(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】エネルギー管理システムおよびエネルギー管理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240115BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240115BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240115BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240115BHJP
F24F 11/61 20180101ALI20240115BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20240115BHJP
F24F 11/80 20180101ALI20240115BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20240115BHJP
F24F 110/20 20180101ALN20240115BHJP
F24F 110/30 20180101ALN20240115BHJP
F24F 120/20 20180101ALN20240115BHJP
F24F 140/00 20180101ALN20240115BHJP
F24F 130/10 20180101ALN20240115BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J13/00 311A
H02J13/00 311T
F24F11/46
F24F11/61
F24F11/64
F24F11/80
F24F110:10
F24F110:20
F24F110:30
F24F120:20
F24F140:00
F24F130:10
(21)【出願番号】P 2020093535
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉本 尚起
(72)【発明者】
【氏名】赤司 泰義
(72)【発明者】
【氏名】割澤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】林 鍾衍
(72)【発明者】
【氏名】宮田 翔平
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204799(JP,A)
【文献】特開2020-022284(JP,A)
【文献】特開2017-120599(JP,A)
【文献】特開2005-158020(JP,A)
【文献】特開2012-194847(JP,A)
【文献】特開2008-128526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0211837(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00
H02J 13/00
F24F 11/46
F24F 11/61
F24F 11/64
F24F 11/80
F24F 110/10
F24F 110/20
F24F 110/30
F24F 120/20
F24F 140/00
F24F 130/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の建物内の空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムであって、
プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、複数の端末と通信可能なインタフェースと、を有し、
前記記憶デバイスは、前記複数の建物の建物ごとに、前記空調設備の稼働と前記空調設備の消費エネルギー量との関係を示す第1データと、前記空調設備の稼働状況を示す第2データと、天候を示す第3データと、前記建物内の温冷を示す第4データと、を記憶し、
前記プロセッサは、
前記建物ごとに、前記建物の利用者の滞在空間での温冷に関する満足感を示す申告データを前記複数の端末の各々から受け付け、
前記申告データに基づいて、統計的な手法によって前記滞在空間内の母集団となる利用者数に占める満足を示した利用者の推計数の比で前記満足感を表す満足度を前記建物ごとに算出し、
前記満足度と、所定の目標満足度と、に基づいて、前記空調設備を稼働する計画を前記建物ごとに作成し、
前記第1データに基づいて、前記複数の建物に分配された前記計画により前記複数の建物の各々の前記空調設備を稼働した場合の第1消費エネルギー量を算出し、
前記第2データ、前記第3データおよび前記第4データに基づいて、所定時間経過後に前記各々の空調設備を稼働した場合の第2消費エネルギー量を算出し、
前記第1消費エネルギー量が前記第2消費エネルギー量よりも大きい場合、前記第2消費エネルギー量となるように前記各々の空調設備の稼働を制御する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー管理システムであって、
前記プロセッサは、
前記第1消費エネルギー量が前記第2消費エネルギー量以下である場合、前記第1消費エネルギー量と前記第2消費エネルギー量との差分に対応する省エネ行動を選択し、
選択した前記省エネ行動を促す省エネ行動情報を前記複数の端末に送信する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギー管理システムであって、
前記プロセッサは、
前記満足感が満足であることを示す前記申告データの件数と、前記満足感が不満足であることを示す前記申告データの件数と、の分布に基づいて、前記満足度を前記建物ごとに算出する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項4】
請求項1に記載のエネルギー管理システムであって、
前記記憶デバイスは、前記建物内の温度、輻射温度、湿度および風速を記録した実績データをカテゴリ化した複数の運用パターンを前記建物ごとに記憶し、
前記プロセッサは、
前記複数の運用パターンから、前記満足度と、所定の目標満足度と、に基づいて、特定の運用パターンを前記計画として前記建物ごとに選択する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項5】
請求項2に記載のエネルギー管理システムであって、
前記プロセッサは、
前記省エネ行動情報を送信した前記端末からの前記利用者が前記省エネ行動をした旨の応答の件数に基づいて、前記省エネ行動を評価し、
前記第1消費エネルギー量が前記第2消費エネルギー量以下である場合、前記省エネ行動の評価結果に基づいて、前記第1消費エネルギー量と前記第2消費エネルギー量との差分に対応する省エネ行動を選択する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項6】
請求項1に記載のエネルギー管理システムであって、
前記プロセッサは、
前記利用者の経時的な生体データを取得し、
前記満足感が不満足であることを示す前記申告データを送信した特定の端末の利用者の前記経時的な生体データに基づいて、前記特定の端末の利用者に対する前記建物の利用に関するサポート情報を生成し、
前記サポート情報を前記特定の端末に送信する、
ことを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項7】
建物内の空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムが実行するエネルギー管理方法であって、
