(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】耳介用温熱具
(51)【国際特許分類】
A61F 7/03 20060101AFI20240115BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61F7/08 334S
A61F7/08 334A
A41D13/005 101
(21)【出願番号】P 2020113555
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良太
(72)【発明者】
【氏名】関戸 悠二
(72)【発明者】
【氏名】氏原 由博
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-320363(JP,A)
【文献】特開2014-076159(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0080614(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/03
A41D 13/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の耳にそれぞれ装着される左右一対の温熱具を備える耳介用温熱具であって、
前記温熱具は、各々、
温熱体と、
前記温熱体を保持する保持部と、
前記保持部に連結されており、前記保持部を耳介の内側の所定の位置に接した状態で固定するように、前記耳介に装着される固定部と、
を有し、
前記保持部は、可撓性を有する材料で構成され、前記温熱体が嵌め込まれることで前記温熱体を保持する空間を有し、前記空間に前記温熱体が嵌め込まれるときに変形可能であり、
前記左右一対の温熱具は、互いに分離している、
耳介用温熱具。
【請求項2】
前記温熱具の各々において、
前記固定部は、前記保持部を耳甲介腔付近の内壁面に接した状態で固定するように、前記耳介に装着される、
請求項1に記載の耳介用温熱具。
【請求項3】
前記温熱具の各々において、
前記保持部は、対珠付近に位置する耳甲介腔の内壁面に接し、前記固定部による固定を補助する補助部を含む、
請求項2に記載の耳介用温熱具。
【請求項4】
前記温熱具の各々において、
前記保持部は、前記耳介の内側の所定の位置に接する接触面を有する接触面部と、前記接触面部の周縁から立ち上がる側壁部とを含み、前記温熱体は、前記接触面の裏面側から前記側壁部の内側に嵌め込まれて保持される、
請求項1から3のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項5】
前記温熱具の各々において、
前記固定部は、外耳道孔の内壁面に密着した状態で、前記外耳道孔の浅部に挿入される挿入部を含む、
請求項1から4のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項6】
前記温熱具の各々において、
前記挿入部は、前記外耳道孔を閉塞し、外部の音声を遮断する、
請求項5に記載の耳介用温熱具。
【請求項7】
前記温熱具の各々において、
前記固定部は、前記保持部から延伸し、耳甲介舟の内壁面に達する第1延伸部を含み、前記第1延伸部及び前記補助部は、それぞれ前記耳甲介舟の前記内壁面及び前記対珠付近に位置する前記耳甲介腔の前記内壁面を支持部位として、前記耳介の内側で突っ張るように構成される、
請求項3に記載の耳介用温熱具。
【請求項8】
前記温熱具の各々において、
前記固定部は、前記保持部から延伸し、耳甲介腔の内壁面上の位置であって、対輪の内側に位置する第1位置に達する第2延伸部を含み、前記挿入部及び前記第2延伸部は、それぞれ前記外耳道孔の前記内壁面及び前記第1位置を支持部位として、前記耳介の内側で突っ張るように構成される、
請求項5又は6に記載の耳介用温熱具。
【請求項9】
前記温熱具の各々において、
前記固定部は、珠間切痕に引掛けられる引掛け部を含む、
請求項1から8のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項10】
前記温熱具の各々において、
前記温熱体は、化学反応により発熱する、
請求項1から9のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項11】
前記温熱具の各々において、
前記化学反応は、金属の酸化反応を含む、
請求項10に記載の耳介用温熱具。
【請求項12】
前記温熱具の各々において、
前記温熱体は、使い捨て部品である、
