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特許7419546ホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/42 20060101AFI20240115BHJP
   C08F 12/00 20060101ALI20240115BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20240115BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20240115BHJP
   C08L 47/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C08F8/42
C08F12/00
C08F36/04
C08L25/00
C08L47/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022545546
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027320
(87)【国際公開番号】W WO2022044633
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020145881
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】唐木田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】太田 さとみ
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-340783(JP,A)
【文献】特開平07-033820(JP,A)
【文献】特表2014-523939(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111378165(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/42
C08F 12/00
C08F 36/04
C08L 25/00
C08L 47/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(Z)を製造する工程(1)と、工程(1)で得られた活性末端重合体(Z)と、下記式(XII)で表されるホウ酸エステルであるホウ酸化合物を反応させる工程(2)を含む、ホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物の製造方法。
【化1】
(式(XII)中、R 16 、R 17 及びR 18 は炭素数1~12の炭化水素基を示し、上記R 16 、R 17 及びR 18 すべてのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である。)
【請求項2】
工程(2)において、極性化合物を前記ホウ酸化合物に対して混合した後、活性末端重合体(Z)に添加して反応させる、請求項1に記載の重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
下記式(II)で示されるボロン酸基を含む変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系変性重合体(A)55~99質量%と、下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系変性重合体(B)1~45質量%を含む、重合体組成物。
【化2】
(上記式中、P1、P2及びP3は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、
1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基を示し、R1及びR2のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR1とR2は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
3、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基、又は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖であり、あるいは、R3とR4、R3とR5、又はR4とR5は、結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成していてもよく、
3、R4及びR5が結合して炭素数3~36の3価の飽和炭化水素鎖を形成していてもよく、
Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【化3】
(上記式中、P4、P5、P6、P7、P8、P9、P10、P11及びP12は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、
6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を示し、
10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R10及びR11のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR10とR11は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
12は炭素数1~12のアルキル基を示し、
13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R13及びR14のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR13及びR14は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン重合によって末端に様々な官能基、例えばホウ素含有官能基を有する重合体を合成する方法が研究されている。例えば、重合体末端へのホウ素含有官能基の一例であるボロン酸基を導入する方法が検討されており、ホウ素含有官能基であるボロン酸基又はボリン酸基を末端に有する重合体はエチレン-ビニルアルコール共重合体等の側鎖に水酸基を有する熱可塑性樹脂の相容化剤等の樹脂改質剤として有用であることが明らかにされている(特許文献1参照)。また、スチレンモノマー及びジエンモノマーの少なくとも一種の重合体よりなるボリン酸基変性ポリマーがシリカの分散性改良を目的とし、タイヤ用途で検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-25918号公報
【文献】国際公開第2014/088092号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、具体的には、アニオン重合の活性末端重合体の末端とホウ酸トリメチルを反応させることで、末端にボロン酸を有する共役ジエン系重合体を得ることを検討している。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1の方法により末端にボロン酸を有する共役ジエン系重合体は得られるものの、その製造法では、ホウ酸エステルの反応性が十分ではなく、ボロン酸基を有しない未変性重合体が多く含まれ得ることが判明した。そのため、特許文献1で得られた重合体を用いて、樹脂改質などを行ったとしても、ボロン酸基を有する重合体の割合が少ないため、ボロン酸基と反応性を有する基を有する重合体と反応することができない重合体が数多く存在し、グラフト効率が十分ではない、ブリードアウト成分が増加するなどの問題が生じる場合があった。
