(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】継代時期算出装置、継代時期算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240112BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240112BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240112BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240112BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M1/00 A
C12Q1/02
C12N5/0735
(21)【出願番号】P 2020550504
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038926
(87)【国際公開番号】W WO2020075591
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018193875
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点」、「再生医療用iPS細胞ストック開発拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】檀 知朗
(72)【発明者】
【氏名】紀伊 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】魚住 孝之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 信介
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/043077(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/115153(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/025508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出部と、
前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出部と、
前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出部と、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出部と、
前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出部と、
を備える継代時期算出装置。
【請求項2】
前記時間変化算出部によって算出された前記面積の時間変化について、前記変化点検出部によって検出された前記変化点より後の前記面積の減少率を算出する減少率算出部、
をさらに備え、
前記継代時期算出部は、前記減少率算出部によって算出された前記減少率と、所定の閾値とに基づいて前記継代時期を算出する
請求項1に記載の継代時期算出装置。
【請求項3】
前記筋領域抽出部は、前記コロニー領域から、前記画像を構成する画素のうち基準値よりも大きい輝度値の画素の集まりに基づく領域である高輝度領域に基づいて前記抽出対象領域を抽出し、
前記継代時期算出部は、前記変化点検出部によって検出された前記変化点と、前記多能性幹細胞の種類毎に前記変化点と前記継代時期とが予め対応づけられた継代時期情報とに基づいて前記継代時期を決定する
請求項1に記載の継代時期算出装置。
【請求項4】
前記多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像し、前記複数
の画像を取得する画像取得部と
、
をさらに備え、
前記時間変化算出部は、前記筋状の模様が現れている領域である前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を、前
記画像における前記コロニー領域の面積に対して前記抽出対象領域の面積が占める割合の時間変化として算出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の継代時期算出装置。
【請求項5】
前記変化点検出部によって前記変化点が検出された後に、前記多能性幹細胞が撮像される時間間隔を変更する撮像時間間隔変更部
をさらに備える請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の継代時期算出装置。
【請求項6】
前記継代時期算出部は、前記所定の閾値を変更可能である
請求項2に記載の継代時期算出装置。
【請求項7】
多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像し、複数の画像を取得する画像取得部と、
前記画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出部と、
前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域である、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出部と、
前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の画像から、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出部と、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出部と、