請求項1から11のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項13】
前記温熱具の各々において、
前記保持部及び前記固定部のうち少なくとも一方は、ゴム、エラストマー及び合成樹脂のうち少なくとも1つから構成される、
請求項1から12のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【請求項14】
前記温熱具の各々において、
前記保持部及び前記固定部のうち少なくとも一方は、金属が混合されたゴム、カーボンが混合されたゴム、金属が混合されたエラストマー、カーボンが混合されたエラストマー、金属が混合された合成樹脂、カーボンが混合された合成樹脂及び熱伝導性樹脂のうち少なくとも1つから構成される、請求項1から13のいずれかに記載の耳介用温熱具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳介用温熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、耳を入れる口を有する袋状物であって発熱機能を有し、耳の一部または全部を覆う耳用温熱具を開示する。特許文献2は、耳穴に挿入される耳穴挿入部と温度調節部とを備え、耳穴挿入部が取り外し可能な蓄熱部と挿入部本体とを有する耳穴温度調節具を開示する。この耳穴温度調節具の使用者は、挿入部本体から取り外した蓄熱部を温度調節部により加熱又は冷却した後に、蓄熱部を挿入部本体に取り付けて使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-086202号公報
【文献】特開2014-076159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される耳用温熱具は、耳の付け根を含めた周辺部位を温めることを意図して、耳を覆うように装着される。このため、使用者の体勢によっては発熱機能を有する部位の位置の調整が困難となり得る。また、特許文献2に開示される耳穴温度調節具は、一対の耳穴挿入部が連結部によって連結されており、この連結部を首の後ろに配置した上で耳穴挿入部を両耳に挿入するように構成されている。このため、使用時の体勢が限られる。
【0005】
本発明は、使用者の耳介に対する固定性に優れ、使用者の幅広い体勢に対応可能な耳介用温熱具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る耳介用温熱具は、左右の耳にそれぞれ装着される左右一対の温熱具を備える耳介用温熱具であって、前記温熱具は、各々、温熱体と、前記温熱体を保持する保持部と、固定部とを有する。固定部は、前記保持部に連結されており、前記保持部を耳介の内側の所定の位置に接した状態で固定するように、前記耳介に装着される。前記左右一対の温熱具は、互いに分離している。
【0007】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記固定部が前記保持部を耳甲介腔付近の内壁面に接した状態で固定するように、前記耳介に装着されてもよい。
【0008】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記保持部が対珠付近に位置する耳甲介腔の内壁面に接し、前記固定部による固定を補助する補助部を含んでもよい。
【0009】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記保持部が前記耳介の内側の所定の位置に接する接触面を有する接触面部と、前記接触面部の周縁から立ち上がる側壁部とを含み、前記温熱体は、前記接触面の裏面側から前記側壁部の内側に嵌め込まれて保持されてもよい。
【0010】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記固定部が外耳道孔の内壁面に密着した状態で、前記外耳道孔の浅部に挿入される挿入部を含んでもよい。
【0011】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記挿入部が前記外耳道孔を閉塞し、外部の音声を遮断してもよい。
【0012】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記固定部が前記保持部から延伸し、耳甲介舟の内壁面に達する第1延伸部を含み、前記第1延伸部及び前記補助部は、それぞれ前記耳甲介舟の前記内壁面及び前記対珠付近に位置する前記耳甲介腔の前記内壁面を支持部位として、前記耳介の内側で突っ張るように構成されてもよい。
