(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】表面処理液、表面処理方法、及び表面処理されたロール状シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240115BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240115BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240115BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240115BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09D133/00
C09K3/00 R
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2020554803
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2019035967
(87)【国際公開番号】W WO2020090248
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018205681
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】先崎 尊博
(72)【発明者】
【氏名】神園 喬
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038004(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0107528(US,A1)
【文献】特開2011-069817(JP,A)
【文献】特開2007-269932(JP,A)
【文献】国際公開第2015/041208(WO,A1)
【文献】特開2001-323207(JP,A)
【文献】特開平10-101986(JP,A)
【文献】特開2018-090663(JP,A)
【文献】特開2011-227246(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107353760(CN,A)
【文献】山本将史ら,COMA-アクリルハイブリッド系樹脂を利用したArFレジストの開発,JSR TECHNICAL REVIEW [オンライン],No.109,2002年,12-17,[検索日2019.12.05], インターネット:<URL:http://www.jsr.co.jp/pdf/rd/tec109-3.pdf>
【文献】飯濱健治ら,水性グラビアインキの樹脂組成と堅ろう性,日本印刷学会誌,2007年,第44巻5号,279-285頁,ISSN:1882-4935
【文献】PETROU Panagiota S. et al.,A biomolecule friendly photolithographic process for fabrication of protein microarrays on polymeric,Biosensors and Bioelectronics,2007年,22,1994-2002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/20
C09D 133/00
C09K 3/00
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー(A)と、溶媒(S)とを含む、表面処理液であって、
前記ポリマー(A)が、親水性基を有する構成単位(a1)と、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体に由来する構成単位(a2)とを有し、
前記構成単位(a1)が、LogP値が0.5以下である単量体に由来し、
前記親水性基が、第一級アミノ基、第二級アミノ基、スルホン酸基、及びポリオキシアルキレン基よりなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記構成単位(a2)を与える単量体が、多環式炭化水素基を有する単量体であり、
前記ポリマー(A)の重量平均分子量が、1,000以上5,000以下であ
り、
前記ポリマー(A)を構成する全構成単位の量に対する、前記構成単位(a1)の量の比率が、60モル%以上95モル%以下である、表面処理液。
【請求項2】
表面処理液におけるポリマー(A)の濃度が、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の表面処理液。
【請求項3】
前記構成単位(a1)を与える単量体が、前記親水性基を有するN置換(メタ)アクリルアミド又は前記親水性基を有する(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1に記載の表面処理液。
【請求項4】
親水性基を有する前記N置換(メタ)アクリルアミド、及び親水性基を有する前記(メタ)アクリル酸エステルが、下記式(A2)で表される化合物である、請求項3に記載の表面処理液。
CH
2=CR
22-CO-X-R
21・・・(A2)
(式(A2)中、R
21は、アミノ基、及びスルホン酸基よりなる群より選択される少なくとも1つの基で置換された炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、R
22は水素原子又はメチル基であり、Xは-O-又は-NH-である。)
【請求項5】
前記溶媒(S)が、水と、水溶性有機溶媒とを含む、請求項1に記載の表面処理液。
【請求項6】
前記水溶性有機溶媒が、アルコールである、請求項5に記載の表面処理液。
【請求項7】
前記溶媒(S)における、前記水溶性有機溶媒の含有量が70質量%以上である、請求項5又は6に記載の表面処理液。
【請求項8】
前記ポリマー(A)の末端の少なくとも一部が、連鎖移動剤により封止されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項9】
