親水性部分がイオン性であるイオン性乳化剤、及び親水性部分が非イオン性である非イオン性乳化剤のどちらでも使用でき、また、1種又は2種以上の乳化剤を混合して使用してもよい。
【0052】
イオン性乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤及び双性乳化剤が挙げられる。
アニオン性乳化剤(陰イオン乳化剤)の具体例としては、脂肪酸、不均化ロジン石けん、高級アルコールエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、アルケニルコハク酸、ザルコシネート、及びそれらの塩が挙げられる。
カチオン性乳化剤(陽イオン乳化剤)の具体例としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩が挙げられる。双性乳化剤(両イオン乳化剤)の具体例としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アミノ酸型、アミンオキサイド型が挙げられる。
非イオン乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレングリセロールボレート脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0053】
上記乳化剤のうち、アニオン性乳化剤及び非イオン乳化剤が好ましい。
アニオン性乳化剤としては、リン酸エステル構造を有するアニオン性乳化剤がさらに好ましい。また、非イオン乳化剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル構造を有する非イオン乳化剤がさらに好ましい。
【0054】
ドーパントの使用量は、アニリン単量体1molに対して、好ましくは0.1~0.5molであり、より好ましくは0.3~0.45molであり、さらに好ましくは0.35~0.4molである。
ドーパントの使用量が当該範囲より多い場合、重合終了後に例えば「高極性溶媒の相」と「低極性溶媒の相」を分離することができないおそれがある。
【0055】
リン酸の使用濃度は、高極性溶媒に対して0.3~6mol/Lであり、より好ましくは1~4mol/Lであり、さらに好ましくは1~2mol/Lである。
【0056】
乳化剤の使用量は、アニリン単量体1molに対して好ましくは0.001~0.1molであり、より好ましくは0.002~0.02molであり、さらに好ましくは0.003~0.01molである。
乳化剤の使用量が当該範囲より多い場合、重合終了後に「高極性溶媒の相」と「低極性溶媒の相」を分離することができないおそれがある。
【0057】
化学酸化重合に用いる酸化剤(以下、酸化重合剤という場合がある)としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素のような過酸化物;二クロム酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、硫酸カリウム鉄(III)、三塩化鉄(III)、二酸化マンガン、ヨウ素酸、過マンガン酸カリウム、あるいはパラトルエンスルホン酸鉄等が使用でき、好ましくは過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
これら酸化剤は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
酸化剤の使用量は、アニリン単量体1molに対して好ましくは0.05~1.8molであり、より好ましくは0.8~1.6molであり、さらに好ましくは1.2~1.4molである。酸化剤の使用量を当該範囲とすることで、十分な重合度が得られる。また、アニリンが十分に重合しているので、分液回収が容易であり、また重合体の溶解性が低下するおそれもない。
重合温度は通常-5~60℃で、好ましくは-5~40℃である。また、重合温度は重合反応の途中に変えてもよい。重合温度が当該範囲であることで、副反応を回避することができる。
【0059】
ポリアニリン複合体は、具体的には以下の方法で製造することができる。
ドーパント及び乳化剤をトルエンに溶解した溶液を、窒素等の不活性雰囲気の気流下においたセパラブルフラスコに入れ、さらにこの溶液に、アニリンを加える。その後、塩素を含まないリン酸を溶液に添加し、溶液温度を冷却する。
溶液内温を冷却した後、撹拌を行う。過硫酸アンモニウムをリン酸に溶解した溶液を、滴下ロートを用いて滴下し、反応させる。その後、溶液温度を上昇させ、反応を継続する。反応終了後、静置することで二相に分離した水相側を分液する。有機相側にトルエンを追加し、リン酸及びイオン交換水で洗浄を行うことでポリアニリン複合体(プロトネーションされたポリアニリン)のトルエン溶液が得られる。
得られたポリアニリン複合体のトルエン溶液に含まれる若干の不溶物を除去し、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を得る。この溶液をエバポレーターに移し、加温及び減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、ポリアニリン複合体が得られる。
【0060】
