(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】フラボノイド配糖体の分解方法及びフラボノイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/30 20060101AFI20240116BHJP
C07D 311/40 20060101ALI20240116BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240116BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20240116BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240116BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240116BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240116BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240116BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240116BHJP
A61Q 19/04 20060101ALI20240116BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240116BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C07D311/30
C07D311/40
A61P3/10
A61P17/00
A61P17/18
A61P31/04
A61P31/12
A61P35/00
A61P37/08
A61P39/06
A61K8/49
A61K8/9789
A61Q19/04
A61K31/352
A61K36/752
(21)【出願番号】P 2019099600
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】上面 雅義
(72)【発明者】
【氏名】下見 明嗣
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大地
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/155890(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107501224(CN,A)
【文献】特開2011-153084(JP,A)
【文献】RAVBER, M. et al.,Optimization of hydrolysis of rutin in subcritical water using response surface methodology,Journal of Supercritical Fluids,2015年,104,pp. 145-152
【文献】RUEN-NGAM, D. et al.,Hydrothermal Hydrolysis of Hesperidin Into More Valuable Compounds Under Supercritical Carbon Dioxid,Industrial & Engineering Chemistry Research,2012年,51(42),pp. 13545-13551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 311/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド配糖体を含む原料液を収容した原料容器をオートクレーブ内に配置し、前記原料液を水熱処理することで、前記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する水熱処理工程を有し、
前記原料容器における前記原料液との接触面は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面であり、
前記接触面は、ホーロー処理されてなる面である、
フラボノイド配糖体の分解方法。
【請求項2】
フラボノイド配糖体を含む原料液を収容した原料容器をオートクレーブ内に配置し、前記原料液を水熱処理することで、前記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する水熱処理工程を有し、
前記原料容器における前記原料液との接触面は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面であり、
前記接触面は、ポリシラザン化合物により処理されてなる面である、
フラボノイド配糖体の分解方法。
【請求項3】
前記ポリシラザン化合物がペルヒドロポリシラザンである、請求項
2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記水熱処理工程後の前記オートクレーブ内の圧力を減圧する減圧工程を更に有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項5】
前記水熱処理は、前記オートクレーブ内に外部から水蒸気を供給することで行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項6】
前記水熱処理工程において、前記オートクレーブ内の圧力が0.2~1.6MPaであり、温度が120~200℃である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項7】
