IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清フーズ株式会社の特許一覧

特許7418421食品被覆組成物並びに加工食品及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】食品被覆組成物並びに加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240112BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240112BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240112BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20240112BHJP
   A23G 1/30 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23L5/10 E
A23L13/00 D
A23L17/00 Z
A23G1/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021518403
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2020018624
(87)【国際公開番号】W WO2020226171
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019089060
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴史
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】辻 章人
(72)【発明者】
【氏名】重松 亨
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0181907(US,A1)
【文献】特開2004-065070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L*35以下のココアパウダーとこれを分散させる粉体分散媒とを含有し、
前記ココアパウダーの含有量が0.1~10質量%であり、
畜肉類又は魚介類を含む食品用である、食品被覆組成物。
【請求項2】
食品の表面に、請求項に記載の食品被覆組成物を付着させた後、該食品を加熱調理する工程を有する、加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱調理が、油ちょう調理、オーブン調理及び蒸熱調理から選択される1種以上である、請求項に記載の加工食品の製造方法。
【請求項4】
畜肉類又は魚介類を含み、表面にL*35以下のココアパウダーが付着している加工食品であって、
前記ココアパウダーの含有量が、前記加工食品100質量部に対して、0.005~1質量部である、加工食品。
【請求項5】
前記加工食品は、加熱調理されるが燻煙処理及び炭火調理はされない食品又はその製造中間品として使用される、請求項に記載の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙処理及び炭火調理無しで、燻煙処理品や炭火調理品と同様の外観を食品に付与し得る食品被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燻煙処理は、木材のチップを加熱して発生する煙(揮発性成分)を食品にまとわせる処理である。燻煙処理によって、食品に独特の香味や外観が付与されるとともに、食品中の水分が蒸発し、燻煙処理に供された木材中の抗菌物質が食品に付着することで、食品中の微生物が減少し、食品の保存性が高められる。燻煙処理された食品としては、例えばベーコン、スモークハム、スモークサーモン等が挙げられ、これらは保存食品としても流通していて人気がある。燻煙処理された食品は、煙でいぶされた食品に特有の、穏やかに焦げたような暗い色合いの外観を有しており、この特徴的な外観が、見る者の食欲をそそり、該食品への嗜好性を高めることに寄与している。一方で、燻煙処理は数時間から数十時間の長時間をかけて行う必要があるため、大量生産される食品には不向きである。特許文献1には、短時間で燻煙処理を行う装置として、燻煙発生手段及び高周波加熱手段を備えた装置が開示されているが、高周波加熱は食品の局所的な過加熱が起こりやすく、焦げが強くなる、加熱ムラが生じやすいなどの問題がある。