また、予めポリアニリン分子を製造した後、ポリアニリン分子にドーパントをドープしてポリアニリン複合体(プロトネーションされたポリアニリン)を製造することもできる。
ポリアニリン複合体の原料であるポリアニリン分子は、周知の方法で製造することができる。具体例として、特開平3-28229に記載の製造方法が挙げられる。プロトン酸の存在下、溶媒中にてアニリンの温度を例えば5℃以下に保持しつつ、酸化剤の水溶液をアニリン1モル当りに、酸化剤の1モルを、酸化剤1分子を還元するのに必要な電子数で割った量として定義される当量で、例えば2当量以上、徐々に加えて、上記プロトン酸にてドーピングされたアニリンの酸化重合体を生成させ、次いで、この重合体を塩基性物質によって脱ドーピングすることによって製造することができる。
また、先に述べたポリアニリン複合体を1M水酸化ナトリウム水溶液と混合して脱ドープしたポリアニリン粉末を作り、NMP(N-メチルピロリドン)に溶解させることにより、ポリアニリン分子の溶液を製造することができる。
ポリアニリン粉末又はポリアニリン粉末を溶媒に溶解した溶液を用いて、プロトネーションされたポリアニリン複合体を製造することができる。
【0061】
電磁波シールド層形成用組成物におけるπ共役系導電性高分子(1)(即ち、ポリアニリン複合体)の含有量は、好ましくは0.5重量%~10重量%であり、より好ましくは1重量%~5重量%である。
組成物中のπ共役系導電性高分子(1)の含有量が上記範囲にあることで、例えば電磁波シールド層の厚みを0.1mm以下とすることができる。
【0062】
(2)フェノール性水酸基を有する化合物
電磁波シールド層形成用組成物は、フェノール性水酸基を有する化合物(2)を含む。組成物がフェノール性水酸基を有する化合物(2)を含むことで、π共役系導電性高分子(1)の溶媒(3)への溶解性を向上させることができる。
フェノール性水酸基を有する化合物(2)とは、フェノール性水酸基を1つ有する化合物、フェノール性水酸基を複数有する化合物、及びフェノール性水酸基を1つ又は複数有する繰り返し単位から構成される高分子化合物である。
【0063】
フェノール性水酸基を1つ有する化合物としては、好ましくは下記式(A)、(B)及び(C)で表わされる化合物である。
【0064】
【化5】
【0065】
(式(A)中、R101は、炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
n1は1~5の整数であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1である。n1が2以上のとき、複数存在するR101は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0066】
式(A)で表されるフェノール性化合物において、-OR101の置換位置はフェノール性水酸基に対し、メタ位、又はパラ位であることが好ましい。-OR101の置換位置をメタ位又はパラ位とすることにより、フェノール性水酸基の立体障害が低減され、組成物から得られる電磁波シールド層の導電性をより高めることができる。
【0067】
式(A)で表わされるフェノール性化合物の具体例としては、メトキシフェノール(例えば4-メトキシフェノール)、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、イソプロポキシフェノール、ブチルオキシフェノール、イソブチルオキシフェノール、ターシャルブチルオキシフェノールが挙げられる。
【0068】
【化6】
【0069】
(式(B)中、R102は、炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基、アルキルチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基である。
n2は0~7の整数であり、好ましくは0~3であり、より好ましくは1である。n2が2以上のとき、複数存在するR102は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
式(B)で表わされるフェノール性化合物の具体例としては、ヒドロキシナフタレンが挙げられる。
【0070】
【化7】
【0071】
(式(C)中、R103は、炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基、アルキルチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、ハロゲン原子又はカルボキシ基である。
n3は1~5の整数であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1である。n3が2以上のとき、複数存在するR103は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0072】
式(C)で表わされる化合物の具体例としては、o-,m-若しくはp-クレゾール、o-,m-若しくはp-エチルフェノール、o-,m-若しくはp-プロピルフェノール(例えば4-イソプロピルフェノール)、o-,m-若しくはp-ブチルフェノール、o-,m-若しくはp-ペンチルフェノール(例えば、4-tert-ペンチルフェノール)、o-,m-若しくはp-クロロフェノール、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
