(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】原子層堆積法用薄膜形成原料、薄膜の製造方法及びアルコキシド化合物
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20240112BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240112BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240112BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240112BHJP
C07F 7/22 20060101ALI20240112BHJP
C07C 215/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/40
H01L21/316 X
H01L21/31 B
C07F7/22 U
C07C215/08
(21)【出願番号】P 2020561269
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047199
(87)【国際公開番号】W WO2020129616
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2018235182
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】桜井 淳
(72)【発明者】
【氏名】畑▲瀬▼ 雅子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智晴
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/063685(WO,A1)
【文献】特開2009-227674(JP,A)
【文献】HAN, Jeong Hwan, ほか,Applied Surface Science,2015年09月08日,Vol. 357,pp. 672-677
【文献】ZEMLYANSKY, Nikolay N, ほか,Organometallics,2003年03月18日,Vol. 22,pp. 1675-1681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
C23C 16/40
H01L 21/316
H01L 21/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物を含有する原子層堆積法用薄膜形成原料。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表す。R
2及びR
3は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。z
1は1~3の整数を表す。)
【請求項2】
基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を原子層堆積法により製造する方法であって、
請求項1に記載の原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させ、前記基体の表面に堆積させて前駆体薄膜を形成する工程と、
前記前駆体薄膜を反応性ガスと反応させて前記基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を形成する工程と
を含む薄膜の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるアルコキシド化合物。
【化2】
(式中、R
4~R
6は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。但し、R
4~R
6の炭素原子数の合計は4~8である。z
2は1~3の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するアルコキシド化合物を含有する原子層堆積法用薄膜形成原料、薄膜の製造方法及びアルコキシド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
スズ原子を含む薄膜は、特異的な電気特性を示す。そのため、スズ原子を含む薄膜は、透明電極、抵抗膜、バリア膜等の種々の用途に応用されている。
【0003】
薄膜の製造法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、CVD法等が挙げられる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、原子層堆積法(以下、ALD法という場合がある)が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法及びALD法のような気相薄膜形成法に用いることができる材料は種々報告されている。ALD法に適用可能な薄膜形成原料は、ALDウィンドウと呼ばれる温度領域が十分な広さであることが必要である。そのため、CVD法に使用可能な薄膜形成原料であっても、ALD法に適さない場合が多くあることは当該技術分野における技術常識とされている。
【0005】
CVD法用原料として用いられるスズ化合物としては、様々なスズ化合物が知られている。例えば、特許文献1には、金属有機物化学蒸着法(MOCVD)に有効に適用することができるスズのアミノアルコキシド錯体が開示されている。特許文献1には、スズのアミノアルコキシド錯体として、(ジメチルアミノ-2-メチル-2-プロポキシ)スズ(II)及び(ジメチルアミノ-2-メチル-ブトキシ)スズ(II)が具体的に開示されている。特許文献1は、ALD法用原料としてスズのアミノアルコキシド錯体を用いることを何ら開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子層堆積法用薄膜形成原料には、ALDウィンドウが十分に広く、熱安定性に優れ、反応性ガスと低い温度で反応し、生産性よく品質の良い薄膜を製造できることが求められている。なかでも、ALDウィンドウが広く、品質の良い薄膜を得ることができる原子層堆積法用薄膜形成原料が強く求められていた。しかしながら、特許文献1で具体的に開示されている(ジメチルアミノ-2-メチル-2-プロポキシ)スズ(II)及び(ジメチルアミノ-2-メチル-ブトキシ)スズ(II)のALDウィンドウは極端に狭いため、これらの化合物を原子層堆積法用薄膜形成原料として用いた場合、薄膜の形成を制御することが難しい。仮に、これらの化合物を原子層堆積法用薄膜形成原料として用い、狭い温度領域でALD法により薄膜を形成しても、1サイクル当たりに得られる膜厚が薄くなる。そのため、これらの化合物を原子層堆積法用薄膜形成原料として用いても、成膜速度が遅い上に、薄膜中に残留炭素成分が大量に混入してしまうという課題があった。
