(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれから製造された成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 51/06 20060101AFI20240111BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240111BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240111BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08L51/06
C08L51/04
C08L33/04
C08L71/02
(21)【出願番号】P 2022534806
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 KR2021009089
(87)【国際公開番号】W WO2022085899
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0137207
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0090772
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソクグ・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヒュンソプ・シム
(72)【発明者】
【氏名】キ・ヨン・ナム
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-222139(JP,A)
【文献】特開2002-226655(JP,A)
【文献】特開昭53-133254(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0052849(KR,A)
【文献】特公昭50-004384(JP,B1)
【文献】特開2002-128984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0198132(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2001-0017970(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる第1グラフト共重合体と、
コアとして、アルキル(メタ)アクリレート系重合体、
並びに芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体
の重合によって調製されたシェルを含んでなる第2グラフト共重合体と、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる熱可塑性共重合体とを含
む、
熱可塑性樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、
前記第1グラフト共重合体5~12重量%、前記第2グラフト共重合体28~75重量%、及び前記熱可塑性共重合体20~60重量%を含み、
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が、0.25~0.35μmであり、
前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体の平均粒径は、0.05~0.12μmであり、
前記熱可塑性共重合体は、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体を40~80重量%含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1グラフト共重合体は、総重量に対して、前記共役ジエン系重合体30~60重量%、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体20~40重量%、前記芳香族ビニル系単量体5~25重量%、及び前記ビニルシアン系単量体1~15重量%を含んでなることを特徴とする、請求項
1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1グラフト共重合体は、重量平均分子量が80,000~300,000g/molであることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記第2グラフト共重合体は、総重量に対して、前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体30~70重量%、前記芳香族ビニル系単量体20~68重量%、前記ビニルシアン系単量体1~30重量%、及び前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体1~15重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記第2グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含んでなり、前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記第1グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体と同一であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、ブチルアクリレート単量体または2-エチルヘキシルアクリレート単量体であることを特徴とする、請求項
5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記第2グラフト共重合体は、重量平均分子量が50,000~150,000g/molであることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記第1グラフト共重合体と前記第2グラフト共重合体との重量比は1:3~1:11であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性共重合体は、総重量に対して、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体40~80重量%、前記芳香族ビニル系単量体15~40重量%、及び前記ビニルシアン系単量体3~20重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記第1グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体及び前記熱可塑性共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体はメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項1~
5及び
7~
9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂組成物は、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体を、前記第1グラフト共重合体、前記第2グラフト共重合体及び前記熱可塑性共重合体の合計100重量部に対して1.5重量部以下含むことを特徴とする、請求項1~1
0のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂組成物は耐アルコール性強化基材であることを特徴とする、請求項1~1
1のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる第1グラフト共重合体と、
コアとして、アルキル(メタ)アクリレート系重合体、
並びに芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体
の重合により調製されたシェルを含んでなる第2グラフト共重合体と、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる熱可塑性共重合体とを含み、
前記第1グラフト共重合体5~12重量%、前記第2グラフト共重合体28~75重量%、及び前記熱可塑性共重合体20~60重量%を含む、熱可塑性樹脂組成物を、溶融混練及び押出するステップを含
み、
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が、0.25~0.35μmであり、
前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体の平均粒径は、0.05~0.12μmであり、
前記熱可塑性共重合体は、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体を40~80重量%含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~1
2のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物で製造される、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2020年10月22日付の韓国特許出願第10-2020-0137207号及びこれに基づいて2021年07月12日付で再出願された韓国特許出願第10-2021-0090772号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれから製造された成形品に関し、より詳細には、成形されて製品として製造されたとき、耐アルコール性、透明度及び加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれから製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene、以下、「ABS系」という)樹脂に代表されるビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物グラフト共重合体(‘ABS系樹脂’)は、加工性が良好であり、衝撃強度に優れ、外観に優れるだけでなく、透明度及び色相特性に優れるので、電子機器、事務用機器または生活家電などの様々な分野に使用されている。
【0004】
しかし、耐アルコール性が劣るため、アルコール消毒を必要とする部品などに使用し難かった。
【0005】
耐アルコール性を改善するために、ゴム含量を増量させるか、または高価な添加剤を使用する方式が導入されたが、ゴム含量を増加させる場合、流動性が低下する欠点があり、高価の添加剤を使用する場合、透明度が影響を受ける欠点がある。
【0006】
したがって、透明度及び加工性を確保しながらも、耐アルコール性に優れた熱可塑性樹脂組成物を製造する技術の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0075415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、耐アルコール性、透明度及び加工性特性の物性バランスを実現した熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、
共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる第1グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含んでなる第2グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる熱可塑性共重合体とを含み、
前記第1グラフト共重合体を熱可塑性樹脂組成物の総重量%中に5~12重量%で含み、
前記第1グラフト共重合体の重量は、前記第2グラフト共重合体の重量よりも小さいと同時に、前記熱可塑性共重合体の重量よりも小さいことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0012】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記第1グラフト共重合体5~12重量%;前記第2グラフト共重合体28~75重量%;及び前記熱可塑性共重合体20~60重量%を含むことができる。
【0013】
前記第1グラフト共重合体は、その総重量に対して、前記共役ジエン系重合体50~60重量%;前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体20~40重量%;前記芳香族ビニル系単量体5~25重量%、及び前記ビニルシアン系単量体1~15重量%を含んでなるものであってもよい。
【0014】
前記第1グラフト共重合体は、重量平均分子量が80,000~300,000g/molであってもよい。
【0015】
前記第2グラフト共重合体は、その総重量に対して、前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体30~70重量%;前記芳香族ビニル系単量体20~68重量%;前記ビニルシアン系単量体1~30重量%;及び前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体1~15重量%を含んでなってもよい。
【0016】
前記第2グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含み、前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記第1 グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体と同じものであってもよい。
【0017】
このとき、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、ブチルアクリレート単量体または2-エチルヘキシルアクリレート単量体であってもよい。
【0018】
前記第2グラフト共重合体は、重量平均分子量が50,000~150,000g/molであってもよい。
【0019】
前記第1グラフト共重合体と前記第2グラフト共重合体との重量比は1:3~1:11であってもよい。
【0020】
前記熱可塑性共重合体は、その総重量に対して、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体40~75重量%;前記芳香族ビニル系単量体15~40重量%;及び前記ビニルシアン系単量体3~20重量%を含んでなってもよい。
【0021】
前記第1グラフト共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体及び前記熱可塑性共重合体のアルキル(メタ)アクリレート系単量体はメチルメタクリレートであってもよい。