【0003】
そこで従来、燻煙処理を行わずに、燻煙処理された場合と同様の品質を食品に付与する技術が検討されており、例えば、燻製液ないし木酢液に食品を浸漬する方法が知られている。しかし、この方法によって得られた食品は、香味については燻煙処理された食品と同様となり得るものの、外観については燻煙処理されていない通常の食品と変わらないため、喫食時に香味と外観との食い違いがあり、喫食者に違和感を知覚させるという問題がある。
【0004】
また近年、炭火で食品を焼調理する炭火調理が注目されている。炭火調理された食品は、炭火から発生する遠赤外線によって表面から内部にわたって穏やかに加熱されていて旨味が活性化しているとともに、炭火調理の際に食品の脂が炭火に触れることで発生する煙でいぶされることで、独特の香味や焦げ目が付与されており、人気がある。特にこの焦げ目は、前述した燻煙処理品に特有の暗い色合いの外観と同様に、見る者の食欲をそそり、炭火調理品への嗜好性の向上に寄与し得るものであるが、焦げの程度によっては焦げ臭くなるなど、炭火調理品の品質の低下を招く場合がある。炭火調理において、食品に適度な焦げ目が付くように焼き加減を調整することは容易ではない。
【0005】
食品の外観向上を課題とする技術に関し、特許文献2には、衣の花散り及び色調が良好な揚げ物を製造し得る衣材として、乳化剤と天然抗酸化物とを含有するものが開示され、該天然抗酸化物として、ウーロン茶、カカオ、ゴマ、ダイズ等が例示されている。しかし、特許文献2記載技術が衣の色調について目指しているところは、揚げ物らしさが感じられる色調、すなわち通常の揚げ物における衣の色調であり、燻煙処理や炭火調理された場合の如き特殊な色調ではない。特許文献2には、揚げ物に燻煙処理品や炭火調理品の如き外観を付与することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-20046号公報
【文献】特開2002-27933号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の課題は、燻煙処理品や炭火調理品に特有の外観を燻煙処理及び炭火調理無しで食品に付与し得る食品被覆組成物を提供することである。
また、本発明の課題は、燻煙処理及び炭火調理を行わずとも、それらを行ったかの如き外観を有する加工食品を提供することである。
【0008】
本発明は、L*35以下のココアパウダーとこれを分散させる粉体分散媒とを含有する、食品被覆組成物である。
【0009】
また本発明は、食品の表面に、前記の本発明の食品被覆組成物を付着させた後、該食品を加熱調理する工程を有する、加工食品の製造方法である。
【0010】
また本発明は、表面にL*35以下のココアパウダーが付着している加工食品である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に断らない限り、本明細書における「AA~BB質量%」などという記載は、「AA質量%以上BB質量%以下」を表すものとする。
【0012】
本発明の食品被覆組成物は、ココアパウダーを含有する。ココアパウダーは、カカオの種子(カカオ豆)を粉砕物から油脂分を除いたものであり、常温常圧(具体的には雰囲気温度25℃、1気圧)で粉末状である。ココアパウダーは、典型的には、カカオ豆を発酵・焙煎させた後、種皮と胚芽を取り除いた部分を磨り潰してカカオマスを得、カカオマスを絞って油脂分(ココアバター)を搾油した残りの部分(ココアケーキ)を粉砕して得られる。こうして得られたココアパウダーは、油脂分を約8~25質量%程度含む。ココアパウダーは、原料となるカカオ豆の種類や産地、焙煎・アルカリ処理の程度等によって、「黒色」ないし「焦げ茶色」ないし「茶色」と種々の色合いのものがある。
【0013】
本発明で用いるココアパウダーは、L*35以下のココアパウダーである。ここでいう「L*」は、CIELAB色空間(CIELAB L*a*b*色差式)において、色の明度を表す指標である。L*は0~100の範囲であり、L*=0は黒、L*=100は白となる。L*35以下のココアパウダーの色合いは、「黒色」ないし「焦げ茶色」である。以下では、L*35以下のココアパウダーを「黒色系ココアパウダー」ともいう。
【0014】
