(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】トンネル電流を使用したマイクロRNA解析
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240112BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240112BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N27/62 V ZNA
(21)【出願番号】P 2021516247
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017654
(87)【国際公開番号】W WO2020218489
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019085805
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀始
(72)【発明者】
【氏名】大城 敬人
(72)【発明者】
【氏名】今野 雅允
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-231801(JP,A)
【文献】特開2017-227657(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147208(WO,A1)
【文献】谷口正輝 ほか,1分子DNAシークエンサーが生み出すビッグデータ,第30回人工知能学会全国大会論文集,1B4-OS-01a-2,2016年,PP.1-2
【文献】谷口正輝,1分子シークエンサーの現状と可能性,化学と生物,Vol.54/No.6,2016年,PP.396-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロRNAの修飾状態を分析する方法であって、
(A)前記マイクロRNAを、電極対の間を通過させる工程と、
(B)前記マイクロRNAが前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(C)前記トンネル電流に基づいて前記修飾状態を分析する工程と、
(D)前記マイクロRNAの質量分析計による分析結果を参照して、前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとを関連付ける工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記マイクロRNAの塩基配列上の修飾位置、化学構造上の修飾位置、修飾率および特定の修飾位置における修飾率の少なくとも1つが同定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記修飾がメチル化を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロRNAの塩基配列が少なくとも部分的に同定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記マイクロRNAの
塩基配列を決定する工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象の状態を示すための指標として前記対象由来の試料におけるマイクロRNAの修飾状態を分析する方法であって、前記方法は
(Y-A)対象由来のマイクロRNAを含むように調製された試料を、電極対の間を通過させる工程と、
(Y-B)前記試料が前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(Y-C)前記トンネル電流に基づいて前記修飾状態を分析する工程と
(Y-D)前記マイクロRNAの質量分析計による分析結果を参照して、前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとを関連付ける工程とを含み、
ここで、前記修飾状態が前記対象の状態を示す、方法。
【請求項7】
蓄積された前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを参照して、検出された前記トンネル電流のパターンに基づいてマイクロRNAの修飾状態を分析することで、前記マイクロRNAを取得した対象の状態が示される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記試料をトンネル電流測定に供したときから15分以内に、前記試料を取得した対象の状態の分析結果が示される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の状態が、がん、炎症性腸疾患、クローン病、糖尿病または精神疾患の状態を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の状態が、がんのステージを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記がんが、膵臓がんである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記トンネル電流に基づいて前記マイクロRNAの塩基配列を分析するステップをさらに含み、前記修飾状態および前記塩基配列が前記対象の状態を示す、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
マイクロRNAの質量分析計による分析結果を入力するステップと、前記マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンを入力するステップと、前記質量分析による分析結果とトンネル電流のパターンとを関連付けて前記マイクロRNAの修飾状態を決定させるステップとを含む、マイクロRNAを分析する方法をコンピュータに実装するように構成された、プログラム。
【請求項14】
前記方法は、さらに、マイクロRNAの修飾状態と、前記マイクロRNAについてトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を示させるステップとを含む、
請求項13に記載のコンピュータに実装するように構成された、プログラム。
【請求項15】
対象を分析する方法をコンピュータに実装するように構成されたプログラムであって、該方法は、対象のマイクロRNAのトンネル電流測定によりトンネル電流のパターンを取得するステップと、マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で既に取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせを含むデータベースを参照し、前記取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記対象のマイクロRNAの修飾状態を分析するステップと、
マイクロRNAの質量分析計による分析結果を参照して、前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとを関連付けるステップと、前記修飾状態に基づいて前記対象の状態を分析するステップを包含する、プログラム。
【請求項16】
前記対象の状態が、がんのステージを含む、請求項15に記載のプログラム。
【請求項17】
前記がんが、膵臓がんである、請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
前記方法が前記トンネル電流のパターンに基づいて前記マイクロRNAの塩基配列を分析するステップをさらに含み、前記修飾状態に基づいて前記対象の状態を分析するステップが、前記修飾状態および前記塩基配列に基づいて前記対象の状態を分析するステップである、請求項15~17のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項19】
マイクロRNAの修飾状態を、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンと関連付けるためのシステムであって、
質量分析計と、
トンネル電流測定器と、
前記質量分析計および前記トンネル電流測定による目的のマイクロRNAの測定結果を関連付けて、目的のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する分析・判定部と
を含む、システム。
【請求項20】
マイクロRNAの修飾状態に基づいて、対象の状態を判定するためのシステムであって、
質量分析計と、
トンネル電流測定器と、
前記質量分析計および前記トンネル電流測定による目的のマイクロRNAの測定結果を関連付けて、目的のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する分析・判定部と、
前記マイクロRNAの修飾状態と、
前記トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する修飾分析・判定部と、
を含む、システム。
【請求項21】
分析・判定された前記修飾状態に基づいて、前記対象の状態を分析・判定する状態分析・判定部を含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記対象の状態が、がんのステージを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記がんが、膵臓がんである、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記トンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAの塩基配列を分析・判定する配列分析・判定部をさらに含み、前記状態分析・判定部が、前記修飾状態および前記塩基配列に基づいて前記対象の状態を分析・判定する、請求項21~23のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する方法およびその応用に関する。本開示はまた、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定することおよびその応用に使用するためのシステムおよびプログラムに関する。さらに、本開示は、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定することを含む、対象の状態を分析する方法およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヌクレオチドの塩基配列を分析する技術は、単に学術的な研究の分野に留まらず、医療、創薬、および犯罪捜査などの分野にまで応用されており、この技術の発展に対して関心が高まっている。
【0003】
従来のポリヌクレオチド(具体的にはDNA)のシーケンサーは、蛍光標識を識別するという光測定技術に基づいており、ポリヌクレオチドを形成しているヌクレオチドそのものを直接的に識別するものではない。それ故に、従来のシーケンサーによってポリヌクレオチドの塩基配列を分析しようとすれば、当該ポリヌクレオチドを鋳型としてPCRを行うとともに、当該PCRによって伸長されるポリヌクレオチドに対して蛍光標識を付加する必要がある。この作業には、多数の試薬が必要となるだけでなく、多くの時間も必要となる。それ故に、従来のシーケンサーによるポリヌクレオチドの塩基配列の分析には、多大な資金と時間とが必要になる。
【0004】
そこで、過去十数年の間、1分子のポリヌクレオチドを用いて、当該ポリヌクレオチドを構成しているヌクレオチドを直接的に分析する技術を開発しようとする試みがなされている。例えば、化学的に設計されたαヘモリシンのナノスケールのポア(以下、「ナノポア」と称する。)を用いたイオン電流の検出によって、ポリヌクレオチドの塩基配列を分析する技術を開発しようとする試みがなされている(非特許文献1参照)。しかしながら、当該技術は、(1)ポアサイズの選択が限定されている、(2)システムが不安定である、等の多くの問題点を有しており、実用化の目処が立っていない。
【0005】
特に、塩基長の短いマイクロRNAの分析は、困難であると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Li, D.Stein, C.McMullan, D.Branton, M.J.Aziz, J.A.Golovchenko, Nature 412, 166(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、修飾の有無、修飾の種類の他、修飾に位置等)を同定できることを見出し、本発明を完成させた。本開示によれば、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する方法、ならびにこの方法に使用するためのシステムおよびプログラムが提供される。さらに、本開示は、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定することを含む、対象の状態を分析する方法も提供する。
【0008】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
マイクロRNAの修飾状態を分析する方法であって、
(A)前記マイクロRNAを、電極対の間を通過させる工程と、
(B)前記マイクロRNAが前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(C)前記パルスに基づいて前記修飾状態を分析する工程と、
を含む、方法。
(項目2)
前記マイクロRNAの塩基配列上の修飾位置が同定される、前出の項目のいずれかに記載の方法。
(項目3)
前記マイクロRNAの化学構造上の修飾位置が同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目4)
前記マイクロRNAの修飾率が同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目5)
前記マイクロRNAの特定の修飾位置における修飾率が同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目6)
前記修飾がメチル化を含む、前出の項目のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記マイクロRNAの塩基配列が少なくとも部分的に同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目8)
前記マイクロRNAの塩基配列および修飾状態の両方が分析される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目9)
前記マイクロRNAの質量分析計による分析結果を参照して、前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとを関連付ける工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目10)
関連付けた前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを蓄積する工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目11)
前記マイクロRNAが試料中に存在する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目12)
前記マイクロRNAを取得した対象の状態と、前記修飾状態とを関連付ける工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目13)
前出の項目のいずれかの方法によって蓄積されたデータで構築されるデータベース。
(項目14)
対象を分析する方法であって、該方法は
(X)対象から該対象由来のマイクロRNAを含むように試料を調製する工程と、
(YーA)前記試料を、電極対の間を通過させる工程と、
(Y-B)前記試料が前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(Y-C)前記トンネル電流に基づいて前記修飾状態を分析する工程と、
(Z)前記修飾状態に基づいて、前記対象の状態を分析する工程と
を含む方法。
(項目15)
蓄積された前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを参照して、検出された前記トンネル電流のパターンに基づいてマイクロRNAの修飾状態を分析することで、前記マイクロRNAを取得した対象の状態を分析する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目16)
試料をトンネル電流測定に供したときから15分以内に、前記試料を取得した対象の状態の分析結果が示される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目17)
対象のがん、炎症性腸疾患、クローン病、糖尿病または精神疾患の状態を分析する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目18)
マイクロRNAの質量分析計による分析結果を入力するステップと、前記マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンを入力するステップと、前記質量分析による分析結果とトンネル電流のパターンとを関連付けて前記マイクロRNAの修飾状態を決定させるステップとを含む、マイクロRNAを分析する方法をコンピュータに実装する(implement)ように構成された、プログラム。
