(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】低臭気樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240116BHJP
C08F 2/40 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F2/40
(21)【出願番号】P 2019236113
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 健一
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-163935(JP,A)
【文献】特開2016-029125(JP,A)
【文献】特開2009-263445(JP,A)
【文献】特開2001-240631(JP,A)
【文献】特開2006-169423(JP,A)
【文献】特開昭60-108461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
C08F 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラジカル反応性樹脂と、
(B)(メタ)アクリレート系モノマーと、
(C)ワックスと、
(D)金属石鹸と、
(E)ラジカル発生抑制剤と
を含み、かつ
(F)スチレン系化合物を実質的に含まない樹脂組成物であって、
前記(E)ラジカル発生抑制剤が、
乳酸及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする低臭気樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ラジカル反応性樹脂は、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂である
請求項1に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーは、芳香環基を有する化合物である
請求項1又は請求項2に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーは、式(1)又は式(2)で表される化合物である
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【化1】
(式(1)又は式(2)中、R1は水素原子またはメチル基である。R2は炭素数が0~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。但し、R2の炭素数が0で、Arが酸素原子と直接結合していても良い。R3は炭素数が1~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。Arはフェニル基、ナフチル基から選ばれる少なくとも1つを示し、水素原子の一部または全部がアルキル基、アルケニル基、アリール基、アセチル基、アルコキシ基、カルボキシ基、水酸基、またはヒドロキシアルキル基から選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。)
【請求項5】
前記(D)金属石鹸が、コバルト塩である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーを20~60質量部を含む、請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(D)金属石鹸を0.1~3質量部を含む、請求項1~請求項
6のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(E)ラジカル発生抑制剤を0.01~3質量部を含む、請求項1~請求項
7のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項9】
前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、(C)ワックスを0.01~3.0質量部含む請求項1~請求項
8のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【請求項10】
JIS K 6901(2008)、「5.9常温硬化特性(発熱法)」に記載の方法で測定した可使時間(ゲル化時間)は、30分以上である請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の低臭気樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低臭気樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジカル反応性樹脂組成物は、エポキシ化合物と、重合性不飽和結合およびカルボキシ基を有する不飽和一塩基酸の開環反応の生成物であるラジカル反応性樹脂をスチレンなどのラジカル重合性モノマーに溶解させたものである。ラジカル反応性樹脂組成物を硬化させた硬化物は、機械特性、電気特性、耐食性、耐熱性、光硬化特性、接着性などの種々の優れた特性を有するため、ラジカル反応性樹脂組成物を原料とする繊維強化プラスチック(FRP)は、化学プラントのパイプ、薬液貯蔵タンク、コンクリート補修材等に適用されてきた。
【0003】
一般的に使用されるラジカル反応性樹脂組成物は、ラジカル重合性モノマーであるスチレンを30~60質量%程度含有している。それゆえ、ハンドレイアップ成形法やスプレーアップ成形法などのオープンモールド成形法では、FRPを成形する時に、ビニルエステル樹脂組成物に含まれるスチレンが揮散して作業環境を悪化させる虞がある。
【0004】
また、発がん性等の懸念から、近年では特定化学物質障害予防規則(特化則)の改正により、スチレンが新たに特定化学物質に指定されたことで、スチレンを扱う作業場での作業環境の測定や作業者の健康診断、作業環境の記録が義務付けられている。これらの規制の強化に伴い、社会的にノンスチレン材料の開発が求められている。
【0005】
前記臭気の問題を解決すべく、重合性モノマーとして(メタ)アクリル酸エステルの低臭気樹脂が用いられているが、これらを利用した低臭気性樹脂は、利用する(メタ)アクリル酸エステルがスチレンより薄膜での硬化が悪い特性があるため、ライニング施工等で硬化不良が起こりやすい。
【0006】
更にこれらアクリル系樹脂の硬化においては、空気中の酸素が重合阻害剤として働くため、塗膜樹脂及びライニング樹脂の硬化過程において空気中の酸素の浸透を遮断する方法が取られる。例えば、従来技術として、樹脂組成物中にパラフィンワックスと重合性希釈剤とを含有させる方法が挙げられる。この場合、塗膜中の重合が進むに連れて該重合性希釈剤が揮発すると、重合性希釈剤中のパラフィン濃度が高くなり、溶解できなくなったパラフィンワックスが樹脂表面層(塗膜表面やライニング表面)に析出する。その結果として薄いパラフィンワックス層が形成され、空気遮断材として機能し、硬化が促進する。
【0007】