ココアパウダーは通常、ココア飲料や菓子の風味付けなどに使用されるものであるが、本発明の食品被覆組成物では、燻煙処理された食品(燻煙処理品)や炭火調理された食品(炭火調理品)に特有の外観、具体的には例えば、穏やかに焦げたような暗い色合い及び/又は適度な焦げ目を有する外観を食品に付与するために使用しており、斯かる使用目的のために、ココアパウダーのL*を35以下に設定している。L*が35を超えるココアパウダーでは、燻煙処理も炭火調理もされていない食品に燻煙処理品又は炭火調理品と同様の外観を付与することはできない。ココアパウダーのL*は、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。ココアパウダーのL*は分光測色計を用いて測定することができる。
【0015】
なお、CIELAB色空間では、「L*」が色の明度の指標となっているほか、「a*」が赤と緑の指標、「b*」が青と黄の指標となっており、L*a*b*による3次元空間の位置で色を表している。しかし、本発明で用いるココアパウダーは、カカオ豆に由来するもので且つL*35以下を満たしさえすればよく、ココアパウダーのa*及びb*は特に考慮しなくてよい。
【0016】
本発明の食品被覆組成物において、黒色系ココアパウダーの含有量は、該食品被覆組成物の全質量に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.3~7質量%、更に好ましくは0.6~4質量%である。黒色系ココアパウダーの含有量が少なすぎると、これによって期待される視覚的効果、すなわち燻煙処理品様又は炭火調理品様の外観付与効果が奏されず、逆に黒色系ココアパウダーの含有量が多すぎると、食品被覆組成物が適用された食品において、黒色系ココアパウダーの色合いが強くなりすぎてしまい、該食品が本来有する色合いが損なわれるおそれがある。
【0017】
本発明の食品被覆組成物は、黒色系ココアパウダーに加えて更に、これを分散させる粉体分散媒を含有する。本発明の食品被覆組成物による前述の視覚的効果は、黒色系ココアパウダーが食品の表面に均一に付与されることで安定的に奏されるところ、ココアパウダーをそれ単独で分散媒無しで食品の表面に均一に付着させることは容易ではない。例えば、手動でココアパウダーを食品に振りかける方法、まな板等の上面に散布されたココアパウダーの上で食品を転動する方法などでは、ココアパウダー粒子が凝集し比較的大きな塊となった状態で食品の表面に付着する結果、ココアパウダーによる黒色~焦げ茶色の部分が食品の表面に斑点状に分布した好ましくない外観となるか、又は食品の表面に過剰量のココアパウダーが付着する結果、食品の表面全体が黒色系に着色された好ましくない外観となるおそれがある。そこで本発明の食品被覆組成物では、黒色系ココアパウダーとともにこれを分散させる粉体分散媒を併用することで、食品への適用時に黒色系ココアパウダーが凝集して塊状になるのを防止するとともに、黒色系ココアパウダーが食品の表面に不均一に付着することを防止し、所定の視覚的効果が安定的に奏されるようにしている。
【0018】
本発明で用いる粉体分散媒は、常温常圧で粉体であり且つ食品に使用可能なものであればよく、本発明の食品被覆組成物が適用される食品の種類等に応じて適宜選択し得る。粉体分散媒としては、例えば、麦粉、コーンフラワー、米粉等の穀粉;未加工澱粉、加工澱粉、澱粉分解物等の澱粉;パン粉、クラッカー粉等の穀粉焼成物;単糖、二糖等の糖類;ガム、増粘多糖類等の増粘剤;全卵粉、卵白粉等の卵粉;大豆粉、大豆たんぱく等の大豆素材粉末;食物繊維;膨張剤;乳化剤;食塩、粉末醤油、発酵調味料、粉末味噌、アミノ酸等の調味料;香辛料;香料;ビタミン、ミネラル等の栄養成分;着色料;粉末油脂;塩類、などが挙げられる。これらの粉体分散媒は、所望する食品の特性に応じて、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明の食品被覆組成物において、粉体分散媒の含有量は、該食品被覆組成物の全質量に対して、好ましくは90~99.9質量%、より好ましくは93~99.7質量%、更に好ましくは96~99.4質量%である。
【0020】
好ましい粉体分散媒の一例として、粉体分散媒の総体(粉体分散媒のみの集合体)としての色合いが白色~黄色となるもの、より具体的には、L*が好ましくは85以上、より好ましくは90~99となるものを例示できる。このような色合いの粉体分散媒を用いることで、粉体分散媒の色が黒色系ココアパウダーの色に与える影響を最小限に抑えることが可能となり、黒色系ココアパウダーに起因する視覚的効果(燻煙処理品様又は炭火調理品様の外観付与効果)が一層確実に奏されるようになる。
【0021】
