(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】発泡紙積層体及びその製造方法、発泡紙製容器
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20240112BHJP
C09D 11/102 20140101ALI20240112BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240112BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240112BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240112BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20240112BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240112BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240112BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240112BHJP
B65D 3/06 20060101ALN20240112BHJP
B65D 3/12 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B32B5/18
C09D11/102
B32B27/00 E
B32B27/10
B32B27/40
B32B29/00
B32B7/022
B32B7/027
B65D65/40 D
B65D3/06 B
B65D3/12 Z
(21)【出願番号】P 2020006574
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】羽山 里穂
(72)【発明者】
【氏名】佐井 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】高位 博明
(72)【発明者】
【氏名】西野 嘉貢
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119800(WO,A1)
【文献】特開2016-069081(JP,A)
【文献】特開2019-123810(JP,A)
【文献】特開2017-039896(JP,A)
【文献】特開2018-167864(JP,A)
【文献】特開2011-068381(JP,A)
【文献】特開2018-058955(JP,A)
【文献】特開2019-112583(JP,A)
【文献】特開2017-121956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09D11/102
B65D81/38
B65D65/40
B65D3/06
B65D3/12
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、前記発泡紙の前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有する発泡紙積層体であって、
前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm
2以上であり、
前記印刷層は、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とから形成される硬化物を含み、かつ25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上である、発泡紙積層体。
【請求項2】
前記バインダー樹脂は、伸び率50~4,000%における応力が0.1mPa~50mPaである、請求項1に記載の発泡紙積層体。
【請求項3】
前記バインダー樹脂は、-100~0℃のガラス転移温度を有する、請求項1又は2に記載の発泡紙積層体。
【請求項4】
前記印刷層の膜厚が0.5~5.0μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡紙積層体。
【請求項5】
前記印刷層が、複数の層を有し、最外層が透明層である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡紙積層体。
【請求項6】
前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の厚さが500~950μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡紙積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡紙積層体を具備してなる発泡紙製容器。
【請求項8】
熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、前記発泡紙の前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、前記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm
2以上であり、25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の前記印刷層の残存率が50質量%以上である、発泡紙積層体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂層(A)と、紙基材と、前記熱可塑性樹脂層(A)よりも低い融点を有し、加熱によって発泡する、発泡熱可塑性樹脂層形成層(B
0)とを順次有する、発泡紙材料を準備すること、
1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、水と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とを含む水性インキ組成物を準備すること、
前記発泡紙材料の前記発泡熱可塑性樹脂層形成層(B
0)の表面に、前記水性インキ組成物を塗布して印刷層を形成すること、
前記印刷層を有する前記発泡紙材料を加熱することによって、前記発泡紙材料の前記発泡熱可塑
性樹脂層形成層(B
0)を発泡させ、発泡熱可塑性樹脂層(B)を形成することを含む、発泡紙積層体の製造方法。
【請求項9】
前記印刷層が複数の層を有し、最外層が透明層である、請求項8に記載の発泡紙積層体の製造方法。
【請求項10】
前記発泡熱可塑性樹脂層形成層(B
0)の膜厚が40~150μmである、請求項8又は9に記載の発泡紙積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発泡紙積層体、及びその製造方法に関する。また、本発明の他の実施形態は、上記発泡紙積層体を具備する発泡紙製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡容器は、優れた断熱性を有することから、高温又は低温の液体を含む食品を収容するための容器として広く使用されている。なかでも、容器に収容したラーメン、うどん、及び蕎麦といった即席麺に適量の熱湯を注ぐだけで、数分後に食すことができる、一般的に「カップ麺」と称される製品において発泡容器は欠かせない。カップ麺用の発泡容器として、発泡スチロール製容器、及び発泡紙製容器が知られているが、近年、環境負荷、及び安全性の観点から、発泡紙製容器が注目されている。
【0003】
発泡紙製容器は、紙基材と、容器製造時などの加熱によって発泡し、断熱層を形成する熱可塑性樹脂層とを有する発泡紙材料を用いて製造される。通常、発泡紙製容器(発泡紙材料)の表面には、装飾模様、社名、バーコードなどの印刷パターンを含む印刷層が形成される。そのため、印刷層は、発泡紙材料の熱可塑性樹脂層が加熱によって発泡し断熱層を形成する際に、発泡を妨げることなく、発泡追随性に優れることが望ましい。また、熱可塑性樹脂層が発泡した後の印刷層の表面(印刷面)は、平滑であり、ひび割れ及び火脹れなどがなく、優れた外観を有することが望ましい。さらに、印刷面は、容器製造時に必要となる耐摩擦性及び耐熱性などの各種耐性に優れることが望ましい。
【0004】
従来から、発泡紙製容器の印刷層の形成には、油性グラビアインキ及び油性フレキソインキといった油性インキが用いられている。油性インキは、バインダー樹脂の溶解性及び乾燥性の観点から、通常、トルエンなどの有機溶剤を含む。しかし、近年、環境負荷及び労働安全衛生性などの観点から、有機溶剤の使用に対する規制が厳しくなってきているため、水性インキに対する要望が高まっている。そのため、カップ麺などで使用される食品容器の分野では、水性インキを用いて形成される印刷層を有し、かつ発泡紙製容器の材料として好適に使用できる発泡紙積層体の開発が進められている。
【0005】
例えば、特許文献1は、発泡紙積層体の印刷層を形成するインキとして、バインダー樹脂、顔料、及び水を含み、上記バインダー樹脂がポリウレタン樹脂を含む、発泡カップ用水性フレキソインキを開示している。また、特許文献2は、水性インキの塗装部(印刷層)によって発泡層の発泡を所定の範囲に抑制することを開示している。特許文献2で開示された水性インキは、着色剤、及びバインダー樹脂を含み、上記バインダー樹脂の樹脂固形分中、ガラス転移点が-20℃以上30℃以下のウレタン系樹脂を30質量%以上含有する。さらに、特許文献3は、バインダー樹脂として、アクリル系樹脂、アクリル-ウレタン共重合樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、又はポリウレタン樹脂を含む、水性インキを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-058955号公報
【文献】国際公開第2018/066031号公報
【文献】特開2011-068381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発泡紙製容器の断熱性は、主に、発泡紙積層体において発泡層(断熱層)を構成する熱可塑性樹脂層の発泡性に依存する。しかし、加熱加工時の熱可塑性樹脂層の発泡性が高くなるに従い、熱可塑性樹脂層の上に形成される印刷層の表面において、ひび割れ及び火脹れといった外観不良が起こりやすくなる。そのため、印刷層は、熱可塑性樹脂層の発泡を妨げず、その一方で、ひび割れ及び火脹れといった外観不良を防止できるように、発泡を均一に抑制可能であることが望ましい。
【0008】
しかし、発泡紙積層体の印刷層を形成するために使用される従来の油性インキとの対比において、水性インキを使用した場合は、印刷層において所望とする発泡追随性、耐摩擦性、及び耐熱性を得ることが困難であり、発泡紙積層体の品質が低下しやすい。また、熱可塑性樹脂層の発泡を印刷層によって均一に抑制することは困難である。そのため、ひび割れ及び火脹れといった、熱可塑性樹脂層発泡後の印刷面の外観(以下、発泡外観という)の不良が起こりやすい。さらに、食品分野では、消毒のためにエタノールなどの溶剤が汎用されることから、印刷層の耐エタノール性などの耐薬品性も要求される。
【0009】
しかし、通常、水性インキを用いて形成される印刷層は親水性が高いため、優れた耐エタノール性を得ることは困難である。例えば、特許文献1~3で開示された水性インキを使用して印刷層を形成した場合であっても、食品容器の業界で求められる各種特性を十分に満足できる発泡紙積層体を提供することは困難であり、さらなる改善が望まれている。
【0010】
したがって、本発明の実施形態は、上述の状況に鑑み、水性インキを用いて形成される印刷層を有する発泡紙積層体であり、上記印刷層が、加熱加工時に熱可塑性樹脂層の発泡を妨げることなく発泡追随性に優れ、かつ印刷層の表面が、発泡外観、耐摩擦性、耐熱性、及び耐エタノール性に優れる発泡紙積層体、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、加熱加工時の熱可塑性樹脂層の発泡性と、印刷層による発泡抑制力との関係について鋭意検討を行った。その結果、特定のバインダー樹脂を含む水性インキ組成物を用いて印刷層を形成することによって、熱可塑性樹脂層の発泡性と、発泡外観、耐摩擦性、耐熱性、及び耐エタノール性といった印刷面の特性とにおいて、良好な結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の実施形態に関するが、これらに限定されることなく様々な実施形態を含む。
【0012】
一実施形態は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有する発泡紙積層体であって、
上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm2以上であり、
上記印刷層は、ポリウレタン樹脂を含有するバインダー樹脂を含み、かつ25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上である、発泡紙積層体に関する。
【0013】
上記発泡紙積層体において、上記バインダー樹脂は、伸び率50~4,000%における応力が0.1mPa~50mPaであることが好ましい。上記バインダー樹脂は、-100~0℃のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0014】