【0008】
従って、本発明は、スズ原子を含有する品質の良い薄膜を生産性良く製造することができる原子層堆積法用薄膜形成原料及びその原料を用いた薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検討を重ねた結果、原子層堆積法用薄膜形成原料として特定の構造を有するスズ化合物を用いることにより上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物を含有する原子層堆積法用薄膜形成原料である。
【0010】
【0011】
(式中、R1は水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表す。R2及びR3は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。z1は1~3の整数を表す。)
【0012】
本発明は、基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を原子層堆積法により製造する方法であって、上記原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させ、前記基体の表面に堆積させて前駆体薄膜を形成する工程と、前記前駆体薄膜を反応性ガスと反応させて前記基体の表面にスズ原子を含有する薄膜を形成する工程と、を含む薄膜の製造方法である。
【0013】
本発明は、下記一般式(2)で表されるアルコキシド化合物である。
【0014】
【0015】
(式中、R4~R6は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。但し、R4~R6の炭素原子数の合計は4~8である。z2は1~3の整数を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ALDウィンドウが広く、スズ原子を含有する品質の良い薄膜を生産性良く製造することができる原子層堆積法用薄膜形成原料を提供することができる。また、本発明によれば、スズ原子を含有する品質の良い薄膜を生産性良く製造することができる薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる原子層堆積法用装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる原子層堆積法用装置の別の例を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる原子層堆積法用装置の更に別の例を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる原子層堆積法用装置の更に別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料(以下、本発明の薄膜形成原料という)は、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物を含有することを特徴とする。
【0019】
上記一般式(1)において、R1は水素原子又は炭素原子数1~5のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表し、z1は1~3の整数を表す。
【0020】
上記一般式(1)において、R1~R3で表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、第二ペンチル基、第三ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)におけるR1~R3及びz1の組み合わせは、アルコキシド化合物が常温常圧下において液体状態となり、蒸気圧が大きくなるものが好ましい。具体的には、R1が水素原子であるアルコキシド化合物は、ALDウィンドウが広く、生産性良く薄膜を得ることができることから好ましい。なかでも、R1が水素原子であり、R2及びR3がメチル基又はエチル基であり、且つz1が1であるアルコキシド化合物は、蒸気圧が高く融点も低いことから特に好ましい。また、R1が炭素原子数1~4のアルキル基であるものは、ALDウィンドウが広く、残留炭素が少なく品質の良い薄膜を得ることができることから好ましい。なかでも、R1が炭素原子数1~4のアルキル基であり、且つR2及びR3がメチル基、エチル基又はイソプロピル基であるアルコキシド化合物は、この効果が特に高いことから好ましい。また、R1がメチル基、エチル基又はイソプロピル基であり、R2及びR3がメチル基又はエチル基であり、且つz1が1であるアルコキシド化合物は、蒸気圧が高く融点も低いことから特に好ましい。
【0022】
上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1~No.12が挙げられる。なお、下記化合物No.1~No.12において、「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「iPr」はイソプロピル基を表す。
【0023】
【0024】
【0025】