前記エネルギー管理システムは、プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、複数の端末と通信可能なインタフェースと、を有し、
前記記憶デバイスは、前記空調設備の稼働と前記空調設備の消費エネルギー量との関係を示す第1データと、前記空調設備の稼働状況を示す第2データと、天候を示す第3データと、前記建物内の温冷を示す第4データと、を記憶し、
前記エネルギー管理方法は、
前記プロセッサが、
前記建物の利用者の滞在空間での温冷に関する満足感を示す申告データを前記複数の端末の各々から受け付け、
前記申告データに基づいて、統計的な手法によって前記滞在空間内の母集団となる利用者数に占める満足を示した利用者の推計数の比で前記満足感を表す満足度を算出し、
前記満足度と、所定の目標満足度と、に基づいて、前記空調設備を稼働する計画を作成し、
前記第1データに基づいて、前記計画により前記空調設備を稼働した場合の第1消費エネルギー量を算出し、
前記第2データ、前記第3データおよび前記第4データに基づいて、所定時間経過後に前記空調設備を稼働した場合の第2消費エネルギー量を算出し、
前記第1消費エネルギー量が前記第2消費エネルギー量よりも大きい場合、前記第2消費エネルギー量となるように前記空調設備の稼働を制御する、
ことを特徴とするエネルギー管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを管理するエネルギー管理システムおよびエネルギー管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスの削減に向けた再生可能エネルギーの普及拡大が続いている。再生可能エネルギーのうち、特に風力発電や太陽光発電といった変動再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy,VRE)はエネルギー供給の変動に伴い、従来の火力発電といった化石燃料に頼らない形式での需給バランスの調整が必要であると指摘されている。
【0003】
電力需要のうちオフィスビルや商業施設、公共施設等の業務部門では、近年、全体に占める電力需要の割合が増加傾向にある。業務部門の電力需要の特徴は需要家が多様であるため、電力消費傾向にも多様性があり、その需要予測が困難である点があげられる。
【0004】
電力消費傾向の予測が困難であるため、個々のオフィスビルや商業施設、公共施設等が立地する一定の区域を包括し、その区域に含まれる建物群の電力需要の合計値を求め、区域における電力消費の上限値を一定以下にする「エリアエネルギーマネジメント」があり、個々のオフィスビルや商業施設、公共施設等の電力需要予測の不確実性を回避する方法として提案されている。
【0005】
また、VREと協調するためには、エネルギー消費量を抑えたり、余剰のエネルギーを積極的に使用するといった、需要家側の調整が不可欠となるとともに、需要家側である居住者、オフィスビル就労者、および商業施設の従業員や顧客(以下、これらの者を利用者)が、温度や湿度などから規定される快適性を満足し続ける必要がある。快適性の低下を招くと、オフィスにおける生産性が低下したり、商業施設の売り上げに影響が及んだりする可能性がある。
【0006】
特許文献1は、室内環境改善の必要性が高い場合に室内環境を確実に改善すると共に特定の個人の申告の継続による極端な室内環境への推移を回避する要望判別装置を開示する。この要望判別装置は、申告者からの周囲環境に対する要望を受け付ける要望保持部と、申告者の在席空間から収集した環境要素計測値に基づいて申告者の周囲環境の状態を示す環境状態量を算出し、環境状態量から申告者の周囲環境に対する不満足度を求める環境状態量管理部と、不満足度に基づいて、申告者からの要望が一時的要望か定時的要望かを判別する判別処理部とを備える。
【0007】
特許文献2は、所定期間の電力量に目標値を定めて電力設備を運転制御するシステムを開示する。このシステムは、電力設備を制御する電力管理装置と、該電力管理装置から転送されるデータなどにより制御データを作成する制御端末装置とを、データ交換可能に接続し、電力管理装置は、電力設備の電力使用量を検出する電力データ作成手段、電力設備を設置した施設の稼働データ作成手段、環境データ作成手段を備え、制御端末装置は、前記電力管理装置から転送されてくる前記各データにもとづいて電力設備の過去の稼働状況を解析する過去データ解析手段と、該過去データ解析手段の解析結果にもとづいて予測電力量を算出する予測電力量演算手段と、前記予測電力量から目標電力量を算出する目標電力量演算手段とを備え、目標電力量演算手段により得られた目標電力量に応じたデータを電力管理装置へ転送し、電力設備の制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-4480公報
【文献】特開2002-135977公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Jongyeon Lim, Yasunori Akashi, Doosam Song, Hyokeun Hwang, Yasuhiro Kuwahara, Shinji Yamamura, Naoki Yoshimoto, Kazuo Itahashi, “Hierarchical Bayesian modeling for predicting ordinal responses of personalized thermal sensation: Application to outdoor thermal sensation data”, Building and Environment Volume 142, September 2018, Pages 414-426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
オフィスビルや商業施設、公共施設等の業務部門における電力需要の特徴は需要家が多様であるため、電力消費傾向にも多様性があり、その需要予測が困難である。これまで一定の区域を包括し、その区域に含まれる建物群の電力需要の合計値を一定値以下に制御する「エリアエネルギーマネジメント」では、個々の建物におけるエネルギー利用が居住者の快適性を損なう形で運用される懸念がある。
【0011】
一方、利用者の快適性を得るためには、利用者からの快適性の申告が状況把握として利用可能であるが、その居住空間全体における利用者の快適性を最大化することは未だ困難である。利用者は不満足な場合には積極的に申告するが、最適な場合には申告しない傾向となり、単純に申告情報だけに依存することができないためである。
【0012】
また、利用者の快適性を最大化するように滞在空間の空調を制御すると、空調制御によるエネルギー消費が従来に対して増加または減少する可能性がある。したがって、利用者の不満足度が一定以内に収まるように居住空間の空調を制御しながら、エネルギー利用の面で再生可能エネルギーと協調するためには、利用者の快適性とエネルギー消費の関係を予測可能とすることが不可欠となる。
【0013】
さらに、居住者の快適性を維持した状態で、VREをできるだけ利用するエネルギー消費を実現するためには、居住する建築物の設備制御のみならず、運転モードおよび需要スケジュール等を加味した統合的な制御を行う具体的施策が不可欠となる。
【0014】