【0005】
特許文献2には、重合体末端にボリン酸基を有する共役ジエン系重合体がシリカ分散性を向上させる効果を有していることが記載されている。特許文献2に記載の方法では、ボリン酸基変性重合体のみを含む重合性組成物が高収率で得られる。ボリン酸はルイス酸性が高く、ルイス塩基性化合物との反応性に優れるが、水分存在下でプロトンを発生しやすいため共役ジエン系重合体においては保存安定性の低下を引き起こす。また、特許文献2に記載の方法では、末端に低分子ボロン酸のオリゴマーを含むため、重合体と反応が競合してしまい、グラフト効率を低下させるなどの問題が生じる場合があった。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、極性材料の改質や無機材料の分散など種々の材料の改質に好適なホウ素含有官能基を有する重合体が高収率で得られる製造方法、及び種々の極性官能基に対する高い反応性と優れた保存安定性(例えば、耐熱性)を両立するホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、ホウ素含有官能基を有する重合体を製造する工程において、所定のアニオン重合活性末端重合体と、所定のパラメーターを満足するホウ酸化合物を使用することによって高収率で所望の重合体が得られることを見出した。さらに、所定のボロン酸エステル基を含む変性重合体と所定のボリン酸基を含む変性重合体を含む、特定の重合体組成物が、極性官能基への反応性及び保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1]アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(Z)を製造する工程(1)と、工程(1)で得られた活性末端重合体(Z)と、下記式(I)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有し、かつ、該部分構造に含まれる酸素原子と結合するRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である、ホウ酸化合物を反応させる工程(2)を含む、ホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物の製造方法。
B-O-R (I)
(式(I)中、Bはホウ素原子、Oは酸素原子、Rは有機基を示す。)
[2]工程(2)において、極性化合物を前記ホウ酸化合物に対して混合した後、活性末端重合体(Z)に添加して反応させる、[1]に記載の重合体組成物の製造方法。
[3]下記式(II)で示されるボロン酸基を含む変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系変性重合体(A)55~99質量%と、
下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系変性重合体(B)1~45質量%を含む、
重合体組成物。
【0009】
【化1】
(上記式中、P1、P2及びP3は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、
1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基を示し、R1及びR2のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR1とR2は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
3、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基、又は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖であり、あるいは、R3とR4、R3とR5、又はR4とR5は、結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成していてもよく、R3、R4及びR5が結合して炭素数3~36の3価の飽和炭化水素鎖を形成していてもよく、Mは、アルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【0010】
【化2】
(上記式中、P4、P5、P6、P7、P8、P9、P10、P11及びP12は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、
6、R7、R8、R9は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を示し、
10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R10及びR11のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR10とR11は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
12は炭素数1~12のアルキル基を示し、
13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R13及びR14のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR13及びR14は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極性官能基への高い反応性と優れた保存安定性(例えば、耐熱性)を両立するボロン酸エステル基を含む変性重合体とボリン酸基を含む変性重合体を含む重合体組成物及び、該重合体組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の重合体組成物は、下記式(II)で示されるボロン酸基を含む変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系変性重合体(A)55~99質量%と、
下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボロン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系変性重合体(B)1~45質量%を含む。
【0013】
本発明においてボロン酸基を含む変性重合体とは下記式(II)で示されるものである。
【0014】
【化3】
【0015】
式(II)中、P1は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示す。
【0016】
本発明においてボロン酸エステル基を含む変性重合体とは下記式(III)で示されるものである。
【0017】
【化4】
【0018】
式(III)中、P2は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基を示し、R1及びR2のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR1とR2は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成している。
上記R1及びR2のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R1及びR2のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R1及びR2のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R1及びR2のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。なお、Taftの立体パラメーターEs値については、以下、重合体組成物の好適製造方法の工程(2)の部分で説明する。
