(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ウェーハの生成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
H01L21/304 643D
(21)【出願番号】P 2020081276
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】邱 暁明
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102676(JP,A)
【文献】特開2018-160578(JP,A)
【文献】特開2020-44460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c軸と該c軸に直交するc面とを有する単結晶SiCインゴットからウェーハを生成するウェーハの生成方法であって、
単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線を、該単結晶SiCインゴットの平坦な端面から照射し、該レーザー光線の集光点を、該単結晶SiCインゴットにおける生成すべきウェーハの厚みに相当する深さであるウェーハ深さに位置づけること、および、該単結晶SiCインゴットと該集光点とを該端面に平行な方向に相対的に移動することによって、改質部と、該改質部から該c面に等方的に形成されるクラックとを含む剥離層を形成する剥離層形成工程と、
該単結晶SiCインゴットのウェーハが生成される側の該端面に向かって、超音波水噴射ノズルから、超音波振動を伝播させた超音波水を噴射すること、および、該単結晶SiCインゴットと該超音波水噴射ノズルとを、該端面に平行な方向に相対的に移動させることにより、該剥離層を界面としてウェーハを剥離することによって、ウェーハを生成するウェーハ生成工程と、
を少なくとも含む、ウェーハの生成方法。
【請求項2】
該単結晶SiCインゴットでは、該c軸が該端面の垂線に対してオフ角だけ傾いており、該c面と該端面とのなす角度が該オフ角であり、
該剥離層形成工程は、
該端面から照射された該レーザー光線における該集光点を、該オフ角が形成される方向である第1方向と直交する第2方向に沿って直線移動することにより、該改質部および該クラックを含む該剥離層を該第2方向に沿って連続的に形成すること、および、該第1方向に、該クラックの幅を超えない範囲で該単結晶SiCインゴットと該集光点とを相対的にインデックス送りすること、を交互に繰り返すことにより、該第2方向に沿う複数の該剥離層を順次生成することを含む、
請求項1記載のウェーハの生成方法。
【請求項3】
該ウェーハ生成工程に用いられる該超音波水噴射ノズルは、
高周波電力を受けて超音波振動を発振するドーム型の超音波振動板と、
該超音波振動板の外周から外に張り出した円環状板と、
該円環状板を支持し、該超音波振動板の凹んだ面側に水を溜める水溜部と、該水溜部に水を供給する水供給口と、該超音波振動板の凹んだ面に対向し該水溜部の水を噴射する噴射口と、を備え、
該ウェーハ生成工程は、該超音波振動板に高周波電力を供給することによって該超音波振動板から発振される超音波振動の集束点を、該噴射口に形成することを含む、
請求項1記載のウェーハの生成方法。
【請求項4】
該ウェーハ生成工程において剥離されたウェーハを、単結晶SiCインゴットから離間手段によって離間させる離間工程、および、
該ウェーハの剥離面を該超音波水噴射ノズルを用いて洗浄する洗浄工程、をさらに含む、
請求項1記載のウェーハの生成方法。
【請求項5】
該超音波振動板に供給される高周波電力の周波数は、20kHz~1MHzである、
請求項3記載のウェーハの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2に開示の技術では、SiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線を、SiCインゴットに照射する。これにより、SiCインゴットの一方の面からウェーハの厚みに相当する深さの部分に、改質部と改質部から延びたクラックとを含む剥離層を形成する。さらに、剥離層を起点にする剥離を実施することによって、SiCウェーハが生成される。
【0003】
剥離は、剥離層に超音波振動を伝達し、剥離層を連結させることによって可能となる。このように、剥離層に超音波振動を伝達させるために、剥離層を形成した後、SiCインゴットの一方の面を水没させ、超音波振動板から発振される超音波振動を、水を介して、SiCインゴットの一方の面から剥離層に伝達させる。これによってウェーハを剥離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-133485号公報