前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を算出する継代時期算出部と、前記継代時期を出力する出力部と、
を備える継代時期算出装置。
【請求項8】
前記出力部から出力された前記継代時期を表示する表示部を備える
請求項7記載の継代時期算出装置。
【請求項9】
前記筋領域抽出部は、前記コロニー領域から、前記画像を構成する画素のうち基準値よりも大きい輝度値の画素の集まりに基づく領域である高輝度領域に基づいて、前記抽出対象領域を抽出す
る
を備える請求項7に記載の継代時期算出装置。
【請求項10】
多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出工程と、
前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出工程と、
前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出
工程と、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出
工程と、
前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出
工程と、
を有する継代時期算出方法。
【請求項11】
コンピュータに、
多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出ステップと、
前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出ステップと、
前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出ステップと、
前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出ステップと、
前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継代時期算出装置、継代時期算出方法、及びプログラムに関する。
本願は、2018年10月12日に、日本に出願された特願2018-193875号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
再生医療等では大量の多能性幹細胞が求められる。目的細胞の細胞数を増やす工程を拡大培養工程というが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞の拡大培養においては、多能性幹細胞の多分化能、すなわち未分化な状態を維持したまま拡大培養することが必要である。このためiPS細胞等のコロニーを形成する細胞では、コロニーを継代することにより拡大培養を行っている。iPS細胞である多能性幹細胞は、培養過程において未成熟な状態から、継代培養に適した成熟状態へ変化し、この過程でコロニーの状態が変化していく。拡大培養工程では、コロニーの状態変化(本願では「コロニーの成熟度合」という)に基づいて継代するタイミングの判定を行なう。従来、当該成熟度合は、作業者が目視でコロニー内の細胞の大きさを見て判断を行なっているが、作業者ごとにばらつきが生じることがある。
【0003】
継代培養のタイミングに関する作業者ごとのばらつきを抑制するために、拡大培養後に細胞を回収して細胞懸濁液を作り、細胞懸濁液の単位量あたりの細胞数を測定し、その測定結果に基づいて所望の細胞濃度まで希釈し、継代する作業を自動で行う装置が提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1に記載の装置は、細胞を培養容器から剥離させて回収バッグに回収してから細胞数を測定及び調整し、継代培養を行うので、コロニーの成熟が十分であるか否かは判断することができず、仮に不十分であった場合、培養を継続してコロニーを成熟させることはできない。接着培養されているコロニーのまま成熟度を判定し、継代するタイミングを予測できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出部と、前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出部と、前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出部と、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出部と、前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出部と、を備える継代時期算出装置である。
本発明の一態様は、多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像し、複数の画像を取得する画像取得部と、前記画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出部と、前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域である、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出部と、前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の画像から、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出部と、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出部と、前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を算出する継代時期算出部と、前記継代時期を出力する出力部と、を備える継代時期算出装置である。
