(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】金属製部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
C09J 5/06 20060101AFI20240115BHJP
C09J 1/00 20060101ALI20240115BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20240115BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20240115BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240115BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C09J5/06
C09J1/00
C09J9/02
C09D11/52
C09D11/037
B32B15/01 E
(21)【出願番号】P 2019178595
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018189518
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019097680
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】TOPPANエッジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】関口 卓也
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 克昭
(72)【発明者】
【氏名】李 万里
(72)【発明者】
【氏名】陳 伝▲トウ▼
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-214733(JP,A)
【文献】特開2014-193991(JP,A)
【文献】特開2008-159535(JP,A)
【文献】特開2016-10959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259557(US,A1)
【文献】特開2014-235942(JP,A)
【文献】特開2016-157987(JP,A)
【文献】特開2017-155166(JP,A)
【文献】特開2015-181160(JP,A)
【文献】特開2004-179205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
C09D 11/00- 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製部材同士を接合する方法であって、
金属製の第1部材と、金属製の第2部材と、のいずれか一方又は両方の表面に付着している銀インク組成物を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、前記銀インク組成物の加熱物を得る工程と、
前記銀インク組成物の、固化していない前記加熱物を介在させて、前記第1部材と前記第2部材とを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、前記第1部材と前記第2部材とを、金属銀によって接合する工程と、を有し、
前記銀インク組成物が、式「-COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀と、アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなり、前記銀インク組成物が、その焼成によって金属銀を形成するための材料である、金属製部材の接合方法。
【請求項2】
60℃以上の温度で固化させずに加熱する前の前記銀インク組成物が、前記カルボン酸銀から生成した金属銀の粒子を含有し、
前記金属銀の粒子の結晶子径が20nm未満である、請求項1に記載の金属製部材の接合方法。
【請求項3】
前記カルボン酸銀が、下記一般式(1)で表わされるβ-ケトカルボン酸銀である、請求項1又は2に記載の金属製部材の接合方法。
【化1】
(式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1-CY
1
2-」、「CY
1
3-」、「R
1-CHY
1-」、「R
2O-」、「R
5R
4N-」、「(R
3O)
2CY
1-」若しくは「R
6-C(=O)-CY
1
2-」で表される基であり;
Y
1はそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;R
1は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;R
2は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり;R
3は炭素数1~16の脂肪族炭化水素基であり;R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基であり;R
6は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であり;
X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基、又は一般式「R
7O-」、「R
7S-」、「R
7-C(=O)-」若しくは「R
7-C(=O)-O-」で表される基であり;
R
7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製部材の接合方法、金属製部材接合体及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品と基板との接合や、回路同士の接合など、金属製部材同士の接合時には、はんだが汎用されている。しかし、はんだの融点が比較的低いために、例えば、はんだ実装を行って製造したモジュールを、さらに電子基板に実装する場合には、260℃程度の温度でのリフロー時に、はんだが再溶融することによって、実装位置にずれが生じるという問題点があった。また、パワー半導体モジュールでは、その動作温度が200℃以上の高温になることもある。したがって、はんだ実装を行って得られたパワー半導体モジュールでも、同様の問題点があった。
【0003】
このような、はんだの再溶融に起因する問題点を解決できるものとして、金属銀と、樹脂成分であるバインダーと、を含有する導電性接着剤がある。
しかし、導電性接着剤はバインダーを含有するため、導電性接着剤で構成された接合部の電気抵抗率が高くなる(通常は100μΩ・cm以上となる)ことが避けられず、また、この接合部の耐熱性も不十分であるという問題点があった。
【0004】
一方、加熱処理を行うことによって優れた導電性を示す材料として、β-ケトカルボン酸銀が配合されてなる銀インク組成物が開示されている(特許文献1参照)。この銀インク組成物は、その加熱処理によって、β-ケトカルボン酸銀から金属銀を形成する材料であり、10μΩ・cm以下という極めて低い体積抵抗率の金属銀を形成できる。また、形成された金属銀は、それ以降、200℃以上等の高温に曝されても再溶融しない。したがって、上述のような、はんだの再溶融に起因する問題点を解決できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記銀インク組成物は、バインダーを含有していないため、この銀インク組成物を用いて、金属製部材同士を接合した場合には、金属銀を介して金属製部材同士が接合された構造の強度、すなわち接合強度を高くすることが困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、導電性接合部を介して、金属製部材同士を高い強度で接合できる、金属製部材の接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、金属製部材同士を接合する方法であって、金属製の第1部材と、金属製の第2部材と、のいずれか一方又は両方の表面に付着している銀インク組成物を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、前記銀インク組成物の加熱物を得る工程と、前記銀インク組成物の加熱物を介在させて、前記第1部材と前記第2部材とを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、前記第1部材と前記第2部材とを、金属銀によって接合する工程と、を有し、前記銀インク組成物が、式「-COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀と、アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなり、前記銀インク組成物が、その焼成によって金属銀を形成するための材料である、金属製部材の接合方法を提供する。
本発明の金属製部材の接合方法においては、60℃以上の温度で固化させずに加熱する前の前記銀インク組成物が、前記カルボン酸銀から生成した金属銀の粒子を含有し、前記金属銀の粒子の結晶子径が20nm未満であることが好ましい。
本発明の金属製部材の接合方法においては、前記カルボン酸銀が、下記一般式(1)で表わされるβ-ケトカルボン酸銀であることが好ましい。
【0009】
【化1】
(式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1-CY
1
2-」、「CY
1
3-」、「R
1-CHY
1-」、「R
2O-」、「R
5R
4N-」、「(R
3O)
2CY
1-」若しくは「R
6-C(=O)-CY
1
2-」で表される基であり;
Y
1はそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;R
1は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;R
2は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり;R
3は炭素数1~16の脂肪族炭化水素基であり;R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基であり;R
6は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であり;
X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基、又は一般式「R
7O-」、「R
7S-」、「R
7-C(=O)-」若しくは「R
7-C(=O)-O-」で表される基であり;
R
7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0010】
また、本発明は、前記金属製部材の接合方法により得られた、金属製部材接合体であって、前記金属製部材接合体のダイシェア強度が15MPa以上である、金属製部材接合体を提供する。
また、本発明は、前記金属製部材接合体を、有機基板上に備え、前記金属製部材が金属電極である、回路基板を提供する。
また、本発明は、金属製部材接合体であって、前記金属製部材接合体は、金属製の第1部材と、金属製の第2部材と、が金属銀を介して接合されて、構成されており、前記第1部材及び第2部材のいずれか一方又は両方が、銅製であり、前記第1部材が銅製である場合には、前記金属製部材接合体は、前記第1部材と前記金属銀との間に、前記第1部材側から前記金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えており、前記第2部材が銅製である場合には、前記金属製部材接合体は、前記第2部材と前記金属銀との間に、前記第2部材側から前記金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えており、前記金属製部材接合体のダイシェア強度が15MPa以上である、金属製部材接合体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性接合部を介して、金属製部材同士を高い強度で接合できる、金属製部材の接合方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法の一例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法の他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法における、接合工程の他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法における、接合工程のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法における、接合工程のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
【
図9】実施例1で得られた金属製部材接合体の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに取得した、撮像データである。
【
図10】実施例1で得られた金属製部材接合体の断面を、エネルギー分散型X線分光法によって観察したときに取得した、銀元素検出時の撮像データである。
【
図11】実施例1で得られた金属製部材接合体の断面を、エネルギー分散型X線分光法によって観察したときに取得した、銅元素検出時の撮像データである。
【
図12】実施例1で得られた金属製部材接合体の断面を、エネルギー分散型X線分光法によって観察したときに取得した、酸素元素検出時の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<金属製部材の接合方法>>
本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法は、金属製部材同士を接合する方法であって、金属製の第1部材(本明細書においては、単に「第1部材」と略記することがある)と、金属製の第2部材(本明細書においては、単に「第2部材」と略記することがある)と、のいずれか一方又は両方の表面に付着している銀インク組成物を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、前記銀インク組成物の加熱物を得る工程(本明細書においては、「予備加熱工程」と称することがある)と、前記銀インク組成物の加熱物を介在させて、前記第1部材と前記第2部材とを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、前記第1部材と前記第2部材とを、金属銀によって接合する工程(本明細書においては、「接合工程」と称することがある)と、を有し、前記銀インク組成物が、式「-COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀(本明細書においては、単に「カルボン酸銀」と略記することがある)と、アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなり、前記銀インク組成物が、その焼成によって金属銀を形成するための材料である、接合方法である。
【0014】
本実施形態によれば、上述の特定範囲の銀インク組成物を用いて、前記予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、前記第1部材及び第2部材が金属銀を介して、高い接合強度で接合された金属製部材接合体が得られる。
以下、本実施形態の金属製部材の接合方法について、詳細に説明する。
【0015】
<予備加熱工程>
前記予備加熱工程においては、前記第1部材と、前記第2部材と、のいずれか一方又は両方の表面に付着している銀インク組成物を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、前記銀インク組成物の加熱物を得る。
本工程で用いる銀インク組成物は、金属銀の形成材料であり、前記カルボン酸銀と、アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなる。
【0016】
本工程において、前記加熱物を得るために加熱を開始する前、すなわち、60℃以上の温度で固化させずに加熱する前、の前記銀インク組成物は、典型的には、前記カルボン酸銀から生成した金属銀の粒子を含有している。これは、前記ギ酸の作用により、前記カルボン酸銀からの金属銀の形成が促進されるためである。
【0017】
本実施形態においては、前記金属銀の粒子の結晶子径が、20nm未満であることが好ましく、19nm以下であることがより好ましく、17nm以下であることがさらに好ましい。前記結晶子径が前記上限値未満(又は以下)であることで、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる。
【0018】
前記金属銀の粒子の結晶子径の下限値は、特に限定されない。例えば、このような金属銀の粒子を含有する銀インク組成物の調製がより容易である点では、前記結晶子径は、3nm以上であることが好ましい。
【0019】
前記金属銀の粒子の結晶子径は、上述のいずれかの上限値と、下限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記金属銀の粒子の結晶子径は、3nm以上20nm未満、3~19nm、及び3~17nmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記金属銀の粒子の結晶子径の一例である。
【0020】
金属銀の粒子の結晶子径は、公知の方法で求められる。例えば、金属銀の粒子をX線回折測定に供し、得られたX線回折プロファイルのうち、最も強度が強い結晶面のピークに関し、シェラー(Scherrer)の式「D=kλ/βcosθ(式中、Dは結晶子径(nm)であり;kは定数(ここでは0.9を用いる)であり;λはX線の波長(CuKα線)0.154nmであり;βはピーク半値幅(rad)であり;θは測定角度の1/2の角度である。)」を用いることで、結晶子径を算出できる。
【0021】
前記第1部材は金属製であり、これを構成する金属は、単体金属及び合金のいずれであってもよい。