【0022】
前記熱可塑性樹脂組成物は、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体を、前記第1グラフト共重合体、前記第2グラフト共重合体及び前記熱可塑性共重合体の合計100重量部に対して1.5重量部以下含むことができる。
【0023】
前記熱可塑性樹脂組成物は、耐アルコール性強化基材として使用されてもよい。
【0024】
また、本発明は、前述した熱可塑性樹脂組成物で製造される成形品を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、優れた基本物性、すなわち、優れた機械的剛性及び加工性を実現すると共に、耐アルコール性が著しく改善され得る。
【0026】
したがって、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物で製造された成形品は、基本物性を維持しながらも、耐アルコール性を有するので、アルコール消毒を必要とする電子機器、事務用機器、生活家電など様々な産業分野に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1による、化学溶剤で処理された試験片の表面を示す図である。
【
図2】比較例2による、化学溶剤で処理された試験片の表面亀裂を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をより詳細に説明する。
【0029】
本明細書及び特許請求の範囲で使用された用語や単語は、通常の又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義できるという点を勘案して、本発明の技術的思想に符合する意味及び概念で解釈されなければならない。
【0030】
本記載において、「含んでなる」の意味は、別途の定義がない限り、「含んで重合製造された」、「含んで重合された」、または「由来の単位として含む」として定義され得る。
【0031】
本記載において、透明度は、特に特定しない限り、標準測定ASTM D1003に準拠したヘイズ及び色相特性を指す。
【0032】
当該透明度が15%以下である場合、透明樹脂または透明樹脂組成物であると判断できる。
【0033】
本記載において、平均粒径は、動的光散乱(Dynamic Light Scattering)法を用いて測定することができ、詳細には、ラテックス状態で粒度分布分析器(Nicomp380)を用いてガウスモードで測定することができ、動的光散乱法により測定される粒度分布における算術平均粒径、すなわち散乱強度(Indensity Distribution)平均粒径を意味することができる。
【0034】
具体的な測定例として、製造されたゴムラテックス(固形分含量35~50重量%)0.1gを脱イオン水又は蒸留水100gで希釈させて試料を準備した後、23℃で粒度分布分析器(Nicomp CW380、PPS社)を用いて、動的光散乱法により強度加重ガウス分析(Intensity-weighted Gaussian Analysis)モードでインテンシティ値300kHz下で粒子の直径を測定し、散乱強度分布から求めた流体力学的直径の平均値を求めた。
【0035】
本記載において、重量平均分子量は、溶出液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー:Gel Permeation Chromatography、waters breeze)を通じて、標準PS(標準ポリスチレン:standard polystyrene)試料に対する相対値として測定することができ、詳細には、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography、PL GPC220、Agilent Technologies)によりポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めたものを適用した値である。
【0036】
具体的には、THF溶液に溶かした後、GPCを用いて、標準PS(standard polystyrene)試料に対する相対値として求めた。具体的な測定条件は、以下の通りである。
-溶媒:THF(テトラヒドロフラン:tetrahydrofuran)
-カラム温度:40℃
-流速:0.3mL/min
-試料の濃度:20mg/mL
-注入量:5μl
-カラムモデル:1×PLgel 10μm MiniMix-B(250×4.6mm)+1×PLgel 10μm MiniMix-B(250×4.6mm)+1×PLgel 10μm MiniMix-B Guard(50×4.6mm)
-装置名:Agilent 1200シリーズシステム
-屈折率検出器(Refractive index detector):Agilent G1362 RID
-RI温度:35℃
-データの処理:Agilent ChemStation S/W
-試験方法:OECD TG 118に従って測定
【0037】
本記載において、(共)重合体の組成比は、(共)重合体を構成する単位体の含量を意味するか、または(共)重合体の重合時に投入される単位体の含量を意味することができる。
【0038】
本記載において、「含量」は、別途の定義がない限り、重量を意味する。
【0039】
本発明者らは、熱可塑性樹脂組成物として、改質された熱可塑性共重合体、及びゴムの種類が異なる2種のグラフト共重合体を含む場合、加工性を確保しながら、耐アルコール性に優れた透明素材を提供することを確認し、本発明を完成するようになった。
【0040】
本発明の一具現例に係る熱可塑性樹脂組成物は、共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる第1グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含んでなる第2グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる熱可塑性共重合体とを含む。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記構成を含むと同時に、前記第1グラフト共重合体を5~12重量%含み、前記第1グラフト共重合体の重量は、前記第2グラフト共重合体の重量よりも小さいと同時に、前記熱可塑性共重合体の重量よりも小さいことを特徴とし、この場合、目的とする効果である優れた耐アルコール性、透明度、衝撃強度及び加工性を有する成形品を提供することができる。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は耐アルコール性強化基材として使用され得る。
【0043】
以下で、本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成要素別に詳細に説明する。
【0044】
第1グラフト共重合体
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは熱可塑性透明樹脂組成物であって、第1グラフト共重合体を含み、前記第1グラフト共重合体は、共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる。
【0045】
前記第1グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂成形品内で衝撃補強剤の役割を行うだけでなく、優れた透明度及び加工性を付与することができる。
【0046】