しかしながら、(メタ)アクリル酸エステルを使用した樹脂の場合、嫌気性が非常に強いためパラフィンワックスを多量に添加しなければならず、塗膜の二次接着性に影響を与えることが多い。そのため、空乾性能を有する(メタ)アクリル酸エステルや樹脂を併用する技術、特定の(メタ)アクリル酸エステルを配合したものなどが提案されている(例えば特許文献1~6参照)が、これら以外の解決策として(メタ)アクリル酸エステルよりも嫌気性の弱い重合性モノマーを使用することについても望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平05-230423号公報
【文献】特開平11-255847号公報
【文献】特開2007-326934号公報
【文献】特開平05-295862号公報
【文献】特開2004-10771号公報
【文献】特開2005-120305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、FRP層の材料として使用される樹脂組成物には、施工面の面積、施工現場の条件に応じた適度な可使時間で硬化することが要求される。大面積を施工する際、一定の可使時間を確保するために重合禁止剤(ラジカルトラップ)を添加するが、重合禁止剤を多く添加して可使時間を長くとった場合、有効なラジカルがトラップにより減少するため発熱量が減少し、内部と表面に温度差が生じやすくなることでばらつきが発生する。さらに、スチレンではなく(メタ)アクリレート系モノマーを希釈剤とする組成物は硬化の立ち上がりが速い傾向を示すため、ばらつきが顕著となり、その結果塗膜表面にシワが発生するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低臭気で、十分な可使時間が確保でき、塗膜表面にシワができにくいFRP用の床、壁面基材、被覆材、塗装材に用いられるラジカル重合性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を含む。
[1] (A)ラジカル反応性樹脂と、
(B)(メタ)アクリレート系モノマーと、
(C)ワックスと、
(D)金属石鹸と、
(E)ラジカル発生抑制剤と
を含み、かつ
(F)スチレン系化合物を実質的に含まない樹脂組成物であって、
前記(E)ラジカル発生抑制剤が、水酸基及びカルボン酸基からなる群からから選択される少なくとも2つの置換基を有する化合物であることを特徴とする低臭気樹脂組成物。
[2] 前記(A)ラジカル反応性樹脂は、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂である[1]に記載の低臭気樹脂組成物。
[3] 前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーは、芳香環基を有する化合物である[1]または[2]に記載の低臭気樹脂組成物。
[4] 前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーは、式(1)又は式(2)で表される化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
【化1】
(式(1)又は式(2)中、R1は水素原子またはメチル基である。R2は炭素数が0~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。但し、R2の炭素数が0で、Arが酸素原子と直接結合していても良い。R3は炭素数が1~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。Arはフェニル基、ナフチル基から選ばれる少なくとも1つを示し、水素原子の一部または全部がアルキル基、アルケニル基、アリール基、アセチル基、アルコキシ基、カルボキシ基、水酸基、またはヒドロキシアルキル基から選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。)
[5] 前記(D)金属石鹸が、コバルト塩である[1]~[4]のいずれかにに記載の低臭気樹脂組成物。
[6] 前記(E)ラジカル発生抑制剤が、乳酸及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種である[1]~[5]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
[7] 前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーを20~60質量部含む[1]~[6]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
[8] 前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(D)金属石鹸を0.1~3質量部含む[1]~[7]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
[9] 前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、前記(E)ラジカル発生抑制剤を0.01~3質量部含む[1]~[8]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
[10] 前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、(C)ワックスを0.01~3.0質量部含む[1]~[9]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
[11] JIS K 6901(2008)、「5.9常温硬化特性(発熱法)」に記載の方法で測定した可使時間(ゲル化時間)は、30分以上である[1]~[10]のいずれかに記載の低臭気樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低臭気樹脂組成物は、(A)ラジカル反応性樹脂と、(B)(メタ)アクリレート系モノマーと、(C)ワックスと、(D)金属石鹸と、(E)ラジカル発生抑制剤と
を含む。本発明の低臭気樹脂組成物は、(F)スチレン系化合物を実質的に含まない。前記(E)ラジカル発生抑制剤が、水酸基及びカルボン酸基からなる群からから選択される少なくとも2つの置換基を有する化合物である。したがって、本発明の低臭気樹脂組成物は、低臭気で、十分な可使時間が確保でき、塗膜表面にシワができにくいFRP用の床、壁面基材、被覆材、塗装材に用いられる材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の低臭気樹脂組成物を用いて作製した塗膜の写真である。
【
図2】比較例1の樹脂組成物を用いて作製した塗膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の低臭気樹脂組成物について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態の低臭気樹脂組成物は、本発明の低臭気樹脂組成物は、(A)ラジカル反応性樹脂と、(B)(メタ)アクリレート系モノマーと、(C)ワックスと、(D)金属石鹸と、(E)ラジカル発生抑制剤とを含む。本実施形態の低臭気樹脂組成物は、(F)スチレン系化合物を実質的に含まない。前記(E)ラジカル発生抑制剤が、水酸基及びカルボン酸基からなる群からから選択される少なくとも2つの置換基を有する化合物である。
【0015】
<(A)ラジカル反応性樹脂>