前記フラボノイド配糖体がスダチチン配糖体及び/又はデメトキシスダチチン配糖体を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法によりフラボノイド配糖体を分解する分解工程と、
前記分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する抽出工程と、
を含む、フラボノイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド配糖体の分解方法及びフラボノイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは、天然に存在する有機化合物群であり、柑橘類及び豆類をはじめとして、様々な植物の花、葉、根、茎、果実、種子等に含まれている。フラボノイドは、種類によって特徴及び作用が異なるが、その多くが強い抗酸化作用を有している。例えば、柑橘類に含まれるフラボノイドであるポリメトキシフラボンは、抗酸化作用、発ガン抑制作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗アレルギー作用、メラニン生成抑制作用、血糖値抑制作用等を有することが知られており、医薬品、健康食品、化粧品等の様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
柑橘類からフラボノイドを製造する方法としては、例えば、柑橘類の果皮等からエタノール水溶液でフラボノイドを抽出し、抽出されたフラボノイドを溶液中から回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフラボノイドの製造方法では、フラボノイドの収率が低いという問題がある。そのため、フラボノイドの収率を向上できる製造方法の開発が求められている。
【0006】
例えば柑橘類の果皮には、フラボノイドの他に、それよりも多量のフラボノイド配糖体が含まれているが、これをフラボノイドとして回収できれば、フラボノイドの収率を向上させることが可能である。フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する方法としては、フラボノイド配糖体を塩酸等の酸と反応させる方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、使用した酸が残存して製品中に混入するおそれがあると共に、酸とフラボノイドとの副反応生成物が生じる恐れがあるという問題がある。酸及び副生成物等の不純物を除去する方法としては、分解生成物中のフラボノイドを液体クロマトグラフィーにより分離・精製する方法が挙げられるが、高コストであり且つ生産効率が悪いという問題がある。そのため、酸を用いない新たなフラボノイド配糖体の分解方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸を用いなくてもフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解でき、フラボノイドの収率を向上できるフラボノイド配糖体の分解方法、及び、フラボノイドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、フラボノイド配糖体を含む原料液を収容した原料容器をオートクレーブ内に配置し、上記原料液を水熱処理することで、上記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する水熱処理工程を有し、上記原料容器における上記原料液との接触面は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面である、フラボノイド配糖体の分解方法を提供する。
【0009】
上記方法によれば、酸を用いることなく、水熱処理によりフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解することができる。また、この方法を用いることで、フラボノイドを低コストで効率的に製造することが可能となる。
【0010】
また、本発明者らは、水熱処理によりフラボノイド配糖体を分解する方法において、水熱処理後において配糖体分解物が析出し、原料容器における原料液との接触面に配糖体分解物が付着する現象が生じることを見出した。配糖体分解物には、配糖体分解されたフラボノイド及び生成した糖のカラメル反応生成物等が含まれる。原料容器として一般的であるステンレス容器及びポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる容器等をそのまま用いた場合には、原料容器における原料液との接触面に析出物が強く付着してしまうため、これを取り出すために薬さじ等で接触面を長時間強くこする必要があり、配糖体分解物の取り出しに時間がかかってしまう。また、薬さじ等で原料容器における原料液との接触面を強くこするため、接触面又は薬さじ等が削れ、異物の混入の恐れがある。これらの問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、原料容器における原料液との接触面が、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面であることにより、配糖体分解物の該接触面に対する付着を抑制し、配糖体分解物の取り出し時間が短い場合であってもフラボノイドの収率を向上できることを見出した。原料容器における原料液との接触面が、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面であることにより、配糖体分解物の該接触面に対する付着を抑制できることについて、本発明者らは以下のように推察している。すなわち、配糖体分解物は疎水性である。それに対して、原料容器における原料液との接触面は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満であり、親水性である。そのため、疎水性である配糖体分解物と、親水性である原料液に対する接触面とが互いに反発する。それにより、析出した配糖体分解物は、原料容器における接触面に対して付着しにくい。