前記金属で好ましいものとしては、例えば、銅、銀、金、パラジウム、ニッケル、並びに、銅、銀、金、パラジウム及びニッケルからなる群より選択される1種又は2種以上を含む合金が挙げられる。これらの中でも、前記金属は、銅、銀、金、パラジウム又はニッケルであることがより好ましく、銅又は銀であることがさらに好ましい。
【0022】
予備加熱工程においては、金属製部材の表面にさらに金属層が設けられたものを、第1部材を含む部材として用いてもよい。前記金属層は、例えば、蒸着、メッキ等の公知の方法で、金属製部材の表面に形成できる。
【0023】
このような金属層を表面に備えた金属製部材においては、後述する導電性接合部を形成するための銀インク組成物を付着させる箇所が、第1部材となる。例えば、前記金属層のみに銀インク組成物を付着させる場合には、前記金属層が第1部材となる。金属製部材と前記金属層の両方に銀インク組成物を付着させる場合には、金属製部材と前記金属層がともに第1部材となる。金属製部材のみに銀インク組成物を付着させる場合には、金属製部材が第1部材となる。
【0024】
このような金属層を表面に備えた金属製部材で好ましいものとしては、例えば、銀層を表面に備えた銅製部材が挙げられるが、これは一例である。
【0025】
予備加熱工程においては、金属製部材と非金属製部材との複合体を、第1部材を含む部材として用いてもよい。
前記非金属製部材としては、例えば、半導体ウエハ、半導体チップ、有機絶縁基材、無機絶縁基材、有機・無機複合絶縁基材等が挙げられ、これらは公知のものであってもよい。
【0026】
前記半導体ウエハ又は半導体チップとしては、例えば、シリコン、シリコンカーバイド若しくは窒化ガリウム等の半導体を構成材料とする、ウエハ又はチップ等が挙げられる。
前記有機絶縁基材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製基材、ポリイミド製基材、液晶ポリマー製基材、シクロオレフィンポリマー製基材等が挙げられる。
前記無機絶縁基材としては、例えば、セラミック製基材等が挙げられる。
前記有機・無機複合絶縁基材は、有機材料及び無機材料をともに構成材料とする基材であり、その例としては、ガラスエポキシ樹脂製基材等が挙げられる。
【0027】
前記複合体は、非金属製部材の種類によらず、例えば、非金属製部材の目的とする箇所に、蒸着、メッキ、スパッタリング若しくは印刷等によって、金属製部材を形成するか、又は、ろう付け若しくは接着剤による貼合せ等によって、金属製部材を接合することによって、作製できる。
【0028】
ここまでは、金属製部材として、半導体ウエハ、半導体チップ、有機絶縁基材、無機絶縁基材、又は有機・無機複合絶縁基材等に設けられたものついて、主に説明したが、金属製部材としては、例えば、これらに設けられていない金属板(例えば、放熱板)も好適である。
【0029】
第1部材の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、板状、角柱状、角錐状、円柱状、円錐状、球状、長球状、棒状、これら9種(すなわち、シート状、板状、角柱状、角錐状、円柱状、円錐状、球状、長球状及び棒状)からなる群より選択される2種以上が組み合わされた又は融合された形状、並びに不定形状のいずれであってもよい。
【0030】
第1部材の大きさは、特に限定されない。
【0031】
第1部材の形状及び大きさは、第1部材の用途に応じて、適宜選択できる。
例えば、第1部材が板状又は棒状である場合には、第1部材の接合面(後述する第1面)における1辺の長さは、0.01~30mm、0.02~24mm、及び0.03~18mmのいずれであってもよく、第1部材の厚さは、0.01~5mm、0.02~3mm、及び0.03~1.5mmのいずれであってもよい。ただし、これらは、第1部材の形状及び大きさの一例である。これらの形状及び大きさの第1部材は、例えば、回路を構成する電極として好適である。
第1部材の形状が、板状及び棒状のいずれでもない場合には、例えば、接合面の面積が、上述の1辺の長さから算出される接合面の面積と同等となるように、第1部材の大きを調節できる。
【0032】
前記第2部材も金属製である。
第2部材を構成する金属としては、上記の第1部材を構成する金属と同様のものが挙げられる。
第2部材の形状としては、第1部材の形状と同様のものが挙げられる。
第2部材の大きさは、第1部材の大きさと同様であってよい。
【0033】
第2部材も、第1部材の場合と同様に、第2部材を含む部材として、用いることができる。そして、第2部材を含む部材は、上述の第1部材を含む部材と同様に用いることができる。
【0034】
第1部材と第2部材は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
例えば、後述する接合工程において接合する第1部材と第2部材は、材質の点、形状の点、及び大きさの点において、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0035】
本実施形態で好ましい第1部材及び第2部材としては、例えば、回路を構成する電極が挙げられる。
【0036】
予備加熱工程においては、第1部材と、第2部材と、のいずれか一方又は両方は、その表面に銀インク組成物を付着させて用いる。すなわち、予備加熱工程においては、(A1)表面に銀インク組成物が付着している第1部材と、表面に銀インク組成物が付着していない第2部材と、の組み合わせ(本明細書においては、「組み合わせ(A1)」と称することがある)、(A2)表面に銀インク組成物が付着していない第1部材と、表面に銀インク組成物が付着している第2部材と、の組み合わせ(本明細書においては、「組み合わせ(A2)」と称することがある)、又は、(A3)表面に銀インク組成物が付着している第1部材と、表面に銀インク組成物が付着している第2部材と、の組み合わせ(本明細書においては、「組み合わせ(A3)」と称することがある)を用いる。
【0037】
組み合わせ(A3)を用いる場合には、第1部材の表面に付着している銀インク組成物と、第2部材の表面に付着している銀インク組成物とは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0038】
第1部材又は第2部材の表面には、印刷法、塗布法等の公知の方法によって、銀インク組成物を付着させることができる。
【0039】
前記印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、ディップ式印刷法、インクジェット式印刷法、ディスペンサー式印刷法、ジェットディスペンサー式印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、パッド印刷法等が挙げられる。
【0040】
前記塗布法としては、例えば、スピンコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター等の各種コーターを用いる方法;ワイヤーバーを用いる方法;スロットダイ等のコーティング装置を用いる方法;スプレー法等が挙げられる。
【0041】
第1部材又は第2部材の表面における銀インク組成物の付着箇所に対しては、銀インク組成物を付着させる前に、不純物を取り除く清浄化処理を行うことが好ましい。このようにすることで、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる。
【0042】
前記清浄化処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、薬剤による表面の化学処理と、表面加工による物理処理と、のいずれであってもよい。
前記薬剤としては、例えば、硝酸、リン酸、硫酸、塩酸等の酸;アセトン等の有機溶剤等が挙げられる。酸による化学処理は、不純物の除去全般を行うときに有用である。酸を用いた場合には、第1部材又は第2部材の酸処理面をさらに水洗することが好ましい。有機溶剤による化学処理は、脂溶性の高い不純物の除去を行うときに有用である。
前記表面加工としては、例えば、やすり等の研磨材を用いた研磨処理等が挙げられる。
【0043】
予備加熱工程において、前記カルボン酸銀と、アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなる銀インク組成物を用いる理由は、以下のような有利な点があるからである。
すなわち、前記銀インク組成物は、前記カルボン酸銀が配合されてなる銀インク組成物全般の中では、前記カルボン酸銀の配合量を多くするのに有利である。その場合、銀インク組成物は、その単位量あたりの前記カルボン酸銀由来の成分(例えば、カルボン酸銀、カルボン酸銀から生じた金属銀等)の含有量が多いため、第1部材及び第2部材の表面において、1回の施工でより多くの前記加熱物を形成できる。また、前記銀インク組成物は、その粘度が大きいため、第1部材及び第2部材の表面における銀インク組成物の付着量を多くすることが容易である。したがって、この点でも前記銀インク組成物は、第1部材及び第2部材の表面において、1回の施工でより多くの前記加熱物を形成できる。
このように、前記銀インク組成物は、第1部材及び第2部材の表面における前記加熱物の形成量を容易に多くできる点で有利である。
【0044】
また、前記銀インク組成物の付着対象である第1部材及び第2部材は、金属製であり、その表面においては、酸化反応によって金属酸化物が生成し易い。このような金属酸化物が、膜状又は非膜状に生成すると、金属製部材接合体の抵抗率が上昇するだけでなく、金属製部材接合体の接合強度が低下してしまう。
これに対して、前記銀インク組成物中に含有されるギ酸は、還元作用を有しており、前記銀インク組成物自体が良好な還元性を有している。したがって、前記銀インク組成物は、第1部材及び第2部材の表面において、金属酸化物の量を低減できる点で有利である。
【0045】
また、ホルミル基を有する化合物は、塩基性条件下で還元作用がより活性化される。そして、前記銀インク組成物は、配合されたアミン化合物の影響で塩基性であり、ホルミル基を有するギ酸の還元作用が、より活性化されている。したがって、前記銀インク組成物は、上述のギ酸を用いたことによる効果が、より高い点で有利である。
【0046】
第1部材又は第2部材の表面における銀インク組成物の付着量は、特に限定されず、導電性接合部の目的とする厚さを考慮して、適宜設定すればよい。
【0047】
第1部材又は第2部材の表面における銀インク組成物の加熱物の厚さは、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることがさらに好ましい。前記加熱物の厚さが前記下限値以上であることで、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる。
【0048】
第1部材又は第2部材の表面における銀インク組成物の加熱物の厚さの上限値は、特に限定されない。過剰な厚さとなることを避ける点では、前記加熱物の厚さは、1000μm以下であることが好ましい。
【0049】
前記加熱物の厚さは、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記加熱物の厚さは、100~1000μm、200~1000μm、及び250~1000μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記加熱物の厚さの一例である。
【0050】
予備加熱工程において、銀インク組成物の加熱物は、1層であってもよいし、2層以上であってもよく、2層以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
銀インク組成物の加熱物が2層以上である場合には、各層の合計の厚さが、上記の好ましい加熱物の厚さとなるようにするとよい。
【0051】
例えば、銀インク組成物の種類や、銀インク組成物を付着させる方法によっては、銀インク組成物を付着させる操作を1回行っただけでは、銀インク組成物の付着量が目的とする量とはならないことがある。その場合には、銀インク組成物を付着させる操作を2回以上繰り返して行う必要がある。この場合には、最終的に得られた前記加熱物は、1層となる場合もあるが、2層以上となることもある。
また、例えば、目的によっては、組成が異なる2以上の層で構成された導電性接合部の形成が求められることがある。その場合には、異なる種類の銀インク組成物を付着させる操作を、合計で2回以上行う必要がある。この場合には、最終的に得られた前記加熱物は、2層以上となる。
本実施形態においては、2層以上である前記加熱物は、その種類によらず、1層である前記加熱物の場合と、同様に扱うことができる。
【0052】
上述の方法では、第1部材及び第2部材のいずれか一方において、銀インク組成物を付着させる操作を2回以上繰り返して行うが、先に説明したように、表面に銀インク組成物が付着している第1部材と、表面に銀インク組成物が付着している第2部材と、の組み合わせ(すなわち、前記組み合わせ(A3))を用いた場合にも、最終的には同様の、2以上の層で構成された導電性接合部を形成できる。
【0053】
予備加熱工程においては、銀インク組成物が付着している第1部材と、銀インク組成物が付着している第2部材とは、いずれも、銀インク組成物が付着していない箇所を直接加熱することが好ましい。このようにすることで、銀インク組成物の目的外の変質を抑制する効果が、より高くなる。
【0054】
予備加熱工程において、銀インク組成物は、例えば、電気炉による加熱、感熱方式の熱ヘッドによる加熱、遠赤外線照射による加熱、高熱ガスの吹き付けによる加熱、高周波照射による加熱、誘電加熱等の公知の方法によって、加熱できる。
【0055】
予備加熱工程においては、前記組み合わせ(A1)~(A3)のいずれの場合にも、第1部材の表面に付着している銀インク組成物と、第2部材の表面に付着している銀インク組成物は、60℃以上の温度で加熱する。
ただし、このとき、加熱する銀インク組成物は、固化させない。
本工程で、固化させずに得られた銀インク組成物の加熱物は、流動性を維持している。
【0056】
予備加熱工程において、銀インク組成物の加熱開始時の温度は、例えば、常温であってよい。
なお、本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0057】
予備加熱工程における銀インク組成物の加熱温度は、例えば、70℃以上、80℃以上、及び90℃以上のいずれかであってもよい。
【0058】
予備加熱工程における銀インク組成物の加熱温度の上限値は、特に限定されない。例えば、銀インク組成物の固化を容易に回避できる点では、前記加熱温度は、120℃以下であることが好ましい。
【0059】
予備加熱工程における銀インク組成物の加熱温度は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、一実施形態において、前記加熱温度は、60~120℃、70~120℃、80℃~120℃、及び90~120℃のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記加熱温度の一例である。
【0060】
予備加熱工程において、前記銀インク組成物の加熱時における昇温速度は、特に限定されないが、5~50℃/分であることが好ましく、5~30℃/分であることがより好ましく、5~16℃/分であることがさらに好ましい。
【0061】
予備加熱工程において、前記銀インク組成物の加熱時間は、特に限定されないが、1分~12時間であることが好ましく、2分~6時間であることがより好ましく、4分~1時間であることがさらに好ましい。
【0062】
予備加熱工程は、常圧下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。
また、予備加熱工程は、例えば、大気雰囲気下及び不活性ガス雰囲気下のいずれで行ってもよい。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
予備加熱工程は、第1部材、第2部材、銀インク組成物及び前記加熱物の酸化反応を抑制できる条件で行う場合、減圧下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。予備加熱工程は、例えば、酸化反応の抑制効果が高い点では、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、低コストである点では、減圧下で行うことが好ましい。
【0063】
予備加熱工程においては、その終了時までに、銀インク組成物の温度を一貫して上昇させてもよい(換言すると、一定とすること及び低下させること、をいずれも行わなくてもよい)し、一定とする時間を設けてもよいし、低下させる時間を設けてもよい。
なかでも、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる点では、予備加熱工程の開始時から終了時までの間は、銀インク組成物の温度を、必ず上昇させるか又は一定とすること(換言すると、全く低下させないこと)が好ましく、例えば、予備加熱工程の開始時から銀インク組成物の温度を一貫して上昇させたのち、そこで到達した最高温度を、予備加熱工程の終了時まで、一定時間保持してもよい。その場合、銀インク組成物の温度を一定時間保持する時間は、0.5~10分であることが好ましく、0.5~6分であることがより好ましく、0.5~3分であることがさらに好ましい。
【0064】
予備加熱工程においては、銀インク組成物の加熱物が得られるまでの間に、典型的には、銀インク組成物に泡立ちが見られる。これは、銀インク組成物中で配合成分の反応が進行し、ガスが発生して、このガスが抜けていくためである。典型的には、本工程の終了時までに、この泡立ちは消失し、ガスの発生がほぼ又は完全に停止する。
このように銀インク組成物の泡立ちが生じるため、本工程の終了時における銀インク組成物の加熱物の質量は、本工程の開始時における銀インク組成物の質量よりも小さくなる。すなわち、本工程においては、銀インク組成物の質量の減少が認められる。
【0065】
