(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】静電保持装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240112BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2019127222
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】10 2018 116 463.7
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ハルム
(72)【発明者】
【氏名】ラース ツィーゲンハーゲン
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-112763(JP,A)
【文献】特表2010-541196(JP,A)
【文献】特表2016-519332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素(1)、特にシリコンウェハの静電保持のために構成された保持装置(100)であって、
前面(12)が前記構成要素(1)のバール支持面に及ぶ複数の突出したバール(11)を有するプレート状の基体(10)と、
前記バール(11)間に間隔を空けて層状に配置され、前記基体(10)と接続されているプラスチックの絶縁層(21)と、電極層(22)および誘電体層(23)とを有し、前記電極層(22)が前記絶縁層(21)と前記誘電体層(23)との間に配置された電極装置(20)と、を備え、
前記誘電体層(23)は形状保持型かつ自己支持型の誘電体ディスク(24)からなり、
所定のギャップ間隔(A)が、前記バール支持面と前記誘電体層(23)の上面との間に設定され、
前記誘電体層(23)は、無機誘電体を含み、少なくとも部分的に前記絶縁層(21)に埋め込まれている保持装置(100)。
【請求項2】
前記バール(11)は前記誘電体層(23)の孔を貫通し、それによって前記誘電体層(23)と前記バール(11)との間に横方向の空間が形成される、
請求項
1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記基体(10)は、前記バール(11)間の間隔に、前記絶縁層(21)の厚さよりも小さい高さを有する凹凸を突き出すことによって決定される、および/または前記基体(10)内の接着促進凹部によって決定される、粗さを有する、
請求項1
または請求項
2に記載の保持装置。
【請求項4】
前記基体(10)は、シリコン浸潤シリコンカーバイトを含み、前記バール(11)間の空間においてその上側に炭素富化を有する、
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項5】
前記バール(11)上および前記バール(11)に隣接する前記絶縁層(21)の縁部(21A)上に配置されている被覆層(15)を更に備えている、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項6】
前記電極層(22)は、接着促進面、特に接着促進剤層(29)を介して前記絶縁層(21)と接続されている、
請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項7】
構成要素(1)、特にシリコンウェハの静電保持のために構成された保持装置(100)の製造方法であって、
前面(12)が前記構成要素(1)のバール支持面に及ぶ複数の突出したバール(11)を有するプレート状の基体(10)を形成する工程と、
前記基体(10)、電極層(22)および誘電体層(23)に接続されたプラスチックの絶縁層(21)が形成され、前記電極層(22)が前記絶縁層(21)と前記誘電体層(23)との間に配置された電極装置(20)が、前記バール(11)間の空間に形成される工程と、を備え、
所定のギャップ間隔(A)が、前記バール支持面と前記誘電体層(23)の上面との間に設定され、
更に、前記電極装置(20)の製造は、
前記バール(11)を受容するように配置された凹部(25、26)を有し、一方の側に前記電極層(22)を有する誘電体ディスク(24)が無機誘電体から形成される工程と、流動性の硬化可能なプラスチックを用いて、前記バール(11)を有する前記基体(10)および/または前記電極層(22)が設けられた前記誘電体ディスク(24)の側面を被覆する工程と、
前記誘電体ディスク(24)を前記基体(10)上に配置して、前記バール(11)が前記誘電体ディスク(24)の前記凹部(25、26)内に突出し、前記電極層(22)を備えた前記誘電体ディスク(24)の側面が前記バール支持面に対して整列し、前記誘電体ディスク(24)が少なくとも部分的に前記プラスチック内に埋め込まれる工程と、
前記プラスチックの硬化により当該プラスチックの前記絶縁層(21)を形成する工程と、
を備えている保持装置(100)の製造方法。
【請求項8】
前記凹部(25)は、前記誘電体ディスク(24)の貫通孔を含み、
前記基体(10)上への前記誘電体ディスク(24)の配置は、前記基体(10)に面した窪んだ支持部(203)を持つ基準面(202)を有する基準工具(200)を用いて行われ、
前記誘電体ディスク(24)が前記基準面(202)に接続され、前記支持部(203)が前記誘電体ディスク(24)の穴(25)により前記バール(11)の上に位置するように、前記基準工具(200)が前記基体(10)上に置かれることによって、前記誘電体ディスク(24)が前記バール支持面に対して位置合わせされる、
請求項
7に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項9】
前記誘電体ディスク(24)は前記誘電体層(23)を形成する、
請求項
8に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項10】
前記凹部(26)は、前記電極層(22)が設けられた前記誘電体ディスク(24)の側面の凹部を含み、前記誘電体ディスク(24)の延長部と平行に伸びる底面(27)を有し、
前記底面(27)を有する前記誘電体ディスク(24)を前記バール(11)上に配置することによって、前記誘電体ディスク(24)は、前記バール支持面に対して位置合わせされ、
前記プラスチックの硬化後、前記バール(11)が露出し、前記ギャップ間隔(A)が形成されるまで前記誘電体ディスク(24)を除去することによって前記誘電体層(23)が形成される、