前記ポリマー(A)を構成する全構成単位の量に対する、前記構成単位(a2)の量の比率が、5モル%以上40モル%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項10】
前記表面処理液が、20℃において、20mN/m以上35mN/m以下の表面張力を示す、請求項1~
9のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項11】
被処理体の表面に、請求項1~
10のいずれか1項に記載の表面処理液を接触させて、前記被処理体の表面に被膜を形成させることを含む、表面処理方法。
【請求項12】
前記被膜を形成させた後に、前記被膜に対するリンスを行なわない、請求項1
1に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記被処理体における、前記被膜を備える面に水を滴下した場合に、滴下から2秒後の、前記被膜を備える面の水の接触角が20°以下である、請求項
11又は
12に記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記被処理体が、生体材料由来の被検液を用いる診断又は測定用のチップである、請求項
11~
13のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項15】
前記被処理体が、シートである、請求項
11~
13のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項16】
請求項
15に記載の表面処理方法により、シートを表面処理することと、
表面処理された前記シートをロール状に巻き取ることと、を含む、表面処理されたロール状シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理液、表面処理方法、及び表面処理されたロール状シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の物品の表面の性質を改質するために、様々な表面処理液を用いて親水化処理が行われている。表面改質の中でも、物品の表面の親水化についての要求は大きく、親水化用の薬剤や表面処理液について多数提案されている。
【0003】
かかる親水化用の表面処理液としては、それぞれ所定量の界面活性剤成分と、安定剤成分とを溶媒中に含み、且つ、界面活性剤成分と、安定剤成分とを特定の比率で含有する表面処理液が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1等に記載される従来の表面処理液には、被処理体の表面に水が接触した直後に、被処理体の表面の十分に低い水の接触角を達成しにくい問題があった。つまり、従来の表面処理液を用いる表面処理では、表面処理された被処理体の表面が水で濡れるまでにある程度長い時間を要する問題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、表面処理された被処理体の表面に水が接触した場合に、速やかに水が濡れ広がるような表面処理が可能である表面処理液と、当該表面処理液を用いる被処理体の表面処理方法と、当該表面処理方法により表面処理されたロール状シートの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリマー(A)と、溶媒(S)とを含む表面処理液において、LogP値が0.5以下である単量体に由来し、且つ親水性基を有する構成単位(a1)と、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体に由来する構成単位(a2)とを有し、且つ重量平均分子量が、500以上20,000以下であるポリマー(A)を用いることによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より詳細には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
本発明の第1の態様は、ポリマー(A)と、溶媒(S)とを含む、表面処理液であって、
ポリマー(A)が、親水性基を有する構成単位(a1)と、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体に由来する構成単位(a2)とを有し、
構成単位(a1)が、LogP値が0.5以下である単量体に由来し、
ポリマー(A)の重量平均分子量が、500以上20,000以下である、表面処理液である。
【0009】
本発明の第2の態様は、被処理体の表面に、第1の態様にかかる表面処理液を接触させて、被処理体の表面に被膜を形成させることを含む、表面処理方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第2の態様にかかる表面処理方法により、被処理体としてのシートを表面処理することと、
表面処理されたシートをロール状に巻き取ることと、を含む、表面処理されたロール状シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面処理された被処理体の表面に水が接触した場合に、速やかに水が濡れ広がるような表面処理が可能である表面処理液と、当該表面処理液を用いる被処理体の表面処理方法と、当該表面処理方法により表面処理されたロール状シートの製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪表面処理液≫
表面処理液は、ポリマー(A)と、溶媒(S)とを含む。当該表面処理液は、被処理体の表面を親水化させる表面処理に用いられる。
以下、表面処理液に含まれる、必須、又は任意の成分について順に説明する。
【0013】
<ポリマー(A)>
ポリマー(A)は、親水性基を有する構成単位(a1)と、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体に由来する構成単位(a2)とを有する。
このため、上記のポリマー(A)を含む表面処理液を用いると、表面処理された被処理体の表面に水が接触した場合に、速やかに水が濡れ広がるような表面処理が可能である。