前記共役ジエン系重合体は、共役ジエン系単量体が重合されて製造された共役ジエン系重合体に、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体がグラフト重合されることによって変性された共役ジエン系重合体を含むことができる。
【0047】
本記載において、(メタ)アクリレート系単量体は、メタクリレート系単量体及びアクリレート系単量体をいずれも含む意味で使用される。
【0048】
前記共役ジエン系重合体は、二重結合と単一結合が交互に配列されている構造であってもよく、前記共役ジエン系単量体は、一例として、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン及びピペリレンから選択された1種以上であってもよく、このうち1,3-ブタジエンが好ましい。
【0049】
前記共役ジエン系重合体は、前記第1グラフト共重合体の総重量に対して、一例として30~60重量%、好ましくは50~60重量%含まれてもよく、前記範囲内で、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の衝撃強度がさらに改善され得る。
【0050】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が、一例として0.1~0.5μm、好ましくは0.2~0.4μm、より好ましくは0.25~0.35μmであってもよく、前記範囲内で、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の機械的特性がさらに改善され得る。
【0051】
前記共重合体のシェルの重量平均分子量は、一例として80,000~300,000g/mol、好ましくは90,000~150,000g/molであってもよく、前記範囲内で、機械的物性が改善されるという利点がある。
【0052】
前記共重合体のシェルは、共役ジエン系重合体にグラフト重合されたアルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなることができる。
【0053】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、一例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート及びデシル(メタ)アクリレートから選択されてもよく、このうちメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0054】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記第1グラフト共重合体の総重量に対して、一例として20~40重量%、好ましくは25~35重量%含まれてもよく、前記範囲内で、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の透明度、剛性及び耐スクラッチ性がさらに改善され得る。
【0055】
前記芳香族ビニル系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン及びビニルトルエンから選択された1種以上であってもよく、このうちスチレンが好ましい。
【0056】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記第1グラフト共重合体の総重量に対して、一例として5~25重量%、好ましくは5~20重量%、より好ましくは5~15重量%含まれてもよく、前記範囲内で、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の剛性及び加工性がさらに改善され得る。
【0057】
前記ビニルシアン系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル及びα-クロロアクリロニトリルから選択された1種以上であってもよく、このうちアクリロニトリルが好ましい。
【0058】
前記ビニルシアン系単量体は、前記第1グラフト共重合体の総重量に対して、一例として1~15重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~7重量%含まれてもよく、前記範囲内で、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の耐アルコール性、剛性及び耐衝撃性がさらに改善され得る。
【0059】
前記第1グラフト共重合体は、共役ジエン系重合体の存在下で、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合から選択された1つ以上の方法により重合して製造することができ、このうち乳化重合により製造することが好ましい。
【0060】
前記乳化重合はグラフト乳化重合であってもよく、一例として重合温度50~85℃、好ましくは60~80℃で行うことができる。
【0061】
前記乳化重合は、開始剤及び乳化剤の存在下で行うことができる。
【0062】
前記開始剤は、ラジカル開始剤であって、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素をはじめとする無機過酸化物;t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、アセチルペルオキシド、イソブチルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノールペルオキシド、t-ブチルペルオキシイソブチレートをはじめとする有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニルニトリル、アゾビスイソ酪酸(ブチル酸)メチルをはじめとするアゾ化合物から選択された1種以上であってもよい。
【0063】
前記開始剤と共に、開始反応を促進させるために活性化剤がさらに投入されてもよい。
【0064】
前記活性化剤は、一例として、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、ナトリウムエチレンジアミンテトラアセテート、硫酸第一鉄、デキストロース、ピロリン酸ナトリウム、無水ピロリン酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムから選択された1種以上であってもよい。
【0065】
前記開始剤は、前記第1グラフト共重合体を構成する単量体及び共役ジエン系重合体の合計100重量部に対して、一例として0.001~1重量部、好ましくは0.01~0.5重量部、より好ましくは0.02~0.1重量部投入されてもよい。前記範囲内で、乳化重合が容易に行われ得ると共に、前記第1グラフト共重合体中の開始剤の残留量は数十ppm単位に最小化することができる。
【0066】
前記乳化剤は、一例として、アルキルベンゼンスルホネートのカリウム化合物、アルキルベンゼンスルホネートのナトリウム化合物、アルキルカルボキシレートのカリウム化合物、アルキルカルボキシレートのナトリウム化合物、オレイン酸のカリウム化合物、オレイン酸のナトリウム化合物、アルキルスルフェートのカリウム化合物、アルキルスルフェートのナトリウム化合物、アルキルジカルボキシレートのカリウム化合物、アルキルジカルボキシレートのナトリウム化合物、アルキルエーテルスルホネートのカリウム化合物、アルキルエーテルスルホネートのナトリウム化合物、アリルオキシノニルフェノキシプロパン-2-イルオキシメチルスルホネートのアンモニウム化合物、及びC16-C18のアルケニルコハク酸ジカリウム塩から選択された1種以上であってもよく、このうちC16-C18のアルケニルコハク酸ジカリウム塩が好ましい。