請求項
7に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項11】
前記底面(27)は、前記誘電体ディスク(24)の延長部と平行に伸びる、平らな前面を有する突起(28)を有し、
前記底面(27)の前記突起(28)を有する前記誘電体ディスク(24)を前記バール(11)上に配置することによって、前記誘電体ディスク(24)は、前記バール支持面に対して位置合わせされる、
請求項
10に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項12】
前記誘電体ディスク(24)は、最初に前記バール(11)を基準にして研磨方法によって、前記バール(11)が露出するまで除去され、その後、前記ギャップ間隔(A)を設定するためにエッチング方法によって除去される、
請求項
10又は
11に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項13】
前記バール(11)に隣接する前記絶縁層(21)の端部(21A)が除去され、前記バール支持面と前記絶縁層(21)の前記端部(21A)の表面との間に間隔が形成される、
請求項
10~請求項
12のいずれか一項に記載の保持装置(100)の製造方法。
【請求項14】
前記バール(11)間の空間に、前記絶縁層(21)の厚さよりも小さい高さを有する凹凸を突出させることによっておよび/または前記基体(10)の接着促進凹部によって決定される粗さを有する、前記基体(10)を形成する工程、
シリコン浸潤シリコンカーバイトからの前記基体(10)の製造と、前記バール(11)間の空間における炭素の富化とを行う工程、
前記バール(11)上に配置される被覆層(15)を形成する工程、
のうち少なくとも1つの工程を有する、
請求項
7~請求項
13のいずれか一項に記載の保持装置(100)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成要素、特に半導体ウェハを静電(静電気)保持するための保持装置に関する。また、本発明は、保持装置の製造方法に関する。本発明の用途は、静電力によって構成要素を保持するための、特に例えばシリコンウェハのような半導体ウェハを保持するための機械または工具を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
静電クランプ装置、静電クランプ(ESC)または静電チャックとも呼ばれる静電保持装置は、一般に、構成要素を受けるための板状の基体と、静電保持力、または面積に応じて静電クランプ圧力を発生させるための電極装置とを有する。基体は、一般に、1つのプレートを含む一体品として、または複数のプレートからの多層形態で構成することができる。基体は突出したバールを有する少なくとも1つの表面に設けられており、その前面はバール支持面に広がっている。バール支持面は、保持構成要素の支持面を規定する。
【0003】
電極装置は複数の電極を含み、これらによって静電クランプ圧力が電圧の印加によって生成される。静電クランプ圧力は、特に、電圧、バール支持面からの電極の間隔、およびこの間隔における材料組成物の誘電特性に依存する。後者は、所定の層厚および比誘電率εr,dを有する電極上の誘電体と、バール支持面とバール間の保持装置の上面との間が誘電率εr,gを有する気体で満たされた空隙(free gap spacing)とを含む。比εr,d /εr,gは典型的には1よりかなり大きいので、静電クランプ圧力は概してギャップ間隔によって実質的に決定される。したがって、高く均一なクランプ圧力を達成するために、保持装置の領域にわたって可能な限り小さくかつ一定であるギャップ間隔が特に重要である。
【0004】
静電クランプには二種類ある。第1の種類では、絶縁体、電極および誘電体は、それらの全領域にわたって層状に重ねて基体上に適用される。この種における基体の材料は個々の層を通って突き出ていないので、クランプ面上のバールは誘電体の材料、一般的には標準感応ガラス(rule sensitive glass)から作られなければならない。第2の種類では、絶縁層は電極および誘電体と共に基体のバール構造の間に挿入される。ガラスよりもかなり硬い材料の場合、例えばシリコン浸潤シリコンカーバイト(SiSiC)が基体に選択され、バールの支持表面の機械的強度が実質的に改善される。
【0005】
基本的に、複雑な多層構造は、高コスト、生産量の制限、製造のやり直しと納期の長さによる高レベルの投入と高コストを伴う、長くほぼ完全な一連のプロセスチェーンをもたらす。バールが柔らかい誘電材料(例えばガラス)からなる場合、それらはセラミックバールよりも低い耐摩耗性を有する。この場合、追加的に適用される耐摩耗性保護層は製造投入量をさらに増加させ、それらは定期的なサイクルで更新される必要がある。
【0006】
静電クランプの前述の第1の種類の装置は、米国特許出願公開第2015/0348816A1号明細書に記載されている。ここでは、電極で被覆された誘電体ディスクがその全域にわたって基体上に接着されている。接着剤は、その接着特性とは別に、基体と電極との間の絶縁体としても機能するように選択される。米国特許出願公開第2015/0348816A1号明細書に記載されている装置の場合、バール支持面は誘電体に導入されている。この装置の場合、全領域にわたる誘電体ディスクの接着は、その結果として接着剤も個々のバールの下に位置することになり、不利な効果をもたらし得る。接着性ポリマーの収縮または老化は、バールのz方向の位置の変化をもたらし、したがってクランプ支持面上の均一性を不利に変えることがある。さらに、米国特許出願公開第2015/0348816A1号明細書には、接着剤が絶縁体と基体との間の不均一性を平準化することが記載されている。しかしながら、それは個々のバールの下に異なる厚さの接着剤層があることをもたらし得、従って個々のバールの圧縮率の変動をもたらし得、同様に装置のその後の操作における支持面の均一性とクランプ圧力の動作に影響を及ぼし得る。
【0007】
電極装置が基体に一体化されておらず、その表面上でバール間(バールベース)に配置されている保持装置は、例えば米国特許出願公開第2009/0079525A1号明細書および米国特許出願公開第2013/0308116A1号明細書に記載されている。この場合、電極装置は、その上面に電極が挿入される下部プラスチック絶縁層と、電極を含む絶縁層上に延在するプラスチックまたはガラスからなる誘電体層と、を有する隣接するバール間の層構造を含む。この構成は、バール間に電極を配置するための提案を表しており、それによって、例えば数千バールなどの、層構造を保持装置上でどのようにして実際の用途のために製造するべきかについては開示されていない。特に不利な点は、バール支持面からの電極の間隔またはギャップ間隔の設定が提供されていないため、静電クランプ圧力が保持装置の領域にわたって変化し得ることである。
