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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/266 20060101AFI20240115BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20240115BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
H01L21/265 M
H01L31/06 300
H01L31/04 440
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022508259
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009604
(87)【国際公開番号】W WO2021187275
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2020045616
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発//太陽電池セル、モジュールの共通基盤技術開発/薄型セルを用いた高信頼性・高効率モジュール製造技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 克人
(72)【発明者】
【氏名】高遠 秀尚
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071828(JP,A)
【文献】特開2019-161052(JP,A)
【文献】特開平10-199856(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114922(WO,A1)
【文献】特開平08-213479(JP,A)
【文献】Evan FRANKLIN, Kean FONG, et al.,Design, fabrication and characterization of a 24.4% efficient interdigitated back contact solar cell,PROGRESS IN PHOTOVOLTAICS: RESEARCH AND APPLICATION,2014年10月29日,vol. 24,p. 411-427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/266
H01L 31/068
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)開口部を有するマスクを用意する工程、
(b)前記マスクを介して半導体基板の第1面側からリンをイオン注入することより、前記マスクに覆われている前記半導体基板の第2領域を除いて、前記開口部から露出する前記半導体基板の第1領域にリンを導入する工程、
(c)前記(b)工程の後、前記半導体基板の前記第1面を酸化する工程、
(d)前記半導体基板の前記第1面に形成されている酸化膜の膜厚を減じるように前記酸化膜をエッチングする工程、
(e)前記(d)工程の後、前記第1領域上に形成されている酸化膜をマスクにして前記半導体基板の前記第1面側からボロンを導入することにより、前記第1領域を除く前記第2領域にボロンを導入する工程、
(f)前記(e)工程の後、前記第1面に形成されている酸化膜を除去する工程、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(a)工程で用意される前記マスクは、シリコン製のステンシルマスクである、半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程は、前記半導体基板の前記第1領域に導入されているリンを活性化する活性化アニール工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程は、酸素を含む雰囲気でのウェット酸化工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(d)工程は、ウェットエッチング工程である、半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(e)工程では、熱拡散法を使用する、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(e)工程では、イオン注入法を使用する、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(a)工程で用意される前記マスクは、複数の前記開口部を有し、
平面視において、複数の前記開口部のそれぞれは、スリット形状をしている、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(a)工程で用意される前記マスクは、複数の前記開口部を有し、
平面視において、複数の前記開口部は、ドットパターンを構成している、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(d)工程では、前記第2領域上に形成されている酸化膜を除去し、
前記(d)工程と前記(e)工程との間に、前記第1領域上に形成されている酸化膜をマスクにして、前記半導体基板の一部をウェットエッチングする工程を有し、
前記(e)工程では、イオン注入法を使用する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池および半導体装置の製造技術に関し、例えば、半導体基板の受光面とは反対の裏面側にn型拡散層とp型拡散層とが形成された太陽電池に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能なエネルギーは、エネルギー資源が枯渇することなく使用できるとともに、発電時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないことから、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料に替わるクリーンなエネルギーとして注目されている。
【0003】
再生可能なエネルギーの1つに太陽光があり、太陽電池を使用して太陽光を直接的に電力に変換する発電方式は、太陽光発電と呼ばれている。太陽電池とは、光エネルギーを吸収して電気エネルギーに変換する光電変換素子である。
【0004】