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出工程と、前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出工程と、前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出工程と、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出工程と、前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出工程と、を有する継代時期算出方法である。
【0007】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、コンピュータに、多能性幹細胞の培養工程において前記多能性幹細胞を経時的に撮像して、取得された複数の画像から前記多能性幹細胞のコロニー領域を抽出するコロニー領域抽出ステップと、前記コロニー領域の画像から筋状の模様が現れている領域であって、複数の前記多能性幹細胞の間隙のコントラストの高い領域を抽出対象領域として抽出する筋領域抽出ステップと、前記多能性幹細胞が時間を変えて撮像された複数の顕微鏡画像から、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化を算出する時間変化算出ステップと、前記コロニー領域に対して前記抽出対象領域が占める面積の時間変化の変化点を検出する変化点検出ステップと、前記変化点に基づいて前記多能性幹細胞の継代時期を決定する継代時期算出ステップと、を実行させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る継代時期算出装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る位相差画像の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る継代時期算出装置の処理の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るコロニー領域に対する筋領域が占める面積の割合(筋領域割合)の時間変化の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る継代時期算出処理の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る継代時期算出装置の構成の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る継代時期算出処理の一例を示す図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る継代時期算出装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る継代時期算出処理の第1の例を示す図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る継代時期算出処理の第2の例を示す図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る筋状の模様の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る継代時期算出装置1の構成の一例を示す図である。継代時期算出装置1は、多能性幹細胞が撮像された複数の位相差画像PS(不図示)から、抽出の対象となる領域である抽出対象領域を抽出する。ここで多能性幹細胞とは、内胚葉、中胚葉、外胚葉の三胚葉に属する細胞系列すべてに分化し得る能力(多能性)を潜在的に有し、かつ増殖性を併せ持つ幹細胞をいい、例えば、iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)が挙げられる。
【0010】
複数の位相差画像PSとは、多能性幹細胞のコロニーを所定の時間間隔で撮影したタイムラプス画像のセットであり、位相差画像PSのうちの一画像を、位相差画像P0という。位相差画像P0の一例を
図2に示す。
本実施形態において抽出対象領域とは、位相差画像P0のうち筋状の模様が現れている領域である。ここで当該筋状の模様について説明するために、iPS細胞である多能性幹細胞の培養過程について説明する。
iPS細胞である多能性幹細胞は、培養過程において、コロニー未形成状態を初期状態とし、未成熟状態を経て、成熟状態へと変化する。
【0011】
コロニー未形成状態とは、多能性幹細胞が単一の細胞であり、コロニーを形成していない状態である。コロニー未成熟状態では、コロニーは形成されているが、一細胞あたりの面積が大きく細胞密度は低い。以下、細胞密度が低い領域を粗領域ともいう。
【0012】
成熟状態とは、多能性幹細胞がコロニーを形成し成熟している状態である。多能性幹細胞が成熟するにつれて、コロニーにおける一細胞あたりの面積は小さくなり細胞密度が高くなる。以下、細胞密度が高い領域を密領域ともいう。成熟状態のコロニーでは、中央に密領域が形成され、当該密領域の周囲を取り囲むように粗領域が存在する。
【0013】
コロニー未成熟状態と、成熟状態との間の中間の状態として遷移状態がある。遷移状態とは、多能性幹細胞がコロニーを形成しているが十分に成熟していない状態である。
【0014】
遷移状態では、コロニーの位相差画像P0に筋領域がみられる。筋領域とは、位相差画像P0において細長い筋状の模様が複数見られる領域である。多能性幹細胞が成熟するにつれて多能性幹細胞同士が密になった結果、それら複数の多能性幹細胞の間隙のコントラストが高くなり、筋状に見えていると考えられる。
図11に筋状の模様SSの一例を示す。
遷移状態においてコロニーは、筋領域と、当該筋領域の周囲を取り囲む密領域と、当該密領域の周囲を取り囲む粗領域とを含む。
【0015】
ここで
図2を参照し、筋領域SRについて説明する。
図2は、本実施形態に係るiPS細胞(京都大学iPS細胞研究所で作成した健常ヒト末梢血由来iPS細胞株003)を撮像することにより得られた位相差画像P0の一例を示す図である。