本実施形態においては、(B1)予備加熱工程終了後に、前記加熱物を介して、第1部材及び第2部材を接触させても(第1部材、前記加熱物及び第2部材を積層しても)よい(本明細書においては、「予備加熱方法(B1)」と称することがある)し、(B2)銀インク組成物を介して、第1部材及び第2部材を接触させてから(第1部材、銀インク組成物及び第2部材を重ねてから)、予備加熱工程を行ってもよい(本明細書においては、「予備加熱方法(B2)」と称することがある)し、(B3)予備加熱工程の途中で、加熱中の銀インク組成物を介して、第1部材及び第2部材を接触させても(第1部材、加熱中の銀インク組成物、及び第2部材を重ねても)よく(本明細書においては、「予備加熱方法(B3)」と称することがある)、第1部材及び第2部材を重ねる(積層する)タイミングは、任意に選択できる。
【0066】
これらの中でも、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる点では、予備加熱方法(B1)又は(B3)を採用することが好ましく、予備加熱方法(B1)を採用することがより好ましい。
【0067】
予備加熱工程において、組み合わせ(A1)を選択した場合には、第1部材の表面に付着している加熱前の銀インク組成物、加熱中の銀インク組成物、又は加熱後の銀インク組成物(すなわち、前記加熱物)に、第2部材を接触させる。
予備加熱工程において、組み合わせ(A2)を選択した場合には、第2部材の表面に付着している加熱前の銀インク組成物、加熱中の銀インク組成物、又は加熱後の銀インク組成物(すなわち、前記加熱物)に、第1部材を接触させる。
予備加熱工程において、組み合わせ(A3)を選択した場合には、第1部材の表面に付着している加熱前の銀インク組成物、加熱中の銀インク組成物、又は加熱後の銀インク組成物(すなわち、前記加熱物)と、第2部材の表面に付着している加熱前の銀インク組成物、加熱中の銀インク組成物、又は加熱後の銀インク組成物(すなわち、前記加熱物)と、を接触させる。
いずれの場合にも、第1部材又は第2部材に付着している銀インク組成物は、後の工程で、第1部材と第2部材を接合する導電性接合部を形成する。
【0068】
本実施形態においては、予備加熱工程において、前記加熱物を形成することにより、導電性接合部の接合強度が顕著に増大する。このような優れた効果を奏する理由は、定かではないが、銀インク組成物を固化させずに加熱することで、固化させた場合とは異なり、得られた前記加熱物は流動性を有しており、前記加熱物と第1部材との密着性、及び、前記加熱物と第2部材との密着性、が向上するためではないかと推測される。また、先の説明のように、前記加熱物が得られるまでの間に、典型的には、銀インク組成物に泡立ちが見られるが、本工程の終了時までに、この泡立ちは消失し、さらに前記加熱物が固化していないことにより、泡立ちのために生じた前記加熱物の表面の荒れが低減され、前記加熱物と第1部材との接触面積、及び、前記加熱物と第2部材との接触面積、が増大するためではないかと推測される。
【0069】
予備加熱工程で得られた前記加熱物は、典型的には、金属銀に特有の光沢を有しておらず、例えば、暗緑色である。このような外見上の特徴からも、前記加熱物は、高純度の金属銀を主たる構成材料とはしていない。
【0070】
<接合工程>
予備加熱工程後、前記接合工程においては、前記銀インク組成物の加熱物を介在させて、前記第1部材と前記第2部材とを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、前記第1部材と前記第2部材とを、金属銀によって接合する。
前記銀インク組成物は、金属銀の形成材料であり、本工程においては、その焼成により固化して、最終的に金属銀を形成し、第1部材と第2部材とを接合する。
【0071】
接合工程においては、第1部材と、前記加熱物と、第2部材と、がこの順に積層された複合物に対して、第1部材から第2部材へ向かう方向の圧力、及び、第2部材から第1部材へ向かう方向の圧力、のいずれか一方又は両方を加えることにより、第1部材と第2部材とを圧着できる。
【0072】
前記複合物に対して、第1部材から第2部材へ向かう方向の圧力を加える場合には、この方向において、第2部材を固定した状態で、前記圧力を加えることが好ましい。
前記複合物に対して、第2部材から第1部材へ向かう方向の圧力を加える場合には、この方向において、第1部材を固定した状態で、前記圧力を加えることが好ましい。
【0073】
上述の2方向の圧力は、公知の方法で加えればよい。
例えば、上述の2方向のうち、1方向のみに圧力を加える場合には、第1部材及び第2部材のいずれか一方の表面を、鉛直方向下向きとして、水平面上で前記複合物を固定し、第1部材及び第2部材の他方の表面を、鉛直方向上向きとして、その上に錘を載置することにより、前記複合物に1方向のみから圧力を加えることができる。
ここでは、第1部材及び第2部材のいずれか一方に対して、錘の載置によって圧力を加える場合について説明したが、他の押圧手段によって圧力を加えてもよい。
また、ここでは、第1部材及び第2部材の表面を鉛直方向にむけて、前記複合物を配置する場合について説明したが、鉛直方向ではなく、水平方向をはじめとする他の方向にむけて、前記複合物を配置してもよい。
【0074】
接合工程において、前記加熱物を介在させて、第1部材と第2部材とを圧着するときの圧力(本明細書においては、「圧着圧力」と略記することがある)は、特に限定されないが、0.2MPa以上であることが好ましく、0.4MPa以上であることがより好ましく、0.6MPa以上であることがさらに好ましい。前記圧着圧力が前記下限値以上であることで、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる。
【0075】
接合工程において、前記圧着圧力の上限値は、特に限定されない。圧着をより容易に行える点では、前記圧着圧力は、3MPa以下であることが好ましい。
【0076】
接合工程において、前記圧着圧力は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記圧着圧力は、0.2~3MPa、0.4~3MPa、及び0.6~3MPaのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記圧着圧力の一例である。
【0077】
接合工程において、前記圧着圧力は、圧着開始時から圧着終了時までの間、一定としてもよいし、一定としなくてもよい。
前記圧着圧力を一定としない場合には、圧着圧力を一貫して上昇させてもよい(換言すると、変化させないこと及び低下させること、をいずれも行わなくてもよい)し、変化させない時間を設けてもよいし、低下させる時間を設けてもよい。なかでも、前記圧着圧力は、必ず上昇させるか又は変化させないこと(換言すると、全く低下させないこと)が好ましい。
【0078】
接合工程においては、前記加熱物の焼成により、金属銀が形成される。
接合工程における前記加熱物の焼成は、前記加熱物のさらなる加熱により、行うことができる。このときの加熱は、前記予備加熱工程において銀インク組成物に対して行う加熱の場合と、同じ方法で行うことができる。
【0079】
接合工程において、前記加熱物の焼成開始時の温度は、例えば、常温など、予備加熱工程終了時の温度よりも低い温度であってもよいが、予備加熱工程終了時の温度以上であることが好ましい。
【0080】
接合工程における前記加熱物の焼成温度は、例えば、170℃以上、220℃以上、及び270℃以上のいずれかであってもよい。
【0081】
接合工程における前記加熱物の焼成温度の上限値は、特に限定されない。例えば、工程時間を短縮し、かつ過剰な高温を回避する点では、前記焼成温度は、350℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましい。このように焼成温度を比較的低くできる理由は、銀インク組成物として、比較的限られた範囲内の配合成分を用いているからである。
【0082】
接合工程における前記加熱物の焼成温度は、上述のいずれかの下限値と、いずれかの上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記焼成温度は、170~350℃、220~350℃、及び270~350℃のいずれかであってもよい。
また、一実施形態において、前記焼成温度は、170~320℃、220~320℃、及び270~320℃のいずれかであってもよい。
ただし、これらは、前記焼成温度の一例である。
【0083】
接合工程において、前記加熱物の焼成時における昇温速度は、特に限定されないが、5~50℃/分であることが好ましく、5~45℃/分であることがより好ましく、5~40℃/分であることがさらに好ましい。
【0084】
接合工程において、前記加熱物の焼成時間は、特に限定されないが、1分~24時間であることが好ましく、5分~12時間であることがより好ましく、10分~2時間であることがさらに好ましい。
【0085】
接合工程においては、その終了時までに、前記加熱物の焼成温度を一貫して上昇させてもよい(換言すると、一定とすること及び低下させること、をいずれも行わなくてもよい)し、一定とする時間を設けてもよいし、低下させる時間を設けてもよい。
なかでも、接合工程の開始時から終了時までの間は、前記加熱物の焼成温度を、必ず上昇させるか又は一定とすること(換言すると、全く低下させないこと)が好ましく、例えば、接合工程の開始時から前記加熱物の焼成温度を一貫して上昇させたのち、そこで到達した最高温度を、接合工程の終了時まで、一定時間保持してもよい。その場合、前記加熱物の焼成温度を一定時間保持する時間は、5~60分であることが好ましく、10~50分であることがより好ましく、15~40分であることがさらに好ましい。
【0086】
接合工程は、常圧下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。
また、接合工程は、例えば、大気雰囲気下及び不活性ガス雰囲気下のいずれで行ってもよい。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
接合工程は、第1部材、第2部材及び焼成物(すなわち金属銀)の酸化反応を抑制できる条件で行う場合、減圧下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。接合工程は、例えば、酸化反応の抑制効果が高い点では、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、低コストである点では、減圧下で行うことが好ましい。
【0087】
前記加熱物を焼成して形成された導電性接合部(換言すると金属銀)の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。前記導電性接合部の厚さが前記下限値以上であることで、金属製部材接合体の接合強度がより高くなる。さらに、厚さが20μm以上である導電性接合部は、その形成がより容易である。
なお、本明細書において、「導電性接合部の厚さ」とは、「導電性接合部の、第1部材と第2部材との接合方向における厚さ」を意味する。
【0088】
前記導電性接合部の厚さの上限値は、特に限定されない。過剰な厚さとなることを避ける点では、前記導電性接合部の厚さは、100μm以下であることが好ましい。
【0089】
前記導電性接合部の厚さは、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記導電性接合部の厚さは、10~100μm、20~100μm、及び25~100μmのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記導電性接合部の厚さの一例である。
【0090】
前記導電性接合部の厚さは、例えば、焼成前の前記加熱物の厚さによって、決定される。
典型的には、前記導電性接合部の厚さは、焼成前の前記加熱物の厚さに対して、好ましくは4~16%、より好ましくは6~14%、さらに好ましくは8~12%とすることが可能である。ただし、これらは、導電性接合部の厚さと、焼成前の前記加熱物の厚さと、の関係の一例である。
【0091】
本実施形態においては、(C1)第1部材と第2部材との圧着を開始してから、前記加熱物の焼成を開始してもよい(本明細書においては、「圧着焼成方法(C1)」と称することがある)し、(C2)前記加熱物の焼成を開始してから、第1部材と第2部材との圧着を開始してもよい(本明細書においては、「圧着焼成方法(C2)」と称することがある)し、(C3)第1部材と第2部材との圧着と、前記加熱物の焼成と、を同時に開始してもよく(本明細書においては、「圧着焼成方法(C3)」と称することがある)、上述の圧着と焼成の開始のタイミングは、任意に選択できる。
【0092】
これらの中でも、接合強度がより高い金属製部材接合体が得られる点では、圧着焼成方法(C1)又は(C3)を採用することが好ましく、圧着焼成方法(C1)を採用することがより好ましい。
【0093】
接合工程においては、前記加熱物を介在させた、第1部材と第2部材との圧着によって、導電性接合部の接合強度が顕著に増大する。従来とは異なり、バインダー等の樹脂成分を含有しない導電性接合部において、このように接合強度が増大するのは、全く意外であるといえる。このような優れた効果を奏する理由は、定かではないが、第1部材と、焼成中の前記加熱物と、第2部材と、の積層構造体が、これらの厚さ方向において相互に圧着されることにより、焼成中の前記加熱物において、空隙部の体積が減少して密度が増大し、その結果、焼成物(導電性接合部)の強度が向上するためではないかと推測される。
【0094】
本実施形態で得られる金属製部材接合体の、導電性接合部の強度は、例えば、ダイシェア強度の測定値によって評価できる。
ダイシェア強度は、JIS C62137-1-2:2010(横押しせん断強度試験、IEC 62137-1-2:2007)に準拠して、測定できる。すなわち、金属製部材接合体において、導電性接合部によって接合されている第1部材及び第2部材のいずれか一方を固定し、他方に対して、第1部材、導電性接合部及び第2部材の積層方向に対して直交する方向(換言すると、これらの積層面に対して平行な方向)の力を加え、これら(第1部材、導電性接合部及び第2部材)の積層構造体が破壊されたときに加えられていた上述の力を、ダイシェア強度として採用する。
【0095】
本実施形態において、金属製部材接合体のダイシェア強度は、15MPa以上であることが好ましく、例えば、22.5MPa以上、27.5MPa以上、及び32.5MPa以上のいずれかであってもよい。
【0096】
本実施形態において、金属製部材接合体のダイシェア強度の上限値は、特に限定されない。例えば、金属製部材接合体の製造が容易である点では、前記ダイシェア強度は、50MPa以下であることが好ましい。
【0097】
前記ダイシェア強度は、上述のいずれかの下限値と、上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記ダイシェア強度は、15~50MPa、22.5~50MPa、27.5~50MPa、及び32.5~50MPaのいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記ダイシェア強度の一例である。
【0098】
<他の工程>
本実施形態の金属製部材の接合方法は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記予備加熱工程と、前記接合工程と、のいずれにも該当しない、他の工程を有していてもよい。
前記他の工程は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の工程を行うタイミングも、目的に応じて任意に選択でき、例えば、予備加熱工程の前、予備加熱工程と接合工程との間、及び、接合工程の後、のいずれであってもよい。
【0099】
<金属製部材の接合方法の例>
図1は、本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法の一例を、模式的に説明するための断面図である。
なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0100】
図1は、組み合わせ(A1)と予備加熱方法(B1)を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-1)」と称することがある)を模式的に説明するための断面図である。
すなわち、接合方法(1-1)の予備加熱工程においては、
図1(a)に示すように、表面に銀インク組成物130が付着している第1部材11と、表面に銀インク組成物が付着していない第2部材12と、の組み合わせを用いる。銀インク組成物130は、第1部材11の一方の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)11aに付着している。
【0101】
接合方法(1-1)の予備加熱工程においては、このように、第1部材11の第1面11aに付着している銀インク組成物130を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、
図1(b)に示すように、銀インク組成物130の加熱物130’を得る。
【0102】
次いで、接合方法(1-1)の接合工程においては、
図1(c)に示すように、銀インク組成物の加熱物130’を介在させて、第1部材11と第2部材12とを圧着しながら、前記加熱物130’を焼成する。このとき、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を圧着するために加える力は、力P
1及び力P
2のいずれか一方又は両方とすることができる。このとき、第2部材12の第1部材11側の面(本明細書においては、「第1面」と称することがある)12aが、前記加熱物130’と接触する。
【0103】
このように予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、
図1(d)に示すように、第1部材11及び第2部材12が金属銀(換言すると導電性接合部)13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0104】
図2は、本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法の他の例を、模式的に説明するための断面図である。
なお、
図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0105】
図2は、組み合わせ(A2)と予備加熱方法(B1)を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(2-1)」と称することがある)を模式的に説明するための断面図である。