太陽電池には、有機太陽電池や多接合太陽電池など様々な種類があるが、結晶シリコン太陽電池が最も普及している。結晶シリコン太陽電池の最大の課題は、高効率化と低コスト化との両立を図ることである。結晶シリコン太陽電池の高効率化に向けて、PERC型セル(Passivated Emitter and Rear Cell)、両面受光型セルなどの各種セルの研究開発が進められているが、電極を半導体基板の裏面にだけ形成することにより半導体基板の表面側の受光面積を大きくした裏面電極型セルが最も高い光電変換効率を示している。
【0005】
例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3および特許文献1には、裏面電極型セルを使用した裏面電極型太陽電池に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Evan Franklin et al., “Design, fabrication and characterization of a 24.4% efficient interdigitated back contact solar cell”, PROGRESS IN PHOTOVOLTAICS: RESERARCH AND APPLICATION vol. 24, (2016) 411-427
【文献】Nicholas Bateman et al., “High quality ion implanted boron emitters in an interdigitated back contact solar cell with 20% efficiency”, Energy Procedia 8 (2011) 509-514
【文献】R. Muller at al., “Back-junction back-contact n-type silicon solar cell with diffused boron emitter locally blocked by implanted phosphorus” Applied Physics Letters vol. 105, (2014) 103503-1-103503-4
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-161052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィ技術によるパターニングとエッチングを使用して、例えば、半導体基板の同一面に互いに導電型の異なるn型拡散層とp型拡散層とを形成することが行われる。この点に関し、フォトリソグラフィ技術は、レジストの塗布工程、露光工程、現像工程および洗浄工程といった非常に多くの工程を必要とする。特に、半導体基板の同一面に互いに導電型の異なるn型拡散層とp型拡散層とを形成する場合、非常に多くの工程からなるフォトリソグラフィ工程を2回行う必要があり、工程数の増加に起因する製造コストの上昇が懸念される。すなわち、製造コストを抑制するために、フォトリソグラフィ技術を使用することなく、半導体基板の同一面に互いに導電型の異なるn型拡散層とp型拡散層とを形成できる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態における半導体装置の製造方法は、(a)開口部を有するマスクを用意する工程と、(b)マスクを介して半導体基板の第1面側からリンをイオン注入することより、マスクに覆われている半導体基板の第2領域を除いて、開口部から露出する半導体基板の第1領域にリンを導入する工程と、(c)前記(b)工程の後、前記半導体基板の前記第1面を酸化する工程とを備える。さらに、一実施の形態における半導体装置の製造方法は、(d)半導体基板の第1面に形成されている酸化膜の膜厚を減じるように酸化膜をエッチングする工程と、(e)(d)工程の後、第1領域上に形成されている酸化膜をマスクにして半導体基板の第1面側からボロンを導入することにより、第1領域を除く第2領域にボロンを導入する工程と、(f)(e)工程の後、第1面に形成されている酸化膜を除去する工程とを備える。
【0010】
一実施の形態における太陽電池は、受光面と受光面とは反対側の裏面とを有する半導体基板と、裏面の複数の第1領域に形成された複数のリン拡散層と、裏面の第2領域に形成されたボロン拡散層とを備える。このとき、平面視において、複数のリン拡散層は、ドットパターンを構成する。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、半導体装置の製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】太陽電池の模式的な構成を示す断面図である。
図2】実施の形態における太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図3図2に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図4図3に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図5図4に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図6図5に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図7図6に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図8図7に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図9】変形例における太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図10図9に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図11図10に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図12図11に続く太陽電池の製造工程を示す断面図である。
図13】酸化シリコン膜の膜厚とエッチング時間との関係を示すグラフである。
図14】半導体基板上に形成される酸化シリコン膜の膜厚によってボロンが半導体基板の内部に突き抜けるか否かを検証した結果を示す表である。
図15】(a)および(b)は、実施の形態における太陽電池の製造方法で製造されたエミッタ層とBSF層の走査型容量顕微鏡像である。
図16】(a)は、太陽電池の裏面における平面レイアウトの一例を示す平面図であり、(b)は、(a)に示す太陽電池の製造方法で使用されるマスク基板の構成例を示す平面図である。
図17】(a)は、太陽電池の裏面における平面レイアウトの一例を示す平面図であり、(b)は、(a)に示す太陽電池の製造方法で使用されるマスク基板の構成例を示す平面図である。
