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特許7419674金属ペースト、焼結体、配線、物品、焼結体の製造方法及び物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】金属ペースト、焼結体、配線、物品、焼結体の製造方法及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20240116BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240116BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240116BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240116BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240116BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
B22F9/00 B
B22F1/00 L
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019103704
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020198216
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】川名 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】中子 偉夫
(72)【発明者】
【氏名】根岸 征央
(72)【発明者】
【氏名】須鎌 千絵
(72)【発明者】
【氏名】江尻 芳則
(72)【発明者】
【氏名】谷中 勇一
(72)【発明者】
【氏名】米倉 元気
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-313805(JP,A)
【文献】特開2018-152403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
H01B 13/00
B22F 9/00
B22F 1/00
B22F 1/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子を含む金属粒子と、前記金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体と、を含有し、
前記金属錯体の含有量が、前記銅粒子100質量部に対して、5~20質量部であり、
前記金属粒子が、最大径が1μm以上であるフレーク状の第1の銅粒子と、最大径が0.8μm以下である第2の銅粒子とを含み、
第1の銅粒子の体積平均粒径が1~50μmであり、前記第2の銅粒子の体積平均粒径が0.10~0.8μmである、金属ペースト。
【請求項2】
前記分散媒の含有量が、前記金属ペーストの全質量を基準として、5~30質量%である、請求項に記載の金属ペースト。
【請求項3】
銅粒子を含む金属粒子と、前記金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体と、を含有する金属ペーストであって、
前記分散媒の含有量が、前記金属ペーストの全質量を基準として、5~30質量%であり、
前記金属粒子が、最大径が1μm以上であるフレーク状の第1の銅粒子と、最大径が0.8μm以下である第2の銅粒子とを含み、
第1の銅粒子の体積平均粒径が1~50μmであり、前記第2の銅粒子の体積平均粒径が0.10~0.8μmである、金属ペースト。
【請求項4】
前記金属錯体の中心金属が、パラジウム又は金である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項5】
前記金属錯体の配位子が、酢酸、アセチルアセトン及びトリメチル酢酸からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項6】
配線形成用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属ペーストの焼結体。
【請求項8】
表面にめっき層を有しない配線であって、
金属ペーストの焼結体により構成され、
前記金属ペーストが、
(i)請求項1~6のいずれか一項に記載の金属ペーストであるか、又は、
(ii)銅粒子を含む金属粒子と、前記金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体と、を含有し、前記金属粒子が、最大径が1μm以上であるフレーク状の第1の銅粒子と、最大径が0.8μm以下である第2の銅粒子とを含み、第1の銅粒子の体積平均粒径が1~50μmであり、前記第2の銅粒子の体積平均粒径が0.10~0.8μmであることを特徴とする金属ペーストである、
配線。
【請求項9】
表面にめっき層を有しない配線であって、
焼結銅及び当該焼結銅中に分散した銅よりも貴な金属とを含み、
延在方向に垂直な断面の周縁部分に銅よりも貴な金属が偏在する領域を有する、配線。
【請求項10】
前記銅よりも貴な金属が、パラジウム又は金である、請求項9に記載の配線。
【請求項11】
基材と、当該基材上に設けられた、請求項8~10のいずれか一項に記載の配線と、を備える、物品。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属ペーストを前記金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させる、焼結体の製造方法。
【請求項13】
基材と、当該基材上に設けられ、表面にめっき層を有しない配線と、を備える、物品の製造方法であって、
属ペーストを基材上に配置する工程と、
前記金属ペーストを前記金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させて、金属ペーストの焼結体により構成される配線を形成する工程と、を備え、
前記金属ペーストが、
(i)請求項1~6のいずれか一項に記載の金属ペーストであるか、又は、
(ii)銅粒子を含む金属粒子と、前記金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体と、を含有し、前記金属粒子が、最大径が1μm以上であるフレーク状の第1の銅粒子と、最大径が0.8μm以下である第2の銅粒子とを含み、第1の銅粒子の体積平均粒径が1~50μmであり、前記第2の銅粒子の体積平均粒径が0.10~0.8μmであることを特徴とする金属ペーストである、
物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ペースト、焼結体、配線、物品、焼結体の製造方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属パターンの形成方法として、金属粒子を含むインク、ペースト等の導電材料をインクジェット印刷、スクリーン印刷等により基材上に金属を含む層を形成する工程と、導電材料を加熱して金属粒子を焼結させ、導電性を発現させる導体化工程とを含む、いわゆるプリンテッドエレクトロニクス法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
近年、配線の小型軽量化の観点から、Molded Interconnect Devices(以下、「MID」という場合がある。)に注目が集まっている。MIDは、凹凸面、曲面等の三次元形状の面を有する成形体(以下、「三次元成形体」という場合がある。)に直接配線が形成された部材である。MIDは、例えば配線上にはんだを用いて電子部品が実装されることにより、種々の分野で利用されている。MIDの形成技術によれば、デバイスのデッドスペースに配線を形成した構造、ハーネスを除去した構造等が作製できるため、車載用部材の軽量化、スマートフォンの小型化等が可能となる。一般に、MIDの形成技術としては、Laser Direct Structuring法(以下、「LDS法」という場合がある。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-072418号公報