【0011】
上記分解方法において、上記接触面は、ホーロー処理されてなる面であってよい。上記接触面がホーロー処理されてなる面であることで、上記接触面の測定温度25℃における水に対する接触角をより低減することができ、析出した配糖体分解物が原料容器に対して一層付着しにくくなる。
【0012】
上記分解方法において、上記接触面は、ポリシラザン化合物により処理されてなる面であってよい。上記接触面がポリシラザン化合物により処理されてなる面であることで、上記接触面の測定温度25℃における水に対する接触角をより低減することができ、析出した配糖体分解物が原料容器に対して一層付着しにくくなる。
【0013】
上記ポリシラザン化合物がペルヒドロポリシラザンであってよい。上記ポリシラザン化合物がペルヒドロポリシラザンであることで、上記接触面の測定温度25℃における水に対する接触角を更に低減することができ、析出した配糖体分解物が原料容器に対して一層付着しにくくなる。
【0014】
上記分解方法において、上記水熱処理は、上記オートクレーブ内に外部から水蒸気を供給することで行われてもよい。水蒸気を外部から供給することで、オートクレーブ内を短時間で昇温昇圧することができ、水熱処理環境を容易に形成及び維持することができる。
【0015】
上記分解方法の上記水熱処理工程において、上記オートクレーブ内の圧力が0.2~1.6MPaであり、温度が120~200℃であってもよい。上記圧力及び温度の範囲で水熱処理を行うことで、フラボノイド配糖体をより効率的にフラボノイドに分解することができ、フラボノイドの収率をより向上させることができる。
【0016】
上記分解方法において、上記フラボノイド配糖体はスダチチン配糖体及び/又はデメトキシスダチチン配糖体を含んでいてもよい。上記分解方法によれば、スダチチン配糖体及びデメトキシスダチチン配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0017】
本発明はまた、上記本発明の分解方法によりフラボノイド配糖体を分解する分解工程と、上記分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する抽出工程と、を含む、フラボノイドの製造方法を提供する。係る製造方法によれば、フラボノイドを高い収率で、低コスト且つ効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸を用いなくてもフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解でき、フラボノイドの収率を向上できるフラボノイド配糖体の分解方法、及び、フラボノイドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のフラボノイド配糖体の分解方法に用いるオートクレーブの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(フラボノイド配糖体の分解方法)
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の分解方法は、フラボノイド配糖体を含む原料液を収容した原料容器をオートクレーブ内に配置し、上記原料液を水熱処理することで、上記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する水熱処理工程を有し、上記原料容器における上記原料液との接触面は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面である。
【0023】
フラボノイド配糖体は、フラボノイドと糖とがグリコシド結合により結合した構造を有する親水性の化合物である。フラボノイド配糖体の元となるフラボノイドは、フェニルクロマン骨格を基本構造とする芳香族化合物であり、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノノール類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、カルコン類、オーロン類等が挙げられる。これらの中でも、フラボノイドは、フラボン類であるポリメトキシフラボンであってもよい。
【0024】
ポリメトキシフラボンとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチン、ペンタメトキシフラボン、テトラメトキシフラボン、ヘプタメトキシフラボン等が挙げられる。これらの中でも、ポリメトキシフラボンは、スダチチン、又は、デメトキシスダチチンであってもよい。
【0025】
フラボノイド配糖体の元となる糖としては特に限定されず、上述したフラボノイドとグリコシド結合により結合して配糖体を形成することができる公知の糖が挙げられる。
【0026】
水熱処理に供する原料液は、フラボノイド配糖体を含む原料を水に溶解又は分散させたものである。なお、原料は、フラボノイド配糖体以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、フラボノイド、水溶性食物繊維、難溶性食物繊維、糖類等が挙げられる。
【0027】
原料におけるフラボノイド配糖体の含有量は、原料の固形分全量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.25~30質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが更に好ましい。原料がフラボノイドを更に含む場合、フラボノイド配糖体の含有量は、フラボノイドの含有量1質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることが更に好ましい。