【文献】特開2019-096751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の剥離方法では、SiCインゴットの一方の面を水没させて、SiCインゴットの一方の面の全面に対して同時に超音波振動を伝達させるため、大きな超音波振動板が必要となり、効率が悪い。また、全面が剥離されるまでに時間がかかる。さらに、剥離によって水が汚れるため、水を入れ替える必要がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、SiCインゴットからの剥離によってウェーハを生成する際、剥離時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のウェーハの生成方法(本生成方法)は、c軸と該c軸に直交するc面とを有する単結晶SiCインゴットからウェーハを生成するウェーハの生成方法であって、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線を、該単結晶SiCインゴットの平坦な端面から照射し、該レーザー光線の集光点を、該単結晶SiCインゴットにおける生成すべきウェーハの厚みに相当する深さであるウェーハ深さに位置づけること、および、該単結晶SiCインゴットと該集光点とを該端面に平行な方向に相対的に移動することによって、改質部と、該改質部から該c面に等方的に形成されるクラックとを含む剥離層を形成する剥離層形成工程と、該単結晶SiCインゴットのウェーハが生成される側の該端面に向かって、超音波水噴射ノズルから、超音波振動を伝播させた超音波水を噴射すること、および、該単結晶SiCインゴットと該超音波水噴射ノズルとを、該端面に平行な方向に相対的に移動させることにより、該剥離層を界面としてウェーハを剥離することによって、ウェーハを生成するウェーハ生成工程と、を少なくとも含む。
【0008】
本生成方法においては、該単結晶SiCインゴットでは、該c軸が該端面の垂線に対してオフ角だけ傾いており、該c面と該端面とのなす角度が該オフ角であってもよく、該剥離層形成工程は、該端面から照射された該レーザー光線における該集光点を、該オフ角が形成される方向である第1方向と直交する第2方向に沿って直線移動することにより、該改質部および該クラックを含む該剥離層を該第2方向に沿って連続的に形成すること、および、該第1方向に、該クラックの幅を超えない範囲で該単結晶SiCインゴットと該集光点とを相対的にインデックス送りすること、を交互に繰り返すことにより、該第2方向に沿う複数の該剥離層を順次生成することを含んでいてもよい。
【0009】
本生成方法では、該ウェーハ生成工程に用いられる該超音波水噴射ノズルは、高周波電力を受けて超音波振動を発振するドーム型の超音波振動板と、該超音波振動板の外周から外に張り出した円環状板と、該円環状板を支持し、該超音波振動板の凹んだ面側に水を溜める水溜部と、該水溜部に水を供給する水供給口と、該超音波振動板の凹んだ面に対向し該水溜部の水を噴射する噴射口と、を備えてもよく、該ウェーハ生成工程は、該超音波振動板に高周波電力を供給することによって該超音波振動板から発振される超音波振動の集束点を、該噴射口に形成することを含んでもよい。
【0010】
本生成方法では、該ウェーハ生成工程において剥離されたウェーハを、単結晶SiCインゴットから離間手段によって離間させる離間工程、および、該ウェーハの剥離面を該超音波水噴射ノズルを用いて洗浄する洗浄工程、をさらに含んでもよい。
また、この場合、該超音波振動板に供給される高周波電力の周波数は、20kHz~1MHzであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本生成方法では、剥離層が形成されている単結晶SiCインゴットの端面に超音波水を噴射することにより、単結晶SiCインゴットからウェーハを剥離して、ウェーハを生成することができる。したがって、単結晶SiCインゴットの一方の面を水没させ、単結晶SiCインゴットの端面の全面に対して同時に超音波振動を伝達させてウェーハを剥離する構成に比して、剥離時間を短縮することができるとともに、超音波水噴射ノズルを小型化することができる。これにより、ウェーハの剥離に関する効率化およびコストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)はインゴットの正面図であり、