【0019】
本発明においてボロン酸塩基を含む変性重合体とは下記式(IV)で示されるものである。
【0020】
【化5】
【0021】
式(IV)中、P3は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基、又は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖であり、あるいは、R3とR4、R3とR5、又はR4とR5は、結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成していてもよく、R3、R4及びR5が結合して炭素数3~36の3価の飽和炭化水素鎖を形成していてもよい。
上記R3、R4及びR5のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R3、R4及びR5のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R3、R4及びR5のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個であり、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。なお、アルカリ金属1個とは、式(IX)中、括弧で示される1価のアニオン基1個に対して、アルカリ金属のカチオンは1価であるので、該アニオン基の価数に対応して、アルカリ金属は1個という意味である。同様に、アルカリ土類金属1/2個とは、式(IX)中、括弧で示される1価のアニオン基1個に対して、アルカリ土類金属のカチオンの価数は2価であるので、該アニオン基の価数に対応して、アルカリ土類金属は1/2個という意味である。
【0022】
本発明においてボリン酸基を含む変性重合体とは下記式(V)もしくは式(VI)で示されるものである。
【0023】
【化6】
【0024】
式(V)中、P4及びP5は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示す。
【0025】
【化7】
【0026】
式(VI)中、P6は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R6は炭素数1~12のアルキル基を示す。上記R6は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明においてボリン酸エステル基を含む変性重合体とは下記式(VII)又は式(VIII)で示されるものである。
【0028】
【化8】
【0029】
式(VII)中、P7及びP8は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R7は炭素数1~12のアルキル基を示す。上記R7は、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。上記R7は、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0030】
【化9】
【0031】
式(VIII)中、P9は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R8は、炭素数1~12のアルキル基であり、R9は、炭素数1~12のアルキル基である。上記R9は、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。上記R9は、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
上記R8は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明においてボリン酸塩基を含む変性重合体とは下記式(IX)又は式(X)で示されるものである。
【0033】
【化10】
【0034】
式(IX)中、P10及びP11は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R10及びR11のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR10とR11は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。
上記R10及びR11のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R10及びR11のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R10及びR11のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R10及びR11のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個であり、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。
【0035】
【化11】
【0036】
式(X)中、P12は共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示し、R12は炭素数1~12のアルキル基を示し、
13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R13及びR14のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR13及びR14は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、
Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。
上記R13及びR14のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R13及びR14のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R13及びR14のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R13及びR14のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
上記R12は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
上記Mは、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。
【0037】
上記式(II)~(X)には、上述のとおり、P1~P12で表される共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖が含まれる。
【0038】
1~P12に含まれ得る共役ジエン単位となる、共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニルブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ミルセン、ファルネセン、及びクロロプレン等が挙げられる。これら共役ジエンの中でも、ブタジエン及びイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。上記共役ジエン単位となる共役ジエンは1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0039】