【0028】
原料液中の原料の濃度は、原料液全量を基準として、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることが更に好ましい。原料の濃度が1質量%以上であると、分解生成物の収量が増えるため、一度の分解処理で得られるフラボノイドの量が増加する傾向があり、30質量%以下であると、フラボノイド配糖体の分解をより確実に且つ効率的に行うことができる傾向がある。
【0029】
原料として具体的には、植物及び海草の花、葉、根、茎、果実、種子等を用いることができる。特に果皮はポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するため、柑橘果実の搾汁残渣を好適に用いることができる。また、原料は、柑橘類から得られた乾燥粉末であってもよく、柑橘類の果皮から得られた乾燥粉末であってもよい。柑橘類としては、スダチ、温州みかん、ポンカン、シークワサー等が挙げられる。柑橘類は、スダチチン及びデメトキシスダチチン等のポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するスダチであってもよい。
【0030】
水熱処理は、原料液を収容した原料容器をオートクレーブ内に配置し、オートクレーブを密封したまま100℃を超える温度で加熱することで行うことができる。上記原料液がオートクレーブ内で加熱されることで、オートクレーブ内が加熱及び加圧環境となり、水熱処理(水熱合成)が行われる。水熱処理は、原料液を撹拌しながら行ってもよい。
【0031】
また、水熱処理は、オートクレーブ内に外部から水蒸気を供給して行ってもよい。例えば高温高圧の飽和水蒸気をオートクレーブ内に供給することで、オートクレーブ内が加熱及び加圧環境となり、水熱処理(水熱合成)が行われる。オートクレーブとしては特に限定されず、縦型又は横型のいずれであってもよい。縦型オートクレーブを用いる場合、原料液を収容した原料容器を台の上に配置してもよい。縦型オートクレーブを用いる場合、原料液とは別に、オートクレーブの槽内に水を入れてもよい。一方、横型オートクレーブを用いる場合は、例えば以下の方法で水熱処理を行うことができる。
【0032】
図1は、上記分解方法で用いるオートクレーブ(水平循環型オートクレーブ)の一例を示す模式断面図である。
図1に示すオートクレーブ100では、一端に密閉可能な扉(密閉扉)1を備えた円筒状の圧力容器(槽)2内に、両端が開放された円筒状のマッフル炉3が配置されており、圧力容器2の内壁とマッフル炉3の外壁との間に風路4が形成されている。また、マッフル炉3の一端は、クーラー6、ヒーター5及び風路9を介して循環ファン8に接続されている。循環ファン8は、圧力容器2の密閉扉1とは反対側の端部の外部に配置されたモーター7の回転軸に取り付けられている。
【0033】
マッフル炉3の内部には、可動台12が配置されており、当該可動台12上に、原料液10を収容した原料容器11が載置される。圧力容器2には、水蒸気を供給するためのボイラー13がバルブ14を備えた配管を介して接続されている。また、圧力容器2には、内部の圧力を調整するために圧力計15及び圧力弁16を備えた配管が接続されている。
【0034】
水熱処理工程において、ボイラー13から圧力容器2内に供給された水蒸気は、
図1中の矢印に沿ってオートクレーブ100内を循環する。すなわち、水蒸気は、循環ファン8により風路4に送り出されて密閉扉1に向かった後、マッフル炉3内に流入し、原料容器11の周囲を流れ、クーラー6、ヒーター5及び風路9を通って循環ファン8に吸引され、再び風路4に送り出される。水蒸気の供給量は、オートクレーブ100内が所定の温度及び圧力となるように、バルブ14の操作により調整される。なお、オートクレーブ100内の温度は、ヒーター5及びクーラー6により調整可能してもよい。また、オートクレーブ100内の圧力は、圧力弁16の開閉により調整してもよい。上記操作により、オートクレーブ100内が加熱及び加圧環境となり、水熱処理(水熱合成)が行われる。
【0035】
原料容器11は、原料液10との接触面20を備える。接触面20は、原料容器11の内面のうち、原料液10と接する面である。接触面20は、測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面である。原料容器11の内面は、その全体が測定温度25℃における水に対する接触角が35°未満である面であってよい。原料容器11の外面の測定温度25℃における水に対する接触角は、特に限定されない。
【0036】
接触面20の測定温度25℃における水に対する接触角は、35°未満であり、配糖体分解物の接触面20に対する付着を一層抑制し、配糖体分解物の取り出し時間が短い場合であってもフラボノイドの収率を一層向上できることから、15°未満であることが好ましく、5°未満であることがより好ましい。接触面20の測定温度25℃における水に対する接触角は、0.01°以上であってよい。
【0037】
測定温度25℃における水に対する接触角は、以下のように測定された値を指す。すなわち、温度25℃の環境下で、接触角計を用いて測定する。原料容器11における原料液10との接触面に対して、水を用いて5回ずつ接触角を測定し、その平均値を接触角とする。水としては、例えば、超純水を用いることができる。
【0038】
原料容器11の材質は、水熱処理時の温度及び圧力に耐えられると共に、原料液10への不純物の混入が少ないものであれば特に限定されず、例えば、ステンレス、チタン及びその合金等の金属、又は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリアミドイミド等の化学的に安定で耐熱性の高い樹脂などを用いることができる。
【0039】
