(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】芳香族ハロゲン化合物、その用途、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240116BHJP
C07D 251/14 20060101ALI20240116BHJP
C07D 401/10 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07D251/14
C07D401/10
(21)【出願番号】P 2020024351
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 壮史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 高則
(72)【発明者】
【氏名】神原 武志
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0077406(US,A1)
【文献】国際公開第2018/178001(WO,A1)
【文献】特表2009-539973(JP,A)
【文献】IKAWA, T. ET AL,Regiocomplementary Cycloaddition Reactions of Boryl- and Silylbenzynes with 1,3-Dipoles: Selective Synthesis of Benzo-Fused Azole Derivatives,Journal of Organic Chemistry,2013年,78(7),2965-2983
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物。
【化1】
(式中、Xは、ハロゲン基を表す。R
1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR
1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。R
2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン基、ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基を表す。R
3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(2)、(3)、又は(4)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の芳香族ハロゲン化合物。
【化2】
(式中、Xは、ハロゲン基を表す。R
1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR
1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。R
2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン基、ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基を表す。R
3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(5)、(6)、又は(7)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の芳香族ハロゲン化合物。
【化3】
(式中、Xは、ハロゲン基を表す。R
1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR
1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。R
3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。)
【請求項4】
Xが塩素基であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の芳香族ハロゲン化合物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の芳香族ハロゲン化合物を出発原料とした3置換ベンゼン化合物の製造方法であって、前記芳香族ハロゲン化合物における-Xで表される基、-B(OR
1)
2で表される基、及び-OSO
2R
3で表される基の3つの基について、それぞれ独立に逐次カップリング反応を行い、3つの異なる基に置換することを特徴とする、3置換ベンゼン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機化学品の原料として極めて有用な芳香族ハロゲン化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物を連結させた化合物は、置換基および置換様式を工夫することで、様々な機能を発揮する。その有用性から、医薬・農薬・電子材料等の幅広い用途に使用されており、また、芳香族化合物を連結させる合成方法に関しても多くの研究開発がなされている。特に、遷移金属触媒を使用するクロスカップリング技術は、選択性良く目的の化合物を製造できる点から、工業生産の現場でも広く利用され、応用展開が進んでいる(特許文献1および2)。
【0003】
一般に、遷移金属触媒を用いるクロスカップリング反応は、原料として芳香族ハロゲン化合物が用いられる。なかでも、複雑な置換芳香族化合物の合成は、種類の異なるハロゲン基を複数有する芳香族化合物を原料に用いるか、官能基の保護や脱保護を活用することで、目的化合物の合成が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-171903 公報
