(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】密着度確認装置、密着度確認方法、及びこれを用いた成膜装置、成膜方法、電子デバイスの製造方法、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240115BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240115BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C23C14/04 A
C23C14/24 G
C23C14/24 J
(21)【出願番号】P 2019197764
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0131371
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 毅
(72)【発明者】
【氏名】川畑 奉代
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3203147(JP,U)
【文献】特開2015-151579(JP,A)
【文献】特開2013-163837(JP,A)
【文献】特開2005-206939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0103255(US,A1)
【文献】特開2014-101535(JP,A)
【文献】特開2010-248583(JP,A)
【文献】特開2000-21767(JP,A)
【文献】特開2009-194334(JP,A)
【文献】特開2004-265964(JP,A)
【文献】特開2002-110507(JP,A)
【文献】特開2004-152705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 14/04
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と
、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と
、の間の密着度
である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための装置であって、
前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された
解像度チャートを撮像するための光学手段と、
前記光学手段によって撮像された画像内における前記
解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度を判別する判別手段と、を有することを特徴とする密着度確認装置。
【請求項2】
前記光学手段は、前記第1処理体と前記第2処理体とが密着した時に境界面となる前記第1処理体の面の位置に焦点が合わせられた状態で、前記
解像度チャートを撮像することを特徴とする請求項1に記載の密着度確認装置。
【請求項3】
前記判別手段は、前記光学手段によって撮像された前記画像内における前記
解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第2処理体の、前記第1処理体からの離隔距離を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の密着度確認装置。
【請求項4】
前記判別手段は、前記光学手段によって撮像された前記画像内における前記
解像度チャートの撮像状態の変化に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度変化を判別することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の密着度確認装置。
【請求項5】
前記
解像度チャートは、所定の大きさを有するマークパターンであり、
前記判別手段は、前記光学手段によって撮像された画像内において、前記マークパターンが見えた時に、前記第1処理体と前記第2処理体とが密着していると判別することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の密着度確認装置。
【請求項6】
前記
解像度チャートは、異なる大きさを有する複数のマークパターンが並んだマーク群であり、
前記判別手段は、前記複数のマークパターンのうち、所定の大きさを持つマークパターンを基準として、該マークパターンが前記光学手段によって撮像された画像内において見えないときに、前記密着度が低下したと判別することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の密着度確認装置。
【請求項7】
前記
解像度チャートは、前記マーク群として、異なる大きさを有する複数のマークパターンが第1方向に並んだ第1マーク群と、前記第1マーク群の複数のマークパターンのそれぞれに対応する大きさを有する複数のマークパターンが前記第1方向と垂直な第2方向に並んだ第2マーク群とを有することを特徴とする請求項6に記載の密着度確認装置。
【請求項8】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の前記第1処理体と密着する部分における中央部に形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の密着度確認装置。
【請求項9】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の辺側中央部に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の密着度確認装置。
【請求項10】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の角部に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の密着度確認装置。
【請求項11】
前記第2処理体は、前記第2処理体に形成された開口領域を複数に区画するための桟部分を含み、
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の桟部分に形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の密着度確認装置。
【請求項12】
前記桟部分は、横方向桟部分と縦方向桟部分とを有し、
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の、前記横方向桟部分と前記縦方向桟部分とが交差する領域に形成されていることを特徴とする請求項11に記載の密着度確認装置。
【請求項13】
マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜装置であって、
第1処理体である基板、及び前記基板を介して第2処理体であるマスクを吸着するための静電チャックと、
前記静電チャックによって吸着された前記基板と前記マスクとの間の密着度を確認するための密着度確認装置とを有し、
前記密着度確認装置は、請求項1~12のいずれか一項に記載の密着度確認装置であることを特徴とする成膜装置。
【請求項14】
前記静電チャックは、前記密着度確認装置の光学手段による撮像時に利用される孔が、前記マスクの
解像度チャートに対応する位置に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の成膜装置。
【請求項15】
第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と
、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と
、の間の密着度
である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための方法であって、
光学手段により、前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された
解像度チャートを撮像する工程と、
前記光学手段によって撮像された画像内における前記
解像度チャートの撮像状態に基づいて、判別手段が、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度を判別する工程とを有することを特徴とする密着度確認方法。
【請求項16】
前記光学手段は、前記第1処理体と前記第2処理体との密着した時に境界面となる前記第1処理体の面の位置に焦点が合わせられた状態で、前記
解像度チャートを撮像することを特徴とする請求項15に記載の密着度確認方法。
【請求項17】
前記判別する工程では、前記判別手段が、前記光学手段によって撮像された前記画像内における前記
解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第2処理体の、前記第1処理体からの離隔距離を取得することを特徴とする請求項15または16に記載の密着度確認方法。
【請求項18】
前記判別する工程では、前記判別手段が、前記光学手段によって撮像された前記画像内における前記
解像度チャートの撮像状態の変化に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度変化を判別することを特徴とする請求項15~17のいずれか1項に記載の密着度確認方法。
【請求項19】
前記
解像度チャートは、所定の大きさを有するマークパターンであり、
前記判別する工程では、前記判別手段が、前記光学手段によって撮像された画像内において前記マークパターンが見えたときに、前記第1処理体と前記第2処理体とが密着していると判別することを特徴とする請求項15~18のいずれか1項に記載の密着度確認方法。
【請求項20】
前記
解像度チャートは、異なる大きさを有する複数のマークパターンが並んだマーク群であり、