(A)ラジカル反応性樹脂は、(B)(メタ)アクリレート系モノマーと共重合して重合物を形成する。本実施形態で使用する(A)成分のラジカル重合性樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂(A1)、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂(A2)、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂(A3)、などが挙げられる。
【0016】
<ビニルエステル樹脂(A1)>
本実施形態のビニルエステル樹脂(A1)は、一般的に、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)中のエポキシ基と、重合性不飽和結合およびカルボキシ基を有する不飽和一塩基酸(b)のカルボキシ基との開環反応によって得られる重合性不飽和結合を有する化合物である。このようなビニルエステル樹脂(A1)に関しては、例えば、ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、1988年発行)等に記載がある。
【0017】
ここで、エポキシ化合物(a)の2個以上のエポキシ基に対する不飽和一塩基酸(b)のカルボキシ基の開環反応による生成物の構造パターンは、無限に存在するため、一義的に決められない。そのため、ビニルエステル樹脂(A1)の構造の全てを網羅的に記載する、即ち、ビニルエステル樹脂(A1)の構造を直接特定することは、およそ実際的でない。
【0018】
<エポキシ化合物(a)>
エポキシ化合物(a)は、特に制限はないが、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラックフェノール型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種を含む。上記の2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)を用いることにより、硬化物の機械的強度および耐食性がより一層向上する。
【0019】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類とエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるもの、あるいはビスフェノールAのグリシジルエーテルと上記ビスフェノール類の縮合物とエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものが挙げられる。
【0020】
ノボラックフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック又はクレゾールノボラックとエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものが挙げられる。
【0021】
<不飽和一塩基酸(b)>
不飽和一塩基酸(b)としては、重合性不飽和結合を有するモノカルボン酸であれば、特に制限はないが、好ましくは、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等であり、より好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸であり、さらに好ましくはメタクリル酸である。メタクリル酸を使用することで、エポキシ化合物(a)との反応により得られるビニルエステル樹脂(A1)の酸やアルカリによる加水分解が起こりにくくなり、硬化物の耐食性が向上する。
【0022】
エポキシ化合物(a)と不飽和一塩基酸(b)を開環反応させる際に、不飽和一塩基酸(b)は、エポキシ化合物(a)のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.3~1.5当量であり、より好ましくは0.4~1.2当量であり、さらに好ましくは0.5~1.0当量である。不飽和一塩基酸(b)がエポキシ化合物(a)のエポキシ基1当量に対して、0.3~1.5当量であれば、ビニルエステル樹脂組成物のラジカル重合反応により、十分な硬度を持つ硬化物が得られる。
【0023】
<ビニルエステル樹脂(A1)の合成方法>
本実施形態で使用されるビニルエステル樹脂(A1)は、公知の合成方法により合成することができる。
【0024】
ビニルエステル樹脂(A1)の合成方法としては、例えば、エステル化触媒の存在下でエポキシ化合物(a)と不飽和一塩基酸(b)とを70~150℃、好ましくは80~140℃、さらに好ましくは90~130℃で反応させる方法が挙げられる。
【0025】
エステル化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリンもしくはシアザビシクロオクタンなどの三級アミン、トリフェニルホスフィンあるいはジエチルアミン塩酸塩などの公知の触媒が使用できる。
【0026】
ビニルエステル樹脂(A1)の含有量は、(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計100質量部に対し、好ましくは40~80質量部であり、より好ましくは45~70質量部であり、さらに好ましくは50~65質量部である。ビニルエステル樹脂(A1)の含有量が(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計100質量部に対し、40~80質量部であれば、硬化物の機械的強度および耐食性がより一層向上する。
【0027】
<ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂(A2)>
本発明におけるポリエステル(メタ)アクリレート樹脂とは、(1)飽和多塩基酸及び
/または不飽和多塩基酸と多価アルコールとから得られる末端カルボキシ基のポリエステルにα,β-不飽和カルボン酸エステル基を含有するエポキシ化合物を反応させて得られる(メタ)アクリレート、(2)飽和多塩基酸及び/または不飽和多塩基酸と多価アルコールとから得られる末端カルボキシ基のポリエステルに水酸基含有アクリレートを反応させて得られる(メタ)アクリレート、(3)飽和多塩基酸及び/または不飽和多塩基酸と多価アルコールとから得られる末端水酸基のポリエステルに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる(メタ)アクリレートである。
【0028】
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸などの重合性不飽和結合を有していない多塩基酸またはその無水物とフマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの重合性不飽和多塩基酸またはその無水物が挙げられる。多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。ポリエステル(メタ)アクリレ-トの製造に用いるエポキシ基を有するα,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、グリシジルメタクリレートが代表例として挙げられる。