【文献】特開2017-052721 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種類の異なるハロゲン基を複数有する芳香族化合物を原料に用いる方法では、往々にして目的の反応以外も進行しやすいため、反応生成物の高純度化が難しいという課題があった。また、官能基の保護や脱保護を活用する方法は、高純度な反応生成物が得られるものの、反応工数が非常に長くなるため、工業生産には適さないという課題があった。本発明は、これらの課題を解決し、異なる3つの置換基が結合したベンゼン化合物の合成に特に有用な、芳香族ハロゲン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、3置換ベンゼン化合物の合成原料として極めて有用な芳香族ハロゲン化合物を見いだし、本願発明を完成させるに至った。すなわち本願発明は、下記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物、その用途、及び製造方法に関するものである。
【0007】
【0008】
(式中、Xは、ハロゲン基を表す。R1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン基、ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基を表す。R3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本願発明の芳香族ハロゲン化合物は、高いカップリング反応選択性を有し、逐次反応的に3種類の異なる置換基を導入できるという従来にない合成反応を実現できる。さらに、一連の過程において、官能基の保護および脱保護工程を必要としないため、生産性向上や環境負荷低減の点で工業的にも極めて利用価値の高い原料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願発明について具体的に説明する。
【0011】
一般式(1)において、Xはハロゲン基を表す。当該ハロゲン基としては、特に限定するものではないが、例えば、塩素基、臭素基、又はヨウ素基を例示することができる。前記Xについては、後の分子骨格形成の有用性が高い観点、および、反応選択率を向上させる観点から、塩素基又は臭素基であることが好ましく、塩素基であることがより好ましい。
【0012】
一般式(1)において、R1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。
【0013】
上記の炭素数1~4のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、又はtert-ブチル基等を例示することができる。
【0014】
2つのR1が連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成したときの-B(OR1)2で表される基としては、特に限定するものではないが、以下に示す(B-1)から(B-6)を例示することができる。
【0015】
【0016】
一般式(1)において、R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン基、ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基を表す。ハロゲン基としては、特に限定するものではないが、例えば、塩素基、臭素基、又はヨウ素基を例示することができる。ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、又はブチル基を例示することができる。ハロゲン化されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基としては、特に限定するものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基を例示することができる。このうち、後の分子骨格形成の有用性が高い観点、および、反応選択率を向上させる観点から、R2は、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0017】
一般式(1)において、R3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。
【0018】
また、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物については、特に有用性が高い点で、一般式(2)、(3)又は(4)で表される芳香族ハロゲン化合物が好ましく、一般式(5)、(6)又は(7)で表される芳香族ハロゲン化合物がより好ましい。
【0019】
【0020】
(式中、X、R1、R2及びR3は一般式(1)におけるX、R1、R2及びR3と同義である。)
【0021】
【0022】
(式中、Xは、ハロゲン基を表す。R1は、各々独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、2つのR1は連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。R3は、4-メチルフェニル基又はジメチルアミノ基を表す。)
一般式(5)、(6)又は(7)において、炭素数1~4のアルキル基、及び2つのR1が連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成したときの-B(OR1)2で表される基の定義については、一般式(1)において示した定義と同義である。
【0023】
本願発明の一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、下記化学構造式で表されるものを例示することができる。なお下記化学構造式においてMeはメチル基を表す。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
本願発明において、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物は、一般公知の有機合成化学反応を応用して製造することができる。当該製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、工業的に入手可能なハロゲン化フェノール類を原料として、スルファメート化若しくはトシル化、次いで、ホウ素化することで製造する方法を例示することができる。
【0031】
【0032】
(式中、X、R1、R2及びR3は一般式(1)におけるX、R1、R2及びR3と同義である。)