前記判別する工程では、前記判別手段が、前記複数のマークパターンのうち、所定の大きさを持つマークパターンを基準として、該マークパターンが前記光学手段によって撮像された画像内において見えないときに、前記密着度が低下したと判別することを特徴とする請求項15~18のいずれか1項に記載の密着度確認方法。
【請求項21】
前記
解像度チャートは、前記マーク群として、異なる大きさを有する複数のマークパターンが第1方向に並んだ第1マーク群と、前記第1マーク群の複数のマークパターンのそれぞれに対応する大きさを有する複数のマークパターンが前記第1方向と垂直な第2方向に並んだ第2マーク群とを有することを特徴とする請求項20に記載の密着度確認方法。
【請求項22】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の前記第1処理体と密着する部分における中央部に形成されていることを特徴とする請求項15~21のいずれか1項に記載の密着度確認方法。
【請求項23】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の辺側中央部に形成されていることを特徴とする請求項22に記載の密着度確認方法。
【請求項24】
前記
解像度チャートは、前記第2処理体の角部に形成されていることを特徴とする請求項23に記載の密着度確認方法。
【請求項25】
マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜方法であって、
静電チャックにより、第1処理体である基板及び前記基板を介して第2処理体であるマスクを吸着する工程と、
前記静電チャックに前記基板と前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を放出させて前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程と、
請求項15~24のいずれか一項に記載の密着度確認方法を用いて、前記静電チャックによって吸着された前記基板と前記マスクとの間の密着度を確認する工程と、を有するこ
とを特徴とする成膜方法。
【請求項26】
前記密着度を確認する工程は、前記基板に蒸着材料を成膜する工程の以前に、または前記基板に蒸着材料を成膜する工程を行う途中に行われることを特徴とする請求項25に記載の成膜方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項28】
コンピュータに、
第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と
、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と
、の間の密着度
である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための方法を実行させるためのプログラムを記録した、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、
前記方法は、
光学手段により、前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された
解像度チャートを撮像する工程と、
前記光学手段によって撮像された画像内における前記
解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度を判別する工程とを有することを特徴とする、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着度確認装置、密着度確認方法、及びこれを用いた成膜装置、成膜方法、電子デバイスの製造方法、及び記憶媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられる。一方、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着材料が蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度を落とす一つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、また、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0005】
特許文献1には、静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開公報2007-0010723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1は、静電チャックに吸着された基板とマスクとの間の密着状態をモニタリングできる構成については、開示がない。
【0008】
マスクを介して基板に成膜処理を行う場合、マスクが基板に対して良好に密着した状態で成膜処理が行われることが好ましい。基板に対してマスクが十分に良好に密着していないと成膜不良をもたらすことになるが、従来は、この基板に対するマスクの密着度を確認する方法がなく、表示パネルの製造が完了した後に不良解析を通じて成膜工程中または成膜工程前後の密着度不良を間接的に推測するしかなかった。
【0009】
本発明は、第1処理体に対する第2処理体の密着度を効果的にモニタリングすることを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態による密着度確認装置は、第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と、の間の密着度である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための装置であって、前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された解像度チャートを撮像するための光学手段と、前記光学手段によって撮像された画像内における前記解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度を判別する判別手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態による成膜装置は、マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜装置であって、第1処理体である基板、及び前記基板を介して第2処理体であるマスクを吸着するための静電チャックと、前記静電チャックによって吸着された前記基板と前記マスクとの間の密着度を確認するための密着度確認装置とを有し、前記密着度確認装置は、上記本発明の一実施形態による密着度確認装置であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態による密着度確認方法は、第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と、の間の密着度である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための方法であって、光学手段により、前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された解像度チャートを撮像する工程と、前記光学手段によって撮像された画像内における前記解像度チャートの撮像
状態に基づいて、判別手段が、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度変化を判別する工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態による成膜方法は、マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜方法であって、静電チャックにより、第1処理体である基板及び前記基板を介して第2処理体であるマスクを吸着する工程と、前記静電チャックに前記基板と前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を放出させて前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程と、上記本発明の一実施形態による密着度確認方法を用いて、前記静電チャックによって吸着された前記基板と前記マスクとの間の密着度を確認する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態による電子デバイスの製造方法は、前記本発明の一実施形態による成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施形態によるコンピュータによって読み取り可能な記録媒体は、コンピュータに、第1方向と直交する第2方向と前記第1方向に沿った面を有する第1処理体と、前記第1処理体の面と対向する面を有する第2処理体と、の間の密着度である、前記第1処理体の面と前記第2処理体の面の間の前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の距離を確認するための方法を実行させるためのプログラムを記録した、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、前記方法は、光学手段により、前記第1処理体を介して、前記第2処理体に形成された解像度チャートを撮像する工程と、前記光学手段によって撮像された画像内における前記解像度チャートの撮像状態に基づいて、前記第1処理体と前記第2処理体との間の密着度を判別する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1処理体に対する第2処理体の密着度を効果的にモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3a】
図3aは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図である。
【
図3b】