(項目19)
マイクロRNAの修飾状態と、前記マイクロRNAについてトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を示させるステップとを含む、マイクロRNAを分析する方法を、コンピュータに実装する(implement)ように構成された、プログラム。
(項目20)
対象を分析する方法をコンピュータに実装(implement)するように構成されたプログラムであって、該方法は、対象のマイクロRNAのトンネル電流測定によりトンネル電流のパターンを取得するステップと、マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で既に取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせを含むデータベースを参照し、前記取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記対象のマイクロRNAの修飾状態を分析するステップと、前記修飾状態に基づいて前記対象の状態を分析するステップを包含する、プログラム。
(項目21)
マイクロRNAの修飾状態を、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンと関連付けるためのシステムであって、
質量分析計と、
トンネル電流測定器と、
前記質量分析計および前記トンネル電流測定による目的のマイクロRNAの測定結果を関連付けて、目的のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する分析・判定部と
を含む、システム。
(項目22)
マイクロRNAの修飾状態に基づいて、対象の状態を判定するためのシステムであって、
トンネル電流測定器と、
マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する修飾分析・判定部と、
を含む、システム。
(項目23)
分析・判定された前記修飾状態に基づいて、前記対象の状態を分析・判定する状態分析・判定部を含む、前出の項目のいずれかのシステム。
(項目A1)
マイクロRNAの修飾状態を分析する方法であって、
(A)前記マイクロRNAを、電極対の間を通過させる工程と、
(B)前記マイクロRNAが前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(C)前記パルスに基づいて前記修飾状態を分析する工程と、
を含む、方法。
(項目A2)
前記マイクロRNAの塩基配列上の修飾位置が同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A3)
前記マイクロRNAの化学構造上の修飾位置が同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A4)
前記修飾がメチル化を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A5)
前記マイクロRNAの塩基配列が少なくとも部分的に同定される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A6)
前記マイクロRNAの塩基配列および修飾状態の両方が分析される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A7)
前記マイクロRNAの質量分析計による分析結果を参照して、前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとを関連付ける工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A8)
関連付けた前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを蓄積する工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A9)
前記マイクロRNAが試料中に存在する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A10)
前記マイクロRNAを取得した対象の状態と、前記修飾状態とを関連付ける工程を含む、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A11)
前出の項目のいずれかの方法によって蓄積されたデータで構築されるデータベース。
(項目A12)
対象を分析する方法であって、該方法は
(X)対象から該対象由来のマイクロRNAを含むように試料を調製する工程と、
(YーA)前記試料を、電極対の間を通過させる工程と、
(Y-B)前記試料が前記電極対の間を通過したときに生じるトンネル電流を検出する工程と、
(Y-C)前記トンネル電流に基づいて前記修飾状態を分析する工程と、
(Z)前記修飾状態に基づいて、前記対象の状態を分析する工程と
を含む方法。
(項目A13)
蓄積された前記修飾状態と前記トンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを参照して、検出された前記トンネル電流のパターンに基づいてマイクロRNAの修飾状態を分析することで、前記マイクロRNAを取得した対象の状態を分析する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A14)
試料をトンネル電流測定に供したときから15分以内に、前記試料を取得した対象の状態の分析結果が示される、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A15)
対象のがん、炎症性腸疾患、クローン病、糖尿病または精神疾患の状態を分析する、前出の項目のいずれかの方法。
(項目A16)
マイクロRNAの質量分析計による分析結果を入力するステップと、前記マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンを入力するステップと、前記質量分析による分析結果とトンネル電流のパターンとを関連付けて前記マイクロRNAの修飾状態を決定させるステップとを含む、マイクロRNAを分析する方法をコンピュータに実装する(implement)ように構成された、プログラム。
(項目A17)
マイクロRNAの修飾状態と、前記マイクロRNAについてトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を示させるステップとを含む、マイクロRNAを分析する方法を、コンピュータに実装する(implement)ように構成された、プログラム。
(項目A18)
対象を分析する方法をコンピュータに実装(implement)するように構成されたプログラムであって、該方法は、対象のマイクロRNAのトンネル電流測定によりトンネル電流のパターンを取得するステップと、マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で既に取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせを含むデータベースを参照し、前記取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記対象のマイクロRNAの修飾状態を分析するステップと、前記修飾状態に基づいて前記対象の状態を分析するステップを包含する、プログラム。
(項目A19)
マイクロRNAの修飾状態を、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンと関連付けるためのシステムであって、
質量分析計と、
トンネル電流測定器と、
前記質量分析計および前記トンネル電流測定による目的のマイクロRNAの測定結果を関連付けて、目的のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する分析・判定部と
を含む、システム。
(項目A20)
マイクロRNAの修飾状態に基づいて、対象の状態を判定するためのシステムであって、
トンネル電流測定器と、
マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの修飾状態を分析・判定する修飾分析・判定部と、
を含む、システム。
(項目A21)
分析・判定された前記修飾状態に基づいて、前記対象の状態を分析・判定する状態分析・判定部を含む、前出の項目のいずれかのシステム。
【0009】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、修飾の有無、修飾の種類の他、修飾の位置、修飾率等)が簡易に、短時間で、かつ/または正確に同定され得る。また、本開示によれば、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に基づいて、対象の状態を決定する新たな方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】マイクロRNAのトンネル電流シークエンシングによる測定結果が非修飾体と修飾体との間で異なることを示す。(A)の上段の図は、修飾されていない合成200c-5pの測定結果を示し、(A)の下段の図は、修飾合成200c-5p(7番目の塩基がメチル化アデニンであり、13番目の塩基がメチル化シトシンである)の測定結果を示す。(A)のそれぞれの図において、縦軸は、相対コンダクタンスを表す。(B)の図は、それぞれ、7番目の塩基(左)および13番目の塩基(右)に対応する読み取り結果を(A)の図から抽出して、非修飾体と修飾体とを比較して示す。
【
図2】トンネル電流シークエンシングによって、試料から取得したマイクロRNAの修飾の有無を識別した例を示す。上から順に、修飾されていない合成200c-5pの測定結果、試料から取得した200c-5p、修飾合成200c-5p(7番目の塩基がメチル化アデニンであり、13番目の塩基がメチル化シトシンである)の測定結果を示す。
【
図3】
図2の試料の測定結果の解析を示す。(A)の図において、縦軸は、相対コンダクタンスを表す。(B)の図は、それぞれ、7番目の塩基(上)および13番目の塩基(下)の読み取り結果を示すヒストグラムである。(B)の図において、縦軸は、頻度を表し、横軸は、相対コンダクタンスを表す。
【
図4】核酸のトンネル電流測定結果の例を示す。(A)、(B)および(C)の図において、縦軸は、検出されたトンネル電流(pA)を示し、横軸は、時間(秒)を示す。(B)の図は、(A)の図の枠で囲った部分の拡大図である。(C)の図において、図を横断する横線はそれぞれ、下から、トンネル電流の基底値、ウラシルの最大電流値の最頻値、アデニンの最大電流値の最頻値、グアニンの最大電流値の最頻値規定を示し、中央の約15ミリ秒の持続時間を示すパルスの部分において、「UGAG」の塩基配列が測定されていたことが分かる。
【
図6】がん患者と健常者との間のマイクロRNAの修飾状態の差をトンネル電流測定で検出した結果を示す。上段のパネルは濃縮したlet7a-5pの測定結果である、下段のパネルは濃縮したmiR17-5pの測定結果である。それぞれのパネルにおいて、膵がん患者(上)および健常者(下)の結果を比較して示す。縦軸は、相対コンダクタンスを表す。各アデニンについて、膵がん患者および健常者との間でメチル化率の差があったかどうかを示す。
【
図7】上段はトンネル電流測定の結果を、下段はHiseq測定の結果を示す。左列は野生株(DLD1)とFTD耐性株との比較を、右列は野生株と5-FU耐性株との比較を示す。縦軸はマイクロRNAの量指数となる実験でカウントした分子数を示す。
【
図8】
図6の2種類の薬剤耐性比較における6種類のマイクロRNA(すなわち、野生株(WT)および耐性株(PS)についてそれぞれ12プロット)をトンネル電流測定とHiseq測定との間で比較したグラフである。縦軸はトンネル電流測定の結果を、横軸はHiseq測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0014】
(定義等)
本明細書において、「リボ核酸(RNA)」少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」とは、β-D-リボ-フラノース部分の2’位においてヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。RNAには、例えば、mRNA、tRNA、rRNA、lncRNA、miRNAが含まれる。
【0015】
本明細書において、「マイクロRNA(miRNA)」とは、ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最終的に20から25塩基長の微小RNAとなる機能性核酸を指す。miRNAの具体的な情報(配列など)は、例えば、mirbase(http://mirbase.org)を参照することで利用可能である。例えば、ヒトにおける成熟マイクロRNAは以下の表のものが挙げられる。
【0016】
本明細書において、核酸の文脈において使用される「修飾」とは、核酸の構成単位またはその末端の一部または全部が他の原子団と置換されること、または官能基が付加されている状態を指す。
【0017】
RNAの修飾として以下の表に示されるものが挙げられるがこれらに限定されず、修飾に該当するものであれば、任意物を利用することができることが理解される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0018】
これらの修飾は、例えば、質量分析、特異的化学反応、標準合成品との比較(例えば、LCによる保持時間の比較)などの当該分野で公知の任意の方法によって、必要に応じてそれまでに蓄積された情報を利用して、区別することができる。
【0019】
本明細書において、核酸の文脈において使用される「修飾状態」とは、核酸の修飾の任意の状態について表すものであり、修飾の有無、修飾の種類、修飾の位置(塩基配列上の修飾位置、化学構造上の修飾位置等)、修飾核酸の割合、特定の修飾位置における修飾率などのあらゆる項目を含む。修飾には、核酸自体が変化している形態も含まれるため、修飾状態には、核酸自体が、天然のものから変化しているかどうかの情報も含まれる。
【0020】
本明細書において、核酸の文脈において使用される「メチル化」とは、任意の種類のヌクレオチドの任意の位置のメチル化を指すが、代表的には、アデニンのメチル化(例えば、6位;m6A、1位;m1A)、シトシンのメチル化(例えば、5位;m5C、3位;m3C)である。検出された修飾部位は、当該分野で公知の手法を用いて特定することができる。例えばm1Aとm6A、m3Cとm5Cについては、それぞれ化学修飾により確定は可能である。例えば、スタンダードとなる合成RNAを利用して、化学修飾及びMALDIでの測定による挙動が正しいのかを確定することができる。
【0021】
本明細書において核酸の修飾は、核酸の塩基部分の修飾以外にも糖部分およびリン酸部分の修飾も含むことが企図される。また、本明細書において核酸の修飾は、天然に見出される修飾以外にも、人工的に導入された修飾も含むことが企図される。例えば、糖部分が修飾された核酸の例としては、ロックト核酸(LNA)、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(2'-O,4'-C-ethylene bridged nucleic acid、ENA)などのエチレン核酸、その他の架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)、ヘキシトール核酸(hexitol nucleic acid、HNA)、アミド架橋核酸(Amido-bridged nucleic acid、AmNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、ポリエーテル核酸(例えば、米国特許第5,908,845号参照)、シクロヘキセン核酸(CeNA)などを挙げることができる。例えば、リン酸部分が修飾された核酸の例としては、ホスホジエステル結合がホスホロチオエート結合に置き換えられた核酸が挙げられる。
【0022】
本明細書において核酸の「塩基配列上の修飾位置」は、塩基配列中で修飾塩基が存在する位置を指し、例えば、AAA(m6A)AAという配列の場合、塩基配列上の修飾位置は4番目である。
【0023】
本明細書において核酸の「化学構造上の修飾位置」は、核酸のヌクレオチド単位内での修飾が存在する位置を指し、例えば、AAA(m6A)AAで表される核酸の場合、塩基配列上の修飾位置は4番目であり、化学構造上の修飾位置は6位のN上である。
【0024】
本明細書において核酸の「修飾率」は、検出された特定の配列を有するヒット数のうち、その特定の配列中に少なくとも1つの修飾を有するヒット数を表す割合を指す。例えば、特定の配列がAAAAAであり、GGGGGが100ヒット、GGAAAAACCが70ヒット、GGAAA(m6A)Aが20ヒット、GGAAA(m6A)(m6A)CCが10ヒット検出された場合、GGAAAAACCとGGAAA(m6A)AとGGAAA(m6A)(m6A)CCとの和である100ヒットを分母とし、修飾された配列を含むGGAAA(m6A)AとGGAAA(m6A)(m6A)CCの和である30ヒットを分子として計算するため、核酸の修飾率は30%である。
【0025】