すなわち、接合方法(2-1)の予備加熱工程においては、
図2(a)に示すように、表面に銀インク組成物が付着していない第1部材11と、表面に銀インク組成物130が付着している第2部材12と、の組み合わせを用いる。銀インク組成物130は、第2部材12の第1面12aに付着している。
【0106】
接合方法(2-1)の予備加熱工程においては、このように、第2部材12の第1面12aに付着している銀インク組成物130を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、
図2(b)に示すように、銀インク組成物130の加熱物130’を得る。
【0107】
次いで、接合方法(2-1)の接合工程においては、
図2(c)に示すように、銀インク組成物の加熱物130’を介在させて、第1部材11と第2部材12とを圧着しながら、前記加熱物130’を焼成する。このとき、第1部材11の第2部材12側の面、すなわち第1面11aが、前記加熱物130’と接触する。
本工程は、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を形成した後は、
図1を参照して説明した接合方法(1-1)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0108】
このように予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、
図2(d)に示すように、第1部材11及び第2部材12が金属銀(換言すると導電性接合部)13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0109】
図3は、本発明の一実施形態に係る金属製部材の接合方法のさらに他の例を、模式的に説明するための断面図である。
図3は、組み合わせ(A3)と予備加熱方法(B1)を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(3-1)」と称することがある)を模式的に説明するための断面図である。
すなわち、接合方法(3-1)の予備加熱工程においては、
図3(a)に示すように、表面に銀インク組成物130が付着している第1部材11と、表面に銀インク組成物130が付着している第2部材12と、の組み合わせを用いる。銀インク組成物130は、第1部材11の第1面11aと、第2部材12の第1面12aと、の両方に付着している。これら銀インク組成物130,130は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0110】
接合方法(3-1)の予備加熱工程においては、このように、第1部材11の第1面11aに付着している銀インク組成物130と、第2部材12の第1面12aに付着している銀インク組成物130と、をいずれも、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、
図3(b)に示すように、それぞれ銀インク組成物130の加熱物130’を得る。
【0111】
次いで、接合方法(3-1)の接合工程においては、
図3(c)に示すように、2層の銀インク組成物の加熱物130’,130’を介在させて、第1部材11と第2部材12とを圧着しながら、前記加熱物130’,130’を焼成する。このとき、第1部材11の第1面11a上の前記加熱物130’と、第2部材12の第1面12a上の前記加熱物130’と、が接触する。
本工程は、このような第1部材11と、2層の前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を形成した後は、圧着の対象物がこの積層構造体である点を除けば、
図1を参照して説明した接合方法(1-1)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0112】
このように予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、
図3(d)に示すように、第1部材11及び第2部材12が、2層の金属銀(層)13、換言すると導電性接合部23、を介して接合された金属製部材接合体2が得られる。
【0113】
ここでは、金属製部材接合体2中の導電性接合部23として、便宜上、2層で構成されたものを示している。接合方法(3-1)においては、第1部材11に当初付着している銀インク組成物130と、第2部材12に当初付着している銀インク組成物130と、が互いに異なる種類である場合には、このような2層で構成された導電性接合部23となる。これに対して、第1部材11に当初付着している銀インク組成物130と、第2部材12に当初付着している銀インク組成物130と、が互いに同じ種類である場合には、このような2層で構成された導電性接合部23となることもあるし、1層の導電性接合部(例えば、
図1~
図2に示す導電性接合部13と同様の導電性接合部)となることもある。
【0114】
ここまでは、予備加熱工程において、予備加熱方法(B1)を選択した場合の、金属製部材の接合方法について説明したが、上述の製造方法において、予備加熱方法(B2)又は(B3)を選択することもできる。
【0115】
図4は、組み合わせ(A1)と予備加熱方法(B2)を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-2)」と称することがある)を、模式的に説明するための断面図である。
すなわち、接合方法(1-2)の予備加熱工程においては、接合方法(1-1)の場合と同様に、
図1(a)に示すように、表面に銀インク組成物130が付着している第1部材11と、表面に銀インク組成物が付着していない第2部材12と、の組み合わせを用いる。
【0116】
接合方法(1-2)の予備加熱工程においては、次いで、
図4(b)に示すように、第1部材11の第1面11aに付着している銀インク組成物130を介して、第1部材11及び第2部材12を接触させる。そして、このように第1部材11、銀インク組成物130及び第2部材12を重ねてから、銀インク組成物130を、60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、
図4(c)に示すように、銀インク組成物130の加熱物130’を得る。これにより、
図1(c)に示すものと同様の状態の、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体が得られる。
【0117】
次いで、接合方法(1-2)の接合工程においては、
図4(c)に示すように、接合方法(1-1)の場合と同じ方法で、銀インク組成物の加熱物130’を介在させて、第1部材11と第2部材12とを圧着しながら、前記加熱物130’を焼成する。
【0118】
このように予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、
図4(d)に示すように、第1部材11及び第2部材12が金属銀(換言すると導電性接合部)13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0119】
図5は、組み合わせ(A1)と予備加熱方法(B3)を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-3)」と称することがある)を、模式的に説明するための断面図である。
すなわち、接合方法(1-3)の予備加熱工程においては、接合方法(1-1)の場合と同様に、
図5(a)に示すように、表面に銀インク組成物130が付着している第1部材11と、表面に銀インク組成物が付着していない第2部材12と、の組み合わせを用いる。
【0120】
接合方法(1-3)の予備加熱工程においては、このように、第1部材11の第1面11aに付着している銀インク組成物130に対して、60℃以上の温度で固化させないように、
図5(b)に示すように、加熱を開始する。ここでは、前記加熱物130’となる前の、加熱の途中段階の銀インク組成物に、符号1301を付している。
【0121】
次いで、接合方法(1-3)の予備加熱工程においては、
図5(c)に示すように、本工程の途中で、加熱中の銀インク組成物1301を介して、第1部材11及び第2部材12を接触させる。このように接触させるときの加熱中の銀インク組成物1301の温度は、60℃未満であってもよいし、60℃以上であってもよい。
【0122】
次いで、接合方法(1-3)の予備加熱工程においては、このように、第1部材11及び第2部材12に付着している、加熱中の銀インク組成物1301を、さらに60℃以上の温度で固化させずに加熱することにより、
図5(d)に示すように、銀インク組成物130の加熱物130’を得る。
【0123】
次いで、接合方法(1-3)の接合工程においては、
図5(e)に示すように、接合方法(1-1)の場合と同じ方法で、銀インク組成物の加熱物130’を介在させて、第1部材11と第2部材12とを圧着しながら、前記加熱物130’を焼成する。
【0124】
このように予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、
図5(f)に示すように、第1部材11及び第2部材12が金属銀(換言すると導電性接合部)13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0125】
ここまでは、組み合わせ(A1)と予備加熱方法(B1)~(B3)を選択した場合の、金属製部材の接合方法について説明したが、組み合わせ(A2)又は(A3)と、予備加熱方法(B1)、(B2)又は(B3)と、を選択することもできる。
【0126】
ここまでに、
図1~
図5を参照して説明した接合方法では、接合工程における、銀インク組成物の加熱物を介在させた、第1部材と第2部材との圧着の開始のタイミングと、前記加熱物の焼成の開始のタイミングと、の前後関係については、具体的に説明していない。本実施形態において、これらの前後関係は、先に圧着焼成方法(C1)~(C3)として説明したとおり、任意に選択できる。
【0127】
以下、
図1を参照して説明した接合方法(1-1)を例に挙げて、より具体的に説明する。
図6は、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B1)と、圧着焼成方法(C1)と、を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-1-1)」と称することがある)における接合工程を、模式的に説明するための断面図である。
【0128】
接合方法(1-1-1)の接合工程においては、
図1(c)に示すものと同様に、
図6(a)に示すように、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を得る。
次いで、
図6(b)に示すように、この積層構造体の圧着を開始する。
【0129】
次いで、接合方法(1-1-1)の接合工程においては、
図6(c)に示すように、前記加熱物130’の焼成を開始する。ここでは、導電性接合部13となる前の、焼成の途中段階(焼成の開始段階を含む)の前記加熱物に、符号1301’を付している。
【0130】
このように接合工程を行うことにより、
図6(d)に示すように、
図1(d)に示すものと同様に、第1部材11及び第2部材12が導電性接合部13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0131】
図7は、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B1)と、圧着焼成方法(C2)と、を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-1-2)」と称することがある)における接合工程を、模式的に説明するための断面図である。
【0132】
接合方法(1-1-2)の接合工程においては、
図1(c)に示すものと同様に、
図7(a)に示すように、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を得る。
次いで、
図7(b)に示すように、前記加熱物130’の焼成を開始する。ここでも、導電性接合部13となる前の、焼成の途中段階(焼成の開始段階を含む)の前記加熱物に、符号1301’を付している。
【0133】
次いで、接合方法(1-1-2)の接合工程においては、
図7(c)に示すように、第1部材11と、焼成の途中段階の前記加熱物1301’と、第2部材12と、の積層構造体の圧着を開始する。
【0134】
このように接合工程を行うことにより、
図7(d)に示すように、
図1(d)に示すものと同様に、第1部材11及び第2部材12が導電性接合部13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0135】
図8は、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B1)と、圧着焼成方法(C3)と、を選択した場合の、金属製部材の接合方法(本明細書においては、「接合方法(1-1-3)」と称することがある)における接合工程を、模式的に説明するための断面図である。
【0136】
接合方法(1-1-3)の接合工程においては、
図1(c)に示すものと同様に、
図8(a)に示すように、第1部材11と、前記加熱物130’と、第2部材12と、の積層構造体を得る。
次いで、
図8(b)に示すように、前記加熱物130’の焼成と、前記積層構造体の圧着と、を同時に開始する。ここでは、前記積層構造体の圧着開始時に加える力に対して、符号P
11及び符号P
21を付し、焼成開始時の前記加熱物に対して、符号1302’を付している。
【0137】
このように接合工程を行うことにより、
図8(c)に示すように、
図1(d)に示すものと同様に、第1部材11及び第2部材12が導電性接合部13を介して接合された金属製部材接合体1が得られる。
【0138】
ここまでは、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B1)と、圧着焼成方法(C1)~(C3)と、を選択した場合の、金属製部材の接合方法について説明したが、組み合わせ(A2)又は(A3)と、予備加熱方法(B1)、(B2)又は(B3)と、圧着焼成方法(C1)、(C2)又は(C3)と、を選択することもできる。
【0139】
ここまでは、本実施形態の金属製部材の接合方法として、1つの第1部材と1つの第2部材とを、1つの金属銀(導電性接合部)で接合する場合について説明したが、本実施形態の金属製部材の接合方法においては、1つの第1部材と1つの第2部材とを、2つ以上の金属銀(導電性接合部)で接合してもよい。
また、本実施形態の金属製部材の接合方法においては、1つの第1部材と2つ以上の第2部材とを、1つの金属銀(導電性接合部)で接合してもよい。その場合、2つ以上の第2部材は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ異なっていてもよい。
また、本実施形態の金属製部材の接合方法においては、1つの第1部材と2つ以上の第2部材とを、2つ以上の金属銀(導電性接合部)で接合してもよい。その場合、第2部材の数と金属銀(導電性接合部)の数とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、2つ以上の第2部材は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ異なっていてもよい。
ここで例示した、第1部材の数と第2部材の数とは、逆であってもよい。
次いで、本実施形態で用いる銀インク組成物について、詳細に説明する。
【0140】
<銀インク組成物>
前記銀インク組成物は、前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、が配合されてなる。
銀インク組成物は、バインダー等の樹脂成分を含有しないものが好ましく、前記カルボン酸銀が、その配合時に均一に分散されたものがより好ましい。
【0141】
前記カルボン酸銀を用いることで、これから金属銀が生じ、この金属銀を主成分として含む導電性接合部が形成される。この場合の導電性接合部においては、好ましくは前記樹脂成分を用いないことにより、導電性接合部が見かけ上、金属銀だけからなるとみなし得る程度に、金属銀の割合を十分に高くすることができる。この場合、例えば、導電性接合部の総質量に対する、導電性接合部中の金属銀の合計質量の割合を、例えば、97質量%以上、98質量%以上、及び99質量%以上のいずれかとすることが可能である。前記割合の上限値は、例えば、100質量%、99.9質量%、99.8質量%、99.7質量%、99.6質量%、99.5質量%、99.4質量%、99.3質量%、99.2質量%及び99.1質量%のいずれかとすることができるが、これらは一例である。
【0142】
[カルボン酸銀]
前記カルボン酸銀は、カルボン酸の銀塩であり、式「-COOAg」で表される基を有する。
前記カルボン酸銀は、式「-COOAg」で表される基を有していれば特に限定されない。例えば、カルボン酸銀1分子中の、式「-COOAg」で表される基の数は1個のみであってもよいし、2個以上であってもよい。また、カルボン酸銀中の式「-COOAg」で表される基の位置も、特に限定されない。
【0143】
本実施形態において、前記カルボン酸銀は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0144】
前記カルボン酸銀は、下記一般式(1)で表わされるβ-ケトカルボン酸銀(以下、「β-ケトカルボン酸銀(1)」と略記することがある)及び下記一般式(4)で表されるカルボン酸銀(以下、「カルボン酸銀(4)」と略記することがある)からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
なお、本明細書においては、単なる「カルボン酸銀」との記載は、特に断りの無い限り、「β-ケトカルボン酸銀(1)」及び「カルボン酸銀(4)」だけではなく、これらを包括する、「式「-COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀」を意味するものとする。
【0145】
【化2】
(式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1-CY
1