図2では、位相差画像P0のコロニー領域CRに含まれる筋領域SRの一例として、筋領域SR1、筋領域SR2、及び筋領域SR3が示されている。
コロニー領域CRとは、位相差画像P0において、多能性幹細胞のコロニーに対応する領域のうち異常領域ARを除く領域である。
【0016】
異常領域ARとは、多能性幹細胞のコロニーに対応する領域のうち多能性幹細胞の状態から逸脱した異常な細胞によって形成される領域である。多能性幹細胞の培養においては、多能性の状態を維持したまま培養することが重要であるが、培養の過程で多能性幹細胞の状態から逸脱した異常な細胞が出現してしまうことがある。
【0017】
図1に戻って継代時期算出装置1の説明を続ける。
継代時期算出装置1は、位相差画像取得部10と、コロニー領域抽出部11と、筋領域抽出部12と、時間変化算出部13と、変化点検出部14と、減少率算出部15と、継代時期算出部16と、出力部17と、記憶部18とを備える。
【0018】
位相差画像取得部10は、位相差画像供給部2から供給される複数の位相差画像PSを取得する。ここで複数の位相差画像PSとは、時間を変えて多能性幹細胞が透過照明によって撮像された複数の顕微鏡画像の一例である。複数の位相差画像PSは、多能性幹細胞に照射された照明光の透過光の位相差が明暗差に変換されることによって当該多能性幹細胞が時間を変えて撮像されたタイムラプス画像である。複数の位相差画像PSでは、例えば、位相差顕微鏡によって得られた多能性幹細胞の拡大像が撮像されている。
複数の位相差画像PSは、一定の時間間隔において多能性幹細胞が撮像された複数の画像である。
透過照明による顕微鏡画像は、位相差画像以外に、例えば、微分干渉像、定量位相差像などであってもよい。
【0019】
コロニー領域抽出部11は、各位相差画像P0から多能性幹細胞のコロニー領域CRを抽出する。
【0020】
筋領域抽出部12は、各位相差画像P0において、コロニー領域CRから、筋領域SRを抽出する。筋領域SRとは、抽出対象領域の一例であり、位相差画像P0において筋状の模様が現れている領域である。
ここで筋領域抽出部12は、例えば、筋状の高輝度領域に基づいて筋領域SRを抽出することができる。高輝度領域とは、位相差画像P0を構成する画素のうち基準値よりも大きい輝度値の画素の集まりに基づく領域である。高輝度領域には、基準値よりも大きい輝度値の画素の集まりと、当該画素の集まりの周囲とが含まれる。
【0021】
時間変化算出部13は、複数の位相差画像PSについて、筋領域SRが占める面積の時間変化G1を算出する。本実施形態では、時間変化算出部13は、まず各位相差画像P0における、筋領域割合Aを算出する。ここで筋領域割合Aとは、コロニー領域CRに対する筋領域SRが占める面積の割合である。
時間変化算出部13は、各位相差画像P0が撮像された時間と、その時間の筋領域割合Aとに基づいて、複数の位相差画像PSにおける筋領域割合Aの時間変化G1を時間変化情報180として記憶部18に記憶させる。
【0022】
変化点検出部14は、時間変化算出部13によって算出された時間変化G1の変化点M1を検出する。ここで変化点M1とは、コロニー領域CR全体の面積に占める筋領域SRの面積の割合が、一旦増加した後減少し始める時間を示す点である。変化点M1は、一例として、時間変化G1の傾きが正から負へと変化する点である。つまり、変化点M1は、時間変化G1の極大値である。
【0023】
本発明者らは、多能性幹細胞のコロニーを未成熟状態から成熟状態まで培養すると、コロニー領域CR全体の面積に占める筋領域SRの面積の割合(筋領域割合A)が、一旦増加した後減少し、最終的には筋領域SRがほとんどなくなることを見出した。したがって、筋領域割合Aの変化に基づいて、成熟度を判断することが可能である。
【0024】
減少率算出部15は、時間変化算出部13によって算出された時間変化G1について、変化点検出部14によって検出された変化点M1より後のコロニー領域CRに対する筋領域SRが占める面積の減少率Dを算出する。
【0025】
本実施形態では、減少率算出部15は、時間変化G1について、変化点M1より後の筋領域割合Aの減少率Dを算出する。ここで減少率Dとは、一例として、筋領域割合Aの時間あたりの減少量である。
【0026】
継代時期算出部16は、変化点M1に基づいて多能性幹細胞の継代時期PTを算出する。
本実施形態では、継代時期算出部16は、減少率Dと、所定の閾値THとに基づいて多能性幹細胞の継代時期PTを算出する。本実施形態では、継代時期算出部16は、減少率Dから、筋領域割合Aが、閾値情報181が示す閾値TH以下となる時期を、継代時期PTとして算出する。ここで閾値情報181は、筋領域割合Aの所定の閾値を示す情報である。
【0027】
出力部17は、継代時期PTを提示部3に出力し、提示部3に継代時期PTを表示させる。なお、出力部17は、提示部3以外の出力装置や、記憶装置などに継代時期PTを出力してもよい。
記憶部18には、時間変化情報180、及び閾値情報181が記憶される。
【0028】
位相差画像供給部2は、継代時期算出装置1に複数の位相差画像P0を供給する。位相差画像供給部2は、例えば、位相差顕微鏡を備える撮像装置である。
提示部3は、継代時期算出装置1から供給される継代時期PTを提示する。提示部3は、例えば、ディスプレイなどの表示装置である。
【0029】
次に
図3~
図5を参照し、継代時期算出装置1が継代時期PTを算出する処理について説明する。
図3は、本実施形態に係る継代時期算出装置1の処理の一例を示す図である。
ステップS100:継代時期算出装置1は、複数の位相差画像PSの撮像時間毎に継代時期PTを算出する処理を開始する。ここで、本実施形態では、複数の位相差画像PSのフレーム数Nは予め決められている。継代時期算出装置1は、継代時期PTを算出する処理を、予め決められたフレーム数Nだけ繰り返す。
【0030】