本明細書において核酸の「修飾位置における修飾率」は、検出された特定の配列を有するヒット数のうち、その特定の配列中の特定の修飾位置(塩基配列上の修飾位置または化学構造上の修飾位置)に修飾を有するヒット数を表す割合を指す。例えば、GGGGGが100ヒット、GGAAAAACCが70ヒット、GGAAA(m6A)Aが20ヒット、GGAAA(m6A)(m6A)CCが10ヒット検出された場合、AAAAAを有する核酸の4番目の塩基配列上の修飾位置における修飾率は、前述の段落と同様に計算し分母は70+20+10ヒット(100ヒット)であり、分子は20+10ヒット(30ヒット)となるため30%であり、5番目の塩基配列上の修飾位置における修飾率は、前述の段落と同様に計算し分母は70+20+10ヒット(100ヒット)であり、分子は10ヒットであるため10%である。
【0026】
本明細書において「トンネル電流」は、エネルギー障壁を超えて移動する電子によって生じる電流を指す。
【0027】
本明細書においてトンネル電流の「パターン」は、トンネル電流の任意の特徴量(例えば、電流値(アンペア)、時間など)によって表現されるトンネル電流の特性を指す。
【0028】
本明細書において、「測定」とは、当該分野において使用される通常の意味で用いられ、ある対象について、存否、レベルまたは量等がどれほどか測って求めることをいい、定量的に測ることのほか、定性的に測ることも含む。本明細書において「検出」とは、当該分野において使用される通常の意味で用いられ、物質や成分等を検査して見つけだすことをいい、「同定」とは、ある対象について、そのものにかかわる既存の分類のなかからそれの帰属先をさがす行為をいい、化学分野において使用される場合、対象となる物質の化学物質としての同一性を決定する(例えば、化学構造を決定する)ことをいい、「定量」とは、対象となる物質の存在する量を決定することをいう。
【0029】
本明細書で使用されるとき、試料中の分析物の「量」は、一般には、試料の体積中で検出し得る分析物の質量を反映する絶対値を指す。しかし、量は、別の分析物量と比較した相対量も企図する。例えば、試料中の分析物の量は、試料中に通常存在する分析物の対照レベルまたは正常レベルより大きい量であってもよい。
【0030】
用語「約」は、イオンの質量の測定を含まない定量的測定に関連して本明細書で使用されるとき、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。なお、「約」と明示的に示されない場合でも「約」があると同義で解釈されうる。質量分析機器は、所与の分析物の質量の決定においてわずかに異なり得る。イオンの質量またはイオンの質量/電荷比との関連において用語「約」は、+/-0.5原子質量単位を指す。
【0031】
本明細書において「対象」とは、本開示の分析、診断または検出等の対象となる対象(例えば、食品、微生物、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。試験の対象の場合は、被検体、被験体などとも称される。
【0032】
本明細書において「バイオマーカー」は、ある対象の状態または作用の評価の指標となるものである。本明細書において特に断らない限り、「バイオマーカー」は「マーカー」と称することがある。
【0033】
本開示の検出剤または検出手段は、検出可能とする部分(例えば、抗体等)に他の物質(例えば、標識等)を結合させた複合体または複合分子であってもよい。本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、基材、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。2以上の部分がポリペプチドの場合は、キメラポリペプチドとも称しうる。従って、本明細書において「複合体」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子を含む。
【0034】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識(検出)する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識(検出)することができる手段をいう。
【0035】
本明細書において「質量分析」または「MS」とは、当該分野において使用される通常の意味で用いられ、化合物をその質量により同定するための分析手法を指し、原子、分子、クラスター等の粒子を何らかの方法で気体状のイオンとし(イオン化)、真空中で運動させ電磁気力等を用いて、あるいは飛行時間差等によりそれらイオンを質量電荷比に応じて分離・検出する技術をいう。MSは、イオンをこの質量対電荷比、すなわち「m/z」に基づきフィルタし、検出し、および測定する方法を指す。近年の検出感度や質量分解能の飛躍的な向上に伴い、益々その応用範囲が広がり、多くの分野で活用されている。代表的には、Clark J et al., Nat Methods. 2011 March ; 8(3): 267-272.doi:10.1038/nmeth.1564.に例示される方法を用いることができる。MS技術は、一般には、(1)化合物をイオン化して荷電化合物を形成するステップ:および(2)荷電化合物の分子量を検出し、質量対電荷比を計算するステップを含む。化合物は、適切な手段によりイオン化および検出し得る。「質量分析計」は、一般には、イオン化装置、質量分析器およびイオン検出器を含む。一般に、目的とする1つまたは複数の分子がイオン化され、イオンはこの後、質量分析機器に導入され、ここでイオンは、磁場および電場の組み合わせのために、質量(「m」)および電荷(「z」)に依存する空間中の経路を辿る。質量分析計についての総説は、例えば、Jurgen H、「マススペクトロメトリー」、丸善出版(2014)を参照のこと。質量分析計には、例えば、磁場型、電場型、四重極型、飛行時間型等が挙げられる。定量におけるイオンの検出は、目的とするイオンのみを選択的に検出する、選択イオンモニタリングや、1つ目の質量分析部で精製したイオン種のうち1つを前駆イオンとして選択し、2つ目の質量分析部で、その前駆イオンの開裂によって生じるプロダクトイオンを検出する、選択反応モニタリング(SRM)等が挙げられる。SRMでは、選択性が増し、ノイズが減ることによってシグナル/ノイズ比が向上する。
【0036】
本明細書で使用されるとき、用語「分解能」とは、広義には装置などで対象を測定または識別できる能力をいい、本明細書で特に使用される「分解能(FWHM)」(「m/Δm50%」としても当技術分野で公知の)は、最大高さの50%での質量ピークの幅(全幅半値、「FWHM」)で除した観察された質量対電荷比を指す。本明細書において、単に「分解能」といった場合に、この特定の分解能(FWHM)を指すことがある。分解能が高くなるほど、定性性および定量性が良くなり得る。
【0037】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、安定同位体標識法、蛍光法、ビオチン法、ラマン散乱を利用した光学手法、化学発光法等を挙げることができる。本開示のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。本開示のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、ラマン散乱を利用した光学手法によって標識する場合には、ラマン散乱が互いに異なる物質によって標識を行う。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0038】
本明細書において「診断」とは、被験体における状態(例えば、疾患、障害)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような状態の現状または未来を判定することをいう。本開示の方法、装置、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本開示の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。本開示の技術は、このような診断技術に応用可能である。
【0039】
本明細書において「治療」とは、ある状態(例えば、疾患または障害)について、そのような状態になった場合に、そのような状態の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の状態、もしくは状態に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前
に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。本開示の技術を用いてRNAの修飾を特定できると、特定の状態と関連づけられ得ることから、このようなコンパニオン治療またはコンパニオン診断において有用であり得る。
【0040】
本明細書において「予後」という用語は、がん等の疾患または障害などに起因する死亡または進行が起こる可能性を予測することを意味する。予後因子とは疾患または障害の自然経過に関する変数のことであり、これらは、いったん疾患または障害を発症した患者の再発率等に影響を及ぼす。予後の悪化に関連した臨床的指標には、例えば、本開示で使用される任意の細胞指標が含まれる。予後因子は、しばしば、患者を異なった病態をもつサブグループに分類するために用いられる。本開示の技術を用いてRNAの修飾を特定できると、特定の疾患状態と関連づけられ得ることから予後因子を提供する技術として有用であり得る。
【0041】
本明細書において「検出機器(検出機または検出器ともいう)」とは、広義には、目的の対象を検出または検査することができるあらゆる機器をいう。本明細書において「診断薬」とは、広義には、目的の状態(例えば、がん、老化などの医学的状態のほか、他の状態、種分類等も含む)を診断できるあらゆる薬剤をいう。
【0042】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、試薬、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、試薬、標識などをどのように使用するか、あるいは、どのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、検査薬、診断薬、治療薬、試薬、標識等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。検査機器、診断機器等を組み合わせる場合は、「キット」は「システム」とも称され得る。
【0043】
本明細書において「プログラム」は、当該分野で使用される通常の意味で用いられ、コンピュータが行うべき処理を順序立てて記述したものであり、日本国特許法上は「物」として扱われるものであり、感知可能ないし有形(tangible)であることを明確にする目的で「プログラム製品」と称することもある。すべてのコンピュータはプログラムに従って動作している。現代のコンピュータではプログラムはデータとして表現され、記録媒体または記憶装置に格納され、あるいはクラウド上から提供され得る。
【0044】
本明細書において「記録媒体」は、本明細書に記載の方法を実行させるプログラムを格納した記録媒体であり、記録媒体は、プログラムを記録でき、コンピュータ読み取り可能であり、その結果読み取ったプログラムをコンピュータ等の他の機器に対して実行させ、実装させることができる限り、どのようなものであってもよい。例えば、内部に格納され得るROMやHDD、磁気ディスク、USBメモリ等のフラッシュメモリなどの外部記憶装置でありうるがこれらに限定されない。
【0045】
本明細書において「システム」とは、本開示の方法またはプログラムを実行する構成をいい、本来的には、目的を遂行するための体系や組織を意味し、複数の要素が体系的に構成され、相互に影響するものであり、複数の各種装置が必要に応じて相互に連絡するように構成されているものをいい、コンピュータの分野では、ハードウェア、ソフトウェア、OS、ネットワークなどの、全体の構成をいう。
【0046】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい(例えば、「阻害剤」という場合は、目的とするものを「阻害する」剤であるといえる)。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0047】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本開示の例示であり、本開示の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本開示の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。また、任意の実施形態の1つまたは複数が組み合わせ得ることも理解されるべきである。
以下では、本開示において用いられる要素技術の説明なども提供される。
【0048】
(電極対)
本明細書において「電極対」とは、当該分野で用いられる通常の意味で用いられ、電極の対を一般に指す。
【0049】
本開示では、電極対の間をマイクロRNA等の対象が通過したときに生じるトンネル電流を検出することでその対象に関する測定を行う。トンネル電流を適切に生じさせるためには、電極対の間の距離が重要であり得る。電極対の間の距離が、マイクロRNAを構成する各ヌクレオチドの分子直径よりも長すぎると、電極対の間にトンネル電流が流れにくくなったり、2つ以上のマイクロRNAが、同時に電極対の間に入り込んだりし得る。他方、電極対の間の距離がマイクロRNAを構成する各ヌクレオチドの分子直径よりも短すぎると、電極対の間にマイクロRNAが入り込めなくなる。このように、電極対の間の距離がマイクロRNAを構成するヌクレオチドの分子直径よりも長すぎたり、短すぎたりすると、マイクロRNAを構成する各ヌクレオチド1分子を介したトンネル電流に由来するパルスを検出することが困難になり得る。よって、電極対の間の距離は、マイクロRNAを構成するヌクレオチドの分子直径よりも少し短いか、等しいか、または、それよりも少し長い程度であることが好ましい。例えば、電極対の間の距離は、ヌクレオチドの分子直径の0.5倍~2倍の長さであり、1倍~1.5倍の長さであることが好ましく、1倍~1.2倍の長さであることがより好ましい。例えば、一リン酸の形態のヌクレオチドの分子直径は約1nmであるため、一つの実施形態では、当該分子直径を基準として、電極対の間の距離を、例えば0.5nm~2nm、1nm~1.5nm、または1nm~1.2nmに設定することができる。
【0050】
一つの実施形態では、電極対の間の距離は、測定の間一定に保たれ得る、すなわち、電極対の間の距離が測定の間に変化しないように制御され得る。例えば、測定の間の電極対の間の距離の変化率は、5%以下、2%以下、1%以下、0.1%以下、0.01%以下、0.001%以下であり得る。電極対の間の距離が一定に保たれることによって、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態の同定精度が向上し得る。
【0051】
本開示において使用される電極対は、任意の好適な方法で作製することができる。例えば、電極対は、公知のナノ加工機械的破断接合法(nanofabricated mechanically-controllable break junctions)を用いることによって作製することができる。このナノ加工機械的破断接合法は、ピコメーター以下の分解能にて、機械的安定性に優れた電極間距離を制御することができる優れた方法である。ナノ加工機械的破断接合法を用いた電極対の作製方法は、例えば、J.M.van Ruitenbeek, A.Alvarez, I.Pineyro, C.Grahmann, P.Joyez, M.H.Devoret, D.Esteve, C.Urbina, Rev. Sci. Instrum. 67, 108(1996)またはM.Tsutsui, K.Shoji, M.Taniguchi, T.Kawai, Nano Lett. 8, 345(2008)に記載されている。電極対の各電極の材料として、任意の導電材料が使用できるが、例えば、金属(例えば、金など)を使用することができる。電極対の作製のための例示的な具体的手順は、例えば、実施例に示される。ピエゾアクチュエータによるフィードバック方式で、微細加工で作製された金属細線を機械的に破断して作製されるナノギャップ電極や、微細加工で作製される基板上のナノギャップ電極は、溶液中でも電極間を一定に保持することが容易であり得る。
【0052】
(トンネル電流測定)
マイクロRNAを電極対の間に通過させることによってトンネル電流を測定できる。例えば、マイクロRNAを含む流体を、電極対を備えた装置を通過させるように流すことによってマイクロRNAを電極対の間に通過させることができる。流体としては、マイクロRNAを分散させる媒体を使用することができ、一つの実施形態では、トンネル電流を生じない媒体が使用され、例えば、超純水が挙げられるが、これに限定されない。一つの実施形態では、流体中のマイクロRNAの濃度は、0.0001~100μM(μmol/L)であってよく、例えば、少なくとも0.0001μM、少なくとも0.0002μM、少なくとも0.0005μM、少なくとも0.001μM、少なくとも0.002μM、少なくとも0.005μM、少なくとも0.01μM、少なくとも0.02μM、少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.2μM、少なくとも0.5μM、少なくとも1μM、少なくとも2μM、少なくとも5μMまたは少なくとも10μM、かつ最大100μM、最大50μM、最大20μM、最大10μM、最大5μM、最大2μM、最大1μM、最大0.5μM、最大0.2μM、最大0.1μM、最大0.05μM、最大0.02μM、または最大0,01μM(矛盾しない限り、上限および下限の任意の組合せが企図される)であり得る。試料中のマイクロRNAの濃度が未知の場合も、一旦何らかの方法でマイクロRNAの測定を行いおおよその含量や濃度の情報を得た後に、トンネル電流で測定するのに好適な濃度に濃縮ないし希釈して、再度測定することができる。流体中に少なくとも1分子のマイクロRNAが含まれていれば、塩基配列および/または修飾状態が分析され得る。