【文献】特開2014-148732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MID等の配線が銅を含む場合、配線には、銅の酸化による腐食を防止する観点から、めっき(例えば銅よりも貴な金属によるめっき)が施されることがある。しかしながら、めっきには、製造工程が増えると共に、環境への負荷が大きいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、めっきを用いなくても銅の酸化による腐食が起こり難い配線を形成可能な金属ペーストを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、銅粒子を含む金属ペーストに対し、銅の焼結温度で熱分解可能な特定の金属錯体を添加することにより、得られる配線の耐腐食性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の一側面は、銅粒子を含む金属粒子と、前記金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体と、を含有する、金属ペーストに関する。
【0009】
上記側面の金属ペーストによれば、めっきを用いなくても銅の酸化による腐食が起こり難い配線を形成することができる。このような効果が得られる理由を、本発明者らは以下のように推察している。
【0010】
一般的に、銅は150~400℃の範囲で焼結させることができるため、上記側面の金属ペーストを銅の焼結温度で焼結させた場合、銅粒子の焼結物(以下、「焼結銅」という)の形成と共に、金属錯体が熱分解し、金属錯体を構成する金属が析出する。この際、当該金属は焼結銅の表面部分に偏って析出しやすいため、上記側面の金属ペーストにより形成される配線(金属ペーストの焼結体により構成されている配線)では、焼結銅の外部に露出する部分が析出した金属によって被覆されることとなる。また、焼結銅が空隙を有する場合、上記金属が当該空隙部分にも析出し得るため、焼結銅の空隙に露出する部分も上記金属によって被覆され得る。このような構造により、銅の酸化が抑制され、上記効果が得られると推察される。
【0011】
金属錯体の中心金属は、パラジウム又は金であってよい。
【0012】
金属錯体の配位子は、酢酸、アセチルアセトン及びトリメチル酢酸からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0013】
金属錯体の含有量は、銅粒子100質量部に対して、2~10質量部であってよい。
【0014】
分散媒の含有量は、金属ペーストの全質量を基準として、2~50質量%であってよい。
【0015】
上記金属ペーストは、配線形成用であってよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、上記金属ペーストの焼結体に関する。
【0017】
本発明の他の一側面は、上記焼結体により構成される配線に関する。
【0018】
本発明の他の一側面は、焼結銅及び当該焼結銅中に分散した銅よりも貴な金属とを含み、延在方向に垂直な断面の周縁部分に銅よりも貴な金属が偏在する領域を有する、配線に関する。この配線に含まれる銅よりも貴な金属は、パラジウム又は金であってよい。
【0019】
本発明の他の一側面は、基材と、当該基材上に設けられた上記配線と、を備える、物品に関する。
【0020】
本発明の他の一側面は、上記金属ペーストを金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させる、焼結体の製造方法に関する。
【0021】
本発明の他の一側面は、上記金属ペーストを基材上に配置する工程と、金属ペーストを金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させて、金属ペーストの焼結体により構成される配線を形成する工程と、を備える、物品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、めっきを用いなくても銅の酸化による腐食が起こり難い配線を形成可能な金属ペーストを提供することができる。また、本発明によれば、上記金属ペーストの焼結体、当該焼結体の製造方法、当該焼結体により構成される配線、当該配線を備える物品及び当該物品の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、銅の酸化による腐食が起こり難い配線、当該配線を備える物品及び当該物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の配線を備える物品の一例を示す模式断面図である。
図2】実施例で得られた配線の断面をエネルギー分散型X線分光法で分析して得られた、配線断面のSEM画像、銅マッピング画像及びパラジウムマッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。金属ペースト中の各成分の含有量は、金属ペースト中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、金属ペースト中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0026】
<金属ペースト>
本実施形態の金属ペーストは、銅粒子を含む金属粒子と、金属粒子を分散する分散媒と、150~400℃の範囲に熱分解温度を有し、且つ、銅よりも貴な金属を中心金属とする金属錯体(以下、単に「金属錯体」ともいう。)と、を含有する。
【0027】
本実施形態の金属ペーストは、例えば、金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させることにより焼結させることができる。これにより、金属ペーストの焼結体が得られる。得られる焼結体は、焼結銅(銅粒子の焼結物)と、金属錯体由来の銅より貴な金属と、を含む。
【0028】
本実施形態の金属ペーストの焼結体は銅の酸化による腐食に対して優れた耐性を有する。そのため、上記金属ペーストを配線形成材料として用いることにより、めっきを用いなくても銅の酸化による腐食が起こり難い配線を形成することができる。また、上記金属ペーストにより形成される配線では銅の酸化が起こり難いため、配線上へのはんだ付け性に優れる傾向がある。そのため、上記金属ペーストでは、ニッケルめっき等を用いる場合に必要となるフラックスを使用する必要がないという利点も得られる。
【0029】
以下、本実施形態の金属ペーストが含有し得る成分について詳細に説明する。
【0030】
(金属粒子)
金属粒子は、銅粒子を少なくとも含む。銅粒子は、不可避的に含まれる銅以外の金属を含んでいてもよいが、主成分が銅であることが好ましい。本明細書では、便宜上、複数の金属粒子の集合を「金属粒子」と称することがある。銅粒子についても同様である。
【0031】
一態様において、金属粒子は、銅粒子として、体積平均粒径が0.12~0.8μmである銅粒子を含んでいてよい。本明細書において体積平均粒径とは、50%体積平均粒径を意味する。銅粒子の体積平均粒径を求める場合、原料となる銅粒子、又は金属ペーストから揮発成分を除去した乾燥銅粒子を、分散剤を用いて分散媒に分散させたものを光散乱法粒度分布測定装置(例えば、島津ナノ粒子径分布測定装置(SALD-7500nano,株式会社島津製作所製)で測定する方法等により求めることができる。光散乱法粒度分布測定装置を用いる場合、分散媒としては、ヘキサン、トルエン、α-テルピネオール等を用いることができる。
【0032】
他の一態様において、金属粒子は、銅粒子として、粒径(最大径)が1μm以上である銅粒子(第1の銅粒子)を含んでいてよく、粒径(最大径)が0.8μm以下である銅粒子(第2の銅粒子)を含んでいてもよい。
【0033】