【0013】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記固定部が前記保持部から延伸し、耳甲介腔の内壁面上の位置であって、対輪の内側に位置する第1位置に達する第2延伸部を含み、前記挿入部及び前記第2延伸部は、それぞれ前記外耳道孔の前記内壁面及び前記第1位置を支持部位として、前記耳介の内側で突っ張るように構成されてもよい。
【0014】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記固定部が、珠間切痕に引掛けられる引掛け部を含んでもよい。
【0015】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記温熱体が、化学反応により発熱してもよい。
【0016】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記化学反応が、金属の酸化反応を含んでもよい。
【0017】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記温熱体が、使い捨て部品であってもよい。
【0018】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記保持部及び前記固定部のうち少なくとも一方が、ゴム、エラストマー及び合成樹脂のうち少なくとも1つから構成されてもよい。
【0019】
上記一側面に係る耳介用温熱具は、前記温熱具の各々において、前記保持部及び前記固定部のうち少なくとも一方が、金属が混合されたゴム、カーボンが混合されたゴム、金属が混合されたエラストマー、カーボンが混合されたエラストマー、金属が混合された合成樹脂、カーボンが混合された合成樹脂及び熱伝導性樹脂のうち少なくとも1つから構成されてもよい。
【発明の効果】
【0020】
上記一側面に係る耳介用温熱具によれば、温熱体を保持する保持部が耳介の内側に接するように固定されるため、使用者の耳介に対して温熱体の位置を合わせやすく、装着時の違和感が軽減される。また、上記一側面に係る耳介用温熱具によれば、左右一対の温熱具が互いに分離しているため、一対の温熱具を連結する部分によって体勢を妨げられることがなく、例えば、臥位においても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図6】本発明の一実施形態に係る耳介用温熱具の使用状態を示す図。
【
図7B】変形例に係る耳介用温熱具の使用状態を示す図。
【
図8B】別の変形例に係る耳介用温熱具の使用状態を示す図。
【
図9A】また別の変形例に係る耳介用温熱具の側面図。
【
図9B】また別の変形例に係る耳介用温熱具の使用状態を示す図。
【
図10A】被験者による温感の評価に使用されたスケールを示す図。
【
図10B】被験者による快感の評価に使用されたスケールを示す図。
【
図11】実験で小型カイロを装着した部位を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る耳介用温熱具について説明する。
<1.全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る耳介用温熱具1の天面図である。本実施形態に係る耳介用温熱具1は、互いに分離した一対の温熱具1a,1bを備える。一対の温熱具1a,1bは、左右の耳にそれぞれ装着され、耳介を温めるのに使用される。一対の温熱具1a,1bは、互いの形状が鏡像対称の関係となる点以外は同一となるように構成されていてもよいし、特に左右の区別なく同一の形状に構成されていてもよい。本実施形態に係る一対の温熱具1a,1bは、左右の区別がない同一の構成を有する。従って、以下では説明の便宜のため、温熱具1aの構成についてのみ説明する。なお、耳介用温熱具1の「天面」側とは、耳介に装着されたときに耳介の内側に接する側であるものとし、これを基準に耳介用温熱具1の側面及び底面が定義されるものとする。
【0023】
図2は温熱具1aの側面図である。
図1及び2に示すように、温熱具1aは、温熱体2と、保持部10と、固定部11とを備えている。保持部10は、温熱体2を取り外し可能に保持するように構成される。固定部11は、保持部10に連結されており、温熱体2を保持した状態の保持部10を、耳介3の内側の所定の位置に接した状態で固定するように構成される。本実施形態に係る固定部11は、外耳道孔30(
図6参照)の内壁面に密着しつつ、外耳道孔30の浅部に挿入される挿入部12を含む。挿入部12は、外耳道孔30を閉塞し、外部の音声を遮蔽するように構成される。すなわち、本実施形態に係る耳介用温熱具1は、耳栓としての機能も有している。