【0053】
電極対の間に電圧を印加することによって、電極対の間をマイクロRNAが通過するときに電極対の間にトンネル電流が発生する。一つの実施形態では、印加する電圧は、例えば、0.1V~1V、例えば、0.25V~0.75Vであり得るが、特に限定されない。電極対の間に電圧を印加する方法は、特に限定されず、例えば、公知の電源装置を電極対に接続して、電極対の間に電圧(例えば、バイアス電圧)を印加すればよい。
【0054】
一つの実施形態では、目的のマイクロRNAは、測定の前に物理的、化学的または生物的に事前処理されていてもよい。事前処理を行うことで、例えば、目的のマイクロRNAの測定における感度、正確さおよび/または精度の向上、修飾状態のさらなる差別化、試料間比較における定量性の向上、溶液中の移動方向の制御、電極対に侵入するマイクロRNAの向き(例えば、3’から優先的に侵入)などの効果が得られ得る。一つの実施形態では、事前処理に用いる薬剤は、マイクロRNAの塩基上のアミン部分、末端のリン酸基または水酸基に基を導入するように設計され得る。
【0055】
マイクロRNAを電極対の間を通過させる具体的な方法は特に限定されないが、例えば、熱拡散(すなわち、ブラウン運動)または交流電圧などによってマイクロRNAを移動させ、当該移動によって、電極対の間を通過させることが可能である。一つの好ましい実施形態では、熱拡散によってマイクロRNAを移動させ、当該移動によって電極対の間を通過させることができ、そうすることで、マイクロRNAが長時間、電極対の間に存在することが可能になるので、マイクロRNAの情報がより多く取得され得る。
【0056】
マイクロRNAを熱拡散させる場合の温度は特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、5℃~70℃、20℃~50℃などの温度が使用できる。
【0057】
従来技術とは異なり、本開示では、タンパク質によって形成されたポアを有する電極が必要とされないので、高温でマイクロRNAを熱拡散させたとしても、電極が機能を失うことはない。また、マイクロRNAを高温で熱拡散させれば、マイクロRNAが分子間・分子内で相互作用(例えば、水素結合)することを防止することができ、相補鎖対の形成が防止され、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態がより正確に同定され得る。
【0058】
電極対の間に電圧を印加した状態でマイクロRNAが電極対の間を通過するときに、マイクロRNAを構成するヌクレオチドに起因するトンネル電流が電極対の間に生じる。トンネル電流が生じるメカニズムを以下にて説明する。
【0059】
マイクロRNAが電極対の間に進入すると、まず、マイクロRNAを構成するいずれかの第1のヌクレオチドが電極対の間に捕捉され、この第1のヌクレオチドに起因するトンネル電流が電極対の間に生じる。ここで、第1のヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの5’末端のヌクレオチドである場合もあるし、ポリヌクレオチドの3’末端のヌクレオチドである場合もあるし、5’末端と3’末端との間に存在するヌクレオチドである場合もある。
【0060】
その後、第1のヌクレオチドが電極対の間を通過した後に、第2のヌクレオチドが電極間に捕捉され、第2のヌクレオチドに起因するトンネル電流が電極対の間に生じる。ここで、第2のヌクレオチドは、第1のヌクレオチドに隣接しているヌクレオチドである場合もあるし、第1のヌクレオチドに隣接していないヌクレオチドである場合もある。第2のヌクレオチドの位置は、1番目のヌクレオチドから5’末端側である場合もあるし、3’末端側である場合もある。
【0061】
以上のようにして、マイクロRNAの複数のヌクレオチドに起因するトンネル電流が電極対の間に生じる。マイクロRNAが電極対の間を通過すると、電極対の間に生じていたトンネル電流が消失する。
【0062】
電極対の間に生じるトンネル電流の測定は、公知の電流計を用いて測定することができる。また、電流増幅器を用いて、トンネル電流のシグナルを増幅してもよい。電流増幅器を用いることによって、微弱なトンネル電流の値を増幅することができるため、トンネル電流を高感度に測定することが可能となる。任意の電流増幅器が使用できるが、例えば、市販の可変高速電流アンプ(Femto社製、カタログ番号:DHPCA-100)が挙げられる。
【0063】
トンネル電流は、電極間の距離、溶液中のマイクロRNAの濃度、電極の形状、電極対の間の電圧などの影響を受け得る。そのため、異なる測定条件の結果を比較・参照する場合には、データ(例えば、トンネル電流の特徴量)は適当に調整され得る。
【0064】
同一のヌクレオチドは、異なる特徴(例えば、異なるピーク高さ)を有するトンネル電流を生じ得る。例えば、高さの異なるピークが、ヌクレオチドの運動により電極とヌクレオチドとの距離が変化することに起因して出現し得る。すなわち、ヌクレオチドと電極との距離が短くなれば、トンネル電流が生じやすくなるため、トンネル電流の電流値が増加してより高いピークが現れる。そのため、一つの実施形態では、マイクロRNAの配列および/または修飾状態を同定するために、幅のある特徴量(例えば、ある範囲のピーク高さ)および/または異なる種類の特徴の組合せが使用され得る。
【0065】
(トンネル電流の特徴)
マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定するために、測定したトンネル電流の任意の特徴(例えば、ピーク高さ、ピーク幅、ピーク頻度、ピーク形状およびこれらの組み合わせなど)を使用することができる。一つの実施形態では、これらの特徴または特徴の組み合わせによってトンネル電流のパターンを表現することができる。一つの実施形態では、マイクロRNAが電極対の間を通過するときに生じるトンネル電流そのものを同定に使用することができる。一つの実施形態では、マイクロRNAが電極対の間を通過するときに生じるトンネル電流のパルスを同定に使用することができる。
【0066】
同定には、トンネル電流の電流値を使用してもよいし、電流値の代わりにトンネル電流のコンダクタンスを使用してもよい。コンダクタンスは、トンネル電流の電流値を電極対に印加された電圧で除することにより計算され得る。コンダクタンスを用いることにより、電極対の間に印加する電圧値が測定毎に異なる場合でも、統一された基準のプロファイルが取得され得る。測定毎に電極対の間に印加する電圧値を一定とした場合には、トンネル電流の電流値とコンダクタンスとは、同等に扱うことができる。
【0067】
一つの実施形態では、通過するマイクロRNA分子中の1つの塩基について、複数のパルスが検出され得るが、1つのパルスが検出されてもよいし、パルスが検出されなくてもよい。マイクロRNA分子中の個々の塩基について検出されるパルスの数は特に限定されないが、多ければ多いほど、塩基の種類および/または修飾状態が、高い正確性および/または高い精度で同定され得る。測定時間が長くなるほど、検出されるパルスの数が多くなり得る。一つの実施形態では、ヌクレオチド毎の測定時間の平均は、例えば、約5ミリ秒、約10ミリ秒、約20ミリ秒、約50ミリ秒、約100ミリ秒、約200ミリ秒、約500ミリ秒、約1000ミリ秒、約2000ミリ秒、約5000ミリ秒、または約10000ミリ秒であり得る。
【0068】
トンネル電流のパルスは、電極対の間に流れるトンネル電流を測定して、トンネル電流の電流値が基底レベルを超えているか否かを経時的に判定することによって検出することができる。基底レベルを超えているトンネル電流の電流値を含む任意の時間枠をパルスとして検出することができるが、例えば、トンネル電流が基底レベルを超えた時点、および再び基底レベルに戻った時点を特定して、これらの2つの時点の間のシグナルをヌクレオチドに起因するトンネル電流のパルスとして検出することができる。1つのパルスを1つまたは複数のヌクレオチドに対応付けてもよいし、1つまたは複数のパルスを1つのヌクレオチドに対応付けてもよい。
【0069】
図6(A)および(B)に、トンネル電流のパルスの一例を示す。これらの
図2に示すように、測定したトンネル電流の電流値とトンネル電流の測定時間とを示すグラフから、各パルスまたはパルスの組合せの任意の特徴を抽出して同定に使用することができる。例えば、このような特徴として、電流の大きさ、時間当たりのパルスの頻度、パルス持続時間、パルス形状などを使用することができるが、これらに限定されない。具体的な実施形態では、パルスの最大電流値(Ip)および/またはパルス持続時間(tp)を同定に使
用することができる。
【0070】
一つの実施形態では、基底レベルを上回る電流値が検出されて第1のヌクレオチドにトンネル電流が生じ始めた後、基底レベルまで電流値が戻る前に第2のヌクレオチドにトンネル電流が生じ始める場合がある(例えば、
図6(C))。この場合、第1のヌクレオチドおよび第2のヌクレオチドは、分子中の連続したヌクレオチドである可能性が高いと考えられる。電流値が基底レベルまで戻らないため、複数のヌクレオチドに対して1つのパルスとしてカウントされ得るが、パルスの特徴(例えば、電流値およびパルス持続時間)により複数のパルスとしてカウントしてもよい。
【0071】
一つの実施形態では、あるヌクレオチドのトンネル電流測定結果について、各パルスの最も高いピークの電流値から基底レベルを引くことによって、各パルスの最大電流値を求めることができる。そして、求めた各最大電流値に対して統計分析を行うことによって最頻値を算出することができる。最頻値を求めるためには、例えば、最大電流値の値と、当該値を有するパルスの数との関係を示すヒストグラムを生成する。そして、生成したヒストグラムを所定の関数にフィッティングする。そして、フィッティングした関数のピーク値を求めることによって、最頻値を算出することができる。フィッティングに用いる関数としては、ガウス関数およびポアソン関数が挙げられる。この最頻値は、例えば、同一測定条件下および/または同一環境下において、各ヌクレオチドにとって固有の値であり得るため、この最頻値を、ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの識別のための指標に使用できる。
【0072】
最大電流値の最頻値は、分布を有するため、最頻値は、1点の最頻値として使用してもよいし、最頻値の分布として使用してもよい。例えば、第1のヌクレオチドの最大電流値の最頻値の分布と、第2のヌクレオチドの最大電流値または最大電流値の最頻値の分布とを比較して、第1のヌクレオチドと第2のヌクレオチドとの類似性(例えば、同じヌクレオチドである確率、修飾ヌクレオチドと非修飾ヌクレオチドとの関係性を有する可能性)を決定してもよい。
【0073】
(塩基配列および/または修飾の同定)
本開示では、目的のマイクロRNAのトンネル電流の測定結果に基づいて、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を同定する。一つの実施形態では、マイクロRNAの塩基配列および修飾情報の両方が同定される。一つの実施形態では、マイクロRNAの塩基配列上の修飾位置が同定される。一つの実施形態では、マイクロRNAの化学構造上の修飾位置が同定される。一つの実施形態では、マイクロRNAの修飾率が同定される。一つの実施形態では、マイクロRNAの特定の修飾位置における修飾率が同定される。一つの実施形態では、マイクロRNAのヌクレオチド自体の修飾の情報が同定される。同定される修飾の種類は、任意であり得、本開示によれば、任意の種類のマイクロRNAが、トンネル電流のパターンによって同定され得る。一つの実施形態では、例えば、マイクロRNAのメチル化が同定される。同定のために、目的のマイクロRNAのトンネル電流の測定結果以外の任意の好適な参照情報を参照してもよい。測定されたマイクロRNAに含まれる全てのヌクレオチドが同定される必要はなく、例えば、特定の位置の特定の塩基配列および/または修飾状態を同定するだけで十分な場合もあり得る。同定結果は、特定の塩基配列および/または修飾状態である確率とともに出力されてもよい。一つの実施形態では、コンダクタンス値の時系列シグナルデータを取得し、これをそれぞれのマイクロRNA配列に対してアセンブリしてコンダクタンス値のヒストグラムを作成することで、マイクロRNAの種類の特定を特定し、かつ/またはシグナルと特定の位置のヌクレオチドとの関連付けることができる。
【0074】
一つの実施形態では、測定されたマイクロRNAに含まれる1つまたは複数のヌクレオチドの各々を同定してもよい。一つの実施形態では、測定されたマイクロRNA中の部分構造を同定してもよい。一つの実施形態では、測定されたマイクロRNA分子全体を同定してもよい。例えば、マイクロRNA分子全体のトンネル電流同士を比較して、2つの測定結果が同じマイクロRNA分子のものかどうかを同定することができる。
【0075】
一つの実施形態では、各々のヌクレオチドを同定するための参照情報は、種々の修飾ヌクレオチドおよび非修飾ヌクレオチドのトンネル電流を測定して、パルスの特徴(例えば、最大電流値など)を取得することで作成される。ここで、修飾ヌクレオチドおよび非修飾ヌクレオチドは、モノヌクレオチドとして測定されてもよいし、ポリヌクレオチドに組み込まれたもの(例えば、目的の修飾または非修飾ヌクレオチド以外同じ構造を有するポリヌクレオチド)を測定してもよい。例えば、合成したマイクロRNAを測定することでこのような参照情報を取得してもよいし、特定の修飾特異的抗体を使用して濃縮されたマイクロRNAを測定することでこのような参照情報を取得してもよい。
【0076】
一つの実施形態では、各々のヌクレオチドを同定するための参照情報は、修飾および/または非修飾ヌクレオチドの構造に基づく計算値から作成してもよく、計算値と測定値を組み合わせて作成してもよい。例えば、このような計算値は、修飾および/または非修飾ヌクレオチドの構造に基づいて、密度関数理論に基づいて占められている最も高い分子軌道エネルギー(HOMO)を計算することで得られ得る。
【0077】
一つの実施形態では、モノマーのデータにおいてヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドのコンダクタンス値を測定し、核酸配列中における当該ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドのコンダクタンス値の範囲を、ヒストグラムのピーク位置および形状を考慮して設定してもよい。例えば、モノマーのデータにおけるアデニンおよびメチル化アデニンのコンダクタンス値(それぞれ、0.7および0.8)に基づいて、核酸配列中のアデニンおよびメチル化アデニンのコンダクタンス値を、それぞれ0.60~0.8および0.75~0.90の範囲に設定してもよい。目的のヌクレオチドの位置に対応する各シグナルについて、ガウシアン関数等の確率密度を指標としてヌクレオチドが修飾されているかどうかを判定することができる。一つの実施形態では、この判定結果に基づき、アデニンの数およびメチル化アデニンの数をカウントし、メチル化アデニンの数/(アデニンの数+メチル化アデニンの数)としてメチル化率(量)を計算することができる。目的の試料および対照試料から得られたマイクロRNAの測定結果の間のメチル化率の差が、特定の値、例えば、約1~10000%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約7%、約10%、約10%、約20%、約50%、約70%、約100%、約200%、約500%、約700%、約1000%、約2000%、約5000%、または約10000%などを超える場合に、目的の試料が目的の医学的状態または生物学的状態であると特定され得る。
【0078】
一つの実施形態では、トンネル電流で測定した試料と同じまたは同様の試料を他の測定手段で測定した結果を参照情報として使用して試料に含まれるマイクロRNAの配列および/または修飾状態を同定することができる。トンネル電流測定では測定したマイクロRNAを分解せずに回収可能なので、この回収したマイクロRNAを他の分析手段に供することができる。一つの実施形態では、混合した同じ試料からの分注試料をトンネル電流測定に供して、同じ試料からの別の分注試料を他の分析手段に供してもよい。
【0079】
一つの実施形態では、トンネル電流測定の結果と、質量分析測定の結果を組み合わせてもよい。質量分析測定では、試料に含まれるマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、位置および有無)がハイスループットで同定され得る。質量分析測定では、修飾の種類(例えば、アデニンのモノメチル化)が分かったとしても、化学構造上の修飾位置の違いは質量数の差異として検出することが困難であり得、化学構造上の修飾位置は、通常、試料の化学処理による誘導体化など別の情報と組み合わせて同定される。他方、トンネル電流測定では、化学構造上の修飾位置の違いはトンネル電流における差異として検出され得る。そのため、トンネル電流測定と、質量分析測定を組み合わせると、互いの情報を補完することができ、トンネル電流測定に基づいてマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定するための参照情報をハイスループットで収集することが可能であり得る。例えば、質量分析測定の結果、マイクロRNA上のある位置の塩基が修飾塩基(特定の質量差を有する)に置き換わっていることが判明した場合、その塩基位置におけるトンネル電流測定結果を修飾情報に関連付けることができる。ここで、この修飾情報(例えば、化学構造上の修飾位置の情報)は、例えば、合成マイクロRNAの既知情報と照合することで裏付けられ得る。