原料容器11の形状は、特に制限されないが、例えば、タンク状、ボトル状、カップ状、トレイ状、又は、ドラム状等であってよい。
【0040】
原料容器11における原料液10との接触面は、親水化処理されてなる面であることが好ましい。親水化処理としては、例えば、ホーロー処理、ポリシラザン化合物による処理、アルコキシシラン化合物による処理、酸素、窒素等のプラズマ処理等が挙げられる。配糖体分解物の接触面20に対する付着を一層抑制し、配糖体分解物の取り出し時間が短い場合であってもフラボノイドの収率を一層向上できることから、親水化処理は、ホーロー処理又はポリシラザン化合物による処理であることが好ましい。
【0041】
ポリシラザン化合物としては、ペルヒドロポリシラザン等が挙げられる。配糖体分解物の接触面20に対する付着を一層抑制し、配糖体分解物の取り出し時間が短い場合であってもフラボノイドの収率を一層向上できることから、ポリシラザン化合物は、ペルヒドロポリシラザンであることが好ましい。
【0042】
水熱処理の反応条件は特に限定されないが、例えば、110~300℃で0.5~20時間とすることができる。反応温度は、120~200℃であることが好ましく、120~190℃であることがより好ましく、140~185℃であることが更に好ましい。反応温度が110℃以上であると、水熱反応がより良好に発生しやすい傾向があり、300℃以下であると、原料及びフラボノイドの炭化が進行しにくく、収率がより向上する傾向がある。反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、反応がより進みやすくなる傾向があり、20時間以下であると、反応の進行とコストとのバランスがとりやすくなる傾向がある。
【0043】
水熱処理時のオートクレーブ内の圧力は、上記反応温度に対応する飽和蒸気圧又はそれ以上であればよいが、装置の耐圧性の観点から、飽和蒸気圧であることが好ましい。ボイラーからオートクレーブ内に水蒸気を供給する場合、上述した反応温度の飽和水蒸気を供給することが好ましい。水熱処理時のオートクレーブ内の圧力は、例えば、0.2~1.6MPaとすることができる。
【0044】
上記条件で水熱処理を行うことで、フラボノイド配糖体をフラボノイドに(より具体的にはフラボノイドと糖に)、効率的に分解することができる。
【0045】
次に、上述した方法で水熱処理工程を行った後、オートクレーブ内の圧力を減圧する減圧工程を行ってもよい。オートクレーブ内の減圧は、圧力弁を開いてオートクレーブ内の水蒸気を排出することにより行うことができる。減圧時の減圧速度は、圧力弁で調整することができる。減圧は、オートクレーブ内の圧力を圧力計により確認しながら行うことが好ましい。減圧工程における減圧速度は、特に制限されないが、例えば、140kPa/分以下であってよい。減圧工程における減圧速度は、特に制限されないが、例えば、5kPa/分以上であってよい。なお、減圧工程において、減圧速度は常に一定である必要はなく、減圧速度を変動させてもよい。
【0046】
上記減圧工程により、オートクレーブ内を大気圧(0.1MPa)まで減圧した後は、原料液は自然冷却により常温まで冷却することができる。これにより、フラボノイド配糖体の分解生成物(配糖体分解物)を得ることができる。
【0047】
(フラボノイドの製造方法)
本実施形態に係るフラボノイドの製造方法は、フラボノイド配糖体を分解する分解工程と、分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する抽出工程と、を含む。分解工程は、上述した本実施形態に係るフラボノイド配糖体の分解方法によりフラボノイド配糖体を分解する工程である。
【0048】
抽出工程では、分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する。分解生成物には、フラボノイドの他に、糖、分解させずに残ったフラボノイド配糖体、水溶性及び難溶性セルロース並びにその分解物等が含まれている。ここで、フラボノイドは疎水性であるのに対し、糖、フラボノイド配糖体、水溶性セルロース及びその分解物は親水性である。そのため、水熱処理後の水溶液に不溶な成分にはフラボノイドが高濃度で含まれており、水熱処理後に水溶液と不溶分とを分離することで、フラボノイドを濃縮することができる。また、更に水不溶分を、フラボノイドを溶解する溶媒、例えばエタノール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン等、及び、それらの混合溶媒に溶解し、不溶物をろ過等により除去することで、フラボノイドを更に抽出・精製することができる。その後、濾液を乾燥させることにより、高濃度フラボノイドを得ることができる。
【0049】
上記方法により、フラボノイドを高い収率で効率的に製造することができる。本実施形態の製造方法で製造されるフラボノイドは、ポリメトキシフラボンであってもよく、スダチチン及び/又はデメトキシスダチチンであってもよい。本実施形態の製造方法は、ポリメトキシフラボン、特にスダチチン及びデメトキシスダチチンの製造に好適であり、その収率を大きく向上させることができる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図1に示したオートクレーブ100は、一つの循環ファン8を備えるものであるが、複数の循環ファンを備えるオートクレーブを用いてもよい。例えばマッフル炉3内の複数箇所に循環ファンを設置した場合、マッフル炉3内の温度を均一にしやすい。そのため、原料液を収容した原料容器を複数オートクレーブ内に配置した場合であっても、各原料液の温度が均一になりやすい。また、
図1に示したオートクレーブ100は、クーラー6及びヒーター5を備えているが、それらの一方又は両方を備えていなくてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