【0024】
<2.各部の構成>
<2-1.温熱体>
図3は、温熱体2の斜視図である。温熱体2は、典型的には使い捨てされるカイロであり、使用前には空気を遮断するフィルム袋(不図示)内に密封されている。温熱体2は、空気に触れると発熱を伴う化学反応を起こす発熱組成物20と、発熱組成物20を内部に収容する収容部21とを有する。発熱組成物20は、例えば鉄粉等の金属粉、水、保水材等を含む粉体であってもよく、化学反応は鉄等の金属の酸化反応であってもよい。収容部21は、中空の円錐台形状を有し、より大きな径を有する端面の周縁部にはフランジ部210が形成されている。収容部21の内部空間には、発熱組成物20が収容される。収容部21は、通気性を有する材料から構成されてもよく、通気孔が適宜形成された材料から構成されてもよい。収容部21を構成する材料の例としては、不織布、合成樹脂、ゴム、エラストマー、及び布等が挙げられ、本実施形態に係る収容部21は、不織布から構成される。これらの材料は、保持部10に収容された状態を維持できるように、一定の形状を維持するように適宜加工されることが好ましい。
【0025】
耳介用温熱具1が使用される際に、温熱体2は、空気を遮断するフィルム袋から取り出され、フランジ部210が後述する保持部10の開放端側に位置するように保持部10に嵌め込まれる。耳介用温熱具1の使用状態において、保持部10の開放端は耳介3からより遠い側となり、後述する接触面部100によって閉塞されている保持部10の閉塞端は耳介3により近い側となる。つまり、
図6に示す耳介用温熱具1の使用状態において、外部から見える部分は、大部分が収容部21の大径側の端面及びフランジ部210である(
図6参照)。このように、温熱体2が保持部10に覆われていない面を有することにより、発熱組成物20が収容部21を介して空気に触れやすくなり、発熱組成物20の化学反応が促進され、発熱が効率的に行われる。
【0026】
<2-2.保持部>
図4は保持部10及び固定部11の分解側面図である。本実施形態に係る保持部10は、略円錐台形状を有し、接触面部100と、側壁部101とを含む。接触面部100は、略円錐台形の径が小さい方の端部に形成されており、温熱具1aが耳介3に装着されたとき、耳介3の所定の位置に接する略円形の接触面100aを有する。接触面100aは、温熱体2の熱による効果を高める観点では、耳甲介腔31の内壁面に接することが好ましく、本実施形態に係る温熱具1aでは、接触面100aの大部分が耳甲介腔31の内壁面に接するように構成されている。
【0027】
側壁部101は、接触面部100の周縁から接触面100aの向く方向とは反対方向に立ち上がり、拡径しながら延びる部位であり、略円錐台形の側周面を構成する。略円錐台形の径が大きい方の端部は開放されており、これにより、側壁部101と接触面部100とは、片側が開口した空間S1を形成する。空間S1は、温熱体2のサイズと概ね同じか、それよりも若干大きいサイズを有するように形成されており、片側の開口を介して、フランジ部210を手前側にして温熱体2を嵌め込むことができる。温熱体2は、空間S1内に嵌め込まれると、ほとんどの部分が保持部10に覆われ、保持部10に収容された状態となる。
【0028】
保持部10は、側壁部101と連続し、温熱体2のフランジ部210を受け取り、径方向外側から覆うように構成される大径部102をさらに含む。大径部102は、側壁部101の径が大きい方の端部において、側壁部101と一体的に形成されるリング状の部分である。大径部102は、側壁部101とは反対側の端部の内周面において、内周面から径方向内側に突出するリブ102aを有する。大径部102の内径は、リブ102a以外の部分ではフランジ部210の外径よりわずかに大きく形成され、リブ102aの部分ではフランジ部210の外径より小さく形成される。フランジ部210が、リブ102aより接触面部100側に位置するように大径部102に嵌め込まれると、リブ102aの存在により温熱体2が保持部10から脱落しにくくなり、保持部10に保持された状態となる。従って、保持部10は空間S1を開閉する開閉機構を有していなくとも温熱体2を保持することができる。また、フランジ部210の周縁部分が大径部102に覆われ、装着時にフランジ部210が耳介に接触することによる違和感が抑制される。なお、温熱体2の着脱をより容易にする観点では、大径部102は周方向にわたって部分的に切り欠かれた切り欠きS2を有していてもよい。
図1及び