金属粒子が、第1の銅粒子及び第2の銅粒子の両方を含む場合、乾燥に伴う体積収縮及び焼結収縮が大きくなりにくく、金属ペーストの焼結時に被着面より剥離しにくくなる。すなわち、第1の銅粒子と第2の銅粒子とを併用することで、金属ペーストを焼結させたときの体積収縮が抑制され、配線と基材との密着性が向上する傾向がある。
【0034】
[第1の銅粒子]
第1の銅粒子は、好ましくは、粒径が1~50μmの銅粒子を含む。第1の銅粒子は、例えば、粒径が1~50μmの銅粒子を50質量%以上含むことができる。得られる配線の基材への密着性が向上する観点から、第1の銅粒子における粒径が1~50μmの銅粒子の含有量は、70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0035】
銅粒子の粒径は、例えば、SEM像から算出することができる。具体的には、まず、銅粒子の粉末を、SEM用のカーボンテープ上にスパチュラで載せ、SEM用サンプルとする。このSEM用サンプルをSEM装置により5000倍で観察する。このSEM像の銅粒子に外接する四角形を画像処理ソフトにより作図し、その一辺をその粒子の粒径とする。外接する四角形が長方形である場合には、その長辺をその粒子の粒径(最大径)とする。
【0036】
第1の銅粒子の体積平均粒径は、1~50μmであってよい。第1の銅粒子の体積平均粒径が上記範囲内であれば、金属ペーストを焼結した際の体積収縮を充分に低減でき、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。より一層上記効果を奏する観点から、第1の銅粒子の体積平均粒径は、1~20μmであってもよい。
【0037】
第1の銅粒子の形状は、好ましくはフレーク状である。第1の銅粒子としてフレーク状の銅粒子を用いることで、金属ペースト内の第1の銅粒子が、接合面に対して略平行に配向することにより、金属ペーストを焼結させたときの体積収縮を抑制でき、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。このような効果が得られやすい観点から、フレーク状の銅粒子のアスペクト比は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上であり、更に好ましくは6.0以上である。第1の銅粒子はフレーク状の銅粒子のみからなっていてよい。なお、本明細書において、「フレーク状」とは、板状、鱗片状等の平板状の形状を包含する。また、本明細書において、「アスペクト比」とは、粒子の長辺/厚さを示す。粒子の長辺及び厚さの測定は、例えば、粒子のSEM像から求めることができる。
【0038】
フレーク状の第1の銅粒子の最大径及び平均最大径は、1~50μmであってよく、1~20μmであってもよい。フレーク状の銅粒子の最大径及び平均最大径の測定は、例えば、粒子のSEM像から求めることができ、フレーク状の銅粒子の長径X及び長径の平均値Xavとして求められる。長径Xは、フレーク状の銅粒子の三次元形状において、フレーク状の銅粒子に外接する平行二平面のうち、この平行二平面間の距離が最大となるように選ばれる平行二平面の距離である。
【0039】
第1の銅粒子は、特定の表面処理剤で処理されていてもよい。特定の表面処理剤としては、例えば、炭素数8~16の有機酸が挙げられる。炭素数8~16の有機酸としては、例えば、カプリル酸、メチルヘプタン酸、エチルヘキサン酸、プロピルペンタン酸、ペラルゴン酸、メチルオクタン酸、エチルヘプタン酸、プロピルヘキサン酸、カプリン酸、メチルノナン酸、エチルオクタン酸、プロピルヘプタン酸、ブチルヘキサン酸、ウンデカン酸、メチルデカン酸、エチルノナン酸、プロピルオクタン酸、ブチルヘプタン酸、ラウリン酸、メチルウンデカン酸、エチルデカン酸、プロピルノナン酸、ブチルオクタン酸、ペンチルヘプタン酸、トリデカン酸、メチルドデカン酸、エチルウンデカン酸、プロピルデカン酸、ブチルノナン酸、ペンチルオクタン酸、ミリスチン酸、メチルトリデカン酸、エチルドデカン酸、プロピルウンデカン酸、ブチルデカン酸、ペンチルノナン酸、ヘキシルオクタン酸、ペンタデカン酸、メチルテトラデカン酸、エチルトリデカン酸、プロピルドデカン酸、ブチルウンデカン酸、ペンチルデカン酸、ヘキシルノナン酸、パルミチン酸、メチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、プロピルトリデカン酸、ブチルドデカン酸、ペンチルウンデカン酸、ヘキシルデカン酸、ヘプチルノナン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸、エチルシクロヘキサンカルボン酸、プロピルシクロヘキサンカルボン酸、ブチルシクロヘキサンカルボン酸、ペンチルシクロヘキサンカルボン酸、ヘキシルシクロヘキサンカルボン酸、ヘプチルシクロヘキサンカルボン酸、オクチルシクロヘキサンカルボン酸、ノニルシクロヘキサンカルボン酸等の飽和脂肪酸;オクテン酸、ノネン酸、メチルノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、パルミトレイン酸、サビエン酸等の不飽和脂肪酸;テレフタル酸、ピロメリット酸、o-フェノキシ安息香酸、メチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、ペンチル安息香酸、ヘキシル安息香酸、ヘプチル安息香酸、オクチル安息香酸、ノニル安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。有機酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。このような有機酸と上記第1の銅粒子とを組み合わせることで、第1の銅粒子の分散性と焼結時における有機酸の脱離性を両立できる傾向にある。
【0040】
表面処理剤の処理量は、粒子表面に一分子層以上の量であってもよい。このような表面処理剤の処理量は、第1の銅粒子の比表面積、表面処理剤の分子量、及び表面処理剤の最小被覆面積により変化する。表面処理剤の処理量は、表面処理後の第1の銅粒子の全質量を基準として、通常0.001質量%以上である。第1の銅粒子の比表面積、表面処理剤の分子量、及び表面処理剤の最小被覆面積については、後述する方法により算出することができる。
【0041】
市販されている第1の銅粒子を含む材料としては、例えば、MA-C025(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径7.5μm、平均最大径4.1μm)、3L3(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径8.0μm、平均最大径7.3μm)、2L3(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径9.9μm、平均最大径9μm)、2L3N/A(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径9.4μm、平均最大径9μm)、1110F(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径3.8μm、平均最大径5μm)、HWQ3.0μm(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径3.0μm)、2L3N(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径7.2μm)、3L3N(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径5.9μm)、4L3(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径4.5μm)、C3(福田金属箔粉工業株式会社製、体積平均粒径40.0μm)、1050YF(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径1.7μm)が挙げられる。
【0042】