図1(b)はインゴットの平面図である。
【
図2】
図2(a)は、レーザー加工装置の構成、および、レーザー加工装置によって形成される改質部を示す斜視図であり、
図2(b)は、レーザー加工装置によって形成される改質部を示す側面図である。
【
図3】
図3(a)は、剥離層が形成されたインゴットを示す平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)におけるB-B線断面図である。
【
図5】
図4に示した剥離装置における超音波水噴射ノズルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態にかかるウェーハ生成方法は、c軸と、c軸に直交するc面とを有する単結晶SiCインゴットから、ウェーハを生成する方法である。
本実施形態にかかるウェーハ生成方法は、剥離層形成工程、ウェーハ生成工程、離間工程、および洗浄工程を含んでいる。
【0014】
まず、単結晶SiCインゴットの構成について説明する。
図1(a)に示すように、単結晶SiCインゴットであるインゴット200は、全体として円柱形状に形成されている。インゴット200は、平坦な第1の端面201、および、第1の端面201と反対側の第2の端面202を有している。インゴット200の第1の端面201は、レーザー光線が照射される端面となる。また、第1の端面201と第2の端面202の間には、周面203が位置している。
【0015】
インゴット200は、に示すように、c軸216(<0001>方向)と、c軸216に直交するc面217({0001}面)とを有している。c軸216は、第1の端面201から第2の端面202に至り、第1の端面201の垂線215に対してオフ角αだけ傾斜している。したがって、c面217は、第1の端面201に対して、オフ角αだけ傾斜している。すなわち、c面217と第1の端面201とのなす角度がオフ角αとなっている。オフ角αが形成される方向である第1方向300を、
図1(a)および
図1(b)に矢印によって示す。
【0016】
c面217は、インゴット200中に、インゴット200の分子レベルで、無数に設定される。本実施形態では、オフ角αは、たとえば、1°、3°あるいは6°である。オフ角αは、たとえば1°~6°の範囲で自由に設定されることができる。
【0017】
また、インゴット200の周面203には、結晶方位を示す矩形状の第1のオリエンテーションフラット211および第2のオリエンテーションフラット212が形成されている。第1のオリエンテーションフラット211は、オフ角αが形成される方向に平行である。第2のオリエンテーションフラット212は、オフ角αが形成される方向に直交している。
【0018】
図1(b)に示すように、上方からみて、第2のオリエンテーションフラット212の長さL2は、第1のオリエンテーションフラット211の長さL1よりも短い(L2<L1)。
【0019】
[剥離層形成工程]
本実施形態にかかるウェーハ生成方法における剥離工程では、このようなインゴット200にレーザー光線を照射して、インゴット200の内部に剥離層を形成する。このために、本実施形態では、
図2(a)および
図2(b)に示すようなレーザー加工装置64を用いる。
【0020】
レーザー加工装置64は、インゴット200を保持するチャックテーブル66と、チャックテーブル66に保持されたインゴット200にレーザー光線400を照射する集光器68とを備える。
【0021】
チャックテーブル66は、回転手段(図示せず)によって、Z軸方向に延びる軸線を中心として回転される。また、チャックテーブル66は、X軸方向移動手段(図示せず)によってX軸方向に進退されるとともに、Y軸方向移動手段(図示せず)によってY軸方向に進退される。なお、X軸方向およびY軸方向によって規定される平面(XY平面)は、実質、水平である。
【0022】
集光器68は、集光レンズ(図示せず)を含む。この集光レンズは、レーザー加工装置64のレーザー光線発振器(図示せず)から発振された、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線であるレーザー光線400を集光して、インゴット200に照射するために用いられる。
【0023】
インゴット200に剥離層を形成する際は、まず、作業者が、インゴット200の第1の端面201を上に向けて、チャックテーブル66の上面に、インゴット200を載置し、チャックテーブル66によってインゴット200を吸引保持させる。