上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物の製造方法としては、該当するアルコールを用いた周知一般のアルコキシド化合物の合成方法を応用することができる。具体的には、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物の製造方法として、スズのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物とを、ナトリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、アンモニア、アミン等の塩基の存在下で反応させる方法、スズのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物のナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属アルコキシドとを反応させる方法、スズのメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等の低分子アルコールのアルコキシド化合物と、該当するアルコール化合物とを交換反応させる方法、スズのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩と反応性中間体を与える誘導体とを反応させて、反応性中間体を得た後、該反応性中間体と該当するアルコール化合物とを反応させる方法等が挙げられる。反応性中間体としては、ビス(ジアルキルアミノ)スズ、ビス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)スズ、スズのアミド化合物等が挙げられる。
【0026】
本発明の薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物を含有するものであればよく、その組成は、目的とする薄膜の種類によって異なる。例えば、金属としてスズのみを含む薄膜を製造する場合、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、スズと、スズ以外の金属及び/又は半金属とを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物に加えて、スズ以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の薄膜形成原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
【0027】
〔他のプレカーサ〕
本発明において、他のプレカーサは、基体の表面にスズ以外の金属及び/又はケイ素を更に含む薄膜を形成する場合に使用される成分であり、他のプレカーサの種類及び含量は、薄膜に導入する金属の種類、金属及び/又はケイ素の量等により決定すればよい。本発明の薄膜形成原料に使用される他のプレカーサは、特に制限を受けず、原子層堆積法用薄膜形成原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0028】
他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、アミン化合物等の有機化合物とケイ素又はスズ以外の金属との反応物、該有機化合物を配位子とする金属の化合物等が挙げられる。
【0029】
他のプレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、インジウム、ゲルマニウム、ガリウム、鉛、アンチモン、ビスマス、スカンジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0030】
アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-s-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0031】
グリコール化合物としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0032】
β-ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0033】
シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0034】
アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0035】
上記した他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0036】
他のプレカーサとしては、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物と熱及び/又は酸化分解の挙動が類似しており、混合時に化学反応等による変質を起こさない化合物が好ましい。
【0037】
〔有機溶剤〕
有機溶剤は、後述する原料導入工程において、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物又は他のプレカーサを希釈する溶剤として使用される。本発明の薄膜形成原料に使用される有機溶剤としては、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物及び他のプレカーサを分解、変質させるものでなければ特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基で置換された炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
〔求核性試薬〕
求核性試薬は、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物及び他のプレカーサの安定性を向上させる目的で配合される成分である。本発明の薄膜形成原料に使用される求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。求核性試薬の使用量は、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物と他のプレカーサとの合計量1モルに対して、0.1モル~10モルであることが好ましく、1モル~4モルであることがより好ましい。
【0039】
本発明の薄膜形成原料には、一般式(1)で表されるアルコキシド化合物、他のプレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬以外の不純物、例えば、不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が最も好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が最も好ましい。
【0040】
また、本発明の薄膜形成原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにすることが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが最も好ましい。