第1の銅粒子の含有量は、金属粒子の全質量を基準として、10~70質量%であってよく、10~50質量%であってもよく、15~45質量%であってもよく、20~40質量%であってもよい。第1の銅粒子の含有量が、上記範囲内であれば、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。なお、上記含有量には表面処理剤の量は含まれない。また、金属粒子の全質量には、金属粒子の表面に吸着した表面処理剤の量は含まない。
【0043】
[第2の銅粒子]
第2の銅粒子は、好ましくは、粒径が0.12~0.8μmである銅粒子を含む。第2の銅粒子は、例えば、粒径が0.12~0.8μmの銅粒子を10質量%以上含むことができる。第2の銅粒子における粒径が0.12~0.8μmの銅粒子の含有量は、金属ペーストの焼結性の観点から、20質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。第2の銅粒子における粒径が0.12~0.8μmの銅粒子の含有量が20質量%以上であると、銅粒子の分散性がより向上し、粘度の上昇、ペースト濃度の低下をより抑制することができる。
【0044】
第2の銅粒子の体積平均粒径は、好ましくは0.10μm以上であり、また、好ましくは0.8μm以下である。第2の銅粒子の体積平均粒径が0.10μm以上であれば、銅ナノ粒子を主として用いる場合と比較してコストを低減することができる。また、分散性を向上させることができ、焼結後の体積収縮量の低下を抑制することができる。さらに、表面処理剤の使用量の抑制といった効果が得られやすくなる。第2の銅粒子の体積平均粒径が0.8μm以下であれば、金属ペーストの焼結性に優れるという効果が得られやすくなる。より一層上記効果を奏する観点から、第2の銅粒子の体積平均粒径は、0.12μm以上であってもよく、0.15μm以上であってもよく、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよく、0.8μm以下であってもよく、0.6μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよく、0.45μm以下であってもよい。上記観点から、第2の銅粒子における銅ナノ粒子(粒径が1~100nmの粒子)の含有量は、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。第2の銅粒子における銅ナノ粒子の含有量は、0.5質量%以上であってよい。
【0045】
第2の銅粒子の形状は、特に限定されるものではない。第2の銅粒子の形状としては、例えば、球状、塊状、針状、フレーク状、略球状及びこれらの凝集体が挙げられる。分散性及び充填性の観点から、第2の銅粒子の形状は、球状、略球状、フレーク状であってよく、燃焼性、分散性、フレーク状の粒子(例えば、フレーク状の第1の銅粒子)との混合性等の観点から、球状又は略球状であってよい。
【0046】
第2の銅粒子のアスペクト比は、分散性、充填性、及びフレーク状の粒子(例えば、フレーク状の第1の銅粒子)との混合性の観点から、5.0以下であってよく、3.0以下であってもよい。
【0047】
第2の銅粒子は、特定の表面処理剤で処理されていてもよい。特定の表面処理剤としては、例えば、炭素数8以上の有機酸(ただし、炭素数1~9の1価カルボン酸は除く)が挙げられる。炭素数8以上の有機酸としては、例えば、炭素数8~9の多価カルボン酸、前述の炭素数10以上のカルボン酸(1価及び多価カルボン酸)、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミン(長鎖アルキルアミン)等が挙げられるが、これらの中でも炭素数10以上のカルボン酸が好ましい。本実施形態では、炭素数10以上のカルボン酸の焼結時の脱離性が向上する傾向がある。そのため、炭素数10以上のカルボン酸を用いる場合には本発明の効果が顕著となりうる。
【0048】
このような表面処理剤の具体例としては、カプリン酸、メチルノナン酸、エチルオクタン酸、プロピルヘプタン酸、ブチルヘキサン酸、ウンデカン酸、メチルデカン酸、エチルノナン酸、プロピルオクタン酸、ブチルヘプタン酸、ラウリン酸、メチルウンデカン酸、エチルデカン酸、プロピルノナン酸、ブチルオクタン酸、ペンチルヘプタン酸、トリデカン酸、メチルドデカン酸、エチルウンデカン酸、プロピルデカン酸、ブチルノナン酸、ペンチルオクタン酸、ミリスチン酸、メチルトリデカン酸、エチルドデカン酸、プロピルウンデカン酸、ブチルデカン酸、ペンチルノナン酸、ヘキシルオクタン酸、ペンタデカン酸、メチルテトラデカン酸、エチルトリデカン酸、プロピルドデカン酸、ブチルウンデカン酸、ペンチルデカン酸、ヘキシルノナン酸、パルミチン酸、メチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、プロピルトリデカン酸、ブチルドデカン酸、ペンチルウンデカン酸、ヘキシルデカン酸、ヘプチルノナン酸、プロピルシクロヘキサンカルボン酸、ブチルシクロヘキサンカルボン酸、ペンチルシクロヘキサンカルボン酸、ヘキシルシクロヘキサンカルボン酸、ヘプチルシクロヘキサンカルボン酸、オクチルシクロヘキサンカルボン酸、ノニルシクロヘキサンカルボン酸等の飽和脂肪酸;デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、パルミトレイン酸、サビエン酸等の不飽和脂肪酸;テレフタル酸、ピロメリット酸、o-フェノキシ安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、ペンチル安息香酸、ヘキシル安息香酸、ヘプチル安息香酸、オクチル安息香酸、ノニル安息香酸等の芳香族カルボン酸などが挙げられる。有機酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。このような有機酸と上記第2の銅粒子とを組み合わせることで、第2の銅粒子の分散性と焼結時における有機酸の脱離性を両立できる傾向にある。
【0049】
表面処理剤の処理量は、表面処理後の第2の銅粒子の全質量を基準として、0.07~2.1質量%であってよく、0.10~1.6質量%であってもよく、0.2~1.1質量%であってもよい。
【0050】
表面処理剤の処理量は、第2の銅粒子の表面に一分子層~三分子層付着する量であってもよい。この処理量は、以下の方法により測定される。大気中、700℃で2時間処理したアルミナ製るつぼ(例えば、アズワン製、型番:1-7745-07)に、表面処理された第2の銅粒子をW1(g)量り取り、大気中700℃で1時間焼成する。その後、水素中、300℃で1時間処理し、るつぼ内の銅粒子の質量W2(g)を計測する。次いで、下記式に基づき、表面処理剤の処理量を算出する。
表面処理剤の処理量(質量%)=(W1-W2)/W1×100
【0051】
第2の銅粒子の比表面積は、焼結性、粒子間のパッキング等の観点から、0.5m/g~10m/gであってよく、1.0m/g~8.0m/gであってもよく、1.2m/g~6.5m/gであってもよい。第2の銅粒子の比表面積は、乾燥させた第2の銅粒子をBET比表面積測定法で測定することで算出できる。
【0052】
市販されている第2の銅粒子を含む材料としては、例えば、CH-0200(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.36μm)、HT-14(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.41μm)、CT-500(三井金属鉱業株式会社製、体積平均粒径0.72μm)、Tn-Cu100(太陽日産社製、体積平均粒径0.12μm)が挙げられる。
【0053】
第2の銅粒子の含有量は、金属粒子の全質量を基準として、30~90質量%であってよく、35~90質量%であってもよく、40~85質量%であってもよく、45~80質量%であってもよい。第2の銅粒子の含有量が上記範囲内であれば、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。なお、上記含有量には表面処理剤の量は含まれない。また、金属粒子の全質量には、金属粒子の表面に吸着した表面処理剤の量は含まない。
【0054】