【0008】
静電保持装置を製造するために、自己支持型シリコンディスク、シリコンディスク上の電極層および被覆窒化珪素(SiN)誘電体層を有する別個の構成要素として電極装置を提供することが、米国特許第9673079B1号明細書から知られている。シリコンディスクは、基体のバールを受けるための孔を有する。電極装置を基体と接続するために、シリコンディスクが基体上に接着され、それによって、バールが電極装置の孔を通って突出する。この方法では、電極装置の別個の製造および基体との簡単な接続から特別な利点が得られる。しかしながら、例えば、電極装置上のギャップ間隔の変動は、電極装置と基体との間の接着剤結合の厚さ変動に起因して生じ得るため、不利であり得る。さらに、シリコンディスクをできるだけ薄くするか、またはバールの高さをできるだけ大きくする必要があり、これは複雑で時間のかかる処理につながる。
【0009】
米国特許出願公開第2012/0274920A1号明細書には、バール間の空間に薄膜技術を有する電極装置を製造することが提案されている。基体上にはまずバール間に平坦化層が形成され、その上にポリマーまたは酸化珪素(SiOx)ベースの絶縁層、電極層およびポリマーまたは酸化珪素(SiOx)ベースの誘電体層が堆積される。平坦化層は、この技術による電極装置の平坦化を可能にする。しかしながら、この場合も、薄膜堆積の変動のために、ギャップ間隔、ひいては静電クランプ圧力の変動が生じることは不利であり得る。さらに、薄膜は保持装置の使用中に損傷を受けやすい。
【0010】
ギャップ間隔の変動を防止するために、ポリマーベースの絶縁層と、絶縁層上の電極層と、被覆ポリマーベース誘電体層とを用いて、バール間の空間に電極装置を形成することが米国特許出願公開第2018/0047605A1号明細書に提案されている。ギャップ間隔の変動は、硬化前に絶縁体および誘電体層の上面を基準工具でそれぞれ設定することによって排除される。この技術により、ギャップ間隔の変動による保持力の変動が防止される。
【0011】
しかしながら、米国特許出願公開第2018/0047605A1号明細書に記載されている技術の欠点は、連続して実行されなければならない複数の作業ステップから生じる。さらに、絶縁体層および誘電体層の形成のためにポリマーを使用することに起因して、さらに重要な欠点が存在する。高分子プラスチックは、特に半導体ウェハの処理において、静電保持装置の動作条件下では化学的および/または物理的耐性に限界を持っている。望ましくない物質が放出される可能性、および/またはポリマーの老化プロセスが保持装置の耐用寿命を制限する可能性がある。
【0012】
上述の問題は、半導体ウェハを保持するための保持装置に関してだけでなく、例えばガラス板を保持するための保持装置に関してなど、他の用途に関しても生じる。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、従来技術の欠点を回避した、構成要素、特に半導体ウェハの静電保持のための改良された保持装置を提供することである。保持装置は特に、バール支持面に沿ったギャップ間隔の変動を最小化または完全に防止し、高分子プラスチックの使用による不利益を最小化または完全に防止し、および/または単純化された方法によって保持装置を製造する事を可能にする。本発明の目的はさらに、従来の技術の欠点が回避される、静電保持装置の製造方法を提供することである。この方法は特に、保持装置の単純化された製造および/またはバール支持面に沿ったギャップ間隔の確実な設定を可能にすることによって区別される。
【0014】
これらの目的は、独立請求項の特徴を有する静電保持装置および静電保持装置の製造方法によって達成される。本発明の有利な実施形態および用途は、従属請求項から明らかとなる。
【0015】
本発明の第1の概略の態様によれば、前述の目的は、構成要素、特に半導体ウェハ、例えば板状の基体および電極装置を含むシリコンウェハを静電保持するための静電保持装置によって達成される。基体は、1つ以上のプレートから構成され、突出したバールを有する少なくとも1つのプレート表面上に提供される。バールの平らな前面は、共通のバール支持平面に配置されている。保持装置の作動中、保持されるべき構成要素はバールの前面にある。
【0016】
電極装置は、バール間、すなわちバールベース上に空間を空けて層状に配置されている。電極装置は、バールベース上のプラスチック絶縁層、少なくとも1つの電極を有する電極層、および誘電体層を含む。絶縁層は、基体と接続され、電極層を担持する。絶縁層のプラスチックは硬化性プラスチック(特に熱的および/または放射線による方法および/または溶媒による方法により硬化可能)であり、その状態は流動性または硬化状態として設定可能である。誘電体層は絶縁層上の電極層を覆う。保持装置の上面とバールとの間、特に誘電体層の上面(基体と反対側)とバール支持面との間の垂直方向の間隔は、保持装置のギャップ間隔を形成する。すなわち、特に、誘電体層(またはその上に設けられた任意のさらなる層)の最上部の露出面と、基体に面する保持された構成要素の表面との間の間隔である。
【0017】
本発明によれば、誘電体層は無機誘電体から形成される。無機誘電体の使用は複数の利点を有する。第一に、例えばガラスなどの、無機誘電体の誘電性はよく知られている。特に、無アルカリイオンガラスのような誘電体が利用可能である。無アルカリイオンガラスは、電気緩和効果を防止しながら、保持装置の迅速な切り替えおよび再装填を有利に可能にする。さらに、誘電体層はプラスチック絶縁層のカバーを表すので、プラスチックは保持装置の動作中に化学的および/または物理的影響から保護される。例えば米国特許出願公開第2018/0047605A1号明細書の、高分子プラスチックの使用で生じるタイプの不利な点は、防止することができる。
【0018】
さらに、電極装置の誘電体層は少なくとも部分的に絶縁層に埋め込まれている。誘電体層を埋め込むことは、これが厚さ方向に絶縁層内に少なくとも部分的に突き出ることを意味する。埋め込みにより、保持装置のギャップ間隔を絶縁層の厚さとは無関係に形成することが可能になる。誘電体層を絶縁層に少なくとも部分的に埋め込むことによって、正確に設定されたギャップ間隔を有する保持装置の製造が可能になる。