【0073】
式(A)、(B)及び(C)のR101~R103について、炭素数1~20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャルブチル等が挙げられる。
アルケニル基としては、上述したアルキル基の分子内に不飽和結合を有する基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキサニル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
アルキルアリール基、及びアリールアルキル基としては、上述したアルキル基とアリール基を組み合わせて得られる基等が挙げられる。
【0074】
フェノール性水酸基を複数有する化合物の具体例としては、カテコール、レゾルシノール、及び下記式(D)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
【化8】
【0076】
(式(D)中、R104は炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基、ハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基、-SH基、スルホン酸基、又は水酸基である。
n4は0~6の整数である。n4が2以上のとき、複数存在するR104は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0077】
式(D)で表わされるフェノール性水酸基を有する化合物の2つのフェノール性水酸基は、互いに隣接しないナフタレン環上の位置に置換していることが好ましい。
また、式(D)で表されるフェノール性水酸基を有する化合物の具体例としては、1,6-ナフタレンジオール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオールが挙げられる。
【0078】
フェノール性水酸基を1つ又は複数有する繰り返し単位から構成される高分子化合物の具体例としては、フェノール樹脂、ポリフェノール、ポリ(ヒドロキシスチレン)が挙げられる。
【0079】
電磁波シールド層形成用組成物中のフェノール性水酸基を有する化合物(2)の含有量は、好ましくは5~60重量%であり、より好ましくは15~40重量%である。
フェノール性水酸基を有する化合物(2)の含有量が上記範囲にあることで、得られる電磁波シールド層中に溶媒が残存・析出することを防ぐことができる。
【0080】
(3)溶媒
電磁波シールド層形成用組成物に含まれる溶媒(3)としては、有機溶媒でも水等の無機溶媒でもよく、また1種のみでも2種以上の混合溶媒でもよい。好ましくは有機溶媒である。
また、有機溶媒は、水溶性有機溶媒でもよいし、実質的に水に混和しない有機溶媒(水不混和性有機溶媒)であってもよい。
電磁波シールド層形成用組成物に含まれる溶媒(3)には、π共役系導電性高分子(1)である、ポリアニリン複合体の製造に用いた溶媒の一部又は全部が持ち込まれてもよい。
【0081】
上記水溶性有機溶媒は、プロトン性極性溶媒でも非プロトン性極性溶媒でもよく、例えば、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;Nメチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0082】
上記水不混和性有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等の含ハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類溶媒;シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類溶媒等が挙げられる。これらの中では溶解性に優れる点でトルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、クロロホルム、トリクロロエタン及び酢酸エチルが好ましい。
【0083】
水溶性有機溶媒と水不混和性有機溶媒を組み合わせて、2種以上の混合溶媒としてもよい。例えば、溶媒(3)としてトルエン、イソプロピルアルコール及びメチルイソブチルケトンを使用する場合、組成物に含まれる溶媒の合計量を100重量%としたときに、それぞれ20~50重量%、0.1~15重量%及び0.1~40重量%とすることができる。
【0084】
(4)耐熱安定化剤
耐熱安定化剤とは、酸性物質又は酸性物質の塩であり、酸性物質は有機酸(有機化合物の酸)、無機酸(無機化合物の酸)のいずれでもよい。
耐熱安定化剤である酸性物質は、好ましくは有機酸であり、より好ましくはスルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、又はホスホン酸基を1以上有する有機酸であり、さらに好ましくは、スルホン酸基を1以上有する有機酸である。耐熱安定剤である酸性物質の塩としては、これら酸性物質の塩が挙げられる。
【0085】