上記原料から得られるポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の中でも、機械的強度の観点から、ビスフェノールA型ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。
【0029】
<ウレタン(メタ)アクリレート樹脂(A3>
本発明におけるウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、例えば、ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物または多価アルコール類とを反応させた後、更に水酸基含有(メタ)アクリル化合物及び必要に応じて水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させることによって得ることができるラジカル重合性不飽和基含有オリゴマーである。また、水酸基含有(メタ)アクリル化合物とポリヒドロキシ化合物または多価アルコール類とを反応させた後、更にポリイソシアネートを反応させてもよい。
【0030】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート及びその異性体、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジシソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられる。これらポリイソシアネートは、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、コストの観点から、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0031】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料に用いられるポリヒドロキシ化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが挙げられる。より具体的には、グリセリン-エチレンオキシド付加物、グリセリン-プロピレンオキシド付加物、グリセリン-テトラヒドロフラン付加物、グリセリン-エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-エチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-プロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-テトラヒドロフラン付加物
、トリメチロールプロパン-エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物、ジペンタエスリトール-エチレンオキシド付加物、ジペンタエスリトール-プロピレンオキシド付加物、ジペンタエスリトール-テトラヒドロフラン付加物、ジペンタエスリトール-エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物などが挙げられる。これらポリヒドロキシ化合物は、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メチル-1,3プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ビスフェノールAとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサングリコール、1,3-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサングリコール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル-4,4-ジオール、2,6-デカリングリコール、2,7-デカリングリコールなどが挙げられる。これら多価アルコール類は、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0033】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌルサンノジ(メタ)アクリレート、ペンタエスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリン(モノ)(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリル化合物は、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として必要に応じて用いられる水酸基含有アリルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリエリンジアリルエーテル、ペンタエスリトールトリアリルエーテルなどが挙げられる。これら水酸基含有アリルエーテル化合物は、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
<(B)(メタ)アクリレート系モノマー>
本発明で使用する(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーは、成形作業性を向上させるために重要である。この(メタ)アクリレート系モノマーは、臭気やその他環境などに与える影響を考慮し、常圧(1atm)で140℃以上、好ましくは、140℃~200℃の沸点を有し且つ80℃以上、好ましくは80℃~150℃の引火点を有するものが好ましい。具体的には、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら(メタ)アクリレート系モノマーは、一種類のみを単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
本発明で使用する(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーは、芳香環基を有することが好ましい。芳香環基を有する(メタ)アクリレート(B)に、特に制限は無い。中でも、好ましくは、式(1)又は式(2)で表される化合物である。
【0037】
【0038】
(式(1)又は式(2)中、R1は水素原子またはメチル基である。R2は炭素数が0~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。但し、R2の炭素数が0で、Arが酸素原子と直接結合していても良い。R3は炭素数が1~10の直鎖または分岐した2価の炭化水素基であり、水酸基、アルコキシ基から選ばれる少なくとも1つの置換基を有していても良い。Arはフェニル基、ナフチル基から選ばれる少なくとも1つを示し、水素原子の一部または全部がアルキル基、アルケニル基、アリール基、アセチル基、アルコキシ基、カルボキシ基、水酸基、またはヒドロキシアルキル基から選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。)
R2の炭素数は0~10であり、好ましくは0~5であり、より好ましくは0~3である。R2の炭素数が「0」のときは、R2が存在せずArが直接酸素原子に結合していることを意味する。
【0039】
Arは置換を有していても良い。その置換基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アセチル基、アルコキシ基、カルボキシ基、水酸基、またはヒドロキシアルキル基から選ばれる少なくとも1つであり、好ましくはメチル基である。置換基の数は1または2が好ましい。