2-」、「CY
1
3-」、「R
1-CHY
1-」、「R
2O-」、「R
5R
4N-」、「(R
3O)
2CY
1-」若しくは「R
6-C(=O)-CY
1
2-」で表される基であり;
Y
1はそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;R
1は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;R
2は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり;R
3は炭素数1~16の脂肪族炭化水素基であり;R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基であり;R
6は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であり;
X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基、又は一般式「R
7O-」、「R
7S-」、「R
7-C(=O)-」若しくは「R
7-C(=O)-O-」で表される基であり;
R
7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0146】
【化3】
(式中、R
8は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、カルボキシ基又は式「-C(=O)-OAg」で表される基であり、前記脂肪族炭化水素基がメチレン基を有する場合、1個以上の前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい。)
【0147】
(β-ケトカルボン酸銀(1))
β-ケトカルボン酸銀(1)は、前記一般式(1)で表される。
式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R1-CY1
2-」、「CY1
3-」、「R1-CHY1-」、「R2O-」、「R5R4N-」、「(R3O)2CY1-」若しくは「R6-C(=O)-CY1
2-」で表される基である。
【0148】
Rにおける炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状(脂肪族環式基)のいずれであってもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれであってもよい。また、前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。そして、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。Rにおける好ましい前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0149】
Rにおける直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、4-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基、1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、1,2,3-トリメチルペンチル基、1,2,4-トリメチルペンチル基、2,3,4-トリメチルペンチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1,4,4-トリメチルペンチル基、3,4,4-トリメチルペンチル基、1,1,2-トリメチルペンチル基、1,1,3-トリメチルペンチル基、1,1,4-トリメチルペンチル基、1,2,2-トリメチルペンチル基、2,2,3-トリメチルペンチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、1,3,3-トリメチルペンチル基、2,3,3-トリメチルペンチル基、3,3,4-トリメチルペンチル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
Rにおける環状の前記アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられる。
【0150】
Rにおける前記アルケニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C-C)が二重結合(C=C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基(エテニル基、-CH=CH2)、アリル基(2-プロペニル基、-CH2-CH=CH2)、1-プロペニル基(-CH=CH-CH3)、イソプロペニル基(-C(CH3)=CH2)、1-ブテニル基(-CH=CH-CH2-CH3)、2-ブテニル基(-CH2-CH=CH-CH3)、3-ブテニル基(-CH2-CH2-CH=CH2)、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0151】
Rにおける前記アルキニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C-C)が三重結合(C≡C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルキニル基としては、例えば、エチニル基(-C≡CH)、プロパルギル基(-CH2-C≡CH)等が挙げられる。
【0152】
Rにおける炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。また、前記脂肪族炭化水素基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての置換基が同一であってもよいし、すべての置換基が異なっていてもよく、一部の置換基のみが異なっていてもよい。
【0153】
Rにおけるフェニル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、炭素数が1~16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基(-OH)、シアノ基(-C≡N)、フェノキシ基(-O-C6H5)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
置換基である前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0154】
RにおけるY1は、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子である。そして、一般式「R1-CY1
2-」、「CY1
3-」及び「R6-C(=O)-CY1
2-」においては、それぞれ複数個のY1は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0155】
RにおけるR1は、炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基(C6H5-)である。R1における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR2は、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり、例えば、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR3は、炭素数1~16の脂肪族炭化水素基である。R3における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基である。すなわち、R4及びR5は、互いに同一でも異なっていてもよく、R4及びR5における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~18である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR6は、炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基である。R6における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0156】
Rは、上記の中でも、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、一般式「R6-C(=O)-CY1
2-」で表される基、水酸基又はフェニル基であることが好ましい。そして、R6は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であることが好ましい。
【0157】
一般式(1)において、X1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基(C6H5-CH2-)、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基(C2H5-O-CH=CH-)、又は一般式「R7O-」、「R7S-」、「R7-C(=O)-」若しくは「R7-C(=O)-O-」で表される基である。
X1における炭素数1~20の脂肪族炭化水素基としては、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0158】
X1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
X1におけるフェニル基及びベンジル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基(-NO2)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びベンジル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0159】
X1におけるR7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基(C4H3S-)、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基(ビフェニル基、C6H5-C6H4-)である。R7における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~10である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、R7におけるフェニル基及びジフェニル基が有する前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びジフェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
R7がチエニル基又はジフェニル基である場合、これらの、X1において隣接する基又は原子(酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基)との結合位置は、特に限定されない。例えば、チエニル基は、2-チエニル基及び3-チエニル基のいずれであってもよい。
【0160】
一般式(1)において、2個のX1は、2個のカルボニル基で挟まれた炭素原子と二重結合を介して1個の基として結合していてもよい。このようなX1としては、例えば、式「=CH-C6H4-NO2」で表される基等が挙げられる。
【0161】
X1は、上記の中でも、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ベンジル基、又は一般式「R7-C(=O)-」で表される基であることが好ましく、少なくとも一方のX1が水素原子であることが好ましい。
【0162】
β-ケトカルボン酸銀(1)は、2-メチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH3)-C(=O)-OAg)、アセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-エチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2CH3)-C(=O)-OAg)、プロピオニル酢酸銀(CH3CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、イソブチリル酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、ピバロイル酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、カプロイル酢酸銀(CH3(CH2)3CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-n-ブチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2CH2CH2CH3)-C(=O)-OAg)、2-ベンジルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2C6H5)-C(=O)-OAg)、ベンゾイル酢酸銀(C6H5-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、ピバロイルアセト酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、イソブチリルアセト酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-アセチルピバロイル酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH(-C(=O)-CH3)-C(=O)-OAg)、2-アセチルイソブチリル酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH(-C(=O)-CH3)-C(=O)-OAg)、又はアセトンジカルボン酸銀(AgO-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)であることが好ましい。
【0163】
β-ケトカルボン酸銀(1)を用いて、銀インク組成物の乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理により形成された導電体(金属銀)においては、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。このような導電体においては、原料や不純物が少ない程、例えば、形成された金属銀同士の接触が良好となり、導通が容易となり、抵抗率が低下する。
【0164】
β-ケトカルボン酸銀(1)は、後述するように、当該分野で公知の還元剤等を使用しなくても、好ましくは60~210℃、より好ましくは60~200℃という低温で分解し、金属銀を形成できる。そして、β-ケトカルボン酸銀(1)は、還元剤と併用することで、より低温で分解して金属銀を形成する。
【0165】
本発明において、β-ケトカルボン酸銀(1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0166】
(カルボン酸銀(4))
カルボン酸銀(4)は、前記一般式(4)で表される。
式中、R8は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、カルボキシ基(-COOH)又は式「-C(=O)-OAg」で表される基である。
R8における前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1~19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。ただし、R8における前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1~15であることが好ましく、1~10であることがより好ましい。
【0167】
R8における前記脂肪族炭化水素基がメチレン基(-CH2-)を有する場合、1個以上の前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい。カルボニル基で置換されていてもよいメチレン基の数及び位置は特に限定されず、すべてのメチレン基がカルボニル基で置換されていてもよい。ここで「メチレン基」とは、単独の式「-CH2-」で表される基だけでなく、式「-CH2-」で表される基が複数個連なったアルキレン基中の1個の式「-CH2-」で表される基も含むものとする。
【0168】
カルボン酸銀(4)は、ピルビン酸銀(CH3-C(=O)-C(=O)-OAg)、酢酸銀(CH3-C(=O)-OAg)、酪酸銀(CH3-(CH2)2-C(=O)-OAg)、イソ酪酸銀((CH3)2CH-C(=O)-OAg)、2-エチルへキサン酸銀(CH3-(CH2)3-CH(CH2CH3)-C(=O)-OAg)、ネオデカン酸銀、シュウ酸銀(AgO-C(=O)-C(=O)-OAg)、又はマロン酸銀(AgO-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)であることが好ましい。また、上記のシュウ酸銀(AgO-C(=O)-C(=O)-OAg)及びマロン酸銀(AgO-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)の2個の式「-COOAg」で表される基のうち、1個が式「-COOH」で表される基となったもの(HO-C(=O)-C(=O)-OAg、HO-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)も好ましい。
【0169】
カルボン酸銀(4)を用いた場合にも、β-ケトカルボン酸銀(1)を用いた場合と同様に、銀インク組成物の乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理により形成された導電体(金属銀)において、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。そして、カルボン酸銀(4)は、還元剤と併用することで、より低温で分解して金属銀を形成する。