図18】製造困難なマスク基板の構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0014】
本実施の形態における技術的思想は、例えば、半導体基板の同一面に互いに導電型の異なるn型拡散層とp型拡散層とを形成する工程を含む半導体装置の製造工程に幅広く利用することができるが、以下では、特に、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の製造工程を例に挙げて、本実施の形態における技術的思想を説明する。
【0015】
<裏面電極型結晶シリコン太陽電池の製造工程に存在する改善の余地>
裏面電極型結晶シリコン太陽電池は、半導体基板の受光面とは反対側の裏面にエミッタ層とBSF(Back Surface Field)層とを有する。一般的には、n型のシリコン基板を用いて、エミッタ層となるp型拡散層であるボロン拡散層と、BSF層となるn型拡散層であるリン拡散層とを形成する。このように、裏面電極型結晶シリコン太陽電池は、同一面(裏面)へ異なる導電型の拡散層を形成する必要があるため、作製工程が非常に複雑である。このことが裏面電極型結晶シリコン太陽電池のコストを上げる要因になっており、作製工程の簡略化が望まれている。
【0016】
例えば、同一面(裏面)へ異なる導電型の拡散層を形成するためには、パターニング技術が必要である。具体的には、エミッタ層を構成するボロン拡散層を形成する工程とBSF層を構成するリン拡散層を形成する工程とにおいて少なくとも2回のパターニング工程が必要とされる(非特許文献1参照)。
【0017】
非特許文献1によれば、リン拡散防止膜として機能する第1酸化膜を成膜した後、フォトリソグラフィ技術によるパターニングとエッチングを用いてBSF領域の第1酸化膜に開口部を形成してリンの拡散を行うことによりリン拡散層を形成する。続いて、ボロン拡散防止膜として機能する第2酸化膜を成膜した後、フォトリソグラフィ技術によるパターニングとエッチングを用いてエミッタ領域の第2酸化膜に開口部を形成してボロンの拡散を行うことによりボロン拡散層を形成している。先にボロンの拡散を行う場合もフォトリソグラフィ技術によるパターニングは2回必要となる。
【0018】
このように、ボロン拡散層とリン拡散層とをフォトリソグラフィ技術で形成する場合、フォトリソグラフィ技術を用いることによって高精度な位置決めが可能となり、ボロン拡散層とリン拡散層との間には適切な間隔(以下、本明細書ではこの間隔のことをギャップと呼ぶことにする)を設けることができる。しかしながら、フォトリソグラフィ工程は、レジスト塗布工程、露光工程、現像工程および洗浄工程という非常に多くの工程を含んでいる。このことから、裏面電極型結晶シリコン太陽電池を製造する場合、半導体基板の裏面に互いに導電型の異なるエミッタ層とBSF層とをそれぞれ形成するために、非常に複雑なフォトリソグラフィ工程を2回行う必要があり、工程数の増加に伴う製造コストの上昇が懸念される。
【0019】
この点に関し、例えば、非特許文献2に示すように、フォトリソグラフィ技術を使用することなく、マスクを使用したイオン注入法で同一面に互いに導電型の異なるリン拡散層とボロン拡散層とを形成する技術が提案されている。具体的に、非特許文献2に記載されている技術によれば、リン拡散層あるいはボロン拡散層を形成する領域だけを開口した2枚のマスクを使用したイオン注入法により、フォトリソグラフィ技術によるパターニングを行うことなくエミッタ層(ボロン拡散層)とBSF層(リン拡散層)とを形成することができる。しかしながら、この技術によれば、リン注入用マスクとボロン注入用マスクとの位置合わせが非常に難しく、リン拡散層とボロン拡散層とが重なり合ってしまい、これによって、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の性能低下を招くことが懸念される。
【0020】
この点に関し、例えば、非特許文献3に示すように、リン注入用マスクだけを使用してリン拡散層とボロン拡散層とを形成する技術が提案されている。具体的に、非特許文献3に記載された技術によれば、リン注入領域だけに開口部を形成したマスクを使用したイオン注入法によってリンの注入を行った後、マスクを使用せずに半導体基板の裏面全体に熱拡散法でボロンを拡散することによりリン拡散層形成領域以外にボロン拡散層を形成することができる。しかしながら、この技術によれば、リン拡散層の内部にも逆導電型のボロンが入り込むためカウンタドーピングとなり、リン拡散層の内部に再結合中心が形成される結果、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の性能低下を招くことが懸念される。
【0021】
そこで、本実施の形態では、フォトリソグラフィ技術を使用することなく、半導体基板の同一面(裏面)に互いに導電型の異なるリン拡散層とボロン拡散層とを形成することができ、かつ、リンとボロンの混在領域の形成を抑制できる裏面電極型結晶シリコン太陽電池を実現するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について図面を参照しながら説明することにする。
【0022】
<裏面電極型結晶シリコン太陽電池の構成>
図1は、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の模式的な構成を示す断面図である。
【0023】
図1において、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1は、例えば、n型不純物が導入された結晶シリコンからなる半導体基板10を有している。この半導体基板10は、受光面である表面100aと、表面100aとは反対側の裏面100bを有している。半導体基板10の表面100aには、テクスチャ構造と呼ばれる凹凸構造が形成されている結果、半導体基板10の表面100aは、凹凸面から構成されていることになる。これにより、半導体基板10の表面100a側から入射する太陽光の反射率を低減することができる。すなわち、半導体基板10の表面100aに形成されているテクスチャ構造は、表面100a側から入射する太陽光の反射を抑制する機能を有していることになる。
【0024】