ステップS110:位相差画像取得部10は、位相差画像供給部2から供給される位相差画像P0を取得する。ここで位相差画像供給部2は、位相差画像P0を撮像する度に、撮像した位相差画像P0を継代時期算出装置1に供給する。
位相差画像取得部10は、取得した位相差画像P0を、コロニー領域抽出部11及び筋領域抽出部12に供給する。
【0031】
ステップS120:コロニー領域抽出部11は、位相差画像取得部10によって取得された位相差画像P0から多能性幹細胞のコロニー領域CRを抽出する。コロニー領域抽出部11は、例えば、公知のエッジ検出に基づいて位相差画像P0から細胞領域を抽出し、抽出した細胞領域から所定の面積より広い細胞領域をコロニー領域CRとして抽出する。コロニー領域抽出部11は、抽出したコロニー領域CRを、筋領域抽出部12及び時間変化算出部13に供給する。
なお、コロニー領域CRの抽出は、細胞領域の面積に基づいて行う方法に限定されず、公知の様々な方法により行うことができる。
【0032】
ここでコロニー領域抽出部11は、周囲のハロの有無に基づいて異常領域ARを除いた領域を、コロニー領域CRとして抽出してもよい。
ハロとは、位相差画像のうち、一方の領域と他方の領域との位相差が大きく、結果一方の領域と他方の領域との境界において周囲よりも輝度が高くなっている部分である。正常な多能性幹細胞のコロニーは、周囲にハロが多く見られ、異常細胞のコロニーは、周囲にハロがあまり見られない。
【0033】
したがって、コロニー領域CRは、コロニーが形成される領域のうち位相差が所定の値以上である部分を周囲に有する領域とすることができる。異常領域ARは、コロニー領域CRのうち位相差が所定の値以上である部分を周囲に有さない領域とすることができる。
【0034】
ステップS130:筋領域抽出部12は、位相差画像P0において、コロニー領域CRから、筋領域SRを抽出する。ここで筋領域抽出部12は、筋状の高輝度領域に基づいて筋領域SRを抽出することができる。筋領域抽出部12は、抽出した筋領域SRを時間変化算出部13に供給する。
【0035】
ステップS140:時間変化算出部13は、コロニー領域CRに対して筋領域SRが占める面積の割合(筋領域割合A)の時間変化G1を算出する。
【0036】
時間変化算出部13は、まず各位相差画像P0について筋領域割合Aを算出する。ここで便宜的に、複数の位相差画像PSのうち、今回取得した位相差画像P0を位相差画像Pnとし、それまでに取得した位相差画像を位相差画像P0~Pn-1とする。時間変化算出部13は、記憶部18から位相差画像P0~Pn-1に基づいて算出した時間変化情報180を取得し、取得した時間変化情報180が示す時間変化G1に、位相差画像Pnの撮像時間と、算出した面積の割合との組を追加することによって、位相差画像P0~Pnに基づく時間変化G1を算出する。
時間変化算出部13は、位相差画像P0~Pnに基づいて算出した時間変化G1を時間変化情報180として記憶部18に記憶させる。また、時間変化算出部13は、算出した時間変化G1を変化点検出部14に供給する。
【0037】
上述したように、時間変化算出部13は、複数の位相差画像PSから、筋領域割合Aの時間変化G1を算出する。
【0038】
ステップS150:変化点検出部14は、時間変化G1の変化点M1を検出する。
【0039】
ここで
図4を参照し、時間変化G1について説明する。
図4は、本実施形態に係るコロニー領域CRに対する筋領域SRが占める面積の割合(筋領域割合A)の時間変化G1の一例を示す図である。時間変化G1では、位相差画像P0が撮像されたそれぞれの時間に対して、筋領域割合Aが示されている。
なお、
図4に示す時間変化G1の例は、筋領域割合Aの時間変化G1を模した仮想データである。
【0040】
図4に示す時間変化G1では、筋領域割合Aは、点X1まで増加し点X1から減少し始めている。変化点検出部14は、隣り合った点における筋領域割合Aを比較し、点X1までは筋領域割合Aが増加し、点X1から点X2で筋領域割合Aが初めて減少していると判定した場合、点X1を変化点M1として検出する。
【0041】
また、変化点検出部14は、時間変化G1の変化点M1を、時間変化G1の傾きが正から負へと変化する点として検出してもよい。このように、本実施形態では、変化点M1を簡便に検出できる。
【0042】
また、変化点検出部14は、時間変化G1の3つ以上の連続した点において筋領域割合Aが減少している場合に、当該3つ以上の連続した点のいずれか(例えば撮像時間の最も新しい点)を変化点M1として検出してもよい。ここで時間変化G1において複数の点が連続しているとは、複数の点に対応する撮像時間の間に、当該複数の点以外の点に対応する撮像時間が存在しないことである。つまり、複数の位相差画像PSが撮像された時間がフレームとして連続していることである。
【0043】
例えば、変化点検出部14は、時間変化G1において連続する点X1、点X2、及び点X3について、点X2における筋領域割合Aが点X1における筋領域割合Aから減少し、かつ点X3における筋領域割合Aが点X2における筋領域割合Aから減少している場合、点X1を変化点M1として検出してもよい。
継代時期算出装置1では、連続した3つの点に基づいて筋領域割合Aが減少しているかを判定する場合の方が、連続した2つの点に基づいて判定する場合に比べて、変化点M1の検出の精度を高くできる。
【0044】
また、変化点検出部14は、時間変化G1の傾きが所定の負の値よりも小さい場合に、当該傾きを算出するのに用いた時間変化G1における点のうち最も早い撮像時間に対応する点を、変化点M1として検出してもよい。
【0045】
なお、変化点検出部14が変化点M1の検出に用いる時間変化G1における2つ以上の点は、連続していなくてもよい。
【0046】
図3に戻って継代時期算出装置1の処理の説明を続ける。
ステップS155:変化点検出部14は、変化点M1を検出したか否かを判定する。変化点検出部14は、ステップS150において変化点M1を検出した場合、変化点M1を検出したと判定し、ステップS150において変化点M1を検出していない場合、変化点M1を検出していないと判定する。