【0040】
R3の炭素数は1~10であり、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~3である。好ましい置換基はR2と同様である。
【0041】
R2及びR3の具体例としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH3)-、-CH2CH(CH3)CH2-が挙げられる。
【0042】
芳香環基を有する(メタ)アクリレート(B)は、より好ましくは、式(3)又は式(4)で表される化合物である。
【0043】
【0044】
(式(3)又は式(4)中、R1、R2、R3は式(1)および式(2)と同一のものを示す。)
式(3)又は式(4)で示される化合物としては、例えば、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、1-フェニルエチルメタクリレート、2-フェニルエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メタクリル酸とスチレンオキサイドの付加生成物(1(2)-ヒドロキシ-2(1)-フェニルエチルメタクリレート)などが挙げられる。中でも好ましくは、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレートである。
【0045】
また、本発明で使用する(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーは、ポリマーとしたときに10℃以上の理論ガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。理論ガラス転移温度(Tg)が10℃以上であると、必要以下に耐久性が低下することがないため好ましい。ポリマーの理論ガラス転移温度Tgは、村上ら著、「トボルスキー高分子の構造と物性」、東京化学同人発行、p61に記載の下記式を用いて計算することができる。
Tg={(w1/Tg1)+(w2/Tg2)+・・・+(wn/Tgn)}-1
(式中、w1、w2、・・・、wnは、各(メタ)アクリレート系モノマーの質量分率であり、Tg1、Tg2、・・・、Tgnは、各(メタ)アクリレート系モノマーをポリマーとしたときのガラス転移温度である)
上記計算に用いるポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いること
ができ、例えば、三菱レイヨン株式会社のアクリルエステルカタログ(1997年度版)や北岡協三著、「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」、高分子刊行会、p168~p169などに記載されている。
【0046】
また、本発明では、(メタ)アクリレート系モノマーの一部として、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用してもよく、公知のものが使用できる。その具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど各種グリコール類の(メタ)アクリル酸エステルなどがある。
【0047】
これらの中でも、低臭気性、乾燥性及び硬化物の物性の観点から、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。そのなかでも、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0048】
(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーは、(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは20質量部~60質量部、より好ましくは30質量部~55質量部、更に好ましくは35質量部~50質量部の割合で配合される。(メタ)アクリレート系モノマーの配合割合が、20質量部以上であると、低温硬化性樹脂組成物の粘度が高くなって低温雰囲気下での作業性、骨材への濡れ性が悪くなることがないため好ましく、一方、60質量部以下であると、硬化物の硬度や耐水性が十分に得られるため好ましい。
【0049】
<(C)成分のワックス>
本発明で使用する(C)成分のワックスは、乾燥性を向上させる目的で配合される。ワックス類としては、公知のものを制限なく使用することができ、例えば、石油ワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンなど)、植物系ワックス(キャンデリラワックス、ライスワックス、木蝋など)、動物系ワックス(蜜蝋、鯨蝋など)、鉱物系ワックス(モンタンワックスなど)、合成ワックス(ポリエチレンワックス、アミドワックスなど)等を使用できる。より具体的には、融点が20℃~80℃程度のパラフィンワックスやBYK-S-750、BYK-S-740、BYK-LP-S6665(ビックケミー(株)製)などが挙げられ、異なる融点のものを組み合わせて使用してもよい。(C)成分のワックスとしては、より汎用的に用いられる石油ワックスが好ましく、なかでもパラフィンワックスを用いることがより好ましい。また乾燥性を向上する目的で添加したパラフィンワックスなどの効果を有効に引き出すため、特開2002-97233号公報に記載されているような乾燥性付与剤を併用してもよい。ワックス類の配合量は、(A)成分のラジカル重合性樹脂と(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましく0.2~2質量部であり、さらに好ましく0.5~2質量部である。また、パラフィンワックスの溶解性や分散性を向上させるため、溶剤を使用することができる。使用する溶剤は公知のものを使用することができ、例えば、酢酸エチルなどのアルキルエーテルアセテート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン、ドデカンなどの炭化水素類、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0050】
<(D)金属石鹸>
本発明で使用する(D)成分の金属石鹸は、金属石鹸及び乾燥性付与剤として作用するものである。金属石鹸としては、例えばコバルト系、バナジウム系、マンガン系等の金属石鹸類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩、メルカプタン類等があげられ、単独または二種以上を併用して用いられる。
【0051】
(D)成分の金属石鹸としてはコバルト金属塩であることが好ましい。コバルト金属塩としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、水酸化コバルトなどが挙げられ、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルトが好ましい。
コバルト金属塩は、本発明の目的を達成する範囲内で用いることができるが、好ましくは前記(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計量100質量部に対して、0.1~3質量部であり、より好ましく0.2~2質量部であり、さらに好ましく0.3~1質量部である。