そして、半導体基板10の表面100aには、n型不純物であるリンが導入されたリン拡散層11が形成されている。この表面100aに形成されているリン拡散層11は、表面100aにおける正孔の再結合を抑制する機能を有している。例えば、半導体基板10の表面100a側から太陽光が半導体基板10内に照射されると、半導体基板10において太陽光の光エネルギーが吸収されて、価電子帯の電子が伝導帯に励起される結果、半導体基板10の内部に電子・正孔対が形成される。このとき発生した少数キャリアである正孔が電子と再結合して消滅すると、太陽電池の光電変換効率が低下する。このことから、半導体基板10の表面100aにおける正孔と電子との再結合を抑制するためにリン拡散層11が設けられている。具体的に、リン拡散層11は、n型半導体層であり、ドナー(導電型不純物)としてリンを含んでいる。そして、ドナーであるリンは、伝導帯に1個の電子を放出してプラスに帯電している。したがって、リン拡散層11の内部には、プラスに帯電したドナーであるリンが多数存在することから、このリン拡散層11を半導体基板10の表面100aに形成することにより、プラスの電荷を有する正孔とプラスに帯電したドナーとの電気的な斥力によって、正孔は半導体基板10の表面100aから排斥される。この結果、半導体基板10の表面100aから正孔が遠ざけられることから、半導体基板10の表面100aにおける電子と正孔の再結合が抑制される。
【0025】
続いて、図1において、半導体基板10の裏面100bにもテクスチャ構造が形成されている。このように半導体基板10の裏面100bにもテクスチャ構造を形成することにより、太陽電池の電流-電圧特性(I-V特性)を向上することができる。
【0026】
次に、図1に示すように、半導体基板10の裏面100bには、リン拡散層から構成されるBSF(Back Surface Field)層12と、ボロン拡散層から構成されるエミッタ層13が形成されている。そして、半導体基板10の裏面100bを覆うように絶縁層14が形成されており、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1は、この絶縁層14を貫通してBSF層12に達するBSF電極15と、絶縁層14を貫通してエミッタ層13に達するエミッタ電極16aおよびエミッタ電極16bとを有している。
【0027】
ここで、リン拡散層から構成されるBSF層12は、表面100aに形成されているリン拡散層11と同様に、正孔を遠ざけて正孔と電子の再結合を抑制する機能を有しているとともに、BSF電極15と合わせて電子を外部に取り出すための電極としても機能する。一方、p型半導体層であるボロン拡散層から構成されるエミッタ層13は、半導体基板10との間でpn接合を形成する機能を有しているとともに、エミッタ電極16aおよびエミッタ電極16bと合わせて正孔を外部に取り出すための電極として機能する。このようにして、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1が構成される。
【0028】
図1に示す裏面電極型結晶シリコン太陽電池1では、半導体基板10の裏面100b側に互いに導電型の異なるBSF層12とエミッタ層13が形成されている結果、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1は、半導体基板10の裏面100bにBSF電極15とエミッタ電極16a(16b)とを有していることになる。言い換えれば、図1に示す裏面電極型結晶シリコン太陽電池1では、半導体基板10の受光面である表面100a側に電極を有していない。これにより、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1では、電極に邪魔されることなく受光面積を大きくとれることから、光電変換効率を向上できる。
【0029】
<裏面電極型結晶シリコン太陽電池の動作>
裏面電極型結晶シリコン太陽電池1は、上記のように構成されており、以下では、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1の動作について説明する。
【0030】
まず、図1において、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1の受光面である表面100aの上方から可視光や赤外光を含む太陽光が照射されると、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1の構成要素である半導体基板10の内部に太陽光が照射される。具体的には、太陽光は、半導体基板10と、半導体基板10とエミッタ層16a(16b)との境界領域に形成されているpn接合部と、BSF層12に入射する。このとき、太陽光のうち、シリコンのバンドギャップよりも大きな光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、裏面電極型結晶シリコン太陽電池10に太陽光が照射されることにより、太陽光に含まれるシリコンのバンドギャップよりも大きな光エネルギーを有する光が吸収されて伝導帯に電子が励起されるとともに、価電子帯に正孔が生成される。そして、pn接合部の一方を構成する半導体基板10およびBSF層12に電子が蓄積される一方、pn接合部の他方を構成するエミッタ層13に正孔が蓄積する。この結果、BSF電極15とエミッタ電極16a(16b)との間に起電力が生じる。そして、例えば、BSF電極15とエミッタ電極16a(16b)との間に負荷を接続すると、BSF電極15から負荷を通ってエミッタ電極16a(16b)に電子が流れる。言い換えれば、エミッタ電極16a(16b)から負荷を通ってBSF電極15に電流が流れる。
【0031】
このようにして、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1を動作させることにより、負荷を駆動することができる。
【0032】
<実施の形態における基本思想>
上述したように、裏面電極型結晶シリコン太陽電池では、半導体基板10の同一面(裏面100b)に互いに導電型の異なるBSF層12とエミッタ層13を形成している。本実施の形態では、フォトリソグラフィ技術を使用することなく、半導体基板10の同一面(裏面)に互いに導電型の異なるリン拡散層(BSF層12)とボロン拡散層(エミッタ層13)とを形成することができ、かつ、リンとボロンの混在領域の形成を抑制できる裏面電極型結晶シリコン太陽電池を実現するための工夫を施している。以下では、この工夫の根底にある基本思想について説明する。
【0033】
例えば、結晶シリコン層(半導体基板)にn型不純物であるリンを導入したリン拡散層は、リンを導入しない結晶シリコン層よりも酸化されやすいという特性がある。すなわち、リン拡散層と結晶シリコン層の両方に同一の酸化条件で酸化工程を施すと、リン拡散層上に形成される酸化膜の膜厚は、結晶シリコン層上に形成される酸化膜の膜厚よりも厚くなる性質がある。本実施の形態では、この性質を利用して、マスク基板を使用することなく、結晶シリコン層の同一面にリン拡散層とボロン拡散層とを形成するものである。つまり、本実施の形態における基本思想は、リン拡散層がリンを導入しない結晶シリコン層よりも酸化されやすいという性質に着目した思想である。そして、この基本思想では、結晶シリコン層にリン拡散層を形成した後、結晶シリコン層とリン拡散層に対して酸化工程を実施し、続いて、リン拡散層上に形成された膜厚の厚い酸化膜をマスク基板に替わるマスクとして機能させることにより、リン拡散層にボロンが導入されないようにしながら、結晶シリコン層にボロンを導入して結晶シリコン層にボロン拡散層を形成する。