【0170】
本発明において、カルボン酸銀(4)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0171】
前記カルボン酸銀は、β-ケトカルボン酸銀(1)であることが好ましい。
そして、これらβ-ケトカルボン酸銀(1)の中でも、2-メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、イソブチリル酢酸銀及びピバロイル酢酸銀は、後述する含窒素化合物(なかでもアミン化合物)との相溶性に優れ、銀インク組成物の高濃度化に、特に適したものとして挙げられる。
【0172】
銀インク組成物の総質量に対する、銀インク組成物中の前記カルボン酸銀に由来する銀の合計質量の割合は、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、形成された導電層(銀層)は、より優れた品質となる。前記割合の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、銀インク組成物の取り扱い性等を考慮すると、25質量%であることが好ましい。
なお、本明細書において、「カルボン酸銀に由来する銀」とは、特に断りの無い限り、銀インク組成物の製造時に配合されたカルボン酸銀中の銀と同義であり、配合後も引き続きカルボン酸銀を構成している銀と、配合後にカルボン酸銀の分解で生じた分解物中の銀と、配合後にカルボン酸銀の分解で生じた銀そのもの(金属銀)と、のすべてを含む概念とする。
【0173】
[アミン化合物]
前記アミン化合物は、炭素数が1~25であるものが好ましく、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれであってもよい。
前記アミン化合物は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
なお、本明細書において、「直鎖状のアミン化合物」とは、「主鎖が直鎖状であるアミン化合物」を意味し、「分岐鎖状のアミン化合物」とは、「主鎖が分岐鎖状であるアミン化合物」を意味し、「環状のアミン化合物」とは、「主鎖が環状であるアミン化合物」を意味する。そして、「主鎖」とは、後述するアミン部位(例えば、第1級アミンのアミノ基(-NH2))が直接結合している鎖状構造を意味する。
【0174】
前記アミン化合物は、アミン部位を構成する窒素原子(例えば、第1級アミンのアミノ基(-NH2)を構成する窒素原子)の数は1個であってもよいし、2個以上であってもよい。
【0175】
前記第1級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいモノアルキルアミン、モノアリールアミン、モノ(ヘテロアリール)アミン、ジアミン等が挙げられる。
【0176】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよく、このようなアルキル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が1~19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。
好ましい前記モノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、n-ブチルアミン、n-へキシルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、3-アミノペンタン、3-メチルブチルアミン、2-ヘプチルアミン(2-アミノヘプタン)、2-アミノオクタン、2-エチルヘキシルアミン、1,2-ジメチル-n-プロピルアミン等が挙げられる。
【0177】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。前記アリール基の炭素数は、6~10であることが好ましい。
【0178】
前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、芳香族環骨格を構成する原子として、ヘテロ原子を有し、前記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ホウ素原子等が挙げられる。また、芳香族環骨格を構成する前記へテロ原子の数は特に限定されず、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。2個以上である場合、これらへテロ原子は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、これらへテロ原子は、すべて同じであってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部だけ異なっていてもよい。
前記ヘテロアリール基は、単環状及び多環状のいずれであってもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されないが、3~12員環であることが好ましい。
【0179】
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1~4個有する単環状のものとしては、例えば、ピロリル基、ピロリニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペラジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、フラニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、チエニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する単環状のものとしては、例えば、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、モルホリニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する単環状のものとしては、例えば、チアゾリル基、チアジアゾリル基、チアゾリジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1~5個有する多環状のものとしては、例えば、インドリル基、イソインドリル基、インドリジニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラゾロピリジル基、テトラゾロピリダジニル基、ジヒドロトリアゾロピリダジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ジチアナフタレニル基、ベンゾチオフェニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
【0180】
前記ジアミンは、アミノ基を2個有していればよく、2個のアミノ基の位置関係は特に限定されない。好ましい前記ジアミンとしては、例えば、前記モノアルキルアミン、モノアリールアミン又はモノ(ヘテロアリール)アミンにおいて、アミノ基(-NH2)を構成する水素原子以外の1個の水素原子が、アミノ基で置換されたもの等が挙げられる。
前記ジアミンの炭素数は、1~10であることが好ましい。より好ましい前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン等が挙げられる。
【0181】
前記第2級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいジアルキルアミン、ジアリールアミン、ジ(ヘテロアリール)アミン等が挙げられる。
【0182】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルアミン1分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
好ましい前記ジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N-メチル-n-ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、ジ(2-エチルへキシル)アミン等が挙げられる。
【0183】
前記ジアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6~10であることが好ましい。また、ジアリールアミン1分子中の2個のアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0184】
前記ジ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基と同様であり、6~12員環であることが好ましい。また、ジ(ヘテロアリール)アミン1分子中の2個のヘテロアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0185】
前記第3級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいトリアルキルアミン、ジアルキルモノアリールアミン等が挙げられる。
【0186】
前記トリアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、トリアルキルアミン1分子中の3個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、3個のアルキル基は、すべてが同じであってもよいし、すべてが異なっていてもよいし、一部だけが異なっていてもよい。
好ましい前記トリアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0187】
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルモノアリールアミン1分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6~10であることが好ましい。
【0188】
ここまでは、主に鎖状のアミン化合物について説明したが、前記アミン化合物は、アミン部位を構成する窒素原子が環骨格構造(複素環骨格構造)の一部であるようなヘテロ環化合物であってもよい。すなわち、前記アミン化合物は環状アミンであってもよい。このときの環(アミン部位を構成する窒素原子を含む環)構造は、単環状及び多環状のいずれであってもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されず、脂肪族環及び芳香族環のいずれでもよい。
好ましい環状アミンとしては、例えば、ピリジン等が挙げられる。
【0189】
前記第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンにおいて、「置換基で置換されていてもよい水素原子」とは、アミン部位を構成する窒素原子に結合している水素原子以外の水素原子である。このときの置換基の数は特に限定されず、1個であってもよいし、2個以上であってもよく、前記水素原子のすべてが置換基で置換されていてもよい。置換基の数が複数の場合には、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、複数個の置換基はすべて同じであってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部だけが異なっていてもよい。また、置換基の位置も特に限定されない。
【0190】
前記アミン化合物における前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、トリフルオロメチル基(-CF3)等が挙げられる。ここで、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0191】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基としてアリール基を有する、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は置換基として好ましくは炭素数が1~5のアルキル基を有する、炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、2-フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、2,3-ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
また、置換基である前記アリール基及びアルキル基は、さらに1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。このようなハロゲン原子で置換された置換基を有するモノアルキルアミンとしては、例えば、2-ブロモベンジルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0192】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基が置換基を有する場合、前記アリール基は、置換基としてハロゲン原子を有する、炭素数が6~10のアリール基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアリールアミンとして、具体的には、例えば、ブロモフェニルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0193】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基として水酸基又はアリール基を有する、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、このような置換基を有するジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、ジエタノールアミン、N-メチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0194】
前記アミン化合物は、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-へキシルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、3-アミノペンタン、3-メチルブチルアミン、2-ヘプチルアミン、2-アミノオクタン、2-エチルヘキシルアミン、2-フェニルエチルアミン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、N-メチル-n-ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ(2-エチルへキシル)アミン、1,2-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン又はN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンであることが好ましい。
そして、これらアミン化合物の中でも、2-エチルヘキシルアミンは、前記カルボン酸銀との相溶性に優れ、銀インク組成物の高濃度化に特に適しており、さらに金属銀の表面粗さの低減に特に適したものとして挙げられる。
【0195】
本実施形態において、前記アミン化合物は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0196】
本実施形態において、前記アミン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0197】
銀インク組成物において、アミン化合物の配合量は、前記カルボン酸銀の配合量1モルあたり0.3~15モルであることが好ましく、0.3~12モルであることがより好ましく、0.3~8モルであることが特に好ましく、例えば、0.3~5モル、0.3~3モル、及び0.3~1.5モルのいずれかであってもよい。アミン化合物の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物の安定性がより向上し、金属銀の品質がより向上する。
【0198】
[ギ酸]
銀インク組成物において、ギ酸(H-C(=O)-OH)の配合量は、前記カルボン酸銀の配合量1モルあたり0.04~3.5モルであることが好ましく、0.06~2.5モルであることがより好ましく、例えば、0.08~1.5モル、及び0.1~1モルのいずれかであってもよい。ギ酸の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物は、より容易に、より安定して金属銀を形成できる。
【0199】
[他の成分]
銀インク組成物は、前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、のいずれにも該当しない、他の成分が配合されてなるものであってもよい。
前記他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の成分としては、例えば、アルコール、アルコール以外の溶媒(本明細書においては、単に「溶媒」と称することがある)等が挙げられる。
【0200】
本実施形態においては、前記他の成分を用いる場合、前記他の成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0201】
(アルコール)
前記アルコールは、下記一般式(2)で表されるアセチレンアルコール類(以下、「アセチレンアルコール(2)」と略記することがある)であることが好ましい。
【0202】
【化4】
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【0203】
・アセチレンアルコール(2)
アセチレンアルコール(2)は、前記一般式(2)で表される。
式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。
R’及びR’’における炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。R’及びR’’における前記アルキル基としては、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0204】