本発明は、利用者の満足度に対し、建物群に対して、適切なエネルギー需要計画を配し、そのエネルギー需要計画に基づいて適切な空調制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される発明の一側面となるエネルギー管理システムは複数の建物内の空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムであって、プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、複数の端末と通信可能なインタフェースと、を有し、前記記憶デバイスは、前記複数の建物の建物ごとに、前記空調設備の稼働と前記空調設備の消費エネルギー量との関係を示す第1データと、前記空調設備の稼働状況を示す第2データと、天候を示す第3データと、前記建物内の温冷を示す第4データと、を記憶し、前記プロセッサは、前記建物ごとに、前記建物の利用者の滞在空間での温冷に関する満足感を示す申告データを前記複数の端末の各々から受け付け、前記申告データに基づいて、統計的な手法によって前記滞在空間内の母集団となる利用者数に占める満足を示した利用者の推計数の比で前記満足感を表す満足度を前記建物ごとに算出し、前記満足度と、所定の目標満足度と、に基づいて、前記空調設備を稼働する計画を前記建物ごとに作成し、前記第1データに基づいて、前記複数の建物に分配された前記計画により前記複数の建物の各々の前記空調設備を稼働した場合の第1消費エネルギー量を算出し、前記第2データ、前記第3データおよび前記第4データに基づいて、所定時間経過後に前記各々の空調設備を稼働した場合の第2消費エネルギー量を算出し、前記第1消費エネルギー量が前記第2消費エネルギー量よりも大きい場合、前記第2消費エネルギー量となるように前記各々の空調設備の稼働を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の代表的な実施の形態によれば、利用者の満足度に対し適切な空調制御を実現することができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1にかかるエネルギー管理システムによるエネルギー管理例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施例1にかかるエネルギー管理システムによるエネルギー管理例のうち、
図1に示した建物群のうち、一つの建物に着眼して、建物内部のエネルギー管理を示す説明図である。
【
図3】
図3は、コンピュータ(エネルギー管理システムおよび端末)のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施例1における、複数の建物に対するエネルギー需要分配を示す説明図である。
【
図5】
図5は、端末に表示される申告画面の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、エネルギー管理システムの機能的構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、エネルギー管理システムの基本的な動作例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、満足の申告による作用温度の相関の一例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、空調設備の稼働と消費電力との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、申告データに対する利用者全体の意見推計を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施例2にかかるエネルギー管理システムによる利用者の満足度と建物の電力需要調整および脱炭素の統合制御例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施例3にかかるエネルギー管理システムによるエネルギー管理例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本開示の実施例を説明する。なお、本開示の実施例は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。また、後述する各実施例の説明に使用する各図の対応部分には同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【実施例1】
【0019】
<エネルギー管理システムによるエネルギー管理例>
図1は、実施例1にかかるエネルギー管理システムによるエネルギー管理例のうち、複数の建物群を管理することを示す説明図である。エネルギー管理システム100は、複数の建物101(例として建物101-1、101-2、101-3。これらを区別しない場合は、単に建物101と表記する。建物101は2棟でもよく4棟以上でもよい。)を有する建物群101sであり、これらは電力系統でエネルギー的に接続されている。電力系統でエネルギー的に接続されていれば、建物101-1、101-2、101-3は物理的に遠距離であっても構わない。建物101は、たとえば、オフィスビル、複合ビル、学校、商業施設、マンションのような複数の部屋を有する建造物である。
【0020】
図2は、実施例1にかかるエネルギー管理システム100によるエネルギー管理例のうち、
図1に示した建物群101sのうち、一つの建物101に着眼して、建物101内部のエネルギー管理を示す説明図である。エネルギー管理システム100は、建物101内に設置された空調設備102を制御して、快適な環境を建物内の利用者130に提供する。
【0021】
空調設備102は、冷却塔121と、冷凍機122と、送水ポンプ123と、熱交換器124と、を有する。冷却塔121は、冷却水を入力して冷却水を放熱させ、放熱した冷却水を冷凍機122に出力する装置である。冷凍機122は、冷媒を用いて冷却塔121からの冷却水を冷却して冷水を作る装置である。送水ポンプ123は、冷凍機122からの冷水を熱交換器124に出力する。熱交換器124は、送水ポンプ123によって送水されてきた冷凍機122の冷水で空調用の空気を冷却する。この冷却した空気が建物101内に送風される。
【0022】
また、利用者130は、上述したように、建物101の居住者、就労者、および商業施設の従業員や顧客である。利用者130は、端末103を使用する。端末103は、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などのネットワーク110を介して、エネルギー管理システム100と通信可能である。
【0023】
また、建物101内には、パーソナルコンピュータや複写機、プリンタ、冷蔵庫などの電子機器104や照明器具105、106が設けられている。照明器具105は、利用者130が存在する滞在空間を照明しており、照明器具106は、電子機器104が置かれている空間を照明しているものとする。
【0024】
(1)端末103は、利用者130の操作入力により、建物101内の滞在空間における温度、湿度、利用者130の着衣量や代謝量で特徴づけられる満足感を示す申告データを、エネルギー管理システム100に送信する。また、エネルギー管理システム100は、利用者130や電子機器104、照明器具105,106、床からの輻射温度を検出するセンサ(不図示)と通信可能に接続されており、申告データとは別に、輻射温度を取得する。また、エネルギー管理システム100は、空調設備102から出力される風の風速を検出するセンサ(不図示)を空調設備102から取得可能であり、申告データとは別に、風速を取得する。なお、以降、申告データという用語には、輻射温度や風速を含むことがある。
【0025】