【0034】
以下では、上述した本実施の形態における基本思想を具現化した裏面電極型結晶シリコン太陽電池の製造方法について図面を参照しながら説明することにする。
【0035】
<裏面電極型結晶シリコン太陽電池の製造方法>
まず、図2に示すように、テクスチャ構造が形成された表面100aとテクスチャ構造が形成された裏面100bとを有し、かつ、n型不純物が導入された結晶シリコンからなる半導体基板10を用意する。そして、例えば、イオン注入法を使用することにより、半導体基板10の表面100aの全面にn型不純物であるリン(P)を導入する。これにより、半導体基板10の表面100aの全面にリン拡散層11を形成することができる。
【0036】
次に、図3に示すように、開口部OPを有するマスク基板20を用意する。このマスク基板20は、例えば、カーボン基板に機械加工を施して開口部OPを形成したマスクを使用することもできるし、フォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を使用してシリコン基板に貫通孔からなる開口部OPを形成したステンシルマスクを使用することもできる。特に、開口部OPの径を200μm程度に微細加工する観点からは、微細加工に適したフォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術で形成された開口部OPを有するステンシルマスクを使用することが望ましい。そして、図3に示すように、マスク基板20に形成されている開口部OPが半導体基板10の裏面100bのうちのBSF層形成領域に重なるように位置合わせを実施する。その後、マスク基板20をマスクにしたイオン注入法により、マスク基板20を介して、半導体基板10の裏面100b側からリンを導入する。これにより、半導体基板10の裏面100bのうち、マスク基板20で覆われている領域(第2領域)を除いて、開口部OPから露出するBSF層形成領域(第1領域)にリンが導入される。この結果、図3に示すように、半導体基板10の裏面のBSF層形成領域にBSF層(リン拡散層)12を形成することができる。なお、本明細書では、半導体基板10の裏面100bのうち、リンが導入されない領域を未注入領域と呼ぶことにする。
【0037】
続いて、図4に示すように、半導体基板10の表面100aに形成されたリン拡散層11および半導体基板10の裏面100bに形成されたBSF層(リン拡散層)12に導入されているリンを活性化させるために、活性化アニール工程を実施する。具体的に、活性化アニール工程は、酸素雰囲気中での加熱処理から構成され、例えば、水蒸気を含む雰囲気中において、加熱温度が900℃で加熱時間が45分のウェット酸化法で実施される。
【0038】
これにより、図4に示すように、半導体基板10の表面100a上に酸化シリコン膜(酸化膜)30aが形成されるとともに、半導体基板10の裏面100bを覆うように酸化シリコン膜30bが形成される。このとき、リン拡散層11およびBSF層(リン拡散層)12は酸化速度が速いため、リン拡散層が形成されていない半導体基板10の裏面100bの未注入領域よりも膜厚の厚い酸化シリコン膜30bが形成される。具体的には、図4に示すように、半導体基板10の表面100aには、表面100aの全体にわたってリン拡散層11が形成されていることから、リン拡散層11上には、膜厚の厚い酸化シリコン膜30aが形成される。例えば、リン拡散層11上に形成される酸化シリコン膜30aの膜厚は、約3800Åである。一方、半導体基板10の裏面100bには、リンが導入されたBSF層(リン拡散層)12が形成されているBSF層形成領域とリンが導入されていない未注入領域とが存在する。このことから、図4に示すように、半導体基板10の裏面100bには、BSF層形成領域を覆う膜厚の厚い部分と未注入領域を覆う膜厚の薄い部分とを有する酸化シリコン膜30bが形成される。例えば、BSF層形成領域を覆う膜厚の厚い部分には、約3800Åの酸化シリコン膜30bが形成される一方、未注入領域を覆う膜厚の薄い部分には、約1000Åの酸化シリコン膜30bが形成される。なお、BSF層形成領域と未注入領域との間の境界領域では、BSF層形成領域から未注入領域に向かって酸化シリコン膜30bの膜厚が次第に減少するように酸化シリコン膜30bが形成される。
【0039】
次に、図5に示すように、半導体基板10の裏面100bに形成されている未注入領域を覆う酸化シリコン膜30bの膜厚を減じるように、半導体基板10の裏面100bに形成されている酸化シリコン膜30bをエッチングする。具体的には、半導体基板10を1%の濃度の希フッ酸に浸漬した後、エッチング時間が460秒のウェットエッチングにより、酸化シリコン膜30bの膜厚を減じる。このとき、半導体基板10の表面100aに形成されている酸化シリコン膜30aの膜厚も薄くなる。例えば、ウェットエッチング後の酸化シリコン膜30aの膜厚は、約3450Åである。一方、半導体基板10の裏面100bにおいても、酸化シリコン膜30bの膜厚が薄くなる。例えば、BSF層形成領域を覆う膜厚の厚い部分には、約3450Åの酸化シリコン膜30bが残存する一方、未注入領域を覆う膜厚の薄い部分には、約350Åの酸化シリコン膜30bが残存することになる。なお、図5においては、未注入領域を覆う膜厚の薄い部分には、約350Åの酸化シリコン膜30bが残存しているが、例えば、未注入領域を覆う膜厚の薄い部分の酸化シリコン膜30bが完全に除去されるようにウェットエッチングを実施してもよい。さらには、ウェットエッチングに替えてドライエッチングを使用することもできる。
【0040】
その後、図6に示すように、半導体基板10の表面100a上に形成されている酸化シリコン膜30a上にボロンを含むBSG(Boron-Silicate Glass)膜40aを形成するとともに、半導体基板10の裏面100bを覆う酸化シリコン膜30bをさらに覆うようにBSG膜40bを形成する。次に、図7に示すように、半導体基板10に対して加熱処理(例えば、加熱温度970℃)を実施する。これにより、半導体基板10の裏面に形成されている未注入領域を覆う酸化シリコン膜30bの膜厚は薄いため、酸化シリコン膜30bを覆っているBSG膜40bからボロンが膜厚の薄い酸化シリコン膜30bを突き抜けて半導体基板10の内部に導入される結果、半導体基板10の裏面100bにエミッタ層(ボロン拡散層)13が形成される。
【0041】