1~P12に含まれ得る芳香族ビニル化合物単位となる、芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。これら芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物単位となる芳香族ビニル化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0040】
1~P12となる重合体鎖を構成する全単量体単位のうち、30質量%以上がブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位であることが好ましい一態様である。ブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、P1となる重合体鎖の全単量体単位に対して50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましい。
【0041】
1~P12となる重合体鎖を構成する全単量体単位のうち、ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0042】
1~P12となる重合体鎖としては、上記共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる単量体より選ばれる少なくとも1つの単量体の単独重合体鎖もしくは共重合体鎖(ランダム共重合体鎖、ブロック共重合体鎖)又は上記の単量体以外の単量体の単量体単位を含む共重合体鎖(ランダム共重合体鎖、ブロック共重合体鎖)が挙げられる。
【0043】
1~P12となる重合体鎖の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下がより好ましく、3,000以上100,000以下がさらに好ましい。また、本発明の重合体組成物の重量平均分子量(Mw)も上記範囲にあることが好ましい。上記重合体鎖のMwが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において、特に断りがない限り、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0044】
1~P12となる重合体鎖の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~20.0が好ましく、1.0~10.0がより好ましく、1.0~5.0がさらに好ましく、1.0~2.0がよりさらに好ましく、1.0~1.5が特に好ましく、1.0~1.2がより特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であると、得られる変性重合体の粘度のばらつきが小さく、より好ましい。また、本発明の重合体組成物の分子量分布(Mw/Mn)も粘度のばらつきが小さくなる点から、上記範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、Mnは数平均分子量を意味し、MnはGPCの測定から求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCの測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を意味する。
【0045】
1~P12となる重合体鎖のビニル含量は特に制限されないが、90モル%以下であることが好ましい一態様であり、0.01~90モル%であることがより好ましく、0.1~80モル%がさらに好ましく、1~70モル%がよりさらに好ましい。また、本発明の重合体組成物のビニル含量も上記範囲にあることが好ましい。本発明において、「ビニル含量」とは、重合体鎖又は重合体に含まれる、共役ジエン単位の合計100モル%中、1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位(1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)以外で結合をしている共役ジエン単位)の合計モル%を意味する。ビニル含量は、1H-NMRを用いて1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位に由来するピークの面積比から算出する。
【0046】
1~P12となる重合体鎖の重合体のビニル含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、ビニル含量が70モル%未満であると、重合体のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる重合体組成物の流動性や低温特性が優れる傾向がある。
【0047】
なお、上記ビニル含量は、例えば、後述する方法により、本発明の重合体組成物を製造する場合には、工程(1)の際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0048】
1~P12となる重合体鎖のガラス転移温度(Tg)は、ブタジエン単位、イソプレン単位及びブタジエン単位、イソプレン単位以外の共役ジエン単位のビニル含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。また、本発明の重合体組成物のガラス転移温度(Tg)も取り扱いの容易さの点から、上記範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、Tgは示差走査熱量測定(DSC)測定により求めた、DDSCのピークトップの値である。
【0049】
本発明の重合体組成物は、その組成物に含まれる全重合体の質量に対して、上記式(II)で示されるボロン酸基を含む変性重合体、上記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系変性重合体(A)55~99質量%と、
上記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む変性重合体、上記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む変性重合体、及び上記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系変性重合体(B)1~45質量%を含むことに特徴がある。
本発明の重合体組成物に、上記割合で、ボロン酸系変性重合体(A)とボリン酸系変性重合体(B)とが含まれることにより、極性官能基への高い反応性と優れた保存安定性を両立することができる。なお、本発明の重合体組成物は、典型的には、ホウ素含有官能基によって変性された重合体と、この官能基変性によっても変性されない未変性の重合体の混合物を意味する。したがって、本発明の重合体組成物は、ホウ素含有官能基によって変性された重合体と、官能基変性によっても変性されない未変性の重合体の混合物のみからなることが好ましい一態様である。
【0050】
重合体組成物中のボロン酸系変性重合体(A)及びボリン酸系変性重合体(B)の含有量は、重合体組成物中のホウ素濃度と11B―NMRスペクトルから求められる。ホウ素濃度を求める方法としては、ICP発光分析により求めることができ、11B―NMRスペクトルでのシグナルの面積比から(A)及び(B)の含有量が算出される。また、ホウ酸エステル化合物を用いて、重合体組成物を得る場合、(B)が(A)よりも分子量が大きくなることから、GPCチャートの面積比からも(A)及び(B)の含有量が算出される。ピークの分離度が低い場合、ガウス分布ピークとしてピークを分離して面積比を算出する。
【0051】