上記発泡紙積層体において、上記印刷層は、0.5~5.0μmの膜厚を有することが好ましい。
【0015】
上記発泡紙積層体において、上記印刷層は、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とから形成される硬化物を含むことが好ましい。
【0016】
上記発泡紙積層体において、上記印刷層は複数の層を有し、最外層が透明層であることが好ましい。
【0017】
上記発泡紙積層体において、上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の厚さは500~950μmであることが好ましい。
【0018】
一実施形態は、上記実施形態の発泡紙積層体を具備してなる発泡紙製容器に関する。
【0019】
一実施形態は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の単位面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm2以上であり、25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の上記印刷層の残存率が50質量%以上である、発泡紙積層体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂層(A)と、紙基材と、上記熱可塑性樹脂層(A)よりも低い融点を有し、加熱によって発泡する、発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)とを順次有する、発泡紙材料を準備すること、
ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、水とを含む水性インキ組成物を準備すること、
上記発泡紙材料の上記発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)の表面に、上記水性インキ組成物を塗布して印刷層を形成すること、
上記印刷層を有する上記発泡紙材料を加熱することによって、上記発泡紙材料の上記発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)を発泡させ、発泡熱可塑性樹脂層(B)を形成すること
を含む、発泡紙積層体の製造方法に関する。
【0020】
上記製造方法において、上記水性インキ組成物として、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、水と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とを含む水性インキ組成物を準備することが好ましい。
【0021】
上記製造方法において、上記印刷層は複数の層を有し、最外層は透明層であることが好ましい。
【0022】
上記製造方法において、上記発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)の膜厚は、40~150μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加熱加工時に熱可塑性樹脂層の発泡を妨げることなく発泡追随性に優れ、かつ発泡外観、耐摩擦性、耐熱性、及び耐エタノール性に優れる、印刷層を有する発泡紙積層体、及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記発泡紙積層体を具備してなる発泡紙製容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、一実施形態である発泡紙積層体を具備してなる発泡紙製容器の構造例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した発泡紙製容器の一部(参照符号I部)を拡大して示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、様々な実施形態を含む。
【0026】
<1>発泡紙積層体
一実施形態は、発泡紙積層体に関する。発泡紙積層体は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡熱可塑性樹脂層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の上記発泡熱可塑性樹脂層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、上記発泡熱可塑性樹脂層(B)は、単位表面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm2以上であり、上記印刷層は、ポリウレタン樹脂を含有するバインダー樹脂を含み、かつ25℃のエタノール中に、30分間浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上であることを特徴とする。
【0027】
上記発泡熱可塑性樹脂層(B)(以下、発泡層(B)ともいう)の単位表面積あたりの発泡セル数は、数が多いほど発泡層(B)に存在する気泡が小さく、数が少ないほど発泡層(B)に存在する気泡が大きいことを意味する。発泡層(B)に存在する気泡が大きくなると、印刷面のひび割れ、及び火脹れといった外観不良が起こりやすくなる。
【0028】
一実施形態において、発泡層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数は、1000個/1cm2以上であることが好ましく、1250個/1cm2以上であることがより好ましい。発泡セル数が上記範囲である場合、発泡層(B)上に形成された印刷層において、ひび割れ及び火脹れのない優れた発泡外観を容易に得ることができる。一方、発泡セル数の上限は特に限定されない。一実施形態において、製造条件などの観点から、上記発泡セル数は1600個/1cm2以下であってよい。
【0029】
ここで、「単位面積あたりの発泡セル数」とは、発泡層(B)の表面において、縦横(X-Y)方向に一定の長さで区画される範囲内に存在する独立セル(気泡)の数をカウントし、1cm2あたりの独立セル数として算出される値を意味する。独立セル数は、発泡紙積層体の印刷層を溶剤で除去し、発泡層(B)の表面を露出させた後に、光学顕微鏡を用いて発泡層(B)の表面を観察することによって決定される。
【0030】
発泡層(B)の厚さは、断熱性の観点から、500μm以上であることが好ましく、630μm以上であることがより好ましい。発泡層(B)の厚みが500μm以上であれば、発泡紙積層体をカップ状の容器に成形し、その容器内に100℃程度の熱水を注いだ場合にも、容器を素手で継続的に保持することが容易となる。一方、省資源化の観点から、樹脂の使用量は、できる限り少ない方が好ましい。また、断熱性の観点からは、断熱層として過剰品質となるほどの厚みは必要ない。したがって、発泡層(B)の厚さは、950μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μmであることが極めて好ましい。
【0031】
上述の観点から、一実施形態において、上記発泡層(B)の厚さは、500~950μmが好ましく、500~900μmがより好ましく、500~800μmがさらに好ましい。発泡層(B)の厚さは、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察し、紙基材の上面から、印刷層の下面までの高さを測定することによって決定される。
【0032】
上記実施形態の発泡紙積層体において、発泡紙の発泡層(B)は、加熱によって熱可塑性樹脂層が発泡した後の状態を意味する。すなわち、発泡層(B)は、前駆体となる未発泡の熱可塑性樹脂層(発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0))を加熱し、発泡させることによって形成される。一実施形態において、上記発泡紙積層体を構成するために、熱可塑性樹脂層(A)と、紙基材と、上記熱可塑性樹脂層(A)よりも低い融点を有し、加熱処理によって発泡する、発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)とを順次有する発泡紙材料(加熱前発泡紙)を使用することができる。発泡紙材料は当技術分野で公知の材料から構成することができる。以下、発泡紙積層体の構成材料について具体的に説明する。
【0033】
(紙基材)
発泡紙積層体を構成する紙基材は、特に限定されない。例えば、クラフト紙、又は上質紙を使用することができる。容器として使用する時に十分な強靭さを実現する観点から、紙基材の坪量は、150~450g/m2であることが好ましく、250~400g/m2であることがより好ましい。また、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂の好適な発泡性を得る観点から、紙基材に含まれる水分量は4~10質量%が好ましく、5~8質量%がより好ましい。
【0034】
(熱可塑性樹脂層、発泡層形成層)
一実施形態において、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡熱可塑性樹脂層形成層(B0)(以下、発泡層形成層(B0)ともいう)は、それぞれ、従来から容器材料として周知の樹脂材料からなるフィルムであってよい。例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレンなどの延伸及び無延伸ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、セロファン、及びビニロンからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなるフィルム(熱可塑性樹脂フィルム)を使用することができる。一実施形態において、ラミネート適性及び発泡性に優れることから、ポリエチレンフィルムを好適に使用することができる。
【0035】
発泡紙材料は、互いに融点が異なる熱可塑性樹脂フィルムを、それぞれ紙基材にラミネートすることによって構成することができる。ここで、熱可塑性樹脂層(A)として紙基材の一面に設けられる熱可塑性樹脂フィルムよりも、発泡層形成層(B0)として紙基材の他面に設けられる熱可塑性樹脂フィルムの融点(Mp)が低くなるように材料を選択する。発泡紙材料では、加熱処理時に紙基材中の水分が蒸発し、その蒸発した水分が、軟化状態になった発泡層形成層(B0)(低Mp樹脂フィルム)側に押し出される。そして、そのような押し出しに伴って上記低Mp樹脂フィルムが外側に向かって膨み(発泡し)、発泡層(B)が形成される。このようにして形成される発泡層(B)は、容器において断熱層として機能する。一方、熱可塑性樹脂層(A)(高Mp樹脂フィルム)については、低Mp樹脂フィルムが加熱処理によって発泡する時に、溶融又は軟化しない材料を選択する。
【0036】
発泡紙積層体を使用して発泡紙製容器を製造する観点から、発泡紙材料は、例えば、紙基材の一面(容器の内側)に約125℃~140℃の融点を有する高Mpポリエチレンフィルム(熱可塑性樹脂層(A))、及び上記紙基材の他面(容器の外側)に約105℃~120℃の融点を有する低Mpポリエチレンフィルム(発泡層形成層(B0))をそれぞれラミネートした構造を有してよい。発泡紙製容器の製造時などの加熱によって、低Mpポリエチレンフィルムが発泡して発泡層を形成する。一方、高Mpポリエチレンフィルムは、被覆層として機能することが好ましい。すなわち、被覆層は、低Mpポリエチレンフィルムの発泡中に、紙基材中の水分が外部に蒸散することを抑制し、紙基材中の水分を効率よく発泡に寄与させることが可能である。
【0037】
一実施形態において、発泡層形成層(B0)の材料は、ポリエチレン樹脂のなかでも、低密度ポリエチレン樹脂(密度910~925kg/m3、融点105~120℃)を含むことが好ましい。低密度ポリエチレン樹脂の密度は、より好ましくは910~922kg/m3であり、さらに好ましくは910~918kg/m3である。発泡層形成層(B0)の材料として、中密度ポリエチレン樹脂(密度925~940kg/m3、融点115~130℃)、及び高密度ポリエチレン樹脂(密度940~970kg/m3、融点125~140℃)を使用した場合、融点が高く、十分な発泡性を得ることが困難となる傾向がある。また、均一に発泡した層を得る観点から、ポリエチレン樹脂のメルトフローレート(以下、「MFR」という)は、8~28g/10分であることが好ましく、10~20g/10分であることがより好ましい。
【0038】
特に限定するものではないが、一実施形態において発泡層形成層(B0)の膜厚は、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましい。膜厚を40μm以上に調整することによって、加熱処理後に十分な断熱性を得ることができる。
【0039】
一方、省資源化の観点から、樹脂の使用量は、できる限り少ない方が好ましい。また、断熱性の観点においても、過剰品質となるほどの厚さは必要ない。したがって、発泡層形成層(B0)の膜厚は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが極めて好ましい。
【0040】
(印刷層)