一方、半導体基板10の裏面に形成されているBSF層形成領域を覆う酸化シリコン膜30bの膜厚は厚いため、酸化シリコン膜30bを覆っているBSG膜40bから拡散するボロンは半導体基板10の内部に形成されているBSF層(リン拡散層)12まで達しない。このようにして、本実施の形態によれば、マスク基板を使用することなく、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12にボロンを注入することなく、半導体基板10の裏面100bにBSF層(リン拡散層)12から離間したエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成することができる。つまり、本実施の形態では、マスク基板を使用しなくても、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12を覆う酸化シリコン膜30bの膜厚の厚い部分がマスクとして機能する。この結果、本実施の形態によれば、BSF層(リン拡散層)12にボロンが導入されないようにしながら、半導体基板10の裏面100bにボロンを導入してエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成することができるのである。
【0042】
なお、半導体基板10の表面100a側においても、表面100aの全面に形成されているリン拡散層11上には膜厚の厚い酸化シリコン膜30aが形成されている。このことから、酸化シリコン膜30a上に形成されているBSG膜40aから熱拡散するボロンは、膜厚の厚い酸化シリコン膜30aを突き抜けることができない結果、酸化シリコン膜30aの下層に形成されているリン拡散層11にボロンが注入されることを回避できる。
【0043】
続いて、図8に示すように、半導体基板10の表面100a側においては、酸化シリコン膜30aとBSG膜40aを除去し、かつ、半導体基板10の裏面100b側においては、酸化シリコン膜30bとBSG膜40bを除去する。これにより、図8に示すように、半導体基板10の表面100aにリン拡散層11が形成され、かつ、半導体基板10の裏面100bに互いに導電型の異なるBSF層12とエミッタ層13とが形成された構造が得られる。その後、通常技術を使用することにより、例えば、図1に示すように、半導体基板10の裏面100b側に、BSF層12と電気的に接続されたBSF電極15と、エミッタ層13と電気的に接続されたエミッタ電極16aおよびエミッタ電極16bを形成することができる。以上のようにして、本実施の形態における裏面電極型結晶シリコン太陽電池を製造することができる。
【0044】
<変形例>
上述した実施の形態では、例えば、図7に示すように、BSG膜40bから膜厚の薄い酸化シリコン膜30bを介して半導体基板10の内部にボロンを熱拡散させることにより、エミッタ層13を形成している。このような熱拡散法を使用してボロンを半導体基板10の内部に拡散させる方法では、比較的低い熱負荷でボロンの拡散を実現できる利点が得られる。つまり、熱拡散法によるボロンの半導体基板10の内部への拡散では、半導体基板10に加わる熱負荷を必要以上に増大することを抑制できる結果、熱負荷に起因する裏面電極型結晶シリコン太陽電池の特性劣化を抑制できる。
【0045】
ただし、半導体基板10の内部へのボロンの注入方法は、上述した熱拡散法に限らず、例えば、イオン注入法を使用することもできる。具体的に、ボロンの注入にイオン注入法を使用する場合、BSF層(リン拡散層)12を覆うように形成された厚い膜厚の酸化シリコン膜30bを貫通しない一方、BSF層(リン拡散層)12が形成されていない薄い膜厚の酸化シリコン膜30bを貫通するように、ボロンの注入エネルギーを調整する。これにより、熱拡散法だけでなくイオン注入法においても、マスク基板を使用することなく、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12にボロンを注入しないようにしながら、半導体基板10の裏面100bにBSF層(リン拡散層)12から離間したエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成することができる。イオン注入法を使用する利点としては、ボロン注入工程を簡略化できる点を挙げることができる。
【0046】
さらに、イオン注入法では、以下に示す工程を経ることにより、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12とエミッタ層(ボロン拡散層)13との間のギャップを確実に確保することができる。
【0047】
以下では、この工程について説明する。
【0048】
図2から図4に示す工程を実施した後、図9に示すように、半導体基板10の裏面100bに形成されている未注入領域を覆う膜厚の薄い酸化シリコン膜30bを除去するように、半導体基板0の裏面100bに形成されている酸化シリコン膜30bをエッチングする。このとき、図9に示すように、BSF層(リン拡散層)12を覆う酸化シリコン膜30bは、未注入領域を覆う酸化シリコン膜30bよりも膜厚が厚いため、未注入領域を覆う酸化シリコン膜30bを除去しても、BSF層(リン拡散層)12を覆う酸化シリコン膜30bは残存する。
【0049】
次に、半導体基板10を水酸化カリウム溶液に浸漬して半導体基板10をウェットエッチングする。具体的に、図10に示すように、半導体基板10の裏面100bにおいて半導体基板10が露出している未注入領域で半導体基板10がエッチングされる。このとき、膜厚の厚い酸化シリコン膜30bで覆われているBSF層(リン拡散層)12は、膜厚の厚い酸化シリコン膜30bがマスクとして機能することからエッチングされない。ただし、図10に示すように、マスクとして機能する酸化シリコン膜30bの端部では、ウェットエッチングの回り込みが発生する結果、酸化シリコン膜30bの端部で覆われている領域に微細な空隙部50が形成される。
【0050】
続いて、図11に示すように、イオン注入法により、半導体基板10の裏面100bにボロンを注入する。このとき、BSF層(リン拡散層)12を覆う膜厚の厚い酸化シリコン膜30bがマスクとして機能する結果、BSF層(リン拡散層)12にはボロンは注入されない。一方、露出している未注入領域においては、半導体基板10の内部にボロンが注入されてエミッタ層(ボロン拡散層)13が形成される。一方、酸化シリコン膜30bの端部で覆われている領域には、空隙部50が形成されているため、この空隙部50において露出する半導体基板10の裏面100bにおいてもボロンは注入されない。これにより、本変形例によれば、確実にBSF層(リン拡散層)12とエミッタ層(ボロン拡散層)13との間にギャップを確保することができる。その後、図12に示すように、半導体基板10の表面100a上に形成されている酸化シリコン膜30aと、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12を覆う酸化シリコン膜30bを除去する。このようにして、確実にBSF層(リン拡散層)12とエミッタ層(ボロン拡散層)13の間にギャップを確保することができる裏面電極型結晶シリコン太陽電池を製造することができる。