【0047】
変化点検出部14は、変化点M1を検出したと判定する場合(ステップS155;YES)、検出した変化点M1を示す変化点情報を減少率算出部15に供給する。その後、継代時期算出装置1は、ステップS160の処理を実行する。
一方、変化点検出部14が、変化点M1を検出していないと判定する場合(ステップS155;NO)、継代時期算出装置1は、ステップS180の処理を実行する。
【0048】
ステップS160:継代時期算出部16及び減少率算出部15は、継代時期算出処理を行う。
ここで
図5を参照し、継代時期算出処理について説明する。
図5は、本実施形態に係る継代時期算出処理の一例を示す図である。
【0049】
ステップS200:減少率算出部15は、時間変化G1について、変化点M1より後の筋領域割合Aの減少率Dを算出する。ここで変化点M1より後とは、変化点M1に対応する位相差画像P0の撮像時間以降の撮像時間の範囲をいう。
減少率算出部15は、算出した減少率Dを継代時期算出部16に供給する。
【0050】
ここで再び
図4を参照し、減少率算出部15が減少率を算出する処理について説明する。
減少率算出部15は、一例として、点X2に対応する筋領域割合Aと点X1に対応する筋領域割合Aとの差を、点X2に対応する位相差画像P0の撮像時間と点X1に対応する位相差画像P0の撮像時間との差によって除算することによって筋領域割合Aの減少率を算出する。つまり、本実施形態では、減少率Dとは、点X1と点X2とを結ぶ直線の傾きの値である。
【0051】
なお、減少率算出部15は、時間変化G1のうち変化点M1より後の複数の点に基づいて、筋領域割合Aの減少率Dを算出してもよい。変化点M1より後の複数の点とは、点X1、及び点X2に加えて、点X2より後の1つ以上の点である。
【0052】
図5に戻って継代時期算出処理の説明を続ける。
ステップS210:継代時期算出部16は、減少率算出部15によって算出された減少率Dと記憶部18から取得する閾値情報181が示す閾値THとに基づいて多能性幹細胞の継代時期PTを算出する。
【0053】
ここで継代時期算出部16は、2回目以降のステップS210の処理において算出した継代時期PTが、前回のステップS210の処理において算出した継代時期PTと異なる場合、新たに算出した継代時期PTによって継代時期PTを修正する。継代時期算出部16は、修正した継代時期PTを継代時期PTとして算出する。
継代時期算出部16は、算出した継代時期PTを出力部17に供給する。
【0054】
継代時期算出装置1では、継代時期PTを算出する処理を複数の位相差画像PSのフレーム数Nだけ繰り返して継続するため、一度算出した継代時期PTを修正できるため、継代時期PTの精度を高くできる。
【0055】
ここで再び
図4を参照し、継代時期算出部16が継代時期PTを算出する処理について説明する。
継代時期算出部16は、減少率Dに基づいて、筋領域割合Aが閾値TH以下となる時間を算出する。ここで閾値THは、一例として15パーセントである。継代時期算出部16は、算出した時間を継代時期PTとする。
【0056】
上述したように、減少率Dとは、点X1と点X2とを結ぶ直線の傾きの値であるから、本実施形態では、一例として、継代時期算出部16は、変化点M1より後の時間変化G1の一次式による近似に基づいて継代時期PTを算出する。
【0057】
なお、継代時期算出部16は、時間変化G1において変化点M1より後の複数の点を用いて、時間変化G1の変化点M1より後の範囲を近似する近似曲線を算出してもよい。継代時期算出部16は、算出した近似曲線に基づいて、筋領域割合Aが閾値TH以下となる位相差画像P0の撮像時間を算出してもよい。
【0058】
図3に戻って継代時期算出装置1の処理の説明を続ける。
ステップS170:出力部17は、継代時期算出部16によって算出された継代時期PTを提示部3に出力し、提示部3に継代時期PTを表示させる。
ステップS180:継代時期算出装置1は、複数の位相差画像PSの撮像時間毎に継代時期PTを算出する処理をフレーム数Nだけ実行した場合、当該処理を終了する。
【0059】
なお、本実施形態においては、位相差画像供給部2は、位相差画像P0を撮像する度に、撮像した位相差画像P0を継代時期算出装置1に供給する場合について説明したが、これに限らない。位相差画像供給部2は、撮像した位相差画像P0を所定のタイミングにおいて複数まとめて継代時期算出装置1に供給してもよい。
【0060】
以上に説明したように、本実施形態に係る継代時期算出装置1は、時間変化算出部13と、変化点検出部14と、継代時期算出部16とを備える。
時間変化算出部13は、時間を変えて多能性幹細胞が透過照明によって撮像された複数の顕微鏡画像(この一例において、複数の位相差画像PS)から、筋状の模様が現れている領域である抽出対象領域(この一例において、筋領域SR)が占める面積(この一例において、筋領域割合A)の時間変化G1を算出する。
【0061】
この構成により、本実施形態に係る継代時期算出装置1は、継代するタイミングを予測できるため、適切なタイミングで継代をすることが可能となる。本発明者らは、多能性幹細胞のコロニーが成熟状態を過ぎて成熟しきった過成熟状態になると、継代後の生着や増殖が悪いことを見出した。しかし、本実施形態に係る継代時期算出装置1によれば、適切な閾値THを設定することにより、最適な継代タイミングを予測することができ、培養中の多能性幹細胞が過成熟になるリスクを軽減できる。
【0062】
また、本実施形態に係る継代時期算出装置1は、減少率算出部15を備える。
減少率算出部15は、時間変化G1について、変化点M1より後の面積(この一例において、筋領域割合A)の減少率Dを算出する。
継代時期算出部16は、減少率Dと、所定の閾値THとに基づいて継代時期PTを算出する。
【0063】
この構成により、本実施形態に係る継代時期算出装置1では、筋領域割合Aの減少率Dを算出し、算出した減少率Dに基づいて継代時期PTを算出できるため、減少率Dを算出しない場合に比べて継代時期PTの算出の精度を高くできる。