上記実施形態の発泡紙積層体において、印刷層は、発泡紙材料の発泡層形成層(B0)の表面に水性インキ組成物を塗布して得られる塗膜である。印刷層を構成する塗膜の主成分は、水性インキ組成物中のバインダー樹脂であり、バインダー樹脂は少なくともポリウレタン樹脂を含有することが好ましい。
【0041】
印刷層が、バインダー樹脂として少なくともポリウレタン樹脂を含むことによって、発泡層形成層(B0)が加熱によって発泡して発泡層(B)を形成する時に、発泡を妨げることなく、優れた発泡追随性を容易に得ることができる。また、発泡層形成層(B0)の発泡性を適切に抑制することができ、上述した発泡層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数を容易に得ることができる。これらのことから、ポリウレタン樹脂の使用によって、優れた発泡外観が得られ、さらに、印刷層の優れた耐摩擦性及び耐熱性を容易に得ることもできる。
【0042】
一実施形態において、印刷層(乾燥後の塗膜)の厚さは、印刷層による発泡抑制力、及び耐摩擦性の観点から、0.5~5.0μmであることが好ましい。印刷層の厚さは、より好ましくは0.5~4.0μmであってよく、さらに好ましくは0.5~3.5μmであってよい。
【0043】
印刷層は、耐エタノール性の観点から、25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上であることが好ましい。上記印刷層の残存率が50質量%以上であれば、食品容器の製造工程などにおいて、消毒及び洗浄などのためにエタノールが使用された場合でも、印刷が不鮮明になるなどの不具合を抑制し、印刷層を良好に維持することができる。食品容器での用途を考慮すると、25℃のエタノール中に、30分間浸漬した後の印刷層の残存率は、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
本明細書に記載する印刷層の残存率は、エタノールへの浸漬条件の厳密な調整を必要とするものではない。すなわち、温度、及び浸漬時間などの条件は多少変更されてもよい。例えば、「30分間浸漬」とは、印刷層が概ね30分間エタノールに浸漬されていればよいことを意味する。そのため、例えば、浸漬前後の操作、及び後処理などによって、浸漬時間が5分~10分延長されてもよい。浸漬前後の操作として、例えば、撹拌工程を設けてもよい。撹拌条件は、50~150rpmであることが好ましい。
【0045】
一般的に水性インキ組成物を構成する場合、印刷適性の観点からバインダー樹脂の親水性を高めることが好ましい。しかし、バインダー樹脂の親水性を高めると、印刷層の耐エタノール性が低下しやすくなる。これに対し、バインダー樹脂として使用するポリウレタン樹脂の構造及び物性を調整することによって、上述のように、発泡追随性、発泡抑制力、耐摩擦性、及び耐熱性といった所望とする特性に加えて、所望とする耐エタノール性を実現することが可能となる。以下、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂を含む水性インキ組成物の具体的な実施形態について説明する。
【0046】
<2>水性インキ組成物
一実施形態は、上記実施形態の発泡紙積層体の印刷層を形成するために好適に使用できる水性インキ組成物に関する。水性インキ組成物は、バインダー樹脂及び水を含み、顔料などの着色剤をさらに含んでもよい。水性インキ組成物は、上記成分に加えて、必要に応じて、各種添加剤をさらに含んでもよい。以下、水性インキ組成物の構成について説明する。
【0047】
(バインダー樹脂)
発泡層(B)を形成する加熱加工時に、印刷層は、発泡層形成層(B0)の発泡を阻害せず、発泡追随性に優れることが好ましい。その一方で、印刷面のひび割れ及び火膨れといった発泡外観不良を抑制するためには、発泡層形成層(B0)の発泡を印刷層によって適切に制御できることが好ましい。これに対し、バインダー樹脂は、印刷層(塗膜)の主成分となるため、適切なバインダー樹脂を選択することによって、印刷層の発泡追随性と発泡抑制力とを良好に調整することができる。
【0048】
一実施形態において、印刷層を形成する水性インキ組成物におけるバインダー樹脂は、発泡追随性の観点から、50~4,000%の伸び率を有することが好ましい。一方、バインダー樹脂の伸び率が50~4,000%であっても応力が小さすぎると、印刷層が発泡に追随する一方で、発泡を適切に制御できずに、ひび割れ及び火膨れが発生し発泡外観が低下しやすくなる。したがって、発泡追随性と印刷面の発泡外観とを両立する観点から、バインダー樹脂は、伸び率が50~4,000%であり、かつ応力が0.1mPa以上であることが好ましい。
【0049】
なお、本明細書において記載する用語「伸び率」は、厚さ0.3mm、幅15mmの寸法を有するサンプルについて、インテスコ社製の小型引張り試験機を用いて、引張り速度100mm/分、室温25℃において測定して得られる値を意味する。
【0050】
一実施形態において、バインダー樹脂は、伸び率50~4,000%における応力が0.1mPa以上であることが好ましく、1mPa以上であることがより好ましく、5mPa以上であることがさらに好ましい。一方、伸び率50~4,000%における応力は、50mPa以下であることが好ましく、40mPa以下であることがより好ましく、30mPa以下であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の伸び率50~4,000%における応力は、0.1mPa~50mPaであればよい。
【0051】
バインダー樹脂が上記範囲の伸び率及び応力を有する場合、発泡追随性に加え、発泡外観についても良好な結果を得ることが容易となる。また、上記範囲の伸び率及び応力を有するバインダー樹脂は、所望とする印刷層の残存率を得ることが容易であるため、耐エタノール性を高める観点からも好ましい。
【0052】
一実施形態において、バインダー樹脂は、-100℃~0℃のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。バインダー樹脂のTgは、より好ましくは-10℃以下であってよく、さらに好ましくは-25℃以下であってよい。バインダー樹脂のTgが上記範囲内である場合、発泡紙材料の加熱処理時に優れた発泡追随性が得られ、及び断熱性の低下を抑制することができる。また、印刷面のひび割れ及び火脹れといった発泡外観不良を抑制することができる。Tgは-100℃以上であればよく、-90℃以上であることが好ましく、-80℃以上であることがより好ましい。Tgが上記範囲内のバインダー樹脂は、所望とする印刷層の残存率を得ることが容易であるため、耐エタノール性の観点でも好ましい。
【0053】
上述のように、発泡時の印刷層の発泡追随性など観点から、バインダー樹脂は、少なくともポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン樹脂を使用した場合、耐光性、耐熱性、耐摩擦性、及び耐ブロッキング性などの各種耐性に優れ、さらに印刷時に基材となる低Mp樹脂フィルム(発泡層形成層(B0))に対する接着性に優れる印刷層を形成可能な水性インキ組成物を容易に構成することができる。また、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂を使用することによって、水性インキ組成物を熱又は光が加わる環境下に長期にわたって保存した場合にも、印刷層の耐摩擦性、耐ブロッキング性、及び基材となる低Mp樹脂フィルムに対する接着性といった各種特性において良好な結果を得ることもできる。
【0054】
バインダー樹脂として、ポリウレタン樹脂以外にも従来から周知の樹脂を使用することができる。上記範囲の伸び率及び応力、並びにTgを有する各種樹脂を使用することによって、優れた印刷特性を容易に得ることができる。バインダー樹脂の伸び率及び応力の制御は、種々の樹脂の組合せ、樹脂合成時の分子量の制御、モノマーのTg変更、及び架橋密度の調整などによって達成することができる。このような観点から、ポリウレタン樹脂以外にバインダー樹脂として使用可能な樹脂の一例として、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、及びスチレン-マレイン酸共重合樹脂などが挙げられる。
【0055】
一実施形態において、バインダー樹脂における樹脂成分の全質量を基準として、ポリウレタン樹脂の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。一実施形態において、バインダー樹脂はポリウレタン樹脂のみから構成されてもよい。
【0056】
本明細書において使用する用語「ポリウレタン樹脂」は、従来から当技術分野で使用される一般的なポリウレタン樹脂又はポリウレタンウレア樹脂などの変性ポリウレタン樹脂を含む広義のポリウレタン樹脂を意味する。また、本明細書において使用するポリウレタン樹脂は、その製造方法によって、特に限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂に関する公知又は周知の方法を適用して得られる様々なポリウレタン樹脂であってよい。以下、バインダー樹脂として好適に使用できるポリウレタン樹脂についてより具体的に説明する。
【0057】
(ポリウレタン樹脂)
特に限定するものではないが、ポリウレタン樹脂の好ましい一実施形態として、少なくともポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂が挙げられる。また、他の実施形態として、ポリウレタン樹脂のプレポリマーをアミン化合物によって鎖延長して得られる、ポリウレタンウレア樹脂が挙げられる。
【0058】
一実施形態において、バインダー樹脂として使用するポリウレタン樹脂は、水性インキ組成物を調製する観点から、水性ポリウレタン樹脂(水性化ポリウレタン樹脂ともいう)であることが好ましい。本明細書で記載する「水性ポリウレタン樹脂」とは、ポリウレタン樹脂が、水又は水溶性溶剤に溶解可能であるか、又は容易に分散可能であることを意味する。すなわち、一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、酸価(酸性官能基)を有し、酸性官能基が中和又は修飾されることによって、「水溶性」及び「エマルジョン」のいずれかの形態を取り得ることが好ましい。酸性官能基は、カルボキシル基、及びスルホン酸基などであってよいが、カルボキシル基が好ましい。特に限定するものではないが、バインダー樹脂として使用するポリウレタン樹脂は水溶性であることが好ましい。
【0059】
一方、通常、水性インキ組成物を構成するために水性ポリウレタン樹脂を使用した場合、食品容器での使用を考慮すると、印刷層において十分な耐エタノール性を得ることが難しい傾向にある。そのため、所望とする耐エタノール性を印刷層に付与する観点から、バインダー樹脂として使用するポリウレタン樹脂は、エタノールに溶解し難い構造、又は物性を有することが好ましい。特に限定するものではないが、以下に記載する方法によって、印刷面の耐エタノール性を容易に向上させることができる。
【0060】
例えば、ポリウレタン樹脂の主構成成分であるポリオールとして、エタノールに溶解し難い構造を有するポリオールを選択する方法がある。この方法では、ポリオールとして、ポリカーボネートジオール、及びポリエステルポリオールの少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0061】
また、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量を大きくする方法が挙げられる。一実施形態において、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が20,000よりも大きい場合、耐エタノール性を容易に高めることができる。但し、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が20,000以下の場合でも、例えば、硬化剤を併用することによって、優れた耐エタノール性を容易に得ることができる。
【0062】
また、ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)を高める方法が挙げられる。ポリウレタン樹脂のTgの好ましい範囲は、先にバインダー樹脂の特性として記載したように、-100℃~0℃であってよい。一実施形態において、耐エタノール性の観点から、ポリウレタン樹脂のTgは、-80℃以上であることが好ましく、-70℃以上であることがより好ましく、-60℃以上であることがより好ましい。一方、ポリウレタン樹脂のTgは、-10℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましい。
【0063】
また、ポリウレタン樹脂の固さ(伸び率及び応力)を調整する方法が挙げられる。これに付随して、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合濃度、又はウレア結合濃度を調節する方法も考えられる。なお、ポリウレタン樹脂の伸び率及び応力の好ましい範囲は、先にバインダー樹脂の特性として記載したように、伸び率50~4,000%における応力が0.1mPa以上であってよい。一実施形態において、耐エタノール性の観点から、ポリウレタン樹脂の伸び率は、100~2500%であることが好ましく、300~1500%であることがより好ましく、300~1200%であることがさら好ましい。応力は、1~40mPaであることが好ましく、3~30mPaであることがより好ましく、5~25mPaであることがさらに好ましい。