【0051】
<製法上の特徴>
次に、本実施の形態における製法上の特徴点について説明する。
【0052】
本実施の形態における製法上の特徴点は、例えば、図7図11に示すように、半導体基板10の裏面100bに形成されているBSF層(リン拡散層)12を覆う膜厚の厚い酸化シリコン膜30bを残存させた状態で、半導体基板10の裏面100bにボロンを導入する点にある。つまり、本実施の形態における製法上の特徴点は、BSF層(リン拡散層)12を覆う膜厚の厚い酸化シリコン膜30bをマスクとして機能させることにより、マスク基板を使用することなく、BSF層(リン拡散層)12以外の未注入領域にボロンを導入してエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成する点にある。
【0053】
これにより、本実施の形態によれば、BSF層(リン拡散層)12を形成する際に使用される1枚のマスク基板20だけで、半導体基板10の同一面(裏面)に互いに導電型の異なるBSF層(リン拡散層)12とエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成することができ、かつ、リンとボロンの混在領域の形成を抑制できる裏面電極型結晶シリコン太陽電池を実現することができる。なぜなら、エミッタ層(ボロン拡散層)13を形成する際にマスク基板を使用することなく、BSF層(リン拡散層)12を覆う膜厚の厚い酸化シリコン膜30bをマスクとして機能させているからである。
【0054】
したがって、本実施の形態によれば、半導体基板10の同一面(裏面)に互いに導電型の異なるBSF層(リン拡散層)12とエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成するために2枚のマスク基板を使用する必要がなくなる。このことは、2枚のマスク基板の位置合わせを実施する必要がなくなることを意味し、これによって、製造工程の簡略化を図ることができるとともに、2枚のマスク基板の位置ずれに起因するリンとボロンの混在領域の発生による再結合中心の増大を抑制できる。この結果、本実施の形態によれば、製造工程の簡略化による製造コストの低減と裏面電極型結晶シリコン太陽電池の性能向上を図ることができるという顕著な効果が得られる。
【0055】
<検証結果>
続いて、リン拡散層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚がリンを導入していない結晶シリコン層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚よりも厚くなる検証結果について説明する。図13は、酸化シリコン膜の膜厚とエッチング時間との関係を示すグラフである。横軸はエッチング時間を示している一方、縦軸は酸化シリコン膜の膜厚を示している。図13において、グラフ(1)は、リン拡散層上に形成されている酸化シリコン膜の膜厚とエッチング時間との関係を示している一方、グラフ(2)は、リンを導入していない結晶シリコン層上に形成されている酸化シリコン膜の膜厚とエッチング時間との関係を示している。図13に示すように、エッチング時間が「0」の場合の酸化シリコン膜の膜厚に着目すると、グラフ(1)では、酸化シリコン膜の膜厚が2000Å程度であるのに対し、グラフ(2)では、酸化シリコン膜の膜厚が400Å程度であることがわかる。すなわち、グラフ(1)およびグラフ(2)から、リン拡散層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚がリンを導入していない結晶シリコン層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚よりも厚くなることが裏付けられていることがわかる。そして、グラフ(2)から250秒程度のエッチング時間でリンを導入していない結晶シリコン層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚がほぼゼロに近くなることがわかる。一方、グラフ(1)から250秒程度のエッチング時間では、リン拡散層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚が1800Å程度残存していることがわかる。このことから、例えば、エッチング時間を250秒程度に調整することにより、膜厚の厚い酸化シリコン膜をリン拡散層上に残存させながら、リンが導入されていない結晶シリコン層上の酸化シリコン膜を除去することができることがわかる。
【0056】
次に、図14は、半導体基板上に形成される酸化シリコン膜の膜厚によってボロンが半導体基板の内部に突き抜けるか否かを検証した結果を示す表である。
【0057】
図14において、まず、n型半導体基板上に酸化シリコン膜が形成されていない場合には、n型半導体基板にボロンが導入される結果、n型半導体基板のシート抵抗は、68(Ω/□)~71(Ω/□)となっている。次に、n型半導体基板上に270Åの膜厚の酸化シリコン膜を形成している場合には、n型半導体基板のシート抵抗は、68(Ω/□)となっており、まだボロンの突き抜けが生じていると推測することができる。続いて、n型半導体基板上に650Åの膜厚の酸化シリコン膜を形成している場合には、n型半導体基板のシート抵抗は、72(Ω/□)となっており、この場合も、まだボロンの突き抜けが生じていると推測することができる。一方、n型半導体基板上に1400Åの膜厚の酸化シリコン膜を形成している場合には、n型半導体基板のシート抵抗は、32(Ω/□)と急激に下がっており、かつ、ボロンを導入しないn型半導体基板のシート抵抗が27.5(Ω/□)であることを考慮すると、ボロンの突き抜けが生じていないと推測できる。
【0058】
以上の結果から、n型半導体基板上に1400Å以上の膜厚を有する酸化シリコン膜が形成されていれば、ボロンの突き抜けが生じにくくなることがわかる。そして、この結果から、例えば、図13を参照すると、250秒程度のエッチング時間では、リン拡散層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚が1800Å程度残存していることから、この程度の膜厚があれば、ボロンの突き抜けを効果的に抑制することができることがわかる。つまり、エッチング時間を250秒程度に設定することにより、リン拡散層上に形成されている酸化シリコン膜をボロンの突き抜け防止用のマスクとして機能させることができるとともに、リンを導入していない結晶シリコン層上に形成される酸化シリコン膜の膜厚をほぼゼロにすることができることがわかる。