【0064】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態では、継代時期算出装置は、筋領域割合Aの減少率と、所定の閾値とに基づいて継代時期を算出する場合について説明をした。本実施形態では、継代時期算出装置が、多能性幹細胞の種類毎に変化点と継代時期とが予め対応づけられた継代時期情報に基づいて継代時期を算出する場合について説明をする。
本実施形態に係る継代時期算出装置を継代時期算出装置1aという。
【0065】
図6は、本実施形態に係る継代時期算出装置1aの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る継代時期算出装置1a(
図6)と第1の実施形態に係る継代時期算出装置1(
図2)とを比較すると、継代時期算出部16a、及び記憶部18aが異なる。ここで、他の構成要素(位相差画像取得部10、コロニー領域抽出部11、筋領域抽出部12、時間変化算出部13、変化点検出部14、減少率算出部15、及び出力部17)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0066】
継代時期算出部16aは、変化点M1と、継代時期情報181aとに基づいて継代時期PTを算出する。継代時期情報181aとは、多能性幹細胞の種類毎に変化点M1と継代時期PTとが予め対応づけられた情報である。
【0067】
記憶部18には、時間変化情報180、及び継代時期情報181aが記憶される。
ここで継代時期情報181aは、例えば、実施形態1において説明した継代時期算出装置1が継代時期算出する処理(
図3)に基づいて、多能性幹細胞の種類毎に変化点M1と継代時期PTとが予め算出されて記憶部18に記憶される。
【0068】
次に
図7を参照し、継代時期算出装置1aが継代時期PTを算出する処理について説明する。継代時期算出装置1aが継代時期PTを算出する処理と、第1実施形態の継代時期算出装置1が継代時期を算出する処理(
図3)とでは、ステップS160の継代時期算出処理が異なる。
【0069】
図7は、本実施形態に係る継代時期算出処理の一例を示す図である。
ステップS300:継代時期算出部16aは、記憶部18aから継代時期情報181aを取得する。
【0070】
ステップS310:継代時期算出部16aは、変化点M1と、継代時期情報181aとに基づいて継代時期PTを算出する。ここで継代時期算出部16aは、継代時期情報181aのうち多能性幹細胞の種類に対応する情報を選択し、選択した当該情報から変化点M1に対応する継代時期PTを読み出すことによって継代時期PTを算出する。
【0071】
以上に説明したように、本実施形態に係る継代時期算出装置1aでは、継代時期算出部16aは、変化点検出部14によって検出された変化点M1と、多能性幹細胞の種類毎に変化点M1と継代時期PTとが予め対応づけられた継代時期情報181aとに基づいて継代時期PTを算出する。
【0072】
この構成により、本実施形態に係る継代時期算出装置1aでは、多能性幹細胞の種類毎に変化点M1と継代時期PTとが予め対応づけられた継代時期情報181aに基づいて継代時期PTを算出できるため、継代時期情報181aに基づかない場合に比べて処理の負荷を軽減できる。
【0073】
なお、本実施形態では、継代時期情報181aは、多能性幹細胞の種類毎に変化点M1と継代時期PTとが予め対応付けられたものとしたが、継代時期情報181aは、多能性幹細胞の種類及び数に変化点M1と継代時期PTとが予め対応づけられたものとしてもよい。
【0074】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第3の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態及び第2の実施形態では、継代時期算出装置は、継代時期を算出する処理を複数の位相差画像のフレーム数だけ繰り返して継続する場合について説明をした。本実施形態では、継代時期算出装置が、継代時期を算出すると当該処理を中止する場合について説明をする。また、本実施形態では、継代時期算出装置が、多能性幹細胞が撮像される時間間隔を変更する場合について説明をする。
本実施形態に係る継代時期算出装置を継代時期算出装置1bという。
【0075】
図8は、本実施形態に係る継代時期算出装置1bの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る継代時期算出装置1b(
図8)と第1の実施形態に係る継代時期算出装置1(
図2)とを比較すると、撮像終了指示部19b、及び撮像時間間隔変更部20bが異なる。ここで、他の構成要素(位相差画像取得部10、コロニー領域抽出部11、筋領域抽出部12、時間変化算出部13、変化点検出部14、減少率算出部15、継代時期算出部16、及び出力部17)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第3の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0076】
撮像終了指示部19bは、継代時期算出部16によって継代時期PTが算出された場合に、多能性幹細胞の撮像の終了を示す終了指示を位相差画像供給部2に供給する。
撮像時間間隔変更部20bは、変化点検出部14によって変化点M1が検出された後に、多能性幹細胞が撮像される時間間隔を長くすることを示す撮像時間変更指示を位相差画像供給部2に供給する。
【0077】
次に
図9を参照し、継代時期算出装置1bが継代時期PTを算出する処理について説明する。継代時期算出装置1bが継代時期PTを算出する処理と、第1実施形態の継代時期算出装置1が継代時期算出する処理(
図3)とでは、ステップS160の継代時期算出処理が異なる。
なお、継代時期算出装置1bが継代時期PTを算出する処理においては、複数の位相差画像PSのフレーム数は、予め決まっていなくてよい。
【0078】