【0019】
本発明による保持装置はさらに以下の利点を有する。特に半導体構成要素の処理において必要とされるクランプ圧力の均一性は、従来技術と比較して改善される。例えば、必須の被加工物の直径の達成可能な全体的および局所的層厚の均一性、ならびにバール面の平面に対する基体の既存の凹凸の平坦化のさらなる必要性に関する従来の薄膜技術などの、固有の制限は解消される。さらに、例えば洗浄媒体に関連して、大気湿度、極紫外線(EUV)放射および局所的な機械的負荷等の、プラスチックの化学的および物理的耐性に関する従来の保持装置の機能上の制限が解消され、クランプ圧力力学を定義する誘電性のより良い定義が達成される。
【0020】
本発明による保持装置の好ましい実施形態によれば、誘電体層は形状保持型の自己支持型誘電体ディスクから形成される。使用される製造方法に応じて、誘電体層は、誘電体ディスクまたは材料除去(薄化)によって形成された誘電体ディスクの層を含む。誘電体層は、一定の厚さを有し、これは好ましくは、バールベース上のバールの高さの少なくとも60%である。例えば、誘電体ディスクの厚さは、50μmから200μmの範囲で選択される。有利には、形状保持型誘電体ディスクを使用することによって、バール支持面に対するその位置合わせ、したがってギャップ間隔の正確な設定が可能になる。
【0021】
誘電体層は孔を有しており、この孔を通して基体のバールが突出している。本発明のさらなる実施形態によれば、誘電体層とバールとの間の横方向の空間を孔に形成することができる。従って、有利には、絶縁層の製造においてプラスチックを受容し、製造公差を受容し、そして誘電体を横方向に整列させるための空間が形成される。
【0022】
本発明による保持装置の基体は、バールベースがバール間の空間内で平らに成形され、特に絶縁体の形成中に不必要で広い空洞は避けられるように、バール支持面に対して平行に伸びるように形成されることが好ましい。特に好ましくは、バールベースは、基体と絶縁層との間の接着を促進する構造を有する。この目的のために、基体は、バール間の空間に、凹凸を有する粗さを有し、その高さは、バールベースの中央レベルを超えて絶縁層の厚さよりかなり小さい。好ましくは、凹凸は絶縁層の厚さの10%より小さい。例えば誘電体層の厚さが40μmの場合、表面から突き出ている突起は4μm未満のバールベースの中央レベルを超える高さを有することが好ましい。代替的に又は付加的に、バールベースは、基体に接着促進凹部(例えば、孔又はスロット)を有することができる。凹部は、絶縁層の厚さよりも深く基体内に伸びることができる。保持装置の製造において、プラスチックは凹部に流れ込みそしてそれを満たすことができるので、基体の真空安定性は凹部によって損なわれない。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、基体、特にそのバールを備えたプレートは、シリコン浸潤シリコンカーバイト(SiSiC)を含む。シリコン浸潤シリコンカーバイトはセラミックであり、その高い形状保持性および温度安定性により、静電保持装置に適用するのに特に有利である。特に好ましくは、基体は、バールベース上に炭素富化を有することができる。有利には、基体と絶縁層のプラスチックとの間の接着性がこのようにして改善される。シリコンカーバイト(SiC)富化は、例えばレーザー照射によるシリコン(Si)除去で達成され得る。
【0024】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、バール上に、バールの前面を覆い、場合によっては絶縁層の端部まで、あるいは、さらには誘電体層の端部まで伸びることができる被覆層を設けることができる。被覆層は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)および/または窒化物化合物からなることが好ましい。有利には、保持装置の摩擦および摩耗特性の改善、部品配置の再現性およびバールへの部品配置の信頼性の向上、および/または、例えば保持装置または洗浄剤の使用における極紫外線照射のような、物理的および/または化学的な環境影響に対しての絶縁層のプラスチックのさらなる保護を可能にする。
【0025】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、電極層が接着促進表面を有し、それによって電極層が絶縁層と接続される場合、電極デバイスの寿命および安定性を改善することができる。接着促進表面は、好ましくは、例えば二酸化珪素(SiO2)または窒化珪素(Si3N4)などの接着促進剤層を含む。その代わりにまたはそれに加えて、接着促進表面は、電極層の前処理、例えば所定の粗さの設定によって提供することができる。電極材料と絶縁層との間の接着促進剤層は、改善された接着性とは別に、さらなる機能を有利に果たす。電極層と基体、例えばシリコン浸潤シリコンカーバイト基体との間には、数千ボルトの電圧が存在し得るため、保持装置の作動中に、プラスチック絶縁層への金属イオンの移動が起こり得る。接着促進剤層は、この移動に対する拡散障壁を形成することができる。
【0026】
本発明の第2の概略の態様によれば、上述の目的は、複数の突出したバールを有する板状の基体を備える静電保持装置の製造方法によって達成され、これの平らな前面は、保持されるべき構成要素、特に半導体ウェハのためのバール支持面に亘っており、電極装置は、バール基体上のプラスチック絶縁層、電極層および誘電体層を有する層状のバール間の空間で製造される。電極層は、絶縁体層と誘電体層との間に配置されている。電極装置は、所定のギャップ間隔がバール支持面と誘電体層の上面との間に設定されるように製造される。好ましくは、本発明の第1の概略の態様による保持装置は、本発明による方法で製造される。
【0027】
本発明によれば、電極装置の製造は以下の工程を含む。最初に、誘電体ディスクが無機誘電体から与えられる。誘電体ディスクは、バールの配置および一方の側に電極層に応じた配置を有する凹部を有する。有利には、誘電体ディスクは、製造前の構成要素として提供されてもよく、または保持装置の製造中に直接製造されてもよい。誘電体ディスクは、好ましくは、機械的に頑丈な形状保持型の自己支持型材料からなる。誘電体として選択される材料は、保持装置の適用中、特に半導体ウェハの処理中に、化学的および物理的に不活性であるものが好ましい。電極層は1つ以上の電極を含む。電極層は任意に予備構造化することができるので、電極層は誘電体ディスクの凹部までは延在しない。任意選択で、各凹部の周りの環状表面部分は、電極層を含まないようにすることができる。