R’及びR’’におけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基としては、例えば、炭素数が1~16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が挙げられる。これら前記置換基は、Rにおけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基と同様のものである。そして、置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されず、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0205】
R’及びR’’は、水素原子、又は炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子、又は炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
【0206】
好ましいアセチレンアルコール(2)としては、例えば、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2-プロピン-1-オール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、3-エチル-1-ヘプチン-3-オール等が挙げられる。
【0207】
前記アルコールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0208】
(溶媒)
前記溶媒は、アルコール以外のもの(水酸基を有しないもの)であれば、特に限定されない。
ただし、前記溶媒は、常温で液状であるものが好ましい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、グルタル酸モノメチル、グルタル酸ジメチル等のエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2-ジメトキシエタン(ジメチルセロソルブ)等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド等が挙げられる。
【0209】
銀インク組成物における前記他の成分の配合量は、前記他の成分の種類に応じて、適宜選択すればよい。
【0210】
例えば、前記他の成分としてアセチレンアルコール(2)を用いる場合、銀インク組成物において、アセチレンアルコール(2)の配合量は、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり0.01~0.7モルであることが好ましく、0.02~0.5モルであることがより好ましく、0.02~0.3モルであることが特に好ましい。アセチレンアルコール(2)の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物の安定性がより向上する。
【0211】
例えば、前記他の成分として前記溶媒を用いる場合、前記溶媒の配合量は、銀インク組成物の粘度等、目的に応じて選択すればよい。ただし通常は、銀インク組成物において、配合成分の総量に対する前記溶媒の配合量の割合は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0212】
例えば、前記他の成分として、アセチレンアルコール(2)と、前記溶媒と、のいずれにも該当しない成分を用いる場合、銀インク組成物において、配合成分の総量に対する前記他の成分の配合量の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0213】
配合成分の総量に対する前記他の成分の配合量の割合が0質量、すなわち他の成分を配合しなくても、銀インク組成物は十分にその効果を発現する。
【0214】
銀インク組成物においては、配合成分がすべて溶解していてもよいし、一部又は全ての成分が溶解せずに分散した状態であってもよいが、配合成分がすべて溶解していることが好ましく、溶解していない成分は均一に分散していることが好ましい。
【0215】
<銀インク組成物の製造方法>
前記銀インク組成物は、前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、必要に応じて前記他の成分と、を配合することで得られる。各成分の配合後は、得られた配合物をそのまま銀インク組成物としてもよいし、必要に応じて引き続き公知の精製操作を行って得られた精製物を銀インク組成物としてもよい。本実施形態においては、上記の各成分の配合時において、金属銀の導電性を低下させる不純物の生成を抑制できる。この傾向は、特に前記カルボン酸銀としてβ-ケトカルボン酸銀(1)を用いた場合に顕著である。したがって、精製操作を行っていない前記銀インク組成物を用いても、十分な導電性を有する金属銀が得られる。
【0216】
各成分の配合順序は、特に限定されない。各成分の好ましい配合方法の一例としては、前記アミン化合物に前記カルボン酸銀を加えて、得られた混合物に、ギ酸を加える配合方法が挙げられる。
【0217】
各成分の配合時には、すべての成分を加えてからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次加えながら混合してもよく、すべての成分を順次加えながら混合してもよい。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー、三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を使用して混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
銀インク組成物において、溶解していない成分を均一に分散させる場合には、例えば、上記の三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を用いて分散させる方法を適用することが好ましい。
【0218】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、-5~60℃であることが好ましい。そして、配合時の温度は、配合成分の種類及び量に応じて、配合して得られた混合物が撹拌し易い粘度となるように、適宜調節するとよい。
また、配合時間も、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、10分~36時間であることが好ましい。
【0219】
<<金属製部材接合体>>
本発明の一実施形態に係る金属製部材接合体(第1の態様の金属製部材接合体)は、上述の金属製部材の接合方法により得られた金属製部材接合体であって、前記金属製部材接合体のダイシェア強度が15MPa以上のものである。
本実施形態の金属製部材接合体と、そのダイシェア強度は、先に説明したとおりである。
【0220】
第1の態様の金属製部材接合体における導電性接合部(換言すると、前記銀インク組成物から形成された金属銀)は、前記銀インク組成物の配合成分である前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、前記他の成分と、のいずれかが分解して生じた分解物;前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、前記他の成分と、のいずれかが、前記分解物と反応して生じた化合物;前記カルボン酸銀と、前記アミン化合物と、ギ酸と、前記他の成分と、のいずれかが、互いに反応して生じた化合物等の、前記配合成分に由来する、極めて微量の不純物を含有し得る。この不純物の組成は、前記銀インク組成物の場合とは異なる必須成分の配合によって製造された、他の銀インク組成物から形成された金属銀の場合とは、明確に異なることを確認できる。
一方、前記接合工程における前記銀インク組成物の加熱物の焼成温度は、比較的低温とすることが可能である。これは、銀インク組成物として、上述の限られた範囲内の配合成分(前記カルボン酸銀、前記アミン化合物、ギ酸)を用いていることによる。
すなわち、第1の態様における金属銀中の不純物は、比較的低温で金属銀を形成(すなわち焼成)できるという有利な点を有する前記銀インク組成物の使用を反映している。
【0221】
本発明の一実施形態に係る金属製部材接合体(第2の態様の金属製部材接合体)は、金属製の第1部材と、金属製の第2部材と、が金属銀を介して接合されて、構成されており、前記第1部材及び第2部材のいずれか一方又は両方が、銅製であり、前記第1部材が銅製である場合には、前記金属製部材接合体は、前記第1部材と前記金属銀との間に、前記第1部材側から前記金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えており、前記第2部材が銅製である場合には、前記金属製部材接合体は、前記第2部材と前記金属銀との間に、前記第2部材側から前記金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えており、前記金属製部材接合体のダイシェア強度が15MPa以上のものである。
第2の態様の金属製部材接合体も、上述の金属製部材の接合方法により得られる。
【0222】
前記第1部材が銅製である場合、第2の態様の金属製部材接合体は、銅製の第1部材、銀を主要構成元素とする層、銅及び酸素を主要構成元素とする層、及び金属銀がこの順に存在する積層構造を有する。
前記第2部材が銅製である場合、第2の態様の金属製部材接合体は、銅製の第2部材、銀を主要構成元素とする層、銅及び酸素を主要構成元素とする層、及び金属銀がこの順に存在する積層構造を有する。
これら積層構造は、銀元素と銅元素とが交互に配置されているという点で、全く意外なものである。
【0223】
上述の銅及び酸素を主要構成元素とする層においては、酸素は、例えば、酸化銅のような銅と反応した生成物として存在していてもよいし、銅と反応せずに単独で存在していてもよい。
【0224】
上述の「銀を主要構成元素とする層」とは、銀を含有していることによる性質を明確に示す程度に、銀を構成元素として含有する層を意味し、例えば、対象となる層において、全元素の総質量に対する、銀元素の質量の割合が50質量%以上である層が挙げられる。
上述の「銅及び酸素を主要構成元素とする層」とは、銅及び酸素を含有していることによる性質を明確に示す程度に、銅及び酸素を構成元素として含有する層を意味し、例えば、対象となる層において、全元素の総質量に対する、銅元素及び酸素元素の合計質量の割合が50質量%以上である層が挙げられる。
【0225】
このように、第2の態様の金属製部材接合体において、銅製の第1部材と金属銀、又は、銅製の第2部材と金属銀が、それぞれ単純に接触しているだけの構造ではなく、上記のような積層構造を有している理由は定かではないが、以下のように推測される。
すなわち、本実施形態の製造方法によって、特定範囲の組成を有する前記銀インク組成物を用い、前記予備加熱工程及び接合工程を行うことによって、銅製の第1部材又は銅製の第2部材と、銀インク組成物又はその加熱物と、が反応し、金属銀の銅製の第1部材中又は銅製の第2部材中への拡散、及び、銅製の第1部材中又は銅製の第2部材中の銅の金属銀中への拡散、のいずれか一方あるいは両方が生じるからであると推測される。そして、このような拡散は、銀インク組成物の配合成分であるギ酸の還元作用が関与している可能性がある。
したがって、銅製であるのが、第1部材及び第2部材のいずれであるかによらず、銀を主要構成元素とする層中の銀は、銀インク組成物又はその加熱物に由来すると推測される。
そして、銅製であるのが、第1部材及び第2部材のいずれであるかによらず、銅及び酸素を主要構成元素とする層中の銅は、銅製である第1部材又は第2部材に由来すると推測される。
【0226】
第2の態様の金属製部材接合体が上記のような積層構造を有していることは、金属製部材接合体のダイシェア強度が十分に大きいことと整合する。
【0227】
第2の態様の金属製部材接合体のダイシェア強度は15MPa以上であり、第1の態様の金属製部材接合体のダイシェア強度と同様である。
【0228】
第2の態様の金属製部材接合体における前記積層構造は、例えば、金属製部材接合体において、その第1部材、金属銀及び第2部材の接合方向に対して平行な方向の断面を作製し、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、略称:TEM)を用いてこの断面を観察したり、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy、略称:EDS又はEDX)によってこの断面を観察したりすることで、確認できる。
【0229】
本実施形態(第1の態様、第2の態様)の金属製部材接合体の用途は、特に限定されない。一例をあげると、前記金属製部材接合体は、回路基板中での電極同士の接合体として有用である。すなわち、前記金属製部材接合体を構成している金属製部材、すなわち前記第1部材及び第2部材の好ましい例としては、金属電極が挙げられる。
【0230】
<<回路基板>>
本発明の一実施形態に係る回路基板は、前記金属製部材接合体を有機基板上に備え、前記金属製部材が金属電極となっているものである。
先の説明のように、前記接合工程における前記銀インク組成物の加熱物の焼成温度は、比較的低温とすることが可能である。これは、銀インク組成物として、比較的限られた範囲内の配合成分を用いていることによる。
したがって、基板の構成材料として、比較的耐熱性が低い樹脂等の有機成分を含む有機基板を用い、その上の金属電極に対して、上述の金属製部材の接合方法を適用しても、品質上の問題点がない回路基板を製造できる。これに対して、金属製部材の接合時に極めて高い加熱温度を必要とする場合には、このような回路基板を製造できない。
【0231】
本実施形態の回路基板は、ダイシェア強度が15MPa以上である上述の金属製部材接合体を備えている点以外は、公知の回路基板と同じ構成とすることができる。そして、上述の金属製部材接合体を用いる点以外は、公知の回路基板の場合と同じ方法で製造できる。
【実施例】
【0232】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0233】
[実施例1]
<<金属製部材接合体の製造>>
<銀インク組成物の製造>
液温が50℃以下となるように、ビーカー中で2-エチルヘキシルアミン(後述する2-メチルアセト酢酸銀に対して0.4倍モル量)に2-メチルアセト酢酸銀(19.0g)を添加して、メカニカルスターラーを用いて15分撹拌することにより、液状物を得た。この液状物に、反応液の温度が50℃以下となるように、ギ酸(2-メチルアセト酢酸銀に対して0.7倍モル量)を30分かけて滴下した。ギ酸の滴下終了後、25℃にて反応液をさらに1.5時間撹拌することにより、銀インク組成物を得た。
【0234】
各配合成分の種類と配合比を表1に示す。表1中、「アミン化合物(モル比)」とは、カルボン酸銀の配合量1モルあたりのアミン化合物の配合量(モル数)([アミン化合物のモル数]/[カルボン酸銀のモル数])を意味する。「ギ酸のモル比」も同様に、カルボン酸銀の配合量1モルあたりのギ酸の配合量(モル数)([ギ酸のモル数]/[カルボン酸銀のモル数])を意味する。
【0235】
<金属製部材接合体の製造>
前記第1部材又は第2部材として、大きさが12mm×8mm×0.8mmである銅板と、大きさが4mm×4mm×0.8mmである銅チップと、を準備した。そして、水で濡らした耐水研磨紙(粒度2000)(三共理化学社製)を用いて、これら(すなわち、銅板及び銅チップ)を研磨して、これらの表面を清浄にした。
次いで、大きさが4mm×4mmである四角形状の領域が、2つ並列して型抜きされた、厚さが0.3mmの金属製マスクを、清浄後の銅板に被せ、スクリーン印刷法により、このマスクを被せた銅板に対して、上記で得られた銀インク組成物をべた印刷した。
以上により、銅板の表面に、大きさがおよそ4mm×4mm×0.3mmである直方体状の銀インク組成物の印刷層を、2つ並列して形成した。
【0236】
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、ホットプレートを用いて、この印刷層を備えた銅板を、その印刷層を備えていない側から加熱し、5分かけてこの銅板及び印刷層の温度を100℃まで上昇させて、さらに温度を100℃のまま1分保持した(予備加熱工程)。この間、印刷層(すなわち銀インク組成物)は固化せず、流動性を維持しており、温度が100℃に到達後は、泡立ちが認められた。この泡立ちは、銅板及び印刷層の温度を100℃で1分保持し終わる前に消失した。以上により、銀インク組成物の加熱物を得た。
得られた前記加熱物は、金属銀に特有の光沢を有しておらず、暗緑色であった。
【0237】
このような、銅板上に銀インク組成物の加熱物を備えた第1積層体を、合計で2つ作製した。
そして、これら2つの第1積層体を、これらの長手方向を一致させて、並列に配置した。
【0238】
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、直ちに、前記第1積層体中の銀インク組成物(印刷層)の加熱物の表面に前記銅チップを載置し、さらに、この銅チップの表面に質量5kgの錘を載置した。このとき、1つの前記加熱物に対して、1つの銅チップを載置し、これらを上方から見下ろしたときに、前記加熱物と銅チップの外周部の位置が一致するようにした。また、4つの銅チップすべてに跨るように、1つの前記錘を載置し、この1つの錘によって、これら4つの銅チップに均等に圧力が加わるように、錘の配置位置を調節した。
以上により、銅板の表面に、前記加熱物、銅チップ及び錘を位置合わせして積層した第2積層体を作製した。第2積層体は、2枚の銅板と、4つの前記加熱物と、4枚の銅チップと、1つの錘とで、構成されていた。
このとき、1つの銅チップに、錘によって加えられる圧力は、0.8MPaであった。
【0239】
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、この状態の前記第2積層体の温度を、5分かけて300℃まで上昇させて、さらに温度を300℃のまま30分保持した(接合工程)。換言すると、本工程では、前記加熱物を介在させて、銅板と銅チップを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、銅板と銅チップを金属銀によって接合した。