また、上記のポリマー(A)を含む表面処理液を用いて被処理体の表面処理を行うと、被処理体の表面にタック(べたつき)が生じにくい傾向がある。
【0014】
ポリマー(A)の種類は、ポリマー(A)が上記の所定の要件を満たす限り特に限定されない。構成単位(a1)、及び構成単位(a2)を与える単量体の選択肢が多いことや、構成単位(a1)、及び構成単位(a2)の構造の選択によるポリマー(A)の特性の調整が容易であることや、ポリマー(A)の分子量の調整が容易であること等から、ポリマー(A)としては、不飽和結合を有する単量体の重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、及び(メタ)アクリルアミド類等の(メタ)アクリルモノマーを含む単量体の重合体が好ましい。
【0015】
なお、構成単位(a1)が、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体である場合、ポリマー(A)は、構成単位(a2)を必ずしも含む必要はない。
【0016】
〔構成単位(a1)〕
構成単位(a1)は、親水性基を有する。また、構成単位(a1)は、LogP値が0.5以下である単量体に由来する。ポリマー(A)が、かかる条件を満たす構成単位(a1)を含むことによって、表面処理された被処理体の表面に水が接触した場合に、速やかに水が濡れ広がるような表面処理が可能である。
ここで、LogP値は、オクタノール/水分配係数を意味し、Ghose,Pritchett,Crippenらのパラメータを用い、計算によって算出することができる(J.Comp.Chem.,9,80(1998)参照)。この計算は、CAChe 6.1(富士通株式会社製)のようなソフトウェアを用いて行うことができる。
【0017】
構成単位(a1)としては、通常、親水性基と、エチレン性不飽和二重結合とを有する単量体化合物に由来する構成単位が好ましい。
なお、単量体化合物について、親水性基以外の構造は、上記のLogP値が0.5以下であるように選択される。
【0018】
親水性基としては、一般的に親水性基であると当業者に認識される基であれば特に限定されない。
親水性基の具体例としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、カルボキシ基、フェノール性水酸基、スルホン酸基、ポリオキシアルキレン基、及びアルコール性水酸基等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基がブロック又はランダム結合したポリオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0019】
また、アニオン部と、ポリマー(A)に結合するカチオン部とからなるカチオン性基も親水性基として好ましい。カチオン性基を構成するカチオン部としては、含窒素カチオン部、含イオウカチオン部、含ヨウ素カチオン部、及び含リンカチオン部等が挙げられる。
【0020】
アニオン部を構成するアニオンとしては特に限定されない。アニオンの価数は特に限定されず、1価アニオン又は2価アニオンが好ましく、1価アニオンがより好ましい。
アニオン部としての1価アニオンの好適な例としては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、種々の有機カルボン酸又は有機スルホン酸に由来する有機酸イオン等が挙げられる。これらの中では、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオンがより好ましく、塩化物イオン、及び臭化物イオンがさらにより好ましく、塩化物イオンが特に好ましい。
【0021】
カチオン性基の好ましい例としては、4級アンモニウム塩基を含む基、含窒素芳香族複素環基の塩を含む基、スルホニウム塩基を含む基、ヨードニウム塩基を含む基、ホスホニウム塩基を含む基等が挙げられる。
これらのカチオン性基の中では、ポリマー(A)への導入が容易であることや、親水化の効果が高いこと等から、4級アンモニウム塩基を含む基が好ましい。
【0022】
カチオン性基としての4級アンモニウム塩基としては、下記式(I):
-Ra14-N+R11R12Ra13・X-・・・(I)
(式(I)中、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立にN+に結合する炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、R11、R12、及びR13のうちの2つは互いに結合して環を形成してもよく、R14は炭素原子数1以上4以下のアルキレン基であり、X-は1価のアニオンである。)
で表される基が好ましい。
【0023】
R11、R12、及びR13としての炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であるのが好ましい。R11、R12、及びR13の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びn-ブチル基が挙げられる。
【0024】
R14としての炭素原子数1以上4以下のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であるのが好ましい。R14の好適な具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、及びブタン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0025】
X-の好適な例は、前述のアニオン部を構成するアニオンの好適な例と同様である。
【0026】
構成単位(a1)を与える単量体としては、例えば、4級アンモニウムカチオン基を含み、且つ末端にスルホン酸アニオン基を有する有機基を有する、N置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位が挙げられる。
4級アンモニウムカチオン基を含み、且つ末端にスルホン酸アニオン基を有する有機基は、ポリマー(A)において親水性基として作用する。