金属粒子が第1の銅粒子と第2の銅粒子とを含む場合、第2の銅粒子の含有量は、第1の銅粒子の質量及び第2の銅粒子の質量の合計を基準として、30~90質量%であることが好ましい。第2の銅粒子の上記含有量が30質量%以上であれば、第1の銅粒子の間を充填することができ、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。第2の銅粒子の上記含有量が90質量%以下であれば、金属ペーストを焼結した時の体積収縮を充分に抑制できるため、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。より一層上記効果を奏する観点から、第2の銅粒子の含有量は、第1の銅粒子の質量及び第2の銅粒子の質量の合計を基準として、35~85質量%であってもよく、40~85質量%であってもよく、45~80質量%であってもよい。なお、上記含有量には表面処理剤の量は含まれない。また、金属粒子の全質量には、金属粒子の表面に吸着した表面処理剤の量は含まない。
【0055】
金属粒子が第1の銅粒子と第2の銅粒子とを含む場合、第1の銅粒子の含有量と第2の銅粒子の含有量の合計は、金属粒子の全質量を基準として、80~100質量%であってよい。第1の銅粒子の含有量及び第2の銅粒子の含有量の合計が上記範囲内であれば、金属ペーストを焼結した際の体積収縮を充分に低減でき、金属ペーストを焼結させて製造される配線の基材への密着性を確保することが容易となる。より一層上記効果を奏するという観点から、第1の銅粒子の含有量及び第2の銅粒子の含有量の合計は、金属粒子の全質量を基準として、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。なお、上記含有量には表面処理剤の量は含まれない。また、金属粒子の全質量には、金属粒子の表面に吸着した表面処理剤の量は含まない。
【0056】
[銅粒子以外のその他の金属粒子]
銅粒子以外のその他の金属粒子としては、亜鉛及び銀からなる群より選択される少なくとも1種の金属粒子が挙げられる。このような金属粒子が混合された場合、被着体が金又は銀である場合に基材への密着性が向上する傾向がある。上記その他の金属粒子は、表面処理剤によって処理されていてもよい。上記その他の金属粒子の含有量は、より一層の密着性向上効果の観点から、金属粒子の全質量を基準として、0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.1~2質量%が更に好ましい。上記その他の金属粒子の体積平均粒径は、0.01~10μmであってよく、0.01~5μmであってもよく、0.05~3μmであってもよい。その他の金属粒子の形状は、特に限定されるものではない。なお、上記含有量には表面処理剤の量は含まれない。また、金属粒子の全質量には、金属粒子の表面に吸着した表面処理剤の量は含まない。
【0057】
(金属錯体)
金属錯体は、銅よりも貴な金属を中心金属として有する有機金属錯体であり、当該金属に配位子が配位した構造を有する。金属錯体は、150~400℃の範囲に熱分解温度を有する。すなわち、金属錯体は、少なくとも400℃で加熱されることで熱分解し、結果として、銅よりも貴な金属が析出する。金属錯体の熱分解温度は、例えば、示差熱-熱重量同時測定装置により測定することができる。
【0058】
銅よりも貴な金属としては、例えば、銀、パラジウム、イリジウム、白金及び金が挙げられる。銅よりも貴な金属は、銅との合金を形成し難く、配線表面に析出しやすい観点及び腐食の抑制効果が得られやすい観点から、好ましくはパラジウム又は金であり、より好ましくはパラジウムである。すなわち、金属錯体は、好ましくはパラジウム錯体又は金錯体であり、より好ましくはパラジウム錯体である。
【0059】
配位子は、単座配位子であっても、多座配位子であってもよい。配位子は、所定の熱分解温度で分解しやすく、且つ、分解後に揮発して配線中に残留し難い観点から、好ましくは、酢酸、アセチルアセトン及びトリメチル酢酸からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0060】
上述した観点から、好適な金属錯体としては、例えば、酢酸パラジウム(II)(分解温度:205℃)、ヨウ化パラジウム(II)(分解温度:350℃)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)(分解温度:210℃)、アセチルアセトンパラジウム(II)(分解温度:210℃)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(分解温度:210℃)、トリメチル酢酸パラジウム(II)(分解温度:230℃)等が挙げられる。これらの中でも、腐食の抑制効果が得られやすい観点、ハロゲンイオンを含まず、ハロゲンイオンのマイグレーションによる焼結性の低下が抑制され、基材への密着性がより良好となる観点、及び、基材への良好な密着性が長期にわたり維持されやすい観点から、酢酸パラジウム(II)、アセチルアセトンパラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)及びトリメチル酢酸パラジウム(II)が好ましく、酢酸パラジウム(II)、アセチルアセトンパラジウム(II)及びトリメチル酢酸パラジウム(II)がより好ましい。また、初期の基材への密着性がより良好となる観点から、酢酸パラジウム(II)が更に好ましい。
【0061】
金属錯体の含有量は、腐食の抑制効果が得られやすい観点及び基材への良好な密着性が維持されやすくなる観点から、銅粒子100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3.5質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。金属錯体の含有量は、初期の基材への密着性がより良好となる観点、及び、基材への良好な密着性が長期にわたり維持されやすい観点から、銅粒子100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。これらの観点から、金属錯体の含有量は、銅粒子100質量部に対して、2~20質量部、2~10質量部又は2~5質量部であってよい。金属粒子が銅粒子以外の金属粒子を含む場合、金属粒子100質量部に対する金属錯体の含有量が上記範囲であってよく、銅粒子100質量部に対する金属錯体の含有量が上記範囲であってもよい。
【0062】
金属錯体の含有量は、腐食の抑制効果が得られやすい観点及び基材への良好な密着性が維持されやすくなる観点から、銅よりも貴な金属の質量換算で、銅粒子100質量部に対して、好ましくは0.95質量部以上、より好ましくは、1.66質量部以上、更に好ましくは2.37質量部以上である。金属錯体の含有量は、初期の基材への密着性がより良好となる観点、及び、基材への良好な密着性が長期にわたり維持されやすい観点から、銅よりも貴な金属の質量換算で、銅粒子100質量部に対して、好ましくは9.48質量部以下、より好ましくは4.74質量部以下、更に好ましくは2.37質量部以下である。これらの観点から、金属錯体の含有量は、銅よりも貴な金属の質量換算で、銅粒子100質量部に対して、0.95~9.48質量部、0.95~4.74質量部又は0.95~2.37質量部であってよい。金属粒子が銅粒子以外の金属粒子を含む場合、金属粒子100質量部に対する金属錯体の含有量が上記範囲であってよく、銅粒子100質量部に対する金属錯体の含有量が上記範囲であってもよい。
【0063】
(分散媒)
分散媒は金属粒子を分散する機能を有する。分散媒は特に限定されるものではなく、例えば、揮発性の化合物であってよい。揮発性の分散媒としては、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、α-テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール(MTPH)等の一価及び多価アルコール類;エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DPMA)、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、トリブチリン等のエステル類;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等の酸アミド;シクロヘキサノン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;炭素数1~18のアルキル基を有するメルカプタン類;炭素数5~7のシクロアルキル基を有するメルカプタン類などが挙げられる。