(2)エネルギー管理システム100は、端末103からの申告データを受信して、利用者130の満足感を解析し、空調設備102に関する制御の運用方針を決定し、空調設備102の制御を実行する。(3)また、空調設備102の制御のみで目標とするエネルギー削減量に到達しないと予想される場合は、利用者130に対して省エネ行動を促す省エネ行動情報を発信し、省エネ行動によって消費エネルギー量の削減を促す。省エネ行動情報とは、たとえば、電源が投入されたにもかかわらず使用されていない電子機器104や照明器具106の電源をOFFにするというような省エネ行動を促す情報である。
【0026】
<コンピュータのハードウェア構成例>
図3は、コンピュータ(エネルギー管理システム100および端末103)のハードウェア構成例を示すブロック図である。コンピュータ200は、プロセッサ201と、記憶デバイス202と、入力デバイス203と、出力デバイス204と、通信インタフェース(通信IF)205と、を有する。プロセッサ201、記憶デバイス202、入力デバイス203、出力デバイス204、および通信IF205は、バス206により接続される。プロセッサ201は、コンピュータ200を制御する。記憶デバイス202は、プロセッサ201の作業エリアとなる。また、記憶デバイス202は、各種プログラムやデータを記憶する非一時的なまたは一時的な記録媒体である。記憶デバイス202としては、たとえば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリがある。入力デバイス203は、データを入力する。入力デバイス203としては、たとえば、キーボード、マウス、タッチパネル、テンキー、スキャナがある。出力デバイス204は、データを出力する。出力デバイス204としては、たとえば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカがある。通信IF205は、ネットワーク110と接続し、データを送受信する。
【0027】
<建物群の需要分配>
複数の建物101-1、101-2、101-3からなる建物群101sにおいて、個々の建物101が再生可能エネルギーを可能な限り利用して脱炭素を実現するためには、建物101の電力需要の把握と適切な電力需要計画の分配が必要である。電力需要計画とは、再生可能エネルギーの分配と連動するビル全体の電力消費に関する計画であり、空調計画も含まれる。電力需要計画の各建物101への配分は、温室効果ガスの排出量といったエネルギー消費に関わる指標、各建物の空調設備の性能および規模、各建物で予想される電力需要量などを参考にして決定される。例えば、各建物101の空調設備102の性能や規模を考慮して電力需要計画を施すと、高性能の空調設備102を有する建物101に適切な電力需要を促すなど、利用者130に配慮した形の計画が可能となる。
【0028】
電力需要計画の各建物101への分配の具体的方法は、
図4に示すように再生可能エネルギーの発電動向や電力卸価格の時間動向、供給される電力の排出原単位の時間動向、再生可能エネルギーをはじめとする電力卸単価の時間動向など、脱炭素に関わる種々の要因を背景として、脱炭素、電力消費コストなどを目標設定することである。電力需要計画の各建物101への分配は、電力需要の予測技術や再生可能エネルギーの発電量予測など電力需給の既知の予測技術を用いることができる。
【0029】
<申告画面>
次に、居住者が自己の満足度を申告する手法について説明する。
図5は、端末103に表示される申告画面の一例を示す説明図である。申告画面300は、温冷感申告領域301と、満足感申告領域302と、ストレス申告領域303と、送信ボタン304と、を有する。温冷感申告領域301は、第1スライダ311と第1横軸312とを含む。第1スライダ311を第1横軸312の方向に操作することで、利用者130の空調設備102による温冷感が指定される。満足感申告領域302は、第2スライダ321と第2横軸322とを含む。第2スライダ321を第2横軸322の方向に操作することで、空調設備102によって空調された環境について利用者130の満足感が指定される。ストレス申告領域303は、第3スライダ331と第3横軸332とを含む。第3スライダ331を第3横軸332の方向に操作することで、利用者130のストレスの大きさが指定される。
【0030】
送信ボタン304は、利用者130の押下により、第1スライダ311~第3スライダ331で指定された温冷感、満足感、およびストレスの各値を申告データとして、端末103からエネルギー管理システム100に送信するためのボタンである。
【0031】
なお、申告画面300では、一例として、温冷感申告領域301は、暑いから寒いまでを複数段階で第1スライダ311により指定可能としたが、暑い、寒いといった温度、湿度、輻射温度、風速および居住者の着衣量、代謝量で温冷感を指定可能な領域としてもよい。
【0032】
また、満足感申告領域302は、利用者130の滞在空間に対する満足または不満足という2択の形式で第2スライダ321により指定可能としたが、滞在空間の温度、湿度、輻射温度、風速、および居住者の着衣量、代謝量で満足感を指定可能な領域としてもよい。
【0033】
また、エネルギー管理システム100は、利用者130の滞在空間の基礎データである温度、湿度の逐次データを端末103から取得してもよい。なお、エネルギー管理システム100は、温度、湿度の逐次データを、利用者130の滞在空間をできるだけ網羅するように複数点取得することが望ましい。
【0034】
輻射温度や風速は現状、そのセンサが高価であるなどの事情により、必ずしも逐次データとして検出できない可能性があるが、エネルギー管理システム100は、典型的な運用時における輻射温度や風速のデータを端末103から取得し、参照することが望ましい。さらに、エネルギー管理システム100は、利用者130の満足に影響を与える着衣量や代謝量も端末103から取得できれば望ましいが、従来技術により固定値であっても満足の評価への影響は小さいことが知られているので、固定値であっても問題はない。
【0035】
<エネルギー管理システム100の機能的構成例>
図6は、エネルギー管理システム100の機能的構成例を示すブロック図である。エネルギー管理システム100は、複数の建物101-1、101-2、101-3で個々の電力需要計画が策定され、その需要計画に従って、利用者130の満足度の申告を受け入れ、目標となる温熱感を算出する。
【0036】
エネルギー管理システム100は、受付部401と、解析部402と、設定部403と、空調制御部404と、生成部405と、出力部406と、統合演算部407と、を有する。受付部401~統合演算部407は、具体的には、たとえば、
図2に示した記憶デバイス202に記憶されたプログラムをプロセッサ201に実行させることにより実現される。
【0037】
受付部401は、利用者130からの申告データや気象状況データ411~生体データ418などの各種データを、端末103やネットワーク110から建物101ごとに受け付ける。解析部402は、滞在空間にいる利用者130の満足度を解析する。設定部403は、空調制御の条件を設定する。これにより、空調設備102の制御方法が決定される。
【0038】
空調制御部404は、設定部403の設定に基づいて、空調設備102の運転を制御する。生成部405は、空調設備102の運転に必要な消費エネルギー量が不足した場合に、省エネ行動情報を建物101ごとに生成する。出力部406は、生成部405によって生成された省エネ行動情報を端末103に出力する。統合演算部407は、設定した目標満足度に対応して、空調計画を建物101ごとに作成したり、後述する複数の建物101-1、101-2、101-3全体の消費エネルギー量Aや目標消費エネルギー量Bを算出したりする。
【0039】