(D)成分のコバルト金属塩の配合割合が、上記範囲内であると、硬化時間の長期化や硬化不良、乾燥性不良になることがなく好ましい。
【0052】
<(E)ラジカル発生抑制剤>
本実施形態で使用する(E)ラジカル発生抑制剤は、水酸基及びカルボン酸基からなる群からから選択される少なくとも2つの置換基を有する化合物である。低臭気樹脂組成物の硬化を遅延し、可使時間を必要に応じて伸ばすためにラジカル発生を抑制する方法としては、例えば、発生したラジカルをトラップしたり、金属石鹸を阻害してラジカル発生を抑制したりする方法がある。後述するとおり、可使時間を確保しながら、良好な硬化特性を維持することができる観点から、金属石鹸を阻害することができるラジカル発生抑制剤が好ましい。
【0053】
(E)ラジカル発生抑制剤としては、2価以上の多価アルコールや、ヒドロキシ基を有するカルボン酸であるヒドロキシ酸などが挙げられる。2価以上の多価アルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。ヒドロキシ酸としては、具体的には、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などが挙げられる。(E)ラジカル発生抑制剤としては、上記の中から一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。(E)ラジカル発生抑制剤としては、上記の中でも特に、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーに対する溶解性が良好であり、容易に入手でき、安価であるため、乳酸及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0054】
(E)ラジカル発生抑制剤は、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、0.01~3質量部含むことが好ましく、0.1~1.5質量部質量部含むことがより好ましく、0.1~1.0質量部質量部含むことがさら好ましい。(E)ラジカル発生抑制剤の含有量が0.1質量部以上であると、(E)ラジカル発生抑制剤が(D)金属石鹸に結合して、(D)金属石鹸からのラジカルの発生を抑制し、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとのラジカル重合の開始およびラジカル重合の重合速度を遅延させる効果が顕著となる。(E)ラジカル発生抑制剤の含有量が3質量部以下であると、(D)金属石鹸の含有量が(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して0.1~3質量部である場合に、(D)金属石鹸からのラジカルの発生量が少なくなりすぎることがなく、好ましい。
【0055】
「(E)ラジカル発生抑制剤よりラジカル発生を抑制する効果」
本実施形態の低臭気樹脂組成物は、低臭気、かつ十分な可使時間で硬化することができる。この機構は、明らかにされていないが、以下に示すように、本実施形態の低臭気樹脂組成物が、(E)ラジカル発生抑制剤と(D)金属石鹸とを含むことの相乗効果によって得られると考えられる。
【0056】
本実施形態の低臭気樹脂組成物に含まれる(E)ラジカル発生抑制剤は、樹脂組成物中の(D)金属石鹸と結合する。例えば、(E)ラジカル発生抑制剤が乳酸であって(D)金属石鹸が金属塩である場合、乳酸中の酸基である-OHおよび-COOHが、金属塩中の金属元素に結合して錯体を形成し、樹脂組成物中における金属イオンの生成を阻害する。このことにより、(D)金属石鹸からのラジカルの発生が抑制され、例えば、(E)ラジカル発生抑制剤を含まない場合と比較して、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとのラジカル重合の開始およびラジカル重合の重合速度が抑制される。
【0057】
具体的には、(D)金属石鹸がコバルト塩である場合、本実施形態の低臭気樹脂組成物中では、以下の式で示される反応により(D)金属石鹸からラジカルが発生し、硬化反応が進行する。
ROOH+Co2+→RO・+OH-+Co3+
このとき、本実施形態の低臭気樹脂組成物に含まれる(E)ラジカル発生抑制剤は、(D)金属石鹸と結合して樹脂組成物中におけるラジカルの発生を抑制する。このことにより、低臭気樹脂組成物の硬化を遅延させ、可使時間を長くする。
【0058】
したがって、本実施形態の低臭気樹脂組成物中では、(E)ラジカル発生抑制剤と結合しなかった(D)金属石鹸から発生するラジカルが主体となって硬化反応が進行する。(E)ラジカル発生抑制剤は、樹脂組成物中で発生したラジカルとは反応しにくく、ラジカルをトラップするものではない。このため、(E)ラジカル発生抑制剤は、上記の式で示される反応によって樹脂組成物中で発生したラジカルによるラジカル重合促進機能を妨げない。
【0059】
さらに、本実施形態の低臭気樹脂組成物中では、硬化反応が進行する過程で、(E)ラジカル発生抑制剤と(D)金属石鹸とが結合してなる錯体から、ゆっくりとラジカルが発生する。その結果、樹脂組成物中には、総量として、硬化反応を完結させるために十分な量のラジカルが供給される。したがって、ラジカル重合に伴う硬化発熱が十分に得られる。よって、本実施形態の低臭気樹脂組成物は、硬化不良が生じにくく、最終的に十分に硬化される。
【0060】
<(F)スチレン系化合物>
本実施形態の低臭気樹脂組成物は、スチレン系化合物を実質的に含まない。実質的に含まない、とは、(A)ラジカル反応性樹脂と前記(B)(メタ)アクリレート系モノマーの合計100質量部に対し、1質量部未満であることを意味するものとする。
スチレン系化合物とは、スチレン骨格を有する化合物であり、スチレンの他、o,m,p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、クロロスチレン等の核置換スチレン;α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレンなどのスチレン誘導体も含まれる。
【0061】
<その他の成分>
本実施形態の低臭気樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、光重合開始剤、重合禁止剤、硬化促進助剤、過酸化物など挙げられる。
【0062】
<光重合開始剤>
可視光ないし近赤外光領域に感光性を有する光重合開始剤としては、例えば、イルガキュア1800(チバ・スペシャリティーケミカルズ製)等が挙げられる。光重合開始剤は、(A)成分のラジカル重合性樹脂と(B)成分の(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~15質量部、更に好ましくは0.05質量部~10質量部の割合で配合される。光重合開始剤の配合割合がこの範囲内であると、表面乾燥性や硬化物の物性が低下することがなく好ましい。
【0063】
<重合禁止剤>
重合禁止剤は、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの重合を抑制するために、必要に応じて含有される。