上記スルホン酸基を1以上有する有機酸は、好ましくはスルホン酸基を1以上有する、環状、鎖状若しくは分岐のアルキルスルホン酸、置換若しくは無置換の芳香族スルホン酸、又はポリスルホン酸である。
上記アルキルスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ジ2-エチルヘキシルスルホコハク酸が挙げられる。ここでのアルキル基は、好ましくは炭素数が1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
上記芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼン環を有するスルホン酸、ナフタレン骨格を有するスルホン酸、アントラセン骨格を有するスルホン酸、置換若しくは無置換のベンゼンスルホン酸、置換若しくは無置換のナフタレンスルホン酸及び置換若しくは無置換のアントラセンスルホン酸が挙げられ、好ましくは置換若しくは無置換のナフタレンスルホン酸である。具体例としては、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸が挙げられる。
ここで芳香族スルホン酸の置換基は、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、及びアシル基からなる群から選択される基であり、2以上置換していてもよい。
上記ポリスルホン酸は、高分子鎖の主鎖又は側鎖に複数のスルホン酸基が置換した高分子化合物である。例えば、ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。
【0086】
上記カルボキシ基を1以上有する有機酸は、好ましくはカルボキシ基を1以上有する、環状、鎖状若しくは分岐のアルキルカルボン酸、置換若しくは無置換の芳香族カルボン酸、又はポリカルボン酸である。
上記アルキルカルボン酸としては、例えばウンデシレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、2-エチルヘキサン酸が挙げられる。ここでアルキル基は好ましくは炭素数が1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
上記置換若しくは無置換の芳香族カルボン酸としては、例えば、置換若しくは無置換のベンゼンカルボン酸及びナフタレンカルボン酸が挙げられる。ここで置換基は、例えば、スルホン酸基、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、及びアシル基からなる群から選択される基であり、2以上置換していてもよい。具体例としては、安息香酸、ナフトエ酸、トリメシン酸が挙げられる。
【0087】
上記リン酸基又はホスホン酸基を1以上有する有機酸は、好ましくはリン酸基又はホスホン酸基を1以上有する環状、鎖状若しくは分岐のアルキルリン酸若しくはアルキルホスホン酸;置換若しくは無置換の芳香族リン酸若しくは芳香族ホスホン酸;ポリリン酸若しくはポリホスホン酸である。
上記アルキルリン酸又はアルキルホスホン酸としては、例えば、ドデシルリン酸、及びリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)が挙げられる。ここでアルキル基は好ましくは炭素数が1~18の直鎖又は分岐のアルキル基である。
上記芳香族リン酸及び芳香族ホスホン酸としては、置換若しくは無置換のベンゼンスルホン酸又はホスホン酸、及びナフタレンスルホン酸又はホスホン酸等が挙げられる。ここで置換基は、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、及びアシル基からなる群から選択される基であり、2以上置換していてもよい。例えば、フェニルホスホン酸が挙げられる。
【0088】
電磁波シールド層形成用組成物は、耐熱安定化剤である酸性物質及び/又は酸性物質の塩を2つ以上含んでもよい。具体的には、異なる複数の酸性物質及び/又は異なる複数の酸性物質の塩を含んでいてもよい。
電磁波シールド層形成用組成物中の耐熱安定化剤の含有量は、好ましくは0.1重量%~3.0重量%である。
【0089】
(5)その他成分
電磁波シールド層形成用組成物は、例えば90%重量以上、95重量%以上、99重量%以上、100重量%がπ共役系導電性高分子(1)、フェノール性水酸基を有する化合物(2)及び溶媒(3)からなっていることが好ましい。さらに、耐熱安定化剤(4)及び/又は、樹脂や添加剤等のその他の成分(5)を含んでもよい。
【0090】
樹脂は、例えば、バインダー基剤、可塑剤、マトリックス基剤として添加される。
樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、及びポリビニルアルコールが挙げられる。
また上記樹脂の代わりに、また上記樹脂と共に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、又はこれら熱硬化性樹脂を形成し得る前駆体を含んでもよい。
【0091】
電磁波シールド層形成用組成物は、その他の成分(5)として、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素繊維等の成分や、磁性粒子等の透磁率の高い成分を含んでいてもよい。
【0092】