【0041】
本発明の薄膜形成原料中の水分は、本発明の薄膜形成原料や薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。従って、本発明の薄膜形成原料に使用する一般式(1)で表されるアルコキシド化合物、他のプレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬は、予めできる限り水分を取り除いた方がよい。
【0042】
本発明の薄膜の製造方法は、基体の表面にスズ原子を含有する薄膜をALD法により製造する方法であって、上記した原子層堆積法用薄膜形成原料を用いることを特徴とする。ALD法では、通常、基体が設置された成膜チャンバー内に薄膜形成原料を導入する原料導入工程、基体の表面に薄膜形成原料を堆積させて前駆体薄膜を形成させる前駆体薄膜形成工程、基体の表面上の前駆体薄膜を反応性ガスと反応させて基体の表面に金属原子を含有する薄膜を形成する金属含有薄膜形成工程を有している。以下、本発明の薄膜の製造方法について詳しく説明する。
【0043】
〔原料導入工程〕
原料導入工程は、基体が設置された成膜チャンバー内に本発明の薄膜形成原料を導入する工程である。本発明の薄膜形成原料を、成膜チャンバー内に導入する方法は、薄膜形成原料が貯蔵される容器(以下、単に「原料容器」と記載することがある)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された成膜チャンバー内へと導入する気体輸送法でもよいし、本発明の薄膜形成原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、該蒸気を成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法でもよい。本発明の薄膜形成原料を蒸気とする際の好ましい温度及び圧力は、0℃~200℃及び1Pa~10000Paである。
【0044】
2種以上の金属種を含む薄膜又は金属種とケイ素とを含む薄膜を形成する多成分系のALD法の場合は、各プレカーサを混合してから気化し導入するカクテルソース法と、各プレカーサを独立で気化し導入するシングルソース法があり、使用するプレカーサは、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似しているものが選択される。カクテルソース法の場合は他のプレカーサを含む本発明の薄膜形成原料を用いればよく、シングルソース法の場合は、他のプレカーサを含まない本発明の薄膜形成原料と、他のプレカーサを含む薄膜形成原料とを用いればよい。
【0045】
本発明の薄膜形成原料を気化させた蒸気が導入される成膜チャンバー内には、スズ原子を含有する薄膜を形成させるための基体が設置される。基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0046】
〔前駆体薄膜形成工程〕
前駆体薄膜形成工程は、基体の表面に薄膜形成原料を堆積させて前駆体薄膜を形成させる工程である。成膜チャンバー内に導入されたプレカーサの蒸気は基体表面に堆積し、基体表面に前駆体薄膜を形成する。成膜チャンバー内の圧力は、1Pa~10000Paが好ましく、10Pa~1000Paがより好ましい。また、基体の温度は、好ましくは室温~500℃、より好ましいは100℃~400℃であり、この温度範囲になるよう基体又は成膜チャンバーを加熱してもよい。なお、前駆体薄膜形成工程と金属含有薄膜形成工程とを連続して行う場合には、前駆体薄膜形成工程における基体の温度を、後述する金属含有薄膜形成工程における基体の温度と同じにしてもよい。前駆体薄膜の厚さが余りに厚い場合は、金属含有薄膜形成工程における前駆体薄膜と反応性ガスとの反応が不十分になることから、反応性ガスの反応性、反応条件等を考慮し調整すればよい。
【0047】
〔金属含有薄膜形成工程〕
金属含有薄膜形成工程は基体の表面上の前駆体薄膜を反応性ガスと反応させて基体の表面に金属原子を含有する薄膜を形成する工程である。反応性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス、水素等の還元性ガス、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガス等が挙げられる。これらの反応性ガスは、形成させる薄膜の種類、反応性、ALDウィンドウ等を考慮し選択される。これらの反応性ガスは、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。一般式(1)で表されるアルコキシド化合物は、酸化性ガスと特異的に低い温度で反応する性質を有しており、特に水蒸気と良好に反応する。このため、形成するスズ原子を含有する薄膜が、酸化スズ薄膜である場合には、膜中の残留炭素が少なく品質の良い薄膜を生産性よく製造することができることから、水蒸気を含有する反応性ガスを用いることが好ましい。
【0048】
金属含有薄膜形成工程における基体の温度は、使用する反応性ガスの反応性、ALDウィンドウ、前駆体薄膜の厚さ等を考慮し設定すればよい。例えば、反応性ガスとして酸化性ガスを使用した場合のALDウィンドウは概ね100℃~300℃であるため、基体の温度はこの範囲で生産性を考慮して設定すればよい。
【0049】
上記した製造方法により、スズ原子を含有する薄膜が得られるが、薄膜が所望の膜厚に満たない場合には、原料導入工程、前駆体薄膜形成工程、金属含有薄膜形成工程を1サイクルとし、所望の膜厚になるまでこのサイクルを複数回繰り返してもよい。各工程では蒸気や副生したガスが発生し、これらが後の工程で悪影響を与える場合がある。そのため、蒸気や副生したガスを成膜チャンバーから除去するための排気工程を行ってもよい。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paが好ましく、0.01Pa~100Paがより好ましい。
【0050】
なお、本発明の薄膜の製造方法では、プラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。該エネルギーを印加する時期及び触媒を用いる時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程における薄膜形成原料の蒸気の導入時、前駆体薄膜形成工程又は金属含有薄膜形成工程における加熱時、排気工程における系内の排気時、金属含有薄膜形成工程における反応性ガス導入時でもよく、上記した各工程の間でもよい。