【0064】
炭素数1~18のアルキル基を有するメルカプタン類としては、例えば、エチルメルカプタン、n-プロピルメルカプタン、i-プロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、i-ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン及びドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0065】
炭素数5~7のシクロアルキル基を有するメルカプタン類としては、例えば、シクロペンチルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン及びシクロヘプチルメルカプタン,ステアリン酸ブチル、エキセパールBS(花王社製)、ステアリン酸ステアリル、エキセパールSS(花王社製)、ステアリン酸2-エチルヘキシル、エキセパールEH-S(花王社製)、ステアリン酸イソトリデシル、エキセパールTD-S(花王社製)、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘネイコサン、ドコサン、メチルヘプタデカン、トリデシルシクロヘキサン、テトラデシルシクロヘキサン、ペンタデシルシクロヘキサン、ヘキサデシルシクロヘキサン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、ペンタデシルベンゼン、ヘキサデシルベンゼン、ヘプタデシルベンゼン、ノニルナフタレン、ジフェニルプロパン、オクタン酸オクチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、リノール酸メチル、ステアリン酸メチル、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサン酸)、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、メトキシフェネチルアルコール、ベンジルフェノール(C1312O)、ヘキサデカンニトリル、ヘプタデカンニトリル、安息香酸ベンジル、シンメチリン、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0066】
分散媒の含有量は、金属ペーストの全質量を基準として、2~50質量%であってよく、5~30質量%であってもよく、5~20質量%であってもよい。また、分散媒の含有量は金属粒子の全質量を100質量部として、5~50質量部であってよい。分散媒の含有量が上記範囲内であれば、金属ペーストをより適切な粘度に調整でき、また、銅粒子の焼結を阻害しにくい。
【0067】
(表面処理剤)
上述した表面処理剤(例えば、炭素数10以上のカルボン酸)は、水素結合等により金属粒子に吸着していてよく、ペースト中(例えば分散媒中)に遊離又は分散していてもよい。表面処理剤の含有量は、金属粒子100質量部に対して、0.07~2.1質量部であってよく、0.10~1.6質量部であってもよく、0.2~1.1質量部であってもよい。なお、表面処理剤として上述した成分は、必ずしも金属粒子の表面処理を目的として含有されている必要はなく、表面処理以外の目的で(例えば、分散媒として)金属ペーストに含有されていてもよい。
【0068】
(その他の成分)
金属ペーストは、上述した成分以外の他の成分として、例えば添加剤を含んでいてよい。添加剤としては、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤;シリコーン油等の消泡剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜調整することもできる。
【0069】
上述した金属ペーストの粘度は特に限定されず、印刷、塗布等の手法で成型する場合には、成型方法に適した粘度に調整してよい。金属ペーストは、例えば、25℃におけるCasson粘度が0.05Pa・s以上2.0Pa・s以下であってよく、0.06Pa・s以上1.0Pa・s以下であってもよい。
【0070】
金属ペーストは30℃未満で保管されることが好ましい。30℃以上で保管すると分散媒が揮発しやすくなり、金属ペーストの濃度が変わることがある。その結果、金属ペーストを基材上に配置する場合に、所望の部分に配置しにくくなることがある。金属ペーストを冷凍(例えば-30℃)で保管してもよく、それ以下の温度で保管してもよい。ただし、金属ペーストは室温(例えば10~30℃)で使用されることが好ましいため、-30℃未満で保管する場合、解凍に時間が掛かり、解凍のために加熱を要する等、プロセスコスト増加に繋がる。
【0071】
金属ペーストは保管前後で体積平均粒径の変化が20%以内であることが好ましい。金属ペーストを構成する銅粒子(例えば第2の銅粒子)が金属ペースト内で凝集し二次粒子になると、体積平均粒径が大きくなる。体積平均粒径が大きくなると、焼結後にボイドが入りやすくなる場合がある。また、ボイドが応力集中点となり亀裂を生じやすくなる場合がある。
【0072】
上記金属ペーストは、銅粒子と、金属錯体と、分散媒と、場合により含有されるその他の成分(その他の金属粒子、添加剤等)とを混合して調製することができる。各成分の混合後に、攪拌処理を行ってもよい。金属ペーストは、分級操作により分散液の最大粒径を調整してもよい。このとき、分散液の最大粒径は20μm以下とすることができ、10μm以下とすることもできる。
【0073】
各成分は、順次混合してもよく、一度に混合してもよい。例えば、銅粒子と分散媒とをあらかじめ混合して、分散処理を行って分散体を調製した後、当該分散体に金属錯体を混合することにより金属ペーストを調製してよい。第1の銅粒子と第2の銅粒子を併用する場合、金属ペーストは、第2の銅粒子と、分散媒と、必要に応じて表面処理剤(例えば炭素数8以上の有機酸)と、をあらかじめ混合して、分散処理を行って第2の銅粒子の分散液を調製し、更に第1の銅粒子、金属錯体、その他の金属粒子、及び添加剤を混合して調製してもよい。このような手順とすることで、例えば、第2の銅粒子の分散性が向上して第1の銅粒子との混合性が良くなり、金属ペーストの性能がより向上する。また、第2の銅粒子の分散液を分級操作によって凝集物を除去してもよい。
【0074】
攪拌処理は、攪拌機を用いて行うことができる。攪拌機としては、例えば、自転公転型攪拌装置、ライカイ機、ハイビスディスパーミックス、二軸混練機、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、薄層せん断分散機等が挙げられる。
【0075】
分級操作は、例えば、ろ過、自然沈降、遠心分離等を用いて行うことができる。ろ過用のフィルタとしては、例えば、金属メッシュ、メタルフィルター、ナイロンメッシュ等が挙げられる。
【0076】
分散処理としては、例えば、薄層せん断分散機、ディスパライザー、ビーズミル、ハイビスディスパーミックス、超音波ホモジナイザー、ハイシアミキサー、狭ギャップ三本ロールミル、湿式超微粒化装置、超音速式ジェットミル、超高圧ホモジナイザー等が挙げられる。
【0077】
<配線及び物品>
以下、図面を参照しながら本実施形態の配線及び当該配線を備える物品について説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0078】
図1に示す物品1は、基材2と、当該基材2上に設けられた、配線3と、を備える。
【0079】
基材2の形状は、用途等に応じて適宜選択される。基材2は、例えば凹凸形状等の三次元形状を有する立体物であってよい。基材2の表面には、めっき処理、研磨処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0080】