【0064】
上述の方法のいずれか1つ、又は複数の方法の組合せを適用して構成したポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として使用することによって、25℃のエタノールに30分間浸漬した後の残存率が50質量%以上である印刷層を容易に構成することができる。
【0065】
以下、ポリウレタン樹脂の原料及び製造方法について説明する。
(ポリオール)
ポリウレタン樹脂を製造するために、各種ポリオールを使用することができる。例えば、以下に示す各種ポリオールを好適に使用することができる。以下に示す各種ポリオールは、単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
(1)酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体又は共重合体などのポリエーテルポリオール類;
(2)エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、メチルノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの飽和及び不飽和の低分子グリコール類と、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル類、バーサティック酸グリシジルエステルなどのモノカルボン酸グリシジルエステルと、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの二塩基酸もしくはこれらの無水物とを脱水縮合せしめて得られるポリエステルポリオール類;
(3)その他ポリカーボネートジオール類、ポリブタジエングリコール類、ビスフェノールA酸化エチレン又は酸化プロピレンを付加して得られるグリコール類;
(4)ダイマージオール類。
【0066】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも一種のポリオールを原料とすることが好ましく、これら原料に由来する構成単位を有していることが好ましい。ポリオールとして、ポリエーテルポリオール、及び/又はポリエステルポリオールを使用することがより好ましい。すなわち、一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル/ポリエステルポリウレタン樹脂であってよい。
【0067】
ポリエーテルポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールより選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリエチレングリコールを含むことがより好ましい。
ポリエステルポリオールは、低分子ジオールと二塩基酸との縮合物であるポリエステルポリオールを含むことが好ましい。低分子ジオールとしては、分岐ジオールであることが好ましい。「分岐ジオール」とは、アルキレングリコールの有するアルキレン基のうち、少なくとも1つの水素原子が水素原子以外の基に置換されたものを意味する。置換基としては炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0068】
一実施形態において、上記(2)として例示したポリエステルポリオールを使用して、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を構成する場合、ポリオール配合量の5モル%までをその他の各種ポリオールに置換することができる。その他の各種ポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、及びペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0069】
上記ポリオールの構造、及び数平均分子量は、反応生成物として得られるポリウレタン樹脂の耐エタノール性、乾燥性、並びに伸び率及び応力などの特性を考慮して適宜決定される。特に限定するものではないが、通常、ポリオールの数平均分子量は、500~10,000の範囲が好ましく、500~6,000の範囲がより好ましい。
【0070】
(ポリイソシアネート)
ポリウレタン樹脂の製造に使用できるポリイソシアネートは、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。具体例として、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネートは、各種ジイソシアネートが3量体となって形成されるイソシアヌレート環構造を有する化合物であってもよい。
【0071】
芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0072】
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0073】
脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加された4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネートなどが挙げられる。
【0074】
上述のポリイソシアネートの中でも、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネートの3量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。ポリイソシアネートは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0075】
(ジヒドロキシ酸)
ポリウレタン樹脂の製造において、ポリオール及びポリイソシアネートに加えて、ジヒドロキシ酸を使用した場合は、ジヒドロキシ酸由来の酸性官能基(カルボキシル基)が導入され、酸価を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。酸価を有するポリウレタン樹脂は、水性化が容易であることから、水性インキ組成物を構成するための水性ポリウレタン樹脂として好適に使用することができる。
【0076】
ジヒドロキシ酸は、分子内に、2個のヒドロキシ基と、酸性基とを有する化合物であればよい。周知のカルボキシル基を含有するジオール化合物を好適に使用することができる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸などのジメチロールアルカン酸が挙げられ、これらを好適に使用することができる。これらは、単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0077】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂としてポリウレタンウレア樹脂を製造する場合、イソシアネート基/水酸基のモル当量比を1.2/1~3/1の範囲内にすることが望ましい。他の実施形態において、ウレア結合を含まないポリウレタン樹脂を製造する場合は、イソシアネート基/水酸基のモル当量比を0.5/1~0.98/1の範囲内にすることが望ましい。上記モル当量比の範囲で原料を配合した場合、ポリウレタン樹脂の伸び率及び応力、並びに耐エタノール性を制御することが容易となる。ポリウレタン樹脂の製造におけるポリウレタン化反応は、通常、80℃~200℃の範囲、好ましくは90℃~150℃の範囲の反応温度で実施される。
【0078】
ポリウレタン化反応は、溶剤中で実施しても、又は無溶剤雰囲気下で実施してもよい。溶剤を使用する場合は、反応温度及び粘度、副反応を制御する観点から、後に例示する溶剤を適宜選択することができる。また、ポリウレタン化反応を無溶剤雰囲気下で行う場合は、均一なポリウレタン樹脂を得るために、十分な撹拌ができる程度に温度を上げ(加熱し)、粘度を下げて実施することが望ましい。ポリウレタン化反応の反応時間は、10分~5時間とすることが望ましい。反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピークの確認、滴定によるNCO%測定などの方法によって判断することができる。
【0079】
一実施形態において、好適に使用できるポリウレタンウレア樹脂は、先に例示したポリオールと有機ジイソシアネートとを反応させて末端にイソシアネート基を有するポリウレタン樹脂のプレポリマーを合成し、その後に、鎖延長剤及び反応停止剤としてアミン化合物を使用し、上記ポリウレタン樹脂のプレポリマー中に尿素結合を導入することによって得られる樹脂である。ポリウレタン樹脂の中でも、上記ポリウレタンウレア樹脂を使用した場合、水性インキ組成物を用いてなる塗膜(印刷面)の各種特性をさらに高めることができる。
【0080】
(鎖延長剤)
尿素結合を導入するために使用できる上記鎖延長剤の一例として、各種公知のポリアミンが挙げられる。ポリアミンとは、分子内に複数のアミノ基を有する化合物を意味する。
ポリアミンの具体例として、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンが挙げられる。その他の具体例として、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなどの分子内に水酸基を有するジアミン類、及びダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミンが挙げられる。
【0081】
(反応停止剤)
ポリアミンと併用して反応停止剤を使用することもできる。反応停止剤としては、例えば、ジ-n-ジブチルアミンなどのジアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、N-ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなどの水酸基を有するアミン類、さらにグリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、バリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸などのモノアミン型アミノ酸類が挙げられる。
【0082】
ポリウレタン樹脂のプレポリマー中に尿素結合を導入する場合、その製造方法は、特に限定されない。例えば、上記プレポリマーの両末端に存在する遊離イソシアネート基の数を1とした場合、使用する鎖延長剤、及び反応停止剤におけるアミノ基の合計数を0.5~1.3の範囲内とすることが好ましい。
【0083】
ポリウレタン樹脂、及びポリウレタンウレア樹脂の各製造で使用する溶剤は、通常、印刷層を形成するインキ用溶剤として使用できる周知の化合物であってよい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの非芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0084】
製造時に、上記ケトン系溶剤を使用した場合には、ケトンと、鎖延長剤として使用したアミンとの間でケチミンが生じ、反応が円滑に進行することを阻害することになる。そのため、ケチミンの発生を抑え、反応を円滑に進行させるために、少量の水を併用することが望ましい。合成反応において有機溶剤を使用する場合、ポリウレタン樹脂の水溶液を調製するために、減圧留去によって有機溶剤を除き、水に置換する工程を設けることが好ましい。
【0085】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、中和によって容易に水性化できることから、酸価を有するポリウレタン樹脂であることが好ましい。一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、1~100mgKOH/gの酸価を有することが好ましい。酸価は、10~70mgKOH/gであることがより好ましく、20~60mgKOH/gであることがさらに好ましい。特に限定するものではないが、ポリウレタン樹脂の水酸基価は、1~20mgKOH/gであることが好ましい。ここで、酸価、及び水酸基価の値は、JISK0070(1992)に記載の方法による測定値である。
【0086】
(中和剤)
酸価を有するポリウレタン樹脂を中和によって水性化するために、種々の中和剤を使用することができる。例えば、ポリウレタン樹脂におけるカルボキシル基を中和するために塩基性化合物を使用することができる。
中和剤として使用できる塩基性化合物の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、及びモルホリンなどが挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。印刷物の耐水性、及び残留臭気などの点から、アンモニアが好ましい。
【0087】
水性ポリウレタン樹脂の製造は、従来から公知又は周知の方法を適用して実施することができ、特に制限されない。例えば、特開2013-234214号公報、特開2013-249401号公報、特開2015-67818号公報、及び特開2018-184512号公報に記載の水性ポリウレタン樹脂の製造方法を参照することができる。