【0028】
本発明によれば、流動性の硬化性プラスチックの層が、バールを備えた基体の表面上および/または電極層を備えた誘電体ディスクの側面上に塗布される。基体および/または誘電体ディスクの表面は、その領域にわたって流動性の硬化性プラスチックで覆われている。
【0029】
その後、本発明によれば、バールが誘電体ディスクの凹部内に突出するように、誘電体ディスクが基体上に配置される。誘電体ディスクは、電極層が基体に面し、誘電体ディスクの側面が基体に面し、かつ電極層を備え、バール支持面に対して整列するように、基体上に配置される。以下にさらに詳細に示すように、位置合わせは、誘電体ディスクが接続された基準工具によって直接バール上に配置されるか、または誘電体ディスク自体の窪んだ支持部によって直接バール上に配置されることによって行われることが好ましい。基体に面し、電極層を担持する誘電体ディスクの面の整列に関して、これは少なくとも部分的にプラスチックに埋め込まれる。誘電体ディスクを配置するとき、プラスチックは、横方向におよび/またはバールを囲む領域内の利用可能な空間内に移動され、それによって誘電体ディスクと基体との間に閉じたプラスチック層が形成される。
【0030】
その後、例えば熱処理および/または照射処理による、電極装置のプラスチック絶縁層形成のための、プラスチックの硬化が行われる。
【0031】
本発明による方法は、バール支持面に対する誘電体ディスクの位置合わせにより、ギャップ間隔の設定が確実に単純化されるという利点を有する。誘電体ディスクの凹部の構成は複数の利点を提供する。第1に、バールの配置と凹部の配置との間の製造関連の偏差は、十分に大きい凹部によって容易に許容され得る。第二に、凹部は、絶縁層の形成中に過剰のプラスチックを受けることを可能にする。
【0032】
本発明による方法は、製造コストが大幅に削減され、納期が大幅に短縮されるという単純化されたプロセスチェーンにより有利に特徴付けられる。有利には、高い耐摩耗性および低い製造および再処理入力を有するセラミック材料のバールを有する基体を使用することができる。製造上の欠陥による再加工コストが大幅に削減される。最後に、無機誘電体層を使用することによって、無機誘電体、特にガラスの有利な特性を、例えば保持力の素早い切り替えなどに、利用することができる。
【0033】
有利には、本発明による方法は、バール支持面に対する誘電体ディスクの位置合わせについて様々な可能性を提供する。第1の態様によれば、誘電体ディスクの位置合わせは基準工具を使用して行われる(以下:本発明の第1の実施形態)。第2の態様によれば、誘電体ディスクは、それが基体のバールに対する位置合わせのためにそれ自体で使用され得るように形作られる(以下:本発明の第2の実施形態)。
【0034】
本発明の第1の実施形態では、誘電体ディスクの凹部はディスク内の孔を含む。孔は、誘電体ディスクを基体上に配置することができるように配置され、それによってバールが孔を通って突出する。誘電体ディスクは基準工具(またはマスターツール)と接続され、それによって誘電体ディスクの基体上への配置およびバールの前面に対する位置合わせが行われる。基準工具は平面基準面を有し、この基準面に誘電体ディスクが固定されている。さらに、基準工具は支持部を有し、その上に基準面が窪められる。支持部は、誘電体ディスクの孔の形状および配置を有する。支持部は、基準面の平面部分であり、それは基準面の残りの部分と平行に整列され、基準面から垂直方向の空間を有する。基準工具は、基準面の均一性および保持装置のギャップ間隔の設定の正確さを決定する窪んだ支持部の深さを有する。基準工具は、例えば超熱低膨張ガラスセラミック(商品名:Zerodur K20)によって提供されるタイプの剛性および温度安定性を有する材料から形成される。誘電体ディスクを基準面から引き続き分離するために、基準面に有利には接着力低減コーティングを施すことができる。
【0035】
本発明の第1の実施形態では、バールが誘電体ディスクの孔を通って突出し、基準工具の支持部に接触するように、誘電体ディスクが基準面と接続され、基準工具が基体上に配置される。言い換えれば、基準工具の支持部は、バールの前面にある。したがって、有利には、誘電体ディスクの基体に面する側、特に基体から離れる側の面は、バール支持面に対して整列されている。誘電体ディスクは、基準工具を用いて、基体の表面と誘電体ディスクとの間で未硬化のプラスチックに押し込まれる。
【0036】
本発明の第1の実施形態の特に好ましい変形例によれば、誘電体層は誘電体ディスク自体によって形成される。ギャップ間隔は、基準工具の基準面に対する支持部の深さによって定義される。有利には、誘電体ディスクの仕上げは不要である。
【0037】
本発明の第2の実施形態では、誘電体ディスクの凹部は貫通孔を形成せず、電極層が設けられた誘電体ディスクの側面に凹部が形成される。凹部は平らな底面を有し、これは誘電体ディスクの延長部と平行に伸びる。
【0038】
凹部の中に突き出ている突起(いわゆるカウンターバール)を底面に設けることができる。カウンターバールを設けることは、プラスチックを受容するために追加の容積が作られるという利点を有する。カウンターバールは、基体のバールよりも大きくても、同じサイズでも、より小さくてもよい。誘電体を機械的に薄くする際のカウンターバールの本質的な機能は、誘電体をバール面に薄くする前であっても、バールの位置に孔をあけることである。したがって、まだ実行されている残りの処理中、すなわちバールレベルに達するまで、穿孔の開口中の材料の破断によって引き起こされる、誘電体の表面上のあらゆる掻き傷を再び除去することが可能である。本発明の第1の実施形態の基準工具の支持部にカウンターバールを設けることもできる。
【0039】
凹部は、誘電体ディスクが基体上に置かれたときに、バールが凹部の中に突き出し、バールの前面が底面または任意に設けられたカウンターバールに接触するように構成される。誘電体ディスクは、底面またはカウンターバールにバールによって支持されている。第2の実施形態では、基体上に配置された誘電体ディスクは、誘電体ディスクがプラスチック内に埋め込まれるように、基体に対して押し付けられる。
【0040】
本発明の第2の実施形態におけるプラスチックの硬化および絶縁層の形成の後、誘電体層を形成するために、誘電体ディスクは研磨法で薄くされる。バールが露出されてギャップ間隔が形成されるまで、誘電体ディスクはその領域にわたって一様にミリングされる。