総体としての色合いが白色~黄色となる粉体分散媒の具体例として、穀粉類、澱粉類、糖類を例示できる。また、本発明の食品被覆組成物が食品の風味に与える影響を最小限に抑えることが要求される場合は、粉体分散媒として、風味に与える影響が比較的大きい糖類は使用せず、斯かる影響が比較的小さい穀粉類、澱粉類を使用することが好ましい。穀粉類としては小麦粉、コーンフラワー、米粉、大麦粉を例示でき、澱粉類としてはコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、及びそれらの加工澱粉を例示できる。本発明の食品被覆組成物において、粉体分散媒としての穀粉類、澱粉類及び糖類の総含有量は、該食品被覆組成物の全質量に対して、好ましくは50~99.9質量%、より好ましくは70~99質量%、更に好ましくは85~98質量%である。
【0022】
本発明の食品被覆組成物は、必要に応じて前記成分(黒色系ココアパウダー、粉体分散媒)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、香料、調味料、保存料、栄養素等が挙げられる。本発明の食品被覆組成物は、典型的には、黒色系ココアパウダー及び粉体分散媒のみからなる。本発明の食品被覆組成物は、各種成分を混合することで製造することができる。
【0023】
本発明の食品被覆組成物は、食品の表面に付着させて使用する。本発明の食品被覆組成物は、種々の食品に適用することができ、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギ等の畜肉類;イカ、エビ、カキ、タコ、アジ等の魚介類;野菜類などが挙げられる。本発明の食品被覆組成物が適用される食品は、生(非加熱)でもよく、加熱調理されていてもよい。本発明の食品被覆組成物の主たる効果が、燻煙処理品様又は炭火調理品様の外観付与である点に鑑みると、本発明の食品被覆組成物が適用される食品は、その製造工程において加熱調理はされるものの、燻煙処理及び炭火調理はされないものであることが好ましい。すなわち本発明の食品被覆組成物は、燻煙処理も炭火調理もされていないが燻煙処理品又は炭火調理品の如き外観を有する、燻煙処理品様又は炭火調理品様加熱調理食品の製造に好適である。
【0024】
本発明の食品被覆組成物は、畜肉類又は魚介類を含む食品用として特に有用である。本発明の食品被覆組成物が適用可能な「畜肉類を含む食品」としては、例えば、鶏から揚げ、鶏あぶり焼き、フライドチキン、竜田揚げ、焼き鳥、焼肉、串焼き、ステーキ、ハム、ソーセージ、トンカツ、ハムカツ、チキンカツ等の加熱調理食品を例示できる。本発明の食品被覆組成物が適用可能な「魚介類を含む食品」としては、例えば、エビフライ、天ぷら、フリッター、ポップコーンシュリンプ、カキフライ、イカから揚げ、タコから揚げ、竜田揚げ等の加熱調理食品を例示できる。
【0025】
本発明の食品被覆組成物は、そのまますなわち粉体の状態で食品の表面に付着させてもよく、あるいは液体と混合し、液体に食品被覆組成物を溶解又は分散させた状態で食品の表面に付着させてもよい。
【0026】
本発明の食品被覆組成物を食品の表面に付着させるタイミングは特に限定されず、食品の調理前でもよく、食品の調理中でもよく、食品の調理が完了した後(食品の喫食前)でもよく、適用対象の食品の形状、調理形態、喫食形態等に応じて適宜選択することができる。本発明の食品被覆組成物の使用方法、すなわち該食品被覆組成物を用いた加工食品の製造方法の具体例として、下記(1)~(5)を例示できる。
【0027】
(1)本発明の食品被覆組成物を、液体と混合せずにそのまま粉体の状態で食品にまぶして該食品の表面に付着させた後、焼調理を行う方法。斯かる方法によって得られる加工食品の具体例として、畜肉類を用いたソテーを例示できる。
(2)本発明の食品被覆組成物を、液体と混合せずにそのまま粉体の状態で食品にまぶして該食品の表面に付着させた後、油ちょう調理を行う方法。斯かる方法によって得られる加工食品の具体例として、畜肉類、魚介類又は野菜類を用いたから揚げを例示できる。
(3)本発明の食品被覆組成物を、液体と混合せずにそのまま粉体の状態で調理済みの食品の表面に付着させる方法。斯かる方法によって得られる加工食品の具体例として、フライドポテトを例示できる。
(4)本発明の食品被覆組成物を液体と混合し、その混合物を食品の表面に付着させた後、油ちょう調理を行う方法。斯かる方法によって得られる加工食品の具体例として、前記液体として水を用い、前記食品として畜肉類、魚介類又は野菜類を用いた天ぷらを例示でき、その場合、食品被覆組成物と液体との混合物は、いわゆるバッターである。
(5)本発明の食品被覆組成物を液体と混合し、その混合物を調理済みの食品の表面に付着させる方法。斯かる方法によって得られる加工食品の具体例として、前記調理済みの食品として油ちょう調理された甘薯を用いた大学イモを例示でき、その場合、甘藷に前記混合物を付着した後、冷却してもよい。