本願発明において、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物について、合成原料としての利用価値について説明する。一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物は、反応性の異なる官能基を3つ(Xで示されるハロゲン基、-OSO2-R3で示されるスルファメート基又はトシル基、及びB(OR1)2で表されるホウ素基)有している。これらの3つの官能基は、反応触媒と導入する置換基化合物を適切に選択することにより、極めて副反応が少なく、高選択的に逐次反応が進行するという特長を有する。
【0033】
すなわち、本願発明の芳香族ハロゲン化合物については、当該化合物を出発原料とした3置換ベンゼン化合物の製造に用いることができる。当該本願発明の芳香族ハロゲン化合物を出発原料とした3置換ベンゼン化合物の製造方法については、当該芳香族ハロゲン化合物における-Xで表される基、-B(OR1)2で表される基、及び-OSO2R3で表される基の3つの基について、それぞれ独立に逐次カップリング反応を行い、3つの異なる基に置換することを特徴とする。
【0034】
このような3置換ベンゼン化合物の製造方法については、特に限定するものではないが、例えば、次式で示すような逐次クロスカップリング反応を施して、一般式(8)で表される3置換ベンゼン化合物の合成手順を例示することができる。
【0035】
【0036】
(反応式中、Ar1、Ar2及びAr3は任意の有機基を表す。R1、R2及びR3は上記の通りである。R4およびR5は、一般式(1)で例示したR1と同じ基を表す。なお、2つのR4及び2つのR5は、2つのR1と同様に、連結して酸素原子及びホウ素原子を含んだ環を形成していてもよい。Zは臭素基、ヨウ素基又はトリフロオロメタンスルホニル基を表す。)
上記の任意の有機基については、特に限定するものではないが、例えば、任意の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、任意の置換基を有していてもよいヘテロ芳香族基、又は任意の置換基を有していてもよい飽和又は不飽和炭化水素基、又はジ置換アミノ基等が挙げられる。
【0037】
前記の芳香族炭化水素基については、炭素数6~40の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、又はアントリル基等が挙げられる。
【0038】
前記のヘテロ芳香族基については、炭素数3~40の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ピロリル基、チエニル基、フリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、インドリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾイミダゾリル基、インダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、2,1,3-ベンゾチアジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、2,1,3-ベンゾオキサジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基、ジベンゾチエニル基、ジベンゾフラニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、フェナジニル基、又はチアントレニル基等が挙げられる。
【0039】
前記の飽和又は不飽和炭化水素基については、炭素数1~40の飽和又は不飽和炭化水素基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、シクロプロピル基、又はシクロヘキシル基が挙げられる。
【0040】
前記のジ置換アミノ基については、総炭素数2~80のジ置換アミノ基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、フェニルビフェニリルアミノ基、ビスビフェニリルアミノ基、フェニルターフェニリルアミノ基、ビスターフェニリルアミノ基、ビスフルオレニルアミノ基、ビスジベンゾフラニルアミノ基、ビスジベンゾチエニルアミノ基、又はビスカルバゾリルアミノ基等が挙げられる。
【0041】
前記の任意の置換基としては、特に限定するものではないが、例えば、重水素基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、オキソ基、アルデヒド基、イソシアネート基、ハロゲン基(フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基)、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、ヘテロアリール基、芳香族炭化水素オキシ基、ヘテロアリールオキシ基、又はスルフィド基等が挙げられる。
【0042】
上記の反応式中、第一工程、第二工程、及び第三工程におけるクロスカップリング反応触媒や溶媒、添加物等は、一般公知のものを任意に選択することができる。各工程の収率を向上させる観点から、各工程においてはパラジウム化合物およびホスフィン化合物を使用するのが好ましい。
【0043】
前記のパラジウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ-1,5-ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等が挙げられる。なお、これらのパラジウム化合物を、例えば、炭素、シリカゲル等の担体に担持させたものを本発明の製造方法に用いることもできる。
【0044】
前記のホスフィン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(メシチル)ホスフィン等の単座アリールホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、トリ(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル等の単座アルキルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等のニ座ホスフィンが挙げられる。これらのうち、反応選択性を向上させる観点から、第一工程においてはトリフェニルホスフィン、第二工程においてはトリ(シクロヘキシル)ホスフィン、第三工程においては2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル、又は、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニルを用いるのが好ましい。なお、ホスフィン化合物は、パラジウム化合物と事前に混合し錯体調製したものを反応に用いてもよいし、パラジウム化合物とは別の経路で反応系中に投入して共存させたものを反応に用いてもよい。