【0027】
構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドにおける、4級アンモニウムカチオン基の数と、スルホン酸アニオン基の数とは、特に限定されない。
構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドにおいて、4級アンモニウムカチオン基の数と、スルホン酸アニオン基の数とが同一であるのが好ましい。
構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドの合成や入手が容易であることから、構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドにおける、4級アンモニウムカチオン基の数と、スルホン酸アニオン基の数とは、それぞれ1であるのが好ましい。
【0028】
構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドにおいて、4級アンモニウムカチオン基と、スルホン酸アニオン基とは、(メタ)アクリルアミド中の窒素原子に結合する置換基中に存在する。
当該置換基において4級アンモニウムカチオン基の位置と、スルホン酸アニオン基の位置とは、特に限定されない。
例えば、当該置換基が2以上の枝鎖を有する分岐鎖状の基である場合、少なくとも1つの枝鎖に4級アンモニウムカチオン基が存在し、4級アンモニウムカチオン基が存在する枝鎖とは別の枝鎖の少なくとも1つにおいて、枝鎖の末端にスルホン酸アニオン基が存在すればよい。
また、当該置換基が直鎖状である場合、直鎖状構造の末端以外の任意の位置に4級アンモニウムカチオン基が存在し、直鎖状構造の末端にスルホン酸アニオン基が存在する。
【0029】
上記の構成単位(a1)を与えるN置換(メタ)アクリルアミドとしては、合成や入手が容易であることから、下記式(A1):
CH2=CR5-CO-NH-R1-N+(R2)(R3)-R4-SO3
-・・・(A1)
(式(A1)中、R1及びR4は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基であり、R2及びR3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、R5は水素原子又はメチル基である。)
で表される化合物が好ましい。
【0030】
式(A1)において、R1及びR4としての2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基、及びアルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。
R1及びR4としてのアルキレン基の好適な具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、及びデカン-1,10-ジイル基が挙げられる。
【0031】
式(A1)において、R2及びR3としての炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、及びアラルキル基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
R2及びR3としての炭化水素基は置換基を有していてもよい。R2及びR3としての炭化水素基が有していてもよい置換基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。当該置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数2以上4以下のアシル基、炭素原子数2以上4以下のアシルオキシ基、アミノ基、及び1つ又は2つの炭素原子数1以上4以下のアルキル基で置換されたアルキルアミノ基等が挙げられる。
R2及びR3としてのアルキル基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、及びn-デシル基が挙げられる。
【0032】
式(A1)で表されるN置換(メタ)アクリルアミドの好適な例としては、下記式の化合物が挙げられる。下記式において、R5は水素原子又はメチル基である。
【0033】
【0034】
また、構成単位(a1)を与える好ましい単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、親水性基を有するN置換(メタ)アクリルアミド、及び親水性基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
親水性基を有するN置換(メタ)アクリルアミド、及び親水性基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記式(A2):
CH2=CR22-CO-X-R21・・・(A2)
(式(A2)中、R21は、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、R22は水素原子又はメチル基であり、Xは-O-又は-NH-である。)
で表される化合物が好ましい。
親水性基を有する(メタ)アクリル酸エステルの好ましい例としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、及びポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル(例えば、メチルエーテル、エチルエーテル等)の(メタ)アクリレートも挙げられる。
【0035】
R
21の好適な具体例としては、下記の基が挙げられる。
【化2】
【0036】
【0037】
【0038】
表面処理による所望する効果を特に得やすい点から、ポリマー(A)を構成する全構成単位の量に対する、構成単位(a1)の比率は、60モル%以上95モル%以下が好ましく、65モル%以上90モル%以下がより好ましく、75モル%以上90モル%以下が特に好ましい。
なお、ポリマー(A)を構成する全構成単位の量には、後述する連鎖移動剤に由来する末端基の量は含まれない。
【0039】
〔構成単位(a2)〕