【0067】
前記乳化剤は、前記第1グラフト共重合体を構成する単量体及び共役ジエン系重合体の合計100重量部に対して、一例として0.1~2.0重量部、好ましくは0.2~1.5重量部、より好ましくは0.3~1.0重量部投入されてもよく、前記範囲内で、乳化重合が容易に行われるだけでなく、共重合体中の開始剤の残留量は数十ppm単位に最小化することができる。
【0068】
前記乳化重合時に、分子量調節剤がさらに投入されてもよい。前記分子量調節剤は、一例として、t-ドデシルメルカプタン、N-ドデシルメルカプタン及びα-メチルスチレンダイマーから選択された1種以上であってもよく、このうちt-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0069】
前記分子量調節剤は、前記第1グラフト共重合体を構成する単量体及び共役ジエン系重合体の合計100重量部に対して、一例として0.1~1重量部、好ましくは0.2~0.8重量部、より好ましくは0.4~0.6重量部投入されてもよい。
【0070】
前記乳化重合は単量体などを反応器に一括投入した後に開始するか、または乳化重合の開始前に反応器に単量体などを一部投入し、開始後に残りは連続投入するか、または単量体などを一定時間連続投入しながら乳化重合を行うことができる。
【0071】
このようにして収得された第1グラフト共重合体はラテックス形態であって、凝集、脱水及び乾燥の工程によりドライパウダー形態で回収することができる。
【0072】
凝集に使用される凝集剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの塩、硫酸、硝酸、塩酸などの酸性物質、またはこれらの混合物を使用することができる。
【0073】
前記第1グラフト共重合体は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量中に5~12重量%、好ましくは5~10重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から射出されて製造された成形品の機械的物性及び透明度が優れ得る。
【0074】
第2グラフト共重合体
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは熱可塑性透明樹脂組成物であって、前記第2グラフト共重合体を含み、前記第2グラフト共重合体は、一例として、アルキル(メタ)アクリレート系重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含んでなる。
【0075】
前記第2グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に、優れた耐衝撃性及び耐アルコール性を付与することができ、特に、前述した第1グラフト共重合体と後述する熱可塑性共重合体との相溶性を付与することができる。
【0076】
前記第2グラフト共重合体は、コア及びシェルの構造を有することができる。
【0077】
前記コアは、アルキル(メタ)アクリレート系単量体を単独で重合するか、またはアルキル(メタ)アクリレート系単量体と芳香族ビニル系単量体を共に重合して製造される重合体を含むことができる。
【0078】
前記シェルは、前記コアを囲み、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体から選択された1種以上を含んで重合されてもよい。
【0079】
前記共重合体のシェルの重量平均分子量は、一例として50,000~150,000g/mol、好ましくは60,000~130,000g/molであってもよく、前記範囲内で、耐衝撃性、加工性及び透明度が改善されるという利点がある。
【0080】
前記第2グラフト共重合体の製造に使用される重合は、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合から選択される方法により行われてもよく、乳化重合の方法により重合することが好ましい。
【0081】
前記第2グラフト共重合体中のコアは、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体を一括又は連続投入した後、乳化重合して製造するか、または前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体と芳香族ビニル系単量体を一括又は連続投入した後、乳化重合して製造することができる。
【0082】
前記第2グラフト共重合体中のシェルは、前記コアの存在下で、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体からなる群から選択される1種以上を一括又は連続投入した後、乳化重合して製造することができる。
【0083】
前記コア及びシェルに含まれるアルキル(メタ)アクリレート系単量体は、互いに独立して、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート及びラウリル(メタ)アクリレートから選択される1種以上であってもよく、このうち、ブチルアクリレート単量体、または2-エチルヘキシルアクリレート単量体を使用することができる。
【0084】
前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体は、前記第2グラフト共重合体の総重量に対して、一例として30~70重量%、好ましくは40~60重量%、より好ましくは40~50重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の衝撃強度、加工性及び透明度をさらに改善することができる。
【0085】
前記アルキル(メタ)アクリレート重合体を芳香族ビニル系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体から製造する場合に、前記芳香族ビニル系単量体は、前記アルキル(メタ)アクリレート重合体の総重量に対して、一例として1~25重量%、好ましくは1~15重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の剛性、加工性及び透明度がさらに改善され得る。
【0086】
前記アルキル(メタ)アクリレート重合体に含まれるアルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記アルキル(メタ)アクリレート重合体の総重量に対して、一例として70重量%以上、好ましくは70~99重量%、より好ましくは80~99重量%、さらに好ましくは90~99重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の透明度、耐候性、着色性及び耐アルコール性がさらに改善され得る。
【0087】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記第1グラフト共重合体に関する説明に記載した通りである。
【0088】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記第2グラフト共重合体の総重量に対して、一例として50重量%以下、好ましくは10~40重量%含まれてもよく、より好ましくは20~40重量%、さらに好ましくは3~40重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の剛性、加工性及び透明度がさらに改善され得る。