図2には、切り欠きS2からフランジ部210が保持部10の外側に部分的に覗いている様子が表されている。
【0029】
保持部10は、温熱具1aが耳介3に装着された状態において、側壁部101の一部が対珠付近に位置する耳甲介腔31の内壁面に接するように構成される。これにより、側壁部101の一部においても温熱具1a全体が支持され、耳介3内で安定する。つまり、側壁部101のうち、対珠32付近に位置する耳甲介腔31の内壁面に接する部分は、固定部11による固定を補助する補助部101aとして機能する(
図6参照)。補助部101aは、耳介3に装着された温熱具1aを耳介3の外側から見たとき、挿入部12が例えば9時の方向に位置するとすると、概ね6時の方向に位置する。
【0030】
本実施形態では、保持部10は、可撓性を有する材料から構成され、温熱体2の着脱の際に変形が可能である。これにより、耳介用温熱具1の使用者にとって温熱体2が着脱し易くなるとともに、温熱体2の形状にフィットして、空間S1に嵌め込まれた温熱体2が保持部10から脱落しにくくなる。また、耳介3に接する際も、後述する連結部103の角度を含め、耳介3の凹凸構造にフィットするように変形することができるため、使用者が装着時の違和感を覚えにくい。
【0031】
保持部10を構成する材料は、特に限定されないが、例えばゴム、エラストマー、軟質樹脂及び硬質樹脂を含む合成樹脂等が挙げられる。より具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エラストマー等が挙げられる。温熱体2の熱を効率よく耳介3に伝えるという点では、保持部10を構成する材料は、熱伝導率が高い材料であってもよい。このような材料の例としては、ゴム、エラストマー又は合成樹脂等の基材に金属又はカーボン等の熱伝導率の高い材料が混合されて熱伝導率が高められたもの及び熱伝導性樹脂等が挙げられる。なお、熱伝導性樹脂とは、高い熱伝導率を有する樹脂をいう。
【0032】
<2-3.固定部>
固定部11は、耳介3の内側において保持部10を位置決めし、所定の位置に固定する。これにより、温熱具1a全体が使用者の耳介3に対して固定され、位置ずれや脱落を起こしにくくなる。
【0033】
固定部11は、接触面部100及び側壁部101と一体的に形成され、接触面部100及び側壁部101から延伸する連結部103と、連結部103に連続する第1挿入部120と、第2挿入部121とを含む。本実施形態では、連結部103と第1挿入部120とは一体的に形成されており、第1挿入部120と第2挿入部121とは分離して形成されている。連結部103は、中心軸が湾曲した中実の略円柱形状を有する。第1挿入部120は、中実の略円柱形状を有し、その中心軸A2が保持部10の略円錐台の中心軸A1に対して、所定の角度だけ傾斜するように形成される。第1挿入部120は、側周面に形成される環状のリブ120aを有する。リブ120aは、後述するように、第2挿入部121の溝部121aに嵌め込まれるようになっており、これにより、第1挿入部120に対して第2挿入部121が固定される。第1挿入部120及び第2挿入部121は、ともに挿入部12を構成する。つまり、保持部10と挿入部12とは、連結部103によって連結されている。第2挿入部121は、可撓性を有する材料から構成され、外耳道孔30の浅部に挿入されると、外耳道孔30の内壁面にフィットするように変形し、外耳道孔30の内壁面に密着するように構成される。
【0034】
図5は第2挿入部121の内部構造を透視する側面図である。第2挿入部121は、外観視において側周面が外側に向かって凸状となるような略円錐台形状を有する。第2挿入部121は、略円錐台形の側周面を構成し、外側から視認できる外側部122と、外側部122の径方向内側にあって、外部から視認できない内側部123とを含む。
【0035】
内側部123は、第1挿入部120に固定される部分であり、軸方向に貫通する貫通孔S3が形成された略円筒形状を有する。貫通孔S3の内径は、第1挿入部120の外径よりもわずかに大きく形成されている。内側部123の内周面には環状の溝部121aが形成され、溝部121aは、第1挿入部120のリブ120aが嵌まり込むようなサイズを有する。内側部123の貫通孔S3内に第1挿入部120が挿入され、溝部121a内に内側部123及びリブ120aのうち少なくとも一方が弾性変形して嵌まり込むと、第2挿入部121の貫通孔S3が第1挿入部120によって満たされ、外部の音声を遮蔽する挿入部12が構成される。
【0036】