【0059】
図15は、本実施の形態における裏面電極型結晶シリコン太陽電池の製造方法で製造されたエミッタ層(ボロン拡散層)とBSF層(リン拡散層)の走査型容量顕微鏡像である。図15(a)に示すように、半導体基板10にエミッタ層(ボロン拡散層)13が形成されていることがわかる。一方、図15(b)に示すように、半導体基板10にBSF層(リン拡散層)12が形成されており、このBSF層(リン拡散層)12には、ボロンが導入されていないことがわかる。
【0060】
<応用例>
<<応用例1>>
図16(a)は、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の裏面における平面レイアウトの一例を示す平面図である。図16(a)において、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Aは、平面形状が矩形形状のBSF層(リン拡散層)12を有し、このBSF層(リン拡散層)12を離間して囲むようにエミッタ層(ボロン拡散層)13が形成されている。
【0061】
このように構成されている裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Aは、本実施の形態における製造方法を使用すると、例えば、図16(b)に示す1枚のマスク基板20Aで製造することができる。図16(b)に示すマスク基板20Aには、矩形形状のBSF層(リン拡散層)12を形成するために、スリット形状の開口部OP1を有している。
【0062】
<<応用例2>>
例えば、BSF層(リン拡散層)12は、半導体基板10の裏面から正孔を遠ざけて正孔と電子の再結合を抑制する機能を有しているが、BSF層(リン拡散層)12の平面サイズは小さいことが望ましい。なぜなら、BSF層(リン拡散層)12が正孔と電子との再結合を抑制する機能を有しているとは言っても、BSF層(リン拡散層)12自体には、ドナーである導電型不純物が多数含まれており、このドナーが再結合中心として機能してしまうことが懸念されるからである。つまり、再結合中心を低減する観点からは、BSF層(リン拡散層)12の平面サイズはできるだけ小さいことが望ましいのである。この知見は、本発明者が見出した新規な知見であり、本発明者は、この知見に基づいて、以下に示す平面レイアウトを有する裏面電極型結晶シリコン太陽電池を提案している。
【0063】
図17(a)は、裏面電極型結晶シリコン太陽電池の裏面における平面レイアウトの一例を示す平面図である。図17(a)において、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bは、平面形状が円形形状のBSF層(リン拡散層)12を複数有しており、複数のBSF層(リン拡散層)12を離間して囲むようにエミッタ層(ボロン拡散層)13が形成されている。このとき、それぞれ円形形状をした複数のBSF層(リン拡散層)12は、ドットパターンを構成していることになる。このように構成されている裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bでは、BSF層(リン拡散層)12の平面サイズを小さくできる結果、正孔と電子の再結合を抑制できる。これにより、裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bによれば、光電変換効率を向上することができる。
【0064】
裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bは、本実施の形態における製造方法を使用すると、例えば、図17(b)に示す1枚のマスク基板20Bで製造することができる。図17(b)に示すマスク基板20Bには、ドットパターンからなる複数のBSF層(リン拡散層)12を形成するために、それぞれ円形形状からなる複数の開口部OP2が形成されている。
【0065】
ここで、BSF層(リン拡散層)12がドットパターンを構成している裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bは、例えば、図17(b)に示す1枚のマスク基板20Bだけを使用する本実施の形態における製造方法だからこそ製造できる構造である。例えば、BSF層(リン拡散層)12を形成するマスク基板とエミッタ層(ボロン拡散層)13を形成するマスク基板の2枚のマスク基板を使用する製造技術では、エミッタ層(ボロン拡散層)13を形成するマスク基板として、例えば、図18に示すマスク基板20Cが必要となる。このマスク基板20Cは、図18に示すように、BSF層形成領域を遮蔽する遮蔽パターンPTを有し、それ以外の領域が開口されている必要がある。ところが、このように構成されているマスク基板20Cは、遮蔽パターンPTが宙に浮いた構成となり、遮蔽パターンPTを支持する支持部を形成することができないことから製造することが困難である。つまり、例えば、図17(a)に示すBSF層(リン拡散層)12がドットパターンを構成している裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bは、2枚のマスク基板を使用する製造技術では製造することが困難である。これに対し、例えば、図17(b)に示す1枚のマスク基板20Bだけを使用する本実施の形態における製造方法では、図18に示すマスク基板20Cを使用する必要がないことから、図17(a)に示すBSF層(リン拡散層)12がドットパターンを構成している裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bを容易に製造することができる。このように、本実施の形態における製造方法は、光電変換効率を向上できる裏面電極型結晶シリコン太陽電池1Bを容易に製造できる技術的思想を提供するものであることから、非常に優れた技術的思想であると言うことができる。
【0066】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0067】
1 裏面電極型結晶シリコン太陽電池
1A 裏面電極型結晶シリコン太陽電池
1B 裏面電極型結晶シリコン太陽電池
10 半導体基板
11 リン拡散層
12 BSF層
13 エミッタ層
14 絶縁層
15 BSF電極
16a エミッタ電極
16b エミッタ電極
20 マスク基板
20A マスク基板
20B マスク基板
20C マスク基板
30a 酸化シリコン膜
30b 酸化シリコン膜
40a BSG膜
40b BSG膜
50 空隙部
100a 表面
100b 裏面
OP 開口部
OP1 開口部
OP2 開口部
PT 遮蔽パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18