【0089】
前記アルキル(メタ)アクリレート系重合体の平均粒径は、一例として0.03~0.2μm、好ましくは0.05~0.17μm、より好ましくは0.05~0.12μmであってもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の機械的特性及び加工性をさらに改善することができる。
【0090】
前記シェルに含まれるアルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記第2グラフト共重合体の総重量に対して、一例として1~15重量%、好ましくは1~10重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の透明度、耐候性及び着色性がさらに改善され得る。
【0091】
前記シェルに含まれる芳香族ビニル系単量体は、前記第2グラフト共重合体の総重量に対して、一例として20~68重量%、好ましくは25~60重量%、より好ましくは30~55重量%、最も好ましくは30~50重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の剛性、加工性及び透明度がさらに改善され得る。
【0092】
前記ビニルシアン系単量体は、前記第1グラフト共重合体に関する説明に記載した通りである。
【0093】
前記ビニルシアン系単量体は、前記第2グラフト共重合体の総重量に対して、一例として1~30重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~20重量%含まれてもよく、前記範囲内で、共重合体の剛性、耐衝撃性及び耐アルコール性がさらに改善され得る。
【0094】
前記第2グラフト共重合体は、前記熱可塑性樹脂組成物中に、一例として28~75重量%、好ましくは30~60重量%、より好ましくは35~55重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品の透明度、耐アルコール性、機械的物性及び加工性をさらに改善することができる。
【0095】
熱可塑性共重合体
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは熱可塑性透明樹脂組成物であって、熱可塑性共重合体を含み、前記熱可塑性共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる。
【0096】
前記熱可塑性共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を共重合して製造することができる。
【0097】
具体的に、前記熱可塑性共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を一括又は連続投入し、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合からなる群から選択される1種以上の方法により重合して製造することができる。
【0098】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、一例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート及びデシル(メタ)アクリレートから選択されてもよく、このうちメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0099】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、前記熱可塑性共重合体の総重量に対して、一例として40~80重量%、好ましくは55~75重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の透明度、耐スクラッチ性、剛性、加工性及び耐衝撃性をさらに改善することができる。
【0100】
前記芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体は、前記第1グラフト共重合体に関する説明に記載した通りである。
【0101】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記熱可塑性共重合体の総重量に対して、一例として15~45重量%、好ましくは15~35重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の剛性及び加工性をさらに改善することができる。
【0102】
前記ビニルシアン系単量体は、前記熱可塑性共重合体の総重量に対して、一例として3~20重量%、好ましくは5~15重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の耐衝撃性、剛性及び耐アルコール性をさらに改善することができる。
【0103】
前記熱可塑性共重合体は、前記熱可塑性樹脂組成物中に、一例として20~60重量%、好ましくは20~55重量%含まれてもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から射出されて製造された成形品の機械的物性をさらに改善することができる。
【0104】
前記熱可塑性共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合から選択された1つ以上の方法により重合して製造することができ、一例として、塊状重合により製造される場合、製造コストが削減されるだけでなく、機械的物性に優れるという効果がある。
【0105】
前記塊状重合の場合、乳化剤又は懸濁剤などの添加剤が投入されないので、共重合体中の不純物の含量が最小化された高純度の共重合体を製造することができる。これによって、透明度の維持を具現する熱可塑性樹脂組成物には、塊状重合により製造された共重合体が含まれることが有利であり得る。
【0106】
前記塊状重合は、一例として、単量体混合物に、反応媒質である有機溶媒、及び必要に応じて分子量調節剤、重合開始剤をはじめとする添加剤を投入して重合させる方法であってもよい。
【0107】
具体的な一例として、前記熱可塑性共重合体の製造方法は、アルキル(メタ)アクリレート系化合物、芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物を含む単量体混合物100重量部に、反応媒質20~40重量部及び分子量調節剤0.05~0.5重量部を混合し、反応温度130~170℃を維持しつつ2~4時間重合させるステップを含むことができる。
【0108】
前記反応媒質は、この技術分野で通常使用される溶媒であれば、特に制限されず、一例として、エチルベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系化合物であってもよい。
【0109】
前記熱可塑性共重合体の製造方法は、一例として、原料投入ポンプ、反応原料が連続的に投入される連続撹拌槽、連続撹拌槽から排出された重合液を予備的に加熱する予備加熱槽、未反応単量体及び/又は反応媒質を揮発させる揮発槽、ポリマー移送ポンプ、及び重合体をペレット状に製造する押出加工機で構成されている連続工程機で行われてもよい。
【0110】
このとき、前記押出加工の条件は、一例として210~240℃であってもよいが、これに限定するものではない。
【0111】
熱可塑性樹脂組成物