【0080】
一つの実施形態では、使用することができる質量分析計として、磁場型、電場型、四重極型、飛行時間型(TOF)等が挙げられる。質量分析は任意のイオン化法と組み合わせることができる。本開示において使用することができるイオン化法として、例えば、電子イオン化法(EI)、化学イオン化法(CI)、高速原子衝撃法(FAB)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)が挙げられるが、これらに限定されない。ESIは、液体クロマトグラフィー、超臨界クロマトグラフィーなどを組み合わせることができ、クロマトグラフィーにより複数の種類のRNAを分離しながら測定することが可能である。クロマトグラフィーに使用することができるカラムとして、例えば、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)カラム、逆相(RP)クロマトグラフィーカラムなどが挙げられる。
【0081】
MALDIにおいては、試料は、マトリックスとしてレーザー光によってイオン化しやすい物質(塗布剤)と予め混合され、ターゲットプレート上のスポット(アンカーポジション)に配置され、これにレーザー光が照射されることでイオン化が起こる。本開示において使用することができる塗布剤として、3-HPA(3-ヒドロキシピコリン酸)、DHC(クエン酸二アンモニウム)、CHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
一つの実施形態では、断片化されていないイオン(親イオン)および/または断片化されたイオン(娘イオン)の測定値に基づいてRNAの修飾状態(例えば、修飾の有無、修飾の位置、修飾の数、修飾の信頼度など)を同定することができる。一つの実施形態では、対照分子(例えば、安定同位体標識化核酸、非修飾核酸、相補的な二本鎖を形成していたペアのもう一方の核酸など)との比較によってRNAの修飾状態(例えば、修飾の量など)を同定することができる。質量分析のデータは、任意のソフトウェアによって処理してRNA修飾状態へと変換することができる。例えば、このようなソフトウェアの例として、DNAメチル化分析システムMassARRAY(登録商標)EpiTYPER(シーケノム)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0083】
一度、修飾状態とトンネル電流の測定値とを対応させることができれば、その後はトンネル電流シークエンス測定だけで、その修飾状態(例えば、化学構造上の修飾位置)が同定され得る。また、その際、特定の核酸配列と、修飾状態とを組み合わせて配列とその修飾情報を一度に特定することができる。
【0084】
修飾の種類を裏付けるために、任意の好適な手法を選択することができ、例えば、その修飾を構成する部分(例えば、メチル部分)に含まれる放射性原子から放出された放射線を確認してもよいし、修飾に特異的に結合する分子(例えば、修飾特異的抗体)の結合を測定してもよいし(例えば、蛍光の測定)、修飾に特異的に反応する分子と反応して生成された反応物を測定してもよい(例えば、反応物である光の測定、反応して生成されたビオチン誘導体のストレプトアビジンによる検出など)。
【0085】
本開示による、トンネル電流の測定結果に基づく、マイクロRNAの塩基配列および/修飾情報の同定は、例えば、以下のような具体例によって示されるが、これらの例はいずれも限定的なものではない。
・例えば、ある修飾が起こりやすいと予測される位置のヌクレオチドは、より高い確率で修飾ヌクレオチドとして同定されるように、重み付けしてもよい。
・例えば、トンネル電流測定の結果に基づいて、測定したマイクロRNAの一部の塩基配列が同定でき、一部の塩基の信頼性が低い場合、マイクロRNAを取得した試料の由来生物情報に基づき、同定できた塩基配列を有するマイクロRNA候補を選択し、より限定された選択肢の中から、信頼性が低い塩基を同定することができる。
・例えば、既存の参照情報に基づいてトンネル電流測定の結果を解釈した結果、高い正確性で同定できないヌクレオチドが存在した場合、既存の参照情報に含まれていない修飾ヌクレオチドとして扱ってもよい。
・例えば、特定の修飾位置における修飾率を同定する際、その修飾位置における特定の修飾の有無は、特定の閾値に達しなかった場合、修飾の有無いずれのヒットとしてもカウントしなくてもよい。
【0086】
このように、得られたトンネル電流測定結果に基づいて、測定したマイクロRNAの一部または全部の塩基配列および/または修飾情報を同定するための参照情報を蓄積することができる。また、蓄積された参照情報に対しては、任意の修正、削除および/または追加を行うことができる。
【0087】
一つの局面では、本開示は、トンネル電流測定結果に基づいて、測定したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を同定するための蓄積された参照情報によって構築されるデータベースを提供する。
【0088】
(マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を使用した分析)
一つの局面では、本開示は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報に基づいて対象の状態を分析する方法を提供する。また、別の局面では、本開示は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を対象の状態と関連付ける工程を含む方法を提供する。これらの方法において、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報は、トンネル電流測定結果に基づいて上述の任意の方法によって同定することができる。
【0089】
一つの実施形態では、マイクロRNAは試料中に存在する。特定の実施形態では、試料は、対象に由来し、ここで、対象としては、哺乳動物(例えば、ヒト、チンパンジー、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウマ、ブタ、ネコなど)、微生物(例えば、病原菌、発酵に使用する微生物、大腸菌などの細菌、寄生虫、真菌、ウイルス(例えば、コロナウイルスなどのRNAウイルス)など)、食用生物(鳥類、魚類、爬虫類、菌類、植物など)、鑑賞・愛玩生物、環境指標生物、が挙げられるがこれらに限定されない。一つの実施形態では、試料は、特定の状態であるか、または特定の状態である可能性のある対象に由来する。一つの実施形態では、特定の状態として、疾患、年齢、性別、人種、家系、病歴、治療歴、喫煙状態、飲酒状態、職業、生活環境情報などが挙げられるがこれらに限定されない。一つの実施形態では、試料は、対象から得られた器官、組織、細胞(例えば、循環腫瘍細胞(CTC)など)、血液(例えば、血漿、血清など)、粘膜表皮(例えば、口腔、鼻腔、耳腔、膣などにおけるもの)、皮膚表皮、生体分泌液(例えば、唾液、鼻水、汗、涙、尿、胆汁など)、糞便、表皮上微生物またはその部分である。一つの実施形態では、試料は、培養細胞(例えば、対象から得られた細胞に基づくオルガノイド、特定の細胞株など)である。一つの実施形態では、試料は、食品またはその部分、あるいは、食品上微生物である。
【0090】
一つの実施形態では、マイクロRNAを測定するために事前にマイクロRNAを精製してもよいし、精製しなくてもよい。本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、遺伝子マーカー等のマイクロRNAまたはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書において「単離」されたとは、天然に存在する状態で付随する任意のものを少なくとも1つ除去したものをいい、例えば、全マイクロRNAから特定のマイクロRNAを取り出した場合も単離といいうる。従って、本明細書において使用されるマイクロRNAは、単離されたものでありうる。一つの実施形態では、全ての種類のマイクロRNAを区別することなく他の成分から精製してもよい。一つの実施形態では、目的の配列(単一の種類または複数の種類)を有するマイクロRNAを他の成分から精製してもよい。一つの実施形態では、修飾(単一の種類または複数の種類)を有するマイクロRNAを他の成分から精製してもよい。一つの実施形態では、メチル化修飾を有するマイクロRNAを他の成分から精製してもよい。
【0091】
マイクロRNAの精製には任意の公知の手法を用いることができる。一つの実施形態では、DNA分解酵素を作用させた後に、核酸分子を精製することで目的のマイクロRNAを精製してもよい。複数種類のマイクロRNAは、別々に精製してもよいし、並行して精製してもよいし、混合状態で精製してもよい。一つの実施形態では、1、2、3、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、300、400、500、750、1000、1500、2000、2500または3000種類のRNAを並行して精製してもよい(例えば、担体に結合した配列特異的なRNA捕捉分子を使用して)。一つの実施形態では、目的の配列と少なくとも部分的に相補的な核酸分子(例えば、DNAおよびRNA)を使用して、目的の配列を有するマイクロRNAを精製してもよく、ここで、該相補的な核酸分子は、精製のための任意の部分を含んでいてもよい。例えば、精製のための任意の部分の例として、ビーズなどの担体(必要に応じて、磁性を帯びていてもよい)、ビオチンおよびストレプトアビジンなどの互いに結合するペア分子のうちの一方、互いに結合するペア分子を結合させるための部分(例えば、クリックケミストリーにおけるアルキン部分)、抗体認識部分などが挙げられるが、これらに限定されない。一つの実施形態では、特異的な結合分子(例えば、抗体)を使用して目的のマイクロRNAを精製してもよい。一つの実施形態では、RNA修飾(例えば、メチル化)に特異的な結合分子(例えば、抗体)を使用して目的のマイクロRNAを精製してもよい。一つの実施形態では、特定の配列に特異的な結合分子(例えば、抗体)を使用して目的のマイクロRNAを精製してもよい。
【0092】
一つの実施形態では、修飾マイクロRNAにおける修飾は、人工的に導入された修飾である。例えば、人工的に導入された修飾には、化学合成によって導入された修飾が含まれるが、これに限定されず、薬剤で生物(ウイルスを含む)を処理した場合にその薬剤が生物中のRNAに結合することで生じた修飾も含まれる。例えば、生体内の核酸と直接化学的に相互作用する薬剤(例えば、抗がん剤)で生物を処置すると、この薬剤に由来する部分が導入された修飾RNAが生じ得る。本開示の方法によれば、このような人工的な修飾が導入される可能性が高い核酸(種類、位置など)を容易に特定することができ、このような人工的な修飾が導入される可能性が高い核酸は、薬剤の研究開発のための指標またはバイオマーカーなどとして有用に使用され得る。
【0093】
一つの実施形態では、細胞内小器官(例えば、エクソソーム)を精製することで目的のマイクロRNAを精製してもよい。一つの実施形態では、遠心分離により細胞内小器官(例えば、エクソソーム)を精製してもよい。一つの実施形態では、細胞内小器官に存在する分子に結合する分子(例えば、抗体)を使用することで目的のマイクロRNAを精製してもよい(例えば、抗CD63抗体を使用してエクソソームを精製する)。
【0094】
マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を使用して、種々の状態を分析することができる。一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を使用して、対象の医学的状態または生物学的状態を分析する。対象の医学的状態または生物学的状態として、例えば、疾患、老化、免疫状態(例えば、腸管免疫、全身免疫など)、細胞分化状態、薬剤または処置に対する応答性、対象の微生物(例えば、腸内細菌、表皮細菌)の状態、が挙げられるがこれらに限定されない。本開示において分析しうる疾患としては、例えば、脳神経疾患、公害病、小児外科の病気、真菌症、特定疾患、感染症、がん(悪性腫瘍)、消化器病(炎症性腸疾患を含む)、神経変性疾患、アレルギー疾患、寄生虫病、動物の感染症、尿路系腫瘍、種々の症候群、呼吸器疾患、乳腺腫瘍、人格障害、皮膚疾患、性行為感染症、歯科疾患、精神疾患、腎泌尿器疾患、眼疾患、食中毒、赤星病中間宿主、肝炎、循環器病、奇病、膠原病、症候、人獣共通感染症、パラフィリア、免疫病(腸管免疫を含む)、先天性疾患、発達障害、皮疹、先天性心疾患、領域別病名、恐怖症、ウイルス感染症、男性生殖器疾患、動物の病気、魚病、増殖性疾患、ポリープ、歯周疾患、乳腺疾患、遺伝子疾患、血液疾患、代謝内分泌疾患、婦人科疾患、発熱と発疹を起こす病気、軟部腫瘍、植物の病気等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。本開示において特に好適に分析されうる疾患としては、例えば、がん、炎症性腸疾患、アルツハイマー型もしくは血管障害性認知症、境界領域精神疾患、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心不全(隠れた軽度のものを含む)、心臓疾患(例えば、致死性を含め、不整脈による突然死を誘発するもの)などが挙げられるがこれらに限定されず、これらの疾患は、細胞の特異的な代謝を介してRNAの修飾状態に影響を与え得る。対象の微生物の状態としては、例えば、熱処理および消毒薬などに対する耐性状態(例えば、調理が不完全な食品に寄生するE型肝炎ウイルスなどの芽胞形成状態)などの公衆衛生上のインシデントとなり得る状態、宿主に侵入したウイルス(例えば、肝炎RNAウイルス、パピローマDNAウイルス、コロナウイルス)の核酸の修飾状態(メチル化など)などが挙げられるがこれらに限定されない。本開示は、膵臓がん(例えば、早期膵臓がん)、肝臓がん、胆嚢がん、胆道がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、腎がん、乳がん、肺がん、脳腫瘍、皮膚がんなどのがんも対象としうるということで医学的な見地からも意義が高い。一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報を使用して、がん(例えば、膵臓がん)のステージを分析する。
【0095】
本開示によればまた、対象生物の薬剤(例えば、抗がん剤、分子標的薬、抗体医薬、生物製剤(例えば、核酸、タンパク質)、抗生物質など)または処置に対する応答性を分析することができる。例えば、薬剤耐性なども分析することができ、例えば、抗がん剤の応答性、適切な治療剤の選択、抗生物質耐性の分析などにも応用することができる。本開示の分析はまた、重粒子線(例えば、Carbon/HIMAC)またはX線による処置などの手術または放射線処置などの経過や予後の分析にも用いることができる。本開示において、ロンサーフ(TAS102)、ゲムシタビン、CDDP、5-FU、セツキシマブ、核酸医薬またはヒストン脱メチル化酵素阻害剤などの種々の医薬の分析が可能であり、治療戦略の基礎情報として活用し得ることが理解される。例えば、薬剤が抗がん剤である場合、対象がその抗がん剤に対する耐性を有するかどうかの応答性を検査することで、治療戦略を立てることができることが本開示で達成されている。したがって、本開示により、薬剤等の処置に対する応答性に基づいて、対象を処置するための薬剤および/または前記対象に対するさらなる処置の選択などを行うことができる。本開示において、複数の薬剤についての応答性を検討する場合、複数の薬剤の中から前記状態を処置するための薬剤を示すことができる。分析を行う場合、薬剤の投与または前記処置の前後の前記対象における本開示のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報(例えば、メチル化)の比較に基づいて分析を行うことができる。
【0096】
本開示の1つの実施形態では、生物学的状態または医学的状態の分析の対象について、その年齢、性別、人種、家系情報、病歴、治療歴、喫煙状態、飲酒状態、職業情報、生活環境情報、疾患マーカー情報、核酸情報(対象における細菌の核酸情報を含む)、代謝物情報、タンパク質情報、腸内細菌情報、表皮細菌情報およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの情報をさらに考慮して、分析を行うことができる。本開示の方法において、利用し得る核酸情報としては、ゲノム情報、エピゲノム情報、トランスクリプトームの発現量情報、RIPシークエンシング情報、マイクロRNAの発現量情報およびこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができる。個々で利用され得るRIPシークエンシング情報としては、薬剤耐性ポンプP-糖蛋白のRIPシークエンシング情報、糞便のRIPシークエンシング情報、糞便中の大腸菌のRIPシークエンシング情報等を含み得る。
【0097】
本開示では、薬剤または処置に対する耐性株、または該耐性株と該耐性株が由来した細胞株との組み合わせにおけるマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態にさらに基づいて、前記対象の前記状態を分析することができる。そのような薬剤または処置としては、例えば、ロンサーフ(TAS102)、ゲムシタビン、CDDP、5-FU、セツキシマブ、核酸医薬、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤、あるいは重粒子線(例えば、Carbon/HIMAC)またはX線による処置を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0098】