【0028】
本発明の食品被覆組成物による所定の効果が十分に発揮されるためには、これが適用された食品の表面で黒色系ココアパウダーが凝集しないことが重要である。斯かる点を考慮すると、本発明の食品被覆組成物の使用方法としては、後述する本発明の加工食品の製造方法のように、食品の表面に食品被覆組成物を付着させた後、該食品を加熱調理する方法が好ましい。前記(1)~(5)の中では、食品被覆組成物の付着後に加熱調理を行う前記(1)、(2)及び(4)が好ましい。
【0029】
次に、本発明の加工食品の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、食品の表面に前述した本発明の食品被覆組成物を付着させた後、該食品を加熱調理する工程を有し、食品被覆組成物付着工程と加熱調理工程とを有する。
【0030】
前記食品被覆組成物付着工程では、食品の表面に本発明の食品被覆組成物を付着させる。本発明の食品被覆組成物によって奏される主たる効果が、燻煙処理品様又は炭火調理品様の外観付与という視覚的効果であることから、前記食品被覆組成物付着工程では、少なくとも、食品被覆組成物の付着対象である食品が自然状態(外力がかかっていない状態)のときに外部から目視で視認可能な部分に食品被覆組成物を付着させることが好ましい。例えば、鶏もも肉などの畜肉類を含む食品は、折れ曲がった部分や折り畳まれた部分を含む場合があり、該部分の表面は自然状態では目視で視認できず、手指で該部分を展開するなどして外力をかけた状態にしないと目視で視認できないところ、食品被覆組成物は、そのような外力無しでは目視で視認できない表面には付着させなくてもよいが、少なくとも、食品が自然状態のときに外部から目視で視認可能な該食品の表面(以下、「視認可能表面」ともいう。)に付着させることが好ましい。
【0031】
前述した食品被覆組成物による視覚的効果を十分に発揮させる観点から、前記食品被覆組成物付着工程を経た食品の表面を目視で観察した場合に、該食品の前記視認可能表面の全面積の0.1~10%を占める部分において、食品被覆組成物由来の黒色系ココアパウダーが分散状態で付着していることが好ましく、これが実現するように、前記食品被覆組成物付着工程で食品に食品被覆組成物を付着させることが好ましい。ここでいう、「分散状態で付着」とは、ココアパウダー粒子が実質的に凝集せずに食品の表面に付着している状態を意味し、より具体的には、食品の表面(前記視認可能表面の全面積の0.1~10%を占める部分)に付着しているココアパウダー粒子(複数のココアパウダー粒子が凝集している場合はその凝集体)の最大差し渡し長さの平均値(典型的には平均粒子径)が、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.7mm以下である場合を意味する。なお、本発明で使用するココアパウダー粒子の平均粒子径(凝集していない状態での平均粒子径)は、通常5~30μm程度である。
【0032】
前記食品被覆組成物付着工程では、食品被覆組成物をそのまますなわち粉体の状態で食品の表面に付着させてもよく、あるいは液体と混合し、液体に食品被覆組成物を溶解又は分散させた状態で食品の表面に付着させてもよい。後者の場合、液体としては、例えば水、牛乳、卵液が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、後者の場合、食品被覆組成物と混合する液体の量は、食品被覆組成物100質量部に対して、好ましくは50~300質量部、より好ましくは70~220質量部、更に好ましくは90~180質量部である。
【0033】
前記食品被覆組成物付着工程において、食品被覆組成物の食品の表面への付着量は、該食品被覆組成物中のココアパウダーの付着量が、該食品100質量部に対して、好ましくは0.005~1質量部、より好ましくは0.05~0.5質量部、更に好ましくは0.08~0.3質量部となる範囲が好ましい。例えば、食品被覆組成物における黒色系ココアパウダーの含有量が1質量%である場合、食品100質量部に対して該食品被覆組成物を0.5~100質量部付着させることで、該食品の表面における黒色系ココアパウダーの付着量は、該食品100質量部に対して0.005~1質量部となり得る。黒色系ココアパウダーの付着量が少なすぎると所定の効果が奏されず、逆にこれが多すぎると、黒色又はこれに近い色の色合いが強くなりすぎてしまい、食品本来の色合いが損なわれるおそれがある。
【0034】