【0045】
前記の第一工程、第二工程、及び第三工程からなるクロスカップリング反応については、各工程で反応生成物を単離し次工程に用いる方法によって行うこともできるし、同一反応槽内で順次反応基質を投入することによって各工程を分離することなく連続的に行うこともできる(所謂ワンポット反応)。ただし、目的反応生成物の収率や純度の観点から、第一工程、第二工程、及び第三工程の各工程で反応生成物を単離し次工程に用いる方法のほうが好ましい。また、各工程間でカラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の単離精製の手順を行ってもよく、同じ反応液のまま逐次反応を行ってもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本願発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本願発明は制限されるものではない。
[反応液および生成物純度測定(ガスクロマトグラフィー分析)]
測定装置:島津製作所製 GC-2014
測定条件:カラム=InertCap5(30m×0.32mm×0.40μm)
気化室温度=280℃
検出部温度=300℃
カラム温度=120℃―300℃
昇温速度=10℃/min
[材料純度測定(HPLC分析)]
測定装置:アジレントテクノロジー社製 1220 Infinity LC
測定条件:カラム Inertsil ODS-3V(4.6mmΦ×250mm)
検出器 UV検出(波長 254nm)
溶離液 メタノール/テトラヒドロフラン=99/1(v/v比)
[NMR測定]
測定装置:日本電子社製 JNM-ECZ400S
[質量分析]
質量分析装置:日立製作所 M-80B
測定方法:FD-MS分析。
【0047】
実施例1 (化合物B01の合成)
【0048】
【0049】
3-クロロフェノール 50.0g(389mmol)、カリウムt-ブトキシド 54.5g(486mmol)、トルエン 750mLを、撹拌羽を備えた2Lセパラフラスコに加え、窒素雰囲気下、室温で30分間攪拌した。N,N-ジメチルスルファモイルクロリド 55.9g(389mmol)をトルエン500mLに溶解させた溶液を500mL滴下漏斗に充填し、本滴下漏斗からN,N-ジメチルスルファモイルクロリド溶液を3時間かけて前記2Lセパラフラスコ中に滴下した。滴下終了後、室温で5時間反応液を熟成した。熟成終了後、反応液に2規定の炭酸カリウム水溶液 200mLおよび水 200mLを使用し分液した。得られた有機層をエバポレーターにより濃縮したところ、透明黄色液体(化合物A01)を81g(収率88%)得た。化合物A01の同定は、FD-MSにより行った。
【0050】
質量分析(FD-MS):235(M+)
【0051】
【0052】
ビス(ピナコラト)ジボロン 10.0g(39.3mmol)、(1,5-シクロオクダジエン)(メトキシ)イリジウム(I)(ダイマー) 130mg(0.196mmol)、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル 105mg(0.391mmol)、及びヘプタン 155mLを500mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、室温で30分間撹拌した。撹拌終了後、化合物A01 18.5g(78.6mmol)およびヘプタン 115mLの混合液を前記三口フラスコ中の反応液に加え、100℃で18時間熟成させた。熟成終了後、反応液をエバポレーターにより濃縮し、トルエン 150mLおよび水 150mLを用いて有機層と水層に分液した。得られた有機層にワコーゲル C-300 5.0gを加え撹拌およびろ過した後、エバポレーターにより濃縮し、真空ポンプを用いて乾燥させた。得られた薄黄色固体をヘキサン 30mLで洗浄およびろ過した後に乾燥させたところ、薄灰色固体(化合物B01)を18.6g(収率66%)得た。得られた化合物B01は1H-NMRにより同定した。
【0053】
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm)=1.34(s 12H)、 3.00(s 6H)、 7.39(s 1H)、 7.55(s 1H)、 7.69(s 1H)。
【0054】
実施例2 (化合物B02の合成)
【0055】
【0056】
3-クロロフェノール 6.75g(52.5mmol)、カリウムt-ブトキシド 6.17g(55.0mmol)、及びトルエン 100mLを、撹拌羽を備えた500mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、室温で30分間撹拌した。p-トルエンスルホン酸クロリド 9.53g(50.0mmol)をトルエン 50mLに溶解させた溶液を滴下漏斗に充填し、本滴下漏斗からp-トルエンスルホン酸クロリド溶液を1時間かけて前記500mL三口フラスコ中に滴下した。滴下終了後、室温で18時間反応液を熟成した。熟成終了後、反応液に2規定の炭酸カリウム水溶液 90mLおよび水 90mLを使用し分液した。得られた有機層をエバポレーターにより濃縮したところ、白色固体(化合物A02)を13.8g(収率98%)得た。化合物A02の同定は、FD-MSにより行った。
【0057】
質量分析(FD-MS):282(M+)
【0058】
【0059】