スダチチン含有量1000質量ppm、配糖体由来スダチチン含有量9000質量ppmであるスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)を超純水に5質量%となるように溶解/分散させ、スダチ果皮エキス水分散液を作製した。この水分散液を容器に12L投入した。容器としては、18.5Lホーロータンク(野田琺瑯製)を用いた。ホーロータンクは、鉄製のタンクの内面全体にホーロー処理されてなるものである。次いで、槽内容積2m3の熱風循環式オートクレーブ(株式会社芦田製作所製)に収容し、180℃で1時間、スダチ果皮エキス水分散液を配糖体分解処理した。分解処理は、ボイラーからオートクレーブの槽(圧力容器)内に180℃の飽和水蒸気を供給し、槽内圧力が180℃の水の飽和水蒸気圧である1MPaになるように水蒸気の供給量及び圧力弁を調整しながら行った。分解処理後の槽内の圧力は、圧力0.9MPa、槽内の温度は180℃であった。槽内の圧力が0.7MPa、槽内の温度が165℃となるまで、オートクレーブを10分間自然冷却した。自然冷却後、バルブを開き、装置に取り付けられているコンプレッサーを用いて、圧力1MPaの圧縮空気を槽内に送り込んだ。圧縮空気を送り込んだ直後の槽内の圧力は、1MPaを超えていたため、排気弁の開閉を手動で行うことにより、0.75MPaを下回らない圧力を維持しながら、圧縮空気を槽内に導入し、圧縮空気による冷却を開始した。冷却中、適宜、その時点での飽和水蒸気圧を下回らないよう槽内圧力を低下させながら冷却を行った。圧縮空気による冷却開始から2時間後に、水分散液の温度が100℃を下回った(水分散液の飽和水蒸気圧が常圧(0.1MPa)を下回った)ため、槽の蓋を開けて容器を取り出し、常温(25℃)まで自然冷却した。冷却後、容器内面に析出・付着した配糖体分解物を、取り出し時間を5分とし、薬さじを用いて取り出した。取り出した配糖体分解物の収量を表1に示した。
【0053】
次に、容器内の溶液及び固形分を目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。分離された溶液には分解された配糖体由来の糖が溶解しており、固形物には分解したスダチチンが高濃度で含まれているので、得られた固形物を200ccのガラス製ビーカに入れて、オーブンで120℃にて5時間乾燥して、粉末状の配糖体分解物を得た。次いで配糖体分解物をエタノールにて5%分散液になるよう調整し、還流下60℃で1時間処理し、エタノールにスダチチンを抽出し、目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過しスダチチン溶解液を得た。得られたスダチチン溶解液を60℃加温下でダイアフラムポンプを用いて真空乾燥し、粉末状のスダチチン濃縮粉末を得た。
【0054】
(実施例2)
容器として、18.5Lホーロータンクに代えて、親水化処理を行ったステンレスタンクを用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のスダチチン濃縮粉末を得た。親水化処理を行ったステンレスタンクは、15Lステンレスタンク(日東金属工業株式会社製、容器深さ:27cm)の内面全体に対して、固形分2%のペルヒドロポリシラザンをスプレーにて塗布後、140℃で1時間焼き付け処理を施すことにより得た。
【0055】
(比較例1)
容器として、18.5Lホーロータンクに代えて、15Lステンレスタンク(日東金属工業株式会社製、容器深さ:27cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のスダチチン濃縮粉末を得た。
【0056】
<評価方法>
(スダチチン濃縮粉末のスダチチン濃度測定)
各実施例及び比較例で得られたスダチチン濃縮粉末のスダチチン濃度は、以下の方法で測定した。まず、スダチチン濃縮粉末0.1gを希釈倍率500となるようにエタノールに溶解/分散させ、孔径0.1μmのPTFEフィルターで濾過して、エタノール溶液を得た。このエタノール溶液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により成分分析を行った。標準物質に市販のスダチチン標準精製試料を用いて検量線を作成し、それを用いてスダチチン濃縮粉末中のスダチチン濃度を概算した。HPLC装置には、日立ハイテク製「クロムマスター」を用いた。結果を表1に示す。
【0057】
(スダチチンの収率の算出)
スダチチン濃縮粉末の質量及びスダチチン濃度から、スダチチンの収率を求めた。収率は、原料容器に投入した水分散液に含まれるスダチチン及び配糖体由来スダチチンの質量の合計に対する、得られたスダチチン濃縮粉末に含まれるスダチチンの質量の割合を示す。
【0058】
<接触角の測定>
測定温度25℃における水に対する接触角は、湿度40%RHの環境下で、協和界面科学株式会社製の接触角計DM-501型を用いて行った。原料容器における原料液との接触面に対して、超純水を用いて5回ずつ接触角を測定し、その平均値を接触角として得た。水の滴下量を1μlとし、3秒静置後の接触角を読み取った。水として、超純水製造装置(PRO-0500(型番)、オルガノ株式会社製)から採水した超純水(電気抵抗率:18MΩ・cm以上)を用いた。結果を表1に示した。
【0059】
【0060】
実施例及び比較例で得られたスダチチン濃縮粉末中のスダチチン濃度は、全て9質量%を上回っており、配糖体分解処理が適正になされていることが確認できる。原料容器における原料液と接触する面の接触角が35°未満である実施例1及び2においては、収率が80質量%を超えており、配糖体分解物が効率的に回収されている。
【符号の説明】
【0061】
1…密閉扉、2…圧力容器、3…マッフル炉、4…風路、5…ヒーター、6…クーラー、7…モーター、8…循環ファン、9…風路、10…原料液、11…原料容器、12…可動台、13…ボイラー、14…バルブ、15…圧力計、16…圧力弁、20…接触面。