【0088】
一実施形態において、バインダー樹脂として水性ポリウレタン樹脂を使用する場合、その重量平均分子量は、5,000~100,000の範囲内であってよく、より好ましくは10,000~90,000であってよく、さらに好ましくは20,000~80,000であってよい。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が上記範囲内である場合、所望とする伸び率及び応力などの特性を得ることが容易となる。さらに、一実施形態において、耐エタノール性を高める観点から、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、21,000~80,000が好ましく、25,000~75,000がより好ましく、30,000~70,000が特に好ましい。
【0089】
特に限定するものではないが、好ましい一実施形態において、バインダー樹脂として使用するポリウレタン樹脂は、以下のようにして得られるポリウレタン樹脂水溶液であってよい。
(1)先ず、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタンアジペート)ジオールと、ポリエチレングリコールと、ジメチロールブタン酸とを混合及び撹拌し、さらに、イソホロンジイソシアネートを加えて反応させて、末端イソシアネートプレポリマーを形成する。次に、末端イソシアネートプレポリマー(I)に対し、2-アミノエチルエタノールアミン、及びイソプロピルアルコールなどの有機溶剤を加え、溶剤型のポリウレタン樹脂溶液を形成する。
(2)次に、上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に対して、アンモニア水、及びイオン交換水を徐々に添加して中和し、水性ポリウレタン樹脂溶液を形成する。さらに、水性ポリウレタン樹脂溶液中の有機溶剤を減圧留去した後、水を加えて固形分を調整し、水性ポリウレタン樹脂の水溶液(ポリウレタン樹脂水溶液)を得る。
【0090】
一実施形態において、水性インキ組成物を構成するバインダー樹脂として、実施例で後述するウレタン樹脂(A)~(G)を好適に使用することができる。ウレタン樹脂(A)~(G)は、それぞれ単独で使用してもよいが、各種特性の調整が容易となることから2種以上を組合せて使用することがより好ましい。例えば、ウレタン樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とを併用した場合、より好適な特性が得られる傾向がある。
【0091】
一実施形態において、水性インキ組成物(固形分)の全質量を基準として、バインダー樹脂の全含有量は、30%質量以下が好ましく、5~25質量%の範囲がより好ましい。バインダー樹脂の使用量を上記範囲内に調整した場合、適度なインキ粘度を容易に得ることができるため、インキ製造、及び印刷時の作業効率を高めることができる。
【0092】
(硬化剤)
一実施形態において、水性インキ組成物は、バインダー樹脂として使用される樹脂に対する硬化剤をさらに含むことが好ましい。水性インキ組成物が硬化剤を含む場合、印刷層は硬化塗膜から形成されるが、その反応形態は特に限定されない。すなわち、印刷層は、バインダー樹脂中の樹脂と硬化剤とから形成される硬化塗膜であってよい。又は、印刷層は、硬化剤自身から形成される硬化塗膜であってもよい。
【0093】
一実施形態において、バインダー樹脂として酸価を有するポリウレタン樹脂を使用した場合、水性インキ組成物は、硬化剤をさらに含むことが好ましい。一実施形態において、ポリウレタン樹脂は、1~100mgKOH/gの酸価を有することが好ましい。上記酸価は、10~70mgKOH/gであることがより好ましく、20~60mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0094】
一実施形態において、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂と、硬化剤とを併用した場合、25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の残存率が50%以上となる印刷層を容易に形成することができる。そのため、印刷層において優れた耐エタノール性を容易に実現することができる。また、水性インキ組成物が、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂と硬化剤とを含む実施形態によれば、耐エタノール性に加えて、印刷面の耐摩擦性及び発泡外観などの各種特性においても良好な結果が得られる。
【0095】
酸価を有するポリウレタン樹脂に対する硬化剤として、当技術分野で周知の化合物を使用することができる。なかでも、硬化剤として、エポキシ系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。一実施形態において、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方を使用することがより好ましい。少なくともカルボジイミド系硬化剤を使用することがさらに好ましい。
【0096】
一実施形態において、印刷層を形成するための水性インキ組成物は、1~100mgKOH/gの酸価を有する水性ポリウレタン樹脂と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とを含むことが好ましい。このような水性インキ組成物を用いて形成される印刷層は、1~100mgKOH/gの酸価を有する水性ポリウレタン樹脂と、カルボジイミド系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とから形成される硬化物(硬化塗膜)を含む。
【0097】
カルボジイミド系硬化剤は、分子内にカルボジイミド基を有する化合物であればよい。分子内に2以上のカルボジイミド基を有する化合物が好ましい。カルボジイミド系硬化剤の具体例として、p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、及びシクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)が挙げられる。カルボジイミド系硬化剤は、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミド化合物であってもよい。これらは、単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0098】
一実施形態において、カルボジイミド系硬化剤として使用する化合物は、カルボジイミド基1molあたりの化学式量(NCN当量)が250~700であることが好ましく、300~600であることがより好ましい。カルボジイミド系硬化剤として、市販品を使用することもできる。例えば、日清紡社製のカルボジライトシリーズV-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10、SW-12G、E-02、E-03A、E-05などが挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0099】
イソシアネート系硬化剤は、分子内にイソシアネート基を有する化合物であればよい。分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましい。イソシアネート系硬化剤として使用する化合物は、水性化された、すなわち、水に分散された状態、又は水で希釈された状態であることが好ましい。このような水性イソシアネート系硬化剤は、市販品として、入手することもできる、例えば、アクアネート100、アクアネート110、アクアネート200及びアクアネート210(いずれも商品名、日本ポリウレタン工業社製);バイヒジュールTPLS-2032、SUB-イソシアネートL801、バイヒジュールVPLS-2319、バイヒジュール3100、VPLS-2336及びVPLS-2150/1(いずれも商品名、住化バイエルウレタン社製);タケネートWD-720、タケネートWD-725及びタケネートWD-220(いずれも商品名、三井武田ケミカル社製);レザミンD-56(商品名、大日精化工業社製)などが挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0100】
一実施形態において、印刷層を形成するための水性インキ組成物において、硬化剤の配合量は、バインダー樹脂:硬化剤の質量比で、100:1~100:100であることが好ましく、100:2~100:60であることがより好ましく、100:3~100:30であることがさら好ましい。
【0101】
硬化剤の配合量は、印刷層の構成に応じて調整することが好ましい。より詳しくは、一実施形態において、印刷層が単層として形成される場合の硬化剤の配合量は、バインダー樹脂:硬化剤の質量比で、100:2~100:100であることが好ましく、100:2~100:60であることがより好ましく、100:5~100:30であることがさらに好ましい。
【0102】
一実施形態において、印刷層が複数層として形成される場合の硬化剤の配合量は、各層においてバインダー樹脂:硬化剤の質量比で、100:1.5~100:100であることが好ましく、100:2~100:60であることがより好ましく、100:3~100:30であることがさらに好ましい。
【0103】
硬化剤の配合量を上記範囲に調整することで25℃のエタノールに30分間浸漬した後の残存率が50%以上となる印刷層を容易に形成することができる。その結果、優れた発泡追随性、並びに印刷面の優れた発泡外観、耐摩擦性、耐熱性、及び耐エタノール性を容易に実現することができる。
【0104】
(着色剤)
水性インキ組成物に使用する着色剤は、一般に印刷インキや塗料で使用される各種無機顔料、及び有機顔料であってよい。無機顔料の一例として、酸化チタンなどの白色顔料、ベンガラ、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛などの有色顔料、及び炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルクなどの体質顔料が挙げられる。また、有機顔料の一例として、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾキレート顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、及び縮合多環顔料などの有色顔料が挙げられる。これら顔料の含有量は、所望とするインキの色調などを考慮して適宜選択することができるが、一般的に水性インキ組成物の全質量を基準として、0.5~50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0105】
一実施形態において、白色の水性インキ組成物を調製する場合、白色顔料の配合量は、水性インキ組成物の全質量を基準として、20~50質量%の範囲とすることが好ましい。隠蔽性、顔料濃度、及び耐光性の観点から、白色顔料として二酸化チタンを使用することが好ましい。一方、有色の水性インキ組成物を調製する場合、有色の有機顔料、及びベンガラ、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛などの有色の無機顔料を適宜選択して使用することができる。発色性、及び耐光性の観点からは、有機顔料が好ましい。有色顔料の配合量は、水性インキ組成物の全質量を基準として、10~30質量%の範囲が好ましい。
【0106】
水性インキ組成物は、その効果に支障のない範囲で、溶剤として、水に加えて有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤を使用する場合、アルコール系有機溶剤が好ましい。有機溶剤の具体例としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、t-ブタノール、及び2-メチル-2-プロパノールなどが挙げられる。これらの有機溶剤を使用した場合、水性インキ組成物において、基材への濡れ性などを制御することができる点で好ましい。一実施形態において、基材は、発泡紙材料であってよい。水性インキ組成物は、発泡紙材料の発泡層形成層(B0)の上面に塗布され、印刷層を形成する。
【0107】
水性インキ組成物が有機溶剤を含む場合、その配合量は、水性インキ組成物の全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。一実施形態において、水性インキ組成物における有機溶剤の含有量は5質量%以下であることが最も好ましく、水性インキ組成物は有機溶剤を含まなくてもよい。
【0108】
(その他添加剤)
水性インキ組成物は、必要に応じて各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、ブロッキング防止剤、各種ワックス、増粘剤、レオロジー調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、表面張力調整剤、接着補助剤、pH調整剤などが好適に挙げられる。
【0109】
(接着補助剤)
水性インキ組成物は、印刷層と基材との密着性を向上させる観点から、接着補助剤をさらに含んでもよい。接着補助剤として、ヒドラジン系化合物、及びエポキシ化合物の少なくとも一方を使用することが好ましい。