次いで、前記錘を取り除くことにより、銅板と銅チップが金属銀によって接合されて構成された、2つの金属製部材接合体を得た。これら接合体において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された導電性接合部は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。
上記のように、本実施例では、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B1)と、圧着焼成方法(C1)と、を採用した。
【0240】
<<銀インク組成物の評価>>
<銀インク組成物の粘度の測定>
レオメータ(アントンパール社製「MCR301」)を用いて、上記で得られた銀インク組成物について、25℃でのせん断速度1000/sにおける粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0241】
<銀インク組成物中の金属銀粒子の結晶子径の算出>
X線回折装置(Bruker AXS,D8 DISCOVER with GADDS)を用い、そのサンプルホルダー中に、上記で得られた銀インク組成物を充填して、銀インク組成物中の金属銀粒子について、下記測定条件でX線回折測定を行った。
次いで、得られたX線回折プロファイルのうち、最も強度が強い結晶面のピーク(2θ=38.1°)を用いて、上述のシェラーの式に基づいて結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
(測定条件)
・入射側光学系
X線源:CuK(波長1.542Å)
出力:50kV、100mA
モノクロメータ:多層膜ミラー
ビームサイズ:10mm(H)×1.0mm(W)
・受光側光学系
平行ソーラースリットの分解能:0.12°
検出器:シンチレーションカウンター
カメラ距離:15cm
・走査条件
走査方法:-2(Locked Coupled)
走査速度:3dig/min
インクリメント:0.02°
【0242】
<<金属製部材接合体の評価>>
<ダイシェア強度の測定>
上記で得られた2つの金属製部材接合体について、試験機(Dage社製「ボンドテスター4000」)を用いて、JIS C62137-1-2:2010(横押しせん断強度試験、IEC 62137-1-2:2007)に準拠して、ダイシェア強度を測定した。
この測定は、4つの銅チップごとに行い、4つの測定値の平均値を、最終的に金属製部材接合体のダイシェア強度として採用した。結果を表2に示す。
【0243】
<接合状態の解析>
集束イオンビーム(Focused Ion Beam、略称:FIB)装置を用い、上記で得られた2つの金属製部材接合体のうちの1つを切断して、断面を露出させた。
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、前記断面を観察した。このとき取得した撮像データを
図9に示す。
このとき、さらに、エネルギー分散型X線分光法(EDS、EDX)によって、前記断面を観察した。このとき取得した撮像データのうち、銀元素の検出時の撮像データを
図10に示し、銅元素の検出時の撮像データを
図11に示し、酸素元素の検出時の撮像データを
図12に示す。
【0244】
[実施例2]
<<金属製部材接合体の製造>>
<銀インク組成物の製造>
実施例1の場合と同じ方法で、銀インク組成物を製造した。
【0245】
<金属製部材接合体の製造>
実施例1の場合と同じ銅板及び銅チップを用い、実施例1の場合と同じ方法で、銅板の表面に、大きさがおよそ4mm×4mm×0.3mmである直方体状の銀インク組成物の印刷層を、2つ並列して形成した。
【0246】
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、印刷層(銀インク組成物)の表面に前記銅チップを載置し、これらを上方から見下ろしたときに、印刷層と銅チップの外周部の位置が一致するようにした。
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、ホットプレートを用いて、この印刷層を備えた銅板を、その印刷層を備えていない側から加熱し、5分かけてこの銅板、印刷層及び銅チップの温度を100℃まで上昇させて、さらに温度を100℃のまま1分保持した(予備加熱工程)。この間、印刷層(すなわち銀インク組成物)は固化せず、流動性を維持しており、温度が100℃に到達後は、泡立ちが認められた。この泡立ちは、銅板及び印刷層の温度を100℃で1分保持し終わる前に消失した。以上により、銀インク組成物の加熱物を得た。
得られた前記加熱物は、金属銀に特有の光沢を有しておらず、暗緑色であった。
【0247】
次いで、常圧下かつ大気雰囲気下において、直ちに、銅チップの表面に質量5kgの錘を載置した。このとき、1つの銅チップに対して、1つの錘を載置し、これらを上方から見下ろしたときに、銅チップと錘の中心部の位置が一致するようにした。
以上により、銅板の表面に、前記加熱物、銅チップ及び錘を位置合わせして積層した積層物を2つ形成した。
このとき、1つの銅チップに、錘によって加えられる圧力は、0.8MPaであった。
【0248】
次いで、実施例1の場合と同じ方法で接合工程を行い、前記加熱物を介在させて、銅板と銅チップを圧着しながら、前記加熱物を焼成することにより、銅板と銅チップを金属銀によって接合した。
以上により、銅板と銅チップが金属銀によって接合されて構成された金属製部材接合体を得た。この接合体において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された接合部は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。
さらに、同じ方法で、同じ金属製部材接合体をもう1つ製造し、金属製部材接合体を合計で2つ製造した。
上記のように、本実施例では、組み合わせ(A1)と、予備加熱方法(B2)と、圧着焼成方法(C1)と、を採用した。
【0249】
<<銀インク組成物の評価>>
実施例1の場合と同じ方法で、銀インク組成物の粘度を測定し、銀インク組成物中の金属銀粒子の結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
【0250】
<<金属製部材接合体の評価>>
<ダイシェア強度の測定>
上記で得られた2つの金属製部材接合体を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、金属製部材接合体のダイシェア強度を測定した。結果を表2に示す。
【0251】
<<金属製部材接合体の製造及び評価>>
[実施例3]
前記接合工程において、銅板と前記積層物の温度を、5分かけて300℃まで上昇させて、さらに温度を300℃のまま30分保持するのに代えて、銅板と前記積層物の温度を、5分かけて250℃まで上昇させて、さらに温度を250℃のまま30分保持した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、金属製部材接合体を製造及び評価した。
実施例3においては、得られた金属製部材接合体において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された接合部は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。結果を表2に示す。
【0252】
[実施例4]
前記接合工程において、銅板と前記積層物の温度を、5分かけて300℃まで上昇させて、さらに温度を300℃のまま30分保持するのに代えて、銅板と前記積層物の温度を、5分かけて200℃まで上昇させて、さらに温度を200℃のまま30分保持した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、金属製部材接合体を製造及び評価した。
実施例4においては、得られた金属製部材接合体において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された接合部は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。結果を表2に示す。
【0253】
[比較例1]
前記予備加熱工程において、銅板及び印刷層の温度を100℃まで上昇させた後に、さらに温度を100℃のまま保持する時間を、1分に代えて5分とした(以降、本工程を「比較用の予備加熱工程」と称することがある)点と、前記予備加熱工程後に、銅チップの表面に質量5kgの錘を載置せずに前記加熱物を焼成した(以降、本工程を「比較用の接合工程」と称することがある)点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、金属製部材接合体の製造及び評価を試みた。すなわち、比較例1においては、比較用の予備加熱工程後に、直ちに、銀インク組成物(印刷層)の加熱物の表面に前記銅チップを載置することにより、銅板の表面に、前記加熱物及び銅チップを位置合わせして積層した比較用積層物を2つ形成し、次いで、この状態の銅板と前記比較用積層物の温度を、5分かけて300℃まで上昇させて、さらに温度を300℃のまま30分維持し、以降、実施例1の場合と同じ方法で、銅板と銅チップとの金属銀による接合を試みた。
しかし、比較例1においては、銅板と銅チップとを金属銀により接合できず、目的とする金属製部材接合体を得られなかった。
比較例1においては、比較用の予備加熱工程の終了時には、印刷層(すなわち銀インク組成物)が固化して、流動性を失っていた。この固化物は、金属銀に特有の光沢を有しておらず、暗緑色であった。印刷層は、その温度が100℃に到達後は、泡立ちが認められた。得られた最終物において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された部位は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。結果を表2に示す。
【0254】
[比較例2]
前記予備加熱工程において、銅板及び印刷層の温度を100℃まで上昇させた後に、さらに温度を100℃のまま保持する時間を、1分に代えて5分とした(すなわち、比較用の予備加熱工程を行った)点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、金属製部材接合体を製造及び評価した。
比較例2においては、比較用の予備加熱工程の終了時には、印刷層(すなわち銀インク組成物)が固化して、流動性を失っていた。この固化物は、金属銀に特有の光沢を有しておらず、暗緑色であった。印刷層は、その温度が100℃に到達後は、泡立ちが認められた。得られた金属製部材接合体において、前記加熱物の焼成物、すなわち金属銀で構成された接合部は、大きさがおよそ4mm×4mm×0.03mmの直方体状であった。結果を表2に示す。
【0255】
【0256】
【0257】
上記結果から明らかなように、実施例1~4においては、予備加熱工程及び接合工程を行うことにより、金属製部材接合体のダイシェア強度が17.5MPa以上(17.5~35MPa)であり、接合強度が十分に高かった。特に、実施例1及び2の結果から、銅チップの載置を予備加熱工程後に行う(すなわち、予備加熱方法(B1)を採用する)ことで、接合強度がより高くなることが確認された。
【0258】
実施例1~4においては、いずれも、予備加熱工程の間、銀インク組成物は固化せず、流動性を維持していた。これは、銀インク組成物に泡立ちが見られたことから明らかであった。実施例2においては、予備加熱工程の間、銀インク組成物(印刷層)の主要な面が銅チップで被覆されており、露出しておらず、銀インク組成物の泡立ちを直接確認できなかったが、銅チップに僅かながら揺らぎが認められたことで、銀インク組成物に泡立ちが生じていることを間接的に確認できた。
また、実施例1~4においては、いずれも、銀インク組成物の泡立ちが予備加熱工程の終了時までには消失しており、この段階で銀インク組成物からのガスの発生が、ほぼ又は完全に終了していたと推測された。
【0259】
これに対して、比較例1においては、金属製部材接合体を得られなかった。これは、比較用の予備加熱工程の終了時に、銀インク組成物が固化していたこと、比較用の接合工程において、前記加熱物の焼成時に銅板と銅チップを圧着しなかったこと、が原因であった。
比較例1においては、銀インク組成物の温度が100℃に到達後、当初は、泡立ちが認められたが、この泡立ちが消失する前に、銀インク組成物が固化してしまい、銀インク組成物の加熱物の表面が、泡立ちの影響で、実施例1~4の場合よりも荒れていた。
【0260】
比較例2においては、金属製部材接合体のダイシェア強度が3MPaであり、接合強度が低かった。これは、比較用の予備加熱工程の終了時に、銀インク組成物が固化していたことが原因であった。
比較例2においても、比較例1の場合と同様に、銀インク組成物の温度が100℃に到達後、当初は、泡立ちが認められたが、この泡立ちが消失する前に、銀インク組成物が固化してしまい、銀インク組成物の加熱物の表面が、泡立ちの影響で、実施例1~4の場合よりも荒れていた。
ただし、比較例2では、比較例1の場合とは異なり、接合工程において、前記加熱物の焼成時に銅板と銅チップを圧着したため、金属製部材接合体は得られた。
【0261】
図9は、銅チップと金属銀(導電性接合部)との境界と、その近傍領域の、TEMによる撮像データである。
図9中、画像左側の領域は銅チップであり、画像右側の領域は金属銀である。
図9中、矢印で示すものも含めた色抜け部分は、微小な空隙部(本明細書及び図面においては、「マイクロボイド」と称することがある)である。
図9から明らかなように、銅チップと金属銀との間には、画像上下に渡り、他の領域と区別可能な2つの領域、すなわち領域9-1及び領域9-2が認められた。
【0262】
図10は、
図9と同じ領域の、EDS(EDX)による銀元素検出時の撮像データである。
図10中にも、
図9の場合と同様に、銅チップと金属銀との間には、画像上下に渡り、他の領域と区別可能な2つの領域、すなわち領域10-1及び領域10-2が認められた。領域10-1の形状は、領域9-1の形状と類似しており、領域10-2の形状は、領域9-2の形状と類似してした。
取得した撮像データは、金属銀の領域と領域10-1において蛍光が発生していることを示しており、これらの領域で銀元素が検出された。一方、この撮像データは、領域10-2も含めて他の領域においては、有意に蛍光が発生していることを示しておらず、これらの領域で銀元素は有意に検出されなかった。
【0263】
図11は、
図9と同じ領域の、EDS(EDX)による銅元素検出時の撮像データである。
図11中にも、
図9の場合と同様に、銅チップと金属銀との間には、画像上下に渡り、他の領域と区別可能な2つの領域、すなわち領域11-1及び領域11-2が認められた。領域11-1の形状は、領域9-1の形状と類似しており、領域11-2の形状は、領域9-2の形状と類似してした。
取得した撮像データは、銅チップの領域と、領域11-2において蛍光が発生していることを示しており、これらの領域で銅元素が検出された。一方、この撮像データは、領域11-1も含めて他の領域においては、有意に蛍光が発生していることを示しておらず、これらの領域で銅元素は有意に検出されなかった。
【0264】
図12は、
図9と同じ領域の、EDS(EDX)による酸素元素検出時の撮像データである。
図12中には、
図9の場合とは異なり、銅チップと金属銀との間には、画像上下に渡り、他の領域と区別可能な1つの領域、すなわち領域12-1が認められた。そして、領域12-1の形状は、領域9-2の形状と類似してした。
取得した撮像データは、領域12-1において蛍光が発生していることを示しており、この領域で酸素元素が検出された。一方、この撮像データは、他の領域においては、微弱な蛍光の発生を示唆していたが、その蛍光強度は、領域12-1での蛍光強度と比較すると軽微であり、酸素元素の検出量は微量であった。
【0265】
以上の結果から、領域9-1、領域10-1、及び領域11-1は、同じ領域を示しており、この領域は、銀を主要構成元素とする層であることが判明した。
また、領域9-2、領域10-2、領域11-2、及び領域12-1は、同じ領域を示しており、この領域は、銅及び酸素を主要構成元素とする層であることが判明した。
すなわち、上記で得られた金属製部材接合体は、銅チップと金属銀との間に、銅チップ側から金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えていることが判明した。このように、金属製部材接合体は、銅チップ、銀を主要構成元素とする層、銅及び酸素を主要構成元素とする層、及び金属銀がこの順に存在する積層構造を有し、銀元素と銅元素とが交互に配置されていた。
【0266】
上記の結果は、銅チップと金属銀(導電性接合部)との境界と、その近傍領域での分析によって得られたものであるが、金属製部材接合体の反対側、すなわち、銅板と金属銀(導電性接合部)との境界と、その近傍領域での分析でも、同様の結果が得られた。
すなわち、金属製部材接合体は、銅板と金属銀との間に、銅板側から金属銀側へ向けて、銀を主要構成元素とする層と、銅及び酸素を主要構成元素とする層と、をこの順に備えていることが判明した。このように、金属製部材接合体は、銅板、銀を主要構成元素とする層、銅及び酸素を主要構成元素とする層、及び金属銀がこの順に存在する積層構造を有し、銀元素と銅元素とが交互に配置されていた。
【0267】
上記の銅チップ側及び銅板側の両方の、銅及び酸素を主要構成元素とする層においては、酸素は、酸化銅のような銅と反応した生成物として存在している可能性があり、銅と反応せずに単独で存在している可能性もあった。
【0268】
金属製部材接合体が上記のような積層構造を有していることは、金属製部材接合体のダイシェア強度が十分に大きいことと整合していた。
【産業上の利用可能性】
【0269】
本発明は、回路基板をはじめとする、金属製部材接合体を備えた各種装置の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0270】
1,2・・・金属製部材接合体、11・・・金属製の第1部材、11a・・・金属製の第1部材の第1面、12・・・金属製の第2部材、12a・・・金属製の第2部材の第1面、13,23・・・金属銀(導電性接合部)、130・・・銀インク組成物、130’・・・銀インク組成物の加熱物