本発明の一実施例によれば、前述した第1グラフト共重合体の重量が前記第2グラフト共重合体の重量よりも小さい場合、前記熱可塑性樹脂組成物の透明度、衝撃強度と加工性の物性バランスを有し、耐アルコール性をさらに改善することができる。
【0112】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは熱可塑性透明樹脂組成物であって、前述した第1グラフト共重合体の重量が前記熱可塑性共重合体の重量よりも小さい場合、前記熱可塑性樹脂組成物の耐アルコール性、透明度、衝撃強度と加工性の物性バランスを改善することができる。
【0113】
また、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記第1グラフト共重合体と前記第2グラフト共重合体との重量比が、一例として1:3~1:11(第1グラフト共重合体:第2グラフト共重合体)、好ましくは1:4~1:10(第1グラフト共重合体:第2グラフト共重合体)であってもよい。上述した範囲を満たす場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品の機械的物性、加工性及び耐アルコール性をさらに改善することができる。
【0114】
本発明の一実施例に係る熱可塑性樹脂組成物は、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体を含むことができ、この場合に、当該ブロック共重合体は、透明度を維持させることができる加工助剤として作用することができる。
【0115】
前記エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体は、一例として、下記化学式1で表される共重合体であってもよい。
【0116】
【0117】
前記化学式1において、a1は10~80の整数、b1は10~50の整数、c1は10~80の整数であってもよい。
【0118】
前記化学式1で表される共重合体は、エチレングリコールに由来したエチレンオキシド単位の含量(前記化学式1におけるa1+c1に対応)が、一例として70~90モル%、好ましくは75~85モル%であってもよい。
【0119】
前記エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体は、融点が、一例として30~90℃、好ましくは30~80℃、より好ましくは40~70℃であってもよい。上述した範囲を満たす場合、耐衝撃性、加工性、及び難燃性がさらに改善され得る。
【0120】
本記載において、融点は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて、公知の方法により測定することができる。
【0121】
前記エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体は、DIN 53814(1g/l in distilled water at 23℃)に準拠した表面張力が、一例として80mN/m以下、好ましくは1~80mN/m、より好ましくは20~70mN/m、さらに好ましくは30~60mN/mであってもよい。
【0122】
また、前記エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体は、重量平均分子量が、一例として5,000~30,000g/mol、好ましくは5,000~25,000g/mol、より好ましくは8,000~20,000g/molである共重合体であってもよい。上述した範囲を満たす場合、ベース樹脂との相溶性に優れるので、加工及び使用時に前記化学式1で表される重合体が溶出されなくなり得る。
【0123】
前記エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を含むブロック共重合体は、前記第1グラフト共重合体、第2グラフト共重合体及び熱可塑性共重合体を合わせた総100重量部を基準として、一例として1.5重量部以下、好ましくは0.5~1.5重量部、より好ましくは1~1.5重量部含まれてもよい。
【0124】
上述した範囲を満たす場合、前記熱可塑性樹脂組成物に、優れた透明度、耐衝撃性及び流動性を付与することができる。
【0125】
前記熱可塑性樹脂組成物は、一例として、熱安定剤、UV安定剤、滑剤、酸化防止剤、加工助剤、顔料及び着色剤から選択された1種以上をさらに含むことができる。
【0126】
前記添加剤は、一例として、前記第1グラフト共重合体、第2グラフト共重合体及び熱可塑性共重合体を合わせた総100重量部を基準として、それぞれ、0.01~5重量部含まれてもよく、好ましくは0.5~2重量部、より好ましくは1~2重量部含まれてもよく、この範囲内で、熱可塑性樹脂組成物の物性に影響を与えないと共に、添加剤本来の特性が発現されるという効果がある。
【0127】
他の例として、前記添加剤は、滑剤0.1~2重量部、好ましくは0.5~1.5重量部、及び酸化防止剤0.1~1重量部、好ましくは0.1~0.5重量部を含むことができ、この範囲内で、熱可塑性樹脂組成物の物性に影響を与えないと共に、滑剤及び酸化防止剤本来の特性が発現されるという効果がある。
【0128】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法
以下では、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関して説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明するにおいて、上述した熱可塑性樹脂組成物の内容をすべて含む。
【0129】
本記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、一例として、共役ジエン系重合体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる第1グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含んでなる第2グラフト共重合体と;アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を含んでなる熱可塑性共重合体とを含み、前記第1グラフト共重合体を5~12重量%含み、前記第1グラフト共重合体の重量が前記第2グラフト共重合体の重量よりも小さいと同時に、前記熱可塑性共重合体の重量よりも小さい熱可塑性樹脂組成物を、押出機に投入して溶融混練及び押出するステップを含む。
【0130】
前記溶融混練ステップは、一例として、上述したその他の添加剤を含むことができる。
【0131】
前記溶融混練及び押出するステップは、一例として、一軸押出機、二軸押出機及びバンバリーミキサからなる群から選択された1種以上を用いて行われてもよく、好ましくは二軸押出機であり、これを用いて組成物を均一に混合した後、押出して、一例としてペレット状の熱可塑性樹脂組成物を収得することができ、この場合、機械的物性、熱的特性、めっき密着力及び外観品質に優れるという効果がある。
【0132】
前記混練及び押出は、一例として、バレル温度180~280℃、好ましくは210~250℃の範囲内で行われてもよく、この場合、単位時間当たりの処理量が適切であると共に、十分な溶融混練が可能となり得、樹脂成分の熱分解などの問題を引き起こさないという効果がある。
【0133】
前記混練及び押出は、一例として、スクリュー回転数が200~300rpm、好ましくは250~300rpmである条件下で行われてもよく、この場合、単位時間当たりの処理量が適切であるので、工程効率に優れながらも混練が容易である。