重合体組成物の安定性をより高める観点からは、本発明の重合体組成物中のボロン酸系変性重合体(A)及びボリン酸系変性重合体(B)の含有割合は、ボロン酸系変性重合体(A)65~99質量%及びボリン酸系変性重合体(B)1~35質量%であることが好ましく、ボロン酸系変性重合体(A)68~99質量%及びボリン酸系変性重合体(B)1~32質量%であることがより好ましく、ボロン酸系変性重合体(A)79~99質量%及びボリン酸系変性重合体(B)1~31質量%であることがさらに好ましく、ボロン酸系変性重合体(A)80~99質量%及びボリン酸系変性重合体(B)1~20質量%であることが特に好ましい。
【0052】
本発明の重合体組成物中のボロン酸系変性重合体(A)及びボリン酸系変性重合体(B)の含有割合は、例えば、後述する変性重合体の製造方法において、Taftの立体パラメーターEs値、反応温度、極性化合物量等により制御することができる。
【0053】
ボロン酸系変性重合体(A)のMwは2,000以上200,000以下であることが好ましく、4,000以上100,000以下であることがより好ましい。
ボリン酸系変性重合体(B)のMwは4,000以上400,000以下であることが好ましく、8,000以上200,000以下であることがより好ましい。
【0054】
また、本発明の重合体組成物では、重合体組成物の反応性を損なわない範囲で下記式(XI)で示されるホウ素架橋三量体(C)及び、ホウ素含有官能基を有しない未変性重合体(D)のうち少なくとも1つをさらに含んでいてもよく、(C)及び(D)の重合体組成物中の含有量は、それぞれ20質量%以下であることが好ましい。
【0055】
【化12】
【0056】
上記式(XI)中、P13、P14及びP15は、共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖を示す。
【0057】
重合体組成物中の、ホウ素含有官能基を有する変性重合体(典型的にはホウ素含有官能基を末端に有する変性重合体)の含有量は、その組成物に含まれる全重合体の質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。
【0058】
重合体組成物中のホウ素含有量は、ICP発光分析によって重合体組成物の重量あたりのホウ素含有量を定量することで求めることができる。
【0059】
重合体組成物の安定性と反応性の両立の観点からは、重合体組成物中のホウ素含有量は、0.001~5質量%であることがより好ましく、0.003~2質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のホウ素含有官能基を有する変性重合体を含む重合体組成物の製造方法としては、下記工程(1)及び工程(2)を含む製造方法が好ましい。
【0061】
工程(1);アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(以下、活性末端重合体(Z)とも称する。)を製造する工程
【0062】
活性末端重合体(Z)を構成する単量体に由来する構造単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び活性末端重合体(Z)に含まれる単量体に由来する構造単位の具体例及び好適態様の説明は、上述した重合体組成物における、P1~P13で表される共役ジエン単位及び芳香族ビニル化合物単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位を含む重合体鎖に関する説明と同様である。
【0063】
アニオン重合活性末端を有する活性末端重合体(Z)は、公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、重合末端に不活性な溶媒中、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物を開始剤として、必要に応じて極性化合物の存在下で、単量体をアニオン重合させることにより、活性末端重合体(Z)を得ることができる。
【0064】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましく、有機リチウム化合物がより好ましい。
【0065】
上記活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
【0066】
上記活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましい。上記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。
【0067】
上記溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0068】
上記アニオン重合の際には、極性化合物を添加してもよい。極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン部位のミクロ構造(ビニル含量)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0069】
上記アニオン重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0070】
工程(2);前記活性末端重合体(Z)と、下記式(I)で表される部分構造(以下、その構造を部分構造(I)とも称する。)を少なくとも2つ以上有し、かつ、該部分構造(I)に含まれる酸素原子と結合するRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である、ホウ酸化合物を反応させる工程
B-O-R (I)
(式(I)中、Bはホウ素原子、Oは酸素原子、Rは有機基を示す)
【0071】
ここで、Taftの立体パラメーターEs値とは、置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度におけるメチル基の置換基効果を基準にした相対速度であり、置換基の立体的嵩高さを表す一般的な指標である。本発明では、Tetrahedron,1978,Vol.34,3553~3562頁に記載の表1に記載されているEs(Taft)値、及び上記文献に記載の方法に準拠した方法で測定された値を含む。この値は、メチル基の値が0.0であり、例えば、水素原子の値が1.24、エチル基の値が-0.08、n-プロピル基の値-0.36、イソプロピル基の値が-0.47、n-ブチル基の値が-0.39、sec-ブチル基の値が-1.13、i-ブチル基の値が-0.93、t-ブチル基の値が-1.54、シクロヘキシル基の値が-0.79である。
【0072】
Taftの立体パラメーターEs値が-3.00~-0.30であることが好ましく、-1.55~-0.39であることがより好ましい。
【0073】
部分構造(I)に含まれるRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下となるような嵩高いホウ酸化合物は、立体障害によりホウ酸化合物からなるクラスター構造を形成しにくくなるため、求電子性が高く、活性末端との反応率が向上し、ボロン酸系変性重合体(A)の含有割合が高い重合体組成物を得ることができる。また、反応率をより向上させる観点からは、部分構造(I)に含まれる酸素原子と結合するRのすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。
【0074】
上記Es値を満たすRとしては、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基が好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基がさらに好ましい。
【0075】