【0041】
好ましくは、誘電体ディスクの薄化は2段階方法で行われ、第1段階では、例えば研削および/または研磨方法によって、バールの前面が露出するまで誘電体ディスクが除去される。バールは、例えばシリコン浸潤シリコンカーバイトのような誘電体ディスクの誘電体よりも硬い材料で形成されているので、バールは、第1段階における誘電体ディスクの薄化のための基準として使用することができる。その後、第2段階において、ギャップ間隔を設定するためにエッチング方法が適用される。本発明者等は、そのような同質性によって誘電体ディスクのその後の薄化が有利に可能であり、ギャップ間隔を基体の全領域にわたって一定に設定できることを発見した。
【0042】
本発明の第2の実施形態の有利な変形例によれば、誘電体ディスクを薄くして誘電体層を形成した後、バールに当接してバールと誘電体層との間に露出する絶縁層の縁部が除去され、バール支持面と縁部の絶縁層の表面との間に垂直方向の間隔が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明のさらなる詳細および利点は、添付の図面を参照して以下に説明される。
【
図1】本発明に係る静電保持装置の一実施形態の概略断面図である。
【
図2】(A)及び(B)は本発明による方法の第1の実施形態による保持装置の製造の概略図である。
【
図3】(A)~(D)は本発明による方法の第2の実施形態による保持装置の製造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の好ましい実施形態は、シリコンウェハ用の静電保持装置の特徴を例示的に参照しながら、原寸大でなく概略的に以下に説明される。本発明の実施はこの用途に限定されない。例えば金属コーティングを施したガラス板、または露光マスクの保持のような、保持装置の他の用途も考えられ、他の用途では、基体の設計、特にバールの設計、電極装置の材料および寸法は、特定の要件に適合している。実例にかかわらず、基体は単一のプレートを含むか、または複数の部分プレートから多層形態で製造することができる。さらに、半導体ウェハの取扱いにおける保持装置の実際的な用途のために、基体は両側にバールを備え、各場合に電極装置を備えている。保持装置の保持面に沿った電極の具体的な構成の詳細は、従来の保持装置からそれ自体公知であり、保持装置の特定の課題に応じて選択することができるので説明しない。最後に、図面は保持装置の原寸大の実例を示していないが、特に基体のバール間の空間に電極装置を設けることを明確にしている。
【0045】
保持装置の基体の構造は、従来の保持装置からよく知られている方法で選択することができる。保持装置は、例えば単極または双極の保持装置として、構成することができる。保持装置の温度の制御および静電保持力を発生させるための電圧の印加に関する詳細は、従来の保持装置から、それ自体知られているので、記載されていない。
【0046】
図1は、半導体処理における用途のために構成された、本発明による静電保持装置100の好ましい実施形態を概略断面図で示している。保持装置100は、基体10と電極装置20とを備えている。基体10は、第1プレート10Aと第2プレート10Bとから構成されている。第2プレート10Bは温度制御媒体ライン16を含み、それは例えば米国特許第9673079B1号明細書に記載された方法で構成される。特に、基体の構造および保持装置と電圧源との接続に関しては、米国特許第9673079B1号明細書を参照として本明細書に援用する。
【0047】
第1プレート10Aはその上面に突出した上部バール11を有し、その平らな前面12は構成要素1としてのシリコンウェハ1のためのバール支持面に広がる。バール11は、例えば直方体、円柱、角錐、円錐形、角錐台、および/または円錐台の形状を有し、好ましくは100μm~300μmの範囲、特に150μmの高さ、50μm~数mmの範囲の直径および1~数mmの相互間隔を有する。実際的な例では、40、000のバール11が設けられている。バール11間のバールベース13は粗面化されている(
図2(A)参照)。
【0048】
電極装置20は、下部プラスチック層の絶縁層21と、中央電極層22と、絶縁層21内に部分的に埋め込まれて配置されている上部誘電体層23とを有する層構造を備える。プラスチック層の絶縁層21は硬化性プラスチックからなる。好ましくはプラスチックが提供され、それは液体、流動性、または溶媒の供給を通しておよび/または温度設定を通しておよび/または照射、例えば赤外線(IR)照射を通してペースト状、および/または温度誘導重合であってもよく、また、溶媒抽出および/または温度制御および/または照射、例えば紫外線(UV)照射によって固体状態に変換することができる。プラスチックは電気絶縁性であるので、好ましくは、電極層22から基体10への漏洩電流が全くないか又は無視できるほど小さいだけである。更に、プラスチックは、硬化収縮がないか又は用途に無視できるほどの硬化収縮である、および/または水分吸収/放出が全くないか無視できるのが好ましい。絶縁層21用のプラスチックの好ましい例は、米国特許出願公開第2012/0274920A1号明細書にも記載されているベンゾシクロブテン(BCB:benzocyclobutene)、またはプレポリマー化ベンゾシクロブテンである。あるいは、米国特許出願公開第2009/0079525A1号明細書または米国特許出願公開第2013/0308116A1号明細書に記載されている、パリレン(parylenes)、ポリイミド(polyimides)またはポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalates)の群からのプラスチックを使用することができる。電極層22とバールベース13との間の絶縁層21の厚さは、例えば40μmである。
【0049】
電極層22は、導体路を介して電圧源(図示せず)と接続された少なくとも1つの電極を含む。電極層22は、例えば厚さ300nmの、例えば、ポリシリコン、金、クロム、又はアルミニウムで形成される。少なくとも1つの電極の構成は、例えば、局所選択的堆積法(特にマスクを用いた蒸着)および/またはその後のエッチング法を用いて実施される。
【0050】
誘電体層23は、例えば無アルカリガラス(商品名:イーグルXGガラス)のような無アルカリイオンガラスから形成され、50μmから200μmの範囲、特に110μmの厚さを有する。
【0051】
電極装置20の全体の厚さは、例えば5μmから20μmの範囲のギャップ間隔Aが、誘電体層23の上面とバール支持面との間に形成されるように選択される。ギャップ間隔Aは、保持装置100の全領域にわたって一定である。ギャップ間隔Aの設定は、