【0134】
前記熱可塑性樹脂組成物を押出した後、製造されたペレットを対流オーブンで、一例として60~90℃下で4時間以上乾燥させた後、射出成形することができる。
【0135】
前記射出成形は、射出成形機(ENGEL社、100トン)を用いて、射出温度190~260℃、具体例として210~230℃、金型温度40~80℃、具体例として50~70℃下で、射出速度10~80mm/sec、具体例として20~40mm/sec下で射出するステップを含むことができる。
【0136】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品に関して説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品を説明するにおいて、上述した熱可塑性樹脂組成物の内容をすべて含む。
【0137】
<熱可塑性成形品>
本発明の他の実施例によれば、前述した熱可塑性透明樹脂組成物で製造された成形品を提供することができる。前記範囲内で、機械的特性と透明度、耐アルコール性及び加工性の物性バランスが改善された効果を提供することができる。
【0138】
前記成形品は、一例として、アルコール消毒を必要とする電子機器、事務用機器、生活家電などに使用することができる。
【0139】
本記載の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及び成形品を説明するにおいて、明示的に記載していない他の条件や装置などは、当業分野において通常行われる範囲内で適宜選択することができ、特に制限されないことを明示する。
【0140】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定するものではない。
【0141】
[実施例]
下記の実施例及び比較例で用いられた物質は、次の通りである。
【0142】
A)第1グラフト共重合体(ABS系樹脂:(ゴム)平均粒径300nmのブタジエン重合体50重量%、メチルメタクリレート35重量%、スチレン12重量%、アクリロニトリル3重量%)
B-1)第2グラフト共重合体(ASA系樹脂:(ゴム)平均粒径90nmのブチルアクリレート42重量%及びスチレン3重量%、スチレン37重量%、アクリロニトリル14重量%、ブチルアクリレート4重量%、重量平均分子量85,000g/mol)
B-2)第2グラフト共重合体(ASA系樹脂:(ゴム)平均粒径90nmのブチルアクリレート42重量%及びスチレン3重量%、スチレン40重量%及びアクリロニトリル15重量%、重量平均分子量83,000g/mol)
C)熱可塑性共重合体(バルク重合方式のMSAN樹脂:メチルメタクリレート70重量%、スチレン25重量%、アクリロニトリル5重量%、重量平均分子量150,000g/mol)
D)エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位を有するブロック共重合体(BASF社製のPluronic F108、重量平均分子量14,600g/mol)
E)メチルメタクリレート重合体(LG MMA社製のIH830、重量平均分子量101,000g/mol)
【0143】
実施例1~5、比較例1~4、参考例1~2
それぞれ、下記の表1及び表2に記載された成分及び含量を二軸押出機で230℃下で混練及び押出してペレットを製造し、ペレットを成形温度230℃で射出して物性測定用試験片を作製した。
【0144】
実施例1~5、比較例1~4、及び参考例1~2でそれぞれ製造されたペレット及び試験片の特性を下記の方法により測定し、その結果を下記の表1及び表2に共に示した。
【0145】
*溶融指数(melt index;MI):製造されたペレットを220kgの条件下でASTM D1238方法により測定した。
【0146】
*透明度(%):厚さ3mmの試験片のヘイズ及び色相特性を、ASTM D1003に準拠して測定した。
【0147】
*衝撃強度(Notched Izod Impact Strength、kg・cm/cm):厚さ1/4インチの試験片を、ASTM D-256に準拠してノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0148】
*耐アルコール性:厚さ1/8インチ(3.2mm)の引張試験片を両端が曲がったジグ(Zig、曲率半径:226.97mm)に固定させた後、70%イソプロピルアルコールをガーゼ(gaze)に付けて前記試験片の中央に載せ、試験片に染み込むようにして12時間放置した。その次に、目視で試験片の表面外観の変化及びクラック(crack)の発生の有無を確認した。目視で確認した結果、変化がない場合にクラックなし、微細なクラック及び僅かな色変化がある場合にわずかなクラック、クラックが発生し、色変化がひどい場合にクラックと記載した。
【0149】
本記載において、別途の定義がない限り、%は、重量%を意味する。
【0150】
【表1】
(*前記Dの含量は、A、B-1、B-2、C、Eの合計100重量部に対する重量部である。)
【0151】
【表2】
(*前記Dの含量は、A、B-1、B-2、C、Eの合計100重量部に対する重量部である。)
【0152】
前記表1及び表2に示したように、第1グラフト共重合体、第2グラフト共重合体及び熱可塑性共重合体を適正量含み、第2グラフト共重合体のシェルに含まれるアルキル(メタ)アクリレート系単量体を、当該第2グラフト共重合体に含まれるアルキル(メタ)アクリレート重合体を製造する際に含まれるアルキル(メタ)アクリレート系単量体と同じ種類として含む実施例1~5は、本発明の組成を外れるか、または前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体を前記第2グラフト共重合体のシェルに含まない比較例1~4と比較して、溶融指数、透明度及び衝撃強度は同等又はそれ以上を維持しながらも、耐アルコール性に代表される耐化学性は著しく優れることが確認できた。
【0153】
特に、第1グラフト共重合体の重量が第2グラフト共重合体の重量よりも大きい比較例1は、耐アルコール性が不良であることを確認した。
【0154】
また、第2グラフト共重合体のシェルにアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含まない比較例2は、透明度が劣ることを確認した。
【0155】
また、第1グラフト共重合体の重量が過量である比較例3は、透明度が低下し、第1グラフト共重合体の重量が少量である比較例4は、衝撃強度が低下することが確認できた。
【0156】
さらに、下記
図1及び
図2の光学顕微鏡写真を参照すると、本発明の実施例1による成形品は、アルコールによってクラックが発生しなかったが、本発明の範囲を外れる比較例1による成形品は、第2グラフト共重合体の重量が不十分であるため、クラックが発生し、耐アルコール性が劣ることを目視でも確認することができた。
【0157】
一方、加工助剤を過量含む場合、参考例1から分かるように、本発明で達成しようとする主要な特徴である耐アルコール性及び透明度が不良であり、透明度に優れていると知られているメチルメタクリレート重合体を含んでも、使用量によって透明度が低下することを確認した。
【0158】
結論的に、熱可塑性共重合体を改質させて適用すると共に、グラフト共重合体として、ゴムの種類が異なる2種を適正組成で含む熱可塑性樹脂組成物を提供する場合、基本物性である透明度及び加工性を確保しながら、耐アルコール性に優れた素材を提供し、成形品に適することが確認できた。