図3bは、本発明の一実施形態による静電チャックの模式的な断面図である。
【
図3c】
図3cは、本発明の一実施形態による静電チャックの模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、静電チャックへの基板の吸着シーケンスを示す工程図である。
【
図5】
図5は、静電チャックへのマスクの吸着シーケンスを示す工程図である。
【
図6】
図6は、静電チャックからのマスク及び基板の分離シーケンスを示す工程図である。
【
図7】
図7は、静電チャックに印加される電圧の変化を示すグラフである。
【
図8】
図8は、マスクに形成される密着度確認用マーク(
図8(a))、及びこの密着度確認用マークを利用した密着度確認方法を説明するための模式図(
図8(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。なお、以下の説明において説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0020】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0021】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルを製作する。
【0022】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
【0023】
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜処理)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0024】
搬送室13内には、基板SおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0025】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ばれる)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクMを介して基板S上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜処理(蒸着処理)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0026】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0027】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に受け渡すパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に受け渡すためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0028】
バッファー室16とパス室15との間には、基板Sの向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0029】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び下流側の少なくとも一方に設置される中継装置は、パス室15、バッファー室16、旋回室17のうち少なくとも1つを含む。
【0030】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0031】
本実施例では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもよい。
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0032】
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0033】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25とを含む。
【0034】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきた基
板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0035】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきたマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0036】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ばれる。
【0037】
基板支持ユニット22の上方には、基板Sを静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよい.さらには、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。しかし、静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。なぜなら、静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板である場合であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができるからである。静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、基板Sと静電チャック24間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。
【0038】
静電チャック24は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0039】
本実施形態では、後述のように、成膜処理前に静電チャック24で基板S(第1処理体)だけでなく、マスクM(第2処理体)をも吸着し保持する。その後、静電チャック24で基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)を保持した状態で、成膜処理を行い、成膜処理が完了した後には基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)に対する静電チャック24による保持を解除する。
【0040】
即ち、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1処理体)を静電チャックで吸着及び保持し、その後、基板S(第1処理体)を挟んで静電チャック24と反対側に置かれたマスクM(第2処理体)を、基板S(第1処理体)を介して静電チャック24で吸着し保持する。そして、静電チャック24で基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)を保持した状態で成膜処理を行った後には、基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)を静電チャック24から剥離する。その際、基板S(第1処理体)を介して吸着されたマスクM(第2処理体)を先に剥離してから、基板S(第1処理体)を剥離する。基板SとマスクMの静電チャック24への(からの)吸着及び分離の詳細については、
図4~
図7を参照して後述する。
【0041】
図2には示さなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0042】
蒸発源25は、基板Sに成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板Sに飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線状(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0043】
図2には示さなかったが、成膜装置11は、基板Sに蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0044】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、或いはモータとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0045】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向や、Y方向への移動、θ方向への回転をさせる。なお、本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX方向やY方向の少なくとも一つの方向に移動させたり、θ方向に回転させるなどして、位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0046】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20aが設置される。アライメントマークは、通常、長方形の基板SおよびマスクMのそれぞれについて、互いに対向する二つの長辺と、二つの長辺をつなぐ互いに対向する二つの短辺とで囲まれた面における、隣り合う二辺の間に形成される角部のうち、対角方向の2つの角部に形成されるか、または、4つの角部全てに形成される。これらの基板SおよびマスクM上のアライメントマークの形成位置に対応する静電チャック24には、観察用の孔(アライメントマーク観察用孔)が形成され、該観察用孔を介して上記アライメント用カメラ20aによりアライメントマークを撮影することで、基板SとマスクMとの間の位置調整を行う。
【0047】
アライメント用カメラ20aは、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度を持つカメラである。成膜装置11は、ファインアライメント用カメラ20aの他に相対的に視野角が広くて低解像度であるラフアライメント用カメラをさらに有してもよい。