ヒドラジン系化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、及びその他のジヒドラジド化合物が好ましい。
エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物を意味する。例えば、ADEKA社製アデカレジンEP-4000、EP-4005、7001などの脂環式エポキシが挙げられる。
これらの接着補助剤は、水性インキ組成物の全質量に対して、0.1~5質量%で使用することが好ましく、0.1~3質量%で使用することがより好ましい。
【0110】
一実施形態において、水性インキ組成物として白色インキ組成物を構成する場合、白色インキの全質量を基準として、好ましい組成は、白色無機顔料10~50質量%、ポリウレタン樹脂(固形分)5~35質量%、及び水5~30質量%である。白色インキ組成物のより好ましい組成は、白色無機顔料20~50質量%、ポリウレタン樹脂(固形分)5~30質量%、及び水5~25質量%である。他の実施形態として、上記白色インキ組成物の組成に加えて、さらに0.5~15質量%の硬化剤を含んでもよい。硬化剤は、カルボジイミド系硬化剤、及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0111】
一実施形態において、水性インキ組成物として、マゼンタ、イエロー、及びシアンといったカラーインキ組成物を構成する場合、カラーインキの全質量を基準として、好ましい組成は、有機顔料10~25質量%、ポリウレタン樹脂(固形分)5~35質量%、水5~30質量%である。カラーインキのより好ましい組成は、有機顔料10~20質量%、ポリウレタン樹脂(固形分)5~30質量%、及び水5~25質量%である。他の実施形態として、上記カラーインキの組成に加えて、さらに0.5~15質量%の硬化剤を含んでもよい。硬化剤は、カルボジイミド系硬化剤、及びイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0112】
印刷層を形成する水性インキ組成物は、周知の技術を適用し、上述の各種成分を混合することによって製造することができる。より具体的には、まず、バインダー樹脂、水、及び、必要に応じて、顔料、顔料分散剤、界面活性剤などを撹拌混合した後に、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、及びパールミルなどの各種練肉機を利用して練肉し、さらに残りの材料を添加混合する方法が挙げられる。
【0113】
<3>発泡紙積層体の製造方法
一実施形態は、発泡積層体の製造方法に関する。すなわち、一実施形態は、熱可塑性樹脂層(A)、紙基材、及び発泡層(B)を順次有する発泡紙と、上記発泡紙の発泡層(B)の表面に形成された印刷層とを有し、上記発泡層(B)の単位表面積あたりの発泡セル数が1000個/1cm2以上であり、25℃のエタノール中に30分間浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上である発泡紙積層体を製造するための方法に関する。この製造方法は、以下の工程(i)~(iv)、すなわち
(i)熱可塑性樹脂層(A)と、紙基材と、上記熱可塑性樹脂層(A)よりも低い融点を有し、加熱によって発泡する、発泡層形成層(B0)とを順次有する、発泡紙材料を準備すること、
(ii)ポリウレタン樹脂を含有するバインダー樹脂、及び水を含む、水性インキ組成物を準備すること、
(iii)上記発泡紙材料の上記発泡層形成層(B0)の表面に、上記水性インキ組成物を塗布して印刷層を形成すること、
(iv)上記印刷層を有する上記発泡紙材料を加熱することによって、上記発泡紙材料の上記発泡層形成層(B0)を発泡させ、発泡層(B)を形成すること
を含む。
【0114】
上記製造方法において、(i)発泡紙材料の準備、(ii)水性インキ組成物の準備、(iii)印刷層の形成、(iv)加熱による発泡層(B)の形成に関する各工程は、それぞれ当技術分野で周知の方法に従って実施することができる。以下、各工程について説明する。
【0115】
(工程(i):発泡紙材料の準備)
(i)発泡紙材料の準備は、例えば、押出ラミネート法に従って実施することができる。発泡紙材料を構成する、紙基材、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡層形成層(B0)の構成材料は先に説明したとおりである。押出ラミネート法として、シングルラミネート法、タンデムラミネート法、サンドウィッチラミネート法、及び共押出ラミネート法などの周知の方法を適宜選択することができる。一実施形態において、熱可塑性樹脂層(A)、及び発泡層形成層(B0)の構成材料として、それぞれ融点の異なるポリエチレン樹脂を好適に使用することができる。
【0116】
発泡層形成層(B0)は、熱可塑性樹脂層(A)を構成するポリエチレン樹脂の融点(Mp)よりも低いMpを有するポリエチレン樹脂(低Mpポリエチレン樹脂)を使用して構成する。発泡紙材料は、Tダイ押出機を通して、紙基材の片面に対して低Mpポリエチレン樹脂をフィルム状に押出し、また紙基材の他面に対して高Mpポリエチレン樹脂をフィルム状に押出すことによって製造することができる。
【0117】
ラミネート時のポリエチレン樹脂の温度(Tダイ直下の温度)は、300~350℃が好ましく、320℃~340℃がより好ましい。この温度範囲であれば、各ポリエチレン樹脂層(A、B0)と紙基材との間に十分なラミネート強度を実現できる。ラミネート後に経由する冷却ロールの表面温度は10~50℃の範囲で制御することが好ましい。
【0118】
一実施形態において、ラミネート速度は、50~130m/分が好ましく、60~110m/分がより好ましい。ラミネート速度が遅すぎると生産性が低く、一方、ラミネート速度が早すぎると、ネックインによって歩留まりが低下する傾向がある。ネックインとは、Tダイ押出機によってポリエチレン樹脂を押出しフィルム化する際に、Tダイの有効幅よりも、押し出されたポリエチレン樹脂フィルムの幅が小さくなる現象である。この際、フィルムの両端部が中央部よりも厚くなる。両端部の厚みが規格から外れる場合には、両端部を切断・除去するのが一般的であるが、ネックインが酷い場合には、規格から外れる面積が増加するため、歩留まりが低下する。
【0119】
一実施形態において、エアギャップは、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。エアギャップを広げすぎると、ポリエチレン樹脂がネックインし、歩留まりが低下する傾向がある。エアギャップとは、Tダイの押出口からニップロールまでの距離を指す。ポリエチレン樹脂がエアギャップを通過している間に、オゾンガス及び/又は酸素ガスを用いて、ポリエチレン樹脂の表面処理を行うことが好ましい。オゾンガス及び/又は酸素ガスを用いて表面処理を行うことによって、酸化被膜の形成を促進し、基材層との接着力を向上させることができる。オゾンガス及び/又は酸素ガスの処理量には特に限定はないが、ポリエチレン樹脂の酸化を促進する観点で、0.5mg/m2以上が好ましい。
【0120】
(工程(ii):水性インキ組成物の調製)
上記実施形態の製造方法において、上記(ii)水性インキ組成物の具体的な構成、調製方法については、先に水性インキ組成物の実施形態で説明したとおりである。
一実施形態において、水性インキ組成物として、水性ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、水とを含有する水性インキ組成物(ii-1)を調製することが好ましい。ここで、バインダー樹脂は、酸価を有する水性ポリウレタン樹脂であることが好ましく、中和によって水性化されていることがより好ましい。また、伸び率50~4,000%における応力が0.1mPa~50mPaであることが好ましい。
【0121】
他の実施形態において、水性インキ組成物(ii-1)に代えて、1~100mgKOH/gの酸価を有する水性ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、水と、カルボジイミド系硬化剤及びポリイソシアネート系硬化剤の少なくとも一方とを含む水性インキ組成物(ii-2)を準備することが好ましい。ここで、1~100mgKOH/gの酸価を有するポリウレタン樹脂は、中和によって水性化されていることが好ましい。
【0122】
(工程(iii):印刷層の形成)
上記(iii)印刷層の形成については、特に限定されるものではなく、周知の技術を適用することができる。例えば、下地層として、発泡層形成層(B0)(低Mp樹脂フィルム)の全面に白色の水性インキ組成物を印刷する場合、バーコーター、ロールコーター、リバースロールコーターなどのコーターを使用してもよい。その他、各種印刷方法を適用することができる。
【0123】
各種印刷方法のなかでも、フレキソ印刷、又はグラビア印刷による印刷方法を適用することが好ましい。これらの印刷方法による印刷層の形成時に、先に説明した実施形態の水性インキ組成物(ii-1)及び(ii-2)を好適に使用することができる。特に、フレキソ印刷による印刷方法を適用した場合、生産性良く、及び歩留り高く、印刷層を形成することが可能となる。以下、フレキソ印刷方法の代表的な形態を説明する。
【0124】
(フレキソ印刷方法)
(1)アニロックスロール
フレキソ印刷方法では、アニロックスを使用することができる。例えば、セル彫刻が施されたセラミックアニロックスロール、及びクロムメッキアニロックスロールなどを使用することができる。
優れたドット再現性を有する印刷層(印刷物)を得るために、印刷時に使用する版の線数の5倍以上、好ましくは6倍以上の線数を有するアニロックスロールが使用される。例えば、使用する版の線数が75lpiの場合は、線数が375lpi以上のアニロックスが必要である。また、版の線数が150lpiの場合は、線数が750lpi以上のアニロックスロールが必要である。アニロックスロールの容量は、使用する水性インキ組成物の乾燥性とブロッキング性との観点から、1~8cc/m2であってよく、好ましくは、2~6cc/m2であってよい。
【0125】
(2)フレキソ版
フレキソ印刷方法では、版として、UV光源による紫外線硬化を利用する感光性樹脂版を使用できる。版として、ダイレクトレーザー彫刻方式を使用するエラストマー素材版を使用することもできる。フレキソ版の画像部の形成方法に関わらず、スクリーニング線数において75lpi以上の版が使用される。版を貼るスリーブ、又はクッションテープについては、任意のものを使用できる。
【0126】
(3)印刷機
フレキソ印刷機の具体例として、CI型多色フレキソ印刷機、及びユニット型多色フレキソ印刷機などが挙げられる。インキ供給方式の具体例として、チャンバー方式、及び2ロール方式が挙げられる。フレキソ印刷方法に適用可能な印刷機を適宜選択して使用することができる。
【0127】
一実施形態において、印刷層は複数の層を含むことが好ましい。印刷層は、発泡層形成層(B0)の全表面を被覆する下地層と、下地層表面の少なくとも一部に設けられた印刷パターンとを有してよい。例えば、下地層は白色水性インキ組成物から構成され、印刷パターンは水性カラーインキ組成物から形成される。
【0128】
一実施形態において、印刷層の厚さは、印刷層による発泡抑制力、及び耐摩擦性の観点から、乾燥塗膜の膜厚が、0.5~5.0μmとなるように調整されることが好ましい。印刷層(乾燥塗膜)の膜厚は、より好ましくは0.5~4.0μmであってよく、さらに好ましくは0.5~3.5μmであってよい。ここで、印刷層が複数の層から構成される場合、印刷層の膜厚は、印刷層全体の厚さが上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0129】
他の実施形態において、印刷層は、複数の層を含んでよく、その最外層として透明層を有することが好ましい。透明層は、顔料を含まないクリアインキ組成物を使用して構成することができる。一実施形態において、クリアインキ組成物は、顔料を含まないことを除き先に説明した水性インキ組成物(ii-1)及び(ii-2)と同様に構成することができる。
【0130】
透明層を設けた場合、印刷面の耐摩擦性、耐エタノール性、耐水摩擦性を容易に向上させることができる。一実施形態において、透明層(乾燥膜厚)の膜厚は、好ましくは0.1~3.0μmであり、より好ましくは0.1~2.5μmであり、さらに好ましくは0.1~2.0μmである。ここで、印刷層が透明層を有する場合、透明層の厚さを含めた印刷層全体の厚さが0.5~5.0μmの範囲内となるように調整することが好ましい。
【0131】
印刷層が複数の層を含む場合、複数の層のうち少なくとも1層を構成する水性インキは、ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と硬化剤とを含むことが好ましい。一実施形態において、少なくとも下地層及び/又は最外層を構成する水性インキ組成物は、ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂と、硬化剤とを含むことが好ましい。上記水性インキ組成物を使用して、下地層(白)インキ層、及び最外層(インキ層又は透明層)を形成するがより好ましく、複数の層の全てを形成することが最も好ましい。
【0132】
(工程(iv):発泡層(B)の形成)