図2および
図3に示す方法のうちの1つを用いて誘電体層23を絶縁層21に部分的に埋め込むことによって行われる。
【0052】
単一のバールを用いて
図2に概略的に示された本発明による方法の第1の実施形態では、基準工具200がギャップ間隔Aを設定するために使用される。基準工具200は
図2に部分的にしか表されていない。基準体(スタンプ)201の下面には、窪んだ平らな支持部203を有した平面基準面202が設けられている(特に
図2(B)参照)。支持部203は、基準面202に対して平行に配置されている。基準面202に対する支持部203の深さT1は、基体10、特にバール11の形状、電極装置20の厚さおよび所望のギャップ間隔Aに応じて選択される。深さT1は、例えば5μmから20μmである。支持部203は、基体のバール11の幾何学的配置に対応する幾何学的配置を有する。支持部203が形成されている、好ましくは円形の窪みの直径は、好ましくは、バール11の最大直径よりも大きく選択され、例えば100μmから数mmである。
図2に示す第1の実施形態にかかわらず、支持部203は、
図3(A)を参照して以下に説明するように、突出した突起(カウンターバールとして知られる)を中央に設けることが好ましい。
図2には示されていない基準工具200のさらなる構成要素は、基体のための支持プラットフォームと、基準体201を支持プラットフォーム上の基体に向かって基準面202の延長部に対して垂直に移動させるためと、任意選択的な横方向調整のための、並進機構を備えた基準体201のホルダを有する。基準工具200は、標準条件(室温/大気圧)下または炉内、特に真空下での動作のために設計することができる。
【0053】
保持装置100の製造のために、基体と誘電体ディスク24とが最初に製造されるか、または互いに別々に設けられる。基体の製造は、特に突出したバール11を有するセラミックプレート10A(
図1参照)を設けることによって、米国特許出願公開第2016/0354864A1号明細書に従って行われる。バールベース13上で、基体は粗面化され、および/またはシリコンカーバイト(SiC)富化が設けられており、その結果として有利には絶縁層21の接着性が高められる。バール11は、バール支持面に広がる平らな前面12を有する。バール支持面は、バール間でバールベースと平行に伸びる。有利には、バール支持面とバールベースとの間の垂直間隔は、高精度(1~2μmよりも良い)で設定可能である。前面12は表面粗さを有することができる。
【0054】
誘電体ディスク24は、一定の厚さ、例えば110μmの、例えば無アルカリガラス(イーグルXG(商品名)またはショット(Schott)社製AF32(商品名))の形状保持型で自立型ディスクのガラスである。一方の面には、誘電体ディスク24が、接着促進剤層29で被覆することができる電極層22を担持している。電極層22は、例えば、特に100nm~500nmの範囲の厚さのCrまたはAlを有する。接着促進剤層29は、例えば、特に10nm~1μmの範囲の厚さの二酸化珪素(SiO
2)または窒化珪素(Si
3N
4)を有する。誘電体ディスク24は、貫通孔の形態の凹部25を有する。凹部25の配置は、バール11の配置と同じである。凹部25の直径は、例えば100μmから数mmの範囲で、バール11の最大直径よりも大きく選択される。
図2に示すように、凹部25の内面は、バール11の外形に合うように、傾斜させるか、あるいは誘電体ディスク24の延長部に対して垂直に整列させることができる。
【0055】
保持装置100の製造のために、誘電体ディスク24は基準面202と接続される。これに関して、誘電体ディスク24の凹部25は支持部203と整列される。誘電体ディスク24と基準面202の接続は、基準工具200の負圧または静電保持力を使用してまたは圧着によって行われる。基準工具200を保持装置100から取り外すのを容易にするために、非粘着コーティング(図示せず)を基準面202上に設けることができる。
【0056】
準備段階において、誘電体ディスク24を基体10と接続するために、バール11および/または基準工具200上の誘電体ディスク24の下面と、任意選択で支持部203を有する基体10の表面は、例えばベンゾシクロブテンまたは米国特許出願公開第2009/0079525A1号明細書または米国特許出願公開第2013/0308116A1号明細書に記載されているプラスチックのうちの1つのプラスチックで被覆されている。プラスチックは、まず液体状態にあり、例えば溶媒などで設定される。液体プラスチックで被覆した後、誘電体ディスク24を用いて基体10Aおよび/または基準工具200を、結果残りのプラスチック層が固体であるがまだ延性があるように、例えば炉内で、加熱することによって溶媒が除去される。この状態では、両方の嵌合部を互いに対して位置合わせして互いに重ね合わせることができる。
【0057】
その後、基体10と誘電体ディスク24を有する基準工具200とを含む複合体は、例えば真空炉内で、負圧を受ける。複合体内のエアポケットは、負圧の作用によって取り除かれる。
【0058】
その後、負圧が維持されている間に温度が上昇し、その結果プラスチックは液体になる。例えば、温度が約150℃でプラスチックのベンゾシクロブテンは水と同じように液体になる。嵌合部は、基準工具200のおもりまたは並進機構によって互いに押し付けられ(
図2(A))、それによって支持部203は、バール11の前面12に直接位置する。誘電体ディスク24は、プラスチック層に押し込まれ、それによりプラスチックは横方向に移動し、凹部25内に移動する。基準工具200がバール11の前面12に配置され、誘電体ディスク24は基準面202としっかりと接続されているので、ギャップ間隔Aは保持装置の全領域にわたって高精度かつ一定に設定されている。
【0059】
嵌合部をプレスした後、温度を維持または上昇させて、プラスチックを硬化させて絶縁層21を形成する。例えば、250℃~300℃の範囲の温度で重合を引き起こすことができる。バール11と誘電体ディスク24との間の空間内の余分なプラスチックの残りは、例えばエッチングを通して、後で除去することができる。
【0060】
その結果、誘電体ディスク24は電極装置20の完成した誘電体層23を形成する。その後、例えばバール11(
図4参照)上に被覆層15を塗布するなどの、保持装置の表面の仕上げを提供することができる。
【0061】