また、エネルギー管理システム100は、建物101ごとに、気象状況データ411と、天気予報データ412と、建物運用カレンダー413と、建物過去運用データ414と、設備稼働データ415と、省エネカテゴリデータ416と、室内温冷データ417と、生体データ418と、を記憶デバイス202に記憶する。
【0040】
気象状況データ411は、現在の天候(晴れ、曇り、雨、雪など)、気温、湿度などの気象データを含む。気象状況データ411は、当該建物101において計測されたり、気象予報会社(予報業務許可事業者)のサイトから取得可能なデータである。
【0041】
天気予報データ412は、所定時間後の気象(天候、気温、湿度など)の予報データであり、気象庁や気象予報会社のサイトから取得可能なデータである。
【0042】
建物運用カレンダー413は、建物101におけるイベントの内容や日時のデータを含む。
【0043】
建物過去運用データ414は、過去において建物101内で空調設備102を運用した時の建物101内の温度、輻射温度、湿度および風速を記録した実績データである。建物過去運用データ414は、過去の運用データがログ形式で蓄積されるが、エネルギー管理システム100は、建物過去運用データ414を分類して、運用パターンを複数作成してもよい。なお、エネルギー管理システム100は、運用パターンを予め作成せず、その都度、類似するログデータを検索して運用パターンを作成してもよい。
【0044】
設備稼働データ415は、建物101における空調設備102の稼働状況を示し、送水温度、冷却水温度、弁やポンプの動作状態、冷凍機122の稼働台数などのデータを含む。
【0045】
省エネカテゴリデータ416は、省エネ行動情報とその省エネ行動で削減される消費エネルギー量との対応関係を示すデータである。省エネ行動情報とは、たとえば、照明器具の消灯、残業の削減、休憩の提案といった省エネ行動と、当該省エネ行動の対象となる設備(たとえば、照明器具の消灯であれば照明器具)とを関連付けた情報である。これにより、生成部405は、空調設備102の運転でのエネルギー量が不足した場合に、省エネカテゴリデータ416を参照して、不足分についての省エネ行動情報を生成することができる。
【0046】
室内温冷データ417は、建物101における室内温度や湿度のデータを含み、人の感覚や行動に関するデータ(たとえば、温熱指標(有効温度、不快指数、温冷感指数など)、体感温度、温冷感、快適性、季節感、着衣量など)を含んでもよい。
【0047】
生体データ418は、たとえば、利用者130の心拍数、Webカメラで撮影された利用者130の顔の毛細血管データ、利用者130が着席している椅子の座面に設けられた振動センサの観測値である。なお、心拍数は、利用者130に取り付けられたウェアラブル機器から利用者130の端末103を介してエネルギー管理システム100に送信される。また、Webカメラおよび振動センサは、建物101内に設置され、エネルギー管理システム100に、毛細血管データや観測値を送信可能である。
【0048】
個々の建物101は、オフィスビル、複合ビル、学校、商業施設、マンションなどによって、一日のエネルギー需要のピークが異なり、空調設備102の運用制御も異なる。このような異なるエネルギー需要の建物101を一つの建物群101sとして取り扱い、この建物群101sにおいてエネルギー消費を最小化することによって、エネルギー管理システム100は、建物101の性能や機器の規模に応じた適切な制御に基づくエネルギー運用を可能とする。
【0049】
<エネルギー管理システム100の基本的な動作>
図7は、エネルギー管理システム100の基本的な動作例を示すフローチャートである。空調計画は、各建物101に分配された電力需要計画に基づいて、エネルギー管理を施す。エネルギー管理システム100は、受付部401により、利用者130の滞在空間に対する温冷感について「満足」または「不満足」、「暑い」または「寒い」という申告データ500を受け付けて、解析部402により、温冷感と満足との相関を推計する(ステップS501)。温冷感と満足との相関を推計方法としては、ベイズ推計など温冷感の満足という結果因子が明らかである場合の温冷感という満足の原因を推計する手法(たとえば、非特許文献1を参照)などが適切であるが、特に制限はない。ここで、満足の申告による作用温度の相関の一例を示す。
【0050】
図8は、満足の申告による作用温度の相関の一例を示すグラフである。グラフ600において、横軸が作用温度、縦軸が満足度である。作用温度は、室内の温度と、輻射温度とに基づいて決まる温度である。第1相関データ601は、従来理論値を示す。第2相関データ602は、申告データ500により決まる観測値603に基づく推計値である。一般に、利用者130の滞在空間の温冷感について満足の割合である満足度は、多くて70%程度であり、70%の満足を以って、温冷感を制御して、できるだけ不満足という利用者130の数を少なくすることが求められる。
【0051】
ここで、母集団の一例となる滞在空間の全体の利用者130に対して、満足を申告した人の割合を満足度と定義する。
【0052】
満足度=(満足と申告した利用者130の推計数)/(利用者130の全人数)
・・・(1)
【0053】
図7を事例にして考えると、第2相関データ602の最大温度(22℃)以降、滞在空間の設定温度の上昇に伴い、満足度は低下する。
図5において、エネルギー管理システム100は、設定部403により、上記式(1)で求めた満足度と、目標満足度と、に基づいて、空調設備102の稼働制御に適用する制御対象満足度を設定する(ステップS502)。
【0054】
目標満足度が未入力である場合には、エネルギー管理システム100は、システム管理者に目標満足度の入力を要求(たとえば、表示画面に表示したり、システム管理者の端末103に送信)して、目標満足度の入力を促す。目標満足度が入力済みである場合には、エネルギー管理システム100は、目標満足度を記憶デバイス202から読み込む。
【0055】
満足度が目標満足度以上である場合、エネルギー管理システム100は、目標満足度を制御対象満足度に決定する。満足度が目標満足度以上でない場合、エネルギー管理システム100は、満足度と目標満足度との差分が許容範囲内であれば、満足度を制御対象満足度に決定し、許容範囲外であれば、強制的に目標満足度を制御対象満足度に決定する。
【0056】
エネルギー管理システム100は、制御対象満足度が設定されると、
図6を参照して、制御対象満足度に対応する建物101内の制御対象作用温度を決定する。エネルギー管理システム100は、制御対象作用温度から制御対象温度および制御対象輻射温度を逆算する。さらに、エネルギー管理システム100は、予測平均申告(Predicted Mean Vote、PMV)などの任意の温冷感指標に、制御対象温度、制御対象輻射温度および制御対象風速(固定値)を与えることによって、制御対象湿度を決定する。そして、エネルギー管理システム100は、制御対象温度、制御対象輻射温度、制御対象湿度、および制御対象風速を含む特定の運用パターン501を複数の運用パターン501から特定する。
【0057】
そして、エネルギー管理システム100は、空調制御部404により、外的要因である天気予報データ412、建物過去運用データ414、運用パターン501、および建物運用カレンダー413を参照して、空調計画を作成する。
【0058】
空調計画は、制御対象満足度の設定によって得られたパラメータである制御対象温度、制御対象輻射温度、制御対象湿度、および制御対象風速についてのシミュレーションに基づき算出することも可能であるが、計算量が多く、現実的ではない。したがって、エネルギー管理システム100は、運用パターン501を選択することで空調計画を作成する。つぎに、エネルギー管理システム100は、選択した運用パターンで空調設備102を運用した場合の空調設備102の消費エネルギー量Aを推計する(ステップS503)。