本開示において分析対象とされるマイクロRNAの種類は、分析の目的に応じて増減させることができ、例えば、少なくとも5種類、少なくとも10種類、少なくとも20種類、少なくとも30種類、少なくとも50種類、少なくとも100種類、少なくとも200種類、少なくとも300種類、少なくとも500種類、少なくとも1000種類、少なくとも1500種類、少なくとも2000種類のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を分析することができる。あるいは、利用可能なすべてのマイクロRNAを対象としてもよい。1つの実施形態では、同じ配列を含むマイクロRNA上の複数の修飾情報を分析することができる。別の実施形態では、マイクロRNAの構造情報にさらに基づいて、対象の状態を分析することができる。
【0099】
1つの実施形態では、メチル化酵素(例えば、Mettl3、Mettl14、Wtap)、脱メチル化酵素(例えば、FTO、AlkBH5)およびメチル化認識酵素(例えば、YTHDF1、YTHDF2、YTHDF3などのYTHドメインを持つファミリー分子)のうちの少なくとも1つがノックダウンされた生物におけるマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態、および/またはメチル化酵素(例えば、Mettl3、Mettl14、Wtap)、脱メチル化酵素(例えば、FTO、AlkBH5)およびメチル化認識酵素(例えば、YTHDF1、YTHDF2、YTHDF3などのYTHドメインを持つファミリー分子)のうちの少なくとも1つの認識モチーフ情報にさらに基づいて、前記対象の前記状態を分析するステップを含んでいてもよい。
【0100】
1つの実施形態では、複数の修飾情報に基づいて状態の確率を計算する工程を実施してもよい。計算工程としては、任意の統計学的手法を実施することができ、例えば、主成分解析などが実施され得る。
【0101】
1つの実施形態では、臨床エビデンスが蓄積される抗がん剤(例えば、ロンサーフ(TAS102)、ゲムシタビン、CDDP、5-FU、セツキシマブ、核酸医薬またはヒストン脱メチル化酵素阻害剤)の腫瘍組織に対する薬効を検討し治療戦略を立てることができる。
【0102】
1つの実施形態では、種々の薬剤の新たな作用機序を解明して更なる治療戦略で応用できる中分子化合物を創薬することができ、例えば、難治性進行がんを克服する戦略の立案に利用することができる。
【0103】
1つの実施形態では、マイクロRNAを本開示の手法で分析することにより、作用機序の更なる解明を行うことができる。すなわち、本開示の方法を用いて、抗がん剤等の薬剤に特異的なマイクロRNAを分析することができ、これを用いてコンパニオン診断薬を設計することができる。
【0104】
1つの実施形態では、低侵襲のリキッドバイオプシーで得られる末梢血中のmiRNAを用いたコンパニオン診断を実施することができる。例えば、薬剤(例えば、ロンサーフ(TAS102)、ゲムシタビン、CDDP、5-FU、セツキシマブ、核酸医薬またはヒストン脱メチル化酵素阻害剤)を使用した臨床情報と末梢血中のmiRNAのデータを照合し、さらにその薬剤の耐性細胞でのメカニズム解析とを照合して、その薬剤暴露に応答してクロマチンから転写されるmiRNAと、末梢血中にエクソソームとして分泌されるmiRNAを、60個のパネルとして同定することができた。本開示は、このようなパネルマイクロRNAを同定し、さらにこれを分析する技術を提供するものである。
【0105】
1つの実施形態では、本開示において、がん幹細胞またはCancer Initiating Cell(CIC)に関する分析を行うことができる。
【0106】
1つの実施形態では、本開示の分析は、修飾されたRNA自体が、薬の標的分子となる場合にも応用することができる。すなわち、本開示の分析技術を用いて、RNAの修飾または非修飾を検出することによって、新規薬剤のスクリーニングを行うことができる。特に、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、メチル化)をこのような新規薬剤のスクリーニングに応用することが従来知られておらず、本開示は新たな作用機序での薬剤を提供し得るものである。
【0107】
別の実施形態では、修飾されたRNA自体が薬の成分分子となる場合にも、本開示の分析を応用することができる。例えば、本開示の分析技術を用いて、RNAの修飾または非修飾を検出することによって、対象となるRNA修飾物またはその修飾を担う酵素などの外部因子が薬剤として利用可能かどうかを分析することで、新規薬剤のスクリーニングを行うことができる。
【0108】
本開示ではまた、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態の他、それ以外の他の核酸の情報、例えば、核酸(DNA、RNAなど)の塩基置換および/または修飾の情報を組み合わせて、分析を行うことができることが理解される。マルチオミクスの分析については、Sijia Huang et al., Front Genet.2017;8:84、Yehudit Hasin et al., Genome Biol.2017;18:83などのRNA修飾(エピトランスクリプトーム)以外のオミクスのマルチオミクス分析の技術と組み合わせることができる。
【0109】
他の核酸の情報については、例えば、質量分析などにより、分析することができ、例えば、RNAには、RIP-seqを応用し、DNAにはDIP-seqを応用し、FDNAでは、BrdUなどでFDIP-seqを行うことで分析することができる。
【0110】
1つの実施形態では、本開示の分析技術は、臨床エビデンスに基づく新しい機序の解明を行うことができる。
【0111】
さらなる実施形態では、本開示において、創薬ターゲット研究を行うことができる。例えば、複数の分子の複合体と標的との間の相互作用を標的とした低または中分子化合物の創薬を行うことができ、ライブラリーのスクリーニング、オルガノイドや動物個体を用いたフェノタイプのスクリーニングを行う際に本開示のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態の分析技術を利用することができる。
【0112】
1つの実施形態では、本開示において、腫瘍多様性に対応した創薬において利用することができる。本開示のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、マイクロRNAのメチル化情報)に加えて、ChIP-seqやFTDを取り込んだ修飾DNAの一分子計測、さらには腫瘍組織の間質のCAF(Cancer Associated Fibroblasts)やリンパ球のシングル細胞分析(C1)などを組み合わせて応用することができる。患者に薬剤を投与したきに、がん細胞のみでなく腫瘍間質などのホスト側の応答も含めて統合的に把握することができる。マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態の情報を活用して阻害剤を分類することができれば、がん細胞側または間質側を差別化できる革新的な医薬品を創出できる。
【0113】
1つの実施形態では、本開示は、ある薬剤について、(1)適応疾患を他に広げる、(2)他の先行する薬剤との非劣性を示して2ndライン治療以前に遡らせる、(3)新たな作用機序の解明と治療薬に結びつく可能性を検証することなどに応用することができる。
【0114】
1つの実施形態では、例えば、がん患者などの患者の液体生検として血清エクソソーム内miRNAの発現情報を整備し、分析対象の治療後の患者の血清エクソソーム内miRNAの発現情報や本開示のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態の分析を行うことができる。そのために、例えば、大腸がんであれば、例えば、全例1000例のデータベース(The Cancer Genome Atlas-Cancer Genome;TCCA)を用いて、進行期大腸がん患者の血清エクソソーム内miRNAの発現情報や塩基配列および/または修飾状態を分析することができる。
【0115】
また、治療後の大腸がん患者の血清エクソソーム内miRNAの発現情報や塩基配列および/または修飾状態を分析することができる。
【0116】
1つの実施形態では、本開示において、分析結果をもとに、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に基づく次世代型RNAバイオマーカーを提供することができ、これを臨床応用することができる。本開示において、例えば、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態による組織恒常性の把握を行うことができ、これを用いて臨床応用を行うことができる。
【0117】
本開示のRNAの情報を用いた分析では、標的は転写因子であるということ、つまり、標的の遺伝子の発現を(多くの場合に正に)制御する鍵となる誘導因子であることが重要な点でもありうる。この場合には、独立の転写因子を厳選することにより、数を絞っていくことができる。例えば、本開示の方法を用いると、がんの診断において、がん遺伝子としての作用がある「c-myc」を早々と手放したことができることが見出されたことは特筆に値する。がん遺伝子があると転写因子の限定的な独立性が失われて、cell context dependentにいろいろな作用が出てくることから、クリアに最小数を求めることができなくなると理解される。この場合、「c-myc」は横に多く作用する、対多作用があるので、ノイズとなるということが分かった。
【0118】
本開示では、miRNA(「マイクロR」、「マイクロRNA」または「miR」とも称される。)が使用されるが、この場合、多対多対応であることが特徴である。つまり、1つのマイクロRが複数に多く作用して、かつ異なった分子としてのマイクロRNA間でも共通した標的をシェアしているということも重要な点の一つであるといえる。このような「多対多対応」の制御系で、ある事象を誘導する重要なセットが存在するとして、それが1つの分子でなかったからといって、驚くことはない。むしろ、それが限定性されたセットであるとか、そのセットの中のヒエラルヒーを表現できる重み値をつけて表出でききることができることも本開示が提供する分析の特徴であるといえる。
【0119】
1つの実施形態では、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態でがんの診断が想定されるがそれらに限定されず、このほか薬剤耐性(抗がん剤だけでなく、分子標的薬、抗体医薬品、また核酸などの生物製剤、さらに広くは、微生物由来の抗生剤など)、種の集団の分類、炎症性腸疾患、大腸菌、食品分類(産地、年齢、味、品質、賞味期限、味覚)なども想定されうる。麹を選択するためにマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を用いることができる。
【0120】
1つの実施形態では、例えば、5-FUとCDDPなどの他の薬剤では、IC50の分布が大きく異なっていて、5-FUは効くものは良く効くが、効かないものは全くと言っていいほど効かないことがわかっており、これもエピトランスクリプトームで知ることができる。例えば、マイクロRNAに関して見てみると、発現を見るよりも、エピトランスクリプトームを見た方が、主成分分析(PCA)で大きく差別化して詳細に分類線を引くことが可能である、ことがわかっている。
【0121】
RNAメチル化は、サーカディアン・リズムと関わっていることが知られている(Sanchezら、Nature. 2010 Nov 4;468(7320):112-6およびJean-Michelら、Cell Vol. 155, Issue 4, pp. 793-806 7 November 2013など)。1つの実施形態では、時差に関わる睡眠活動(時差ボケなど)を分析するためにマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。例えば、このような分析に基づいて、対象の睡眠活動が時差の影響を受ける可能性の決定およびそれに関連した人事または医療管理、パイロットまたはフライトアテンダントの管理、メラトニンを服用することが推奨されるかどうかの層別化などを実施することができる。1つの実施形態では、宇宙飛行の時差ボケを分析するためにマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。
【0122】
1つの実施形態では、対象の睡眠が十分であるかどうかを分析するためにマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。隠れ睡眠不足が問題になっているが、多くの場合、本人の自覚がない。そこで、これを矯正するために、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。1つの実施形態では、睡眠生活療法と合致させる。1つの実施形態では、長距離バス運転手の健康管理のために、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。1つの実施形態では、厚生管理のために、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。1つの実施形態では、夜勤業務者(製鉄、原発、病院、医療関係者、ガードマン、ビル管理会社などの)の健康管理のために、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。
【0123】
1つの実施形態では、血液試料のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して対象の年齢を分析し、犯罪捜査における利用に供することができる。
【0124】
1つの実施形態では、ドーピングの有無を分析するためにマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用することができる。
【0125】
(バイオマーカースクリーニング)
一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して、新たなバイオマーカーの探索を行うことができる。一つの実施形態では、ある状態である対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、その状態でない対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態と比較して、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に差(例えば、統計的有意差)が観察されたRNAまたはRNAの群を、その状態を予測するためのバイオマーカーとすることができる。
【0126】
一つの実施形態では、薬物および/または処置を施した対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、その薬物および/または処置を施していない対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態と比較して、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に差(例えば、統計的有意差)が観察されたRNAまたはRNAの群を、その薬物および/または処置に対しての応答性および/または耐性を予測するためのバイオマーカーとすることができる。
【0127】
(耐性株)
一つの実施形態では、薬物および/または処置に対して耐性のある耐性株において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、その耐性株の元となった野生株において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態と比較して、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に差(例えば、統計的有意差)が観察されたRNAまたはRNAの群を、その薬物および/または処置に対しての応答性および/または耐性を予測するためのバイオマーカーとすることができる。
【0128】
このような耐性株は、例えば、薬物および/または処置の存在下で野生株を維持培養することによって作製することができ、一つの局面において、本開示は、このような耐性株の作製方法を提供する。一つの局面において、薬物および/または処置に対する耐性株は、該薬物および/または処置に対するIC50に基づいて耐性株であるかどうか評価され得る。一つの局面において、本開示は、トリフルリジン(FTD)、5-フルオロウラシル(5-FU)、ゲムシタビン、シスプラチン、セツキシマブ、Carbon/HIMAC(重粒子線)、およびX線のそれぞれに対して耐性を有する耐性株を提供する。
【0129】
(薬物スクリーニング)
一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して、新たな薬物を評価することができる。一つの実施形態では、ある薬物で処置した対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、別の薬物で処置した対象において取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態と比較することによって、各薬物の処置で変動したRNAに基づいて、薬物間で分類を行うことができる。