外側部122は、外耳道孔30の内壁面に接する部分である。外側部122は、径が小さい方の端部において内側部123の片側の先端部と一体的に連続し、内側部123の全体を径方向外側から覆っている。外側部122の内周面と内側部123の外周面との間は隙間が空いており、空間S4が形成されている。空間S4により、挿入部12が外耳道孔30内に挿入された時、外耳道孔30の内壁面のサイズや形状にフィットするように外側部122が変形し易くなっている。これにより、温熱具1aの耳介3に対する固定性が向上するとともに、耳栓として好適に使用される。
【0037】
第2挿入部121を構成する材料は、特に限定されないが、例えばゴム、エラストマー、軟質樹脂及び硬質樹脂を含む合成樹脂等が挙げられる。より具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びエラストマー等が挙げられる。なお、外側部122と内側部123とは一体的に形成されているが、それぞれ別の材料から構成されてもよい。また、第2挿入部121を構成する材料は、ゴム、エラストマー又は合成樹脂等の基材に金属又はカーボン等の材料が混合されたもの及び熱伝導性樹脂であってもよい。
【0038】
<3.特徴>
上記実施形態に係る耳介用温熱具1では、左右の耳介3に装着される温熱具1a,1bが別体として構成される。これにより、使用者は、寝転んだ体勢であっても耳介用温熱具1を使用することができる。また、上記実施形態に係る耳介用温熱具1は、耳介3を温めると同時に、耳栓としての機能も果たすため、特に就寝時に使用するのに適する。
【0039】
上記実施形態に係る耳介用温熱具1では、保持部10が特に耳甲介腔31の内壁面に接するように固定される。後述するように、耳甲介腔31を主に温めた場合、耳介3における他の部位を主に温めた場合よりも、使用者にとって温感及び快感がより得られる。従って、上記実施形態に係る耳介用温熱具1によれば、温熱の効果がより高められて感じられる。
【0040】
上記実施形態に係る耳介用温熱具1では、保持部10のみならず固定部11も耳介3の内側に位置するように構成される。このため、使用者は温熱具1a,1bを装着することによる違和感を覚えにくい。また、耳介3を覆うように耳介3の外側から装着する場合と比較して使用時の外観的な変化が少ないため、使用者が耳介用温熱具1を使用することに対する抵抗を感じにくい。
【0041】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0042】
<4-1>
第2挿入部121は、外側部122と内側部123とが別々に形成されていてもよく、例えば内側部123に外側部122がカバーとして取り付けられるように構成されていてもよい。また、挿入部12は、例えば硬質の樹脂の本体部に軟質の樹脂が外耳道孔30の内壁面に接触するパッドとして取り付けられて形成されていてもよい。
【0043】
<4-2>
保持部10は、略円錐台形の径の大きい方の端部が閉塞されていてもよく、例えば温熱体2を嵌め込むための開口が側壁部101に形成されていてもよい。また、保持部10は、略円錐台形の径の大きい方の端部において、空間S1を開閉することができる蓋部を有していてもよい。温熱体2の形状も保持部10の形状や温熱体2を嵌め込むための開口の位置等によって適宜変更されてもよく、例えばフランジ部210が省略されてもよい。
【0044】
<4-3>
保持部10及び固定部11の構成は、上記実施形態のものに限られず、適宜変更することができる。例えば、固定部11は挿入部12に代えて又はこれに加えて、保持部10から延伸する第1延伸部110を含んでよい。
図7Aは、このような変形例に係る温熱具1aの側面図であり、
図7Bは、
図7Aに示す温熱具1aの使用状態を示す図である。
図7Bに示すように、第1延伸部110は、保持部10から延伸し、耳輪脚35をまたがって、耳甲介舟33の内壁面に達する。第1延伸部110は耳甲介舟33の内壁面を支持部位として、保持部10の補助部101aは、対珠32付近に位置する耳甲介腔31の内壁面を支持部位として、耳介3の内側で突っ張るように構成される。これにより、保持部10が耳介3の内側、好ましくは耳甲介腔31に接するように確実に固定される。なお、保持部10は、
図7Bに示すように、対珠32の内側及び耳珠36の内側に位置するように構成されてもよい。
図7では温熱体2の図示が省略されているが、上述したように、温熱体2の形状や保持部10への収容方法は、適宜選択されてよい。
【0045】
<4-4>
保持部10及び固定部11の別の変形例を
図8Aの底面図に示す。
図8Aに示すように、固定部11は、挿入部12に加えて、保持部10から延伸する第2延伸部111を含んでよい。
図8Bは、
図8Aに示す温熱具1aの使用状態を示す図である。