なお、前記食品被覆組成物付着工程の実施前に、いわゆる下味を付ける等の目的で、食品被覆組成物の付着対象である食品を前処理してもよい。斯かる前処理としては、例えば、調味料、ハーブ、スパイス、糖類、アミノ酸、増粘多糖類、酵素等を含む粉末状ないし液体状の調味組成物を、食品に付着又は噴霧する方法、該調味組成物中に食品を浸漬する方法を例示できる。
【0035】
前記加熱調理工程では、前記食品被覆組成物付着工程を経た食品を加熱調理する。前記加熱調理としては、油ちょう調理、オーブン調理、蒸熱調理が好ましく、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記オーブン調理は、公知のオーブンを用い常法に従って食品を加熱調理するものであり、オーブンとしては例えば、オーブントースター、ロースターオーブン、スチームオーブン、ジェットオーブン、コンベクションオーブンを例示できる。前記蒸熱調理は、例えば、飽和蒸気中で食品を所定時間加熱調理するものである。
【0036】
本発明の製造方法では、食品の燻煙処理及び炭火調理は実施しないことが好ましい。これらを実施せずとも、本発明の食品被覆組成物を用いることで、これらを実施した場合に得られる外観と同様の外観を食品に付与することができるからである。燻煙処理は、木材のチップなどの燻煙材を加熱して発生する煙を食品にまとわせる処理である。炭火調理は、炭火を用いた食品の焼調理である。本発明の製造方法は、燻煙処理及び炭火調理無しでも、これらを実施した場合と同様の外観を食品に付与することができるため、該食品を効率よく製造することができ、大量生産に向いている。
【0037】
本発明の製造方法の製造目的物である加工食品の具体例としては、例えば、から揚げ、フライドチキン、及び天ぷら等の油ちょう調理食品;フライパン焼、オーブン焼き、過熱水蒸気によるスチーム焼等の焼調理食品;蒸し調理食品を例示できる。また、本発明の製造方法の製造目的物である加工食品は、燻煙処理及び炭火調理無しでもこれらがされたかのような外観を有することから、実際に燻煙処理も炭火調理もされていない場合は、「燻煙処理品様又は炭火調理品様食品」と言うことができる。
【0038】
本発明には、表面に黒色系ココアパウダー(L*35以下のココアパウダー)が付着している加工食品が包含される。本発明の加工食品は、典型的には、前述した本発明の製造方法によって製造することができるが、製造方法は特に限定されず、他の製造方法によって製造してもよい。例えば、前述した本発明の食品被覆組成物ではなく、黒色系ココアパウダーのみを食品の表面に付着させて製造してもよく、その場合、ココアパウダーを薄く均一に吹き付ける装置を利用したり、ココアパウダーを刷毛等に少量とって慎重に食品に付着させたりしてもよい。ただし、本発明の加工食品が、燻煙処理及び炭火調理されていなくてもこれらがされたかのような外観を確実に有するようにするためには、本発明の食品被覆組成物を用いて製造することが好ましく、前述した本発明の製造方法によって製造することがより好ましい。本発明の加工食品については、特に断らない限り、前述した本発明の食品被覆組成物及び製造方法についての説明が適宜適用される。
【0039】
本発明の加工食品は、加熱調理されるが燻煙処理及び炭火調理はされない食品又はその製造中間品として好適に使用できる。ここでいう、「食品の製造中間品」とは、1つ以上の工程を経ることで完成品(製品)としての食品となるものを意味し、例えば、前記「食品」(製品)が鶏から揚げである場合、その製造中間品は例えば、「油ちょう調理前で且つ衣材が表面に付着した状態の鶏肉」であり得、また、該鶏肉は、冷蔵品又は冷凍品であり得る。
【実施例
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1~2、比較例1~3及び参考例〕
色素を含む原料を下記表1の配合で混合して、食品被覆組成物としての揚げ物用衣材を製造した。小麦粉として薄力粉を使用し、澱粉としてコーンスターチを使用した。なお、参考例の衣材は、色素Aを水に直接分散させて製造されたものである。
【0042】
前記衣材の製造に使用した色素のL*は下記のとおりである。色素のL*は以下の条件で測定した。測定は1種類の色素につき3回行い、その3回の測定値の平均値を当該色素のL*とした。なお、下記のカッコ書きは、当該色素の総体としての色合いであり、目視で評価したものである。
・色素A:L*24.75のココアパウダー(黒色)
・色素B:L*33.46のココアパウダー(濃茶色)
・色素C:L*39.02のココアパウダー(茶色)
・色素D:L*43.06のココアパウダー(茶色)