(F)重合禁止剤としては、具体的には、ターシャリーブチルカテコール、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ターシャリーブチルヒドロキノン、p-ベンゾキノン、クロラニル、m-ジニトロベンゼン、ニトロベンゼン、p-フェニルジアミン、硫黄、ジフェニルピクリルヒドラジル、ジ-p-フルオロフェニルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチルなどが挙げられる。
【0064】
<硬化促進助剤>
硬化促進助剤は低臭気樹脂組成物の硬化を促進するために、必要に応じて含有される。
硬化促進助剤としては、具体的には、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、p-トルイジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4-(N-メチル-N-ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン、N-エチル-m-トルイジン、トリエタノールアミン、m-トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニリモルホリン、ピペリジン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N-置換アニリン、N,N-置換-p-トルイジン、4-(N,N-置換アミノ)ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
【0065】
<過酸化物>
過酸化物は、樹脂組成物を硬化させる際に硬化剤として含有させることができる。過酸化物としては、(D)金属石鹸および硬化促進助剤とともに含まれることにより、常温ラジカル重合開始剤として機能するものを使用することが好ましい。
過酸化物としては、具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5ートリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、3-イソプロピルヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルヒドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスカルボンアミドなどが挙げられる。これらの中でも、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドが好ましい。特に、金属塩及び芳香族3級アミンと併用する場合には、優れた常温ラジカル重合開始剤として機能するメチルエチルケトンパーオキサイドを用いることが好ましい。過酸化物は、一種のみを選択して用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0066】
過酸化物は、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計100質量部に対して、0.1~7質量部含むことが好ましく、0.5~5質量部含むことがより好ましい。過酸化物の含有量が0.1質量部以上であると、過酸化物による樹脂組成物の硬化を促進する効果が顕著となる。過酸化物の含有量が7質量部以下であると、夏季の屋外などの高温環境下でFRP層の材料として樹脂組成物を使用した場合であっても、樹脂組成物の硬化速度が速すぎて施工に支障を来すことを防止でき、好ましい。
【0067】
本発明の低臭気樹脂組成物には、上記以外の各種添加剤、例えば繊維強化材、充填剤、揺変剤、補強材、顔料、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、安定剤等を本発明の目的を達成する範囲内で併用することができる。
【0068】
かかる繊維強化材としては、例えばガラス繊維、アミド、アラニド、ビニロン、ポリエステル、フェノール等の有機繊維、カーボン繊維、金属繊維、セラミック繊維あるいはこれらを組み合わせて用いられる。施工性、経済性を考慮した場合、好ましくはガラス繊維及び有機繊維である。また、繊維の形態は平織り、朱子織り、不織布およびマット状等が挙げられる。
【0069】
かかる充填剤としては、例えば水硬性ケイ酸塩材料、炭酸カルシウム粉、クレー、アルミナ粉、珪石粉、タルク、硫酸バリウム、シリカパウダー、ガラス粉、ガラスビーズ、マイカ、水酸化アルミニウム、セルロース系、珪砂、川砂、寒水石、大理石屑、砕石等が挙げられる。
【0070】
揺変剤は、揺変性を付与する目的で配合される。揺変剤としては、例えば、無機系ではシリカパウダー(アエロジルタイプ)、マイカパウダー、炭酸カルシウムパウダー、短繊維アスベストなどがあり、有機系では水素化ひまし油など公知のものが使用できる。好ましくは、シリカ系揺変剤である。また、特にアエロジルタイプにおいてはBYK R605(ビックケミー(株)製)などの揺変助剤などを併用して使用してもよい。
【0071】
補強材としては、カーボン、セラミックス、ステンレススチールなどの短繊維などが挙げられる。
【0072】
本発明の低臭気樹脂組成物は、屋根、壁、床、地下防水あるいは立体駐車場、工場、倉庫等の床の防水に用いられる他、コンクリート製の構造物、たとえばビルディング、高架橋の橋脚、床版等の防水にも有用である。
【0073】
本発明による塗膜形成方法は、上述した低臭気樹脂組成物を、コンクリート、アスファルトコンクリート、モルタル、木材、金属等の下地の上に塗布して硬化させることを特徴とする。本発明の塗膜形成方法は、優れた塗膜を形成することができ、また作業中は低臭気であるため、保存施設の床、保存容器の内壁の補修に好適である。
また、上述した低臭気樹脂組成物を繊維強化材に含浸して硬化させることで繊維強化樹脂を得ることもできる。繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維、アミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、フェノール繊維、カーボン繊維、金属繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0075】
(合成例1)
「ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂の合成」
攪拌機、環流冷却器、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、jER828(三菱ケミカル株式会社製エポキシ樹脂、エポキシ当量189)1890g、ビスフェノールA 285g、及びトリエチルアミン 3.3gを仕込み、窒素雰囲気下、150℃で1時間反応させた。反応終了後90℃まで冷却し、反応物に、メタクリル酸645g、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド9g、ハイドロキノン0.9g、及びフェノキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルPO)944gを加え、空気を吹き込みながら120℃で更に2時間反応させて、酸価が10mgKOH/gになった時点で反応を終了し、本発明の(A)ラジカル反応性樹脂としてのビスフェノールA系ビニルエステル樹脂を得た。
【0076】
(合成例2)
「ウレタンアクリレート樹脂の合成」