上記成分を含む組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法で調製することができ、例えばWO05/052058に開示の方法により調製することができる。
【0093】
電磁波シールド層及び電磁波シールドシートは、柔軟性に優れ、電子機器のハウジングやガスケット、壁材、カーテン、ブラインダー、車載機器等の用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0094】
実施例1
[ポリアニリン複合体の製造]
1,000mLセパラブルフラスコにネオコールSWC(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム:第一工業製薬製)32.4g、アニリン13.3g及びソルボンT-20(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル構造を有する非イオン乳化剤:東邦化学工業株式会社製)0.9gを入れ、トルエン320.4gにて溶解させた。そこに8.4重量%リン酸水溶液450gを加え、トルエンと水の2つの液相を有する反応液を撹拌し、反応液の内温を5℃まで冷却した。反応液の内温を5℃に到達した時点で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム(APS)39.3gを8.4重量%リン酸水溶液90.2gに溶解した溶液を滴下漏斗を用いて1時間かけて滴下した。滴下終了後、溶液内温を5℃に保ったままさらに8時間撹拌した(合計反応時間9時間)。
撹拌停止後、分液漏斗に内容物を移し、水層とトルエン層を静置分離した。分離後、有機層を1Mリン酸水溶液180.3gで1回、イオン交換水328.0gで5回洗浄することにより、ポリアニリン複合体トルエン溶液を得た。
【0095】
得られた溶液をNo.2の濾紙にて濾過することで不溶分を除去し、ポリアニリン複合体のトルエン溶液を得た。この溶液を、エバポレーターに移し、60℃で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、ポリアニリン複合体(プロトネーションされたポリアニリン)を得た。
【0096】
[塗布用ポリアニリン溶液(電磁波シールド層形成用組成物)の製造]
トルエン92g、イソプロピルアルコール3gを混合した溶媒に、上記で得られたポリアニリン複合体5gを溶解させた。次に、その溶解させた溶液6gに対して、m-クレゾール4gを混合し、塗布用ポリアニリン溶液10gを得た。
【0097】
[電磁波シールドシートの作製と評価]
得られた塗布用ポリアニリン溶液をPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャインA4300)に、バーコーター(テスター産業株式会社製PI-1210R)を用いて塗工した。この際、バーコーターのバーロッドの番手はNo.22を用いた。塗工後、110℃で15分間乾燥を行い、ポリアニリン塗工シートとした。
乾燥後のポリアニリン塗膜(電磁波シールド層)の厚さは、集束イオンビーム加工観察装置(日立ハイテクノロジーズ製FB-2100)を用いた断面観察像から計測した。
また、得られた電磁波シールドシートの電磁波遮蔽性能の評価は、フリースペース法によって実施した。
電磁波シールド層のシート抵抗Rsは、抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製「MCP-T610」)を用いて、JIS K-7194に準拠して測定した。
結果を表1に示す。
【0098】
実施例2
反応液の内温を-5℃に変更し、リン酸水溶液を17重量%に変更した以外は、実施例1と同様の反応を行い、ポリアニリン複合体を得た。
【0099】
トルエン92g、イソプロピルアルコール3gを混合した溶媒に、上記で得られたポリアニリン複合体5gを溶解させた。次に、その溶解させた溶液6gに対して、m-クレゾール4gを混合し、塗布用ポリアニリン溶液10gを得た。
得られた塗布用ポリアニリン溶液を用いて、実施例1と同様に電磁波シールドシートを作製し、電磁波遮蔽性能を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
実施例3
実施例2と同様にして、ポリアニリン複合体を得た。
トルエン92g、イソプロピルアルコール3gを混合した溶媒に、上記で得られたポリアニリン複合体5gを溶解させた。次に、その溶解させた溶液7gに対して、m-クレゾール3gを混合し、塗布用ポリアニリン溶液10gを得た。
得られた塗布用ポリアニリン溶液を用いて、バーコーターのバーロッドの番手をNo.100に変更し、塗布厚を大きくなるようにし、電磁波シールドシートを作製し、電磁波遮蔽性能を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
比較例1
トルエン92g、イソプロピルアルコール3gを混合した溶媒に、実施例1で得られたポリアニリン複合体5gを溶解させ、そのまま塗布用ポリアニリン溶液とした。
得られた塗布用ポリアニリン溶液を用いて、実施例1と同様に電磁波シールドシートを作製し、電磁波遮蔽性能を評価した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。
図1