【0059】
図9は、空調設備102の稼働と消費電力との関係を示すグラフである。グラフ700は、建物過去運用データ414および建物運用カレンダー413に基づいて作成されたグラフである。グラフ700の曲線は、天気予報データ412に応じて変動する。エネルギー管理システム100は、空調設備102を構成する冷凍機122(送水温度の制御)、送水ポンプ123(ヘッダ間差圧や送水量の制御)、冷却塔121(冷却水温度の制御)の稼働のバランスによって、消費エネルギー量の一例である消費電力を制御する。
【0060】
図9では、空調設備102の冷却塔121、冷凍機122、および送水ポンプ123の各々について、目標負荷に対する固有の消費エネルギー量(消費電力)が示されている。これらの消費エネルギー量の合計が、推計したい空調設備102の消費エネルギー量Aとなる。したがって、冷却塔121、冷凍機122、および送水ポンプ123が目標負荷に対して最適となるように、エネルギー管理システム100は、後述するステップS506において、冷凍機122の運用台数および出力、冷水を送水する送水ポンプ123の圧力、室内を空調する送風を制御することになる。これによって、詳細な制御条件ではなく、利用者130の満足度と制御方針の決定時間の短縮の両立が実現できる。
【0061】
このように、申告データ500に基づいて、統合演算部407により、消費エネルギー量Aが推計される。消費エネルギー量Aは、利用者130の満足を一定に保った状態で推計されるため、従来のような、たとえば、夏季28℃の室温設定のような画一的な温度設定による消費エネルギー量より小さくなるのが一般的である。
【0062】
エネルギー管理システム100は、統合演算部407により、A-B>0であるか否か(すなわち、AがBより大きいか否か)を判断する。Bとは、目標消費エネルギー量である。エネルギー管理システム100は、統合演算部407により、気象状況データ411、天気予報データ412、設備稼働データ415、室内温冷データ417に基づいて、所定時間後(たとえば、30分後)の目標消費エネルギー量Bを算出する(ステップS504)。ステップS504は、たとえば、エネルギー管理システム100が建物101を使用する需要家からデマンドレスポンスを受け付けた場合に実行される。また、目標消費エネルギー量Bは、あらかじめ設定された消費エネルギー量でもよい。
【0063】
つぎに、エネルギー管理システム100は、A-B>0である場合(ステップS505:Yes)、目標消費エネルギー量Bとなるように、冷凍機122の運用台数および出力、冷水を送水するポンプ圧力、室内を空調する送風を制御する(ステップS506)。
【0064】
一方、A-B>0でない場合(ステップS505:No)、空調設備102の稼働制御によるエネルギー削減量だけでは、空調設備102の消費エネルギー量が不足する。したがって、エネルギー管理システム100は、不足分を補うため、生成部405により、省エネカテゴリデータ416から、当該不足分に対応する省エネ行動情報を選択する(ステップS507)。
【0065】
そして、エネルギー管理システム100は、出力部406により、選択した省エネ行動情報を端末103に送信する(ステップS508)。これにより、不足時には利用者130に対する省エネ行動によって、エネルギー削減量の補充を可能とする。
【0066】
省エネ行動に関しては、複数の選択肢を与えることが効果的であることが行動心理学の分野から知られている。実施例1においても、エネルギー管理システム100は、スマートフォンや執務用のパソコンなどの端末103を利用して、複数の省エネ行動情報を送信することが望ましい。つまり、送信時間帯、天候、目標満足度によって許容しやすい省エネ行動があることが明らかであり、実施例1でも、エネルギー管理システム100は、生成部405により、送信時間帯、天候、目標満足度を参照して、省エネ行動情報を選択してもよい。
【0067】
たとえば、送信時間帯が就労時間帯(天候により変動してもよい)であれば、生成部405は、給湯など共用部の熱源の一時的な利用自粛といった省エネ行動を選択してもよい。また、送信時間帯が就労時間外(天候により変動してもよい)であれば、生成部405は、オフィスの照明器具の消灯、共用部の照明器具の消灯など消灯に関する省エネ行動や、残業の抑制、業務効率の低下など集中度の低下に関する省エネ行動を選択してもよい。これにより、帰宅や休憩を促して消費エネルギー量を抑制することが可能である。また、目標満足度が複数設定されている場合には、生成部405は、当該複数の目標満足度ごとに省エネ行動情報を選択してもよい。
【0068】
また、エネルギー管理システム100は、生成部405により、省エネ行動情報を送信した端末103の台数のうち利用者130が省エネ行動に応じた応答をエネルギー管理システム100に返した割合を成功率とし、省エネ行動情報とともに記録しておく。生成部405は、成功率の高い順に省エネカテゴリデータ416をソートすることで、省エネカテゴリデータ416、すなわち、省エネ行動を評価する。エネルギー管理システム100は、生成部405により、複数の省エネ行動が選択可能である場合、複数の省エネ行動のうち成功率が高い省エネ行動や成功率が閾値以上の省エネ行動を選択してもよい。これにより、実績を重視した省エネ行動が選択される。このように、省エネカテゴリデータ416は、省エネ行動情報の送信時間帯、天候、目標満足度と関連性の高いカテゴリに分類される。
【0069】
このように、温室効果ガスの排出最小化と利用者個人の満足と両立するために、エネルギー管理システム100は、申告データ500に基づいて、滞在空間全体に占める満足を得ている利用者の割合を示す満足度が一定以上確保されるように空調計画を立案し、さらに消費エネルギー量の不足が生じる際には利用者に対して省エネ行動情報を発信することができる。
【0070】
<申告データ500に対する利用者130全体の意見推計>
利用者130は、不満足と感じた場合に頻繁にエネルギー管理システム100に申告データ500を送信するが、満足と感じた場合は申告データ500を送信しない場合が多い。したがって、単純な申告データ500の蓄積では利用者130全体の満足度を把握しているか不明な場合も多い。このため、エネルギー管理システム100は、一定数の利用者群を異なる時刻に複数抽出し、利用者群の各々について上記式(1)で満足度を算出して比較することによって、適切な満足度の推計が可能となる。
【0071】
図10は、申告データ500に対する利用者130全体の意見推計を示す説明図である。なお、縦の点線は時間軸を示し、上から下への方向に時間が進むものとする。解析部402は、対象となる利用者130の一定数と、当該一定数の利用者130に対して申告データ500を送信してもらう時刻、周期を設定する(ステップS801)。ステップS801については、システム管理者が入力して設定してもよく、解析部402が過去の設定例から選択してもよい。また、利用者130の偏りが出ないように、申告データ500を促す人数は、利用者130全体の一部、たとえば、1割程度に留めるのが望ましい。また、申告データ500を促す時刻も偏らないように、午前、午後、夕方といったバランスをとることが望ましい。
【0072】
解析部402は、申告データ500の要求を端末103に送信する(ステップS802)。これにより、端末103のディスプレイに申告画面300が表示される。利用者130は、申告画面300に温冷感、満足感、ストレスといった申告データ500を入力し(ステップS803)、申告データ500をエネルギー管理システム100に送信する(ステップS804)。
【0073】
