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  • 特許-ネオペンチルグリコールの製造方法 図1
  • 特許-ネオペンチルグリコールの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ネオペンチルグリコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/141 20060101AFI20240116BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20240116BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C07C29/141
C07C31/20 Z
B01J23/72 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022527844
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 KR2021013765
(87)【国際公開番号】W WO2022080753
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134221
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、スンピル
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ ユン
(72)【発明者】
【氏名】エオム、スンシク
(72)【発明者】
【氏名】コ、ドン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ジュサン
(72)【発明者】
【氏名】シン、サンジュン
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0034513(KR,A)
【文献】特開平09-052044(JP,A)
【文献】特開2005-103411(JP,A)
【文献】特表2017-510543(JP,A)
【文献】特表2000-505103(JP,A)
【文献】特開平05-201898(JP,A)
【文献】特表2016-535089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化反応器にヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液と水素とを投入して水素化反応させるステップを含み、
前記ヒドロキシピバルデヒド溶液が水素化反応器に投入される前に、前記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を5.5重量%以下に調節するステップを含み、
前記水素化反応器は、Cu/SiO 触媒を固定層として含む反応器である、
ネオペンチルグリコールの製造方法。
【請求項2】
前記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を5.5重量%以下に調節するステップは、蒸留カラムを用いるものである、請求項1に記載のネオペンチルグリコールの製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を5.5重量%以下に調節するステップ以前のヒドロキシピバルデヒド溶液は、
ヒドロキシピバルデヒド45重量%~65重量%、ネオペンチルグリコール1重量%~5重量%、アルコール15重量%~35重量%、HO8重量%~12重量%、及び高沸点物質5重量%~15重量%を含むものである、請求項1または2に記載のネオペンチルグリコールの製造方法。
【請求項4】
前記水素化反応させるステップの後の生成物のうち少なくとも一部は、前記水素化反応器に再循環される、請求項1から3のいずれか一項に記載のネオペンチルグリコールの製造方法。
【請求項5】
前記水素化反応の反応温度は、100℃~250℃である、請求項1から4のいずれか一項に記載のネオペンチルグリコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年10月16日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0134221号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は、ネオペンチルグリコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ネオペンチルグリコール(neopentyl glycol;NPG)は、融点が130℃以上の白色結晶物質であって、各種の合成樹脂の重要な中間体として用いられ、また各種のプラスチック粉体塗料、合成潤滑油、可塑剤、界面活性剤、繊維加工剤などの原料として産業上広範囲に使用されている。
【0004】
かかるNPGは、一般に、イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとをアルドール縮合反応させてヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)を作った後、このHPAを触媒下で水素と反応させて製造する。
【0005】
従来は、HPAをスラリータイプ(Slurry type)のNi系列触媒を使用して水素化反応をさせていたが、この場合、水素化反応物である粗NPGには、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(TMPD)、ヒドロキシピバル酸NPG エステル(HPNE)などが含まれている。上記TMPDとHPNEはNPGと非常に類似する高沸点を持つので、単純蒸留によっては分離が不可能であり、HPNEは反応混合物を蒸留する時に不安定で、NPGの収率低下をもたらすので、商業的に水酸化ナトリウムを添加してけん化反応によってNPGに転化する。しかしながら、けん化反応によって生成されたHPAや他の有機酸のナトリウム塩は、140℃以上の高温でNPGの分解反応を促進させるので、蒸留工程に制約を受ける。また、けん化反応時に非揮発性ナトリウム塩に転化されないTMPDは、除去が不可能である。
【0006】
したがって、当技術分野においては、NPGを高収率及び経済的な方法で生産するための努力が持続的に行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は、ネオペンチルグリコールの製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の一実施態様は、