図8Bに示すように、第2延伸部111は、保持部10から延伸し、耳甲介腔31の内壁面上の位置であって、対輪34の内側に位置する第1位置P2に達する。挿入部12は外耳道孔30の内壁面を支持部位として、第2延伸部111は第1位置P2を支持部位として、耳介3の内側で突っ張るように構成される。これにより、保持部10が耳介3の内側、好ましくは耳甲介腔31に接するように確実に固定される。なお、固定部11は、第2延伸部111からさらに対輪34に沿って延伸し、耳輪脚35をまたがって、耳甲介舟33まで達する第3延伸部112をさらに含んでいてもよい。
図8では温熱体2の図示が省略されているが、上述したように、温熱体2の形状や保持部10への収容方法は、適宜選択されてよい。
【0046】
<4-5>
保持部10及び固定部11のさらに別の変形例を
図9Aの側面図に示す。
図9Aに示すように、固定部11は、保持部10の外側面から延伸し、珠間切痕37に引っ掛けることができる引掛け部113を含んでもよい。
図8Bは、
図8Aに示す温熱具1aの使用状態を示す図である。
図8Bに示すように、引掛け部113は、略円柱形状を有し、珠間切痕37に引っ掛けられ、珠間切痕37の外側まで延伸するように構成される。これにより、保持部10が耳介3の内側、好ましくは耳甲介腔31に接するように確実に固定される。なお、保持部10は、
図9Bに示すように、対珠32の内側及び耳珠36の内側に位置するように構成されてもよい。
図9では温熱体2の図示が省略されているが、上述したように、温熱体2の形状や保持部10への収容方法は、適宜選択されてよい。また、固定部11は、挿入部12をさらに含んでもよい。
【0047】
<4-6>
上記実施形態では、温熱体2は金属の酸化反応を利用したディスポーザブルな部品であったが、発熱原理はこれに限られず、また、温熱体2は再利用が可能な部品であってもよい。温熱体2は、例えば、酢酸ナトリウム水溶液の過冷却反応を利用したカイロであってもよい。また、温熱体2は、蓄熱性に優れる物質を含んでもよく、湯煎や電子レンジ等で温められた後に使用されるように構成されてもよいし、電流の抵抗熱により温められた後に使用されるように構成されてもよい。温熱体2を温める器具が別途必要にならず、手軽に使用できるという観点では、温熱体2は自身が発熱するカイロであることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、以下の実施例は、あくまで本発明の例示に過ぎず、本発明は以下に限定されない。
【0049】
<実験方法>
被験者29名について、左右の耳介3の特定の部分に小型カイロを貼り付け、それぞれの部分に小型カイロを貼り付けた場合の「温かさ(温感)」及び「気持ち良さ(快感)」の程度を
図10に示すVAS(visual analog scale)1及び2上の位置で指示させた。VAS1の両端「温かくない」から「温かい」までの距離、及びVAS2の両端「気持ち良くない」から「気持ち良い」までの距離をそれぞれ100%とし、「温かくない」及び「気持ち良くない」から被験者によって指示された位置までの測定距離をこれに対するパーセンテージで算出し、「温感」及び「快感」に対する評価とした。
【0050】
小型カイロは、
図3に示す形状を有し、フランジ部の直径は26mmであった。小型カイロは、粘着シールで耳介3の後述する部分に貼り付けられた。この小型カイロの40℃までの立ち上がりは約1分、最高温度は約52℃、40℃以上の持続時間は約10分であった。
【0051】
小型カイロを貼り付ける位置は、
図11に示すように
1)神門38と称される「ツボ」を中心とした位置
2)耳珠36とその周辺―血管、神経及びリンパの通り道が密集する位置
3)耳甲介腔31―迷走神経が位置する位置
4)耳垂39
の4か所とした。なお、
図11には左の耳介3の場合が例示されているが、右の耳介3についても同様である。
【0052】
<実験結果>
上記1)~4)の位置について、「温感」及び「快感」に対する被験者全員の評価を平均した結果、それぞれ
図12及び
図13に示すグラフのようになった。このグラフからは、「温感」「快感」ともに、耳甲介腔31を温めた場合に最も評価の平均値が高くなることが分かる。つまり、温熱体2を保持する保持部10を耳甲介腔31を中心に配置することで、使用者に温感及び快感が効果的に与えられることが明らかになった。
【符号の説明】
【0053】
1 耳介用温熱具
1a、1b 温熱具
2 温熱体
10 保持部
11 固定部
12 挿入部
100 接触面部
100a 接触面
101 側壁部
101a 補助部
110 第1延伸部
111 第2延伸部