ビス(ピナコラト)ジボロン 1.27g(5.00mmol)、化合物A02 3.39g(12.0mmol)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)(ダイマー) 66.3mg(0.100mmol)、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル 53.7mg(0.200mmol)、及びヘプタン 50mLを200mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、100℃で2時間熟成させた。熟成終了後、反応液をエバポレーターにより濃縮し、次いで、トルエン 30mLおよび水 30mLを用いて分液した。得られた有機層にワコーゲル C-300 500mgを加え撹拌およびろ過した後、エバポレーターにより濃縮し、真空ポンプを用いて乾燥させた。得られた黄褐色液体にヘキサン 10mLを加え、固体を析出させた後、ヘキサン 10mLで洗浄およびろ過し乾燥させたところ、薄黄色固体(化合物B02)を1.77g(収率87%)得た。得られた化合物B02は1H-NMRにより同定した。
【0060】
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm)=1.33(s、12H)、2,46(s、3H)、7.05(dd、1H)、7.31-7.32(m、2H)、7.34(s、1H)、7.65(s、1H)、7.73(d、2H)。
【0061】
実施例3(特開2019-116428に記載化合物の合成実施例)
【0062】
【0063】
2,4-ビス(4-ビフェニリル)-6-クロロ-1,3,5-トリアジン 3.0g(7.14mmol)、化合物B01 2.77g(7.66mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 165mg(0.143mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 10.7mL(21.4mmol)、及びメトキシシクロペンタン 143mLを300mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、80℃で7時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C01)を定量的に得た。本事例において、クロロ基およびスルファメート基との反応は観測されなかった。化合物C01の同定は、FD-MSにより行った。
【0064】
質量分析(FD-MS):618(M+)。
【0065】
化合物C01 1.2g(1.93mmol)、フェニルボロン酸 277mg(2.27mmol)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド 29mg、2規定のリン酸三カリウム水溶液 2.91mL(5.79mmol)、及び1,4-ジオキサン 38.8mLを100mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、100℃で9時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 30mLを加え、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C02)を定量的に得た。本事例において、スルファメート基との反応は観測されなかった。化合物C02の同定は、FD-MSにより行った。
【0066】
質量分析(FD-MS):660(M+)。
【0067】
化合物C02 66.1mg(0.10mmol)、(2-ジシクロヘキシルフォスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル)-2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)パラジウム(II)メタンスルホナート メタンスルホン酸塩 2.8mg(0.0030mmol)、3-ビフェニルボロン酸 23.8mg(0,12mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 0.15mL(0.30mmol)、及び2-プロパノール 2mLを20mLスクリューバイアルに加え、窒素雰囲気下でしっかりと蓋をした後、100℃で12時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 30mLを加え、析出した固体をろ過した。得られた固体に対し、トルエンを用い再結晶させ、薄灰色固体(化合物C03)を収率77%で得た。化合物C03の同定は、FD-MSにより行った。また、化合物C03のHPLC純度は99.8%以上であり、非常に高い純度の物が得られた。
【0068】
質量分析(FD-MS):689(M+)。
【0069】
実施例4(特開2019-116428に記載化合物の合成実施例)
【0070】
【0071】
2,4-ビス(4-ビフェニリル)-6-クロロ-1,3,5-トリアジン 2.10g(5.00mmol)、化合物B02 2.15g(5.25mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 173mg(0.150mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 7.5mL(15.0mmol)、及びメトキシシクロペンタン 100mLを200mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、80℃で2時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C04)を定量的に得た。本事例において、クロロ基およびトシル基との反応は観測されなかった。化合物C04の同定は、FD-MSにより行った。
【0072】
質量分析(FD-MS):665(M+)。
【0073】
化合物C04 1,33g(2.00mmol)、3-ビフェニルボロン酸 475mg(2.40mmol)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド 29.5mg(0.04mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 3mL(6.00mmol)、及び1,4-ジオキサン 20mLを100mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、100℃で12時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 20mLを加え、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C05)を定量的に得た。本事例において、トシル基との反応は観測されなかった。化合物C05の同定は、FD-MSにより行った。