水素化反応器にヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液と水素とを投入して水素化反応させるステップを含み、
上記ヒドロキシピバルデヒド溶液が水素化反応器に投入される前に、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節するステップを含む、ネオペンチルグリコールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節することにより、水素化反応の触媒の老化を鈍化させることができる。
【0010】
これによって、本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応の触媒の使用期間を増加させることができ、触媒の購買及び触媒の交換に係る工程費用を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法の工程図を概略的に示す図である。
図2】従来のネオペンチルグリコールの製造方法の工程図を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書についてより詳細に説明する。
【0013】
本明細書において、ある部材が他の部材「上に」位置していると言うとき、これはある部材が他の部材に接している場合だけでなく、両部材の間にまた別の部材が存在する場合も含む。
【0014】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」と言うとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0015】
上述したように、当技術分野においては、NPGを高収率及び経済的な方法で生産するための努力が持続的に行われている。
【0016】
特に、ネオペンチルグリコールの製造工程のとき、反応器に投入される原料であるヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液中にはHOが約9重量%~12重量%の高含量で含まれている。上記ネオペンチルグリコールの製造工程では、Cu/SiO触媒を固定層として含むFBR(Fixed-bed reactor)を用いている。本出願人は、上記ネオペンチルグリコールの製造工程のとき、上記Cu/SiO触媒の長期安定性によってFBRの運転期間が定まることができ、上記ヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液中に含まれるHOがCu/SiO触媒の長期安定性に影響を与え得ることを見出した。
【0017】
そこで、本願においては、ネオペンチルグリコールの製造工程のとき、反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液中に含まれるHOの含量を調節して、FBR内の触媒の長期安定性を確保しようとした。
【0018】
本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応器にヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液と水素とを投入して水素化反応させるステップを含み、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液が水素化反応器に投入される前に、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節するステップを含む。
【0019】
本願の一実施態様において、上記水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液の総重量を基準に、上記水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量は、6.0重量%以下であってもよく、5.5重量%以下であってもよく、5.0重量%以下であってもよく、0であってもよい。上記水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量範囲を満足する場合に、水素化反応の触媒の老化を鈍化させることができ、これによって水素化反応の触媒の使用期間を増加させることができ、触媒の購買及び触媒の交換に係る工程費用を削減することができる。また、上記水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量が6.0重量%を超過する場合には、FBR(Fixed-bed reactor)内の触媒の長期安定性を確保することができないので、好ましくない。特に、溶出されるSi含量を考慮すると、水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を5.5重量%以下に調節するのがより好ましい。
【0020】
本願の一実施態様において、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中のHOの含量は、蒸留カラムを用いて6.0重量%以下に制御することができる。
【0021】
上記蒸留カラムは、単蒸留カラム又は多段蒸留カラムであってもよい。例えば、上記蒸留カラムは、トレイタイプ(tray type)の多段蒸留塔であってもよいが、これにのみ限定されるものではなく、当技術分野に知られている内容を用いることができる。また、上記蒸留カラムの温度、圧力などの条件は、本願の一実施態様のようにヒドロキシピバルデヒド溶液中のHOの含量を6.0重量%以下に制御できるように当業者が適宜設定することができる。
【0022】
本願の一実施態様において、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節するステップ以前のヒドロキシピバルデヒド溶液は、ヒドロキシピバルデヒド45重量%~65重量%、ネオペンチルグリコール1重量%~5重量%、アルコール15重量%~35重量%、HO8重量%~12重量%、及び高沸点物質5重量%~15重量%を含むことができる。また、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節するステップ以前のヒドロキシピバルデヒド溶液は、ヒドロキシピバルデヒド50重量%~60重量%、ネオペンチルグリコール1重量%~3重量%、アルコール20重量%~30重量%、HO8重量%~11重量%、及び高沸点物質5重量%~10重量%を含むことができる。上記のようなヒドロキシピバルデヒド溶液は、反応性が低下することなく反応熱を最小限に抑えることができ、副産物の生成を抑制する効果がある。
【0023】
上記アルコールは、2-エチルヘキサノール(2-EH)であってもよいが、これにのみ限定されるものではない。