あるいは、インゴット200の第2の端面202とチャックテーブル66の上面との間に接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤)を介在させ、インゴット200をチャックテーブル66に固定してもよい。
【0024】
次いで、レーザー加工装置64の撮像手段(図示せず)によって、インゴット200の上方から、インゴット200を撮像する。次いで、撮像手段によって取得されたインゴット200の画像に基づいて、レーザー加工装置64のX軸方向移動手段、Y軸方向移動手段および回転手段を用いて、チャックテーブル66を移動および回転させる。これにより、インゴット200の向きを所定の向きに調整するとともに、インゴット200と集光器68とのXY平面における位置関係を調整する。
【0025】
インゴット200の向きを所定の向きに調整する際は、
図2(a)に示すように、第2のオリエンテーションフラット212を、X軸方向に整合させる。これによって、オフ角αが形成される第1方向300と直交する方向(第2方向301)をX軸方向に整合させるとともに、オフ角αが形成される第1方向300をY軸方向に整合させる。
【0026】
次いで、レーザー加工装置64の集光点位置調整手段(図示せず)によって、集光器68を昇降させる。これにより、
図2(b)に示すように、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線400を、インゴット200の第1の端面201から照射し、レーザー光線400の集光点401を、インゴット200における生成すべきウェーハの厚みに相当する深さ(第1の端面201からの深さ)であるウェーハ深さに位置づけることができる。
【0027】
次いで、この集光点401とインゴット200とを、第1の端面201に平行な方向に相対的に移動する剥離層形成加工を実施する。
本実施形態における剥離層形成加工では、オフ角αが形成される第1方向300と直交する第2方向301に整合しているX軸方向に沿って、X軸方向移動手段を用いて、チャックテーブル66を移動させる。
【0028】
これにより、
図3(a)および
図3(b)に示すように、インゴット200における第1の端面201からウェーハ深さの部分に、改質部204が形成される。この改質部204は、レーザー光線400の照射によりインゴット200におけるSiCがSi(シリコン)とC(炭素)とに分離され、次に照射されるレーザー光線400が前に形成されたCに吸収されて、連鎖的に、SiCがSiとCとに分離することによって形成される部分である。
【0029】
このようにして、オフ角αが形成される第1方向300と直交する第2方向301に、改質部204が連続的に形成される。さらに、改質部204からc面に沿って等方的に延びるクラック205(c面に等方的に形成されるクラック205)が生成される。
これにより、改質部204と、改質部204からc面に等方的に形成されるクラックとを含む剥離層206が、第2方向301に沿って連続的に形成される。
【0030】
この剥離層形成加工に続いて、オフ角αが形成される第1方向300に整合しているY軸方向に、集光点401とチャックテーブル66(すなわちインゴット200)とを、相対的に、クラック205の幅を超えない範囲で、所定のインデックス量Liだけ、インデックス送りする。本実施形態では、Y軸方向移動手段を用いて、チャックテーブル66を、Y軸方向に沿ってインデックス送りする。
【0031】
そして、剥離層形成加工とインデックス送りとを、交互に繰り返す。これにより、オフ角αが形成される第1方向300と直交する第2方向301に連続的に延びる改質部204を、オフ角αが形成される第1方向300に所定のインデックス量Liの間隔をおいて、複数、形成することができる。
【0032】
さらに、
図3(b)に示すように、複数の改質部204からc面に沿って等方的に延びるクラック205が、第1方向300において隣接する改質部204から延びるクラック205どうしがZ軸方向からみて重なるように、形成される。
【0033】
このようにして、インゴット200の第1の端面201からウェーハ深さの部分に、改質部204およびクラック205を含む、第2方向301に沿う複数の剥離層206を順次生成することができる。この剥離層206は、改質部204およびクラック205のために強度が低下している部分であり、インゴット200からウェーハを剥離するための界面となる部分である。
【0034】
[ウェーハ生成工程]
ウェーハ生成工程では、剥離層206が形成されたインゴット200から、剥離層206を界面としてウェーハを剥離することによって、ウェーハを生成する。このために、本実施形態では、