構成単位(a2)は、単独重合体とした時にガラス転移温度(Tg)が120℃以上となる単量体に由来する構成単位である。
構成単位(a2)は、表面処理された被処理体の表面における、水の速やかな濡れ広がりに関する効果に寄与する。構成単位(a2)は、特に、表面処理後の、被処理体の表面でのタックの発生の抑制の効果に寄与する。
ここで、上記のガラス転移温度は、分子構造を計算してシミュレートする分子モデリング・ソフトCACheによるシミュレーション値を示す。例えば、ポリマーのガラス転移温度は、CAChe Worksystem Pro. Version 6.1.12.33を用いて、MM geometry(MM2)、PM3 geometryにより構造最適化を行うことで決定される。
【0040】
構成単位(a2)を与える単量体は、上記の定義に合致するTgを示す化合物であれば特に限定されない。構成単位(a2)を与える単量体としては、多環式炭化水素基を有する単量体が好ましく、多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及びN置換(メタ)アクリル酸アミドがより好ましい。
【0041】
多環式炭化水素基は、2以上の炭化水素環を含む基であれば特に限定されない。炭化水素環は、芳香族炭化水素環であっても、脂肪族炭化水素環であってもよい。
多環式炭化水素基は、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、及びテトラシクロアルカンのようなポリシクロアルカンから水素原子を1つ除いた基であってもよいし、ナフタレン、テトラリン、及びアントラセン等の2以上の炭化水素環が縮合した芳香族炭化水素基から水素原子を1つ除いた基であってもよいし、2以上の環式炭化水素基が単結合によって結合した炭化水素化合物から水素原子を1つ除いた基であってもよい。
【0042】
また、多環式炭化水素基は、本発明の目的を阻害しない範囲において、直鎖又は分岐鎖アルキル基で置換されていてもよい。置換基としてのアルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上6以下が好ましく、1以上4以下より好ましく、1又は2が特に好ましい。
【0043】
多環式炭化水素基の炭素原子数は、10以上30以下が好ましく、10以上20以下がより好ましい。
【0044】
多環式炭化水素基の好適な例としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロデカン等のポリシクロアルカンから水素原子を1つ除いた基や、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基、o-フェニルフェニル基、m-フェニルフェニル基、及びp-フェニルフェニル基等の多環式芳香族炭化水素基から水素原子を1つ除いた基が挙げられる。
【0045】
構成単位(a2)を与える単量体の好適な具体例としては、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸イソボルニル、及びメタクリル酸アダマンチル等が挙げられる。
メタクリル酸ジシクロペンタニルについて、上記の定義に従ったTgの値は132.4℃である。メタクリル酸イソボルニルについて、上記の定義に従ったTgの値は120.7℃である。メタクリル酸アダマンチルについて、上記の定義に従ったTgの値は141.7℃である。
【0046】
表面処理に関する所望する効果を特に得やすい点から、ポリマー(A)を構成する全構成単位の量に対する、構成単位(a2)の比率は、5モル%以上40モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下、10モル%以上25モル%以下がより好ましい。
なお、ポリマー(A)を構成する全構成単位の量には、後述する連鎖移動剤に由来する末端基の量は含まれない。
【0047】
〔その他の構成単位(a3)〕
ポリマー(A)は、本発明の目的を阻害しない範囲で、構成単位(a1)及び構成単位(a2)以外のその他の構成単位(a3)を含んでいてもよい。
【0048】
その他の構成単位(a3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ペンチル(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びクロルスチレン等の単量体に由来する構成単位が挙げられる。
【0049】
ポリマー(A)を構成する全構成単位に対するその他の構成単位(a3)の比率は、所望する表面処理効果が得られる限り特に限定されない。ポリマー(A)を構成する全構成単位に対する、その他の構成単位(a3)の量は、全構成単位の量から構成単位(a1)の量と、構成単位(a2)の量とを除いた残余の量であればよい。
【0050】
〔連鎖移動剤〕
ポリマー(A)の分子量の調整が容易である点や、ポリマー(A)への被処理体への密着性や、親水性等の諸特性の付与が可能である点等から、ポリマー(A)の末端の少なくとも一部が連鎖移動剤によって封止されているのが好ましい。連鎖移動剤としては、ポリマー(A)の末端の封止が可能である限り特に限定されない。ポリマー(A)の末端との反応性の点で、連鎖移動剤としては、メルカプト化合物が好ましい。
ポリマー(A)が末端ビニル基を有する場合、メルカプト化合物と、末端ビニル基との間に、所謂チオール-エン反応が生じる。かかるチオール-エン反応によりポリマー(A)の末端が容易に封止される。
【0051】
連鎖移動剤として使用し得るメルカプト化合物の好適な例としては、o-メルカプト安息香酸、m-メルカプト安息香酸、p-メルカプト安息香酸、メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、5-メルカプトペンタン酸、6-メルカプトヘキサン酸、7-メルカプトヘプタン酸、8-メルカプトオクタン酸、2-メルカプトニコチン酸、チオリンゴ酸、システイン、及びN-アセチルシステイン等のメルカプトカルボン酸化合物;2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、2-メルカプトプロパノール、4-メルカプトブタノール、5-メルカプトペンタノール、6-メルカプトヘキサノール、7-メルカプトヘプタノール、8-メルカプトオクタノール、9-メルカプト、10-メルカプトデカノール、11-メルカプトウンデカンノール、12-メルカプトドデカノール、2-メルカプトシクロヘキサノール、3-メルカプトシクロヘキサノール、4-メルカプトシクロヘキサノール、1,3-ジメルカプト-2-プロパノール、チオグリセロール、o-メルカプトフェノール、m-メルカプトフェノール、及びp-メルカプトフェノール等のメルカプトアルコール又はメルカプトフェノール等が挙げられる。