【0048】
位置調整機構29は、アライメント用カメラ20aによって取得した基板S(第1処理体)及びマスクM(第2処理体)の位置情報に基づいて、基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0049】
また、静電チャック24には、上記アライメントマーク観察用孔の他に、静電チャック24によって吸着維持される基板SとマスクMとの間の密着度を確認するための密着度確認用の観察孔がさらに形成されてもよい。なお、この“密着度”とは、本実施形態において、静電チャック24によって吸着される基板S(第1処理体)とマスクM(第2処理体)の対向面間の距離を意味している。静電チャック24の密着度確認用観察孔に対応する
マスクM上の位置には、基板との密着度判定時に使用される密着度確認用マークとしての表示子(例えば、解像度チャート)が形成されている。真空容器21の外側上面には、真空容器21の上面に設置された透明窓と静電チャック24上の密着度確認用孔を介して、マスクMに形成された上記密着度確認用マークを撮影するための密着度確認用カメラ20bが設けられる。密着度確認用カメラ20bを利用した、基板Sに対するマスクMの密着度判定の詳細については後述する。
【0050】
成膜装置11は、制御部40を具備する。制御部40は、基板Sの搬送及びアライメント、蒸発源25の制御、成膜装置11の制御、前述の密着度の判別などの機能を有する。制御部40は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピュータによって構成可能である。この場合、制御部40の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを使用してもよく、組込み型のコンピュータまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部40の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0051】
<静電チャックシステム>
図3a~
図3cを参照して本実施形態による静電チャックシステム30について説明する。
【0052】
図3aは、本実施形態の静電チャックシステム30の概念的なブロック図であり、
図3bは、静電チャック24の模式的な断面図であり、
図3cは、静電チャック24の模式的な平面図である。
【0053】
本実施形態の静電チャックシステム30は、
図3aに示したように、静電チャック24と、電圧印加部31と、電圧制御部32とを含む。
【0054】
電圧印加部31は、静電チャック24の電極部に静電引力を発生させるための電圧を印加する。
【0055】
電圧制御部32は、静電チャックシステム30の吸着工程または成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部31により電極部に加えられる電圧の大きさ、電圧の印加開始時点、電圧の維持時間、電圧の印加順番などを制御する。電圧制御部32は、例えば、静電チャック24の電極部に含まれる複数のサブ電極部241~249への電圧印加をサブ電極部別に独立的に制御することができる。本実施形態では、電圧制御部32が成膜装置11の制御部40とは別途に構成されるが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部に統合されてもよい。
【0056】
静電チャック24は、吸着面に処理体(例えば、基板S、マスクM)を吸着するための静電吸着力を発生させる電極部を有し、電極部は、複数のサブ電極部241~249を有する。例えば、本実施形態の静電チャック24は、
図3cに示したように、静電チャック24の長手方向(Y方向)および、静電チャック24の短手方向(X方向)に沿って、分割された複数のサブ電極部241~249が配置されている。
【0057】
上述のサブ電極部241~249はそれぞれ、静電吸着力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電圧が印加される電極対33を有する。さらに、複数のサブ電極部241~249が有する電極対33は、プラス電圧が印加される第1電極331と、マイナス電圧が印加される第2電極332とを有する。
【0058】
第1電極331及び第2電極332は、
図3cに示したように、それぞれ櫛歯形状を有する。例えば、第1電極331及び第2電極332は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを有する。各電極331,332の基部は櫛歯部に電力を供給し、複数の櫛歯部は、処理体との間で静電吸着力を生じさせる。一つのサブ電極部241~249のそれぞれにおいて、第1電極331の各櫛歯部は、第2電極332の各櫛歯部と対向し、かつ互いに入り組んだ構成となるように、交互に配置される。このように、各電極331,332の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電圧が印加される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを吸着することができる。
【0059】
本実施例においては、静電チャック24のサブ電極部241~249の各電極331,332が櫛歯形状を有すると説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を発生させることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0060】
本実施形態の静電チャック24は、複数のサブ電極部に対応する複数の吸着部を有する。例えば、本実施例の静電チャック24は、
図3cに示すように、9つのサブ電極部241~249に対応する9つの吸着部を有するが、これに限定されず、基板Sの吸着をより精緻に制御するため、他の個数の吸着部を有してもよい。
【0061】
吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y方向)及び短手方向(X方向)に分割されるように設けられるが、これに限定されず、静電チャック24の長手方向または短手方向だけに分割されてもよい。複数の吸着部は、物理的に一つのプレートが複数の電極部を持つことで構成されてもよく、物理的に分割された複数のプレートそれぞれが一つまたはそれ以上の電極部を持つことで構成されてもよい。
【0062】
例えば、
図3cに示した実施例のように、複数の吸着部それぞれが複数のサブ電極部それぞれに対応するように構成されてもよく、一つの吸着部が複数のサブ電極部を含むように構成されてもよい。
【0063】
つまり、電圧制御部32によるサブ電極部241~249への電圧の印加を制御することで、後述するように、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つのサブ電極部241、244、247が一つの吸着部を構成するようにすることができる。すなわち、電圧制御部32は、3つのサブ電極部241、244、247のそれぞれに対して、独立的に電圧を印加する順序を制御することが可能である。そのため、これら3つのサブ電極部241、244、247に同時に電圧が印加されるように制御することで、これら3つのサブ電極部241、244、247を一つの吸着部として機能させることができる。複数の吸着部のそれぞれが独立的に基板Sの吸着を進行させることができる限り、その具体的な物理的構造及び電気回路的構造を変更してもよい。
【0064】
静電チャック24には、
図3cに示したように、一つ以上の孔H1、H2が垂直方向に貫通するように形成されている。孔H1、H2は、前述のアライメントマーク観察用の孔と、マスク密着度確認用の観察孔を含む。例えば、4つの角部のそれぞれにアライメントマーク観察用の孔H1が形成され、中央部にマスク密着度確認用の観察孔H2が形成される。
【0065】
孔H1、H2が貫通する部分には、電極部が形成されない。孔H1、H2は、何の物質も満たされていない空いた空間であってもよく、実施形態によっては、孔H1、H2に透明な絶縁性の物質が満たされていてもよい。
【0066】
<静電チャックシステムによる基板とマスクの吸着及び分離>
以下、
図4~
図7を参照して、静電チャック24に基板S及びマスクMを吸着及び分離する工程、及びその電圧制御について説明する。
【0067】
(基板Sの吸着)
図4は、静電チャック24に基板Sを吸着する工程を示している。
本実施形態においては、
図4に示したように、基板Sの全面が静電チャック24の下面に同時に吸着するのではなく、静電チャック24の第1辺(短辺)に沿って一端から他端に向かって順次に吸着が進行する。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、静電チャック24の対角線上の一つの角からこれと対向する他の角に向かって基板の吸着が進行してもよい。また、静電チャック24の中央部から周縁部に向かって基板の吸着が行われてもよい。
【0068】
静電チャック24の第1辺に沿って基板Sが順次に吸着するようにするために、以下の方法が挙げられる。まずは、複数のサブ電極部241~249に基板吸着のための第1電圧を印加する順番を制御して、基板Sが順次に吸着するようにする方法がある。もしくは、複数のサブ電極部241~249に同時に第1電圧を印加し、基板Sを支持する基板支持ユニット22の支持部の構造や支持力を異ならせることで、基板Sが順次に吸着する方法を採用してもよい。
【0069】
図4は、静電チャック24の複数のサブ電極部241~249に印加される電圧の制御によって、基板SをX方向に沿って、静電チャック24に順次に吸着させる実施形態を示す。ここでは、
図3cにおける、静電チャック24の長辺方向(Y方向)に沿って配置される3つのサブ電極部241,244,247が第1吸着部41(後述の処理フローでは、電圧印加の順番が1番目の吸着部)を構成する。また、静電チャック24の中央部の3つのサブ電極部242、245、248が第2吸着部42(後述の処理フローでは、電圧印加の順番が2番目の吸着部)を構成する。そして、残り3つのサブ電極部243、246、249が第3吸着部43(後述の処理フローでは、電圧印加の順番が3番目の吸着部)を構成する。以上のことを前提に説明する。