上記ホウ酸化合物は、アニオン重合により得られる活性末端重合体(Z)の活性末端と反応性を有するホウ酸化合物である。これらの中でも、下記式(XII)で表されるホウ酸エステルが好ましい。
【0076】
【化13】
【0077】
上記式(XII)中、R16、R17及びR18は炭素数1~12の炭化水素基を示す。
上記R16、R17及びR18のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、上記R16、R17及びR18のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R16、R17及びR18の少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R16、R17及びR18のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0078】
上記式(XII)で表されるホウ酸エステルとしては、例えば、ホウ酸トリn-プロピルエステル、ホウ酸トリn-ブチルエステル、ホウ酸トリイソプロピルエステル、ホウ酸トリsec-ブチルエステル、ホウ酸トリi-ブチルエステル、ホウ酸トリシクロヘキシルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、ホウ酸トリn-プロピルエステル、ホウ酸トリn-ブチルエステル、ホウ酸トリイソプロピルエステルが好ましい。
【0079】
工程(2)において、上記ホウ酸化合物は、活性末端重合体(Z)1モルに対して、好ましくは0.5~10モル、より好ましくは1~5モルの量で使用される。
【0080】
工程(2)において、上記ホウ酸化合物に対して極性化合物を混合した後、この混合物を上記活性末端重合体(Z)と反応させることが好ましい。
【0081】
上記極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、工程(2)で使用されるホウ酸化合物に対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。極性化合物を添加することによって、ホウ酸化合物の分子会合を解離させることができ、反応性を高めることができる。
【0082】
上記工程(2)の活性末端重合体(Z)とホウ酸化合物の反応温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。
【0083】
上記工程(2)の活性末端重合体(Z)とホウ酸化合物の反応の後、さらに、活性末端重合体(Z)に対する重合停止剤を添加してもよい。このように重合停止剤を添加することにより、ホウ酸化合物との反応を経た後に残存する活性末端重合体(Z)に含まれる活性末端に由来する副反応を確実に抑制できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0084】
工程(2)の反応様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0085】
本発明の製造方法により得られた重合体組成物は上記工程(2)で得られた反応生成物から回収する。重合体組成物の回収方法は特に制限はないが、反応生成物が重合体組成物を含む溶液として工程(2)で得られている場合は、例えば、得られた溶液をメタノール等の貧溶媒に注いで、重合体組成物を析出させるか、重合体溶液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記重合体組成物を単離することにより回収できる。
【0086】
本発明で得られた重合体組成物(以下重合体組成物(α)とも称する。)は、さらに重合体組成物(α)以外の他の重合体(β)などその他の成分を添加して樹脂組成物として使用してもよい。他の重合体(β)は、熱可塑性重合体(β1)であっても、硬化性重合体(β2)であってもよい。
【0087】
上記熱可塑性重合体(β1)としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エステル重合体又は共重合体などのアクリル系樹脂;ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;スチレン-メタクリル酸メチル共重合体;スチレン-メタクリル酸メチル-無水マレイン酸共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール部分ケン化体;ポリビニルアルコール;エチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリアセタール;ポリフッ化ビニリデン;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド;シリコーンゴム変性樹脂;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のオレフィン系ゴムなどが挙げられる。熱可塑性重合体(β1)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
硬化性重合体(β2)としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、エステル(メタ)アクリレート樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂が挙げられる。これらの中でも、入手性及び硬化物の基本物性の観点や、また、気泡の抜け性、得られる硬化物の靱性により一層優れる重合体組成物が得られるなどの観点から、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びエポキシ(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、中でも、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂であることがさらに好ましい。硬化性重合体(β2)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
上記樹脂組成物に、重合体組成物(α)と他の重合体(β)が含まれる場合、重合体組成物(α)と他の重合体(β)との質量比(α)/(β)が、50/50~99/1であることが好ましい。
【0090】
また、上記樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度に、種々の添加剤を添加してもよい。例えば、他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、かかる添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、ガラス繊維、クレーなどの補強剤又は充填剤、プロセスオイル、ポリエチレングリコール、グリセリン、フタル酸エステルなどの可塑剤を添加剤として用いることができる。また、その他の添加剤として、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、滑剤、界面活性剤などが挙げられる。さらに、該添加剤として発泡剤が挙げられ、発泡剤と熱可塑性重合体(β1)を含む重合体組成物からは発泡体を作製することが可能である。
例えば、他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、かかる添加剤としては、硬化剤、硬化促進剤、公知のゴム、熱可塑性エラストマー、コア-シェル粒子等の衝撃改質剤、充填剤(シリカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機粒子など)、難燃剤、消泡剤、顔料、染料、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤などが挙げられる。
【0091】
本発明の重合体組成物(α)への他の重合体(β)の混合方法は、各成分の組成比等に応じ、通常の高分子物質の混合方法により調製できる。
【0092】
他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、例えば、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混合装置により樹脂組成物が作製できる。特に本発明においては、これら混合装置を用いて、溶融混練する方法が好ましい一態様である。
【0093】
他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、例えばミキサーなどで十分混合し、次いでミキシングロール、押出し機等によって溶融混練したあと、冷却、粉砕する方法により樹脂組成物は作製できる。
【実施例
【0094】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において重合体組成物の物性は次の方法により評価した。
【0095】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、共役ジエン系グラフト共重合体、及びその製造の各段階における重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。
装置:東ソー株式会社製 GPC装置「HLC-8220」
分離カラム:東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M(カラム径=4.6mm、カラム長=15cm)」(2本を直列に繋いで使用)
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
注入量:10μl
濃度:1mg/1cc(共役ジエン系グラフト共重合体/THF)
【0096】
(2)ビニル含量、スチレンに由来する構造単位含有量
1H-NMRによって、変性重合体、及びその製造の各段階における重合体のビニル含量、及びスチレンに由来する構造単位含有量を算出した。得られたスペクトルのビニル化された共役ジエンに由来する構造単位由来の二重結合のシグナルと、ビニル化されていない共役ジエンに由来する構造単位由来の二重結合のシグナルとの面積比からビニル含量を算出し、スチレンに由来する構造単位に由来する芳香環のシグナルと、共役ジエンに由来する構造単位由来の二重結合のシグナルとの面積比からスチレンに由来する構造単位含有量を算出した。
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置 「JNM-ECX400」
溶媒:重クロロホルム
測定温度:50℃
積算回数:1024回
【0097】
(3)ボロン酸系変性重合体(A)およびボリン酸系変性重合体(B)の質量割合(質量%)
ボリン酸系変性重合体(B)はボロン酸系変性重合体(A)よりも分子量が大きくなることから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる面積比から、重合体(A)及び(B)の質量割合(質量%)を算出した。ピークの分離度が低い場合、ガウス分布ピークとしてピークを分離して、その面積比から質量割合(質量%)を算出した。
【0098】
(4)ホウ素含有官能基導入率(質量%)
ホウ素含有官能基導入率は、水洗によって未反応のホウ酸化合物を除去した重合体組成物をマイクロ波分解装置で分解した後、ICP発光分析によるホウ素原子含有量とゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による重合体成分の成分比から算出した。ホウ素含有官能基導入率は、重合体組成物全体の質量から未変性物の質量を除いたボロン酸系変性重合体(A)とボリン酸系変性重合体(B)の総和から求められる。
<マイクロ波分解>
装置:MILESTONE社ETHOS UP
溶媒:硝酸
分解温度:210℃
分解時間:30分
<ICP発光分析>
装置:ThermoFIsher社iCAP7400 Duo
【0099】
(5)重合体組成物中のボロン酸系変性重合体(A)、及びボリン酸系変性重合体(B)の含有量
前述した、ボロン酸系変性重合体(A)およびボリン酸系変性重合体(B)の質量割合、及びホウ素含有官能基導入率の値から算出した。
【0100】
(6)反応性
変性重合体の反応性は、1H-NMRによって、重合体の重溶媒溶液にカテコールをポリマー開始末端と当モル量添加した際のシグナルの変化から以下の指標で評価した。ポリマー開始末端量は1H-NMRによって、アルキルリチウム由来のアルキル基の積分比と共役ジエンに由来する構造単位由来の二重結合のシグナルの積分比から算出した。
A:シグナルがシフトしたカテコール量 70mol%以上
B:シグナルがシフトしたカテコール量 50mol%以上、70mol%未満
C:シグナルがシフトしたカテコール量 25mol%以上、50mol%未満
D:シグナルがシフトしたカテコール量 25mol%未満
【0101】
(7)耐熱性
変性重合体の耐熱性は、目視による加熱時の外観変化により評価した。変性重合体をスライドガラスに塗工し、大気下において100℃にて12h加熱した後の外観より、以下の指標で耐熱性を評価した。
A:外観変化無し
B:ゲル化、又は黄変
【0102】
[実施例1]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらブタジエン1300gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0103】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にホウ酸トリイソプロピル16.6gを添加して重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A1)及びボリン酸系変性重合体(B1)を含む重合体組成物(1)を得た。得られた重合体組成物(1)の物性を表2に記載した。
【0104】
[実施例2]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)2.06gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、ブタジエン1300gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0105】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にホウ酸トリイソプロピル16.6gを添加して重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A2)及びボリン酸系変性重合体(B2)を含む重合体組成物(2)を得た。得られた重合体組成物(2)の物性を表2に記載した。
【0106】
[実施例3]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらブタジエン1300gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0107】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液に、TMEDA2.06gを添加した後、ホウ酸トリイソプロピル16.6gを添加して重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A3)及びボリン酸系変性重合体(B3)を含む重合体組成物(3)を得た。得られた重合体組成物(3)の物性を表2に記載した。
【0108】
[実施例4、6]