基材2は、例えば、Cu、Au、Pt、Pd、Ag、Zn、Ni、Co、Fe、Al、Sn等の金属、これら金属の合金、ITO、ZnO、SnO、Si等の半導体、黒鉛、グラファイト等のカーボン材料、ガラス、樹脂、紙、これらの組み合わせなどで形成されていてよい。
【0081】
樹脂は、耐熱性が低い樹脂であってよく、例えば熱可塑性樹脂であってよい。熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマーなどであってよく、好ましくは、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0082】
配線3は、基材2の表面に沿って延在しており、基材2の上方から視て線状(例えば直線状又は曲線状)をなしている。配線3は、例えば、基材2の、凹凸面、曲面等の三次元形状を有する面上に設けられていてよい。
【0083】
配線3は、焼結銅及び当該焼結銅中に分散した銅よりも貴な金属を含み、延在方向に垂直な断面(図1に示す断面)の周縁部分4に銅よりも貴な金属が偏在する領域(以下、「偏在領域」ともいう)5を有する。ここで、周縁部分とは、配線3の表面を含み、配線3の外部に露出する部分であり、配線3の表面からの深さ(表面に垂直な方向の長さ)が配線全体の厚さの5%以下の部分である。図1では、偏在領域5が周縁部分4と一致しており、周縁部分4の全体(配線3の表面全体)にわたって存在している。以下では、配線3の周縁部分4に囲まれる部分を中央部分6という。
【0084】
偏在領域5における銅よりも貴な金属の濃度は、配線全体における銅よりも貴な金属の濃度(平均濃度)よりも高い。このような偏在領域5が、配線3の周縁部分4の少なくとも一部を構成することで、配線3の表面からの腐食(例えば銅の酸化)が抑制される。偏在領域における銅よりも貴な金属の濃度は、90質量%以上、95質量%以上又は98質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。配線全体における銅よりも貴な金属の濃度(平均濃度)は、0.1質量%以上であってよく、9.48質量%以下であってよい。上記濃度は、配線の延在方向に垂直な断面をエネルギー分散型X線分光法で分析して測定される濃度である。配線全体の濃度は、偏在領域5が存在する断面の全領域を分析して求められる値であってよい。
【0085】
偏在領域5の厚さ(例えば、配線3の表面から偏在領域5の終点までの深さ)は、配線全体の厚さの1%以上又は2%以上であってよく、配線全体の厚さの5%以下又は4%以下であってよい。偏在領域5の厚さは、例えば、0.1μm以上、0.2μm以上又は0.5μm以上であってよく、1.0μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下、0.4μm以下、0.3μm以下又は0.1μm以下であってよい。偏在領域5の面積は、例えば、配線の延在方向に垂直な断面面積の10%以下、7%以下、5%以下又は4%以下であってよく、1%以上又は2%以上であってよい。
【0086】
中央部分6は、焼結銅(銅粒子の焼結物)及び当該焼結銅中に分散した銅よりも貴な金属を含む。例えば、延在方向に垂直な断面を観察したときに、任意の10μm四方の領域に銅よりも貴な金属が存在する。中央部分6は、銅よりも貴な金属が偏在する領域を有していてもよい。当該領域における銅よりも貴な金属の濃度は、上記偏在領域5における銅よりも貴な金属の濃度として例示した範囲であってよい。
【0087】
配線3は、中央部分6に、焼結銅によって形成される複数の空隙を有していてもよい。配線3の空隙率は、例えば、10%以上、13%以上、又は15%以上であってよく、70%以下、55%以下、又は40%以下であってもよい。配線3の空隙率は、走査型電子顕微鏡、走査型イオン顕微鏡等によって観察した配線3の断面画像を、画像解析ソフトを用いて解析することにより得られる、配線3断面の全面積に対する空隙部分の面積の比率を意味する。
【0088】
配線3が空隙を有する場合、当該空隙に露出する部分には、銅よりも貴な金属が偏在してよい。すなわち、焼結銅の上記空隙に露出する部分の少なくとも一部は、銅よりも貴な金属で被覆されていてもよい。
【0089】
配線3の厚さは、例えば、1.0μm以上、2.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、5.0μm以上、7.0μm以上、又は10.0μm以上であってよく、100.0μm以下、50μm以下、30μm以下又は10μm以下であってよい。配線3の線幅(上面からみたときの配線3の短手方向(配線が延びる方向と垂直な方向)の長さ)は、1mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、又は0.2mm以下であってよい。
【0090】
以上説明した物品1は、MID(成形回路部品、立体成形回路部品、三次元成形回路部品等とも呼ばれる)として好適に用いることができる。具体的には、物品1は、スマートフォンアンテナ、積層板、太陽電池パネル、ディスプレイ、トランジスタ、半導体パッケージ、積層セラミックコンデンサ等として好適に使用される。物品1における配線3は、車載用配線、電気配線、放熱膜、表面被覆膜等として利用することもできる。
【0091】
物品1は、例えば、上記実施形態の金属ペーストを基材上に配置する工程と、当該金属ペーストを金属錯体の熱分解温度よりも高い温度で焼結させて、金属ペーストの焼結体により構成される配線を形成する工程と、を備える方法により製造することができる。すなわち、物品1が備える配線3は、上記実施形態の金属ペーストの焼結体であってよく、配線3中の焼結銅は、金属ペーストに含まれる銅粒子の焼結体であってよく、配線3中の銅よりも貴な金属は、金属ペーストに含まれる金属錯体由来の金属であってよい。
【0092】
金属ペーストを基材上に配置する方法としては、金属ペーストを堆積させられる方法であればよい。このような方法としては、例えば、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、ジェット印刷等の印刷による方法、ディスペンサ(例えば、ジェットディスペンサ、ニードルディスペンサ)、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、グラビアコータ、スリットコート、バーコータ、アプリケータ、スプレーコータ、スピンコータ、ディップコータ等を用いる方法、ソフトリソグラフィによる方法、粒子堆積法、電着塗装による方法などを用いることができる。
【0093】
金属ペーストを配置する方法としては、非接触型の印刷方法が好ましい。非接触型の印刷方法は、金属ペーストを吐出する吐出部が、基材2から離間している(基材2と接触していない)状態で印刷する方法である。非接触型の印刷方法としては、例えば、ジェットディスペンサーを用いた方法、エアロゾルジェットを用いた方法、ピエゾジェットディスペンサーを用いた方法等が挙げられる。
【0094】
基材上に設けられた金属ペーストは、焼結時の流動及びボイドの発生を抑制する観点から、適宜乾燥させてもよい。乾燥時のガス雰囲気は大気中であってよく、窒素、希ガス等の無酸素雰囲気中であってもよく、水素、ギ酸等の還元雰囲気中であってもよい。乾燥方法は、常温放置による乾燥であってよく、加熱乾燥であってもよく、減圧乾燥であってもよい。加熱乾燥又は減圧乾燥には、例えば、ホットプレート、温風乾燥機、温風加熱炉、窒素乾燥機、赤外線乾燥機、赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、マイクロ波加熱装置、レーザー加熱装置、電磁加熱装置、ヒーター加熱装置、蒸気加熱炉、熱板プレス装置等を用いることができる。乾燥の温度及び時間は、使用した揮発成分(例えば分散媒)の種類及び量に合わせて適宜調整してもよい。乾燥の温度及び時間としては、例えば、50~180℃で1~120分間乾燥させてもよい。また、例えば、生産工程上、部材上に設けられた金属ペーストが、例えば15℃~50℃で、1~120分間乾燥されてもよい。
【0095】