・色素E:L*31.55のカラメル色素(茶色)
【0043】
(L*の測定条件)
・装置 :分光測色計CM-5(コニカミノルタ社製)
・主光源 :D65
・視野 :10°
・測定法 :反射
・測定径 :30mm
・正反射光処理:S
・ジオメトリ :di8°、de8°
【0044】
〔実施例3~11及び比較例4~6〕
色素Aの含有量を下記表2及び表4のように変更した以外は実施例1と同様にして、食品被覆組成物としての揚げ物用衣材を製造した。
【0045】
(製造例1:鶏から揚げの製造)
実施例、比較例及び参考例の衣材を用い、以下の手順で、加工食品としての鶏から揚げを製造した。衣材100質量部に水100質量部を加えてバッター液を調製した。鶏もも肉を1個25gとなるよう切り分け、下味を付けた後、バッター液中に浸漬し、鶏もも肉1個当たり該バッター液2.5gを該鶏もも肉の表面全体に付着させた。そして、バッター液が付着した鶏もも肉を、175℃に熱したサラダ油で1分間油ちょうした後、更に140℃のスチームオーブンで中心温度が80℃になるまで加熱し、鶏から揚げを製造した。製造した鶏唐揚げの粗熱を取った後、凍結した。
【0046】
(製造例2:鶏あぶり焼きの製造)
実施例、比較例及び参考例の衣材を用い、以下の手順で、加工食品としての鶏あぶり焼きを製造した。衣材100質量部に水100質量部を加えてバッター液を調製した。鶏もも肉を1個25gとなるよう切り分け、下味を付けた後、バッター液中に浸漬し、鶏もも肉1個当たり該バッター液2.5gを該鶏もも肉の表面全体に付着させた。そして、バッター液が付着した鶏もも肉を、庫内温度200℃のオーブンで該鶏もも肉の中心温度が80℃になるまで加熱し、鶏あぶり焼を製造した。製造した鶏あぶり焼きの粗熱を取った後、凍結した。
【0047】
(製造例3:エビ天ぷらの製造)
実施例及び比較例の衣材を用い、以下の手順で、加工食品としてのエビフライを製造した。衣材100質量部に水160質量部を加えてバッター液を調製した。エビ(サイズ:21-25)をバッター液中に浸漬し、エビ1尾当たり該バッター液10gを該エビの表面全体に付着させた。そして、バッター液が付着したエビを、170℃に熱したサラダ油で2.5分間油ちょうし、エビフライを製造した。
【0048】
(試験例)
製造した加工食品(鶏から揚げ、鶏あぶり焼き、エビ天ぷら)の外観を10名の専門パネラーに目視で観察してもらい、下記評価基準に従ってスコア化した。鶏から揚げ及び鶏あぶり焼きについては、凍結したものを電子レンジで解凍してから試験に供し、エビ天ぷらについては、製造後粗熱を取ってから試験に供した。結果を10名のスコアの平均値として下記表1~4に示す。
【0049】
<外観の評価基準>
5点:加工食品の表面全体に黒い色合いがつき、非常に良好。
4点:加工食品の表面全体に黒ないし濃茶の色合いがつき、良好。
3点:加工食品の表面に黒ないし濃茶がややムラのある色合い。
2点:加工食品の表面に黒ないし濃茶がムラのある状態でついているか、又は黒色が多くつき、不良。
1点:加工食品の表面に黒ないし濃茶が非常にムラのある状態でついているか、又は黒色が非常に多くつき、非常に不良。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表1に示すとおり、各実施例の衣材(食品被覆組成物)は、L*35以下のココアパウダーである色素A又はBと、これを分散させる粉体分散媒としての小麦粉とを含有することに起因して、これを満たさない各比較例及び参考例に比して、加工食品である鶏から揚げの外観に優れていた。加工食品として鶏あぶり焼きを製造した場合(表3参照)、及びエビ天ぷらを製造した場合(表4参照)も、それぞれ同様の結果となった。つまり、各実施例の衣材を用いて製造された加工食品は、燻煙処理及び炭火調理を行っていないにもかかわらず、これらを行ったかの如き外観を有していた。
また、表2の実施例1及び3~7どうしの対比から、食品被覆組成物におけるL*35以下のココアパウダーの含有量の適切な範囲が推察され、表2の実施例7~9どうしの対比から、食品100質量部に対するL*35以下のココアパウダーの付着量の適切な範囲が推察される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の食品被覆組成物によれば、燻煙処理品や炭火調理品に特有の外観を燻煙処理及び炭火調理無しで食品に付与することができる。したがって本発明の食品被覆組成物によれば、時間がかかる燻煙処理や焼き加減の調整が難しい炭火調理を行わずとも、それらを行ったかの如き外観を有する加工食品を効率よく製造することが可能である。