図9を参照し、継代時期算出装置1bの継代時期算出処理について説明する。
図9は、本実施形態に係る継代時期算出処理の第1の例を示す図である。なお、ステップS400、及びステップS410の各処理は、
図5におけるステップS200、及びステップS210の各処理と同様であるため、説明を省略する。
ステップS420:撮像終了指示部19bは、終了指示を位相差画像供給部2に供給する。つまり、撮像終了指示部19bは、継代時期算出部16によって継代時期PTが算出された場合に、多能性幹細胞の撮像の終了を指示する。
【0079】
位相差画像供給部2は、撮像終了指示部19bから供給される終了指示に基づいて、タイムラプス撮影を終了する。
継代時期算出装置1bでは、継代時期PTが算出された場合に多能性幹細胞の撮像を終了できるため、複数の位相差画像PSのデータ量を削減できる。
【0080】
次に
図10を参照し、継代時期算出装置1bの継代時期算出処理の別の一例について説明する。
図10は、本実施形態に係る継代時期算出処理の第2の例を示す図である。なお、ステップS510、及びステップS520の各処理は、
図5におけるステップS200、及びステップS210の各処理と同様であるため、説明を省略する。
なお、
図10の継代時期算出処理の開始前に、変化点検出部14は、
図2のステップS155において変化点を検出したことを示す情報を撮像時間間隔変更部20bに供給する。
【0081】
ステップS500:撮像時間間隔変更部20bは、撮像時間変更指示を位相差画像供給部2に供給する。つまり、撮像時間間隔変更部20bは、変化点検出部14によって変化点M1が検出された後に、多能性幹細胞が撮像される時間間隔を変更する。
位相差画像供給部2は、撮像時間間隔変更部20bから供給される撮像時間変更指示に基づいて、タイムラプス撮影の撮像時間間隔を変更前の長さから長くする。
【0082】
なお、撮像時間間隔変更部20bは、継代時期算出部16によって継代時期PTが算出された後に、撮像時間変更指示を位相差画像供給部2に供給してもよい。つまり、撮像時間間隔変更部20bは、継代時期算出部16によって継代時期PTが算出された後に、多能性幹細胞が撮像される時間間隔を変更してもよい。
【0083】
なお、撮像時間間隔変更部20bは、時間変化算出部13によって算出される筋領域割合Aが所定の割合以上となる場合に、タイムラプス撮影の撮像時間の間隔を筋領域割合Aが所定の値以上となる前の撮像時間の間隔の長さから短くしてもよい。ここで所定の割合とは、例えば、ゼロである。つまり、撮像時間間隔変更部20bは、複数の位相差画像PSにおいて筋領域SRが出現すると、筋領域SRが出現した後の撮像時間の間隔の長さを短くする。
【0084】
継代時期PTを算出するためには、筋領域SRが出現した後の時間変化G1が用いられるため、継代時期算出装置1bでは、筋領域SRが出現した後の撮像時間の間隔の長さを短くすることによって、複数の位相差画像PSのフレーム数Nに対する継代時期PTの算出の精度を高くできる。
【0085】
また、撮像時間間隔変更部20bは、時間変化算出部13によって算出される筋領域割合Aが所定の割合以上となる前のタイムラプス撮影の撮像時間の間隔を、所定の時間の長さよりも長くしてよい。
【0086】
継代時期PTを算出するためには、筋領域SRが出現した後の時間変化G1が用いられるため、継代時期算出装置1bでは、筋領域SRが出現する前の時間変化G1について撮像時間の間隔を所定の時間の長さよりも長くすることによって、筋領域SRが出現する前の複数の位相差画像PSのデータ量を削減できる。
【0087】
以上に説明したように、本実施形態に係る継代時期算出装置1bは、撮像時間間隔変更部20bを備える。撮像時間間隔変更部20bは、変化点検出部14によって変化点M1が検出された後に、多能性幹細胞が撮像される時間間隔を変更する。
【0088】
この構成により、本実施形態に係る継代時期算出装置1bでは、変化点M1が検出された後に多能性幹細胞が撮像される時間間隔を長くできるため、複数の位相差画像PSのデータ量を削減できる。
【0089】
なお、本発明者らは、筋領域が出現したコロニーはその後成熟する確率が高く、筋領域が観察されないコロニーは、成熟しない可能性が高いことも見出した。したがって、上述した実施形態における継代時期算出装置1、1a、1bは、筋領域抽出部12が所定の期間内に、筋領域を抽出しない場合や、筋領域の面積が所定の面積に達しない場合に、培養中止と判定し、この判定結果を提示部3に表示する機能を有していてもよい。
【0090】
なお、上述した実施形態における継代時期算出装置1、1a、1bの一部、例えば、位相差画像取得部10、コロニー領域抽出部11、筋領域抽出部12、時間変化算出部13、変化点検出部14、減少率算出部15、継代時期算出部16、16a、出力部17、撮像終了指示部19b、及び撮像時間間隔変更部20bをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、継代時期算出装置1、1a、1bに内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における継代時期算出装置1、1a、1bの一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。継代時期算出装置1、1a、1bの各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0091】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1、1a、1b…継代時期算出装置、2…位相差画像供給部、3…提示部、10…位相差画像取得部、11…コロニー領域抽出部、12…筋領域抽出部、13…時間変化算出部、14…変化点検出部、15…減少率算出部、16、16a…継代時期算出部、17…出力部、18、18a…記憶部、180…時間変化情報、181…閾値情報、181a…継代時期情報、19b…撮像終了指示部、20b…撮像時間間隔変更部