金属ペーストは、例えば、ホットプレート、温風乾燥機、温風加熱炉、窒素乾燥機、赤外線乾燥機、赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、マイクロ波加熱装置、レーザー加熱装置、電磁加熱装置、ヒーター加熱装置、蒸気加熱炉等を用いて加熱処理することにより焼結させてよい。
【0096】
焼結時のガス雰囲気は、焼結体、部材(第一の部材及び第二の部材)の酸化抑制の観点から、無酸素雰囲気であってもよい。焼結時のガス雰囲気は、金属ペースト中の銅粒子の表面酸化物を除去するという観点から、還元雰囲気であってもよい。無酸素雰囲気としては、例えば、窒素、希ガス等の無酸素ガス雰囲気、又は真空が挙げられる。還元雰囲気としては、例えば、純水素ガス雰囲気、フォーミングガスに代表される水素及び窒素の混合ガス雰囲気、ギ酸ガスを含む窒素雰囲気、水素及び希ガスの混合ガス雰囲気、ギ酸ガスを含む希ガス雰囲気等が挙げられる。ギ酸ガスを含む雰囲気では、より低温(例えば150℃)での焼結が可能になる傾向がある。また、水素ガスを含む雰囲気では、低温(例えば200℃程度)での焼結が可能であるだけでなく、配線表面からより深い位置にある酸化物も除去することができる傾向がある。
【0097】
加熱処理時の温度(到達最高温度)は、焼結時のガス雰囲気等を考慮して適宜変更してよいが、上記金属錯体の熱分解温度以上の温度であり、基材への熱ダメージの低減できる観点及び歩留まりを向上させる観点から、例えば、150℃~300℃、150℃以上300℃未満、150℃~225℃、150℃以上225℃未満、150℃~200℃、200~300℃、200~300℃、200℃以上300℃未満、200~225℃、又は200℃以上225℃未満である。加熱処理時の温度(到達最高温度)は、150℃~400℃又は200~400℃であってもよい。
【0098】
以上、本実施形態の配線及び当該配線を備える物品、並びにこれらの製造方法について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、配線3における偏在領域5は、配線3の周縁部分4の一部にのみ存在していてもよい。周縁部分4に偏在領域5以外の領域(銅よりも貴な金属が偏在していない領域)が存在する場合、当該領域は中央部分と同じ組成であってよい。また、例えば、物品1の配線3上に、LEDチップ、ICチップ等の電子部品を実装してもよい。電子部品の実装は、はんだ等を用いて行ってよい。
【実施例
【0099】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
<材料の準備>
以下の材料を準備した。
【0101】
[金属粒子]
・1050YF(三井金属鉱業株式会社製、形状:フレーク状、50%体積平均粒径:1.7μm)
・CH-0200(三井金属鉱業株式会社製、形状:擬球状、表面処理剤:ラウリン酸(ドデカン酸)、表面処理量:0.973質量%(CH-0200の全質量基準)、50%体積平均粒径:0.36μm、0.1μm以上1μm未満の粒子径を有する銅粒子の含有量:100質量%、0.12μm以上0.8μm以下の粒子径を有する銅粒子の含有量:100質量%)
【0102】
[金属錯体]
・酢酸パラジウム(II)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、熱分解温度:205℃)
【0103】
[分散媒]
・ジヒドロテルピネオール(日本テルペン化学株式会社製)
・イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学株式会社製、商品名:テルソルブMTPH)
【0104】
(実施例1)
<金属ペースト1の調製>
ジヒドロテルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、CH-0200及び1050YFをメノウ乳鉢に加え、乾燥粉がなくなるまで混練し、混合液をポリ瓶に移した。密栓をしたポリ瓶を、自転公転型攪拌装置(Planetary Vacuum Mixer ARV-310、株式会社シンキー製)を用いて、2000min-1(2000回転/分)で2分間攪拌した。その後、得られた混合液と、酢酸パラジウム(II)をメノウ乳鉢に加え、乾燥粉がなくなるまで混練し、混合液をポリ瓶に移した。密栓をしたポリ瓶を自転公転型攪拌装置(Planetary Vacuum Mixer ARV-310、株式会社シンキー製)を用いて、2000min-1(2000回転/分)で2分間攪拌した。得られたペースト状の混合液を金属ペースト1とした。金属ペースト1の濃度(金属ペースト1全量に対するCH-0200及び1050YF及び酢酸パラジウムの含有量の合計)は、72質量%であった。各成分の配合量(単位:g)を下記表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
<配線付き物品の製造>
金属ペースト1を、液晶ポリマー(LCP)立体基材に、ジェットディスペンサ(HOTMELT SUPER JET MJET-S-HM、武蔵エンジニアリング株式会社製)を用いて、幅0.4mmの線状に塗布した。ジェットディスペンサのノズルとLCP立体基材の表面との距離は、6.0mmであった。
【0107】
ついで得られた積層体をバッチ式真空半田付装置(神港精機株式会社製)に入れて金属ペーストを焼結させた。具体的には、炉内を真空引きして水素ガスで置換した後、水素ガスを20L/minで流しながら30分かけて上下ヒーターを300℃まで昇温した。昇温後、到達温度300℃(基材の温度を測定)、到達最高温度保持時間60分間の条件で金属ペースト1の焼結処理を行った。焼結後、30℃まで冷却した。次いで、炉内を真空引きして窒素ガスで置換した後、積層体を空気中に取り出した。以上の操作により、加圧を行うことなく金属ペースト1を焼結させて実施例1の配線付き物品を得た。
【0108】
<配線の断面分析>
以下の方法で、配線の延在方向に垂直な断面を分析した。まず、上記で得られた物品を、カップ内にサンプルクリップ(Samplklip I、Buehler社製)で固定し、配線全体が埋まるまで、カップ内にエポキシ注形樹脂(エポマウント、リファインテック株式会社製)を流し込んだ。このカップを、真空デシケータ内に静置し、1分間減圧して脱泡した。その後、室温(25℃)下で10時間放置してエポキシ注形樹脂を硬化させた。これにより上記物品の注形サンプルを得た。次いで、ダイヤモンド切断ホイール(11-304、リファインテック株式会社製)をつけたリファインソー・ロー(RCA-005、リファインテック株式会社製)を用い、注形サンプルを、観察したい断面付近で切断した。切断面を、耐水研磨紙(カーボマックペーパー、リファインテック株式会社製)をつけた研磨装置(Refine Polisher Hv、リファインテック株式会社製)で削り、配線の延在方向に垂直な断面を出した。この断面を、ショットキー走査電子顕微鏡 SU5000(日立ハイテクノロジーズ株式会社製)に取り付けたエネルギー分散型X線分光器(株式会社堀場製作所製、商品名:EMAX Evolution)を用いて分析し、配線断面におけるパラジウムの分布状態及びパラジウム濃度を確認した。分析により得られた配線断面のSEM画像を図2(a)に示し、銅のマッピング画像を図2(b)に示し、パラジウムのマッピング画像を図2(c)に示す。図2(a)におけるAは基材を示し、Bは配線を示し、Cは注形樹脂を示す。図2(b)では銅を示す部分が明色で示されている。同様に、図2(c)では、パラジウムを示す部分が明色で示されている。
【0109】
図2(b)及び図2(c)より、実施例1の物品に形成された配線では、焼結銅中に酢酸パラジウム(II)由来のパラジウムが分散していることがわかる。また、図2(c)の領域aに示されているように、配線断面の周縁部分には、当該パラジウムが偏在する領域が層状に形成されていることがわかる。また、図2(a)に示されているように、配線中には、焼結銅によって形成された空隙Rが存在しており、図2(c)の領域bに示されているように、焼結銅の空隙に露出する部分にも、パラジウムが偏在する領域が形成されていることがわかる。
【符号の説明】
【0110】
1…物品、2…基材、3…配線、4…周縁部分、5…銅よりも貴な金属が偏在する領域、6…中央部分。

図1
図2