解析部402は、このように利用者130を一定数抽出した後に、申告データ500に基づいて満足度の解析を実行するが、この際これまでに蓄積された申告データ500に対して不満足が極端に多くないか、満足と不満足との分布が正常であるか否かを判断する(ステップS805)。「極端に多い」とは、たとえば、全体の半数よりも大きい所定のしきい値以上であることである。
【0074】
不満足が極端に多くない場合は、解析部402は、満足と不満足との分布が正常であると判断し(ステップS805:Yes)、設定部403は、正常な分布で算出された満足度を、目標満足度との比較対象となる満足度に決定する(ステップS806)。
【0075】
一方、不満足の申告データ500が極端に多い、すなわち、全体の半数よりも大きい所定のしきい値以上である場合は、不満足への一定の偏りがあるため、解析部402は、正常な分布でないと判断する(ステップS805:No)。たとえば、満足および不満足の申告データ500の件数の比が、7:3~3:7までは正常とし(ステップS805:Yes)、それ以外は異常とする(ステップS805:No)。
【0076】
つぎに、解析部402は、不満足の申告データ500の件数が一定数以上であるか否かを判断する(ステップS807)。一定数以上あれば(ステップS807:Yes)、ステップS805:Noの場合であっても、設定部403は、解析部402で算出された満足度を目標満足度との比較対象となる満足度に仮決定する(ステップS808)。
【0077】
また、ステップS805:Noの場合、特定の不満足な利用者130が多数申告している場合と、真に不満足な利用者130が多い場合と、がある。したがって、解析部402は、複数の利用者群を異なる時刻に選択し、各利用者群の各々の利用者130の端末103に申告データ500の要求を端末103に送信する(ステップS810)。これにより、端末103のディスプレイに申告画面300が表示される。利用者130は、申告画面300に温冷感、満足感、ストレスといった申告データ500を入力し(ステップS811)、申告データ500をエネルギー管理システム100に送信する(ステップS812)。
【0078】
解析部402は、各利用者群について満足度を算出する(ステップS813)。特定の不満足な利用者130が多数申告している利用者群では、式(1)の分母の値が、後者に比べて小さくなる。したがって、特定の不満足な利用者130からの多数の申告データ500を受け付けた利用者群と、真に不満足者が多数いる利用者群とを区別し、前者の利用者群の満足度を除外し、後者の利用者群の満足度を設定部403に出力する。後者の利用者群が複数存在する場合は、解析部402は、いずれかの満足度を出力してもよく、満足度の最大値、最小値、平均値、中央値といった統計値を出力してもよい。設定部403は、解析部402で算出された満足度を目標満足度との比較対象となる満足度に決定する(ステップS808)。
【0079】
空調制御部404は、ステップS806、S808、またはS814で決定または仮決定された満足度を用いて、空調計画を作成する(ステップS815)。具体的には、たとえば、ステップS503で示したように、エネルギー管理システム100は、運用パターンを選択し、消費エネルギー量Aを推計する。
【0080】
このあと、生成部405は、ステップS507で示したように省エネ行動を選択し(ステップS817)、ステップS509に示したように、成功率を記録する(ステップS818)。
【0081】
このように、実施例1によれば、空調設備102の運転制御のみでは、空調計画の目標値を満足しない場合に、利用者130に滞在空間の省エネ行動を促すことで、消費エネルギー量の不足分を補てんすることができる。また、不満足の申告データ500数の偏りを抑制することにより、利用者130全体の満足度を高精度に算出することができ、利用者130の満足度に応じた空調設備102の適切な制御をおこなうことができる。
【実施例2】
【0082】
<利用者の満足度と建物の電力需要調整および脱炭素の統合制御>
実施例1による利用者の満足度を維持した空調設備102の制御を施した場合、建物101における温室効果ガスの排出量削減やエネルギー消費の削減といった環境負荷低減に関しても同時実現すべきである。利用者の満足度を維持した空調設備の制御は、利用者の要求のみに基づくと、高温多湿の夏季や厳寒期などは電力需要がむしろ増大する可能性もある。
【0083】
実施例2では、このような課題に対して、利用者の満足度、エネルギー消費量、利用者数、温室効果ガス排出量をパラメータとして、これらのパラメータを積の形で定式化し、個々の項の目標値を定めることによって、エネルギー管理システム100は、利用者の満足度、温室効果ガスの排出、エネルギー消費について、それぞれの適正な制御を可能にする。なお、実施例2では、実施例1との相違点を中心に説明するため、実施例1と同一内容については同一符号を用いて説明を省略する。
【0084】
利用者の目標満足度506、目標エネルギー消費量507、利用者数および温室効果ガス排出量505をパラメータとして積の形で定式化する具体例は、次の式(2)に示される。
【0085】
[(温室効果ガス排出量)/(利用者満足度)]
=[(温室効果ガス排出量)/(エネルギー消費量)]×
[(エネルギー消費量)/(利用者数)]×[1/(満足度の総計/利用者数)]
・・・(2)
【0086】
ここで、左辺にある[(温室効果ガス排出量)/(利用者満足度)]は、建物利用者の満足度を最大化し温室効果ガスを最小化する目標値であって、その値は小さいほど望ましい。従来は左辺を[(温室効果ガス排出量)/(利用者数)]とする考え方が一般的であるが、この場合、単に温室効果ガス排出量を削減したいのであれば、満足度を犠牲にする、すなわち、夏季の暑さや冬季の寒さを一時的にせよ我慢すればよいという解も成り立つ。したがって、利用者の満足度を維持するため、右辺の各項について、それぞれの数値目標が設定される。
【0087】
右辺の各項は積の形で表すことによって、各項の示す効果が連動し、個別最適ではなく、全体最適を実現できるものである。式(2)で表す積の形の表示は一例であって、この内容に限定されない。
【0088】
右辺の第1項[(温室効果ガス排出量)/(エネルギー消費量)]は、再生可能エネルギーの利用促進を制御できる項であり、数値は小さいほど望ましい。第1項の数値の減少化には、エネルギー消費量のみを減少させる、すなわち利用者の満足度を犠牲にする解も成り立つため、温室効果ガス排出量の減少、すなわち再生可能エネルギーの利用促進を考慮する必要がある。
【0089】
右辺の第2項[(エネルギー消費量)/(利用者数)]は、利用者ひとり当たりのエネルギー消費量に相当し、数値は小さいほど望ましい。このエネルギー消費量は第1項と連動して規定されているが、利用者当たりの数値であるため、各建物101の建築設備や運用状況を反映することが望ましく、この第2項で各建物101の適正なエネルギー消費が指標化される。
【0090】
右辺の第3項[1/(満足度の総計/利用者数)]は、ひとり当たりの満足度の逆数となり、数値は小さいほど望ましい。第3項は、エネルギー管理システム100によって最適化されるが、式(2)に示す第1項および第2項と連動するため、満足度を満たしながら、温室効果ガスの排出量の削減とエネルギー消費の削減とを実現することが可能である。
【0091】
一例として、実施例1に基づき、実際のビルのデータを活用して効果を見積もると、[(温室効果ガス排出量)/(利用者満足度)]の数値は、実施例1のエネルギー管理システム100を実装していない場合と比較して、20%から30%改善することが可能であり、右辺の第1項に関連する温室効果ガスの排出量は平均して5%から10%削減可能である。また、エネルギー使用量は実施例1のエネルギー管理システム100で見出される需要計画と適切な制御によって、平均して10%から15%のロス削減が実現できる。
【0092】