【0070】
まず、成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入され、基板支持ユニット22の支持部に載置される。
【0071】
続いて、静電チャック24が下降し、基板支持ユニット22の支持部上に載置された基板Sに向かって移動する(
図4(a))。
【0072】
静電チャック24が基板Sに十分に近接または接触すると、電圧制御部32は、静電チャック24の第1辺(短手)に沿って第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第1電圧(ΔV1)が印加されるよう制御する。
【0073】
つまり、電圧制御部32は、第1吸着部41(
図4(b))、第2吸着部42(
図4(c))、第3吸着部43の順に第1電圧(ΔV1)が加えられるように制御する(
図4(d))。
【0074】
第1電圧(ΔV1)は、基板Sを静電チャック24に確実に吸着させるために十分な大きさの電圧に設定される。
【0075】
これにより、基板Sの静電チャック24への吸着は、基板Sの第1吸着部41に対応するY方向に沿った一方の辺側から吸着が開始され、基板Sの中央部を経て、第3吸着部43に対応するY方向に沿った他方の辺側に向かって進行していき(すなわち、X方向に基
板Sの吸着が進行していき)、基板Sは、基板中央部にしわを残さず、平らに静電チャック24に吸着される。
【0076】
本実施形態においては、静電チャック24が基板Sに十分に近接或いは接触した状態で第1電圧(ΔV1)を印加すると説明したが、静電チャック24が基板Sに向かって下降を始める前に、或いは、下降の途中に第1電圧(ΔV1)を印加してもよい。
【0077】
基板Sの静電チャック24への吸着工程が完了した後の所定の時点で、電圧制御部32は、
図4(e)に示すように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を、第1電圧(ΔV1)から第1電圧(ΔV1)より小さい第2電圧(ΔV2)に下げる。
【0078】
第2電圧(ΔV2)は、基板Sを静電チャック24に吸着された状態に維持するための吸着維持電圧であり、基板Sを静電チャック24に吸着させる際に印加した第1電圧(ΔV1)より低い電圧である。静電チャック24に印加される電圧が第1電圧(ΔV1)から第2電圧(ΔV2)に下がると、これに対応して基板Sに誘導される分極電荷量も第1電圧(ΔV1)が加えられた場合に比べて減少する。しかしながら、基板Sが一旦第1電圧(ΔV1)によって静電チャック24に吸着されていれば、第1電圧(ΔV1)より低い電圧値の第2電圧(ΔV2)を印加しても基板の吸着状態を維持することができる。
【0079】
このように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を第1電圧(ΔV1)から第2電圧(ΔV2)に下げることで、基板Sが静電チャック24から分離するのにかかる時間を短縮することができる。
【0080】
図示した実施例では、静電チャック24の第1吸着部41~第3吸着部43に印加される電圧を同時に第2電圧(ΔV2)に下げることとしたが、本発明はこれに限定されず、吸着部別に第2電圧(ΔV2)に下げる時点、すなわち吸着部に第2電圧(ΔV2)を印加する印加時期や印加される第2電圧(ΔV2)の大きさがそれぞれ異なるようにしてもよい。例えば、第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第2電圧(ΔV2)に下げてもよい。
【0081】
このように、静電チャック24の電極部に印加される電圧が第2電圧(ΔV2)に下がった後、制御部40による位置調整機構29の制御を通じて、静電チャック24に吸着した基板Sとマスク支持ユニット23上に載置されたマスクMの相対的位置を調整(アライメント)する。本実施例では、静電チャック24の電極部に印加される電圧が第2電圧(ΔV2)に下がった後に基板SとマスクMとの間の相対的な位置調整(アライメント)を行うこととしたが、本発明はこれに限定されず、静電チャック24の電極部に第1電圧(ΔV1)が印加されている状態でアライメント工程を行ってもよい。
【0082】
(マスクMの吸着)
基板Sの吸着、およびマスクMとのアライメント調整が終わると、吸着された基板Sを介してマスクMをさらに静電チャック24に吸着させる。具体的には、静電チャック24の電極部にマスクM吸着のための第3電圧(ΔV3)を印加することで、基板Sを介してマスクMを静電チャック24に吸着させる。つまり、静電チャック24に吸着した基板Sの下面にマスクMを吸着させる。
【0083】
図5に、静電チャック24にマスクMを吸着させる工程を示す。
まず、基板Sが吸着した静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かって下降させる(
図5(a))。
【0084】
静電チャック24に吸着した基板Sの下面がマスクMに十分に近接または接触した際に
、電圧制御部32は、電圧印加部31が静電チャック24の電極部に第3電圧(ΔV3)を印加するように制御する。
【0085】
第3電圧(ΔV3)は、第2電圧(ΔV2)より電圧値が大きく、基板Sを介してマスクMが静電誘導によって帯電できる程度の大きさであることが好ましい。これによって、マスクMが基板Sを介して静電チャック24に吸着することができる。ただし、本発明はこれに限定されず、第3電圧(ΔV3)は、第2電圧(ΔV2)と同じ大きさを有してもよい。第3電圧(ΔV3)が第2電圧(ΔV2)と同じ大きさを有しても、前述した通り、静電チャック24の下降によって静電チャック24または基板SとマスクMとの間の相対的な距離が縮まる。そのため、静電チャック24の電極部に印加される電圧の大きさを第2電圧(ΔV2)より大きくしなくても、基板Sに静電誘導された分極電荷によってマスクMにも静電誘導を起こせることができ、マスクMが基板Sを介して静電チャック24に吸着できる程度の吸着力が得られる。
【0086】
第3電圧(ΔV3)は、第1電圧(ΔV1)より小さくしてもよく、工程時間(Tact)の短縮を考慮して第1電圧(ΔV1)と同等な程度の大きさにしてもよい。
【0087】
図5に示したマスク吸着工程では、マスクMがシワを残さず、基板Sの下面に吸着できるように、電圧制御部32は、第3電圧(ΔV3)を静電チャック24全体にわたって同時に印加するのではなく、第1辺(短手)に沿って第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第3電圧(ΔV3)を印加する。
【0088】
つまり、電圧制御部32は、第1吸着部41(
図5(b))、第2吸着部42(
図5(c))、第3吸着部43の順に第3電圧(ΔV3)が加えられるように制御する(
図5(d))。
【0089】
これにより、マスクMの静電チャック24への吸着は、マスクMの第1吸着部41に対応するY方向に沿った一方の辺側から吸着が開始され、マスクMの中央部を経て、第3吸着部43に対応するY方向に沿った他方の辺側に向かって、進行していき(すなわち、X方向にマスクMの吸着が進行していき)、マスクMは、マスクMの中央部にしわを残すことなく、平らに静電チャック24に吸着される。
【0090】
本実施形態においては、静電チャック24がマスクMに近接或いは接触した状態で第3電圧(ΔV3)を印加すると説明したが、静電チャック24がマスクMに向かって下降を始める前に、或いは、下降の途中に第3電圧(ΔV3)を印加してもよい。
【0091】
マスクMの静電チャック24への吸着工程が完了した後の所定の時点で、電圧制御部32は、
図5(e)に示すように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を、第3電圧(ΔV3)から第3電圧(ΔV3)より小さい電圧値の第4電圧(ΔV4)に下げる。
【0092】
第4電圧(ΔV4)は、静電チャック24に基板Sを介して吸着されたマスクMの吸着状態を維持するための吸着維持電圧であり、マスクMを静電チャック24に吸着させる時の第3電圧(ΔV3)より低い電圧である。静電チャック24に印加される電圧が第4電圧(ΔV4)に下がると、これに対応してマスクMに誘導される分極電荷量も第3電圧(ΔV3)が加えられた場合に比べて減少するが、マスクMが一旦第3電圧(ΔV3)によって静電チャック24に吸着されていれば、第3電圧(ΔV3)より低い電圧値の第4電圧(ΔV4)を印加してもマスクの吸着状態を維持することができる。
【0093】
このように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を第4電圧(ΔV4)に下げることで、マスクMを静電チャック24から分離するのにかかる時間を減らすことができ
る。
【0094】
図示した実施例では、静電チャック24の第1吸着部41~第3吸着部43に印加される電圧を同時に第4電圧(ΔV4)に下げることとしたが、本発明はこれに限定されず、吸着部別に第4電圧(ΔV4)に下げる時点、すなわち吸着部に第4電圧(ΔV4)を印加する印加時期や印加される第4電圧(ΔV4)の大きさがそれぞれ異なるようにしてもよい。例えば、第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第4電圧(ΔV4)に下げてもよい。
【0095】
このようにして、マスクMが基板Sを介して静電チャック24に吸着した状態で、蒸発源25から蒸発された蒸着材料がマスクMを介して基板Sに成膜される成膜工程が行われる。本実施例では、静電チャック24による静電吸着力でマスクMを保持すると説明したが、本発明はこれに限定されず、静電チャック24の上部にマグネット板を設置し、マグネット板によって金属製のマスクMに磁力を印加することで、より確実にマスクMを基板Sに密着させることにしてもよい。
【0096】
(静電チャック24からの基板SとマスクMの分離)