【0130】
(種分類)
一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して、生物種を分類することができる。一つの実施形態では、微生物(例えば、大腸菌)の分類結果に基づいて、該微生物が取得された対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物、食品など)を分析することができる。
【0131】
(食品)
一つの実施形態では、取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して、食品の品質を分析することができる。食品の品質として、例えば、産地、年齢、加工後経過時間、鮮度、加工後変性、味質、活性酸素状態、微生物汚染(大腸菌、サルモネラ菌、ボツリヌス菌、ウイルス、寄生虫など)、発酵状態(発酵に係る微生物の状態を含む)、化学的要因(例えば、農薬、添加物など)、物理的要因(例えば、異物、放射線等)、脂肪酸状態または熟成度などが挙げられるが、これらに限定されない。一つの実施形態では、行政機関などの公的機関による食品の品質管理のために取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して食品の品質が分析され得る。一つの
実施形態では、消費者が製品の品質を判断するための指標を提供するために取得されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を使用して食品の品質が分析され得る(味、においで表現されていた事柄を客観的に表現する)。
【0132】
また、本開示において、DNA、RNA、タンパク質とは異なり、RNA修飾(例えば、メチル化)では、視点を変えれば新たな展開を提供する。例えば、DNA、RNAは、分解とともに連続した塩基配列の情報が失われていく(短く断片化していく)ことになるが、メチル化はその質を表現するものとして、標的サイトがある限り、メチル化率として表されますから、「もとあった素因が、経時的な変化の中で、どのように減衰していき、それが残っているか」をモニターできる点で、ユニークである。タンパク質は、両者の中間にあるだけでなく、本件では標的が定まっていないので、追跡ツール、トレーサーとしては限界があるため、DNA、RNA、タンパク質とは異なって、格別優れた効果を奏するといえる。
【0133】
(追加情報の利用)
一つの実施形態では、対象から取得したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に加えて、他の情報、例えば、別の時点で対象から取得したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態(例えば、処置の前後)、該対象に関する情報、修飾に関連するタンパク質のモチーフ情報、他の対象から取得したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に関する情報、RNAと結合する物質(タンパク質、脂質など)とRNAとの複合体に関する情報(必要に応じて、さらにRNA修飾状態に関連した状態)などを使用して対象の状態を分析することができる。
【0134】
追加で使用することができる対象に関する情報として、例えば、対象の年齢、性別、人種、家系情報、病歴、治療歴、喫煙状態、飲酒状態、職業情報、生活環境情報、疾患マーカー情報、核酸情報(対象における微生物の核酸情報を含む)、代謝物情報、タンパク質情報、腸内細菌情報、表皮細菌情報などが挙げられる。核酸情報として、例えば、ゲノム情報、ゲノム修飾情報、トランスクリプトーム情報(発現量および配列の情報を含む)、RIPシークエンシング情報、マイクロRNAの情報(発現量および配列の情報を含む)が挙げられる。個々で利用され得るRIPシークエンシング情報としては、薬剤耐性ポンプP-糖蛋白のRIPシークエンシング情報、糞便のRIPシークエンシング情報、糞便中の大腸菌のRIPシークエンシング情報等が挙げられ得る。
【0135】
追加で使用することができる修飾に関連するタンパク質のモチーフ情報として、修飾を付加する酵素の認識モチーフ情報、修飾を除去する酵素の認識モチーフ情報、および修飾に結合するタンパク質の認識モチーフ情報が挙げられ、具体的には、メチル化酵素(例えば、Mettl3、Mettl14、Wtap)、脱メチル化酵素(例えば、FTO、AlkBH5)およびメチル化認識酵素(例えば、YTHDF1、YTHDF2、YTHDF3などのYTHドメインを持つファミリー分子)などのモチーフ情報が挙げられる。
【0136】
追加で使用することができる他の対象から取得したRNA修飾に関する情報として、例えば、ある状態の対象におけるRNA修飾情報、修飾に関連するタンパク質の発現について遺伝子操作された生物におけるRNA修飾情報、薬物および/または処置に耐性を有する耐性株におけるRNA修飾情報、薬物および/または処置が施された対象におけるRNA修飾情報、RNAと結合する物質(タンパク質、脂質など)とRNAとの複合体に関する情報(必要に応じて、さらにRNA修飾状態に関連した状態)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
本開示では、薬剤または処置に対する耐性株、または該耐性株と該耐性株が由来した細胞株との組み合わせにおけるマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態にさらに基づいて、対象の状態を分析することができる。そのような薬剤または処置としては、例えば、ロンサーフ(TAS102)、ゲムシタビン、CDDP、5-FU、セツキシマブ、核酸医薬、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤、あるいは重粒子線(例えば、Carbon/HIMAC)またはX線による処置を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0138】
(対象状態分析方法)
一つの実施形態では、本開示は、蓄積されたマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態とトンネル電流のパターンとの組み合わせのデータを参照して、検出されたトンネル電流のパターンに基づいてマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を分析することで、マイクロRNAを取得した対象の状態を分析する方法を提供する。塩基配列および/または修飾状態は、対象に由来する試料を測定することで取得することができる。一つの実施形態では、分析は、試料を取得した後短期間で(例えば、1日以内、10時間以内、5時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内など)測定を行うオンサイト分析である。一つの実施形態では、オンサイト分析の分析結果は、試料の取得から短期間で(例えば、1日以内、10時間以内、5時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内など)出力される。一つの実施形態では、試料を取得した後、試料が測定器および/または分析器のある場所に送達されて、そこで分析が実施される。試料の取得は対象自身が行なってもよい。一つの実施形態では、取得した試料は凍結して送達される。分析結果は、送達元に伝えられてもよいし、インターネット上のサイトにアクセスすることで利用可能であってもよい。
【0139】
例えば、病院などの医療機関において本開示の方法を実施する場合には、対象(例えば、患者または疾患などの危険性のある被験者など)から試料(例えば、血液、摘出器官、糞便など)を取得し、この試料を処理して目的のマイクロRNAを精製し、この目的のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する。このように同定したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に基づいて、対象の状態(例えば、がんの罹患および再発の可能性、特定の薬物治療に耐性を獲得する可能性など)を分析することができる。一度取得したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態は、他の対象の状態の分析に使用してもよいし、同じ対象の別の時点における状態の分析に使用してもよいし、データベースに蓄積してもよい。
【0140】
例えば、製薬会社などの研究機関または医療施設もしくはそこから依頼のあった臨床検査会社等において本開示の方法を実施する場合には、対象から取得した試料(例えば、実験動物の組織または器官、臨床試料、培養細胞など)を処理して目的のマイクロRNAを精製し、この目的のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する。このように同定したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、他の分析により確認した同じ対象の状態(例えば、がんの状態、薬物耐性を獲得した状態、薬物が治療効果を奏した状態など)と関連付けて情報を蓄積することができる。このように取得したマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に基づいて、対象(患者または疾患などの
危険性のある被験者など)の状態に適当に適用できる薬物を決定することができる。
【0141】
(プログラム)
1つの局面において、本開示は、マイクロRNAの質量分析計による分析結果を入力するステップと、前記マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンを入力するステップと、前記質量分析による分析結果とトンネル電流のパターンとを関連付けて前記マイクロRNAの修飾状態を決定させるステップとを含む方法をコンピュータに実装する(implement)ように構成された、プログラムを提供する。
【0142】
1つの局面において、本開示は、対象を分析する方法をコンピュータに実装(implement)するように構成されたプログラムであって、該方法は、対象のマイクロRNAのトンネル電流測定によりトンネル電流のパターンを取得するステップと、マイクロRNAの修飾状態と、トンネル電流測定で既に取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせを含むデータベースを参照し、前記取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記対象のマイクロRNAの修飾状態を分析するステップと、前記修飾状態に基づいて前記対象の状態を分析するステップを包含する、プログラムを提供する。一つの実施形態では、方法は、前記対象のマイクロRNAの修飾状態に基づいて、前記対象の状態を示させるステップをさらに含む。
【0143】
1つの局面において、本開示は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態に基づいて対象の状態を分析する方法をコンピュータに実装させるプログラム、およびそのプログラムを格納する記録媒体を提供する。このプログラムが実行する方法は:(a)対象における少なくとも1種類のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、該マイクロRNAの参照の塩基配列および/または修飾状態と比較するステップ;および(b)該比較するステップの出力結果に基づいて該対象の該状態を判定するステップ、を包含する。一つの実施形態では、参照修飾情報は、前記対象とは異なる対象におけるマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を含む。一つの実施形態では、参照修飾情報は、前記塩基配列および/または修飾状態とは別の時点で取得された前記対象における前記マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を含む。
【0144】
(システム)
1つの局面において、本開示は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンと関連付けるためのシステムを提供する。システムは、質量分析計と、トンネル電流測定器と、質量分析計およびトンネル電流測定による目的のマイクロRNAの測定結果を関連付けて、目的のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を分析・判定する分析・判定部と、を包含する。
【0145】
1つの局面において、本開示は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報に基づいて対象の状態を分析するシステムを提供する。このシステムは、トンネル電流測定器と、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾情報と、トンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンとの組み合わせの蓄積されたデータを参照して、マイクロRNAのトンネル電流測定で取得されたトンネル電流のパターンに基づいて、前記マイクロRNAを取得した対象のマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を分析・判定する分析・判定部と、を包含する。一つの実施形態では、システムは、分析・判定された塩基配列および/または修飾状態に基づいて、対象の状態を分析・判定する状態分析・判定部をさらに含む。
【0146】
測定部は、マイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を提供する機能および配置を有する限り、どのような構成をとっていてもよい。計算部や分析部とは同一または異なる構造物として提供され得る。一つの実施形態では、測定部は、トンネル電流測定器を含む。一つの実施形態では、測定部は、質量分析計(例えば、MALDI-MS)を含む。
【0147】
計算部は、測定データに基づいてマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する。
【0148】
分析部は、得られたマイクロRNA情報に基づいて、対象の状態を分析する。一つの実施形態では、分析は、さらに上記の追加情報を参照して実施されてもよい。
【0149】
図5の機能ブロック図を参照して、本開示のシステムの構成を説明する。なお、本図においては、単一のシステムで実現した場合を示しているが、複数のシステムで実現される場合も本開示の範囲に包含されることが理解される。このシステムで実現される方法は、プログラムとして記載することができる。このようなプログラムは記録媒体に記録することができ、方法として実現することができる。
【0150】
本開示のシステム1000は、コンピュータシステムに内蔵されたCPU1001にシステムバス1020を介してRAM1003、ROM、SSDやHDD、磁気ディスク、USBメモリ等のフラッシュメモリなどの外部記憶装置1005及び入出力インターフェース(I/F)1025が接続されて構成される。入出力I/F1025には、キーボードやマウスなどの入力装置1009、ディスプレイなどの出力装置1007、及びモデムなどの通信デバイス1011がそれぞれ接続されている。外部記憶装置1005は、情報データベース格納部1030とプログラム格納部1040とを備えている。何れも、外部記憶装置1005内に確保された一定の記憶領域である。
【0151】
このようなハードウェア構成において、入力装置1009を介して各種の指令(コマンド)が入力されることで、又は通信I/Fや通信デバイス1011等を介してコマンドを受信することで、この記憶装置1005にインストールされたソフトウェアプログラムがCPU1001によってRAM1003上に呼び出されて展開され実行されることで、OS(オペレーションシステム)と協働して本開示の機能を奏するようになっている。もちろん、このような協働する場合以外の仕組みでも本開示の方法を実装することは可能である。
【0152】
本開示の方法の実装において、マイクロRNA試料の測定(例えば、質量分析および/またはトンネル電流測定)を行ってマイクロRNAデータを得た場合、この測定を行って得られたマイクロRNAデータまたはこれと同等の情報(例えば、シミュレーションを行って得られたデータ)は、入力装置1009を介して入力され、あるいは、通信I/Fや通信デバイス1011等を介して入力されるか、あるいは、データベース格納部1030に格納されたものであってもよい。該マイクロRNA試料の測定(例えば、質量分析および/またはトンネル電流測定)を行ってマイクロRNAデータを得て、該マイクロRNAデータを分析するステップは、プログラム格納部1040に格納されたプログラム、または、入力装置1009を介して各種の指令(コマンド)が入力されることで、又は通信I/Fや通信デバイス1011等を介してコマンドを受信することで、この外部記憶装置1005にインストールされたソフトウェアプログラムによって実行することができる。このような分析を行うソフトウェアは、当該分野で公知の任意のソフトウェアを利用することができる。分析が行われたデータは、出力装置1007を通じて出力されるかまたは情報データベース格納部1030等の外部記憶装置1005に格納されてもよい。
【0153】
データベース格納部1030には、これらのデータや計算結果、もしくは通信デバイス1011等を介して取得した情報が随時書き込まれ、更新される。各入力配列セット中の各々の配列、参照データベースの各RNA情報ID等の情報を各マスタテーブルで管理することにより、蓄積対象となる測定データに帰属する情報(測定条件、試料の由来など)を、各マスタテーブルにおいて定義されたIDにより管理することが可能となる。