上記(iv)加熱による発泡層(B)の形成において、適切な加熱温度及び加熱時間は、使用する紙基材、及び熱可塑性樹脂フィルムの特性に依存して変化する。当業者であれば、使用する熱可塑性樹脂フィルムなどの材料に応じて、最適な加熱温度と加熱時間との組合せ条件を決定することができる。特に限定するものではないが、一般的に、加熱処理は、容器の成形工程において実施される。加熱処理時の加熱温度が低すぎると十分な発泡性が得られず、加熱温度が高すぎると発泡セルが結合し火脹れが生じやすくなる。
【0133】
特に限定するものではないが、発泡層形成層を低密度ポリエチレンフィルムから構成する場合、加熱温度は、好ましくは100~125℃であってよく、より好ましくは110~120℃であってよい。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜調整することができるが、3~10分間が好ましく、5分~7分がより好ましい。一実施形態において、発泡層形成層を低密度ポリエチレンフィルムから構成し、その上に先に説明した水性インキ組成物(ii-1)又は(ii-2)を使用して印刷層を形成する場合、加熱温度を110~123℃、加熱時間を5~7分に調整することが好ましい。加熱温度を115~121℃、加熱時間を5~7分に調整することがより好ましい。上記条件下で加熱を行った場合、印刷層によって加熱加工時の発泡層形成層の発泡を適切に制御することが容易となる。
【0134】
加熱手段として、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用できる。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で熱風又は電熱などによって加熱すれば、安価に大量の加熱処理を実施できる。
【0135】
<4>発泡紙製容器
一実施形態は、上記実施形態の発泡紙積層体を具備する発泡紙製容器に関する。発泡紙製容器は、容器胴体部材と底板部材とから構成され、容器胴体部材が上記実施形態の発泡紙積層体から形成されることを特徴とする。
図1は、容器の組み立て成形後に加熱処理を実施することによって得られる発泡紙製容器10Aの構造を示す斜視図である。
図1に示すように、発泡紙製容器10Aは、発泡紙積層体から構成される容器胴体部材10と底板部材12とから構成される。容器胴体部材(発泡紙積層体)10において、高Mp樹脂フィルムが容器の内壁面10aを形成し、低Mp樹脂フィルム(発泡層)上の印刷層が容器の外壁面10bを形成する。
【0136】
図2は、
図1に示した発泡紙製容器の容器胴体部材の参照符号I部分を拡大して示す模式的断面図である。容器胴体部材(発泡紙積層体)10は、容器の内壁面10a側(
図1参照)から順に、高Mp樹脂フィルム20、紙基材30、発泡後の低Mp樹脂フィルム(発泡層)40、及び印刷層50を有し、印刷層50は下地層50aと印刷パターン50bとを有する。
【0137】
発泡紙製容器の成形加工は、周知の技術を適用して実施することができる。例えば、最初に印刷層を形成した発泡紙積層体(加熱前の発泡紙積層体)を型に沿って所定の形状に打ち抜き容器胴体部材を得る。同様にして、底板材料を所定の形状に打ち抜いて底板部材を得る。次に、常用の容器製造装置を用いて、容器胴体部材と、底板部材とを容器の形状に組み立て成形する。容器製造装置による容器の組み立て成形は、容器胴体部材の上記高Mp樹脂フィルムが内壁面を形成し、上記低Mp樹脂フィルムが外壁面を形成し、さらに底板部材のラミネート面が内側となるようにして実施する。このように容器製造装置によって容器を組み立て成形した後、加熱処理を行うことによって、低Mp樹脂フィルムが発泡し、発泡層(断熱層)を形成し、断熱性を有する発泡紙容器を得ることができる。
【0138】
一実施形態において、発泡紙製容器の胴部内壁面、及び胴部外壁面をそれぞれポリエチレンフィルムから構成する場合、紙基材の一方の面(容器の内壁面)は中密度又は高密度ポリエチレンフィルムでラミネートし、他方の面(容器の外壁面)は低密度ポリエチレンフィルムでラミネートすることが好ましい。紙基材にラミネートする各フィルムの厚さは、特に限定されない。しかし、容器胴部の外壁面を構成する低Mp樹脂フィルムの厚さは、フィルムを発泡させた場合に、発泡後のフィルムが断熱層として機能するのに十分な厚みとなるように適宜設定されることが好ましい。
【0139】
例えば、容器胴部の外壁面を低密度ポリエチレンフィルムで構成する場合、紙基材にラミネートするフィルムの厚さは40~150μmであってよい。一方、容器胴部の内壁面を中密度又は高密度ポリエチレンフィルムで構成する場合、紙基材にラミネートするフィルムの厚さは、特に限定されない。しかし、断熱性発泡紙製容器として使用した時に内容物の耐浸透性が確保されるように、フィルムの厚さを適宜設定することが好ましい。紙基材にラミネートするフィルムの厚さは、使用するフィルムの樹脂材料によって異なるため、樹脂材料の特性を考慮して、当業者が適切に設定することが望ましい。
【実施例】
【0140】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する「部」及び「%」は、特段の注釈の無い限り、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0141】
<1>各種特性の測定方法
後述するバインダー樹脂、及び水性インキ組成物の各種特性は、以下の測定方法によって求めた値を表す。
【0142】
(ガラス転移温度)
後述する合成例で得た各々のポリウレタン樹脂水溶液をポリエチレン基材上に塗工し、次いで40℃で3日間にわたって乾燥させ、厚さ0.5mmの乾燥塗膜を得た。それぞれの乾燥塗膜について、動的粘弾性自動測定機(エー・アンド・デー株式会社製、DDV-GPシリーズ(レオバイブロン))を用いて測定した、損失正接tanδのピークトップ温度をTg(℃)とした。測定は、温度範囲-120℃~40℃、昇温速度10℃/分で実施した。
【0143】
(バインダー樹脂の伸び率、及び応力)
後述する合成例で得た各々のポリウレタン樹脂水溶液を乾燥させて、塗膜試験サンプル(厚さ0.30mm、幅5.0mm、長さ20.0mm)を作製した。各サンプルについて、インテスコ社製の小型引張り試験機を使用し、伸び率、及び応力を測定した。測定は、引張り速度100mm/分、室温25℃の条件下でそれぞれ実施した。
なお、水性インキ組成物が硬化剤を含む実施形態については、水性インキ組成物における配合比率と同様にしてバインダー樹脂と硬化剤とを併用し、塗膜試験サンプル(厚さ0.30mm、幅5.0mm、長さ20.0mm)を作製した。このサンプルを使用して、上記と同様の方法に従って、バインダー樹脂(硬化物)の伸び率及び応力を測定した。
【0144】
(印刷層の残存率)
印刷層の残存率は、発泡紙上に形成された印刷層(発泡紙積層体の表面)の耐エタノール性を評価するための試験であり、以下のとおりに実施した。
先ず、試験片(サンプル)として、発泡紙積層体を縦100mm、横100mmの寸法に切り出した。切り出した試験片の質量を測定し、エタノール浸漬前のサンプル質量とした。その後、浸漬作業の便宜上、試験片を縦20mm、横20mm程度のサイズに粉砕した。
次に、エタノール:試験片が100:4.5の質量比となるように、容器内にエタノール(25℃)と粉砕した試験片とを容器に入れ、試験片をエタノールに浸漬させた。浸漬は、25℃のエタノール中で、撹拌回転数100rpmで試験片を撹拌しながら2分間、その後30分間静置し、さらに、回転数100rpmで試験片を撹拌しながら1分間の条件下で実施した。試験片を取り出して、乾燥後の試験片の質量を測定し、浸漬後のサンプル質量とした。
さらに、上述のようにして測定した、浸漬前のサンプル質量、及び浸漬後のサンプル質量から、下式に従い、印刷層の残存率を算出した。
印刷層の残存率=(浸漬後のサンプル質量/浸漬前のサンプル質量)×100
【0145】
(印刷層の膜厚)
印刷層の膜厚は、発泡紙積層体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真(倍率5000)から求めた。印刷層について任意の5箇所について測定し、これらの平均値を印刷層の膜厚とした。
【0146】
(発泡セル数)
発泡紙積層体の印刷層をメチルエチルケトン(MEK)で除去し、発泡熱可塑性樹脂層(発泡層)の表面を露出させた。次いで、光学顕微鏡(ニコン社製、AZ100M)を用いて発泡層の表面を観察し(倍率25倍)、縦横(X-Y)方向に一定の長さで区画される範囲内に存在する独立セルの数を求め、さらに1cm2あたりの独立セル数として算出される値を得た。任意の5箇所について観察を行い、これらの平均値を発泡セル数とした。
【0147】
(発泡層の膜厚)
発泡層の膜厚は、発泡紙積層体の断面を光学顕微鏡写真で観察し、紙基材の上面から、印刷層の下面までの高さを測定することによって決定した。また、発泡前の膜厚は、発泡層形成層の膜厚に対応する。そのため、発泡層形成層として形成した低密度ポリエチレン樹脂の膜厚を測定して得た値とした。
【0148】
(バインダー樹脂)
(合成例1)ポリウレタン樹脂(A)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、及び温度計を備えた反応器中に、窒素ガスを導入しながら、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタンアジペート)ジオール(PMPA2000、数平均分子量2,000)328.16部、ポリエチレングリコール(PEG2000、数平均分子量2,000)10.0部、ジメチロールブタン酸(DMBA)57.81部、及びメチルエチルケトン(MEK)350部を入れた。これらを混合及び撹拌しながら、さらに、イソホロンジイソシアネート(IPDI)200.76部を1時間かけて滴下した。その後、これらを還流温度で6時間にわたって反応させて、末端イソシアネートプレポリマーを形成した。その後、反応液を30℃まで冷却してからイソプロピルアルコール100部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。
得られた末端イソシアネートプレポリマーに対し、2-アミノエチルエタノールアミン(AEA)28.21部及びイソプロピルアルコール(IPA)150部の混合液を、室温(25℃)で徐々に添加し、40℃で3時間にわたって反応させることによって、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。
次に、上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に対して、28%アンモニア水23.69部及びイオン交換水1800部を徐々に添加して中和することによって、水性化ポリウレタン樹脂溶液を得た。さらに、上記水性化ポリウレタン樹脂溶液中のMEK及びIPAを減圧留去した後、水を加えて固形分を25%に調整した。
以上のようにして、酸価が35mgKOH/gであり、重量平均分子量が35,000である、ポリウレタン樹脂(A)の水溶液(固形分25%)を得た。先に説明した方法に従い、上記ポリウレタン樹脂(A)の伸び率及び応力、並びにその他の特性について測定した。その結果を表1に示す。
【0149】
(合成例2~8)
特開2018-184512号公報に記載された合成方法に従って、合成例1に記載した原料及び配合量を表1に記載した特性となるように変更したことを除き、合成例1と同様にして、それぞれ固形分25%のポリウレタン樹脂(B)~(H)の水溶液を得た(以下、ポリウレタン樹脂(B)~(H)と略記する場合もある)。ポリウレタン樹脂(B)~(H)の伸び率及び応力、並びにその他の特性について、測定先に説明した方法に従い測定したその結果を表1に示す。
【0150】
【0151】
<2>水性インキ組成物の製造例
(製造例1)白色インキ(W1)の製造
表2に記載する配合に従い、ポリウレタン樹脂(A)水溶液を10部、ポリウレタン樹脂(B)水溶液を20部、白色顔料(酸化チタン、チタニックス JR808(テイカ株式会社製)40部、消泡剤0.1部、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)0.2部、N-プロパノール1部、及び水5部を撹拌混合し、サンドミルで分散処理した。次いで、分散処理によって得られた混合物に、さらに、ポリウレタン樹脂(A)水溶液を4部、ポリウレタン樹脂(B)水溶液を14部、及び水6部を加えて、撹拌混合することによって、白色インキ(W1)を得た。
【0152】
(製造例2~9)白色インキ(W2)~(W9)の製造
製造例1で使用した2種のポリウレタン樹脂水溶液を表2に記載する配合に従って変更したことを除き、全て製造例1に記載の製造方法と同様にして白色インキ(W2)~(W9)を得た。
なお、表2に記載したバインダー樹脂は、以下のとおりである。
ポリウレタン樹脂A~H:合成例1~8で調製したポリウレタン樹脂(A)~(H)の水溶液(それぞれ、固形分25%)。
ポリウレタン樹脂I:荒川化学工業株式会社製の製品名「ユリアーノW321」(樹脂の伸び率が600%で、応力が7.0mPaであるポリウレタン樹脂の水溶液)。
アクリル樹脂:BASF株式会社製の製品名「Joncryl7100」(重量平均分子量が200,000、ガラス転移温度が-10℃、酸価が51mgKOH/g、樹脂の伸び率が180%で、応力が6.5mPaであるアクリル樹脂のエマルジョン)。