【0024】
上記高沸点物質は、ヒドロキシピバリックヒドロキシピバレート(HPNE)、トリメチルペンタンジオール(TMPD)などを1種以上含むことができるが、これにのみ限定されるものではない。
【0025】
本願の一実施態様において、上記水素化反応器は、銅系触媒を固定層として含む反応器であってもよい。より具体的に、上記銅系触媒は、ケイ素酸化物支持体に銅が担持された触媒であってもよい。また、上記水素化反応器は、上記銅系触媒が充填された固定層反応器(fixed bed reactor;FBR)であってもよく、この場合、触媒と反応生成物との分離が必要でなく、反応温度及び反応圧力を既存よりも下げることができて運転が安定して経済的であり、また触媒の交換作業が容易であり、反応器のサイズを小さくすることができて投資費が大きく削減される効果がある。
【0026】
本願の一実施態様において、上記水素化反応後の生成物のうち少なくとも一部は、上記水素化反応器に再循環されることができる。より具体的に、ネオペンチルグリコールを含む生成物が上記水素化反応器に再循環されることができ、これによって、水素化反応で発生する熱を容易に制御することができる。上記水素化反応は、再回収率(Recycle ratio;Feed/Recycle)が0.1kg/kg~8.0kg/kg、1kg/kg~7kg/kg、又は2kg/kg~6kg/kgであってもよく、この範囲内で反応熱の制御が容易であり、暴走反応が防止される効果がある。上記「再回収率(Recycle ratio;Feed/Recycle)」とは、別に特定しない限り、再循環流量に対する原料供給流量をいう。
【0027】
本願の一実施態様において、上記水素化反応器にヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液と水素とを投入して水素化反応させるステップにおいて、上記水素化反応の反応温度は、100℃~250℃、100℃~200℃、又は100℃~180℃であってもよい。
【0028】
本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法の工程図を下記図1に概略的に示し、従来のネオペンチルグリコールの製造方法の工程図を下記図2に概略的に示す。下記図1及び図2に記載したように、本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応器にヒドロキシピバルデヒド(hydroxypivaldehyde;HPA)溶液と水素とを投入して水素化反応させるステップを含み、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液が水素化反応器に投入される前に、上記ヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節するステップを含む。
【0029】
本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節することにより、水素化反応の触媒の老化を鈍化させることができる。
【0030】
これによって、本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応の触媒の使用期間を増加させることができ、触媒の購買及び触媒の交換に係る工程費用を削減することができる。
【実施例
【0031】
以下、本願を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。ところが、本願に係る実施例は、種々の異なる形態に変形されることができ、本願の範囲が以下に述べる実施例に限定されるものとは解釈されない。本願の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本願をより完全に説明するために提供されるものである。
【0032】
<実施例>
<実施例1>
HPA溶液(HPA55重量%、NPG2重量%、2-エチルヘキサノール(2-ethylhexanol)25重量%、HO8.7重量%、高沸点物質9.3重量%)を準備した。
【0033】
上記HPA溶液中のHOの含量を5.49重量%に制御した後、Cu/SiO触媒が充填された固定層反応器(fixed bed reactor;FBR)に投入し、30bar、110℃で水素化反応を行ってネオペンチルグリコールを製造した。上記HPA溶液中のHOの含量は、蒸留カラムを用いて制御した。
【0034】
<実施例2>
上記FBRに投入されるHPA溶液中のHOの含量を5.02重量%に制御すること以外には、上記実施例1と同様に行った。
【0035】
<実施例3>
上記FBRに投入されるHPA溶液中のHOの含量を6.0重量%に制御すること以外には、上記実施例1と同様に行った。
【0036】
<比較例1>
上記FBRに投入されるHPA溶液中のHOの含量を制御する工程を排除したこと以外には、上記実施例1と同様に行った。このとき、上記FBRに投入されるHPA溶液中のHOの含量は、8.7重量%であった。
【0037】
<実験例>
実施例及び比較例で製造された反応生成物をICP-OESで分析して、Si濃度を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0038】
上記ICP-OES分析方法は、下記の通りである。
1)試料約10gを白金るつぼで正確に測定した。
2)ホットプレート(Hot plate)で加熱して溶媒成分を濃縮した。
3)硝酸1mLを入れて加熱した。
4)加熱して試料を乾燥させた。
5)濃硝酸1mLを加え、過酸化水素を200μl加えた(2~3回程度実施)。
6)有機物が溶解すると、硝酸1mLを入れて加熱した。
7)試料が完全に溶解すると、超純水10mLで希釈した。
8)ICP-OES(PERKIN-ELMER, OPTIMA 8300DV)で分析した。
【0039】
【表1】
【0040】
上記表1の結果のように、比較例1のようなネオペンチルグリコールの製造工程では、Cu/SiO触媒に含まれるSiの溶出量が多くて、触媒の長期安定性に問題が生じ得ることが確認できる。
【0041】
上記結果のように、本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を6.0重量%以下に調節することにより、水素化反応の触媒の老化を鈍化させることができる。特に、溶出されるSi含量を考慮するとき、水素化反応器に投入されるヒドロキシピバルデヒド溶液中に含まれたHOの含量を5.5重量%以下に調節することがより好ましい。
【0042】
これによって、本願の一実施態様に係るネオペンチルグリコールの製造方法は、水素化反応の触媒の使用期間を増加させることができ、触媒の購買及び触媒の交換に係る工程費用を削減することができる。
図1
図2