【0154】
データベース格納部1030には、上記計算結果が、同じ試料から得られた別の核酸情報などの各種情報、生体情報等の既知の情報と関連付けて格納されてもよい。このような関連付けは、ネットワーク(インターネット、イントラネット等)を通じて入手可能なデータをそのまままたはネットワークのリンクとしてなされてもよい。
【0155】
また、プログラム格納部1040に格納されるコンピュータプログラムは、上記した処理システム、例えば、データ提供、トンネル電流測定データの特徴量の抽出、塩基配列および/または修飾状態の同定、参照データとの比較、分類、クラスタリング、その他の処理等を実施するシステムとしてコンピュータを構成するものである。これらの各機能は、それぞれが独立したコンピュータプログラムやそのモジュール、ルーチンなどであり、上記CPU1001によって実行されることでコンピュータを各システムや装置として構成させるものである。
【0156】
(試薬)
一つの局面では、本開示は、マイクロRNAに基づいて対象の状態を判定するためにマイクロRNAを精製するための組成物であって、該対象における少なくとも1種類のマイクロRNAを捕捉するための剤(例えば、試薬、捕捉剤など)を含む、組成物を提供する。一つの実施形態では、捕捉するための剤は目的のマイクロRNAと少なくとも部分的に相補的な核酸を含む。一つの実施形態では、捕捉するための剤は修飾されたRNAを捕捉するための剤(例えば、修飾特異的な抗体など)を含む。一つの実施形態では、捕捉するための剤は修飾された目的のRNAに特異的な分子を含む。一つの実施形態では、捕捉するための手段は、精製するための部分(例えば、磁気を帯びていてもよい担体、相互に結合可能なペアの一方(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジン))を含む。一つの実施形態では、捕捉するための手段は、精製するための部分に連結されたリンカーを含む。
【0157】
(キット)
一つの実施形態では、本開示は、マイクロRNAに基づいて対象の状態を判定するためのキットであって、目的のマイクロRNAを精製するための組成物、および該対象から試料を取得するためのデバイスのうち少なくとも1つと、キットを使用するための説明書とを含む、キットを提供する。一つの実施形態では、キットは、試料からRNAを精製するための手段を含む。
【0158】
一つの実施形態では、キットは、対象から試料を取得するためのデバイスを含む。一つの実施形態では、対象から試料を取得するためのデバイスを含むキットは、試料の送付先が記載された説明書を含む。一つの実施形態では、キットは、採取した試料を凍結保存するための手段を含む。一つの実施形態では、キットは、対象から血液、粘膜表皮(例えば、口腔、鼻腔、耳腔、膣などにおけるもの)、皮膚表皮、生体分泌液(例えば、唾液、鼻水、汗、涙、尿、胆汁など)、糞便、表皮上微生物を取得するためのデバイスを含む。
【0159】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(http://onlinelibrary.wiley.com/book/10.1002/0471142727)およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Fourth Edition)(http://www.molecularcloning.com)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0160】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0161】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0162】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0163】
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0164】
(実施例1)電極対の作製
電極対を、ナノ加工機械的破断接合法(MCBJ)を用いて形成した(Tsutsui,M., Shoji,K., Taniguchi,M., Kawai,T., Formation and self-breaking mechanism of stable atom-sized junctions. Nano Lett. 8, 345-349(2007)参照)。以下に、電極対の作製方法を簡単に説明する。
【0165】
ナノスケールの金の接合を、電子線描画装置(日本電子社製、カタログ番号:JSM6500F)を用いて、標準の電子ビームリソグラフィーおよびリフトオフ技術によって、ポリイミド(Industrial Summit Technology社製、カタログ番号:Pyre-Ml)でコーティングされた可撓性の金属基板(リン青銅基板)上にパターン成形した。
【0166】
次いで、この接合の下にあるポリイミドを、反応性イオンエッチング装置(サムコ社製、カタログ番号:10NR)を用いて、反応性イオンエッチング法に基づくエッチングによって取り除いた。そして、金属基板を折り曲げることによって、3点にて折り曲げられた構造のナノスケールの金のブリッジを作製した。なお、このような基板の折曲げは、ピエゾアクチュエータ(CEDRAT社製、カタログ番号:APA150M)を用いて行った。基板の折曲げを精密に操作することによって、電極対の電極間距離をピコメーター以下の分解能にて制御することができる。
【0167】
その後、上記ブリッジを引っ張り、ブリッジの一部を破断させることによって、電極対(金電極)を形成した。具体的には、データ集録ボード(ナショナルインスツルメンツ社製、カタログ番号:NI PCIe-6321)を用いて、レジスタンスフィードバック法(M.Tsutsui, K.Shoji, M.Taniguchi, T.Kawai, Nano Lett. 8, 345(2008)、およびM.Tsutsui, M.Taniguchi, T.Kawai, Appl. Phys. Lett. 93, 163115(2008)参照)によって、プログラミングされた接合の引延し速度の下で、10kΩの直列の抵抗を用いて、0.1VのDCバイアス電圧(Vb)をこのブリッジに印加して、ブリッジを引っ張り、ブリッジを破断させた。そして、ブリッジをさらに引っ張り、破断によって生じたギャップの大きさ(電極間距離)が目的のヌクレオチド分子の長さ(約1nm)になるように設定した。
【0168】
このように作製した電極対を顕微鏡観察した。
【0169】
(実施例2)合成マイクロRNAのトンネル電流測定
以下のマイクロRNAを合成した。
miR-200c-5p 5'-CGUCUUACCCAGCAGUGUUUGG-3' (配列番号1)
miR-200c-5p 5'-CGUCUUACCCAGCAGUGUUUGG-3' (#7,mA;#13,mC) (配列番号1)
【0170】
これらの合成マイクロRNAを、それぞれMilli-Qに対して最終濃度が0.10μMになるように添加して測定用溶液を作製した。
【0171】
電極対を測定用溶液に浸し、電極対の間に0.4Vの電圧を印加して、電極対の間に生じるトンネル電流を測定した。なお、このとき、電極の間に存在する合成マイクロRNAは、ブラウン運動を行っている(測定用溶液の温度は、約25℃であった)。トンネル電流は、0.4VのDCバイアス電圧の下で、10kHzにて、対数増幅器(Rev. Sci. Instrum. 68(10),3816に記載の設計にしたがい、(株)大和技研にて製作)およびPXI 4071 digital multimeter(National Instruments)を用いて測定した。結果を
図1に示す。
【0172】
(実施例3)合成マイクロRNAの質量分析測定
実施例2で調製した合成マイクロRNAについて質量分析測定を行う。
アセトニトリル:0.1% TFA水溶液=1:1の溶液に3-HPA(3-ヒドロキシピコリン酸)を10mg/mLとなるように添加し、この溶液と10mg/mLのDHC(クエン酸二アンモニウム)水溶液とを1:1の比で混合した混合液1μLをMALDI用マトリクス(塗布剤)としてターゲットプレート(Target Plate MTP Anchor Chip 384(600micrometer)、Bruker Dalotnics)に塗布し乾燥させる。この同じ位置に1μLの精製したRNA水溶液を重層して乾燥させる。完全な乾燥を確認した後、MALDI型質量分析計(ultrafleXtreme-TOF/TOF質量分析計、Bruker Dalotnics社製)にて質量分析を行う。
【0173】
MALDIの装置を以下の通りに設定する。
positive-mode(陽イオン検出モード)
reflector-mode(反射モード)
Laser Power Max(設定可能な最大の出力)
【0174】
(質量分析計による測定結果の分析)
MALDIで得られた測定結果の分析は以下のように行う。
予想される質量のリストを、miRBase(Release 21)(http://www.mirbase.org)から取得したマイクロRNAの配列情報に基づいて作成し、測定で得られたマススペクトログラムと比較してマニュアルで配列および修飾を特定する。
【0175】
(実施例4)試料から取得したマイクロRNAの測定
以下の配列を有する、200c-5pと相補的なDNA(捕捉200c-5p)を合成した。
捕捉200c-5p CCAAACACTGCTGGGTAAGACG (配列番号2)
【0176】
(ストレプトアビジン結合ビーズ)
捕捉200c-5pの5’端のリン酸部分にビオチンを導入した。表面にストレプトアビジンが共有結合している磁気ビーズ(Dynabeads M270 Streptoavidin、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を、上記のビオチン化した捕捉オリゴDNAと混合してアビジン-ビオチン結合を生じさせて、捕捉オリゴDNAを磁気ビーズ上に固定した。
【0177】
(精製プロトコル)
1. 精製RNAに塩類溶液および上記ビオチン化捕捉200c-5pを添加して終濃度10mMリン酸緩衝液(pH7.0)、50mM KClとした。
2. 混合物をPCR装置にセットして、90℃で1分間変性させ、45℃まで徐冷してアニーリングさせた。
3. アビジン磁気ビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin)を添加した。
4. 磁気スタンド上で非吸着画分(上清)を破棄した。
5. 10mMリン酸緩衝液pH7.0、50mM KClを用いて磁気スタンド上でビーズを3回洗浄した。
6. 10mM酢酸アンモニウム(pH7.0)を用いて磁気スタンド上でビーズを3回洗浄した後、RNase free waterを用いて溶出した。
7. 濃度が低い場合には、上清を凍結乾燥した。
【0178】
(試料調製)
上記の捕捉200c-5pを結合させたストレプトアビジン結合ビーズを使用して、試料から200c-5pを濃縮した。濃縮した200c-5pを、Milli-Qに対して最終濃度が0.10μMになるように添加して測定用溶液を作製した。実施例2と同様にトンネル電流測定を行った。実施例2で作製した合成マイクロRNAと比較して、結果を
図2および
図3に示す。
【0179】
(実施例5)構造上の修飾位置の異なるマイクロRNAの同定
構造上の修飾位置の異なるマイクロRNAについてトンネル電流測定を行い修飾を分析する。
【0180】
(実施例6)トンネル電流測定および質量分析測定の組み合わせによるバイオマーカー探索
がん患者由来血清および健常人血清から試料を調製し、トンネル電流測定を行いマイクロRNAの修飾を分析する。健常人に比べて優位にがん患者において修飾が多いマイクロRNAを探索する。
【0181】
(実施例7)トンネル電流測定結果に基づく疾患の判定
以下の配列を有する、let7a-5pまたはmiR17-5pと相補的なDNA(捕捉let7a-5pおよび捕捉miR17-5p)を合成した。
捕捉17-5p CTACCTGCACTGTAAGCACTTTG (配列番号3)
捕捉let7a-5p AACTATACAACCTACTACCTCA (配列番号4)
【0182】
ヒト膵がん患者(ステージIからステージIVの膵がん)、および健常者から体液を採取した。これらの体液試料について、捕捉let7a-5pおよび捕捉miR17-5pを使用して実施例4と同様にストレプトアビジン結合ビーズによりlet7a-5pおよびmiR17-5pを濃縮した。
【0183】
濃縮したlet7a-5pおよびmiR17-5pを、Milli-Qに対して最終濃度が0.10μMになるように添加して測定用溶液を作製した。実施例2と同様にトンネル電流測定を行った。コンダクタンス値の時系列シグナルデータを取得し、これをそれぞれのmiRNA配列に対してアセンブリしてコンダクタンス値のヒストグラムを作成した。モノマーのデータにおいてアデニンの相対コンダクタンス値およびメチル化アデニンのコンダクタンス値は、それぞれ0.7および0.8であるが、核酸配列中では、アデニンおよびメチル化アデニンのコンダクタンス値は、ヒストグラムのピーク位置および形状により、それぞれ0.60~0.8および0.75~0.90の範囲となり得るので、アデニンの位置に対応する各シグナルについて、ガウシアン関数等の確率密度を指標としてアデニンおよびメチル化アデニンのいずれであるかを判定した。この判定結果に基づき、アデニンの数およびメチル化アデニンの数をカウントし、メチル化アデニンの数/(アデニンの数+メチル化アデニンの数)としてメチル化率(量)を計算した。
【0184】
結果を
図6に示す。膵がんの患者と健常者との間でlet7a-5pおよびmiR17-5pの特定の位置(let7a-5p:10位、17位および19位のアデニン、miR17-5p:11位のアデニン)のメチル化率に差が見出された。具体的には、Let7a-5pにおいて、各位置のアデニンの患者別のメチル化率(すい臓患者、健常者)は、それぞれ、3位のアデニンについて(0%、0%)、7位のアデニンについて(0%、0%)、10位のアデニンについて(5.2%、0%)、17位のアデニンについて(13.0%、0%)および19位のアデニンについて(5.2%、0%)であった。これらのマイクロRNAのメチル化率、またはさらに特定の位置のメチル化率の変化(増大)に基づいて膵がんの患者が示され得る。
【0185】
同様に、炎症性腸疾患、クローン病、糖尿病、精神疾患の対象から取得した試料についてトンネル電流測定を行いマイクロRNAの修飾を分析して疾患の判定を行う。
がん患者由来血清および健常人血清から試料を調製し、トンネル電流測定を行いマイクロRNAの修飾を分析して疾患の判定を行う。
【0186】
(実施例8)トンネル電流測定による定量分析
トンネル電流測定によるマイクロRNAの定量分析を実施した。試料として大腸がん細胞株(DLD1)および5-フルオロウラシル(5-FU)またはトリフルリジン(FTD)耐性株を使用した。
【0187】
耐性株は以下の通りに作製した。細胞バンクから入手したがん細胞株DLD-1をトリフルリジンまたは5-フルオロウラシル(Aldrich-Sigma)(約10mg/mL)の存在下で6ヶ月以上維持培養した。維持培養は、プラスチックディッシュ上で血清10%添加DMEM培地において、37℃で、60~80%コンフエント状態を維持するように、週に約2回継代を行った。この培養細胞についてトリフルリジンまたは5-フルオロウラシルに対するIC50を計測した結果、IC50=300μmol/Lという結果が得られ、耐性株の確立が確認された。
【0188】
TRIzol(インビトロジェン)を説明書通りに使用して、各細胞株から全RNAを抽出した。抗m6A抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いた免疫沈降により、全RNAからm6Aを含むRNAを濃縮した。抗m6A抗体濃縮RNAについて、実施例2と同様のトンネル電流測定およびHiseq2000(Illumina、カリフォルニア)による測定を行った。結果を
図7および
図8に示す。通常使用されるシークエンサーによる測定と本開示のトンネル電流測定との間で定量解析結果は高い相関性を示し、本開示のトンネル電流測定は、簡便で信頼性の高い定量分析を可能とすることが示唆される。
【0189】
(注記)
本出願は、2019年4月26日に出願された特願2019-85805号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体が本明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本開示は、トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定する方法、ならびにこの方法に使用するためのシステムおよびプログラムを提供する。トンネル電流を使用してマイクロRNAの塩基配列および/または修飾状態を同定することで、対象の状態(例えば、医学的状態)を分析することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0191】
・配列番号1:天然ヒト200c-5p配列
CGUCUUACCCAGCAGUGUUUGG
・配列番号2:捕捉200c-5p
CCAAACACTGCTGGGTAAGACG
・配列番号3:捕捉17-5p
CTACCTGCACTGTAAGCACTTTG
・配列番号4:捕捉let7a-5p
AACTATACAACCTACTACCTCA
【配列表】