図4に示すような剥離装置1を用いる。
【0035】
剥離装置1は、
図3(a)(b)に示した剥離層206が形成されているインゴット200を保持するための保持テーブル10と、保持テーブル10に保持されたインゴット200に超音波水を噴射する超音波水噴射ノズル2と、保持テーブル10を囲む図示しないケースとを備えている。
【0036】
保持テーブル10は、円板状に形成されている。保持テーブル10は、インゴット200の第2の端面202(
図1(a)参照)を吸引保持する保持面11と、保持面11を支持する枠体12とを備えている。保持面11は、ポーラス部材を含んでおり、図示しない吸引源に連通されることにより、保持面11上に載置されたインゴット200の第2の端面202を吸引保持する。
【0037】
本実施形態では、剥離装置1は、このような保持テーブル10の保持面11に保持されるインゴット200の上面である第1の端面201の全面に、超音波水を噴射することによって、ウェーハを剥離する。
【0038】
保持テーブル10の下側には、保持テーブル回転手段13が配設されている。保持テーブル回転手段13は、保持テーブル10の回転軸であるスピンドル14、および、スピンドル14を回転させるためのモータ15を含んでいる。モータ15は、スピンドル14を介して、保持テーブル10に回転駆動力を伝達する。これにより、保持テーブル10は、インゴット200を保持した状態で、スピンドル14を中心として、たとえば矢印302に示す方向に回転する。
【0039】
超音波水噴射ノズル2は、保持テーブル10の保持面11に保持されたインゴット200の第1の端面201に、上方から超音波水を噴射する。
図4に示すように、超音波水噴射ノズル2は、保持テーブル10の上方において旋回可能な水供給パイプ41の先端に取り付けられている。
【0040】
水供給パイプ41は、水平方向に延在しており、その後端側には、継手42を介して、水供給源44が連通されている。水供給源44は、ポンプ等を備え、水供給パイプ41を介して、超音波水噴射ノズル2に水を送出するように構成されている。
【0041】
また、水供給パイプ41の後端には、水供給パイプ41および超音波水噴射ノズル2を、水供給パイプ41の軸心方向に回転させる第1モータ43が取り付けられている。水供給パイプ41および超音波水噴射ノズル2は、第1モータ43によって、矢印303に示すように回転される。
【0042】
第1モータ43の下端には、水供給パイプ41の旋回軸45が連結されている。この旋回軸45は、超音波水噴射ノズル2、水供給パイプ41および第1モータ43を保持して回転する。旋回軸45は、Z軸方向に延びており、その上端に、第1モータ43が取り付けられている。旋回軸45の下端には、旋回軸45を、旋回軸45の軸心方向に回転させるための旋回モータ46が取り付けられている。水供給パイプ41および超音波水噴射ノズル2は、旋回モータ46によって旋回軸45が回転されることによって、矢印304に示すように旋回される。
【0043】
なお、水供給パイプ41は、旋回軸45の上端の第1モータ43から保持テーブル10の中心まで届く長さを有している。これにより、旋回軸45は、水供給パイプ41の先端に配設された超音波水噴射ノズル2を、保持テーブル10に保持されたインゴット200の外周縁から中心まで、移動させることが可能となっている。
【0044】
さらに、旋回モータ46は、昇降手段47に取り付けられている。昇降手段47は、溝491が設けられた筐体49、および、旋回モータ46を保持する保持部材48を備えている。保持部材48は、筐体49内の駆動部材(図示せず)に取り付けられており、溝491を介して筐体49から突出している。そして、保持部材48は、旋回モータ46を保持した状態で、溝491に沿ってZ軸方向に移動する。
【0045】
この昇降手段47により、旋回軸45、旋回軸45、第1モータ43、水供給パイプ41および超音波水噴射ノズル2は、Z軸方向に沿って移動することが可能となっている。
【0046】
超音波水噴射ノズル2は、超音波振動を伝播させた超音波水を、インゴット200の第1の端面201(
図3(a)(b)参照)に噴射する装置である。
図5に示すように、超音波水噴射ノズル2は、水供給源44から供給される水500を一時的に溜める箱20、箱20の下面に形成された噴射口241、および、噴射口241に対向して箱20内に配設される超音波振動板3、を備えている。
【0047】
箱20は、たとえば、略円柱状に形成されており、底板21と、底板21にZ軸方向において対向する天板22と、底板21と天板22とに連結する略円筒状の側壁23とを備えている。