基板SとマスクMを静電チャック24に吸着した状態で成膜工程が完了すると、静電チャック24に印加される電圧の制御によって、吸着された基板SとマスクMを静電チャック24から分離する。
【0097】
図6は、静電チャック24から基板SとマスクMを分離する工程を示す。
図6(a)に示すように、電圧制御部32は、静電チャック24の電極部に印加される電圧を、前述の吸着維持電圧である第4電圧(ΔV4)から、マスクMの分離可能な第5電圧(ΔV5)に変更する。ここで、第5電圧(ΔV5)は、静電チャック24による基板Sの吸着状態を維持しながら、基板Sを介して吸着されたマスクMのみを分離するためのマスク分離電圧である。したがって、第5電圧(ΔV5)は、マスクMを静電チャック24に吸着させる際に印加した第3電圧(ΔV3)はもちろん、マスクMを静電チャック24に吸着維持させる際に印加した第4電圧(ΔV4)よりも低い大きさの電圧である。その上、第5電圧(ΔV5)は、マスクMが分離されても、静電チャック24による基板Sの吸着状態は維持できる大きさの電圧である。
【0098】
一例として、第5電圧(ΔV5)は、前述した第2電圧(ΔV2)と実質的に同じ大きさを有する電圧であってもよい。ただし、本実施例はここに限定されず、静電チャック24による基板Sの吸着状態を維持しながら、マスクMのみを分離することができれば、第5電圧(ΔV5)は、第2電圧(ΔV2)より高いか、または低い大きさを有することもできる。ただし、この場合でも、第5電圧(ΔV5)は、第3電圧(ΔV3)および第4電圧(ΔV4)よりは低い大きさを有する。
【0099】
静電チャック24に印加される電圧が第2電圧(ΔV2)と実質的に同一の電圧値となる第5電圧(ΔV5)に下げると、これに応じて、マスクMに誘導される電荷量も第2電圧(ΔV2)が加えられた場合と実質的に同じ程度に減少する。その結果、静電チャック24による基板Sの吸着状態は維持されるが、マスクMの吸着状態は維持されず、静電チャック24から分離される。
【0100】
詳細な図は省略したが、静電チャック24に印加される電圧をマスク分離電圧である第5電圧(ΔV5)に下げる
図6(a)の工程においては、静電チャック24の吸着部別に第5電圧(ΔV5)に下げる時点を異ならせるように制御することが好ましい。特に、前述したように、マスクMを吸着する工程において第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次にマスク吸着電圧(ΔV3)を印加し吸着させた場合と同様に(
図5(b)~
図5(d)参照)、マスクMを分離させる際にも、第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次にマスク分離電圧である第5電圧(ΔV5)を印加するように制御することが好ましい。
【0101】
つまり、吸着電圧が先に印加された領域に、分離電圧も先に印加されるように制御する。
【0102】
吸着電圧が先に印加された静電チャック電極部(前述の例では、第1吸着部41)に対応するマスクMの領域の方が、吸着電圧が後で印加される静電チャック電極部(前述の例では、第3吸着部43)に対応するマスクMの領域よりも、静電チャック24に吸着されていた期間が長い。よって、静電チャック24に吸着されていた期間が長い分当該領域に残存する分極電荷量の大きさも大きい。
【0103】
本発明に係る実施形態では、このように相対的に吸着期間が長く分極電荷量の大きさが大きい領域から、マスク分離電圧(ΔV5)が順次に印加されるように制御することによって、静電チャック24からマスクM全体が分離されるまでの時間をより短縮することができる。また、このようにマスク分離電圧(ΔV5)が印加される領域を、吸着による分極電荷量の大きさが大きい領域から順次に拡張させていくことによって、マスクM面内における静電チャック24からの分離タイミングを均一化することができる。
【0104】
一方、静電チャック24の吸着部別に第5電圧(ΔV5)に下げる時点を異ならせる以外の方法として、静電チャック24に印加される第5電圧(ΔV5)の大きさを吸着部別に変えてもよい。つまり、上述した例の場合、吸着電圧が先に印加された静電チャック24のサブ電極部241、244、247(第1吸着部41)により大きいマスク分離電圧(ΔV5)を印加し、吸着電圧が後で印加される静電チャック24のサブ電極部243、246、249(第3吸着部43)により小さいマスク分離電圧(ΔV5)を印加するように制御してもよい。このように、マスク分離電圧として印加される第5電圧(ΔV5)の大きさを、マスク分離を可能にする電圧の範囲内で、吸着電圧が印加される順序に合わせて吸着領域別に異ならせるように制御しても、同様の効果を得ることができる。
【0105】
図6に戻って、このようにマスクMが分離され基板Sだけが静電チャック24に吸着維持された状態になると、静電チャックZアクチュエータ28によって基板Sを吸着した静電チャック24を上昇させる(
図6(b))。
【0106】
続いて、電圧制御部32は、静電チャック24の電極部に印加される電圧を第5電圧(ΔV5)から第6電圧(ΔV6)に変更する(
図6(c))。ここで、第6電圧(ΔV6)は、静電チャック24に吸着されている基板Sを静電チャック24から分離するための基板分離電圧である。よって、第6電圧(ΔV6)は、基板Sのみ静電チャック24に吸着維持されている時に印加した第5電圧(ΔV5)よりも低い大きさの電圧である。
【0107】
例えば、電圧制御部32は、静電チャック24の電極部に印加する電圧値をゼロ(0)として(つまり、オフさせる)第6電圧(ΔV6)に印加するか、または逆極性の電圧を第6電圧(ΔV6)として印加してもいい。その結果、基板Sに誘導された分極電荷が除去されて、基板Sが静電チャック24から分離される。
【0108】
そして、詳細な図示は省略したが、静電チャック24に印加される電圧を基板分離電圧である第6電圧(ΔV6)に下げる
図6(c)の工程においても、前述したマスク分離電圧(第5電圧ΔV5)印加時と同様に、静電チャック24の吸着部別に第6電圧(ΔV6)に下げる時点を異ならせるか、または印加される第6電圧(ΔV6)の大きさを吸着部別に異なる電圧値にして制御することができる。
【0109】
つまり、基板Sを吸着する工程において第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に基板吸着電圧(ΔV1)を印加して吸着させた場合には(
図4(b)~
図4(d)参照)、基板Sの分離の際にも、マスクMの分離と同様に、第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に基板分離電圧(ΔV6)を印加するように制御することが好ましい。つまり、吸着電圧が先に印加された領域である第1吸着部41に、基板分離電圧(ΔV6)を先に印加し、次に、第2吸着部42に基板分離電圧(ΔV6)を印加する。最後に、吸着電圧が後で印加された第3吸着部に、基板分離電圧(ΔV6)を印加する。もしくは、基板分離電圧(ΔV6)の大きさを、基板の分離を可能にする電圧の範囲内で、吸着電圧が印加された順序に合わせて吸着領域別に異ならせて制御する、つまり、吸着電圧が先に印加された第1吸着部41に、より大きい絶対値となる基板分離電圧(ΔV6)を印加し、吸着電圧が遅れて印加される第3吸着部43に、より小さい絶対値となる基板分離電圧(ΔV6)を印加するように制御することが好ましい。
【0110】
これにより、前述したマスクM分離時と同様に、静電チャック24から基板S全体が分離されるまでの時間をより短縮することができ、また、基板Sの面内における静電チャック24からの分離タイミングを均一化することができる。
【0111】
以上、マスク分離電圧である第5電圧(ΔV5)と基板分離電圧である第6電圧(ΔV6)を印加する時点や大きさを、吸着領域別に異ならせるように制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。つまり、静電チャック24からマスクMを分離させる1次分離が行われた後、続いて、静電チャック24から基板Mを分離させる2次分離を行う場合において、静電チャック24の複数の吸着領域(第1吸着部41~第3吸着部43)に印加される電圧を同時にマスク分離電圧(ΔV5)または基板分離電圧(ΔV6)にそれぞれ下げるように制御してもよい。
【0112】
以下、
図7を参照して、静電チャック24により基板SおよびマスクMを吸着して保持する過程において、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧の制御について説明する。
【0113】
まず、基板Sを静電チャック24に吸着させるために、所定の時点(t1)で静電チャック24の電極部またはサブ電極部に第1電圧(ΔV1)を印加する。
【0114】
第1電圧(ΔV1)は、基板Sを静電チャック24に吸着させるのに十分な静電吸着力が得られる大きさを有し、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に第1電圧が印加されてから基板Sに分極電荷が発生するまでかかる時間を短縮するために可能な限り大きい電圧であることが好ましい。例えば、電圧印加部31によって印加可能な最大電圧(ΔVmax)を印加することが好ましい。
【0115】
続いて、印加された第1電圧によって基板Sに分極電荷が誘導され、基板Sが静電チャック24に十分な静電吸着力で吸着した後(t=t2)に、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧を第2電圧(ΔV2)に下げる。第2電圧(ΔV2)は、例えば、基板Sが静電チャック24に吸着した状態を維持できる最も低い電圧(ΔVmin)であればよい。
【0116】
続いて、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させるために、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧を第3電圧(ΔV3)に上げる(t=t3)。第3電圧(ΔV3)は、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させるための電圧であるので、第2電圧(ΔV2)以上の大きさを有することが好ましく、工程時間を考慮して電圧印加部31が印加できる最大電圧(ΔVmax)であることがより