図3に単一のバールを用いて概略的に示されている本発明による方法の第2の実施形態では、バール支持面に対する誘電体層23の位置合わせは、基準工具なしでギャップ間隔Aを設定して行われる。この場合、後述するように、構造化誘電体ディスク24が基準を形成する。
【0062】
最初に、基体、特に、バール11を有するプレート10A(
図1参照)と、電極層22および接着促進剤層29を有する誘電体ディスク24とが別々の構成要素として設けられる。本発明による方法の第2の実施形態では、誘電体ディスク24が使用され、その凹部26は、電極層22が設けられた誘電体ディスク24の側面上に凹部を含む。凹部の底面27は、好ましくは突起28を有し、それぞれ平らな前面を持つ(「カウンターバール」)。凹部26の配置は、基体10のバール11の配置と同じである。凹部26の直径は、例えば100μmから数mmの範囲で、バール11の最大直径よりも大きく選択される。突起28の前面のサイズ(図示のように)は、バール11の前面12よりも小さくすることができる。この場合、バールと誘電体ディスクとの間の接触面積が最小限に抑えられることが有利である。あるいは、両方の前面が同じサイズを有することができ、あるいは前面12が突起28の前面よりも小さくなることができる。
【0063】
突起28の前面は、誘電体ディスク24の延長部と平行に、特に電極層22が設けられた表面と平行に延びている。深さT2、すなわち誘電体ディスク24の表面の突起28の前面の垂直方向の間隔は、バール11の高さに基づいて決定される。深さT2は特に、突起28がバール11上にあるときに、絶縁層21の形成のための間隔が、電極層22とバールベース13の間に残存するように選択される。例えばレーザーアブレーション(laser ablation)などの、構造化誘電体ディスク24の製造が行われ、深さT2は有利には1μmよりも高い精度で設定可能である。
【0064】
本発明による保持装置を製造するために、準備段階において、バール11を有する基体のプレート10Aの表面上および/または誘電体ディスク24の構造化表面上に、液体プラスチックの層が塗布される。プラスチックは、例えば、第1の実施形態と同様に、液体状態のポリマーベンゾシクロブテンであり、例えば溶媒と共に設定される。溶媒の被覆後、結果残りのプラスチック層が固体であるがまだ延性があるように、例えば炉内で、基体のプレート10Aおよび/または誘電体ディスク24の加熱により、溶媒が除去される。この状態では、両方の嵌合部を互いに対して位置合わせして互いに重ね合わせることができる。
【0065】
その後、基体10Aと誘電体ディスク24とを含む複合体は、例えば真空炉内で、負圧を受ける。複合体内のエアポケットは、負圧の作用によって取り除かれる。
【0066】
その後、負圧が維持されている間に温度が上昇し、その結果プラスチックは液体になる。例えば、温度は約150℃でプラスチックのベンゾシクロブテンは水と同じように液体になる。プラスチックが溶融すると、誘電体ディスク24はバール11の上に浮いて静止する。誘電体ディスク24を横方向、すなわちバール支持面と平行に、正しく整列させるために、横方向の機械的フェンスを基体の縁部(図示せず)に設けることができ、および/または、例えば、光学測定装置を用いた制御ループで、誘電体ディスク24を横方向に位置決めできるように作業装置を備えることが出来る。嵌合部は、おもりまたは並進機構によって互いに押し付けられ(
図3(A))、それによって、突起28は、電極層の平面がバール前面の平面に対して正確に整列するように、バール11の前面12上に直接位置する。誘電体ディスク24はプラスチック層内に押し込まれ、それによってプラスチックは横方向に移動して凹部26内に入る。嵌合部の押圧後に温度が上昇し、その結果プラスチックが硬化して絶縁層21が形成される。
【0067】
その後、ギャップ間隔Aを設定するために、
図3(B)~
図3(D)に概略的に示される仕上げ工程が行われる。最初に、バール11の前面12が露出するまで、誘電体ディスク24の除去が行われる(
図3(B))。この除去は、好ましくは研削および/または研磨のような研磨方法によって行われる。誘電体ディスク24の材料は、バール11の材料よりも柔らかいので、バール11は、誘電体ディスク24の除去中に基準として直接使用することができる。誘電体ディスク24は、バール11の前面12が露出するまで均一に薄くされる。
【0068】
その後、ギャップ間隔Aを設定して誘電体層23を完成するために、誘電体ディスク24の材料の選択的エッチングが行われる(
図3(C))。エッチングは、例えば弗酸(HF)を用いた湿式化学エッチングによって行われる。このために、ギャップ間隔Aは有利には200nm未満の精度で設定可能である。エッチングは誘電体層23の突出したプラスチックには作用しないので、バール11はプラスチック内に横方向に埋め込まれる。
【0069】
最後に、任意選択で、誘電体層23の上面のレベルまで残りのプラスチックを除去することができる(
図3(D))。除去は、例えば機械的作用方法、化学的方法またはレーザー除去による。代替的に、プラスチックを、バール11と誘電体層23との間の空間内でさらに除去することができる(
図2(B)参照)。
【0070】
両側にバールとそれぞれ1つの電極装置とを備えた保持装置の製造は、プレート(例えば10A、
図1参照)が最初に電極装置20を備え、その後に基体10に接続されるようにして行うことができる。
【0071】
あるいは、プレート10Aおよび10Bを互いに接合し、両側をバールで構造化し、その後、電極装置20をそれぞれの側に次々にまたは同時に接合することも可能である。
【0072】
図4は、バール11の前面12上に被覆層15を任意に設けることを概略的に示している。被覆層15は、例えば厚さ1μmのダイヤモンドライクカーボンから成る。好ましくは被覆層15は、前面12上だけでなく、絶縁層21のプラスチックの隣接する縁部21A上にも、誘電体層23まで延在する。有利には、プラスチックの被覆は絶縁層21のさらなる保護を提供する。
【0073】
本発明のさらなる変形によれば、保持装置は、例えば保護機能を満たすように、誘電体層23上に少なくとも1つのさらなる機能層が設けられるように修正することができる。この場合、さらなる層の最上部の露出面は誘電体層の上面と見なされ、これが保持装置のギャップ間隔を決定する。
【0074】
上記の説明、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、その様々な実施形態における本発明の実現のために、個々にも組み合わせまたは部分的組み合わせにおいても重要であり得る。