図11は、実施例2にかかるエネルギー管理システム100による利用者の満足度と建物の電力需要調整および脱炭素の統合制御例を示すフローチャートである。エネルギー管理システム100は、上記式(2)の左辺にある[(温室効果ガス排出量)/(利用者満足度)]を検証指標として算出する(ステップS601)。つぎに、エネルギー管理システム100は、上記式(2)の右辺の各項を指標として算出する(ステップS602)。
【0093】
式(2)の右辺の計算結果が左辺の検証指標以下であれば、エネルギー管理システム100は、建物群101sを適正に運用していると判断する。上記式(2)の右辺の各項の指標は満足度や温室効果ガス排出量の基準となる再生可能エネルギーの利用量など複雑な関連性がある。したがって、式(2)の右辺の計算結果が左辺の検証指標以下でなければ、エネルギー管理システム100は、個々の指標を設備管理者等に通知する。これにより、設備管理者等が指標の結果を反映して、手動でエネルギー管理システム100の求める目標満足度、消費エネルギー量A、目標消費エネルギー量Bを修正することもできる。
【0094】
このように、民生業務部門のエネルギー消費の削減、温室効果ガスの排出量の削減を建物利用者の満足度を維持する形で実現可能となる。
【実施例3】
【0095】
実施例3について説明する。実施例1では、エネルギー管理システム100は、申告データ500に基づいて、空調設備102の制御および省エネ行動情報の発信を実行した。申告データ500は、温冷感、すなわち温度、湿度、輻射温度、風速および着衣量、代謝量で特徴づけられるが、実施例3では、申告データ500は、執務の集中度、ストレスといった個人の生体データ418と関連付けられる。なお、実施例3では、実施例1との相違点を中心に説明するため、実施例1と同一構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0096】
図12は、実施例3にかかるエネルギー管理システム100によるエネルギー管理例を示す説明図である。(1)では、申告データ500とともに、生体データ418もエネルギー管理システム100に送信される。また、(3)では、省エネ行動のほかに、建物101の利用に関するサポート情報も端末103に送信される。
【0097】
サポート情報とは、利用者130個人の集中度、ストレスといった建物101での就労を支援する情報である。温冷感に基づく満足感の申告データ500は、温冷感以外に利用者130個人の集中度、ストレス、疲労といった生体情報も間接的に反映される。したがって、実施例2では、利用者130個人の生体データ418を追加することによって、利用者130個人の集中度、ストレス、疲労を把握し、サポート情報として端末103に送信される。
【0098】
生体データ418については、特に制約はないが、執務に影響の少ない方法で取得することが望ましい。たとえば、心拍数の強度比を継続的にモニタすることによって、利用者130個人の集中度を把握することができる。心拍数は心電図測定によって得ることができるが、より手軽である簡易的な取得方法としては、たとえば、webカメラを用いた顔面の毛細血管の観察によって心拍数が得られることが知られている。また、執務中の眠気についてはWebカメラによって瞳孔観察し、それによる眠気の把握を行えることが知られている。エネルギー管理システム100は、各利用者130から継続的に生体データ418を取得する。
【0099】
解析部402は、申告データ500のうち、不満足を示す申告データ500の送信元端末103の利用者130の生体データ418を記憶デバイス202から取得する。そして、解析部402は、生体データ418の種類ごとに、第1観測値から、第1観測値よりも過去の第2観測値を引いた差分値が正のしきい値以上になったか否かを判断する。たとえば、生体データ418が顔面の毛細血管の観察によって得られた心拍数である場合、差分値が性のしきい値以上になると、その利用者130の緊張感が増加していることを示す。
【0100】
したがって、エネルギー管理システム100は、緊張感が増加している旨のサポート情報をその利用者130の端末103に送信する。また、差分値が負のしきい値以下となると、その利用者130の集中度が切れていたり、その利用者130が眠い状態にあることを示す。したがって、エネルギー管理システム100は、集中度が切れていたり眠気が増加したりしている旨のサポート情報をその利用者130の端末103に送信する。
【0101】
また、生体データ418の種類が利用者130が着席している椅子の座面に設けられた振動センサの観測値である場合、所定範囲(たとえば、1~4Hz)の観測値が得られると、その利用者130の集中度が切れていたり、その利用者130に疲労が蓄積していることを示す。したがって、エネルギー管理システム100は、集中度が切れていたり疲労が蓄積したりしている旨のサポート情報をその利用者130の端末103に送信する。
【0102】
このように、エネルギー管理システム100は、執務の集中度、ストレス、疲労を把握し、サポート情報として発信することができ、一定時間の休息を促すなど、生産性の向上に寄与するサービスを付与することができる。この場合、得られる生体データ418はデマンドで取得しているものの、簡易的な取得方法であり、そのデータは相対的な評価によって解析されることが望ましく、かつ完全な正確度を補償するものではなく、あくまで相対的な集中度の低下、著しいストレスの増加、疲労の増加の情報を与えるものである。このように、利用者130にサポート情報を与えることによって、利用者130自身の申告データ500を入力する動機づけにつながり、申告データ500取得の促進につながる。
【0103】
以上説明したように、実施例1~実施例3によれば、変動再生可能エネルギーの導入が拡大された地域内のエネルギー需給を最適化するために、需要家である居住者が快適性を満足する状態を維持可能しながら、変動する再生可能エネルギーに対応する需要を需要家側のエネルギー消費で地域全体でエネルギー協調するエネルギーマネジメントサービスを提供することができる。
【0104】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。たとえば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、または置換をしてもよい。
【0105】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、たとえば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサ201がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0106】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)の記録媒体に格納することができる。
【0107】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0108】
100 エネルギー管理システム
101,101-1,101-2,101-3 建物
102 空調設備
103 端末
104 電子機器
105,106 照明器具
121 冷却塔
122 冷凍機
123 送水ポンプ
124 熱交換器
130 利用者
401 受付部
402 解析部
403 設定部
404 空調制御部
405 生成部
406 出力部
407 統合演算部
411 気象状況データ
412 天気予報データ
413 建物運用カレンダー
414 建物過去運用データ
415 設備稼働データ
416 省エネカテゴリデータ
417 室内温冷データ
418 生体データ
500 申告データ
501 運用パターン