【0052】
また、ポリマー(A)の被処理体の表面への密着性を向上させやすい点から、連鎖移動剤としては、下記式(A-I):
HS-Ra1-SiRa2
aRa3
3-a・・・(A-I)
(式(A-I)中、炭素原子数1以上20以下の2価の炭化水素基であり、Ra2は、水酸基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Ra3は、置換基を有してもよい炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、aは2又は3である。)
で表されるメルカプトシラン化合物も好ましい。
【0053】
上記式(A-I)中、Ra1としての2価の炭化水素基の炭素原子数は、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、2以上4以下が特に好ましい。
Ra1としての2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基、及びアルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。
Ra1としてのアルキレン基の好適な具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、及びデカン-1,10-ジイル基が挙げられる。
【0054】
Ra2としてのハロゲン原子は、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等であり、塩素原子が好ましい。
Ra2としてのアルコキシ基の好適な例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、及びn-ブチルオキシ基が挙げられ、メトキシ基、及びエトキシ基がより好ましい。
【0055】
Ra3としての炭化水素基としては、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基が好ましい。Ra3がアルキル基である場合、その炭素原子数は1以上6以下が好ましく、1以上4以下がより好ましく、1又は2が好ましい。
Ra3がアルキル基である場合の好適な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基が挙げられ、メチル基、及びエチル基がより好ましい。
アラルキル基としては、ベンジル基、及びフェネチル基が好ましい。
アリール基としては、フェニル基、ナフタレン-1-イル基、及びナフタレン-2-イル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0056】
式(A-I)で表されるメルカプト化合物の好適な例としては、(2-メルカプトエチル)トリメトキシシラン、(2-メルカプトエチル)トリエトキシシラン、(2-メルカプトエチル)メチルジメトキシシラン、(2-メルカプトエチル)エチルジメトキシシラン、(2-メルカプトエチル)メチルジエトキシシラン、(2-メルカプトエチル)エチルジエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)エチルジメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)エチルジエトキシシラン、(4-メルカプトブチル)トリメトキシシラン、(4-メルカプトブチル)トリエトキシシラン、(4-メルカプトブチル)メチルジメトキシシラン、(4-メルカプトブチル)エチルジメトキシシラン、(4-メルカプトブチル)メチルジエトキシシラン、及び(4-メルカプトブチル)エチルジエトキシシランが挙げられる。
【0057】
連鎖移動剤の使用量は、ポリマー(A)が所定の要件を満たす限り特に限定されない。通常、連鎖移動剤の使用量は、ポリマー(A)の分子量が、後述する所定の範囲内の分子量であるように調整される。
【0058】
ポリマー(A)の重量平均分子量は、500以上20,000以下である。ポリマー(A)の重量平均分子量がかかる範囲内であることによって、表面処理後の被処理体の表面に水が接触した後に、被処理体の水の接触角が速やかに所望する程度に低下しやすい。
また、ポリマー(A)の重量平均分子量がかかる範囲内であることによって、被処理体の表面にタック(べたつき)が生じにくい傾向がある。
【0059】
表面処理に関する所望する効果を特に得やすい点から、ポリマー(A)の重量平均分子量は、1,000以上15,000以下が好ましく、1,000以上5,000以下がより好ましい。
【0060】
<電解質(B)>
表面処理液は電解質(B)を含んでいてもよい。表面処理液が電解質(B)を含む場合、ポリマー(A)の種類によっては、表面処理液にポリマー(A)を均一且つ安定して溶解させやすい場合がある。
なお、電解質(B)は、ポリマー(A)以外の物質である。表面処理液中で電離し得るポリマー(A)については、電解質(B)ではなくポリマー(A)として定義される。
【0061】
電解質(B)の種類は、ポリマー(A)を分解させたりしない物質であれば特に限定されない。
電解質(B)の種類は、特に限定されない。電解質(B)は、塩酸、塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等の一般的に強電解質とされる物質であっても、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム等)やカチオン性界面活性剤(例えば、塩化ベンザルコニウム等)等の一般的に弱電解質とされる物質であってもよい。