【0051】
また、本発明の薄膜の製造方法より得られた薄膜は、薄膜形成の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200℃~1000℃であり、250℃~500℃が好ましい。
【0052】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知の原子層堆積法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図1のようなプレカーサをバブリング供給することのできる装置や、
図2のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3及び
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。
図1~
図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0053】
上記一般式(2)で表されるアルコキシド化合物は、新規化合物である。一般式(2)において、R4~R6は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。但し、R4~R6の炭素原子数の合計は4~8である。炭素原子数1~5のアルキル基としては、上記一般式(1)のR1~R3で例示したアルキル基が挙げられる。z2は1~3の整数を表す。一般式(2)で表されるアルコキシド化合物は、上記一般式(1)で表されるアルコキシド化合物と同様の方法で製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、合成例、実施例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0055】
[合成例1]化合物No.1の合成
100mLの3つ口フラスコに塩化スズ(II)二水和物1.53g(6.78mmol)及びオルトギ酸トリメチル1.44g(13.6mmol)を仕込み、室温下で1時間撹拌した。フラスコ中へ、メタノール50mLを加え、ナトリウムメトキシド2.62g(28%メタノール溶液、13.6mmol)をメタノール2.5mLで希釈した溶液を室温下で滴下した。滴下終了後、室温下で2時間撹拌した。次に、フラスコ中へ、2-ジメチルアミノ-1-エタノール1.33g(14.9mmol)を室温下で滴下し、滴下終了後、室温下で20時間撹拌した。バス温度77℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた残渣にトルエン50mLを加えて撹拌後、ろ過を行った。バス温度92℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた淡黄色液体を119℃、38Paの条件下で蒸留して無色透明液体(空冷により凝固、融点53℃)である目的物を得た。収量は1.49g、収率は75%であった。
【0056】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:205℃(760Torr、Ar流量:100mL/分、昇温10℃/分)
(2)減圧TG-DTA
質量50%減少温度:110℃(10Torr、Ar流量:50mL/分、昇温10℃/分)
(3)1H-NMR(重ベンゼン)
2.09ppm(6H,broad)、2.34ppm(2H,broad)、4.25ppm(2H,broad)
(4)元素分析(理論値)
C:32.7質量%(32.58質量%)、H:6.9質量%(6.83質量%)、O:10.7質量%(10.85質量%)、N:9.6質量%(9.50質量%)、Sn:40.1質量%(40.24質量%)
【0057】
[合成例2]化合物No.4の合成
500mLの4つ口フラスコにビス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)スズ(II)32.5g(0.0740mol)及びヘキサン145mLを仕込んだ。次に、フラスコ中へ、1-(ジメチルアミノ)-2-プロパノール16.0g(0.155mol)を氷冷下で滴下した。滴下終了後、室温下で19時間撹拌した。バス温度75℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた結晶を85℃、40Paの条件下で昇華して無色結晶(融点77℃)である目的物を得た。収量は22.7g、収率は95%であった。
【0058】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:168℃(760Torr、Ar流量:100mL/分、昇温10℃/分)
(2)減圧TG-DTA
質量50%減少温度:93℃(10Torr、Ar流量:50mL/分、昇温10℃/分)
(3)1H-NMR(重ベンゼン)
1.30-1.32ppm(3H,doublet)、1.80-2.66ppm(8H)、4.22-4.33ppm(1H,broad)
(4)元素分析(理論値)
C:37.3質量%(37.18質量%)、H:7.6質量%(7.49質量%)、O:9.7質量%(9.91質量%)、N:8.6質量%(8.67質量%)、Sn:36.8質量%(36.75質量%)
【0059】
[合成例3]化合物No.7の合成
500mLの4つ口フラスコに塩化スズ(II)二水和物19.3g(0.0855mol)及びオルトギ酸トリメチル18.1g(0.171mol)を仕込み、メタノール200mLを加え、室温下で1時間撹拌した。フラスコ中へ、ナトリウムメトキシド33.0g(28%メタノール溶液、0.171mol)を氷冷下で滴下し、氷冷下で0.5時間撹拌した。次に、フラスコ中へ、1-ジメチルアミノ-2-ブタノール22.0g(0.188mol)を氷冷下で滴下し、滴下終了後、室温下で2.5時間撹拌し、その後、バス温度50℃で4時間撹拌した。バス温度90℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた残渣にトルエン200mLを加えて撹拌後、ろ過を行った。バス温度100℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた淡黄色液体を110℃、40Paの条件下で蒸留して無色透明液体(融点39℃)である目的物を得た。収量は16.0g、収率は53%であった。