塩化ビニル樹脂:日信化学工業株式会社製の製品名「ビニブラン700」(ガラス転移温度が70℃、酸価が57mgKOH/gの塩化ビニル樹脂のエマルジョン)。
【0153】
(製造例10)藍色インキ(B1)の製造
表2に記載する配合に従い、ポリウレタン樹脂(B)水溶液を20部、ポリウレタン樹脂(C)水溶液を20部、藍顔料(LIONOL BLUE FG-7358-G(トーヨーカラー社 製))を20部、消泡剤0.10部、ADHを0.20部、N-プロパノール2.5部、及び水10部を撹拌混合し、サンドミルで分散処理した。次いで、分散処理によって得られた混合物に、さらに、ポリウレタン樹脂(B)水溶液を4部、ポリウレタン樹脂(C)水溶液を16部、及び水8部を追加し、撹拌混合することによって、藍インキ(B1)を得た。
【0154】
(製造例11~18)藍色インキ(B2)~(B9)の製造
製造例10に記載の2種のポリウレタン樹脂水溶液を表2に記載の配合に変更したことを除き、全て製造例10に記載の製造方法と同様にして、藍色インキ(B2)~(B9)を得た。
【0155】
(製造例19)クリアインキ(C1)の製造
表2に記載の配合に従い、ポリウレタン樹脂(C)水溶液を82部、消泡剤0.1部、ADHを0.2部、N-プロパノール1部、水17部を撹拌混合することによって、重ね刷り用のクリアインキ(C1)を得た。
【0156】
(製造例20~27)クリアインキ(C2)~(C9)の製造
製造例19に記載のポリウレタン樹脂水溶液を表2に記載の配合に変更したことを除き、全て製造例19に記載の製造方法と同様にして、クリアインキ(C2)~(C9)を得た。
【0157】
【0158】
<3>発泡紙積層体の製造例
(1)発泡紙材料の製造例
発泡紙材料は、(工程1)紙基材の片面に、中密度ポリエチレン樹脂(M)を押出ラミネートして水蒸気遮断層を形成し、次いで、(工程2)紙基材の他面(非ラミネート面)に低密度ポリエチレン樹脂(L)を押出ラミネートしてすることによって、製造した。
【0159】
工程1及び工程2における各種条件は以下のとおりである。
(工程1)
紙基材:水分量23kg/m3、坪量320kg/m3
中密度ポリエチレン樹脂(M):東ソー社製「ペトロセンLW04-1」、MFR4.3g/10分、密度940kg/m3
押出温度(Tダイ出口温度):320℃
引取速度(ラミネート速度):50m/分
エアギャップ:130mm
厚さ:40μm(ポリエチレン樹脂層の中央部の厚さ)
【0160】
(工程2)
低密度ポリエチレン樹脂(L);後述
押出温度(Tダイ出口温度):310℃
引取速度(ラミネート速度):60m/分
エアギャップ:130mm
【0161】
なお、上記工程2で使用する低密度ポリエチレン樹脂(L)は発泡層形成層(B0)となる。低密度ポリエチレン樹脂(L)として、実施例18では低密度ポリエチレン樹脂(L2)を使用し、それ以外は低密度ポリエチレン樹脂(L1)を使用して、発泡紙材料を製造した。低密度ポリエチレン樹脂(L1)及び(L2)の詳細は以下のとおりである。
低密度ポリエチレン樹脂(L1):東ソー社製「ペトロセン07C03C」、密度918kg/m3、融点106℃、MFR15g/10分
低密度ポリエチレン樹脂(L2):日本ポリエチレン社製「ノバテックLDLC720」、密度922kg/m3、融点110℃、MFR9g/10分
【0162】
(2)発泡紙材料への印刷層の形成(発泡前の発泡紙積層体)の製造例
先に調製した白色インキ(W1~W9)、藍色インキ(B1~B9)、及びクリアインキ(C1~C9)を使用して、以下に記載するようにして発泡紙材料に印刷層を形成した。
【0163】
(実施例1)
表3に記載するように、白色インキ(W1)、藍色インキ(B1)、及びクリアインキ(C1)の100質量部に対し、それぞれ、カルボジイミド系硬化剤としてカルボジライトSV-02(日清紡株式会社製)を3質量部添加して印刷インキを得た。上記硬化剤は、カルボジイミド基1molあたりの化学式量が430、固形分40質量%であった。
発泡紙材料の低密度ポリエチレン樹脂(L)上に、セントラルインプレッション(CI)型のフレキソ印刷機を利用し、アニロックスロール、及び樹脂版によって、印刷インキ(W1)、印刷インキ(B1)、及び印刷インキ(C1)の順で、重ね刷りを行い、印刷層を形成した。印刷速度は150m/分で行った。
【0164】
(実施例2~19、及び比較例1~4)
表3に記載するように、白色インキ、藍色インキ、及びクリアインキに対して、硬化剤を添加する実施形態については、さらに硬化剤を添加して、それぞれの印刷インキを得た。なお、カルボジライトSV-02(日清紡株式会社製)の添加量は、実施例3では5.0部、実施例12では1.0質量部、実施例13では5.0質量部とし、その他は実施例1と同様に3質量部とした。実施例11では、硬化剤としてタケネートWD-725(三井化学社製、水性イソシアネート系硬化剤、固形分50質量%)を使用し、添加量は3質量部とした。表3に記載するように各印刷インキを組合せて使用したことを除き、実施例1と同様の方法で重ね刷りを行い、印刷層を形成した。
【0165】
(3)発泡紙積層体の製造例
上述のようにして製造した印刷層を有する発泡紙材料(発泡前の発泡紙積層体)について、以下の条件で加熱処理を行い、低密度ポリエチレン樹脂層(L)を発泡させて、発泡層を形成し、発泡紙積層体(発泡後積層体)を製造した。なお、実施例14、15及び比較例4以外の実施例及び比較例では、標準条件下で加熱処理を行った。
標準条件 :120℃のオーブンで6分間加熱
実施例14:120℃のオーブンで9分間加熱
実施例15:122℃のオーブンで6分間加熱
比較例4 :124℃のオーブンで6分間加熱
【0166】
<4>発泡紙積層体の評価
上述のようにして製造した実施例1~19及び比較例1~4の発泡紙積層体について、以下に記載の方法に従い、各種特性を評価した。それぞれの結果を表3に示す。
【0167】
<発泡追随性>
実施例1~19及び比較例1~4の発泡紙積層体の各表面について、加熱処理後(低Mpフィルム発泡後)の白インキ印刷部と藍インキ印刷部との段差を指触し、藍インキ印刷部の凹み度合いを以下の基準に従って評価した。評価の数値が高いほど、発泡追随性に優れ、印刷面が平坦であることを意味する。
(評価基準)
5:白インキ印刷部との段差をほとんど感じない。
4:白インキ印刷部との段差をわずかに感じる。
3:白インキ印刷部との段差をかなり感じる。
2:白インキ印刷部との段差をかなり大きく感じる。
1:白インキ印刷部との段差を非常に大きく感じる。
【0168】
<発泡外観:火膨れ>
実施例1~19の発泡紙積層体、及びび比較例1~4の発泡紙積層体について、目視にて発泡紙積層体の印刷面を観察した。評価基準は以下の通りである。なお、表3に示した結果は、発泡紙積層体のサンプルを無造作に10個準備し、各サンプルを観察及び評価した結果における最頻値である。最頻値が複数存在する場合は、より低い評価となる値を採用した。
(評価基準)
5:火脹れが全くない(火脹れが確認できない)。
4:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり1個存在する。
3:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり2個存在する。
2:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり3~5個存在する。又は、長径5~20mmの火脹れが、100cm2あたり1個存在する。
1:長径5mm未満の火脹れが、100cm2あたり6個存在する。又は、長径5~20mmの火脹れが、100cm2あたり2個以上存在する。又は、長径20mmを超える火脹れが、100cm2あたり1個以上存在する。
なお、長径が異なる複数の火脹れが混在している場合は、より低い評価を採用する。具体的には、100cm2あたり、長径5mm未満の火脹れが2個、及び長径5~20mmの火脹れが1個存在する場合は、評価は「2」となる。
【0169】
<発泡外観:ひび割れ>
実施例1~19及び比較例1~4の発泡紙積層体について、火膨れの評価と同様に、目視にて発泡紙積層体の印刷面を観察した。評価基準は以下の通りである。なお、表3に示した結果は、発泡紙積層体のサンプルを無造作に10個準備し、各サンプルを観察及び評価した結果における最頻値である。最頻値が複数存在する場合は、より低い評価となる値を採用した。
(評価基準)
5:ひび割れが全くない(ひび割れが確認できない)。
4:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり1本存在する。
3:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり2~4本存在する。
2:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり5~10本存在する。又は、長さ2~5mmのひび割れが、100cm2あたり1本存在する。
1:長さ2mm未満のひび割れが、100cm2あたり11本以上存在する。又は、長さ2~5mmのひび割れが、100cm2あたり2本以上存在する。又は、長さ5mmを超えるひび割れが、100cm2あたり1本以上存在する。
なお、長さの異なる複数のひび割れが混在している場合には、より低い評価を採用する。具体的には、100cm2あたり、長さ1mmのひび割れが1本、及び長さ4mmのひび割れが1本存在する場合は、評価は「2」となる。
【0170】
<耐エタノール性>
実施例1~19及び比較例1~4の発泡紙積層体について、加熱処理によって発泡した低融点フィルム上の印刷層(塗膜)表面に対し、摩擦子に70%エタノール(エタノール:水=70:30)を含ませたカナキン(JIS L 0803)を荷重しながら1往復した。カナキンを往復する時、学振試験機(テスター産業社製)により、200gの荷重を加えた。その後、塗膜を目視で観察し、試験前の塗膜の全面積を基準として、塗膜(インキ)が剥がれた面積の割合を算出し、耐エタノール性について評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
5:インキの剥がれが30%未満である。
4:インキの剥がれが30%以上、40%未満である。
3:インキの剥がれが40%以上、60%未満である。
2:インキの剥がれが60%以上、70%未満である。
1:インキの剥がれが70%以上である。
【0171】
<耐摩擦性>
実施例1~19及び比較例1~4の発泡紙積層体について、各積層体の白インキ印刷面、又は白インキ、及びクリアインキの印刷面(塗膜表面)を摩擦子として使用した。学振試験機(テスター産業社製)により、荷重200gで塗膜表面を1往復させた。白インキ印刷面への藍インキの色移り度合いから、耐摩擦性を評価した。
(評価基準)
5:インキの色移りがない。
4:インキの色移りがややある。(1%未満)
3:インキの色移りがある。(1%以上、10%未満)
2:インキの色移りがかなりある。(10%以上、30%未満)
1:インキの色移りが非常にある。(30%以上)
【0172】
<断熱性>
90℃に加熱したホットプレートに、発泡面が上になるように発泡紙積層体を置き、4分経過後の発泡面(非接触面)の温度を測定することによって耐熱性を評価した。より具体的には、発泡紙積層体のサンプル10個について上記のようにして加熱経過後の温度を測定し、これらの平均温度を求めた。得られた平均温度から、以下の評価基準に従い、耐熱性を評価した。
(評価基準)
5:発泡面の温度が80℃未満である。
4:発泡面の温度が80℃以上、82℃未満である。
3:発泡面の温度が82℃以上、84℃未満である。
2:発泡面の温度が84℃以上、88℃未満である。
1:発泡面の温度が88℃以上である。
【0173】
【0174】
以上のように実施例及び比較例に示した結果から、25℃のエタノール中に浸漬した後の印刷層の残存率が50質量%以上であり、発泡層の発泡セル数が1、000個/1cm2以上である発泡紙積層体(実施例1~19)によれば、優れた発泡外観、耐摩擦性、耐熱性、及び耐エタノール性を実現できることが分かる。また、実施例1~19と比較例1との対比から明らかなように、上記印刷層を形成するための水性インキ組成物を構成するために、バインダー樹脂として少なくともポリウレタン樹脂を含むことが好ましいことが分かる。比較例1に見られるように、バインダー樹脂としてアクリル樹脂のみを使用した(ポリウレタン樹脂を含まない)場合は、ポリウレタン樹脂を使用した場合よりも樹脂の伸び率及び応力が低くなり、発泡追随性及び発泡外観が著しく低下している。さらに、実施例1~19と、比較例2及び3との対比から明らかなように、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量及びその他の構成を調整することによって、優れた発泡追随性及び発泡外観を実現できるとともに、印刷層の耐エタノール性及び耐摩擦性を向上できることも分かる。
【0175】
以上の説明から、本発明の精神と範囲に反することなしに、広範に異なる実施態様を構成することができることは明白であり、本発明は請求の範囲において限定した以外は、その特定の実施態様によって制約されるものではない。
【0176】
(符号の説明)
10 発泡紙積層体(容器胴体部材)
10A 発泡紙製容器
10a 容器の外壁面
10b 容器の内壁面
12 底板部材12
20 高Mp樹脂フィルム(熱可塑性樹脂層(A))
30 紙基材
40 発泡後の低Mp樹脂フィルム(発泡熱可塑性樹脂層(B)、発泡層(B))
50 印刷層
50a 下地層
50b 印刷パターン