【0062】
入手が容易で安価であること等から、電解質(B)の好適な例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩酸、硫酸、及び硝酸等が挙げられる。
【0063】
電解質(B)の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、表面処理液に対する溶解性等を勘案して適宜定められる。
電解質(B)の使用量は、例えば、ポリマー(A)100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下が好ましく、50質量部以上200質量部以下がより好ましく、80質量部以上200質量部以下がさらに好ましく、80質量部以上150質量部以下が特に好ましい。
【0064】
<その他の成分>
表面処理液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の例としては、熱重合禁止剤、光重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、及び粘度調整剤等が挙げられる。これらの添加剤の使用量は、これらの添加剤の通常使用される量を勘案して、適宜決定される。
【0065】
<溶媒(S)>
表面処理液は、溶媒(S)を含む。溶媒(S)は、水であっても、有機溶剤であっても、有機溶剤の水溶液であってもよい。ポリマー(A)の溶解性、表面処理の作業の安全性、及び低コストである点等から、溶媒(S)が、水と水溶性有機溶媒とを含むのが好ましい。
【0066】
溶媒(S)が、水と水溶性有機溶媒とを含む場合、溶媒(S)における水溶性有機溶媒の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
ここで水溶性有機溶媒は、表面処理液が使用される温度において、所望する濃度で水に対して溶解し得る有機溶媒である。
【0067】
溶媒(S)が、水と水溶性有機溶媒とを含む場合、水溶性有機溶媒としてはアルコールが好ましい。水溶性有機溶媒がアルコールである場合、表面処理液におけるポリマー(A)の溶解性が良好であるととともに、表面処理後の被処理体の表面の乾燥が容易である。
【0068】
アルコールとしては、脂肪族アルコールが挙げられ、炭素原子数1以上3以下のアルコールが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。該アルコールは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
以上説明した各成分を、所望する比率で混合し、均一に溶解させることによって表面処理液が調製される。
表面処理液におけるポリマー(A)の濃度は、所望する表面処理効果を得られる限り特に限定されない。表面処理液におけるポリマー(A)の濃度は、0.1質量%以上40質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上20質量%以下が特に好ましい。
【0070】
表面処理液の、被処理体の表面への濡れ性の点から、表面処理液の20℃における表面張力は、20mN/m以上35mN/m以下が好ましい。
表面処理液の表面張力は、例えば、表面処理液への界面活性剤の添加や、表面処理液のポリマー(A)の濃度の調整により調整され得る。
【0071】
≪表面処理方法≫
表面処理方法は、被処理体の表面に、前述の表面処理液を接触させて、被処理体の表面に被膜を形成させることを含む。
前述の表面処理液を用いることにより、被処理体の表面に接触した表面処理液が、速やかに被処理体の表面に広がると考えられる。これにより、被処理体の表面に、ポリマー(A)を含む被膜が速やかに形成され、表面処理液の接触直後に、被処理体の表面の十分に低い水の接触角を達成できると考えられる。
【0072】
被処理体の表面への表面処理液の接触は通常、塗布法により行われる。
塗布方法は特に限定されない。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、浸漬法等が挙げられる。被処理体が基板である場合、基板の表面に、均一な膜厚の被膜をむらなく形成しやすいことから、塗布方法としてスピンコート法が好ましい。
表面処理液の塗布後には、被処理体の表面をリンス液によりリンスしてもよいが、所望する膜厚の被膜を形成しやすい点からはリンスを行なわないのが好ましい。リンス液としては、前述の溶媒(S)として使用され得る、水や、有機溶媒を用いることができる。リンス液は、有機溶媒の水溶液であってもよく、複数の有機溶媒を含む混合液であってもよい。
【0073】
表面処理液の塗布後には、必要に応じて被膜を加熱して、被膜から溶剤(S)の少なくとも一部を除去してもよい。
【0074】
被処理体の表面処理液が塗布される面の材質は特に限定されず、有機材料であっても、無機材料であってもよい。
有機材料としては、PET樹脂やPBT樹脂等のポリエステル樹脂、各種ナイロン、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、及びシリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のポリオルガノシロキサン等)等、種々の樹脂材料が挙げられる。
また、種々のレジスト材料に含まれる感光性の樹脂成分や、アルカリ可溶性の樹脂成分も有機材料として好ましい。
無機材料としては、ガラス、シリコンや、銅、アルミニウム、鉄、タングステン等の種々の金属が挙げられる。金属は、合金であってもよい。
【0075】
被膜を形成させる前には、ポリマー(A)のと被処理体表面への密着性を向上させる目的で、被処理体の表面に水酸基を導入する処理を行ってもよい。かかる処理の好適な例としては、酸素プラズマや水蒸気プラズマ等によるプラズマ処理が挙げられる。
【0076】
上記のようにして形成される被膜の膜厚は、例えば、5000nm以下が好ましく、1nm以上2000nm以下がより好ましく、1nm以上1000nm以下が特に好ましい。
【0077】
上記のようにして形成された被膜を備える被処理体において、被膜を備える面に水を滴下した場合に、滴下から2秒後の、前記被膜を備える面の水の接触角が20°以下であるのが好ましく、15℃以下であるのがより好ましい。