【0074】
質量分析(FD-MS):783(M+)。
【0075】
化合物C05 739mg(1.00mmol)、(2-ジシクロヘキシルフォスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル)-2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)パラジウム(II)メタンスルホナート メタンスルホン酸塩 27.2mg(0.03mmol)、4-ビフェニルボロン酸 238mg(1.20mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 1.5mL(3.00mmol)、及び2-プロパノール 10mLを20mLスクリューバイアルに加え、窒素雰囲気下でしっかりと蓋をした後、100℃で12時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 10mLを加え、析出した固体をろ過した。得られた固体に対し、トルエンを用い再結晶させ、薄灰色固体(化合物C06)を収率79%で得た。化合物C06の同定は、FD-MSにより行った。また、化合物C06のHPLC純度は99.8%以上であり、非常に高い純度の物が得られた。
【0076】
質量分析(FD-MS):765(M+)。
【0077】
実施例5(特開2015-74649に記載化合物の合成実施例)
【0078】
【0079】
2,4-ジフェニル-6-クロロ-1,3,5-トリアジン 1.34g(5mmol)、化合物B02 2.15g(5.25mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 173mg(0.150mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 7.5mL(15.0mmol)、及びメトキシシクロペンタン 100mLを200mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、80℃で2時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C07)を定量的に得た。本事例において、クロロ基およびトシル基との反応は観測されなかった。化合物C07の同定は、FD-MSにより行った。
【0080】
質量分析(FD-MS):513(M+)。
【0081】
化合物C07 1.03g(2.00mmol)、2-ナフタレンボロン酸 413mg(2.40mmol)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド 29.5mg(0.04mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 3mL(6.00mmol)、1,4-ジオキサン 20mLを100mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、100℃で12時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 20mLを加え、析出した固体をろ過および乾燥し、薄灰色固体(化合物C08)を定量的に得た。本事例において、トシル基との反応は観測されなかった。化合物C08の同定は、FD-MSにより行った。
【0082】
質量分析(FD-MS):605(M+)。
【0083】
化合物C08 606mg(1.00mmol)、(2-ジシクロヘキシルフォスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル)-2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)パラジウム(II)メタンスルホナート メタンスルホン酸塩 27.2mg(0.03mmol)、4-ピリジルボロン酸 148mg(1.20mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 1.5mL(3.00mmol)、及び2-プロパノール 10mLを20mLスクリューバイアルに加え、窒素雰囲気下でしっかりと蓋をした後、100℃で12時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水 10mLを加え、析出した固体をろ過した。得られた固体に対し、トルエンを用い再結晶させ、薄灰色固体(化合物C09)を収率74%で得た。化合物C09の同定は、FD-MSにより行った。また、化合物C09のHPLC純度は99.8%以上であり、非常に高い純度の物が得られた。
【0084】
質量分析(FD-MS):512(M+)。
【0085】
比較例1
【0086】
【0087】
2,4-ビス(4-ビフェニリル)-6-クロロ-1,3,5-トリアジン 2.10g(5.00mmol)、上記化学構造式で示される化合物B03 1.66g(5.23mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 173mg(0.150mmol)、2規定のリン酸三カリウム水溶液 7.5mL(15.0mmol)、及びメトキシシクロペンタン 100mLを200mL三口フラスコに加え、窒素雰囲気下、80℃で2時間熟成させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、反応液をHPLC分析したところ、目的の化合物C10の純度は36%と満足のいくものではなく、反応選択性は低いものであった。なお、HPLC分析では、副反応物である化合物C11(上記の化合物C10と化合物B03のカップリング反応によって生成)が42%検出された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本願発明の芳香族ハロゲン化合物を原料として利用することで、選択性良く逐次反応を行うことができ、目的とする3置換のベンゼン化合物を極めて効率よく合成することができる。従って、医薬・農薬・電子材料等の幅広い用途に利用可能な原料を提供することができる。