各工程における化合物の種類及び添加量を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に行い、ボロン酸系変性重合体及びボリン酸系変性重合体重合体組成物(4)、(6)を得た。得られた重合体組成物(4)、(6)の物性を表2に記載した。
【0109】
[実施例5、7]
各工程における化合物の種類及び添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に行い、ボロン酸系変性重合体及びボリン酸系変性重合体重合体組成物(5)、(7)を得た。得られた重合体組成物(5)、(7)の物性を表2に記載した。
【0110】
[実施例8]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらイソプレン1640gを10ml/分で逐次添加した。イソプレン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0111】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液に、TMEDA2.06gとホウ酸トリイソプロピル16.6gの混合物を添加して重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A8)及びボリン酸系変性重合体(B8)を含む重合体組成物(8)を得た。得られた重合体組成物(8)の物性を表2に記載した。
【0112】
[実施例9]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1300g、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0g、及びテトラヒドロフラン8.0gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらブタジエン1000gとイソプレン377gの単量体混合溶液を逐次添加して、1時間重合した。
【0113】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にTMEDA2.06gと、ホウ酸トリイソプロピル16.6gの混合物を添加して重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A9)及びボリン酸系変性重合体(B9)を含む重合体組成物(9)を得た。得られた重合体組成物(9)の物性を表2に記載した。
【0114】
[実施例10]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1300g、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらスチレン580gを添加して重合した。次にテトラヒドロフラン8.0gを添加し、ブタジエン1000gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0115】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液に、TMEDA2.06gとホウ酸トリイソプロピル16.6gの混合物を添加して、重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボロン酸系変性重合体(A10)及びボリン酸系変性重合体(B10)(ボロン酸系変性共役ジエン系ブロック共重合(A10)及びボリン酸系変性共役ジエン系ブロック共重合(B10))を含む重合体組成物(10)を得た。得られた重合体組成物(10)の物性を表2に記載した。
【0116】
[比較例1、2]
各工程における化合物の種類及び添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に行い、ボロン酸系変性重合体及びボリン酸系変性重合体を含む重合体組成物(11)、(12)を得た。得られた重合体組成物(11)、(12)の物性を表2に記載した。
【0117】
[比較例3]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gを仕込み、50℃に昇温した後、ブタジエン1300gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0118】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にメタノールを14.2g添加して重合を停止した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、共役ジエン系重合体(13)を含む重合体組成物(13)を得た。得られた重合体組成物(13)の物性を表2に記載した。
【0119】
[比較例4]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1200g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)54.0gと2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン3.1gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、ブタジエン1300gを10ml/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了した。
【0120】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にフェニルボロン酸無水物を27.6g添加して重合末端にボリン酸を導入した。得られた重合体溶液にイオン交換水を添加して撹拌し、重合体溶液を洗浄した。重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、重合体溶液相を回収して、90℃で12時間減圧乾燥することにより、ボリン酸系変性重合体(B14)を含む重合体組成物(14)を得た。得られた重合体組成物(14)の物性を表2に記載した。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1~10及び比較例1~4で得られた重合体組成物の物性を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2より実施例1~10に示したTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下となる置換基を有するホウ酸化合物を反応させることで、官能基導入率が高く、極性官能基との反応性と耐熱性を両立できる変性重合体が得られることがわかる。一方で、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30を超える置換基を有するホウ酸化合物を反応させた比較例1及び2においては官能基導入率が低く、反応性に劣る。また、ホウ酸化合物を反応させていない比較例3においては、極性官能基と反応しなかった。さらにボリン酸化合物のみ含む比較例4においては、反応性には優れていたが耐熱性に劣っており、反応性と耐熱性の両立が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の製造方法によって、極性材料の改質や無機材料の分散などに好適な、ボロン酸系変性重合体(A)が高収率で得られる。また、本発明で得られるボロン酸系変性重合体とボリン酸系変性重合体を特定の割合で含む重合体組成物は、極性官能基に対する高い反応性と優れた保存安定性を両立しており、かかる重合体組成物及びその重合体を含む樹脂組成物は、自動車用内外装品、電気・電子部品、包装材料、スポーツ用品、日用雑貨、ラミネート材、伸縮材料、各種ゴム製品、医療用品、各種接着剤、各種塗装プライマーなど幅広い分野に有効に使用することができる。