【0048】
箱20内は、超音波振動板3によって、上下の2部屋、即ち、超音波振動板3よりも上側の第一室221と、超音波振動板3よりも下側の第二室222とに区画されている。下側の第二室222の側壁23には、側壁23を貫通する水供給口231が形成されている。
【0049】
水供給口231は、箱20内における超音波振動板3と噴射口241との間である第二室222に水500を供給するために用いられる。この水供給口231には、水供給パイプ41が連通されている。したがって、水供給源44から供給される水500は、箱20の第二室222内に、一時的に溜められる。
【0050】
底板21には、-Z方向側に突き出るノズル部24が形成されている。ノズル部24は、先端に向かうにつれて、徐々に縮径されている。そして、ノズル部24は、先端に、箱20の第二室222内に溜められた水500を噴射する噴射口241を備えている。なお、ノズル部24は、噴射口241に向けて縮径されていない形状であってもよい。
【0051】
超音波振動板3は、ドーム型に形成されており、高周波電力を受けて超音波振動を発振するように構成されている。超音波振動板3は、箱20の第二室222内に溜められた水500に、超音波振動600を伝播する。超音波振動板3は、箱20内において、噴射口241に対向する位置に配置されている。超音波振動板3は、円弧形状の断面を有し、噴射口241に向かう面側が凹んでいる。すなわち、噴射口241は、超音波振動板3の凹んだ面に対向している。
【0052】
超音波振動板3は、ドーム部30と、ドーム部30の外周縁から径方向に外側に張り出したツバ部31とを備えている。また、超音波振動板3のツバ部31の外周縁には、径方向に外側に張り出した円環状板32が備えられている。すなわち、円環状板32は、超音波振動板3の外周から外に張り出すように設けられている。
【0053】
ドーム部30は、第1電極板25、圧電素材27および第2電極板26を備えており、これらは、Z軸方向に沿って互いに重ねられている。
【0054】
第1電極板25、圧電素材27および第2電極板26は、たとえば、セラミックスの一種であるピエゾ素子で構成されている。第1電極板25、圧電素材27、および第2電極板26は、ドーム形状を有するように形成されている。
【0055】
第1電極板25、圧電素材27および第2電極板26は、凹んだ側が噴射口241に向くように、互いに重ねられている。第1電極板25および第2電極板26には、図示しない電極が取り付けられている。これらの電極および配線28を介して、第1電極板25および第2電極板26に、高周波電源29が接続されている。
【0056】
高周波電源29は、超音波振動板3に高周波電力を供給する。すなわち、高周波電源29は、超音波振動板3のドーム部30における第1電極板25および第2電極板26に、高周波の交流電圧を印加する。これにより、高周波電源29は、高周波電力を超音波振動板3に供給する。
【0057】
第2電極板26の凸側の上面は、圧電素材27を挟んで、第1電極板25の下面に密着している。第2電極板26の凹んでいる側の下面、即ち、噴射口241に対向するドーム部30の下面は、箱20の第二室222内に一時的に溜められた水500に向けて超音波振動600を輻射する輻射面261となる。
【0058】
なお、本実施形態では、超音波振動板3の輻射面261が、球形の一部の内面に類似のドーム形状を有するように形成されている。これに代えて、輻射面261は、すり鉢の内面に類似のドーム形状を有するように形成されていてもよい。すなわち、輻射面261は、噴射口241に向かって超音波振動600が集中するように構成されていればよい。
【0059】
円環板状のツバ部31は、ドーム部30の第2電極板26の外周縁から、径方向に外側に、一体的に張り出している。このツバ部31は、ドーム部30と同様に、ピエゾ素子等で構成される。
【0060】
円環状板32は、ツバ部31の外周縁から、径方向に外側に張り出している。この円環状板32は、その外周部分が箱20における第二室222の側壁23に支持されていて、ドーム部30を箱20内で中空固定している。このように、第二室222(および箱20)は、円環状板32を支持し、超音波振動板3の凹んだ面側に水を溜める水溜部として機能する。
【0061】
また、円環状板32の外周部分の端部は、側壁23に支持されている。円環状板32は、側壁23に支持されていない部分によって、超音波振動600を増幅させる。
【0062】
以下に、上述した剥離装置1を用いたウェーハ生成工程について説明する。
まず、作業者は、