【0078】
被処理体の形状は特に限定されない。被処理体は平坦な基板やフィルムであってもよい。被処理体の形状は、例えば、球状や、柱状等の立体形状であってもよい。また、被処理体の表面は、平滑であっても、規則的又は不規則な凹凸を有していてもよい。規則的又は不規則な凹凸を有する被処理体としては、例えばマイクロ流路デバイス等が挙げられる。
【0079】
かかるマイクロ流路デバイスの好ましい用途としては、例えば、生体材料由来の被検液を用いる診断又は測定用のチップがこのましく挙げられる。
前述の表面処理液で表面処理されたチップの表面では、水を含む生体材料由来の被検液が、チップ内の流路に速やかに濡れ広がり、流れる。その結果、前述の表面処理液で表面処理されたチップを用いると、生体材料由来の被検液を用いる診断又は測定を、正確且つ迅速に行いやすい。
【0080】
ここで、生体材料由来の被検液としては、血液、血清、尿、涙、唾液、及び羊水等や、これらの液が希釈又は濃縮された液等が挙げられる。
【0081】
≪ロール状シートの製造方法≫
前述の通り、前述の表面処理液を用いてシートの表面処理を行うと、シートの表面に水が接触した場合に水が速やかにシートの表面に濡れ広がることに加え、表面処理後のシートの表面におけるタックの発生を良好に抑制できる。
このため、ロール状に巻かれるシートについて、巻取の前に前述の表面処理液を用いて表面処理を施すと、皺や、破れのような巻取時の不良の発生を良好に抑制しつつ、ロール状シートを製造しやすい。
上記の通り、前述の表面処理液は、
シートを表面処理することと、
表面処理されたシートをロール状に巻き取ること、を含む、表面処理されたロール状シートの製造方法において、表面処理用の表面処理液として好ましく使用される。
【0082】
ロール状シートを構成するシートの材質は特に限定されない。典型的には、シートの材質としては、被処理体の材質として前述した樹脂材料が挙げられる。
シートの厚さも特に限定されず、巻取可能な厚さであればよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
〔調製例1~5〕
調整例1、調製例2、調製例4、及び調製例5において、構成単位(a1)を与える単量体として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AAmSO3H)を用いた。2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の、前述の定義に従ったLogP値は-0.48である。
【0085】
調整例1、調製例2、調製例4、及び調製例5において、構成単位(a2)を与える単量体として、メタクリル酸ジシクロペンタニル(DCPMA)を用いた。メタクリル酸ジシクロペンタニルの、前述の定義に従ったTgは132.4℃である。
【0086】
調製例2、調製例3、及び調製例5において、構成単位(a3)を与える単量体として、メタクリル酸(MA)を用いた。なお、メタクリル酸について、前述の定義に従ったLogP値は1.00であり、Tgは119.6℃である。
【0087】
調製例1~5において、連鎖移動剤としてチオグリセロールを用いた。
【0088】
調製例1~5において、下記表1に記載のモル比率で各単量体を反応容器に仕込んだ。また、モル比(各単量体の合計量:連鎖移動剤)が、90:10となるように連鎖移動剤を反応容器に仕込んだ。単量体と、連鎖移動剤を反応容器に仕込んだのち、周知の方法に従って重合反応を行い、下記表1に記載の重量平均分子量であるポリマーA-P1~ポリマーA-P5を得た。
【0089】
【0090】
〔実施例1、実施例2、及び比較例1~3〕
実施例1、実施例2、及び比較例1~3において、表2記載の種類のポリマーを、ポリマーの濃度が1質量%となるように、水19質量%とIPA80質量%とからなる混合溶媒中に溶解させて表面処理液を得た。
得られた表面処理液を、ポチエチレンテレフタレートフィルムの表面にスピンコート法により塗布することにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に膜厚100nmの被膜を形成した。
ポリエチレンテレフタレートフィルムの被膜を備える面について、以下の方法に従って、水の滴下2秒後の接触角を評価した。
【0091】
(接触角評価)
Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用いポリエチレンテレフタレートフィルムの表面処理された表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下2秒後における接触角として、水の接触角を測定した。ポリエチレンテレフタレートフィルム上の3点の水の接触角の平均値を、表2に記す。
【0092】
【0093】
上記表によれば、所定の要件を満たす構成単位(a1)と、構成単位(a2)とを含み、且つ重量平均分子量が、500以上20,000以下の範囲内であるポリマーA-P1、又はA-P2を含む、実施例1又は実施例2の表面処理液を用いて表面処理を行うと、水と接触した2秒後であっても、水との接触角が極めて低いことが分かる。
つまり、実施例1又は実施例2の表面処理液を用いて表面処理された被処理体の表面では、水が極めて速やかに濡れ広がる。
【0094】
また、所定の要件を満たす構成単位(a1)と、構成単位(a2)含まないポリマーA-P3を含む、比較例1の表面処理液を用いて表面処理を行うと、水と接触した2秒後の、水との接触角が高いことが分かる。
つまり、比較例1の表面処理液を用いて表面処理された被処理体の表面では、水が速やかに濡れ広がりにくい。
【0095】
さらに、所定の要件を満たす構成単位(a1)と、構成単位(a2)とを含んでいても、重量平均分子量が、500以上20,000以下の範囲外であるポリマーA-P4、又はA-P5を含む、比較例2又は実施例3の表面処理液を用いて表面処理を行うと、水と接触した2秒後の、水との接触角が高いことが分かる。
つまり、比較例2又は実施例3の表面処理液を用いて表面処理された被処理体の表面では、水が速やかに濡れ広がりにくい。