好ましい。
【0117】
本実施形態では、成膜工程後に基板SおよびマスクMを静電チャック24から分離するのにかかる時間を短縮するために、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧を第3電圧(ΔV3)に維持せず、より小さい第4電圧(ΔV4)に下げる(t=t4)。ただし、マスクMが基板Sを介して静電チャック24に吸着した状態を維持するために、第4電圧(ΔV4)は、基板Sのみが静電チャック24に吸着された状態を維持するのに必要な第2電圧(ΔV2)以上の電圧であることが好ましい。
【0118】
成膜工程が完了した後(t5)に、マスクMを静電チャック24から分離するために、まず、静電チャック24の電極部に印加される電圧を、基板Sのみの吸着状態が維持可能な第5電圧(ΔV5)に下げる。第5電圧(ΔV5)は、マスクMが分離され、基板Sのみが静電チャック24に吸着した状態を維持するのに必要な第2電圧(ΔV2)と実質的に同じ大きさの電圧である。一例として、第5電圧(ΔV5)は、マスクMが分離され、基板Sのみが静電チャック24に吸着された状態を維持するのに必要な最小電圧(ΔVmin)であることが好ましい。
【0119】
これによって、マスクMが分離した後、静電チャック24の電極部に印加される電圧の電圧値をゼロ(0)に下げるか(すなわち、オフにするか)、反対極性の電圧を印加する(t=t6)。これにより、基板Sに誘導された分極電荷が除去されて、基板Sが静電チャック24から分離できる。
【0120】
<成膜プロセス及びマスク密着度確認>
以下、本実施形態による成膜方法及び成膜工程中における基板に対するマスク密着度を確認する方法について説明する。なお、以下の説明において、前述の成膜処理と同様に、基板Sが密着度確認における第1処理体、マスクMが第2処理体に相当する。
【0121】
真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが載置された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入される。
【0122】
真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが下降し、基板Sを基板支持ユニット22の支持部上に載置する。
【0123】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接或いは接触した後に、静電チャック24に第1電圧(ΔV1)を印加し、基板Sを吸着し、吸着が完了すると、静電チャック24に印加する電圧を第2電圧(ΔV2)に下げて基板吸着状態が維持されるようにする。
【0124】
静電チャック24に基板Sが吸着された状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。
【0125】
基板Sが、基板SとマスクMにそれぞれ形成されたアライメントマークをアライメント用カメラ20aで撮影するための位置である計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20aでアライメントマーク観察用の孔H1を介して基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板SとマスクMの相対的な位置ずれを計測する。
【0126】
計測の結果、基板SのマスクMに対する相対的位置ずれが閾値を超えることが判明すれば、静電チャック24に吸着された状態の基板Sを水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板SをマスクMに対して、位置調整(アライメント)する。
【0127】
アライメント工程の後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に第2電圧(ΔV2)以上の大きさを有する第3電圧(ΔV3)を印加してマスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させる。そして、マスクMの吸着工程が完了すると、静電チャック24に基板SとマスクMが吸着された状態を維持することができる電圧である、第4電圧(ΔV4)に下げマスクMの吸着状態が維持されるようにする。
【0128】
このように、マスクMの吸着まで完了すると、蒸発源25のシャッタを開け、蒸着材料をマスクMを介して基板Sに蒸着させる。
【0129】
所望の厚さに蒸着した後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧を第5電圧(ΔV5)に下げてマスクMを分離し、静電チャック24に基板Sのみが吸着した状態で、静電チャックZアクチュエータ28により、基板Sを上昇させる。
【0130】
続いて、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、静電チャック24の電極部或いはサブ電極部に電圧値がゼロ(0)または逆極性の電圧(ΔV6)が印加され(t6)、基板Sが静電チャック24から分離される。その後、蒸着が完了した基板Sを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
【0131】
本発明の一実施形態では、マスクMを介して基板Sに成膜処理を行う以上の一連の成膜プロセスにおいて、基板Sに対するマスクMの密着度、すなわち、基板SとマスクMの対向面間の距離を確認できるようにしている。
【0132】
このため、前述したように、マスクMには、密着度確認用マークとしての密着度確認用表示子(解像度チャートとも呼ばれる)が形成されている。
図8(a)は、マスクMに形成される密着度確認用マーク50を示す上面図である。本発明の一実施形態において、密着度確認用マーク50は、通常、自重等により比較的に密着度低下が大きく発生し得るマスクMの中央部に形成されている。密着度確認用マーク50は、幅と長さが異なる複数のパターンの組み合わせで構成される。具体的には、マスクMの第1方向(例えば、長辺方向)に並んだ第1マーク群51と、マスクMの第2方向(例えば、短辺方向)に並んだ第2マーク群52とを有し、第1及び第2マーク群51、52はそれぞれ、幅と長さが異なる複数(本実施形態では、3つ)のマークパターン51a~51c及び52a~52cで構成される。
【0133】
第1及び第2マーク群51、52における複数のマークパターン51a~51c及び52a~52cは、互いに対応する幅と長さを有する。つまり、各マーク群において、幅と長さが一番小さい小マークパターン51a、52a同士は、互いに同じ幅と長さを持つ。また、幅と長さが中間程度である中マークパターン51b、52b同士が、互いに同じ幅と長さを持つ。さらに、幅と長さが一番大きい大マークパターン51c、52c同士も、それぞれ互いに同じ幅と長さを持つ。
【0134】
これら複数のマークパターンで構成された密着度確認用マーク50を、透明な基板Sを介して、真空容器21の上面に設置された光学手段(マスク密着度確認用カメラ20b)によって複数回撮影し、該撮影画像を、判別手段としての制御部40で画像処理し解析、撮影結果を比較することで、マスクMの密着度の変化を確認・判定することができる。もしくは、基板SにマスクM上の密着度確認用マーク50や、前述の観察孔H2の位置に合わせて穴を設けて、その穴から光学手段(マスク密着度確認用カメラ20b)によって撮影してもよい。これら、光学手段としてのマスク密着度確認用カメラ20bや、判別手段としての制御部40からなる構成が、本発明における密着度確認装置に相当する。
【0135】
図8(b)は、このような密着度確認用マーク50を用いた密着度確認方法を説明する
ための模式図であり、マスクMの密着度が低下し、基板Sとの吸着面から下に撓んでいる様子を示している。マスク上の所定の領域(A)には、前述のように、幅と長さが異なる複数のマークパターンで構成された密着度確認用マーク50が形成されており(
図8(b)には不図示)、この密着度確認用マーク50の形成領域(A)に対応する静電チャック24には、前述の密着度確認用の観察孔H2が形成され、該観察孔H2の上部には前述の光学手段(マスク密着度確認用カメラ20b)が設置される。
【0136】
マスク密着度確認用カメラ20bは、マスクMが基板Sに正常に密着しているときの基板SとマスクMとの境界面の位置に焦点が合わせられた状態で、マスクM上の密着度確認用マーク50を撮像するように制御されている。このようなマスク密着度確認用カメラ20bの焦点合わせのため、マスクMに対向する側の基板S面にも焦点設置用のマークを形成しておき、このマークを利用して上記マスク密着度確認用カメラ20bの焦点を設定しておくようにしてもよい。
【0137】
マスクMの密着度が低下し基板Sから離れるにつれて、マスクM上に形成された密着度確認用マークの各パターン51a~51c及び52a~52cが、カメラの解像度との関係ではっきりと写らなくなり撮像画像から次第に見えなくなるようになっている。例えば、密着度確認用マークが基板Sに対して十分に近い位置にある場合(基板SとマスクMとの間の距離が近い)には1番小さいパターンである51a、52aも十分に解像できる。しかしながら、基板SとマスクMとの間の距離が離れていき、密着度確認用マークがマスク密着度確認用カメラ20bから離れると、各パターン51a~51c及び52a~52cは撮像した画像内で小さくなる。そうすると、カメラの解像度よりも各パターンの大きさが小さくなったときに、はっきりと写らなく(各パターンの形状が認識できなく)なる。そのため、どの大きさのパターンまでが見えているかで、基板SとマスクMとの間の距離を推定することができる。
【0138】