図5に示すように、インゴット200の中心が保持テーブル10の保持面11の中心におおよそ合致するように、保持面11上に、第1の端面201を上に向けて、インゴット200を載置する。そして、図示しない吸引源が作動して生み出された吸引力が、保持面11に伝達されることで、保持テーブル10の保持面11が、インゴット200の第2の端面202を吸引保持する。
【0063】
その後、昇降手段47によって、超音波水噴射ノズル2とインゴット200の第1の端面201との距離が調整される。さらに、スピンドル14が、インゴット200を保持している保持テーブル10を、矢印302方向に回転させる。また、旋回モータ46が、旋回軸45を回転させる。これにより、超音波水噴射ノズル2が、保持テーブル10の外側の退避位置からインゴット200の上方に移動され、噴射口241がインゴット200の第1の端面201に対向する。
【0064】
その後、水供給源44から、加圧された水500が送出される。水500は、水供給パイプ41を通り、超音波水噴射ノズル2の箱20の第二室222に、一時的に溜められる。
【0065】
箱20の第二室222内に所定量の水500が溜められていき、第二室222内の圧力が上昇すると、水500が、噴射口241から下方に向かって噴射される。なお、水供給源44から水500が供給され続けることで、第二室222内における水500の量は、所定量に維持される。
【0066】
また、この際、高周波電源29が、超音波振動板3に、所定の周波数(たとえば、20kHz~1MHz)の高周波電力を供給する。即ち、高周波電源29によって、所定の周波数で、電圧の印加のオンとオフとが繰り返される。これにより、第1電極板25および圧電素材27に、上下方向における伸縮運動が発生する。そして、この伸縮運動が、機械的な超音波振動600となる。
なお、高周波電源29から超音波振動板3に供給される電力量は、たとえば95Wである。
【0067】
第2電極板26は、第1電極板25の振動に共振することにより、噴射口241側から見てなだらかに凹んだ凹面である輻射面261から、箱20の第二室222に一時的に溜められた水500に超音波振動600を伝播させる。また、凹面である輻射面261から該水500に伝播される超音波振動600は、噴射口241に向かって集中する。すなわち、超音波振動板3から発振される超音波振動の集束点が、噴射口241に形成される。
【0068】
このような超音波振動の伝播により、ノズル部24の噴射口241から外部に向かって、超音波振動600を伝播させた超音波水501が噴射される。すなわち、本実施形態では、ノズル部24の噴射口241から、インゴット200におけるウェーハが生成される側の端面である第1の端面201に向かって、超音波水501が噴射される。
【0069】
また、この際、インゴット200と超音波水噴射ノズル2とを、インゴット200の第1の端面201に平行な方向に相対的に移動させる。本実施形態では、旋回モータ46によって、旋回軸45が回転されることにより、超音波水噴射ノズル2が、インゴット200の中心上方を通過するようにして、保持テーブル10とともに回転しているインゴット200の上方を、所定角度で往復するように旋回移動する。これにより、インゴット200の第1の端面201の全面に、超音波水501が噴射される。
【0070】
このような超音波水501の噴射により、インゴット200における第1方向300に並ぶ複数の剥離層206が互いに連結されて、これらの剥離層206を界面として、インゴット200から、板状物であるウェーハが剥離される。これにより、ウェーハが生成される。また、超音波水501の噴射により、インゴット200の第1の端面201が洗浄される。
【0071】
[離間工程]
離間工程では、ウェーハ生成工程において剥離されたウェーハを、離間手段によって、インゴット200から離間させる。このために、剥離装置1は、離間手段として、
図6に示すようなウェーハ保持部50を備えている。
【0072】
ウェーハ保持部50は、XY平面に平行な下向きの保持面を有する搬送パッド51、搬送パッド51を旋回させるための旋回アーム52、搬送パッド51と旋回アーム52とを連結する連結部53を有している。
【0073】
離間工程では、旋回アーム52を用いて、剥離装置1の保持テーブル10に載置されているインゴット200の上部に、搬送パッド51を配置する。そして、図示しない上下移動手段により搬送パッド51を降下させて、インゴット200の第1の端面201を、搬送パッド51によって吸引保持する。その後、上下移動手段により、矢印305に示すように、搬送パッド51を上昇させる。これにより、インゴット200から、SiCウェーハであるウェーハ100が離間される。ウェーハ100の下面は、インゴット200から剥離された面である剥離面101となる。