攪拌器、還流冷却管、気体導入管及び温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、重量平均分子量1,00のポリプロピレングリコール(三井化学SKC株式会社製アクトコールD-1000)340g、ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー株式会社製ミリオネートMT)170g、フェノキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルPO)256g、ハイドロキノン0.18gを仕込み、混合物を80℃まで昇温して1.5時間かけて攪拌しながら反応し、末端イソシアナト含有プレポリマーを生成させた。次いで2-ヒドロキシエチルアクリレート88gを0.5時間かけて滴下した後、赤外吸収スペクトルでイソシアナト基の吸収ピークの消失するまで反応させて、本発明の(A)ラジカル反応性樹脂としてのウレタンアクリレート樹脂を得た。
【0077】
(調整例1)
「ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂溶液Aの調整」
合成例1で得られたビスフェノールA系ビニルエステル樹脂に、本発明の(B)(メタ)アクリレート系モノマーとしてのフェノキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルPO)472g、及びベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルBZ)472gを加え、60質量%の(A)ラジカル反応性樹脂としてのビスフェノールA系ビニルエステル樹脂を含む、ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂溶液Aを得た。
【0078】
(調整例2)
「ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂溶液Bの調整」
合成例1で得られたビスフェノールA系ビニルエステル樹脂に、本発明の(B)(メタ)アクリレート系モノマーとしてのジエチレングリコールジメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステル2EG) 944gを加え、60質量%の(A)ラジカル反応性樹脂としてのビスフェノールA系ビニルエステル樹脂を含む、ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂溶液Bを得た。
【0079】
(調整例3)
「ウウレタンアクリレート樹脂溶液の調整」
合成例2で得られたウレタンアクリレート樹脂に、本発明の(B)(メタ)アクリレート系モノマーとしてのフェノキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルPO) 46g、及びベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルBZ)100gを加え、60質量%の(A)ラジカル反応性樹脂としてのウレタンアクリレート樹脂を含む、ウレタンアクリレート樹脂溶液を得た。
【0080】
(実施例1~実施例9、比較例1~比較例9)
調整例1~3で得られた(A)ラジカル反応性樹脂と、(B)(メタ)アクリレート系モノマーとを混合した樹脂溶液に、(C)ワックスと、(D)金属石鹸と、(E)ラジカル発生抑制剤を、表1に示す割合で混合し、均一に撹拌することにより、実施例1~実施例9の樹脂組成物を得た。また、(E)ラジカル発生抑制剤の代わりに重合禁止剤で調整した比較例1~比較例5、(E)ラジカル発生抑制剤の代わりに(D)金属石鹸の量で調整した比較例6~比較例8、(A)~(E)まで混合したものに、さらにスチレンを入れた比較例9の樹脂組成物を得た。
【0081】
【0082】
※表1に示す各成分の配合量は、(A)ラジカル反応性樹脂と(B)(メタ)アクリレート系モノマーとの合計量100質量部に対する配合量(単位:質量部)である。
【0083】
このようにして得られた実施例1~実施例9、比較例1~比較例9の樹脂組成物について、それぞれ以下に示す方法により「硬化性」「硬化物外観」「乾燥性」「臭気有無検出」を測定し、以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。
【0084】
「硬化性の評価」
25℃硬化性:JIS K 6901(2008) 5.9 常温硬化特性(発熱法)に準拠して測定した。
150cm3のビーカーに試料50gを上皿はかりではかり採り、これに所定量の促進剤を加えてガラス棒で均一にかき混ぜた後、(25±0.2)℃の恒温槽中に、試料の表面が浴液面下約10mmに位置するように固定した。試料の温度が(25±0.2)℃になったとき、硬化剤328E(化薬ヌーリオン製、t-ブチルパーオキシベンゾエイトとクメンヒドロパーオキサイドに硬化促進助剤(アセト酢酸エチル)を添加したもの)0.5gを加えてよくかき混ぜ、(25±0.2)℃の恒温槽中にあらかじめ設置した試験管に、試料を100mmの高さになるように注ぎ、試料中心部に熱電対を固定した。試料に硬化剤を混合してから試料がゲル化するまでの時間を可使時間(ゲル化時間)とし、最高温度になるまでの時間を最小硬化時間とし、最高温度を最高発熱温度とした。その結果を表1に示す。硬化性の判定は、可使時間30分以上でかつ最高発熱温度が80℃以上になるものを◎、可使時間30分以上だが最高発熱温度が80℃未満のものを〇、可使時間10分以上30分未満を△、可使時間10分未満を×とした。
【0085】
「硬化物外観の評価」
各実施例及び比較例の樹脂組成物を用いて、上記「硬化性の評価」実験と同じ割合で硬化剤328Eを入れた樹脂をマイラーフィルム上に300μmの厚さで塗布して、25℃24時間経過後の表面状態を目視で観察する。
図1と
図2はそれぞれ実施例1と比較例1の樹脂組成物からなる塗膜の写真である。
図1に示すように、平滑な表面である場合、塗膜外観がシワなし「◎」とし、
図2に示すように、目視でシワが観測された場合、塗膜外観がシワあり「×」とした。その結果、表1に示す。
【0086】
「乾燥性の評価」
上記「硬化性の評価」実験と同じ割合で硬化剤328Eを入れた樹脂を300μmの厚さで塗布して、24時間経過後の表面状態を触指して観察する。ベトツキが無いものを〇、ワックスは浮いているがベトツキが残るものを△、ワックスが十分に浮かずに乾燥不良となるものを×とした。
【0087】
「臭気有無の評価」
臭気の判定は官能試験で上記「硬化性の評価」実験において、樹脂組成物の硬化時にスチレンモノマーの臭気がしないものを〇、スチレンモノマーの臭気があるものを×とした。
【0088】
表1からわかるように、ラジカル発生抑制剤を使用した実施例1~9では、大面積での施工に適した可使時間を確保した配合でも、良好な表面外観が得られた。
一方、重合禁止剤で可使時間を確保した比較例1~5では乾燥性は得られるものの、表面にシワが発生して外観不良になった。
また、比較例6のようにラジカル発生抑制剤を使用しないと可使時間が得られないため、作業が困難である。比較例7、8のようにラジカル発生抑制剤を使用せずに、金属石鹸の量を下げて可使時間を調整するとワックスが機能を発揮せず乾燥不良となる。
さらに、比較例9のようにスチレンを少量添加しても臭気が感じられてしまうため、低臭気の樹脂を得ることが出来ない。