つまり、前述したように、マスクM上に形成される密着度確認用マーク50は、幅と長さが異なる複数のパターン51a~51c及び52a~52cで構成されており、密着度が低下しマスクMが基板Sから次第に離れるにつれて、密着度確認用マーク50のうち、幅と長さが小さい小マークパターン51a、52a、次に幅と長さが中間程度である中マークパターン51b、52b、最後に幅と長さが一番大きい大マークパターン51c、52cの順に、徐々にその焦点範囲での認識可能限界を超え、撮像画像から次第に見えなくなる。
【0139】
例えば、
図8(b)には、密着度低下によりマスクMが基板Sから離れた際の基板SからのマスクMの位置を、それぞれ基板Sからの離隔距離h1、h2、h3として3段階で例示しており、密着度確認用マーク50を構成する各マークパターン51a~51c及び52a~52cの認識可能限界位置がこの3段階の離隔距離h1、h2、h3にそれぞれ対応する位置となるように、各マークパターンの幅と長さを設定する。そうすると、基板Sからの離隔距離がh1以内に離れた状態では、マスクM上のすべてのマークパターン51a~51c及び52a~52cが撮像画像から認識可能であるが、基板Sに対するマスクMの密着度が低下することにより離隔距離がh1になると、マストM上のマークパターンのうち、幅と長さが小さい小マークパターン51a、52aが認識可能限界を超え、撮像画像から見えなくなる。更に基板Sに対するマスクMの密着度が低下し離隔距離がh2になると、小マークパターン51a、52aに加え、幅と長さが中程度である中マークパターン51b、52bも認識可能限界を超え、撮像画像から見えなくなる。更に密着度が低下し離隔距離がh3に至ると、幅と長さが一番大きい大マークパターン51c、52cを含むマスクM上のすべての密着度確認用マークパターンが認識可能限界を超え、撮像画像から見えなくなる。このように、どの大きさのマークパターンまでが撮像画像から見えているかで、基板SとマスクMとの間の距離を推定することができる。そして、基板Sと
マスクMとの間の距離が一定以下となったと判断できたら、基板SとマスクMが全体的に密着したと判断し、次の工程に進むことができるようになる。
【0140】
本発明によれば、このようにマスクM上に形成された密着度確認用マーク50を撮像し、該画像を画像処理し分析することによって、マスクMの基板Sからの離隔距離を算出し、基板Sに対するマスクMの密着度を確認・判定することができる。そして、このような密着度の確認手続きは、静電チャック24による基板SとマスクMの吸着完了後、成膜工程に進入する前に行ってもよく、成膜工程が行われる途中に、成膜工程と並行して同時に行うこともできる。つまり、成膜工程の進行中にも、光学手段(マスク密着度確認用カメラ20b)による密着度確認用マークの撮影を、例えば、一定の時間間隔で周期的に行い、その結果を判別手段としての制御部40で分析することで、成膜途中に予期せぬマスクMの密着度低下が起きたとしても、事実上、リアルタイムで確認・判定することができる。
【0141】
したがって、本発明によれば、表示パネルの製造が完了した後の不良解析を通じて成膜工程中の密着度低下を事後的に確認していた従来とは異なり、成膜工程前後だけでなく、成膜工程の進行中にも、基板Sに対するマスクMの密着度低下をリアルタイムで確認することにより、所定の臨界値以上の密着度低下が確認される場合には、例えば、成膜処理を中止し、前述した吸着および分離工程を通じて、静電チャック24からマスクMを一旦分離し、再吸着させ吸着状態を初期化してから、成膜処理を再開するなどの方法で、成膜不良を事前に防止することができる。
【0142】
以上、本発明の一実施形態によって、マスクMの密着度を確認および判定する構成の例を説明したが、本発明は、この例の構成に限定されない。例えば、密着度確認用マーク50は、マスクMの中央部に形成されるものとして説明したが、基板SとマスクMとの間の密着度確認が必要な他の位置、例えば、互いに対向する二つの長辺と、その二つの長辺をつなぐ互いに対向する二つの短辺とで囲まれた面を有する長方形マスクの長辺側または短辺側の中央部に対応する位置に設置することにしてもよい。また、例えば、マスクMが縦方向及び横方向に延びる桟部分によって複数に区画される開口領域を有し、その開口領域の中に細かい前述の開口パターンが形成されているようなタイプのマスクである場合は、密着度確認用表示子である密着度確認用マーク50は、密着度が低下しやすい部分であるマスクMの桟部分に形成することが好ましく、より好ましくは、例えば、X方向をマスクMの縦方向、Y方向を横方向とした場合に、マスクMの縦方向桟部分と横方向桟部分の交差領域に形成すれば良い。また、アライメント用マークに隣接して、マスクMの対角方向の2つの角部または4つの角部の位置に密着度確認用マークを設置する構成にしてもよく、この場合には、アライメント用カメラ20aをマスク密着度確認用カメラとしての光学手段として兼用してもよい。
【0143】
また、マスクM上に形成される密着度確認用マーク50の具体的な形状や数なども、前述した例に限定されず、適宜に変更可能である。例えば、密着度確認用マークは、前述した実施形態のように必ずしもマスクMの面内において互いに垂直する二方向に並ぶ複数のマーク群(第1及び第2マーク群;51、52)で形成する必要はなく、マスク面内のある一方向(例えば、長辺または短辺方向)に並ぶ、1つのマーク群で形成してもよい。また、幅と長さが異なる複数のマークパターンで構成されるマーク群の代わりに、所定の大きさを有する一つの単一マークパターンを使用し、該マークパターンの視認可否だけで密着度の低下有無を判定するようにしてもよい。もちろん、前述した実施形態のように、密着度確認用マークを、幅と長さが異なる複数のマークパターンが並んだ複数のマーク群で構成する場合、密着度低下の閾値基準を必要に応じて適切に変更設定することができるので、装備運用の自由度がより高くなる利点があることは言うまでもない。
【0144】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0145】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図9(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図9(b)は1画素の断面構造を表している。
【0146】
図9(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0147】
図9(b)は、
図9(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0148】
図9(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されることができる。
【0149】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0150】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0151】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニット及び静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際に
は正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0152】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニット及び静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスク上に載置して、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0153】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0154】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0155】
本発明によると、基板とマスクを静電チャック24に吸着させた状態で成膜処理を行い、マスク上に形成した密着度確認用マークを光学手段により撮像し、該画像を分析することで、予期せぬマスクの密着度低下を効果的に確認・判定することができる。そして、閾値以上の密着度低下が確認される場合には、例えば成膜処理を一時中止し、マスクを一旦分離してから再吸着させた後、成膜処理を再開することもできる。
【0156】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0157】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0158】
上記実施例は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【0159】
<その他の実施形態>
記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータ(又はCPU、MPU等のデバイス)によっても、本発明を実施することができる。また、例えば、記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータによって実行される工程からなる方法によっても、本発明を実施することができる。この目的のために、上記プログラムは、例えば、ネットワークを通じて、又は、上記記憶装置となり得る様々なタイプの記録媒体(つまり、非一時的にデータを保持するコンピュータ読取可能な記録媒体)から、上記コンピュータに提供される。したがって、上記コンピュータ(CPU、MPU等のデバイスを含む)、上記方法、上記プログラム(プログラムコード、プログラムプロダクトを含む)、上記プログラムを非一時的に保持するコンピュータ読取可能な記録媒体は、いずれも本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0160】
S:基板
M:マスク
20b:マスク密着度確認用カメラ
24:静電チャック
H:マスク密着度確認用の観察孔
50、51、52、51a~51c、52a~52c:マスク密着度確認用マーク(解像度チャート)