【0074】
[洗浄工程]
洗浄工程では、ウェーハ100の剥離面101を、超音波水噴射ノズル2を用いて洗浄する。
【0075】
このために、まず、
図7に示すように、インゴット200から剥離されてウェーハ保持部50の搬送パッド51に保持されているウェーハ100の下方に、超音波水噴射ノズル2を配置する。そして、第1モータ43によって、水供給パイプ41を矢印303に示すように回転させることにより、超音波水噴射ノズル2の噴射口241を上方に向ける。これにより、超音波水噴射ノズル2の噴射口241が、ウェーハ100の剥離面101に対向配置される。
【0076】
その後、超音波水噴射ノズル2の噴射口241からウェーハ100の剥離面101に、旋回軸45によって超音波水噴射ノズル2を適宜回転させながら、超音波水501を噴射する。これにより、剥離面101が洗浄される。
剥離面101の洗浄の後、旋回アーム52および上下移動手段によって、搬送パッド51に保持されたウェーハ100が、たとえば所定の保管場所まで搬送される。
なお、洗浄する際は、高周波電源29が、超音波振動板3に、所定の周波数(たとえば、500kHz~1MHz)の高周波電力を供給する。
【0077】
以上のように、本実施形態では、剥離層206が形成されているインゴット200を回転させながら、その第1の端面201に、旋回する超音波水噴射ノズル2から超音波水501を噴射している。これにより、インゴット200からウェーハ100を剥離して、ウェーハを生成することができる。
したがって、インゴットの一方の面を水没させ、インゴットの一方の面の全面に対して同時に超音波振動を伝達させてウェーハを剥離する構成に比して、剥離時間を短縮することができるとともに、超音波水噴射ノズル2およびその超音波振動板3を小型化することができる。これにより、ウェーハ100の剥離に関する効率化およびコストの低減を実現することができる。
【0078】
また、本実施形態では、超音波振動600を発生するドーム部30が、箱20の側壁23に、円環状板32を介して保持されている。このため、超音波振動板3に高周波電力を供給した際に、ドーム部30が振動しやすくなる。これにより、水500に、効果的に、円環状板32で増幅された振幅の大きな超音波振動を伝播させることができる。
【0079】
なお、本実施形態では、インゴット200に剥離層206を形成する剥離層形成加工において、インゴット200を、集光点401に対して、オフ角αが形成される第1方向300と直交する第2方向301に、相対的に移動させている。また、インデックス送りにおいて、インゴット200を、集光点401に対して、オフ角αが形成される第1方向300に、相対的に移動させている。これに関し、剥離層形成加工におけるインゴット200と集光点401との相対的な移動方向は、オフ角αが形成される第1方向300と直交する第2方向301でなくてもよい。また、インデックス送りにおけるインゴット200と集光点401との相対的な移動方向は、オフ角αが形成される第1方向300でなくてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1:剥離装置、2:超音波水噴射ノズル、
3:超音波振動板、
10:保持テーブル、11:保持面、12:枠体、
13:保持テーブル回転手段、14:スピンドル、15:モータ、
20:箱、21:底板、22:天板、23:側壁、
221:第一室、222:第二室、231:水供給口、
25:第1電極板、26:第2電極板、27:圧電素材、261:輻射面、
29:高周波電源、30:ドーム部、31:ツバ部、32:円環状板、
24:ノズル部、241:噴射口、
41:水供給パイプ、42:継手、43:第1モータ、44:水供給源、
45:旋回軸、46:旋回モータ、
47:昇降手段、48:保持部材、49:筐体、
500:水、501:超音波水、600:超音波振動、
50:ウェーハ保持部、51:搬送パッド、52:旋回アーム、53:連結部、
64:レーザー加工装置、66:チャックテーブル、68:集光器、
400:レーザー光線、401:集光点、
100:ウェーハ、101:剥離面、
200:インゴット、201:第1の端面、202:第2の端面、203:周面、
204:改質部、205:クラック、206:剥離層、
211:第1のオリエンテーションフラット、
212:第2のオリエンテーションフラット、
215:垂線、216:c軸、217:c面、α:オフ角