【0060】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:186℃(760Torr、Ar流量:100mL/分、昇温10℃/分)
(2)減圧TG-DTA
質量50%減少温度:108℃(10Torr、Ar流量:50mL/分、昇温10℃/分)
(3)1H-NMR(重ベンゼン)
1.17-1.21ppm(3H,triplet)、1.41-1.58ppm(2H,multiplet)、1.80-2.33ppm(7H)、2.59-2.64ppm(1H,triplet)、3.88-3.95ppm(1H,multiplet)
(4)元素分析(理論値)
C:41.2質量%(41.05質量%)、H:8.2質量%(8.04質量%)、O:8.9質量%(9.12質量%)、N:8.0質量%(7.98質量%)、Sn:33.7質量%(33.81質量%)
【0061】
[実施例1]酸化スズ薄膜の製造
化合物No.1を原子層堆積法用薄膜形成原料とし、
図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に酸化スズ薄膜を製造した。X線光電子分光法により、得られた薄膜の組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素含有量は3.5atom%であった、また、走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、平均膜厚は52.0nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.052nmであった。なお、化合物No.1のALDウィンドウは、150~250℃であることを確認した。
【0062】
(条件)
基板:シリコンウエハ、反応温度(シリコンウエハ温度):200℃、反応性ガス:水蒸気
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、1000サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:70℃、原料容器内圧力:100Paの条件で気化させた原子層堆積法用原料を成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで10秒間堆積させる。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、堆積しなかった原子層堆積法用原料を除去する。
(3)反応性ガスを成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで0.1秒間反応させる。
(4)90秒間のアルゴンパージにより、未反応の反応性ガス及び副生ガスを除去する。
【0063】
[実施例2]酸化スズ薄膜の製造
原子層堆積法用薄膜形成原料として化合物No.4を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で酸化スズ薄膜を製造した。X線光電子分光法により、得られた薄膜の組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素含有量は1.0atom%よりも少なかった。また、走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均10.0nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.010nmであった。なお、化合物No.4のALDウィンドウは、100~250℃であることを確認した。
【0064】
[実施例3]酸化スズ薄膜の製造
原子層堆積法用薄膜形成原料として化合物No.7を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で酸化スズ薄膜を製造した。X線光電子分光法により、得られた薄膜の組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素含有量は1.0atom%よりも少なかった。また、走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、平均膜厚は14.0nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.014nmであった。なお、化合物No.7のALDウィンドウは、100~250℃であることを確認した。
【0065】
[比較例1]酸化スズ薄膜の製造
原子層堆積法用薄膜形成原料として下記比較化合物1を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で酸化スズ薄膜を製造した。X線光電子分光法により、得られた薄膜の組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化スズであり、残留炭素含有量は10.0atom%であった。また、走査型電子顕微鏡法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、平均膜厚は5.0nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.005nmであった。なお、比較化合物1のALDウィンドウは、100~150℃であることを確認した。
【0066】
【0067】
実施例1~3の結果より、いずれも残留炭素含有量が低く、品質の良い酸化スズ薄膜を製造することができたことがわかった。なかでも、実施例1では1サイクル当たりに得られる膜厚が厚く、生産性よく薄膜を得ることができることがわかった。また、実施例2及び3は、残留炭素含有量が非常に低く、品質の極めて良い酸化スズ薄膜を得ることができるということがわかった。一方、比較例1の結果より、類似した構造の比較化合物1を用いた場合には、1サイクル当たりに得られる膜厚が実施例1~3と比較して非常に薄く、残留炭素含有量が非常に多く、品質の悪い薄膜が得られた。また、化合物No.1のALDウィンドウの広さは100℃程度であり、化合物No.4及び化合物No.7のALDウィンドウの広さは150℃程度あることがわかった。一方、比較化合物1のALDウィンドウの広さは50℃程度であるため、比較化合物1は原子層堆積法用薄膜形成原料として使い難いことがわかった。
【0068】
以上の結果より、本発明によれば、ALD法により品質の良い酸化スズ薄膜を生産性よく製造することができることがわかった。